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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】電極
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20250401BHJP
【FI】
G01N27/30 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022538018
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027108
(87)【国際公開番号】W WO2022019299
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2024-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2020125152
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末次 智和
(72)【発明者】
【氏名】拝師 基希
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0322608(US,A1)
【文献】特開2010-204029(JP,A)
【文献】特開2013-185991(JP,A)
【文献】特開2019-105637(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、無機酸化物層と、金属下地層と、導電性カーボン層とを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記導電性カーボン層において、sp 結合している原子数とsp 結合している原子数の和に対するsp 結合している原子数の比率(sp /sp +sp )が、0.1以上、0.9以下であることを特徴とする、電極。
【請求項2】
前記金属下地層は、前記導電性カーボン層の炭素と炭化物を形成可能であることを特徴とする、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記無機酸化物層は、金属酸化物層または半金属酸化物層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記金属酸化物層と、前記金属下地層とは、同一の金属元素を含むことを特徴とする、請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記金属元素が、チタンであることを特徴とする、請求項4に記載の電極。
【請求項6】
前記半金属酸化物層は、二酸化ケイ素を含むことを特徴とする、請求項3~5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記無機酸化物層の厚みが、5nm以上であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記無機酸化物層の厚みが、5nm以上であることを特徴とする、請求項6に記載の電極。
【請求項9】
電気化学測定用の電極であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
電気化学測定用の電極であることを特徴とする、請求項6に記載の電極。
【請求項11】
電気化学測定用の電極であることを特徴とする、請求項7に記載の電極。
【請求項12】
電気化学測定用の電極であることを特徴とする、請求項8に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルム基材と、チタン薄膜と、カーボン薄膜とを厚み方向に順に備える電極が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の電極では、チタン薄膜によって、導電性を向上しながら、短時間における化学安定性も向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2016/013478号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、電極は、長期間、電解液に浸漬される場合ある。電極には、上記した場合の損傷を抑制することが求められる。つまり、電極には、優れた電解液耐久性が求められる。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の電極は、上記した優れた電解液耐久性を有しないという不具合がある。
【0007】
本発明は、優れた電解液耐久性を有する電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、基材フィルムと、無機酸化物層と、金属下地層と、導電性カーボン層とを厚み方向一方側に向かって順に備える、電極を含む。
