(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】心拍間隔検出システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20250401BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20250401BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20250401BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20250401BHJP
A61B 7/04 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
A61B5/0245 100E
A61B5/02 350
A61B5/08
A61B5/113
A61B7/04 Q
(21)【出願番号】P 2022003208
(22)【出願日】2022-01-12
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】程 帆
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-075136(JP,A)
【文献】特開2015-188525(JP,A)
【文献】特開2012-157558(JP,A)
【文献】特開2017-012366(JP,A)
【文献】特開2013-034670(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0106038(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0296228(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/06-5/398
A61B 7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者(100)の第一心音および第二心
音を検出するためのセンサ部(1)と、
前記センサ部により検出された
前記第一心音に基づく第一心音波形と、前記センサ部により検出された前記第二心音に基づく第二心音波形と、を抽出する心音波形抽出部(21,22)と、
前記第一心音波形と前記第二心音波形とのうちから、心拍間隔を取得するために使用する波形である使用心音波形を、
前記第一心音波形と前記第二心音波形との振幅の大きさに関連する情報である振幅関連情報に基づき、切り替えて選択する選択部(28)と、
前記選択部において選択された前記使用心音波形から算出された前記心拍間隔を取得する取得部(29)と、
を備える心拍間隔検出システム。
【請求項2】
前記センサ部は、前記第一心音および前記第二心音を検出する両心音検出センサ(11)を有し
、
前記振幅関連情報は、前記第一心音波形の振幅値を含み、
前記選択部は、前記使用心音波形として、
前記第一心音の振幅値が閾値以上であるときは前記第一心音波形を選択し、前記第一心音の振幅値が前記閾値より小さいときは前記第二心音波形を選択する、請求項1に記載の心拍間隔検出システム。
【請求項3】
前記閾値は、前記第一心音と同じ拍動を形成する前記第二心音の振幅値と同一値に設定される請求項2に記載の心拍間隔検出システム。
【請求項4】
前記センサ部は、前記第一心音を検出するための第一心音検出センサ(12)と、前記第一心音検出センサとは別に設けられ前記第二心音を検出するための第二心音検出センサ(13)と、を含んで構成され、
前記心音波形抽出部は、前記第一心音検出センサにより検出された前記第一心音に基づく
前記第一心音波形と、前記第二心音検出センサにより検出された前記第二心音に基づく
前記第二心音波形と、を抽出する、請求項
1に記載の心拍間隔検出システム。
【請求項5】
被検者(100)の第一心音および第二心音のうち、少なくとも一つを含む複数の心音を検出するためのセンサ部(1)と、
前記センサ部により検出された前記複数の心音に基づく複数の心音波形を抽出する心音波形抽出部(21,22)と、
前記複数の心音波形のうちから、心拍間隔を取得するために使用する波形である使用心音波形を、前記心音波形の振幅の大きさに関連する情報である振幅関連情報に基づき、切り替えて選択する選択部(28)と、
前記選択部において選択された前記使用心音波形から算出された前記心拍間隔を取得する取得部(29)と、を備え、
