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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】コード状ヒータと面状ヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20250401BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20250401BHJP
   B60N 2/56 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
H05B3/20 347
H05B3/10 C
B60N2/56
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022508141
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005248
(87)【国際公開番号】W WO2021186972
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2020049577
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020119637
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000129529
【氏名又は名称】株式会社クラベ
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】冨永 健吾
(72)【発明者】
【氏名】竜口 直也
(72)【発明者】
【氏名】竹田 浩也
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-129112(JP,A)
【文献】特開2013-073758(JP,A)
【文献】特開2006-036812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00 - 3/86
B60N 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体素線と、
前記導体素線の外周側に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の外周側に形成された熱融着層を有し、
前記熱融着層がポリアミド系熱可塑性エラストマーであることを特徴とするコード状ヒータ。
【請求項2】
前記熱融着層の融点は、140℃~170℃であり、
前記絶縁層の融点は、前記熱融着層の融点よりも高いことを特徴とする請求項1記載のコード状ヒータ。
【請求項3】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、脂肪族ポリアミドとポリアルキレンエーテルグリコールのブロック共重合体、またはナイロン11とポリテトラメチレンエーテルグリコールのブロック共重合体、またはナイロン12とポリテトラメチレンエーテルグリコールのブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載のコード状ヒータ。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載のコード状ヒータが基材に配設されており、
前記基材が、ポリエステル繊維の不織布、ポリウレタン樹脂の発泡樹脂シート、ポリウレタンエラストマーの発泡樹脂シートのいずれかで形成されていることを特徴とする面状ヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータなどに好適に使用可能なコード状ヒータ及びそれを使用した面状ヒータに係り、特に、高温時の剥離強度に優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
各種ヒータ等に使用されるコード状ヒータは、芯線に抵抗体となる導体素線を螺旋状に巻き、その上から絶縁体層による外被を被覆する構成のものが一般的に知られている。ここで、導体素線としては、銅線やニッケルクロム合金線などが使用され、複数本引き揃え又は撚合せて構成されている。これら導体素線には、導体素線ごとに絶縁被膜が形成され、相互の絶縁がなされているものも知られている。又、この導体素線の外周や、絶縁体層の外周には熱融着部が形成されたものも知られている。例えば不織布、アルミ箔、高分子発泡体といった基材上にコード状ヒータを配置し、加熱加圧をすることで、この熱融着部によりコード状ヒータと基材が熱融着され、面状ヒータとすることが知られている(例えば、特許文献1~特許文献8など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4202071号公報:クラベ
【文献】特開昭61-47087号公報:松下電器産業
【文献】特開2008-311111公報:クラベ
【文献】特開2010-15691公報:クラベ
【文献】国際公開WO2011/001953公報:クラベ
【文献】国際公開WO2014/103981公報:クラベ
【文献】特開2014-143175公報:クラベ