【0009】
本発明(2)は、前記金属下地層は、前記導電性カーボン層の炭素と炭化物を形成可能である、(1)に記載の電極を含む。
【0010】
本発明(3)は、前記無機酸化物層は、金属酸化物層または半金属酸化物層である、(1)または(2)に記載の電極を含む。
【0011】
本発明(4)は、前記金属酸化物層と、前記金属下地層とは、同一の金属元素を含む、(3)に記載の電極を含む。
【0012】
本発明(5)は、前記金属元素が、チタンである、(4)に記載の電極を含む。
【0013】
本発明(6)は、前記半金属酸化物層は、二酸化ケイ素を含むことを特徴とする(3)~(5)のいずれか一項に記載の電極を含む。
【0014】
本発明(7)は、前記金属酸化物層の厚みが、5nm以上である、(1)から(6)のいずれか一項に記載の電極を含む。
【0015】
本発明(8)は、電気化学測定用の電極である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の電極を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電極は、優れた電解液耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の電極の一実施形態の断面図である。
図2図2は、ピンホールが形成された電極の断面図である。
図3図3は、比較例1の電極の断面図である。
図4図4は、比較例2の電極の断面図である。
図5図5Aから図5Bは、実施例1の電極のOM像である。図5Aが、電解液に浸漬する前の電極を示す。図5Bが、電解液に浸漬した後の電極を示す。
図6図6Aから図6Bは、実施例2の電極のOM像である。図6Aが、電解液に浸漬する前の電極を示す。図6Bが、電解液に浸漬した後の電極を示す。
図7図7Aから図7Bは、比較例1の電極のOM像である。図7Aが、電解液に浸漬する前の電極を示す。図7Bが、電解液に浸漬した後の電極を示す。
図8図8Aから図8Bは、比較例2の電極のOM像である。図8Aが、電解液に浸漬する前の電極を示す。図8Bが、電解液に浸漬した後の電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<一実施形態>
本発明の電極の一実施形態を、図1から図2を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、電極1は、所定の厚みを有する。電極1は、フィルム形状(シート形状を含む)を有する。電極1は、基材フィルム2と、無機酸化物層3と、金属下地層4と、導電性カーボン層5とを厚み方向一方側に向かって順に備える。具体的には、電極1は、基材フィルム2と、無機酸化物層3と、金属下地層4と、導電性カーボン層5とのみを備える。
【0020】
基材フィルム2は、所定の厚みを有する。基材フィルム2の材料としては、例えば、無機材料、および、有機材料が挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。無機材料としては、例えば、シリコン、および、ガラスが挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。有機材料としては、例えば、樹脂材料が挙げられる。樹脂材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、アセテート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアリレート樹脂、および、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。
【0021】
基材フィルム2の材料として、好ましくは、有機材料が挙げられ、より好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリエステル樹脂として、好ましくは、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0022】
基材フィルム2の厚みは、特に限定されない。基材フィルム2の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
【0023】
無機酸化物層3は、基材フィルム2の厚み方向一方面に配置されている。具体的には、無機酸化物層3は、基材フィルム2の厚み方向一方面の全部に接触している。無機酸化物層3は、所定の厚みを有する。
【0024】
無機酸化物層3としては、例えば、金属酸化物層3A、または、半金属酸化物層3Bが挙げられる。
【0025】
金属酸化物層3Aは、不動態である。具体的には、不動態は、金属酸化物からなる。金属酸化物としては、例えば、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化クロム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、および、それらの複合酸化物が挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。好ましくは、電解液耐久性をより一層向上させる観点から、酸化チタンが挙げられる。
