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特許7659575非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250402BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20250402BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F220/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022570008
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046056
(87)【国際公開番号】W WO2022131253
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2020207375
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩本 匡志
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-195521(JP,A)
【文献】特開平08-287915(JP,A)
【文献】特開2015-230884(JP,A)
【文献】特開2014-175106(JP,A)
【文献】国際公開第2011/122297(WO,A1)
【文献】特開2014-130702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C08F 220/06,220/12,220/18
C08K 5/47
C08L 33/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性単量体M1に由来する単位U1及びエチレン性単量体M2に由来する単位U2を有する重合体粒子を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、
前記エチレン性単量体M1のホモポリマーとしてのガラス転移温度が、-60℃以下であり、かつ、当該エチレン性単量体M1の電解液膨潤度が1.4倍以下であり、
前記エチレン性単量体M2のホモポリマーとしてのガラス転移温度が、100℃以上であり、かつ、当該エチレン性単量体M2の電解液膨潤度が1.2倍以下であり、
前記重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体に由来する全単位を100質量%としたとき、前記単位U1の含有量が、65質量%超であり、かつ、前記単位U2の含有量が、5質量%以上35質量%未満であり、
前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.3倍以下であり、
前記重合体粒子の平均粒子径が100nm以上650nm以下である、非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項2】
前記重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体に由来する全単位を100質量%としたとき、前記単位U1の含有量及び前記単位U2の含有量の合計量が、92.5質量%以上である、請求項1に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項3】
前記重合体粒子の電解液膨潤時に測定される、前記重合体粒子の破断強度Sが2MPa以上であり、かつ、前記重合体粒子の破断伸度Eが100%以上である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項4】
下記の式1及び式2に基づいて得られる、前記重合体粒子の破断強度S0と前記破断強度Sとの破断強度比R1及び前記重合体粒子の破断伸度E0と前記破断伸度Eとの比R2が、それぞれ、±40%以下及び±10%以下である、請求項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[破断強度比R1の算出]
破断強度比R1={(破断強度S0/破断強度S)-1}×100 (式1)
(上記式1中、破断強度S0は、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断強度を表す。)
[破断伸度比R2の算出]
破断強度比R2={(破断伸度E0/破断伸度E)-1}×100 (式2)
(上記式2中、破断伸度E0は、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断伸度を表す。)
【請求項5】
前記エチレン性単量体M1が、2-エチルヘキシルアクリレートを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項6】
前記エチレン性単量体M2が、エチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項7】
前記エチレン性単量体M2が、(メタ)アクリル酸又はそのアルカリ金属塩を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項8】
DSCにて測定される前記重合体粒子のガラス転移温度の最大値が、20℃以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項9】
前記重合体粒子100質量部に対して0.0001質量部以上1.0質量部以下のイソチアゾリン系化合物を更に含む、請求項1~のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項10】
重合体粒子を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、
前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.3倍以下であり、
前記重合体粒子の平均粒子径が100nm以上650nm以下であり、
前記重合体粒子の電解液膨潤時に測定される、前記重合体粒子の破断強度Sが2MPa以上であり、かつ、前記重合体粒子の破断伸度Eが100%以上である、非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項11】
下記の式1及び式2に基づいて得られる、前記重合体粒子の破断強度S0と破断強度Sとの破断強度比R1及び前記重合体粒子の破断伸度E0と破断伸度Eとの比R2が、それぞれ、±40%以下及び±10%以下である、請求項10に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[破断強度比R1の算出]
破断強度比R1={(破断強度S0/破断強度S)-1}×100 (式1)
(上記式1中、破断強度S0は、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断強度を表す。)
[破断伸度比R2の算出]
破断強度比R2={(破断伸度E0/破断伸度E)-1}×100 (式2)
(上記式2中、破断伸度E0は、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断伸度を表す。)
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物を含む、非水系二次電池用負極。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物の、非水系二次電池用負極用材料としての使用。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物を含む、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池などの電気化学的デバイスに用いられる電極を製造する方法としては、電極活物質にバインダーや増粘剤等を添加した液状の組成物を、集電体表面に塗布して乾燥することによって、当該集電体の上に電極層を形成させる方法が挙げられる。ここで、集電体を構成する金属との接着力が高く、しかも、柔軟性が高い電極層を形成することができるバインダーとして、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスが知られている。なお、バインダーは、活物質を含む電極層と、集電体又はセパレータとの密着性を向上させるために機能するものであるが、上記の共重合体ラテックスは、集電体又はセパレータとの密着性が不十分となる場合がある。上記密着性が十分でない場合、二次電池の充放電サイクル特性を損ねる傾向にある。