【文献】特許第4118878号公報:W.E.T.オートモーティブ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載のコード状ヒータと面状ヒータには、以下のような課題があった。例えば、面状ヒータを車両用のシートヒータ等に使用する際に顕著であるが、面状ヒータの加熱に際しては、立ち上がりに強い加熱をし、できるだけ早期に目標温度に到達することが求められている。その際には、着座者への伝熱時間や周囲の部材による吸熱も考慮され、コード状ヒータ表面は瞬間的に120℃を超える温度となる場合もある。そのような場合においても、コード状ヒータと基材との融着が維持されてなければならず、コード状ヒータの剥がれや位置ズレが生じてしまうことは許されない。コード状ヒータの剥がれや位置ズレが生じた場合には、加熱対象物を均一に加熱することができなくなるばかりでなく、局部的に異常発熱を起こすおそれもあるためである。従来のコード状ヒータと面状ヒータでは、このような高温時における剥離強度について、十分な検討がなされているとはいえなかった。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、高温時の剥離強度に優れたコード状ヒータ及びそれを使用した面状ヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明によるコード状ヒータは、導体素線と、該導体素線の外周側に形成された熱融着層を有し、上記熱融着層が脂肪族ポリアミド系高分子材料からなることを特徴とするものである。
また、本発明による他の形態のコード状ヒータは、導体素線と、該導体素線の外周側に形成された熱融着層を有し、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであることを特徴とするものである。
また、本発明による面状ヒータは、上記のコード状ヒータが基材に配設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコード状ヒータによると、熱融着層として脂肪族ポリアミド系高分子材料を使用しているため、高温時においても接着性を維持し、剥離強度に優れたものとすることができる。特に、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであればより高い剥離強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明による実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
図2】本発明による実施の形態示す図で、面状ヒータの構成を示す平面図である。
図3】本発明による実施の形態を示す図で、ホットプレス式ヒータ製造装置の構成を示す図である。
図4】本発明による実施の形態を示す図で、コード状ヒータを所定のパターン形状に配設する様子を示す一部斜視図である。
図5】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
図6】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
図7】本発明の実施の形態による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図8】本発明の実施の形態による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図9】本発明の比較例1による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図10】本発明の比較例1による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図11】本発明の比較例2による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図12】本発明の比較例2による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図13】本発明の比較例3による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図14】本発明の比較例3による面状ヒータの断面を示すSEM画像である。
図15】本発明による面状ヒータを車両用シート内に埋め込んだ様子を一部切り欠いて部示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。これらの実施の形態は、本発明を面状ヒータとし、車両用ステアリングヒータに適用することを想定した例を示すものである。
【0010】
まず、図1図4を参照して本実施の形態を説明する。この実施の形態におけるコード状ヒータ10の構成から説明する。本実施の形態におけるコード状ヒータ1は図1に示すような構成になっている。まず、外径約0.2mmの芳香族ポリアミド繊維束からなる芯線3があり、該芯線3の外周には、素線径0.05~0.10mmの硬質錫入り銅合金線からなる3~7本の導体素線5aを引き揃えて構成されたものがピッチ約0.6~1.6mmで螺旋状に巻装されている。導体素線5aには、アルキドシリコーンワニス(アルキド:シリコーン=50:50)を塗布し乾燥して形成したシリコーンを含有する絶縁被膜5bが、厚さ約8μmで形成されている。この芯線3上に導体素線5aを巻装したものの外周に、絶縁層7として、フッ素樹脂(融点265℃)が0.15mmの厚さで押出被覆される。この絶縁層7の外周に、熱融着層9として、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(融点159℃)が0.175mmの厚さで押出被覆される。コード状ヒータ1はこのような構成になっていて、その仕上外径は1.1mmである。又、屈曲性や引張強度を考慮した場合には上記芯線3は有効であるが、芯線3を使用せず、複数本の導体素線を引き揃えるか或いは撚り合わせたものとすることも考えられる。
【0011】
次に、上記構成をなすコード状ヒータ10を接着・固定する基材11の構成について説明する。本実施例における基材11は、低融点ポリエステルを鞘成分とする芯鞘構造を有する熱融着性繊維10%と、難燃性ポリエステル繊維からなる難燃性繊維90%とを混合させた不織布(目付150g/m2,厚さ0.6mm)で構成にされている。なお、この不織布は、繊維を構成する材料を溶融押出して紡糸しながら積層してウェブを形成して得たものであり、長繊維からなるものである。この長繊維とは、繊維長さを有さない連続した繊維のことであり、フィラメントとも称される。
【0012】
