(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/40 20060101AFI20250402BHJP
【FI】
H01S5/40
(21)【出願番号】P 2020215676
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】萩元 将人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 忠嗣
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-201390(JP,A)
【文献】特開2018-093002(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021802(WO,A1)
【文献】特開2000-312052(JP,A)
【文献】特開2010-166036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H10H 20/00-20/841
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面に積層される、第1導電型の第1クラッド層と、前記第1導電型とは異なる導電型を有する第2導電型の第2クラッド層と、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層とに挟まれるように形成され、前記基板主面に平行な第1の面上において形成される、発光層と、
を有し、
前記発光層は、赤色領域のレーザ光を放射する複数の発光領域を有し、
前記複数の発光領域のそれぞれから放射されるレーザ光の光スペクトルにおけるピーク波長の値は、前記発光層の前記第1の面からの厚さに応じて異なっており、前記発光層の前記第1の面からの厚さが厚いほど長く
、
前記発光層の上部には、前記複数の発光領域に対応するようにリッジが形成され、
前記リッジのそれぞれの上部に電極が形成され、前記電極のそれぞれは異なる厚さを有し、前記基板の主面から前記電極の上端面までの厚さ方向における高さは、前記複数の発光領域に対応する前記リッジのそれぞれで同じである、
半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記発光層は、前記複数の発光領域をそれぞれ分離するように、前記第1の面上で分割して形成され、
前記発光層上に形成される前記第2クラッド層は、前記複数の発光領域のそれぞれの上では同じ厚さで形成されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記第1クラッド層と前記発光層との間、および、前記発光層と前記第2クラッド層との間には、それぞれバッファ層が形成されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記第1クラッド層の中、および、前記第2クラッド層の中、にそれぞれ介在するようにバッファ層が形成されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記発光層は量子井戸層を有し、前記バッファ層の厚さは前記量子井戸層の厚さよりも薄い、請求項3に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記発光層は、前記リッジの長手方向において延びる側面を有し、前記側面は、前記発光層の厚みが増すにしたがい内側に傾斜している、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記複数の発光領域のそれぞれの間隔は、5μm以上、100μm以下の範囲で形成されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
前記リッジは、前記電極において接合材を介してサブマウントに接合され、
前記サブマウントは放熱性部材に接続されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項9】
基板の主面に第1導電型の第1クラッド層を形成する工程(A)と、
前記第1クラッド層の主面に、複数の開口を有し、それぞれの開口領域の幅が異なるマスク層を形成する工程(B)と、
前記マスク
層の前記開口領域における前記第1クラッド層の主面上に、赤色領域のレーザ光を放射する複数の発光領域を有する発光層を選択成長により成長する工程(C)と、
前記発光層の成長後、前記マスク層を除去する工程(D)と、
前記第1クラッド層および前記発光層の上面に亘って、第2導電型の第2クラッド層とキャップ層を形成する工程(E)と、
前記第2クラッド層と前記キャップ層の一部をエッチング除去することで、所定の領域にリッジ部を形成する工程(F)と、
前記リッジ部のそれぞれの上部に電極を形成する工程であって、前記基板の主面から前記電極の上端面までの厚さ方向における高さがそれぞれで同じとなるよう、前記電極のそれぞれを異なる厚さで形成する工程(G)と、
から成る半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)と前記工程(C)のそれぞれの後に、バッファ層を形成する工程
(H)を有する、請求項
9に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項11】
前記工程(A)と前記工程(E)のそれぞれの途中に、バッファ層を形成する工程
(H)を有する、請求項
9に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザ装置(以下、単に「半導体LD」または「LD」とも称す)を用いたプロジェクタ等のディスプレイ装置の市場が拡大している。
【0003】
また、近年、様々な分野において、拡張現実(AR:Augmented Reality)、仮想現実(VR:Virtual Reality)、複合現実(MR:Mixed Reality)、代替現実(SR:Substitutional Reality)といったリアリティ化技術が実用化されており、これらの技術を用いたヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mount Display)、ヘッドアップディスプレイ(Head-up Display)、ARグラス等のディスプレイ装置が商品化されている。
【0004】
例えば、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)では、光源にRGB(赤色・緑色・青色)の3色のレーザ光を用い、画像表示用の空間変調素子であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により画像を作成し、導波路(waveguide)を通して網膜等に投影する技術が知られている。このMEMSを用いたシステムは、広色域、高解像度、広視野角などで利点があると言われている。一方で、広色域、高解像度、広視野角など画像の高性能化のために、RGBの各色においてマルチビームLD(複数の半導体レーザ装置)を用いていたが、各色の波長は同一であった。全ビームの波長が揃っていると(即ち、波長が同一であると)、レーザ光の干渉性による画質低下が生じることになる。
【0005】
特許文献1は、同一素子内で複数の波長のレーザを発振可能な多波長半導体レーザを開示している。特許文献1では、レーザ光の具体的な波長についての記載はないが、AlGaAs系の量子井戸レーザであることから、赤外領域のレーザ光であり、RGB以外の色領域におけるレーザ光について述べられている。また、異なる波長を発振する第1と第2の量子井戸活性層は、それぞれで組成は同じとして、それぞれの井戸幅(物理的膜厚)を異ならせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
画質(解像度・フレームレート)向上のため、狭ピッチでマルチエミッタ(複数の発光部)を独立駆動するモノリシック構造の横シングルモードLDが求められる。しかしながら横シングルモードレーザは波長スペクトルが狭く干渉性が高いため画質悪化が課題になっている。
【0008】
また、ディスプレイ装置の高性能化として、レーザ光の干渉を抑制し、広色域、高解像度、広視野角などの視感度や画質の更なる向上が求められている。視感度や画質の更なる向上には、例えば、RGBの3色のレーザ光を用いた光源の各色において、発振波長の異なる複数のレーザ光を出射することのできる半導体レーザ装置であることが、前述したレーザ光の干渉性による画質低下の抑制の観点から好ましい。
【0009】