【0003】
上記に鑑み、特許文献1では、所定の重合体を有機溶媒又は水に分散してなる結着剤組成物から作製されたシートの破断伸び及び破断強度を特定範囲に調整することが提案されている。また、特許文献2では、電解液で湿潤させた共重合体バインダーの引張強度を所定の範囲に調整することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6090213号公報
【文献】国際公開第2018/182343号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の結着剤組成物によれば、均質で安定性に優れた電極用スラリーが得られるとされている。また、特許文献2に記載の二次電池用バインダー組成物によれば、向上した接着力を発揮するとともに、電解液への含浸後にも高い機械的物性を維持することで、電池の寿命性能を向上できるとされている。
一方、本発明者らが検討したところ、特許文献1の記載に基づいて電解液浸漬前の状態の重合体の破断伸び及び破断強度を調整するのみでは、電解液浸漬後に所望とする強度を発現できず、結果としてリバウンド特性及びサイクル特性を損ねることが判明している。なお、本明細書中、リバウンド特性とは、一定の充放電サイクルに供する前後での二次電池電極厚みの増大を抑制する性質を意味し、とりわけ電極中に含まれるバインダー成分の強度がリバウンド特性に寄与する傾向にある。
また、特許文献2の記載に基づいて電解液浸漬後の状態の重合体の引張強度を調整する場合、強度の絶対値として所望とする水準に満たず、結果として十分なリバウンド特性及びサイクル特性を発現できないことが判明している。
以上のとおり、特許文献1~2に記載の技術によれば、リバウンド特性及びサイクル特性を高い水準で両立することは困難である。
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、良好なリバウンド特性及びサイクル特性を発現できる非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定の組成あるいは物性を有する重合体粒子を用いることにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
エチレン性単量体M1に由来する単位U1及びエチレン性単量体M2に由来する単位U2を有する重合体粒子を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、
前記エチレン性単量体M1のホモポリマーとしてのガラス転移温度が、-60℃以下であり、かつ、当該エチレン性単量体M1の電解液膨潤度が1.4倍以下であり、
前記エチレン性単量体M2のホモポリマーとしてのガラス転移温度が、100℃以上であり、かつ、当該エチレン性単量体M2の電解液膨潤度が1.2倍以下であり、
前記重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体に由来する全単位を100質量%としたとき、前記単位U1の含有量が、50質量%超であり、かつ、前記単位U2の含有量が、5%以上50質量%未満であり、
前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.3倍以下である、非水系二次電池用重合体組成物。
[2]
前記重合体粒子の電解液膨潤時に測定される、前記重合体粒子の破断強度Sが2MPa以上であり、かつ、前記重合体粒子の破断伸度Eが100%以上である、[1]に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[3]
下記の式1及び式2に基づいて得られる、前記重合体粒子の破断強度Sと前記破断強度Sとの破断強度比R1及び前記重合体粒子の破断伸度Eと前記破断伸度Eとの比R2が、それぞれ、±40%以下及び±10%以下である、[2]に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[破断強度比R1の算出]
破断強度比R1={(破断強度S/破断強度S)-1}×100 (式1)
(上記式1中、破断強度Sは、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断強度を表す。)
[破断伸度比R2の算出]
破断強度比R2={(破断伸度E/破断伸度E)-1}×100 (式2)
(上記式2中、破断伸度Eは、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断伸度を表す。)
[4]
前記エチレン性単量体M1が、2-エチルヘキシルアクリレートを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[5]
前記エチレン性単量体M2が、エチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[6]
前記エチレン性単量体M2が、(メタ)アクリル酸又はそのアルカリ金属塩を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[7]
DSCにて測定される前記重合体粒子のガラス転移温度の最大値が、20℃以下である[1]~[6]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[8]
前記重合体粒子の平均粒子径が50nm以上800nm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[9]
前記重合体粒子100質量部に対して0.0001質量部以上1.0質量部以下のイソチアゾリン系化合物を更に含む、[1]~[8]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[10]
重合体粒子を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、
前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.3倍以下であり、
前記重合体粒子の電解液膨潤時に測定される、前記重合体粒子の破断強度Sが2MPa以上であり、かつ、前記重合体粒子の破断伸度Eが100%以上である、非水系二次電池用重合体組成物。
[11]
下記の式1及び式2に基づいて得られる、前記重合体粒子の破断強度Sと破断強度Sとの破断強度比R1及び前記重合体粒子の破断伸度Eと破断伸度Eとの比R2が、それぞれ、±40%以下及び±10%以下である、[10]に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[破断強度比R1の算出]
破断強度比R1={(破断強度S/破断強度S)-1}×100 (式1)
(上記式1中、破断強度Sは、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断強度を表す。)
[破断伸度比R2の算出]
破断強度比R2={(破断伸度E/破断伸度E)-1}×100 (式2)
(上記式2中、破断伸度Eは、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断伸度を表す。)
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物を含む、非水系二次電池用負極。
[13]
[1]~[11]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物の、非水系二次電池用負極用材料としての使用。
[14]
[1]~[11]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物を含む、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好なリバウンド特性及びサイクル特性を発現できる非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、及びそれに対応する「メタクリル」を意味する。また、本明細書での「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。
【0011】
[非水系二次電池用重合体組成物]