次に、上記コード状ヒータ1を基材11上に所定のパターン形状で配設して接着・固定する構成について説明する。図3はコード状ヒータ1が配設された基材を加熱加圧するためのホットプレス式ヒータ製造装置13の構成を示す図である。まず、ホットプレス治具15があり、このホットプレス治具15上には複数個の係り止め機構17が設けられている。上記係り止め機構17は、図4に示すように、ピン19を備えていて、このピン19はホットプレス冶具15に穿孔された孔21内に下方より差し込まれている。このピン19の上部には先端が針となった係り止め部材23が軸方向に移動可能に取り付けられていて、コイルスプリング25によって常時上方に付勢されている。そして、図4中仮想線で示すように、これら複数個の係り止め機構17の係り止め部材23にコード状ヒータ1を引っ掛けながら、一方の基材11上に、コード状ヒータ1を所定のパターン形状にて配設することになる。
【0013】
図3に戻って、上記複数個の係り止め機構17の上方にはプレス熱板27が昇降可能に配置されている。すなわち、コード状ヒータ1を複数個の係り止め機構17の係り止め部材23に引っ掛けながら所定のパターン形状にて配設し、その上に基材11を置く。その状態で上記プレス熱板27を降下させてコード状ヒータ1と基材11に、加熱加圧を施すものである。それによって、コード状ヒータ1の熱融着層9が融着してコード状ヒータ1と基材11が接着・固定されることになる。尚、上記プレス熱板27の降下による加熱加圧時には複数個の係り止め機構17の係り止め部材23はコイルスプリング25の付勢力に抗して下方に移動するものである。
【0014】
上記作業を行うことにより、図2に示すような面状ヒータ31を得ることができる。ここで、図7及び図8は、本実施の形態に係る面状ヒータにおける、コード状ヒータと基材の熱融着の状態を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。図7は100倍、図8は200倍の拡大率である。図7及び図8に示すとおり、コード状ヒータ1の熱融着層9は、必要十分な厚さを保ちながらも、加熱加圧により変形して流動し、その一部が基材11の空隙(気孔)間に侵入するとともに、基材11を構成する繊維を抱き込むような形態となっていた。これにより、コード状ヒータ1と基材11とが強固に接着することになる。特に、基材11が不織布であって熱融着性繊維を含み、この熱融着性繊維が芯-鞘構造を有するとともに、鞘部分が低融点のものであれば、芯部分を取り囲んだ状態で、該鞘部分と上記コード状ヒータの熱融着層9とが、互いに融着し一体化することになる。これにより、コード状ヒータ1と基材11とが更に強固に接着することになる。また、コード状ヒータ1の絶縁層7は、加熱加圧によっても略変形せず、基材11の空隙(気孔)間に侵入しておらず、当初の形状である断面円形状を略保っていた。
【0015】
上記作業を行うことにより、図1に示すような面状ヒータ31を得ることができる。尚、本発明の面状ヒータ1を車両用シートヒータとして使用する際には、コード状ヒータ1の両端、及び、温度制御装置39にはコードが接続され、このコードにより、コード状ヒータ10、温度制御装置39、及び、コネクタ35が接続される。そして、このコネクタ35を介して図示しない車両の電気系統に接続されることになる。
【0016】
そして、上記構成をなす面状ヒータ31は、図15に示すような状態で、車両用のシート41内に埋め込まれて配置されてもよい。すなわち、上記した通り、車両用シート41の表皮カバー43又は座席パット45に、面状ヒータ31が貼り付けられることとなるものである。
【0017】
上記のようにして得られた面状ヒータ31を実施例として、コード状ヒータ1と基材11の接着強度の測定を行った。接着強度の測定方法は、ヒータ状ヒータ1をプッシュプルゲージで固定し、コード状ヒータ1の配設方向に対して180°方向に引っ張り、基材11からコード状ヒータ1が剥離した時に要した荷重を測定することで評価を行った。この試験は、面状ヒータ31を常温(20℃)、50℃、70℃、90℃、110℃、120℃、130℃のそれぞれの温度に1分間保持し、その温度を維持した状態で行なった。また、実施例では、熱融着層9として、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)を使用したが、比較例1として低密度ポリエチレン(LDPE)としたもの、比較例2として直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)としたもの、比較例3としてポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)としたものについても、同様にして試験を行なった。これら測定結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
本発明の面状ヒータ31を車両用シートヒータとして使用する場合、着座者の着座、離座による外力を受けてもコード状ヒータの剥がれや位置ズレが生じないためには、剥離強度として1kgf以上が必要となる。本実施例による面状ヒータ31では、130℃の高温下においても1kgf以上の剥離強度を維持していた。一方比較例1による面状ヒータは70℃,比較例2による面状ヒータは110℃の温度で、熱融着層が接着を維持できず、剥離強度が1kgfを下回ってしまった。また、比較例3による面状ヒータは、常温であっても剥離強度が1kgfを下回ってしまった。
【0020】
