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特許7658527ギ酸合成反応の促進方法、およびイオン液体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】ギ酸合成反応の促進方法、およびイオン液体
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/00 20060101AFI20250401BHJP
   C07C 53/02 20060101ALI20250401BHJP
   C07C 53/06 20060101ALI20250401BHJP
   C07D 233/64 20060101ALI20250401BHJP
   C07F 9/54 20060101ALI20250401BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20250401BHJP
   B01J 31/04 20060101ALI20250401BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20250401BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20250401BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250401BHJP
【FI】
C07C51/00
C07C53/02
C07C53/06
C07D233/64
C07F9/54
B01J31/02 102Z
B01J31/04 Z
C25B1/04
C01B3/02 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024137453
(22)【出願日】2024-07-29
【審査請求日】2024-07-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521373618
【氏名又は名称】辻野 康夫
(73)【特許権者】
【識別番号】595177051
【氏名又は名称】中原 勝
(72)【発明者】
【氏名】辻野 康夫
(72)【発明者】
【氏名】中原 勝
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103467271(CN,A)
【文献】国際公開第2011/093229(WO,A1)
【文献】特開2023-030789(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102190573(CN,A)
【文献】特開2013-023486(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101328590(CN,A)
【文献】CHEN, Q. et al.,Shvo-Catalyzed Hydrogenation of CO2 in the Presence or Absence of Ionic Liquids for Tandem Reactions,Journal of Organic Chemistry,2023年,Vol.88, No.8,pp.5044-5051
【文献】CHEN, X. et al.,Directed nucleation of monomeric and dimeric uranium(VI) complexes with a room temperature carboxyl-functionalized phosphonium ionic liquid,Chemical Communications (Cambridge, United Kingdom),2013年,Vol.49, No.19,pp.1903-1905
【文献】NOCKEMANN, P. et al.,Uranyl Complexes of Carboxyl-Functionalized Ionic Liquids,Inorganic Chemistry,2010年,Vol.49, No.7,pp.3351-3360
【文献】C. A. OHLIN. et al.,Carbon Dioxide Reduction in Biphasic Aqueous-ionic Liquid Systems by Pressurized Hydrogen,High Pressure Research,2003年,Vol.23, No.3,p.239-242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体を含む、二酸化炭素と水素を反応させてギ酸を合成する場として用い、遷移状態の発現を促進させ、反応を促進させるための媒体であって、
前記イオン液体の一部、或いは全てのカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基であり、二酸化炭素分子内の酸素原子を吸着、或いは結合可能となり、遷移状態の構造をとるように置換基が配置されることを特徴とする、媒体
【請求項2】
二酸化炭素と水素をイオン液体中で反応させ、遷移状態の発現を促進させ、反応を促進させてギ酸を合成するギ酸合成反応の促進方法であって、
前記イオン液体のカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基であり、二酸化炭素分子内の酸素原子を吸着、或いは結合可能となり、遷移状態の構造をとるように置換基が配置されることを特徴とする、ギ酸合成反応の促進方法。
