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特許7659087(メタ)アクリル系樹脂組成物及びそれを用いた成形体、並びに(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル系樹脂組成物及びそれを用いた成形体、並びに(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/00 20060101AFI20250401BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20250401BHJP
   C08F 8/16 20060101ALI20250401BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20250401BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08L33/00
C08K5/521
C08F8/16
C08F220/14
C08F220/28
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023574054
(86)(22)【出願日】2023-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2023000535
(87)【国際公開番号】W WO2023136275
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2022004679
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 彩
(72)【発明者】
【氏名】北村 倫明
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/123253(WO,A1)
【文献】特開2001-151814(JP,A)
【文献】特開2014-069437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖にラクトン環構造及び無水グルタル酸構造の少なくとも一方である環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含む(メタ)アクリル系樹脂組成物であって、
前記環構造を有する(メタ)アクリル系重合体が、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位と、スチレン系モノマーに由来する構成単位とを有し、
(メタ)アクリル系樹脂組成物中のリン原子の含有量が、1.0ppm以上50ppm以下であり、
(メタ)アクリル系樹脂組成物中の下記式(I)で表される化合物の含有量を下記アルコール成分測定で測定したときに、前記式(I)で表される化合物が検出されないことを特徴とする(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【化1】

[式(I)中、R1は炭素数13以上の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6以上の芳香族炭化水素基を表す。]
<アルコール成分測定>
(メタ)アクリル系樹脂組成物2質量部をクロロホルム20質量部に溶解し、得られた溶液をメタノール200質量部に滴下して沈殿物を含む溶液を得て、該溶液をろ過して得られるろ液を乾燥してサンプルを得る。該サンプルをアセトンに溶解してサンプル溶液を得る。該サンプル溶液をGC-MSを用いて測定し、メタノール以外の検出されるアルコール成分を特定、含有量を定量する。
【請求項2】
(メタ)アクリル系樹脂組成物中の下記式(II)で表される化合物の含有量が、95ppm以下である請求項1に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【化2】

[式(II)中、R2は炭素数3以上12以下の脂肪族炭化水素基を表す。]
【請求項3】
環構造を有する(メタ)アクリル系重合体における環構造単位の含有割合が、5質量%以上70質量%以下である請求項1に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル系樹脂組成物中の環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の含有量が、50質量%以上である請求項1に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
ガラス転移温度が120℃以上である請求項1に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
ヒンダードフェノール化合物を含まない請求項1に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
ヒンダードフェノール部位を有する有機リン化合物を含まない請求項1に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物を含む成形体。
【請求項9】
シート、フィルム又はレンズ状である請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
(メタ)アクリル系重合体において、下記(i)及び(ii)の環化反応のうち少なくとも片方の環化反応を行い、前記(メタ)アクリル系重合体の主鎖に環構造を形成する環化工程を含む(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法であって、
(i)ヒドロキシ基と、エステル基又はカルボキシル基との間で、ラクトン環構造を形成する環化反応
(ii)カルボキシル基と、エステル基又は他のカルボキシル基との間で、無水グルタル酸構造を形成する環化反応
前記環化反応において、リン酸C3-7 アルキルエステル、亜リン酸C3-7 アルキルエステル、及び次亜リン酸C3-7 アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を触媒として用い
前記触媒の使用量が、前記(メタ)アクリル系重合体を構成する単量体成分の全量に対して、質量換算で、100ppm以上700ppm以下であることを特徴とする(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記環化反応で用いられる前記触媒が、リン酸ブチル、亜リン酸ブチル、及び次亜リン酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記触媒の分解温度が160℃以上である請求項10に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
(メタ)アクリル系モノマーを重合して前記(メタ)アクリル系重合体を形成する重合工程をさらに含む請求項10~12のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における前記(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位の合計含有割合が、50質量%以上である請求項13に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記(メタ)アクリル系モノマーとしてα-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルを有し、前記(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における前記α-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルに由来する構成単位の合計含有割合が、5質量%以上である請求項13に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記重合工程、前記環化工程、及び前記環化工程の後の工程から選ばれる1つ以上の工程で添加剤が添加され、
前記添加剤は、ヒンダードフェノール化合物及びヒンダードフェノール部位を有する有機リン化合物を含まない、請求項13に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル系樹脂組成物及びそれを用いた成形体、並びに(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系樹脂は、光学特性、機械的強度、成型加工性、表面硬度等の諸特性のバランスに優れるため、光学部材への使用に好適である。しかし、一般に、(メタ)アクリル系樹脂はガラス転移温度(Tg)が低く、耐熱性に優れない。そこで、(メタ)アクリル系樹脂の耐熱性向上のために、主鎖にラクトン環構造等の環構造を導入した(メタ)アクリル系樹脂が知られている。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の製造方法としては、例えば、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体において、有機リン化合物を触媒として用いて、加熱により縮合環化してラクトン環構造を分子鎖中に形成する方法が提案されている(特許文献1、2)。特許文献1では、具体的に用いられる触媒はリン酸メチルやフェニル亜ホスホン酸である。特許文献2では、具体的に用いられる触媒はリン酸ステアリルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-151814号公報
【文献】特開2017-145387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で具体的に用いられるリン酸メチル等は、環化効率が低かった。そのため、重合体において所望の割合の環構造を形成するためには、触媒を多く使用する必要があった。触媒を多く使用すると、得られる(メタ)アクリル系樹脂組成物中に触媒に由来する成分(リン原子を含む化合物)が多く残る恐れがあった。リン原子は腐食性を有するので、(メタ)アクリル系樹脂の安定性が懸念された。他方、触媒量を少なくすると、(メタ)アクリル系樹脂組成物にシルバーストリークが発生する恐れがあった。また、特許文献2で具体的に用いられるリン酸ステアリルを環化触媒として使用した場合には、樹脂をフィルムにするときに、フィルムの製造に用いられるロールの表面が汚染されやすい問題があった。ロールの表面が汚染されると、得られるフィルムの外観が損なわれたり、生産効率が低下したりする恐れがあった。
【0005】
この問題に関し、特許文献2では樹脂組成物におけるリン元素や分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量を制御すること、つまりヒンダードフェノール部位を有するリン系酸化防止剤の使用量を制御する(過剰添加をしない)ことにより、ロール表面の汚染を抑制することが検討された。しかしながら、ヒンダードフェノール部位を有するリン系酸化防止剤の使用量を抑制してもなおロール表面の汚染源が存在しており、具体例でリン酸ステアリルが使用されているためロール表面の汚染の抑制には限界があるように考えられた。
【0006】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、ロール汚染を低減でき、さらにはシルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を提供することにある。また本発明は、前記(メタ)アクリル系樹脂組成物を用いた成形体、並びに前記(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、環化触媒として使用したリン酸ステアリル又はその由来成分(ステアリルアルコール等)のロール表面への付着が汚染の原因であったこと、そしてリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等と低級又は中級の脂肪族アルコール(特に炭素数3以上12以下の脂肪族アルコール)とから得られるエステルを環化触媒とすると、環化工程では触媒が安定であって触媒使用量を低減でき、シルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を得られること、またリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等と低級又は中級の脂肪族アルコールとから得られるエステルを環化触媒とすると、脱揮工程で触媒が揮散して除去されやすく、さらには分解して発生する低級又は中級の脂肪族アルコールについても脱揮工程で除去されるため環化触媒によるロール汚染が低減されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の構成要件によって特定される。
[1] 主鎖にラクトン環構造及び無水グルタル酸構造の少なくとも一方である環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含む(メタ)アクリル系樹脂組成物であって、
(メタ)アクリル系樹脂組成物中のリン原子の含有量が、1.0ppm以上50ppm以下であり、
(メタ)アクリル系樹脂組成物中の下記式(I)で表される化合物の含有量が、95ppm以下であることを特徴とする(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【化1】

[式(I)中、R1は炭素数13以上の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6以上の芳香族炭化水素基を表す。]
[2] (メタ)アクリル系樹脂組成物中の下記式(II)で表される化合物の含有量が、95ppm以下である[1]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【化2】

[式(II)中、R2は炭素数3以上12以下の脂肪族炭化水素基を表す。]
