(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】鉄粒子のパッシベーション
(51)【国際特許分類】
B22F 1/102 20220101AFI20250401BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250401BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20250401BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250401BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20250401BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20250401BHJP
C07F 15/02 20060101ALN20250401BHJP
【FI】
B22F1/102 100
B22F1/00 W
C08K9/04
C08L101/00
H01F1/147
H01F1/26
C07F15/02 CSP
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018207600
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-11-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-16
(32)【優先日】2017-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キンレン, パトリック ジェー.
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-363440(JP,A)
【文献】特表2010-520096(JP,A)
【文献】特開昭61-217067(JP,A)
【文献】特開2010-270361(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105921741号明細書(CN,A)
【文献】特開昭61-056201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5マイクロメートルから1000マイクロメートルの直径を有する鉄粒子;及び
鉄粒子上に付着したチオールコーティング
を含むコートされパッシベートされた鉄粒子であって、チオールコーティングが、複素環式チオール、ジスルフィド化合物、チオレート化合物、及びアルキルポリチオールから選択されるチオール化合物を含む、
コートされた鉄粒子。
【請求項2】
99wt%以上の鉄含有量を有する、請求項1に記載のコートされた鉄粒子。
【請求項3】
チオールコーティングが1ナノメートルから100ナノメートルの厚さを有する、請求項1又は2に記載のコートされた鉄粒子。
【請求項4】
粒子をコートする前と後での粒子の重量及び密度の差によってチオールコーティング含有量を決定した場合、当該コートされた鉄粒子は、チオールでコートされた鉄粒子の総体積に基づいて、1vol%から10vol%のチオールコーティング含有量を有する、請求項3に記載のコートされた鉄粒子。
【請求項5】
粒子をコートする前と後での粒子の重量の差によってチオールコーティング含有量を決定した場合、当該コートされた鉄粒子は、チオールでコートされた鉄粒子の総重量に基づいて、1wt%から10wt%のチオールコーティング含有量を有する、請求項3に記載のコートされた鉄粒子。
【請求項6】
チオールコーティングが、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオール、ペンタンジチオール、オクタンジチオール、ノナンジチオール、及びデカンジチオールから選択されるアルキルポリチオールを含む、請求項1に記載のコートされた鉄粒子。
【請求項7】
チオールコーティングが、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールである複素環式チオールを含む、請求項1に記載のコートされた鉄粒子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のコートされた鉄粒子;及び
ポリマー
を含む、組成物。
【請求項9】
エポキシ、ビスマレイミド、ポリイミド、ポリアリールエーテルケトン、ゾルゲル、ポリウレタン、シリコーン、又は炭化水素油、シリコーンオイル、水リン酸エステル流体若しくは合成油に分散された粒子から選択されるポリマーを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
0.5wt%から10wt%のコートされた鉄粒子含有量を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
表面と、前記表面上に付着した請求項8から10のいずれか一項に記載の組成物とを含む構成要素。
【請求項12】
鉄粒子をパッシベートするための方法であって:
一又は複数の硫黄部分を有するパッシベーション剤を溶媒中に導入してパッシベーション溶液を形成すること;及び
0.5マイクロメートルから1000マイクロメートルの直径を有する鉄粒子をパッシベーション溶液と接触させて、コートされた鉄粒子を形成すること
を含み、パッシベーション剤が、複素環式チオール、ジスルフィド化合物、チオレート化合物、及びアルキルポリチオールから選択される、方法。
【請求項13】
パッシベーション剤を溶媒中に導入することが、パッシベーション剤を、アルコール、アルキルカーボネート、エーテル、グリコールエーテル、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、又はこれらの混合物から選択される溶媒中に導入することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
パッシベーション溶液中のパッシベーション剤の濃度が1Mから2Mである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
鉄粒子をパッシベーション溶液と接触させることが、鉄粒子をパッシベーション溶液に導入して、パッシベーション剤と鉄粒子とを含む溶液を形成することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
パッシベーション剤と鉄粒子とを含む溶液を撹拌することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
鉄粒子をパッシベーション溶液に導入する前に、パッシベーション溶液を40℃から80℃の温度に加熱することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
コートされた鉄粒子を濾過すること、及びコートされた鉄粒子を、30℃から70℃の温度で硬化させることにより乾燥させることをさらに含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
鉄粒子をパッシベートするための方法であって:
0.5マイクロメートルから1000マイクロメートルの直径を有する鉄粒子を溶媒中に導入して鉄粒子溶液を形成すること;及び
一又は複数の硫黄部分を有するパッシベーション剤を鉄粒子溶液と接触させて、コートされた鉄粒子を形成すること
を含
み、パッシベーション剤が、複素環式チオール、ジスルフィド化合物、チオレート化合物、及びアルキルポリチオールから選択される、方法。
【請求項20】
鉄粒子を溶媒中に導入することが、鉄粒子を、アルコール、アルキルカーボネート、エーテル、グリコールエーテル、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、又はこれらの混合物から選択される溶媒中に導入することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
パッシベーション剤を鉄粒子溶液と接触させることが、パッシベーション剤を鉄粒子溶液に導入して、パッシベーション剤と鉄粒子とを含む溶液を形成することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
鉄粒子溶液を、40℃から80℃の温度に加熱することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
コートされた鉄粒子を濾過すること、及びコートされた鉄粒子を、30℃から70℃の温度で硬化させることにより乾燥させることをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、チオールでコートされた鉄粒子、チオールでコートされた鉄粒子を含む組成物、その上に付着した組成物を含む構成要素、及び鉄粒子をパッシベートするための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性粒子、特に鉄粒子が大いに注目されており、これらはその磁気的諸特性が優れているために広く使用されている。これらは、様々な分野の技術、生体医学の用途、吸収及び触媒過程において、又は磁気レオロジー流体及び複合材を製造するために、適用することができる。所望の寸法に応じて、鉄粒子は、ナノ、マイクロの大きさ、又は肉眼で見える大きさとすることができる。
【0003】