特許文献1では、同一素子(同一チップ)内で複数の波長のレーザを発振させるため、発振させるレーザ波長毎で異なる厚さの結晶層を選択成長させていた。具体的には、それぞれのレーザを発振させる結晶層は、上部n型クラッド層、量子井戸活性層、p型クラッド層およびキャップ層を順次、選択成長し、ストライプ状の結晶構造を形成している。そのため、量子井戸活性層の高さが異なることにより発振されるレーザ位置が異なるばかりか、ストライプ状の結晶層の厚さ(高さ)が大きく異なっていた。クラッド層は、通常、数ミクロンのオーダで形成されるため、ストライプ状の結晶層の厚さ(高さ)の違いがより顕著になる。発光点の高さが異なることに加えて、ストライプ状の結晶層の高さが大きく異なることは、レーザチップへの給電構造が複雑化する等、実用上の問題があった。
【0010】
ところで、レーザチップの実装方式の一つとして、素子の基板側ではなく、活性層側(即ち、ストライプまたはリッジ側)をステム等の土台に向けて接合するジャンクションダウン(J-down)実装方式がある。赤色波長領域の半導体レーザ装置は、赤外波長領域の半導体レーザ装置などと比較して、その材料系の物性により、しきい値、効率などの特性の温度依存性が大きい。そのため、特性の安定性や高い光出力を得るためには放熱が重要であり、赤色波長領域の半導体レーザ装置では活性層側からサブマウントへの放熱が可能なJ-down実装方式を採用する場合が多くみられる。しかし、それぞれの波長のレーザ領域で、ストライプの高さが大きく異なると、J-down実装時にクラッド層に歪が入り、素子の信頼性が低下するといった問題が生じる。更には、J-down実装時に、ストライプ(リッジ)の高さの違いから生じる素子の傾き、半田濡れのバラツキ、または高さが低いリッジの接合不良、などの問題が生じる。また、それぞれのストライプ(リッジ)の高さが異なると、リッジ上に形成する電極とp型クラッド層とのコンタクト用の開口形成時などで不具合を生じる可能性もある。このように、ストライプ(リッジ)の高さの違いが顕著に生じると、実装時などの実用上の問題が生じることになる。
【0011】
本発明の課題は、チップ内の高さの違いから生じる実用上の問題を抑制する半導体レーザ装置を提供することである。その他の課題および新規な特徴は、本明細書および図面の記載から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの実施形態に係る半導体レーザ装置は、基板と、前記基板の主面に積層される、第1導電型の第1クラッド層と第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層と前記第2クラッド層とに挟まれるように形成され、前記基板主面に平行な第1の面上において形成される発光層とを有し、前記発光層は、赤色領域のレーザ光を放射する複数の発光領域を有し、前記複数の発光領域のそれぞれから放射されるレーザ光の光スペクトルにおけるピーク波長の値は、前記発光層の前記第1の面からの厚さに応じて異なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの実施形態に係る半導体レーザ装置では、チップ内の高さの違いから生じる実用上の問題を抑制する半導体レーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
【
図2A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
【
図2B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置における発光層EL01~EL04の構成の一例を示す要部断面図である。
【
図3A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図3B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図4】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図5】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図6】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図7A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図7B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図7C】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図8A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例1に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図8B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例2に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図9A】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
【
図9B】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置における発光層EL11~EL13の構成の一例を示す要部断面図である。
【
図10A】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図10B】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【
図10C】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図10D】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【
図11A】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図11B】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【
図12A】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図12B】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【
図13A】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図13B】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【
図14A】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図14B】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【
図14C】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【
図14D】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【
図15】選択成長法によって形成された量子井戸層QWにおけるIn組成比と発振波長との関係を示している図である。
【
図16】選択成長法によって形成された量子井戸層QWにおけるIn組成比と発振波長との関係を示している図である。
【
図17】量子井戸層QWのIn組成比に対するGa
1-yIn
yPの歪量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態に係る半導体レーザ装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書および図面において、同一の構成要件または対応する構成要件には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、各実施の形態と各変形例との少なくとも一部は、互いに任意に組み合わされてもよい。なお、符号においては、形成箇所が異なる等の理由で個別に説明する必要がある際には、例えば、発光部EM11、EM12、EM13など、それぞれで異なる符号を付して説明するが、本来部材が持つ機能として説明する際には、例えば、発光部EM、と表現する場合もある。
【0016】
[本発明の一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成]
図1は、一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。なお、
図1に示されるx軸、y軸、z軸については、xは水平方向/幅方向/横方向、yは奥行方向/縦方向、zは垂直方向/厚さ方向/高さ方向、をそれぞれ意味するものとする。この方向に関する定義については、他の図においても同様である。
【0017】
