(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/28 20060101AFI20250401BHJP
C08G 63/21 20060101ALI20250401BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20250401BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20250401BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250401BHJP
【FI】
C07C67/28
C08G63/21
C07C69/54 Z
B01J31/02 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020177314
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】畑中 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】紺野 貴史
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141717(JP,A)
【文献】特開平01-025322(JP,A)
【文献】特開2002-167422(JP,A)
【文献】特開2004-341517(JP,A)
【文献】国際公開第2002/090418(WO,A1)
【文献】特開2002-241477(JP,A)
【文献】米国特許第6063957(US,A)
【文献】JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART A: POLYMER CHEMISTRY,2014年05月02日,52,2032-2039
【文献】JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART A: POLYMER CHEMISTRY ,2014年01月22日,52,1047-1054
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00- 38/74
C07B 61/00
C07C 67/28- 67/297
C07C 69/54
C08G 63/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)
【化4】
[式(2)中、R
1
は水素又はメチル基、R
2
は置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖状アルキレン基を示す]
で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物と
、炭素数4~10の環状エステル化合物とを、下記式(1)
【化1】
[式(1)中、Ar
1、Ar
2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Ar
1、Ar
2は互いに結合して(-O-P-O-)基と共に環を形成していてもよい]
で表されるリン酸ジアリールエステルの存在下で反応させる(ただし、有機酸ビスマス塩の存在下で反応させる場合を除く)、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品の製造方法であり、
前記リン酸ジアリールエステルの添加量が、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物及び前記環状エステル化合物の総量に対して10~300重量ppmであ
り、
前記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中の、下記式(4)
【化2】
[式(4)中、R
1
及びR
2
は、(2)中のものと同様である]
で表されるジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が0.4重量%以下である、
ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の製造方法により製造されるラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物を単量体成分として含む反応性オリゴマーを得る、反応性オリゴマーの製造方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の製造方法により製造されるラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物及び/又は請求項
2に記載の反応性オリゴマーを単量体成分として含む硬化性樹脂組成物を得る、硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の製造方法により得られる硬化性樹脂組成物から硬化物を形成する、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐候性、耐薬品性、耐汚染性に優れコーティングに適したアクリル系塗料が、自動車分野、家電分野、建築分野等において広く用いられている。中でも、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルとラクトン類との反応物であって、オキシアルキレン繰返し単位を有するラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルが、柔軟性の高い塗膜を形成できるモノマーとして注目されている。しかし、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルとラクトン類との反応は制御が難しく、副反応が起きて着色やゲル化が生じるという問題があった。
【0003】
上記の反応制御における問題を解消するため金属触媒等が用いられており、例えば、特許文献1には、ハロゲン化第一スズを触媒として、ε-カプロラクトンとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応物と、他のビニルモノマーとを原料とする反応性重合体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ハロゲン化第一スズを触媒として使用すると、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート同士のエステル交換により、高沸点で精製分離が困難なジ(メタ)アクリレートが副生しやすく、そのようなジ(メタ)アクリレートを含有するラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品を原料とする硬化性樹脂組成物において、ラジカル重合時に三次元架橋が生じて、粘度が著しく増大したり、ゲル化に至ってしまったりするという問題があった。
【0006】