[3] 環構造を有する(メタ)アクリル系重合体における環構造単位の含有割合が、5質量%以上70質量%以下である[1]又は[2]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[4] (メタ)アクリル系樹脂組成物中の環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の含有量が、50質量%以上である[1]~[3]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[5] ガラス転移温度が120℃以上である[1]~[4]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[6] ヒンダードフェノール化合物を含まない[1]~[5]のいずれかにに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[7] ヒンダードフェノール部位を有する有機リン化合物を含まない[1]~[6]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物を含む成形体。
[9] シート、フィルム又はレンズ状である[8]に記載の成形体。
[10] (メタ)アクリル系重合体において、下記(i)及び(ii)の環化反応のうち少なくとも片方の環化反応を行い、前記(メタ)アクリル系重合体の主鎖に環構造を形成する環化工程を含む(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法であって、
(i)ヒドロキシ基と、エステル基又はカルボキシル基との間で、ラクトン環構造を形成する環化反応
(ii)カルボキシル基と、エステル基又は他のカルボキシル基との間で、無水グルタル酸構造を形成する環化反応
前記環化反応において、リン酸C3-12アルキルエステル、亜リン酸C3-12アルキルエステル、及び次亜リン酸C3-12アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を触媒として用いることを特徴とする(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[11] 前記環化反応で用いられる前記触媒が、リン酸C3-7アルキルエステル、亜リン酸C3-7アルキルエステル、及び次亜リン酸C3-7アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である[10]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[12] 前記環化反応で用いられる前記触媒が、リン酸ブチル、亜リン酸ブチル、及び次亜リン酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種である[10]又は[11]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[13] 前記触媒の使用量が、前記(メタ)アクリル系重合体を構成する単量体成分の全量に対して1000ppm以下である[10]~[12]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[14] 前記触媒の分解温度が160℃以上である[10]~[13]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[15] (メタ)アクリル系モノマーを重合して前記(メタ)アクリル系重合体を形成する重合工程をさらに含む[10]~[14]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[16] 前記(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における前記(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位の合計含有割合が、50質量%以上である[15]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[17] 前記(メタ)アクリル系モノマーとしてα-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルを有し、前記(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における前記α-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルに由来する構成単位の合計含有割合が、5質量%以上である[15]又は[16]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
[18] 前記重合工程、前記環化工程、及び前記環化工程の後の工程から選ばれる1つ以上の工程で添加剤が添加され、
前記添加剤は、ヒンダードフェノール化合物及びヒンダードフェノール部位を有する有機リン化合物を含まない、[15]~[17]のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロール汚染を低減でき、さらにはシルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1. (メタ)アクリル系樹脂組成物
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、主鎖にラクトン環構造及び無水グルタル酸構造の少なくとも一方である環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含み、組成物中のリン原子の含有量が、1.0ppm以上50ppm以下であり、且つ組成物中の下記式(I)で表される化合物の含有量が、95ppm以下であることを特徴とする。本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、前記構成要件を有することから、ロール汚染を低減でき、さらにはシルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れている。
【0010】
【化3】

[式(I)中、R1は炭素数13以上の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6以上の芳香族炭化水素基を表す。]
【0011】
本発明において特に記載がない限り、「ppm」との記載は質量換算で求められる値を意味する(例えば、10,000ppmは1質量%に該当する)。また、「C3-12」との記載は「炭素数3以上12以下」を意味する。
【0012】
1.1 (メタ)アクリル系重合体
(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、又はこれらの誘導体(以下、これらを総称して(メタ)アクリル系モノマーと称する場合がある)を単量体単位(つまり、構成単位)として有する重合体を意味する。なお、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸とメタクリル酸との両方を包含する用語とする。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキル(好ましくはメタクリル酸C2-20アラルキル);(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の(メタ)アクリル酸とヒドロキシ環状飽和炭化水素(好ましくは炭素数が5以上20以下のヒドロキシ環状飽和炭化水素)とのエステル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、好ましくはメタクリル酸エステルであり、より好ましくはメタクリル酸アルキルであり、さらに好ましくはメタクリル酸C1-10アルキルであり、よりさらに好ましくはメタクリル酸C1-7アルキルであり、いっそう好ましくはメタクリル酸C1-4アルキルであり、特に好ましくはメタクリル酸C1-2アルキルである。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル誘導体としては、ヒドロキシ基導入誘導体、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;α-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル等が挙げられる。
【0015】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-20アルキルが好ましく、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-15アルキルがより好ましく、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-10アルキルがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-5アルキルがよりさらに好ましい。
【0016】
α-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルとしては、α-(1-ヒドロキシC1-20アルキル)アクリル酸C1-20アルキルが好ましく、α-(1-ヒドロキシC1-20アルキル)アクリル酸C1-20アルキルには、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル等のα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸C1-20アルキル;α-(1-ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル等のα-(1-ヒドロキシC2-20アルキル)アクリル酸C1-20アルキル等が含まれる。
【0017】
また(メタ)アクリル酸エステル誘導体としては、クロトン酸メチル等のβ-C1-10アルキルアクリル酸C1-10アルキル;(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル等のハロゲン導入誘導体;(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル等のエーテル結合導入誘導体等も含まれる。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル誘導体としては、好ましくはヒドロキシ基導入誘導体であり、より好ましくはα-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルであり、さらに好ましくはα-(1-ヒドロキシC1-20アルキル)アクリル酸C1-20アルキルであり、よりさらに好ましくはα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸C1-20アルキルである。
【0019】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、前記メタクリル酸エステル誘導体のエステル結合を加水分解した化合物、例えば、クロトン酸、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(1-ヒドロキシエチル)アクリル酸等のα-ヒドロキシアルキルアクリル酸等が含まれる。
【0020】
(メタ)アクリル系重合体が単量体単位として有する(メタ)アクリル系モノマーは、単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。(メタ)アクリル系モノマーのうち(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルを必須単位として含むのが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル(特にメタクリル酸エステル)を必須単位として含むのがより好ましい。前記必須単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体中、例えば、30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、よりさらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上であり、例えば、100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。なお(メタ)アクリル系重合体が、後述する環化反応等によって異なる単位になった(メタ)アクリル系モノマーに由来する単位を有する場合には、前記含有割合における(メタ)アクリル系モノマー単位の割合には、該異なる単位になった(メタ)アクリル系モノマーに由来する単位は含まないものとする。
【0021】
(メタ)アクリル系重合体は、前記(メタ)アクリル系モノマーを他のモノマーと共重合することによって導入される構成単位を有していてもよい。このような他のモノマーとしては、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、α-ヒドロキシメチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン等のスチレン系モノマー;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール等の含窒素複素環系ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類;メタリルアルコール、アリルアルコール等のビニルアルコール類;エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン等のオレフィン類;マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル等のカルボキシル基含有エチレン性単官能モノマー;酢酸ビニル;2-ヒドロキシメチル-1-ブテン;メチルビニルケトン;等が挙げられる。他のモノマーとしては、スチレン系モノマー、含窒素複素環系ビニル化合物、カルボキシル基含有エチレン性単官能モノマーが好ましく、スチレン系モノマー、カルボキシル基含有エチレン性単官能モノマーがより好ましく、スチレン系モノマーがさらに好ましい。これら他のモノマー(構成単位)は1種のみを有していてもよいし2種以上を有していてもよい。他のモノマー(構成単位)は、(メタ)アクリル系重合体中、例えば、0質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、例えば、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0022】
