(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 37/26 20120101AFI20250402BHJP
B24B 37/013 20120101ALI20250402BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250402BHJP
【FI】
B24B37/26
B24B37/013
H01L21/304 622S
(21)【出願番号】P 2021054201
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2024-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】関谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】糸山 光紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-001652(JP,A)
【文献】特表2010-536583(JP,A)
【文献】特開2010-36305(JP,A)
【文献】特開2007-118106(JP,A)
【文献】特表2005-506682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨する研磨面を有する研磨層と、この研磨層に設けられるとともに終点検出手段から照射された検査光を透過させて研磨加工の終点を検出するための終点検出用窓とを備え、
上記研磨面が被研磨物に対して相対的に回転しながら、研磨面と被研磨物との間にスラリーを介在させた状態で被研磨物の研磨を行う研磨パッドにおいて、
上記終点検出用窓に対して研磨パッドの回転方向前方および後方に近接した位置に、上記回転方向に対して交差する方向に
一対のバリア溝を設け、当該バリア溝に被研磨物側に向けて広がるテーパ形状を設けたことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
上記研磨面に同心円状の環状溝を複数形成し、
当該環状溝のうち、上記終点検出用窓と同じ半径位置に形成された環状溝を、両端部が上記バリア溝に接続された有端状の溝とすることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
上記バリア溝を、上記終点検出用窓に対して半径方向外側または内側の少なくともいずれか一方に隣接する無端状の環状溝まで延長したことを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関し、より詳しくは、研磨加工の終点を検出するための透明な終点検出用窓を備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研磨加工の終点を検出するための透明な終点検出用窓を備えた研磨パッドは公知であり、このような研磨パッドとして、終点検出用窓の表面を研磨面と同じ高さに形成したものが知られている(例えば特許文献1参照)。
ここで、上記研磨パッドを用いて被研磨物の研磨を行う際には研磨パッドと被研磨物との間に液状のスラリーを供給するが、研磨によって発生した研磨屑等がスラリーとともに上記終点検出用窓と被研磨物との間に入り込むと、終点検出用窓を透過する検査光が研磨屑等によって遮られるため、終点検出精度を低下させる恐れがある。
そこで特許文献1では、研磨パッドの研磨面に同心円状の環状溝を複数形成し、このうち上記終点検出用窓と同じ半径位置の環状溝については、上記終点検出用窓に近接した位置に端部を形成して、上記終点検出用窓の周囲に平坦なバリア域を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記研磨パッドによって被研磨物を研磨する際、研磨パッドを回転させながら研磨を行うため、上記特許文献1の研磨パッドにおける上記終点検出用窓と同じ半径位置の環状溝には、研磨パッドの回転によって回転方向後方の端部に研磨屑がたまることとなる。
そして、この環状溝の端部は終点検出用窓の回転方向前方に位置していることから、研磨屑が当該環状溝の端部から排出されてしまうと、上記バリア域を越えて終点検出用窓と被研磨物との間に入り込んでしまい、終点検出精度を低下させてしまうおそれがあった。換言すると、上記特許文献1の構成では研磨屑等による終点検出精度の低下を抑制する効果が極めて限定的であるという問題を有していた。
