(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】ロータリソレノイド
(51)【国際特許分類】
H01F 7/08 20060101AFI20250401BHJP
H02K 33/16 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
H01F7/08 B
H02K33/16 B
(21)【出願番号】P 2021122922
(22)【出願日】2021-07-28
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000108627
【氏名又は名称】タカノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 将志
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-176455(JP,A)
【文献】特開2012-205343(JP,A)
【文献】特開2009-095184(JP,A)
【文献】特開2001-258233(JP,A)
【文献】特開2016-178203(JP,A)
【文献】特開2008-277700(JP,A)
【文献】米国特許第04795929(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/06- 7/17
H02K 33/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形のヨーク本体部,このヨーク本体部の内周面から中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部,及び各コア部に巻回したコイル部を有するステータ部と、ケーシング部の端面部の中心位置で回動自在に支持されたマグネットロータ部とを備えるロータリソレノイドにおいて、前記コア部の外郭部に装着し、かつ前記コイル部を巻回したコイルボビンを設け、前記ヨーク本体部の内周面と前記コア部の磁気的接続面の間を、前記コア部を固定する位置を選定し、かつ前記コイルボビンを形成する合成樹脂素材を充填して充填樹脂部を設けた空隙部を介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部の間隔を、前記マグネットロータ部に対して設定した回動角度範囲における角度に対する非通電時の回転トルク特性が、前記空隙部が無いときの回転トルク特性に対して回転トルクの方向が逆方向になるように設定したことを特徴とするロータリソレノイド。
【請求項2】
前記回動角度範囲は、±30〔゜〕以内に設定することを特徴とする請求項1記載のロータリソレノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ部に通電することによりマグネットロータ部を所定の回動角度範囲で変位させるロータリソレノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筒形のヨーク本体部,このヨーク本体部の内周面から中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部,及び各コア部に巻回したコイル部を有するステータ部と、ケーシング部の端面部の中心位置で回動自在に支持されたマグネットロータ部とを備えるロータリソレノイドとしては、特許文献1に記載されるソレノイド及び特許文献2に記載されるロータリソレノイド装置が知られている。
【0003】
同文献1のソレノイドは、筒形のケーシングと、このケーシングの開口部を閉塞する端面カバーと、ケーシングに収容するコイルボビンと、このコイルボビンに巻装した一又は二以上のコイルと、コイルボビンに装着してコイルから導出されるワイヤ端部を接続する一又は二以上のピン端子と、コイルの通電により変位するマグネットを有する可動部とを備えたソレノイドであって、特に、コイルボビンに設けた貫通孔部と、この貫通孔部に対して一端開口から挿通させた際に、ワイヤ接続部に対してワイヤ端部を接続可能な中途位置及びワイヤ接続部がコイルボビンにおけるバリア部により遮蔽される最終位置に止めることができる中間取付部を有するとともに、最終位置では貫通孔部の他端開口から突出するピン本体部を有してなるピン端子とを備えて構成したものである。
【0004】
また、同文献2のロータリソレノイド装置は、全体の小型コンパクト化を図り、無用な設置スペースが取られてしまう不具合を解消するとともに、部品点数の削減により、コストダウン及び組立性(組付性)の向上を図ることを目的としたものであり、具体的には、ロータリソレノイド本体のシャフトに作用部材を取付けて構成したロータリソレノイド装置において、作用部材を板材より形成し、この板材に規制孔部を設けるとともに、ロータリソレノイド本体の一方の端面部に、規制孔部に係合して作用部材の回動変位範囲を規制する規制突起部を設けて構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012- 39804号公報
