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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/02 20060101AFI20250402BHJP
   F28F 23/02 20060101ALI20250402BHJP
【FI】
F28D20/02 F
F28F23/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021039237
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139032
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋臣
(72)【発明者】
【氏名】後藤 祐介
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-046582(JP,A)
【文献】特開昭61-022194(JP,A)
【文献】特開昭63-105219(JP,A)
【文献】特開昭62-162898(JP,A)
【文献】特開昭63-014089(JP,A)
【文献】特開昭63-189789(JP,A)
【文献】特開2013-194971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/02
F28F 23/02
B60H 1/08
C09K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を担持する過冷却防止媒体を収納した種結晶部と、
前記種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材を収容した蓄熱部と、
前記種結晶部と前記蓄熱部を分割する狭窄部と、
前記潜熱蓄熱材への伝熱部と、
前記種結晶部と前記蓄熱部との間を開閉可能に移動するシール部を先端に有するバルブと
を備えた潜熱蓄熱装置であって、
前記バルブの基端が、前記潜熱蓄熱装置の前記種結晶部側に配置されており、前記過冷却防止媒体が、前記シール部よりも基端側のバルブの部位に配置され
前記シール部を前記狭窄部に押し当ることで前記狭窄部を閉じることができ、
前記水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩の一部が前記過冷却防止媒体の表面から露出している潜熱蓄熱装置。
【請求項2】
前記シール部のシール材と、前記過冷却防止媒体の前記アルカリ土類金属の塩を担持する担体とが、同一の材質により一体形成されてなるものである請求項1に記載の潜熱蓄熱装置。
【請求項3】
前記材質が室温硬化性シリコーンゴムである請求項2に記載の潜熱蓄熱装置。
【請求項4】
潜熱蓄熱装置の種結晶部と蓄熱部との間を開閉可能に移動するバルブの先端部であって、前記種結晶部と前記蓄熱部との間を閉じるために前記潜熱蓄熱装置の一部と接触する領域である接触部位と、この接触部位よりも基端側の領域である基端部位とに、未硬化のシール材を付与する工程と、
前記基端部位に付与された前記未硬化のシール材の表面に、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を圧入して、その一部分を埋め込む工程と、
前記未硬化のシール材を硬化させ、前記接触部位にシール部を形成するとともに、前記基端部位に過冷却防止媒体を形成する工程と
を含む潜熱蓄熱装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等の移動体のエンジンを始動する際に、暖機を促進して燃費向上や排ガスの浄化を行ったり、暖房性能を向上するために、移動体から排出される熱エネルギを蓄熱材に一時的に蓄えて使用する蓄熱装置が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、加熱溶融後の放冷時に過冷却状態を生じさせる潜熱型蓄熱物質を納めた蓄熱容器と、蓄熱物質への伝熱手段と、過冷却状態を崩壊させる結晶核形成物質を納めた種結晶容器と、蓄熱容器と種結晶容器との各内部を連通させる連通手段と、この連通手段の連通断続手段とを備えた蓄熱装置が記載されている。この蓄熱装置は、種結晶容器内の、連通手段から最も隔たった個所に結晶核形成物質を充填すると共に、残余の空間に潜熱型蓄熱物質を満たしたことを特徴とするものである。
【0004】
