(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】被還元性評価方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20250402BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20250402BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20250402BHJP
【FI】
C22B1/16 Q
C21B5/00 302
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2021048574
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】高山 透
(72)【発明者】
【氏名】山田 悟司
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-324929(JP,A)
【文献】特開2015-068755(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0028552(KR,A)
【文献】特開昭61-217534(JP,A)
【文献】特開昭52-119403(JP,A)
【文献】特開2019-082388(JP,A)
【文献】特開昭61-110729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/16
C21B 5/00
G01N 23/046
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被還元性を有する材料の被還元性を評価する方法であって、
前記材料の三次元形状を表すX線CT画像を取得する画像取得ステップと、
前記X線CT画像のグレースケール画像から、前記材料において気孔が存在する領域である気孔領域を識別し、前記気孔領域の体積分率である気孔率を算出する気孔率算出ステップと、
前記気孔率に基づき、前記材料の被還元性を評価する被還元性評価ステップと、
を含み、
前記気孔率算出ステップでは、前記材料の外部と繋がっている気孔領域である開気孔領域のみを識別し、当該開気孔領域の体積分率である開気孔率を、前記気孔率とする、被還元性評価方法。
【請求項2】
前記気孔率算出ステップでは、前記グレースケール画像に対してClosing処理を施し、予め定めた最大気孔径以下の気孔径を有する部位を、前記開気孔領域として識別する、請求項1に記載の被還元性評価方法。
【請求項3】
前記気孔率算出ステップでは、前記グレースケール画像に対してAmbient Occlusion処理を施し、予め定めた範囲内の画素値を有する部位を、前記開気孔領域として識別する、請求項1に記載の被還元性評価方法。
【請求項4】
前記被還元性評価ステップでは、共通する処理条件に基づき算出された前記気孔率のデータ群と比較することで、前記材料の被還元性を評価する、請求項1~3の何れか1項に記載の被還元性評価方法。
【請求項5】
前記被還元性評価ステップでは、予め求めた前記気孔率と前記材料の還元率との関係式に基づき、前記気孔率算出ステップで算出された前記気孔率から、着目する前記材料の前記還元率を算出する、請求項1~4の何れか1項に記載の被還元性評価方法。
【請求項6】
前記材料は、鉄鉱石、鉄鉱石ペレット、又は、焼結鉱である、請求項1~5の何れか1項に記載の被還元性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被還元性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料の品質を評価するにあたって、かかる多孔質材料が有する気孔についての情報は、重要な項目の一つである。特に、着目する多孔質材料の反応のしやすさを考える場合、反応させる物質との接触面積の大きさが重要となる。そのため、多孔質材料における気孔の存在割合である気孔率を測定するために、従来様々な方法が提案されている。
【0003】
従来実施されている、多孔質材料における気孔率の測定方法として、るJIS K2151:2004に準じたいわゆる「水法」や、真空包装器を用いた「PAC法」(笠間ら、鉄と鋼、83(1997)p.109-114)がある。しかしながら、これらの測定方法は、試料粉砕を行う必要があるために、同様の状態の試料を複数得ることが可能なものに対してしか、適用することができなかった。不均一性の高い多孔質材料の場合、同様の状態の試料を複数得ることが困難であることから、「水法」や「PAC法」で気孔率を算出できたとしても、得られた気孔率と被還元性等の反応性との相関には誤差が多く重畳していると考えられる。そのため、不均一性の高い多孔質材料であっても、気孔率と被還元性等の反応性との相関における誤差が抑えられる気孔率の測定方法が希求されてきた。