図1に示されるように、一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置LD001は、GaAs基板1の上に、n型クラッド層2、発光層ELおよびp型クラッド層3が形成されている。また、レーザ光を放射する4つの発光部EM001、EM002、EM003、EM004が、
図1中でx方向において所定の間隔にて形成されている。
【0018】
発光部EMからは、赤色領域におけるレーザ光(波長λ=600nm~700nm)が放射される。好ましくは、発光部EM001、EM002、EM003、EM004からは、赤色領域の波長の範囲内において、それぞれ異なる波長λ001~λ004のレーザ光が放射される。なお、発光部EMから放射するレーザ光の波長λは、その全てで異なっている必要はなく、少なくとも一つの波長がその他の波長と異なっていれば良い。ここで示される波長λとは、発光部EMから放射されるレーザ光の光スペクトルにおけるピーク波長の値を示しており、以下に示す他の実施の形態1,2においても同様である。
【0019】
また、それぞれの発光部EM001、EM002、EM003、EM004における発光層EL001、EL002、EL003、EL004は、同一の主面上に形成された(AlxGa1-x)1-yInyP(0≦x<1、0<y<1)の結晶層から構成される。発光層EL001、EL002、EL003、EL004の結晶層の厚さEHは、それぞれで異なっている。なお、発光層ELの厚さEHは、その全てで異なっている必要はなく、少なくとも一つの発光層ELの厚さEHがその他の厚さEHと異なっていれば良い。ここでは、結晶層の厚さEHは、EH001<EH002<EH003<EH004、の関係になっている。
このように、発光層ELの厚さに応じて、放射されるレーザ光の波長λの値も異なっている。
【0020】
なお、
図1では、リッジ構造を持つ半導体レーザ装置について説明したが、その他、リッジ構造を持たない半導体レーザ装置、例えば、電流狭窄層を持つ埋め込み構造型の半導体レーザ装置等においても適用することができる。
【0021】
[他の実施の形態1]
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01では、レーザ光を放射する4つの発光部EM01、EM02、EM03、EM04が形成され、それぞれの発光部EM01、EM02、EM03、EM04の発光層ELの幅(EW01、EW02、EW03、EW04)の大きさが異なっている。また、それぞれの発光部EM01、EM02、EM03、EM04における発光層EL01、EL02、EL03、EL04の結晶層の厚さEHが異なっている。また、それぞれの発光部EM01、EM02、EM03、EM04からは異なる波長λのレーザ光が放射される。
【0022】
(半導体レーザ装置の構成)
図2Aは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01の構成の一例を示す要部斜視図である。
図2Bは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置における発光層EL01~EL04の構成の一例を示す要部断面図である。
【0023】
図2Aに示されるように、半導体レーザ装置LD01は、GaAs基板1の上に、n型クラッド層2(厚さ2μm)、発光層EL01、EL02、EL03、EL04およびp型クラッド層3(厚さ2μm)が形成されている。発光層EL01、EL02、EL03、EL04は、(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP(0≦x<1、0<y<1)の結晶層から構成されている。また、発光層EL01、EL02、EL03、EL04は、n型クラッド層2の同一面上に形成されている。すなわち、発光層EL01、EL02、EL03、EL04の下面位置は、垂直方向または厚さ方向(
図2Aのz方向に相当する)において同じである。
【0024】
また、半導体レーザ装置LD01には、4つの発光部EM01、EM02、EM03、EM04が形成され、それぞれの発光部EMにおける発光層EL01、EL02、EL03、EL04の幅EWは(
図2Aの中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)異なっている。すなわち、幅は、EW04<EW03<EW02<EW01、の関係になっている。一例として、幅EW04の長さは15μm、幅EW03の長さは25μm、幅EW02の長さは35μm、幅EW01の長さは45μm、となる。また、発光層EL01、EL02、EL03、EL04の結晶層の厚さEH(
図2Aの中で示されるz方向(垂直方向)の大きさに相当する)が異なっている。具体的には、発光層ELの厚さEHは、EH01<EH02<EH03<EH04、の関係になっている。一例として、発光層EL01の厚さEH01は100nm、発光層EL02の厚さEH02からは110nm、発光層EL03の厚さEH03は120nm、発光層EL04の厚さEH04は130nm、となる。
【0025】
それぞれの発光部EM01、EM02、EM03、EM04には、p型クラッド層3の一部をエッチング除去して形成した電流狭窄構造(電流注入構造)および横方向(
図2Aのx方向)の光閉じ込めのための構造としてのリッジ4が形成されている。リッジ4の上面とGaAs基板1の裏面には、p側電極7Pとn側電極7Nが形成されている。
【0026】
n側電極7Nとp側電極7Pに電流を印加することで、4つの発光部EM01、EM02、EM03、EM04に形成される発光領域ER01、ER02、ER03、ER04から、赤色領域におけるレーザ光(波長:600nm~700nm)が放射される。発光領域ERから放射される波長λは、発光部EMのそれぞれで異なっている。具体的には、波長λは、発光部EM01<EM02<EM03<EM04、の関係となっている。一例として、発光部EM01からは640nm、EM02からは643nm、EM03からは646nm、EM04からは649nm、の波長のレーザ光がそれぞれ放射される。
このように、発光層ELの厚さEHが厚くなるほど、波長λの値も大きくなっている。
【0027】
なお、詳細は後述するが、破線Aは(
図2Aおよび
図7)、それぞれの発光部EMに形成されたリッジ4の上面(正確には、リッジ4上に形成されたキャップ層5の上面)の高さ(
図2Aのz方向)の違いを示すために図示されている。他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01を形成する際、発光層EL01、EL02、EL03、EL04は選択成長法により形成されるが、それ以外の結晶層(n型クラッド層2やp型クラッド層3)は選択成長法を用いることなく形成される。また、前述したように、発光層EL01、EL02、EL03、EL04は、同じ面上に形成され、その下面位置は、垂直方向または厚さ方向(
図2Aのz方向に相当する)において同じである。したがって、4つの発光部EMにおいては、破線Aにて示されるように、発光層ELの厚さEHの違いのみが、垂直方向または厚さ方向(
図2Aのz方向に相当する)の差として生じることになる。
【0028】
更には、リッジ4の上面に形成されるp側電極7Pは、それぞれの発光部EMでの高さの違いを補正するため、発光部EM毎に異なる厚さで形成しても良い。これにより、破線Bで示されるように、p側電極7Pの上面位置が、それぞれの発光部EMにおいて同一となっている。これにより、J-down実装の時の半田の濡れ性を均一にでき、また、チップが傾斜するのを防ぐことができる。更には、実装時に、実装装置でチップを画像認識する際に、全ビームの電極位置に焦点を容易に合わせることができる。
【0029】
複数の発光領域ERの中心位置(またはリッジ4の中心位置)のそれぞれの横方向(
図2Aのx方向)におけるピッチ間隔は、5μm以上、100μm以下の範囲から選択されている。なお、赤色領域のレーザ光(600~700nm)を横シングルモードで発振させるには、高次モードのカットオフ条件を満足するように、リッジ幅(
図2Aのx方向に相当)を2μm程度にする必要がある。よって、マルチビームの複数リッジのラインアンドスペースを考慮すると、複数の発光領域ERの中心位置(またはリッジ4の中心位置)のそれぞれのピッチ間隔の最小値を5μm程度とすることが好ましい。
また、J-down実装時においては、リッジ4の上部のp側電極7Pは半田等の接合材を介して図示しないサブマウントに接合され、サブマウントは放熱性部材に接続される。
【0030】
図2Bは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置における発光層EL01~EL04の構成の一例を示す要部断面図である。
【0031】