(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位(すなわち、(メタ)アクリル酸単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、及びこれらの誘導体に由来する構成単位)の合計含有割合は、成形体の透明性の観点から、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上である。上限は特になく、100質量%であってもよい。また後述する環化反応によって異なる単位になった(メタ)アクリル系モノマーに由来する単位を有する(メタ)アクリル系重合体(つまり、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体)については、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位の合計含有割合は、30質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、よりさらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上であり、99質量%以下が好ましく、より好ましくは95質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下であり、よりさらに好ましくは85質量%以下である。
【0023】
(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における、(メタ)アクリル酸エステルのヒドロキシ基導入誘導体(好ましくはα-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル)に由来する構成単位の合計含有割合は、1質量%以上が好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは8質量%以上であり、よりさらに好ましくは10質量%以上であり、70質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。また後述する環化反応によって異なる単位になった(メタ)アクリル系モノマーに由来する単位を有する(メタ)アクリル系重合体(つまり、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体)については、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における、(メタ)アクリル酸エステルのヒドロキシ基導入誘導体に由来する構成単位の合計含有割合は、0質量%であってもよく、10質量%以下が好ましく、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0024】
主鎖にラクトン環構造及び無水グルタル酸構造の少なくとも一方である環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、例えば、ヒドロキシ基、エステル基、及び/又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系重合体において、後述する環化反応を行うことにより形成できる。
【0025】
ラクトン環構造としては、例えば、ラクトン環構造を形成し易いことから4員環以上8員環以下が好ましく、環構造の安定性に優れることから5員環又は6員環であることがより好ましく、6員環であることがさらに好ましい。6員環のラクトン環構造としては、例えば、下記式(1)に示される構造が挙げられる。
【0026】
【化4】
【0027】
上記式(1)において、R1a、R2a及びR3aは、互いに独立して、水素原子又は炭素数が1以上20以下の有機残基であり、当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
式(1)における有機残基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素基等が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和又は不飽和の直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1以上20以下のアルキル基(好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1以上6以下のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等の炭素数2以上20以下のアルケニル基(好ましくは炭素数2以上10以下のアルケニル基であり、より好ましくは炭素数2以上6以下のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3以上20以下のシクロアルキル基(好ましくは炭素数4以上12以下のシクロアルキル基であり、より好ましくは炭素数5以上8以下のシクロアルキル基);等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等の炭素数6以上20以下のアリール基(好ましくは炭素数6以上14以下のアリール基であり、より好ましくは炭素数6以上10以下のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等の炭素数7以上20以下のアラルキル基(好ましくは炭素数7以上15以下のアラルキル基であり、より好ましくは炭素数7以上11以下のアラルキル基);等が挙げられる。これらの炭化水素基は酸素原子やハロゲン原子を含んでいてもよく、具体的には、炭化水素基の有する水素原子の1つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基、及びエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換されていてもよい。
【0028】
式(1)に示されるラクトン環構造において、耐熱性に優れる(メタ)アクリル系重合体を得ることが容易な点から、R1a、R2aとしては、互いに独立して、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、R3aとしては、水素原子又はメチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル系重合体は、ラクトン環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてよい。
【0030】
(メタ)アクリル系重合体が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該重合体におけるラクトン環構造の含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、例えば、70質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0031】
なお(メタ)アクリル系重合体におけるラクトン環構造の含有割合は、ラクトン環化に関与する単量体(後述する(i)の環化反応の場合におけるヒドロキシ基含有(メタ)アクリル系モノマーA及び(メタ)アクリル系モノマーB)の重合量と、ラクトン環化率とから下記式により、算出できる。
ラクトン環構造の含有割合(質量%)=Z1×Z2×M/M
(式中、Z1は、ラクトン環化前の重合体における、ラクトン環化に関与する原料単量体(後述する(i)の環化反応の場合におけるヒドロキシ基含有(メタ)アクリル系モノマーA及び(メタ)アクリル系モノマーB)由来の構造単位の質量含有割合であり、Mは生成するラクトン環構造単位の式量(ラクトン環形成元素と、ラクトン環に結合する主鎖以外の基の合計式量の意味)であり、Mはラクトン環化に関与する原料単量体(後述する(i)の環化反応の場合におけるヒドロキシ基含有(メタ)アクリル系モノマーA及び(メタ)アクリル系モノマーB)の分子量(合計)であり、Z2はラクトン環化率である)
【0032】
また(メタ)アクリル系重合体におけるラクトン環構造の含有割合は、公知の方法、例えば、核磁気共鳴(1H-NMR)法、及び/又は赤外分光分析(IR)法により評価できる。
【0033】
無水グルタル酸構造としては、例えば、下記式(2)に示される構造が挙げられる。
【0034】
【化5】
【0035】
上記式(2)において、R4a、R5aは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1以上8以下のアルキル基である。
式(2)における炭素数1以上8以下のアルキル基としては、直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0036】
式(2)に示される無水グルタル酸構造において、耐熱性に優れる(メタ)アクリル系重合体を得ることが容易な点から、R4a、R5aとしては、互いに独立して、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル系重合体は、無水グルタル酸構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてよい。
【0038】
(メタ)アクリル系重合体が主鎖に無水グルタル酸構造を有する場合、当該重合体における無水グルタル酸構造の含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、例えば、70質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0039】
なお(メタ)アクリル系重合体における無水グルタル酸構造の含有割合は、例えば、特開2006-131689号公報に記載の手法により求めることができる。
【0040】
(メタ)アクリル系重合体における、環構造単位の含有割合は、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下がよりさらに好ましい。環構造単位の含有割合が前記範囲内であることにより、耐熱性に優れ、また機械的強度に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。なお前記環構造単位の含有割合における環構造単位は、(メタ)アクリル系重合体の主鎖に環構造を有する単位を意味する。
【0041】
(メタ)アクリル系重合体における環化率は、成形時の発泡抑制の観点から、95.0質量%以上が好ましく、95.5質量%以上がより好ましく、96.0質量以上%がさらに好ましく、96.5質量%以上がよりさらに好ましい。上限は特になく、100質量%であってもよい。
【0042】
環化率は、例えば、重合で得られた重合体組成からすべてのヒドロキシ基がアルコール又は水として脱アルコール又は脱水した際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応又は脱水反応による質量減少から求めることができる。すなわち、環構造を有した重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測質量減少率を(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基が環形成に関与するため脱アルコール又は脱水すると仮定した時の理論質量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応又は脱水反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を(Y)とする。なお、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応又は脱水反応に関与する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における前記原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値(X、Y)を式:1-(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))に代入してその値を求め、%で表記すると、環化率(脱アルコール又は脱水反応率)が得られる。
【0043】
(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位(好ましくは(メタ)アクリル酸エステル由来の単位)と環構造単位との合計含有割合は、90質量%以上が好ましく、93質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。これにより、(メタ)アクリル系重合体の透明性や耐熱性を高めることが容易になる。
【0044】
(メタ)アクリル系重合体は、ラクトン環構造及び無水グルタル酸構造の少なくとも一方を環構造として有していればよいが、(メタ)アクリル系樹脂組成物の耐熱性向上や光学特性向上の観点から、ラクトン環構造を有していることがより好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、8.0万以上、好ましくは10.0万以上、より好ましくは10.5万以上、さらに好ましくは11.0万以上であり、例えば、30.0万以下、好ましくは25.0万以下、より好ましくは20.0万以下である。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量が前記範囲内にあることにより、樹脂としての必要な強度を維持しながら、成形時の流動性も良好な(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。