例えば、カルボニル鉄粒子は、磁気型電磁波吸収体の設計のための主成分である。カルボニル鉄は、鉄含有カルボニル部分(例えばFe(CO)5)から形成される実質的に純粋な鉄(99.9%以上の鉄含有量)である。例えば、カルボニル鉄粉(CIP)は、多くの用途に有用な特異的磁気特性を有し、このような磁気的諸特性によりコーティングのための望ましい添加物である。しかしながら、カルボニル鉄は高温で酸化及び腐食し易く、これは磁気的諸特性の低下を招く。さらに、CIPを均一に分散させることは困難であり、適切に分散させることに失敗すると、CIP性能に影響が生じうる。例えば、ポリマーで粒子をコートするなどの方法は、粒子の凝集を生じさせることがあり、これは粒子の分散を妨げる。
【0004】
例えば、シリカ鉄が、比較的腐食しづらく、処理が容易であるため、カルボニル鉄の代わりに使用されている。カルボニル鉄又はシリカ鉄のための既知のパッシベーション技術には:二酸化炭素パッシベーション、コバルトの無電解めっき法、ポリアニリンパッシベーション、マイクロ波プラズマ法、及びシリカコーティングが含まれる。これら方法は多数の/複雑な処理工程を含み、その結果、粒子の質量及び体積が実質的に増加し、結果として得られる粒子の凝集が生じ、粒子の磁気特性が損なわれる可能性がある。
【0005】
磁気的諸特性を保持又は改善しながらパッシベートされた鉄粒子、及び鉄粒子をパッシベートするための改善された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、鉄粒子と鉄粒子上に付着したチオールコーティングとを含む、コートされた鉄粒子、又はその反応生成物を提供する。
【0007】
本発明の態様はさらに、コートされた鉄粒子とポリマー又は付着促進剤とを含む組成物を提供する。
【0008】
本発明の態様はさらに、構成要素、例えば、一の表面と、その表面に付着した本発明の組成物とを有するビークル構成要素のような構成要素を提供する。
【0009】
本発明の態様は、さらに、一又は複数の硫黄部分を有するパッシベーション剤を溶媒中に導入してパッシベーション液を形成すること;及び鉄粒子をパッシベーション溶液と接触させて、コートされた鉄粒子を形成することにより、鉄粒子をパッシベートするための方法を提供する。
【0010】
本発明の態様は、さらに、鉄粒子を溶媒中に導入して鉄粒子溶液を形成すること;及び一又は複数の硫黄部分を有するパッシベーション剤を鉄粒子溶液と接触させて、コートされた鉄粒子を形成することにより、鉄粒子をパッシベートするための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の上述の特徴が詳細に理解されるように、上記要約のさらに詳細な説明を、そのうちの一部が添付図面に例示される態様を参照して行う。しかしながら、本発明は他の等しく有効な態様を認めているので、添付図面は、本発明の典型的な態様のみを例示しているのであり、したがって本開示の範囲を限定しているのではないことに注意されたい。
【0012】
【
図1】本発明の少なくとも一つの態様による、ビークル構成要素を備えた航空機である。
【
図2】本発明の少なくとも一つの態様による、チオールでコートされた鉄粒子を形成するための方法のフロー図である。
【
図3A】本発明の少なくとも一つの態様による、チオールのパッシベーションを経ていないカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。
【
図3B】本発明の少なくとも一つの態様による、チオールのパッシベーションを経ていないカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。
【
図3C】本発明の少なくとも一つの態様による、チオールのパッシベーションを経ていないカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。
【
図4A】本発明の少なくとも一つの態様による、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールでパッシベートしたカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。
【
図4B】本発明の少なくとも一つの態様による、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールでパッシベートしたカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。
【
図4C】本発明の少なくとも一つの態様による、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールでパッシベートしたカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。
【
図5A】本発明の少なくとも一つの態様による、
図3A-3Cのカルボニル鉄粒子のSEM画像のエネルギー分散分光法スペクトルである。
【
図5B】本発明の少なくとも一つの態様による、
図4A-4Cの2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールでパッシベートした鉄粒子のSEM画像のエネルギー分散分光法スペクトルである。
【
図6】Aは、修飾されていないカルボニル鉄粒子を有するポリウレタンコーティングでコートしたパネルの写真である。Bは、チオールでコートされた鉄粒子を有するポリウレタンコーティングでコートしたパネルの写真である。
【0013】
理解を容易にするため、複数の図に共通する同一の要素を指し示すのに、可能な場合には同一の参照番号を使用している。一態様の要素及び特徴は、さらなる記述がなくとも、他の態様に有益に組み込まれうると考慮する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、腐食しづらく、且つパッシベーションの後もその磁気的諸特性を維持する鉄粒子を提供するコートされた鉄粒子及び組成物に関する。本発明のコートされた鉄粒子を成形する方法は、従来の鉄コーティング方法と比較してすべて製造時間及び費用を低減する比較的安価な材料を用いる単純な(例えば、三工程の)方法を提供する。
【0015】
コートされた鉄粒子
本発明は、チオールコーティングを有する鉄粒子を提供する。チオールコーティングは、鉄粒子の外表面を部分的に又は完全にコートすることができる。鉄粒子は、実質的に純粋な鉄とすることができる。鉄粒子は、カルボニル鉄粒子又はシリカ鉄粒子を含むことができる。少なくとも一つの態様では、コートされた鉄粒子は、約0.5ミクロンから約1000ミクロン、例えば約1ミクロンから約100ミクロン、例えば約1ミクロンから約20ミクロン、例えば約1ミクロンから約5ミクロン、例えば約1ミクロンから約3ミクロン、例えば約1.2ミクロンの直径を有する。大きな粒子(例えば、1000ミクロンより大きい)は、その重量のために分散させることが困難であり、均一にスプレーコート噴霧することが困難であることが分かった。小さな粒子ほど、分散し易く、且つ均一にスプレーコートすることが容易である。本発明の鉄粒子は、約90wt%以上、例えば約95wt%以上、例えば約99wt%以上、例えば約99.9wt%以上の鉄含有量を有することができる。鉄粒子は、BASF(Ludwigshafen,Germany)といった販売元から得ることができる。
【0016】
少なくとも一つの態様では、チオールコーティングが鉄粒子上に堆積され、このコーティングは約30オングストロームから約15000オングストローム、例えば約100オングストロームから約1000オングストロームの厚さを有する。少なくとも一つの態様では、コートされた鉄粒子は、粒子をコートする前と後での粒子の重量及び密度の差により決定した場合に、チオールでコートされた鉄粒子の総体積に基づいて、約0.01体積パーセント(vol%)から約30vol%、例えば約0.05vol%から約10vol%、例えば約0.1vol%から約1vol%、例えば約0.5vol%のチオールコーティング含有量を有する。少なくとも一つの態様では、コートされた鉄粒子は、粒子をコートする前と後での粒子の重量の差により決定した場合に、チオールでコートされた鉄粒子の総重量に基づいて、約0.5重量パーセント(wt%)から約30wt%、例えば約1wt%から約10wt%、例えば約2wt%から約5wt%、例えば約3wt%のチオールコーティング含有量を有する。本明細書において使用する場合、鉄粒子の「チオールコーティング含有量」とは、チオールコーティングである被コーティング鉄粒子の体積又は重量のパーセントである。
【0017】
本発明のチオールコーティングは、鉄粒子の磁気感受率に対して影響を有さないか、又は有していたとしても無視できる程度である。電磁気学において、磁気感受率(magnetic susceptibility)(ラテン語:susceptibilis、「受け易い(receptive)」;χsで表す)は、材料の磁気的諸特性のうちの一つの尺度である。感受率は、材料が磁界に引き付けられるか又は磁界からはじかれるかを示し、即ち実用化に対する示唆を有しうる。粒子の体積が増加するほど(純粋な鉄に関し)、χsは上昇する。コーティング中において、体積分率が増加するほど、χsは上昇する。したがって、コアシェル(コアは鉄であり、シェルはパッシベーション層である)の場合、χsは、シェルが厚くなるほど低下するであろう。また、粒子が腐食すると、コアの大きさが縮小し、χsは低下する。本発明のチオールコーティングは、鉄粒子の腐食を防止又は抑制する。
【0018】