図9及び図10は、比較例1に係る面状ヒータにおける、コード状ヒータと基材の熱融着の状態を示すSEM画像である。図11及び図12は、比較例2に係る面状ヒータにおける、コード状ヒータと基材の熱融着の状態を示すSEM画像である。図13及び図14は、比較例3に係る面状ヒータにおける、コード状ヒータと基材の熱融着の状態を示すSEM画像である。図9、11、13は100倍、図10、12、14は200倍の拡大率である。図9及び図10に示すとおり、比較例1の熱融着層は融点が低いために、加熱加圧した際に変形して厚さが薄くなり、これによってより一層剥離強度の低下を起こしたものと考えられる。図11及び図12に示すとおり、比較例2の熱融着層は十分な厚さは備えていたが、融点が低いため、100℃を越えたあたりから軟化し始め、高温時の十分な剥離強度が得られなかったと考えられる。図13及び図14に示すように、比較例3の熱融着層も十分な厚さは備えていたが、こちらは基材を構成する繊維を十分に抱き込めていない。そのため、常温であっても熱融着層から繊維が剥がれてしまい、十分な剥離強度が得られなかったと考えられる。比較例3の面状ヒータについて、剥離強度を向上させる手段として、例えば加熱加圧の温度を上げ、熱融着時の熱融着層の粘度を下げることが考えられるが、その場合は、基材が熱によって収縮してしまったり、基材を構成する繊維が熱劣化してしまったりする別の問題が生じることになる。即ち、ただ単に熱融着層の融点を上げれば高温時の接着性が高くなるというものではないことがわかる。
【0021】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。まず、コード状ヒータ1の構成としては、例えば、上記実施の形態のように、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本撚り合わせ又は引き揃え、これを芯線3上に巻装し、その外周に絶縁層7と熱融着層9を形成したもの(図1参照)。芯線3を使用せず、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本撚り合わせたもの(図5参照)、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本引き揃えたもの(図6参照)であっても良い。
【0022】
又、導体素線5aには、絶縁被覆5bが形成されていないものも考えられる。例えば、全ての導体素線5aについて絶縁被覆5bが形成されていない形態、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aと絶縁被膜5bにより被覆されていない導体素線5aが交互に配置された形態、一部の導体素線5aのみが絶縁被膜5bにより被覆されている又は被覆されてない形態が考えられ、それら以外にも様々な構成のものが想定される。又、芯線3と導体素線5aを撚り合せることも考えられる。
【0023】
芯線3としては、例えば、ガラス繊維等の無機繊維や、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、脂肪族ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機繊維のモノフィラメント、マルチフィラメント、スパン、或いはそれらの繊維材料、若しくは、それらの繊維材料を構成する有機高分子材料を芯材とし、その周上に熱可塑性の有機高分子材料が被覆された構成を有する繊維などが挙げられる。又、芯線3を熱収縮性及び熱溶融性を有するものとすれば、導体素線5aが断線してしまった際の異常加熱により芯線が溶融切断されるとともに収縮することで、巻装された導体素線5aもこの芯線3の動作に追従し、断線した導体素線5aの端部同士を分離することになる。そのため、断線した導体素線のそれぞれの端部が接したり離れたりすることや点接触のようなわずかな接触面積で接することがなくなり、異常発熱を防止することができる。又、導体素線5aが絶縁被膜5bにより絶縁されている構成であれば、芯線3は絶縁材料にこだわる必要はない。例えば、ステンレス鋼線やチタン合金線等を使用することも可能である。しかし、導体素線5aが断線したときのことを考慮すると、芯線3は絶縁材料であった方が良い。
【0024】
導体素線5aとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、銅線、銅合金線、ニッケル線、鉄線、アルミニウム線、ニッケル-クロム合金線、鉄-クロム合金線、SUS線(ステンレス鋼線)などが挙げられ、銅合金線としては、例えば、錫-銅合金線、銅-ニッケル合金線、銅固溶体と銅銀共晶がファイバー状になった銀入り銅合金線などが挙げられる。このうち、コストと特性のバランスの点から、銅線又は銅合金線を使用することが好ましい。これら銅線又は銅合金線には軟質のものと硬質のものがあるが、耐屈曲性の観点からは、軟質のものよりも硬質のものの方が特に好ましい。尚、硬質銅線や硬質銅合金線とは、線引き加工等の冷間加工によって個々の金属結晶粒が加工方向に長く引き伸ばされ繊維状組織となったものである。このような硬質銅線や硬質銅合金線は、再結晶温度異常で加熱すると、金属結晶内に生じた加工歪みが解消されるとともに、新たな金属結晶の基点となる結晶各が出現し始める。この結晶核が発達して、順次旧結晶粒と置換される再結晶が起き、更に結晶粒が成長した状態となる。軟質銅線や軟質銅合金線はこのような結晶粒が成長した状態のものである。この軟質銅線や軟質銅合金線は、硬質銅線や硬質銅合金線と比べて伸びや電気抵抗値は高いものの引張強さが低い性質となるため、耐屈曲性は硬質銅線や硬質銅合金線と比べて低くなる。このように、硬質銅線や硬質銅合金線は、熱処理によって耐屈曲性が低い軟質銅線や軟質銅合金線になるため、できるだけ熱履歴の少ない加工を行うことが好ましい。尚、硬質銅線はJIS-C3101(1994)、軟質銅線はJIS-C3102(1984)においても定義がなされており、外径0.10~0.26mmでは伸び15%以上、外径0.29~0.70mmでは伸び20%以上、外径0.80~1.8mmでは伸び25%以上、外径2.0~7.0mmでは伸び30%以上のものが軟質銅線とされる。また、銅線には錫メッキが施されているものも含まれる。錫メッキ硬質銅線はJIS-C3151(1994)、錫メッキ軟質銅線はJIS-C3152(1984)にて定義がなされている。又、導体素線5aの断面形状についても種々のものが使用でき、通常使用される断面円形のものに限られず、いわゆる平角線と称されるものを使用しても良い。また、SUS線としては、例えば、硬質SUS線(SUS304WPA)や軟質SUS線(SUS304W1)などを使用することができる。また、これらを適宜組み合わせ又は単独で撚り合わせたものを使用することができる。