前記センサ部は、前記第一心音および前記第二心音のうち少なくとも一つの心音を検出する複数のセンサにより構成され、
前記センサ部は、
前記第一心音および前記第二心音を検出するための第1両心音検出センサ(14)と、
前記第1両心音検出センサとは別に設けられ、振幅変動が前記第1両心音検出センサにより検出される心音とは逆の特性となる前記第一心音および前記第二心音、を検出するための第2両心音検出センサ(15)と、を含んで構成され、
前記心音波形抽出部は、
前記第1両心音検出センサにより検出された心音に基づく第一心音波形および第二心音波形と、前記第2両心音検出センサにより検出された心音に基づく第一心音波形および第二心音波形と、を抽出し、
前記選択部は、前記使用心音波形として、
前記第1両心音検出センサにより検出された心音に基づく
前記第一心音波形および
前記第二心音波形のうちいずれかと、前記第2両心音検出センサにより検出された心音に基づく
前記第一心音波形および
前記第二心音波形のうちいずれかと、を選択する
、
心拍間隔検出システム。
【請求項6】
前記センサ部により検出された生体振動信号から呼吸波形を抽出する呼吸波形抽出部(23)、をさらに備え、
前記振幅関連情報は、前記呼吸波形を含み、
前記選択部は、前記呼吸波形抽出部により抽出された前記被検者の前記呼吸波形に基づいて前記使用心音波形を選択する、請求項1~請求項
5のうちいずれか一項に記載の心拍間隔検出システム。
【請求項7】
前記センサ部により検出された生体振動信号から呼吸波形を抽出する呼吸波形抽出部(23)と、
前記センサ部により検出された生体振動信号から心弾道波形を抽出する心弾道波形抽出部(24)と、
前記センサ部により検出された生体振動信号から脈波形を抽出する脈波形抽出部(25)と、
前記心音波形抽出部により抽出された前記複数の心音波形、前記呼吸波形抽出部により抽出された前記呼吸波形、前記心弾道波形抽出部により抽出された前記心弾道波形、および前記脈波形抽出部により抽出された前記脈波形、のうち複数の波形における関係性を用いて、前記心音波形に基づく前記心拍間隔を真値に近づくように補正する学習処理を行う学習処理部(30)と、
をさらに備え、
前記取得部は、前記学習処理部により補正された前記心拍間隔を取得する、請求項1~請求項
6のうちいずれか一項に記載の心拍間隔検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、心拍間隔検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の呼吸活動や心臓の拍動による振動等を振動センサで検出し、人の健康状態を24時間検出できるようにした装置が知られている。例えば、特許文献1には、振動センサによって検出した心音の音波や、心弾動又は脈波の振動から、人の心拍数又は心拍間隔を算出する生体振動信号検出装置が記載されている。検出した心拍間隔情報から、疲労や眠気、ストレス、覚醒、自律神経状態をモニタリングすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のように人の健康状態を精度良くモニタリングするためには、心拍間隔精度が平均5ms以下程度の高い精度が求められるところ、上記装置では、その実現には至っていなかった。本開示は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、精度良く心拍間隔を算出することが可能な心拍間隔検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、心拍間隔検出システムが提供される。心拍間隔検出システムは、被検者の第一心音および第二心音を検出するためのセンサ部(1)と、前記センサ部により検出された前記第一心音に基づく第一心音波形と、前記センサ部により検出された前記第二心音に基づく第二心音波形と、を抽出する心音波形抽出部(21,22)と、前記第一心音波形と前記第二心音波形とのうちから、心拍間隔を取得するために使用する波形である使用心音波形を、前記第一心音波形と前記第二心音波形との振幅の大きさに関連する情報である振幅関連情報に基づき、切り替えて選択する選択部(28)と、前記選択部において選択された前記使用心音波形から算出された前記心拍間隔を取得する取得部(29)と、を備える。
【0007】
