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▶ 株式会社牧野フライス製作所の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】タップ工具
(51)【国際特許分類】
   B23G 5/06 20060101AFI20250402BHJP
【FI】
B23G5/06 D
B23G5/06 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023223652
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】矢部 和寿
(72)【発明者】
【氏名】武石 啓
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/049989(WO,A1)
【文献】特開平9-042255(JP,A)
【文献】特開2004-001103(JP,A)
【文献】特開2001-018120(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094152(WO,A1)
【文献】特開2020-168698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに形成した下穴をねじ穴に加工するタップ工具において、
中心軸線を有するシャンク部と、
前記シャンク部の一端に結合されたカッターボディとを具備し、
前記カッターボディは、ワークに形成した下穴に係合するねじ部と、前記下穴に係合しない前記中心軸線に対して非対称に形成された非係合部とを有しており、
前記ねじ部は、基端側の完全ねじ部と、前記完全ねじ部の先端側に連続して形成される不完全ねじ部とを備え、
前記不完全ねじ部は、前記下穴に対して加工を行う切れ刃と、該切れ刃の回転方向後方に位置するガイドパッド部とを備え、
前記ガイドパッド部の外周面が、前記中心軸線に対して平行な円筒面であって、前記中心軸線から前記切れ刃までの距離に等しい半径を有する円筒面の一部から形成され
前記切れ刃に逃げ角が設けられていないことを特徴とするタップ工具。
【請求項2】
前記不完全ねじ部の複数のねじ山の外周面は、先端側のねじ山から基端側のねじ山へ半径が次第に大きくなる階段状に形成されている請求項に記載のタップ工具。
【請求項3】
前記ガイドパッド部の前記外周面の軸方向の幅が周方向に一定である請求項に記載のタップ工具。
【請求項4】
前記ねじ部は、軸方向に延びる溝を有している請求項1に記載のタップ工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに設けられた下穴をねじ穴に加工するタップ工具に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタとそれに装着されたタップ工具を使ってタップ加工を行う場合は、回転と直線送りを同期させたいわゆる同期タップ加工で行われる。同期タップ加工では、加工したねじ穴からタップ工具を引き出すときにも、回転と送りを同期させる必要がある。そのため、タップ工具の引き抜きに要する時間は、タップ工具を前進させてねじ溝を加工する時間にほぼ等しい時間が必要である。
【0003】
特許文献1には、ねじ穴のねじ溝を加工する刃部を有するねじ部と、刃部によって加工されたねじ溝に係合するパッド部と、回転軸線とねじ穴の中心軸線とを一致させた横断面視において、ねじ穴との間に空間を形成する非係合部とを備えたタップ工具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-168698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のタップ工具では、非係合部とねじ穴との間に空間が形成されるので、ねじ加工の終了した後に、回転軸線とねじ穴の中心軸線とが一致した状態から、ねじ穴内で回転軸線に直交する方向にタップ工具をシフトさせ、ねじ部とねじ溝との係合及びパッド部とねじ溝との係合を同時に解除し、タップ工具をねじ穴から軸方向に引き抜くことが可能となる。
【0006】
特許文献1のタップ工具では、タップ工具先端部の食付き部の切れ刃が最初に切り込んだときに、下穴の入口で食付き部を十分に支持することができず、撓みや倒れのようなタップ工具の変形を生じるタップ工具が撓むように変形することがある。更に、特許文献1のタップ工具は、刃部には逃げ角が設けられているために、特に、タップ工具が最初に切り込むときに、撓みや倒れのような変形が生じ易い問題がある。