【請求項3】
前記イオン液体のアニオンはギ酸アニオンであることを特徴とする、
請求項2に記載のギ酸合成反応の促進方法。
【請求項4】
前記イオン液体のカチオンはイミダゾリウム塩であることを特徴とする、
請求項2または請求項3に記載のギ酸合成反応の促進方法。
【請求項5】
二酸化炭素と水素を、イオン液体を含む有機塩が存在する水中で反応させ、遷移状態の発現を促進させ、反応を促進させてギ酸を合成するギ酸合成反応の促進方法であって、
前記有機塩のカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基であり、二酸化炭素分子内の酸素原子を吸着、或いは結合可能となり、遷移状態の構造をとるように置換基が配置されることを特徴とする、ギ酸合成反応の促進方法。
【請求項7】
再生可能エネルギーを利用して、水を電気分解して前記水素を生成させる水素生成工程をさらに有する、請求項2、請求項3,請求項5、および請求項6に記載のギ酸合成反応の促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素と水素、あるいは水の分解から得られた水素と二酸化炭素からギ酸を生成するギ酸合成反応の促進方法に関し、より詳しくは、イオン液体中、或いはアミノ基、或いはカルボキシル基を官能基として含む有機化合物を溶解させた水溶液中でギ酸を得るギ酸合成反応の促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々は地球に存在する物質を変換し、利用することで、社会生活を続けている。特に有機化合物の原料は化石燃料が殆どで、工業的に変換して活用している。しかし、化石燃料は有限な資源であり、未来永劫使い続けられる保証はない。更に、生産過程、あるいは利用過程において二酸化炭素の排出は避けられず、その極めて化学的に安定な二酸化炭素を放出し続けている。
安定で使い途の少ない二酸化炭素は、考え方を変えると炭素源にもなる。有機化合物を燃焼させると、エネルギーを放出して水と二酸化炭素が生成する。エネルギーの供給は必要ながらも、太陽光などの自然エネルギーを用いることで、逆反応を起こして水と二酸化炭素から有機化合物を生成することは原理的に可能である。
これまでの研究で、水と二酸化炭素から自在に有機合成する方法は殆ど成功していないが、もっとも単純な有機酸であるギ酸のみ合成実用化の可能性があることが分かっている。発明者らは、この可能性に賭け、実用化を目指している(例えば、特許文献1、2、非特許文献1―3、および引用文献)。
一方、従来、炭化水素であるブタンやナフサに含まれる各種炭化水素を液相にて酸化させることにより、工業的に酢酸を製造する方法が知られている(例えば、下記非特許文献4)。
また、下記非特許文献4には、上記のような酢酸の製造において、ギ酸が副生成物として得られることが記載されている。
さらに、下記非特許文献4には、ペンタエリトリトールの製造においても、ギ酸が副生成物として得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】再表2011/093229
【文献】特許7288484号
【非特許文献】
【文献】The Journal of Physical Chemistry B 2011,115,14136-14140および引用文献
【文献】The Journal of Physical Chemistry B 2011,115,9789-9794および引用文献
【文献】ACS Catalysis 2022,12,11,6770-6780および引用文献
【文献】熊本卓哉、「ギ酸の工業的合成とその利用」、化学と教育、公益社団法人日本化学会、2012年、60巻、8号、p.358-361、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/60/8/60_KJ00008195825/_article/-char/ja/>
なお、非特許文献1から3は米国化学会の科学雑誌である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ギ酸は、二酸化炭素と水から直接生成するのではなく、水を分解して生成した水素と二酸化炭素から生成する。水素と二酸化炭素から最小のエネルギーで効率的にギ酸を生成する方法は、未だ検討の余地がたくさん残されている。
【0005】
上記問題点に鑑み、本発明は、最小のエネルギーで効率的に、水素と二酸化炭素からギ酸を生成する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[ギ酸合成反応の知見のまとめ]
化学反応は反応場に反応基質を多く存在させて、それらを出会わせ、衝突して反応基質のエネルギー状態を高い状態に遷移させ、活性錯体(遷移状態、活性化状態と呼び、以下において、これら文言は同義とする)に進行させることが、反応を促進させる基本である。二酸化炭素と水素は常温常圧で気体であり、例えば反応場が液体等の異なる状態である場合、反応場に反応基質を取り込まないと、反応は進行しない。そこで、本発明者らが鋭意検討したところ、イオン液体のカチオン内の置換基について、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基とすることで、それらの置換基に少なくとも反応基質の一方である二酸化炭素が取り込まれやすくなり、反応が促進されることを見出した。結果的に、該イオン液体中で二酸化炭素と水素の反応が促進される方向となり、ギ酸を効率的に合成することを見出した。