(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20250401BHJP
【FI】
G01N27/30 B
G01N27/30 F
(21)【出願番号】P 2022553891
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021035024
(87)【国際公開番号】W WO2022071101
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020165209
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭太郎
(72)【発明者】
【氏名】拝師 基希
(72)【発明者】
【氏名】笹原 一輝
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105637(JP,A)
【文献】国際公開第2010/004690(WO,A1)
【文献】特許第6752432(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
B32B 1/00-43/00
H01M 4/00-4/62
H01M 10/00-10/34
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、金属下地層と、導電性カーボン層とを厚み方向に順に備え、
前記導電性カーボン層の表面は、1.50nm以下の算術平均粗さRaと、0.00以上の歪度Rskとを有する、電極。
【請求項2】
前記導電性カーボン層は、金属を含有し、
前記導電性カーボン層における金属の割合が、5質量%以上、50質量%以下である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記金属が、チタンである、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記金属が、チタンである、請求項2に記載の電極。
【請求項5】
電気化学測定用の電極である、請求項1に記載の電極。
【請求項6】
電気化学測定用の電極である、請求項2に記載の電極。
【請求項7】
電気化学測定用の電極である、請求項3に記載の電極。
【請求項8】
電気化学測定用の電極である、請求項4に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性基材と、金属層と、導電性カーボン層とを厚み方向に順に備える電極が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。特許文献1に記載される電極では、導電性カーボン層の表面粗さを2.0nm以下にして、ノイズを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の電極では、シグナル強度が低下し易いという不具合がある。
【0005】
本発明は、ノイズを抑制できながら、シグナル強度の低下も抑制できる電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、樹脂フィルムと、金属下地層と、導電性カーボン層とを厚み方向に順に備え、前記導電性カーボン層の表面は、1.50nm以下の算術平均粗さRaと、0.00以上の歪度Rskとを有する、電極を含む。
【0007】
本発明(2)は、前記導電性カーボン層は、金属を含有し、前記導電性カーボン層における金属の割合が、5質量%以上、50質量%以下である、(1)に記載の電極を含む。
【0008】
本発明(3)は、前記金属が、チタンである、(1)または(2)に記載の電極を含む。
【0009】
本発明(4)は、電気化学測定用の電極である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の電極を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極では、導電性カーボン層の表面が、1.50nm以下の算術平均粗さRaと、0.00以上の歪度Rskとを有するので、ノイズを抑制できながら、シグナル強度の低下も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の電極の一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<一実施形態>
本発明の電極の一実施形態を、
図1を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、電極1は、厚みを有する。電極1は、フィルム形状(シート形状を含む)を有する。電極1は、樹脂フィルム2と、金属下地層3と、導電性カーボン層4とを厚み方向一方側に向かって順に備える。好ましくは、電極1は、樹脂フィルム2と、金属下地層3と、導電性カーボン層4とのみを備える。
