(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】血液特性評価装置、血液特性評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/86 20060101AFI20250401BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20250401BHJP
G01N 21/53 20060101ALI20250401BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
G01N33/86
G01N33/48 K
G01N21/53 Z
G01N21/59 Z
(21)【出願番号】P 2021019068
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 耕平
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 智生
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-521738(JP,A)
【文献】特開平10-332705(JP,A)
【文献】特開2007-017207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料
と、前記血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料とに発泡現象を生じさせる制御部と、
前記血液試料中の発泡状態
と前記混合試料中の発泡状態とをそれぞれ計測する計測部と、
前記血液試料中の発泡状態
と前記混合試料中の発泡状態との計測結果に基づいて、前記血液試料の凝固傾向を示す
単一の指標を算出する算出部と
を備える、血液特性評価装置。
【請求項2】
前記制御部は、
第1の流路及び第2の流路に前記血液試料を流入させ、
第3の流路に前記血液凝固関連因子を流入させ、
前記第1の流路を流れる前記血液試料と、前記第2の流路と前記第3の流路とが合流した第4の流路を流れる前記混合試料とに前記発泡現象を生じさせる、請求項
1に記載の血液特性評価装置。
【請求項3】
前記計測部は、前記第1の流路を流れる前記血液試料中の発泡状態と、前記第4の流路を流れる前記混合試料中の発泡状態とを略同時に計測する、請求項
2に記載の血液特性評価装置。
【請求項4】
前記制御部は、
第1の流路に前記血液試料を流入させ、
第2の流路に前記血液凝固関連因子を流入させ、
前記第1の流路を流れる前記血液試料と、前記第1の流路と前記第2の流路とが合流した第3の流路を流れる前記混合試料とに前記発泡現象を生じさせる、請求項
1に記載の血液特性評価装置。
【請求項5】
前記制御部は、複数の前記第2の流路それぞれに前記血液凝固関連因子を流入させ、前記第1の流路と、1又は複数の前記第2の流路とが合流した複数の前記第3の流路を流れる複数の前記混合試料それぞれに前記発泡現象を生じさせる、請求項
4に記載の血液特性評価装置。
【請求項6】
前記血液凝固関連因子は、ヘパリンである、請求項
1~5のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項7】
前記制御部は、熱エネルギーの付加によって前記発泡現象を生じさせる、請求項1~
6のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項8】
前記算出部は、前記計測結果と、前記血液試料中の血球数とに基づいて、前記指標を算出する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項9】
前記制御部は、血球数を所定の値に調整した後の前記血液試料に前記発泡現象を生じさせる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項10】
前記制御部は、撹拌後の前記血液試料に前記発泡現象を生じさせる、請求項1~
9のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項11】
前記計測部は、前記血液試料中の発泡状態を計測するとともに、当該発泡状態の計測結果から外れ値を除外し、
前記算出部は、外れ値を除外した後の前記計測結果に基づいて、前記指標を算出する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項12】
前記指標を表示させる出力部を更に備え、
前記出力部は、前記指標とともに、当該指標の誤差範囲を表示させる、請求項1~
11のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項13】
前記計測部は、前記発泡状態として、気泡サイズを計測する、請求項1~
12のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項14】
前記計測部は、前記発泡現象が生じている領域の画像、当該領域の透過光量、又は、当該領域からの反射光量に基づいて前記気泡サイズを計測する、請求項
13に記載の血液特性評価装置。
【請求項15】
前記計測部は、前記透過光量又は前記反射光量の経時的変化に基づいて前記気泡サイズを計測する、請求項
14に記載の血液特性評価装置。
【請求項16】
前記計測部は、前記発泡状態として、発泡による吐出特性を計測する、請求項1~
14のいずれか一項に記載の血液特性評価装置。
【請求項17】
血液試料
と、前記血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料とに発泡現象を生じさせ、
前記血液試料中の発泡状態
と前記混合試料中の発泡状態とをそれぞれを計測し、
前記血液試料中の発泡状態
と前記混合試料中の発泡状態との計測結果に基づいて、前記血液試料の凝固傾向を示す
単一の指標を算出する
ことを含む、血液特性評価方法。
【請求項18】
血液試料
と、前記血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料とに発泡現象を生じさせ、
前記血液試料中の発泡状態
と前記混合試料中の発泡状態とをそれぞれを計測し、
前記血液試料中の発泡状態
と前記混合試料中の発泡状態との計測結果に基づいて、前記血液試料の凝固傾向を示す
単一の指標を算出する
各処理をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、血液特性評価装置、血液特性評価方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の血液の特性を評価し、治療計画の立案や手技の策定等に利用する技術が知られている。例えば、患者によっては、人工心肺装置を使用した手技において凝固・線溶異常が生じたり、薬剤溶出ステント(Drug-Eluting Stent:DES)留置術において急性の血栓が形成されたりする場合があるが、血液の特性を評価することによって事前に対応を検討することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、血液の特性を評価するための新たな手法を提供することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の血液特性評価装置は、制御部と、計測部と、算出部とを備える。制御部は、血液試料に発泡現象を生じさせる。計測部は、前記血液試料中の発泡状態を計測する。算出部は、前記血液試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、前記血液試料の凝固傾向を示す指標を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る血液特性評価装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る流路の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る処理回路の処理の概要を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る血液試料の特性評価の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る血液特性評価装置の処理回路による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係る流路の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照しながら、血液特性評価装置、血液特性評価方法及びプログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る血液特性評価装置1の構成例を示す図である。例えば、血液特性評価装置1は、メモリ11と、処理回路12と、光源13と、カメラ14と、顕微鏡15と、試料ホルダ16aとを含む。