【0026】
半金属酸化物層3Bは、半金属の酸化物からなる。半金属は、限定されない。半金属としては、例えば、ケイ素、アンチモン、ゲルマニウム、および、ビスマスが挙げられる。半金属として、好ましくは、ケイ素が挙げられる。具体的には、半金属の酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム、および、酸化ビスマスが挙げられる。また、半金属の酸化物は、半金属の酸化物としては、ホウケイ酸ガラスなどのガラスも挙げられる。半金属の酸化物として、好ましくは、電解液耐久性をより一層向上させる観点から、酸化ケイ素が挙げられる。酸化ケイ素としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、および、一酸化ケイ素が挙げられ、好ましくは、二酸化ケイ素が挙げられる。
【0027】
無機酸化物層3の厚みは、特に限定されない。無機酸化物層3の厚みは、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、5nm以上であり、また、例えば、50nm以下、好ましくは、25nm以下である。
【0028】
無機酸化物層3の厚みが上記した下限以上であれば、面方向にわたって、無機酸化物層3は、均一性に優れる。面方向は、厚み方向に直交する方向である。そのため、無機酸化物層3は連続膜となり、電極耐久性向上の効果が期待できる。
【0029】
一方、無機酸化物層3の厚みが上記した上限以下であれば、無機酸化物層3(とりわけ、金属酸化物層3A)は導電性にも優れる。
【0030】
金属下地層4は、無機酸化物層3の厚み方向一方面に配置されている。具体的には、金属下地層4は、無機酸化物層3の厚み方向一方面の全部に接触している。金属下地層4は、所定の厚みを有する。
【0031】
金属下地層4の材料は、金属である。そのような金属は、好ましくは、次に説明する導電性カーボン層5の炭素と炭化物を形成可能である。そのような金属として、具体的には、周期表における第2族元素と、第4族元素から第14族元素と、それらの合金とが挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。
【0032】
また、金属下地層4と、金属酸化物層3Aとは、例えば、同一の金属元素を含む。
【0033】
金属下地層4の材料としての金属として、導電性カーボン層5の化学的安定性の確保の観点から、好ましくは、第4族元素が挙げられ、より好ましくは、チタン、および、ジルコニウム挙げられ、さらに好ましくは、チタンが挙げられる。
【0034】
とりわけ好ましくは、金属酸化物層3Aと、金属下地層4とは、チタンを元素として含む。金属酸化物層3Aと、金属下地層4とは、チタンを含めば、金属酸化物層3Aと金属下地層4との密着性を向上できるので、有利である。金属酸化物層3Aがチタンを含む場合には、金属酸化物層3Aの材料は、酸化チタンである。金属下地層4の材料は、金属としてのチタンである。
【0035】
導電性カーボン層5は、金属下地層4の厚み方向一方面に配置されている。具体的には、導電性カーボン層5は、金属下地層4の厚み方向一方面の全部に接触している。導電性カーボン層5は、所定の厚みを有する。
【0036】
導電性カーボン層5の材料は、炭素であり、好ましくは、sp結合およびsp結合を有する炭素である。sp結合およびsp結合を有する炭素は、グラファイト型構造およびダイヤモンド構造を有する。sp結合している原子数とsp結合している原子数との和に対するsp結合している原子数の比率(sp/sp+sp)は、特に限定されない。上記した比率(sp/sp+sp)は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.2以上であり、また、例えば、0.9以下、好ましくは、0.5以下である。比率(sp/sp+sp)は、導電性カーボン層5の厚み方向一方面をX線光電子分光法により測定して得られるスペクトルにおいて、sp結合のピーク強度およびsp結合のピーク強度に基づいて算出する。
【0037】
導電性カーボン層5の厚み方向一方面において、炭素に対する酸素の濃度比(O/C)は、特に限定されない。上記した濃度比(O/C)は、例えば、0.15以下、好ましくは、0.10以下であり、また、例えば、0.00超過、また、0.01以上、また、0.02以上、さらには、0.03以上である。濃度比は、導電性カーボン層5の厚み方向一方面をX線光電子分光法により測定して得られるスペクトルにおいて、C1sのピーク面積およびO1sのピーク面積に基づいて算出する。
【0038】