従って、本開示の目的は、ジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が低い、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品を製造できる製造方法を提供することにある。また、本開示の別の目的は、ジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が低いラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物と環状エステル化合物とを、特定量のリン酸ジアリールエステルの存在下で反応させると、ジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が低いラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本開示は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物と環状エステル化合物とを、下記式(1)
【化1】
[式(1)中、Ar
1、Ar
2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Ar
1、Ar
2は互いに結合して(-O-P-O-)基と共に環を形成していてもよい。]
で表されるリン酸ジアリールエステルの存在下で反応させる、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品の製造方法であり、前記リン酸ジアリールエステルの添加量が、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物及び前記環状エステル化合物の総量に対して10~300重量ppmである、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品の製造方法を提供する。
【0009】
本開示は、また、下記式(4)
【化2】
[式(4)中、R
1は水素又はメチル基、R
2炭素数1~6の置換基を有していてもよいアルキレン基を示す。]
で表されるジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が0.4重量%以下である、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品を提供する。
【0010】
本開示は、また、前記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物を単量体成分として含む、反応性オリゴマーを提供する。
【0011】
本開示は、また、前記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物及び/又は前記反応性オリゴマーを単量体成分として含む、硬化性樹脂組成物を提供する。
【0012】
本開示は、また、前記硬化性樹脂組成物の硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、ジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が低いラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の製造方法は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物と環状エステル化合物とを、下記式(1)で表されるリン酸ジアリールエステルの存在下で開環付加反応させる、ジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が低いラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品の製造方法である。上記リン酸ジアリールエステルの添加量は、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物及び前記環状エステル化合物の総量に対して10~300重量ppmである。
【0015】
なお、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。また、「ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品」とは、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む混合物であって、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル組成物と同義である。
【化3】
【0016】
式(1)中、Ar1、Ar2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Ar1、Ar2は互いに結合して(-O-P-O-)基と共に環を形成していてもよい。
【0017】
上記Ar1及びAr2としては、好ましくは炭素数6~22、より好ましくは炭素数6~14のアリール基が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0018】
上記Ar1及びAr2が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素等)、炭素数1~4のアルキル基(メチル基、エチル基等)、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基(トリフルオロメチル基等)、炭素数6~14のアリール基(フェニル基、ビフェニリル基等)、炭素数1~4のアルキル基及び/又は炭素数6~14のアリール基による置換シリル基(トリフェニルシリル基、t-ブチル-ジフェニルシリル基等)、ニトロ基、炭素数1~4のアルコキシ基(エトキシ基、メトキシ基等)などが挙げられる。
【0019】
上記Ar1及びAr2が互いに結合して(-O-P-O-)基と共に形成していてもよい環としては、例えば、5~7員環が挙げられる。
【0020】
上記リン酸ジアリールエステルの具体例としては、例えば、リン酸ジフェニル、リン酸ジナフチル、リン酸ジクレジル、リン酸ジ(4-ノニルフェニル)、リン酸ジビフェニル、リン酸ジクロロフェニル等が挙げられる。中でも、リン酸ジフェニルが好ましい。
【0021】
上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物は、下記式(2)で表される。
【化4】
【0022】
式(2)中、R1は水素又はメチル基、R2は置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖状アルキレン基を示す。上記R2が有していてもよい置換基は、メチル基であることが好ましい。
【0023】
上記R2の具体例としては、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。
【0024】
上記式(2)で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0025】
上記環状エステル化合物としては、炭素数4~10の環状エステル化合物が好ましく、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、オキソカン-2-オン、η-カプリロラクトン、オキセカン-2-オン、オキサシクロウンデカン-2-オン等が挙げられる
【0026】
上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中の、下記式(3)で表されるラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物の含有量は、好ましくは99.0重量%以上、より好ましくは99.6重量%以上、更に好ましくは99.8重量%以上である。ここで、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物には、原料である上記ヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステル化合物も含まれるものとする。
