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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
   B41J 11/02 20060101AFI20250403BHJP
【FI】
B41J11/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020195779
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2022084121
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000181
【氏名又は名称】岩崎通信機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】松村 翔太
(72)【発明者】
【氏名】平舘 淳
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-074090(JP,A)
【文献】特開2017-056653(JP,A)
【文献】特開2011-131548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体幅の異なる描画媒体に対して描画ヘッドにより描画を行うインクジェットプリンタにおいて、
前記描画媒体が搬送されるプラテンに設けた複数の吸気穴に対して、前記描画媒体の両外側に位置する吸気穴を前記プラテン上方から塞ぐ一対のフィルム状の用紙押えと、
前記描画媒体の幅方向に移動可能とし、前記吸気穴の一部を前記プラテン下方から塞ぐ前記描画媒体の搬送方向に長尺状となる一対の穴塞ぎ部材と、
前記幅方向への位置調整移動を可能なように前記用紙押えを支持する支持部と、
前記支持部の前記幅方向の移動に連動し、前記穴塞ぎ部材の幅方向の移動による位置調整を行うリンク機構とを具備し、
前記用紙押えと描画媒体の端部との間に所定の間隙が確保され、前記一対の穴塞ぎ部材は前記間隙に位置する吸気穴を前記プラテン下方から塞ぐことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記支持部は、前記搬送方向に沿った軸に対して回動可能となる開閉機構を有する請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記開閉機構は、前記支持部側に固定され球面部を有する球面軸受けと、前記球面部に嵌合する球面体と、を備えた請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記用紙押えの内側端の搬送方向に間隔を空けて段片部を設けた請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記段片部の設置部下部の前記穴塞ぎ部材に溝部を設けた請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記支持部に、前記開閉機構の可動及び前記位置調整移動を行うためのハンドルを配設した請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記用紙押えはローレットビスにより前記支持部に支持された請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル印刷機等のインクジェット方式による描画装置に係り、特に描画位置にある用紙等の描画媒体が浮く事を防止する押え機構を備えたインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、描画ヘッドからインクの微細な粒子を描画媒体に吹き付けることで描画を行うインクジェット方式の描画装置(インクジェットプリンタ)において、描画媒体の搬送方向に対して描画ヘッドが直角方向に往復動作しながら描画を行うシリアル型ヘッド方式ではなく、描画ヘッドを固定したまま描画媒体を搬送することで媒体全体への描画を可能とするライン型ヘッド方式を適用した製品が知られている。
【0003】
描画装置では、描画位置にある用紙が浮き上がることを防止するため、描画位置の用紙下に多数の穴が開いた板(プラテン)を用意し、その穴から空気を吸入する事で用紙(描画媒体)をプラテン上に吸着しながら描画(インクジェットヘッドからインクを吐出)する方法が知られている。
また、描画に使用する用紙の幅が複数種類ある場合、プラテンの吸気穴は最も幅の広い用紙をカバー出来る範囲まで必要だが、幅の狭い用紙の場合、用紙で塞ぐ事が出来ないプラテンの吸気穴が発生し、十分な吸着力を維持できない。そのため、用紙で塞げない用紙幅方向外側の吸気穴を、用紙端部を押える用紙押え(フィルム)で塞ぎ、吸着力を保持する方法を採ることがある。