導電性カーボン層5の厚み方向一方面における表面抵抗値は、特に限定されない。導電性カーボン層5の表面抵抗は、例えば、1.0×10Ω/□以下、好ましくは、1.0×10Ω/□以下である。表面抵抗は、JIS K 7194に準じて、4端子法により測定することができる。
【0039】
導電性カーボン層5の厚みは、特に限定されない。導電性カーボン層5の厚みは、例えば、5nm以上、より好ましくは、10nm以上であり、また、例えば、200nm以下、より好ましくは、100nm以下である。導電性カーボン層5の厚みは、X線反射率を測定することにより算出する。
【0040】
また、導電性カーボン層5と金属下地層4との間の界面には、好ましくは、炭化物層(図示せず)が形成されている。炭化物層は、金属下地層4の金属と、導電性カーボン層5の炭素との化合物である炭化物からなる。炭化物層によって、導電性カーボン層5と金属下地層4との間の密着力が向上する。この場合には、電極1は、基材フィルム2と、無機酸化物層3と、金属下地層4と、図示しない炭化物層と、導電性カーボン層5とを厚み方向一方側に向かって順に備える。
【0041】
次に、電極1の製造方法を説明する。まず、基材フィルム2を準備する。次いで、基材フィルム2の厚み方向一方側に、無機酸化物層3と、金属下地層4と、導電性カーボン層5とを順に形成する。
【0042】
無機酸化物層3の形成方法としては、例えば、乾式方法、および、湿式方法が挙げられる。好ましくは、乾式方法が挙げられる。乾式方法としては、例えば、PVD法(物理蒸着法)、および、CVD法(化学蒸着法)が挙げられる。乾式方法として、好ましくは、PVD法が挙げられる。PVD法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、および、イオンプレーティング法(アーク蒸着法)が挙げられる。PVD法として、好ましくは、スパッタリング法が挙げられる。スパッタリング法は、特に限定されない。例えば、スパッタリング法として、例えば、アンバランストマグネトロンスパッタリング法(UBMスパッタリング法)、大電力パルススパッタリング法、電子サイクロトロン共鳴スパッタリング法、RFスパッタリング法、DCスパッタリング法(DCマグネトロンスパッタリング法)、DCパルススパッタリング法、および、イオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0043】
また、スパッタリング法では、例えば、酸素および不活性ガスを含むスパッタリングガスと、無機物からなるターゲットとが用いられる。
【0044】
不活性ガスとしては、例えば、アルゴンが挙げられる。スパッタリングガスの全流量に対する酸素の流量比は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.05であり、また、例えば、0.5未満、好ましくは、0.2以下である。
【0045】
無機物としては、例えば、金属、および、半金属が挙げられる。
【0046】
金属としては、金属酸化物を形成する金属元素が挙げられる。金属としては、例えば、ニッケル、コバルト、クロム、チタン、アルミニウム、タングステン、モリブデン、および、それらの合金が挙げられる。好ましくは、化学的な安定性の観点から、チタンが挙げられる。
【0047】
半金属としては、上記した半金属が挙げられ、好ましくは、ケイ素が挙げられる。
【0048】
金属下地層4の形成方法としては、無機酸化物層3の上記した形成方法と同様の方法が挙げられる。但し、金属下地層4をスパッタリング法で形成する場合には、酸素を含まず、不活性ガスのみを含むスパッタリングガスが用いられる。
【0049】
また、ターゲット材として、好ましくは、金属酸化物層3Aの形成で用いたターゲット材と同一のターゲット材が挙げられ、より好ましくは、チタンが挙げられる。金属酸化物層3Aの形成と、金属下地層4の形成とにおいて、チタンからなるターゲットが共通できるので、製造設備の設計が容易となる。
【0050】
導電性カーボン層5の形成方法としては、無機酸化物層3の上記した形成方法と同様の方法が挙げられる。但し、導電性カーボン層5をスパッタリング法で形成する場合には、酸素を含まず、不活性ガスのみを含むスパッタリングガスが用いられる。導電性カーボン層5をスパッタリング法で形成する場合には、ターゲット材として、例えば、炭素、好ましくは、焼結カーボンが用いられる。その後、必要により、導電性カーボン層5を表面処理することができる。
【0051】
<一実施形態の作用効果>
そして、この電極1は、基材フィルム2と、無機酸化物層3と、金属下地層4と、導電性カーボン層5とを厚み方向一方側に向かって順に備えるので、電解液耐久性に優れる。
【0052】
