(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/00 20060101AFI20250401BHJP
【FI】
E02D27/00 D
(21)【出願番号】P 2021137205
(22)【出願日】2021-08-25
【審査請求日】2024-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】村木 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】太田 和也
(72)【発明者】
【氏名】田村 正
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-138608(JP,A)
【文献】特開2010-150781(JP,A)
【文献】特開昭62-264231(JP,A)
【文献】特開2012-215038(JP,A)
【文献】特開平09-291589(JP,A)
【文献】特開2012-046894(JP,A)
【文献】特開平11-181880(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0271101(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0067699(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する鋼板からなる鋼板対の間にコンクリートが配される鋼板コンクリート構造
の柱となる構造体と、鉄筋コンクリート造の基礎と、の接合構造であって、
前記対向する鋼板それぞれに形成された貫通孔に、前記基礎の主筋が挿通され、
前記主筋どうしを接合する機械式継手
は、前記対向する鋼板の間の領域以外
である前記柱の外側であって、前記柱の近傍に
設けられている
鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造。
【請求項2】
前記鋼板は、他の部分に比べて厚みが厚い肉厚部を有し、
前記貫通孔は、前記肉厚部に形成されている
請求項1に記載の鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造。
【請求項3】
前記鋼板には、前記対向する鋼板で挟まれた領域に突出するリブが設けられている
請求項1または2に記載の鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造。
【請求項4】
前記鋼板対は、前記コンクリートの同一部分を交差する方向から挟む2対の鋼板対であり、
一方の前記鋼板対には、前記対向する鋼板で挟まれた領域に突出する前記リブが設けられ、
他方の前記鋼板対の前記対向する鋼板に挿通された前記主筋は、前記リブを貫通するように形成されている
請求項3に記載の鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼板コンクリート構造(SC構造)の柱脚を鉄筋コンクリート造の基礎に定着させる際に、柱脚を基礎の内部に埋め込む埋込柱脚とすると、基礎の主筋を回避することが困難であり、実施されていなかった(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「大林組技術研究所報」、No.62、2001、P43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
柱脚内に基礎の主筋を貫通させる構成を発明者が検討したところ、新たな施工手間が多くなるという問題点があることが判明した。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、施工手間を低減できる鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造は、対向する鋼板からなる鋼板対の間にコンクリートが配される鋼板コンクリート構造の壁もしくは柱となる構造体と、鉄筋コンクリート造の基礎と、の接合構造であって、前記対向する鋼板それぞれに形成された貫通孔に、前記基礎の主筋が挿通され、前記主筋どうしを接合する機械式継手を前記対向する鋼板の間の領域以外に備える。
【0007】