このような問題に鑑み、本発明は終点検出用窓と被研磨物との間への研磨屑等の入り込みを可及的に減少させ、終点検出用窓による終点検出精度の低下を防止すると共に研磨性能への影響を抑えることが可能な研磨パッドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、被研磨物を研磨する研磨面を有する研磨層と、この研磨層に設けられるとともに終点検出手段から照射された検査光を透過させて研磨加工の終点を検出するための終点検出用窓とを備え、
上記研磨面が被研磨物に対して相対的に回転しながら、研磨面と被研磨物との間にスラリーを介在させた状態で被研磨物の研磨を行う研磨パッドにおいて、
上記終点検出用窓に対して研磨パッドの回転方向前方および後方に近接した位置に、上記回転方向に対して交差する方向に一対のバリア溝を設け、当該バリア溝に被研磨物側に向けて広がるテーパ形状を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、上記終点検出用窓に対して研磨パッドの回転方向前方および後方に設けた一対のバリア溝にスラリー中の研磨屑が回収されると、上記バリア溝は回転方向に対して交差する方向に形成されていることから、当該バリア溝に流入した研磨屑は研磨パッドの回転による遠心力によって当該バリア溝の外周側の端部に移動することとなる。
特に、終点検出用窓に対して回転方向前方に位置するバリア溝の外周側の端部より排出される研磨屑は、終点検出用窓と被研磨物との間に入り込んでしまうことはないため、終点検出用窓と被研磨物との間に入り込んでしまう研磨屑を可及的に少なくすることができ、終点検出用窓による検出精度を維持することができる。
また上記バリア溝にテーパ形状を形成することにより、当該バリア溝における研磨面側のエッジによる過度な被研磨物の研磨を防止することができ、さらにはバリア溝による終点検出用窓と被研磨物との間に入り込むスラリーの介在が抑えられることに起因して発生する、終点検出用窓と被研磨物との間の摩擦(ズリ応力)による研磨面の変形を吸収して、研磨ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】終点検出用窓近傍を示す研磨パッドの拡大平面図。
【
図6】バリア溝についてのその他の構成を示す断面図。
【
図7】テーパ形状12aが形成されていないバリア溝の状態を説明する図。
【
図9】第2実施例にかかる終点検出用窓近傍を示す研磨パッドの拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、
図1、
図2はそれぞれ研磨装置1の構成図および断面図を示し、薄板状の被研磨物2(例えば半導体ウエハ)を円盤状を有した研磨パッド3によって研磨するものとなっている。
研磨装置1は、下方側に位置して上面に研磨パッド3が固定された研磨定盤4と、上方側に位置して下面に被研磨物2を保持した保持定盤5と、被研磨物2と研磨パッド3との間にスラリーS(研磨液)を供給するスラリー供給手段6と、被研磨物2の研磨加工の進捗状況を検出するための終点検出手段7とを備えている。
上記被研磨物2としては、光学材料、シリコンウェハ、液晶用ガラス基板、半導体基板の他、ガラス、金属、セラミック等の板状物を研磨することができ、スラリー供給手段6が供給するスラリーSとしては被研磨物2に応じて適宜選択することが可能となっている。
上記研磨定盤4および保持定盤5はそれぞれ略円盤状を有しており、これらに装着される研磨パッド3および被研磨物2もそれぞれ略円盤状を有している。上記研磨定盤4および保持定盤5は図示しない駆動機構によって回転可能に設けられており、上記保持定盤5は上記研磨定盤4の回転中心に対して公転しながら回転するようになっている。
そして被研磨物2を研磨する際、保持定盤5は被研磨物2を上記研磨定盤4に保持された研磨パッド3の研磨面3aに対して所要の圧力で押し当てながら回転し、その状態で上記スラリー供給手段6が被研磨物2と研磨パッド3との間にスラリーSを供給することにより、上記研磨パッド3によって被研磨物2が研磨されるようになっている。
【0009】