【0009】
メモリ11は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ11は、血液特性評価装置1に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。
【0010】
処理回路12は、制御機能12a、計測機能12b、算出機能12c及び出力機能12dを実行することで、血液特性評価装置1全体の動作を制御する。制御機能12aは、制御部の一例である。計測機能12bは、計測部の一例である。算出機能12cは、算出部の一例である。出力機能12dは、出力部の一例である。
【0011】
例えば、処理回路12は、制御機能12aに対応するプログラムをメモリ11から読み出して実行することにより、試料ホルダ16aに設けられた流路内における血液試料の流れを制御する。また、制御機能12aは、血液試料に発泡現象を生じさせる。また、処理回路12は、計測機能12bに対応するプログラムをメモリ11から読み出して実行することにより、光源13、カメラ14及び顕微鏡15の動作を制御して、血液試料中の発泡状態を計測する。また、処理回路12は、算出機能12cに対応するプログラムをメモリ11から読み出して実行することにより、発泡状態の計測結果に基づいて、血液試料の特性を評価する。また、処理回路12は、出力機能12dに対応するプログラムをメモリ11から読み出して実行することにより、算出機能12cによる評価結果を出力する。制御機能12a、計測機能12b、算出機能12c及び出力機能12dによる処理の詳細は後述する。
【0012】
光源13、カメラ14及び顕微鏡15は、血液試料中の発泡状態を計測するための計測装置の一例である。なお、
図1はあくまで一例であり、血液試料中の発泡状態の計測方法については種々の変形が可能である。
【0013】
光源13は、カメラ14による撮影を補助するための発光装置である。例えば、光源13は、処理回路12による制御の下、カメラ14による撮影時に発光するエレクトロニックフラッシュ(Electronic Flash)装置である。
【0014】
カメラ14は、試料ホルダ16aにおける血液試料を撮影する。具体的には、カメラ14は、処理回路12による制御の下、血液試料のうち発泡現象が生じている領域の画像を撮影する。なお、発泡現象が生じている領域について複数フレームの画像を連続的に撮影してもよい。即ち、カメラ14は、動画像を撮影してもよい。また、血液特性評価装置1は、カメラ14として、高速度カメラ(ハイスピードカメラ)を備えてもよい。
【0015】
例えば、光源13を発泡タイミングと同期して発光することで、発泡をカメラ14により撮影することが出来る。この際、発泡から消泡までのプロセスにおける任意のタイミングを撮影するために、光源13の発光タイミングに任意の遅延時間(ディレイ)を加えてもよい。また、発泡のタイミングに合わせて連続的に光源13を発光させ、複数の発泡状態を連続的にカメラ14で撮影してもよい。
【0016】
顕微鏡15は、血液試料のうち発泡現象が生じている領域を光学的に拡大する。カメラ14は、顕微鏡15を通して撮影を行なうことにより、発泡現象が生じている領域の拡大画像を撮影することができる。
【0017】
図1に示す血液特性評価装置1においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ11へ記憶されている。処理回路12は、メモリ11からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、プログラムを読み出した状態の処理回路12、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。
【0018】
なお、
図1においては単一の処理回路12にて、制御機能12a、計測機能12b、算出機能12c及び出力機能12dが実現するものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路12を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路12が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。また、処理回路12は、ネットワークを介して接続された外部装置のプロセッサを利用して機能を実現することとしてもよい。例えば、処理回路12は、メモリ11から各機能に対応するプログラムを読み出して実行するとともに、血液特性評価装置1とネットワークを介して接続されたサーバ群(クラウド)を計算資源として利用することにより、
図1に示す各機能を実現する。
【0019】
以上、本実施形態に係る血液特性評価装置1の構成例について説明した。かかる構成の下、血液特性評価装置1は、血液の特性を評価するための新たな手法を提供する。
【0020】
具体的には、制御機能12aは、血液試料に発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、血液試料中の発泡状態を計測する。また、算出機能12cは、計測結果に基づいて血液試料の特性を評価する。ここで、発泡現象は、血液試料における粘弾性や表面張力、組成といった特性の違いに敏感である。従って、処理回路12は、発泡状態を計測することで血液試料の特性を精度良く評価することができる。また、処理回路12は、煩雑な工程を要することなく、血液試料の特性を簡便に評価することができる。
【0021】
まず、制御機能12aによる血液試料の制御について
図2を用いて説明する。
図2は、第1の実施形態に係る流路の構成例を示す図である。制御機能12aは、
図2に示す流路内で血液試料を流れさせるとともに、血液試料の一部において発泡現象を生じさせる。
【0022】
図2に示すように、試料ホルダ16aは、血液試料を流れさせるための流路を有する。具体的には、試料ホルダ16aは、血液試料を流れさせるための流路として、表面に設けられた溝や、トンネル状の内部空間、管などを有する。例えば、試料ホルダ16aには、フォトリソグラフィ(Photolithography)やエッチング、レーザー加工、切削等の機械加工、鋳造、3Dプリンタといった手法によって流路が設けられる。試料ホルダ16aの材料については特に限定されるものではないが、少なくとも血液試料に発泡現象を生じさせる部位の付近では、透過率の高い材料であることが望ましい。例えば、試料ホルダ16aは、血液試料に発泡現象を生じさせる部位の付近をガラスや、PMMA(Polymethyl Methacrylate)等のアクリル樹脂を用いて作製してもよい。透過率の高い材料を用いることで、後述の発泡現象の計測を光学的に行なうことが出来る。
【0023】
例えば、制御機能12aは、血液試料を、
図2に示す流路F11に流入させる。なお、血液試料は、患者から採取された未処理の血液であってもよいし、処理済みの血液であってもよい。処理済みの血液とは、例えば、血球を除去した血液(血漿)等である。
【0024】
一例を挙げると、血液試料は、シリンジとプランジャを備えた注射筒(図示せず)の中に保管される。この場合、制御機能12aは、シリンジに対するプランジャの動作を制御することで、流路F11に流入させる血液試料の流量や流速を制御することができる。
【0025】