このように構成された鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造では、主筋の機械式継手が構造体の対向する鋼板の間の領域以外に配置されるため、構造体の鋼板に形成された貫通孔に挿通された基礎の主筋を構造体の近傍で機械式継手によって接続することができる。よって、基礎の主筋を構造体の鋼板に形成された貫通孔に挿通する構成であっても、施工手間を低減することができる。
【0008】
また、本発明に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造は、前記鋼板は、他の部分に比べて厚みが厚い肉厚部を有し、前記鋼板貫通孔は、前記肉厚部に形成されていてもよい。
【0009】
このように構成された鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造では、鋼板には他の部分に比べて厚みが厚い肉厚部が設けられているため、貫通孔による鋼板の欠損断面積を肉厚部で補うことができる。
【0010】
また、本発明に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造は、前記鋼板には、前記対向する鋼板で挟まれた領域に突出するリブが設けられていてもよい。
【0011】
このように構成された鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造では、鋼板には対向する鋼板で挟まれた領域に突出するリブが設けられているため、鋼板をリブによって補強することができる。
【0012】
また、前記鋼板対は、前記コンクリートの同一部分を交差する方向から挟む2対の鋼板対であり、一方の前記鋼板対には、前記対向する鋼板で挟まれた領域に突出する前記リブが設けられ、他方の前記鋼板対の前記対向する鋼板に挿通された前記主筋は、前記リブを貫通するように形成されていてもよい。
【0013】
このように構成された鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造では、主筋がリブを貫通するようにすることで、主筋とリブとの干渉を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造によれば、施工手間を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造を模式的に示した平面図である。
【
図3】鋼板に形成された貫通孔の部分を示す図であり、基礎の主筋の延在方向に沿う断面図である。
【
図4】鋼板に形成された貫通孔の部分を示す図であり、基礎の主筋の延在方向と直交する方向の断面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造を模式的に示した平面図である。
【
図6】検討対象の柱部材の柱脚の断面形状を示す図である。
【
図7】検討対象の柱部材の柱頭の断面形状を示す図である。
【
図8】コンクリートの応力度とひずみ度との関係を示す図である。
【
図9】鉄筋の応力度とひずみ度との関係を示す図である。
【
図13】各ケースの曲げモーメントと曲率との関係を示す図(全体図)である。
【
図14】各ケースの曲げモーメントと曲率との関係を示す図(拡大図)である。
【
図15】M
y無開口における軸ひずみ分布を示す図である。
【
図16】M
y無開口におけるコンクリートの軸応力度分布を示す図である。
【
図17】M
y無開口における鋼板の軸応力度分布を示す図である。
【
図18】埋込柱脚の曲げモーメント分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造を模式的に示した平面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造(以下、単に「接合構造」と称することがある)100は、柱(構造物)1と基礎3とを接合するものである。
【0017】
以下の説明において、後述する水平方向に沿い第1主筋31Aが延在する方向をX方向とする。水平方向に沿い第2主筋31Bが延在する方向をY方向とする。
【0018】
柱1は、鋼板コンクリート構造である。柱1は、断面視矩形状である。柱1は、柱外縁部10と、柱コンクリート部12と、を有する。