【文献】特開2001-258233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来のロータリソレノイド(ソレノイド,ロータリソレノイド装置)は、
図10に示すように、基本的な構成として、ステータ部Msを構成するヨーク部2は、筒形のヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cqにより構成するとともに、ヨーク本体部2mとコア部2cp,2cq間は、磁気抵抗を低減する観点から密着(又は一体形成)する構成を備える。そして、駆動時には、コア部2cp,2cqに巻回したコイル3p,3qに、順方向又は逆方向に通電して固定磁極N又はSを発生させるとともに、マグネットロータ部Mrを一方側又は他方側に回動させることにより、このマグネットロータ部Mrに一体のストッパ12sを、回動角度範囲を規制する一方の規制部12p(第一位置X1)又は他方の規制部12q(第二位置X2)に当接させていたため、従来のロータリソレノイドにおいては、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
第一に、切換可能な位置数は二位置に限定される。
図9は、上述した従来のロータリソレノイドの回転トルクTrを示す。
図10の第一位置X1にストッパ12sが当接した状態で通電を解除した場合、即ち、非通電時の場合、回転トルクTrは、ストッパ12sを第一位置X1に保持する方向に吸引する回転トルクTrが生じるとともに、同様に、第二位置X2にストッパ12sが当接した状態で通電を解除した場合、ストッパ12sを第二位置X2に保持する方向に吸引する回転トルクTrが生じるため、切換可能な位置数は二位置となる。したがって、第三位置で停止させるためには、二台のロータリソレノイドを組合わせる必要があるなど、全体のコストアップ、更には機構の大型化を招く難点があった。
【0008】
第二に、回転トルクTrは、起動時に低く、他方、終端時に高くなるため、ロータリソレノイドの使用電圧は、マグネットロータの起動時の低い回転トルクに依存する。したがって、回転トルクを補うために印加電圧を高く設定する必要があり、この設定が省エネルギ化を促進する上での阻害要因になっているとともに、加えて、ロータリソレノイドの発熱要因、更には回転トルク特性の不安定化の一因になる。しかも、終端付近におけるマグネットロータの加速は大きくなるため、終端の停止時には、大きな衝撃力が発生するとともに、負荷の大きさやストッパ機構の構造により、この衝撃力に伴う反力がマグネットロータ及び軸受を介してステータ部側に伝達され、ロータリソレノイド全体の耐久性を低下させる要因となる難点があった。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したロータリソレノイドの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るロータリソレノイド1は、上述した課題を解決するため、筒形のヨーク本体部2m,このヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cq,及び各コア部2cp,2cqに巻回したコイル部3p,3qを有するステータ部Msと、ケーシング部4の端面部4s,4tの中心位置で回動自在に支持されたマグネットロータ部Mrとを備えるロータリソレノイドを構成するに際して、コア部2cp,2cqの外郭部に装着し、かつコイル部3p,3qを巻回したコイルボビン11p,11qを設け、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間を、コア部2cp,2cqを固定する位置を選定し、かつコイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填して充填樹脂部11fp,11fqを設けた空隙部Gsを介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部Gsの間隔Lgを、マグネットロータ部Mrに対して設定した回動角度範囲Zrにおける角度に対する非通電時の回転トルク特性Piが、空隙部が無いときの回転トルク特性Poに対して回転トルクTrの方向が逆方向になるように設定したことを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrは±30〔゜〕以内に設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係るロータリソレノイド1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間を、空隙部Gsを介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部Gsの間隔Lgを、マグネットロータ部Mrに対して設定した回動角度範囲Zrにおける角度に対する非通電時の回転トルク特性Piが、空隙部が無いときの回転トルク特性Poに対して回転トルクTrの方向が逆方向になるように設定したため、非通電状態では回動角度範囲Zrにおける回転トルクが0となる角度の中間位置で停止させることができる。これにより、停止位置の位置数を三位置、即ち、回動角度範囲Zrの一端位置,他端位置,中間位置の三位置に設定することができる。この結果、停止位置を増やすための追加のロータリソレノイドは不要となり、大幅なコスト削減及び全体機構の大型化を回避することができる。
