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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】セメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/04 20060101AFI20250401BHJP
【FI】
B28C7/04 ZAB
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024567447
(86)(22)【出願日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2023044589
(87)【国際公開番号】W WO2024142929
(87)【国際公開日】2024-07-04
【審査請求日】2024-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2022209048
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
(72)【発明者】
【氏名】阿武 稔也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明也
(72)【発明者】
【氏名】田場 祐道
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 翔
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-002747(JP,A)
【文献】特開2021-155270(JP,A)
【文献】特開2019-038234(JP,A)
【文献】特開2020-037493(JP,A)
【文献】特開2023-143644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 7/00 - 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、及び水を用いた、セメント組成物の製造方法であって、
上記セメントの一部と、上記水の一部を混合して、水セメント比が250%以上であるセメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、
上記セメントスラリーと炭酸ガスを接触させて、炭酸化スラリーを得る炭酸化工程と、
上記炭酸化スラリーから水を部分的に分離して、液固比が80~400%である濃縮スラリーを得る濃縮工程と、
上記濃縮スラリーと、上記セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、
上記高濃度セメント含有組成物と、上記水の残部を混練して、上記セメント組成物を得る水追加供給工程、を含み、
上記セメントの全量中、上記セメントスラリー調製工程で用いられる上記セメントの一部の量の割合が1~50質量%であり、かつ、上記セメント追加供給工程で用いられる上記セメントの残部の量の割合が50~99質量%であり、
上記骨材が、上記セメント追加供給工程と上記水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給され
上記セメント組成物に含まれる水の全量中、上記濃縮工程で得られる上記濃縮スラリー中の水の量の割合が50~99質量%であり、かつ、上記水追加供給工程で用いられる上記水の残部の量の割合が1~50質量%であり、
上記セメントスラリー調製工程で得られる上記セメントスラリーの水セメント比(X)と、上記濃縮工程で得られる上記濃縮スラリーの液固比(Y)の差(X-Y)が、50%以上であることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項2】
上記炭酸化工程において、上記炭酸ガスが、5体積%以上の炭酸ガスを含む気体として、供給される請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項3】
上記炭酸化工程において、上記炭酸ガスは、上記炭酸化スラリーのpHが5.0~11.5の範囲内になるまで供給される請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
上記セメント組成物が、セメント混和剤を含み、
上記セメント混和剤が、上記水追加供給工程で供給される請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
上記セメント混和剤が、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤からなる群より選ばれる一種以上のセメント分散剤、並びに、AE剤を含む請求項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項6】
上記骨材が、細骨材及び粗骨材を含み、
上記セメント組成物の液固比が30~65%である請求項1~のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物(例えば、二酸化炭素を固定化してなるコンクリート)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制のために、二酸化炭素の排出量を低減することが、重要な課題になっている。
