IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人先端医療振興財団の特許一覧

<>
  • 特許-身体機能回復促進剤 図1
  • 特許-身体機能回復促進剤 図2
  • 特許-身体機能回復促進剤 図3
  • 特許-身体機能回復促進剤 図4
  • 特許-身体機能回復促進剤 図5
  • 特許-身体機能回復促進剤 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】身体機能回復促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20250401BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250401BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250401BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/10
A61P25/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021569757
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020044082
(87)【国際公開番号】W WO2021140773
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020001657
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 明彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 優子
(72)【発明者】
【氏名】沖中 由佳
(72)【発明者】
【氏名】福島 雅典
(72)【発明者】
【氏名】山中 敦夫
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/034023(WO,A1)
【文献】実開平07-007419(JP,U)
【文献】登録実用新案第3215859(JP,U)
【文献】国際公開第2018/139583(WO,A1)
【文献】特開2013-172689(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174087(WO,A1)
【文献】特開2015-159895(JP,A)
【文献】国際公開第2005/007176(WO,A1)
【文献】特表2016-506954(JP,A)
【文献】日本臨床(増刊) 最新臨床脳卒中学(上) Vol.72, suppl.5 ,第72巻,株式会社日本臨牀社,2014年,第469-472頁
【文献】CHEN, Der-Cherng et al.,Intracerebral implantation of autologous peripheral blood stem cells in stroke patients: a randomize,Cell Transplantation,2014年01月29日,Vol.23,pp.1599-1612
【文献】高木 康志,脳虚血における神経幹細胞研究の歴史と現状,脳循環代謝,2015年,Vol.26,pp.113-117
【文献】IMURA, Takeshi et al.,Interactive effects of cell therapy and rehabilitation realize the full potential of neurogenesis in,Neuroscience Letters,2013年,Vol. 555,pp. 73-78
【文献】TAGUCHI, A. et al.,Intravenous Autologous Bone Marrow Mononuclear Cell Transplantation for Stroke: Phase1/2a Clinical Trial in a Homogeneous Group of Stroke Patients,Stem Cells Dev.,2015年,24(19):2207-18,<doi: 10.1089/scd.2015.0160>
【文献】KUMAR, A. et al.,Bone marrow mononuclear cell therapy in ischaemic stroke: a systematic review,Acta Neurol Scand.,2017年,135(5):496-506,<doi: 10.1111/ane.12666>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
A61P 9/10
A61P 25/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳梗塞の後遺症状態にある被験者の血管内に投与され、中枢神経と末梢神経との間の双方向性フィードバックを促す身体運動の効果を促進する身体機能回復促進のための血管内投与製剤であって、
骨髄単核球細胞を含むことを特徴とする身体機能回復促進のための血管内投与製剤。
【請求項2】
前記骨髄単核球細胞は、静脈投与されることを特徴とする請求項1に記載の血管内投与製剤。
【請求項3】
前記身体運動は、
前記被験者に対して動力を付与するアクチュエータを有する動作補助装着具と、
前記被験者の生体信号を検出する生体信号センサと、
前記被験者の神経伝達信号及び筋電位信号を、前記生体信号センサにより検出された生体信号から取得する生体信号処理手段と、
前記生体信号処理手段により取得された神経伝達信号及び筋電位信号を用い、前記被験者の意思に従った動力を前記アクチュエータに発生させるための指令信号を生成する随意的制御手段と、
前記随意的制御手段により生成された指令信号に基づいて、前記神経伝達信号に応じた電流及び前記筋電位信号に応じた電流をそれぞれ生成し、前記アクチュエータに供給する駆動電流生成手段と、を備える動作補助装置にて行うことを特徴とする請求項1に記載の血管内投与製剤。
【請求項4】
前記動作補助装置が前記被験者の運動意図を計測し、実際の運動と理想的運動とのずれを直しながらフィードバック調整するとともに、前記被験者も実際の動作と理想的運動とのずれを感覚し、ずれの変量が最少になるように運動をフィードバック調整することを特徴とする請求項3に記載の血管内投与製剤。
【請求項5】