【0014】
樹脂フィルム2は、厚みを有する。樹脂フィルム2は、電極1における基材フィルムである。樹脂フィルム2の材料は、樹脂である。樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、アセテート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアリレート樹脂、および、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。樹脂として、好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリエステル樹脂として、好ましくは、PETが挙げられる。
【0015】
樹脂フィルム2の厚みは、特に限定されない。樹脂フィルム2の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
【0016】
樹脂フィルム2の厚み方向一方面の算術平均粗さRaは、特に限定されない。樹脂フィルム2の厚み方向一方面の算術平均粗さRaは、例えば、5nm以下、好ましくは、1nm以下であり、また、例えば、0.1nm以上、好ましくは、0.3nm以上である。樹脂フィルム2の厚み方向一方面の算術平均粗さRaは、JIS B0601:2013に従って測定される。以下の層の算術平均粗さRaも、上記と同様の方法で測定される。
【0017】
樹脂フィルム2の厚み方向一方面の歪度Rskは、特に限定されない。樹脂フィルム2の厚み方向一方面の歪度Rskは、例えば、-0.3以上、好ましくは、-0.2以上であり、また、例えば、1.5以下、好ましくは、0.8以下である。樹脂フィルム2の厚み方向一方面の歪度Rskは、JIS B0601:2013に従って、粗さ曲線のスキューネスとして求められる。以下の層の歪度Rskも、上記と同様の方法で測定される。
【0018】
金属下地層3は、樹脂フィルム2の厚み方向一方面に配置されている。具体的には、金属下地層3は、樹脂フィルム2の厚み方向一方面の全部に接触している。金属下地層3は、厚みを有する。
【0019】
金属下地層3の材料は、金属である。金属としては、例えば、チタン、クロム、タングステン、アルミニウム、銅、銀、金、モリブデン、タンタル、パラジウム、シリコン、および、それらの合金が挙げられる。金属として、好ましくは、チタンが挙げられる。
【0020】
金属下地層3の厚みは、特に限定されない。金属下地層3の厚みは、例えば、1nm以上、好ましくは、3nm以上、より好ましくは、5nm以上であり、また、例えば、1000nm以下、好ましくは、100nm以下、より好ましくは、50nm以下である。
【0021】
導電性カーボン層4は、金属下地層3の厚み方向一方面に配置されている。具体的には、導電性カーボン層4は、金属下地層3の厚み方向一方面の全部に接触している。導電性カーボン層4は、厚みを有する。
【0022】
導電性カーボン層4の主な材料は、炭素である。炭素は、例えば、sp2結合およびsp3結合を有する。このような炭素は、グラファイト型構造およびダイヤモンド構造を有する。
【0023】
導電性カーボン層4は、金属をさらに含有することができる。導電性カーボン層4が金属をさらに含有すれば、ノイズをより一層抑制できながら、シグナル強度の低下もより一層抑制できる。導電性カーボン層4における金属としては、金属下地層3と同じ金属であってもよく、または、金属下地層3と異なる金属であってもよい。好ましくは、導電性カーボン層4における金属は、金属下地層3と同じ金属が挙げられる。
【0024】
金属としては、例えば、チタン、クロム、タングステン、アルミニウム、銅、銀、金、モリブデン、タンタル、パラジウム、シリコン、および、それらの合金が挙げられる。金属として、好ましくは、チタンが挙げられる。金属がチタンであれば、導電性カーボン層4と下地金属層3との密着力をより高くすることができる。
【0025】
導電性カーボン層4における金属の割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは、5質量%以上であり、また、例えば、50質量%以下、好ましくは、35質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以下である。導電性カーボン層4における金属の割合が上記した下限以上であり、上記した上限以下であれば、ノイズをより一層抑制できながら、シグナル強度の低下もより一層抑制できる。導電性カーボン層4における金属の有無および割合は、蛍光X線測定により求められる。
【0026】