しかるに、図2に示すように、電極1には、その製造に起因して、ピンホール6が不可避的に形成される場合がある。ピンホール6は、無機酸化物層3と、金属下地層4と、導電性カーボン層5とを厚み方向に貫通する孔である。例えば、基材フィルム2を搬送中に、基材フィルム2の厚み方向一方面に異物(塵埃)が不可避的に積層される(堆積される)場合に、その異物の厚み方向一方側に、無機酸化物層3と金属下地層4と導電性カーボン層5とが形成される。異物と基材フィルム2との密着力は、顕著に低いことから、異物が、基材フィルム2の厚み方向一方面から脱離するときに、併せて、無機酸化物層3と金属下地層4と導電性カーボン層5との対応する部分も、脱離する。これによって、上記したピンホール6が不可避的に形成されてしまう。
【0053】
そして、電極1が腐食性の電解液に浸漬されると、ピンホール6に電解液が満たされる。
【0054】
しかるに、図3に示すように、特許文献1のように、無機酸化物層3を備えない電極1では、太線矢印で示すように、電解液は、ピンホール6から、金属下地層4と基材フィルム2との間の界面に浸入する。そのため、金属下地層4が基材フィルム2の厚み方向一方面から剥離し易い。そのため、図3の電極1は、電解液耐久性が十分でない。
【0055】
本願において、電解液耐久性は、電極1が電解液に長期間浸漬されたときに、導電性カーボン層5が損傷し難いことを意味する。具体的には、電解液耐久性は、電極1が電解液に、例えば、5日以上、さらには、10日以上、さらには、15日以上、さらには、20日以上浸漬されたときに、導電性カーボン層5が損傷し難いことを意味する。
【0056】
また、図4に示すように、無機酸化物層3と金属下地層4との形成順序を入れ替えた層構成であっても、金属下地層4が基材フィルム2の厚み方向一方面に接触している。そのため、図4の矢印に示すように、電解液は、ピンホール6から、金属下地層4と基材フィルム2との間の界面に浸入する。
【0057】
しかしながら、本実施形態では、たとえ、図2に示すように、ピンホール6に電解液が満たされても、金属下地層4と基材フィルム2との間には、無機酸化物層3が設けられている。そのため、無機酸化物層3によって、金属下地層4と基材フィルム2との間に電解液が浸入することを抑制できる。つまり、無機酸化物層3が、電解液に対するバリア層として機能できる。具体的には、無機酸化物層3において、ピンホール6に臨む内周面7が、ストッパ部となる。
【0058】
他方、電解液が導電性カーボン層5と金属下地層4との間の界面に浸入し、導電性カーボン層5の金属下地層4からの剥離が懸念される。しかし、本実施形態において、導電性カーボン層5と金属下地層4との間の界面において、炭化物層が形成される。そのため、導電性カーボン層5と金属下地層4との間の密着力が向上し、上記した浸入を抑制できる。そのため、導電性カーボン層5の金属下地層4からの剥離も抑制できる。
【0059】
また、金属酸化物層3Aと、金属下地層4とが、同一の金属元素であれば、金属酸化物層3Aと金属下地層4との密着性を向上できる。さらに、金属酸化物層3Aと、金属下地層4とが、同一の金属元素からなるターゲットを用いることができるので、共通の成膜室を用いることができる。そのため、コンパクトな製造設備によって、電極1を製造できる。
【0060】
より具体的には、金属酸化物層3Aと、金属下地層4とが、ともに、チタンを元素として含めば、電極1の化学的安定性に優れる。さらに、金属酸化物層3Aの形成と、金属下地層4の形成とにおいて、チタンからなるターゲットが共通するので、製造設備の設計が容易となる。
【0061】
また、無機酸化物層3が半金属酸化物層3Bであれば、そのため、半金属酸化物層3Bによって、金属下地層4と基材フィルム2との間に電解液が浸入することを有効に抑制できる。そのため、半金属酸化物層3Bを備える電極1は、優れた電解液耐久性を有する。
【0062】
さらには、無機酸化物層3の厚みが、5nm以上であれば、面方向にわたる無機酸化物層3の均一性に優れる。
【0063】
<電極1の用途>
電極1の用途は、特に限定されない。電極1の用途としては、例えば、電気化学測定用の電極が挙げられる。具体的には、電極1を作用電極として含む電気化学測定システムに備えられる。
【実施例
【0064】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0065】
実施例1
ポリエチレンテレフタレートからなる厚み50μmの基材フィルム2を準備した。
【0066】
次いで、マグネトロンスパッタリング法を用いて、酸化チタンからなる金属酸化物層3A(無機酸化物層3)を、基材フィルム2の厚み方向一方面に形成した。マグネトロンスパッタリング法の条件は、以下の通りである。
【0067】
ターゲット材:チタン
ターゲットパワー:100W
スパッタリングガス:アルゴンと酸素(流量比で、9:1)
スパッタリング室の圧力:0.2Pa
金属酸化物層3Aの厚みは、5nmであった。
【0068】
マグネトロンスパッタリング法を用いて、チタンからなる金属下地層4を、金属酸化物層3Aの厚み方向一方面に形成した。マグネトロンスパッタリング法の条件は、以下の通りである。
【0069】
ターゲット材:チタン
ターゲットパワー:100W
スパッタリングガス:アルゴン
スパッタリング室の圧力:0.2Pa