本実施形態の一態様に係る非水系二次電池用重合体組成物(以下、「第1の組成物」ともいう。)は、エチレン性単量体M1に由来する単位U1及びエチレン性単量体M2に由来する単位U2を有する重合体粒子(以下、「第1の重合体粒子」ともいう。)を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、前記エチレン性単量体M1のホモポリマーとしてのガラス転移温度が、-60℃以下であり、かつ、当該エチレン性単量体M1の電解液膨潤度が1.4倍以下であり、前記エチレン性単量体M2のホモポリマーとしてのガラス転移温度が、100℃以上であり、かつ、当該エチレン性単量体M2の電解液膨潤度が1.2倍以下であり、前記重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体に由来する全単位を100質量%としたとき、前記単位U1の含有量が、50質量%超であり、かつ、前記単位U2の含有量が、5%以上50質量%未満であり、前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.3倍以下である。このように構成されているため、第1の組成物は、良好なリバウンド特性及びサイクル特性を発現できる。
【0012】
また、本実施形態の他の態様に係る非水系二次電池用重合体組成物(以下、「第2の組成物」ともいう。)は、重合体粒子(以下、「第2の重合体粒子」ともいう。)を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.3倍以下であり、前記重合体粒子の電解液膨潤時に測定される、前記重合体粒子の破断強度Sが2MPa以上であり、かつ、前記重合体粒子の破断伸度Eが100%以上である。このように構成されているため、第2の組成物も、良好なリバウンド特性及びサイクル特性を発現できる。
【0013】
上記のとおり、第1の組成物及び第2の組成物の双方が良好なリバウンド特性及びサイクル特性を発現できる。以下、「本実施形態の組成物」と称するときは、「第1の組成物」と「第2の組成物」を包含するものとして本実施形態を説明する。同様に、「本実施形態における重合体粒子」と称するときは、「第1の重合体粒子」と「第2の重合体粒子」を包含するものとして本実施形態を説明する。
【0014】
(第1の重合体粒子)
第1の重合体粒子は、所定の単位U1及び単位U2を所定の含有量にて有するものである。
【0015】
(単位U1)
単位U1は、エチレン性単量体M1に由来する構成単位であり、エチレン性単量体M1のホモポリマーとしてのガラス転移温度は、-60℃以下であり、かつ、当該エチレン性単量体M1の電解液膨潤度は1.4倍以下である。上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度が上記範囲を満たすため、単位U1は、第1の重合体粒子において柔軟成分として寄与する。上記と同様の観点から、エチレン性単量体M1のホモポリマーとしてのガラス転移温度は、-62℃以下であることが好ましく、より好ましくは-65℃以下である。同様に、エチレン性単量体M1の電解液膨潤度は1.35倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.3倍以下である。
上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。また、上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度は、例えば、SP値の低いモノマーをエチレン性単量体M1として選択すること等により、上記した範囲に調整することができる。
【0016】
エチレン性単量体M1は、上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度を満たすものであれば特に限定されないが、その具体例としては、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソデシルアクリレート等のアクリル酸エステル類、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類等が挙げられる。エチレン性単量体M1としては、上記例示した中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態においては、生産性、及び、コストの観点から、エチレン性単量体M1は、2-エチルヘキシルアクリレートを含むことが好ましい。
【0017】
(単位U2)
単位U2は、エチレン性単量体M2に由来する構成単位であり、エチレン性単量体M2のホモポリマーとしてのガラス転移温度は、100℃以上であり、かつ、当該エチレン性単量体M2の電解液膨潤度が1.2倍以下である。
上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度が上記範囲を満たすため、単位U2は、第1の重合体粒子において硬質成分として寄与する。上記と同様の観点から、エチレン性単量体M2のホモポリマーとしてのガラス転移温度は、150℃以上であることが好ましく、より好ましくは200℃以上である。同様に、エチレン性単量体M2の電解液膨潤度は1.15倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.10倍以下である。
上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。また、上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度は、例えば、SP値の低いモノマーをエチレン性単量体M2として選択すること等により、上記した範囲に調整することができる。
【0018】
エチレン性単量体M2は、上記ガラス転移温度及び電解液膨潤度を満たすものであれば特に限定されないが、その具体例としては、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー等が挙げられる。エチレン性単量体M2としては、上記例示した中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態においては、生産性の観点から、エチレン性単量体M2は、エチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含むことが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸又はそのアルカリ金属塩を含み、さらに好ましくはメタクリル酸又はそのアルカリ金属塩を含む。
【0019】
(その他の単位)
第1の重合体粒子は、単位U1及び単位U2以外の単位U3を有していてもよい。そのような任意の単位U3を与える単量体M3としては、以下に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のエチレン性単量体M1に該当しない(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニルモノマー、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられ、上記例示した中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態において、単量体M3のホモポリマーとしてのガラス転移温度は、70℃以下であることが好ましい。さらに、単量体M3の電解液膨潤度は、1.3倍以上であるか、又は、電解液への溶解により電解液膨潤度測定が不可であることが好ましい。
【0020】
(単位U1、単位U2および単位U3の含有量)
第1の重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体に由来する全単位を100質量%としたとき、前記単位U1の含有量は50質量%超であり、かつ、前記単位U2の含有量が、5%以上50質量%未満である。このように、柔軟成分として寄与する単位U1を主成分としつつも一定量の単位U2が含有されていることから、第1の重合体粒子は、低電解液膨潤度、高強度及び柔軟性を両立することができる。上記と同様の観点から、上記単位U1の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは68質量%以上である。単位U1の含有量の上限は好ましくは92.5質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。同様に、上記単位U2の含有量は、7.5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上35質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上32質量%以下である。