【0025】
但し、芯線3に導体素線5aを巻装する場合は、上記した導体素線5aの材料の中でも、巻付けたときのスプリングバックする量が小さいものが良く、復元率が200%以下となるものが好ましい。例えば、銅固溶体と銅銀共晶がファイバー状になった銀入り銅合金線などは、抗張力性に優れ引張強度や屈曲強度には優れるものの、巻付けたときスプリングバックし易い。そのため、芯線3に巻装する際に、導体素線5aの浮きや、過度の巻付けテンションによる導体素線5aの破断が生じ易く、又加工後には撚り癖が生じ易いため好ましくない。特に、導体素線5aに絶縁被膜5bが被覆される形態とした場合は、この絶縁被膜5bによる復元力も加わることになる。そのため、導体素線5aの復元率が小さいものを選定し、絶縁被膜5bによる復元力をカバーすることが重要となる。
【0026】
ここで、本発明で規定する復元率の測定について詳しく記述する。まず、導体素線に一定荷重を掛けながら、導体素線径の60倍の径の円柱形マンドレルに対して、導体素線が重ならないように3回以上巻きつける。10分後、荷重を取り去り導体素線をマンドレルから外し、弾性により復元した形状の内径を測定して、導体素線のスプリングバックする割合を次の式(I)により算出して、復元率として評価する。
R=(d2/d1)×100―――(I)
記号の説明:
R:復元率(%)
d1:巻付試験に用いたマンドレル径(mm)
d2:導体素線をマンドレルに巻きつけた後、荷重を開放して復元した形状の内径(mm)
【0027】
導体素線5aに被覆される絶縁被膜5bとしては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステルナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、シリコーンなどが挙げられるが、これらの中でもシリコーンを含有したものが好ましい。シリコーンは、シロキサン結合による主骨格を持つ人工高分子化合物の総称であり、シリコーン樹脂やシリコーンゴム(シリコーンエラストマー)などの形態をとるものである。置換基としてメチル基とフェニル基の量を適宜調整したものや、エーテル基、フルオロアルキル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基等の他の置換基を適宜導入したものも考えられる。また、例えば、ポリエステル樹脂とシリコーン樹脂を混合した所謂アルキドシリコーン、アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンのグラフト共重合体である所謂アクリルシリコーンのような、シリコーンと他の高分子材料の混合物や、ポリシロキサンと他のポリマー成分の共重合体を使用することも考えられる。絶縁被膜5bに含有されるシリコーンの量は、種々特定の観点から特定の範囲内とすることが好ましい。尚、シリコーンと他のポリマー成分の共重合体を使用する場合は、共重合体におけるシリコーン分のみの重量をシリコーンの量として算出する。シリコーンの量が少なすぎると、スパーク時の熱による他の成分の熱分解によって、絶縁被膜5bが脱離してしまう可能性がある。また、外観にも悪影響を及ぼす可能性がある。この観点から、シリコーン含有量は、重量比で、20%以上とすることが好ましく、更には40%以上とすることが考えられる。また、シリコーンの量が多すぎると、濡れ性が低くなって導体素線5aへの塗布が困難となってしまい、外観に問題が生じる可能性がある。また、それによって、絶縁被膜5bの絶縁性が充分なものでなくなってしまう可能性がある。この観点から、シリコーン含有量は、重量比で、90%以下とすることが好ましく、更には80%以下とすることが考えられる。また、導体素線5aと絶縁被膜5bの密着性を向上させるために、予め導体素線5aにプライマーを塗布しておくことも考えられる。
【0028】
これらのようなシリコーンを含有した絶縁被膜5bは耐熱性に優れるとともに不燃性で化学的に安定したものであり、スパークの際の高熱に受けた場合でも酸化ケイ素被膜を形成し、絶縁を保持することができる。更には、スパークの際の高熱によってシロキサンガスを発生させ、このシロキサンガスが導体素線の端面で酸化ケイ素被膜を析出させ絶縁するため、その後のスパークを防止することができる。これらのようなシリコーンは、例えば、溶剤や水のような溶媒又は分散媒に溶解又は分散した状態で導体素線5aに塗布し乾燥する方法、導体素線5aの外周に押出成形等の成形手段によって形成する方法などにより、導体素線5aに被覆され、絶縁被膜5bとされる。シリコーンの押出成形は比較的定温ですることができるが、溶剤や水等で溶解または分散したシリコーンを塗布する場合は、乾燥を短時間で済ますために比較的高温環境に晒されることになる。上記のように、銅線又は銅合金線の導体素線5aは、熱履歴によって硬質か軟質かが変わることになるため、この点も考慮した絶縁被膜5bの形成方法を選択する必要がある。また、絶縁被膜5bの形成に当たっては、押出成形よりも、塗布の方が絶縁被膜5bの厚さを薄くすることができる。これにより、コード状ヒータとして細径化を図ることができる。
【0029】
また、絶縁被膜5bの厚さは、導体素線5aの直径の3~30%であることが好ましい。3%未満であると、十分な耐電圧特性が得られず、導体素線5aを個別に被覆する意味がなくなる可能性がある。また、30%を超えると、接続端子を圧着する際に絶縁被膜5bの除去が困難となるとともに、コード状ヒータが無駄に太くなってしまうことになる。
【0030】
上記導体素線5aを引き揃え又は撚り合せて芯材3上に巻装する際には、撚り合せるよりも、引き揃えた方が好ましい。これは、コード状ヒータの径が細くなるとともに、表面も平滑になるためである。又、引き揃え又は撚り合わせの他に、芯材3上に導体素線5aを編組することも考えられる。
【0031】