【0014】
(2) 起動時における印加電圧を低く設定することができるため、消費電力の低減化による省エネルギ化を促進できるとともに、発熱の抑制、更には回転トルク特性の安定化を図ることができる。しかも、終端付近におけるマグネットロータ部Mrの加速を低減できるため、終端の停止時に発生する衝撃力を抑制できるとともに、この衝撃力に伴う反力がマグネットロータ部Mr及び軸受孔部を有する端面部4s,4tを介してステータ部Ms側に伝達されるのを低減できるため、ロータリソレノイド1全体の耐久性を高めることができる。
【0015】
(3) コイル部3p,3qを構成するに際し、コア部2cp,2cqの外郭部に装着するコイルボビン11p,11qに巻回して構成したため、コア部2cp,2cqとコイル部3p,3qを絶縁する本来の絶縁機能に加え、ヨーク本体部2mとコア部2cp,2cq間における空隙部Gsを介在させた位置決めを確実に行うことができる。これにより、信頼性の高いロータリソレノイド1を容易に得ることができる。
【0016】
(4) 空隙部Gsを、コイルボビン11p,11qによりコア部2cp,2cqを固定する位置を選定して形成したため、コイルボビン11p,11qに対する形状変更等により対応できる。これにより、精度の高い空隙部Gsを容易に形成することができる。
【0017】
(5) 空隙部Gsに、コイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填して充填樹脂部11fp,11fqを設けたため、コイルボビン11p,11qのインサート成形等により一緒に成形できる。これにより、空隙部Gsの間隔Lgを安定に維持できるとともに、金型変更等を行うことなくコイルボビン11p,11qの一部として容易に成形することができる。
【0018】
(6) 好適な態様により、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrを±30〔゜〕以内に設定すれば、本発明の有効な回動角度範囲Zrをカバーできるため、実施する観点から本発明の作用効果を享受できる安定性及び信頼性の高いロータリソレノイド1を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好適実施形態に係るロータリソレノイドの一部抽出拡大断面図を含む断面背面図、
【
図3】同ロータリソレノイドの
図2中の上方から見たコイルボビンの側面図、
【
図4】同ロータリソレノイドの空隙部の間隔をパラメータとした非通電時における回動角度範囲対回転トルク特性図、
【
図5】同ロータリソレノイドの空隙部の間隔を0.5〔mm〕に設定したときの非通電時と0.5〔A〕通電時の回動角度範囲(±30〔゜〕)対回転トルク特性図、パラメータとした非通電時における回動角度範囲対回転トルク特性図、
【
図6】同ロータリソレノイドの正面側から見た一方の停止位置の作用説明図、
【
図7】同ロータリソレノイドの正面側から見た中間位置における停止位置の作用説明図、
【
図8】同ロータリソレノイドの正面側から見た他方の停止位置の作用説明図、
【
図9】従来技術に係るロータリソレノイドの非通電時と0.5〔A〕通電時の回動角度範囲(±30〔゜〕)対回転トルク特性図、
【
図10】従来技術に係るロータリソレノイドの一部抽出拡大断面図を含む断面正面図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係るロータリソレノイド1の全体の構成について、
図1-
図3を参照して具体的に説明する。
【0022】
ロータリソレノイド1は、主要構成として、ヨーク本体部2m、コア部2cp,2cq、コイル部3p,3q、ケーシング部4、マグネットロータ部Mr、コイルボビン11p,11qを備える。
【0023】
この場合、筒形のヨーク本体部2m,このヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に突出する一対のコア部2cp,2cq及び各コア部2cp,2cqに巻回したコイル部3p,3qはステータ部Msを構成する。ヨーク本体部2mは、
図2に示すように、ケーシング部4の一部を構成するため、ケーシング部4は、このヨーク本体部2m,このヨーク本体部2mの前端開口を閉塞する前端カバー(端面部)4s及びこのヨーク本体部2mの後端開口を閉塞する後端カバー(端面部)4tにより構成する。このため、ヨーク本体部2mは、本来のヨーク本体部2mの機能に加えてケーシング部4の一部を兼ねている。ヨーク本体部2mは、炭素鋼素材等を用いて筒形に形成する。また、
図2に示すように、前端カバー4sはヨーク本体部2mの前端開口に嵌め込むことにより閉塞するため、全体を円盤状に一体形成するとともに、後端カバー4rも、ヨーク本体部2mの後端開口に嵌め込むことにより閉塞するため、全体を円盤状に一体形成する。
【0024】