【0004】
かかる観点から、例えば以下の特許文献1には、材料を破壊することなく、材料の三次元形状を表す画像を取得可能なX線CT測定を利用して、多孔質材料の気孔率を測定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に提案されている方法を用いたとしても、気孔率の測定誤差については、未だ改善の余地があり、より精度よく気孔率を測定可能な方法が希求されている。
【0007】
一方、鉄鋼業において鉄鉱石の還元に用いられる焼結鉱は、被還元性を有する多孔質材料であるが、かかる焼結鉱は不均一性が高い材料であるが故に、還元試験を行うことなく焼結鉱の被還元性を精度よく評価可能な方法は、未だ確立されていない状況にある。
【0008】
このような状況のもと、本発明者らは、被還元性を有する多孔質材料の気孔率をより精度よく測定できれば、かかる材料の被還元性について正確に評価できるのではないかという着想を得た。
【0009】
そこで、本発明は、上記着想に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被還元性を有する材料の被還元性を、還元試験を行うことなく精度よく評価することが可能な、被還元性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記着想を元に更なる検討を重ねた結果、被還元性に寄与する気孔のみを識別し、かかる気孔に基づく気孔率を用いることで、着目する材料の被還元性を、還元試験を行うことなく精度よく評価可能であることを知見した。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1)被還元性を有する材料の被還元性を評価する方法であって、前記材料の三次元形状を表すX線CT画像を取得する画像取得ステップと、前記X線CT画像のグレースケール画像から、前記材料において気孔が存在する領域である気孔領域を識別し、前記気孔領域の体積分率である気孔率を算出する気孔率算出ステップと、前記気孔率に基づき、前記材料の被還元性を評価する被還元性評価ステップと、を含み、前記気孔率算出ステップでは、前記材料の外部と繋がっている気孔領域である開気孔領域のみを識別し、当該開気孔領域の体積分率である開気孔率を、前記気孔率とする、被還元性評価方法。
(2)前記気孔率算出ステップでは、前記グレースケール画像に対してClosing処理を施し、予め定めた最大気孔径以下の気孔径を有する部位を、前記開気孔領域として識別する、(1)に記載の被還元性評価方法。
(3)前記気孔率算出ステップでは、前記グレースケール画像に対してAmbient Occlusion処理を施し、予め定めた範囲内の画素値を有する部位を、前記開気孔領域として識別する、(1)に記載の被還元性評価方法。
(4)前記被還元性評価ステップでは、共通する処理条件に基づき算出された前記気孔率のデータ群と比較することで、前記材料の被還元性を評価する、(1)~(3)の何れか1つに記載の被還元性評価方法。
(5)前記被還元性評価ステップでは、予め求めた前記気孔率と前記材料の還元率との関係式に基づき、前記気孔率算出ステップで算出された前記気孔率から、着目する前記材料の前記還元率を算出する、(1)~(4)の何れか1つに記載の被還元性評価方法。
(6)前記材料は、鉄鉱石、鉄鉱石ペレット、又は、焼結鉱である、(1)~(5)の何れか1つに記載の被還元性評価方法。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、被還元性を有する材料の被還元性を、還元試験を行うことなく精度よく評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る被還元性評価方法の流れの一例を示した流れ図である。
【
図2】同実施形態に係る気孔率算出ステップの流れの一例を示した流れ図である。
【
図3】X線CT画像のグレースケール画像に対して実施する閉気孔領域除外処理について説明するための説明図である。
【
図4】同実施形態に係る気孔率算出ステップで実施されるClosing処理について説明するための説明図である。
【
図5】同実施形態に係る気孔率算出ステップで実施されるAmbient Occlusion処理について説明するための説明図である。
【
図6】気孔率と還元率との相関性を模式的に示した説明図である。
【
図7】モデル焼結タブレット試料を用いた検証結果を示した表である。
【
図8A】モデル焼結タブレット試料を用いた検証結果を示したグラフ図である。
【
図8B】モデル焼結タブレット試料を用いた検証結果を示したグラフ図である。
【
図10】焼結鉱を用いた検証結果を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
(被還元性評価方法について)
以下では、
図1~
