(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】熱保存帯温度の低下量の推定方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20250402BHJP
【FI】
C21B5/00 310
(21)【出願番号】P 2021031501
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】樋口 謙一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-048376(JP,A)
【文献】特開平06-145729(JP,A)
【文献】特開2010-196151(JP,A)
【文献】Kenichi Higuchi et al., Reaction Behaviors of Various Agglomerates in Reducing the Temperature of the Thermal Reserve Zone of the Blast Furnace,ISIJ International,日本,The Iron and Steel Institute of Japan,2020年11月15日,volume 60, Issue 11,p. 2366-2375,DOI https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2020-115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00-7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子又はカーボン基質と、金属鉄又は酸化鉄からなる鉄系粒子とを含有する特殊原燃料を高炉に装入するときの熱保存帯温度の低下量を推定する方法であって、
前記特殊原燃料における前記カーボン粒子又は前記カーボン基質中の疑似的なカーボン粒子と、前記鉄系粒子との間の平均距離を下記式(I),(II)によって定義したとき、
前記特殊原燃料を使用しない基準操業で使用されるカーボンの総量に対して、装入される前記特殊原燃料に起因するカーボンの量の割合であるカーボン置換率が所定値であるときの前記平均距離の対数及び前記低下量が一次関数として表される予め求められた相関関係を用いて、高炉に装入される前記特殊原燃料から算出された前記平均距離に基づいて、前記低下量を求め、
前記特殊原燃料は、含炭塊成鉱、フェロコークス及び、鉱石及び小塊コークスの混合物のうちの少なくとも1つであり、
前記特殊原燃料として、含炭塊成鉱、フェロコークス及び、前記混合物のうちの少なくとも2つ以上を用いるとき、すべての前記特殊原燃料の前記カーボン置換率の合計
が前記
相関関係を成立させる上限値以下と
なる条件において、
使用される前記特殊原燃料毎の前記カーボン置換率及び前記相関関係に基づいて前記特殊原燃料毎
の前記低下量
を求め、これらの前記低下量の合計値を熱保存帯温度の低下量として推定することを特徴とする熱保存帯温度の低下量の推定方法。
【数1】
L
RSは前記平均距離[mm]、xは前記平均距離L
RSを規定する方向におけるパラメータであり、
前記特殊原燃料中で分散する前記カーボン粒子又は前記鉄系粒子に応じて、前記平均距離を規定する前記カーボン粒子及び前記鉄系粒子の一方を基準粒子とするとともに他方を周囲粒子とし、前記特殊原燃料を、前記特殊原燃料に含まれる1個の前記基準粒子と、この基準粒子の周囲に存在する複数の前記周囲粒子とによって構成され、前記基準粒子が中心に位置する単位ユニットの集合体とみなしたとき、
d
Uは前記単位ユニットの直径[mm]、d
Rは前記基準粒子の粒径[mm]、V
Rは、前記単位ユニットに含まれる前記基準粒子の体積[mm
3]、V
Sは、前記単位ユニットに含まれる前記周囲粒子の体積[mm
3]である。
【請求項2】
前記相関関係は下記式(III)で表されることを特徴とする請求項1に記載の熱保存帯温度の低下量の推定方法。
【数2】
ΔT
trzは前記低下量[℃]、mは前記カーボン置換率[%]、L
RSは前記平均距離[mm]、kは前記カーボン置換率が1%において前記平均距離L
RSの対数と前記低下量ΔT