また、イオン液体、或いは有機化合物のカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基を含み、該イオン液体、或いは該有機化合物が存在する水中で、二酸化炭素と水素を反応させることでも、ギ酸を効率的に合成する方法を見出し、本発明を想到するに至った。さらに、二酸化炭素と水素を反応させてギ酸を合成する場として用いるイオン液体において、前記イオン液体の一部、或いは全てのカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基とすることで、二酸化炭素、および/または水素を反応場であるイオン液体に取り込みやすく、さらに、これらの反応基質が活性化状態に移行しやすいことを見出し、ギ酸を効率的に合成できる反応場、反応媒体としてのイオン液体であることが分かった。また、反応基質を溶媒に取り込み、活性化状態に遷移することで反応が進行するが、活性化状態は炭酸に近く、ギ酸アニオンに近い構造となることが好ましく、反応の進行が促進されることが鋭意研究で分かった。つまり、それらの活性化状態となることが促進されるような反応環境とすることで、反応が促進される。置換基は、少なくとも二酸化炭素分子内の酸素原子を吸着、或いは結合可能となるように配置されることが望ましい。さらに、二酸化炭素分子は直線分子であるが、ツイスト状に捩じらせる構造が好ましい。また、置換基は、水素分子も吸着、或いは結合可能となるように配置されることが望ましく、無極性分子の水素は分子内で極性を持つような構造となるように、置換基を配置させることが望ましい。
【0007】
本発明に係るギ酸の製造方法において、前記イオン液体のアニオンはギ酸アニオンとする、ことが好ましい。
【0008】
斯かる構成によれば、活性化状態となり、活性錯体を生じさせやすい環境となり、ギ酸をより一層得易くなる。すなわち、二酸化炭素と水とからギ酸を効率良く製造することができる。
【0009】
また、前記イオン液体のカチオンはイミダゾリウム塩を含むことが好ましい。
【0010】
斯かる構成によれば、効率良くギ酸を生成させることができる。
【0011】
また、上記ギ酸の製造方法においては、再生可能エネルギーを利用して、水を電気分解して前記水素を生成させる水素生成工程をさらに有する、ことが好ましい。
【0012】
斯かる構成によれば、地球環境負荷が増大することを抑制しつつ、前記ギ酸生成工程において用いられる前記水素を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
上記の通り、本発明によれば、二酸化炭素と水素からギ酸を効率良く製造することができるギ酸合成反応の促進方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法を示す概略図。
図2】本発明の一実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法で用いる装置の概略断面図。
図3】イオン液体の化学構造式の一例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法は、イオン液体のカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基を有する。
また、前記イオン液体のアニオンはギ酸アニオンを有する。
さらに、前記イオン液体のカチオンはイミダゾリウム塩である。
【0016】
或いは、二酸化炭素と水素について、イオン液体を含む有機化合物が存在する水中(溶解した水溶液、或いは飽和濃度以上で有機化合物と水溶液が存在する状態を含む。これらを第二媒体とする。一方、イオン液体については第一媒体とする。)で反応させてギ酸を合成するギ酸合成反応の促進方法について、前記有機化合物のカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基である。
【0017】
或いは、二酸化炭素と水素を反応させてギ酸を合成する場として用いるイオン液体であって、前記イオン液体の一部、或いは全てのカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基である。
【0018】
前記水素は水を供給源とし、水の電気分解から当該水素を得るものとする。或いは、COと水を反応させて、水性ガスシフト反応(CO+H2O→HCOOH→H2+CO2)を経由して取得した水素であってもよい。または、各種化学反応の工程で生じた水素を活用できることは言うまでもない。
以下では、「本発明の一実施形態に係る」を単に「本実施形態に係る」と称する。
【0019】
本実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法について、例えば、図1に示したような概念の下、実施される。
【0020】
[ギ酸合成反応の促進方法に関する概念図]
反応を促進させるためには、反応基質である二酸化炭素と水素を出会わせ、反応を進行させやすい構造に変化させ、活性錯体へと遷移させることが重要である。常温常圧で気体である二酸化炭素と水素は自由に並進、振動、回転を起こしており、平均的に安定な構造をなしている。ともに、直線分子であり、それが安定した構造である。
【0021】
