(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】冷凍機油
(51)【国際特許分類】
C10M 161/00 20060101AFI20250402BHJP
C10M 145/14 20060101ALN20250402BHJP
C10M 145/10 20060101ALN20250402BHJP
C10M 145/16 20060101ALN20250402BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20250402BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20250402BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20250402BHJP
【FI】
C10M161/00
C10M145/14
C10M145/10
C10M145/16
C10N40:30
C10N30:06
C10N20:02
(21)【出願番号】P 2022518090
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2021016821
(87)【国際公開番号】W WO2021221063
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020080368
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】奈良 文之
(72)【発明者】
【氏名】庄野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英俊
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184569(JP,A)
【文献】特開2007-204568(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097173(WO,A1)
【文献】国際公開第1993/013185(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/105452(WO,A1)
【文献】特開2005-281603(JP,A)
【文献】特開2011-162766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、
リン含有添加剤と、
不飽和カルボン酸エステルを単量体単位として含む重合体と、を含有する冷凍機油
であって、
前記リン含有添加剤が、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、及びトリフェニルフォスフォロチオネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記重合体が、(メタ)アクリル酸エステルからなる共重合体、(メタ)アクリル酸エステルとα-オレフィンとからなる共重合体、及び、マレイン酸エステルとα-オレフィンとからなる共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記(メタ)アクリル酸エステルが、炭素数1~18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも1種と、炭素数4以上20未満の2位分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも1種とを含む、冷凍機油。
【請求項2】
前記潤滑油基油が、40℃における動粘度が6mm
2/s未満の第1の炭化水素系基油を含む、請求項1に記載の冷凍機油。
【請求項3】
前記潤滑油基油が、前記第1の炭化水素系基油と、40℃における動粘度が6mm
2/s以上の第2の炭化水素系基油との混合基油であり、かつ、
前記混合基油の40℃における動粘度を(A)とし、前記第1の炭化水素系基油の40℃における動粘度を(B)としたときに、(A)/(B)が1を超え1.5以下である、請求項2に記載の冷凍機油。
【請求項4】
40℃における動粘度が10mm
2/s以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷凍機油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫等の冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁、キャピラリ)、蒸発器等を有する冷媒循環システムを備えており、冷媒がこの冷媒循環システム内を循環することで熱交換が行われている。
【0003】
冷凍機用圧縮機は、ロータリー式圧縮機、ピストン・クランク式圧縮機等がある。例えば、ピストン・クランク式圧縮機では、モータの回転運動をコンロッドで往復運動に変換し、当該コンロッドと連結したピストンを往復運動させることで、冷媒を圧縮する。冷凍機油は、圧縮機内に冷媒とともに封入され、例えばコンロッドやピストン等の摺動部材を潤滑する。このような冷凍機油として、例えば下記特許文献1では、比較的低粘度の鉱油と、特定の共重合体とを含む冷凍機油が、下記特許文献2では、所定基油と、リン系極圧剤と、エステル系添加剤と、を含有する冷凍機油がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-83920号公報
【文献】国際公開第2005/012469号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の冷凍機油を低粘度化すると、流体潤滑領域における低摩擦化にはある程度有効であるものの、弾性流体潤滑領域及び混合潤滑領域、或いは境界潤滑領域といった低すべり速度領域では、金属間接触機会が増え、かえって摩擦が増加する傾向にある。また、例えば上述した従来の冷凍機油は、高い摩擦係数となる境界潤滑領域における低摩擦化にはある程度有効性が期待されるものの、圧縮機の効率改善には、必ずしも十分ではなかった。特に、本発明者らが着目する、すべり速度低下に伴い急激に摩擦係数が増加し始める、すべり速度の比較的高い潤滑領域(弾性流体潤滑領域または混合潤滑領域)においてはかえって摩擦係数が上昇してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、特に、上記のような、すべり速度が比較的高い潤滑領域における低摩擦特性を保ちつつ、すべり速度が低い領域においても優れた摩擦特性を有する冷凍機油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、潤滑油基油と、リン含有添加剤と、不飽和カルボン酸エステルを単量体単位として含む重合体と、を含む冷凍機油を提供する。