図2Bに示されるように、発光層ELは、下部n側ガイド層nGL(数10nm)、量子井戸層QW(数nm~数10nm)、バリア層BL(数nm~数10nm)、量子井戸層QW(数nm~数10nm)および上部p側ガイド層pGL(数10nm)から構成され、トータルで100nm程度の厚さで形成されている。
図2Aに示される発光領域ER01、ER02、ER03、ER04は、量子井戸層QWの所望領域に相当する。
図2Bにおいては、量子井戸層QWは、多重量子井戸層(MQW)として示されているが、単一量子井戸層(SQW)であっても良い。一例として、下部n側ガイド層nGLおよび上部p側ガイド層pGLは、(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yPから成り、組成比x=0.7、y=0.5で、共に膜厚は50nm~60nmである。量子井戸層QWは、GaInPから成り、膜厚は、5nm~6nmである。バリア層BLは、(AlxGa1-x)1-yInyPから成り、組成比x=0.7、y=0.5で、共に膜厚は5nm~6nmである。
【0032】
なお、本実施の形態にて発光層ELと表現する場合は、発光層ELに上述の下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLを全て含むことを意味する他、量子井戸層QWとバリア層BLを含むことを意味する場合、または、p型クラッド層3、n型クラッド層2の少なくともどちらか一方の一部をも含むことを意味する場合もある。
【0033】
(半導体レーザ装置の製造方法)
次に、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01の製造方法の一例について説明する。
図3~
図7は、半導体レーザ装置LD01の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
【0034】
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01の製造方法は、主として、(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程と、(2)マスクMKを形成する工程と、(3)発光層EL01、EL02、EL03、EL04を選択成長法にて形成する工程、(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(マスクMKの除去工程を含む)、(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程、とを含む。
【0035】
(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程
まず、
図3Aに示されるように、GaAs基板1の上に厚さ約2μmのn型クラッド層2をMOCVD法でエピタキシャル成長する。n型クラッド層2の組成は(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP(0<x≦1、0<y<1)であり、ここではx=1、y=0.5とした。本実施の形態では、GaAs基板1との格子整合を考慮し、In組成yは0.5に調整している。また、AlとGaの組成比(x:1-x)は、xの方が大きいことが好ましく、(x:1-x)=1:0でも良い。
【0036】
(2)マスクMKを形成する工程
次に、
図3Bに示されるように、n型クラッド層2を形成した後、n型クラッド層2の表面にマスクMKとして機能する酸化シリコン(SiO
2)膜をCVD法にて形成する。このSiO
2膜は結晶成長を阻害する膜であり、例えば窒化シリコン(Si
3N
4)膜を用いても良い。
【0037】
SiO
2膜を形成後、
図4に示されるように、リソグラフィー法を用いてSiO
2膜に複数のストライプ状の開口部(本実施の形態では4つの開口部)を形成する。4つの開口部の幅(
図2Aの中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)は、それぞれ異なり、
図4の左側から順に狭くなるように形成する。すなわち、幅は、EW04<EW03<EW02<EW01、の関係となるように(
図2A参照)、マスクMK01~MK05を形成する。
【0038】
(3)発光層EL01、EL02、EL03、EL04を選択成長法にて形成する工程
次に、
図5に示されるように、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLからなる発光層EL01、EL02、EL03、EL04を形成する。これらの層の形成には選択成長と呼ばれる方法にて実施する。選択成長法は、マスクMKの上面には結晶が成膜されないことを利用して、マスクMKの開口部の領域のみに所望の膜を形成するものである。
【0039】
選択成長法にて成長する結晶は(AlxGa1-x)1-yInyP(0≦x<1、0<y<1)であり、使用される原料ガスは、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)やトリメチルインジウム(TMI)などである。
【0040】
選択成長法により、マスクMKの開口部の領域に、
図2Bで示すように、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BL、量子井戸層QWおよび上部p側ガイド層pGLの順で成膜をする。
図4で示したマスクMKの開口部が最も広い領域(EW01)には発光層EL01が形成され、マスクMKの開口部が最も狭い領域(EW04)には発光層EL04が形成される。なお、選択成長法により発光層ELを形成する際、発光層ELには傾斜面11が形成される。すなわち、発光層ELは、前記リッジの長手方向(
図2Aのy方向に相当)において延びる側面を有し、この側面が発光層ELの厚みが増すにしたがい内側に傾斜している。
【0041】
この発光層ELを形成する工程では、(AlxGa1-x)1-yInyPを選択成長法により形成するが、元素の組成割合を示すxとyの値は次のように設定している。
ガイド層GLはSCH(Separated Confinement Heterostructure)層や閉じ込め層と呼ばれることもあり、クラッド層2(3)よりも屈折率が高く、量子井戸層QWよりも屈折率が低いことが好ましい。そのため、クラッド層2(3)に比べてAl組成比xが小さくなるように原料の供給比を調整する。例えば、Al組成比xはクラッド層2(3)がもっとも高く、ガイド層GLまたはバリア層BL、量子井戸層QWの順に低くなるように原料ガスの供給量を調整する。
【0042】
本実施の形態では、ガイド層GL及びバリア層BLの組成はx=0.7、y=0.5とした。また、量子井戸層QWの成長においては原料ガスのTMAの供給を行わず、量子井戸層QWはAlを含有しない(即ち、x=0)GaInPとしている。量子井戸層QWの厚さは5nm~6nmの範囲で形成されている。
【0043】
選択成長法にて形成される発光層ELは、光導波路としてはコア層として機能する。発光層ELの厚さは波長や各層の屈折率にも依存するが、赤色レーザでは約50nm~約500nmの範囲から選ばれ、本実施の形態では合計約100nmの厚さとしている。
【0044】
また、選択成長法にて形成される発光層ELの厚さEHは、それぞれの発光層ELにおいて異なっている。すなわち、マスクMKの開口部の大きさにより、選択成長される発光層ELの厚さに違いが生じ、発光層ELの幅EWが狭いほど発光層ELの厚さが厚くなっている。具体的には、厚さEHは、EH01<EH02<EH03<EH04、の関係になっている。
【0045】
上述したように、マスクMKの異なる開口領域に、選択成長法により発光層ELを堆積すると、発光層ELの膜厚が異なる。このメカニズムについては明らかではないが、次の(i)~(iv)であると想定することができる。
(i)選択成長法ではマスクMKの表面では膜成長が生じないため、マスクMKの表面に供給された原料ガスは、マスクMKの表面上を移動して(migrate)、マスクMKの開口部の領域に移動する。(ii)マスクMKの表面積が大きいほど、移動する原料ガスの量が多くなる。(iii)表面積が大きなマスクMKに隣接するマスクMKの開口部の領域には、より多くの量の原料ガスが開口部に移動し、開口部における原料ガスの濃度が高くなる。また、マスクMKの開口部が小さければ原料ガスの濃度もより高くなる。(iv)結果として、マスクMKの開口部が最も狭い領域に形成される発光層EL04により多くの原料が供給されることになる。
【0046】
(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(マスクMKの除去工程を含む)
次に、
図6に示されるように、マスクMKを除去する。そして、
図7Aに示されるように、厚さ約2μmのp型クラッド層3をMOCVD法でエピタキシャル成長し、続けて0.5μmのキャップ層5を形成する。なお、p型クラッド層3の形成の途中には、エッチストップ層6を形成する工程を含んでいる。エッチストップ層6は、次の工程(5)でp型クラッド層3をエッチングしてリッジ4を形成する際のエッチング停止層として機能するものである。