この構成によれば、選択部により、心拍間隔を取得するために使用する使用心音波形が、複数の心音波形の振幅の大きさに関連する情報である振幅関連情報に基づいて切り替えて選択される。そして、取得部により、使用心音波形から算出された心拍間隔が取得される。1種類の心音波形のみを継続的に使用心音波形として心拍間隔を取得する場合と比較して、本構成によれば、例えば、振幅関連情報として、心音波形の振幅値の大きさや呼吸状態等の状況に応じて、複数の心音波形から適切な使用心音波形を適宜選択できる。このため、精度良く心拍間隔を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態における心拍間隔検出システムの機能的構成を示す概略ブロック図である。
【
図3】心拍間隔検出システムが実行する心拍間隔の検出処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】第一心音心拍間隔および第二心音心拍間隔における、心電心拍間隔からのずれ量をグラフに示す図である。
【
図5】本開示の第2実施形態における心拍間隔検出システムが実行する、心拍間隔の検出処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】被検者の背中に振動センサを配置した場合の、吐き出し後の状態における心音波形を示す図である。
【
図7】被検者の背中に振動センサを配置した場合の、吸い込み後の状態における心音波形を示す図である。
【
図8】心電波形、心音波形、心弾道波形、および脈波形を示す図である。
【
図9】学習処理部による学習処理を説明する図である。
【
図10】本開示の第3実施形態における心拍間隔検出システムの機能的構成を示す概略ブロック図である。
【
図11】本開示の第3実施形態における心拍間隔検出システムが実行する、心拍間隔の検出処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】本開示の第4実施形態における心拍間隔検出システムの使用態様および概念を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、複数の実施形態について図面に基づいて説明する。
A.第1実施形態:
A1.心拍間隔検出システム101の構成:
本開示の第1実施形態の心拍間隔検出システム101について、
図1~
図4を参照して説明する。第1実施形態の心拍間隔検出システム101は、被検者の生体振動信号の一種である第一心音および第二心音から、心拍間隔を検出するものである。一般的に、心拍計測において心電図法が最も信頼性があるとされるが、心電図法では、体表面に直接電極を貼り付ける必要があり、測定中はケーブルで拘束されてしまう。医療目的などで心拍の状態を測定することが主目的であれば信頼性を優先して拘束されることを容認できると考えられる。しかし、心拍の信号から感情やストレス状態などを測定し、例えば自動車運転中のドライバを被検者とするときなど、より広い用途に展開する場合には、ケーブル等に拘束されるということは好ましくない。
【0010】
本開示の心拍間隔検出システム101は、被検者のストレスの増加を抑えつつ、被検者の疲労や眠気、ストレス、覚醒状況、自立神経状態等を精度良くモニタリングするために、心音から心拍間隔を検出する。以下、システムの構成から順に詳細に説明する。
図1に示すように、心拍間隔検出システム101は、センサ部1と、信号処理部2と、出力部3と、を備えている。
【0011】
センサ部1は、単一の生体振動信号検出センサ11(以下、単に「振動センサ11」という)を有している。振動センサ11は、生体から発生した振動を示す信号である生体振動信号および、生体振動信号に基づいて取得可能な心音、呼吸、心弾道、脈などを測定する。振動センサ11は、取得した信号を信号処理部2に送信する。振動センサ11は、生体振動信号を検出するために非常に微小な信号(例えばμVの電圧)についても検出できる高感度のものを採用することが好ましい。
【0012】
振動センサ11は、心臓内における機械的振動または音響振動を含む心臓の心音情報を検出する。心臓内における機械的振動または音響振動は、心臓の弁の開閉によりもたらされる、または心臓内へ流入する、もしくは心臓から流出する血液の移動によりもたらされる、振動センサ11は、具体的には、加速度計、マイクロフォン、ダイヤフラム等のセンサを含むことができる。振動センサ11は、被検者の例えば心臓近くの部位に装着されて使用され、被検者を拘束することなく振動信号を測定可能である。振動センサ11の外見としては、薄いシート状などであることが装着性能上好ましい。第1実施形態の振動センサ11は、一つのセンサで第一心音と第二心音を検出する「両心音検出センサ」に相当する。
【0013】