なお、制御機能12aは、流路F11に流入させる前に、血液試料に対する前処理を行なってもよい。例えば、制御機能12aは、流路F11に流入させる前に、血液試料における血球数を所定の値に調整する。一例を挙げると、制御機能12aは、任意の血球計数器によって血液試料における血球数を計測し、単位体積当たりの血球数が所定の値となるように、希釈剤で希釈する。希釈剤は、特に限定されるものではないが、生理食塩水、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、あるいは、たんぱく質、糖類、カルシウム、マグネシウム、その他金属イオンなどの様々な添加剤を含む水溶液、または非水溶液であってもよい。また、血球計数機は、流路F11へ流入される前に接続される構成であってもよい。また、例えば、制御機能12aは、流路F11に流入させる前に、血液試料の撹拌を行なう。即ち、制御機能12aは、血液試料における血球の均等な分散を保つように、計測に先立って撹拌を行なう。これらの前処理により、計測条件を統一して、血液評価の精度をより向上させることが可能である。
【0026】
また、制御機能12aは、流路内での凝固を抑えるための前処理を行なってもよい。例えば、制御機能12aは、採血時等、血液試料の流入を開始する前の任意の時点で、凝固を抑えるための因子を血液試料に加える。制御機能12aは、凝固を抑えるための因子として、例えば、クエン酸ナトリウム、EDTA(Ethylene-Diamine-Tetraacetic Acid)ワルファリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、因子IIa阻害剤、因子Xa阻害剤等の抗凝固剤を用いることができる。その他、制御機能12aは、凝固を抑えるための因子として、血液凝固を阻害し、又は血液凝固を低下させる任意の因子を用いることができる。また、事前に凝固を抑えるための因子としてクエン酸ナトリウムやEDTAを用いた場合は、凝固性を回復するために、計測の手前でカルシウムを補充しても良い。
【0027】
図2に示す場合、流路F11は、流路F12と流路F13とに分岐する。即ち、流路F11を流れる血液試料は、流路F12と流路F13とに分割される。流路F12は、第1の流路の一例である。流路F13は、第2の流路の一例である。
【0028】
制御機能12aは、流路内の血液試料に発泡現象を生じさせる。例えば、制御機能12aは、試料ホルダ16aが備える加熱部位から血液試料に熱エネルギーを付加することで、発泡現象を生じさせる。例えば、試料ホルダ16aは、加熱部位として、
図2の領域R11に相当する位置にヒータH11を備える。一例を挙げると、ヒータH11は、コバルトシリサイド(CoSi2)等の電気熱変換素子である。この場合、制御機能12aは、電気熱変換素子への電力供給を制御することで血液試料の一部を沸騰させ、発泡現象を生じさせることができる。例えば、制御機能12aは、ヒータH11から血液試料に熱エネルギーを付加することで、流路F12のうち領域R11を流れる血液試料に発泡現象を生じさせる。
【0029】
より具体的には、電気熱変換素子によって加熱を行なった場合、界面において膜沸騰が発生する。即ち、血液試料が加熱限界温度に達した瞬間に、電気熱変換素子と血液試料との界面に複数の気泡が発生し、合体しながら急速に成長する。このとき、気泡内の圧力はインパルスとして作用し、発泡の瞬間には特に高い圧力となる。気泡はこの力により成長し始めるが、気泡圧力消失後も血液試料の慣性により成長しつづけるため、最大発泡時にはすでに負圧状態である。そのため、発泡から消泡までにかかる時間は短く、発泡現象が血液試料に及ぼす影響は小さい。即ち、制御機能12aは、膜沸騰によって発泡現象を生じさせることで、血液評価の精度をより向上させることができる。
【0030】
なお、熱エネルギーの付加以外の手法によって発泡現象を発生させることも可能である。例えば、
図2の領域R11に相当する位置に圧電素子を設けて超音波を発生させ、超音波による圧力変動によって発泡現象を発生させることができる。即ち、制御機能12aは、電気熱変換素子や圧電素子といった任意の発泡誘起素子を用いて、領域R11に相当する位置に発泡現象を発生させることが可能である。
【0031】
計測機能12bは、血液試料中の発泡状態を計測する。例えば、計測機能12bは、光源13、カメラ14及び顕微鏡15の動作を制御して、発泡現象が生じている領域R11の画像を撮影する。即ち、計測機能12bは、光源13を動作させて発光させている間に、顕微鏡15を通して拡大された領域R11の画像をカメラ14に撮影させる。また、計測機能12bは、撮影した領域R11の画像に基づいて発泡状態を計測する。
【0032】
一例を挙げると、制御機能12aは、電気熱変換素子にパルス電圧を印加して血液試料に発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、制御機能12aによるパルス電圧の印加後、任意の遅延時間(ディレイ)の後に領域R11の画像を撮影する。遅延時間は、例えば、電気熱変換素子へのパルス電圧の印加後、血液試料内に生じる気泡のサイズが最大となるまでの標準的な所要時間に応じて調整される。
【0033】
或いは、計測機能12bは、制御機能12aによるパルス電圧の印加後、所定の期間、カメラ14を制御して領域R11の画像を連続的に撮影してもよい。例えば、計測機能12bは、発泡のタイミングに合わせて連続的に光源13を発光させ、複数の発泡状態を連続的にカメラ14で撮影する。一例を挙げると、計測機能12bは、パルス電圧の印加によって血液試料内に気泡が発生してから消泡するまでの標準的な期間、所定のフレームレートで複数の画像を連続的に撮影する。なお、制御機能12aは、パルス電圧を連続的に複数回印加することにより、気泡の発生と消泡を繰り返すこともできる。また、計測機能12bは、パルス電圧の印加から所定のタイミングにおける発泡状態を繰り返し撮影することができる。即ち、制御機能12aは、気泡を周期的に発生及び消泡させ、計測機能12bは、この周期に同期させて光源13の発光とカメラ14の撮影を実行することにより、同位相の発泡状態を繰り返し撮影することができる。言い換えると、計測機能12bは、ストロボ撮影によるストップモーション撮影を行なうことができる。
【0034】
そして、計測機能12bは、領域R11の画像に基づいて、発泡状態を計測する。例えば、計測機能12bは、発泡状態として、領域R11に生じた気泡サイズを計測する。なお、気泡サイズは、気泡のサイズを示す情報であれば特に限定されるものではない。例えば、気泡サイズは、気泡の直径であってもよいし、周の長さであってもよいし、面積や体積、画素数などであってもよい。
【0035】
なお、画像上の気泡は必ずしも円形となるものではなく、円形に対して歪んでいる場合がある。かかる場合、計測機能12bは、例えば、気泡における長軸や短軸を特定し、長径や短径を気泡サイズとすることができる。また、領域R11の画像を複数撮影していた場合、計測機能12bは、例えば、気泡サイズが最大となる画像を特定して、特定した画像における気泡サイズを、発泡状態の計測結果として採用することができる。或いは、計測機能12bは、複数の画像それぞれに基づいて計測した気泡サイズの平均値等の統計値を、発泡状態の計測結果として採用することもできる。
【0036】
また、計測機能12bは、発泡状態の計測結果から外れ値を除外することとしてもよい。例えば、計測機能12bは、加熱を複数回繰り返して行うことにより生じた複数の気泡のそれぞれについて、または当該複数の気泡のうちのいくつかについて気泡サイズを計測する。また、電気熱変換素子を直列に、または異なる流路に並列に設け、複数の電気熱変換素子に同じタイミングで、または異なるタイミングで印加することにより、複数の気泡を発生させ、それぞれの気泡サイズを計測してもよい。そして、計測機能12bは、複数の気泡について計測した値の中から外れ値を除外する。一例を挙げると、計測機能12bは、閾値として所定の標準偏差を設定し、当該標準偏差との比較によって外れ値を特定して除外する。この場合、算出機能12cは、外れ値を除外した後の計測結果に基づいて血液試料の特性を評価することとなるため、評価の精度をより向上させることができる。
【0037】
また、