図2に示すように、上記終点検出手段7は研磨定盤4の下方に設けられており、検査光L1を上方へ照射するとともに被研磨物2で反射した反射光L2を受光し、受光した反射光L2に基づいて研磨加工の進捗状況と加工終了となる終点を検出するものとなっている。
上記研磨定盤4の所定の位置には上記検査光L1および反射光L2を通過させるための貫通穴4aが設けられており、また当該貫通穴4aの位置に合わせて、上記研磨パッド3には透明な終点検出用窓8が設けられている。
図3に示すように、研磨パッド3には所要の半径位置に3つの終点検出用窓8が等間隔に設けられており、本実施例において、上記終点検出用窓8の直径は約9mmとなっている。
なお、本実施例では、終点検出用窓8が円形となっているが、これ以外に例えば長方形、正方形、多角形、楕円形等の様々な形状とすることもできる。また、本実施例では、研磨パッド3には所要の半径位置に3つの終点検出用窓8が等間隔に設けられているが、位置はこれに限定されず、少なくとも1つ設けられていれば良い。
被研磨物2を研磨する間、上記終点検出手段7は検査光L1を上方に向けて照射し、当該検査光L1は透明な終点検出用窓8を透過して被研磨物2の表面で下方に反射し、反射光L2は透明な終点検出用窓8を透過して終点検出手段7に受光される。
そして終点検出手段7は、被研磨物2の研磨加工が進行して、被研磨物2の被研磨面が徐々に研磨されることに伴って、反射光L2の強度等の変化を検出する。検出された反射光L2の強度等が、予め登録された強度等になると、被研磨面が加工終点になったものと判定する。
また被研磨物2として、半導体基板のように、被研磨物2の表面に被膜が形成されている場合は、研磨中の被研磨物2の表面に形成された膜厚の変化を光の干渉を利用して検出することで、研磨加工の進捗状況を検出するようになっている。
この場合、被研磨物2に入射した検査光L1は、薄膜の表面および薄膜と基板との界面で反射するようになっており、これにより薄膜の表面で反射した反射光L2と、薄膜と基板との界面で反射した反射光L2との間に光路差が生じ、また両反射光L2の間に位相差が生じる。
上記反射光L2の位相差は、被研磨物2を研磨して膜厚が変化すると変化するようになっており、当該位相差の変化に基づいて研磨加工の進捗状況や加工終点を検出することが可能となっている。
【0010】
図3に示すように、研磨パッド3には所要の半径位置に設けられた3つの終点検出用窓8と、研磨パッド3の中心(回転中心)を囲繞して同心円状に形成された複数の環状溝11と、上記終点検出用窓8に対して研磨パッド3の回転方向前方および後方に近接した位置に設けたバリア溝12とを有している。
ここで本実施例の研磨装置1は、上記研磨パッド3を
図3における図示時計回りに回転させるようになっている。なお、研磨パッド3の回転方向は逆転してもよいし、研磨作業中に回転方向を逆転させるようにしてもよい。
ここで、
図2は
図3におけるII-II部に示す断面図が得られる部分を示しており、研磨パッド3は被研磨物2側に研磨面3aが形成された研磨層3Aと、上記研磨層3Aよりも研磨定盤4側に形成された支持層3B(クッション層)とを備えている。
上記研磨層3Aは厚さ0.8~2.6mmのポリウレタン等の弾性樹脂からなる発泡構造を有するシートによって構成される。この発泡構造によって、研磨する際、研磨面には発泡構造による開孔が形成されスラリーを貯留して研磨効率を高める事が出来る。より具体的には内部にサブミクロン単位~数十ミクロン単位の無数の空隙が形成されたポリウレタン等の弾性樹脂からなる発泡シートを使用することができる。
上記支持層3Bは厚さ0.1~5.0mmのポリウレタン等の樹脂を含浸固着させた編織布や不織布、ポリウレタン等の樹脂発泡体、ポリエステル等の樹脂シート、等を使用することができ、特に、空隙が形成された支持層3Bとして、ポリウレタン等の樹脂を含浸固着させた編織布や不織布や、ポリウレタン等の樹脂発泡体とすると、過研磨を抑えるクッション性に優れ、好ましい。
そして、研磨層3Aと支持層3Bとは接着剤や両面テープによって接着され、さらに支持層3Bの下面が接着剤や両面テープによって研磨定盤4の上面に固定されるようになっている。
【0011】
上記終点検出用窓8は、光を透過させる透明な材料によって形成されており、例えば上記研磨層3Aと同様のポリウレタン等の弾性樹脂によって形成することが可能となっている。
