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特許7658796光走査装置、車両用灯具、光走査装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】光走査装置、車両用灯具、光走査装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20250401BHJP
   F21S 41/16 20180101ALI20250401BHJP
   F21S 41/176 20180101ALI20250401BHJP
   F21S 41/675 20180101ALI20250401BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20250401BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20250401BHJP
   F21W 102/14 20180101ALN20250401BHJP
【FI】
G02B26/10 C
G02B26/10 104Z
F21S41/16
F21S41/176
F21S41/675
F21Y115:30
F21Y115:10
F21W102:14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021084548
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022178044
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ナズィルル アファム イドリス
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 誠
(72)【発明者】
【氏名】上永 祐太
(72)【発明者】
【氏名】松丸 直也
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-030763(JP,A)
【文献】特開2013-244045(JP,A)
【文献】特表2012-509562(JP,A)
【文献】特開2013-160953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10-26/12
F21K 9/00- 9/90
F21S 2/00-45/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を反射する回動ミラーを有し、前記入射光を垂直方向に走査する第1光偏向器と、
回動ミラーを有し、前記第1光偏向器の走査光を前記垂直方向に垂直な水平方向に走査する第2光偏向器と、
前記第1光偏向器と前記第2光偏向器の各々を駆動させる駆動部と、を備え、
前記駆動部は、前記第1光偏向器と前記第2光偏向器とを駆動周波数が同一で位相が90°異なり、最大駆動電圧が異なる変調波形で共振駆動させ、
前記駆動周波数は、前記第2光偏向器のピーク共振周波数と一致させ、
前記第1光偏向器は、前記駆動周波数とは異なるピーク共振周波数を有し、前記駆動周波数で駆動させることを特徴とする車両用灯具向け光走査装置。
【請求項2】
前記第1光偏向器のピーク共振周波数と前記第2光偏向器のピーク共振周波数との差異は、3~50Hzの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具向け光走査装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光走査装置と、
前記入射光を生成する光源と、
前記第2光偏向器の前記回動ミラーの走査光が入射する位置に設けられた蛍光体プレートと、
前記蛍光体プレートを通過した光を集光し、配光パターンを投影する投影レンズと、
を備えていることを特徴とする車両用灯具。
【請求項4】
入射光を生成する光源と、
前記入射光を反射する回動ミラーを有し、前記入射光を垂直方向に走査する第1光偏向器と、
回動ミラーを有し、前記第1光偏向器の走査光を前記垂直方向に垂直な水平方向に走査する第2光偏向器と、
前記第1光偏向器と前記第2光偏向器の各々を駆動させる駆動部と、
前記第1光偏向器と前記第2光偏向器の各々の走査角度を検出するセンサと、を備え、
前記駆動部は、前記第1光偏向器と前記第2光偏向器とを駆動周波数が同一で位相が90°異なり、最大駆動電圧が異なる変調波形で共振駆動させ、