trzとを対応づける定数[-]である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の熱保存帯温度の低下量を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、ガス化反応開始温度(測定値)の変動と、予め求めたガス化反応開始温度と熱保存帯温度の相関関係に基づいて、熱保存帯温度の変動を評価している。ここで、ガス化反応開始温度は、単位時間当たりのコークスの重量減少率が0.002[min-1]を超えたときのコークス温度である。
【0003】
特許文献2では、コークスや、コークスよりも炭材反応性の高い装入物を使用する場合において、鉄/酸化鉄平衡における反応温度と還元ガスの酸素ポテンシャルとの第一の対応関係を定めるとともに、コークス/装入物(単独)のガス化反応開始温度とガス化反応開始温度を定めたときの還元ガスの酸素ポテンシャルとの第二の対応関係を定めている。そして、温度-ガス利用率図において、第一の対応関係及び第二の対応関係の交点の温度を高炉の熱保存帯温度として推定している。
【0004】
非特許文献1では、含炭塊成鉱におけるカーボン及び酸化鉄の近接度合いを考察するために、カーボン及び酸化鉄の間の平均距離LOCを算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-196151号公報
【文献】特開2018-048376号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「鉱石を主体とする革新的塊成物の反応特性と高炉使用効果」、材料とプロセス(CAMP-ISIJ)22(2019)、722
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、熱保存帯温度の変動を評価するために、使用される高反応性コークス毎に、所定のガス化試験装置を用いた試験によってガス化反応開始温度を測定しなければならない。特許文献2でも、熱保存帯温度を推定するための第二の対応関係を定めるために、所定の試験装置を用いた試験によってガス化反応開始温度を測定しなければならない。
【0008】
本願発明者は、非特許文献1に記載の平均距離LOCが熱保存帯温度の低下量と相関関係があることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特殊原燃料を高炉に装入するときの熱保存帯温度の低下量を推定する方法である。ここで、特殊原燃料とは、コークスや鉄鉱石(焼結鉱)のような一般的な高炉用装入物以外の、小塊コークスや含炭塊成鉱のような、高炉還元材比(RAR)低減のために使用される原燃料である。この特殊原燃料の一部は、カーボン粒子またはカーボン基質と、金属鉄又は酸化鉄からなる鉄系粒子とを含有する。以下に説明する平均距離の対数と熱保存帯温度の低下量が一次関数として表される相関関係を用いて、高炉に装入される特殊原燃料から算出された平均距離に基づいて、熱保存帯温度の低下量を求める。
【0010】
上記平均距離は、特殊原燃料におけるカーボン粒子又はカーボン基質中の疑似的なカーボン粒子と、鉄系粒子(金属鉄/酸化鉄)と間の平均距離であり、下記式(I),(II)によって定義される。
【0011】
【0012】
LRSは平均距離[mm]、xは平均距離LRSを規定する方向におけるパラメータである。特殊原燃料に応じて、平均距離を規定するカーボン粒子(特殊原燃料に含まれるカーボン粒子又は、カーボン基質中の疑似的なカーボン粒子)及び鉄系粒子の一方を基準粒子とし、平均距離を規定するカーボン粒子及び鉄系粒子の他方を周囲粒子とする。そして、特殊原燃料を、特殊原燃料に含まれる1個の基準粒子と、この基準粒子の周囲に存在する複数の周囲粒子とによって構成される単位ユニットの集合体とみなしたとき、dUは単位ユニットの直径[mm]、dRは基準粒子の粒径[mm]、VRは、単位ユニットに含まれる基準粒子の体積[mm3]、VSは、単位ユニットに含まれる周囲粒子の体積[mm3]である。
【0013】
上述した相関関係は下記式(III)で表すことができる。
【0014】
【0015】