【0047】
(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程
次に、
図7Bおよび
図7Cに示されるように、p型クラッド層3を所定形状にエッチング加工して、発光層EL01、EL02、EL03、EL04のそれぞれに対してリッジ4を形成する。なお、
図7Bにおいて、クラッド層2の上面からリッジ4の上端(p側電極7P側端部)までの厚みを誇張して記載しているが、エッチングにより形成されるリッジ4の高さ(厚み方向の距離)は、例えば1μm程度である。そして、図示しないSiO
2等のパッシベーション酸化膜を成膜し、フォトリソグラフィとエッチング技術を用いてリッジ上部に酸化膜の開口部を設け、その上にp側電極7Pを形成する。また、GaAs基板1の裏面にn側電極7Nを形成する。
図7Cが、電極まで形成した半導体レーザLD01を示す概略断面図であり、この形状が
図2Aに斜視図として示した半導体レーザLD01に相当している。その後、GaAs基板を劈開し、劈開面に端面コーティングなどを形成することで、
図2Aに示すような半導体レーザ装置LD01が形成される。
【0048】
このように、本実施の形態1においては、選択成長法により堆積する層は、工程(3)で形成される比較的に薄い発光層ELである。一方で、工程(1)および工程(4)で形成される厚いn型クラッド層2やp型クラッド層3は、選択成長法を用いることなく形成される。
【0049】
ここで、最も厚い発光層EL04は、最も薄い発光層EL01での厚さの約1.2~1.3倍である。これは、20~30nm程度の厚さの違いを意味することになり、GaAs基板1をも含めたトータル厚さ(数μm(数1000nm))と比較しても、僅かな厚さである。例えば、n型クラッド層2の下面からキャップ層5の上面までの厚さTHが4~5μm(4000~5000nm)である場合、最も厚い発光層EL04と最も薄い発光層EL01との厚みの違い(20~30nm)は、厚さTHの1%にも満たないことになる。このように、発光層ELのみを選択成長法により形成することにより、それぞれの発光部EMの高さの違いを抑制することができる。
【0050】
(効果)
同一面上に形成された発光層EL01、EL02、EL03、EL04の厚さに応じて、レーザ光の光スペクトルにおけるピーク波長の値を異ならせることができる。また、半導体レーザ装置の製造過程で、選択成長法にて形成されるのは発光層ELのみであるため(n型クラッド層、p型クラッド層は選択成長法では形成しない)、チップ全体の高さに占める段差が低減される。このように、結晶成長を3回(n型クラッド層、発光層EL、p型クラッド層)に分けて実施することで、n型/p型クラッド層(約4μm)には膜厚の差が生じず、相対的に薄く形成される発光層(約100nm)における膜厚のみに差が生じることになる。よって、発光部EMから放射されるそれぞれのビーム位置の高さの差が抑制される。更には、前述したようなJ-down実装する場合であっても、不具合を生じることはない。すなわち、実施の形態1では、チップ内の高さの違いから生じる実用上の問題を抑制する半導体レーザ装置を提供することができる。これにより、レーザ光の干渉による画質低下が抑制でき、広色域、高解像度、広視野角などの視感度や画質の更なる向上も可能となる。
【0051】
(変形例1)
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01の製造方法の変形例1について説明する。
図8Aは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例1に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。なお、
図8Aは、前記
図7Aで示す発光層ELに相当する部分の拡大図として示している。
【0052】
他の実施の形態1の変形例1では、
図8Aに示されるように、工程(1)の直後、および、工程(3)の直後において、バッファ層BAL(または再成長界面層とも言う)を形成している。すなわち、バッファ層BAL(厚さ3nm)は、n型クラッド層2の表面と、発光層ELの表面に形成されている。
【0053】
前述したように、赤色領域のレーザ装置は、Alを含む(AlxGa1-x)1-yInyPの結晶層から構成されるが、Alは非常に酸化し易い。よって、バッファ層BALは、工程間における結晶成長界面の酸化を抑制するための酸化防止層として形成される。Alの酸化が生じるとキャリアの非発光再結合の割合が増え、発光効率の低下などの性能低下が生じるため好ましくない。また、バッファ層BALは、Alを含まない、または、Al混晶比が少ない材料から選択され、例えば、GaInPまたはGaAsが選択される。なお、バッファ層BALとしてGaAsを選択した場合は、バッファ層BALを形成した後に引き続く工程の直前でエッチング除去しても良い。これは、GaAsは光を吸収してしまうため、工程間においてのAl酸化を抑制すれば、完成品においては存在していなくても良いからである。
【0054】
(変形例2)
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01の製造方法の変形例2について説明する。
図8Bは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例2に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。なお、
図8Bは、前記
図7Aで示す発光層ELに相当する部分の拡大図として示している。
【0055】
他の実施の形態1の変形例2では、
図8Bに示されるように、実施の形態1の工程(1)と工程(4)の途中で、バッファ層BALを形成している。すなわち、n型クラッド層2の形成途中でバッファ層BALを形成し、その上にマスクMKを形成した後に、残りのn型クラッド層2、発光層EL、p型クラッド層3の一部、バッファ層BALを一貫して選択成長する。そして、マスクMKの除去工程の後に、残りのp型クラッド層3、キャップ層5を一貫して結晶成長する。なお、p型クラッド層3中にエッチストップ層6を含んでも良い。これらの工程を経ることで、バッファ層BALは、n型クラッド層2の内部と、p型クラッド層3の内部において、発光層ELの界面から所定の距離をおいて形成されている。このように、発光層ELの界面から所定の距離を持ってバッファ層BALを設けることで、光の吸収を低減させること、および、屈折率の分布を調整することができる。各層の一例としては、p型クラッド層3は、AlInP から成り、その膜厚は2μmである。また、キャップ層5は、GaAsから成り、厚みは0.5μm、エッチストップ層6は、GaInPから成り、その膜厚は2nmである。
【0056】
なお、上述した変形例1、2は、以下に示す他の実施の形態2においても適用可能である。
【0057】
[他の実施の形態2]
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD1(
図9A)では、レーザ光を放射する3つの発光部EM11、EM12、EM13が形成され、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13の幅(EW11、EW12、EW13)の大きさが異なっている。また、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13からは異なる波長のレーザ光が放射される。また、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13における発光層EL11、EL12、EL13の結晶層の厚さEHが異なることに加え、それぞれの発光層EL11、EL12、EL13の結晶層の組成比も異なっている。
【0058】
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD1は、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13の結晶層の組成比を異ならせたことを除き、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01と同じ構成である。よって、特に言及しない限り、以下では、他の実施の形態1と異なる点について主に説明し、同じ説明の繰り返しは省略する。なお、他の実施の形態2においては、他の実施の形態1の左右の構成が反対になっており、他の実施の形態1で示された構成の内、発光部の数およびエッチストップ層6は、説明の都合上、省略されている。
【0059】