図6を参照しながら、本発明の実施形態に係る被還元性評価方法について、詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る被還元性評価方法の流れの一例を示した流れ図である。
本実施形態に係る被還元性評価方法は、被還元性を有する材料に着目し、かかる材料の被還元性を評価する方法である。
【0017】
<対象となる材料について>
ここで、被還元性を有する材料(以下、単に「材料」と称することがある。)としては、特に限定されるものではなく、還元材として用いられる各種の多孔質材料に対して、本実施形態に係る被還元性評価方法を適用することが可能である。本実施形態に係る被還元性評価方法は、同様の状態の試料を複数得ることが困難な、不均一性の高い多孔質材料について着目する場合に、特に有用である。このような不均一性の高い多孔質材料として、例えば、製鉄プロセスで用いられる鉄鉱石、鉄鉱石ペレット、焼結鉱等を挙げることができる。ここで、鉄鉱石ペレットとは、微粉となった状態の鉄鉱石(微粉鉱石)に対し、水と副原料(石灰石、ドロマイトなど)、必要により更にバインダ(ベントナイトなど)を加えて、直径10~30mmの球状にし、焼き固めたものである。製鉄プロセスで使用される鉄源の大部分を占める焼結鉱は、その化学成分として、Fe2O3、CaCO3、AlOOH、SiO2等を主成分とし、更に不純物を含有するものであり、被還元性を有する素材である。また、着目する材料の大きさは、特に限定されるものではないが、例えば、直径10~20mm程度の大きさであることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る被還元性評価方法は、
図1に示したように、画像取得ステップS11と、気孔率算出ステップS13と、被還元性評価ステップS15と、を有している。
【0019】
<画像取得ステップS11>
画像取得ステップS11は、着目する材料の三次元形状を表すX線CT画像を取得するステップである。
【0020】
ここで、X線CT画像は、着目するサンプルを透過したX線の強度を検出することで得られる画像である。そのため、かかるX線CT画像は、サンプルの表面形状だけでなく、サンプルの内部の様子も含めた三次元構造を反映した画素値を有している。すなわち、仮に全く同一の外形を有するサンプルが2つ存在し、一方のサンプルは中実であり、他方のサンプルは内部に気泡を含むものであったとする。この場合に、2つのサンプルのX線CT画像を取得すると、中実のサンプルから得られるX線CT画像と、気泡を含むサンプルから得られるX線CT画像とは、サンプルの外形は同一なものとなっても、各画像を構成する画素値は、互いに異なる値を有することとなる。
【0021】
このようなX線CT画像を取得するための画像取得装置としては、例えば上記特許文献1に開示されているようなX線CT装置を用いることが可能である。
【0022】
なお、本発明が測定対象とする気孔は、用いるX線CT装置の解像度等にも依存するが、概ね5μm~数mmの範囲の大きさであり、比較的粗大な気孔である。
【0023】
<気孔率算出ステップS13>
気孔率算出ステップS13は、各種のコンピュータやサーバ等の情報処理装置を用いて、各種の画像解析アプリケーション(例えば、3D可視化・解析アプリケーションAvizo等)により実施されるステップである。気孔率算出ステップS13は、画像取得ステップS11で取得したX線CT画像のグレースケール画像から、着目する材料において気孔が存在する領域である気孔領域を識別し、かかる気孔領域の体積分率である気孔率を算出するステップである。より詳細には、かかる気孔率算出ステップS13では、材料の外部と繋がっている気孔領域である開気孔領域のみを識別し、当該開気孔領域の体積分率である開気孔率を、気孔率とする。
【0024】
被還元性を有する材料の被還元性を評価するにあたって、被還元性に寄与するのは、還元反応が進行するための原料(例えば、焼結鉱の場合、COガス)が外部から侵入しうる、材料の外部に繋がっている気孔であると考えられる。そのため、材料の内部だけで閉じている気孔は、外部と繋がっている気孔と比較して、還元反応に寄与する割合は低いと考えられる。従って、材料の被還元性を適切に評価するためには、材料に存在しうる2種類の気孔(すなわち、外部に繋がっている気孔と、内部だけで閉じている気孔)のうち、外部に繋がっている気孔のみを識別することが重要であることに想到した。
【0025】
以下では、外部に繋がっている気孔を「開気孔」と称することとし、内部だけで閉じている気孔を「閉気孔」と称することとする。また、着目する材料において、「開気孔」が存在する領域を、「開気孔領域」と称することとし、「閉気孔」が存在する領域を、「閉気孔領域」と称することとする。
【0026】
本実施形態に係る気孔率算出ステップS13では、上記のような開気孔領域のみを、X線CT画像のグレースケール画像に対して、特定の画像処理を施すことにより識別する。