また、単位U1及び単位U2の合計量は、低電解液膨潤度、高強度及び柔軟性の観点から、第1の重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体に由来する全単位を100質量%としたとき、75.0質量%以上100質量%以下であることが好ましく、85質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
さらに、前記任意の単位U3の含有量としては、低電解液膨潤度、高強度及び柔軟性の観点から、第1の重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体に由来する全単位を100質量%としたとき、0質量%以上25.0質量%以下であることが好ましく、0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。
各単位の含有量については、重合体粒子を常法により分析して特定することもできるが、各単量体の仕込み比として特定することもできる。
【0021】
(重合体粒子の電解液膨潤度)
第1の重合体粒子は、電解液膨潤度が1.3倍以下となっている。ここで、電解液膨潤度は、重合体粒子の電解液への耐性を評価する指標となり、その値が1.3倍以下であることにより、電解液中においても集電体やセパレータとの密着力を維持できる。かかる観点から、上記電解液膨潤度は1.25倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.2倍以下である。
電解液膨潤度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、重合体粒子の構成成分として前述した好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、電解液膨潤度を上記範囲に調整できる。
【0022】
(重合体粒子の破断強度S)
第1の重合体粒子の電解液膨潤時に測定される破断強度Sは、2MPa以上であることが好ましい。破断強度Sが2MPa以上である場合、電解液浸漬時でも高い強度が確保される傾向にある。上記と同様の観点から、破断強度Sは5MPa以上であることがより好ましい。破断強度Sの上限値は特に限定されないが、例えば、20MPa以下であってもよい。
破断強度Sは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、重合体粒子の構成成分として前述した好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、破断強度Sを上記範囲に調整できる。
【0023】
(重合体粒子の破断伸度E)
第1の重合体粒子の電解液膨潤時に測定される破断伸度Eは、100%以上であることが好ましい。破断伸度Eが100%以上であることにより、電解液浸漬時でも高い柔軟性が確保される傾向にある。上記と同様の観点から、破断伸度Eは200%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは300%以上である。破断伸度Eの上限値は特に限定されないが、例えば、600%以下であってもよい。
破断伸度Eは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、重合体粒子の構成成分として前述した好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、破断伸度Eを上記範囲に調整できる。
【0024】
本実施形態において、リバウンド特性及びサイクル特性のバランスの観点から、第1の重合体粒子の電解液膨潤時に測定される、前記重合体粒子の破断強度Sが2MPa以上であり、かつ、前記重合体粒子の破断伸度Eが100%以上であることが好ましい。
【0025】
(重合体粒子の破断強度比R1)
下記の式1に基づいて得られる、第2の重合体粒子の破断強度Sと破断強度Sとの破断強度比R1は、±40%以下であることが好ましい。
[破断強度比R1の算出]
破断強度比R1={(破断強度S/破断強度S)-1}×100 (式1)
(上記式1中、破断強度Sは、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断強度を表す。)
破断強度比R1が±40%以下である場合、一定の充放電サイクルに供する前後での二次電池電極厚みの増大が抑制される傾向にあり、したがってリバウンド特性が向上する傾向にある。上記と同様の観点から、破断強度比R1は、±35%以下であることが好ましく、より好ましくは±30%以下である。破断強度比R1の下限値は特に限定されないが、例えば、0%であってもよい。
破断強度比R1は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、重合体粒子の構成成分として前述した好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、破断強度比R1を上記範囲に調整できる。
【0026】
(重合体粒子の破断強度比R2)
下記の式2に基づいて得られる、第2の重合体粒子の破断伸度Eと破断伸度Eとの比R2は、±10%以下であることが好ましい。
[破断伸度比R2の算出]
破断伸度比R2={(破断伸度E/破断伸度E)-1}×100 (式2)
(上記式2中、破断伸度Eは、電解液浸漬前の前記重合体粒子に対して測定される破断伸度を表す。)
破断伸度比R2が±10%以下である場合、一定の充放電サイクルに供する前後での二次電池電極内の導電パスの切断が抑制される傾向にあり、したがってサイクル特性が向上する傾向にある。上記と同様の観点から、破断強度比R2は、±9%以下であることが好ましく、より好ましくは±8%以下である。破断強度比R2の下限値は特に限定されないが、例えば、0%であってもよい。
破断伸度比R2は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、重合体粒子の構成成分として前述した好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、破断伸度比R2を上記範囲に調整できる。
【0027】
本実施形態において、リバウンド特性及びサイクル特性のバランスの観点から、上記式1及び式2に基づいて得られる、第1の重合体粒子の破断強度Sと前記破断強度Sとの破断強度比R1及び前記重合体粒子の破断伸度Eと前記破断伸度Eとの比R2が、それぞれ、±40%以下及び±10%以下であることが好ましい。
【0028】
(第2の重合体粒子)
第2の重合体粒子は、電解液膨潤度、破断強度S及び破断伸度Eが所定の範囲を満たすように構成されている。
【0029】
(重合体粒子の電解液膨潤度)
第2の重合体粒子は、電解液膨潤度が1.3倍以下となっている。ここで、電解液膨潤度は、重合体粒子の電解液への耐性を評価する指標となり、その値が1.3倍以下であることにより、電解液中においても集電体やセパレータとの密着力を維持できる。かかる観点から、上記電解液膨潤度は1.25倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.2倍以下である。
電解液膨潤度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、後述する電解液膨潤度、破断強度S、破断伸度E、破断強度比R1及び破断伸度比R2の調整方法(以下、単に「調整方法」ともいう。)を採用すること等により、電解液膨潤度を上記範囲に調整できる。
【0030】
(重合体粒子の破断強度S)
第2の重合体粒子の電解液膨潤時に測定される破断強度Sは、2MPa以上である。破断強度Sが2MPa以上である場合、電解液浸漬時でも高い強度が確保される。上記と同様の観点から、破断強度Sは5MPa以上であることが好ましい。破断強度Sの上限値は特に限定されないが、例えば、20MPa以下であってもよい。
破断強度Sは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、後述する調整方法を採用すること等により、破断強度Sを上記範囲に調整できる。
【0031】
(重合体粒子の破断伸度E)