前記血管内投与製剤は、前記身体運動の開始時の4週間前から前記身体運動開始時まで期間に前記被験者に投与されることを特徴とする請求項1に記載の血管内投与製剤。
【請求項6】
前記脳梗塞は、ラクナ梗塞、アテローム血栓症脳梗塞、又は、心原性脳塞栓症の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の血管内投与製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体機能が不可逆的に低下している状態にある被験者の身体機能に対して実施される、脳および末梢神経の両者に協調して刺激を与える身体運動の効果を促進する、身体機能回復促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経と末梢神経とは単独で活動するものではなく、障害時においても互いに密接な連絡を取り、影響を及ぼし合っている。例えば脊髄損傷者において、脳神経細胞は下肢を動かそうとするシグナルを出すものの、下肢が動いたというフィードバックが帰ってこないため、脳神経細胞は「下肢は動かない」と学習する。また、末梢神経は脳からの刺激が来ないため、「下肢を動かす必要がない」と学習し、互いの悪影響が蓄積・固定され身体機能が不可逆的に低下し、後遺症(病気・怪我など急性期症状が治癒した後も、機能障害などの症状や傷痕が残ること。)が生じる。すなわち、脊髄損傷の後遺症はインタラクティブ・バイオ・フィードバック機構が欠如した状態にあるといえる。インタラクティブ・バイオ・フィードバックとは、人の脳および神経系と筋骨格および末梢神経系の間で生じる「双方向の生体フィードバック」のことである。脊髄損傷の後遺症に対しては、欠損しているインタラクティブ・バイオ・フィードバックが促されることにより、患者の神経機能が改善することが示されつつある。例えば、HAL(Hybrid Assistive Limb)と呼ばれる電子装具を使用するサイバニクス治療は、脳神経細胞からの極微弱な下肢運動に関する神経活動をHALが関知し、機械的に下肢を動かす。HALは脊損の急性期には使用されることはほとんどないが、後遺症を有する脊損患者にHALを用いることで、脳神経細胞は「下肢は動く」と学習し、末梢神経は「下肢を動かす必要がある」と学習する。すなわち、中枢神経と末梢神経の間でインタラクティブ・バイオ・フィードバックが促され、神経機能の回復に繋がる。HAL医療用下肢タイプ(医療用HAL)は生体信号反応式運動機能改善装置として製造され、2015年11月に医療器機承認されており、HAL医療用下肢タイプによる歩行運動治療により、ALS、筋ジストロフィー等に対する24%程度の運動能力の改善効果を認められ、インタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく治療は、神経・筋疾患に対して効果的であることが証明された。しかし、インタラクティブ・バイオ・フィードバックに基づく身体運動の神経機能回復作用はそれだけでは不十分であり、それをより向上かつ持続させる併用治療が切望されている。例えば、インタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく身体運動の神経機能回復作用を促進する可能性のある薬剤としてNusinersenが挙げられており、インタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく身体運動との併用による神経機能回復作用が期待されている。
【0003】
脳梗塞の後遺症治療においても、インタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく身体運動の神経機能回復が期待されている。脳梗塞の後遺症に対して一般的に行なわれている処置は、機能維持リハビリテーションと呼ばれており、機能低下を防ぐことにより家庭生活や社会生活を維持・継続することを目的に実施されている。すなわち、機能維持リハビリテーションは、既に低下している神経機能の現状維持が目標であるため、身体を動かすことだけに重点が置かれており、身体を動かすことに伴う神経伝達の強化を促すインタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づくものではない。
【0004】
急性期脳梗塞により障害された神経組織の再生には、造血幹細胞を用いた細胞治療が有効であることが判明している。非特許文献1には、自己の骨髄由来単核球細胞を患者の静脈内に投与する急性期の脳梗塞治療が記載されている。この非特許文献1では、重症の心原性脳塞栓症症例で、且つ脳梗塞発症10日以内において神経機能回復が十分でない患者群を対象としており、局所麻酔身麻酔下で骨髄細胞の採取を行い、比重遠心法を用いて単核球分画の分離を行い、そして静脈内に投与する治療が記載されている。しかしながら造血幹細胞投与の治療時期に関する検討では、脳梗塞後2,4,7,10日及び14日後の急性期および亜急性期に対しては治療効果を示すものの、脳梗塞の後遺症に対しては治療効果がないとされている(非特許文献2)。また、非特許文献3においては、発症18日後(平均)における、脳梗塞患者への造血幹細胞投与による細胞治療が行なわれ、一般的なリハビリテーションも併用されたが、その治療効果が全くないことが報告されている。このように脳梗塞により失われた機能を回復させるための治療法は急性期のみに限られており、後遺症に対する治療法は存在しない。そのため、脳梗塞患者の後遺症に対してインタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく身体運動の神経機能回復作用を促進する身体機能回復促進剤の実現が期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Taguchi A et al. Intravenous Autologous Bone Marrow Mononuclear Cell Transplantation for Stroke: Phase1/2a Clinical Trial in a Homogeneous Group of Stroke Patients. Stem Cells Dev. 2015 Oct 1;24(19):2207-18
【文献】Uemura M, et al. Cell-based therapy to promote angiogenesis in the brain following ischemic damage. Curr Vasc Pharmacol. 2012 May;10(3):285-8.