少なくとも一つの態様では、本発明のコートされた鉄粒子は、約1ミクロンから約5ミクロンの直径を有し、約3χsから約10χsの磁気感受率を有する。少なくとも一つの態様では、本発明のコートされた鉄粒子は、約0.5:1から約1.5:1、例えば約0.7:1から約1.2:1、例えば約1:1の、χsと粒子直径との比を有する。χsと粒子直径との比は、本発明のチオールコーティングが、鉄粒子の磁気感受率に対して影響を有さないか、又は有していたとしても無視できる程度であり、それによりコートされた粒子の分散能が維持されることを示す。本発明のコートされた鉄粒子及び組成物は、シリカでコートされた鉄粒子といった従来のコートされた鉄粒子とは異なり、パッシベートされていない鉄粒子と比較して、均一にうまく分散する(例えば、凝集しない)。
【0019】
チオールコーティングは、他の鉄粒子、例えば他のコートされた鉄粒子を含む組成物中にあるとき、コートされた粒子の分散を促進することに加えて、鉄粒子の耐食性を提供する。さらに、本発明のチオールコーティングは、腐食から鉄粒子を適切に保護するために十分に厚いが、鉄粒子の磁気的諸特性が実質的には低下しない程度に薄い。本発明のチオールコーティングは、鉄粒子表面上においてパッシベーション単層が自己組織化したものでありうる。理論に縛られるものではないが、チオールコーティングのチオール化合物(複数可)は、鉄粒子表面に共有結合することができる。
【0020】
本発明のチオールコーティングは、一又は複数のチオール化合物の反応生成物を含む及び/又は同反応生成物である。少なくとも一つの態様では、チオール化合物は、複素環式チオール、ジスルフィド化合物、チオレート化合物、及びアルキルポリチオールから選択される。
【0021】
本発明のチオール化合物は、ジスルフィド基及び/又はチオレート基(例えば、金属-硫化物結合)を含む有機化合物とすることができる。チオール化合物は、アルキルポリチオール、例えばジチオール、トリチオール、又はテトラチオールでありうる。モノチオールと比較して、ポリチオールは、鉄粒子に相互作用するように結合/共有結合することのできる追加のチオール部分を提供することができ、これにより、厚みが低減され、鉄粒子に対する全体的な結合強度が増大し、コートされた鉄粒子の磁気的諸特性が維持/改善された、鉄粒子上に付着したチオールコーティングが得られる。ジチオールは、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオール、ペンタンジチオール、オクタンジチオール、ノナンジチオール、及びデカンジチオールを含みうる。トリチオールは、エタントリチオール、プロパントリチオール、ブタントリチオール、ペンタントリチオール、ヘキサントリチオール、ペンタントリチオール、オクタントリチオール、ノナントリチオール、及びデカントリチオールを含みうる。テトラチオールは、エタンテトラチオール、プロパンテトラチオール、ブタンテトラチオール、ペンタンテトラチオール、ヘキサンテトラチオール、ペンタンテトラチオール、オクタンテトラチオール、ノナンテトラチオール、及びデカンテトラチオールを含みうる。
【0022】
少なくとも一つの態様では、チオール化合物は、式:R1--Sn--X--R2(式中、R1は有機基であり、nは1以上の整数であり、Xは硫黄又は金属原子であり、R2は有機基である)によって表される。R1とR2の一方又は両方は、追加のポリスルフィド基及び/又はチオール基を含むことができる。さらに、少なくとも一つの態様において、チオール化合物は、式-(R1--Sn--X--R2)q-(式中、R1は有機基であり、nは正の整数であり、Xは硫黄又は金属原子であり、R2は有機基であり、qは正の整数である)を有するポリマーを含む。少なくとも一つの態様において、(ポリマー性又はモノマー性の腐食抑制剤の)R1及びR2は、独立に、H、アルキル、シクロアルキル、アリール、チオール、ポリスルフィド又はチオンから選択される。R1及びR2の各々は、アルキル、アミノ(リン含有)、エーテル、アルコキシ、ヒドロキシ(硫黄含有)、セレン又はテルルから選択される部分で独立に置換されうる。少なくとも一つの態様において、R1及びR2の各々は、1~24個の炭素原子及び/又は非水素原子を有する。例えば、R1及びR2基の複素環の例は、アゾール、トリアゾール、チアゾール、ジチアゾール及び/又はチアジアゾールを含む。
【0023】
少なくとも一つの態様において、チオール化合物は、金属-チオレート錯体中の金属を含む。チオール化合物は、金属中心と、金属-硫化物結合を有する金属中心に結合及び/又は配位された一又は複数のチオール基(リガンド)とを含みうる。チオレートは、金属原子が硫黄に結合した水素を置換するチオールの誘導体である。チオレートは、一般式M-S-R1(式中、Mは金属であり、R1は有機基である)を有する。R1は、ジスルフィド基を含むことができる。金属-チオレート錯体は、一般式M-(S-R1)n(式中、nは一般に、2~9の整数であり、Mは金属原子である)を有する。金属は、銅、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、鉄、カドミウム、鉛、水銀、銀、白金、パラジウム、金、及び/又はコバルトである。
【0024】
少なくとも一つの態様では、チオール化合物はアゾールを含む。適切なアゾールの例は、1個の窒素原子、例えばピロール、2個以上の窒素原子、例えばピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール及びペンタゾール、1個の窒素原子と1個の酸素原子、例えばオキサゾール及びイソオキサゾール、及び1個の窒素原子と1個の硫黄原子、例えばチアゾール及びイソチアゾールを有する環式化合物を含む。適切なアゾール含有チオール化合物の非限定的な例は、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、1H-ベンゾトリアゾール、1H-1,2,3-トリアゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、別名5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、2-アミノ-1,3,4-チアジアゾールを含む。少なくとも一つの態様において、例えば、アゾールは2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールであってよい。いくつかの実施態様において、アゾール含有チオール化合物は、ベンゾトリアゾール及び/又は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールを含む。
【0025】
本発明のチオール化合物は、酸素還元の排除を提供することができる複素環式チオール及びアミンを含む。複素環式チオールは、一又は複数のチオール部分を有するチアジアゾールを含む。一又は複数のチオール部分を有するチアジアゾールの非限定的な例は、式(I)又は式(II):
によって表される1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジチオール及びチアジアゾールを含む。
【0026】
式(I)のチアジアゾールは、Vanderbilt Chemicals,LLC社(Norwalk,Connecticut)から購入することができ、Vanlube(登録商標)829として知られている。式(II)のチアジアゾールは、WPC Technologies,Inc.TM(Oak Creek,Wisconsin)から購入することができ、InhibiCorTM 1000として知られている。
【0027】
本発明のチオール化合物は、塗料と関連する腐食抑制剤としての用途に使用されうるトリチオシアヌル酸(「TMT」)の選択された誘導体、及びHS-CN2SC-SH又は「DMTD」により表される2,5-ジメルカプト-1,3,4チアジアゾールの誘導体であってもよい。例には、2,5-ジメルカプト-1,3,4チアジアゾール(DMTD)及び2,4-ジメルカプト-s-トリアゾロ-[4,3-b]-1,3-4-チアジアゾール、並びにトリチオシアヌル酸(TMT)が含まれる。他の例には、DMTDのN-、S-及びN,N-、S,S-及びN,S-置換誘導体、例えば5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾリン-2-チオン又はビスムチオールII(3-フェニル-1,3,4-チアジアゾリジン-2,5-ジチオン)など、並びにトリチオシアヌル酸の種々のS-置換誘導体が含まれる。その他の例には、5,5′ジチオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン若しくは(DMTD)2又はDMTDのポリマーである(DMTD);5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン;又はTMTのダイマー及びポリマーである(TMT)2が含まれる。その他の例には、一般式:M(DMTD)n(式中、n=1、2又は3であり、Mは、M=Zn(II)、Bi(III)、Co(II)、Ni(II)、Cd(II)、Pb(II)、Ag(I、Sb(III)、Sn(II)、Fe(II)又はCu(II)などの金属カチオン(例:ZnDMTD、Zn(DMTD)2、Bi(DMTD)3)である)のDMTDの塩;1:1の比のTMTの類似の塩、例えばZnTMT;及び同程度の可溶性Li(I)、Ca(II)、Sr(II)、Mg(II)、La(III)、Ce(III)、Pr(III)又はZr(IV)塩も含まれる。追加の例には、一般式M[(DMTD)n]m(式中、n=2又はn>2、m=1、2又は3であり、Mは金属カチオン、例えばM=Zn(II)、Bi(III)、Co(II)、Ni(II)、Cd(II)、Pb(II)、Ag(I)、Sb(III)、Sn(II)、Fe(II)又はCu(II)である)の(DMTD)nの塩が含まれる。典型例は、Zn[(DMTD)2]、Zn[(DMTD)2]2である。
【0028】