図2に示すように、制御機能12aは、血液凝固関連因子を流路F14に流入させる。血液凝固関連因子とは、血液の凝固に関連する成分又は物質である。一例を挙げると、血液凝固関連因子は、ヘパリンや、EDTA、クエン酸ナトリウム、クマリン誘導体(例えば、ワルファリンまたはジクマロール)、組織因子経路インヒビター(TFPI)、抗トロンビンIII、ループス抗凝固因子、線虫抗血液凝固ペプチド(NAPc2)、活性部位をブロックした第VIIa因子(第VIIai因子)、第IXa因子インヒビター、第Xa因子インヒビター(フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス(idraparinux)、DX-9065a、およびラザクサバン(razaxaban)(DPC906)を含む)、第Va因子および第VIIIa因子のインヒビター(活性化プロテインC(APC)および可溶性トロンボモジュリンを含む)、トロンビンインヒビター(ヒルジン、ビバリルジン、アルガトロバン、およびキシメラガトランを含む)、C1エステラーゼ阻害剤、ヘパリンコファクター2などの抗凝固因子及び凝固抑制因子;例えば、プラスミノーゲン、t-PA、プロウロキナーゼ、PAI-1、u-PAなどの線溶因子及びその阻害剤が含まれる。以下では血液凝固関連因子の一例として、ヘパリンについて説明する。例えば、制御機能12aは、血液凝固関連因子として、所定の濃度のヘパリンを含むヘパリン溶液を流路F14に流入させる。
【0038】
図2に示すように、流路F13と流路F14とは合流して流路F15となる。即ち、流路F15には、流路F13を流れる血液試料と、流路F15を流れるヘパリン溶液とが混合して流れることとなる。以下、ヘパリン溶液等の血液凝固関連因子が混合された血液試料を、混合試料とも記載する。流路F14は、第3の流路の一例である。また、流路F15は、第4の流路の一例である。なお、流路F13とF14と合流する箇所に、領域R12に至るまでに血液試料とヘパリン溶液とを十分混合できるような構成を設けてもよい。限定されるものではないが、例えば混合に十分な流路長を設けてもよいし、混合を促進させるために流路を蛇行させるなどの構成にしてもよい。
【0039】
領域R11の場合と同様、制御機能12aは、流路F15を流れる混合試料のうちの領域R12において、発泡現象を生じさせる。例えば、試料ホルダ16aは、加熱部位として、
図2の領域R12に相当する位置にヒータH12を備える。そして、制御機能12aは、ヒータH12から混合試料に熱エネルギーを付加することで、流路F15のうち領域R12を流れる混合試料に発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、混合試料中の発泡状態を計測する。例えば、計測機能12bは、発泡現象が生じている領域R12の画像を撮影し、当該画像に基づいて気泡サイズを計測する。なお、
図1においては光源13、カメラ14及び顕微鏡15から成る計測装置を1組のみ示すが、血液特性評価装置1は、領域R11及び領域R12のそれぞれに対して当該計測装置を備えることとしてもよい。
【0040】
一例を挙げると、計測機能12bは、流路F12を流れる血液試料中の発泡状態と、流路F15を流れる混合試料中の発泡状態とを略同時に計測する。具体的には、制御機能12aは、領域R11及び領域R12に対して略同時に熱エネルギーを付加し、発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、領域R11の画像と領域R12の画像とを略同時に撮影する。そして、計測機能12bは、これらの画像に基づいて、血液試料及び混合試料における略同じ時点での気泡サイズを計測することができる。
【0041】
ここで、計測機能12bは、血液凝固関連因子を変化させながら、混合試料中の発泡状態を繰り返し計測してもよい。例えば、所定の濃度のヘパリンを含む溶液を流路F14に流入させて発泡状態の計測を行なった後、制御機能12aは、ヘパリンの濃度を変化させた溶液や別種の抗凝固因子を含む溶液を流路F14に流入させ、計測機能12bは、混合試料中の発泡状態の計測を再度行なう。
【0042】
例えば、計測機能12bは、
図3に示すように、血液試料中の発泡状態の計測結果X0を取得する。計測結果X0は、例えば、流路F12を流れる血液試料について計測された気泡サイズである。なお、
図3は、第1の実施形態に係る処理回路12の処理の概要を示す図である。
【0043】
また、計測機能12bは、血液試料とヘパリンとを混合した混合試料の発泡状態の計測結果を取得する。例えば、計測機能12bは、血液試料と、ヘパリンを含むヘパリン溶液L11とを混合した混合試料の発泡状態の計測結果X1を取得する。ヘパリン溶液L11は、血液試料とヘパリン溶液L11との混合試料におけるヘパリンの濃度がC1となるように、ヘパリンの濃度や流量が調整される。次に、計測機能12bは、血液試料と、ヘパリンを含むヘパリン溶液L12とを混合した混合試料の発泡状態の計測結果X2を取得する。ヘパリン溶液L12は、血液試料とヘパリン溶液L12との混合試料におけるヘパリンの濃度がC2となるように、ヘパリンの濃度や流量が調整される。次に、計測機能12bは、血液試料と、ヘパリンを含むヘパリン溶液L13とを混合した混合試料の発泡状態の計測結果X3を取得する。ヘパリン溶液L13は、血液試料とヘパリン溶液L13との混合試料におけるヘパリンの濃度がC3となるように、ヘパリンの濃度や流量が調整される。なお、濃度C2は濃度C1より高い濃度であり、濃度C3は濃度C2より高い濃度である。そして、算出機能12cは、計測結果X0~X3に基づいて血液試料の特性を評価する。
【0044】
ここで、算出機能12cによる血液試料の特性評価の処理について、
図4を用いて説明する。
図4は、第1の実施形態に係る血液試料の特性評価の一例を示す図である。
図4においては、血液試料の例として、患者P1から採取された血液B1と患者P2から採取された血液B2との2例を示す。また、
図4の横軸はヘパリンの濃度を示す。また、
図4の縦軸は計測された気泡サイズを示す。
【0045】
図4の横軸において、ヘパリン「無し」は、計測結果X0を示す。即ち、ヘパリン「無し」は、流路F12を流れる血液試料について計測された気泡サイズである。また、ヘパリン「C1」は、ヘパリンの濃度がC1となるようにヘパリン溶液L11と血液試料とを混合した混合試料の発泡状態を計測した計測結果X1である。また、ヘパリン「C2」は、ヘパリンの濃度がC2となるようにヘパリン溶液L12と血液試料とを混合した混合試料の発泡状態を計測した計測結果X2である。また、ヘパリン「C3」は、ヘパリンの濃度がC3となるようにヘパリン溶液L13と血液試料とを混合した混合試料の発泡状態を計測した計測結果X3である。なお、流路内での凝固を抑えるための前処理として血液試料にヘパリンを加えていた場合には、前処理で加えたヘパリンの量を加味して、
図4のプロットを行なってもよい。
【0046】
図4に示すように、血液B1と血液B2とでは、ヘパリンに対する応答性が異なっている。即ち、血液B1は、ヘパリンの濃度の増加に伴って気泡サイズが増加する傾向が大きい。ここで、液体の粘弾性が高くなるほど気泡サイズは小さくなるところ、血液B1は、ヘパリンの濃度の増加に伴って粘弾性が低下する傾向が大きく、凝固傾向が高い血液であるといえる。一方、血液B2は、ヘパリンの濃度に対して発泡サイズの変化が小さく、凝固傾向が低い血液であるといえる。
【0047】
算出機能12cは、このようなヘパリンに対する応答性に基づいて、各血液試料の特性を評価することができる。例えば、算出機能12cは、
図4に示した血液B1のプロット(散布図)について回帰式を求め、その傾きを算出する。同様に、算出機能12cは、血液B2のプロットについて回帰式の傾きを算出する。このような回帰式の傾きは、血液試料の凝固傾向を示す指標の一例である。
【0048】
ここで、算出機能12cは、各血液試料における血球数を考慮して、血液試料の特性を評価してもよい。例えば、算出機能12cは、発泡状態の計測結果と、血液試料中の血球数とに基づいて、血液試料の凝固傾向を示す指標する。
【0049】
例えば、算出機能12cは、まず、ヘパリンの濃度と気泡サイズとの間の回帰式における傾きを算出する。そして、算出機能12cは、算出した傾きを血球数に応じて補正した値を、血液試料の凝固傾向を示す指標として算出する。例えば、一般に、血球数が多いほど血液は高粘度になることが知られている。従って、ヘパリンに対する応答性が同程度であれば、血球数が多いほど血流は滞りやすく、凝固に至る可能性も高いと言える。従って、算出機能12cは、回帰式から算出した傾きを血球数が多いほど高くなるように補正した値を、血液試料の凝固傾向を示す指標として算出する。
【0050】