また、導電性カーボン層4は、希ガスをさらに含んでもよい。希ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、および、ラドンが挙げられる。導電性カーボン層4における希ガスの分析方法としては、例えば、二次イオン質量分析法、レーザー共鳴イオン化質量分析法、および、蛍光X線分析が挙げられる。
【0027】
導電性カーボン層4の厚み方向一方面における表面抵抗値は、特に限定されない。導電性カーボン層4の厚み方向一方面における表面抵抗は、例えば、1.0×104Ω/□以下、好ましくは、1.0×103Ω/□以下である。表面抵抗は、JIS K 7194に準じて、4端子法により測定する。
【0028】
導電性カーボン層4の厚みは、特に限定されない。導電性カーボン層4の厚みは、例えば、1nm以上、好ましくは、2nm以上、より好ましくは、5nm以上であり、また、例えば、100nm以下、好ましくは、70nm以下、より好ましくは、50nm以下である。導電性カーボン層4の厚みが上記した上限以下であれば、導電性カーボン層4の厚み方向一方面における後述する算術平均粗さRaを所望の範囲に容易に設定できる。導電性カーボン層4の厚みが上記した下限以上であれば、面内方向に均一な成膜ができる。面内方向は、厚み方向に直交する方向である。導電性カーボン層4の厚みは、X線反射率を測定することにより算出する。
【0029】
導電性カーボン層4の厚み方向一方面の算術平均粗さRaは、1.50nm以下である。本実施形態における導電性カーボン層4の厚み方向一方面は、導電性カーボン層4の表面と同義である。また、導電性カーボン層4の厚み方向一方面の算術平均粗さRaは、好ましくは、1.25nm以下、より好ましくは、1.00nm以下、さらに好ましくは、0.75nm以下、とりわけ好ましくは、0.70nm以下である。導電性カーボン層4の厚み方向一方面の算術平均粗さRaが上記した上限を越えれば、ノイズを抑制できない。具体的には、電極1を用いてサイクリックボルタンメトリーを実施するときに、キャパシタンス値が過大となる。そうすると、ノイズが増大する。つまり、本実施形態では、導電性カーボン層4の厚み方向一方面の算術平均粗さRaが、1.50nm以下であるので、ノイズを抑制できる。例えば、本実施形態では、サイクリックボルタンメトリーにおけるキャパシタンス値を低くできることから、上記したノイズの抑制が実証される(後の実施例欄参照)。導電性カーボン層4の厚み方向一方面の算術平均粗さRaを上記した範囲に設定するには、例えば、導電性カーボン層4の厚みを調整する。
【0030】
一方、導電性カーボン層4の厚み方向一方面の算術平均粗さRaの下限は、特に限定されない。導電性カーボン層4の厚み方向一方面の算術平均粗さRaの下限は、例えば、0.01nm、好ましくは、0.10nmである。
【0031】
導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskは、0.00以上である。導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskは、好ましくは、0.15以上、より好ましくは、0.20以上である。導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskが上記した下限に満たなければ、シグナル強度が低下する。具体的には、電極1を用いてサイクリックボルタンメトリーを実施するときに、酸化還元電位差ΔEpが増大する。そうすると、シグナル強度が低下する。換言すれば、本実施形態では、導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskが0.00以上であるので、シグナル強度の低下を抑制できる。このことは、サイクリックボルタンメトリーにおいて酸化還元電位差ΔEp(具体的には、フェリシアン活性値)が低いことから、上記したシグナル強度の低下の抑制が実証される(後の実施例欄参照)。導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskを上記した範囲に設定するには、例えば、スパッタリング法の種類、ターゲットへの印加電力、スパッタリング時の圧力、および/または、導電性カーボン層4の厚みを調整する。
【0032】
導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskが0.00以上であるということは、歪度Rskが0または正数である。すると、導電性カーボン層4の厚み方向一方面における凸部が急峻で、まばらとなる。すなわち、凸部の間隔が広くなり、凹部が空間に占める割合が多くなる。そうすると、多量の測定対象物質を凹部に収容して、これを感度よく測定でき、シグナル強度の低下を抑制できると推測される。
【0033】
一方、導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskの上限は、特に限定されない。導電性カーボン層4の厚み方向一方面の歪度Rskの上限は、例えば、1.50である。