【0046】
(メタ)アクリル系重合体の分子量分布(Mw/Mn;Mwは(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量を表し、Mnは(メタ)アクリル系重合体の数平均分子量を表す)は、例えば、3.5以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下であり、例えば、1.1以上、好ましくは1.2以上、より好ましくは2.0以上である。
【0047】
(メタ)アクリル系樹脂組成物における、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の含有割合は、例えば、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。また(メタ)アクリル系樹脂組成物における、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体の含有割合の上限としては、100質量%未満である。
【0048】
1.2 リン原子
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、リン原子を含有する。当該リン原子は、(メタ)アクリル系重合体の環化反応に使用する触媒に由来することが好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル系樹脂組成物における、リン原子の含有量は、1.0ppm以上50ppm以下であり、1.5ppm以上45ppm以下が好ましく、2.0ppm以上40ppm以下がより好ましく、20ppm以上34ppm以下がさらに好ましい。リン原子の含有量が前記範囲内であることにより、環化率を高め、(メタ)アクリル系重合体が有する環構造単位の含有割合を適度な範囲にできるため、耐熱性に優れ、また機械的強度に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。またリン原子の含有量が50ppm以下であることにより、シルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。具体的には、リン原子の含有量が50ppm以下であれば、腐食性を有するリン原子が十分少ないので、安定性に優れる。なお、リン原子の含有量は有効数字2桁で特定するものとする。
【0050】
1.3 式(I)で表される化合物
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、下記式(I)で表される化合物を含んでいてもよいが、なるべく含まないことが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル系樹脂組成物における、式(I)で表される化合物の含有量は、95ppm以下であり、90ppm以下が好ましく、80ppm以下がより好ましく、60ppm以下がさらに好ましく、0ppm(すなわち、実施例に記載の方法にて検出されないこと)であることが最も好ましい。式(I)で表される化合物の含有量が前記範囲内であることにより、成形の際に(メタ)アクリル系樹脂組成物とロールとの密着性が向上し、ロール汚染の発生を抑制できる。なお、式(I)で表される化合物の特定及びその含有量は、後述する実施例に記載の方法にて求めることができる。また、ppmで表した場合の小数第一位を四捨五入して特定するものとする。
【0051】
【化6】

[式(I)中、R1は炭素数13以上の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6以上の芳香族炭化水素基を表す。]
【0052】
式(I)におけるR1で表される脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和であってもよく、鎖状又は環状であってもよい。
1で表される炭素数13以上の脂肪族炭化水素基としては、例えば、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の炭素数13以上のアルキル基;トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、オクタデカジエニル基等の炭素数13以上のアルケニル基;シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロヘプタデシル基、シクロオクタデシル基等の炭素数13以上のシクロアルキル基;等が挙げられる。
1で表される炭素数6以上の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等の炭素数6以上のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等の炭素数7以上のアラルキル基;等が挙げられる。
【0053】
1.4 式(II)で表される化合物
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、下記式(II)で表される化合物を含んでいてもよいが、なるべく含まないことが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル系樹脂組成物における、式(II)で表される化合物の含有量は、95ppm以下であり、90ppm以下が好ましく、80ppm以下がより好ましく、60ppm以下がさらに好ましく、0ppm(すなわち、実施例に記載の方法にて検出されないこと)であることが最も好ましい。式(II)で表される化合物の含有量が前記範囲内であることにより、ロール汚染を一層低減でき、さらにはシルバーストリークの発生が一層抑制されるとともに安定性に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。なお、式(II)で表される化合物の特定及びその含有量は、式(I)で表される化合物と同じ方法で求めることができる。また、ppmで表した場合の小数第一位を四捨五入して特定するものとする。
【0054】
【化7】

[式(II)中、R2は炭素数3以上12以下の脂肪族炭化水素基を表す。]
【0055】
式(II)におけるR2で表される脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和であってもよく、鎖状又は環状であってもよい。
2で表される炭素数3以上12以下の脂肪族炭化水素基としては、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素数3以上12以下のアルキル基;プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等の炭素数3以上12以下のアルケニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数3以上12以下のシクロアルキル基;等が挙げられる。
2としては、炭素数3以上10以下の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数3以上8以下の脂肪族炭化水素基がより好ましく、炭素数3以上7以下の脂肪族炭化水素基がさらに好ましい。
【0056】
1.5 他のアルコール
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物以外のアルコール(他のアルコールと称する)を含んでいてもよい。特に他のアルコールがメタノール、エタノール等の低分子量アルコールである場合、成形時の加熱により揮発して除去されるためロール汚染の原因とならない。しかし、他のアルコールの含有量は少ないほど好ましく、例えば、1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下であり、0ppmであってもよい。
【0057】
1.6 その他の成分
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、上述した環構造を有する(メタ)アクリル系重合体やリン原子以外に、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0058】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、上記他の成分として、例えば、環構造を有さない(メタ)アクリル系重合体や、(メタ)アクリル系重合体以外の重合体を含有していてもよい。(メタ)アクリル系重合体以外の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系重合体;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;シクロオレフィンポリマー;セルロース誘導体;ポリブタジエン系ゴム、(メタ)アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂組成物において、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体以外の重合体の含有量は、環構造を有する(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、100質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下がよりさらに好ましく、0質量部であってもよい。
【0059】
また本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤;フェノール系酸化防止剤(例えば、ヒドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、トコフェロール、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等)、リン系酸化防止剤(例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等)、イオウ系酸化防止剤(例えば、2-メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート等)等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤等の位相差調整剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;相溶化剤;安定化剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;等が挙げられる。樹脂組成物の固形分100質量%中の各添加剤の含有割合は、好ましくは0質量%以上5質量%以下、より好ましくは0質量%以上2質量%以下の範囲内である。
【0060】
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物等が挙げられ、公知の紫外線吸収剤を用いることができる。ベンゾフェノン系化合物としては、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、4-n-オクチルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。サリシレート系化合物としては、p-t-ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。ベンゾエート系化合物としては、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。トリアゾール系化合物としては、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-ベンゾトリアゾール-2-イル-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール等が挙げられる。トリアジン系化合物としては、2-[4,6-ビス(ビフェニル-4-イル)-1,3,6-トリアジ-2-イル]-5-[(2-エチルヘキシル)オキシ]フェノール、2-モノ(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物、2,4-ビス(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物、2,4,6-トリス(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物等が挙げられる。市販の紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤であるチヌビン(登録商標)1577、チヌビン(登録商標)460、チヌビン(登録商標)477(BASFジャパン社製)、アデカスタブ(登録商標)LA-F70(ADEKA社製)、トリアゾール系紫外線吸収剤であるアデカスタブ(登録商標)LA-31(ADEKA社製)等が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0061】
一方で、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、ロール汚染をより効果的に抑制するために、ヒンダードフェノール化合物及び/又はヒンダードフェノール化合物の発生源となる化合物は含まない方が好ましい。ヒンダードフェノール化合物はロール汚染の原因となるからである。ヒンダードフェノール化合物としは、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。ヒンダードフェノール化合物の発生源となる化合物としては、例えば、ヒンダードフェノール部位を有する有機リン化合物が挙げられ、具体的には、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等のヒンダードフェノール部位を有するリン系酸化防止剤等が挙げられる。なお、ヒンダードフェノール化合物とは立体的に嵩高い置換基、例えば、t-ブチル基等の第3級アルキル基を少なくとも1個以上有するフェノール化合物であり、少なくとも1個の第3級アルキル基を有するフェノール化合物が好ましい。