出力機能12dは、算出機能12cによる評価結果を出力する。例えば、出力機能12dは、血液特性評価装置1に接続された表示装置において、評価結果の表示を行なう。なお、表示装置とは、例えば、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、タッチパネル等のディスプレイである。例えば、出力機能12dは、算出機能12cによって算出された回帰式の傾きを示す数値やグラフ等を表示させる。
【0051】
なお、出力機能12dは、評価結果の表示を行なうとともに、誤差範囲の表示を行なってもよい。例えば、出力機能12dは、ヘパリンの濃度と気泡サイズとの間の回帰式における傾きを、算出機能12cによる評価結果として表示させる。更に、出力機能12dは、当該傾きについての誤差範囲を表示させる。この場合、誤差範囲は、例えば、
図4に示したような複数のプロットを回帰式で近似する際に生じる誤差の大きさに応じて算出することができる。出力機能12dは、誤差範囲をエラーバー等によって図示してもよいし、テキストとして表示してもよい。
【0052】
また、出力機能12dは、表示を行なう場合の他にも、種々の態様で算出機能12cによる評価結果の出力を行なうことができる。即ち、出力機能12dは、算出機能12cによる評価結果を、直接的又は間接的に医師等のユーザに提供する。例えば、出力機能12dは、プロジェクタを制御して、算出機能12cによる評価結果を任意の平面上に投影してもよい。また、出力機能12dは、評価結果をプリントアウトしてもよい。また、出力機能12dは、評価結果を音声等によってユーザに通知してもよい。また、出力機能12dは、評価結果を外部サーバに送信して保存させてもよい。一例を挙げると、出力機能12dは、評価結果をHIS(Hospital Information System)等のシステム上に登録する。この場合、ユーザは、システムに任意にアクセスし、評価結果を参照することができる。
【0053】
次に、血液特性評価装置1において行なわれる一連の処理の概要について、
図5を用いて説明する。
図5は、第1の実施形態に係る血液特性評価装置1の処理回路12による処理の一例を示すフローチャートである。ステップS101、ステップS102、ステップS104、ステップS105は、制御機能12aに対応する。ステップS103は、計測機能12bに対応する。ステップS106は、算出機能12cに対応する。ステップS107は、出力機能12dに対応する。
【0054】
まず、処理回路12は、試料ホルダ16aの流路に対する血液試料及びヘパリンの流入を開始する(ステップS101)。例えば、処理回路12は、流路F11への血液試料の流入と、流路F14へのヘパリンの流入とを略同時に開始する。
【0055】
次に、処理回路12は、各試料に発泡現象を生じさせる(ステップS102)。例えば、処理回路12は、流路F12を流れる血液試料に対し熱エネルギーを付加して、発泡現象を生じさせる。また、処理回路12は、流路F15を流れる混合試料に対し熱エネルギーを付加して、発泡現象を生じさせる。
【0056】
次に、処理回路12は、発泡状態を計測する(ステップS103)。例えば、処理回路12は、光源13、カメラ14及び顕微鏡15を制御することにより、発泡現象が生じている領域の画像を撮影する。例えば、処理回路12は、
図2に示した領域R11及び領域R12の画像を撮影する。また、処理回路12は、撮影した画像に基づいて、気泡サイズを計測する。
【0057】
次に、処理回路12は、計測を継続するか否かを判定し(ステップS104)、継続する場合には(ステップS104肯定)、ヘパリンの濃度を変更して(ステップS105)、再度ステップS102に移行する。例えば、処理回路12は、ヘパリン溶液L11を流路F14に流入させて計測を行なった後、流路F14に流入させる試料をヘパリン溶液L12に変更して、再度ステップS102に移行する。
【0058】
一方で計測を継続しない場合(ステップS104否定)、処理回路12は、発泡状態の計測結果に基づいて、血液試料の特性を評価する(ステップS106)。例えば、処理回路12は、ヘパリンの濃度と気泡サイズとの間で回帰式を求め、当該回帰式の傾きを、血液試料の凝固傾向を示す指標として算出する。そして、処理回路12は、血液試料の評価結果を出力して、処理を終了する(ステップS107)。
【0059】
上述したように、第1の実施形態によれば、制御機能12aは、血液試料に発泡現象を生じさせる。また、制御機能12aは、血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料に発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、血液試料中の発泡状態と混合試料中の発泡状態とをそれぞれ計測する。また、算出機能12cは、血液試料中の発泡状態と混合試料中の発泡状態との計測結果に基づいて、血液試料の特性を評価する。即ち、第1の実施形態に係る血液特性評価装置1は、血液の特性を評価するための新たな手法を提供する。
【0060】
ここで、発泡現象は、血液試料の特性の違いに敏感であるところ、血液特性評価装置1は、発泡状態の計測結果に基づいて血液試料の特性を精度良く評価することができる。また、
図5に示したように、血液試料の特性を評価するまでに時間のかかる工程は必要とされず、また、製造コストのかかる特殊な計測装置なども必要とされない。即ち、血液特性評価装置1は、血液試料の特性を簡便に評価することができる。
【0061】
血液の評価するための他の手法としては、ピエゾ抵抗素子の電気抵抗の変化をとらえる手法が知られている。即ち、ピエゾ抵抗素子のような可撓性要素の撓みを電気抵抗として検出することにより、血液試料の粘弾性等を評価することが可能である。しかしながら、かかる手法において計測対象となる物理的な変異量は微小であり、計測は容易ではない。例えば、かかる手法を実現するためには、微細かつ複雑な構成を有するプローブが必要とされる。また、プローブそのものが粘弾性分布に影響するおそれもある。これに対し、第1の実施形態に係る血液特性評価装置1は、発泡状態の計測結果に基づいて血液試料の特性を精度良く評価するとともに、特殊なプローブ等を必要とすることなく簡便に評価を実行することができる。
【0062】
また、第1の実施形態によれば、算出機能12cは、血液試料の凝固傾向を示す指標を算出することにより、血液試料の特性を評価する。また、出力機能12dは、算出機能12cによって算出された指標を出力する。かかる指標の提供を受けたユーザは、例えば治療計画の立案や手技の策定において、ヘパリン等の血液凝固関連因子の使用に関する判断を行なうことができる。例えば、人工心肺装置を使用した手技や薬剤溶出ステント(DES)留置術等において、ユーザは、血液特性評価装置1による評価結果を基に、血液凝固関連因子の要否、種類、使用量等を判断することができる。
【0063】
また、
図2に示したように、制御機能12aは、第1の流路及び第2の流路に血液試料を流入させ、第3の流路に血液凝固関連因子を流入させる。また、制御機能12aは、第1の流路を流れる血液試料と、第2の流路と第3の流路とが合流した第4の流路を流れる混合試料とに発泡現象を生じさせる。従って、第1の実施形態に係る血液特性評価装置1によれば、血液試料中の発泡状態の計測と、混合試料中の発泡状態の計測とを並行して行なうことが可能である。即ち、第1の実施形態に係る血液特性評価装置1によれば、血液試料の特性をより短時間で評価することができる。
【0064】
なお、制御機能12aは、計測機能12bが発泡状態の計測を行なうタイミングに応じて、流速の制御を行なってもよい。例えば、制御機能12aは、電気熱変換素子にパルス電圧を印加して発泡現象を生じさせ、所定の遅延時間の後、流路内の流速を低下乃至は停止させる。一例を挙げると、制御機能12aは、一定の流速以下となるように、流路内の流れを制御する。また、計測機能12bは、制御機能12aが流速を低下乃至は停止させるのと略同じタイミングで、発泡状態の計測を行なう。このように、計測時に流速を低下乃至は停止させることで、気泡サイズ等の誤差を抑制し、血液試料の特性をより精度良く評価することができる。
【0065】
また、
図2では、血液試料を流入させる流路F11及び血液凝固関連因子を流入させる流路F14をそれぞれ1つずつ示したが、血液特性評価装置1は、これらの流路をそれぞれ複数備えてもよい。また、複数の流路は、任意に組み合わせて合流させることができる。そして、血液特性評価装置1は、異なる条件下における血液の特性評価を同時並行して行うことができる。例えば、血液特性評価装置1は、複数の流路F14のそれぞれに濃度や種類が異なる血液凝固関連因子を流入させるとともに、血液試料を流入させる流路F11を各流路F14に合流させる。そして、血液特性評価装置1は、複数の流路F14それぞれの下流において、異なる条件の計測を同時並行して行うことが出来る。