【0008】
潤滑油基油は、40℃における動粘度が6mm2/s未満の第1の炭化水素系基油を含んでいてよい。この場合、潤滑油基油は、第1の炭化水素系基油と、40℃における動粘度が6mm2/s以上の第2の炭化水素系基油との混合基油であり、かつ、混合基油の40℃における動粘度を(A)とし、第1の炭化水素系基油の40℃における動粘度を(B)としたときに、(A)/(B)が1を超え1.5以下であってもよい。
【0009】
冷凍機油の40℃における動粘度は、10mm2/s以下であってよい。
【0010】
不飽和カルボン酸エステルは、炭素数1~18の直鎖アルキル基及び炭素数4~40の分岐アルキル基から選ばれる少なくとも1種のアルキル基を有する不飽和カルボン酸エステルであってよい。
【0011】
不飽和カルボン酸エステルは、(メタ)アクリル酸エステルであってよい。(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数1~18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含んでよい。(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数1~18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種と、炭素数4以上20未満の2位分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種とを含んでよい。
【0012】
不飽和カルボン酸エステルは、不飽和ジカルボン酸エステルであってよい。不飽和ジカルボン酸エステルは、炭素数4~10の直鎖アルキル基を有する不飽和ジカルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含む。
【0013】
重合体は、共重合体であってよい。共重合体は、不飽和カルボン酸エステル及びα-オレフィンを単量体単位として含む共重合体であってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特に、すべり速度が比較的高い潤滑領域における低摩擦特性を保ちつつ、すべり速度が低い領域においても優れた摩擦特性を有する冷凍機油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る冷凍機油は、潤滑油基油と、リン含有添加剤と、不飽和カルボン酸エステルを単量体単位として含む重合体とを含有する。
【0017】
潤滑油基油は、鉱油、合成油、又は両者の混合物のいずれであってもよいが、より優れた摩擦特性を達成する観点から、鉱油を含むことが好ましい。潤滑油基油が鉱油を含む場合、潤滑油基油は鉱油のみからなるものであってよく(すなわち鉱油の含有量が潤滑油基油全量基準で100質量%)、また、鉱油以外の基油成分を更に含有してもよい。鉱油以外の基油成分を更に含有する場合、鉱油の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、50質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上であってよい。
【0018】
鉱油としては、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等の鉱油などが挙げられ、特にパラフィン系鉱油が好適に用いられる。なお、これらの鉱油は単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0019】
鉱油の%CPと%CNの比(%CP/%CN)は、例えば0.2以上であり、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.1以上であってよい。
【0020】
パラフィン系鉱油の%CPと%CNの比(%CP/%CN)は、好ましくは1より大きく、より好ましくは1.1以上であり、更に好ましくは1.5以上であってよい。パラフィン系鉱油の%CP/%CNが1より大きいことで、引火点(COC)が向上し(例えば100℃以上、好ましくは120℃以上)、より摩擦特性に優れた冷凍機油を得ることができる。本明細書における%CP及び%CNは、それぞれASTM D3238-95(2010)に準拠した方法(n-d-M環分析)により測定された値を意味する。また、引火点(COC)は、JIS K 2265-4(2007)に準拠して測定されたクリーブランド開放法による引火点を意味する。
【0021】
合成油としては、合成系炭化水素油、含酸素油等が挙げられる。合成系炭化水素油としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリα-オレフィン(PAO)、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0022】
含酸素油としては、エステル、エーテル、カーボネート、ケトン、シリコーン、ポリシロキサン等が挙げられる。なお、ここでいう「エステル」には、上記重合体は包含されない。エステルとしては、モノエステル、ポリオールエステル、芳香族エステル、二塩基酸エステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル及びこれらの混合物等が例示される。中でも、1価脂肪族アルコール及び1価脂肪酸とのモノエステルを用いることが好ましく、必要に応じて、当該モノエステルと、2~6価のアルコール及び1価脂肪酸とのポリオールエステルとの混合物を用いることが望ましい。
【0023】
このようなエステルを構成する1価脂肪族アルコールとしては、例えば、炭素数1~20、好ましくは4~18、更に好ましくは4~12の1価脂肪族アルコールが挙げられる。このようなエステルを構成する1価脂肪酸としては、例えば、炭素数1~20、好ましくは4~18、更に好ましくは4~12の1価脂肪酸が挙げられる。このようなエステルを構成する2~6価のアルコールとしては、好ましくはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。エーテルとしては、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、パーフルオロエーテル及びこれらの混合物等が例示される。
【0024】