前記駆動周波数は、一定駆動電圧で周波数を変化させながら前記第2光偏向器を駆動し、前記センサ信号から最大振れ角となったときの周波数で設定する前記第2光偏向器のピーク共振周波数と一致させ、
前記駆動部及び前記センサは、前記第1光偏向器の回動ミラーが第1所定振れ角となる第1駆動電圧と、前記第2光偏向器の回動ミラーが第2所定振れ角となる第2駆動電圧とをそれぞれ特定し、前記第1光偏向器、前記第2光偏向器を駆動する最大駆動電圧とすることを特徴とする車両用灯具。
【請求項5】
各々が光を反射する回動ミラーを有する2つの光偏向器と、前記2つの光偏向器の各々を駆動させる駆動部とを備え、
同一駆動条件における振れ角が予め定めた基準値の25%以上、及び/又は共振周波数の差が3~50Hzの範囲内にある前記2つの光偏向器を選別する選別工程と、
前記選別工程で選別された前記2つの光偏向器のうち、一方を回動ミラーによって入射光を垂直方向に走査する第1光偏向器とし、他方を回動ミラーによって前記第1光偏向器の走査光を前記垂直方向に垂直な水平方向に走査する第2光偏向器として組み立てる組立工程と、
前記第2光偏向器のピーク共振周波数を取得するピーク共振周波数取得工程と、
前記駆動部による前記第1光偏向器及び前記第2光偏向器の駆動周波数を前記ピーク共振周波数取得工程において取得されたピーク共振周波数と一致させ、かつ同一周波数に設定する駆動周波数設定工程と、
を有していることを特徴とする車両用灯具向け光走査装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1光偏向器の回動ミラーが第1所定振れ角となる第1駆動電圧と、前記第2光偏向器の回動ミラーが第2所定振れ角となる第2駆動電圧とを取得し、それぞれ前記第1光偏向器、前記第2光偏向器を駆動する最大駆動電圧として設定する駆動電圧設定工程を有していることを特徴とする請求項5に記載の車両用灯具向け光走査装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器を利用した光走査装置、当該光走査装置を用いた車両用灯具及び当該光走査装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術で作製された光偏向器、当該光偏向器を有する光走査装置が知られている。光偏向器は、回転軸の周りを回動するミラー部を有し、入射光をミラー部の振れ角に応じた方向に反射して走査光として出射する。通常、走査光の照射領域は矩形であり、大きさの異なる照射領域を重ねることで、照度の高い領域、低い領域を生成する。
【0003】
特許文献1の揺動体装置は、ミラープレートを有しており、光源からの光を反射して反射光とし、対象物に照射軌跡を形成する。このとき、揺動体装置は、ミラープレートをスパイラル駆動によって揺動させる。
【0004】
スパイラル駆動(スパイラル走査、螺旋走査)とは、例えば、ミラープレートのミラー面の非駆動時における中心軸からの傾斜角度(揺動角度)を変調させつつ、ミラープレートをその中心軸上の1点を回転中心として回転させるように駆動することで実現される(特許文献1/段落0046~0049、図4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6670143号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記揺動体装置では、水平軸方向と垂直軸方向の駆動周波数を一致させることでスパイラル駆動を実現している。しかしながら、実際は、製造時の誤差等により水平軸方向と垂直軸方向の共振周波数との間に僅かなずれがある。そのため、水平軸方向と垂直軸方向を共に共振駆動させようとした場合、ミラープレートの振れ角の制御が難しく、正確な螺旋走査が行える2軸の光偏向器を設計することは難易度が高いという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、正確な螺旋走査を行うことができる車両用灯具向け光走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用灯具向け光走査装置は、入射光を反射する回動ミラーを有し、前記入射光を垂直方向に走査する第1光偏向器と、回動ミラーを有し、前記第1光偏向器の走査光を前記垂直方向に垂直な水平方向に走査する第2光偏向器と、前記第1光偏向器と前記第2光偏向器の各々を駆動させる駆動部と、を備え、前記駆動部は、前記第1光偏向器と前記第2光偏向器とを駆動周波数が同一で位相が90°異なる変調波形で共振駆動させ、前記駆動周波数は、前記第2光偏向器のピーク共振周波数と一致させ、前記第1光偏向器は、前記駆動周波数とは異なるピーク共振周波数を有し、前記駆動周波数で駆動させることを特徴とする。