【0066】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、試料を流す流路として、
図2に示す一例を示した。第2の実施形態では、流路の変形例を説明する。第2の実施形態に係る血液特性評価装置1は、
図1に示した血液特性評価装置1と同様の構成を有し、試料ホルダ16aに代えて、
図2に示す試料ホルダ16bを備える点で相違する。
図6は、第2の実施形態に係る流路の構成例を示す図である。以下、第1の実施形態において説明した点については同一の符号を付して、説明を省略する。
【0067】
試料ホルダ16bは、試料ホルダ16aと同様の材料及び手法で作製することができる。例えば、制御機能12aは、
図6に示す流路F21に血液試料を流入させ、流路F21を流れる血液試料の一部に発泡現象を生じさせる。例えば、試料ホルダ16bは、加熱部位として、
図6の領域R21に相当する位置にヒータH21を備える。そして、制御機能12aは、ヒータH21から血液試料に熱エネルギーを付加することで、流路F21のうち領域R21を流れる血液試料に発泡現象を生じさせる。例えば、制御機能12aは、
図2の領域R21に相当する位置に熱エネルギーを付加することで、発泡現象を生じさせる。流路F21は、第1の流路の一例である。
【0068】
また、制御機能12aは、血液凝固関連因子を流路F22に流入させる。以下では血液凝固関連因子の一例としてヘパリンについて説明する。例えば、制御機能12aは、血液凝固関連因子として、所定の濃度のヘパリンを含むヘパリン溶液を流路F22に流入させる。流路F22は、第2の流路の一例である。
【0069】
図6に示すように、流路F21と流路F22とは合流して流路F23となる。即ち、流路F23には、流路F21を流れる血液試料と、流路F22を流れるヘパリン溶液とを混合した混合試料が流れる。流路F23は、第3の流路の一例である。領域R21の場合と同様、制御機能12aは、領域R22において混合試料に発泡現象を生じさせる。例えば、試料ホルダ16aは、加熱部位として、
図6の領域R22に相当する位置にヒータH22を備える。そして、制御機能12aは、ヒータH22から混合試料に熱エネルギーを付加することで、流路F23のうち領域R22を流れる混合試料に発泡現象を生じさせる。
【0070】
計測機能12bは、血液試料中の発泡状態と混合試料中の発泡状態とをそれぞれ計測する。例えば、計測機能12bは、発泡現象が生じている領域R21の画像を撮影し、当該画像に基づいて、血液試料中の気泡サイズを計測する。また、計測機能12bは、発泡現象が生じている領域R22の画像を撮影し、当該画像に基づいて、混合試料中の気泡サイズを計測する。
【0071】
なお、領域R21において生じた気泡は短時間で消泡する。特に、膜沸騰によって発泡現象が生じた場合、発泡から消泡までにかかる時間は短い。但し、領域R21において生じた気泡が残存して領域R22で計測されることがないように、領域R21と領域R22との間には一定の間隔を設けることが好ましい。
【0072】
ここで、処理回路12は、血液凝固関連因子を変化させながら、領域R22において、混合試料中の発泡状態を繰り返し計測することができる。例えば、所定の濃度のヘパリンを含む溶液を流路F22に流入させて発泡状態の計測を行なった後、処理回路12は、ヘパリンの濃度を変化させた溶液や別種の抗凝固因子を含む溶液を流路F22に流入させて、発泡状態の計測を再度行なう。
【0073】
或いは、処理回路12は、領域R22より下流の位置において、血液凝固関連因子を変化させた計測を行なうこともできる。例えば、制御機能12aは、流路F22に、ヘパリンを含むヘパリン溶液L21を流入させる。ヘパリン溶液L21は、血液試料とヘパリン溶液L21との混合試料におけるヘパリンの濃度がC1となるように、ヘパリンの濃度や流量が調整される。この場合、計測機能12bは、濃度C1である混合試料中の発泡状態を、領域R22において計測することができる。
【0074】
また、制御機能12aは、図示しない流路F24に、ヘパリンを含むヘパリン溶液L22を流入させる。ここで、流路F24は、流路F23と合流するように構成される。また、ヘパリン溶液L22は、流路F23を流れる混合試料とヘパリン溶液L22との混合試料におけるヘパリンの濃度がC2となるように、ヘパリンの濃度や流量が調整される。この場合、計測機能12bは、濃度C2である混合試料中の発泡状態を、流路F23と流路F24とが合流した流路F25(図示せず)において計測することができる。なお、流路F24は、第2の流路の一例である。また、流路F25は、第3の流路の一例である。
【0075】
同様に、制御機能12aは、図示しない流路F26に、ヘパリンを含むヘパリン溶液L23を流入させる。ここで、流路F26は、流路F25と合流するように構成される。また、ヘパリン溶液L23は、流路F25を流れる混合試料とヘパリン溶液L23との混合試料におけるヘパリンの濃度がC3となるように、ヘパリンの濃度や流量が調整される。この場合、計測機能12bは、濃度C3である混合試料中の発泡状態を、流路F25と流路F26とが合流した流路F27(図示せず)において計測することができる。なお、流路F26は、第2の流路の一例である。また、流路F27は、第3の流路の一例である。
【0076】
即ち、制御機能12aは、複数の第2の流路それぞれにヘパリン溶液を流入させ、第1の流路と、1又は複数の第2の流路とが合流した複数の第3の流路を流れる複数の混合試料それぞれに発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、流路F23、流路F25、流路F27といった複数の第3の流路それぞれにおいて、混合試料中の発泡状態を計測する。ここで、計測機能12bは、流路F21における血液試料中の発泡状態と、流路F23における混合試料中の発泡状態と、流路F25における混合試料中の発泡状態と、流路F27における混合試料中の発泡状態とを略同時に計測することもできる。即ち、血液特性評価装置1は、異なる条件下における血液の特性評価を同時並行して行うことができる。
【0077】
上述したように、第2の実施形態によれば、制御機能12aは、第1の流路に血液試料を流入させ、第2の流路に血液凝固関連因子を流入させる。また、制御機能12aは、第1の流路を流れる血液試料と、第1の流路と第2の流路とが合流した第3の流路を流れる混合試料とに発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、血液試料中の発泡状態と混合試料中の発泡状態とをそれぞれ計測する。
【0078】
そして、算出機能12cは、血液試料中の発泡状態と混合試料中の発泡状態との計測結果に基づいて、血液試料の特性を評価する。即ち、第2の実施形態に係る血液特性評価装置1は、血液の特性を評価するための新たな手法を提供することができる。また、第2の実施形態に係る血液特性評価装置1は、第1の実施形態の場合と同様に、血液の特性を簡便かつ精度良く評価することができる。更に、
図6に示したように、試料ホルダ16bは、試料ホルダ16aと比較してより少ない流路で構成される。即ち、第2の実施形態に係る血液特性評価装置1は、血液の特性をより簡便に評価することを可能とする。
【0079】
(第3の実施形態)
さて、これまで第1~第2の実施形態について説明したが、上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0080】
例えば、上述した実施形態では、発泡現象が生じている領域の画像に基づいて、気泡サイズを計測する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。
【0081】
一例を挙げると、計測機能12bは、発泡現象が生じている領域の透過光量に基づいて、気泡サイズを計測することができる。例えば、計測機能12bは、光源13から発泡現象が生じている領域に対して光を照射させ、カメラ14や、図示しない受光素子等を用いて透過光量を計測する。ここで、血液試料又は混合試料と比較して気泡内での光の吸収率は低いため、光の経路に大きな気泡がある場合、透過光量は増加することとなる。従って、計測機能12bは、透過光量に応じて、気泡サイズを計測することができる。