【0062】
1.7 特性
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、リン原子の含有量が、1.0ppm以上50ppm以下であり、前述の式(I)で表される化合物の含有量が95ppm以下であり、また好ましくは前述の式(II)で表される化合物の含有量が95ppm以下であることにより、ロール汚染を低減でき、さらにはシルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れる。
【0063】
(メタ)アクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、例えば、5.0万以上、好ましくは8.0万以上、より好ましくは10.0万以上、さらに好ましくは11.5万以上、よりさらに好ましくは12.0万以上であり、例えば、30.0万以下、好ましくは25.0万以下、より好ましくは20.0万以下である。(メタ)アクリル系樹脂組成物の重量平均分子量が前記範囲内にあることにより、樹脂としての必要な強度を維持しながら、成形時の流動性も良好な(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。
【0064】
(メタ)アクリル系樹脂組成物の数平均分子量(Mn)は、例えば、3.0万以上、好ましくは3.5万以上、より好ましくは4.0万以上であり、例えば、25.0万以下、好ましくは20.0万以下、より好ましくは15.0万以下である。(メタ)アクリル系樹脂組成物の数平均分子量が前記範囲内にあることにより、樹脂としての必要な強度を維持しながら、成形時の流動性も良好な(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。
【0065】
(メタ)アクリル系樹脂組成物の分子量分布(Mw/Mn;Mwは(メタ)アクリル系樹脂組成物の重量平均分子量を表し、Mnは(メタ)アクリル系樹脂組成物の数平均分子量を表す)は、例えば、3.5以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下であり、下限は特になく、例えば、1.1以上であってもよい。
【0066】
(メタ)アクリル系樹脂組成物は、110℃以上にガラス転移温度を有することが好ましい。110℃以上にガラス転移温度を有することにより、樹脂組成物の耐熱性が高まる。(メタ)アクリル系樹脂組成物は、110℃以上にガラス転移温度を複数有していてもよい。(メタ)アクリル系樹脂組成物が有するガラス転移温度は、より好ましくは120℃以上であり、さらに好ましくは123℃以上である。成形時の加工性を高める観点からは、(メタ)アクリル系樹脂組成物が有するガラス転移温度は、300℃未満が好ましく、200℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル系樹脂組成物は、式(I)で表される化合物の含有量が95ppm以下であることにより、密着性が良好である。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂組成物は、密着性が良好であるため、成形時のロール汚染が抑制される。成形時にロールに汚染が発生すると、成形体の外観(平滑性)が損なわれる恐れや、ロール表面の汚染を除去するためにラインを停止することにより生産効率が低下する恐れがある。
【0069】
2. (メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法は、(メタ)アクリル系重合体において環化反応を行い、前記(メタ)アクリル系重合体の主鎖にラクトン環構造及び無水グルタル酸構造の少なくとも一方の環構造を形成する環化工程を含み、前記環化反応の触媒として特定の環化触媒を用いることを特徴とする。
また本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法は、前記(メタ)アクリル系重合体を(メタ)アクリル系モノマーを重合して形成する重合工程を含むことが好ましい。
【0070】
2.1 (メタ)アクリル系モノマー
(メタ)アクリル系モノマーは重合成分であり、(メタ)アクリル系モノマーとしては、上記で説明した(メタ)アクリル系モノマーと同様のモノマーが挙げられ、その好ましい態様も同様である。
【0071】
具体的には、重合に使用する(メタ)アクリル系モノマーとしては、単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。重合に使用する(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも含むのが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも含むのがより好ましい。また重合に使用する(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルに加えてさらに(メタ)アクリル酸エステル誘導体を含むのが好ましい。特に重合に使用する(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸エステルのヒドロキシ基導入誘導体を含むのが好ましい。重合に使用する単量体成分全量に対する(メタ)アクリル系モノマー全量の割合は、成形体の透明性の観点から、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上であり、上限は特になく、100質量%であってもよい。重合に使用する(メタ)アクリル系モノマー中の(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの含有割合は、例えば、30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、よりさらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上であり、例えば、100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。重合に使用する単量体成分全量に対する(メタ)アクリル酸エステル誘導体(好ましくはα-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル)の含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、例えば、70質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0072】
重合成分である単量体成分としては、前記(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーを含んでいてもよく、他のモノマーとしては、上記で説明した他のモノマーと同様のモノマーが挙げられ、その好ましい態様も同様である。
【0073】
重合に使用する他のモノマーは、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。単量体成分全量に対する他のモノマー全量の割合は、例えば、0質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、例えば、30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0074】
2.2 重合開始剤
(メタ)アクリル系モノマーを用いた重合反応時には、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。
【0075】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)・二塩酸塩、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシオクトエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート等の有機過酸化物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水素引き抜き力が強い有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0076】
重合開始剤の使用量は、重合速度を高め、未反応の単量体成分の残存量を低減させる観点から、単量体成分の全量に対して、例えば、500ppm以上、好ましくは1000ppm以上、より好ましくは1500ppm以上である。また、重合開始剤の使用量は、単量体成分の全量に対して、例えば、2質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0077】
重合開始剤の分解を促進するために、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤;硫酸第一鉄等の遷移金属塩;等の重合開始剤の分解剤を反応系内に適量で添加してもよい。
【0078】
2.3 連鎖移動剤
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量を調整するために、反応系内に連鎖移動剤を添加してもよい。反応系内に連鎖移動剤を添加することにより、(メタ)アクリル系重合体を低分子量化させることができる。連鎖移動剤としては、有機チオール化合物;四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。これら連鎖移動剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、転化率の低下を抑制できる点から、有機チオール化合物が好ましい。
【0079】
前記有機チオール化合物としては、単官能チオール化合物、多官能チオール化合物が挙げられる。
前記単官能チオール化合物としては、例えば、チオフェノール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、チオグリコール酸オクチル等の芳香族環を有する単官能チオール化合物;芳香族環を有さない脂肪族系の単官能チオール化合物が挙げられる。また前記脂肪族系の単官能チオール化合物としては、例えば、2-メルカプトプロピオン酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシルエステル、オクタン酸2-メルカプトエチルエステル等の脂肪族炭化水素基の炭素原子間にヘテロ原子を含有する単官能チオール化合物;ブタンチオール、オクタンチオール、1-ドデカンチオール(n-ドデシルメルカプタンともいう)、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン等の脂肪族炭化水素基の炭素原子間にヘテロ原子を含有しないアルキルチオール化合物が挙げられる。前記ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子等が挙げられる。
前記多官能チオール化合物としては、例えば、1,4-ジメチルメルカプトベンゼン、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール等の芳香族環を有する多官能チオール化合物;1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、エチレングリコールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオブタネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(4-メルカプトブタネート)、ペンタエリストールテトラキス(6-メルカプトヘキサネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等の芳香族環を有さない脂肪族系の多官能チオール化合物が挙げられる。
【0080】
有機チオール化合物としては、単官能チオール化合物が好ましく、脂肪族系の単官能チオール化合物がより好ましく、アルキルチオール化合物がさらに好ましい。
【0081】
連鎖移動剤の使用量は、単量体成分の全量に対して、例えば、200ppm以上、好ましくは400ppm以上、より好ましくは500ppm以上であり、例えば、5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0082】
連鎖移動剤及び重合開始剤の使用量比は(連鎖移動剤の使用量/重合開始剤の使用量;質量比)、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.20以上であり、また好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下である。連鎖移動剤及び重合開始剤の使用量比が前記範囲内にあることにより、重合速度を適切に保つことができ、また分子量分布を狭くすることができる。
【0083】
2.4 重合反応(重合工程)
(メタ)アクリル系モノマーの重合形式としては、バッチ重合であっても、連続重合であってもよいが、連鎖移動剤を使用する場合には、未反応連鎖移動剤の残存量を低減できるためバッチ重合が好ましい。
また、(メタ)アクリル系モノマーの重合は、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合のいずれでもよいが、安全性が高く、異物混入の恐れが低い点で、溶液重合が好ましい。
【0084】