信号処理部2は、第一心音波形抽出部21と、第二心音波形抽出部22と、呼吸波形抽出部23と、心弾道波形抽出部24と、脈波形抽出部25と、第一心音振幅値取得部26と、第二心音振幅値取得部27と、使用心音波形選択部28と、心拍間隔取得部29と、学習処理部30と、を備えている。信号処理部2は、中央処理装置(CPU)や、RAM、ROMにより構成されたマイクロコンピュータ等からなり、予めインストールされたプログラムを中央処理装置が実行することによって、上記各部の機能を実現する。ただし、これらの各部の機能の一部又は全部をハードウェア回路で実現してもよい。
【0014】
第一心音波形抽出部21は、生体振動信号から第一心音の音波に基づく第一心音波形を抽出し、併せて心拍タイミングを検出する。心音は、心臓の拍動に伴って発生する音であり、気体、液体、固体の媒質を介して伝播する弾性波である。正常時においては、心音は、心室収縮期の初めに左右の房室弁が閉鎖するために発生する第一心音と、心室収縮期の直後に大動脈弁と肺動脈弁が閉鎖するために発生する第二心音とからなる周期信号である。一般的に、第一心音は低調で長く、第二心音は高調で短い。第一心音から第二心音までの期間が心臓の収縮期であり、第二心音から次の周期の第一心音までの期間が心臓の拡張期である。
【0015】
図2において心音波形として示すように、第一心音から次の第一心音までの期間又は第二心音から次の第二心音までの期間が心拍間隔HRI(Heart Rate Interval)に相当し、1分間の第一心音の数又は第二心音の数が心拍数に相当する。本実施形態では、各心音に基づく心拍間隔を区別するため、第一心音に基づくX番目の心拍間隔を「第一心音心拍間隔HRIbx」とし、第二心音に基づくX番目の心拍間隔を「第二心音心拍間隔HRIcx」とする。なお、特に第一心音と第二心音とを区別することのない心拍間隔については単に「心拍間隔HRI」ともいう。また、
図2において心電図波形におけるX番目の心拍間隔を心電心拍間隔HRIaxとする。
【0016】
第二心音波形抽出部22は、生体振動信号から第二心音の音波に基づく心音波形を抽出し、併せて心拍タイミングを検出する。呼吸波形抽出部23は、生体振動信号から呼吸情報を示す波形を抽出する。呼吸の周波数は、第一心音の周波数よりさらいに低い。心弾道波形抽出部24は、生体振動信号から心弾道波形を抽出し、併せて心拍タイミングを検出する。
【0017】
心弾道波形は、心臓により拍出される血液の勢いに起因する振動の波形である。脈波形抽出部25は、生体振動信号から脈波形を抽出し、併せて心拍タイミングを検出する。脈波形は、脈動する血流による血管の容積変化に起因する波形である。なお、各抽出部21,22,23,24,25は、ノイズとなる信号を除去する処理を適宜行うことが好ましい。例えば、信号の強度を適度に強調処理した後、所定の周波数範囲の通過域を有するフィルタを通過させてもよい。
【0018】
第一心音振幅値取得部26は、第一心音波形から、拍動ごとの心拍タイミング時における第一心音の振幅値を取得する。第二心音振幅値取得部27は、第二心音波形から、拍動ごとの心拍タイミング時における第二心音の振幅値を取得する。以下、抽出された波形のうち、X番目の第一心音の振幅値を「第一心音振幅値Abx」と表記し、X番目の第二心音の振幅値を「第二心音振幅値Acx」と表記する。
【0019】
使用心音波形選択部28は、複数の心音波形のうちから、心拍間隔を取得するために使用する波形である使用心音波形を、心音波形の振幅の大きさに関連する情報である振幅関連情報に基づき、切り替えて選択する。本実施形態では、使用心音波形選択部28は、第一心音波形と第二心音波形のうちいずれかを、使用心音波形として選択する。第一心音振幅値Abxは、「振幅関連情報」に相当する。なお、使用心音波形を選択する処理手順については後述する。
【0020】
心拍間隔取得部29は、使用心音波形選択部28において選択された使用心音波形から算出された心拍間隔を取得する。本実施形態では、この心拍間隔取得部29において、使用心音波形選択部28により選択された使用心音波形から心拍間隔を算出する。なお、心拍間隔の算出は、使用心音波形を選択する前に行ってもよい。心拍間隔取得部29により取得された心拍間隔の情報は、出力部3に出力される。出力部3は、心拍間隔の情報を保管および適宜更新する。また、出力部3を、画像表示や音声出力が可能な装置を含んで構成し、心拍間隔の情報を画像表示したり、異常な心拍間隔を検知したときに音声出力したりしてもよい。なお、心音、呼吸、心弾道、および脈は、それぞれ周波数帯域が異なるため、単一の振動センサ11で全ての情報を取得することができる。
【0021】