潤滑油基油は、炭化水素系基油を含んでいてもよい。炭化水素系基油としては、例えば鉱油系炭化水素油、合成系炭化水素油、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0025】
潤滑油基油が炭化水素系基油を含む場合、40℃における動粘度が6mm2/s未満である炭化水素系基油(以下、「第1の炭化水素系基油」ともいう)を含むことが好ましい。潤滑油基油が、第1の炭化水素系基油を含むことで、より効果的に摩擦係数を低減することができる。
【0026】
このような観点から、第1の炭化水素系基油の40℃における動粘度は、5mm2/s以下であることがより好ましく、4mm2/s以下であることが更に好ましい。また、第1の炭化水素系基油の40℃における動粘度の下限値は、特に制限されないが、例えば0mm2/sを超え、好ましくは0.5mm2/s以上、より好ましくは1mm2/s以上、更に好ましくは1.5mm2/s以上である。本明細書における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された動粘度を意味する。
【0027】
潤滑油基油が上記第1の炭化水素系基油を含む場合、潤滑油基油は、第1の炭化水素系基油に加えて、40℃における動粘度が6mm2/s以上の炭化水素系基油(以下、「第2の炭化水素系基油」ということもある)を更に含むことが好ましい。すなわち、潤滑油基油は、第1の炭化水素系基油と第2の炭化水素系基油との混合基油であってよい。潤滑油基油が、第1の炭化水素系基油に加えて、第2の炭化水素系基油を含むことで、より効果的に摩擦係数を低減することができる。
【0028】
このような観点から、第2の炭化水素系基油の40℃における動粘度は、8mm2/s以上であることがより好ましく、10mm2/s以上であることが更に好ましく、50mm2/s以上であることが特に好ましく、90mm2/s以上であることが非常に好ましい。また、第2の炭化水素系基油の40℃における動粘度の上限値は、特に制限されないが、例えば1000mm2/s以下、好ましくは500mm2/s以下である。
【0029】
潤滑油基油が上記第1の炭化水素系基油と第2の炭化水素系基油との混合基油である場合、当該混合基油の40℃における動粘度を(A)とし、第1の炭化水素系基油の40℃における動粘度を(B)としたとき、(A)/(B)が1.5以下であることが好ましい。(A)/(B)が1.5以下であると、より効果的に摩擦係数を低減することができる。このような観点から、(A)/(B)は1.4以下であることがより好ましく、1.35以下であることがより好ましく、1.3以下であることが更に好ましく、1.25以下であることが特に好ましい。(A)/(B)の下限値は、特に制限されないが、通常1を超え、例えば1.1以上であってよい。なお、第1の炭化水素系基油又は第2の炭化水素系基油に該当する基油成分が複数含まれる場合には、上記(A)は、第1の炭化水素系基油又は第2の炭化水素系基油に該当する基油成分の全てを含む混合基油の動粘度を意味する。また、第1の炭化水素系基油に該当する基油成分が複数含まれる場合には、上記(B)は、第1の炭化水素系基油に該当する基油成分の全てを含む混合基油の動粘度を意味する。
【0030】
第1の炭化水素系基油の含有量は、第1の炭化水素系基油及び第2の炭化水素系基油全量(すなわち混合基油全量。以下同じ。)基準で、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。第1の炭化水素系基油の含有量の上限値は、特に制限されないが、第1の炭化水素系基油及び第2の炭化水素系基油全量基準で、例えば100質量%未満又は99.9質量%以下であってよく、99.5質量%以下であってよく、99質量%以下であってよい。
【0031】
第1の炭化水素系基油の含有量は、冷凍機油全量基準で、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってよい。第1の炭化水素系基油の含有量の上限値は、特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、例えば98質量%以下であってよく、95質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。
【0032】
第2の炭化水素系基油の含有量は、第1の炭化水素系基油及び第2の炭化水素系基油全量基準で、0.1質量%以上であってよく、0.5質量%以上であってよく、1質量%以上であってよい。第2の炭化水素系基油の含有量の上限値は、第1の炭化水素系基油及び第2の炭化水素系基油全量基準で、例えば50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0033】
第2の炭化水素系基油の含有量は、冷凍機油全量基準で、0.1質量%以上であってよく、0.5質量%以上であってよく、1質量%以上であってよく、3質量%以上であってよい。第2の炭化水素系基油の含有量の上限値は、特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、例えば50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0034】
第1の炭化水素系基油及び第2の炭化水素基油の合計の含有量は、潤滑油基油全量基準で、例えば50質量%以上であり、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上又は100質量%であってよい。
【0035】
第1の炭化水素系基油及び第2の炭化水素基油の合計の含有量は、冷凍機油全量基準で、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。
【0036】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、すべり速度の低い領域において摩擦係数をより効果的に低減する観点から、好ましくは20mm2/s以下であり、より好ましくは10mm2/s以下であり、更に好ましくは6mm2/s以下であり、特に好ましくは3.5mm2/s以下である。潤滑油基油の40℃における動粘度は、特に制限はないが、例えば0.5mm2/s以上であってよく、好ましくは1mm2/s以上であってよく、より好ましくは1.5mm2/s以上であってよい。
【0037】
潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは0.5mm2/s以上、より好ましくは0.8mm2/s以上、更に好ましくは1mm2/s以上であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s以下、より好ましくは5mm2/s以下、更に好ましくは3mm2/s以下、特に好ましくは2mm2/s以下又は1.5mm2/s以下であってよい。