これに関連して、セメント製造工場で発生する排ガス等に含まれている二酸化炭素(炭酸ガス)を、コンクリート等のセメント組成物に固定化する技術が検討されている。
例えば、特許文献1に、二酸化炭素が効率よく固定化されたコンクリートの製造方法として、「セメントと水を含む第1の混合物を形成すること、前記第1の混合物に二酸化炭素を添加して第2の混合物を形成すること、および前記第2の混合物を硬化することを含み、前記水の重量は、前記コンクリートに残存する未水和セメントが0%以上50%以下になるように調整される、コンクリートの製造方法」(請求項1)が記載されている。
【0003】
また、特許文献2に、養生過程で多量の二酸化炭素を吸収することにより二酸化炭素排出量を大幅に低減したプレキャストコンクリートの製造方法として、「コンクリート混練物を型枠に打設し、脱型後に当該コンクリートの固化体を二酸化炭素濃度5~95%の雰囲気中で炭酸化養生することにより表面から深さ20mm以上の部位に炭酸化領域を形成させる、二酸化炭素(CO)吸収プレキャストコンクリートの製造方法」(請求項5)が記載されている。
特許文献2の製造方法で使用するコンクリート混練物は、「粉体成分として、γ-CS(記号γ)、製鋼スラグ粉末(記号B)の1種または2種と、ポルトランドセメント(記号C)を含有し、上記γ、B、Cの合計含有量に占めるγ、Bの合計が25~95質量%であり、水セメント比W/Cが80~250%である配合のコンクリート混練物」(請求項1)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-37493号公報
【文献】特開2011-168436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、二酸化炭素を固定化してなるセメント組成物の製造方法であって、セメントと二酸化炭素の反応時間を短縮することができ、かつ、固定化される二酸化炭素の量が多い、セメント組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント、骨材、及び水を用いた、セメント組成物の製造方法であって、(A)上記セメントの一部と、上記水の一部を混合して、水セメント比が250%以上であるセメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、(B)上記セメントスラリーと炭酸ガスを接触させて、炭酸化スラリーを得る炭酸化工程と、(C)上記炭酸化スラリーから水を部分的に分離して、液固比が80~400%である濃縮スラリーを得る濃縮工程と、(D)上記濃縮スラリーと、上記セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、(E)上記高濃度セメント含有組成物と、上記水の残部を混練して、上記セメント組成物を得る水追加供給工程、を含み、かつ、上記骨材が、上記セメント追加供給工程と上記水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給されるなどの構成を有する製造方法によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
【0007】
[1] セメント、骨材、及び水を用いた、セメント組成物の製造方法であって、
上記セメントの一部と、上記水の一部を混合して、水セメント比が250%以上であるセメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、
上記セメントスラリーと炭酸ガスを接触させて、炭酸化スラリーを得る炭酸化工程と、
上記炭酸化スラリーから水を部分的に分離して、液固比が80~400%である濃縮スラリーを得る濃縮工程と、
上記濃縮スラリーと、上記セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、
上記高濃度セメント含有組成物と、上記水の残部を混練して、上記セメント組成物を得る水追加供給工程、を含み、
上記セメントの全量中、上記セメントスラリー調製工程で用いられる上記セメントの一部の量の割合が1~50質量%であり、かつ、上記セメント追加供給工程で用いられる上記セメントの残部の量の割合が50~99質量%であり、
上記骨材が、上記セメント追加供給工程と上記水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給されることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
[2] 上記セメント組成物に含まれる水の全量中、上記濃縮工程で得られる上記濃縮スラリー中の水の量の割合が50~99質量%であり、かつ、上記水追加供給工程で用いられる上記水の残部の量の割合が1~50質量%である、前記[1]に記載のセメント組成物の製造方法。
[3] 上記セメントスラリー調製工程で得られる上記セメントスラリーの水セメント比(X)と、上記濃縮工程で得られる上記濃縮スラリーの液固比(Y)の差(X-Y)が、50%以上である、前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物の製造方法。