学習処理部30は、複数の心音波形、呼吸波形、心弾道波形、および脈波形、のうち複数の波形における関係性を用いて、心音波形に基づく心拍間隔を真値に近づくように補正する学習処理を行う。学習処理の詳細については後述する。
【0022】
A2.心拍間隔検出システム101による心拍間隔検出処理:
次に、上記説明した心拍間隔検出システム101が実行する心拍間隔検出の処理手順について説明する。
図3に示される処理は、所定時間ごと、または、心拍間隔検出システム101での処理に応じて適宜繰り返し実行される。
図3に示すように、ステップ10(以下、ステップを「S」と略す)において、振動センサ11により測定される振動信号が、信号処理部2により受信される。次に、S20において、振動信号に基づいて、第一心音波形および第二心音波形が抽出される。具体的には、第一心音波形抽出部21により第一心音波形が抽出され、第二心音波形抽出部22により第二心音波形が抽出される。
【0023】
そして、S30において、第一心音波形および第二心音波形におけるそれぞれの心拍タイミングが検出される。具体的には、第一心音波形抽出部21により第一心音における心拍タイミングが検出され、第二心音波形抽出部22により第二心音における心拍タイミングが検出される。
【0024】
次に、S40において、第一心音および第二心音の振幅値が取得される。具体的には、第一心音振幅値取得部26により第一心音振幅値Abxが取得され、第二心音振幅値取得部27により第二心音振幅値Acxが取得される。そして、S50において、使用心音波形選択部28により、第一心音振幅値Abxが閾値以上であるか否かが判断される。この判断は、1拍動ごとに判断される。
【0025】
閾値は、例えば、被検者の標準的な第一心音振幅値の下限値として予め実験等により決定される値であってよい。または、閾値は、取得した第一心音波形から得られる最大振幅値の一定割合値(例えば80%等)に設定してもよいし、1拍動を共に構成する第二心音振幅値Acxと同一値を閾値としてもよい。
【0026】
第一心音振幅値Abxが閾値以上である場合には(S50:YES)、S60に進み、心拍間隔取得部29により第一心音心拍間隔HRIbxが算出される。一方、第一心音振幅値Abxが閾値より小さい場合には(S50:NO)、S70に進み、心拍間隔取得部29により第二心音心拍間隔HRIcxが算出される。S60およびS70の後には、S80において、算出された心拍間隔HRIbx、HRIcxが出力部3に出力される。S80の処理の後、本処理ルーチンは終了する。
【0027】
上記S50での判断処理について、例を用いて詳しく説明する。上記したように、第一心音および第二心音とで、一つの拍動が形成される。以下、この拍動を時系列順に、すなわち
図2において左から順に、第一拍動、第二拍動、第三拍動・・・という。
図2に示す例では、第一心音振幅値Abxのうち、第3拍動の第一心音振幅値Ab3が閾値より小さく、それ以外の第一心音振幅値Abxは閾値以上である。
【0028】
この場合、使用心音波形選択部28は、使用心音波形として、第一拍動から第二拍動間に相当する第1番目の心拍間隔の検出については第一心音波形を選択し、第二拍動から第三拍動間に相当する第2番目および、第三拍動から第四拍動間に相当する第3番目の心拍間隔の検出については第二心音波形を選択する。よって、結果的に採用される心拍間隔としては、時系列の順に、第一心音心拍間隔HRIb1、第二心音心拍間隔HRIc2、第二心音心拍間隔HRIc3、第一心音心拍間隔HRIb4、・・・となる。
【0029】
上述したように、第一心音は第二心音と比較して、基本的には低周波に強度を持っており、振幅値も大きいため、第一心音波形を使用心音波形のベースとすることが好ましい。振幅値が大きいほど、小さい場合と比較して、電子ノイズやその他の外乱の影響により発生する大きな波形との誤検出の虞が小さいためである。しかし、呼吸の状態やその他の予期せぬ外乱を受けたときなど、第一心音を一応検出はできるけれども、一時的に第一心音の検出精度が低くなった場合には、第二心音波形を使用心音波形とすることにより、より精度を向上させることができる。このため、本実施形態では、第一心音振幅値Abxが閾値以上であるかの判断結果に応じて、使用心音波形を第一心音と第二心音とで適宜切り替えて選択している。
【0030】
A3.第二心音心拍間隔HRIcxの補正処理:
次に、学習処理部30による第二心音心拍間隔HRIcxの補正処理について説明する。
図4において、横軸は時間であり、縦軸は、心電心拍間隔HRIaxからのずれ量ΔHRIを示している。
図4において、第一心音心拍間隔HRIbxにおけるずれ量ΔHRIを黒丸印で示し、第二心音心拍間隔HRIcxにおけるずれ量ΔHRIを白丸印で示している。また、心拍間隔取得部29により取得された心拍間隔HRIbx、HRIcxについてのずれ量ΔHRIを、時間経過方向に実線で繋いである。