【0038】
潤滑油基油の含有量は、冷凍機油全量を基準として、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上であってよく、99.9質量%以下、99.5質量%以下又は99質量%以下であってよい。
【0039】
本実施形態に係る冷凍機油に含まれるリン含有添加剤としては、例えばリン系極圧剤が挙げられる。リン系極圧剤としては、例えばリン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸等が挙げられる。これらのリン含有添加剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。リン含有添加剤は、好ましくは、リン酸エステル及びチオリン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルフォスフェート(TCP)、及びトリフェニルフォスフォロチオネート(TPPT)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0040】
リン含有添加剤の含有量は、より効果的に摩擦係数を低減する観点から、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0041】
本実施形態に係る冷凍機油に含まれる重合体は、不飽和カルボン酸エステルを単量体単位として含む。当該重合体は、不飽和カルボン酸(重合性不飽和結合を有するカルボン酸)とアルコールとのエステルである不飽和カルボン酸エステルを含む1種又は2種以上の単量体を重合させて得られる。
【0042】
重合体は、単量体単位として、不飽和カルボン酸エステルを含む限りにおいて特に制限はなく、その他の単量体(不飽和カルボン酸エステルと共重合可能な単量体)を更に含んでいてもよい。すなわち、重合体は、1種の不飽和カルボン酸エステルの単独重合体であってよく、2種以上の不飽和カルボン酸エステルの共重合体であってもよく、1種又は2種以上の不飽和カルボン酸エステルと、1種又は2種以上のその他の単量体との共重合体であってもよい。
【0043】
不飽和カルボン酸エステルを構成する不飽和カルボン酸は、少なくとも1つの重合性不飽和結合(重合性炭素-炭素二重結合)と、少なくとも1つのカルボキシル基とを有しており、例えば、1つの重合性不飽和結合と1つのカルボキシル基とを有する不飽和モノカルボン酸であってもよく、1つの重合性不飽和結合と2つのカルボキシル基とを有する不飽和ジカルボン酸であってもよい。不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタアクリル酸(以下、これらをまとめて「(メタ)アクリル酸」ともいう)、クロトン酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0044】
不飽和カルボン酸エステルを構成するアルコールは、例えば炭素数1~40のアルコールであってよく、好ましくは炭素数1~18のアルコールを含み、より好ましくは炭素数1~8のアルコールを含む。これらのアルコールは、直鎖状でも分岐状であってもよい。アルコールは、炭素数1~18のアルコール及び炭素数20~40のアルコールを含んでもよい。これらのアルコールは、脂肪族アルコールであってよい。
【0045】
アルコールは、1価アルコールであっても多価アルコールであってもよい。このようなアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール(これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい)等が挙げられる。
【0046】
アルコールは、好ましくは、炭素数1~18の直鎖状の脂肪族1価アルコール及び炭素数4~40の分岐状の脂肪族1価アルコールから選ばれる少なくとも1種を含む。言い換えれば、不飽和カルボン酸エステルは、好ましくは、炭素数1~18の直鎖アルキル基及び炭素数4~40の分岐アルキル基から選ばれる少なくとも1種のアルキル基を有する。
【0047】
不飽和カルボン酸エステルが(メタ)アクリル酸エステルである場合、当該(メタ)アクリル酸エステルは、好ましくは、炭素数1~18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくは、炭素数1~18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種と、炭素数4以上20未満の2位分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種とを含む。ここで、炭素数4以上20未満の2位分岐アルキル基は、下記式(1)で表されるアルキル基である。
【化1】
式(1)において、x及びyは、それぞれ独立に、0以上の整数であり、かつ、x+yが16未満となるような整数である。
【0048】
不飽和カルボン酸エステルが不飽和ジカルボン酸エステルである場合、当該不飽和ジカルボン酸エステルは、好ましくは、炭素数4~10の直鎖アルキル基を有する不飽和ジカルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含む。
【0049】
不飽和カルボン酸エステル以外の単量体(不飽和カルボン酸エステルと共重合可能な単量体)としては、特に制限はないが、上述した不飽和カルボン酸エステルを構成する不飽和カルボン酸として例示した不飽和カルボン酸又はその無水物、重合性不飽和結合を有する不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。不飽和炭化水素は、例えば、炭素数2~20の不飽和炭化水素化合物であってよく、好ましくは、炭素数2~20のα-オレフィン又はスチレンであってよい。当該α-オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等が挙げられる。α-オレフィンは、好ましくは炭素数8~12のα-オレフィンである。
【0050】
重合体は、好ましくは、不飽和カルボン酸エステル(2種以上の不飽和カルボン酸エステル)の共重合体、又は、不飽和カルボン酸エステル(1種以上の不飽和カルボン酸エステル)とα-オレフィン(1種以上のα-オレフィン)との共重合体である。不飽和カルボン酸エステルの共重合体は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルの共重合体である。不飽和カルボン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルとα-オレフィンとの共重合体及び不飽和ジカルボン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、不飽和ジカルボン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体である。