本発明によるコード状ヒータは、導体素線5aの外周に絶縁層7が形成されていることが好ましい。この絶縁層7により、万が一導体素線5aが断線した場合にも、他の部材への通電が絶縁されるとともに、スパークが発生した場合も高温の発熱を断熱することになる。絶縁層7を形成する場合は、押出成形等によって行っても良いし、予めチューブ状に成形した絶縁体層7を被せても良く、形成の方法には特に限定はない。押出成形によって絶縁体層7を形成すると、導体素線5aの位置が固定されるため、位置ズレによる導体素線5aの摩擦や屈曲を防止できることから、耐屈曲性が向上されるため好ましい。絶縁層7を構成する材料としても、コード状ヒータの使用形態や使用環境などによって適宜設計すれば良く、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、塩化ビニル樹脂、変性ノリル樹脂(ポリフェニレンオキサイド樹脂)、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、合成ゴム、フッ素ゴム、熱可塑性ポリエチレンエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリスチレンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー等、種々のものが挙げられる。特に、難燃性を有する高分子組成物が好ましく使用される。ここでの難燃性を有する高分子組成物とは、JIS-K7201(1999年)燃焼性試験における酸素指数が21以上のものを示す。酸素指数が26以上のものは特に好ましい。このような難燃性を得るため、上記した絶縁体層7を構成する材料に適宜難燃材等を配合してもよい。難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物、酸化アンチモン、メラミン化合物、リン系化合物、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤などが挙げられる。これらの難燃剤には公知の方法で適宜表面処理を施しても良い。
【0032】
この絶縁層7の外周に熱融着層9を形成することにより、加熱加圧によりコード状ヒータ11を基材11に熱融着することができる。熱融着層9を構成する材料は、上記の絶縁層7を構成する材料と同様のものを使用することもできるが、これらの中でも、適度な融点を持ち、高温時の接着性に優れた脂肪族ポリアミド系の高分子材料が好ましい。脂肪族ポリアミドは、ナイロンと称されるもので、ωアミノ酸の重縮合反応で合成されるn-ナイロンと、ジアミンとジカルボン酸の共縮重合反応で合成されるn,m-ナイロンとがある。n-ナイロンとしては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12等が挙げられ、n,m-ナイロンとしては、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5T等が挙げられる。また、ポリアミドを含む熱可塑性エラストマーであるポリアミド系熱可塑性エラストマーも使用することができる。ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ポリアミドをハードセグメント、ポリエーテルをソフトセグメントとしたブロック共重合体が知られている。ハードセグメントとして使用されるポリアミドとしては、例えば、上記した脂肪族ポリアミドの他、パラ系アラミドやメタ系アラミドのような芳香族ポリアミドなど、種々のものが考えられる。ソフトセグメントとして使用されるポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとのブロック又はランダム共重合体等、ビスフェノールA、ヒドロキノン等の2価フェノールを含有したものなど、種々のものが考えられる。これらの中でも、高温時の接着性に特に優れ、基材としてポリエステル繊維の不織布を使用した際に融点や接着性の面で相性の良いポリアミド系熱可塑性エラストマーが好ましく、脂肪族ポリアミドとポリアルキレンエーテルグリコールのブロック共重合体のものが更に好ましく、ナイロン11又はナイロン12とポリテトラメチレンエーテルグリコールのブロック共重合体のものが特に好ましい。なお、コード状ヒータ1と基材11を熱融着する場合、コード状ヒータ1と基材11との接着強度は非常に重要なものである。
【0033】
上記の通り、本発明の熱融着層9には、脂肪族ポリアミド系の高分子材料が好ましく使用されるが、適度な融点と高温時の接着性を有するという脂肪族ポリアミド系の高分子材料の特性を阻害しない範囲で種々の材料を添加することができる。例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物、酸化アンチモン、メラミン化合物、リン系化合物、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤等の難燃剤や、老化防止剤、金属不活性化剤、充填剤、滑剤、充填剤、分散剤、着色剤等の種々添加剤を適宜添加することができる。また、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリエチレンエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリスチレンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー等、種々の高分子材料についても、特性に影響が出ない範囲で添加することができる。
これらの添加物を加える場合、例えば、樹脂またはゴム材料100重量部に対して、難燃剤を10~30重量部添加すれば、優れた接着性を維持したまま、優れた難燃性を付与することができる。
また、上記した種々添加剤については、マスターバッチの形態で添加することもできる。
【0034】