【化5】
【0027】
式(3)中のR1及びR2は、上記式(2)中のR1及びR2と同様であり、R3は置換基を有していてもよい炭素数3~9の直鎖状アルキレン基であり、nは0.2~20の値を示す。
【0028】
上記R3が有していてもよい置換基としては、例えば、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~12のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、ハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素等)などが挙げられる。
【0029】
上記R3の具体例としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基等が挙げられ、中でも、ペンチレン基が好ましい。
【0030】
上記nは、0.2~20の値が好ましく、より好ましくは0.4~15.0、更に好ましくは0.7~12.0の値である。上記nが上記範囲内であると、粘度が高過ぎず扱いやすく、かつ上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品を原料とする硬化物において柔軟性が得られやすい傾向がある。上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ラクトン化合物の開環付加重合を利用して合成するため分子量分布を持つ。そのため上記nの値は平均値である。
【0031】
上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品が含有するラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の含有物としては、例えば、下記のジ(メタ)アクリレート化合物や、原料のヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物等が挙げられる。
【0032】
上記製造方法において、上記リン酸ジアリールエステルの添加量は、例えば、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物及び上記環状エステル化合物の総量に対して10~300重量ppmであり、好ましくは50~250重量ppm、より好ましくは100~200重量ppmである。添加量が上記範囲内であると、十分な触媒効果を得ることができ、かつ副反応が抑制されやすくなる。
【0033】
上記製造方法において、上記環状エステル化合物に対する上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物のモル比(環状エステル化合物/ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物)は、上記環状エステル化合物について、求める開環付加数の程度に応じて変更することができ、例えば、1.0~20.0が好ましく、より好ましくは1.0~15.0、更に好ましくは1.0~12.0である。
【0034】
上記製造方法において、原料である上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物のラジカル重合を抑制するために、遊離基抑制剤を併用してもよい。上記遊離基抑制剤としては、例えば、置換フェノール類(4-メトキシフェノール等)、キノン類(ヒドロキノン、ベンゾキノン、モノメチルヒドロキノン等)などが挙げられる。上記抑制剤の添加量は、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物と上記環状エステル化合物の総量100重量部に対して、0.01~0.20重量部が好ましく、より好ましくは0.03~0.15重量部である。
【0035】
上記製造方法は、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物のアクリル二重結合の重合を抑制するために、酸素雰囲気下で行ってもよい。
【0036】
上記製造方法において、反応溶液の粘度を調製するために、上記環状エステル化合物及び上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物に対して不活性な溶媒を添加してもよい。上記溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、脂肪族炭化水素類(石油エーテル等)などが挙げられる。
【0037】
上記製造方法における反応温度は、85~110℃が好ましく、より好ましくは90~105℃、更に好ましくは95~100℃である。
【0038】
上記製造方法における反応終点は、反応温度や触媒添加量等によって変化し特に限定されないが、例えば、反応溶液をガスクロマトグラフィー等で分析し、上記環状エステル化合物の残量が、1重量%未満となったときとすることができる。反応時間は、通常、3~20時間が好ましく、より好ましくは5~12時間である。
【0039】
上記製造方法は、原料を反応容器に投入し、撹拌、混合しながら加熱することによって行うことができる。原料の混合は、例えば、上記反応容器に投入する前に一括で行ってもよいし、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物や上記リン酸ジアリールエステル等を上記反応容器に投入してから上記環状エステル化合物を滴下等により添加する態様で行ってもよい。
【0040】
上記製造方法は、公知の反応装置(攪拌槽式、充填塔のような流通式、流動床式等)を用い、回分(バッチ)式、半回分式、連続式等の何れの形式により行うことができる。
【0041】
上記製造法により、下記式(4)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が、好ましくは0.4重量%以下、より好ましくは0.3重量%、更に好ましくは0.2重量%以下である、上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品を製造することができる。
【化6】
【0042】
式(4)中のR1及びR2は、上記式(2)中のR1及びR2と同様である。
【0043】
すなわち、本開示のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品は、上記式(4)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物を、好ましくは0.4重量%以下、より好ましくは0.3重量%、更に好ましくは0.2重量%以下含有する。
【0044】
上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品は、上記ジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が少ないため、上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物を単量体成分として含む反応性オリゴマーや、上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物及び/又は上記オリゴマーを単量体成分として含む硬化性樹脂組成物において三次元架橋の生成を抑制でき、粘度の著しい増大やゲル化を低減することができる。そのため、上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品は、上記反応性オリゴマーや上記硬化性樹脂組成物の原料として好適に用いることができる。