【0007】
本発明は、本出願人の先願である先行文献1の改良発明であり、こうした従来技術の問題を解決することを目的としている。すなわち、加工終了後に、ねじ穴内で回転軸線に直交する方向にタップ工具をシフトさせ、次いで、タップ工具をねじ穴から軸方向に引き抜くことが可能なタップ工具において、タップ工具先端部の食付き部の切れ刃がワークに切り込んだたときに、撓みや倒れのような変形が撓みを生じないタップ工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、ワークに形成した下穴をねじ穴に加工するタップ工具において、中心軸線を有するシャンク部と、前記シャンク部の一端に結合されたカッターボディとを具備し、前記カッターボディは、ワークに形成した下穴に係合するねじ部と、前記下穴に係合しない前記中心軸線に対して非対称に形成された非係合部とを有しており、前記ねじ部は、基端側の完全ねじ部と、前記完全ねじ部の先端側に連続して形成される不完全ねじ部とを備え、前記不完全ねじ部は、前記下穴に対して加工を行う切れ刃と、該切れ刃の回転方向後方に位置するガイドパッド部とを備え、前記ガイドパッド部の外周面が、前記中心軸線に対して平行な円筒面であって、前記中心軸線から前記切れ刃までの距離に等しい半径を有する円筒面の一部から形成され、前記切れ刃に逃げ角が設けられていないタップ工具が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、不完全ねじ部のガイドパッド部の外周面が、前記中心軸線に対して平行な円筒面であって、前記中心軸線から前記切れ刃までの距離に等しい半径を有する円筒面から形成されているので、加工中、特にタップ工具の不完全ねじ部がワークの下穴に係合し始めたとき(食付き刃が切り込むとき)に、ガイドパッドの外周面が切削抵抗を支持するので、タップ工具が撓むことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のタップ工具を用いてタップ加工する工作機械の一例を示す略図である。
図2】本発明の実施形態によるタップ工具の正面図である。
図3図2のタップ工具の側面図である。
図4図2のタップ工具の先端側の端面図である。
図5図2のタップ工具の斜視図である。
図6図2のタップ工具の不完全ねじ部を示す部分拡大断面図である。
図7】従来技術のタップ工具の不完全ねじ部を示す部分拡大断面図である。
図8】タップ工具と、それが加工するねじ穴の横断面図である。
図9】切削抵抗とその主分力及び背分力を示す、図8と同様の横断面図である。
図10図8の状態からタップ工具がシフトした状態を示す、タップ工具とねじ穴の横断面図である。
図11】溝を有したタップ工具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1を参照すると、本発明のタップ工具およびタップ加工方法を適用する工作機械100が例示されている。図1において、工作機械100は、工場の床面に固定された基台としてのベッド102を具備している。ベッド102の上面には、Y軸案内レール118が水平前後方向またはY軸方向(図1では左右方向)に延設されており、テーブル104が、Y軸案内レール118に沿って往復動可能に設けられている。テーブル104には、ワークWがクランプ固定される。テーブル104をY軸方向に往復駆動するY軸駆動装置として、工作機械100はY軸サーボモータ(図示せず)を備えている。また、工作機械100は、テーブル104のY軸座標を検知するY軸デジタルスケール(図示せず)を備えている。
【0012】
ベッド102の後端側の上面には、コラム108が立設されている。コラム108の前面には、X軸案内レール120が水平左右方向またはX軸方向(図1では紙面に垂直な方向)に延設されており、X軸スライダ110が、X軸案内レール120に沿って往復動可能に設けられている。X軸スライダ110をX軸方向に往復駆動するX軸駆動装置として、工作機械100はX軸サーボモータ(図示せず)を備えている。また、工作機械100は、X軸スライダ110のX軸座標を検知するX軸デジタルスケール(図示せず)を備えている。
【0013】
X軸スライダ110の前面には、Z軸案内レール122が、鉛直方向またはZ軸方向に延設されており、ヘッドストック112がZ軸案内レール122に沿って往復動可能に設けられている。ヘッドストック112をZ軸方向に往復駆動するZ軸駆動装置として、工作機械100はZ軸サーボモータ(図示せず)を備えている。また、工作機械100は、ヘッドストック112のZ軸座標を検知するZ軸デジタルスケール(図示せず)を備えている。