但し、終点検出用窓8は検査光L1及び反射光L2の透過を許容すべく、光透過の妨げとなるような発泡を避けた構造とする必要がある。従って、より具体的には内部に空隙が形成されないポリウレタン等の弾性樹脂体が好ましく使用される。
また上記終点検出用窓8は研磨層3Aの所定位置に形成された貫通孔に隙間なく嵌合されており、終点検出用窓8の上面および下面はそれぞれ研磨層3Aの研磨面3aおよび下面と面一に形成されている。
特に、終点検出窓8の上面は研磨面3aと面一に配する事で、研磨時の終点検出窓8と被研磨物2が接地するため、スラリーの介在による、検査光L1及び反射光L2の透過の妨げを抑える事ができる。
また終点検出用窓8の下面は研磨層3Aの下面と面一にする事で、研磨パッド3が研磨により摩耗しても、研磨層3Aの下面ぎりぎりまで使用することができる。逆に終点検出用窓8の下面が研磨層3Aの下面よりも支持層3B側に突出すると、終点検出窓8の初期厚みが過度に大きくなり、検査光L1及び反射光L2の透過の妨げを助長するため、好ましくない。
そして上記支持層3Bには終点検出用窓8の位置に合わせて貫通孔3Baが穿設されており、研磨パッド3を研磨定盤4に装着する際には、当該研磨定盤4に形成されている貫通穴4aの位置に終点検出用窓8および貫通孔3Baを合わせるものとなっている。
【0012】
上記環状溝11は、
図3に示すように研磨パッド3の回転中心を中心に同心円状に形成されており、後述する終点検出用窓8と同じ半径位置に形成されたものを除き、無端状に形成されたものとなっている。
本実施例において、上記各環状溝11は幅0.4mm、深さ0.6mmにそれぞれ設定され、また隣り合う環状溝11のピッチは2.8mmに設定されている。
そして、上記終点検出用窓8と同じ半径位置に形成された環状溝11は、上記終点検出用窓8に近接した位置に端部を有する有端状の溝となっている。なお幅や深さ、上記ピッチは上記無端状の環状溝11と同じとすることができる。
ここで、終点検出用窓8と同じ半径位置の環状溝11とは、環状溝11を無端状に形成した場合に、当該環状溝11が上記終点検出用窓8に交差または干渉してしまうような位置に形成されている環状溝11のことを言う。
また環状溝11が終点検出用窓8に交差等しない場合、たとえば終点検出用窓8に対して半径方向内側または外側に位置する環状溝11について、当該環状溝と終点検出用窓8との間に所要の幅の平坦面が確保できない場合には、当該環状溝も終点検出用窓8と同じ半径位置の環状溝11として扱い、終点検出用窓8を避けた有端状の溝とすることができる。
【0013】
図4は上記研磨パッド3の研磨面3aにおける上記終点検出用窓8近傍の拡大図を示したものとなっている。
図4において、研磨パッド3の回転に伴い、上記終点検出用窓8は図示右方の回転方向後方から、図示左方の回転方向前方へと移動するものとする。
上記バリア溝12は研磨パッド3の回転方向に対して交差する方向に形成されており、具体的にバリア溝12は研磨パッド3の中心付近を通過する径方向に形成されたものとなっている。
また上記バリア溝12は終点検出用窓8に対して回転方向前方および後方に近接した位置に形成されており、例えば終点検出用窓8の端部から3~20mm、好ましくは5~10mm離隔した位置に形成されている。
バリア溝12を終点検出用窓8の端部から少なくとも3mm以上離間させることで、終点検出窓8と研磨層3Aの研磨時における被研磨物2との摩擦の差や、変形の差によって終点検出窓8が研磨層3Aから剥離しやすくなることを抑えることができる。一方、終点検出用窓8の端部から20mm以下にバリア溝12を設ける事で、終点検出用窓8と被研磨物2との間に入り込むスラリーの介在が抑えられる。
そして上記バリア溝12は、上記終点検出用窓8と同じ半径位置に形成された環状溝11の端部と接続され、かつバリア溝12の両端部はそれぞれ上記終点検出用窓8と同じ半径位置に形成された環状溝11のうち、最も外周側および内周側に位置する環状溝11の位置まで形成されている。
これにより、上記終点検出用窓8の周囲には、上記研磨面3aによって構成された平坦面が形成されるようになっており、換言すると終点検出用窓8および終点検出用窓8に近接した位置には溝が形成されないようになっている。
【0014】