詳細は後述するが、赤色領域のレーザ光では、半導体レーザ装置の結晶層においてAl(アルミニウム)とIn(インジウム)が添加されているが、実施の形態2に係る半導体レーザ装置では、結晶層を構成する組成の内、取り分け、In(インジウム)の組成比をも変えることにより、異なる波長の複数のレーザ光を一つのチップから放射することを可能としているものである。
【0060】
(半導体レーザ装置の構成)
図9Aは、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD1の構成の一例を示す要部斜視図である。
図9Bは、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置における発光層EL11~EL13の構成の一例を示す要部断面図である。
【0061】
図9Aに示されるように、半導体レーザ装置LD1は、GaAs基板1の上に、n型クラッド層2、発光層EL11、EL12、EL13およびp型クラッド層3が形成されている。また、半導体レーザ装置LD1には、3つの発光部EM11、EM12、EM13が形成され、それぞれの発光部EMにおける発光層EL11、EL12、EL13の幅(
図9Aの中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)は、異なっている。すなわち、幅は、EW13<EW12<EW11、の関係になっている。また、発光層ELの厚さEHも他の実施の形態1と同じく、それぞれで異なっているが、他の実施の形態2では特に言及しない限り、厚さに関する説明を省略する。なお、厚さEHは、EH11<EH12<EH13、の関係になっている。更には、発光層ELの上端のエッジ部には、実施の形態1と同じく、傾斜面11が形成されているが、他の実施の形態2では省略して説明する。
【0062】
また、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13には、p型クラッド層3の一部をエッチング除去して形成した電流狭窄構造(電流注入構造)および横方向(
図9Aのx方向)の光閉じ込めのための構造としてのリッジ4が形成されている。なお、GaAs基板1の裏面とリッジ4の上面には、n側電極7Nとp側電極7Pが形成されている。
【0063】
n側電極7Nとp側電極7Pに電流を印加することで、3つの発光部EM11、EM12、EM13に形成される発光領域ER11、ER12、ER13から、赤色領域におけるレーザ光(波長:600nm~700nm)が放射される。放射される波長λは、発光部EM13>発光部EM12>発光部EM11、の関係となっている。一例として、発光領域ER11からは654nm、ER12からは658nm、ER13からは662nmの波長のレーザ光がそれぞれ放射される。
【0064】
なお、上述の例では、それぞれの波長は4nm毎の差異で設定されているが、これらの波長の差異は、1nm~30nmの間で適宜選択することができ。例えば、波長の差を1nmとした場合は、発光領域ER11からは620nm、ER12からは621nm、ER13からは622nmの波長のレーザ光がそれぞれ放射される。また、波長の差を30nmとした場合は、発光領域ER11からは630nm、ER12からは660nm、ER13からは690nmの波長のレーザ光がそれぞれ放射される。
【0065】
また、発光層EL11、EL12、EL13の結晶層は(AlxGa1-x)1-yInyP(0≦x<1、0<y<1)の結晶層から構成され、それぞれの発光層ELにおける結晶層のIn組成比(y)が異なっている。一例として、発光層EL11のIn組成比(y)は0.51、発光層EL12のIn組成比(y)は0.55、発光層EL13のIn組成比(y)は0.59である。このIn組成比(y)は、詳細は後述するが、0.35~0.65の範囲から選択することが好ましい。また、後述するように発光層ELは複数の層から構成されており、 Al組成(x)は量子井戸層QWが最も小さくなる。なお、Al組成(x)が約0.5よりも大きくなると間接遷移型となるため、量子井戸層QWのAl組成(x)は0.5以下となる。
【0066】
発光層EL11、EL12、EL13の構成の一例を
図9Bにより説明する。
図9Bに示されるように、発光層ELは、下部n側ガイド層nGL(数10nm)、量子井戸層QW(数nm~数10nm)、バリア層BL(数nm~数10nm)および上部p側ガイド層pGL(数10nm)から構成され、トータルで100nm程度の厚さで形成されている。
図9Aに示される発光領域ER11、ER12、ER13は、量子井戸層QWの所望領域に相当する。
図9Bにおいては、量子井戸層QWは、単一量子井戸層(SQW)として示されているが、多重量子井戸層(MQW)であっても良い。
【0067】
なお、本実施の形態にて発光層ELと表現する場合は、発光層ELに上述の下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLを全て含むことを意味する他、量子井戸層QWとバリア層BLを含むことを意味する場合、または、p型クラッド層3の一部をも含むことを意味する場合もある。
【0068】
(半導体レーザ装置の製造方法)
次に、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD1の製造方法の一例について説明する。
図10~
図14は、半導体レーザ装置LD1の製造方法に含まれる工程の一例を示す模式図である。
図10A~
図14Aは、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図10B~
図14Bは、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【0069】
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD1の製造方法は、主として、(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程と、(2)マスクMKを形成する工程と、(3)発光層EL11、EL12、EL13を選択成長法にて形成する工程、(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(マスクMKの除去工程を含む)、(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程、とを含む。
【0070】
(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程
まず、
図10Aおよび
図10Bに示されるように、GaAs基板1の上に厚さ約2μmのn型クラッド層2をMOCVD法でエピタキシャル成長する。n型クラッド層2の組成は(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP(0<x≦1、0<y<1)であり、ここではx=1、y=0.5とした。本実施の形態では、GaAs基板1との格子整合を考慮し、In組成yは0.5に調整している。また、AlとGaの組成比(x:1-x)は、xの方が大きいことが好ましく、(x:1-x)=1:0でも良い。
【0071】
(2)マスクMKを形成する工程
次に、
図10Cおよび
図10Dに示されるように、n型クラッド層2を形成した後、n型クラッド層2の表面にマスクMKとして機能する酸化シリコン(SiO
2)膜をCVD法にて形成する。このSiO
2膜は結晶成長を阻害する膜であり、例えば窒化シリコン(Si
3N
4)膜を用いても良い。
【0072】
SiO
2膜を形成後、
図11Aおよび
図11Bに示されるように、リソグラフィー法を用いてSiO
2膜に複数のストライプ状の開口部(本実施の形態では3つの開口部)を形成する。3つの開口部の幅は(
図9Aの中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)それぞれ異なり、
図11Aおよび
図11Bの左側から順に広くなるように形成する。すなわち、幅は、EW13<EW12<EW11、の関係となるように形成される。また、3つの開口部を形成するマスクMKのそれぞれの幅は(
図9Aの中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)、
図11Aおよび
図11Bの左側から順に狭くなるように形成する。一例として、それぞれのマスク幅は、MK4:50μm、MK3:35μm、MK2:30μm、MK1:15μmとした。
【0073】
(3)発光層EL11、EL12、EL13を選択成長法にて形成する工程
次に、
図12Aおよび
図12Bに示されるように、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLからなる発光層EL11、EL12、EL13を形成する。これらの層の形成には選択成長と呼ばれる方法にて実施する。選択成長法は、マスクMKの上面には結晶が成膜されないことを利用して、マスクMKの開口部の領域のみに所望の膜を形成するものである。