【0004】
特許文献1には、インクジェットプリンタにおいて、描画位置にある媒体端部がカールにより浮き上がることを防止するために、描画位置での吸気による媒体吸着をより確実にするための技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、インクジェットプリンタにおいて、描画ヘッドから吐出された主滴から分離した微小なインク滴が、用紙搬送時のエア吸引による気流や、用紙が移動することにより発生する搬送気流の影響により着弾が乱れて用紙を汚すことを、吐出量を制御することで抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-196821号公報
【文献】特開2015-024598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、描画位置にある描画媒体2の浮き上がり防止のための吸着は、図27に示すように、プラテン31上にある複数の吸気穴32から、プラテン裏を負圧にすることで空気を吸い込んで実現するが、プラテン31上の吸気穴32は、サイズの異なる描画媒体に適用するため最大サイズの媒体に合わせて配置されている。サイズの小さい(幅の狭い)描画媒体の場合、描画媒体2により全ての吸気穴32を塞ぐことができないため、描画媒体2の幅に応じて可動するフィルム状の用紙押え34により媒体幅より外側の吸気穴32を塞ぐ構成を備えることが考えられる。
【0008】
しかしながら、図28に示すように、プラテン31上の吸気穴32は一定の間隔をもって配置されているため、使用する描画媒体2の端部が吸気穴全体を塞ぐことができない場合があり、また、フィルム状の用紙押え34と描画媒体2の端部の間にはある程度の間隙が必要なため、塞ぎきれない吸気穴321からの吸気により描画媒体端部に吸気による気流の乱れが発生し、描画媒体端部付近に吹き付けられた描画ヘッド41からのインクの微細な粒子が媒体に対して直進できず、結果として描画画像の乱れとなってしまう現象が生じる懸念があった。
【0009】
また、用紙押え34は、用紙(描画媒体)の幅方向端部に重なることで、端部が浮き上がらない様に物理的に押えることになるが、描画時にインクジェットヘッドが用紙上に位置する場合には、インクジェットヘッドの吐出面と用紙押え34との接触を回避するため、用紙押え34を用紙端部に重ねることができない。そのため、印字時にインクジェットヘッドが位置する部分は、用紙端部と用紙押え間に僅かに隙間が生じ、用紙及び用紙押え34で塞げないプラテン31上の吸気穴321からの吸気によるインクジェットヘッド/用紙間の気流により、インクジェットヘッドから吐出されたインク液滴が用紙着弾前に流され、用紙端部分にインク着弾ズレによる画像乱れが生じることがある。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みて提案されたもので、幅が異なる描画媒体であっても、その媒体端部において高品質な描画を可能とするインクジェットプリンタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本願発明(請求項1)は、媒体幅の異なる描画媒体(2)に対して描画ヘッド(41)により描画を行うインクジェットプリンタにおいて、次の構成を含むことを特徴としている。
前記描画媒体(2)が搬送されるプラテン(31)に設けた複数の吸気穴(32)に対して、前記描画媒体(2)の両外側に位置する吸気穴(32)を前記プラテン(31)上方から塞ぐ一対のフィルム状の用紙押え(34)。
前記描画媒体(2)の幅方向に移動可能とし、前記吸気穴(32)の一部を前記プラテン(31)下方から塞ぐ前記描画媒体(2)の搬送方向に長尺状となる一対の穴塞ぎ部材(35)。
前記幅方向への位置調整移動を可能なように前記用紙押え(34)を支持する支持部(100)。
前記支持部(100)の前記幅方向の移動に連動し、前記穴塞ぎ部材(35)幅方向の移動による位置調整を行うリンク機構(第1連結部125)。
【0012】
請求項2は、請求項1のインクジェットプリンタにおいて、
前記支持部(100)は、前記搬送方向に沿った軸(段部103a)に対して回動可能となる開閉機構(第2連結部140)を備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項3は、請求項2のインクジェットプリンタにおいて、