【0009】
本発明の光走査装置は、入射光を垂直方向に走査する第1光偏向器と、光を水平方向に走査する第2光偏向器の各々を駆動部で共振駆動させ、配光パターンを生成する。第1光偏向器は、第2光偏向器とは異なるピーク共振周波数を有している。駆動周波数を第2光偏向器のピーク共振周波数と一致させて駆動させることで、第2光偏向器の回動ミラーの振れ角は、比較的大きく保たれる。
【0010】
駆動部は、第1光偏向器についても前記駆動周波数(位相は90°異なる)で駆動させるため、前記駆動周波数は第1光偏向器のピーク共振周波数とはずれた周波数である。すなわち、第1光偏向器の走査範囲(垂直方向)を第2光偏向器の走査範囲(水平方向)よりも小さくして、第2走査方向が長い楕円形の螺旋走査とすることができる。
【0011】
本発明の光走査装置において、前記第1光偏向器のピーク共振周波数と前記第2光偏向器のピーク共振周波数との差異は、3~50Hzの範囲内であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、駆動周波数を第2光偏向器のピーク共振周波数に一致させたとき、第1光偏向器は、3~50Hzの範囲内でピーク共振周波数からずれた周波数での駆動となる。本光走査装置は、第1光偏向器の走査範囲を第2光偏向器の走査範囲よりも小さくしても、共振駆動させることができる。
【0013】
また、本発明の光走査装置において、前記第1光偏向器の回動ミラーの振れ角は、前記駆動周波数かつ同一の駆動電圧で駆動された場合に、前記第2光偏向器の回動ミラーの振れ角に対してD(0<D≦25)%の範囲内であることが好ましい。
【0014】
第1光偏向器の回動ミラーの振れ角は、第1光偏向器をピーク共振周波数からずれた周波数で駆動させているため、第2光偏向器の回動ミラーの振れ角に対して小さくなる。車両用灯具に用いられる光走査装置の場合、水平方向に対し垂直方向の幅が小さい(25%程度)走査範囲での駆動が求められる。そのため、第1光偏向器の回動ミラーの振れ角が第2光偏向器の回動ミラーの振れ角に対してD(0<D≦25)%小さくても、第1光偏向器の最大駆動電圧値を第2光偏向器の最大駆動電圧値より大きくする必要がない。
【0015】
本発明の車両用灯具は、上記記載の光走査装置と、前記入射光を生成する光源と、前記第2光偏向器の前記回動ミラーの走査光が入射する位置に設けられた蛍光体プレートと、前記蛍光体プレートを通過した光を集光し、配光パターンを投影する投影レンズと、を備えていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、光源で生成された入射光が光走査装置の第1光偏向器の回動ミラーで走査され、第2光偏向器の回動ミラーで走査され、走査光が蛍光体プレートに入射する。さらに、蛍光体プレートを通過した光が投影レンズを通過して配光パターンが生成される。これにより、本車両用灯具は、車両前方に所望の配光パターンを投影することができる。
【0017】
また、本発明の車両用灯具は、入射光を生成する光源と、前記入射光を反射する回動ミラーを有し、前記入射光を垂直方向に走査する第1光偏向器と、回動ミラーを有し、前記第1光偏向器の走査光を前記垂直方向に垂直な水平方向に走査する第2光偏向器と、前記第1光偏向器と前記第2光偏向器の各々を駆動させる駆動部と、前記第1光偏向器と前記第2光偏向器の各々の走査角度を検出するセンサと、を備え、前記駆動部は、前記第1光偏向器と前記第2光偏向器とを駆動周波数が同一で位相が90°異なる変調波形で共振駆動させ、前記駆動周波数は、前記第2光偏向器のピーク共振周波数と一致させ、前記駆動部及び前記センサは、前記第1光偏向器の回動ミラーが第1所定振れ角となる第1駆動電圧と、前記第2光偏向器の回動ミラーが第2所定振れ角となる第2駆動電圧とをそれぞれ特定し、前記第1光偏向器、前記第2光偏向器を駆動する最大駆動電圧とすることを特徴とする。
【0018】
本発明では、第1光偏向器と第2光偏向器の各々の回動ミラーの走査角度をセンサで検出する。駆動部及びセンサは、第1光偏向器の回動ミラーが第1所定振れ角となる第1駆動電圧と、第2光偏向器の回動ミラーが第2所定振れ角となる第2駆動電圧とをそれぞれ特定する。さらに、前記第1駆動電圧、前記第2駆動電圧を、それぞれ第1光偏向器、第2光偏向器の最大駆動電圧とする。これにより、本車両用灯具は、各回動ミラーが所望の振れ角で駆動するように制御することができる。
【0019】