【0034】
次に、電極1の製造方法を説明する。まず、樹脂フィルム2を準備する。次いで、樹脂フィルム2の厚み方向一方側に、金属下地層3と、導電性カーボン層4とを順に形成する。
【0035】
金属下地層3の形成方法としては、例えば、乾式方法、および、湿式方法が挙げられる。好ましくは、乾式方法が挙げられる。乾式方法としては、例えば、PVD法(物理蒸着法)、および、CVD法(化学蒸着法)が挙げられる。乾式方法として、好ましくは、PVD法が挙げられる。PVD法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、および、イオンプレーティング法(アーク蒸着法)が挙げられる。PVD法として、好ましくは、スパッタリング法が挙げられる。スパッタリング法は、特に限定されない。例えば、スパッタリング法として、例えば、アンバランストマグネトロンスパッタリング法(UBMスパッタリング法)、大電力パルススパッタリング法、電子サイクロトロン共鳴スパッタリング法、RFスパッタリング法、DCスパッタリング法(DCマグネトロンスパッタリング法)、DCパルススパッタリング法、および、イオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0036】
また、スパッタリング法では、例えば、スパッタリングガスと、ターゲットとが用いられる。スパッタリングガスは、希ガスを含む。希ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、および、ラドンが挙げられる。ターゲットは、上記した金属からなる。
【0037】
スパッタリングにおける圧力は、例えば、0.01Pa以上であり、また、例えば、10Pa以下である。
【0038】
導電性カーボン層4の形成方法としては、金属下地層3の上記した形成方法と同様の方法が挙げられる。導電性カーボン層4の形成方法として、好ましくは、乾式方法が挙げられ、より好ましくは、PVD法が挙げられ、さらに好ましくは、スパッタリング法が挙げられ、とりわけ好ましくは、大電力パルススパッタリング法、および、DCパルススパッタリング法が挙げられる。
【0039】
ターゲットとして、例えば、炭素、好ましくは、焼結カーボンが用いられる。また、導電性カーボン層4が、金属を含む場合には、ターゲットとして、炭素と金属とが挙げられる。具体的には、炭素(好ましくは、焼結カーボン)からなる第1ターゲットと、金属(好ましくは、チタン)からなる第2ターゲットとが挙げられる。例えば、第1ターゲットと、第2ターゲットとは、互いに独立して1つの成膜室に配置される。
【0040】
また、第1ターゲットと第2ターゲットとが成膜室に配置される場合には、それらに印加する電力の比を制御する。これによって、導電性カーボン層4に含まれる金属の割合を調節する。
【0041】
DCパルススパッタリング法におけるパルス幅は、一般的に放電停止時間である。パルス幅は、例えば、0.5μs以上であり、また、例えば、1ms以下である。DCパルススパッタリング法における周波数は、例えば、10kHz以上であり、また、例えば、500kHz以下である。
【0042】
大電力パルススパッタリング法におけるパルス幅は、一般的に放電持続時間である。パルス幅は、例えば、10μs以上であり、また、例えば、3ms以下である。大電力パルススパッタリング法における周波数は、例えば、50Hz以上であり、また、例えば、3kHz以下である。
【0043】
これにより、樹脂フィルム2と、金属下地層3と、導電性カーボン層4とを順に備える電極1を製造する。
【0044】
<一実施形態の作用効果>
そして、この電極1では、導電性カーボン層4の厚み方向一方面が、1.5nm以下の算術平均粗さRaと、0.0以上の歪度Rskとを有する。そのため、ノイズを抑制できながら、シグナル強度の低下も抑制できる。
【0045】
また、導電性カーボン層4は、金属をさらに含有し、導電性カーボン層4における金属の割合が、5質量%以上、50質量%以下であれば、ノイズをより一層抑制できながら、シグナル強度の低下もより一層抑制できる。
【0046】
また、金属がチタンであれば、導電性カーボン層4と下地金属層3との密着力をより高くすることができる。
【0047】
<電極1の用途>
電極1の用途は、特に限定されない。電極1の用途としては、例えば、電気化学測定用の電極が挙げられる。具体的には、電極1を作用電極として含む電気化学測定システムに備えられる。この場合には、電極1は、電気化学測定用の電極として用いられる。電気化学測定システムを用いて、例えば、サイクリックボルタンメトリーを実施する。電気化学測定システムの用途として、例えば、血糖値センサーが挙げられる。血糖値センサーは、血中の血糖値を測定する。
【0048】
<変形例>
以下の変形例において、上記した一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0049】