【0027】
以下では、
図2~
図5を参照しながら、本実施形態に係る気孔率算出ステップS13について、詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る気孔率算出ステップの流れの一例を示した流れ図である。
図3は、X線CT画像のグレースケール画像に対して実施する閉気孔領域除外処理について説明するための説明図である。
図4は、本実施形態に係る気孔率算出ステップで実施されるClosing処理について説明するための説明図である。
図5は、本実施形態に係る気孔率算出ステップで実施されるAmbient Occlusion処理について説明するための説明図である。
【0028】
図2に示したように、本実施形態に係る気孔率算出ステップS13は、X線CT画像のグレースケール画像から、閉気孔領域を除外する閉気孔領域除外ステップS101と、閉気孔領域を除外後のグレースケール画像にClosing処理又はAmbient Occlusion処理を施して、開気孔領域を識別する開気孔領域識別ステップS103と、開気孔領域の体積分率である開気孔率を算出して、気孔率とする開気孔率算出ステップS105と、を有している。なお、以下で説明する閉気孔領域除外ステップS101は、開気孔領域識別ステップS103の後に実施してもよい。
【0029】
以下、
図3~
図5を参照しながら、具体的に説明する。
図3~
図5では、材料の一例としての焼結鉱について、図示している。なお、
図3~
図5では、図面作成上の都合から、便宜的に、X線CT画像のグレースケール画像の断面画像を示している。しかしながら、実際の処理は、三次元形状を表したX線CT画像のグレースケール画像に対して実施される。
【0030】
[閉気孔領域除外ステップS101]
閉気孔領域除外ステップS101は、X線CT画像のグレースケール画像に対して各種の処理を施して、着目するX線CT画像のグレースケール画像から、閉気孔領域を除外するステップである。
図3(a)に示したように、処理が施される前のX線CT画像のグレースケール画像には、開気孔又は閉気孔の候補となる凹部が存在している。
図3(a)に示した例では、便宜的に断面画像を示しているため、このような開気孔又は閉気孔の候補となる凹部は、孔として存在している。閉気孔領域除外ステップS101では、このような開気孔又は閉気孔の候補となる領域から、閉気孔領域に対応する部分を除外する。
【0031】
具体的には、まず、
図3(b)に示したように、グレースケール画像を構成する各画素の画素値を閾値判断することで、着目する材料の外形に対応する縁部を特定する。これにより、グレースケール画像において材料が占める領域(以下、「基材領域」ともいう。)を特定することができる。
【0032】
続いて、
図3(b)に示したような画像に対して、閉気孔領域を特定する処理を実施する。このような処理としては、特に限定されるものではなく、例えば、3D可視化・解析アプリケーションAvizoの「Fill Hole」機能を用いることで、閉気孔領域を除外(より詳細には、閉気孔領域に対応する部分を消去)することができる。また、かかる方法に限定されるものではなく、例えば、気孔の連結構造を実際に解析することで閉気孔領域を特定して、グレースケール画像中から除外することも可能である。このような処理により、
図3(c)に示したような、閉気孔領域を除去した画像を得ることができる。なお、
図3(c)では閉気孔が残存しているように見えるかもしれないが、これは2次元で表示しているからであり、3次元でみると開気孔のみが存在していることが確認できている。
【0033】
[開気孔領域識別ステップS103]
以上説明したような閉気孔領域除外処理が施された後のグレースケール画像に対して、開気孔領域識別ステップS103が行われる。開気孔領域識別ステップS103は、閉気孔領域を除外後のグレースケール画像にClosing処理又はAmbient Occlusion処理を施して、開気孔領域を識別するステップである。
【0034】
ここで、Closing処理は、着目する画像に対して、膨張(Dilation)処理を施した後、圧縮(Erosion)処理を施す画像処理手法である。また、Ambient Occlusion処理は、着目する画像に対してあらゆる方向から光を当てることを想定し、光を当てることで発生する陰影の情報を加味した画像を新たに生成する画像処理手法である。本実施形態に係る開気孔領域識別ステップS103では、これらClosing処理又はAmbient Occlusion処理により、閉気孔領域除外処理後のグレースケール画像に存在する開気孔領域を、識別する。
【0035】
≪Closing処理≫
まず、
図4を参照しながら、Closing処理を用いた開気孔領域の識別処理について、具体的に説明する。
Closing処理は、上記のように、着目する画像を一旦所定の大きさだけ膨張させた後、所定の大きさだけ圧縮させる処理である。いま、