本発明の車両用灯具向け光走査装置の製造方法は、各々が光を反射する回動ミラーを有する2つの光偏向器と、前記2つの光偏向器の各々を駆動させる駆動部とを備え、同一駆動条件における振れ角が予め定めた基準値の25%以上、及び/又は共振周波数の差が3~50Hzの範囲内にある前記2つの光偏向器を選別する選別工程と、前記選別工程で選別された前記2つの光偏向器のうち、一方を回動ミラーによって入射光を垂直方向に走査する第1光偏向器とし、他方を回動ミラーによって前記第1光偏向器の走査光を前記垂直方向に垂直な水平方向に走査する第2光偏向器として組み立てる組立工程と、前記第2光偏向器のピーク共振周波数を取得するピーク共振周波数取得工程と、前記駆動部による前記第1光偏向器及び前記第2光偏向器の駆動周波数を前記ピーク共振周波数取得工程において取得されたピーク共振周波数と一致させ、かつ同一周波数に設定する駆動周波数設定工程と、を有していることを特徴とする。
【0020】
本発明の光走査装置の製造方法では、選別工程において、光走査装置に用いる2つの光偏向器を選別する。特に、同一駆動条件における振れ角が基準値の25%以上、共振周波数の差が3~50Hzの範囲内にある光偏向器を選別する。次に、組立工程において、一方を垂直方向に走査する第1光偏向器とし、他方を水平方向に走査する第2光偏向器とする。さらに、第1光偏向器の回動ミラーが入射光を走査し、第2光偏向器の回動ミラーが第1光偏向器の走査光を走査するように配置する。
【0021】
次に、ピーク共振周波数取得工程において第2光偏向器のピーク共振周波数を取得し、駆動周波数設定工程においてピーク共振周波数取得工程で取得したピーク共振周波数を両光偏向器の駆動周波数に設定する。第1光偏向器については、ピーク共振周波数とはずれた周波数での駆動となる。本方法は、第1光偏向器と第2光偏向器とで回動ミラーの振れ角に差が生じるため(第1光偏向器の回動ミラーの方が振れ角が小さい)、所望形状の配光パターンを生成する光走査装置を製造することができる。
【0022】
また、本発明の光走査装置の製造方法において、前記第1光偏向器の回動ミラーが第1所定振れ角となる第1駆動電圧と、前記第2光偏向器の回動ミラーが第2所定振れ角となる第2駆動電圧とを取得し、それぞれ前記第1光偏向器、前記第2光偏向器を駆動する最大駆動電圧として設定する駆動電圧設定工程を有していることが好ましい。
【0023】
駆動電圧設定工程では、まず、第1光偏向器の回動ミラーが第1所定振れ角となる第1駆動電圧と、第2光偏向器の回動ミラーが第2所定振れ角となる第2駆動電圧とをそれぞれ測定する。さらに、前記第1駆動電圧、前記第2駆動電圧を、それぞれ第1光偏向器、第2光偏向器の最大駆動電圧として設定する。これにより、本方法は、各回動ミラーが所望の振れ角で駆動する光走査装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態の車両用灯具の全体構成を示す図。
図2】車両用灯具及び光走査装置の内部構成を示す図。
図3】(a)水平軸方向の回動ミラーの周波数特性を説明する図。(b)垂直軸方向の回動ミラーの周波数特性を説明する図。
図4】光偏向器の駆動波形を説明する図。
図5】光偏向器の駆動波形の変更形態を説明する図。
図6】光走査装置の製造方法を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、図面を参照しつつ、本発明の光走査装置及び車両用灯具について説明する。
【0026】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る車両用灯具1の全体構成を示している。図示するように、車両用灯具1は光走査装置10と光学系ユニット20とで構成され、生成された配光パターンを仮想スクリーン30に投影する。車両用灯具1は、車両に搭載されたヘッドライトに用いられる。
【0027】
(光走査装置)
光走査装置10は、光源7と、集光レンズ8と、1軸の光偏向器11,12とで構成されている。
【0028】
(光源)
光源7は、中心波長が約450nmのレーザダイオード(LD:Laser Diode)であり、青色光(光ビームB)を出射する。なお、光源として、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等を用いてもよい。
【0029】
(集光レンズ)
光源7から出射された光ビームBは、集光レンズ8で集光された後、光偏向器11に到達する。集光レンズ8はコリメートレンズ(例えば、焦点距離1.96mm、直径2.6mm、軸上厚1.5mm)であり、入射した光ビームBをほぼ平行な平行光に変更して光偏向器11に導光する。