特許文献1に記載されているような過冷却タイプの潜熱型蓄熱物質の蓄熱原理は、固相の状態でその融点以上に加熱されると、液相に変態する。この液相は融点以下に冷却しても再結晶化することなく、過冷却状態として液相を保ちつづけ、加熱時の吸収熱が潜熱として蓄えられる。この吸収熱を利用したい時に、過冷却状態を崩壊させる働きをもった結晶核形成物質を蓄熱物質に触れさせることによって、再結晶化することから、蓄積潜熱は液相から固相への状態変化に伴う放散熱として、極短時間で取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-68418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、過冷却状態にある液相の蓄熱物質を任意のタイミングで発核させて、固相に相変化させるためには、種結晶が必要である。その種結晶を安定して保持するために、融点以下では蓄熱物質を強制的に固体へと相変化させる過冷却防止剤を用いることが知られている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている蓄熱装置において、種結晶容器に過冷却防止剤を用いると、放熱時に蓄熱容器と種結晶容器を連通させ、蓄熱容器内の蓄熱物質が種結晶容器側に流れる際、蓄熱物質に過冷却防止剤が溶出すると、蓄熱容器内へ過冷却防止剤が混入し、蓄熱容器での蓄熱ができなくなるという問題がある。
【0008】
特に、蓄熱物質への伝熱時に蓄熱容器だけでなく種結晶容器までも温度が上昇してしまうと、過冷却防止剤の溶出が大きくなるため、過冷却防止剤を収容する種結晶容器を蓄熱容器から遠ざけて配置する必要があり、よって、蓄熱装置をコンパクトにできないという課題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、過冷却防止剤が潜熱蓄熱材へ溶出することによる蓄熱の不具合を抑止できるとともに、過冷却防止剤を伝熱手段の近傍に配置することが可能で、潜熱蓄熱装置をコンパクトにできる潜熱蓄熱装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、潜熱蓄熱装置であって、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を担持する過冷却防止媒体を収納した種結晶部と、前記種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材を収容した蓄熱部と、前記潜熱蓄熱材への伝熱部と、前記種結晶部と前記蓄熱部との間を開閉可能に移動するシール部を先端に有するバルブとを備え、前記バルブの基端は、前記潜熱蓄熱装置の前記種結晶部側に配置されており、前記過冷却防止媒体は、前記シール部よりも基端側のバルブの部位に配置されている。
【0011】
また、本発明は、別の態様として、潜熱蓄熱装置の製造方法であって、潜熱蓄熱装置の種結晶部と蓄熱部との間を開閉可能に移動するバルブの先端部であって、前記種結晶部と前記蓄熱部との間を閉じるために前記潜熱蓄熱装置の一部と接触する領域である接触部位と、この接触部位よりも基端側の領域である基端部位とに、未硬化のシール材を付与する工程と、前記基端部位に付与された前記未硬化のシール材の表面に、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を圧入して、その一部分を埋め込む工程と、前記未硬化のシール材を硬化させ、前記接触部位にシール部を形成するとともに、前記基端部位に過冷却防止媒体を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明よれば、過冷却防止剤を担持する過冷却防止媒体を潜熱蓄熱装置の種結晶部に収納することで、過冷却防止剤が潜熱蓄熱材へ溶出することによる蓄熱の不具合を抑止できるとともに、この過冷却防止媒体は伝熱部の近傍に配置することが可能で、よって、潜熱蓄熱装置をコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る潜熱蓄熱装置の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す潜熱蓄熱装置の放熱時の状態を模式的に示す断面図である。
図3】本発明に係る潜熱蓄熱装置の別の実施の形態を模式的に示す断面図である。
図4図3に示す潜熱蓄熱装置の放熱時の状態を模式的に示す断面図である。
図5】本発明に係る潜熱蓄熱装置の更に別の実施の形態を模式的に示す断面図である。
図6図5に示す潜熱蓄熱装置の放熱時の状態を模式的に示す断面図である。
図7】本発明に係る潜熱蓄熱装置の製造方法の一実施の形態を模式的に説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る潜熱蓄熱装置およびその製造方法の一実施の形態について説明する。
【0015】
[第1の実施形態の潜熱蓄熱装置]