【文献】Prasad K et al. Intravenous autologous bone marrow mononuclear stem cell therapy for ischemic stroke: a multicentric, randomized trial. Stroke. 2014 Dec;45(12):3618-24.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、身体機能が不可逆的に低下している状態にある被験者の身体機能に対して実施される、脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動の効果を促進する、身体機能回復促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる身体機能回復促進剤は、運動機能、認知機能及び/又は感覚機能である身体機能が低下している状態にある被験者の身体機能を回復するための中枢と末梢を協調させる身体運動の効果を促進する身体機能回復促進剤であって、骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞を有することを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる身体機能回復促進剤は、脳梗塞の後遺症により、運動機能、認知機能及び/又は感覚機能である身体機能が低下している状態にある被験者の身体機能を回復するため、中枢と末梢を協調させる身体運動の効果を促進する身体機能回復促進剤であって、骨髄単核球細胞を有することを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる身体機能回復促進剤は、脳梗塞の後遺症により、運動機能、認知機能及び/又は感覚機能である身体機能が低下している状態にある被験者の身体機能を回復するための身体運動の効果を促進する身体機能回復促進剤であって、CD34陽性細胞を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】骨髄単核球投与時の受動回避試験の結果を示す図である。
図2】骨髄単核球投与時のワイヤハング試験の結果を示す図である。
図3】CD34陽性細胞投与時のワイヤハング試験の結果を示す図である。
図4】骨髄単核球投与時の水迷路試験の結果を示す図である。
図5】CD34陽性細胞投与時の水迷路試験の結果を示す図である。
図6】骨髄単核球投与時のロータロッドの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本発明にかかる身体機能回復促進剤は、骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞を有しており、身体機能が低下している状態にある被験者の身体機能を回復するための身体運動の開始の前後に被験者に投与される。本発明にかかる身体機能回復促進剤は、骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞を有する細胞製剤であるが、その解決課題は身体機能が低下している状態にある被験者の身体機能を回復するため、中枢と末梢を協調させる身体運動の効果を促進するところにあり、細胞製剤の解決課題としては新規である。更に本発明にかかる細胞製剤は、身体運動の開始の前後に被験者に投与されるという使用態様が新規である。本発明細胞製剤における細胞は、単離細胞又は培養細胞のいずれのものでも使用可能である。
【0013】
身体機能は、運動機能、認知機能及び/又は感覚機能である。
【0014】
運動機能とは、筋力、持久力、敏捷性、平衡性、瞬発力、及び/又は柔軟性についての人の機能である。
【0015】
認知機能とは、理解力、判断力、計算力、思考力、見当識、記憶、及び/又は学習についての人の機能である。
【0016】
感覚機能とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚、及び/又は、触覚についての人の機能である。
【0017】
本発明にかかる身体機能回復促進方法は、(i)中枢と末梢を協調させる身体運動の開始時までの期間に、骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞の何れかを投与する工程と、(ii) 中枢と末梢を協調させる身体運動を行う工程を有することを特徴とする。
【0018】
中枢と末梢とは連関している。身体機能が低下している状態にある被験者が身体機能を回復するための身体運動を行う際に、骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞を被験者に投与することにより身体機能を飛躍的に向上かつ維持させることを本発明者は新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。身体機能が低下している状態にある被験者にインタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく身体運動を行う際にも、骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞を被験者に投与することでインタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく身体運動の効果を飛躍的に向上させることができる。