【0030】
(光偏向器)
光偏向器11(本発明の「第1光偏向器」)は、回動ミラー11aを備えており、光ビームBを所定の角度範囲に反射して走査する。光偏向器11は、回動ミラー11aを駆動するアクチュエータを備えている。アクチュエータは、回動ミラー11aを第1軸の回りに共振駆動させるトーションバー(図示省略)である。
【0031】
光走査装置10において、光偏向器11は、回動ミラー11aの中心部に光が入射するように光軸上に配設されている。このようなミラーを備えた光偏向器としては、例えば、特開2020-197653号公報に記載された公知の構成のミラーを適用することができる。
【0032】
光走査装置10において、光偏向器11は、仮想スクリーン30に投影される配光パターンの垂直軸方向(V軸方向)を走査する。光偏向器11(回動ミラー11a)により走査された走査光S1は、光偏向器12(本発明の「第2光偏向器」)に到達し、回動ミラー12aで反射される。
【0033】
光偏向器12の構成は、基本的に上述の光偏向器11と同じであるが、光偏向器11とはピーク共振周波数が異なる。ここで、ピーク共振周波数とは、駆動電圧が同一のとき、回動ミラー12aの振れ角が最大となる周波数のことである。光走査装置10において、光偏向器12は、仮想スクリーン30に投影される配光パターンの水平軸方向(H軸方向)を走査する。
【0034】
本発明の光走査装置10では、光偏向器11の走査範囲(V軸方向)が光偏向器12の走査範囲(H軸方向)よりも小さい。2つの光偏向器を用いる本実施形態においては、最初に光が入射する光偏向器の走査範囲を狭くした方が、次に光が入射する光偏向器に対する照射範囲が小さくなり、配置し易い。よって、直線状の光ビームBが入射する位置に光偏向器11(回動ミラー11a)が配置され、光偏向器11による走査光S1が入射する位置に光偏向器12が配置される。
【0035】
(光学系ユニット)
光学系ユニット20は、蛍光体プレート13と、投影レンズ14とで構成されている。光偏向器12(回動ミラー12a)により走査された走査光S2は、蛍光体プレート13に入射する。
【0036】
(蛍光体プレート)
蛍光体プレート13は、サファイア基板の略中央に黄色蛍光体が一定の膜厚で塗布された平板である。黄色蛍光体は、例えばY3Al5O12:Ce3+からなり、走査光S2(青色光)が照射されると波長変換され、青色光と補色の関係にある黄色光が発せられる。
【0037】
このため、この黄色蛍光体には配光パターンを生成するための輝度分布を有する領域が形成され、青色光と黄色光とが混色した白色光が出射される。白色光は、後述する投影レンズ14に入射する。
【0038】
(投影レンズ)
投影レンズ14は、例えば4枚のレンズからなり、各レンズがレンズホルダに保持されている。各レンズは、歪み等を抑えて配光パターンの解像度を向上させる役割がある。蛍光体プレート13に最も近いレンズは、その後側焦点が蛍光体プレート13の位置となるように配置されている。
【0039】
投影レンズ14は4枚の構成に限られず、特に、蛍光体プレート13が曲面状であれば、より少ない数のレンズで配光パターンを投影することができる。また、投影レンズ14は、蛍光体プレート13からの光の収差を抑え、像を拡大しつつ前方へ反転投影する。そして、仮想スクリーン30(例えば、車両用灯具1の前方約25mの位置に配置)上に配光パターンが生成される。
【0040】
次に、図2を参照して、光走査装置10の内部構成を説明する。なお、後述するランプ制御ECU2及び制御装置3は、光走査装置10の外部にある。
【0041】
(ランプ制御ECU)
ランプ制御ECU(Engine Control Unit)2は、配光モード(Hi/Lo/ADB)等の点灯モードと、カメラ(図示省略)による画像情報(先行車両、対向車両の位置情報等)等を上位システムから受け取り、制御装置3に送信する。
【0042】
(制御装置)
また、制御装置3は、光走査装置10が生成すべき配光の大きさ(照射領域)及び配光パターンと、投影する配光領域の位置を決定し、信号変換して配光生成部4に送信する。
【0043】
(光走査装置の内部構成)
光走査装置10は、配光生成部4と、配光角度制御部5と、電流制御部6と、光源7と、光偏向器11,12とで構成されている。
【0044】
(配光生成部、配光角度制御部)