第1の実施形態の潜熱蓄熱装置1Aは、図1に示すように、ニードルバルブ10と、ニードルバルブ10のシール部11を収容する本体容器20とを主に備える。本体容器20は、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を担持する過冷却防止媒体12を収納する円筒形の種結晶部22と、種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材24を収容する円筒形の蓄熱部21とを主に備える。また、種結晶部22にも、潜熱蓄熱材24が収容されている。
【0016】
潜熱蓄熱装置1Aは、本体容器20の中央位置に、蓄熱部21および種結晶部22よりも内径が狭い狭窄部23を備えており、これによって本体容器20内が蓄熱部21と種結晶部22に分割されている。また、種結晶部22には、狭窄部23を開閉可能に移動するシール部11を先端に備えるバルブ10の基端側が設けられている。
【0017】
バルブ10は、その先端から順に、狭窄部23の内径よりも大きい円錐形状のシール部11と、過冷却防止媒体12と、シール部11を狭窄部23に対して開閉可能に移動させるためのスピンドル13とを備える。なお、シール部の円錐面の角度は、狭窄部23と種結晶部22とを結ぶ円錐面の角度に適合するものである。シール部11の狭窄部23に対する開閉の移動は、潜熱蓄熱装置1Aの制御回路(図示省略)によって制御される。
【0018】
シール部11の表面は弾性体で形成されており、本体容器20の狭窄部23に押し当ることで、狭窄部23を閉じることができる。過冷却防止媒体12は、シール部11と同じ弾性体で表面が形成されており、この弾性体の表面には、過冷却防止剤である、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩が担持されている。
【0019】
アルカリ土類金属としては、過冷却防止剤として優れた過冷却防止効果を奏するとともに、水に不溶性又は難溶性の塩を生成するという観点から、ストロンチウムやバリウムなどが好ましい。また、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩としては、硫酸ストロンチウムや、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウム、炭酸バリウムなどが好ましい。このように、水に不溶性又は難溶性の塩である過冷却防止剤が、過冷却防止媒体12に担持されていることから、過冷却防止剤が過冷却防止媒体12から流出し、狭窄部23を通って、潜熱蓄熱材24を収容する蓄熱部21に移動することを防ぐことができる。
【0020】
なお、本明細書において、「水に不溶性」とは、常温(25℃)で水100gに対する溶解度が0.01g以下のものをいう。また、「水に難溶性」とは、常温(25℃)で水100gに対する溶解度が0.1g以下で0.01g超のものをいう。硫酸ストロンチウムの溶解度は0.014g/水100mlであり、水に難溶性である。炭酸ストロンチウムの溶解度は0.0011g/水100mlであり、水に不溶性である。硫酸バリウムの溶解度は、2.5×10-4g/水100mlであり、水に不溶性である。
【0021】
シール部11の弾性体としては、潜熱蓄熱材24が蓄熱部21と種結晶部22との間を連通するのを遮断できるように狭窄部23内面と密着可能な材料であれば、特に限定されないが、ゴムや、エラストマー、樹脂などを挙げることができる。特に、柔軟性や、加熱と冷却の繰り返しに対する耐久性の高さから、ゴムが好ましい。ゴムとしては、具体的には、シリコーンゴムや、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴムなどを挙げることができる。柔軟性に優れた材質を使用することで、潜熱蓄熱材24が相変化する際の体積変化や、結晶の成長過程での潜熱蓄熱材24相変化時の応力の発生を緩和することができる。
【0022】
また、シール部11のシール材(すなわち、弾性体)と、過冷却防止媒体12の過冷却防止剤を担持する担体とを、同一の材質により一体形成されてなるものを用いることが好ましい。シール部11と過冷却防止媒体12とを一体形成することで、潜熱蓄熱装置1Aの部品点数を削減して製造コストの低減化を図れるとともに、シール部11のシール性を確保しつつ、過冷却防止媒体12では、その表面上に過冷却防止剤の結晶を露出させることができる。
【0023】
潜熱蓄熱材24としては、固相の状態でその融点以上に加熱されると、液相に状態変化し、その後、融点以下に冷却しても過冷却状態として液相を保ちつづけ、加熱時の吸収熱を潜熱として蓄えることができる物質であれば、特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム水和物や、酢酸ナトリウム水和物、硫酸ナトリウム水和物などが好ましい。
【0024】