【0019】
本発明においては、特に限定されるものではないが骨髄単核球細胞は静脈投与されることが好ましい。また、特に限定されるものではないがCD34陽性細胞やCD133陽性細胞は、総頸動脈、内頚動脈、前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈又は椎骨動脈に投与されることが好ましく、中でも総頚動脈又は椎骨動脈に投与されることが好ましい。
【0020】
被験者に投与されるCD34陽性細胞又はCD133陽性細胞は、特に限定されるものではなく、臍帯血由来細胞、ヒト骨髄由来細胞、ヒト末梢血由来細胞、胎児肝臓由来等が採用されるが、好ましくはヒト臍帯血由来細胞又はヒト末梢血由来細胞である。
【0021】
被験者に投与される骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば5×104個/kg~1×107個/kgとすることができ、好適には1×105個/kg~1×106個/kgであり、特に好適には5×105個/kgである。例えば、骨髄単核球細胞を静脈内投与する場合は5×10個/kgが好ましく、CD34陽性細胞を動脈内投与する場合は5×10個/kgが好ましく、CD133陽性細胞を動脈内投与する場合は5×10個/kgが好ましく、臍帯血単核球細胞を動脈内投与する場合は5×10個/kgが好ましい。
【0022】
幹細胞は、特に限定されるものではないが、例えばES細胞、EC細胞、EG細胞、iPS細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、臍帯血幹細胞、骨髄幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、脂肪幹細胞、歯髄幹細胞又はMUSE細胞である。
【0023】
被験者が行う身体機能を回復するための身体運動は、体力の向上を目的として計画的・意図的に実施し、継続性のある身体活動であり、好ましくはインタラクティブ・バイオ・フィードバック理論に基づく身体運動である。
【0024】
被験者の身体機能の低下は、例えば虚血性疾患によるものである。
【0025】
虚血性疾患は、特に限定されるものではないが、例えば、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈バイパス術後のグラフト閉塞、経皮的冠動脈形成術後の冠動脈閉塞、血行再建術後の血管閉塞、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎、本態性血小板血症、血栓性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群及び川崎病の中から選択されるいずれかの疾患である。虚血性疾患は例えば脳性麻痺である。脳性麻痺は例えば新生児低酸素性虚血性脳症、早産児ビリルビン脳症等に起因する。虚血性疾患は、好ましくは脳梗塞の後遺症である。脳梗塞の場合、発症から例えば6カ月後には症状が固定していると考えられており、発症から例えば6カ月経過後に残存する神経機能障害を脳梗塞の後遺症として捉えている。一方、マウスでは脳梗塞モデル作製後例えば4週間がヒトの脳梗塞発症6カ月後と同じ時期に相当すると考えられている。この時期は、症状がほぼ固定されて維持リハビリテーションを実施するとともに再発予防が中心となる期間であり、細胞壊死や組織の瘢痕化が見られる病態である。脳梗塞の後遺症治療として造血幹細胞を投与しても、細胞投与単独での治療効果は低い。また脳梗塞後遺症に対して行われるリハビリテーションは機能を維持するためのものであり、失われた機能が回復することは期待できない。しかしながら、骨髄単核球細胞、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞又は幹細胞が脳梗塞後遺症を有する患者に投与されると、脳梗塞の後遺症に対して末梢と中枢を協調させる身体運動の効果が促進される。投与される細胞は好ましくは骨髄単核球細胞又はCD34陽性細胞である。骨髄単核球細胞は好ましくは静脈投与され、CD34陽性細胞は好ましくは総頚動脈又は内頚動脈投与される。
【0026】
本発明にかかる身体機能回復促進剤は、脳梗塞後遺症に対し、身体運動の開始前、開始時、又は、開始後に被験者に投与されるが、例えばその投与時期は身体運動の開始時の6週間前、4週間前、2週間前、1週間前、3日前、開始時、3日後、1週間後、又は、2週間後の時点から任意の2点を選択した期間内であり、好ましくは身体運動開始時の4週間前から身体運動の開始時までの期間である。
【0027】
対象となる脳梗塞は、ラクナ梗塞、アテローム血栓症脳梗塞、又は心原性脳塞栓症のいずれの場合でも好適に使用される。
【0028】
また、被験者の身体機能の低下は、例えば神経難病によるものである。
【0029】
神経難病は、特に限定されるものではないが、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症、進行性核上性麻痺、多発性硬化症、脊髄空洞症、ギランバレー症候群、脊髄性筋萎縮症、又は、重症筋無力症の何れかである。
【0030】