配光生成部4は、光偏向器11,12(回動ミラー11a,12a)の走査範囲情報を配光角度制御部5に送信する。配光角度制御部5(本発明の「駆動部」)は、走査範囲情報を受信して、回動ミラー11a,12aが駆動するようにアクチュエータを制御し、回動ミラー11a,12aの振れ角の範囲を調整する。同時に、配光生成部4は、配光データを生成して電流制御部6へ送信する。また、配光角度制御部5は、回動ミラー11a,12aの走査位置情報を電流制御部6に送信する。このとき、配光生成部4は、RAM、ROM等の記憶部(図示省略)に記憶された、前記配光データの生成のためのデータを利用してもよい。
【0045】
(電流制御部)
電流制御部6は、受信した配光データと走査位置情報に基づいて、光源7の駆動電流を制御する。特に、電流制御部6は、光源7のオン、オフ及び光量を変更するため、光源7に供給する電流を制御する。光源7から出射された光ビームBは、光偏向器11,12の回動ミラー11a,12aで走査された後、光学系ユニット20を介して所定の配光パターンとなって投影される。
【0046】
このように、本実施形態の車両用灯具1は、光源7と光偏向器11,12等を用いて配光制御を行うが、図2に示すように、水平軸方向が長い楕円形の配光パターンが生成される。以下では、楕円形の配光パターンが生成される原理を説明する。
【0047】
次に、図3を参照して、光偏向器の周波数特性を説明する。図3は、駆動電圧を同一にして周波数を変化させたときの光学的振れ角の変化を表している。なお、図3(a)、図3(b)の周波数特性において、横軸が周波数、縦軸が光学的振れ角である。
【0048】
図3(a)は、水平軸方向を走査する光偏向器12の回動ミラー12aの周波数特性である。回動ミラー12aのピーク共振周波数はfH[kHz]である。前述のとおりピーク共振周波数fHにおいて、光学的振れ角は最大となる。なお、単に共振周波数とは、共振が生じる周波数である。本実施形態の光走査装置10は、ピーク共振周波数fH[kHz]と一致する駆動周波数fS[kHz]で光偏向器12(回動ミラー12a)を駆動させる。
【0049】
また、図3(b)は、垂直軸方向を走査する光偏向器11の回動ミラー11aの周波数特性である。回動ミラー11aのピーク共振周波数はfV[kHz]であり、回動ミラー12aのピーク共振周波数fH[kHz]とは異なっている。共振周波数の差は、主に製造時の誤差(ばらつき)で生じるが、3~50[Hz]の範囲内であることが好ましい。なお、fH<fVでも、fH>fVでもよい。
【0050】
ピーク共振周波数の差異が3Hz以内というように、厳密な基準で光偏向器を選択しようとすると、工数が非常にかかってしまう。本発明は、周波数特性の差異が大きい(25Hz以上)場合であっても適用可能である。ただし、共振自体が生じない可能性があるため、当該差異は50Hz以内であることが好ましい。
【0051】
また、回動ミラー11aのピーク共振周波数fH[kHz]での光学的振れ角は、同一駆動電圧の条件での回動ミラー12aの光学的振れ角より小さい値(100%未満)で、かつ25%以上である。車両用灯具(前照灯)の場合、水平軸方向に対し垂直軸方向の幅が1/4程度の配光領域(走査範囲)が求められる。本発明は、このような車両用灯具に特有の要求を実現するため、当該光学的振れ角を25%以上とすることで、垂直軸方向の光偏向器11の最大駆動電圧値を水平軸方向の光偏向器12の最大駆動電圧値以下とすることができる。
【0052】
回動ミラー11aの光学的振れ角は、最大駆動電圧値を回動ミラー12aより大きくすることでも制御可能である。ただし、この場合でも、回動ミラー11aのピーク共振周波数fH[kHz]での光学的振れ角は、同一駆動電圧の条件での回動ミラー12aの光学的振れ角より小さい値(100%未満)で、かつ20%以上であることが好ましい。
【0053】
仮に、特許文献1で想定されていた垂直軸方向と水平軸方向で同一駆動条件(駆動電圧値、駆動周波数fH[kHz])を採用した場合、差異が人間の目にも明白となってしまう。光偏向器12の光学的振れ角の50~70%以下の光偏向器11であっても、本発明では問題なく使用することが可能である。これは、本発明では、使用する光偏向器の選択が容易であることを意味する。
【0054】
光走査装置10では、光偏向器11(回動ミラー11a)についても、光偏向器12(回動ミラー12a)と同一の駆動周波数fS[kHz]で駆動させる。すなわち、回動ミラー11aは、ピーク共振周波数fV[kHz]とはずれた周波数を用いるため、同一の駆動電圧で駆動させたとき、上述の回動ミラー12aと比較して振れ角が小さくなる。このため、回動ミラー12aが走査する水平軸方向が長く、回動ミラー11aが走査する垂直軸方向が短い長方形の配光パターンが生成される。
【0055】