【0082】
別の例を挙げると、計測機能12bは、発泡現象が生じている領域からの反射光量に基づいて、気泡サイズを計測することができる。例えば、計測機能12bは、光源13から発泡現象が生じている領域に対して光を照射させ、カメラ14や、図示しない受光素子等を用いて反射光量を計測する。ここで、発泡現象が生じている領域からの反射光とは、血液試料又は混合試料と気泡との界面からの反射光である。即ち、光の経路に大きな気泡がある場合、界面も大きくなるため、反射光量は増加することとなる。従って、計測機能12bは、反射光量に応じて、気泡サイズを計測することができる。
【0083】
或いは、計測機能12bは、透過光量又は反射光量の経時的変化(経時的プロファイル)に基づいて、気泡サイズを計測することもできる。例えば、透過光量は、発泡の開始後に増加し始めてピークを迎えた後、次第に減少して発泡前の状態に戻る。即ち、透過光量の経時的変化において、透過光量が増加し始めてから元の値に戻るまでの時間は、発泡から消泡までの時間の長さに相当する。また、通常、気泡が大きいほど発泡から消泡までの時間は長くなる。以上より、計測機能12bは、透過光量の経時的変化を取得し、透過光量が増加し始めてから元の値に戻るまでの時間や、ピークに至るまでの時間の長さ等を計測することで、気泡サイズを計測することができる。同様に、計測機能12bは、反射光量の経時的変化に基づいて気泡サイズを計測することもできる。
【0084】
なお、透過光量又は反射光量の経時的変化は、1回の発泡に対する光量計測により取得されてもよいし、複数回の発泡に対する光量計測により取得されてもよい。前者の手法の場合、計測機能112bは、例えば、1回の発泡に対して、連続的に又は繰り返し光源13を発光させながら連続的に又は繰り返し光量計測を行うことにより、光量の経時的変化を計測する。他方、後者の手法による場合、計測機能112bは、例えば、1回の発泡に対して一又は複数回の光量計測を行う計測セットを、発泡と光量計測との間の遅延時間を変更して複数回行うことにより、光量の経時的変化を取得する。この場合、計測機能112bは、発泡と光量計測との間の遅延時間に応じて光源13を発光させることにより、光源13の発光と光量計測とのタイミングを合わせることができる。
【0085】
また、上述した実施形態では、発泡状態として、気泡サイズを計測する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、計測機能12bは、発泡状態として、気泡の形状を計測してもよい。ここで、気泡の形状と血液試料の特性との間には相関性があり、算出機能12cは、気泡形状の計測結果に基づいて、血液試料の特性を評価することができる。例えば、粘度が高いほど気泡の変形が抑制されるため、気泡が球状になりやすくなる。従って、算出機能12cは、気泡形状の計測結果に基づいて血液試料の粘度を算出することができる。
【0086】
別の例を挙げると、計測機能12bは、発泡状態として、発泡による吐出特性を計測してもよい。具体的には、制御機能12aは、ノズル等の中空の部材の中において、血液試料を加熱する。これにより、血液試料の一部が膜沸騰して部材内に圧力が生じ、血液試料が吐出される。ここで、計測機能12bは、吐出される血液試料の量や速度といった吐出特性を、発泡状態として計測する。混合試料についても同様に、発泡による吐出特性を計測することが可能である。
【0087】
また、上述した実施形態では、計測に先立って血液試料の撹拌を行なう場合について説明した。ここで、血液特性評価装置1は、まずは撹拌を行なわずに発泡状態の計測を実行し、計測結果に応じて、血液試料の撹拌の要否を判断してもよい。
【0088】
具体的には、まず、制御機能12aは、撹拌していない状態の血液試料に発泡現象を生じさせる。次に、計測機能12bは、血液試料中の発泡状態を計測する。次に、算出機能12cは、発泡状態の計測結果のばらつき(分散)を算出する。ここで、ばらつきが閾値よりも小さい場合、制御機能12aは、血液試料に対する撹拌は不要と判定する。即ち、ばらつきが閾値よりも小さい場合、算出機能12cは、撹拌していない状態の血液試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、血液試料の特性評価を実行する。かかる処理により、撹拌が不要な場合には撹拌のステップを省略し、より短い時間で血液試料の特性を評価することができる。
【0089】
一方で、ばらつきが閾値よりも大きい場合、制御機能12aは、血液試料に対する撹拌が必要と判定する。即ち、ばらつきが閾値よりも小さい場合、制御機能12aは、血液試料に対する撹拌を実行し、撹拌後の血液試料に発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、血液試料中の発泡状態を計測する。そして、算出機能12cは、撹拌後の血液試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、血液試料の特性評価を実行する。かかる処理により、計測条件が統一されていることを担保して、評価の精度をより向上させることができる。
【0090】
また、上述した実施形態では、血液試料の凝固傾向を示す指標を算出することにより、血液試料の特性を評価する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、算出機能12cは、血液試料の凝固傾向を示す指標以外の指標を算出することにより、血液試料の特性を評価してもよい。一例を挙げると、例えば、算出機能12cは、血液試料の凝固傾向を示す指標以外の指標として、血液試料の粘度や粘弾性、表面張力、組成等を算出してもよい。
【0091】
例えば、液体の粘度が高くなるほど、当該液体中に発生する気泡のサイズが小さくなることが知られている。そこで、算出機能12cは、血液試料の特性の評価結果として、気泡サイズに基づく粘度を算出することができる。
【0092】
例えば、算出機能12cは、粘度と気泡サイズとを対応付けた対応情報を事前に生成する。一例を挙げると、制御機能12aは、
図2や
図6に示した流路に、粘度が既知である任意の液体試料を流入させる。また、計測機能12bは、当該液体試料に発泡現象を生じさせる。また、算出機能12cは、液体試料中の気泡サイズを既知の粘度に対応付けて対応情報を生成し、メモリ11に記憶させる。そして、血液試料中の発泡状態の計測が行なわれた場合、算出機能12cは、メモリ11から読み出した対応情報に基づいて、血液試料の粘度を算出することができる。
【0093】
例えば、上述した実施形態では、血液試料の凝固傾向を示す指標の例として、ヘパリンの濃度と気泡サイズとの間の回帰式における傾きについて説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、算出機能12cは、ヘパリンの濃度を変化させた場合の気泡サイズについて分散値等の統計値を算出し、当該統計値を血液試料の凝固傾向を示す指標としてもよい。また、凝固傾向と気泡のサイズとの間には相関性があるところ、算出機能12cは、気泡のサイズに応じた値を血液試料の凝固傾向を示す指標として算出してもよい。
【0094】
また、上述した実施形態では、血液試料中の発泡状態の計測と、血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料中の発泡状態の計測との双方を行なう場合について説明したが、これらのいずれか一方について省略することとしても構わない。
【0095】
例えば、制御機能12aは、混合試料に発泡現象を生じさせる処理を省略し、血液試料にのみ発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、血液試料中の発泡状態を計測する。また、算出機能12cは、血液試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、血液試料の特性を評価する。例えば、算出機能12cは、気泡のサイズに応じて粘度等の指標を算出したり、血液試料の凝固傾向を示す指標を算出したりすることができる。算出機能12cは、血球数に応じたルックアップテーブルを参照することにより、当該指標を算出してもよい。
【0096】