本体容器20は、潜熱蓄熱材24を固相および液相の間で状態変化させるための加熱および冷却に耐え得るものでよく、従来の潜熱蓄熱装置における潜熱蓄熱材を収容する容器の素材や構造を用いてもよい。例えば、素材としては、熱伝導性が良好なことから、ステンレス鋼や、アルミニウム合金、真鍮等が挙げられ、構造としては、直方体や、その他の任意の立体形状でよい。また、潜熱蓄熱装置1Aの外周面には、潜熱蓄熱材24への伝熱手段として、例えば、伝熱面積増大用フィンなどの伝熱部(図示省略)が取り付けてある。フィンとしては、ヒレ状フィンや、コルゲートフィンなどを採用してよい。
【0025】
このような構成を有する潜熱蓄熱装置1Aの蓄熱および放熱について、図1及び図2を参照して説明する。先ず、蓄熱が完了しており、放熱を行う前の状態の潜熱蓄熱装置1Aは、図1に示すように、ニードルバルブ10が閉じられた状態であり、シール部11が狭窄部23に密着している。蓄熱部21内には液相の潜熱蓄熱材24Lが収容されている。種結晶部22内には過冷却防止媒体12が配置されていることから、種結晶部22内は、固相の潜熱蓄熱材24S、すなわち、種結晶となっている。
【0026】
次に、潜熱蓄熱装置1Aの放熱を行う場合、潜熱蓄熱装置1Aは、図2に示すように、ニードルバルブ10を移動させて狭窄部23を開くことで、蓄熱部21内の液相の潜熱蓄熱材24Lが、狭窄部23の流路25を通って種結晶部22内に流れ、種結晶部22内の種結晶となっている固相の潜熱蓄熱材24Sと接触する。これによって、液相の潜熱蓄熱材24Lが発核して固相となり、放熱が起こる。
【0027】
放熱が完了するまで、蓄熱部21内は固相の潜熱蓄熱材24Sである。この状態で、潜熱蓄熱装置1Aの蓄熱を開始する。蓄熱部21内も種結晶部22内も全て固相の潜熱蓄熱材24Sであるため、ニードルバルブ10を閉じることはできない。
【0028】
蓄熱が完了すると、蓄熱部21内および種結晶部22内の潜熱蓄熱材24は、融点以上に加熱されているため、いずれも液相となる。この状態になったら、ニードルバルブ10を閉めることができる。
【0029】
その後、潜熱蓄熱装置1Aが融点以下に冷却されると、種結晶部22内の潜熱蓄熱材24Lは、過冷却防止媒体12が配置されているため、固相に状態変化する。よって、再び、図1に示すように、放熱を行う準備状態となる。このように第1の実施形態の潜熱蓄熱装置1Aは放熱と蓄熱を繰り返し行うことができる。
【0030】
なお、過冷却防止剤が担持されておらず、過冷却防止剤が潜熱蓄熱材に混入してしまうと、蓄熱完了時、種結晶内22内の液相の潜熱蓄熱材24Lに、潜熱蓄熱材と過冷却防止剤からなる種結晶が残り、この種結晶が、狭窄部23の流路25を通って、蓄熱部21内の液相の潜熱蓄熱材24Lにまで流れてくるおそれがある。蓄熱部21内に過冷却防止剤が混入してしまうと、蓄熱部21内の液相の潜熱蓄熱材24Lが過冷却状態にならず、蓄熱できなくなってしまうという問題が発生する。
【0031】
第1の実施形態の潜熱蓄熱装置1Aでは、過冷却防止剤が担持された過冷却防止媒体12として種結晶部22内に収納されており、また、水に不溶性または難溶性の塩であることから、潜熱蓄熱材24へ流出することがなく、よって、過冷却防止剤が蓄熱部21内に混入することを防ぐことができる。
【0032】
なお、本発明の潜熱蓄熱装置は、上述した第1の実施形態に限定されず、多種多様な実施形態とすることができる。例えば、図3図4に示す第2の実施形態の潜熱蓄熱装置1Bや、図5図6に示す第3の実施形態の潜熱蓄熱装置1Cのように、先端部がニードル状ではないバルブとしてもよいし、先端部のシール部と過冷却防止媒体は、同一材質による一体形成されたものでなくてもよい。以下、より具体的に説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については説明を省略している。
【0033】
[第2の実施形態]
第2の実施形態の潜熱蓄熱装置1Bは、図3に示すように、バルブ30と、バルブ30のシール部31を収容する本体容器40とを主に備える。バルブ30と本体容器40との間には、シール性を確保するために、Oリング34が設けられている。
【0034】
バルブ30は、その先端から順に、先端側が広い円錐形状のシール部31と、過冷却防止媒体32と、シール部31を開閉可能に移動させるためのスピンドル33とを備える。過冷却防止媒体32は、スピンドル33のシール部31に隣接する部位に配置されている。
【0035】
本体容器40は、過冷却防止媒体32を収納する円筒形状の種結晶部42と、種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材44を収容する円筒形状の蓄熱部41とを主に備える。蓄熱部41より種結晶部42の方が内径が狭い。
【0036】