また、被験者の身体機能の低下は、例えば認知症によるものである。
【0031】
認知症は、特に限定されるものではないが、例えば、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、皮質基底核変性症、脳血管性認知症、ダウン症、又は、ハンチントン病である。
【0032】
また、被験者の身体機能の低下は、例えば自閉症によるものである。
【0033】
また、被験者の身体機能の低下は、例えば発達障害又は行動障害によるものである。
【0034】
また、被験者の身体機能の低下は、例えば脊髄損傷によるものである。
【0035】
また、被験者の身体機能の低下は、疾患に起因するものではなく被験者が高齢者である場合における老化による身体機能の低下状態の改善にも適用される。高齢者は特に限定されるものではないが例えば60歳以上であり、好ましくは70歳以上であり、より好ましくは75歳以上95歳以下である。
【0036】
本発明においては、身体機能回復促進剤は、更に、神経栄養因子を含有することも可能である。神経栄養因子は、特に限定されるものではないが、例えば、VEGF、アンジオポエチン(angiopoietin)、PDGF、TGF-β、FGF, PlGF、マトリックスメタロプロテアーゼ、プラスミノーゲンアクチベータ等を使用することができる。なお造血幹細胞を末梢血中に動員する作用のある薬剤(顆粒球コロニー刺激因子[granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF])の投与は避けることが望ましい。なぜならばG-CSFの投与では骨髄からの顆粒球動員に伴い脳萎や神経機能の低下が引き起こされることがあるからである。
【0037】
本発明にかかる身体機能回復促進剤を注射用製剤とする場合は、当技術分野で通常使用されている添加剤を適宜用いることができる。添加剤としては、例えば、等張化剤、安定化剤、緩衝剤、保存剤、キレート剤、抗酸化剤、又は溶解補助剤等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール等の糖類、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。安定化剤としては、例えば亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等が挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコール、クロロクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体等が挙げられる。
【実施例
【0038】
1-1.脳梗塞後遺症モデルマウスの作製
脳梗塞モデル(特許第4481706号)は下記の手法で作成した。7週齢の重症複合免疫不全マウス(SCIDマウス;C.B-17/Icr-scid/IcidJcl)をイソフルラン麻酔により全身麻酔し、左頬骨部よりアプローチして左中大脳動脈に直達できるよう頭蓋底に1.5mm程度の穿孔を行った。嗅索を通過した直後(嗅索交差部の遠位側)の左中大脳動脈を、バイポーラ電気メスを用いて凝固させ、凝固後切断することにより、左中大脳動脈を永久に閉塞し、左中大脳動脈領域の皮質に限局する脳梗塞モデルを作製した。本モデルマウスは、脳梗塞作製から4週間後の慢性期に相当する時期においても神経機能障害が残存していたことから、脳梗塞の後遺症モデルマウスとして用いた。なお、脳梗塞作製後は5匹ずつを1ケージで飼育し、軽度ではあるが互いに常に一定の神経刺激が与えられる状態を維持した。それにより筋肉の廃用性筋萎縮などが予防され、一般的な機能維持リハビリテーション治療を全てのマウスがうけていると考えられる状態で飼育した。
【0039】
1-2.投与細胞の準備
投与細胞の準備は以下の方法で行った。骨髄単核球については、マウス大腿骨及び脛骨より骨髄液を採取し、骨髄細胞懸濁液を比重遠心液であるFICOLL液に重層し、スイングロータ式遠心機を用いて600gで20分間遠心した。比重遠心液層の直上に観察される単核球細胞分画をパイペットで採取した。CD34陽性細胞については、GCSF動員ヒト末梢血をStem express社より購入し、CliniMACS Systemを用いて分離したCD34陽性細胞を用いた。
【0040】
1-3.細胞投与
骨髄単核球細胞については、上記に記した脳梗塞後遺症モデルマウスに、1x105個のマウス由来骨髄単核球細胞を尾静脈より投与した(細胞治療群,6匹)。また、比較例として、PBSを尾静脈より投与した脳梗塞後遺症モデルマウスを用いた(PBS群,6匹)。CD34陽性細胞については、脳梗塞後遺症モデルマウスに、1x104個のヒト末梢血CD34陽性細胞を頸動脈より投与した(細胞治療群,9匹)。比較例としては、脳梗塞後遺症モデルマウスに、PBSを尾静脈より投与した群を用いた(PBS群,8匹)。
【0041】
1-4. 脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動、および脳神経機能試験
脳神経機能試験では、脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄細胞を静脈投与した細胞治療群と、脳梗塞後遺症モデルマウスにPBSを静脈投与したPBS群、更に無処置群 (no surgery群,6匹) を比較した。また、インタラクティブ・バイオ・フィードバック理論を具現化するHAL電子装具は、ヒト用のみが存在し、マウスに装着可能な装具が存在しないため、脳および末梢神経の両者に協調して刺激を与える身体運動を用いた。