図5は研磨層3AにおけるV-V部の断面図を示しており、具体的には研磨層3Aを研磨パッド3の回転方向に沿って切断した断面図を示している。
上記バリア溝12は、幅や深さは上記環状溝11と同じ寸法となっているが、本実施例のバリア溝12には被研磨物2側に向けて広がるテーパ形状12aが形成されたものとなっている。
上記テーパ形状12aとしては、垂直に形成されたバリア溝12の内壁における、研磨面3a側の角部を深さ0.1mm程度の位置で45°に面取りした形状とするほか、
図6に示すようにバリア溝12の底面から研磨面3aに向けて一つの傾斜面によって構成することが可能となっている。
ここで、研磨面3aに対するテーパ形状12aの面取り角度は30~80°が好ましい。30°以上とする事で摩擦による変形が研磨面3aに影響しにくくすることができ、80°以下とする事でエッジ効果を抑制できる。特に70°以下とすることで、摩擦による変形が研磨面3aに影響しにくくすることができる。
また、テーパ形状12aの面取りの深さは0.1mm以上とすると、摩擦による変形が研磨面3aに影響しにくくすることができ好ましい。
ここで、上記バリア溝12の形状はスラリーS中の研磨屑を排出する目的や、後述する研磨層3Aの変形の度合いに応じて適宜変更してもよい。
【0015】
上記構成を有する研磨パッド3を用いて被研磨物2を研磨する際、上述したように被研磨物2と研磨パッド3との間にはスラリーSが供給され、このスラリーSは上記環状溝11やバリア溝12に入り込むと、被研磨物2と研磨パッド3との間にスラリーSを供給するものとなっている。
ここで、上記研磨パッド3は研磨定盤4によって回転しており、
図5では終点検出用窓8が図示右方から図示左方へと移動するようになっている。これにより、上記終点検出用窓8に対し、スラリーSが回転方向前方(図示左方)から後方(図示右方)に向かう相対的な流れが発生する。
また、研磨パッド3によって被研磨物2を研磨すると研磨屑が発生することから、この研磨屑はスラリーSとともに終点検出用窓8の前方から上記終点検出用窓8と被研磨物2との間に入り込もうとする。
そして、終点検出用窓8と被研磨物2との間に研磨屑が入り込むと、終点検出用窓8を透過する検査光L1及び反射光L2の強度が低下してしまい、終点検出精度を低下させるおそれがあった。
【0016】
これに対し、本実施例の研磨パッド3は、上記終点検出用窓8の回転方向前方および後方のそれぞれに上記バリア溝12を備えることで、以下のように終点検出精度の低下を可及的に抑制するようになっている。
上述したように、研磨屑はスラリーSとともに終点検出用窓8の回転方向前方から流れてくるが、当該研磨屑は終点検出用窓8の回転方向前方に設けたバリア溝12によって回収されることとなる。
そして、上記バリア溝12は回転方向に対して交差する方向に設けられているため、研磨パッド3の回転による遠心力によって研磨屑はバリア溝12の外周側に移動し、その後バリア溝12の外周側の端部より排出されるようになっている。
バリア溝12の外周側の端部より排出された研磨屑は、すでに終点検出用窓8の回転方向前方から排除されていることから、当該研磨屑が終点検出用窓8と被研磨物2との間に入り込むことが可及的に防止され、終点検出精度の低下を可及的に抑制することができる。
【0017】
さらに本実施例の場合、上記研磨屑は研磨面3aに形成された環状溝11にも入り込むが、このうち終点検出用窓8と同じ半径位置に形成された環状溝11に入り込んだ研磨屑については、研磨パッド3の回転に伴って当該環状溝11に沿って回転方向後方に移動することとなる。
そして当該環状溝11における回転方向後方の端部に到達した研磨溝は、そのまま当該環状溝11に接続されたバリア溝に流入し、その後は上述したように当該バリア溝12の外周側の端部より排出されるようになっている。
このように、終点検出用窓8と同じ半径位置に形成された環状溝11の端部をバリア溝12に接続したことにより、環状溝11に入り込んだ研磨屑についても、終点検出用窓8と被研磨物2との間に入り込まないようにすることができる。
【0018】
次に、本実施例の上記バリア溝12に形成した上記テーパ形状12aについて説明する。
図7は、
図5と同様、研磨パッド3の回転方向に沿った断面図を示しているが、当該
図7に示すバリア溝12は上記テーパ形状12aを省略したものとなっており、また研磨パッド3が回転して被研磨物2を研磨している際の状態を模式的に示したものとなっている。