本発明によるコード状ヒータ1は、熱融着層9が流動化し且つ上記絶縁層7が流動しない温度領域を有していることが好ましい。これにより、加熱加圧等により熱融着層9を融着させる際にも、絶縁層7の形状が略変形せず、充分な絶縁性能を維持することができる。「熱融着層9が流動化し且つ上記絶縁層7が流動しない温度領域を有する」という例として、絶縁層7と熱融着層9がともに融点を有する場合、絶縁層7の融点が、熱融着層9の融点よりも高いものが挙げられる。また、絶縁層7と熱融着層9の何れかが明確な融点を有さない場合、絶縁層7のビカット軟化温度が、熱融着層9のビカット軟化温度よりも高いものが挙げられる。絶縁層7の融点又はビカット軟化温度としては、170℃~250℃であることが好ましく、熱融着層9の融点又はビカット軟化温度としては、95℃~185℃であることが好ましく、絶縁層7の融点と熱融着層9の融点の差又は絶縁層7と熱融着層9のビカット軟化温度の差は、50~100℃であることが好ましい。また、導体素線5aに絶縁被膜5bを形成する場合は、絶縁層7の融点又はビカット軟化点は、絶縁被膜5bの融点よりも低いことが好ましい。特に熱融着層9については、融点が140℃~170℃であることが好ましい。融点が低過ぎると、高温時での剥離が生じるおそれがあり、融点が高過ぎると、基材との接着・固定が不十分となるおそれが有る。また、熱融着層9について、ビカット軟化温度は120℃以上が好ましく、130℃以上が特に好ましい。ビカット軟化温度が低過ぎると、高温時で熱融着層9が流動してしまい剥離が生じるおそれがある。また、熱融着層9について、厚さが0.05~0.3mmであることが好ましい。熱融着層9の厚さが小さ過ぎると、外力を受けたときに熱融着層9の材料破壊が生じてしまい、十分な剥離強度が得られなくなる可能性がある。また、熱融着層9の厚さが大き過ぎると、コード状ヒータ10としての外径が大きくなってしまうため、面状ヒータとしたときの外観に影響が出たり、種々の機器への配置に悪影響が出たりする場合が生じる。なお、ビカット軟化温度はJIS-K7206(2016年)に記載された方法により測定することができる。
【0035】
導体素線5aの外周には、絶縁層7と熱融着層9の2層だけでなく、他の層を適宜形成してもよい。3層以上となった場合、最も外側の層が熱融着層9となり、そのすぐ内側の層が絶縁層7となる。又、絶縁層7や熱融着層9は、長さ方向に連続して形成することに限定されず、例えば、コード状ヒータ10の長さ方向に沿って直線状やスパイラル線状に形成する、ドット模様に形成する、断続的に形成するなどの態様が考えられる。但し、接着強度の観点から、絶縁層7及び熱融着層9は、長さ方向に連続して形成することが好ましい。
本実施例においては、絶縁層7を使用している。しかし、絶縁層7を形成せず、導体素線5aの外周に熱融着層9を直に形成する態様としてもよい。
【0036】
また、上記のようにして得られたコード状ヒータ10は、自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行う屈曲性試験において、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上であることが好ましい。
【0037】
基材11についても、ポリエステル繊維からなる不織布に限定されるものではなく、例えば、発泡ポリウレタン樹脂等からなる発泡樹脂シート、発泡ゴムシートなど種々の高分子発泡体も考えられる。特に空隙を有するもので、伸縮性に優れるものが好ましく、表面にコード状ヒータの凹凸が現れないように硬度を調節したものが好ましい。また、硬度を調節するには、発泡率を調整する、気泡の状態を独立気泡または連続気泡にする、目的に応じた硬度の材料を使用するなどの方法がある。材料としては、ポリウレタン樹脂、クロロプレンゴム、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ネオプレンゴム、ジエン系ゴム、ニトリルゴム、天然ゴム、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体など、種々の樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択すれば良い。これらの中でも、熱融着層9との接着の相性が良いポリウレタン樹脂や熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。
【0038】
また、基材11として繊維系の材料を使用する場合、不織布だけでなく、例えば、織布、編物のような布材も考えられる。布材を使用する場合、繊維の種類も種々のものから適宜選択すればよいが、コード状ヒータ1と基材11の接着性を向上させるため、熱融着性繊維を含有させたり、コード状ヒータ1の熱融着層9と同系の材料からなる繊維を含有させたりすることが好ましい。特に、不織布は、風合いが良く柔軟であるため、特にカーシートヒータの用途において好ましい。熱融着性繊維として、低融点ポリエステルを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維を使用することが考えられる、それ以外にも、例えば、低融点ポリプロピレンを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維、又はポリエチレンを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維等の使用が考えられる。このような熱融着性繊維を使用することで、熱融着性繊維の芯部を取り囲んだ状態で、熱融着性繊維の鞘部と熱融着層9とが互いに融着し一体化することとなるため、コード状ヒータ1と不織布との接着は非常に強固なものとなる。又、難燃性繊維としては、例えば、上記の難燃性ポリエステルの他に、種々の難燃性繊維の使用が考えられる。ここで、難燃性繊維とは、JIS-L1091(1999年)に合格する繊維のことを指す。このような難燃性繊維を使用することで、基材は優れた難燃性を付与されることとなる。
【0039】