図1に本反応に関する概念図を示す。自由に動き回る二酸化炭素と水素を出会わせやすくするためには、溶媒などで夫々を捕まえる必要がある。溶液であれば溶媒に取り込む、すなわち溶媒和させることになる。また、溶媒和の他、溶媒分子の隙間に二酸化炭素や水素が入り込める空間が存在し、それらをトラップできる構造でも良い。溶媒和やトラップできる構造について、二酸化炭素と水素の少なくとも一方の量が多くなれば良い。夫々の分子の取り込みを促進させるには、溶媒側で夫々の分子を取り込みやすい構造や官能基を備えることが必要である。発明者らが鋭意検討の結果、上述の通り、イオン液体のカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基を有する構造が好ましいことが分かった。または、イオン液体を含む有機化合物が存在する水中(溶解した水溶液、或いは飽和濃度以上で有機化合物と水溶液が存在する状態を含む)が好ましいことが分かった。また、上述のような置換基をカチオン内に備えたイオン液体は、反応が活性化状態となり易い(促進させる)ことも分かった。前述のように、反応基質を溶媒に取り込み、活性化状態に遷移することで反応が進行するが、活性化状態は炭酸に近く、ギ酸アニオンに近い構造となることが好ましく、反応の進行が促進されることが鋭意研究で分かった。つまり、それらの活性化状態となることが促進されるような反応環境とすることで、反応が促進され、この状況に移行させることがポイントである。さらに、前記イオン液体のアニオンはギ酸アニオンを有する場合、活性化状態へ移行し、活性錯体への構造変化を起こしやすいことも分かった。さらに、前記イオン液体のカチオンはイミダゾリウム塩である。つまり、これらの工夫により、二酸化炭素と水素が溶媒に取り込まれやすく、さらに取り込まれた二酸化炭素と水素は反応しやすい構造となり、さらに活性錯体への構造変化を促進させて、結果的にギ酸が生じやすい状況となることが分かった。また、上述のように、置換基は、少なくとも二酸化炭素分子内の酸素原子を吸着、或いは結合可能となるように配置されることが望ましい。さらに、二酸化炭素分子は直線分子であるが、ツイスト状に捩じらせる構造が好ましい。また、置換基は、水素分子も吸着、或いは結合可能となるように配置されることが望ましく、無極性分子の水素は分子内で極性を持つような構造となるように、置換基を配置させることが望ましい。これらの知見を用いて、ギ酸合成反応を促進させる具体的な方法を開示する。
【0022】
[ギ酸合成反応の促進装置]
本実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法について、特許7288484号と同様であり、例えば、図2に示したような装置の下、実施される。
本実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法を実施する装置1は、内部にイオン液体(第一媒体)、或いは、イオン液体を含む有機化合物が存在する水中(溶解した水溶液、或いは飽和濃度以上で有機化合物と水溶液が存在する状態を含む:第二媒体)を収容可能な収容空間Sを有する回分式反応装置である。ここでは回分式反応装置を例に説明するが、フロー式反応装置であってもよい。
具体的には、本実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法を実施する装置1は、筒状体に形成され、内部に第一媒体、或いは第二媒体を収容可能な収容空間Sを有する反応槽10と、反応槽10の外側面および底面を覆うジャケット20と、第一媒体、或いは第二媒体を含む反応媒体を貯蔵する反応媒体貯蔵槽30と、を備えている。
また、本実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法を実施する装置1は、反応槽10と反応媒体貯蔵槽30とを接続するための配管Lと、配管Lの開閉状態を調節するためのバルブVと、を備えている。
さらに、本実施形態に係るギ酸合成反応の促進方法を実施する装置1は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスが貯蔵された不活性ガス貯蔵槽(図示せず)と、該不活性ガス貯蔵槽と反応槽10とを接続する配管および該配管の開閉状態を調節するためのバルブと、を備えていることが好ましい。
【0023】
反応槽10は、筒状の側壁部10aと、筒状の側壁部10aの底面側を閉じる底壁部10bと、筒状の側壁部10aの頂面側を閉じる頂壁部10cと、を備えている。
反応槽10では、上記のように、筒状の側壁部10aを底壁部10bおよび頂壁部10cで閉じることによって、収容空間Sを密閉空間としている。
反応槽10の収容空間Sには、配管Lを経由して反応媒体貯蔵槽30から前記第一媒体、或いは第二媒体が収容される。
収容空間Sへの前記反応媒体の収容は、減圧ポンプ(図示せず)を用いて収容空間S内を減圧した後に実施してもよいし、収容空間S内を減圧せずに大気圧(1.01325×105Pa(0.101325MPa))条件下において実施してもよい。
収容空間Sへの前記反応媒体の収容は、収容空間S内を減圧せずに大気圧条件下において実施することが好ましい。
反応槽10では、収容空間S内に前記反応媒体を収容した後に、前記不活性ガス貯蔵槽に貯蔵された不活性ガスが収容空間S内に封入されて、収容空間Sの気相部分に含まれる空気の少なくとも一部が前記不活性ガスで置換されていてもよいし、収容空間Sの気相部分に含まれている空気の全部が前記不活性ガスで置換されていてもよい。不活性ガスへの置換はベストモードであって、必須ではない。
この状態で、二酸化炭素と水素を収容空間S内に封入する。封入する夫々の気体は収容空間S内の圧力よりも高い圧力で所定量封入する。具体的な装置の構成と封入方法は不活性ガスと同じである。
なお、反応槽10は、収容空間S内に収容した前記反応媒体を撹拌するための撹拌装置(図示せず)を備えていてもよい。