【0031】
図4に示すように、時間T0~T1および時間T2以降では、第一心音波形が使用心音波形として選択されており、時間T1~T2では、第二心音波形が使用心音波形として選択されている。時間T1~T2は、第一心音振幅値Abxが閾値より小さい領域である。時間T0~T1および時間T2以降は、第一心音振幅値Abxが閾値以上であり十分に大きい領域である。学習処理部30は、例えば周知の機械学習モデルを用いて、第一心音振幅値Abxが十分に大きい領域における第一心音心拍間隔HRIbxを真値とし、第二心音心拍間隔HRIcxを真値に近づける学習を行う。そして、時間経過に伴い、第二心音心拍間隔HRIcxの精度を第一心音心拍間隔HRIbxと同程度の精度に近づける。
【0032】
学習処理部30による学習により補正されたデータは、心拍間隔取得部29に送信される。心拍間隔取得部29は、第二心音波形が使用心音波形として選択された場合には、補正処理された第二心音心拍間隔HRIcxを取得する。これにより、第二心音心拍間隔HRIcxを選択した区間における精度を向上させることができる。
【0033】
[効果]
(1)上記第1実施形態の心拍間隔検出システム101では、第一心音振幅値Abxが閾値以上であるかの判断結果に応じて、使用心音波形を第一心音と第二心音とで適宜切り替えて選択している。このため、第一心音を検出できるものの、一時的に第一心音の検出精度が低くなった場合には、第二心音波形を使用心音波形とすることにより、精度良く心拍間隔を算出することができる。
【0034】
(2)さらに、上記第1実施形態の心拍間隔検出システム101では、学習処理部30により、第二心音心拍間隔HRIcxを、より真値に近づくように補正処理することができる。このため、使用心音波形として第二心音が選択された区間における第二心音心拍間隔HRIcxの検出精度を向上させることができる。
【0035】
B.第2実施形態:
次に、本開示の第2実施形態の心拍間隔検出システムについて、
図5~
図9を参照して説明する。なお、以下説明する複数の実施形態において、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。第2実施形態は、第1実施形態に対して、
図1に示す心拍間隔検出システム101の全体構成は同様であり、心拍間隔検出システム101が実行する心拍間隔検出の処理手順の一部、および学習処理部30が学習処理する内容が異なる。以下、順に具体的に説明する。
【0036】
B1.心拍間隔検出システムによる心拍間隔検出処理:
第2実施形態では、使用心音波形を選択する際の判断として、振幅関連情報として、振幅値ではなく、呼吸波形を用いる。第一心音波形および第二心音波形におけるそれぞれの心拍タイミングが検出されるまでの処理(S10,S20,S30)については、上記第1実施形態と同様である。第1実施形態における、第一心音および第二心音の振幅値の取得(S40)および閾値判定(S50)の処理に代えて、第2実施形態では、
図5に示すS51において、使用心音波形選択部28により、呼吸状態が、呼気時後半から吸気時前半であるか否かが判断される。この判断は、1拍動ごとに判断される。なお、本実施形態では、振動センサ11は被検者の背中に配置されているものとする。
【0037】
呼気時後半から吸気時前半である場合には(S51:YES)、S60に進み、心拍間隔取得部29により第一心音心拍間隔HRIbxが算出される。一方、呼気時後半から吸気時前半ではない場合、すなわち、吸気時後半から呼気時前半である場合には(S51:NO)、S70に進み、心拍間隔取得部29により第二心音心拍間隔HRIcxが算出される。
【0038】
本発明者の実験により、被検者の背中に振動センサ11を配置した場合、吐き出し後の状態では、
図6に示すように第一心音振幅値Abxの方が第二心音振幅値Acxよりも大きく、
図7に示すように吸い込み後の状態では、第一心音振幅値Abxの方が第二心音振幅値Acxよりも小さいという結果が得られた。このため、吐き出し後の状態に近い呼気時後半から吸気時前半では、より大きな振幅値が得られる第一心音振幅値Abxを採用し、吸い込み後の状態に近い吸気時後半から呼気時前半では、より大きな振幅値が得られる第二心音振幅値Acxを採用する。
【0039】
すなわち、第2実施形態では、第一心音波形および第二心音波形のうち、呼吸波形から取得される呼吸情報に基づいて、振幅値がより大きく取れる方の心音波形を使用心音波形として切り替えて選択できる。なお、S60,S70,S80の処理については、上記第1実施形態と同様である。