ΔTtrzは低下量[℃]、mはカーボン置換率[%]、LRSは平均距離[mm]、kはカーボン置換率が1%(m=1)において平均距離LRSの対数と低下量ΔTtrzとを対応づける定数[-]である。
【0016】
特殊原燃料としては、含炭塊成鉱、フェロコークス及び、鉱石に混合されて使用される小塊コークスのうちの少なくとも1つを用いることができる。特殊原燃料として、含炭塊成鉱、フェロコークス及び小塊コークスのうちの少なくとも2つ以上を用いるとき、相関関係に基づいて特殊原燃料毎に求められた低下量の合計値を熱保存帯温度の低下量として推定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特殊原燃料の平均距離LRSを求めることにより、熱保存帯温度の低下量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】含炭塊成鉱および、小塊コークスと鉱石の混合物について、平均距離L
RSを説明する図である。
【
図2】フェロコークスについて、平均距離L
RSを説明する図である。
【
図3】特殊原燃料の平均距離L
RSと、熱保存帯温度T
trzの低下量ΔT
trzとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態は、特殊原燃料における平均距離LRSの対数(lоg(LRS))と、高炉の熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzとの間に一次関数の相関関係があることを利用し、高炉に装入される特殊原燃料の平均距離LRSから低下量ΔTtrzを推定するものである。後述するように、高炉に装入される特殊原燃料について平均距離LRSを求めれば、上述した相関関係(一次関数)から低下量ΔTtrzを求めることができる。
【0020】
特殊原燃料とは、コークスや鉄鉱石(焼結鉱)のような一般的な高炉用装入物以外の装入物であって、高炉還元材比(RAR)低減のために高炉に装入されて高炉の熱保存帯温度Ttrzに影響を与える装入物である。特殊原燃料としては、例えば、含炭塊成鉱、フェロコークス、小塊コークスが挙げられる。含炭塊成鉱は、鉄鉱石及び炭材(カーボン)の塊成化物であり、フェロコークスは、酸化鉄を混合して製造されたコークスであり、小塊コークスは、塊コークスの粒径よりも小さい粒径を有するコークスであり、鉱石に混合されて使用される。
【0021】
(平均距離LRSについて)
平均距離LRSの考え方について以下に説明する。
【0022】
特殊原燃料では、基準となる粒子(以下、「基準粒子」という)の周囲に他の粒子(以下、「周囲粒子」という)が存在しているため、1個の基準粒子を含む単位ユニットに区画することができる。複数の単位ユニットの集合体が特殊原燃料となる。1つの単位ユニットは、1個の基準粒子と、この基準粒子を囲む複数の周囲粒子とによって構成される。
【0023】
含炭塊成鉱では、鉄鉱石中に炭材が分散しているため、基準粒子がカーボン粒子(炭材粒子)となり、周囲粒子が酸化鉄又は金属鉄からなる鉄系粒子となる。含炭塊成鉱に含まれるカーボン粒子及び鉄系粒子は、
図1に示すように分布しており、単位ユニットは、各カーボン粒子を中心とした区画線Lによって囲まれた領域(三次元領域)となる。ここで、区画線Lによって囲まれた三次元領域を球体近似すると、直径d
Uを有する単位ユニットが得られる。この単位ユニットでは、中心にカーボン粒子が位置し、カーボン粒子の周囲に鉄系粒子が存在する。
【0024】
含炭塊成鉱を球体近似した単位ユニットにおいて、カーボン粒子及び鉄系粒子のそれぞれを球体とみなし、カーボン粒子は直径(粒径)dRを有するものとする。カーボン粒子及び各鉄系粒子の間の距離LRS_nは、カーボン粒子の表面から各鉄系粒子の表面までの最短距離である。単位ユニットに含まれるすべての鉄系粒子についての距離LRS_nを平均化した値が平均距離LRSとなる。
【0025】
小塊コークスを鉱石に混合して使用する状態の鉱石層全体を、小塊コークスと鉱石の混合物と見なすと、
図1に示す含炭塊成鉱と同様に、カーボン粒子(コークス粒子)及び鉄系粒子(酸化鉄や金属鉄の粒子)が分布している。この混合物について、球体近似した単位ユニットは直径d
Uを有しており、直径(粒径)d
Rを有するカーボン粒子が単位ユニットの中心に位置しており、カーボン粒子の周囲に鉄系粒子が存在する。カーボン粒子及び各鉄系粒子の間の距離L