潜熱蓄熱装置1Bは、本体容器40の中央位置に、円錐台形状の狭窄部43を備えている。シール部31の円錐面の角度は、狭窄部43の円錐面の角度に適合するものである。
【0037】
このような構成を有する潜熱蓄熱装置1Bでは、放熱を行う前の状態は、図3に示すように、バルブ30が閉じられた状態であり、シール部31が狭窄部43に密着している。蓄熱部41内には液相の潜熱蓄熱材44Lが収容されている。種結晶部42内には過冷却防止媒体32が配置されていることから、種結晶部42内は、固相の潜熱蓄熱材44S、すなわち、種結晶となっている。
【0038】
次に、潜熱蓄熱装置1Bの放熱を行う場合、潜熱蓄熱装置1Bは、図4に示すように、バルブ30を移動させて狭窄部43を開くことで、蓄熱部41内の液相の潜熱蓄熱材44Lが、狭窄部43の流路45を通って種結晶部42内に流れ、種結晶部42内の種結晶となっている固相の潜熱蓄熱材44Sと接触し、液相の潜熱蓄熱材44Lが発核して固相となり、放熱が起こる。
【0039】
放熱が完了し、更に蓄熱が完了すると、蓄熱部41内および種結晶部42内の潜熱蓄熱材44は融点以上となっており、液相となっていることから、バルブ30を閉める。その後、潜熱蓄熱装置1Bが融点以下に冷却されると、種結晶部42内の潜熱蓄熱材44Lは、過冷却防止媒体32が配置されているため、固相に状態変化する。よって、再び、図3に示すように、放熱を行う準備状態となる。このように第2の実施形態の潜熱蓄熱装置1Bは放熱と蓄熱を繰り返し行うことができる。
【0040】
[第3の実施形態]
第3の実施形態の潜熱蓄熱装置1Cは、図5に示すように、バルブ50と、バルブ50のシール部51を収容する本体容器60とを主に備える。バルブ50と本体容器60との間には、シール性を確保するために、グロメット54が設けられている。
【0041】
バルブ50は、その先端から順に、板形状のシール部51と、過冷却防止媒体52と、シール部51を開閉可能に移動させるためのスピンドル53とを備える。過冷却防止媒体52は、スピンドル53のシール部51に隣接する部位に配置されている。
【0042】
本体容器60は、過冷却防止媒体52を収納する種結晶部62と、種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材64を収容する円筒形状の蓄熱部61とを主に備える。種結晶部62は、シール部51の背面51Bとグロメット54の内面55とに囲まれた部分である。
【0043】
このような構成を有する潜熱蓄熱装置1Cでは、放熱を行う前の状態は、図5に示すように、バルブ50が閉じられた状態であり、シール部51の背面51Bがグロメット54の内面55に密着している。蓄熱部61内には液相の潜熱蓄熱材64Lが収容されている。種結晶部62内には過冷却防止媒体52が配置されていることから、種結晶部62内は、固相の潜熱蓄熱材64S、すなわち、種結晶となっている。
【0044】
次に、潜熱蓄熱装置1Cの放熱を行う場合、潜熱蓄熱装置1Cは、図6に示すように、バルブ50を移動させてシール部51とグロメット52との間を開くことで、蓄熱部61内の液相の潜熱蓄熱材64Lが、その間の流路65を通って種結晶部62内に流れ、種結晶部62内の種結晶となっている固相の潜熱蓄熱材64Sと接触し、液相の潜熱蓄熱材64Lが発核して固相となり、放熱が起こる。
【0045】
放熱が完了し、更に蓄熱が完了すると、蓄熱部61内および種結晶部62内の潜熱蓄熱材64は融点以上となっており、液相となっていることから、バルブ50を閉める。その後、潜熱蓄熱装置1Cが融点以下に冷却されると、種結晶部62内の潜熱蓄熱材64Lは、過冷却防止媒体52が配置されているため、固相に状態変化する。よって、再び、図5に示すように、放熱を行う準備状態となる。このように第3の実施形態の潜熱蓄熱装置1Cは放熱と蓄熱を繰り返し行うことができる。
【0046】
次に、本発明に係る潜熱蓄熱装置の製造方法一実施の形態について説明する。
【0047】
本実施の形態の潜熱蓄熱装置の製造方法は、図7に示すように、アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液71(単に「陽イオン含有水溶液」とも呼ぶ)と、アルカリ土類金属の陽イオンと反応して水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液72(単に「陰イオン含有水溶液」とも呼ぶ)とを混合する工程(図7(a))と、これら水溶液が反応し、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩73(過冷却防止剤)の沈殿物が生成する工程(図7(b))と、ニードルバルブ80の先端部81全体に、未硬化のシール材74を付与する工程(図7(c))と、先端部81の基端部位83の未硬化のシール材74の表面に、過冷却防止剤73を圧入する工程(図7(d))と、未硬化のシール材を硬化させる工程(図示省略)とを含む。各工程について更に詳細に説明する。