図4は、光偏向器11,12のそれぞれの駆動波形を示している。図4の左側の波形は、回動ミラー11aによる「垂直軸駆動波形」を示している。この駆動波形の周波数は、上述の動作周波数fS[kHz]と一致するが、振幅変調がなされているため、中心部の振幅が小さく、周辺部へいくほど振幅が大きくなる。
【0056】
正弦波の変調波形の場合、中心部では単位時間当たりの走査の長さが短いため、光量が大きくなる。また、変調波形を調整することで照度の高い領域、低い領域を生成することができる。その結果、様々な配光パターンを実現することができる。
【0057】
図4の右下側の波形は、回動ミラー12aによる「水平軸駆動波形」を示している。駆動波形の周波数は動作周波数fH[kHz]であり、やはり振幅変調がなされているため、中心部の振幅が小さく、周辺部へいくほど振幅が大きくなる。動作周波数fS[kHz]は、回動ミラー12aの共振周波数fH[kHz]と一致するため、効率良く、大きな振幅を実現することができる。
【0058】
回動ミラー12aの振れ角が±20°程度であるのに対し、回動ミラー11aの振れ角は±5°程度である。回動ミラー11aの周波数特性、すなわち同一の駆動電圧で駆動した場合の振れ角は、回動ミラー12aの振れ角に対して25%まで小さくてもよい。
【0059】
光偏向器11の最大駆動電圧は、「垂直軸駆動波形」の周辺部の振幅が最も大きい時点での駆動電圧を最大駆動電圧として、光偏向器12の最大駆動電圧値以下とすることができる。光偏向器12の最大駆動電圧は、製造誤差の影響で大きく変動することはなく、光走査装置10の設計は、予め予測された光偏向器12の最大駆動電圧をもとに行うことが可能である。
【0060】
また、水平軸方向の駆動波形は、垂直軸方向の駆動波形と位相が90°異なるため、駆動波形の中心部で比較すると波形の山の位置がずれている。このようにすることで、図中の「走査パターン」のような螺旋走査を可能とし、中心部が明るい楕円形の配光パターンが生成される。
【0061】
なお、垂直軸方向及び水平軸方向の駆動波形は、図4で示した形状に限られない。図4では、駆動波形の腹を結んだ破線Cも正弦波となるようにしている。一方、図5は、駆動波形の変更形態を示している。図4の駆動波形に対して、配光パターンの中心部分がより明るくなるように、変調波形の中心部において駆動波形の腹を結んだ破線C’が正弦波の形状よりも立ち上がり及び立ち下りの時間を長くし、変調波形の周辺部において立ち上がり及び立ち下りの時間を短くしている。
【0062】
なお、図5の駆動波形において、破線C’が描く波形の周期は、図4の破線Cの周期と同一である。図5の駆動波形は、光偏向器11,12の駆動波形の両方に適用してもよいし、光偏向器11,12の何れか一方にのみ適用、すなわち、図4図5の各駆動波形を垂直軸方向と水平軸方向で使い分けてもよい。これにより、配光パターンは、中心部へいくほど螺旋の間隔が狭くなり、当該中心部分の照度が高くなる。
【0063】
最後に、図6を参照して、光走査装置10の製造方法について説明する。
【0064】
まず、光偏向器選別工程を行う(STEP01)。これは、光走査装置10で使用する2つの光偏向器を選別する工程である。サイズ、形状、重さ等が同一である同一設計の光偏向器でも、製造時のばらつきのため共振周波数に僅かの誤差が生じる。
【0065】
本工程では、所定の共振周波数を基準として、ピーク共振周波数の差異が最大でも50[Hz]の範囲内にある光偏向器を選別する。同一条件(駆動周波数及び駆動電圧)における回動ミラーの振れ角が、所定の振れ角(基準値)の25%以上の範囲内という条件で2つの光偏向器を選別してもよいし、共振周波数の条件と振れ角の条件の両方を満たす2つの光偏向器を選別してもよい。例えば、共振周波数が21864[Hz]の光偏向器を基準とすると、振れ角が1/4となる共振周波数は21830[Hz](Δ34Hz)となる。
【0066】
次に、光走査装置組立工程を行う(STEP02)。これは、光偏向器選別工程(STEP01)で選別した2つの光偏向器により、光走査装置10を組み立てる工程である。2つの光偏向器のうち一方は、垂直軸方向走査用の光偏向器として用いるため、光走査装置において光源からの光ビームが回動ミラーに入射する位置に配置する(図1の光偏向器11)。
【0067】
また、2つの光偏向器のうち他方は、水平軸方向走査用の光偏向器として用いるため、光走査装置において一方の光偏向器の走査光が回動ミラーに入射する位置に配置する(図1の光偏向器12)。なお、光源及び集光レンズも光走査装置の構成要素であるため、それぞれ光軸上に配置する(図1参照)。
【0068】