前記開閉機構(第2連結部140)は、前記支持部(100)側に固定され球面部(107a)を有する球面軸受け(107)と、前記球面部(107a)に嵌合する球面体(108)と、を備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項4は、請求項1のインクジェットプリンタにおいて、
前記用紙押え(34)の内側端の搬送方向に間隔を空けて段片部(344)を設けたことを特徴としている。
【0015】
請求項5は、請求項4のインクジェットプリンタにおいて、
前記段片部(344)の設置部下部の前記穴塞ぎ部材(35)に溝部(351)を設けたことを特徴としている。
【0016】
請求項6は、請求項2のインクジェットプリンタにおいて、
前記支持部(100)に、前記開閉機構の可動及び前記位置調整移動を行うためのハンドル(113)を配設したことを特徴としている。
【0017】
請求項7は、請求項1のインクジェットプリンタにおいて、
前記用紙押え(34)はローレットビス(343)により前記支持部(100)に支持されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1によれば、描画媒体幅に応じた支持部(100)の幅方向への位置調整移動に際して、リンク機構により用紙押え(34)の描画媒体幅に応じて穴塞ぎ部材(35)が連動して可動するので、描画媒体(2)の幅にプラテン(31)上の描画媒体(2)の外側の吸気穴(32)を塞ぐ用紙押え(34)の位置を合わせる際に、穴塞ぎ部材(35)も同時に適切な位置に合わせることが可能となる。
これにより、目視による位置合せが難しい穴塞ぎ部材(35)の位置を確認する必要が無く、描画媒体(2)の幅に用紙押え(34)の位置と穴塞ぎ部材(35)の位置を合わせる際の労力を低減することができる。
また、穴塞ぎ部材(35)によりプラテン(31)上の描画媒体幅方向端部にある吸気穴(32)を確実に塞ぐことができるため、媒体端部付近に吹き付けられた描画ヘッド(41)からのインクの微細な粒子が描画媒体(2)に対して直進することを妨げる気流の乱れを抑えることが可能となり、いずれの幅の描画媒体(2)であっても、その媒体端部における適切な描画を確保することができる。
【0019】
請求項2によれば、支持部(100)の開閉機能による跳ね上げ動作により、描画媒体(2)の外側に備えた用紙押え(34)を開閉させることができる。
【0020】
請求項3によれば、球面体(108)に対して球面軸受け(107)の球面部(107a)がスライド移動して傾斜可能とすることで開閉機構を構成することができる。
【0021】
請求項4によれば、用紙押え(34)の内側端に段片部(344)を設けたことにより、描画媒体端部がカールすることによりプラテン(31)から浮き上がらないように、描画媒体端部をプラテン(31)に押え付けることができる。
【0022】
請求項5によれば、段片部(344)の設置部下部の穴塞ぎ部材(35)に溝部(351)を設けたことにより、この部分における吸気穴(32)による描画媒体端部のプラテン(31)への吸着を確実に促すことが可能となる。
【0023】
請求項6によれば、支持部(100)の操作側にハンドル(113)を配設することで、用紙押え(34)の開閉可動、用紙押え(34)及び穴塞ぎ部材(35)の位置調整を外側支点で行うことが可能となる。
【0024】
請求項7によれば、用紙押え(34)をローレットビス(343)により支持部(100)に支持することで、容易に用紙押え(34)の着脱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの装置全体を示す正面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの装置全体を示す側面模式図である。
図3】インクジェットプリンタにおける印字ユニットの全体を示す斜視説明図である(描画ヘッドは4個あるうちの1つのみを記載している)。
図4】(A)は印字ユニットの概略構成を示す断面説明図(幅狭の描画媒体を使用する場合)であり、(B)は(A)の点線部分の拡大説明図である。
図5】(A)は印字ユニットの概略構成を示す断面説明図(幅広の描画媒体を使用する場合)であり、(B)は(A)の点線部分の拡大説明図である。
図6】印字ユニットの平面説明図である(幅狭の描画媒体を使用する場合)。
図7】印字ユニットの平面説明図である(幅広の描画媒体を使用する場合)。
図8】印字ユニットを構成する印字部の平面説明図である(幅狭の描画媒体を使用する場合)。
図9】印字ユニットを構成する印字部の平面説明図である(幅広の描画媒体を使用する場合)。
図10】印字部の一部内構造を示す平面説明図である(幅狭の描画媒体を使用する場合)。