追加の例には、DMTD、(DMTD)n又は5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン又は2,4-ジメルカプト-s-トリアゾロ-[4,3-b]-1,3-4-チアジアゾールのアンモニウム-、アリール-若しくはアルキル-アンモニウム塩が含まれる。典型的な例には、1:1及び2:1の比のシクロヘキシルアミン:DMTD;1:1及び2:1の比のジ-シクロヘキシルアミン:DMTD;1:1及び2:1の比のアニリン:DMTD;1:1の比のTMTの類似の塩(例えばジ-シクロヘキシルアミン):TMTが含まれる。さらなる例には、ポリアミンで形成されたDMTD又は(DMTD)n及びTMTのポリアンモニウム塩が含まれる。
【0029】
さらなる例には、DMTD又は(DMTD)2又は5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン及びTMTでドープされている本質的に導電性のポリアニリン;DMTD、(DMTD)2及び5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン及び/又はTMTでドープされている本質的に導電性のポリピロール及び/又はポリチオフェンが含まれる。
【0030】
さらなる例には、ポリDMTD/ポリアニリン、ポリDMTD/ポリピロール及びポリDMTD/ポリチオフェンのミクロ又はナノ複合体;TMTとの、及び5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオンとの類似のミクロ又はナノ複合体;種々の顔料グレードの無機マトリックス又は物理的混合物の有機構成要素としてのDMTD又はDMTDの塩又はDMTD及びTMTの誘導体が含まれる。いくつかの態様では、このような無機マトリックスは、腐食抑制剤特性を有するアニオン性及びカチオン性種、例えば:MoO4
-、PO4
-、HPO3
-、ポリ-ホスフェート、BO2
-、SiO4
-、NCN-、WO4
-、リンモリブデン酸塩、リンタングステン酸塩と、それぞれMg、Ca、Sr、La、Ce、Zn、Fe、Al、Biを含む。
【0031】
顔料グレード形態のDMTDは、無機生成物又は腐食抑制剤顔料を用いたZn(DMTD)2及びZn-DMTD(前者の他の有機及び無機塩の中で)を含み、これには、リン酸塩、モリブデン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、タングステン酸塩、リンタングステン酸塩、リンモリブデン酸塩、先述のカチオン種のシアナミド又はカーボネート、及び酸化物が含まれる。例には、リン酸亜鉛、モリブデン酸セリウム、ケイ酸カルシウム、ホウ酸ストロンチウム、亜鉛シアナミド、リンタングステン酸セリウム(cerium phosphotungstate)、ZnO、CeO2、ZrO2、及び非晶質SiO2が含まれる。
【0032】
組成物及びコートされる構成要素
本発明のチオールでコートされた鉄粒子は、組成物中に存在しうる。少なくとも一つの態様では、本発明の組成物は、チオールでコートされた鉄粒子及び一又は複数のポリマー又は付着促進剤を含む。少なくとも一つの態様では、ポリマーは、熱硬化性ポリマー又は熱可塑性ポリマーのうちの少なくとも一つを含む。少なくとも一つの態様では、ポリマーは、エポキシ、ビスマレイミド、ポリイミド、ポリアリールエーテルケトン(例えばポレーテルエーテルケトン又はポリエーテルケトン)、ゾルゲル、ポリウレタン、密封剤、又は磁気レオロジー粒子流体のうちの少なくとも一つである。付着促進剤はゾルゲルとすることができる。ゾルゲルは、Boegel(登録商標)、例えば3M Surface Pre-Treatment AC-131 CBとすることができる。3% AC-131キットは3M Corporationから得ることができる。3% AC-131は、非クロム化成コーティングであり、典型的にはアルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、マグネシウム、及びチタニウム合金上に付着する。AC-131は、氷酢酸(GAA)とジルコニウムテトラ-n-プロポキシド(TPOZ)との水溶液混合物であるパートA及び(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GTMS)であるパートBを有する。これら二つの構成要素を一緒に混ぜ合わせ(パートA+パートB)、混合物中のケイ素とジルコニウムとのモル比は2.77:1である。パートA中の酢酸とTPOZとのモル比は、0.45:1である。測定された体積のGAA及びTPOZを約10分間勢いよく混合し、次いでAC-131キットからパートAに加えることができる。予め混合したパートA溶液を、次いで、AC-131キットから、測定された体積のパートB溶液に加えて撹拌し、続いて30分間の誘導期間を置く。本発明のコートされた鉄粒子は、インキュベーション期間の前、最中、又は後に、パートA/パートB混合物に加えることができる。次いで組成物を、構成要素の表面、例えばビークル構成要素の表面上といった表面上に堆積させることができる。
【0033】
密封剤は、シリコーン、ポリウレタン及びエポキシを含む。
【0034】
磁気レオロジー粒子流体は、炭化水素油、シリコーンオイル、水リン酸エステル流体、合成油に分散された粒子を含む。
【0035】
合成油には次のグループが含まれる:グループI:従来の非合成油。ろう分及び対酸化性のような特定の性能カテゴリーを改善するために精製された分別蒸留された石油からつくられたもの;グループII:従来の、非合成油。ハイドロクラッキング(水素に基づく処理)によりさらに精製された分別蒸留された石油からつくられたもの;グループIII:考慮される合成油であるが、従来のオイルといくつかの重要な類似点を有している。グループIIに類似しているが、さらなるハイドロクラッキング精製により、より高い粘度指数を有する。グループIV:合成油.ポリアルファオレフィン(PAO)を含む。グループV:この別個のグループは、上記四つのグループのいずれにも当てはまらないあらゆる素材を説明する。
【0036】
本発明の組成物は、約0.1wt%から約50wt%、例えば約0.5wt%から約10wt%、例えば約1wt%から約5wt%、例えば約2wt%の被コーティング鉄粒子含有量を有することができる。本明細書において使用される、組成物の「鉄粒子含有量」とは、コートされた鉄粒子を含む組成物の重量でのパーセントである。
【0037】
本発明の組成物は、表面(例えばビークル構成要素の表面)の上に堆積させることができる。ビークル構成要素といった構成要素の上に付着したとき、本発明の組成物は、約30MHzから約300Gz、例えば約300MHzから約30GHz、例えば約3,000MHzから約3GHzの周波数で到来する電波放射を吸収することのできる磁気レーダー吸収体を提供する。
【0038】
本発明の組成物は、風力タービン、衛星、又はその他ビークル、例えば車、船などの一又は複数の表面の上に堆積させることもできる。
【0039】
組成物を表面の上に堆積させることは、組成物の層を形成するための噴霧、浸漬、はけ塗り塗装、及び/又はワイピングによって実施することができる。例えば、噴霧の適切な形態は、スプレーガン、高容量低圧スプレーガン及び/又はハンドポンプスプレーを用いた噴霧を含む。次いで溶液を硬化させる(室温又は高温で)。少なくとも一つの態様において、硬化温度は、約10℃から約150℃、例えば約20℃から約100℃、例えば約30℃から約70℃、例えば約40℃から約50℃である。硬化は、約15分から約72時間の期間にわたって実施することができる。本発明の硬化させた組成物の層は、約0.5ミリから約500ミリ、例えば約5ミリから約100ミリ、例えば約10ミリから約50ミリの厚さを有することができる。
【0040】
ビークル構成要素は、ビークルの構成要素、例えば、航空機の着陸装置、パネル、ジョイントといった構造的構成要素である。ビークル構成要素の例は、翼型(例えばロータブレード)、補助動力装置、航空機の機首、燃料タンク、テールコーン、パネル、二枚以上のパネル間のコーテッドラップジョイント、翼-胴体アセンブリ、航空機構造用複合材料(structural aircraft composite)、胴体ジョイント(fuselage body-joint)、ウィングリブ-スキンジョイント(wing rib-to-skin joint)、及び/又はその他内部構成要素を含む。
【0041】
図1は、本発明の少なくとも一つの態様による、ビークル構成要素を備えた航空機である。
図1に示すように、航空機100は、縦長の機体104、機体104から横方向に延びる翼106、及び機体104から長手方向に延びる尾部108といったビークル構成要素を含む航空機構造102を含む。本発明の組成物は、このような航空機構成要素の一又は複数の表面の上に堆積させて、上に組成物が付着した一又は複数の航空機構成要素(複数可)を形成することができる。
【0042】
本発明のコートされた鉄粒子及び/又は組成物の他の可能な最終使用は、コートされた鉄粒子及び/又は組成物を、磁気テープ中(例えば記憶媒体)、モーター(例えば磁気ベアリング)、風力タービン(例えば、電磁放射を吸収するドップラーレーダー吸収体)、核磁気共鳴分光器(NMR)のためのシールディング(例えば、磁気コーティング)、ライニング無響室(発泡吸収体としての)、磁界強度に変化をもたらすミューメタル、及び「RFブランケット」としての周波数曝露からの保護コンピュータチップの中又は上に組み込むことを含みうる。本発明の方法は、導電性インクといった製品に使用するために、銅粒子(例えば、腐食し易い金属の任意の小粒子)をパッシベートすることも含みうる。
【0043】
鉄粒子のパッシベーション