【0074】
選択成長法にて成長する結晶は(AlxGa1-x)1-yInyP(0≦x<1、0<y<1)であり、使用される原料ガスは、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)やトリメチルインジウム(TMI)などである。
【0075】
選択成長法により、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLの順で成膜をする。マスクMKの開口部が最も広い領域(EW11)には発光層EL11が形成され、マスクMKの開口部が最も狭い領域(EW13)には発光層EL13が形成される。また、中間の開口部の領域(EW12)には発光層EL12が形成される。
【0076】
この発光層ELを形成する工程では、(AlxGa1-x)1-yInyPを選択成長法により形成するが、元素の組成割合を示すxとyの値は次のように設定している。
【0077】
ガイド層GLはSCH(Separated Confinement Heterostructure)層や閉じ込め層と呼ばれることもあり、クラッド層2(3)よりも屈折率が高く、量子井戸層QWよりも屈折率が低いことが好ましい。そのため、クラッド層2(3)に比べてAl組成比xが小さくなるように原料の供給比を調整する。例えば、Al組成比xはクラッド層2(3)がもっとも高く、ガイド層GLまたはバリア層BL、量子井戸層QWの順に低くなるように原料ガスの供給量を調整する。
【0078】
本実施の形態では、ガイド層GL及びバリア層BLの組成は(AlxGa1-x)1-yInyPから成り、組成比をx=0.7、y=0.5とし、膜厚は、例えば50nm~60nmとした。また、量子井戸層QWの成長においては原料ガスのTMAの供給を行わず、量子井戸層QWはAlを含有しない(即ち、x=0)とし、層の組成はGaInPとしている。量子井戸層QWの厚さは5nm~6nmの範囲で形成されている。
【0079】
選択成長法にて形成される発光層ELは、光導波路としてはコア層として機能する。発光層ELの厚さは波長や各層の屈折率にも依存するが、赤色レーザでは約50nm~約500nmの範囲から選ばれ、本実施の形態では合計約100nmの厚さとしている。
【0080】
この発光層ELを形成する工程では、選択成長による成長レートを通常のレートよりも高めて実施している。例えば、通常の成長レートが1~2μm/hの場合であれば、本実施の形態では原料ガスの供給量を増加させて1.2~1.8程度に成長レートを高めた。このように成長レートを高めることにより、発光層EL11、EL12、EL13におけるIn組成を制御することができた。具体的には、In組成は、マスクMKの開口部が最も狭い領域(EW13)に形成される発光層EL13では一番高く、次いで、発光層EL12、発光層EL11の順でIn組成が低くなる。このように、マスクMKの開口幅が狭いストライプにおけるIn組成が高くなる条件を用いている。
【0081】
発光層EL11、EL12、EL13のそれぞれでIn組成が制御できるメカニズムについては明らかではないが、次の(i)~(iv)であると想定することができる。
(i)選択成長法ではマスクMKの表面では膜成長が生じないため、マスクMKの表面に供給された原料ガスは、マスクMKの表面上を移動して(migrate)、マスクMKの開口部の領域に移動する。(ii)マスクMKの表面積が大きいほど、移動する原料ガスの量が多くなる。(iii)表面積が大きなマスクMKに隣接するマスクMKの開口部の領域には、より多くの量の原料ガスが開口部に移動し、開口部における原料ガスの濃度が高くなる。また、マスクMKの開口部が小さければ原料ガスの濃度もより高くなる。(iv)結果として、マスクMKの開口部が最も狭い領域に形成される発光層EL13により多くのInが取り込まれることになる。このように、マスクMKの表面上での原料ガスの横方向拡散を促進させ、特に横方向拡散の影響を受けやすい原料(例えばInを含むTMI)の組成が高くなるという現象を利用して、各開口部の組成比を調整している。
【0082】
なお、発光層ELの厚さは、発光層EL11<発光層EL12<発光層EL13、の関係になっている。
【0083】
(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(マスクMKの除去工程を含む)
次に、
図13Aおよび
図13Bに示されるように、マスクMKを除去する。そして、
図14Aおよび
図14Bに示されるように、厚さ約2μmのp型クラッド層3をMOCVD法でエピタキシャル成長し、続けて0.5μmのキャップ層5を形成する。
【0084】
(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程
次に、
図14Cおよび
図14Dに示されるように、p型クラッド層3を所定形状にエッチング加工して、発光層EL11、EL12、EL13のそれぞれに対してリッジ4を形成する。そして、図示しないSiO
2等のパッシベーション酸化膜を成膜し、フォトリソグラフィとエッチング技術を用いてリッジ上部に酸化膜の開口部を設け、その上にn側電極7Pを形成する。また、GaAs基板1の裏面にn側電極7Nを形成する。その後、GaAs基板を劈開し、劈開面に端面コーティングなどを形成することで、
図9Aに示すような半導体レーザ装置LD1が形成される。
【0085】
(発振波長と組成比(In組成比)との関係)
次に、
図15~
図17を用いて、発振波長と組成比(In組成比)との関係について説明する。
図15と
図16は、選択成長法によって形成された量子井戸層QWにおけるIn組成比と発振波長との関係を示している図である。
図17は、量子井戸層QWのIn組成比に対するGa
1-yIn
yPの歪量を示す図である。
【0086】
なお、
図15と
図16は、発振波長と組成比(In組成比)との原理的な関係を示すため、量子井戸層QWの膜厚が発振波長に影響しないよう、量子井戸層QWの膜厚を厚く(例えば、20nm以上の厚さ)形成することにより得られたデータである(実施の形態2の量子井戸層QWは5nm~6nm)。よって、
図15と
図16は、実施の形態2の半導体レーザ装置LD1における構造(寸法等)と完全に一致するものではない。
【0087】
図15には、異なる幅(
図11Aおよび
図11BにおけるマスクMKの開口幅EWに相当)の発光部EM11、EM12、EM13に対して、工程(3)における選択成長の条件を、横方向拡散を大きくした場合と(図中の◆のプロット)、横方向拡散を小さくした場合(図中の■のプロット)の結果が示されている。
図16には、
図15の具体的な数値結果が示されている。
図15に示されるように、横方向拡散を小さくした場合には(図中の■のプロット)、発光部EM11、EM12、EM13における発振波長の変化は殆ど見られない。一方、横方向拡散を大きくした場合には(図中の◆のプロット)、発光部EM11、EM12、EM13のそれぞれで発振波長が変化していることが理解できる。
図16に具体的に示されるように、発光部EM11における量子井戸層QW(Ga
1-yIn
yP)のIn組成比yは0.51で、発振波長は654nmである。発光部EM12における量子井戸層QW(Ga
1-yIn
yP)のIn組成比yは0.55で、発振波長は658nmである。また、発光部EM13における量子井戸層QW(Ga
1-yIn
yP)のIn組成比yは0.59で、発振波長は662nmである。このように、量子井戸層QW(Ga
1-yIn
yP)のIn組成比yを変化させることで、発振波長を制御することができる。なお、上述のIn組成比は、リッジ4の下方位置の活性層ELにおける値を示している。
【0088】
図17は、量子井戸層QWのIn組成比に対するGa
1-yIn
yPの歪量を示す図である。
図17に示されるように、In組成比を0.5(歪量0%)から変化させることで、歪量も変化している。
図15および
図16に示されるように、In組成比によって発振波長を調整できるが、歪量が大きくなると活性層の品質が劣化し、発光効率が低下してしまう。したがって、Ga
1-yIn
yPの膜厚にも依存するが、膜厚10nm程度の量子井戸層QWの歪量は、-2.0%~+2.5%の範囲が好ましく、その場合におけるIn組成比は0.35~0.65となる。すなわち、発光層ELにおける量子井戸層QWのIn組成比は0.35~0.65の範囲から選択することが好ましい。なお、量子井戸層QWのIn組成比が0.35の場合の発振波長は620nmで、In組成比が0.65の場合の発振波長は690nmとなる。このように、In組成比を変更することで、発振波長を少なくとも620nmから690nmの範囲で制御することが可能となる。
【0089】
次に、本発明者らが、他の実施の形態2において、発光層の膜厚を変化させることに加え、発光層ELの結晶の組成比をも変えることで発振波長を変化(制御)させるに至った経緯を説明する。
【0090】