【0051】
不飽和ジカルボン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体における不飽和ジカルボン酸エステルの好ましい例としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸と、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール等の炭素数3~10の脂肪族アルコールとのモノエステル又はジエステルが挙げられる。当該炭素数3~10の脂肪族アルコールは、好ましくは、炭素数4~10の直鎖脂肪族アルコールである。当該不飽和ジカルボン酸エステルは、好ましくはマレイン酸エステルである。マレイン酸エステルの好ましい例としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジペンチル、マレイン酸ジヘキシル、マレイン酸ジヘプチル、マレイン酸ジオクチル、マレイン酸ジデシル等が挙げられる。
【0052】
上記重合体が共重合体である場合、不飽和カルボン酸エステルの含有量は、共重合体を構成する全単量体単位を基準として、10モル%以上、30モル%以上、又は50モル%以上であってよく、90モル%以下、70モル%以下、又は50モル%以下であってよい。
【0053】
上記重合体が不飽和カルボン酸エステルとαオレフィンとの共重合体である場合、不飽和カルボン酸エステル/α-オレフィンのモル比は、特に制限はないが、好ましくは1/9以上、より好ましくは3/7以上であってよく、好ましくは9/1、より好ましくは7/3以下である。
【0054】
重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは300以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1500以上であり、2000以上、3000以上、又は4000以上であってもよく、好ましくは500000以下、より好ましくは50000以下、更に好ましくは30000以下であり、20000以下、15000以下、又は10000以下であってもよい。
【0055】
重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは400以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは2000以上、特に好ましくは3000以上であり、4000以上、5000以上、6000以上、7000以上、8000以上、又は9000以上であってもよく、好ましくは10000000以下、より好ましくは100000以下、更に好ましくは50000以下、特に好ましくは30000以下であり、20000以下であってもよい。
【0056】
重合体のMw/Mnは、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上、特に好ましくは2以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3以下であり、2.5以下であってもよい。
【0057】
なお、本明細書における「重量平均分子量(Mw)」及び「数平均分子量(Mn)」とは、カラムにWaters社製 APC XTカラム、移動相にテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(標準物質:ポリスチレン)によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量及び数平均分子量をそれぞれ意味する。
【0058】
重合体の100℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上、更に好ましくは100mm2/s以上であり、好ましくは100000mm2/s以下又は10000mm2/s以下、より好ましくは1000mm2/s以下、更に好ましくは800mm2/s以下であり、500mm2/s以下であってもよい。
【0059】
重合体の40℃における動粘度は、好ましくは100mm2/s以上、より好ましくは200mm2/s以上、更に好ましくは400mm2/s又は400mm2/sを超えるものであり、500mm2/s以上又は1000mm2/s以上であってよく、好ましくは100000mm2/s以下、より好ましくは20000mm2/s以下、更に好ましくは15000mm2/s以下であり、10000mm2/s以下又は5000mm2/s以下であってよい。
【0060】
重合体の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは140以上であり、180以上又は200以上であってよく、好ましくは400以下、より好ましくは300以下であり、250以下であってよい。本明細書における粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0061】
重合体としては、蒸発及び熱分解させたときの残留炭素分が所定範囲となるものが好ましい。その理由は不明であるが、残留炭素分に相当する前駆体(重合体の前駆体)があることによって、所定のすべり速度領域における摩擦係数を更に低減することができると推定される。重合体の残留炭素分は、例えば0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であり、2質量%以上又は2.5質量%以上であってよく、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下であり、3.5質量%以下であってよい。本明細書における残留炭素分とは、JIS K 2270-2:2009に準拠したミクロ法により測定された残留炭素分を意味する。
【0062】
本実施形態に係る重合体は、冷凍機油においてポリマー添加剤として添加されてよい。ポリマー添加剤は、重合体に加えて、合成時、輸送時等のハンドリング性向上等のために希釈油等の重合体以外の他の成分を更に含んでいてもよい。上述した重合体の物性(数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Mw/Mn、100℃における動粘度、40℃における動粘度、粘度指数及び残留炭素分)は、それぞれ冷凍機油に添加される状態におけるポリマー添加剤の物性として読み替えることもできる。ただし、ポリマー添加剤が重合体以外の他の成分を含む場合、当該ポリマー添加剤の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、当該他の成分を除外して測定された値を意味する。