本発明は、鉄粒子をパッシベーション剤でパッシベートすることにより、チオールでコートされた鉄粒子を形成するための方法を提供する。
図2は、チオールでコートされた鉄粒子を形成するための方法200である。方法200は、溶媒中に一又は複数の硫黄部分を有するパッシベーション剤を溶解又は分散させることにより、パッシベーション溶液を形成することを含む(ブロック202)。
【0044】
溶媒は水性でも非水性でもよい(例えば有機)。好ましくは、溶媒は非水性であり、水酸化アンモニウムをほとんど又はまったく含まない。非水性の溶媒は、パッシベーション溶液中に存在するとき鉄粒子が固化することを防ぐことがわかっている。少なくとも一つの態様では、有機溶媒は、アルコール、アルキルカーボネート(例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、又はジプロピルカーボネート)、エーテル(例えば、ジメチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテル)、グリコールエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はこれらの混合物から選択される。少なくとも一つの態様では、アルコール溶媒は、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、及びアミルアルコール(例えばn-ペンタノール、イソペンタノール、及びsec-ペンタノール)のうちの一又は複数である。(1)3Å又は4Åのモレキュラーシーブを溶媒に導入し、溶媒を加熱することにより、及び/又は(2)(窒素又はアルゴンなどの)不活性ガスを約10分から約24時間の期間にわたり溶媒を通して泡立てることにより、非水性溶媒を脱気して、溶媒から空気及び水分を除去することができる。
【0045】
少なくとも一つの態様では、パッシベーション溶液中におけるパッシベーション剤の濃度(1リットル当たりのモル数)は、約0.01モル/リットル(M)から約10M、例えば約0.5Mから約5M、例えば約1Mから約2Mである。
【0046】
少なくとも一つの態様では、パッシベーション剤はチオール化合物である。少なくとも一つの態様では、パッシベーション剤は、複素環式チオール、ジスルフィド化合物、チオレート化合物、及びアルキルポリチオールから選択される。
【0047】
本発明のチオール化合物は、ジスルフィド基及び/又はチオレート基(例えば、金属-硫化物結合)を含む有機化合物とすることができる。チオール化合物は、アルキルポリチオール、例えばジチオール、トリチオール、又はテトラチオールである。ジチオールは、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオール、ペンタンジチオール、オクタンジチオール、ノナンジチオール、及びデカンジチオールを含みうる。トリチオールは、エタントリチオール、プロパントリチオール、ブタントリチオール、ペンタントリチオール、ヘキサントリチオール、ペンタントリチオール、オクタントリチオール、ノナントリチオール、及びデカントリチオールを含みうる。テトラチオールは、エタンテトラチオール、プロパンテトラチオール、ブタンテトラチオール、ペンタンテトラチオール、ヘキサンテトラチオール、ペンタンテトラチオール、オクタンテトラチオール、ノナンテトラチオール、及びデカンテトラチオールを含みうる。
【0048】
少なくとも一つの態様では、チオール化合物は、式:R1--Sn--X--R2(式中、R1は有機基であり、nは1以上の整数であり、Xは硫黄又は金属原子であり、R2は有機基である)によって表される。R1とR2の一方又は両方は、追加のポリスルフィド基及び/又はチオール基を含むことができる。さらに、少なくとも一つの態様において、チオール化合物は、式-(R1--Sn--X--R2)q-(式中、R1は有機基であり、nは正の整数であり、Xは硫黄又は金属原子であり、R2は有機基であり、qは正の整数である)を有するポリマーを含む。少なくとも一つの態様において、(ポリマー性又はモノマー性の腐食抑制剤の)R1及びR2は、独立に、H、アルキル、シクロアルキル、アリール、チオール、ポリスルフィド又はチオンから選択される。R1及びR2の各々は、アルキル、アミノ、リン含有、エーテル、アルコキシ、ヒドロキシ、硫黄含有、セレン又はテルルから選択される部分で独立に置換されうる。少なくとも一つの態様において、R1及びR2の各々は、1~24個の炭素原子及び/又は非水素原子を有する。例えば、R1及びR2基の複素環の例は、アゾール、トリアゾール、チアゾール、ジチアゾール及び/又はチアジアゾールを含む。
【0049】
少なくとも一つの態様において、チオール化合物は、金属-チオレート錯体中に金属を含む。チオール化合物は、金属中心と、金属-硫化物結合を有する金属中心に結合及び/又は配位された一又は複数のチオール基(リガンド)とを含みうる。チオレートは、金属原子が硫黄に結合した水素を置換するチオールの誘導体である。チオレートは、一般式M-S-R1(式中、Mは金属であり、R1は有機基である)を有する。R1は、ジスルフィド基を含むことができる。金属-チオレート錯体は、一般式M-(S-R1)n(式中、nは一般に、2~9の整数であり、Mは、金属原子である)を有する。金属は、銅、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、鉄、カドミウム、鉛、水銀、銀、白金、パラジウム、金、及び/又はコバルトである。
【0050】
少なくとも一つの態様では、チオール化合物はアゾールを含む。適切なアゾールの例は、1個の窒素原子、例えばピロール、2個以上の窒素原子、例えばピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール及びペンタゾール、1個の窒素原子と1個の酸素原子、例えばオキサゾール及びイソオキサゾール、及び1個の窒素原子と1個の硫黄原子、例えばチアゾール及びイソチアゾールを有する環式化合物を含む。適切なアゾール含有チオール化合物の非限定的な例は、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、1H-ベンゾトリアゾール、1H-1,2,3-トリアゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、別名5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、2-アミノ-1,3,4-チアジアゾールを含む。少なくとも一つの態様では、例えば、アゾールは、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールである。いくつかの実施態様において、アゾール含有チオール化合物は、ベンゾトリアゾール及び/又は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールを含む。
【0051】
本発明のチオール化合物は、酸素還元の排除を提供することができる複素環式チオール及びアミンを含む。複素環式チオールは、一又は複数のチオール部分を有するチアジアゾールを含む。一又は複数のチオール部分を有するチアジアゾールの非限定的な例は、式(I)又は式(II):
によって表される1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジチオール及びチアジアゾールを含む。
【0052】
化学式(I)のチアジアゾールは、Vanderbilt Chemicals,LLC社(Norwalk,Connecticut)から購入することができ、Vanlube(登録商標)829として知られている。式(II)のチアジアゾールは、WPC Technologies,Inc.TM(Oak Creek,Wisconsin)から購入することができ、InhibiCorTM 1000として知られている。
【0053】
本発明のチオール化合物は、塗料と関連する腐食抑制剤としての用途に使用されうるトリチオシアヌル酸(「TMT」)の選択された誘導体、及びHS-CN2SC-SH又は「DMTD」により表される2,5-ジメルカプト-1,3,4チアジアゾールの誘導体であってもよい。例には、2,5-ジメルカプト-1,3,4チアジアゾール(DMTD)及び2,4-ジメルカプト-s-トリアゾロ-[4,3-b]-1,3-4-チアジアゾール、並びにトリチオシアヌル酸(TMT)が含まれる。他の例には、DMTDのN-、S-及びN,N-、S,S-及びN,S-置換誘導体、例えば5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾリン-2-チオン又はビスムチオールII(3-フェニル-1,3,4-チアジアゾリジン-2,5-ジチオン)、並びにトリチオシアヌル酸の種々のS-置換誘導体が含まれる。その他の例には、5,5′ジチオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン、又はDMTDのポリマーである(DMTD)2又は(DMTD);5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン;又はTMTのダイマー及びポリマーである(TMT)2が含まれる。その他の例には、一般式:M(DMTD)n(式中、n=1、2又は3であり、Mは、M=Zn(II)、Bi(III)、Co(II)、Ni(II)、Cd(II)、Pb(II)、Ag(I、Sb(III)、Sn(II)、Fe(II)又はCu(II)などの金属カチオン(例:ZnDMTD、Zn(DMTD)2、Bi(DMTD)3)である)のDMTDの塩;1:1の比のTMTの類似の塩、例えばZnTMT;及びさらには同程度の可溶性Li(I)、Ca(II)、Sr(II)、Mg(II)、La(III)、Ce(III)、Pr(III)又はZr(IV)塩が含まれる。追加の例には、一般式M[(DMTD)n]m(式中、n=2又はn>2、m=1、2又は3であり、Mは金属カチオン、例えばM=Zn(II)、Bi(III)、Co(II)、Ni(II)、Cd(II)、Pb(II)、Ag(I)、Sb(III)、Sn(II)、Fe(II)又はCu(II)である)の塩が含まれる。典型例は、Zn[(DMTD)2]、Zn[(DMTD)2]2である。