【0042】
1-4-1. 受動回避試験
脳神経機能試験として受動回避試験 (passive avoidance test)を行った。受動回避試験ではメルクエスト社のTMS-2装置を改良し受動的回避実験装置として使用した。明室と暗室のつながった装置であり、明室寸法及び暗室寸法はともに120(w)×120(D)×135(H)であった。動物が明室から暗室に入った際に電気刺激を与えることにより、暗室への進入とショックの恐怖を関連づけて記憶させる試験(受動的回避試験)に使用する装置である。装置の明室側にマウスを入れ、その10秒後に扉を開け、暗室への移動を可能にし、マウスが暗室に移動後に扉を閉め、10秒後に電気刺激(20mA, 3秒間)を加えた。暗室への侵入と電気刺激による痛みである恐怖を関連づけて記憶させ、動物が嫌悪刺激(電気刺激)に対する記憶を取得させた。24時間後に再び明室に入れ、明室に留まった時間(秒)を確認した。
【0043】
図1に示すように、no surgeryマウスでは平均100秒であった。また脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにPBSを静脈投与し、その後ワイヤハング試験および水迷路試験に記載した脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動をせず、静脈投与後2週間の時点でスコア計測したところ平均38秒であった(図1ではMCAOと表記)。PBS群はno surgery群と比較して記憶学習能力の有意な低下が確認された。脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄単核球細胞を静脈投与し、その後試験運動をせず、静脈投与後2週間の時点でスコア計測したところ平均75秒であった(図1ではMCAO+BMと表記)。細胞投与群はPBS群と比較して統計学的な有意差はなかった。
【0044】
以上の結果より、脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄単核球細胞を静脈投与し、静脈投与後2週間の時点のスコアと、脳梗塞後遺症モデルマウスにPBSを静脈投与した群の、投与後2週間時点におけるスコアとの間に有意差がないことが判明した。すなわち、骨髄単核球細胞を投与しても、脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動無き場合、脳梗塞後遺症モデルマウスにおける脳神経機能向上効果がないことが判明した。
【0045】
1-4-2. ワイヤハング試験
脳神経機能試験としてワイヤハング試験 (wire hang test) を行った。ワイヤハング試験では、1cm幅の網目を有する30cm×30cmの金網の中心にマウスを乗せた。金網を逆さまにひっくり返して、床敷きを深くしたオープンケージから約40cmの高さに設置した支持台に置いた。マウスが金網から落ちるまでの時間を計測し、落ちずにしがみついたままの場合は180秒を測定値とした。この試験は落下の恐怖に関する刺激を脳に与え、金網へのしがみつき運動と強く関連づけさせることにより、脳および末梢神経の両者に同時に刺激を与えた。
【0046】
脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにPBSを静脈投与し、その後試験運動を継続し、静脈投与後2週間及び8週間の時点でスコア計測した(図2ではMCAOと表記)。また脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄単核球細胞を静脈投与し、その後試験運動を継続し、静脈投与後2週間及び8週間の時点でスコア計測した(図2ではMCAO+BMと表記)。
【0047】
図2に示すように、投与前の時点では、細胞治療群、PBS投与群のいずれもno surgery群と比較して有意な差を示した。静脈投与後2週間の時点において、PBS群はno surgery群と比較して運動機能の有意な低下が確認された。しかしながら細胞投与群はPBS群と比較して運動機能の回復が見られた。3度目の試験となる静脈投与後8週間の結果では、細胞投与群はno surgery群と比較して同レベルまで機能回復を示し、細胞投与群はPBS群と比較して統計学的に有意差を示した。一方のPBS群はno surgery群と比較して運動機能の有意な低下が確認された。
【0048】
以上の結果より、脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄単核球細胞を静脈投与した群では、脳および末梢神経の両者に協調して刺激を与える身体運動の繰り返しにより、脳梗塞後遺症モデルマウスにおける脳神経機能向上効果を示すことが判明した。
【0049】