【0040】
B2.第一心音波形および第二心音波形の精度向上のための学習処理:
次に、学習処理部30による、第一心音波形および第二心音波形の精度向上のための学習処理について説明する。
図8に示すように、心電に対して、心音、心弾道、脈においてピークが現れる時間は概ね決まっている。なお、このピークの位置は、振動センサ11の配置箇所により変動する。これらの各波形の関係性から、心音の心拍ポイントを真値により近くなるような補正を行う。本システムにおいて、心電波形は得られないため、具体的には、抽出される5つの各波形(第一心音波形、第二心音波形、心弾道波形、脈波形、呼吸波形)から例えば平均値などにより真値がどこかを求め、求められた真値に対して第一心音および第二心音のピーク位置を補正する。
【0041】
図9において、横軸は時間であり、縦軸は、心電心拍間隔HRIaxからのずれ量ΔHRIを示している。
図9に示すように、ピーク位置を補正した各心音波形に基づいて算出された心拍間隔のずれ量ΔHRIは、学習・補正を経て時間が経過したのちには小さくなっており、心拍間隔の取得精度を向上させることができる。
【0042】
C.第3実施形態:
次に、本開示の第3実施形態の心拍間隔検出システム103について、
図10、
図11を参照して説明する。
図10に示すように、第3実施形態の心拍間隔検出システム103が備えるセンサ部1は、複数(本実施形態では2つ)のセンサを有している。センサ部1は、第一心音を専用に検出するための第一心音検出センサ12と、第二心音を専用に検出するための第二心音検出センサ13とを有している。第一心音波形抽出部21は、第一心音検出センサ12により検出された生体振動信号から第一心音の音波に基づく心音波形を抽出し、併せて心拍タイミングを検出する。第二心音波形抽出部22は、第二心音検出センサ13により検出された生体振動信号から第二心音の音波に基づく心音波形を抽出し、併せて心拍タイミングを検出する。
【0043】
第一心音検出センサ12は、第一心音の上記発生原理上、第一心音を比較的強く受信しやすい部位、例えば、被検者の腹側の胸部周辺のうち下側に配置することができる。同様に、第二心音検出センサ13は、第二心音の上記発生原理上、第二心音を比較的強く受信しやすい部位、例えば、被検者の背中側の胸部周辺のうち上側に配置することができる。なお、こうしたセンサの配置は一例であって、被検者によって心音が強く取れる位置は異なるため、適宜変更できる。
【0044】
図11に示すように、第3実施形態では、各心音を専用に検出するセンサ12,13によってそれぞれの心音を受信する。S11において、第一心音検出センサ12により測定される振動信号が、信号処理部2により受信される。次に、S21において、受信された振動信号に基づいて、第一心音波形抽出部21により第一心音波形が抽出される。そして、S31において、第一心音波形における心拍タイミングが検出される。次に、S41において、第一心音振幅値取得部26により第一心音振幅値Abxが取得される。
【0045】
第二心音についても、第二心音検出センサ13により、上記第一心音検出センサ12による第一心音振幅値Abxの取得までの処理(S11,S21,S31,S41)と同様の処理(S12,S22,S32,S42)を経て、第二心音振幅値Acxが取得される。なお、
図11のフローチャートでは、第一心音検出センサ12による信号受信から第一心音振幅値Abxの取得までの処理(S11,S21,S31,S41)と、第二心音検出センサ13による信号受信から第二心音振幅値Acxの取得までの処理(S12,S22,S32,S42)と、を便宜状分岐した状態で図示したが、これらの一連の処理は同時に実行されてもよいし、順次実行されてもよい。S50、S60,S70、S80の処理については上記第1実施形態と同様である。
【0046】
第3実施形態の心拍間隔検出システム103によれば、第一心音検出センサ12により第一心音を検出し、第二心音検出センサ13により第二心音を検出している。このため、センサ12,13の配置に応じて、どちらの心音についても、波形自体が大きな強い信号として検出できるため、振幅値を大きくできる。よって、各心音の検出精度を高めることができる。また、これに伴い、一時的に振幅値が小さくなったとしても、継続して第一心音波形を使用心音波形として用いることも可能となり得る。さらに、第二心音波形を使用心音波形として用いる場合でも、振幅値が大きいため、検出精度を高めることができる。ひいては心拍間隔取得部29による心拍間隔の取得精度を向上させることができる。