[4] 上記炭酸化工程において、上記炭酸ガスが、5体積%以上の炭酸ガスを含む気体として供給される、前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
[5] 上記炭酸化工程において、上記炭酸ガスは、上記炭酸化スラリーのpHが5.0~11.5の範囲内になるまで供給される、前記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
[6] 上記セメント組成物が、セメント混和剤を含み、上記セメント混和剤が、上記水追加供給工程で供給される、前記[1]~[5]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
[7] 上記セメント混和剤が、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤からなる群より選ばれる一種以上のセメント分散剤、並びに、AE剤を含む、前記[6]に記載のセメント組成物の製造方法。
[8] 上記骨材が、細骨材及び粗骨材を含み、上記セメント組成物の液固比が30~65%である、前記[1]~[7]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント組成物の製造方法によれば、セメントと二酸化炭素の反応時間を短縮することができる。
また、本発明のセメント組成物の製造方法によれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量を大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメント組成物の製造方法は、セメント、骨材、及び水を用いた、セメント組成物の製造方法であって、(A)上記セメントの一部と、上記水の一部を混合して、水セメント比が250%以上であるセメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、(B)上記セメントスラリーと炭酸ガス(気体の形態を有する二酸化炭素)を接触させて、炭酸化スラリーを得る炭酸化工程と、(C)上記炭酸化スラリーから水を部分的に分離して、液固比が80~400%である濃縮スラリーを得る濃縮工程と、(D)上記濃縮スラリーと、上記セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、(E)上記高濃度セメント含有組成物と、上記水の残部を混練して、上記セメント組成物を得る水追加供給工程、を含む。
本発明において、セメントの全量(100質量%)中、工程(A)(セメントスラリー調製工程)で用いられるセメント(一部)の量の割合は、1~50質量%であり、かつ、工程(D)(セメント追加供給工程)で用いられるセメント(残部)の量の割合は、50~99質量%である。
本発明において、骨材(例えば、粗骨材及び細骨材)は、工程(D)(セメント追加供給工程)と工程(E)(水追加供給工程)のいずれか一方または両方で供給される。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0010】
[工程(A):セメントスラリー調製工程]
工程(A)は、本発明の製造方法で用いられるセメントの全量及び水の全量中、セメントの一部と水の一部を混合して、水セメント比が250%以上であるセメントスラリーを得る工程である。
セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本発明のセメント組成物に含まれるセメントの全量(100質量%)中の工程(A)で用いられるセメント(セメントの一部)の量の割合は、1~50質量%、好ましくは3~45質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは8~35質量%、さらに好ましくは10~32質量%、特に好ましくは12~30質量%である。上記割合が1質量%未満であると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量が少なくなる。上記割合が50質量%を超えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
【0012】
工程(A)で調製されるセメントスラリーの水セメント比は、250%以上、好ましくは300~2,000%、より好ましくは350~1,500%、さらに好ましくは400~1,000%、特に好ましくは450~700%である。
該比が250%未満であると、セメントと二酸化炭素の反応時間を短縮するという本発明の目的を十分に達成することができない。該比が2,000%以下であると、後工程である工程(C)(濃縮工程)における水の分離(炭酸化スラリーの濃縮)の処理効率を、より高めることができる。
「水セメント比」とは、水とセメントの質量比(水/セメント)を百分率(%)で表したもの([水の質量]×100÷[セメントの質量];単位:%)である。