【0014】
ヘッドストック112には、主軸114を鉛直な回転軸線Omを中心として回転可能に支持する主軸頭116が取り付けられている。主軸114の先端には、エンドミルや、フェースミル、ドリルのような回転工具T、特に、後述するタップ工具10を装着することができる。主軸頭116は、主軸114を回転軸線Om周りに回転駆動する主軸サーボモータ124を備えている。工作機械100は、主軸114の回転軸線Om周りの回転位置を検知する回転位置検知装置を備えている。回転位置検知装置は、例えば主軸サーボモータ124に取り付けたロータリーエンコーダ126とすることができる。
【0015】
工作機械100は、更に、加工に用いる複数の工具を収納した工具マガジン(図示せず)、工具マガジンと主軸114との間で工具を交換する自動工具交換装置(図示せず)、工作機械100の加工領域にクーラントを供給するクーラント供給装置(図示せず)とを備えたマシニングセンタとすることができ、これら周辺機器は、工作機械100とともにカバー(図示せず)内に収容されている。
【0016】
工作機械100は、更に、該工作機械100を制御する制御装置130を含んでいる。制御装置130は、CPU(中央演算素子)、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)のようなメモリ装置、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)のような記憶デバイス、出入力ポート、および、これらを相互接続する双方向バスを含むコンピュータおよび関連するソフトウェアから構成することができる。制御装置130は、特にX軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータおよび主軸サーボモータ124を制御するNC制御装置により形成することができる。
【0017】
工作機械100は、制御装置130に供給される加工プログラムに従い、X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータ、および主軸サーボモータ124を制御して、テーブル104に固定されたワークWに対して、主軸の先端に装着された回転工具TをX、Y、Zの直交3軸方向に相対移動させて、ワークWを加工する。
【0018】
工作機械100は、主軸114の回転とZ軸方向の送りとを同期させてタップ加工を行う。本明細書では、タップ工具10がタップ加工を実行するZ軸方向の直線移動を前進移動、タップ工具10をねじ穴6から引き抜くZ軸方向の直線移動を後退移動と称する。
【0019】
タップ工具10は、その中心軸線OtをワークWに形成された下穴Hの中心軸線Ohに一致した状態で、タップ加工、即ち下穴Hをねじ穴6にする加工を行う。図8図10において、符号8はねじ穴6の内周を指示しており、ねじ穴6の内周は下穴Hに一致する。また、符号6は、タップ工具10の呼び径に対応するねじ穴6の谷を指示している。タップ工具10は矢印Aの方向に回転する。
【0020】
タップ工具10は、中心軸線Otに沿って延びる棒状のシャンク部12と、シャンク部12の先端側の端部に結合されたカッターボディ14とを有する。シャンク部12は、主軸114の先端部に装着するように形成されている。シャンク部12は、主軸114の先端部に形成された装着穴(図示せず)に直接装着するように形成することができる。或いは、タップ工具10は、工具ホルダ(図示せず)または工具チャック(図示せず)に装着可能にシャンク部12を装着し、工具ホルダや工具チャックを介して主軸114の先端部に装着するようにできる。
【0021】
カッターボディ14は、中心軸線Otに対して非対称に形成されていて、ワークWに予め形成されている下穴Hの内周面に係合してねじ溝を加工する雄ねじ状のねじ部16と、下穴Hの内周面に係合しない非係合部18とを有している。ねじ部16は、長手方向に所定のねじピッチで間隔をおいて配置された複数のねじ山24、26、28、30(図6、7参照)を有している。なお、本実施形態では、タップ工具10は、三角ねじのねじ溝を形成するものである。
【0022】
図8、9を参照すると、ねじ部16のねじ山の各々は、タップ工具10の回転方向の先端に形成された切れ刃16aと、回転方向に切れ刃16aの後方に広がる部分であるガイドパッド部16bとを有している。ガイドパッド部16bは、図8図10において、切れ刃16aから後端16dまでの部分であり、外周面16cを有している。本実施形態において、外周面16cは、切れ刃16aと等しい半径(中心軸線Otと切れ刃16aとの間の距離)を有する円筒面の一部から形成されている。つまり、本実施形態では、ねじ部16は、切れ刃16aに逃げ角が設けられておらず、本実施形態では、切れ刃16aにおける接線と、切れ刃16aが描く円周に対する切れ刃16aにおける接線とが一致している。