【0054】
追加の例には、DMTD、(DMTD)nのアンモニウム-、アリール-若しくはアルキル-アンモニウム塩又は5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン又は2,4-ジメルカプト-s-トリアゾロ-[4,3-b]-1,3-4-チアジアゾールが含まれる。典型的な例には、1:1及び2:1の比のシクロヘキシルアミン:DMTD;1:1及び2:1の比のジ-シクロヘキシルアミン:DMTD;1:1及び2:1の比のアニリン:DMTD;1:1の比のTMTの類似の塩(例えばジ-シクロヘキシルアミン):TMTが含まれる。さらなる例には、ポリアミンで形成されたDMTD又は(DMTD)n及びTMTのポリアンモニウム塩が含まれる。
【0055】
さらなる例には、DMTD又は(DMTD)2又は5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン及びTMTでドープされている本質的に導電性のポリアニリン;DMTD、(DMTD)2及び5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオン及び/又はTMTでドープされている本質的に導電性のポリピロール並びに/又はポリチオフェンが含まれる。
【0056】
さらなる例には、ポリDMTD/ポリアニリン、ポリDMTD/ポリピロール及びポリDMTD/ポリチオフェンのミクロ又はナノ複合体;TMTとの、類似のミクロ又はナノ複合体;及び5,5’チオ-ビス(1,3,4チアジアゾール-2(3H)-チオンとの;種々の顔料グレードの無機マトリックス又は物理的混合物の有機構成要素としての、DMTD又はDMTDの塩又はDMTD及びTMTの誘導体が含まれる。いくつかの態様では、このような無機マトリックスは、腐食抑制剤特性を有するアニオン性及びカチオン性種、例えば、MoO4
-、PO4
-、HPO3
-、ポリ-ホスフェート、BO2
-、SiO4
-、NCN-、WO4
-、リンモリブデン酸塩、リンタングステン酸塩、及びそれぞれ、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Zn、Fe、Al、Biを含む。
【0057】
さらなる例には、カプセル化形態(例えば種々のポリマーマトリックス内の封入体又はシクロデキストリン包接化合物としての)又はマイクロカプセル化形態のDMTD又はDMTDの塩又はDMTD及びTMTの誘導体が含まれる。
【0058】
顔料グレード形態のDMTDは、無機生成物又は腐食抑制剤顔料を用いたZn(DMTD)2及びZn-DMTD(前者の他の有機及び無機塩の中で)を含み、これには、リン酸塩、モリブデン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、タングステン酸塩、リンタングステン酸塩、リンモリブデン酸塩、先述のカチオン種のシアナミド又はカーボネート、及び酸化物が含まれる。例には、リン酸亜鉛、モリブデン酸セリウム、ケイ酸カルシウム、ホウ酸ストロンチウム、亜鉛シアナミド、リンタングステン酸セリウム(cerium phosphotungstate)、ZnO、CeO2、ZrO2、及び非晶質SiO2が含まれる。
【0059】
方法200は、鉄粒子(例えばカルボニル鉄粉)をパッシベーション溶液に導入して(ブロック204)、パッシベーション剤中に完全に又は部分的にコートされた(例えば、カプセル化された)鉄粒子を形成することを含む。代替的に、ブロック204は、鉄粒子を溶媒に導入して鉄粒子溶液を形成し、続いてパッシベーション剤を鉄粒子溶液に導入してパッシベーション剤中に完全に又は部分的にコートされた(例えばカプセル化された)鉄粒子を形成することを含みうる。導入すること(ブロック204)は、いずれかの適切な撹拌装置、例えば撹拌棒又は撹拌プロペラ又はボルテックススターラーを用いてパッシベーション溶液又は鉄粒子溶液中に鉄粒子を穏やかに混合することを含みうる。撹拌は、穏やかな混合環境を提供するためにRoller Mixer内で実施することができる。過度にアグレッシブな混合(又は約3のpHを有する酸溶液又は約11のpHを有する塩基溶液(例えば水酸化アンモニウム))といった溶液中での過酷な化学物質への曝露)は、鉄粒子を酸化させ、鉄粒子の磁気的諸特性を劣化させうる。例えば、Thinky Mixer中で鉄粒子を濃縮2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMcT)と混合することは、鉄粒子を侵食しうる。さらに、いくつかのチオール化合物は、酸性及び/又は塩基性と考えることができる。例えば、DMcTは酸性であり、濃縮DMcT溶液に対する鉄粒子の露出時間が長すぎると、鉄粒子が侵食されうる。
【0060】
少なくとも一つの態様では、パッシベーション剤と鉄粒子との重量比(g/g)は、約0.01:1から約1:0.01、例えば約0.05:1から約0.5:1、例えば約0.1:1から約0.4:1、例えば約0.11:1である。
【0061】
鉄粒子をパッシベーション溶液に導入する前及び/又は最中に、パッシベーション溶液又は鉄粒子溶液を加熱することができる。少なくとも一つの態様では、方法は、パッシベーション溶液を、約20℃から約120℃、例えば約40℃から約80℃、例えば約60℃の温度に加熱することを含む。少なくとも一つの態様では、方法は、鉄粒子溶液を、約20℃から約120℃、例えば約40℃から約80℃、例えば約60℃の温度に加熱することを含む。
【0062】
少なくとも一つの態様では、撹拌/混合は、約50回転/分(rpm)から約5000rpm、例えば約300rpmから約2000rpmの撹拌速度/振動速度で実施される。少なくとも一つの態様では、混合は、約10秒から約1時間、例えば約30秒から約5分の期間にわたって実施される。
【0063】
方法200は、コートされた鉄粒子をパッシベーション溶液から除去することを含む(ブロック206)。除去は、任意の適切な濾過設定、例えばろ紙又は金網フィルターを使用して実施することができる。少なくとも一つの態様では、方法は、コートされた鉄粒子を濾過することを含む。ろ紙又は金網は、100ミクロン以下、例えば約0.1ミクロンから約50ミクロン、例えば約3ミクロンから約20ミクロン、例えば約11ミクロン(グレード1)の平均孔サイズを有することができる。濾取としてのコートされた鉄粒子及び濾液としての溶媒の濾過を促進するために、上昇又は低下させた圧力(例えば真空)を濾過設定に加えることができる。方法200は、濾過されたコーティング粒子を溶媒で洗浄することをさらに含む(ブロック208)。少なくとも一つの態様では、溶媒は、アルコール(例えば、イソプロパノール、エタノール、又はメタノール)、アルカン(例えば、ヘキサン)、又はアルキルカーボネート(例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、又はジプロピルカーボネート)のうちの一又は複数である。
【0064】
方法200は、コートされた鉄粒子を乾燥させることを含む(ブロック210)。乾燥は、ろ布、タオルを用いて、及び/又は圧縮空気/不活性ガスによって、実施することができる。不活性ガスは、窒素及び/又はアルゴンを含む。乾燥は、コートされた鉄粒子を室温又は高温で硬化させることにより、代替的に又は追加的に実施することができる。少なくとも一つの態様では、方法は、約10℃から約150℃、例えば約20℃から約100℃、例えば約30℃から約70℃、例えば約40℃から約50℃の温度で粒子を硬化させることにより、コートされた鉄粒子を乾燥させることを含む。硬化は、約15分から約72時間の期間にわたって実施することができる。
【実施例】
【0065】
実施例1:
材料
1.2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMcT)、分子量:150.232g/mol(Acros社)。
2.Vanlube829 、871及び972MをRT Vanderbiltから入手した。
3.カルボニル鉄粉(CIP)HQ をBASFから入手した。
【0066】
ローラーミル試料の調製DMcT-CIP:
3グラムのDMcTを、150.85グラムの脱気したイソプロパノール(密度0.786g/cm3)に溶解し、2.0wt.%又は0.104Mの溶液を得た。CIPの分散液を、表1に記載のようにして、小ガラスバイアル中において調製した。すべての溶液を窒素で脱気した。バイアルを三日間にわたりローラーミルを用いて混合した。
【0067】
【0068】
【0069】
ミリングの後、バイアルを収容するための専用アダプターを備えたロトバップを用いてIPAをバイアルから取り出した。上記試料を、5%のNaCl(pH2.9)酢酸に対する耐食性について評価した。一枚のろ紙をバイアルの底に配置し、少量の粉末試料をろ紙の上に撒いた。次いで数滴の酸性化したNaCl溶液を試料の上に加えてろ紙を飽和させた。次いでバイアルをねじ式キャップトップでシールし、24時間反応させた。最高レートのDMcT/CIPが他の試料と比べて防食を呈することが観察された。Thinkyオービタルミキサーを用いた他の実施例及びデータは同様の結果を提供した。
【0070】
DMcT-CIPのオービタルミキサー調製