上記バリア溝12にテーパ形状12aが形成されていない場合、当該バリア溝12を構成する側壁は被研磨物2に対して垂直に接触することとなる。
この状態で研磨パッド3が回転すると、バリア溝12は回転方向に対して交差する方向に設けられていることから、バリア溝12における側壁との接触部分、特にバリア溝12における回転方向後方に位置する側壁との接触部分において、いわゆるエッジ効果が生じ、当該バリア溝12の側壁によって過剰に被研磨物2を研磨してしまい、研磨ムラの原因となってしまう恐れがある。
これに対し、本実施例の研磨パッド3は、
図5に示すように上記バリア溝12にテーパ形状12aを設けているため、上記エッジ効果による研磨ムラの発生を防止するようになっている。
【0019】
次に、本実施例の研磨パッド3の終点検出用窓8は研磨面3aと面一に形成されているため、終点検出用窓8と被研磨物2とが密着することで、終点検出用窓8と被研磨物2との間にはその他の研磨面3aと被研磨物2との間の部分に比べて大きな摩擦力が発生する。
この現象は、研磨面3aにはスラリーSを貯留する発泡構造による開孔が形成されているのに対し、終点検出用窓8は検査光L1及び反射光L2の透過を許容すべく、光透過の妨げとなるような発泡を避けた構造であることから、終点検出用窓8の表面には発泡構造による開孔も制限された構造となり、被研磨物2と接地する面積比率が大きく、結果、摩擦力を受けやすい状態になると考えられる。
さらにバリア溝12を形成したことにより、終点検出用窓8と被研磨物2との間に入り込むスラリーSの介在が抑えられることから、終点検出用窓8と被研磨物2が直接的に接地しやすくなり、研磨面3aと被研磨物2との間の部分に比べて大きな摩擦力(ズリ応力)が発生すると考えられる。
しかも、上述の通り、終点検出窓8は発泡を避けた構造であるため、終点検出窓8は変形しにくいことから、研磨パッド3が回転すると、上記摩擦力(ズリ応力)によって終点検出用窓8が回転方向後方に引っ張られ、終点検出用窓8とバリア溝12との間に形成された研磨層3Aが変形することとなる。
その結果、
図7に示すように、終点検出用窓8の回転方向後方に形成したバリア溝12については、上記研磨層3Aの変形によって、当該変形部分の研磨面3aが盛り上がってしまい、これにより研磨ムラが発生する恐れがあった。
そこで、本実施例の研磨パッド3は、
図5に示すように上記バリア溝12にテーパ形状12aを設けているため、上記研磨層3Aの変形をテーパ形状12aによって吸収することができ、研磨ムラが防止されるようになっている。
【0020】
ここで、終点検出用窓8に対して回転方向前方および後方に設けたバリア溝12において、上記研磨ムラの発生を防止する効果を生じさせているのは、終点検出窓8より回転方向で後方側のバリア溝12の前方側に形成したテーパ形状12aとなっている。
したがって、終点検出窓8より回転方向で前方側のバリア溝12における回転方向で前方のテーパ形状12aについてはこれを省略することができるが、研磨パッド3を反対方向に回転させることを考慮して、上記テーパ形状12aをバリア溝12の回転方向前方および後方の双方に設けることが望ましい。
【0021】
次に、以上のように構成された研磨パッド3の製造方法の一態様について
図8を用いて説明する。
最初に、直方体状の型枠101を用意するとともに、型枠101の所定位置に上記終点検出用窓8の外径に合わせた円柱状の抜き取り部材102を配置し、上記研磨層3Aの材料となるポリイソシアネートと硬化剤と発泡構造を形成させるため、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体の中空微粒子を混合して得られた混合物を上記型枠101内に流し入れて硬化させる(
図8(a))。これにより後に研磨層3Aを構成するブロック状のポリウレタンポリウレア系樹脂成形発泡体103が成形される。
次に、上記樹脂成形発泡体103から上記円柱状の抜き取り部材102を抜き取り、樹脂成形発泡体103に円柱状の空間102’を形成するとともに、当該円柱状の空間102’に上記終点検出用窓8の材料となるポリイソシアネートと硬化剤を混合した混合物を必要に応じ脱泡処理した後、流し入れて硬化させる(
図8(b))。これにより後に終点検出用窓8を構成する透明な円柱部104が形成される。