【0063】
ポリマー添加剤又はこれを含む冷凍機油における重合体の各平均分子量の算出にあたっては、ゴム膜透析等により、ポリマー添加剤又はこれを含む冷凍機油から当該他の成分に帰属する成分を分別・除外した試料を用いて、上述したゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって重合体の各平均分子量を算出してもよいし、ポリマー添加剤又はこれを含む冷凍機油を用いて、上述したゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる各平均分子量の算出過程において、当該他の成分に帰属するピーク分を除外して、重合体の各平均分子量を算出してもよい。
【0064】
以上説明した重合体(ポリマー添加剤)のより具体的な例としては、後述する実施例において記載される重合体が挙げられるが、その他には以下の重合体(ポリマー添加剤)が挙げられる。
ポリマー添加剤A:(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(100℃における動粘度:600mm2/s、重合体のMn:25000、Mw/Mn:1.4、残留炭素分:1.1質量%)
ポリマー添加剤B:(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(100℃における動粘度:370mm2/s、重合体のMn:25900、Mw/Mn:1.3、残留炭素分:1.1質量%)
ポリマー添加剤C:(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(100℃における動粘度:180mm2/s、重合体のMn:3620、Mw/Mn:2.0、残留炭素分:1.3質量%)
ポリマー添加剤D:(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(100℃における動粘度:360mm2/s、重合体のMn:11000、Mw/Mn:1.6、残留炭素分:0.9質量%)
ポリマー添加剤E:(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(100℃における動粘度:380mm2/s、重合体のMn:22500、Mw/Mn:1.5、残留炭素分:0.1質量%)
ポリマー添加剤F:マレイン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体(40℃における動粘度:1980mm2/s、100℃における動粘度:200mm2/s、粘度指数227、重合体のMn:4500、Mw/Mn:2.2、残留炭素分:3.1質量%)
ポリマー添加剤G:マレイン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体(40℃における動粘度:4100mm2/s、100℃における動粘度:260mm2/s、粘度指数190、重合体のMn:1800、Mw/Mn:2.7、残留炭素分:2.8質量%)
ポリマー添加剤H:マレイン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体(40℃における動粘度:4300mm2/s、100℃における動粘度:300mm2/s、粘度指数225、重合体のMn:2000、Mw/Mn:2.5、残留炭素分:1.7質量%)
ポリマー添加剤I:マレイン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体(40℃における動粘度:7000mm2/s、100℃における動粘度:500mm2/s、粘度指数230、重合体のMn:2650、Mw/Mn:4.0、残留炭素分:2質量%)
ポリマー添加剤J:マレイン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体(40℃における動粘度:11000mm2/s、100℃における動粘度:700mm2/s、粘度指数250、重合体のMn:2690、Mw/Mn:3.1、残留炭素分:1.5質量%)
ポリマー添加剤K:マレイン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体(40℃における動粘度:400mm2/s、100℃における動粘度:40mm2/s、粘度指数160、残留炭素分:0.8質量%)
【0065】
重合体の含有量は、冷凍機油の摩擦特性をより向上させる観点から、冷凍機油全量を基準として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上であり、冷凍機油の粘度を抑え、比較的すべり速度の高い領域でもより低い摩擦係数を達成する観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは2質量%未満、特に好ましくは1質量%以下であり、1質量%未満であってもよい。
【0066】
本実施形態に係る冷凍機油は、上述した成分に加えて、それ以外の添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、酸捕捉剤、リンを含まない極圧剤、金属不活性化剤、耐摩耗剤、流動点降下剤、清浄分散剤、消泡剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、以下で特に言及しない限り、冷凍機油全量を基準として、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0067】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert.-ブチル-p-クレゾール(DBPC)、2,6-ジ-tert.-ブチル-フェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert.-ブチル-フェノール)等が例示される。アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン類、ジアルキル化ジフェニルアミン類等が例示される。これらの酸化防止剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化防止剤の含有量は、例えば、冷凍機油全量基準で、0.01~5質量%、好ましくは0.1~3質量%である。