反応槽10が前記撹拌装置を備えることにより、収容空間Sに収容した前記反応媒体を前記撹拌装置で撹拌しながら反応を実施することができる。これにより、前記反応媒体中に含まれるギ酸合成反応をより一層効率的に実施することができる。
【0024】
上記したように、本実施形態に係るギ酸合成反応を促進させる方法を実施する装置1は、回分式反応装置であることから、反応槽10は、回分式容器となっている。
なお、回分式容器とは、単回処理で用いる前記反応媒体、および反応基質を密閉可能に収容できるものを意味する。
反応槽10は、収容した前記反応媒体、および反応基質と接する内壁面を有することから、該内壁面が非金属によって構成されていることが好ましい。
前記内壁面を構成するのに好ましい物質としては、樹脂、ガラス、セラミック、ダイヤモンドライクカーボンなどが挙げられる。
【0025】
前記樹脂は、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、芳香族ポリエステル(PET,PENなど)、ポリアリレンサルファイド(PAS)などのプラスチックであってもよいし、一般的なゴムなどであってもよい。
本実施形態においては、水熱反応に対する安定性の観点から、前記樹脂は、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、フッ素樹脂、フッ素ゴム、エポキシ樹脂などであることが好ましい。
これらの樹脂の中でも、前記樹脂は、フッ素樹脂であることが好ましい。
前記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)などが挙げられる。
前記樹脂は、1種単独を内壁面の構成材料としてもよいし、2種以上の混合物を内壁面の構成材料としてもよい。
【0026】
前記ガラスとしては、例えば、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、クリスタルガラスなどが挙げられる。
【0027】
前記セラミックとしては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、ジルコン(ZrO2・SiO2)、アルミノシリケイト(Al2O3・SiO2)チタン酸バリウム(BaTiO3)、窒化アルミニウム(AlN)、ステアタイト(MgO・SiO2)、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)などが挙げられる。
前記セラミックは、1種単独を内壁面の構成材料としてもよいし、2種以上の混合物を内壁面の構成材料としてもよい。
【0028】
反応槽10は、収容空間Sを画定する壁全体が上記材料で構成されていてもよいし、表面層(反応槽10の内壁面を形成する表面層)のみが上記材料で構成されていてもよい。
上記材料は、複数の層となるように形成されていてもよい。
反応槽10は、例えば、金属製の本体を有し、該本体の内壁面にガラス層と樹脂層とが2重に積層されたものであってもよい。
【0029】
前記内壁面の形成材料は、常温(23±2℃)でのギ酸による金属イオンの溶出量が1000ppm以下であることが好ましい。
前記金属イオンの溶出量は、ICP法などによって測定することができる。
【0030】
上記のように、反応槽10の内壁面を非金属によって構成することにより、反応槽10の内壁面は、耐酸性を有するものとなる。
さらに、前記内壁面がステンレスなどの金属で構成されている場合には、ギ酸(HCOOH)に含まれるカルボキシル基(COOH)が、前記金属との間でイオン結合を形成することが懸念されるものの、前記内壁面が非金属によって構成されている場合には、上記のようにイオン結合が形成されることを抑制することができる。
すなわち、前記ギ酸がカルボキシル基を介して前記内壁面とイオン結合を形成することにより、前記内壁面に吸着することを抑制することができる。
これにより、前記二酸化炭素と水素からギ酸をより一層効率良く製造することができる。
【0031】
ジャケット20は、ヒータなどの加熱装置(図示せず)を備えている。
ジャケット20は、ヒータなどの加熱装置によって、反応槽10を加熱する。
【0032】
反応媒体貯蔵槽30は、内部に反応媒体を収容する収容空間Sを有する槽であれば、どのようなものでも用いることができる。
一方で、反応媒体貯蔵槽30は、貯蔵した前記反応媒体と接する内壁面を有することから、該内壁面が非金属によって構成されていることが好ましい。
前記内壁面を構成するのに好ましい物質としては、樹脂、ガラス、セラミック、ダイヤモンドライクカーボンなどが挙げられる。
前記樹脂、前記ガラス、前記セラミックとしては、上記したものと同様のものを用いることができる。
【実施例
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。実施例においては、上述の[ギ酸合成反応の知見のまとめ]や[ギ酸合成反応の促進方法に関する概念図]で述べた発見内容を用いた促進方法の一部を開示したものである。置換基の位置や数に依存するが、上述のギ酸合成反応の知見のまとめ]や[ギ酸合成反応の促進方法に関する概念図]で述べた発見内容が実現される要件を満たせば促進される。したがって、以下の実施例では、位置や数については、組み合わせが無数となるため、詳細な言及は行わないが、上記要件を満たす置換基の配置である、或いは置換基の数である。
【0034】
[イオン液体]