熱融着性繊維の混合割合は、5%以上が好ましく、又、20%以下が好ましい。熱融着性繊維の混合割合が5%未満だと、十分な接着性が得られない。又、熱融着性繊維の混合割合が20%を超えると、不織布が固くなり、着座者が違和感を訴えることになり得るのみでなく、逆にコード状ヒータとの接着性が低下してしまう。更には、熱融着する際の熱によって基材が収縮し、設計で意図した寸法が得られなくなる可能性もある。難燃性繊維の混合割合は、70%以上であり、好ましくは70%以上95%以下である。難燃性繊維の混合割合が70%未満だと、十分な難燃性が得られない。又、難燃性繊維の混合割合が95%を超えると、相対的に熱融着性繊維の混合割合が不足してしまい、十分な接着性が得られない。尚、熱融着性繊維の混合割合と難燃性繊維の混合割合を合算して100%になる必要はなく、他の繊維を適宜混合させても良い。又、熱融着性繊維が混合されていない場合であっても、例えば、上記の熱融着層の材料と基材を構成する繊維の材料を同系統の材料とすることで、必要充分な接着性を得られることもあるので、熱融着性繊維が混合されていないことも充分に考えられる。
【0040】
又、不織布の大きさや厚さなどは、使用用途によって適宜に変更するものであるが、その厚さ(乾燥時に測定した値)は、例えば、0.6mm~1.4mm程度とすることが望ましい。このような厚さの不織布を使用すれば、加熱・加圧によりコード状ヒータと不織布とを接着・固定した際、不織布がコード状ヒータの外周の30%以上、好ましくは50%以上の部分と良好に接着することになるからであり、それによって、強固な接着状態を得ることができるからである。
【0041】
また、基材11は複数用いても良い。複数の基材11を層状に積層しても良い。この場合、複数の基材11それぞれを異なる材質のものとしても良い。これにより、表面にコード状ヒータの凹凸が表れにくくなる。また、気泡内など基材11の内部空隙にまで接着剤が侵入しないように接着層を形成すれば、基材11が硬化して伸縮性を損なうことはなく、風合いが悪化することもないため好ましい。
【0042】
基材11としては、空隙を有しているものが好ましいが、特に、コード状ヒータ1が配設される面(以下、配設面と記す)が、コード状ヒータ1が配設されない面(以下、非配設面と記す)よりも空隙が多くなっているように構成されることが好ましい。空隙が多い状態とは、例えば、織布や不織布等の布材の場合、目付け、即ち単位体積当たりの繊維重量が小さい状態、発泡樹脂シートや発泡ゴムシートのような多孔体の場合、気孔率が大きい状態のことを示す。例えば、温度や圧力を調節するなどして片面のみ又は両面で強弱異なるカレンダー加工を行った織布又は不織布、片面のみからニードルパンチを行った不織布、片面にパイル形成や起毛をさせた布体、厚さ方向で気孔率が傾斜するように発泡制御した発泡樹脂シート又は発泡ゴムシート、空隙の多さが異なる材料を貼り合わせたもの、などが挙げられる。又、特に基材11の空隙は連続していることが好ましい。これは、溶融した熱融着層が連続した空隙に浸透していくことで、アンカー効果が増して接着強度が向上するためである。このような空隙が連続している態様としては、繊維の集合体である織布や不織布等の布材、連続気孔を有する発泡樹脂シートや発泡ゴムシートなどが考えられる。なお、基材11として空隙を有するものを使用する場合、コード状ヒータ1の熱融着層9が侵入する範囲まで空隙を有していれば充分であり、例えば、非配設面は空隙を有していないものも考えられる。
【0043】
また、コード状ヒータ1を基材11に配設する際、加熱加圧による融着によって接着・固定する態様でなく、他の態様によりコード状ヒータ1を基材11に固定しても良い。例えば、通常の使用よりも高い温度になるよう、コード状ヒータ1に通電して加熱させ、その熱で熱融着層9を溶融させて基材11と接着・固定する態様、誘導加熱によって導体素線5を加熱させ、その熱で熱融着層9を溶融させて基材11と接着・固定する態様、温風により熱融着材からなる熱融着層9を溶融させて接着・固定する態様、加熱しながら一対の基材11で挟持固定する態様などが考えられる。また、基材11を加熱加圧する際には、プレス熱板27のみでなくホットプレス治具15についても加熱しても良い。この際、プレス熱板27とホットプレス治具15の温度を異なるものとして、基材11の圧縮率を変え、即ち気孔率を変化させることも考えられる。
【0044】
また、面状ヒータ31を被加熱物に接着する際、接着層を形成しても良い。接着層としては、例えば、高分子アクリル系粘着剤からなりテープ基材を使用しない接着層や、ポリプロピレンフィルムの両面に接着剤を形成してなる接着層など種々のもの使用できる。それ単独でFMVSS No.302自動車内装材料の燃焼試験に合格するような難燃性を有するものであれば、面状ヒータの難燃性が向上し好ましい。また、面状ヒータの伸縮性を損なわないために、粘着剤のみからなる接着層であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上詳述したように本発明によれば、高温時の接着性に優れたコード状ヒータを得ることができる。このコード状ヒータは、例えば、高分子発泡体や不織布等の基材上に蛇行形状等の所定の形状に配設されて面状ヒータとし、電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータ、暖房便座、防曇鏡用ヒータ、加熱調理器具等に好適に使用可能である。又、コード状ヒータ単体としても、例えば、パイプや槽等に巻き付けて接着したり、パイプ内に配置したりするような態様が考えられる。具体的な用途としては、例えば、配管や冷凍庫のパイプドレーンなどの凍結防止用ヒータ、エアコンや除湿機などの保温用ヒータ、冷蔵庫や冷凍庫などの除霜用ヒータ、乾燥用ヒータ、床暖房用ヒータとして好適に使用することができる。又、上記面状ヒータの用途として例示した電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータ、暖房便座、防曇鏡用ヒータ、加熱調理器具、床暖房等について、加熱対象物に本発明のコード状ヒータを直接貼り付けたり、巻き付けたりすることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 コード状ヒータ
3 芯材
5a 導体素線
5b 絶縁被膜
7 絶縁層
9 熱融着層
11 基材
31 面状ヒータ
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