IPA中において25.33グラムのCIPを140.38グラムの0.1M DMcTと混合し、Thinkyミキサーを用いて混合した。11から15グラムの試料を混合容器から、表2に示す間隔で採取し、シールしたバイアル中に配置した。
【0071】
【0072】
試料を、0.2ミクロンのTeflonフィルターを通した真空濾過によりDMcT IPA溶液から分離し、IPAで洗浄した。一枚のろ紙を溶液で飽和させ、CIP粉末上に撒くことにより、試料を、5%のNaCl中pH2.8の酢酸に対する耐食性について試験し、コントロールと比較した。試料を、シールした容器内に配置し、目に見える腐食、即ち褐色の錆の形成を、24時間の曝露後に試料間で比較した。
【0073】
VL829-CIPのオービタルミキサー調製
5.96グラムのVanlube829(VL829)(F.W.=298.48)を、200mlの1M水酸化アンモニウム中に分散させ、1.0M溶液を得た。この溶液を加熱して沸騰させた。10分後、溶液は暗黄色から極めて明るい黄色に変色した。溶液を1ミクロンの真空フィルターに通し、未溶解材料をすべて除去した(存在したとしてもごくわずかであった)。24.62グラムのCIPをVL829水酸化アンモニウム溶液に加え、Thinky中において1100 RPMで、表3に示す29.5分間隔で採取された試料と混合した。表1から、DMcTとCIPとの重量比は0.11である。
【0074】
【0075】
収集された試料を沈殿させ、上澄みをデカントした。次いで湿った粉末を真空下において60℃で一晩乾燥させた。試料を、5%のNaCl中pH2.8の酢酸に対する耐食性について試験した。試料1-3は、防食にいくらかの改善を呈した。
【0076】
Vanlube871及び972Mのための音波処理方法
また、Vanlube871及び972Mを、CIPのためのコーティング配合として評価した。Vanlube972Mはポリアルキレングリコール中のチアジアゾール誘導体であり、Vanlube871は2,5,ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールアルキルカルボン酸塩である。この場合、両材料を、CIP及びイソプロパノールを用いて分散させ、表4に記載のように音波処理した。
【0077】
【0078】
コートされたCIPを、溶液から除去し、空気乾燥させ、耐食性について試験した。VL972MはVL871よりよい防食を呈した。
【0079】
IC 1000-CIPのオービタルミキサー調製
7.2グラムのInhibicor 1000(Wayne Pigments)を200mlの0.1M水酸化アンモニウムに混合し、15分間沸騰させた。次いでそれをローラーミル上に配置し、週末の間混合した。濾過後、白色粉末がフィルター上に残り、濾液は黄色であった。10グラムのCIPを200mlの濾液と混合し、Thinky軌道混合で1100 RPMで混合し、試料を29.5分、59分、及び88.5分において採取した。試料を濾過し、DI水ですすぎ、空気乾燥させた。次いでそれらを耐食性について評価した。結果は、試料2(59分の試料)が最高の耐食性を示すことを提示した。さらなる調査によれば、黄色の濾液がDMcTであり、白色粉末が酸化亜鉛/水酸化亜鉛である可能性が高いと思われる。つまり、この実験は、水酸化アンモニウム中におけるDMcTの効果を評価したといえる。
【0080】
実施例1
観察:
1.DMcT-CIPを、ローラーミル及びオービタルThinkyミルを用いて、IPA中DMcTの溶液から調製した。
2.IPA中での軌道混合方法を用いて調製された重量比0.11のDMcT-CIPは、酸性塩溶液に曝露されると、CIP鉄粒子の耐食性を有意に改善することが示された。
3.VL829-CIPは、水酸化アンモニウム中において軌道混合方法を用いて調製されると、限界防食性能を呈した。
4.IPAを希釈剤として使用すると、VL972Mの性能は、音波処理方法を用いたとき、VL871より高かったが、DMcTよりいくらか低かった。
5.ローラーミリング方法は、溶媒としてIPAを用いて粒子をDMcTでコートするとき、Thinky法より優れた方法であることが示された。
【0081】
さらに、
図3A、3B、及び3Cは、チオールのパッシベーションが行われていないカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。粒子は実質的に球状である。
図4A、4B、及び4Cは、DMcTでパッシベートされたカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡画像である。粒子の多くは、矩形形状であり、その他の多くは球状である。
【0082】
加えて、SEMの後方散乱した電子画像は、異なる原子数の元素及びそれらの分布により得られる組成コントラストを示している。エネルギー分散分光法(EDS)により、これら特定の元素が何かとその割合(例えば原子%)とを同定することができる。
図5Aは
図3A-3Cのカルボニル鉄粒子のSEM画像のEDSスペクトルである。
図5Aに示すように、これら粒子中の硫黄含有量はゼロである。
図5Bは、
図4A-4CのDMcTでパッシベートされた鉄粒子のSEM画像のEDSスペクトルである。
図5Bに示すように、粒子は、実質的な量の硫黄含有量を含み、これはその上に付着したチオールパッシベーション層を示す。
【0083】
実施例2:
コートされた粒子のさらなる試験を、より低いpH(3)を有し、極めてアグレッシブな試験と考えられるSO2噴霧(ASTM B117)下で実施した。腐食は観察されず、粒子パックは磁気感受率を示した。
【0084】
実施例3:
コートされたCIP粒子をポリウレタンコーティングへと製剤化した。試験は、500時間にわたり標準の塩水噴霧キャビネット内でポリカーボネート上に配置されたこのコーティング上で実行した。このようなパネルは腐食の兆候を示さない。このコーティングは、鉄粒子の磁気的諸特性を妨害しない。コントロールが実行され、これは失敗であった。
【0085】
実施例3
材料:
1.修飾及び非修飾CIP粉末
2.PPGポリウレタンPR1664 Base(パートB)と73008-001(パートA);10:1の重量比
3.ジメチルカーボネート(DMC)溶媒
4.3x5ポリカーボネート(PC)パネル
【0086】
実施例3
機器:
1.Thinky Mixer(連続設定)500RPMで30秒間、1000RPMで30秒間、1500RPMで30秒間
2.使い捨ての200mlのポリプロピレンカップ
【0087】
実施例3
手順(修飾及び非修飾CIPに対して):
1.200mlの使い捨てカップ中で60グラムのDMCに50グラムのパートBを溶解した。
2.上記溶液に50グラムのCIPを加えた。
3.上記プログラム1回毎にThinkyを実行した。
4.5グラムのパートAを混合分散液に加えた。
5.上記プログラム1回毎にThinkyを実行した。
6.中身を噴霧ボトルに移し、噴霧可能な粘度を達成するために必要なDMCで希釈した。
7.10のPCパネルに噴霧塗装した。製剤は、混合後直ちに噴霧された。
8.コートしたパネルを24時間空気乾燥させた。
【0088】
実施例3
観察:
図6Aは、修飾されていないカルボニル鉄粒子を有するポリウレタンコーティングでコートしたパネルの写真である。コートしたパネルを、ASTM B117に従って塩水噴霧に1000時間曝露した。
図6Aに示すように、実質的な腐食が観察される。
図6Bは、チオールでコートされた鉄粒子を有するポリウレタンコーティングでコートしたパネルの写真である。コートしたパネルを、ASTM B117に従って塩水噴霧に1000時間曝露した。
図6Aに示すように、観察可能なパネルの腐食はない。
【0089】
全体として、本発明のコートされた鉄粒子及び組成物は、腐食しづらく、パッシベーションの後もその磁気的諸特性を維持する鉄粒子を提供する。さらに、本発明のコートされた鉄粒子及び組成物は、従来のコートされた鉄粒子とは異なり、パッシベートされていない鉄粒子と比較して、均一にうまく分散する(例えば、凝集しない)。本発明のコートされた鉄粒子を形成する方法は、従来の鉄コーティング方法と比較してすべて製造時間及び費用を低減させる比較的安価な材料を用いる単純な(例えば、三工程の)方法を提供する。
【0090】
定義
用語「アルキル」は、1から約20の炭素原子を含有する、置換又は無置換の直鎖又は分岐状の非環式アルキルラジカルを含む。少なくとも一つの態様において、アルキルは、直鎖又は分岐状のC1-20アルキルを含む。C1-20アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、へプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコサニル、及びこれらの構造異性体を含む。
【0091】
用語「シクロアルキル」は、1から約20個の炭素原子を含有する、置換又は無置換の環状アルキルラジカルを含む。
【0092】
「アリール」という用語は、各環に6個までの原子からなる任意の単環式、二環式又は三環式炭素環を指し、少なくとも一つの環は、5又は6員のシクロアルキル基と縮合した炭素環芳香族基を含む、5から14個の炭素原子からなる芳香族又は芳香環系である。アリール基の例は、フェニル、ナフチル、アントラセニル又はピレニルを含むが、これらに限定されない。
【0093】
用語「アルコキシ」は、RO--であり、ここでRは、本明細書において定義されるアルキルである。アルキルオキシ、アルコキシル、及びアルコキシという用語は、互換的に使用することができる。アルコキシの例は、メトキシル、エトキシル、プロポキシル、ブトキシル、ペントキシル、ヘキシルオキシル、ヘプチルオキシル、オクチルオキシル、ノニルオキシル、デシルオキシ、及びこれらの構造異性体を含むが、これらに限定されない。