RS_nは、カーボン粒子の表面から各鉄系粒子の表面までの最短距離である。単位ユニットに含まれるすべての鉄系粒子についての距離L
RS_nを平均化した値が平均距離L
RSとなる。
【0026】
フェロコークスでは、
図2に示すように、コークス(カーボン基質)中に酸化鉄又は金属鉄からなる鉄系粒子が分散しているため、基準粒子が鉄系粒子となり、周囲がコークスとなる。ここで、周囲のコークスを区別することができないため、コークスを疑似的な粒子(カーボン粒子)として扱い周囲粒子とみなす。フェロコークスの単位ユニットは、鉄系粒子を中心として囲まれた領域(三次元領域)となる。ここで、鉄系粒子を中心として囲まれた三次元領域を球体近似すると、直径d
Uを有する単位ユニットが得られる。この単位ユニットでは、中心に鉄系粒子が位置し、鉄系粒子の周囲にコークス(疑似的なカーボン粒子)が存在する。
【0027】
フェロコークスを球体近似した単位ユニットにおいて、鉄系粒子及び疑似的なカーボン粒子のそれぞれを球体とみなし、鉄系粒子は直径(粒径)dRを有するものとする。鉄系粒子及び疑似的なカーボン粒子の間の距離LRS_nは、鉄系粒子の表面から疑似的な各カーボン粒子の表面までの最短距離である。単位ユニットに含まれるすべての疑似的なカーボン粒子についての距離LRS_nを平均化した値が平均距離LRSとなる。
【0028】
上述した平均距離LRSは、下記式(1),(2)から求められる。
【0029】
【0030】
上記式(1),(2)において、L
RSは平均距離[mm]、xは
図1,2で説明した距離L
RS_nを規定する方向におけるパラメータ、d
Uは単位ユニットの直径[mm]、d
Rは基準粒子の直径(粒径)[mm]、V
Rは、単位ユニットに含まれる基準粒子の体積[mm
3]、V
Sは、単位ユニットに含まれる周囲粒子の体積[mm
3]である。上記式(1),(2)は、基準粒子が特殊原燃料中で均一に分散していることを前提としている。
【0031】
含炭塊成鉱を用いる場合、含炭塊成鉱に含まれる炭材(カーボン粒子)の嵩比重[mg/mm3]及び質量[mg]に基づいて、基準粒子(カーボン粒子)の体積VRを求めることができる。また、含炭塊成鉱に含まれる鉱石(鉄系粒子)の嵩比重[mg/mm3]及び質量[mg]に基づいて、周囲粒子(鉄系粒子)の体積VSを求めることができる。直径dRとしては、カーボン粒子(炭材)のメジアン径とすることができる。上記式(2)によれば、体積VR,VS及び直径dRから直径dUを求めることができ、上記式(1)に基づいて、平均距離LRSを求めることができる。
【0032】
小塊コークスを用いる場合、含炭塊成鉱と同様に、鉱石に混合される小塊コークス(カーボン粒子)の嵩比重[mg/mm3]及び質量[mg]に基づいて、基準粒子(カーボン粒子)の体積VRを求めることができる。また、小塊コークスが混合される鉱石の嵩比重[mg/mm3]及び質量[mg]に基づいて、周囲粒子の体積VSを求めることができる。直径dRとしては、カーボン粒子(小塊コークス)のメジアン径とすることができる。上記式(2)によれば、体積VR,VS及び直径dRから直径dUを求めることができ、上記式(1)に基づいて、平均距離LRSを求めることができる。
【0033】
フェロコークスを用いる場合、フェロコークスに含まれる酸化鉄及び金属鉄の真比重[mg/mm3]及び質量[mg]に基づいて、基準粒子(鉄系粒子)の体積VRを求めることができる。また、フェロコークスに含まれるコークスの見掛比重[mg/mm3]及び質量[mg]に基づいて、周囲粒子(疑似的なカーボン粒子)の体積VSを求めることができる。直径dRとしては、フェロコークスの製造時に配合される微粉鉱石のメジアン径を用いても良いし、フェロコークス製造(乾留)時のフェロコークスの収縮を勘案したメジアン径を用いても良い。上記式(2)によれば、体積VR,VS及び直径dRから直径dUを求めることができ、上記式(1)に基づいて、平均距離LRSを求めることができる。
【0034】
(熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzについて)