工程(A)において、セメントと水を混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌槽等の収容及び撹拌手段の中に水を供給し、次いで、セメントを供給した後、撹拌を行う方法や、収容及び撹拌手段の中に、水及びセメントを同時に供給した後、撹拌を行う方法が挙げられる。
【0013】
[工程(B):炭酸化工程]
工程(B)は、工程(A)で得たセメントスラリーと、炭酸ガスを接触させて、炭酸化スラリーを得る工程である。
工程(B)において、セメントスラリー中に均質に炭酸ガスを供給する観点から、セメントスラリーを流動させながら炭酸ガスを供給することが好ましい。
セメントスラリーの中に炭酸ガスを供給する方法としては、例えば、以下の(i)~(iii)の方法等が挙げられる。
(i) 工程(A)で用いた撹拌槽内に、セメントスラリー中に炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段を設置し、撹拌槽内のセメントスラリーの中に炭酸ガスを供給する方法
より具体的な例としては、セメントと水を撹拌(混合)してセメントスラリーを得るための撹拌槽と、該撹拌槽の中に配設された炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)とを備えた装置内において、工程(A)で得たセメントスラリーを撹拌しながら、該セメントスラリーの中に、上記炭酸ガス供給手段を用いて炭酸ガスを吹き込んで、炭酸化スラリーを得る方法が挙げられる。
【0014】
(ii) 撹拌槽内のセメントスラリーを、炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を有する装置内に導いた後、該装置内のセメントスラリーの中に、上記炭酸ガス供給手段を用いて炭酸ガスを吹き込んで、炭酸化スラリーを得て、次いで、該炭酸化スラリーを収容用の槽に収容する方法
なお、上記撹拌槽と上記収容用の槽は、同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0015】
より具体的な例としては、撹拌槽内に収容されたセメントスラリーを、ポンプ等を用いて第一の流通路を介して、炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を有する装置内に導き、収容した後、該装置内のセメントスラリー中に、セメントスラリーを撹拌しながら、上記炭酸ガス供給手段を用いて炭酸ガスを供給し、次いで、得られた炭酸化スラリーを、ポンプ等を用いて第二の流通路を介して上記撹拌槽に導き、収容する方法が挙げられる。
上記装置の例としては、セメントスラリーを収容しかつ撹拌するためのスラリー収容槽と、該スラリー収容槽の中に配設された炭酸ガス供給用の散気手段(例えば、散気板)を備えたものが挙げられる。
また、セメントスラリーを、十分な量の炭酸ガスを固定化するまで、上記撹拌槽、上記第一の流通路、上記装置、及び、上記第二の流通路の順に、繰り返し循環させてもよい。
さらに、炭酸化スラリーを得た後、該炭酸化スラリーを、上記撹拌槽とは異なる収容用の槽に一旦、収容し、該収容用の槽から、別の収容用の槽に供給してもよい。
【0016】
(iii) 撹拌槽内のセメントスラリーを、炭酸化スラリー収容用の槽に供給する際に、セメントスラリーの中に炭酸ガスを吹き込む方法
より具体的な例としては、撹拌槽内のセメントスラリーを、該撹拌槽に接続された管路内に導き、該管路内で流通させながら、該管路の途中で該管路内に炭酸ガスを供給して、炭酸化スラリーを得た後、該炭酸化スラリーを炭酸化スラリー収容用の槽に収容する方法が挙げられる。
上記管路としては、例えば、炭酸ガス流入口を有し、かつ、内部に、セメントスラリーと炭酸ガスを撹拌するための撹拌手段を有するものが挙げられる。具体的には、管路内に、炭酸ガスを供給するための散気手段(例えば、散気板)、及び、撹拌手段(例えば、ラインミキサーやスタティックミキサー)を配設したものが挙げられる。
また、セメントスラリーの中に炭酸ガスを供給した後、得られた炭酸化スラリーを、炭酸化スラリー収容用の槽に導かずに、上記撹拌槽に戻してもよい。さらに、炭酸化スラリーを、上記撹拌槽及び上記管路内の順に、繰り返し循環させて、十分な量の炭酸ガスを固定化した後、炭酸化スラリー収容用の槽に導いてもよい。
さらに、炭酸化スラリーを得た後、該炭酸化スラリーを、上記撹拌槽とは異なる収容用の槽に一旦、収容し、該収容用の槽から、炭酸化スラリー収容用の槽に供給してもよい。
【0017】
セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量を増加させる観点から、炭酸ガスの供給は、セメントスラリーの液面の加圧下(例えば、セメントスラリーを収容してなるタンクの液面上の気相の圧力を、大気圧を超える1,200hPa以上に高めるなど)で行ってもよい。
このことから、炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段としては、加圧が可能な構造のものを用いることが好ましい。
【0018】
本発明において、炭酸ガスは、炭酸ガスのみからなる気体として、セメントスラリーに供給されてもよいが、入手の容易性等の観点から、炭酸ガスを含む気体として、セメントスラリーに供給されてもよい。