溶液重合で使用可能な溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。重合溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒及びケトン系溶媒が好ましく、より好ましく芳香族炭化水素系溶媒、特に好ましくはトルエンである。これらの重合溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
重合反応液中のモノマー(単量体成分)の合計濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、例えば、90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。重合反応における溶媒の使用量としては、重合反応液中のモノマーの合計濃度が前記範囲内であれば特に限定されない。
【0086】
モノマー、及び必要に応じて用いる溶媒の添加方法は特に限定されない。その添加方法としては、それぞれ、全量を初期仕込みとしてもよく、一定量を初期仕込みとして残りを重合反応中に反応系内へ一括又は継続して添加してもよい。前記継続は連続であってもよく、分割添加等のような断続であってもよいが、連続又は間隔が10分以下の断続であることが好ましく、連続であることがより好ましい。
また、必要に応じて用いる重合開始剤及び連鎖移動剤の添加方法も特に限定されない。その添加方法としては、それぞれ、全量を初期仕込みとしてもよく、一定量を初期仕込みとして残りを重合反応中に反応系内へ一括又は継続して添加してもよく、全量を添加によって反応系に導入してもよい。前記継続は連続であってもよく、分割添加等のような断続であってもよいが、連続又は間隔が10分以下の断続であることが好ましく、連続であることがより好ましい。なお、重合開始剤は、得られる(メタ)アクリル系重合体の分子量分布を狭くできるため、全量を重合反応中に反応系内へ継続して添加する、又は一定量を初期仕込みとして残りを重合反応中に反応系内へ継続して添加するのが好ましい。
【0087】
(メタ)アクリル系モノマーを重合させる際の雰囲気は、特に限定されないが、重合反応の効率を高める観点から、窒素ガス等の不活性ガスであることが好ましい。
【0088】
(メタ)アクリル系モノマーを重合させる際の重合温度は、例えば、40℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、重合開始剤を用いる場合には、使用する重合開始剤の10時間半減期温度以上とするのが好ましい。なお10時間半減期温度とは、重合開始剤の半減期が10時間となる温度のことを意味する。また重合温度は、例えば、180℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下であり、溶媒を用いる場合には、使用する溶媒のリフラックス温度以下とするのが好ましい。
【0089】
(メタ)アクリル系モノマーを重合させる際の重合時間は、特に限定されず、重合反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、通常、2~8時間程度である。
【0090】
全てのモノマー、及び必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒を添加した後、必要に応じて熟成を行ってもよい。熟成によりモノマーの転化率がさらに向上する。熟成工程では、適当な温度、例えば、重合温度±30℃程度で(好ましくは重合温度で、又は重合温度以上で)攪拌を継続することが好ましい。熟成の時間は、例えば、0時間以上10時間以下、好ましくは1時間以上5時間以下である。
【0091】
反応終了時のモノマーの転化率は、例えば、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上である。
【0092】
重合反応により得られる(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位の合計含有割合は、成形体の透明性の観点から、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上である。上限は特になく、100質量%であってもよい。また、重合反応により得られる(メタ)アクリル系重合体の全構成単位における(メタ)アクリル酸エステル誘導体(好ましくはα-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル)に由来する構成単位の合計含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、例えば、70質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0093】
2.5 環化触媒
本発明では、環化触媒としてリン酸C3-12アルキルエステル、亜リン酸C3-12アルキルエステル、及び次亜リン酸C3-12アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることにより、環化反応を効率的に行い、且つ得られる(メタ)アクリル系樹脂組成物の密着性の低下を抑制できる。
【0094】
リン酸C3-12アルキルエステルとしては、例えば、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸モノtert-ブチル、リン酸ジtert-ブチル、リン酸トリtert-ブチル、リン酸モノペンチル、リン酸ジペンチル、リン酸トリペンチル、リン酸モノヘキシル、リン酸ジヘキシル、リン酸トリヘキシル、リン酸モノヘプチル、リン酸ジヘプチル、リン酸トリヘプチル、リン酸モノオクチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリオクチル等が挙げられる。リン酸C3-12アルキルエステルとしては、リン酸C3-10アルキルエステルが好ましく、リン酸C3-8アルキルエステルがより好ましく、リン酸C3-7アルキルエステルがさらに好ましい。リン酸C3-8アルキルエステルは、リン酸C3-8直鎖アルキルエステルが好ましく、リン酸C3-8モノ直鎖アルキルエステル、リン酸C3-8ジ直鎖アルキルエステルがより好ましい。リン酸C3-7アルキルエステルは、リン酸C3-7直鎖アルキルエステルが好ましく、リン酸C3-7モノ直鎖アルキルエステル、リン酸C3-7ジ直鎖アルキルエステルがより好ましい。リン酸C3-12アルキルエステルは、リン酸モノブチル、リン酸ジブチルが特に好ましい。
【0095】
亜リン酸C3-12アルキルエステルとしては、例えば、亜リン酸モノプロピル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸モノイソプロピル、亜リン酸ジイソプロピル、亜リン酸トリイソプロピル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸モノtert-ブチル、亜リン酸ジtert-ブチル、亜リン酸トリtert-ブチル、亜リン酸モノペンチル、亜リン酸ジペンチル、亜リン酸トリペンチル、亜リン酸モノヘキシル、亜リン酸ジヘキシル、亜リン酸トリヘキシル、亜リン酸モノヘプチル、亜リン酸ジヘプチル、亜リン酸トリヘプチル、亜リン酸モノオクチル、亜リン酸ジオクチル、亜リン酸トリオクチル等が挙げられる。亜リン酸C3-12アルキルエステルとしては、亜リン酸C3-10アルキルエステルが好ましく、亜リン酸C3-8アルキルエステルがより好ましく、亜リン酸C3-7アルキルエステルがさらに好ましい。亜リン酸C3-8アルキルエステルは、亜リン酸C3-8直鎖アルキルエステルがさらに好ましく、亜リン酸C3-8モノ直鎖アルキルエステル、亜リン酸C3-8ジ直鎖アルキルエステルがよりさらに好ましい。亜リン酸C3-7アルキルエステルは、亜リン酸C3-7直鎖アルキルエステルが好ましく、リ亜ン酸C3-7モノ直鎖アルキルエステル、亜リン酸C3-7ジ直鎖アルキルエステルがより好ましい。亜リン酸C3-12アルキルエステルは、亜リン酸モノブチル、亜リン酸ジブチルが特に好ましい。
【0096】
次亜リン酸C3-12アルキルエステルとしては、例えば、次亜リン酸モノプロピル、次亜リン酸ジプロピル、次亜リン酸トリプロピル、次亜リン酸モノイソプロピル、次亜リン酸ジイソプロピル、次亜リン酸トリイソプロピル、次亜リン酸モノブチル、次亜リン酸ジブチル、次亜リン酸トリブチル、次亜リン酸モノtert-ブチル、次亜リン酸ジtert-ブチル、次亜リン酸トリtert-ブチル、次亜リン酸モノペンチル、次亜リン酸ジペンチル、次亜リン酸トリペンチル、次亜リン酸モノヘキシル、次亜リン酸ジヘキシル、次亜リン酸トリヘキシル、次亜リン酸モノヘプチル、次亜リン酸ジヘプチル、次亜リン酸トリヘプチル、次亜リン酸モノオクチル、次亜リン酸ジオクチル、次亜リン酸トリオクチル等が挙げられる。次亜リン酸C3-12アルキルエステルとしては、次亜リン酸C3-10アルキルエステルが好ましく、次亜リン酸C3-8アルキルエステルがより好ましく、次亜リン酸C3-7アルキルエステルがさらに好ましい。次亜リン酸C3-8アルキルエステルは、次亜リン酸C3-8直鎖アルキルエステルがさらに好ましく、次亜リン酸C3-8モノ直鎖アルキルエステル、次亜リン酸C3-8ジ直鎖アルキルエステルがよりさらに好ましい。次亜リン酸C3-7アルキルエステルは、次亜リン酸C3-7直鎖アルキルエステルがさらに好ましく、次亜リン酸C3-7モノ直鎖アルキルエステル、次亜リン酸C3-7ジ直鎖アルキルエステルがよりさらに好ましい。次亜リン酸C3-12アルキルエステルは、次亜リン酸モノブチル、次亜リン酸ジブチルが特に好ましい。
【0097】
環化触媒は、1種のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。2種類以上を併用する場合は、その1つをリン酸ステアリルとしてもよい。というのも、本発明の思想の1つは、環化触媒の全体量におけるリン酸ステアリルの割合を従来よりも少なくする点にある。
【0098】
環化触媒としては、触媒活性が高い点でリン酸C3-12アルキルエステルが好ましい。
【0099】
環化触媒の分解温度としては、160℃以上が好ましく、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上であり、上限は特になく、例えば300℃以下であってもよい。例えば、リン酸ブチルの分解温度は220℃であり、リン酸オクチルの分解温度は247℃である。
【0100】
2.6 環化反応(環化工程)
前記重合反応終了後の(メタ)アクリル系重合体を、前記環化触媒存在下で加熱することにより、脱水縮合又は脱アルコール縮合を生じさせ、主鎖にラクトン環構造及び無水グルタル酸構造の少なくとも一方である環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を形成する。
【0101】
具体的には、重合工程で形成された(メタ)アクリル系重合体において、下記(i)及び(ii)の環化反応のうち少なくとも片方の環化反応を行う。
(i)ヒドロキシ基と、エステル基又はカルボキシル基との間で、ラクトン環構造を形成する環化反応
(ii)カルボキシル基と、エステル基又は他のカルボキシル基との間で、無水グルタル酸構造を形成する環化反応
【0102】
上記(i)の環化反応の場合、例えば、まず上記重合反応においてα-(1-ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル系モノマーAを単独重合して、又は前記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル系モノマーAと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系モノマーBとを共重合して、(メタ)アクリル系重合体の分子鎖にヒドロキシ基と、エステル基又はカルボキシル基とを導入する。そして環化反応において、ヒドロキシ基と、エステル基又はカルボキシル基との間で脱アルコール又は脱水環化縮合を生じさせることによりラクトン環構造を形成できる。
(i)の環化反応におけるヒドロキシ基含有(メタ)アクリル系モノマーAとしては、前述の(メタ)アクリル酸エステルのヒドロキシ基導入誘導体が挙げられ、その好ましい態様も同様である。また(メタ)アクリル系モノマーBとしては、前述の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、その好ましい態様も同様である。
【0103】
上記(ii)の環化反応の場合、例えば、まず上記重合反応において(メタ)アクリル酸を単独重合して(メタ)アクリル系重合体の分子鎖にカルボキシル基を導入、又は(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系モノマーBを重合(好ましくは共重合)して、(メタ)アクリル系重合体の分子鎖にカルボキシル基とエステル基とを導入する。そして環化反応において、2個のカルボキシル基間で脱水環化縮合を生じさせるか、カルボキシル基とエステル基との間で脱アルコールを生じさせることにより無水グルタル酸構造を形成できる。
(ii)の環化反応における(メタ)アクリル系モノマーBとしては、前述の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、その好ましい態様も同様である。
【0104】
なお(メタ)アクリル系重合体が二重結合部分や、エステル基、カルボキシル基又は酸無水物基を有する場合には、環化反応前に、二重結合部分へのヒドロキシ基の付加反応、エステル基の加水分解、カルボキシル基又は酸無水物基のエステル化反応等により、(メタ)アクリル系重合体に後から環化反応において反応するヒドロキシ基、エステル基、又はカルボキシル基を導入してもよい。
【0105】
なお前記環化反応においては、(メタ)アクリル系重合体が有するヒドロキシ基、エステル基、及び/又はカルボキシル基の少なくとも一部が反応すればよく、(メタ)アクリル系重合体において前述の環構造単位の含有割合、及び環化率の範囲内となるように反応すればよい。
【0106】
環化反応は、溶媒の存在下で行ってもよく、環化反応で使用可能な溶媒としては、前述の重合反応で使用可能な溶媒と同じ種類挙げられ、好ましい態様も同様である。