平均距離LRS及び熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzの相関関係は、下記式(3)で表される。
【0035】
【0036】
上記式(3)において、ΔTtrzは熱保存帯温度の低下量[℃]、mはカーボン置換率[%]、LRSは平均距離[mm]、kはカーボン置換率が1%において平均距離LRSの対数と低下量ΔTtrzとを対応づける定数[-]である。定数kは、カーボン置換率mを変更しながら平均距離LRS及び低下量ΔTtrzの相関関係を確認することにより、予め求めておくことができる。以下に説明する実施例によれば、定数kを1.2[-]とすることができる。
【0037】
上記式(3)に示すように、平均距離LRSの対数(lоg(LRS))と、熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzとの間には、一次関数の相関関係が成り立つ。また、上記式(3)によれば、平均距離LRS及びカーボン置換率mを求めれば、低下量ΔTtrzを求めることができる。
【0038】
カーボン置換率mとは、特殊原燃料を使用する前の高炉操業(以下、「基準操業」という)で使用されるカーボンの総量に対して、装入される特殊原燃料に起因するカーボンの量の割合である。具体的には、カーボン置換率mは、下記式(4)から求めることができる。
【0039】
【0040】
上記式(4)において、mはカーボン置換率[%]である。上記式(4)の右辺の分子は、装入される特殊原燃料に起因するカーボンの量[kg/t]を示し、上記式(4)の右辺の分母は、基準操業で使用されるカーボンの総量[kg/t]を示す。CRは基準操業におけるコークス比[kg/t]、PCRは基準操業における微粉炭比[kg/t]、Ccは基準操業における通常コークスの炭素含有量[質量%]、Cpは基準操業における微粉炭の炭素含有量[質量%]である。RCAは高炉に装入される特殊原燃料の使用量[kg/t]、Crは高炉に装入される特殊原燃料の炭素含有量[質量%]である。コークス比CR及び微粉炭比PCRは、基準操業において求めておくことができる。炭素含有量Cc,Cpは、JIS M8813の規定に基づいて測定することができる。
【0041】
高炉に装入される特殊原燃料について、平均距離LRS及びカーボン置換率mを求めれば、上記式(3)から低下量ΔTtrzを求めることができる。本実施形態によれば、特許文献1,2のような試験を行うことなく、熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzを推定することができる。
【0042】
熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzを推定する上では、カーボン置換率mが15%以下であることが好ましい。カーボン置換率mが15%よりも高くなると、熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzが変化しにくくなり、上記式(3)の関係が成立しにくくなることがある。
【0043】
1種類の特殊原燃料を高炉に装入する場合には、上述したように、装入される特殊原燃料について平均距離LRSやカーボン置換率mを求めた後、上記式(3)に基づいて低下量ΔTtrzを求めることができる。一方、2種類以上の特殊原燃料を高炉に同時に装入する場合には、以下に説明するように熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzを求めることができる。
【0044】
まず、各特殊原燃料について平均距離LRS及びカーボン置換率mを求めた後、上記式(3)に基づいて低下量ΔTtrz(ここでは、「低下量ΔTtrz_n」とする)を求める。この低下量ΔTtrz_nは、各特殊原燃料に起因する熱保存帯温度Ttrzの低下量である。次に、すべての特殊原燃料に関する低下量ΔTtrz_nを合計した量を、2種類以上の特殊原燃料を高炉に装入したときの熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzとする。ここで、カーボン置換率mに関しては、すべての特殊原燃料に関するカーボン置換率mの合計が15%以下であることが好ましい。
【0045】