この場合、炭酸ガスを含む気体中の炭酸ガスの割合は、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上である。該割合が5体積%以上であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより増やすことができる。また、炭酸ガスの供給に要する時間を短くすることができる。
炭酸ガスを含む気体の例としては、セメント製造工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約20体積%)、製鉄工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約20体積%)、火力発電工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約10体積%)、及び、これらの排ガスからの分離回収ガス(炭酸ガス濃度:約100体積%)等が挙げられる。
【0019】
工程(B)において、炭酸ガスの供給は、炭酸化スラリーのpHが、好ましくは5.0~11.5、より好ましくは5.5~11.0、さらに好ましくは6.0~10.0、特に好ましくは6.5~9.0の範囲内となるように行われる。上記pHが5.0以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。また、炭酸ガスの供給に要する時間が短くなり、セメント組成物の製造効率がより向上する。上記pHが11.5以下であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量がより多くなる。なお、炭酸ガスを供給することによって、炭酸化スラリーのpHは、低下する。
炭酸ガスの供給時間は、水セメント比、炭酸ガス供給手段、炭酸ガスを含む気体の炭酸ガス濃度等によって変わる。このため、工程(B)において、炭酸ガスの供給を終了する時は、炭酸化スラリーのpHの実測値を基に定めることが好ましい。
【0020】
[工程(C):濃縮工程]
工程(C)は、工程(B)(炭酸化工程)で得た炭酸化スラリーから、水を部分的に分離して、液固比が80~400%の濃縮スラリーを得る工程である。
ここで、「炭酸化スラリーから水を部分的に分離する」とは、炭酸化スラリーに含まれている水を完全に分離する(換言すると、炭酸化スラリーを脱水して固形分のみにする)のではなく、炭酸化スラリーに含まれている水の一部のみを分離する(換言すると、炭酸化スラリーを、該スラリー中の水分の量が減少するように濃縮する)ことを意味する。
「液固比」とは、工程(A)(セメントスラリー調製工程)における「水セメント比」に対応する語であり、「液」である水と、「固体」である「炭酸化されていないセメント(未炭酸化セメント)、及び、セメントが炭酸化してなるもの(炭酸化セメント)の材料であるセメント」の質量比(水/[(未炭酸化セメント)+(炭酸化セメントの材料であるセメント)])を百分率(%)で表したもの([水の質量]×100÷[未炭酸化セメントと、炭酸化セメントの材料であるセメントの合計の質量];単位:%)を意味する。
「濃縮スラリー」とは、工程(A)(セメントスラリー調製工程)で得たセメントスラリーから水を部分的に分離して得たものを意味する。なお、「濃縮スラリー」の語は、スラリー状のものに限定されず、スラリーと称されないもの(例えば、モルタル状のもの)も包含する。
【0021】
工程(C)において、液固比は、80~400%である。液固比が80%未満では、セメント組成物の硬化後の強度発現性が低下する。液固比が400%を超えると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量が小さくなる。
液固比は、優れた強度発現性を得る観点からは、好ましくは100%以上、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%以上、特に好ましくは250%以上である。
液固比は、二酸化炭素の固定量を大きくする観点からは、好ましくは300%以下、より好ましくは250%以下、さらに好ましくは200%以下、特に好ましくは150%以下である。
本発明において、工程(A)(セメントスラリー調製工程)で得られるセメントスラリーの水セメント比(X)と、工程(C)(濃縮工程)で得られる濃縮スラリーの液固比(Y)の差(X-Y)は、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上、さらに好ましくは150%以上、特に好ましくは200%以上である。
該差(X-Y)が50%以上であると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量を、より大きくすることができる。
該差(X-Y)の上限は、特に限定されないが、例えば、1,800%(通常、1,200%)である。
【0022】
本発明の製造の目的物であるセメント組成物に含まれる水の全量(100質量%)中、工程(C)(濃縮工程)で得られる濃縮スラリー中の水の量の割合は、好ましくは50~99質量%である。
該割合が50質量%以上であると、セメント組成物の硬化後の強度発現性をより高めることができる。該割合が99質量%以下であると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより大きくすることができる。