図4(a)に例示したように、画像中にある大きさの孔部が存在する場合を考える。かかる孔部に対してClosing処理を行うと、膨張・圧縮させる大きさ(この大きさのことを、以下では、「カーネルサイズ」と称する。)に応じて、元来画像中に存在した孔部が、膨張・圧縮後に孔部として再現される場合と、再現されない場合とが発生することがわかる。従って、Closing処理により開気孔領域を識別する場合、このカーネルサイズをどのように設定するかが重要となる。
【0036】
いま、
図4(a)に示した画像において、破線で囲った領域以下の大きさを有する孔部を、開気孔として識別したいと想定する。この場合に、
図4(a)に破線で囲った領域の最大距離を特定する。また、画像を構成する画素の大きさ(ピクセルサイズ)が、開気孔領域を識別する際の空間分解能を与える。
図4(a)における最大距離が4mmであり、ピクセルサイズが23μm/pixelであったとすると、カーネルサイズは、4mm/(23μm/pixel×2)=87pixelとなる。ここで、左記の計算でピクセルサイズを2倍しているのは、膨張の際に、破線で囲った領域の両側の端部から、膨張が生じるからである。カーネルサイズを87pixel以上に設定することで、直径4mm以下の孔部は、膨張・圧縮後に孔部として再現されるようになる。以上のように、開気孔領域の識別を行う際には、識別したい最大の大きさ(いわば、最大気孔径)を、着目する材料についての事前の検証により予め把握しておき、X線CT画像のグレースケール画像のピクセルサイズに応じて、上記のような計算により、カーネルサイズの最小値を決定すればよい。もし上記の把握が困難であれば、試料半径の1/2を最大気孔径として、計算してもよい。
【0037】
本発明者らによる検証によれば、直径10~20mmの鉄鉱石、鉄鉱石ペレット、焼結鉱の解析を行う場合、カーネルサイズを30pixel以上に設定しておけば、所望の最大気孔径に応じて十分な解析を行うことが可能であった。ただし、かかるカーネルサイズは、大きな値に設定することが好ましく、例えば100pixel程度の値に設定することが好ましい。また、このようなカーネルサイズ及びピクセルサイズは、評価を行っている途中では変更しないことが好ましい。これにより、より正確な気孔率の算出が可能となり、ひいてはより正確な被還元性の評価が可能となる。
【0038】
このように、Closing処理では、まず、
図4(a)に示したような処理条件の設定が行われる。なお、かかる処理条件は、共通の処理条件を適用可能なサンプルを解析する際には、一度実施してしまえばよく、解析ごとに変更しなくともよい。
【0039】
このようにして処理条件が設定されると、処理対象とする画像(すなわち、閉気孔領域が除去された画像)に対して、設定したカーネルサイズによる膨張及び圧縮処理が行われる。
図4(a)に示した画像に対して、カーネルサイズ100pixelのClosing処理を施した結果を、
図4(b)に示した。かかるカーネルサイズの設定により、直径約4mmまでの孔部が、処理後に孔部として再現されるようになる。その後、
図4(a)に示した画像から、
図4(b)に示した画像を引くことで、
図4(c)に示したように開気孔領域を識別することができる。
【0040】
≪Ambient Occlusion処理≫
続いて、
図5を参照しながら、Ambient Occlusion処理を用いた開気孔領域の識別処理について、具体的に説明する。
Ambient Occlusion処理は、上記のように、着目する画像に対してあらゆる方向から光を当てることを想定し、光を当てることで発生する陰影の情報を加味した画像を新たに生成する画像処理である。いま、
図3(c)に示した閉気孔領域が除外された画像に対して、Ambient Occlusion処理を施すことで得られた画像を、
図5(a)に示した。
図5(a)に例示したように、かかる処理によって、画像中には、着目している対象の形状に起因した、光が当たることによって生じる陰影が加味される。
【0041】
かかるAmbient Occlusion処理において、主な処理条件は、仮想的に配置される光源までの最大距離(Maximum Distance)と、光源の個数(Number of Rays)がある。かかる処理条件は、着目する材料の大きさや形状等に応じて適宜設定すればよいが、両者とも、良い精度を得るためになるべく大きな値に設定する方が好ましい。本発明者らによる検証の結果、例えば、Maximum Distanceは、34.8437mmに設定すれば、良好な精度を得ることができる。また、Number of Raysは、6以上に設定すれば、開気孔領域を良好に識別することができたが、例えば50程度の値に設定することが好ましいことがわかった。
【0042】