本実施形態のように熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzを推定することができれば、例えば、所望の低下量ΔTtrzを達成するための特殊原燃料の製造条件や装入条件を決めることができる。低下量ΔTtrzは、上記式(3)に示すように、平均距離LRSやカーボン置換率mに依存する。平均距離LRSは、上記式(1),(2)から分かるように、基準粒子の直径(粒径)dRや体積VRに依存するため、特殊原燃料の製造条件として、基準粒子の粒径dRや、体積VRを決定する基準粒子の配合量を決めることができる。また、カーボン置換率mは、上記式(4)から分かるように、特殊原燃料の装入量に依存するため、この装入量を装入条件として決めることができる。
【0046】
上述した所望の低下量ΔTtrzは、還元材比RARを考慮して決めることができる。熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzは、還元材比RARの低下量ΔRARに比例することが分かっているため、目標とする低下量ΔRARを決めれば、低下量ΔTtrz及び低下量ΔRARの相関関係に基づいて、低下量(目標)ΔRARに対応する低下量ΔTtrzを決めることができる。この低下量ΔTtrzは、上述した所望の低下量ΔTtrzとなる。
【実施例】
【0047】
基準粒子の直径(メジアン径)dRを異ならせたり、化学成分を異ならせたりした特殊原燃料を製造した。特殊原燃料としては、含炭塊成鉱(CCA)及びフェロコークス(FC)を用いた。
【0048】
含炭塊成鉱は、工業用ヘマタイト粉、炭材及び早強ポルトランドセメント(15質量%)を混合し、この混合物を押し出し成形機によって成形した後、養生することによって製造した。ここで、炭材(基準粒子)の粒径(メジアン径)dRや炭材(基準粒子)の配合量を異ならせることにより、6種類の含炭塊成鉱(CCA1~CCA6)を製造した。含炭塊成鉱(CCA1~CCA6)について、炭材の粒径(メジアン径)dRと含炭塊成鉱の化学成分は下記表1に示す。含炭塊成鉱の化学成分としては、カーボン含有率(T.C)及びトータル鉄含有率(T.Fe)がある。
【0049】
フェロコークスは、粉砕した石炭に鉄鉱石を所定量添加し、成形機を用いてブリケット状に成形した後、箱型乾留炉で乾留することによって製造した。ここで、鉄鉱石(基準粒子)の粒径(メジアン径)dRや鉄鉱石(基準粒子)の配合量を異ならせることにより、6種類のフェロコークス(FC1~FC6)を製造した。フェロコークス(FC1~FC6)について、鉄鉱石の粒径(メジアン径)dRとフェロコークスの化学成分は下記表1に示す。フェロコークスの化学成分としては、カーボン含有率(T.C)、トータル鉄含有率(T.Fe)、金属鉄含有率(M.Fe)及び酸化鉄含有率(FeO)がある。
【0050】
小塊コークスについては、粒径が9~13mmであるコークス(47[kg/t])を鉱石と均一に混合した。
【0051】
下記表1には、含炭塊成鉱(CCA1~CCA6)、フェロコークス(FC1~FC6)及び小塊コークスのそれぞれについて、上記式(1),(2)に示す、体積の比率VS/VR、単位ユニットの直径dU及び平均距離LRSの計算結果も示す。また、下記表1に示す基準条件は、含炭塊成鉱(CCA1~CCA6)やフェロコークス(FC1~FC6)を使用する前の基準となる条件である。基準条件における平均距離LRSは、通常操業において塊コークス層及び鉱石層を形成するときの条件に基づいて算出した。
【0052】
【0053】
含炭塊成鉱(CCA1~CCA6)、フェロコークス(FC1~FC6)や小塊コークスを用いてBIS炉試験を行い、熱保存帯温度Ttrzを測定した。熱保存帯温度Ttrzは、昇温速度が最小となる温度と定義した。BIS炉試験では、例えば、「鉄と鋼、87巻(2001)5号第357~364頁、「高反応性コークス使用による高炉内反応効率向上技術」」に記載されている装置を用いることができる。
【0054】
BIS炉試験において、含炭塊成鉱(CCA1~CCA6)及びフェロコークス(FC1~FC6)の粒径は8~13mmとした。熱保存帯温度Ttrzの各測定においては、装入チャージ1回当たりのカーボン含有率(T.C)及びトータル鉄含有率(T.Fe)が一定となるように、焼結鉱及び通常コークスの量をそれぞれ調整した。また、カーボン置換率mについては一定(10%)とした。