次に、ピーク共振周波数取得工程を行う(STEP03)。これは、水平軸方向走査用の光偏向器12のピーク共振周波数fHを測定し、取得する工程である。なお、共振周波数fHは、駆動周波数fSとして採用する。
【0069】
次に、駆動周波数設定工程を行う(STEP04)。これは、前工程で取得したピーク共振周波数fHを配光角度制御部5が両光偏向器を駆動する駆動周波数fSとして設定する工程である。水平軸方向走査用の光偏向器はピーク共振周波数で駆動させ、垂直軸方向走査用の光偏向器は、ピーク共振周波数から僅かにずれた周波数で動作させるため、仮に同一駆動電圧で駆動させた場合の回動ミラーの振れ角は水平軸方向走査用の光偏向器の方が大きくなる。
【0070】
次に、駆動電圧設定工程を行う(STEP05)。これは、両光偏向器の駆動電圧を取得する工程である。具体的には、駆動周波数取得工程で決定した駆動周波数で垂直軸方向走査用の光偏向器を駆動させ、回動ミラーが所望の振れ角(例えば5°)となる電圧値を取得する。この電圧値が垂直軸方向走査用の光偏向器の最大駆動電圧となる。
【0071】
同様に、駆動周波数取得工程で決定した駆動周波数で水平軸方向走査用の光偏向器を駆動させ、回動ミラーが所望の振れ角(例えば20°)となる電圧値を取得する。この電圧値が水平軸方向走査用の光偏向器の最大駆動電圧となる。光走査装置10では、両光偏向器の最大駆動電圧を予め測定し、設定しておくことで、当該最大駆動電圧にて両光偏向器を駆動させる。
【0072】
両光偏向器の駆動波形は駆動周波数が同一であるが、位相は90°異なる。このため、水平軸方向が長い楕円形で、中心部分の照度が高い配光パターンが生成されるようになる。
【0073】
車両用灯具1は、STEP03以降の工程を実施するため、センサを設ける態様としてもよい。このセンサは、垂直軸方向と水平軸方向の両方の走査角度を検出可能である。例えば、走査角度を測定するためのセンサが、蛍光体プレート13に取り付けられる。また、特表2019-509507号公報に開示された手段(スキャン領域外に配置された光検出器)で、走査角度を測定してもよい。
【0074】
特開2019-219549号公報に開示されているように、光偏向器が圧電アクチュエータの変形量を検出するセンサを有していてもよい。同公報の装置は2次元の光偏向器であるが、同様の形状を有する半環状圧電アクチュエータによって、1次元の光偏向器とすることもできる。
【0075】
上記センサを有する車両用灯具の場合、STEP03以降と同様の工程を製造後に行うこともできる。例えば、車両用灯具がオンされたタイミングで、ピーク共振周波数取得工程を開始する。この工程は、配光角度制御部5が水平軸方向走査用の光偏向器12を一定駆動電圧で周波数を変化させながら駆動し、センサ信号から最大振れ角となったときの周波数をピーク共振周波数と設定し、記憶部に記憶することで実施される。なお、既にピーク共振周波数が設定されている場合は、上書きすればよい。
【0076】
さらに、そのピーク共振周波数を共通の駆動周波数として設定する。そして、垂直軸方向走査用の光偏向器11と水平軸方向走査用の光偏向器12のそれぞれに対し、配光角度制御部5が一定駆動周波数で駆動電圧を変化させ、センサが所定振れ角(例えば、水平軸方向が20°、垂直軸方向が5°)となる電圧値を最大駆動電圧として設定し、記憶部に記憶する。なお、既に最大駆動電圧が設定されている場合は、上書きすればよい。
【0077】
このような動作を行う車両用灯具の場合、光偏向器の劣化によるピーク共振周波数の変化に対しても最適な駆動条件を選択することが可能となる。
【0078】
上記実施形態においては、光源として青色のレーザダイオードを用いたが、これに限られるものではない。RGBの3つのレーザを光ファイバ若しくはダイクロイックミラー等で光軸を揃え、白色のレーザ光としてもよい。この場合、蛍光体プレートを省略して、走査光が直接、投影レンズに入射されるようにしてもよい。蛍光体プレートの代わりに、表面を粗くすることで拡散作用のみを有する拡散プレートを配置してもよい。
【0079】
以上、本発明を実施するための実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…車両用灯具、2…ランプ制御ECU、3…制御装置、4…配光生成部、5…配光角度制御部(駆動部)、6…電流制御部、7…光源、8…集光レンズ、10…光走査装置、11…光偏向器(第1光偏向器)、12…光偏向器(第2光偏向器)、11a,12a…回動ミラー、13…蛍光体プレート、14…投影レンズ、20…光学系ユニット、30…仮想スクリーン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6