図示しないが、変形例の電極1は、樹脂フィルム2の厚み方向他方側に向かって順に配置される金属下地層3と導電性カーボン層4とをさらに備えることもできる。この変形例の電極1では、導電性カーボン層4と金属下地層3と樹脂フィルム2と金属下地層3と導電性カーボン層4とが、厚み方向一方側に向かって順に配置される。樹脂フィルム2の厚み方向他方側に配置される導電性カーボン層4の厚み方向他方面は、1.5nm以下の算術平均粗さRaと、0.0以上の歪度Rskとを有する。この変形例では、導電性カーボン層4の厚み方向一方面と他方面とは、それぞれ、導電性カーボン層4の表面の一例である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0051】
実施例1
50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂フィルム2を準備した。樹脂フィルム2の厚み方向一方面の算術平均粗さRaは0.6nmであった。樹脂フィルム2の厚み方向一方面の歪度Rskは-0.11であった。
【0052】
次いで、DCスパッタリング法によって、チタンからなる金属下地層3を、樹脂フィルム2の厚み方向一方面に形成した。金属下地層3の厚みは、7nmであった。DCスパッタリング法の条件は、以下の通りである。
【0053】
<DCスパッタリング法の条件>
ターゲット:チタン
ターゲット印加電力:200W
ターゲットの形状およびサイズ:直径2インチの円筒形
スパッタリングガス:アルゴン
スパッタリング室の圧力:0.3Pa
【0054】
その後、DCパルススパッタリング法によって、金属下地層3の厚み方向一方面に、導電性カーボン層4を形成した。DCパルススパッタリング法の条件を以下に記載する。
【0055】
<DCパルススパッタリング法の条件>
第1ターゲット:焼結カーボン
第2ターゲット:チタン
第1ターゲット印加電力:200W
第2ターゲット印加電力:10W
第1ターゲットの形状およびサイズ:直径2インチの円筒形
第2ターゲットの形状およびサイズ:直径2インチの円筒形
スパッタリング室の圧力:0.3Pa
パルス幅:1.5μs
周波数:150kHz
【0056】
導電性カーボン層4は、チタンを10質量%含有していた。チタンの含有量は、蛍光X線測定により求めた。なお、蛍光X線測定の場合、導電性カーボン層4に含まれるチタンと下地金属層3に用いるチタンとが混在したピーク強度となってしまう。よって、予め下地金属層3のチタンのみを導電性カーボン層4のスパッタリング法と同条件で成膜したサンプルのピーク強度を、導電性カーボン層4のピークから減算することで、導電性カーボン層4にのみ含まれるチタンの含有量を算出した。導電性カーボン層4の厚みは、厚み10nmであった。導電性カーボン層4の厚みの測定方法は、後述する。
【0057】
これにより、樹脂フィルム2と、金属下地層3と、導電性カーボン層4とを備える電極1を製造した。
【0058】
実施例2
実施例1と同様に処理して電極1を製造した。但し、導電性カーボン層4の形成において、DCパルススパッタリング法を大電力パルススパッタリング法に変更した。第1ターゲット平均印加電力を150Wにし、第2ターゲットには、電力を印加しなかった。第1ターゲット印加時のパルス幅を30μs、周波数を210Hzに変更した。スパッタリング室の圧力を1.0Paに変更した。導電性カーボン層4は、チタンを含有せず、実質的に炭素からなっていた。導電性カーボン層4の厚みは35nmであった。
【0059】
実施例3
実施例1と同様に処理して電極1を製造した。但し、導電性カーボン層4の形成において、第2ターゲットには、電力を印加しなかった。導電性カーボン層4は、チタンを含有せず、実質的に炭素からなっていた。
【0060】
比較例1
実施例1と同様に処理して電極1を製造した。但し、導電性カーボン層4の形成において、第2ターゲットには、電力を印加しなかった。導電性カーボン層4は、チタンを含有せず、実質的に炭素からなっていた。導電性カーボン層4の厚みは100nmであった。
【0061】
比較例2
実施例1と同様に処理して電極1を製造した。但し、導電性カーボン層4の形成において、DCパルススパッタリング法を大電力パルススパッタリング法に変更した。第1ターゲット印加電力を150Wにし、第2ターゲットには、電力を印加しなかった。第1ターゲット印加時のパルス幅を30μs、周波数を210Hzに変更した。スパッタリング室の圧力を0.6Paに変更した。導電性カーボン層4は、チタンを含有せず、実質的に炭素からなっていた。導電性カーボン層4の厚みは35nmであった。
【0062】
比較例3
実施例3と同様に処理して電極1を製造した。但し、樹脂フィルム2の材料をシクロオレフィン樹脂(COP)に変更した。
【0063】
[評価]