CD34陽性細胞においては、脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにCD34陽性細胞を動脈内投与した。その後試験運動を継続し、投与後2週間及び8週間の時点でスコア計測、脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにPBS投与した群と比較した(図3において、PBS投与群はMCAO + PBS、CD34陽性細胞投与群はMCAO + CD34 iaと表記)。図3に示すように、静脈投与後2週間の時点において、CD34陽性細胞投与群はPBS群と比較して有意差は見られ無いもののスコアの上昇は確認された。投与後8週間ではPBS群との間に有意な差が確認された。
【0050】
投与後8週間における投与前から変化量を計測したところ、CD34陽性細胞投与群の平均値は33.16、PBS群は2.28で、CD34陽性細胞投与群は投与前から有意に増加していた(p=0.0136)。
【0051】
以上の結果より、脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにCD34陽性細胞を動脈内投与した群は、脳および末梢神経の両者に協調する刺激を与える身体運動の繰り返しにより、脳梗塞後遺症における脳神経機能向上効果を示すことが判明した。
【0052】
1-4-3.水迷路試験
試験1
脳神経機能試験として水迷路試験 (water maze test) を行った。水迷路試験は、円形のプールに水をはり、マウスが避難できる足場を水面下1cm程度の場所に作り、マウスが避難場所に到達するまでの時間 (秒) を測定することで行った。この試験では、溺水に関する刺激を脳に与え、空間認知および水泳運動と強く関連づけさせることにより、脳および末梢神経の両者に同時に刺激を与えた。
【0053】
図4に示すように、脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにPBSを静脈投与し、その後脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動をせず、静脈投与後4週間の時点でスコア計測したところ、PBS群1日目(身体運動前)の平均値は53秒であった (図4ではMCAO+PBSと表記)。脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄単核球細胞を静脈投与し、その後試験運動をせず、静脈投与後4週間の時点でスコア計測したところ、細胞治療群1日目(身体運動前)の平均値は49秒であった(図4ではMCAO+BMと表記)。No surgery群では、1日目(身体運動前)の平均は22秒であった (図4ではno surgeryと表記)。
【0054】
統計解析の結果、細胞治療群とPBS群の差のP値は0.65であり、有意差はなかった。また、細胞治療群とno surgery群の差のP値は0.002であり有意差があった。また、PBS群とno surgery群の差のP値は0.0004であり有意差があった。すなわち、骨髄単核球細胞を投与しても、脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動無き場合、脳梗塞後遺症に対する脳神経機能向上効果がないことが判明した。
【0055】
脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにPBSを動脈内投与し、その後試験運動をせず、動脈投与後4週間の時点でスコア計測した(図5)。PBS群1日目(運動前)の平均値は50.9秒であった (図5ではMCAO + PBSと表記)。脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスにCD34陽性細胞を動脈投与し、動脈投与後4週間の時点でスコア計測したところ、細胞治療群1日目(運動前)の平均値は47.6秒であった(図5ではMCAO + CD34 iaと表記)。
【0056】
統計解析の結果、細胞治療群とPBS群の間に、有意差はなかった。すなわち、CD34陽性細胞を動脈内投与しても、脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動無き場合、脳梗塞後遺症における脳神経機能向上効果がないことが判明した。
【0057】
試験2
脳梗塞後遺症モデルマウスに対する、脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動の効果の検討を行なった。すなわち、水迷路試験装置を用いて水の入った円形のプールで毎日水迷路試験を行い、脳梗塞により障害された運動機能及び記憶力の向上、すなわち脳および末梢神経の両者に協調した刺激を与える身体運動を2、3、4日目に行なった。
【0058】
脳梗塞後遺症モデルにPBSまたは骨髄単核球細胞を投与したマウスに対し、脳および末梢神経の両者に協調して刺激を与える身体運動効果の検討を行なった。
【0059】
PBS群においては5日目(運動後)の平均値は35秒であった。1日目(運動前)との比較の統計解析を行い、訓練による治療効果が有るか否かの判定を行なった。その結果、P値が0.11と訓練の前と後で有意差はなく、PBS投与群において脳梗塞後遺症における脳および末梢神経の両者に協調して刺激を与える身体運動は、脳神経機能を向上させることができないことが判明した。
【0060】