該割合は、優れた強度発現性を得る観点からは、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
該割合は、二酸化炭素の固定量を大きくする観点からは、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、特に好ましくは65質量%以下である。
工程(C)(濃縮工程)において、水を分離するための手段としては、沈降分離機、真空脱水機、加圧脱水機等の公知の固液分離装置を用いることができる。
【0023】
[工程(D):セメント追加供給工程]
工程(D)は、工程(C)(濃縮工程)で得た濃縮スラリーと、セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物(セメントを加えることによって、工程(C)で得た濃縮スラリーに比べて、より大きな濃度でセメントを含む組成物)を得る工程である。
本発明のセメント組成物に含まれるセメントの全量(100質量%)中の工程(D)で用いられるセメント(セメントの残部)の量の割合は、50~99質量%、好ましくは55~97質量%、より好ましくは60~95質量%、さらに好ましくは65~92質量%、さらに好ましくは68~90質量%、特に好ましくは70~88質量%である。上記割合が50質量%未満であると、セメント組成物の硬化後の強度発現性が低下する。上記割合が99質量%を超えると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量が少なくなる。
【0024】
[工程(E):水追加供給工程]
工程(E)は、工程(D)で得た高濃度セメント含有組成物と、水の残部を混練して、セメント組成物(水を加えることによって、工程(D)で得た高濃度セメント含有組成物に比べて、より小さな濃度でセメントを含む組成物)を得る工程である。
本発明の製造の目的物であるセメント組成物に含まれる水の全量(100質量%)中、工程(E)で供給される水(残部)の量の割合は、好ましくは1~50質量%である。
該割合が1質量%以上であると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより大きくすることができる。該割合が50質量%以下であると、セメント組成物の硬化後の強度発現性をより高めることができる。
該割合は、二酸化炭素の固定量を大きくする観点からは、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは35質量%以上である。
該割合は、優れた強度発現性を得る観点からは、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0025】
本発明において、骨材は、工程(D)(セメント追加供給工程)と工程(E)(水追加供給工程)のいずれか一方または両方で供給される。
骨材は、セメント組成物の製造の効率性の観点からは、工程(D)(セメント追加供給工程)で供給することが好ましい。
本発明で用いられる骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。また、骨材としては、天然骨材、人工骨材、再生骨材のいずれも用いることができる。
細骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ細骨材、及び軽量細骨材、又は、これらの中から選ばれる2種以上からなる混合物等が挙げられる。
粗骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂利、山砂利、陸砂利、海砂利、砕石、スラグ粗骨材、及び軽量粗骨材、又は、これらの中から選ばれる2種以上からなる混合物等が挙げられる。
骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合は、各々の配合量)は、特に限定されず、モルタルまたはコンクリートにおける一般的な配合量であればよい。
細骨材と粗骨材を併用する場合、例えば、細骨材の単位量を600~1,100kg/m、粗骨材の単位量を800~1,500kg/m、細骨材率を30~60%に定めることができる。
「細骨材率」とは、細骨材の質量(A)と粗骨材の質量(B)の合計中の細骨材の質量(A)を百分率(%)で表したもの(A×100÷(A+B);単位:%)である。
【0026】
セメント組成物の液固比は、好ましくは30~65%、好ましくは40~60%である。
該比が30%以上であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。該比が65%以下であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
【0027】
セメント組成物は、空気連行性及び流動性をより向上させる観点から、セメント混和剤を含むことが好ましい。
セメント混和剤としては、セメント分散剤、AE剤等が挙げられる。特に、空気連行性及び流動性をより向上させる観点から、セメント分散剤とAE剤を併用することが好ましい。
セメント分散剤の例としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。