さらに、前端カバー4sの中央位置には、後述するマグネットロータ部Mrにおける駆動シャフト5sの前側を支持する軸受孔部21を設けるとともに、後端カバー4tの中央位置には、マグネットロータ部Mrにおける駆動シャフト5sの後側を支持する軸受孔部22を設ける。前端カバー4s及び後端カバー4tには、それぞれ軸受機能と絶縁機能が求められるため、絶縁性及び耐熱性を有し、かつ摺動性の高い潤滑性樹脂素材等により形成することが望ましい。
【0025】
一方、ヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cqを備え、少なくとも、ヨーク本体部2m,一対のコア部2cp,2cqは、それぞれ独立した三部品として用意する。そして、本発明に従って、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間は、
図1及び
図2に示すように、空隙部Gsを介して磁気的に接続する。この場合、一対のコア部2cp,2cqの外郭部には合成樹脂素材Rにより形成したコイルボビン11p,11qをそれぞれ装着し、このコイルボビン11p,11q上に、コイル部3p,3qを巻回構成する。また、ヨーク本体部2mの内周面2miに対向するコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoに位置する各コイルボビン11p,11qは、ヨーク本体部2mの内周面2miに沿って延出形成する。
【0026】
この際、コア部2cpの先端に位置するコイルボビン11pの先端部位とコア部2cqの先端に位置するコイルボビン11qの先端部位は近接するため、コイルボビン11pの先端部位とコイルボビン11qの先端部位は、それぞれ連結片部11ju,11jdを介して一体形成するとともに、この連結片部11ju,11jdにより形成した段差部によりコア部2cp,2cqの先端に当接する位置決め機能を持たせている。これにより、コイルボビン11pと11qは、全体を連続したボビンユニット11として一体成形することができる。なお、ボビンユニット11は、難燃性の高い絶縁性合成樹脂素材(例えば、シンジオタクチックポリスチレン等)により全体を一体形成することが望ましい。
【0027】
これにより、ボビンユニット11に、各コア部2cp,2cqを装着又はインサート成形により組付けるとともに、この状態で、各コイルボビン11q,11qに対して、自動巻線機を用いて銅線等のマグネットワイヤWを巻回することができる。このように、コイル部3p,3qを構成するに際し、コア部2cp,2cqの外郭部に装着するコイルボビン11p,11qに巻回して構成すれば、コア部2cp,2cqとコイル部3p,3qを絶縁する本来の絶縁機能に加え、ヨーク本体部2mとコア部2cp,2cq間における空隙部Gsを介在させた位置決めを確実に行うことができるため、信頼性の高いロータリソレノイド1を容易に得ることができる。
【0028】
また、この状態のボビンユニット11は、そのままヨーク本体部2mの内部に挿入して組付けすることができる。組付けた際には、
図1に示すように、ヨーク本体部2mの内周面2miに対して、ボビンユニット11の周方向における四つのほぼ等間隔の外郭部位の外面が面接触し、径方向の位置決めが行われる。さらに、上述した連結片部11ju,11jdとコイルボビン11p,11qの形状により、コア部2cp,2cqに対する径方向の位置決めが行われるため、前述した空隙部Gsの間隔Lgを容易に設定できる。このように、空隙部Gsを、コイルボビン11p,11qによりコア部2cp,2cqを固定する位置を選定して形成すれば、コイルボビン11p,11qに対する形状変更等により対応できるため、精度の高い空隙部Gsを容易に形成することができる。
【0029】
空隙部Gsは、単なる空気空間として形成してもよいが、
図1-
図3に示すように、コイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填することにより、充填樹脂部11fp,11fqとして形成してもよい。このように、空隙部Gsに、コイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填して充填樹脂部11fp,11fqを設ければ、コイルボビン11p,11qのインサート成形等により一緒に成形できるため、空隙部Gsの間隔Lgを安定に維持できるとともに、金型変更等を行うことなくコイルボビン11p,11qの一部として容易に成形することができる。以上により、ステータ部Msを構成することができる。
【0030】
他方、マグネットロータ部Mrは、ステンレス素材等の磁性材料により形成した駆動シャフト5sと、この駆動シャフト5sの中間部に固定した円筒形のマグネット5mを備える。マグネット5mは径方向における180〔゜〕対向位置にS極とN極を着磁した二極マグネットである。マグネットロータ部Mrは、
図1及び
図2に示すように、駆動シャフト5sの前側が前端カバー4sの中央位置に設けた軸受孔部21により回動自在に支持されるとともに、駆動シャフト5sの後側が後端カバー4tの中央位置に設けた軸受孔部22により回動自在に支持される。
【0031】