【0019】
柱外縁部10は、断面視略矩形(正方形)の管状をしている。柱外縁部10は、4枚の柱鋼板(鋼板)11を有している。4枚の柱鋼板11の端部は、接合されている。柱鋼板11は、板状に形成されている。柱鋼板11は、上下方向に延在している。柱鋼板11は、例えば厚さ32mm、幅4200mmの鋼板で形成されている。柱鋼板11の厚さ及び幅は、適宜設定可能である。なお、柱外縁部10は、4枚の柱鋼板11が一体となっている角管であってもよい。
【0020】
4枚の柱鋼板11のうち、X方向に沿う2枚の柱鋼板11を柱鋼板11A,11Bとし、Y方向に沿う2枚の柱鋼板11を柱鋼板11C,11Dとする。柱鋼板11Aと柱鋼板11Bと(鋼板対)は、Y方向に対向して配置されている。柱鋼板11Aの板厚方向及び柱鋼板11Bの板厚方向は、Y方向を向いている。柱鋼板11Cと柱鋼板11Dと(鋼板対)は、X方向に対向して配置されている。柱鋼板11Cの板厚方向及び柱鋼板11Dの板厚方向は、X方向を向いている。
【0021】
図2は、X方向に沿う縦断面図である。
図2に示すように、柱1の下部11dは、基礎3に埋め込まれている(埋込柱脚)。柱1のうち基礎3に埋め込まれた部分を、柱埋込部15と称する。
【0022】
柱コンクリート部12は、柱外縁部10の内部に充填されたコンクリートで形成されている。
【0023】
柱埋込部15において、柱鋼板11の内面11aには、柱1の内部に向かって突出する肉厚部16が設けられている。肉厚部16は、柱鋼板11の他の部分に比べて厚みが厚くなっている。肉厚部16が設けられている箇所において、柱鋼板11と肉厚部16とを合わせて増厚部16aとする。増厚部16aの厚さは、例えば48mm程度であるが、適宜設定可能である。肉厚部16の上下方向の長さは、例えば650mm程度であるが、後述する主筋31の上下方向の本数等に応じて適宜設定可能である。
【0024】
図3は、貫通孔18の部分を示す図であり、後述する主筋31の延在方向に沿う断面図である(後述するスタッドボルト26,27の図示を省略している)。
図3に示すように、肉厚部16の上下端部には、テーパー部17が形成されている。上側のテーパー部17は、上方に向かうにしたがって次第に厚みが薄くなるように形成されている。下側のテーパー部17は、下方に向かうにしたがって次第に厚みが薄くなるように形成されている。テーパー部17の傾斜は、例えば1/3以下であることが好ましい。テーパー部17の上下方向の長さは、例えば70mmであるが、適宜設定可能である。
【0025】
柱鋼板11には、肉厚部16が設けられている部分の上下方向の中間に、柱鋼板11及び肉厚部16を貫通する貫通孔18が形成されている。
【0026】
図4は、貫通孔18の部分を示す図であり、後述する主筋31の延在方向と直交する方向の断面図である。
図4に示すように、貫通孔18は、上下方向に長い長孔である。貫通孔18の上下方向の長さは、例えば290mm程度であるが、適宜設定可能である。肉厚部16が設けられていることで、貫通孔18による欠損断面積を補うことができる。
【0027】
図1に示すように、柱鋼板11の内面11aには、柱1の内部に向かって突出するリブ21が設けられている。リブ21は、柱鋼板11の板面と直交する方向に突出している。リブ21は、柱鋼板11の幅方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0028】
図2に示すように、リブ21は、柱鋼板11の柱埋込部15及び柱埋込部15の上側の範囲にわたって設けられている。肉厚部16の上下端部には、テーパー部22が形成されている。上側のテーパー部22は、上方に向かうにしたがって次第に柱鋼板11からの突出幅が短くなるように形成されている。下側のテーパー部
22は、下方に向かうにしたがって次第に柱鋼板11からの突出幅が短くなるように形成されている。例えば、リブ21の厚さは32mm程度であるが、リブ21の厚さは適宜設定可能である。リブ21が設けられていることで、柱鋼板11が補強される。
【0029】
柱鋼板11の内面11aには、スタッドボルト26が設けられている。スタッドボルト26は、柱鋼板11の上下方向の略全長に設けられている。
図1に示すように、スタッドボルト26は、柱鋼板11の幅方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0030】