【0055】
送風温度が1178℃、湿分が18.6g/Nm3、酸素富化が2.7%である条件において、還元材比RARが481kg/tとなり、コークス比CRが349kg/tとなるように、ボッシュガス組成(CO:36.0%、H2:7.0%、N2:57.0%)及びボッシュガス量(1343Nm3/t)を設定した。Ore/Coke(O/C)は4.63とした。高炉内のアルカリ循環を考慮して、試薬KOHを、コークスの量に対して1.8%の量となるように添加した。
【0056】
2種類の特殊原燃料を同時に使用したときの熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzを検証するために、含炭塊成鉱(CCA3)及びフェロコークス(FC2)を混合した条件において、BIS炉試験によって熱保存帯温度Ttrzを測定した。ここで、含炭塊成鉱(CCA3)単独のカーボン置換率mと、フェロコークス(FC2)単独のカーボン置換率mとを等しくするとともに、これらのカーボン置換率mの合計を10%とした。
【0057】
熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzに対するカーボン置換率mの影響を検証するために、含炭塊成鉱(CCA3)の使用量を異ならせることにより、カーボン置換率mを5,15,20%に設定した。カーボン置換率mが異なる条件において、BIS炉試験において熱保存帯温度Ttrzを測定した。
【0058】
上述したBIS炉試験の結果を下記表2に示す。下記表2に示す低下量ΔTtrzは、各特殊原燃料を用いたときの熱保存帯温度Ttrzから、基準条件の熱保存帯温度Ttrz(1000℃)を減算した値である。なお、含炭塊成鉱(CCA3)及びフェロコークス(FC2)を混合した条件(「CCA+FC」)について、含炭塊成鉱(CCA3)の低下量ΔTtrzと、フェロコークス(FC2)の低下量ΔTtrzは、上記式(3)から求められた値を参考として示している。
【0059】
【0060】
図3は、上記表1に示す平均距離L
RSと、上記表2に示す熱保存帯温度T
trzの低下量ΔT
trzとの関係を示す。
【0061】
図3から分かるように、カーボン置換率mが10%であるとき、熱保存帯温度T
trzの低下量ΔT
trzは、特殊原燃料の種類にかかわらず、平均距離L
RSの対数(lоg(L
RS))と相関関係(一次関数)があることが分かった。ここで、
図3に示す直線(一次関数)LRは、下記式(5)で表される。
【0062】
【0063】
含炭塊成鉱(CCA3)及びフェロコークス(FC2)を混合した条件(「CCA+FC」)について、上記式(5)に基づいて、含炭塊成鉱(CCA3)及びフェロコークス(FC2)のそれぞれについて低下量ΔTtrzを求めたところ、上記表2のカッコ内に示す値(CCA:‐21[℃],FC6;‐16[℃])となった。これらの低下量ΔTtrzを合計した値は、BIS炉試験から測定された低下量ΔTtrzと一致した。このことから、2種類以上の特殊原燃料を高炉に同時に装入する場合には、各特殊原燃料に関する低下量ΔTtrz_nを合計すれば、2種類以上の特殊原燃料を高炉に装入したときの熱保存帯温度Ttrzの低下量ΔTtrzを推定できることが分かる。
【0064】
含炭塊成鉱(CCA3)について、カーボン置換率mを5,10,15,20[%]に変更したところ、
図3に示すように、熱保存帯温度T
trzの低下量ΔT
trzが変化した。このことから、低下量ΔT
trzはカーボン置換率mに依存することが分かる。ここで、
図3から分かるように、カーボン置換率mが5%、10%、15%と変化することに応じて、低下量ΔT
trzが段階的に低下したが、カーボン置換率mが15,20%では、低下量ΔT
trzがほとんど変化しなかった。このことから、含炭塊成鉱(CCA3)については、カーボン置換率mが15%以下であることを条件として、低下量ΔT
trzを推定することが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
L:区画線、dU:単位ユニットの直径、dR:基準粒子の直径(粒径)、
LRS_n:基準粒子及び周囲粒子の間の距離