【0023】
ねじ部16は、先端部分に形成された食付き部を形成する不完全ねじ部20と、基端側の完全ねじ部22とを有している。本実施形態では、不完全ねじ部20は、3つのねじ山24、26、28を有している。完全ねじ部22は、複数のねじ山30を有している。図6を参照すると、不完全ねじ部20の3つのねじ山24、26、28は、タップ工具10の軸方向に所定のねじピッチで間隔をおいて配置されており、外周面24a、26a、28aと、フランク面24b、26b、28bとを有している。フランク面24b、26b、28bは、外周面24a、26a、28aの両側部に軸方向に概ね対称に配置されている。
【0024】
本実施形態では、外周面24a、26a、28aは、それぞれ円筒面の一部から形成されており、外周面24a、26a、28aは中心軸線Otに平行となっている。タップ工具10の先端側の外周面28aは、その半径が最も小さく、従って軸方向に最も幅が広く形成されている。これに対して、基端側の外周面24aは、半径が最も大きく、従って軸方向に最も幅が狭くなっている。こうして、不完全ねじ部20は、その長手方向の断面で見たとき、或いは、不完全ねじ部20を平面に投影して見たときに、外周面24a、26a、28aが、先端側の外周面24aから基端側の外周面28aへ階段状になるように形成されている。
【0025】
これに対して従来技術のタップ工具では、図7に示すように、食付き部を形成する不完全ねじ部50は、3つのねじ山52、54、56は、軸方向に所定のねじピッチで間隔をおいて配置されており、外周面52a、54a、56aと、フランク面52b、52c;54b、54c;56b、56cとを有している。外周面52a、54a、56aは、共通する円錐面内に配置されており、従って、不完全ねじ部50は、先端方向に先細りとなるテーパー状に形成されている。そのため、ねじ山52、54、56の各々において、基端側のフランク面52b、54b、56bは、先端側のフランク面52c、54c、56cよりも広くなり、加工中に基端側のフランク面52b、54b、56bには、先端側のフランク面52c、54c、56cよりも大きな加工負荷が作用する。
【0026】
この食付き部を形成する不完全ねじ部のねじ山における基端側と先端側のフランク面の大きさの違いにより、従来技術のタップ工具では、加工中にタップ工具が倒れ、撓むように変形する問題を生じる。これに対して本実施形態では、フランク面24b、26b、28bは、外周面24a、26a、28aの両側部に軸方向に略対称に配置されているので、加工中、特にタップ工具10の不完全ねじ部20がワークWの下穴Hに係合し始めたときに、タップ工具10が倒れ、撓むことが防止される。
【0027】
完全ねじ部22は複数の、本実施形態では7つのねじ山30を有している。ねじ山30は、フランク面30bと、外周面30aを有し、フランク面30bは、外周面30aの両側部に軸方向に対称に配置されている。完全ねじ部22は、加工する内ねじの谷形状に合致する形状を有している。
【0028】
非係合部18は平滑な湾曲面を有しており、例えば、シャンク部12よりも小さな半径の円筒面の一部で形成することができる。非係合部18とワークWに加工したねじ穴6の内周面8との間には空間4が形成される。空間4は、タップ工具10が、図8、9に示すように、ワークWのねじ穴6の中心軸線Ohに一致する位置から、図10の矢印Sで示すように、回転軸線Omに直交する方向に移動(シフト)したときに、ねじ部16とワークWに加工された雌ねじとの係合が解除される、つまり、ねじ部16のねじ山24、26、28、30がワークWの雌ねじの内周面8から完全に離反できる大きさを有している。図10において、矢印Sは、主軸114の移動方向と移動量を示すベクトルとなっている。
【0029】
空間4の大きさは、安全マージンを以て少し大きめに形成することが望ましい。また、切削中には、空間4は切れ刃16aへ切削液を供給する経路および切削によって生じた切りくずを排出する経路の役割を果たし、加工面の品質を向上させ、工具寿命を延ばす効果がある。
【0030】
図10に示すように、主軸114をシフトすることによって、ねじ部16とワークWのねじ溝との係合が解除されると、タップ工具10は、回転軸線Omに沿う後退移動(図1ではZ軸に沿って上方への移動)により、ねじ穴6から引き抜くことができる。このタップ工具10の引き抜きは、従来のように回転運動を含まないので高速に行うことができる。