第2の重合体粒子の電解液膨潤時に測定される破断伸度Eは、100%以上である。破断伸度Eが100%以上であることにより、電解液浸漬時でも高い柔軟性が確保される。上記と同様の観点から、破断伸度Eは200%以上であることが好ましく、より好ましくは300%以上である。破断伸度Eの上限値は特に限定されないが、例えば、600%以下であってもよい。
破断伸度Eは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、例えば、後述する調整方法を採用すること等により、破断伸度Eを上記範囲に調整できる。
【0032】
本実施形態において、リバウンド特性及びサイクル特性のバランスの観点から、第2の重合体粒子の電解液膨潤度が1.3倍以下であり、かつ、電解液膨潤時に測定される、前記重合体粒子の破断強度Sが2MPa以上であり、かつ、前記重合体粒子の破断伸度Eが100%以上である。
【0033】
本実施形態において、リバウンド特性及びサイクル特性のバランスの観点から、上記式1及び式2に基づいて得られる、前記重合体粒子の破断強度Sと前記破断強度Sとの破断強度比R1及び前記重合体粒子の破断伸度Eと前記破断伸度Eとの比R2が、それぞれ、±40%以下及び±10%以下であることが好ましい。
【0034】
第2の重合体粒子についても、前述した単位U1、単位U2及び単位U3を有するものであってもよい。また、第2の重合体粒子についても、単位U1、単位U2及び単位U3の含有量が、各々、前述した数値範囲を満たすことが好ましい。
【0035】
本実施形態における重合体粒子は、前述した測定に供して得られる重合体粒子の電解液膨潤度、破断強度S、破断伸度E、破断強度比R1及び破断伸度比R2の値の全てが、前述した各数値範囲を満たすことがとりわけ好ましい。
【0036】
(電解液膨潤度、破断強度S、破断伸度E、破断強度比R1及び破断伸度比R2の調整方法)
本発明者らは、非水系二次電池用重合体組成物の電解液に対する極性差(SP値差)に着目し、極性の低い材料を選択することで、電解液へ浸漬した後も十分な引張強度や引張伸度が得られることを見出している。かかる知見によれば、本実施形態における重合体粒子の電解液膨潤度、破断強度S、破断伸度E、破断強度比R1及び破断伸度比R2の値を前述した数値範囲に調整する方法は、前述した方法に限定されない。すなわち、単量体成分が有する溶解度パラメータ(以下、「SP値」ともいう。)に着目し、一般的な電解液が有するSP値を基準として、SP値の高い単量体成分及びSP値の低い単量体成分を併用すること等により、また、各単量体成分のSP値を考慮しつつ、その含有量比を増減させること等によっても、本実施形態における重合体粒子の電解液膨潤度、破断強度S、破断伸度E、破断強度比R1及び破断伸度比R2の値を前述した数値範囲に調整することができる。
本明細書中、SP値とは、「R.F.Fedors: Polym. Eng. Sci., 14〔2〕, 147-154(1974)」に記載された、各種原子団の凝集エネルギー密度(E)とモル分子容(V)を用い、下記式(A)により算出した溶解性パラメーターδを意味する。
δ=ΣE/ΣV (A)
(式(A)中、E、Vは、それぞれ、Fedorsによる各種原子団のE、モル容積Vを表す。)
【0037】
一般的な電解液が有するSP値としては、以下に限定されないが、例えば、11程度である。この例に従えば、SP値が11を超える単量体成分を高SP値成分と扱い、SP値が11未満の単量体成分を低SP値成分と扱うことができる。
エチレン性単量体M1は、通常、SP値が低くなる傾向にある。エチレン性単量体M1から構成されるホモポリマーのSP値は、以下に限定されないが、8.0~9.5であることが好ましい。
また、エチレン性単量体M2は、通常、SP値が高くなる傾向にある。エチレン性単量体M2のSP値は、以下に限定されないが、12~17であることが好ましい。
換言すると、SP値が8.0~9.5である低SP値成分と、SP値が12~17である高SP値成分とを併用する場合、その含有量としては、前者を50質量%超とし、かつ、後者を5%以上50質量%未満とすることが好ましい。
【0038】
(ガラス転移温度)
本実施形態における重合体粒子は、柔軟性をより高める観点から、DSCにて測定される前記重合体粒子のガラス転移温度の最大値が20℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下である。
上記した各ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、重合体粒子の構成成分として後述する好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、各々上記範囲に調整できる。
【0039】
(平均粒子径)
本実施形態における重合体粒子は、より応力緩和に寄与する観点から、平均粒子径が50nm以上800nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以上650nm以下であり、さらに好ましくは150nm以上500nm以下である。
上記した平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、重合体粒子の構成成分の単量体組成比、重合温度、乳化剤等により、各々上記範囲に調整できる。
【0040】
(用途)
本実施形態の組成物は、その用途に応じ、本実施形態における重合体粒子の他、種々公知の任意成分を含むことができる。本実施形態の組成物の用途としては、非水系二次電池の一材料として使用されるものであれば特に限定されず、負極用材料、正極用材料及びセパレータ用材料等として用いることができるが、負極用材料として用いることがとりわけ好ましい。すなわち、本実施形態の非水系二次電池用負極(以下、単に「負極」ともいう。)は、本実施形態の組成物を含むことが好ましい。
【0041】
以下、本実施形態の組成物を、負極、正極又はセパレータの製造用に用いる場合は特に「電池材料製造用組成物」と称するものとする。ここで、電池材料製造用組成物により負極を製造する場合、電池材料製造用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、負極活物質と、必要に応じて任意成分とを含むものとすることができる。また、電池材料製造用組成物により正極を製造する場合、電池材料製造用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、正極活物質と、必要に応じて任意成分とを含むものとすることができる。さらに、電池材料製造用組成物によりセパレータを製造する場合、電池材料製造用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、セパレータ原料と、必要に応じて任意成分とを含むものとすることができる。
一方、本実施形態の組成物が、負極活物質、正極活物質及びセパレータ原料のいずれも含まない場合、電池材料製造用の添加剤として適用することができる。すなわち、本実施形態の組成物をバインダー用途に用いる場合は「バインダー用組成物」と、増粘剤用途に用いる場合は「増粘剤用組成物」と、それぞれ称するものとする。
上記のとおり、「本実施形態の組成物」との用語は、「電池材料製造用組成物」、「バインダー用組成物」及び「増粘剤用組成物」を包含するものということができ、いずれの用途においても、本実施形態における重合体粒子が含まれているという点において共通する。また、いずれの用途においても、本実施形態の組成物が任意成分を含む場合、その種類や配合割合等は特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0042】
電池材料製造用組成物により負極を製造する場合、用いうる負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、炭素系活物質やシリコン系活物質が挙げられる。
炭素系活物質としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛、炭素繊維、コークス、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、導電性高分子(ポリ-p-フェニレン等)等が挙げられる。
シリコン系活物質としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素、SiO(0.01≦x<2)、ケイ素と遷移金属との合金等が挙げられる。
【0043】
電池材料製造用組成物により正極を製造する場合、用いうる正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、リチウム含有複合酸化物や遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、遷移金属硫化物等が挙げられる。