【0047】
D.第4実施形態:
次に、本開示の第4実施形態の心拍間隔検出システムについて、
図12を参照して説明する。第4実施形態の心拍間隔検出システムが備えるセンサ部1は、第3実施形態と同様に、複数のセンサを有している。システム構成図については省略するが、第3実施形態における第一心音検出センサ12に代えて第1両心音検出センサ14を有し、第3実施形態における第二心音検出センサ13に代えて第2両心音検出センサ15を有している。
【0048】
第4実施形態における第1両心音検出センサ14および第2両心音検出センサ15は、それぞれ第一心音および第二心音の両方の心音を検出する点が上記第3実施形態とは異なっている。第1両心音検出センサ14および第2両心音検出センサ15は、検出する心音波形の振幅変動が互いに逆の特性となる心音波形を検出する。逆の特性を検出するために、
図12に示すように、例えば第1両心音検出センサ14は被検者100の腹側に設置され、第2両心音検出センサ15は被検者100の背中側に設置される。
【0049】
ここで、振幅変動とは、心音の振幅強度の時間的な周期変動を意味し、
図12において右側に示すように、心音が発生したときの心音振幅値を時系列に繋いだ波形として表すことができる。また、逆の特性とは、振幅変動においてピークが現れる時間がずれることにより、振幅変動の波形の山と谷とが互いに逆になっている特性を意味している。
【0050】
第4実施形態においても、上記各実施形態と略同様に、複数の心音波形から適宜最適な波形が使用心音波形として選択される。本実施形態では、第1両心音検出センサ14から検出される第一心音波形および第二心音波形と、第2両心音検出センサ15から検出される第一心音波形および第二心音波形と、の合計4つの波形が得られる。これらの波形のうち、時系列において最も大きな振幅値を取る波形を優先的に使用心音波形として選択して心拍間隔を算出できる。
【0051】
その他、例えばベースとしては、第1両心音検出センサ14から検出される第一心音波形を使用心音波形としておき、上記第1実施形態のように、第1両心音検出センサ14から検出される第一心音波形の振幅値が閾値より小さい場合には、第2両心音検出センサ15から検出される第一心音波形を使用心音波形として選択してもよい。
【0052】
また、さらに、呼吸情報とも併せて、振幅値がより大きく取れる心音波形を使用心音波形として切り替えて選択してもよい。例えば、呼吸状態を判定して、吸気時後半から呼気時前半であれば、背中側の第2両心音検出センサ15から検出される第二心音波形を使用心音波形として選択してもよい。
【0053】
以上のように、第4実施形態の心拍間隔算出システムによれば、第一心音および第二心音に関して、逆の特性となる複数の心音波形が得られるため、使用心音波形として選択できる波形の組み合わせが増え、状況に合わせて、適宜最適な心音波形を選択することができる。
【0054】
E.他の実施形態:
(E1)上記第1実施形態において、振幅値の閾値を、時間経過によりデータが蓄積された場合に、適宜変更するようにしてもよい。例えば、測定初期は任意の一定値に設定しておき、データが蓄積されたら、それまでの最大振幅値の80%の値に変更する等、適宜変更可能である。
【0055】
(E2)上記第3,第4実施形態において、センサ部1を、3つ以上の複数のセンサを有して構成してもよい。
【0056】
(E3)上記第3実施形態において、呼吸状態で判定することにより使用心音波形を選択してもよい。その場合、
図11に示すフローチャートにおいて、S41,S42,S50の処理に代えて、
図5に示すフローチャートにおけるS51の処理を実行すればよい。
【0057】
(E4)上記第1実施形態と上記第2実施形態を組み合わせて、振幅値の閾値による判定と、呼吸情報による判定と、を組み合わせてもよい。例えば、閾値判定のあとに、呼吸情報を加味して最終的に使用心音波形を決定してもよい。
【0058】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…センサ部、2…信号処理部、3…出力部、11…生体振動信号検出センサ(両心音検出センサ)、12…第一心音検出センサ、13…第二心音検出センサ、14…第1両心音検出センサ、15…第2両心音検出センサ、21…第一心音波形抽出部、22…第二心音波形抽出部、23…呼吸波形抽出部、24…心弾道波形抽出部、25…脈波形抽出部、26…第一心音振幅値取得部、27…第二心音振幅値取得部、28…使用心音波形選択部、29…心拍間隔取得部、30…学習処理部、100…被検者、101,103…心拍間隔検出システム