前記重合反応を溶液重合で行った場合、溶液重合で使用した溶媒を一旦除去した後に新たに溶媒を添加してもよく、溶液重合で使用した溶媒を引き続き環化反応での溶媒として使用してもよいが、生産効率の点から溶液重合で使用した溶媒を引き続き環化反応での溶媒として使用することが好ましい。
【0107】
環化反応液中の(メタ)アクリル系重合体の濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、例えば、90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。環化反応における溶媒の使用量としては、環化反応液中の(メタ)アクリル系重合体の濃度が前記範囲内であれば特に限定されない。
【0108】
環化触媒の使用量は、例えば、(メタ)アクリル系重合体を構成する単量体成分の全量に対して、100ppm以上1000ppm以下が好ましく、より好ましくは110ppm以上、さらに好ましくは120ppm以上、よりさらに好ましくは150ppm以上であり、またより好ましくは900ppm以下、さらに好ましくは800ppm以下、よりさらに好ましくは700ppm以下である。環化触媒の使用量が前記範囲内であることにより、環化率を高め、(メタ)アクリル系重合体に環構造単位を所望の割合形成しながら、シルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れた(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。
【0109】
環化反応時の環化触媒の添加方法としては、全量を初期仕込みとしてもよく、一定量を初期仕込みとして残りを環化反応中に反応系内へ一括又は継続して添加してもよく、全量を添加によって反応系に導入してもよい。前記継続は連続であってもよく、分割添加等のような断続であってもよいが、連続又は間隔が10分以下の断続であることが好ましく、連続であることがより好ましい。
【0110】
環化反応の反応温度は、例えば、50℃~300℃であり、好ましくは70℃~150℃である。環化反応の反応時間は、例えば、5分~6時間程度であり、好ましくは30分~3時間である。
本発明の環化触媒によれば、環化反応を効率的に行えるため、反応時間が3時間未満であっても、環化率が高く、(メタ)アクリル系重合体において前述の環構造単位の含有割合の範囲内となる環化を達成できる。
【0111】
環化反応は、重合反応を行う反応釜で行い、さらにオートクレーブや多管式熱交換器等で環化反応を進行させることが好ましい。
【0112】
環化工程後は、脱揮工程を含む後処理を行うことが好ましい。
脱揮工程とは、溶媒、残存モノマー等の揮発分と、前記環化反応により副生したアルコールを除去する処理工程をいう。また環化触媒としてリン酸C3-12アルキルエステル、亜リン酸C3-12アルキルエステル、及び次亜リン酸C3-12アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いれば、脱揮工程において揮散して除去されやすい。さらに脱揮工程を加熱条件下で行うことにより、前記環化触媒が分解してアルコールが発生するが、当該アルコールも除去されることが好ましい。
【0113】
脱揮が不十分であると、(メタ)アクリル系樹脂組成物中の残存揮発分が多く、成形時に発泡が生じて成形不良となる。
また環化触媒として炭素数が13以上のリン酸アルキルエステル、亜リン酸アルキルエステル、又は次亜リン酸アルキルエステルを用いた場合には、これらの化合物が分解して発生する高級アルコール(炭素数13以上のアルコール)は揮発し難いため、(メタ)アクリル系樹脂組成物中に残存し、(メタ)アクリル系樹脂組成物の密着性を低下させる。
【0114】
脱揮に使用する装置は特に限定されないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる装置、ベント付押出機等が使用でき、乾燥機を使用してもよい。
【0115】
脱揮にベント付押出機を用いる場合、押出機は、シリンダと、シリンダ内に設けられたスクリューとを有し、加熱手段を備えていることが好ましい。シリンダには、ベントが1つ又は複数設けられていることが好ましく、ベントは、押出機内の移送方向に対して、少なくとも原料投入部の下流側に設けられることがより好ましく、原料投入部の上流側にも設けられてもよい。押出機内に供給された重合体を、スクリューで混練しながら押出機の上流側から下流側へ移送される過程で脱揮が進む。押出機の下流側にはダイスが設けられていることが好ましく、ダイスから重合体を吐出することにより、所定の形状に成形することができる。例えば、棒状に成形された重合体を細かく切断すれば、ペレットを製造することができる。また押出機のダイス部には、ポリマーフィルターが設けられることが好ましい。
【0116】
脱揮処理温度は、150℃~350℃の範囲が好ましく、200℃~300℃の範囲がより好ましい。脱揮処理温度が150℃より低いと、脱揮が不充分となり残存揮発分が多くなるという問題があり、350℃より高いと、着色や分解が起こるという問題があるために好ましくない。脱揮処理時の減圧度は、13.3hPa以上(例えば、13.3hPa~800hPa程度)が好ましい。
【0117】
前記重合工程、前記環化工程、及び前記環化工程の後の工程から選ばれる1つ以上の工程において、前記添加剤を添加してもよい。ただし、添加剤としては、前記ヒンダードフェノール化合物及び/又は前記ヒンダードフェノール化合物の発生源となる化合物は含まないことが好ましい。
【0118】
3. 成形体
(メタ)アクリル樹脂組成物は、種々の形態に成形して、各種製品乃至部品として使用できる。成形体の形状は用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、板状、粒状、粉状、塊状、粒子凝集体状、球状、楕円球状、レンズ状、立方体状、柱状、棒状、錐形状、筒状、針状、繊維状、中空糸状、多孔質状等が挙げられる。これら(メタ)アクリル樹脂組成物の成形体は、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形等の(メタ)アクリル樹脂粒子の熱溶融を経る工程、またはその一次成形体をさらに二次成形(真空成形、圧縮成形等)することによって製造可能である。前記(メタ)アクリル樹脂粒子の形状としては、例えば、粒子径が1μm~1000μmの粉体、長径が1mm~10mm程度の円柱状又は球状等のペレット、またはそれらの混合物であることが好ましい。
【0119】
前記(メタ)アクリル系樹脂粒子は、さらにフィルム状に成形して光学フィルムとしてもよい。光学フィルムは、例えば、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムである。
【0120】
これらの光学フィルムは、一般的には、(メタ)アクリル樹脂組成物からなる(メタ)アクリル樹脂層と、(メタ)アクリル樹脂層の表面に設けられたプライマー層とを有し、プライマー層は粒子を含む。
【0121】
プライマー層は、例えば、ウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリオール樹脂、ポリカルボン酸樹脂、及びポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂からなる層である。
【0122】
粒子は有機粒子でも無機粒子でもよい。有機粒子は、例えば、(メタ)アクリル系モノマーを構成単位に有する(メタ)アクリル系重合体、スチレン系モノマーを構成単位に有するスチレン系重合体等の有機重合体を含む粒子である。有機重合体の構成単位((メタ)アクリル系モノマーやスチレン系モノマー等)はケミカルリサイクル等のリサイクルを経て用意されたものでもよい。無機粒子は、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ガラス質の粒子等である。これらの粒子もリサイクルを経て用意されたものでもよい。
【0123】
(メタ)アクリル樹脂組成物の成形温度は、特に限定されないが、150℃~350℃の範囲が好ましく、200℃~300℃の範囲がより好ましい。
【0124】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、ロール汚染を低減でき、さらには、シルバーストリークの発生が抑制されるとともに安定性に優れているため、当該(メタ)アクリル系樹脂組成物を用いた成形品は、外観に優れ、また高効率に生産すること可能性である。
【0125】
本願は、2022年1月14日に出願された日本国特許出願第2022-004679号に基づく優先権の利益を主張するものである。2022年1月14日に出願された日本国特許出願第2022-004679号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0126】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実験例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお以下の実験例では、特に断りがない限り、「部」は「質量部」を意味し、「ppm」は「質量ppm」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0127】
始めに、以下の実験例で採用した測定方法について説明する。
(1)重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布
重合溶液中および重合後の(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置及び測定条件は以下の通りである。
測定システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSK guardcolumn SuperHZ-L)
・分離カラム(東ソー製、TSK Gel Super HZM-M)、2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSK gel SuperH-RC)
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS-オリゴマーキット)
【0128】
(2)転化率
重合反応時の転化率(重合率)(質量%)は、得られた重合溶液中の未反応単量体濃度(質量%)をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC17A)を用いて測定し、式(A)より算出した。
転化率(重合率)=100×(1-M1/M0) …(A)
式中、M1は重合溶液中の未反応単量体濃度(質量%)を示し、M0は仕込み原料溶液中の単量体濃度(質量%)を示す。
【0129】
(3)ガラス転移温度
(メタ)アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して、始点法により求めた。具体的には、示差走査熱量計(株式会社リガク製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、窒素ガスフロー(100ml/分)下、約10mgの試料を常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から評価した。リファレンスには、α-アルミナを用いた。
【0130】
(4)ラクトン環化率
(メタ)アクリル系樹脂組成物2部をクロロホルム20部に溶解し、得られた溶液をメタノール200部に滴下して沈殿物を含む溶液を得た。沈殿物を含む溶液をろ過し、沈殿物を抽出し、80℃の真空乾燥機で4時間乾燥することによってサンプルを得た。得られたサンプルを以下の方法(ダイナミックTG法)にて分析し、式(B)よりラクトン環化率(%)を算出した。
測定装置:差動型示差熱天秤(株式会社リガク製、ThermoPlus2 TG-8120、ダイナミックTG)
測定条件:試料量10mg
昇温速度:10℃/分
雰囲気:窒素フロー400mL/分
方法:階段状等温制御法(60℃から400℃までの範囲内における質量減少速度値0.005%/秒以下に制御)にて昇温
ラクトン環化率=1-(X/Y) …(B)
式(B)中、Xは質量減少の始まる前の150℃から重合体の分解が始まる300℃までの脱アルコール反応における質量減少率(質量%)を示し、Yは当該重合体組成から全ての水酸基が脱アルコール(ラクトン環化)すると仮定した場合の理論質量減少率(すなわち、当該重合体組成において起こりうる脱アルコール反応が100%起きたと仮定して算出した重量減少率;質量%)を示す。例えば、実施例、及び比較例で得られる重合体の場合、ラクトン環化反応によって発生するメタノールの分子量は32であり、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116、ラクトン環化前重合体の組成比は12質量%であるから、理論質量減少率Yは、(32/116)×12=3.31質量%となる。
【0131】
(5)リン原子含有量
(メタ)アクリル系樹脂組成物0.2部を2-ブタノン99.8部に溶解したサンプル溶液に対して、ICP発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、iCAP6500 Duo)を用いて(メタ)アクリル系樹脂組成物中のリン原子含有量(ppm)を測定した。
【0132】
(6)アルコール成分測定
サンプル準備:(メタ)アクリル系樹脂組成物2部をクロロホルム20部に溶解し、得られた溶液をメタノール200部に滴下して沈殿物を含む溶液を得た。沈殿物を含む溶液をろ過し、メタノール可溶成分を抽出し、乾燥することによって得たサンプルを、アセトンに溶解してサンプル溶液を得た。
測定:得られたサンプル溶液をGC-MSを用いて測定し、メタノール以外の検出されるアルコール成分を特定した。さらに、サンプル溶液をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC17A)を用いて測定し、(メタ)アクリル系樹脂組成物中のメタノール以外のアルコール成分含有量(ppm)を定量した。
【0133】