また、Ambient Occlusion処理において設定可能な他の処理条件としては、例えば、Number of random rotationsや、Smoothing kernel radiusがある。本発明者らによる検証の結果、Number of random rotationsの値は、0に設定してもよいが、大きな値に設定する方が、より精度の高い処理を行うことが可能であることが判明した。Number of random rotationsの値は、例えば100程度に設定することが好ましい。また、Smoothing kernel radiusの値については、1以上の値(例えば、2程度)に設定すればよいことが判明した。
【0043】
例えば以上のような条件を設定して処理を行うことで、
図5(a)に示したような画像を得ることが可能となる。
【0044】
その後、得られた画像を構成する各画素について、その画素値を閾値判断することで、開気孔領域を識別することができる。例えば、各画素に対して、0以上1以下の値が画素値として付与されている場合に、鉄鉱石、鉄鉱石ペレット、焼結鉱に存在する開気孔領域を識別するためには、画素値の最小値を0.60~0.85の範囲になるように設定し、かつ、最大値を1に設定すればよいことが明らかとなった。このようにして識別された領域が、開気孔領域となる。
図5(a)で得られた画像に対して、上記のような閾値判断をすることで得られた開気孔領域を、
図5(b)に示した。
【0045】
なお、上記のような処理条件は、評価を行っている途中では変更しないことが好ましい。これにより、より正確な気孔率の算出が可能となり、ひいてはより正確な被還元性の評価が可能となる。また、かかる処理条件は、共通の処理条件を適用可能なサンプルを解析する際には、一度実施してしまえばよく、解析ごとに変更しなくともよい。
【0046】
以上のようにして、本実施形態に係る開気孔領域識別ステップS103では、前処理が施されたグレースケール画像から、開気孔領域を識別する。
【0047】
[開気孔率算出ステップS105]
以上のようにして、X線CT画像のグレースケール画像から開気孔領域が識別されると、かかる開気孔領域の体積を特定することができる。かかる体積は、解析に用いたアプリケーションの一機能を利用することで特定することも可能であるし、特定した開気孔領域の連結構造を解析することで特定することも可能である。また、開気孔領域の体積と同様に、着目するグレースケール画像について、基材領域の体積も特定する。この基材領域の体積は、本実施形態においては、例えば
図3(b)の体積に対応している。この場合は、同様に、閉気孔領域の体積も特定する必要がある。
図3(c)の体積は、基材体積と閉気孔領域の体積の合計値であるため、かかる合計値を使用する。これら3つあるいは2つの体積を特定することで、以下の式に基づき、開気孔領域の体積分率である開気孔率を算出することができる。本実施形態に係る被還元性評価方法では、このようにして得られた開気孔率を、着目している材料における気孔領域の体積分率である気孔率として取り扱う。
【0048】
開気孔率[%]={開気孔領域の体積/(基材領域の体積+開気孔領域の体積+閉気孔領域の体積)}×100
【0049】
以上、本実施形態に係る気孔率算出ステップS13について、詳細に説明した。
【0050】
<被還元性評価ステップS15>
被還元性評価ステップS15は、各種のコンピュータやサーバ等の情報処理装置により実施されてもよいし、着目する材料の生産管理者等の人間が実施してもよい。本実施形態に係る被還元性評価ステップS15は、気孔率算出ステップS13にて算出された気孔率に基づき、着目している材料の被還元性を評価するステップである。
【0051】
図6は、気孔率と還元率との相関性を模式的に示した説明図である。
図6に模式的に示し、また、以下で改めて具体例を挙げながら示すように、被還元性を有する材料が示す気孔率と、かかる材料の被還元性(例えば、JIS M8719:2009に規定される還元試験法(JIS-RI)で得られる、還元率)とは、高い相関があることが明らかとなった。このような気孔率(より詳細には、気孔率として取り扱われている開気孔率)と還元率との相関性に基づき、着目している材料の気孔率から、その被還元性を評価することができる。
【0052】
ここで、かかる評価は、得られた気孔率から、「被還元性は悪い/中程度である/良い」のような、定性的な評価を行うものであってもよい。また、
図6に例示したような相関性を表す直線の式(すなわち、いわゆる検量線)を用いて、得られた気孔率から還元率の具体的な値を算出するといった、定量的な評価を行うものであってもよい。ただし、被還元性が高い領域になるほど(およそ85%以上)、開気孔率と被還元性との関係は、対数関数に近い傾向になる。このように、いわゆる検量線は直線である必要はなく、相関性を適切に表現可能な曲線又は直線を設定すればよい。
【0053】
ここで、材料の被還元性を評価する際には、共通する処理条件に基づき算出された気孔率のデータ群と比較することが好ましい。具体的には、例えばClosing処理に基づき算出された気孔率に基づき評価を行う際には、共通する処理条件で実施されたClosing処理から得られた気孔率のデータ群(例えば、