図2に示すように、柱埋込部15では、柱鋼板11の外面11bには、スタッドボルト27が設けられている。スタッドボルト27は、柱鋼板11の柱埋込部15の上下方向の略全長に設けられている。スタッドボルト27は、柱鋼板11の幅方向に間隔をあけて複数設けられている(
図1では、スタッドボルト27の図示を省略している)。
【0031】
基礎3は、鉄筋コンクリート構造である。基礎3は、複数の主筋31と、基礎コンクリート部36と、を有する。
【0032】
図1に示すように、主筋31のうち、X方向に延びる主筋31を第1主筋31Aとし、Y方向の延びる主筋31を第2主筋31Bとする。
【0033】
第1主筋31Aは、Y方向に間隔をあけて複数配置されている。第1主筋31Aは、上下方向に間隔をあけて複数配置されている。本実施形態では、第1主筋31Aは、上下方向に間隔をあけて3本配置されているが、本数は適宜設定可能である。
【0034】
第2主筋31Bは、X方向に間隔をあけて複数配置されている。第2主筋31Bは、上下方向に間隔をあけて複数配置されている。本実施形態では、第2主筋31Bは、上下方向に間隔をあけて3本配置されているが、本数は適宜設定可能である。
【0035】
主筋31のうち、主筋31の軸線方向上にリブ21がある主筋31Cには、柱1の外側で屈曲部34が設けられている。主筋31Cは、屈曲部34で折り曲げられて、隣接する主筋31の上方及び下方のいずれか一方に配置されている。これによって、主筋31Cは、リブ21を回避している。
【0036】
主筋31は、主筋31の延在方向に延びる鉄筋32と、鉄筋32どうしを接合する機械式継手33と、を有する。鉄筋32には、D38の鉄筋が採用されているが、鉄筋の種類は適宜採用可能である。
【0037】
機械式継手33は、対向する柱鋼板11の間の領域以外に配置されている。機械式継手33は、柱1の外側であって、柱1の近傍、例えば柱1から300mmに配置されている。機械式継手33は、カプラーを用いた継手等周知の構成である。
【0038】
図2に示すように、基礎コンクリート部36は、平板状に形成されている。基礎コンクリート部36は、コンクリートが基礎3の略全領域に充填されて形成されている。主筋31は、基礎コンクリート部36の上部に埋設されている。
【0039】
図3及び
図4に示すように、3本の主筋31は、柱鋼板11の貫通孔18の内部に挿通されている。3本の主筋31は、貫通孔18の上縁及び下縁と隙間をあけて配置されている。
【0040】
このように構成された接合構造100によれば、主筋31の機械式継手33が柱1の外側であって柱1近傍にあるため、柱1の鋼板11に形成された貫通孔18に挿通された基礎3の主筋31を柱1の近傍で機械式継手33によって接続することができる。よって、基礎3の主筋31を柱1の鋼板11に形成された貫通孔18に挿通する構成であっても、施工手間を低減することができる。
【0041】
また、鋼板11には他の部分に比べて厚みが厚い肉厚部16が設けられているため、貫通孔18による鋼板11の欠損断面積を肉厚部16で補うことができる。
【0042】
また、一つの貫通孔18に複数の主筋31を挿通するため、一の貫通孔に一の主筋31を挿通するよりも、施工性が良い。
【0043】
また、柱1の鋼板11の内面11aには内方に突出するリブ21が設けられているため、鋼板11をリブ21によって補強することができる。
【0044】
また、主筋31が折り曲げられてリブ21を回避させることによって、主筋31とリブ21との干渉を防止することができる。
【0045】
また、埋込柱脚は露出柱脚及び根巻柱脚に比べ、柱周囲にアンカーボルト及び根巻コンクリートが不要である。よって、大断面の柱1において、平面的な自由度を確保し、柱脚の回転剛性が高い構造を実現することができる。
【0046】
また、埋込柱脚は露出柱脚及び根巻柱脚に比べ、柱埋込部15の鋼板量が増加するが、アンカーボルト及びベースプレートが削減されるため、工程及びコストを削減することができる。
【0047】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係る鋼板コンクリート構造の構造体と鉄筋コンクリート造の基礎との接合構造について、主に