(7)密着性評価
(メタ)アクリル系樹脂組成物をアルミ薄板(日本テストパネル製、膜厚0.1mm)で挟み、さらにアルミ薄板の上からSUS板で挟み、手動式加熱プレス機(株式会社井元製作所製、IMC-180C型)を用いて、250℃で5分間溶融プレス成形した。その後SUS板で挟んだままプレス機から取り出して1分間冷却した後、アルミ薄板を剥がす際に、アルミ薄板に樹脂組成物が全面的に付着した場合には密着性を「良」、樹脂組成物が一部付着した場合には密着性を「普」、樹脂組成物が付着することなく剥がせた場合には密着性を「不良」と判定した。
【0134】
(8)ロール汚染評価
(メタ)アクリル系樹脂組成物について、オープン製膜を行うことによりロール汚染の評価をした。
具体的には、以下の手順で製膜した。
直径65mm、L/D=32のバリアフライト型スクリューを有するベント付単軸押出機を用いて溶融製膜を行った。押出機のシリンダとギアポンプの温度を275℃、ポリマーフィルターおよびTダイの温度を270℃に設定した。(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるペレットは、ホッパーに加温した除湿空気を送風することにより65℃に加温した。また、ホッパー下部に窒素導入管を設けて、押出機内に窒素ガスを導入した。ベント口から25Torrにて吸引を行いながら、ペレットを単軸スクリューにて溶融させ、ギアポンプを用いて、ろ過精度5μmのリーフディスク型のポリマーフィルターに通した。次いで、幅600mmのTダイより溶融樹脂を押出し、115℃に温調された硬質クロムメッキの冷却ロール上にキャスティングすることで、膜厚145μmの原反フィルムを取得した。
上記溶融製膜後、キャスティングした冷却ロール表面を目視にて観察し、白濁が確認されない場合には「良」、フィルムの幅方向において端部にのみ白濁が確認された場合には「普」、フィルムの幅方向において中央部にも白濁が確認された場合には「不良」と判定した。
【0135】
(9)発泡性評価
100℃の真空乾燥機にて4時間乾燥した(メタ)アクリル系樹脂組成物を、JIS-K7210に規定のシリンダー内に充填し、成形加工を想定した温度である280℃で20分間保持した後、ストランド状に押し出して、得られたストランドの上部標線と下部標線との間にシルバーストリークが存在するか否かを、目視により確認した。シルバーストリークの発生が確認された場合を「×」、確認されなかった場合を「○」とした。
【0136】
実施例1
攪拌装置、温度センサー、冷却コンデンサ、及び窒素導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)83.5部、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA;α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルともいう)12部、及びトルエン88.7部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート20重量%トルエン溶液(アルケマ吉富株式会社製、ルペロックス(登録商標)570T20)0.535部を添加した。続けて、スチレン(St)4.5部、及びn-ドデシルメルカプタン(nDM)0.15部からなる溶液を2時間かけて滴下した。また、t-アミルパーオキシイソノナノエート20重量%トルエン溶液1.065部を4時間かけて滴下した。これらSt、nDM、t-アミルパーオキシイソナノエートを滴下している間、混合液を約105~110℃で還流し、溶液重合を進行させた。滴下終了後、同温度でさらに2時間の熟成を行った。重合が終了した時点(重合開始から6時間経過した時点)における分子量(Mw)及び転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、それぞれ15.7万、91.3質量%であった。
【0137】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸ブチル(SC有機化学株式会社製、Phoslex A-4)0.0312部を加え、約90~110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。さらに、得られた重合溶液を、235℃に加熱した多管式熱交換器に通して環化縮合反応を完結させた。
【0138】
その後、ベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52.5)を用いて、得られた重合溶液を樹脂量換算で100部/時の処理速度で導入し脱揮処理を行った。上記押出機は、1個のリアベント、4個のフォアベント(以下、上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、及び第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを備えており、回転数80rpm、減圧度25~800hPa、バレル温度255℃(255℃の熱媒で加熱)とした。また、上記押出機は、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度10μm)が配置されており、ポリマーフィルターの先端部に設けられた押出ダイには、細孔が樹脂吐出面の円周に沿って多数、貫通形成され、ウォータリングカット方式のカッターが取り付けられている。また、カット、水冷固化後に遠心乾燥機による脱水設備が設けられ、気体による搬送により、貯蔵サイロへ搬送する構成となっている。
重合溶液を導入する際には、イオン交換水を1.5部/時の投入速度で第2、第3ベントの上流から、イオン交換水を3部/時の投入速度で第4ベントの上流から投入した。
脱揮終了後、リーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度:10μm)を通過させた後、押出ダイが有するダイス(細孔)から溶融状態の(メタ)アクリル系樹脂組成物を押し出し、カット、水冷固化後に遠心乾燥機による脱水、搬送後、貯蔵サイロで冷却することにより(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-1)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-1)の配合組成を表1に、各物性を表2に示す。
【0139】
実施例2
環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸ブチル(SC有機化学株式会社製、Phoslex A-4)0.0468部を加えた以外は実施例1と同様にして、(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-2)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-2)の配合組成を表1に、各物性を表2に示す。
【0140】
実施例3
環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸ブチル(SC有機化学株式会社製、Phoslex A-4)0.0624部を加えた以外は実施例1と同様にして、(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-3)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-3)の配合組成を表1に、各物性を表2に示す。
【0141】
実施例4
実施例2と同様にして環化縮合反応を完結後、ベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52.5)を用いて脱揮処理を行った。その際、紫外線吸収剤(株式会社ADEKA製、アデカスタブ(登録商標)LA-F70)35質量%のトルエン溶液を1.92部/時の投入速度で第3ベントの上流から投入した以外は、実施例2と同様に実施し、(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-4)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-4)の配合組成を表1に、各物性を表2に示す。
【0142】
実施例5
環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸オクチル(SC有機化学株式会社製、Phoslex A-8N)0.0475部を加えた以外は実施例1と同様にして、(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-5)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂(A-5)組成物の配合組成を表1に、各物性を表2に示す。
【0143】
比較例1
攪拌装置、温度センサー、冷却コンデンサ、及び窒素導入管を備えた反応釜に、MMA83.5部、MHMA12部、nDM0.07部、及びトルエン88.7部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート20重量%トルエン溶液(アルケマ吉富株式会社製、ルペロックス(登録商標)570T20)0.451部を添加した。続けて、St4.5部、及びt-アミルパーオキシイソノナノエート20重量%トルエン溶液0.899部からなる溶液を2時間かけて滴下した。これらSt、及びt-アミルパーオキシイソナノエートを滴下している間、混合液を約105~110℃で還流し、溶液重合を進行させた。滴下終了後、同温度でさらに4時間の熟成を行った。重合が終了した時点(重合開始から6時間経過した時点)における分子量(Mw)及び転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、それぞれ15.3万、94.5質量%であった。
【0144】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸ステアリル(SC有機化学株式会社製、Phoslex A-18)0.075部を加え、約90~110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。さらに、得られた重合溶液を、235℃に加熱した多管式熱交換器に通して環化縮合反応を完結させた。
【0145】
その後、実施例1で使用したベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52.5)を用いて、得られた重合溶液を樹脂量換算で100部/時の処理速度で導入し脱揮処理を行った。重合溶液を導入する際には、イオン交換水を1.5部/時の投入速度で第2、第4ベントの上流から、オクチル酸亜鉛トルエン溶液(日本化学産業株式会社製、ニッカオクチックス亜鉛1.8%):フェノール系酸化防止剤(株式会社ADEKA製、アデカスタブ(登録商標)AO-60):硫黄系酸化防止剤(株式会社ADEKA製、アデカスタブ(登録商標)AO-412S)=33.74:1:1からなるトルエン溶液を0.165部/時の投入速度で第3ベントの上流から投入した。
脱揮終了後、リーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度:5μm)を通過させた後、押出ダイが有するダイス(細孔)から溶融状態の(メタ)アクリル系樹脂組成物を押し出し、カット、水冷固化後に遠心乾燥機による脱水、搬送後、貯蔵サイロで冷却することにより(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-6)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂(A-6)組成物の配合組成を表1に、各物性を表2に示す。
【0146】
比較例2
環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸メチル(SC有機化学株式会社製、Phoslex A-1)0.1部を加えた以外は実施例1と同様にして、(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-7)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂(A-7)組成物の配合組成を表1に、各物性を表2に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
表2から明らかなように、実施例1~5で得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-1)~(A-5)は何れも密着性についての評価が良好であり、比較例1で得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-6)は密着性についての評価が悪かった。特に、リン酸ブチルを使用して得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-1)~(A-4)は、密着性について優れた結果を示した。
【0150】
また、表2から明らかなように、実施例1~5で得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-1)~(A-5)は何れもロール汚染についての評価が良好であり、比較例1で得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-6)はロール汚染についての評価が悪かった。特に、リン酸ブチルを使用して得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-1)~(A-4)は、ロール汚染について優れた結果を示した。
【0151】
また、表2から明らかなように、実施例1~5で得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-1)~(A-5)は何れも発泡性についての評価が良好であり、比較例2で得られた(メタ)アクリル系樹脂組成物(A-7)は発泡性についての評価が悪かった。