【0068】
酸捕捉剤としては、例えば、エポキシ化合物(エポキシ系酸捕捉剤)が挙げられる。エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリールオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル、エポキシ化植物油等が挙げられる。これらの酸捕捉剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。酸捕捉剤の含有量は、例えば、冷凍機油全量基準で0.01~5質量%、好ましくは0.1~3質量%である。
【0069】
冷凍機油の40℃における動粘度は、摩擦係数をより効果的に低減する観点から、例えば10mm2/s以下であってよく、好ましくは6mm2/s以下、より好ましくは5mm2/s以下、更に好ましくは4mm2/s以下である。冷凍機油の40℃における動粘度の下限値は、特に制限はないが、例えば1mm2/s以上又は2mm2/s以上であってよい。冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは0.5mm2/s以上、より好ましくは0.8mm2/s以上、更に好ましくは1mm2/s以上であってよい。冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s以下、より好ましくは5mm2/s以下、更に好ましくは3mm2/s以下、特に好ましくは2mm2/s以下であってよい。
【0070】
冷凍機油の粘度指数は、-50以上であってよく、好ましくは0以上、より好ましくは50以上であってよく、200以下であってよい。
【0071】
冷凍機油の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下であってよい。本明細書における流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定される流動点を意味する。
【0072】
冷凍機油の体積抵抗率は、好ましくは1.0×109Ω・m以上、より好ましくは1.0×1010Ω・m以上、更に好ましくは1.0×1011Ω・m以上であってよい。本明細書における体積抵抗率は、JIS C2101:1999に準拠して測定した25℃での体積抵抗率を意味する。
【0073】
冷凍機油の水分含有量は、冷凍機油全量基準で、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であってよい。本明細書における水分は、JIS K2275-2又は3(カールフィッシャー式容量滴定法又は電量滴定法)に準拠して測定された水分を意味する。
【0074】
冷凍機油の酸価は、好ましくは1.0mgKOH/g以下、より好ましくは0.1mgKOH/g以下であってよい。冷凍機油の水酸基価は、例えば10mgKOH/g以下であり、好ましくは5mgKOH/g以下、より好ましくは2mg/KOH/g以下である。本明細書における酸価は、JIS K2501:2003に準拠して測定された酸価を意味する。本明細書における水酸基価は、JIS K0070:1992に準拠して測定された水酸基価を意味する。
【0075】
冷凍機油の灰分は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下であってよい。本明細書における灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された灰分を意味する。
【0076】
本実施形態に係る冷凍機油は、通常、圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を有する冷媒循環システムを備える冷凍機において、冷媒と混合された冷凍機用作動流体組成物の状態で存在し、例えば圧縮機における摺動部材を潤滑する。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記冷凍機油と冷媒とを含有する冷凍機用作動流体組成物である。冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油の含有量は、冷媒100質量部に対して、1~500質量部、又は2~400質量部であってよい。
【0077】
冷媒としては、炭化水素冷媒、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア、二酸化炭素等の自然系冷媒が例示される。特に、本実施形態に係る冷凍機油は、炭化水素冷媒と共に用いられることが好ましい。言い換えれば、冷凍機用作動流体組成物は、好ましくは、冷凍機油と炭化水素冷媒とを含有する。
【0078】
炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~5の炭化水素、より好ましくは炭素数2~4の炭化水素である。炭化水素としては、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン(R600a)、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2-メチルブタン、ノルマルペンタン又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。炭化水素冷媒は、これらの中でも好ましくは、25℃、1気圧で気体の炭化水素冷媒であり、より好ましくは、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2-メチルブタン又はこれらの混合物である。