【0045】
本開示の反応性オリゴマーとしては、例えば、上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物とポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応物であるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーや、上記ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物製品中のラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物と(メタ)アクリロイル基含有化合物との反応物である(メタ)アクリルポリオール等が挙げられる。
【0046】
本開示の硬化性樹脂組成物は、粘度の著しい増大やゲル化を低減できるため、均一性の高い成形体を形成することができることから、例えば、塗料として好適に用いられる。
【0047】
本開示の硬化性樹脂組成物の硬化物は、例えば、被塗物(基板)の硬化塗膜として用いることができる。上記硬化性樹脂組成物を被塗物(基板)に塗装する塗装方法としては、スプレー塗装、刷毛塗り塗装、浸漬塗装、ロール塗装、流し塗装等が挙げられる。
【0048】
上記被塗物としては、例えば、建設材料(化粧板等)、日用品(食器等)や電気機器部品(接続器、転換器、配電盤、絶縁碍子等)などの用途に用いられるものであって特に限定されないが、例えば、木、金属、ガラス、布、プラスチック、発泡体等が挙げられる。硬化塗膜の厚さは、例えば、10~80μmが好ましい。
【0049】
以上、本開示の各構成及びそれらの組合せ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換及び変更が可能である。また、本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0051】
以下、実施例1、2、比較例1、2において、ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造に関する実施例を示す。
【0052】
反応液中のε-カプロラクトン濃度、及び、得られたラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるジ(メタ)アクリレート化合物の含有量の測定は、ガスクロマトグラフィーを用いて以下の条件で行った。
【0053】
(ガスクロマトグラフィー測定条件)
・装置:GC2014((株)島津製作所製)
・オートサンプラー:AOC-20i+s((株)島津製作所製)
・キャピラリカラム: HP-5MS(Agilent Technologies社製)、カラム長30m、カラム内径0.25mm、膜厚0.25μm
・試料注入量:0.5μL
・注入口温度:180℃
・検出器温度:280℃/FID
・オーブン温度:60℃ホールド(5min)、昇温(5℃/min)、190℃ホールド(0min)、昇温(40℃/min)、280℃ホールド(26.75min)
・スプリット比:50
・キャリアガス:Heガス、1.0ml/min、線速度制御
・定量法:内部標準法
・内部標準:Di-n-propyl succinate(98%、Alfa Aesar社製)
【0054】
(実施例1)
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの五ツ口フラスコに、2-ヒドロキシエチルアクリレート4.3mol(495.7g)、ε-カプロラクトン4.3mol(504.4g)、4-メトキシフェノール0.5g、リン酸ジフェニル(DPP)0.2g(2-ヒドロキシエチルアクリレートとε-カプロラクトンの総量に対して200重量ppm)を加え、7%O2雰囲気下で、100℃に加熱しつつ撹拌した。
【0055】
ε-カプロラクトン濃度が1%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン変性ヒドロキシエチルアクリル酸エステルを得た。ジアクリレート化合物の含有量は0.17重量%であった。
【0056】
(実施例2)
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの五ツ口フラスコに、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート4.1mol(467.2g)、ε-カプロラクトン4.1mol(532.8g)、4-メトキシフェノール0.5g、リン酸ジフェニル(DPP)0.2g(2-ヒドロキシエチルメタクリレートとε-カプロラクトンの総量に対して200重量ppm)を加え、7%O2雰囲気下で、100℃に加熱しつつ撹拌した。
【0057】
ε-カプロラクトン濃度が1%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリル酸エステル化合物を得た。ジメタクリレート化合物の含有量は0.11重量%であった。
【0058】
(比較例1)
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの五ツ口フラスコに、開始剤としての2-ヒドロキシエチルアクリレート4.3mol(495.7g)、環状エステルとしてのε-カプロラクトン4.3mol(504.4g)、4-メトキシフェノール5g、塩化スズ(II)0.05g(2-ヒドロキシエチルアクリレートとε-カプロラクトンの総量に対して50重量ppm)を加え、7%O2雰囲気下で、115℃に加熱しつつ撹拌した。
【0059】
ε-カプロラクトン濃度が1%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン変性ヒドロキシエチルアクリル酸エステルを得た。ジアクリレート化合物の含有量は1.36重量%であった。
【0060】
(比較例2)
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度調節器を備えた1リットルの五ツ口フラスコに、開始剤としての2-ヒドロキシエチルメタアクリレート4.1mol(467.2g)、環状エステルとしてのε-カプロラクトン4.1mol(532.8g)、4-メトキシフェノール5g、塩化スズ(II)0.05g(2-ヒドロキシエチルメタクリレートとε-カプロラクトンの総量に対して50重量ppm)を加え、7%O2雰囲気下で、115℃に加熱しつつ撹拌した。
【0061】
ε-カプロラクトン濃度が1%未満になったところで反応液を冷却して反応を停止して、ラクトン重合体4を得た。ジメタクリレート化合物の含有量は0.69重量%であった。
【0062】
実施例1、2に示したように、リン酸ジフェニルを用いて製造したラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル化合物は、ジメタクリレート化合物の含有量について0.17重量%、0.11重量%と、何れも低いものであった。一方、塩化スズ(II)を用いた比較例1、2については、何れもジメタクリレート化合物の含有量が多いものであった。