図6に示したようなデータ群)と比較を行うことが好ましい。このようにして評価を行うことで、着目する材料の被還元性を、より正確に評価することが可能である。
【0054】
このような処理を行うことにより、着目している材料の被還元性を適切に評価することが可能となる。
【0055】
以上、本実施形態に係る被還元性評価方法について、詳細に説明した。
【0056】
(被還元性評価方法の具体例1-モデル焼結タブレット試料の評価)
以下では、標準試薬のFe2O3、CaCO3、AlOOH、SiO2を混合し、更に、ポリエチレン球を添加して、錠剤型(直径13mm×高さ7mm)に成型し、最大温度1300℃で焼成することで、焼結鉱を模擬したモデル焼結タブレット試料を製造した。モデル焼結鉱タブレット試料は、添加したポリエチレン球のサイズと添加量を調整することで、得られるモデル焼結鉱タブレット試料の気孔率や気孔形状を調整することが可能である。用いたポリエチレン球の平均粒径は、直径20μmと直径1mmの2種類である。かかるポリエチレン球は、最大温度1300℃の焼成により消失して、気孔となる。なお、上記標準試薬の組成は一定としたため、得られるモデル焼結タブレット試薬の被還元性の違いは、かかるポリエチレン球に由来する気孔構造の違いとみなすことができる。
【0057】
本検証例では、気孔を制御した10水準のモデル焼結タブレット試料を、それぞれ4個ずつ製造した。その後、本実施形態に係るX線CT画像を用いた被還元性評価方法、水法、PAC法、還元率測定にそれぞれ使用した。なお、水法は、JIS K2141:2004に準じて実施し、PAC法は、鉄と鋼、83(1997)p.109-114に記載された方法に則して実施した。また、還元率は、JIS M8719:2009に規定される還元試験法(JIS-RI)に則して、900℃・180分の還元を行うことで測定した。
【0058】
図7に、本実施形態にかかるX線CT画像を用いた被還元性評価方法から得られた開気孔率(Ambient Occlusion法を使用した。)と、比較のために求めた閉気孔率と、水法及びPAC法で求めた気孔率と、還元試験法から得られた還元率と、をあわせて示した。また、
図7に示した結果を図示したものが、
図8A及び
図8Bである。
【0059】
図8Aに示したように、X線CT画像のグレースケール画像から求めた開気孔率と還元率との関係は、R
2値が0.8735となった一方で、閉気孔率と還元率との関係は、R
2値が0.3508となった。かかる結果より、被還元性に寄与する気孔は、閉気孔ではなく開気孔であることが確認できた。
【0060】
図8Bを見ると、水法で得られた気孔率と還元率との関係は、R
2値が0.8696となり、PAC法で得られた気孔率と還元率との関係は、R
2値が0.7291となった。かかる結果より、X線CT画像のグレースケール画像から求めた開気孔率と還元率との関係は、水法及びPAC法により求めた気孔率よりも、還元率との相関が高いことが確認できた。
【0061】
また、
図8Bより、水法及びPAC法で求めた気孔率は、全体でみると相関は高いものの、還元率60~80%の範囲では値にバラつきが見られ、「気孔率が高いほど還元率が高い」という傾向が得られていない。一方、
図8Aから明らかなように、開気孔率を用いた場合には、上記還元率60~80%の範囲においても、良い相関が得られていることがわかる。以上の結果から、X線CT画像のグレースケール画像から開気孔率を用いることで、試料の900℃還元性を高精度に評価できることが確認できた。
【0062】
(被還元性評価方法の具体例2-焼結鉱の評価)
本検証例では、実際の焼結鍋試験で焼成した焼結鉱の中から、直径20mmの焼結鉱粒を3粒採取して、サンプルとした。採取したサンプルをX線CT装置で測定し、本実施形態に係る被還元性評価方法に基づき開気孔率を求めるとともに、JIS M8719:2009に規定される還元試験法(JIS-RI)に則して、900℃・180分の還元を行うことで、還元率を測定した。
【0063】
得られた結果を、
図9及び
図10に示した。
図10より、実際の焼結鉱においても、開気孔率と還元率とは、極めて高い相関が得られていることがわかる。また、
図10に示した結果から検量線の式を求めると、(還元率[%])=49.385×(開気孔率[%])+55.788という式を得ることができた。かかる検量線を用いることで、他の還元率が未知の焼結鉱であっても、本実施形態に係る被還元性評価方法により開気孔率を測定することで、還元率を精度よく推定可能であることが期待される。
【0064】
以上、
図8A~
図10を参照しながら、本実施形態に係る被還元性評価方法について、具体的に説明した。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。