図5図面を用いて説明する。なお、上述の第一実施形態と同一又は同様な部材及び部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
【0048】
本実施形態に係る接合構造100Aでは、リブ21Aには、リブ21Aの板厚方向に貫通するリブ貫通孔28が形成されている。リブ貫通孔28は、例えば貫通孔18と同様に、上下方向に長い長孔である。リブ貫通孔28には、リブ21Aの突出する方向と直交する方向に延在する主筋31が挿通されている。
【0049】
このように構成された接合構造100Aによれば、主筋31の機械式継手33が柱1の外側であって柱1近傍にあるため、柱1の鋼板11に形成された貫通孔18に挿通された基礎3の主筋31を柱1の近傍で機械式継手33によって接続することができる。よって、基礎3の主筋31を柱1の鋼板11に形成された貫通孔18に挿通する構成であっても、施工手間を低減することができる。
【0050】
また、リブ貫通孔28に主筋31が挿通されることによって、主筋31とリブとの干渉を防止することができる。
【0051】
次に、補強厚さ(肉厚部16の厚さ)の検証結果を説明する。
検討方法は、マットスラブの上端主筋が貫通する断面(以下、「主筋貫通断面」と呼称)を対象に、平面保持仮定に基づく断面解析を実施し、軸力を考慮した設計用曲げモーメントに対する主筋貫通部の鋼板の引張軸ひずみを評価して、必要な補強厚さを把握する。ここで、軸力およびせん断力については、検討を省く。
【0052】
<検討条件>
(検討方針と検討ケース)
地震時にタービン発電機架台頂部とタービン建屋が接触、または衝突することを回避するためには、地震荷重に対するタービン発電機架台の発生応力を概ね弾性範囲内(弱非線形)に収めることが、設計する上で重要である。この場合、柱脚の最大曲げモーメントは、柱部材(柱1)の降伏曲げモーメント以下が妥当といえる。そこで、主筋貫通孔(貫通孔18)の無い断面及び補強鋼板(肉厚部16)を考慮した主筋貫通断面の両ケースについて、降伏曲げモーメントを作用させたときの断面解析を実施し、鋼板(柱鋼板11)の引張軸ひずみに着目して、主筋貫通部の健全性および裕度を確認する。
【0053】
下記の表1に、検討ケースを示す。
【0054】
【0055】
主筋貫通孔のない断面(ケース1)について、柱部材の降伏曲げモーメント(以下、「My無開口」と呼称)を算定する。次に、主筋貫通孔を考慮し、補強鋼板厚さの異なるケース2~4の3ケースについて、曲げモーメントと曲率との関係(M-φ関係)及びMy無開口を作用させたときの断面内のひずみ分布を算定し、My無開口に対する適切な補強厚さを検討する。断面解析に用いるソフトは、任意の部材形状についてM-φ関係、断面内のひずみ及び応力度分布を算定できる「Magewool(自社開発プログラム)」とする。
【0056】
(検討対象断面)
検討対象の断面は、
図6、
図7及び下記の表2に示す柱断面とする。マットスラブの上端主筋は、既往のタービン建屋のマットスラブの配筋から3割程度割り増して、2-D38@200とする。主筋貫通孔は、主筋径に対して施工性を考慮しφ60mm@200とする。
【0057】
【0058】
(材料物性値)
コンクリート及び鋼板の応力度-ひずみ度関係は、
図8及び
図9に示すバイリニア型の非線形特性を考慮し、下記の表3及び表4に示す材料物性値を与える。なお、本検討では、コンクリートの引張は考慮せず、鉄筋の引張強度の割り増し(1.1倍)は考慮しない。
【0059】
【0060】
【0061】
(解析モデル)
解析モデルを
図10に示す。柱の側面部は主筋貫通孔の断面欠損を考慮し、柱の内部は、現実には主筋が格子状に配置されるが、保守的にコンクリートのみとする。数値解析では、
図11及び
図12に示すように圧縮縁から引張縁までを200分割したファイバーモデルとして柱断面をモデル化する。
【0062】
(解析方法)
1.解析方法
平面保持を仮定した断面解析は、曲率をゼロから終局点に至るまで漸増載荷し、M-φ関係を算出する手法である。断面に生じる曲げモーメントは、初期条件として中立軸を原点に仮定し、断面に生じる軸ひずみ、軸応力、断面力及び断面内の不釣合い力を順に求め、不釣合い力がほぼゼロとなるように中立軸をシフトする収束計算によって算定される。
【0063】
2.初期応力
初期軸力は、既往の1C1の終局強度検定時軸力を参考に、圧縮力として24000kNを与える。