本発明者らは、波長を変化させる方法として、発光層の膜厚を変化させること、および、発光層の組成を変化させること、があると認識していた。また、本発明者らの検討によれば、波長が短いほど、発光層の膜厚に対する波長の変化量が小さいといことが見出された。例えば、赤色領域の波長帯の場合、量子井戸層QWは5nm付近の厚さであり、膜厚の調整では波長の変化量(調整範囲)に限界があり、膜厚の調整のみでは十分な波長差を確保できない可能性があるとの結論に至った。
そこで、本発明者らは、発光層の膜厚を変化させることに加え、発光層の組成差を利用することで、エネルギーバンドギャップを変化させて、波長の制御を行うことに着目した。
【0091】
ここで、赤色波長帯の(AlxGa1-x)1-yInyP活性層に対しては、少なくともAlとInから構成される(AlxGa1-x)1-yInyP混晶のクラッド層が必要である。エネルギーバンドギャップを変化させるため、Alの組成比(導入量)を増加させると、次の(1)(2)で示すようなプロセス上での技術的困難さを生じる場合がある。(1)Alは酸化しやすいため選択成長工程における界面処理が難しくなる。(2)Alは選択成長時のマスク上にポリ(poly)堆積物を形成し易く、成長させる結晶の組成制御が難しくなる。そこで、本発明者らは、エネルギーバンドギャップを変えるため、取り分け、結晶中のIn組成比を調整することで、波長変化量の制御性とプロセス上の有利さの両方に有効であることを見出した。すなわち、結晶層を構成する組成の内、In組成比を変えることにより、一つのチップから異なる波長の複数のレーザ光を容易に放射することが更に可能となる。
【0092】
(効果)
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD1も、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD01と同様の効果を奏する。なお、実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD1においては、発光層EL11、EL12、EL13の幅に応じて、それぞれの組成比が異なる発光層ELを形成することで、3つの発光部EM11、EM12、EM13から放射される波長を変えることができる。これにより、レーザ光の干渉による画質低下が抑制でき、広色域、高解像度、広視野角などの視感度や画質の更なる向上も可能となる。
【0093】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更され得る。たとえば、上記実施の形態では、赤色領域の半導体レーザ装置に関して説明したが、赤色以外の可視光領域であれば、他の色領域の半導体レーザ装置においても適用することが可能である。また、上記実施の形態では、GaAs(基板)/AlGaInP(結晶層)の半導体レーザ装置について説明したが、GaAs/AlGaAs、GaAs/InGaAsP、GaN/AlGaNの半導体レーザ装置においても適用することが可能である。
また、上記実施の形態では、一つの半導体レーザ装置から波長の異なる3つまたは4つのレーザ光を出射する場合について説明したが、出射するレーザ光は5つ以上であってもよい。
【0094】
また、特定の数値例について記載した場合であっても、理論的に明らかにその数値に限定される場合を除き、その特定の数値を超える数値であってもよいし、その特定の数値未満の数値であってもよい。また、成分については、「Aを主要な成分として含むB」などの意味であり、他の成分を含む態様を排除するものではない。
【0095】
また、上記実施の形態では、以下の形態を含む。
【0096】
(付記1)
基板と、
前記基板の主面に積層される、第1導電型の第1クラッド層と第2導電型の第2クラッド層と、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層とに挟まれるように形成され、前記基板主面に平行な第1の面上において形成される、発光層と、を有し、
前記発光層は、赤色領域のレーザ光を放射する複数の発光部を有し、
前記複数の発光部のそれぞれから放射されるレーザ光の光スペクトルにおけるピーク波長の値は、前記発光層の前記第1の面からの厚さに応じて異なっている、半導体レーザ装置。
【0097】
(付記2)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記複数の発光部のそれぞれから放射されるレーザ光の光スペクトルにおけるピーク波長の値は、前記発光層の前記第1の面からの厚さが厚いほど、長くなっている半導体レーザ装置。
【0098】
(付記3)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層は、前記複数の発光部をそれぞれ分離するように、前記第1の面上で分割して形成され、
前記発光層上に形成される前記第2クラッド層は、前記複数の発光部のそれぞれの上では同じ厚さで形成されている半導体レーザ装置。
【0099】
(付記4)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記第1クラッド層と前記発光層との間、および、前記発光層と前記第2クラッド層との間には、それぞれバッファ層が形成されている半導体レーザ装置。
【0100】
(付記5)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記第1クラッド層の中、および、前記第2クラッド層の中、にそれぞれ介在するようにバッファ層が形成されている半導体レーザ装置。
【0101】
(付記6)
付記4に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層は量子井戸層を有し、前記バッファ層の厚さは前記量子井戸層の厚さよりも薄い半導体レーザ装置。
【0102】
(付記7)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層の上部にリッジが形成され、
前記発光層は、前記リッジの長手方向において延びる側面を有し、前記側面は、前記発光層の厚みが増すにしたがい内側に傾斜している半導体レーザ装置。
【0103】
(付記8)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記複数の発光部のそれぞれの間隔は、5μm以上、100μm以下の範囲で形成されている半導体レーザ装置。
【0104】
(付記9)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層の上部には、前記複数の発光部に対応するようにリッジが形成され、
前記リッジのそれぞれの上部に電極が形成され、前記電極のそれぞれは異なる厚さを有し、
前記基板の主面から前記電極の上端面までの厚さ方向における寸法は、前記複数の発光部に対応する前記リッジのそれぞれで同じである半導体レーザ装置。
【0105】
(付記10)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層の上部には、前記複数の発光部に対応するようにリッジが形成され、
前記リッジは、前記電極部において接合材を介してサブマウントに接合され、
前記サブマウントは放熱性部材に接続されている半導体レーザ装置。
【0106】
(付記11)
基板の主面に第1導電型の第1クラッド層を形成する工程(A)と、
前記第1クラッド層の主面に、所定の開口を有したマスク層を形成する工程(B)と、
前記マスクの開口領域における前記第1クラッド層の主面上に、赤色領域のレーザ光を放射する複数の発光部を有する発光層を選択成長により成長する工程(C)と、
前記発光層の成長後、前記マスク層を除去する工程(D)と、
前記第1クラッド層および前記発光層の上面に亘って、第2導電型の第2クラッド層とキャップ層を形成する工程(E)と、
前記第2クラッド層と前記キャップ層の一部をエッチング除去することで、所定の領域にリッジ部を形成する工程(F)と、
から成る半導体レーザ装置の製造方法。
【0107】
(付記12)
付記11に記載の半導体レーザ装置の製造方法において、
前記工程(A)と前記工程(C)のそれぞれの後に、バッファ層を形成する工程(G)を有する半導体レーザ装置の製造方法。
【0108】
(付記13)
付記11に記載の半導体レーザ装置の製造方法において、
前記工程(A)と前記工程(E)のそれぞれの途中に、バッファ層を形成する工程(G)を有する半導体レーザ装置の製造方法。
【符号の説明】
【0109】
BL バリア層
BAL バッファ層
EM 発光部
EL 発光層
ER 発光領域
EW 発光層の幅
EH 発光層の厚さ
LD 半導体レーザ装置
QW 量子井戸層
MK マスク
nGL 下部n側ガイド層
pGL 上部p側ガイド層
1 GaAs基板
2 n型クラッド層
3 p型クラッド層
4 リッジ
5 キャップ層
6 エッチストップ層
7P p側電極
7N n側電極
11 傾斜面