以下の項目を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
[導電性カーボン層4の厚みの測定]
X線反射率法を測定原理とし、粉末X線回折装置(リガク社製、「RINT-2200」)を用いて、下記の<測定条件>にてX線反射率を測定し、データを解析ソフト(リガク社製、「GXRR3」)で解析することで、導電性カーボン層4の厚みを算出した。解析については、下記の<解析条件>にて、PETからなる樹脂フィルム2と、チタンからなる金属下地層3と、導電性カーボン層4との3層モデルを採用した。金属下地層3の狙い厚みと算術平均粗さRa0.5nmと密度4.51g/cm3とを初期値として入力した。導電性カーボン層4の狙い厚みと算術平均粗さRa0.5nmと密度1.95g/cm3とを初期値として入力した。その後、実測値との最小自乗フィッティングを実施することによって、導電性カーボン層4の厚みを解析した。
【0065】
<測定条件>
測定装置:粉末X線回折装置(リガク社製、「RINT-2000」)
光源:Cu-Kα線(波長:1,5418Å)、40kV、40mA
光学系:平行ビーム光学系
発散スリット:0.05mm
受光スリット:0.05mm
単色化・平行化:多層ゲーベルミラー使用
測定モード:θ/2θスキャンモード
測定範囲(2θ):0.3度~2.0度
【0066】
<解析条件>
解析ソフト:リガク社製、「GXRR3」
解析手法:最小自乗フィッティング
解析範囲(2θ):2θ=0.3~2.0°
【0067】
[導電性カーボン層4の算術平均粗さRaおよび歪度Rskの測定]
原子間力顕微鏡(AFMブルカージャパン社製、製品名:MultiMode8)を用いて、JIS R1683:2014に準拠して、導電性カーボン層4の厚み方向一方面の形状を観察した。観察結果から、導電性カーボン層4の厚み方向一方面について、JIS B0601:2013に定められた算術平均粗さRaと歪度Rskとをそれぞれ求めた。
【0068】
[電極の評価]
<フェリシアン活性値測定>
(シグナル強度の低下の抑制性)
導電性カーボン層4の厚み方向一方面に、絶縁テープを貼り付けた。絶縁テープは、直径2mmの穴を有している。これにより、電極面積は0.0314cm2である。これにより、電極を作用電極として作製した。作用電極を、K4[Fe(CN)6]を溶解した塩化カリウム溶液中に挿入し、ポテンシオスタット(IVIUM社、pocketSTAT)に接続した。溶液における塩化カリウムの濃度は、1.0mol/Lであった。溶液におけるK4[Fe(CN)6]の濃度は、1.0mol/Lであった。上記と同様にして、参照電極(Ag/AgCl)および対極(Pt)を塩化カリウム溶液に挿入し、ポテンシオスタットに接続した。その後、-0.1Vから0.5Vの電位範囲で、走査速度0.1V/secで、サイクリックボルタンメトリーを実施した。酸化還元電位差ΔEpをフェリシアン活性値として取得した。
【0069】
フェリシアン活性値を下記の基準に当てはめて、電極1のシグナル強度を評価した。
○ フェリシアン活性値が150mV未満であった。
× フェリシアン活性値が150mV以上であった。
【0070】
フェリシアン活性値が低いほど、電極1のシグナル強度の低下がよく抑制される。
【0071】
<キャパシタンス値測定>
(ノイズの抑制性)
導電性カーボン層4の厚み方向一方面に、絶縁テープを貼り付けた。絶縁テープは、直径2mmの穴を有している。これにより、電極面積は0.0314cm2である。これにより、電極を作用電極として作製した。作用電極を、1.0mol/L塩化カリウム溶液中に挿入し、ポテンシオスタット(IVIUM社、pocketSTATに接続した。また、同様に、参照電極(Ag/AgCl)および対極(Pt)についても塩化カリウム溶液中に挿入し、ポテンシオスタットに接続した。次に、0Vから0.5Vの電位範囲で、走査速度0.01V/secで、サイクリックボルタンメトリーを実施した。キャパシタンス値は、以下の式に代入して求めた。
【0072】
キャパシタンス値=(0.25Vのときの2つの電流値の絶対値の和)[A]/2×0.01[V/sec]/0.0314[cm2]
【0073】
キャパシタンス値の単位は、[A]/[V/sec]/[cm2]であり、[F/cm2]と同一である。
【0074】
キャパシタンス値を下記の基準に当てはめて、電極1のノイズの抑制性を評価した。
○ キャパシタンス値が15μF/cm2未満であった。
× キャパシタンス値が15μF/cm2以上であった。
【0075】
キャパシタンス値が低いほど、電極1のノイズがよく抑制される。
【0076】
【0077】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
電極は、電気化学測定に用いられる。
【符号の説明】
【0079】
1 電極
2 樹脂フィルム
3 金属下地層
4 導電性カーボン層