【0031】
以下の説明では、図8における3時の方向を主軸114の回転軸線Om周りの回転位置の原点(回転角θ=0°の位置)とする。図8では、タップ工具10の回転角(以下、「位相角」と称する)は、切れ刃16aの位相角として180度で例示されている。加工後に静止したタップ工具10の位相角は、ねじ穴6の深さが異なれば加工に必要なタップ工具10の回転回数も異なるので、ねじ穴6毎に異なる。従って、タップ工具10のシフトSの方向もねじ穴6毎に異なる。
【0032】
主軸114をシフトさせる方向を求めるために、本実施形態では、タップ工具10を加工開始点(図示せず)に位置決めする際、主軸114は、所定の位相角に設定される。そして、加工後に静止したとき、制御装置130は、タップ工具10の位相角を主軸サーボモータ124のロータリーエンコーダ126からの情報に基づき算出する。算出されたタップ工具10の位相角に基づいて、制御装置130は、主軸114のシフトの方向(図0では角度θ)が算出される。一方、必要なシフト量は、タップ工具10の横断面形状によって定まるので、制御装置130に予め記憶させることができる。
【0033】
本発明の実施形態によるタップ工具10と、図1に示されるような立形の工作機械100を用いて行われるタップ加工の例を以下に説明する。
先ず、タップ工具10を主軸114に装着後、加工開始点に位置決めする。つまり、タップ工具10を装着した工作機械の主軸114の回転軸線Omと、ワークに設けられた下穴Hの中心軸線Ohとを一致させて、所定のZ軸方向の高さにある加工開始点にタップ工具10の先端を位置決めする。このとき、切れ刃16aが所定の回転位置に配置されるように、主軸114を所定の位相角に回転送りされる。
【0034】
次に、主軸114の回転速度とZ軸方向の送り速度をねじのピッチに応じて同期させて、同期タップ加工を行う。タップ工具10がZ軸方向に所定の距離だけ移動して、指令されたねじ深さに達したとき、主軸114の回転とZ軸方向の送りが停止する。これによりワークの下穴Hがねじ穴6に加工される。
【0035】
次に、タップ工具10を回転軸線Omに直交する方向にシフトさせる。このタップ工具10のシフト方向(図10では矢印Sで表される方向)は、主軸サーボモータ124のロータリーエンコーダ126からの情報に基づき演算されるタップ工具10の位相角(切れ刃16aの回転位置)に基づいて演算される。シフト量は、予め制御装置130に登録された値が利用される。この工程により、タップ工具10のねじ部16とねじ穴6のねじ溝との係合は完全に解除される。
【0036】
次に、タップ工具10を回転させることなく上方へ加工開始点まで後退させる。このときの主軸114のZ軸方向の送り速度は、加工時、即ち、前進時の送り速度に比較して2倍以上高速にすることができる。こうして、1つのねじ穴6のタップ加工が完了する。
【0037】
本実施形態によれば、タップ工具10の非係合部18とねじ穴6の内径との間に空間4が形成され、前記空間4は、タップ工具10が回転軸線Omに直交する方向に移動したとき、ねじ部16とねじ溝との係合を解除する大きさを有する。そのため、加工後に、ねじ穴6のねじ溝との係合を解除したタップ工具10を、回転させることなく、ねじ穴6から回転軸線方向に高速で引き抜くことが可能になる。
【0038】
また、図9を参照すると、タップ工具10が回転してタップ加工する間、切削力に対する反力としてタップ工具10の切れ刃16aに作用する切削抵抗Rcと、その背分力Rb及び主分力Rpがベクトルとして示されている。主分力Rpは、背分力Rbより大きいので、その合力である切削抵抗Rcは、切れ刃16aの回転方向後方のガイドパッド部16bに向けて作用する。ガイドパッド部16bの各ねじ山の外周面は、中心線Otに対して平行な円筒面であって、中心線Otから切れ刃16aまでの距離に等しい半径を有する円筒面から形成されているので、切削抵抗Rcは、まずガイドパッド部16bの外周の円筒面がワークWと接触していることによって支持される。このように、本実施形態によれば、ガイドパッド部16bの外周面16cが、切れ刃16aの半径と等しい半径の円筒面の一部から形成されているので、切削抵抗Rcがガイドパッド部16bの外周面16cを介してねじ穴6、特に、ワークWに形成されたねじ溝(谷)の表面によって支持されるので、切削抵抗Rcによりタップ工具10が倒れ、撓むことがなく、その結果、加工精度も従来の通常のタップ工具を使った場合と同等である。
【0039】