【0094】
用語「エーテル」は、二つの炭素原子を架橋する酸素原子である。
【0095】
用語「チオン」は、構造-CR2-(C=S)-CR2-によって表される部分を指し、ここで各Rは、独立に、水素、アルキル、アシル、ヘテロアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、又はヘテロシクロアルキルである。
【0096】
用語「ヘテロシクリル」は、各環に10個までの原子を有する単環式、二環式、又は三環式の環を指し、少なくとも一つの環は芳香族であり、N、O及びSから選択された環に1から4個のヘテロ原子を含む。ヘテロシクリルの非限定的な例には、ピリジル、チエニル、フラニル、ピリミジル、イミダゾリル、ピラニル、ピラゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソキサゾイル(isoxazoyl)、ピロリル、ピリダジニル、ピラジニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、ベンゾチエニル、インドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、イソインドリル、ベンゾトリアゾリル、プリニル、チアナフテニル(thianaphthenyl)、ピラジニル、アゾール、トリアゾール、チアゾール、ジチアゾール、及びチアジアゾールが含まれる。ヘテロシクリルの結合は、芳香族環を介して、又は非芳香族環若しくはヘテロ原子を含まない環を介して起こりうる。
【0097】
用語「アミノ」は、一級、二級、又は三級アミン含有ラジカルを指す。アミノラジカルの一例は-NH
2である。アミノラジカルは、R
4又はR
5(例えば、
)で置換されてもよく、ここでR
4は、例えば、シアノ、ハロアシル、アルケニルカルボニル、ヒドロキシアルケニルカルボニル、アミノアルケニルカルボニル、モノアルキルアミノアルケニルカルボニル、ジアルキルアミノアルケニルカルボニル、ハロアルケニルカルボニル、シアノアルケニルカルボニル、アルコキシカルボニルアルケニルカルボニル、アルキニルカルボニル、ヒドロキシアルキニルカルボニル、アルキルカルボニルアルケニルカルボニル、シクロアルキルカルボニルアルケニルカルボニル、アリールカルボニルアルケニルカルボニル、アミノカルボニルアルケニルカルボニル、モノアルキルアミノカルボニルアルケニルカルボニル、ジアルキルアミノカルボニルアルケニルカルボニル又はアルケニルスルホニルとすることができ;R
5は、例えば、H、アルキル又はシクロアルキルとすることができる。
【0098】
本発明の化合物には、化合物の互変異性型、幾何異性型、又は立体異性型が含まれる。化合物のエステル、オキシム、オニウム、水和物、溶媒和物及びN-オキシド形態も、本発明に含まれる。本発明は、化合物のシス-及びトランス幾何異性体(Z-及びE-幾何異性体)、R-及びS-エナンチオマー、ジアステレオマー、d-異性体、l-異性体、アトロプ異性体、エピマー、配座異性体、回転異性体、異性体の混合物、及びこれらのラセミ体を含む、そのような化合物すべてを考慮している。
【0099】
さらに、本発明は以下の条項による実施例を含む。
条項1. 約0.5ミクロンから約1000ミクロンの直径を有する鉄粒子;及び
鉄粒子上に付着したチオールコーティング
を含むコートされた鉄粒子、又はその反応生成物。
条項2. 約1ミクロンから約1000ミクロンの直径を有する、条項1のコートされた鉄粒子。
条項3. 約99wt%以上の鉄含有量を有する、条項2のコートされた鉄粒子。
条項4. チオールコーティングが約10オングストロームから約1000オングストロームの厚さを有する、条項1から3のいずれか一つのコートされた鉄粒子。
条項5. 粒子をコートする前と後での粒子の重量及び密度の差によって決定した場合、チオールでコートされた鉄粒子の総体積に基づいて、約1vol%から約10vol%のチオールコーティング含有量を有する、条項4のコートされた鉄粒子。
条項6. 粒子をコートする前と後での粒子の重量の差によって決定した場合、チオールでコートされた鉄粒子の総重量に基づいて、約1wt%から約10wt%のチオールコーティング含有量を有する、条項4のコートされた鉄粒子。
条項7. 粒子をコートする前と後での粒子の重量の差によって決定した場合、チオールコート鉄粒子の総重量に基づいて、約2wt%から約5wt%のチオールコーティング含有量を有する、条項6のコートされた鉄粒子。
条項8. 約0.5:1から約1.5:1のχs
と粒子直径との比を有する、条項1から7のいずれか一つのコートされた鉄粒子。
条項9. チオールコーティングが、複素環式チオール、ジスルフィド化合物、チオレート化合物、及びアルキルポリチオールから選択されるチオール化合物を含むか、又は同チオール化合物の反応生成物である、条項1から8のいずれか一つのコートされた鉄粒子。
条項10. チオールコーティングが、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオール、ペンタンジチオール、オクタンジチオール、ノナンジチオール、及びデカンジチオールから選択されたアルキルポリチオールを含むか、又は同アルキルポリチオールの反応生成物である、条項9のコートされた鉄粒子。
条項11. チオールコーティングが、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールである複素環式チオールを含むか、又は同複素環式チオールの反応生成物である、条項9のコートされた鉄粒子。
条項12. 条項1から11のいずれか一つのコートされた鉄粒子;及び
ポリマー又は付着促進剤
を含む、組成物、又はその反応生成物。
条項13. エポキシ、ビスマレイミド、ポリイミド、ポリアリールエーテルケトン、ゾルゲル、ポリウレタン、シリコーン、又は磁気レオロジー粒子流体から選択されるポリマーを含む、条項12の組成物。
条項14. 約0.5wt%から約10wt%のコートされた鉄粒子含有量を有する、条項13の組成物。
条項15. 表面と、前記表面上に付着した、条項12から14のいずれか一つの組成物とを含む構成要素。
条項16. 鉄粒子をパッシベートするための方法であって:
一又は複数の硫黄部分を有するパッシベーション剤を溶媒中に導入してパッシベーション溶液を形成すること;及び
約0.5ミクロンから約1000ミクロンの直径を有する鉄粒子をパッシベーション溶液と接触させて、コートされた鉄粒子を形成すること
を含む方法。
条項17. パッシベーション剤を溶媒中に導入することが、パッシベーション剤を、アルコール、アルキルカーボネート、エーテル、グリコールエーテル、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、又はこれらの混合物から選択される溶媒中に導入することを含む、条項16の方法。
条項18. パッシベーション溶液中のパッシベーション剤の濃度が約1Mから約2Mである、条項17の方法。
条項19. パッシベーション剤が、複素環式チオール、ジスルフィド化合物、チオレート化合物、及びアルキルポリチオールから選択される、条項16から18のいずれか一つの方法。
条項20. 鉄粒子をパッシベーション溶液と接触させることが、鉄粒子をパッシベーション溶液に導入して、パッシベーション剤と鉄粒子とを含む溶液を形成することを含む、条項19の方法。
条項21. パッシベーション剤と鉄粒子とを含む溶液を撹拌することをさらに含む、条項20の方法。
条項22. 鉄粒子をパッシベーション溶液に導入する前に、パッシベーション溶液を約40℃から約80℃の温度に加熱することをさらに含む、条項21の方法。
条項23. コートされた鉄粒子を濾過すること、及びコートされた鉄粒子を、約30℃から約70℃の温度で硬化させることにより乾燥させることをさらに含む、条項16から22のいずれか一つの方法。
条項24. 鉄粒子をパッシベートするための方法であって:
約0.5ミクロンから約1000ミクロンの直径を有する鉄粒子を溶媒中に導入して鉄粒子溶液を形成すること;及び
一又は複数の硫黄部分を有するパッシベーション剤を鉄粒子溶液と接触させて、コートされた鉄粒子を形成すること
を含む方法。
条項25. 鉄粒子を溶媒中に導入することが、鉄粒子を、アルコール、アルキルカーボネート、エーテル、グリコールエーテル、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、又はこれらの混合物から選択される溶媒中に導入することを含む、条項24の方法。
条項26. パッシベーション剤を鉄粒子溶液と接触させることが、パッシベーション剤を鉄粒子溶液に導入して、パッシベーション剤と鉄粒子とを含む溶液を形成することを含む、条項25の方法。
条項27. 鉄粒子溶液を、約40℃から約80℃の温度に加熱することをさらに含む、条項26の方法。
条項28. コートされた鉄粒子を濾過すること、及びコートされた鉄粒子を、約30℃から約70℃の温度で硬化させることにより乾燥させることをさらに含む、条項27の方法。
【0100】
本開示の様々な態様の説明は、例示を目的として提示されているものであり、網羅的であること、又は開示された態様に限定されることを意図していない。記載した態様の範囲及び主旨から逸脱することなく、当業者には多数の修正及び変形が明らかであろう。本明細書で使用されている用語は、市場に見られる技術に関する諸態様の原理、実際的応用若しくは技術的改善を最もよく解説するために、又は本明細書に開示された諸態様を当業者が理解できるように、選ばれたものである。以上は本発明の態様を対象としているが、本発明の他の態様及びさらなる態様が、その基本的な範囲を逸脱せずに考案可能である。