骨髄単核球細胞群においては、5日目(運動後)の平均値は8秒であった。1日目(運動前)との比較の統計解析を行い、訓練による治療効果が有るか否かの判定を行なった。その結果、P値が0.00025と訓練の前と後では有意差な短縮が観察され、骨髄単核球細胞群においては、脳梗塞後遺症における脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動は、脳神経機能を有意に向上かつ持続させることが、判明した(図4)。
【0061】
次に、5日目(運動後)における各群の比較検討を行なった。その結果、細胞治療群とPBS群の差のP値は0.04であり、統計学的に有意な脳神経機能の向上が観察された。また、細胞治療群とno surgery群の差のP値は0.95であり、有意な差は観察されなかった。また、PBS群とno surgery群の差のP値は0.02であり有意差があった(図4)。
【0062】
脳梗塞後遺症モデルマウスにPBSを投与した群、及び脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄単核球細胞を投与した群について、脳および末梢神経の両者に協調して刺激を与える身体運動の効果の検討を行なった。
【0063】
CD34陽性細胞においては、脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動を目的とした訓練を行うなかで、ゴールへの到達時間が徐々に短くなる傾向を示した(図5)。したがって、CD34陽性細胞の動脈内投与は、脳梗塞後遺症モデルマウスにおける脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動は、脳神経機能を有意に向上させることが、判明した。
【0064】
試験1と試験2の結果より、(i)脳梗塞後遺症モデルマウスにおける骨髄単核球投与又はCD34陽性細胞のみでは一般的な身体運動が与えられている状態では脳神経機能改善効果がない、(ii)脳梗塞後遺症モデルマウスにおける脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動のみでは脳神経機能改善効果がない、(iii)脳梗塞後遺症モデルマウスにおける骨髄単核球投与又はCD34陽性細胞投与を行なうことにより、脳梗塞後遺症モデルマウスにおける脳および末梢神経の両者に協調して刺激を与える身体運動の治療効果が出現することが判明した。すなわち、骨髄単核球投与又はCD34陽性細胞投与が脳梗塞後遺症における脳および末梢神経の両者に刺激を与える身体運動の効果を促進することが判明した。
【0065】
1-4-4. ロータロッド試験
試験1
脳神経機能試験としてロータロッドテスト(回転棒テスト:rotarod test)を採用した。ロータロッドテストは、マウスの協調運動と平衡感覚を測定するためのテストである。装置はMK630A(室町機器株式会社)を用いた。300秒間で4 rpm~40 rpmにロッドの回転が加速するように装置をプログラムして、マウスを装置の回転棒に乗せてから落ちるまでの時間(秒)を記録した。
【0066】
下記図6に示すように、脳梗塞作製後4週間の脳梗塞後遺症モデルマウスに骨髄単核球細胞を静脈投与し、静脈投与後8週間の時点でスコア計測したところ、細胞治療群 (図6ではMCAO+BMと表記)の1日目(運動前)の平均は170秒、PBS投与群(図6ではMCAO+PBSと表記)の1日目(運動前)の平均は148秒、no-surgery群の1日目(運動前)の平均は198秒を示した。細胞投与群とPBS群の比較では統計学的な有意差はなかった。すなわち、骨髄単核球細胞を投与しても、脳および末梢神経の両者に協調する刺激を与える身体運動無き場合、脳梗塞後遺症における脳神経機能向上効果がないことが判明した。
【0067】
試験2
脳梗塞後遺症における脳および末梢神経の両者に協調した刺激を与える身体運動として、2日目、3日目、4日目に、全ての群においてロータロッドテストに使用する装置を用いて毎日5分間の運動訓練を実施した。すなわち、マウスを回転棒に乗せ、回転棒から落下後も再び回転棒へ戻すことにより、落下の恐怖や嫌悪感を脳に与え、協調運動及び平衡感覚の機能向上と強く関連づけさせることにより、脳および末梢神経に協調した刺激を与える運動を3日間実施した。
【0068】
5日目(運動後)のロータロッドテストのスコアは、細胞治療群では平均223秒であり、PBS群では平均176秒であった。統計解析の結果スコア差のP値は0.01であり有意差はあった。
【0069】
試験1と試験2の結果より、(i)脳梗塞後遺症において、骨髄単核球の投与のみ、または一般的な身体運動が与えられているだけでは脳神経機能への改善効果がない、(ii)脳梗塞後遺症において骨髄単核球投与を行なうことにより、脳梗塞後遺症における脳および末梢神経の両者に協調した刺激を与える運動の治療効果が出現することが判明した。すなわち、骨髄単核球投与が脳梗塞後遺症における脳および末梢神経の両者に同時に刺激を与える運動効果を促進することが判明した。
【0070】
以上、骨髄単核球の投与により脳梗塞後遺症における脳および末梢神経の両者に同時に刺激を与える運動の効果が促進されていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
脳および末梢神経の両者に刺激を与え、中枢と末梢を協調させる身体運動の効果を促進する治療に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6