また、ケーシング部4の外部に位置するマグネットロータ部Mrの前端付近には、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲を所定の角度範囲に規制するストッパ機構部12を配設する。ストッパ機構部12は、マグネットロータ部Mrに、一端を固定したレバー状のストッパ12sと、このストッパ12sの回動角度範囲を規制する一方側と他方側に配設した一対の規制部12p,12qからなる。即ち、ストッパ機構部12は、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲を所定の角度範囲に規制する機能を備えており、マグネットロータ部Mrに一端を固定したレバー状のストッパ12sと、このストッパ12sの回動角度範囲を規制する一方側と他方側に配設した一対の規制部12p,12qからなる。特に、
図1におけるストッパ機構部12は、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrを±15〔゜〕に設定した。
【0032】
次に、本実施形態に係るロータリソレノイド1の要部構成となる空隙部Gsについて、
図1-
図5を参照して具体的に説明する。
【0033】
前述したように、この種のロータリソレノイドの場合、通常、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqo間は、密着又は一体形成することにより磁気的なロスを低減している。
【0034】
一方、一定の目的の下に、磁気特性(回転トルク特性)を改善する観点からは変更の余地がある。そこで、今回、空隙部Gsの有無による影響について、その検証を行うとともに、特に、切換位置を三位置に設定する観点、更には省エネルギ性及び耐久性を高める観点から、空隙部Gsの間隔Lgの選定を行った。
【0035】
まず、非通電時の空隙部Gsの有無による影響について検証を行った。この検証はシミュレーションにより行ったものであり、
図4は、ロータリソレノイド1の空隙部Gsの間隔Lgをパラメータ、即ち、間隔Lg〔mm〕を、「0」,「0.1」,「0.2」,「0.3」,「0.4」,「0.5」として、非通電時の回動角度範囲「-90~+90〔゜〕」における回転トルクTr〔Nm〕のトルク値を求めた。
【0036】
図4から明らかなように、空隙部Gsの間隔Lgの大きさにより回動角度範囲に対する回転トルク特性が大きく変化する。具体的には、間隔Lg〔mm〕が比較的小さいとき、即ち、「0」と「0.1」〔mm〕の場合、回動角度が「-30~0〔゜〕」に変化するとき、回転トルクTr〔Nm〕は、負の値から「0」に変化し、さらに回動角度が「0~30〔゜〕」に変化するときは、回転トルクTr〔Nm〕は、0から正の値に変化する。これに対して、間隔Lg〔mm〕が比較的大きいとき、即ち、「0.2」,「0.3」,「0.4」,「0.5」〔mm〕の場合、回動角度が「-30~0〔゜〕」に変化するとき、回転トルクTr〔Nm〕は、正の値から「0」に変化し、かつ「0~30〔゜〕」に変化するときは、回転トルクTr〔Nm〕は、0から負の値に変化する。
【0037】
図5は、
図4の回動角度範囲「-60~60〔゜〕」を抽出して示すとともに、間隔Lg〔mm〕が、0.5〔mm〕(本実施形態)の場合と0〔mm〕(従来技術)を抽出して示す。
図5から明らかなように、非通電時の回転トルク特性Piは、空隙部が無いときの回転トルク特性Poに対して回転トルクTrの方向(作用方向)が逆方向になる。この傾向は、
図4に示す結果から間隔Lg〔mm〕が大きくなるに従って大きくなる。
【0038】
したがって、例示する本実施形態のロータリソレノイド1の場合、空隙部Gsの間隔Lg〔mm〕を「0.5」〔mm〕に選定すれば、最も効果的と考えられる。なお、「0.3」,「0.4」〔mm〕の場合も同様の傾向を示しており、少なくとも「0.3」-「0.5」〔mm〕の範囲での選定も可能である。また、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrは±30〔゜〕以内に設定することが望ましい。このように設定すれば、
図5からも明らかなように、本発明の有効な回動角度範囲Zrをカバーできるため、実施する観点から本発明の作用効果を享受できる安定性及び信頼性の高いロータリソレノイド1を得ることができる。
図5には、非通電時に加え、0.5〔A〕通電時の場合の回転トルク特性Pdiを求めたが、回動角度0〔゜〕付近において、0.04〔Nm〕の回転トルクが生じる点を除いて、その傾向は非通電時の場合と同じであった。図中、Pdoは、0.5〔A〕通電時における空隙部が無いときの回転トルク特性を示す。
【0039】
一般的な(従来の)ロータリソレノイドの場合、磁束の流れは、マグネット5m(N極)→コア部2cp→ヨーク本体部2m→コア部2cq→マグネット5m(S極)が主体となる。これに対して、本実施形態に係る空隙部Gs(磁気抵抗)を設けたロータリソレノイド1では、マグネット5m(N極)→コア部2cp→コア部2cq→マグネット5m(S極)に流れる磁束の量を増加させることができる。これにより、ヨーク本体部2msとコア部2cp,2cq間に流れる磁束とのバランス変化により、非通電時の回転トルク特性Piを変化させることができるものと想定される。
【0040】
次に、本実施形態に係るロータリソレノイド1の動作(作用)について、
図6-
図8を参照して具体的に説明する。
【0041】
まず、