本発明において、イオン液体は100℃以下に融点を有する有機化合物塩と定義付けられ、図3の一般式(化1)で表されるイミダゾリウム塩系イオン液体や下記の一般式(化2)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の他、ピリジニウム塩系イオン液体、ピロリジニウム塩系イオン液体、テトラアルキルアンモニウム塩系イオン液体などが例示される。
【0035】
〔化1式中、R1,R2は同一または異なって水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアルキル基、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアリール基のいずれかを示す。X1,X2,X3は同一または異なって水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアルキル基、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアリール基、水素原子、フッ素原子のいずれかを示す。Y-はイミダゾリウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す。〕
【0036】
〔化2式中、R1,R2,R3,R4は同一または異なって水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアルキル基、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアリール基のいずれかを示す。Z-はホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す。〕
【0037】
上記の一般式(化1)で表されるイミダゾリウム塩系イオン液体および上記の一般式(化2)で表されるホスホニウム塩系イオン液体において、R1,R2,R3,R4,X1,X2,X3における水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアルキル基としては、1個~18個の炭素数を有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基やパーフルオロアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、n-オクタデシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロn-プロピル基、ヘプタフルオロiso-プロピル基、ノナフルオロn-ブチル基などが挙げられる。水素原子の少なくとも一部がフッ素原子によって置換されていてもよいアリール基としては、フェニル基やペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0038】
R1,R2,R3,R4,X1,X2,X3において、これらの構造中の水素の一部、或いは全てをアミノ基、或いはカルボキシル基を備える置換基とする。イミダゾリウムカチオンに対するカウンターアニオンであるY-およびホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンであるZ-としては、塩化物イオン(Cl-)や臭化物イオン(Br-)やヨウ化物イオン(I-)などのハロゲン化物イオンの他、メタンスルフォネートアニオン(CH3SO3-)、トリフルオロメタンスルフォネートアニオン(CF3SO3-)、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドアニオン((CF3SO2)2N-)、ギ酸アニオン(HCO2-)などが挙げられる。
【0039】
好適なイオン液体としては、二酸化炭素と水素を原料としてギ酸を製造するための媒体として反応の選択性(生成するギ酸の純度が高いこと)や速度に優れる、カウンターアニオンがギ酸アニオンであるイオン液体(即ちギ酸塩)が挙げられる。カウンターアニオンがギ酸アニオンであるイオン液体は、例えば、強塩基型イオン交換樹脂を用いたアニオン交換法によって、カウンターアニオンが臭化物イオンなどのギ酸アニオンとは異なるアニオンであるイオン液体から合成することができる(Biomacromolecules、7巻、3295-3297ページ、2006年)。なお、カウンターアニオンがギ酸アニオンとは異なるアニオンであるイオン液体は、種々のイオン液体が市販されているが、市販されていないイオン液体は、例えばIonic Liquids in Synthesis I、Wiley-VCH、2007年に記載の方法に従って合成することができる。
【0040】
実施例1:
図2に記載の反応槽10に、イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウム塩化物塩(含水率:1.5重量%であり、メチル基の一部の水素をカルボキシル基に置換したイオン液体)を充填率50%となるように入れた。減圧ポンプで脱気後に反応槽内の圧力が15.0barとなるように二酸化炭素を注入し、さらに反応槽内の圧力が30.0barとなるように水素を導入した。接続バルブを閉じて反応容器を密閉状態とした後、60℃になるように反応槽10を温めた。適宜、金属触媒としてジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.2重量%を添加してもよい。50時間後、生成したギ酸を1H-NMR測定などを用いて定量した。例えば、1H-NMR測定であれば、8ppm付近のギ酸ピークを積分することでギ酸の生成量を確認した。
【0041】
実施例2:
イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウム塩化物塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素をアミノ基に置換したイオン液体を用いること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。
【0042】
実施例1と実施例2の結果を比較する。なお、実施例1の結果を基本として、実施例2の結果を比較した。実施例1よりも実施例2は生成量が約2倍多かった。これは、二酸化炭素がイオン液体中に取り込まれた量が実施例1よりも実施例2の方が多かったためである。
【0043】
実施例3:
イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウムギ酸塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素をアミノ基に置換したイオン液体を用いること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。実施例1よりも実施例2は生成量が約2.3倍多かった。
【0044】
実施例4:
イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウム塩化物塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素をアミノ基に置換したイオン液体を用いること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。実施例1よりも実施例2は生成量が約2.3倍多かった。
【0045】
実施例5:
イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウム塩化物塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素をカルボキシル基に置換したイオン液体を用いること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。実施例1よりも実施例2は生成量が約2.1倍多かった。
【0046】
実施例6:
イオン液体のカチオンとして、テトラアルキルホスホニウムとし、アルキル基としてメチル基としたカチオンを用い、アニオンを塩化物とした塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素をアミノ基に置換したイオン液体を用いること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。実施例1よりも実施例2は生成量が約1.5倍多かった。
【0047】
実施例7:
イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウム塩化物塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素をアミノ基に置換したイオン液体を水に溶かした溶液を用い、その溶液中で反応させること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。実施例1よりも実施例2は生成量が約1.3倍多かった。
【0048】
実施例8:
イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウム塩化物塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素をアミノ基に置換したイオン液体を水に溶かした溶液を用い、その溶液を過飽和させた媒体を用意し、その媒体中で反応させること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。実施例1よりも実施例2は生成量が約1.7倍多かった。
【0049】
比較例:
イオン液体である1,3-ジn-プロピル-2-メチルイミダゾリウム塩化物塩について、ひとつのメチル基のひとつの水素について、カルボキシル基やアミノ基に置換していない、水素のままである(無置換の)イオン液体を用いること以外は実施例1と同様の条件で二酸化炭素と水素を反応させた。実施例1よりも比較例は生成量が約0.5倍少なかった。
【0050】
上述の実施例は一例であって、本願発明はこれらに限定しない。また、以上の発明を実施するための形態や実施例では、反応槽10に電極を投入して通電しない方法について述べたが、これに限ることはなく、通電させることで反応を促進させてもよい。また、金属触媒などの触媒作用を起こす物質を投入して反応を促進させてもよい。さらに、反応温度を上げることでアレニウス効果により反応基質のエネルギー状態を上げて、反応を促進させてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1:一酸化炭素製造装置、10:反応槽、20:ジャケット、30:ギ酸水溶液貯蔵槽、
10a:側壁部、10b:底壁部、10c:頂壁部、
L:配管、S:収容空間、V:バルブ。
【要約】
【課題】二酸化炭素と水素からギ酸を効率良く製造することができるギ酸合成反応の促進方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るギ酸合成反応の促進方法は、二酸化炭素と水素をイオン液体中で反応させ、前記イオン液体のカチオン内の置換基は、少なくとも、アミノ基、或いはカルボキシル基である。
【選択図】図1
図1
図2
図3