セメント分散剤の量は、セメント100質量部に対して、例えば、0.5~3質量部(好ましくは1.0~2.0質量部)である。
セメント分散剤は、セメント組成物の空気連行性及び流動性をより向上させる観点から、工程(E)(水追加供給工程)において供給されることが好ましい。
AE剤の量は、セメント100質量部に対して、例えば、0.001~0.03質量部(好ましくは0.003~0.02質量部)である。
【0028】
セメント組成物は、必要に応じて、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末等の各種混和材を含むことができる。
混和材の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。
本発明の製造方法において、各種混和材を用いる工程は、特に限定されないが、セメント組成物の製造の効率性や、工程(B)(炭酸化工程)において炭酸化スラリーのpHに影響を与えない等の観点から、工程(D)(セメント追加供給工程)及び工程(E)(水追加供給工程)の少なくともいずれか一方の工程であることが、好ましい。
【実施例
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)細骨材:山砂
(3)粗骨材:砕石
(4)水:上水道水
(5)AE減水剤:商品名「マスターポリヒード15S」(ポゾリス社製)
(6)AE剤:商品名「マスターエア303A」(ポゾリスソリューションズ社製)
【0030】
[A.セメントスラリー調製工程における水セメント比に関する実験]
[実施例1~4、比較例1]
表1に示す量で、セメントと水を、容器内でハンドミキサを用いて60秒間混練して、セメントスラリー(液温:23℃)を得た。
上記容器内のセメントスラリー中に炭酸ガス(濃度:100%)を、炭酸ガス供給管を介して20リットル/分の量で吹き込み、炭酸化スラリーを得た(炭酸化工程の終了)。
炭酸ガスの吹き込み開始の時点から、炭酸化スラリーのpHが6~7の範囲内で平衡になった時点(反応終了時点)までの時間を、「反応時間(分)」とした。
反応時間を表1に示す。
表1から、水セメント比が大きくなるほど、反応時間が短くなることがわかる。
【0031】
【表1】
【0032】
[B.濃縮工程における液固比に関する実験]
[実施例5~7、比較例2]
実施例2(水セメント比:500%)で得られた炭酸化スラリーを静置して、固体分(セメント、及び、炭酸化したセメント)を沈殿させ、次いで、水中ポンプを用いて、水を除去して、液固比を表2に示すように調整した(濃縮工程の終了)。ただし、比較例2では、水の除去を行わなかった。
得られた濃縮スラリーに、セメントの残部と、細骨材と、粗骨材を投入して、60秒間混練を行い、高濃度セメント含有組成物を得た(セメント追加供給工程の終了)。
次いで、得られた高濃度セメント含有組成物に、表2に示す量の水と、混和剤(AE減水剤及びAE剤)を投入して、60秒間混練を行い、次いで、ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とした後、さらに60秒間混練を行って、コンクリート(セメント組成物)を得た(水追加供給工程の終了)。
【0033】
得られたコンクリートのスランプを、「JIS A 1101:2020(コンクリートのスランプ試験方法)」に準拠して測定した。
また、得られたコンクリートの材齢7日及び28日の各時点における圧縮強度を、「JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して測定した。
さらに、圧縮強度を測定するために用いた材齢7日の供試体の二酸化炭素の割合(質量%)を、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を用いて求めた。具体的には、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を行い、その測定結果から、550~800℃付近の吸熱ピーク範囲における質量の減少を、コンクリートのモルタル部分に含まれている炭酸カルシウムの脱炭酸によるものと判断し、上記質量の減少の量から、モルタル部分中の二酸化炭素の割合(質量%;炭酸カルシウムの二酸化炭素換算の値)を算出し、セメント1トンあたりの二酸化炭素の固定量を求めた。
【0034】
[C.炭酸化を行わない実験]
[比較例3]
単位量が336kg/mとなる量のセメント、単位量が840kg/mとなる量の細骨材、及び、単位量が938kg/mとなる量の粗骨材を、55リットル強制パン型ミキサに投入して、30秒間空練りした後、単位量が168kg/mとなる量の水及び混和剤を投入し、60秒間混練した。次いで、ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とした後、さらに60秒間混練してコンクリート(セメント組成物)を得た。
以上の結果を表3に示す。
表3から、実施例5~7のモルタル部分に固定化された二酸化炭素の量は、比較例2~3よりも大きいことがわかる。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】