金属下地層4の厚みは、12nmであった。
【0070】
DCパルススパッタリング法によって、導電性カーボン層5を、金属下地層4の厚み方向一方面に形成した。DCパルススパッタリング法の条件は、以下の通りである。
ターゲット材:焼結カーボン
アルゴンガス圧:0.4Pa
ターゲットパワー:3.3W/cm
温度:120℃以下
【0071】
導電性カーボン層5の表面抵抗は、130Ω/□であった。導電性カーボン層5における比率(sp/sp+sp)は、0.35であった。導電性カーボン層5において、炭素に対する酸素の濃度比(O/C)は、0.06であった。導電性カーボン層5の厚みは、30nmであった。
【0072】
これによって、基材フィルム2と、金属酸化物層3Aと、金属下地層4と、導電性カーボン層5とを厚み方向一方側に向かって順に備える電極1を製造した。
【0073】
実施例2
金属酸化物層3Aの厚みを2nmに変更した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0074】
実施例3
金属酸化物層3Aに代えて、半金属酸化物層3Bを形成した以外は、実施例1と同様に処理した。すなわち、マグネトロンスパッタ法によって、二酸化ケイ素からなる半金属酸化物層3B(無機酸化物層3)を基材フィルム2の厚み方向一方面に形成した。マグネトロンスパッタリング法の条件は、以下の通りである。
【0075】
ターゲット材:ケイ素
ターゲットパワー:700W
スパッタリングガス:アルゴンと酸素(流量比で、7:3)
スパッタリングの圧力:0.3Pa
半金属酸化物層3Bの厚みは、10nmであった。
【0076】
実施例4
半金属酸化物層3Bの厚みを5nmに変更を形成した以外はした以外は、実施例1と同様に処理した。
【0077】
比較例1
金属酸化物層3Aを形成しなかった以外は、実施例1と同様に処理した。つまり、図3に示すように、この電極1は、基材フィルム2と、金属下地層4と、導電性カーボン層5とを厚み方向一方側に向かって順に備えた。
【0078】
比較例2
金属酸化物層3Aと、金属下地層4との形成順序を入れ替えた以外は、実施例1と同様に処理した。つまり、図4に示すように、この電極1は、基材フィルム2と、金属下地層4と、金属酸化物層3Aと、導電性カーボン層5とを厚み方向一方側に向かって順に備えた。
【0079】
<評価>
各実施例から各比較例の電極1について、次の事項を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0080】
<電解液耐久性>
導電性カーボン層5の厚み方向一方面に、図1図3および図4のそれぞれの仮想線で示すように、絶縁テープ9を貼着した。絶縁テープ9は、直径が2mmである開口部8を有する。
【0081】
電極1および絶縁テープ9を、0.1M硝酸溶液に、56日間、浸漬した。
【0082】
浸漬前後における電極1および絶縁テープ9の光学顕微鏡像(以下、OM像像という)を、図5Aから図8Bに示す。なお、図5から図8は、それぞれ、実施例1から比較例2である。図5Aは、実施例1において浸漬前の電極1である。図5Bは、実施例1において浸漬後の電極1である。図6Aから図8Bは、上記した図5Aから図5Bと同様である。
【0083】
浸漬後のOM像から、以下の基準に基づいて、電解液耐久性を評価した。
【0084】
○:図5Bから分かるように、ピンホール形成に起因する損傷箇所が、ほとんど観察されなかった。
△:図6Bから分かるように、ピンホール形成に起因する損傷箇所が、わずかに観察された。
×:図7Bおよび図8Bから分かるように、ピンホール形成に起因する損傷箇所が、相当程度、観察された。
【0085】
<電極特性>
各実施例から各比較例の電極1の電位窓を、ポテンショスタットを用いて測定した。これによって、電極1の電極特性を評価した。電位窓は、電圧をかけても電流が流れない電圧範囲を意味し、その範囲が広いほど、電極1の電極特性が良好であることを意味する。
【0086】
電極1を作用電極として含む電気化学測定システムを構築した。なお、この電気化学測定システムは、参照電極としてAg/AgCl電極、対極としてPt電極を含む。
【0087】
その後、電極1を、0.1M硫酸溶液に浸漬した。続いて、電極1に対して、電位を掃引し、500μA/cmに到達した際の電位の幅を電位窓と定義した。
【0088】
表1から分かるように、実施例1から比較例2のいずれにおいても、電位窓が3.7以上であることから、浸漬前の電極1の電極特性が良好である。
【0089】
【表1】
【0090】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
電極は、例えば、電気化学測定に用いられる。
【符号の説明】
【0092】
1 電極
2 基材フィルム
3 無機酸化物層
3A 金属酸化物層
3B 半金属酸化物層
4 金属下地層
5 導電性カーボン層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8