【0079】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは炭素数1~2の飽和フッ化炭化水素である。飽和フッ化炭化水素冷媒としては、具体的には、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R245fa)、及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(R365mfc)、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0080】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、上記の中から用途や要求性能に応じて適宜選択される。飽和フッ化炭化水素冷媒は、例えばR32単独;R23単独;R134a単独;R125単独;R134a/R32=60~80質量%/40~20質量%の混合物;R32/R125=40~70質量%/60~30質量%の混合物;R125/R143a=40~60質量%/60~40質量%の混合物;R134a/R32/R125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;R134a/R32/R125=40~70質量%/15~35質量%/5~40質量%の混合物;R125/R134a/R143a=35~55質量%/1~15質量%/40~60質量%の混合物などである。飽和フッ化炭化水素冷媒は、更に具体的には、R134a/R32=70/30質量%の混合物;R32/R125=60/40質量%の混合物;R32/R125=50/50質量%の混合物(R410A);R32/R125=45/55質量%の混合物(R410B);R125/R143a=50/50質量%の混合物(R507C);R32/R125/R134a=30/10/60質量%の混合物;R32/R125/R134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);R32/R125/R134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);R125/R134a/R143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などであってよい。
【0081】
不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒は、好ましくは炭素数2~3の不飽和フッ化炭化水素、より好ましくはフルオロプロペン、更に好ましくはフッ素数が3~5のフルオロプロペンである。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)のいずれか1種又は2種以上の混合物である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、冷媒物性の観点からは、好ましくは、HFO-1225ye、HFO-1234ze及びHFO-1234yfから選ばれる1種又は2種以上である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、フルオロエチレンであってもよく、好ましくは1,1,2,3-トリフルオロエチレンである。
【実施例】
【0082】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[潤滑油基油]
以下に示す基油1~3を用意し、表1に示すとおり、基油1、基油2及び基油3の含有量がそれぞれ、50質量部、43質量部及び7質量部となるように混合し、混合基油を得た。
基油1:鉱油(40℃における動粘度:3.4mm2/s)
基油2:鉱油(40℃における動粘度:2.4mm2/s)
基油3:鉱油(40℃における動粘度:100mm2/s)
なお、基油1及び基油2は上述した第1の炭化水素系基油に該当し、基油3は上述した第2の炭化水素系基油に該当する。
【0084】
得られた混合基油の40℃における動粘度(A)[mm
2/s]、第1の炭化水素系基油(基油1/基油2=50質量部/43質量部の混合物)の40℃における動粘度(B)[mm
2/s]、及び、(A)/(B)の値を下記表1に示す。
【表1】
【0085】
[冷凍機油]
実施例及び比較例においては、上記潤滑油基油(混合基油)と、添加剤として以下に示す重合体及びリン含有添加剤とを用いて、表2に示す組成(冷凍機油全量基準での質量%)を有する冷凍機油(40℃における動粘度:3.3~3.7mm2/s)を調製した。
【0086】
重合体1:メタクリル酸アルキルエステルの共重合体(メタクリル酸アルキルエステルは、炭素数1、12~16、18の直鎖アルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル、及び、炭素数6、8、10以上20未満の2位分岐アルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを主成分として含む、共重合体のMn:9300、Mw:16000、Mw/Mn:1.7)
重合体2:マレイン酸ジアルキルエステルと炭素数8~10のα-オレフィンとの共重合体(マレイン酸ジアルキルエステルは、炭素数4、8~10の直鎖アルキル基を有するマレイン酸ジアルキルエステルを主成分として含む、共重合体のMn:8300、Mw:12800、Mw/Mn:1.5)
重合体3:メタクリル酸アルキルエステルと炭素数10のα-オレフィンとの共重合体(メタクリル酸アルキルエステルは、炭素数12~15の直鎖アルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル、及び、炭素数6、8、10以上20未満の2位分岐アルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを主成分として含む、共重合体のMn:6900、Mw:9900、Mw/Mn:1.4)
【0087】
リン含有添加剤:トリクレジルフォスフェート(TCP)とトリフェニルフォスフォロチオネート(TPPT)との混合物
【0088】
[摩擦特性の評価]
実施例及び比較例の各冷凍機油の摩擦特性を評価するために、以下に示す試験を実施した。
MTM(Mini Traction Machine)試験機(PCS Instruments社製)を用いて、以下の条件で各潤滑領域における摩擦係数(μ)を測定した。結果を表2に示す。摩擦係数が小さいほど、摩擦特性に優れていることを意味する。
ボール及びディスク:標準試験片(AISI52100規格)
試験温度:40℃
すべり速度:0.0006~0.9m/s(一部抜粋)
負荷荷重:10N
すべり率:30%
なお、すべり速度は、|UD-UB|[m/s]の値を用いた。ここで、UDは摺動部におけるディスクの速度[m/s]であり、UBは摺動部におけるボールの速度[m/s]である。
【0089】
【0090】
実施例1~5の冷凍機油においては、すべり速度が比較的高い領域における摩擦特性を保ちつつ、すべり速度が低い領域においても優れた摩擦特性を有することが分かる。これに対し、ポリマー添加剤及びリン含有添加剤のどちらか一方しか含まない比較例2及び3の冷凍機油は、どちらも含まない比較例1と比較して、すべり速度が低い領域においては摩擦係数をある程度低減することができるが、すべり速度が比較的高い領域においては摩擦係数がかえって上昇してしまうことが分かる。なお、実施例1~5において、リン含有添加剤をトリフェニルフォスフェートに代えて同様に摩擦特性を評価したが、同様の効果が得られた。