【0048】
混合工程では、図7(a)に示すように、スクリュー瓶等の容器70に、アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液71を入れる。アルカリ土類金属としては、上述したように、例えば、ストロンチウムやバリウムなどである。その水溶液としては、水に不溶性又は難溶性の塩を生成するという観点から、塩化アルカリ土類金属水溶液や、水酸化アルカリ土類金属水溶液、硝酸アルカリ土類金属水溶液などが好ましい。陽イオン含有水溶液71の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1~1.5mol/Lが好ましく、1~1.2mol/Lがより好ましい。
【0049】
そして、アルカリ土類金属の陽イオンと反応して水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液72を容器10に入れる。このような陰イオンとしては、陽イオン含有水溶液71の種類によって異なるが、例えば、硫酸イオンや、炭酸イオン、酸化物イオンなどが好ましい。また、陰イオン含有水溶液72の濃度は、陽イオン含有水溶液71の濃度に合わせて、水に不溶性又は難溶性の塩が生成するのに必要な理論量でよい。
【0050】
沈殿物生成工程では、図7(b)に示すように、陽イオン含有水溶液71中のアルカリ土類金属の陽イオンと、陰イオン含有水溶液72中の陰イオンとが反応し、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩73が沈殿する。この水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩73が、過冷却防止剤として機能する。この反応の一例として、陽イオン含有水溶液71が塩化ストロンチウム水溶液、陰イオン含有水溶液72が希硫酸である場合の反応式を、以下に示す。この反応では、硫酸ストロンチウムが過冷却防止剤として生成する。
SrCl+HSO→SrSO+2HCl
【0051】
水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩73の沈殿物は、濾過した後、乾燥させることで、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩73の粒状物を得ることができる。粒状物の粒径は、特に限定されないが、例えば、10~1000μmの範囲であればよい。
【0052】
シール材付与工程では、図7(c)に示すように、ニードルバルブ80の先端部81の全体(潜熱蓄熱装置の種結晶部と蓄熱部との間を閉じるために、潜熱蓄熱装置の一部と接触する領域を含む接触部位82と、この接触部位82よりも基端側の領域である基端部位83とを含む)に、未硬化のシール材74を塗布する。シール材は、硬化して弾性体となるものである。弾性体としては、上述したように、例えば、ゴムや、エラストマー、樹脂などを挙げることができ、特に、ゴムが好ましく、具体的には、シリコーンゴムなどである。
【0053】
未硬化のシール材74の付与は、例えば、スプレー噴霧や、塗布などによって、ニードルバルブ80の先端部81表面に、未硬化のシール材74を均等な厚さで付与することができる。未硬化のシール材74の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1~10mmの範囲であればよい。
【0054】
過冷却防止剤圧入工程では、図7(d)に示すように、先端部81の基端部位83にだけ、未硬化のシール材74の表面に、水に不溶性又は難溶性の塩73の粒状物を圧入する。これにより、水に不溶性又は難溶性の塩73の粒状物の一部分を、未硬化のシール材74に埋め込むことができる。水に不溶性又は難溶性の塩73は、基端部位83において、単位面積当たり、例えば、0.1~10gの範囲であれば、潜熱蓄熱装置の過冷却防止剤として十分に機能させることができる。
【0055】
シール材硬化工程では、未硬化のシール材74を硬化させることで、潜熱蓄熱装置の種結晶部と蓄熱部との間を開閉可能に移動するバルブにおいて、その先端部81の接触部位82にシール部を形成することができ、基端部位83に過冷却防止媒体を形成することができる。シール材の硬化は、例えば、2液混合による硬化や、加熱による硬化、空気中の湿気による硬化(室温硬化)などによって行うことができるが、このうち、室温硬化が特に好ましい。常温で湿気に触れると硬化して弾性体になるため、成形が容易であり、また、精度の高い成型ができ、これよりシール部において、優れた耐振動性、耐衝撃性、耐熱性を確保することができる。このような硬化の種類に合わせて、未硬化のシール材の材質を選択する。例えば、室温硬化性シリコーン材を用いることが好ましい。