続いて、上記樹脂成形発泡体103および円柱部104を型枠101から取り出し、上記研磨パッド3の研磨層3Aの厚さに合わせて薄く切断して、シート状部材105として切り出す(
図8(c))。その際、上記終点検出用窓8の上面および下面は研磨層3Aの上面および下面と面一に形成される。
最後に、上記シート状部材105を円板状に切断した後、必要に応じて研磨面3aとなる面を厚み修正及び微細な凹凸の形成(目立て)の観点から研削(バフィング)し、研磨面3aを切削して上記環状溝11および上記バリア溝12(図示せず)を形成し、さらに上記バリア溝12については切削加工によって上記テーパ形状12a(図示せず)を形成する(
図8(d))。
このようにして研磨パッド3の研磨層3Aが得られたら、その後、研磨面3aの反対側となる下面を両面テープ等によって上記支持層3B(クッション層)に接着し、研磨パッド3が完成する。
なお、本実施例では、後に終点検出用窓8となる円柱部104を樹脂成形発泡体103に形成した円柱状の空間102’に材料を流し込み作製しているが、円柱部104を予め用意してから、型枠101の所定位置に配置して、研磨層3Aの材料を型枠101内に流し入れて固めても良い。
また、本実施例における研磨層3Aおよび終点検出用窓8は、ポリイソシアネートと硬化剤を用いたが、ポリイソシアネートは予めポリオール等によってプレポリマーとしたものを用いてもよい。
上記硬化剤としては、水酸基やアミノ基といったイソシアネートと反応する官能基を複数有しているものであればよく、ポリイソシアネート等により鎖伸長したポリオールやポリアミンを用いても良い。
さらに、本実施例では研磨層3Aに発泡構造を形成させるため、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体の中空微粒子を用いたが、水等の化学発泡剤や、不活性ガス等を単独使用、または併用しても良い。
【0022】
図9は第2実施例にかかる研磨パッド3を説明する図であり、
図4と同様、研磨面3aに設けた終点検出用窓8近傍の拡大平面図となっている。
本実施例では、上記バリア溝12を上記終点検出用窓8に対して半径方向外側および内側に隣接する無端状の環状溝11に接続させたものとなっている。
第1実施例では、終点検出用窓8と同じ半径位置の環状溝11を有端状の溝とし、上記バリア溝12が当該有端状の環状溝11の端部同士を連結している構成となっているが、本実施例では当該バリア溝12をさらに径方向に延長して、終点検出用窓8の外周側および内周側に位置している無端状の環状溝11に接続したものとなっている。
このような構成とすることにより、バリア溝12に回収された研磨屑は、研磨パッド3の回転によって当該バリア溝12に沿って外周側に移動し、終点検出用窓8の外周側に隣接する無端状の環状溝に流入することから、研磨屑を研磨面3aに流出させることなく、終点検出用窓8の回転方向前方より排除することが可能となっている。
【0023】
なお上記第2実施例においては、上記バリア溝12は終点検出用窓8に対して半径方向外側および内側に隣接する無端状の環状溝11まで延長して設けられているが、外側または内側のいずれか一方の環状溝まで延長して設けてもよい。
ただし、バリア溝12に回収された研磨屑は研磨パッド3の遠心力によって半径方向外側に向かうため、研磨屑を研磨面3aに流出させないという点において、バリア溝12を半径方向外側の環状溝11に接続させることが望ましい。
また上記第2実施例では、上記バリア溝12を終点検出用窓8に対して最も近接した位置に設けられた無端状の環状溝11まで延長させているが、当該バリア溝12を複数の無端状の環状溝11と交差するように延長して設けてもよい。より具体的には、バリア溝12の半径方向外側の端部を研磨パッド3の外周縁まで延長して設けることも可能である。
【0024】
さらに、上記各実施例においては、同心円上の位置に設けた複数の環状溝11の中心と研磨面3aの中心が一致した構成を前提に説明したが、研磨面3aの中心に対して環状溝11の中心が偏心した構成であっても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 研磨装置 2 被研磨物
3 研磨パッド 3A 研磨層
7 終点検出手段 8 終点検出用窓
11 環状溝 12 バリア溝
12a テーパ形状