図6に示すように、コイル部3p,3qに対して、順方向の通電を行えば、コア部2cpにS極が発生し、かつコア部2cqにN極が発生する。これにより、マグネット5mのS極がコア部2cqのN極に吸引され、かつマグネット5mのN極がコア部2cpのS極に吸引されるため、マグネットロータ部Mrの回動変位によりストッパ12sが一方の規制部12pに当接する。即ち、第一位置X1で停止する。
【0042】
一方、この状態で通電を解除、即ち、非通電状態にすれば、
図7に示すように、マグネットロータ部Mrの回動変位によりストッパ12sは、一方の規制部12pと12q間の中間位置で停止する。この場合、
図5に示す回転トルク特性Piに従って、コア部2cp,2cqの作用により、マグネットロータ部MrのN極はコア部2cpから離れる方向に変位するとともに、マグネットロータ部MrのS極はコア部2cqから離れる方向に変位し、回転トルクTrが0となる中間位置、即ち、第三位置X3で停止する。
【0043】
さらに、この状態で、コイル部3p,3qに対して、
図6に示した通電方向(順方向)に対して逆方向の通電を行えば、
図8に示すように、コア部2cpにN極が発生し、かつコア部2cqにS極が発生する。これにより、マグネット5mのS極がコア部2cpのN極に吸引され、かつマグネット5mのN極がコア部2cqのS極に吸引されるため、マグネットロータ部Mrの回動変位によりストッパ12sが他方の規制部12qに当接する。即ち、第二位置X2で停止する。
【0044】
なお、第一位置X1から第二位置X2に直接切換えたり、第二位置X2から第一位置X1に直接切換える場合には、従来のロータリソレノイドと同様に、通電方向を非通電状態にすることなく、順方向から直ちに逆方向へ切換え、又は逆方向から直ちに順方向へ切換えればよく、従来の場合と同様、二位置切換を行うことができる。
【0045】
このように、本実施形態に係るロータリソレノイド1によれば、基本構成として、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間を、空隙部Gsを介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部Gsの間隔Lgを、マグネットロータ部Mrに対して設定した回動角度範囲Zrにおける角度に対する非通電時の回転トルク特性Piが、空隙部が無いときの回転トルク特性Poに対して回転トルクTrの方向が逆方向になるように設定したため、非通電状態では回動角度範囲Zrにおける回転トルクTrが0となる回動角度の中間位置で停止させることができる。これにより、停止位置の位置数を三位置、即ち、回動角度範囲Zrの一端位置(第一位置X1),他端位置(第二位置X2),中間位置(第三位置X3)の三位置に設定することができる。この結果、停止位置を増やすための追加のロータリソレノイドは不要となり、大幅なコスト削減及び全体機構の大型化を回避することができる。
【0046】
また、起動時における印加電圧を低く設定することができるため、消費電力の低減化による省エネルギ化を促進できるとともに、発熱の抑制、更には回転トルク特性の安定化を図ることができる。しかも、終端付近におけるマグネットロータ部Mrの加速を低減できるため、終端の停止時に発生する衝撃力を抑制できるとともに、この衝撃力に伴う反力がマグネットロータ部Mr及び軸受孔部を有する端面部4s,4tを介してステータ部Ms側に伝達されるのを低減できるため、ロータリソレノイド1全体の耐久性を高めることができる。
【0047】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0048】
例えば、本発明において、ヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cqは、一組の意味であり、二組以上を含む場合を排除するものではない。また、実施形態では、空隙部Gsの間隔Lgとして、0.5〔mm〕に設定した場合を示したが、
図4に示すように、例示の場合、「0.3」,「0.4」〔mm〕の間隔Lgであっても同様の効果を得れることを確認できる。換言すれば、「0.2」〔mm〕以上であれば、任意の間隔Lgを選択することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係るロータリソレノイドは、ステータ部に通電することによりマグネットロータ部を所定の回動角度範囲で変位させる機能を有する各種タイプのロータリソレノイドに利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:ロータリソレノイド,2m:ヨーク本体部,2mi:ヨーク本体部の内周面,2cp:コア部,2cq:コア部,2cpo:磁気的接続面,2cqo:磁気的接続面,3p:コイル部,3q:コイル部,4:ケーシング部,4s:端面部,4t:端面部,11p:コイルボビン,11q:コイルボビン,11fp:充填樹脂部,11fq:充填樹脂部,12:ストッパ機構部,Ms:ステータ部,Mr:マグネットロータ部,Gs:空隙部,Lg:空隙部の間隔,Zr:回動角度範囲,Xc:中央位置,Tr:回転トルク,Pi:空隙部を設定した際の非通電時の回転トルク特性,Po:空隙部が無いときの非通電時の回転トルク特性,R:合成樹脂素材