ガイドパッド部16bの外周面16cの半径が、切れ刃16aの半径と等しいと説明したが、「等しい」は、厳密な意味で完全に一致することを意味していない。本願発明において、「等しい半径」は、同一の半径または数μm~数十μm小さな半径も含む。つまり、「等しい半径」は「略等しい半径」を含む。例えば、「等しい半径」は、相応の範囲で加工誤差を含んでいてもよい。
【0040】
更には、ガイドパッド部16bの外周面16cと、ワークWに形成されたねじ溝(谷)の表面との間をクーラントにより潤滑するため、或いは、切削抵抗Rcが過度に増大することを防止するために、ガイドパッド部16bにより切削抵抗Rcを支持してタップ工具10の撓みを防止可能な範囲で、ガイドパッド部16bの外周面16cの半径を切れ刃16aの半径よりも小さくして、ガイドパッド部16bの外周面16cとワークWとの間に隙間が形成されるようにしてもよい。この隙間は、例えば100μm以下、好ましくは数十μm以下、より好ましくは50μm以下とすることができる。
【0041】
或いは、ガイドパッド部16bの外周面16cの半径を切れ刃16bから後端16dへ向けて周方向に次第に低減して、外周面16cとワークWとの間に隙間が形成されるようしてもよい。この隙間は、ガイドパッド部16bの後端16dにおいて、例えば100μm以下、好ましくは数十μm以下、より好ましくは50μm以下とすることができる。
【0042】
ガイドパッド部16bの外周面16cの半径が、切れ刃16aの半径より小さいと、ガイドパッド部16bの外周筒面16cとワークWとの間には隙間が形成され、タップ工具10が撓むことが懸念されるが、ねじ山24、26、28のフランク面24b、26b、28bが、ワークWに形成した雌ねじのねじ山に接触することによって、切削抵抗Rcを支持することができ、半径の差が数μm~数十μmの範囲にあれば、タップ工具10の撓みを防止できる。
【0043】
ガイドパッド部16bの外周面16cの幅GW1、GW2、GW3は、周方向に一定にすることができる。これにより、切削抵抗Rcが、外周面16cのみならず、不完全ねじ部20のねじ山24、26、28の各々のフランク面24b、26b、28bにおいても支持されるので、タップ工具10の撓み防止効果が一層増強される。
【0044】
本発明の好ましい実施形態として、ガイドパッド部16bの外周面16cの半径が、切れ刃16aの半径と等しい例を説明した。他の例として、ガイドパッド部16bの外周面16cの幅GW1、GW2、GW3が周方向に若干漸増する、すなわち切れ刃16aは若干の逃げ角を有していてもよい。
【0045】
また、ねじ部16は、軸方向に延びる1または複数の溝部を有していてもよい。図11を参照すると、タップ工具60は、タップ工具10と同様に、シャンク部62と、シャンク部62の先端側の端部に結合されたカッターボディ64とを有する。カッターボディ64は、中心軸線Otに対して非対称に形成されていて、ワークWに予め形成されている下穴Hの内周面に係合してねじ溝を加工する雄ねじ状のねじ部66と、下穴Hの内周面に係合しない非係合部(図示せず)とを有している。ねじ部66は、先端部分に形成された食付き部を形成する不完全ねじ部68と、基端側の完全ねじ部70とを有している。本実施形態では、タップ工具10は、ねじ部66に形成された2本の軸方向に延びる溝72を備えている。溝72を設けることによって、クーラントによる潤滑および切り屑の排出が一層良好になる。
【符号の説明】
【0046】
6 ねじ穴
8 内周面
10 タップ工具
12 シャンク部
14 カッターボディ
16 ねじ部
16a 切れ刃
16b ガイドパッド部
16c 外周面
18 非係合部
20 不完全ねじ部
22 完全ねじ部
24、26、28、30 ねじ山
24a、26a、28a、30a 外周面
24b、26b、28b、30b フランク面
【要約】
【課題】タップ工具先端部の食付き部の切れ刃がワークに切り込んだたときに、タップ工具の撓みや倒れのような変形が撓むことを防止すること。
【解決手段】タップ工具10が、中心軸線Omを有するシャンク部12と、シャンク部の一端に結合されたカッターボディ14とを有し、カッターボディは、ワークWに形成した下穴Hに係合するねじ部16と、下穴に係合しない非係合部18とを有しており、ねじ部は、基端側の完全ねじ部22と、完全ねじ部の先端側に連続して形成される不完全ねじ部20とを備え、不完全ねじ部は、下穴に対して加工を行う切れ刃16aと、該切れ刃の回転方向後方に位置するガイドパッド部16bとを備え、ガイドパッド部の外周面が、中心軸線に関する切れ刃の半径を有しているする円筒面から形成されている。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11