【0064】
3.降伏点と終局点の判定
降伏点の判定は、鋼板の引張側縁応力が降伏強度に達する時点とする。
終局点の判定は、鋼板の引張縁または圧縮縁応力が破断ひずみに達する時点、またはコンクリートの圧縮縁応力が終局ひずみに達する時点のうち、曲率が小さい時点とする。
【0065】
<解析結果>
ケース1からケース4のM-φ関係の算定結果を
図13及び
図14に示す。図中の破線は、M
y無開口を示す。また、M
y無開口における各ケースの鋼板引張縁の軸ひずみを下記の表5に示す。M
y無開口における軸ひずみ分布および軸応力度分布を
図15~
図17に示す(Y座標は、圧縮側を正とする)。
【0066】
【0067】
図13及び
図14から、ケース2(増厚なし)では、終局曲げモーメントがM
y無開口より小さく、M
y無開口を負担できないため、鋼板の増厚補強が必要である。ケース3及びケース4(鋼板を増厚)では、終局曲げモーメントがM
y無開口より大きいため、M
y無開口を負担できる。表4によれば、M
y無開口における鋼板引張縁の軸ひずみ(ε)は、ケース3及びケース4共に破断ひずみ(εu)に比べて十分小さい。主筋貫通孔のないケース1の引張軸ひずみ(降伏ひずみに相当)に対する両ケースのそれとのひずみ比(塑性率に相当)は、ケース3で0.95、ケース4で1.39であり、共に1.4未満である。
【0068】
以上のことから、設計用曲げモーメントが柱部材の降伏曲げモーメント以内であれば、鋼板を増厚補強したケース3及びケース4共に、貫通孔周辺部は健全であり、十分な裕度が確保できるといえる。
【0069】
<検討結果による所見>
主筋貫通断面を対象に、平面保持仮定に基づく断面解析を実施し、軸力を考慮した設計用曲げモーメントに対する主筋貫通部の鋼板の引張軸ひずみに着目して、必要な補強厚さを検討した。以下に、検討結果から、得られた知見および所見を記す。
【0070】
(主筋貫通断面の終局曲げモーメント)
実際の埋込柱脚部の応力分布は複雑であるが、主筋貫通断面の健全性を確認する限りでは、下記の理由から本評価で求めた断面欠損した柱断面自体の終局曲げモーメントを、柱脚の終局曲げモーメントとして扱うことは安全側と考えられる。
・いずれのケースも、終局曲げモーメントは、コンクリートの圧縮縁における圧壊時で決まっているが、SC造柱の内部コンクリートにはCFT造柱と同様に鋼板による拘束圧が期待されるため、実際には内部コンクリートの圧縮強度増加が期待できること。
・柱脚の曲げモーメントは、埋め込まれた柱自体の耐力と、柱周囲のコンクリートによる支圧力が複合的に負担しているが、本検討では支圧力を無視していること。
【0071】
(鋼板の増厚補強)
埋込柱脚の曲げモーメント分布は、文献1(日本建築学会:鋼管構造設計施工指針 同解説、1990.1及び文献2(日本建築学会:鋼構造接合部設計指針、2012.3)によれば
図18に示されるようにマット天端からやや埋め込まれた位置で最大となる。本検討で対象としたマット上端主筋レベル付近では、設計で用いる応力よりやや増した応力が生じるため、裕度を担保しておく必要がある。
【0072】
本検討で、鋼板断面積を0.9倍相当(ケース4)に増厚することで、My無開口に対して健全性を担保できることを確認したが、前述の裕度を担保するため、母材と同等以上の鋼板断面積を確保できるよう増厚することが工学的に適切な判断といえる。
【0073】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0074】
例えば、上記に示す実施形態では、鋼板コンクリート構造の構造体として柱1を例に挙げて説明したが、これに限られない。鋼板コンクリート構造の構造体は耐震壁等の壁であってもよい。
【0075】
上記に示す実施形態では、貫通孔18に3本の主筋31を挿通する構成であるが、鋼板11に複数の貫通孔を形成して、貫通孔に主筋を1本ずつ挿通する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…柱(構造体)
3…基礎
11…柱鋼板(鋼板)
11a…内面
12…柱コンクリート部
16…肉厚部
18…貫通孔
21,21A…リブ
28…リブ貫通孔
31…主筋
31A…第1主筋
31B…第2主筋
32…鉄筋
33…機械式継手
100,100A…接合構造