また、例えば、制御機能12aは、血液試料に発泡現象を生じさせる処理を省略し、混合試料にのみ発泡現象を生じさせる。また、計測機能12bは、混合試料中の発泡状態を計測する。また、算出機能12cは、混合試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、血液試料の特性を評価する。例えば、算出機能12cは、気泡のサイズに応じて粘度等の指標を算出したり、血液試料の凝固傾向を示す指標を算出したりすることができる。例えば、ヘパリンの濃度を変化させた複数の混合試料について発泡状態の計測が行なわれた場合、算出機能12cは、ヘパリンの濃度と気泡サイズとの間の回帰式における傾きを算出することができる。
【0097】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、各図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0098】
また、
図1においては、単一のメモリ11が処理回路12の各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、複数のメモリ11を分散して配置し、処理回路12は、個別のメモリ11から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。また、メモリ11にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0099】
上述した実施形態に係る各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。即ち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行われる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されうる。
【0100】
また、上述した実施形態で説明した血液特性評価方法は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。このプログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な非一過性の記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0101】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、血液の特性を評価するための新たな手法を提供することができる。
【0102】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0103】
以上の実施形態に関し、発明の一側面及び選択的な特徴として以下の付記を開示する。
【0104】
(付記1)
血液試料に発泡現象を生じさせる制御部と、
前記血液試料中の発泡状態を計測する計測部と、
前記血液試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、前記血液試料の凝固傾向を示す指標を算出する算出部と
を備える、血液特性評価装置。
(付記2)
前記制御部は、前記血液試料と、前記血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料とに発泡現象を生じさせ、
前記計測部は、前記血液試料中の発泡状態と前記混合試料中の発泡状態とをそれぞれ計測し、
前記算出部は、前記血液試料中の発泡状態と前記混合試料中の発泡状態との計測結果に基づいて前記指標を算出してもよい。
(付記3)
前記制御部は、
第1の流路及び第2の流路に前記血液試料を流入させ、
第3の流路に前記血液凝固関連因子を流入させ、
前記第1の流路を流れる前記血液試料と、前記第2の流路と前記第3の流路とが合流した第4の流路を流れる前記混合試料とに前記発泡現象を生じさせてもよい。
(付記4)
前記計測部は、前記第1の流路を流れる前記血液試料中の発泡状態と、前記第4の流路を流れる前記混合試料中の発泡状態とを略同時に計測してもよい。
(付記5)
前記制御部は、
第1の流路に前記血液試料を流入させ、
第2の流路に前記血液凝固関連因子を流入させ、
前記第1の流路を流れる前記血液試料と、前記第1の流路と前記第2の流路とが合流した第3の流路を流れる前記混合試料とに前記発泡現象を生じさせてもよい。
(付記6)
前記制御部は、複数の前記第2の流路それぞれに前記血液凝固関連因子を流入させ、前記第1の流路と、1又は複数の前記第2の流路とが合流した複数の前記第3の流路を流れる複数の前記混合試料それぞれに前記発泡現象を生じさせてもよい。
(付記7)
前記血液凝固関連因子は、ヘパリンであってもよい。
(付記8)
前記制御部は、熱エネルギーの付加によって前記発泡現象を生じさせてもよい。
(付記9)
前記算出部は、前記計測結果と、前記血液試料中の血球数とに基づいて、前記指標を算出してもよい。
(付記10)
前記制御部は、血球数を所定の値に調整した後の前記血液試料に前記発泡現象を生じさせてもよい。
(付記11)
前記制御部は、撹拌後の前記血液試料に前記発泡現象を生じさせてもよい。
(付記12)
前記制御部は、撹拌していない状態の前記血液試料に前記発泡現象を生じさせ、
前記計測部は、前記血液試料中の発泡状態を計測し、
前記算出部は、当該発泡状態の計測結果のばらつきを算出し、
前記ばらつきが閾値よりも小さい場合、前記算出部は、撹拌していない状態の前記血液試料中の発泡状態の計測結果に基づいて前記指標を算出し、
前記ばらつきが閾値よりも大きい場合、前記制御部は、更に、前記血液試料に対する撹拌を実行し、撹拌後の前記血液試料に前記発泡現象を生じさせてもよい。
(付記13)
前記計測部は、前記血液試料中の発泡状態を計測するとともに、当該発泡状態の計測結果から外れ値を除外し、
前記算出部は、外れ値を除外した後の前記計測結果に基づいて、前記指標を算出してもよい。
(付記14)
前記指標を表示させる出力部を更に備え、
前記出力部は、前記指標とともに、当該指標の誤差範囲を表示させてもよい。
(付記15)
前記計測部は、前記発泡状態として、気泡サイズを計測してもよい。
(付記16)
前記計測部は、前記発泡現象が生じている領域の画像、当該領域の透過光量、又は、当該領域からの反射光量に基づいて前記気泡サイズを計測してもよい。
(付記17)
前記計測部は、前記透過光量又は前記反射光量の経時的変化に基づいて前記気泡サイズを計測してもよい。
(付記18)
前記計測部は、前記発泡状態として、発泡による吐出特性を計測してもよい。
(付記19)
血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料に発泡現象を生じさせる制御部と、
前記混合試料中の発泡状態を計測する計測部と、
前記混合試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、前記血液試料の特性を評価する算出部と
を備える、血液特性評価装置。
(付記20)
前記算出部は、前記評価として、前記血液試料の凝固傾向を示す指標を算出してもよい。
(付記21)
前記制御部は、前記血液試料と前記混合試料とに発泡現象を生じさせ、
前記計測部は、前記血液試料中の発泡状態と前記混合試料中の発泡状態とをそれぞれ計測し、
前記算出部は、前記血液試料中の発泡状態と前記混合試料中の発泡状態との計測結果に基づいて前記評価を算出してもよい。
(付記22)
血液試料に発泡現象を生じさせ、
前記血液試料中の発泡状態を計測し、
前記血液試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、前記血液試料の凝固傾向を示す指標を算出する
ことを含む、血液特性評価方法。
(付記23)
血液試料と血液凝固関連因子とを混合した混合試料に発泡現象を生じさせ、
前記混合試料中の発泡状態を計測し、
前記混合試料中の発泡状態の計測結果に基づいて、前記血液試料の特性を評価する
ことを含む、血液特性評価方法。
(付記24)
上記の血液特性評価装置の各構成をコンピュータに実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0105】
1 血液特性評価装置
11 メモリ
12 処理回路
12a 制御機能
12b 計測機能
12c 算出機能
12d 出力機能
13 光源
14 カメラ
15 顕微鏡
16a 試料ホルダ
16b 試料ホルダ