【0056】
このようにして得られたバルブを、潜熱蓄熱装置の本体容器に組み込むことで、本発明の潜熱蓄熱装置を製造することができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0058】
[過冷却防止媒体の調製]
塩化ストロンチウム(SrCl)水溶液に10wt%希硫酸を加えることで、硫酸ストロンチウム(SrSO)の沈殿を生じさせた。この硫酸ストロンチウムの沈殿を濾紙で濾過し、乾燥させて、粉末状の硫酸ストロンチウムを得た。次に、この粉末状の硫酸ストロンチウム0.003gに対し、室温硬化性のシリコーンゴム(スリーボンド社製の商品名:シリコーン系液状ガスケット、品番:TB1215)を1.0g加えて混ぜ合わせ、粒径が約5~10mmの粒状物に成形した。そして、十分に放置して硬化させ、硫酸ストロンチウムが担持したシリコーンゴム体(すなわち、過冷却防止媒体)を得た。
【0059】
[過冷却防止効果の評価試験]
このようにして得た硫酸ストロンチウムが担持したシリコーンゴム(約0.03g)と、潜熱蓄熱材として塩化カルシウム6水和物(CaCl・6HO)(約20g)とをスクリュー瓶に入れ、塩化カルシウム6水和物の融点である30℃以上に加熱した。その後、チラーを用いて2~5℃に設定された冷却プレート上にスクリュー瓶を設置し、発核するかを調査した。冷却プレートは、冷却プレートとスクリュー瓶との伝熱を促進するために、水に浸し、設置したスクリュー瓶の底付近は水に浸り、効率よく冷却させた。この加熱と冷却の操作を、15回繰り返し(n=15)、発核回数を調べた。
【0060】
また、加熱と冷却の操作の繰り返しによる過冷却防止媒体の形状の変化(割れや、破片の有無)を観察し、耐久性を調査した。その際、シリコーンゴムから硫酸ストロンチウムが流出していないか確認するため、試験後にスクリュー瓶から過冷却防止媒体を取り除き、この状態で潜熱蓄熱材が過冷却状態になるか否かも調べた。なお、比較のため、活性炭についても同様の加熱と冷却の操作を繰り返し、その形状の変化を観察した。
【0061】
その結果、硫酸ストロンチウムが担持したシリコーンゴムは、発核回数が15回と全ての回で発核し、試験中、過冷却防止効果を維持していた。また、耐久性についても、試験を通じて割れが発生することはなかった。試験後に過冷却防止媒体を取り除いた潜熱蓄熱材が冷却プレート上で過冷却状態になることも観察され、硫酸ストロンチウムがシリコーンゴムから流出していないことも確認できた。一方、活性炭は、10回の繰り返しで、割れが発生してしまった。
【0062】
試験の結果から、シリコーンゴムに粉末状の硫酸ストロンチウムを加えて固めるだけでも、硫酸ストロンチウムの結晶の一部がシリコーンゴムの表面から露出し、周囲の塩化カルシウム6水和物の過冷却を防止していると考えられる。また、ゴム素材は、加熱と冷却の繰り返しに対して、割れが生じ難いということも確認できた。更に、流出試験の結果から、硫酸ストロンチウムは水に難溶性であり、よって、水に不溶性または難溶性の塩であれば、加熱と冷却を繰り返しても、シリコーンゴムから潜熱蓄熱材へ流出しないと推測される。よって、水に不溶性である炭酸ストロンチウムも、本発明の過冷却防止媒体として硫酸ストロンチウムと同等の効果が得られると推測される。
【0063】
また、硫酸バリウムや炭酸バリウムは、硫酸ストロンチウムや炭酸ストロンチウムと結晶構造が斜方晶で共通し、単位格子も非常に近いことから、過冷却防止効果を有すると推測される。更に、硫酸バリウムや炭酸バリウムは、水に不溶性である。よって、硫酸バリウムと炭酸バリウムも、本発明の過冷却防止媒体として硫酸ストロンチウムや炭酸ストロンチウムと同等の効果が得られるものと推測される。
【符号の説明】
【0064】
1 潜熱蓄熱装置
10 ニードルバルブ
11、31、51 シール部
12 過冷却防止媒体
13 スピンドル
14 過冷却防止剤
15 担体(シール材)
20、40、60 本体容器
21、41、61 蓄熱部
22、42、62 種結晶部
23 狭窄部
24 潜熱蓄熱材
25、45、65 流路
30、40 バルブ
34 Oリング
54 グロメット
70 スクリュー瓶
71 アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液
72 水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液
73 水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩
74 未硬化のシール材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7