リチウム含有複合酸化物としては、特に限定されないが、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiMn、LiXCoYSnZO、LiFePO、LiXCoYSnZO等が挙げられる。
遷移金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、MnO、MoO、V、V13、Fe、Fe等が挙げられる。
遷移金属フッ化物としては、特に限定されないが、例えば、CuF、NiF等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、特に限定されないが、例えば、TiS、TiS、MoS、FeS等が挙げられる。
【0044】
本実施形態において、バインダー用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、当該重合体粒子100質量部に対して0.0001質量部以上1.0質量部以下のイソチアゾリン系化合物とを含むことが好ましい。上記範囲を満たす場合、せん断力に対するヒステリシスな粘度挙動を抑制でき、より安定した塗工性を発現できる傾向にある。イソチアゾリン系化合物としては、特に限定されず、種々公知のものを採用でき、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-t-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ブチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-メチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-エチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-プロピルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-イソブチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ペンチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-イソペンチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ヘキシルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-アリルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-(2-ブテニル)ベンゾイソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。これらの中でも、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンが好ましい。
その他、本実施形態のバインダー用組成物は、任意成分として消泡剤を含むことができる。
消泡剤としては、ミネラルオイル系、シリコーン系、アクリル系、ポリエーテル系の各種消泡剤が挙げられる。消泡剤を含む場合、より脱泡性に優れる傾向にある。
この場合において、任意成分の種類や配合割合等は特に限定されない。
【0045】
(非水系二次電池用重合体組成物の製造方法)
本実施形態の組成物を製造するための方法としては、特に限定されないが、次の製造方法(以下、「本実施形態の製法」ともいう。)にて好ましく製造することができる。すなわち、重合体粒子を含む組成物を得るべく、上述した原料モノマー等を用いて乳化重合を行う方法が好ましい。重合時には適当なシード粒子を用いることができ、シード粒子も通常の乳化重合により得ることができる。また、乳化重合に際しては公知の方法を採用することができ、水性媒体中で重合開始剤、分子量調整剤、キレート化剤、pH調整剤、乳化剤等を適宜用いて製造することができる。
【0046】
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤などを単独で、あるいは2種以上を併用して使用できる。
【0047】
アニオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの硫酸塩エステルなどが挙げられる。
【0048】
ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型などが用いられる。
【0049】
両性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのベタイン類、ラウリル-β-アラニン、ステアリル-β-アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシンなどのアミノ酸タイプのものなどが用いられる。
【0050】
反応性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ヒドロキシポリオキシエチレンなどが挙げられる。
【0051】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤、過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤、還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤などを、単独であるいは組み合わせて使用できる。
【0052】
本実施形態の製法において、攪拌速度、重合温度、反応(重合)時間等の条件は、本実施形態の組成物が得られる限り、特に限定されない。典型的には、攪拌速度は通常50rpm以上500rpm以下とすることができ、重合温度は通常50℃以上100℃以下とすることができ、反応時間は通常3時間以上72時間以下とすることができる。
【0053】
本実施形態の製法においては、上記のようにして重合体粒子を得た後、必要に応じて、当該重合体粒子を分散媒に分散させ、任意成分を加えることにより、本実施形態の組成物を得ることができる。分散媒としては水を用いることができ、また、必要に応じて活物質に適した有機系溶媒を用いることもできる。
【0054】
(非水系二次電池)
本実施形態の非水系二次電池は、本実施形態の組成物を用いて製造することができる。換言すると、本実施形態の非水系二次電池は、本実施形態の組成物を含むものである。
本実施形態の非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、その典型的な構成部材としては、負極、負極集電体、正極、正極集電体、セパレータ及び電解液を挙げることができ、本実施形態の非水系二次電池は、その主要部材(負極、正極及びセパレータ)の少なくとも1つが本実施形態の組成物を用いて得られたもの、すなわち、その主要部材の少なくとも1つが、本実施形態の組成物を含むものであればよい。本実施形態の非水系二次電池においては、上記の主要部材の中でも、負極が本実施形態の組成物を含むことが好ましい。
各部材が本実施形態の組成物を含むことについては、本実施形態における重合体粒子が当該部材に含まれているか否かにより特定することができる。
【0055】
本実施形態の非水系二次電池の製造方法としては、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池を例にすると、本実施形態の組成物を、集電体に塗布し、加熱し、乾燥することによって対応する電極を形成し、セパレータを介して正極及び負極を対向させ、電解液を注入して密封すること等が挙げられる。負極集電体としては、特に限定されないが、例えば、銅箔が用いられ、正極集電体としては、特に限定されないが、例えば、アルミ箔が用いられる。電解液としては、特に限定されないが、例えば、LiClO、LiBF、LiPF等の電解質を有機溶媒に溶解したものを使用できる。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、カーボネート類、塩素化炭化水素類などが挙げられ、代表例としてはテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ブチロニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができ、1種類または2種類以上の混合物として使用される。
【0056】
塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、リバースロールコーター、コンマバーコーター、グラビヤコーター、エア-ナイフコーターなど任意のコーターヘッドを用いることができる。乾燥方法としても、特に限定されず、例えば、放置乾燥、送風乾燥、温風乾燥、赤外線加熱機、遠赤外熱機などが使用できる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、60℃~150℃で行うことができる。
【実施例
【0057】
以下に実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、説明の便宜上、以下の実施例では「組成物」や「塗工液」といった文言を使用するが、いずれも本実施形態の組成物に包含される概念である。
【0058】
[実施例1]
反応器に、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・サルフェートアンモニウム塩(ニューコール707SF)を0.3質量部とイオン交換水400質量部を加え、撹拌しながら70℃に昇温して保持した。ここへ、過硫酸ナトリウム(以下、「NPS」ともいう。)0.5質量部を加えた。そこに、2-エチルヘキシルアクリレート(以下、「2-EHA」ともいう。)175質量部、メタクリル酸(以下、「MAA」ともいう。)10質量部及び1,9-ノナンジオールジメタクリレート(以下、「1,9-ND」ともいう。)15質量部を混合したモノマー溶液と、ニューコール707SFを1.5質量部と、イオン交換水400質量部と、を加えた。得られた混合液をホモジナイザーで乳化して得られた乳化液を滴下し、温度70℃に保ちながら2.5時間で滴下を終了した後、2時間重合を継続させた。その後、温度を70℃から85℃へ昇温し、1.5時間保持して重合を完結させた。このときの各単量体成分の配合量としては、単量体成分の合計量(全エチレン性不飽和単量体に由来する単位:2-EHA、MAA及び1,9-ND)100質量部に対して、2-EHAは87.5質量部、MAAは5質量部、1,9-NDは7.5質量部であった。
得られた重合体粒子100質量部に対し、添加剤としてメチルイソチアゾリン0.0005質量部を加えた後に、200μmメッシュを用いて濾過を行った。重合率は99%であった。得られた重合体粒子に水酸化ナトリウム水溶液13.8質量部をイオン交換水83.8質量部に溶解した水溶液を加え中和し、組成物を得た。得られた組成物はpH7、固形分18%であった。
なお、重合率は、全仕込み成分量に対する残渣量の比率に固形分率を加えて算出した。この組成物を用い、次のとおり二次電池負極を作成した。
【0059】
<二次電池負極用塗工液の作製>
得られた組成物1.5固形分質量部に対して、更に増粘剤成分としてカルボキシメチルセルロース1.0固形分質量部と、さらに負極活物質として天然黒鉛100質量部を加え、そこへイオン交換水を添加し、メカニカルスターラーで攪拌して総固形分が60%になるように調製した。これをプレミックスとし、その後、薄膜旋回型高速ミキサー(PRIMIX社製、T.K.フィルミックス FM56-L型(製品名)」)を用いて周速20m/秒にて30秒分散し、二次電池負極用の塗工液とした。
【0060】
<二次電池負極の作製>
上記塗工液を用いて、乾燥後の厚みが100μmになるように銅箔の片面にダイコーターで塗布した後、60℃で60分乾燥した。120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。負極活物質塗布量は106g/m、負極活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにした。
【0061】
上記のようにして得られた組成物及び二次電池負極を用い、後述する各種物性評価に供した。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例2~5及び比較例1~4]
各例において、モノマー及び添加剤の種類並びに/又は配合量を表1に示すとおりに変更した点を除き、実施例1と同様にして、実施例2~5及び比較例1~4の組成物を調製し、二次電池負極を作成した。
上記のようにして得られた組成物及び二次電池負極を用い、後述する各種物性評価に供した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例6]
反応器に、ニューコール707SFを0.3質量部とイオン交換水400質量部、及び、MAA10質量部を加え、撹拌しながら70℃に昇温して保持した。ここへ、NPS0.5質量部を加えた。そこに、2-EHA159.8質量部、MAA30質量部及び1,9-ND0.2質量部を混合したモノマー溶液と、ニューコール707SFを1.5質量部と、イオン交換水400質量部と、を加えた。得られた混合液をホモジナイザーで乳化して得られた乳化液を滴下し、温度70℃に保ちながら2.5時間で滴下を終了した後、2時間重合を継続させた。その後、温度を70℃から85℃へ昇温し、1.5時間保持して重合を完結させた。このときの各単量体成分の配合量としては、単量体成分の合計量(全エチレン性不飽和単量体に由来する単位:2-EHA、MAA及び1,9-ND)100質量部に対して、2-EHAは79.9質量部、MAAは20質量部、1,9-NDは0.1質量部であった。
以降は実施例1と同様にして、組成物を調製し、二次電池負極を作成した。
上記のようにして得られた組成物及び二次電池負極を用い、後述する各種物性評価に供した。結果を表1に示す。
【0064】
(平均粒子径)
重合体粒子の平均粒子径を、粒子径測定装置(日機装株式会社製、Microtrac UPA150)を使用して測定した。測定条件としては、ローディングインデックス=0.15~0.3、測定時間300秒とし、得られたデータにおける50%粒子径の数値を動的光散乱法による平均粒子径とした。
【0065】
(電解液膨潤度)
重合体粒子を含む組成物を130℃のオーブン中に1時間静置して乾燥させた。乾燥させて得られた重合体粒子の膜を0.5gになるように切り取った。切り取ったサンプルを、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2(体積比)の混合溶媒10gと一緒に50mLのバイアル瓶に入れ、60℃で1日混合溶媒を浸透させた後、サンプルを取り出し、上記混合溶媒にて洗浄し、質量(Wa:g)を測定した。その後、サンプルを150℃のオーブン中に1時間静置してから、質量を測定し(Wb:g)、下記式より共重合体の電解液に対する膨潤度を算出した。
重合体粒子の電解液に対する膨潤度(倍)=1+{(Wa-Wb)/(Wb)}
なお、各モノマーを重合して得られるホモポリマーの電解液膨潤度については、次のようにして得られたホモポリマーからサンプル(乾燥させて得られた重合体粒子の膜0.5g)を採取し、上述した方法に基づいて電解液膨潤度を算出した。
実施例1~6及び比較例1~5において使用した各モノマーを用い、以下の方法でホモポリマーを作成し、当該ホモポリマーを用いて上記と同様に製膜し、評価を行った。
ホモポリマーが水に不溶なモノマー(2-EHA、1,9-ND、EA、BA、GMA、St、BD)は、次のとおり、水中にて乳化重合により作製した。
反応器に、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・サルフェートアンモニウム塩(ニューコール707SF)を0.3質量部とイオン交換水400質量部を加え、撹拌しながら70℃に昇温して保持した。ここへ、過硫酸ナトリウム(以下、「NPS」ともいう。)0.5質量部を加えた。そこに、上記モノマー100質量部と、ニューコール707SFを1.5質量部と、イオン交換水500質量部と、を加えた。得られた混合液をホモジナイザーで乳化して得られた乳化液を滴下し、温度70℃に保ちながら2.5時間で滴下を終了した後、2時間重合を継続させた。その後、温度を70℃から85℃へ昇温し、1.5時間保持して重合を完結させ、対応するホモポリマーを得た。
また、ホモポリマーが水に可溶なモノマー(MAA)は、次のとおり、水中で溶液重合により作製した。
反応器にメタクリル酸100重量部、イオン交換水900質量部を加え、撹拌しながら70℃に昇温して保持した。ここへ、過硫酸ナトリウム(以下、「NPS」ともいう。)0.5質量部を加えた。温度70℃に保ちながら4.5時間重合を継続させた。その後、温度を70℃から85℃へ昇温し、1.5時間保持して重合を完結させ、対応するホモポリマーを得た。
【0066】
(ガラス転移温度)
重合体粒子を含む組成物をpH7.0に調整し、130℃で30分乾燥し、乾燥物を得た。示差走査熱量測定(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製;DSC6220)を使用し、ASTM法(D3418-97)に従い、温度-50℃から+200℃まで、20℃/minの速度で昇温し、重合体粒子の示差走査熱量曲線を得て、付属のソフトウエアでガラス転移温度を求めた。ガラス転移温度が1つあるいは2つ以上であるかないかはソフトウエアの判定によってピークを求めて決めた。
また、各モノマーのガラス転移温度は、上記(電解液膨潤度)の項にて記載した方法にて得られる、対応するホモポリマーを用いたことを除き、上記と同様に測定した。
【0067】
(SP値)
使用したモノマーのSP値としては、「R.F.Fedors: Polym. Eng. Sci., 14〔2〕, 147-154(1974)」に記載された、各種原子団の凝集エネルギー密度(E)とモル分子容(V)を用い、下記式(A)により算出した溶解性パラメーターδの値を採用した。
δ=ΣE/ΣV (A)
(式(A)中、E、Vは、それぞれ、Fedorsによる各種原子団のE、モル容積Vを表す。)
【0068】
(破断強度及び破断伸度)
平滑なアルミ板上に横100mm×縦100mm×高さ20mmの型枠を設置した。そこに固形分18%に調整した重合体粒子を含む組成物(水分散液)を11g流し込んだ。これを室温で24時間乾燥させたのち、100℃で1時間乾燥させることで200μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムを裁断し、縦1cm×横8cmのフィルムを作製した。作製したフィルムをJIS-K5301に準じて、50mm/minの速度で伸張し、破断時の強度を3回測定した。破断時における強度の平均値及び伸度の平均値を、それぞれ、破断強度S及び破断伸度Eとした。
次いで、作製したフィルムを別途切り出し、この試験片をエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2(体積比)の混合溶媒に60℃で1週間浸した。その後、60℃で試験片を1日乾燥させたものを用い、上記と同様にして破断強度S0と破断伸度0を測定した。
さらに、下記式1及び式2に基づいて、破断強度比R1及び破断伸度比R2を算出した。
破断強度比R1={(破断強度S0/破断強度S)-1}×100 (式1)
破断強度比R2={(破断伸度E0/破断伸度E)-1}×100 (式2)
【0069】
(ピール強度)
得られた二次電池負極から幅2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、この試験片の集電体側の表面を両面テープでアルミ板に貼り付けた。JIS Z 1522に準拠し、試験片の電極層側に幅18mmのテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」(ニチバン社製))を貼り付け、180°方向に100mm/minの速度でテープを剥離したときの強度を6回測定し、その平均値(N/18mm)をピール強度(電解液浸漬前)として算出した。次いで、二次電池負極から幅2cm×長さ12cmの試験片を別途切り出し、この試験片をエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2(体積比)の混合溶媒に80℃で1週間浸した。その後、80℃で試験片を1日乾燥させたものを用い、上記と同様にしてピール強度(電解液浸漬後)を測定した。これらの値が大きいほど集電体と電極層の接着強度が高く、集電体から電極層が剥離しがたいと評価でき、具体的には、以下の基準に基づきピール強度を評価した。
◎:40N/m以上
〇:30N/m以上40N/m未満
△:20N/m以上30N/m未満
×:20N/m未満
【0070】
(スプリングバック)
(二次電池負極の作製)の項で記載した方法により得られた直後の二次電池負極(負極活物質嵩密度1.35g/cm)の厚みと1日放置した後の厚みを測定して、その差分をスプリングバックとし、以下の基準に基づき評価した。
◎:5μm未満
〇:5μm以上10μm未満
△:10μm以上15μm未満
×:15μm以上
【0071】
(リバウンド性)
得られた二次電池負極をプレスして1日放置した後の厚みから、後述する電解液を注入し充放電を100サイクル繰り返した後の電極層の厚みを測定した。
リバウンド性=(充放電100サイクル後の電極層の厚み)-(プレスして1日放置した後の厚み)
以下の基準に基づき評価した。
◎:10μm未満
〇:10μm以上15μm未満
△:15μm以上20μm未満
×:20μm以上
【0072】
(初期容量、温度サイクル試験及びサイクル特性)
二次電池負極を使用し、次の方法にて製造した二次電池に関して、60℃で2Cの定電流定電圧充電法にて、4.2Vになるまで定電流で充電し、その後、定電圧で充電し、次いで、2Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。初期放電容量は下記基準で判定した。この値が大きいほど初回の充放電による容量減が少ない事を示す。サイクル試験は100サイクルまで行い、初期放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、下記基準で判定した。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少ないことを示す。
(初期容量)
◎:初期放電容量が12.0mAh以上
〇:初期放電容量が11.5mAh以上12.0mAh未満
△:初期放電容量が11.0mAh以上11.5mAh未満
×:初期放電容量が11.0mAh未満
(サイクル特性)
◎:容量維持率が90%以上
〇:容量維持率が80%以上90%未満
△:容量維持率が70%以上80%未満
×:容量維持率が70%未満
【0073】
<二次電池の作製>
二次電池正極及び負極を円形に打抜き、当該正極と負極との活物質面が対向するよう、正極、セパレータ及び負極の順に積層した後に、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。この容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と、それぞれ接するように配置した。そして、この容器内に電解液を注入して密閉し、その状態で室温にて1日放置して二次電池を作製した。
ここで使用した上記電解液には、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより調製したものを使用した。
また、上記セパレータには、ポリエチレン多孔膜製のものを使用し、上記二次電池負極には、上記実施例1~5及び比較例1~4で得られた二次電池負極を使用した。
さらに、上記二次電池正極には、以下のようにして作製されたものを使用した。
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%を、N-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。この時、正極の活物質塗布量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにした。このようにして得られた電極を二次電池正極として使用した。
【0074】
【表1】
【0075】
表1において、以下の略称を使用した。
EA:エチルアクリレート
BA:n-ブチルアクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
St:スチレン
BD:ブタジエン
【0076】
表1における各単量体成分の質量部表示について、実施例2~4は実施例1と同様の100質量部を基準としており、実施例5及び比較例2は2-EHA及びMAAの合計量を100質量部としており、比較例1は2-EHA及び1,9-NDの合計量を100質量部としている。また、比較例3は2-EHA、MAA、EA及びGMAの合計量を100質量部としており、比較例4は、BA、St、BD及びポリアクリル酸の合計量を100質量部としている。
【0077】
用いたモノマーのホモポリマーに対して測定されるガラス転移温度及び電解液膨潤度の値を以下の表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
本出願は、2020年12月15日出願の日本特許出願(特願2020-207375号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。