図11】印字部の一部内構造を示す平面説明図である(幅広の描画媒体を使用する場合)。
図12】印字ユニットを構成する印字部の断面説明図である(幅狭の描画媒体を使用する場合)。
図13】印字ユニットを構成する印字部の断面説明図である(幅広の描画媒体を使用する場合)。
図14】印字ユニットを構成する印字部の用紙抑え跳ね上げ時の断面説明図である(幅狭の描画媒体を使用する場合)。
図15】印字ユニットを構成する印字部の用紙抑え跳ね上げ時の断面説明図である(幅広の描画媒体を使用する場合)。
図16】(A)及び(B)は穴塞ぎ部材の側面説明図である。
図17】支持部における連結構造を示す外側方向からの斜視説明図である。
図18】支持部における連結構造を示す内側方向からの斜視説明図である。
図19】支持部における連結の分解構造を示す外側方向からの斜視説明図である。
図20】支持部における連結の分解構造を示す内側方向からの斜視説明図である。
図21】(A)及び(B)は支持部における第2連結部(通常時)を説明するための断面説明図である。
図22】(A)及び(B)は支持部における第2連結部(跳ね上げ時)を説明するための断面説明図である。
図23】(A)及び(B)は図21(B)及び図22(B)の点線内の拡大断面説明図である。
図24】段片部の効果を説明するモデル図(段片部による押え付け前の断面図)である。
図25】段片部の効果を説明するモデル図(段片部による押え付け後の断面図)である。
図26】描画媒体の浮き上がり防止のための構造を説明するモデル図(平面図)である。
図27】インクジェットプリンタのプラテン上に吸気穴を設けた従来構造のモデル図(断面図)である。
図28図27の構造において、描画媒体の端部に気流の乱れが発生する状況を説明したモデル図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタは、描画ヘッドを備えて描画媒体上に水性インクを吐出して描画を行う印字装置と、所望の方法でロール状の描画媒体を搬送する搬送装置と、描画媒体上に吐出された水性インクを乾燥定着させる乾燥装置とを備えて構成される。
【0027】
印字装置1は、図1及び図2に示すように、描画用インクを供給するためのポンプや電源等の電装系を収納する筐体部10と、筐体部上に載置される印字ベース部20と、搬送される描画媒体2を吸着して浮き上がりを防止する機能を有する印字部30と、描画媒体2に対する描画ヘッド41を退避可能とする可動機構を有するヘッド部40と、を備えている。
【0028】
印字ベース部20の前面側(図1及び図2)には、搬送される描画媒体2を吸着して浮き上がりを防止する機能を有する印字部30が設置されている。
この印字部30は、全体形状を矩形状のボックスで構成し、その上面に装着されたプラテン31上を描画媒体2が搬送されるようになっている。プラテン31には、搬送される描画媒体2を下面側から吸着し、描画媒体2の浮き上がりを防止するために、複数の吸気穴32が設けられている。印字部30のプラテン31下側には、負圧が維持された空気室33が設けられている。空気室33にはダクト61を介してバキューム用ブロワ60が接続されることで、プラテン31に設けた吸気穴32からの吸気を可能としている。
【0029】
ヘッド部40は、描画媒体2の搬送方向にずれた位置に設置される4個の描画ヘッド41を備え、2個を1セットとして描画媒体幅の全体をカバーして描画(印字)するようになっている。この例では、描画ヘッド41a及び描画ヘッド41b、描画ヘッド41c及び描画ヘッド41dの2セットでそれぞれ異なる色のインク(例えば3原色+黒)を順次吐出し、描画媒体2の全幅に対してカラー画像の描画(印字)が可能となっている。
【0030】
搬送方向に沿ったプラテン31の両側位置には、図3図5に示すように、描画媒体2の端部を押えるための一対の用紙押え34が設置されている。なお、図3では、省略して描画ヘッド41を一つだけ記載している。
一対の用紙押え34は、印字部30の端部に配置された支持部100が有する動作機構により、描画媒体2の幅に応じて搬送方向と直交する方向(幅方向)に移動可能に、且つ、用紙押え34の内側を上方に跳ね上げ動作させて開閉可能になるように連結されている。
図4が幅狭の描画媒体2に対応して用紙押え34を移動させた状態であり、図5が幅広の描画媒体2に対応して用紙押え34を移動させた状態を示している。また、空気室33には、用紙押え34の移動位置に連動して移動し、一部の吸気穴32を内部側から塞ぐ一対の板状の穴塞ぎ部材35が設けられている。
すなわち、描画媒体2の幅にプラテン31上の描画媒体2の外側の吸気穴32を塞ぐ用紙押え34の位置を合わせる際に、用紙押え34の媒体幅に応じた移動に連動して、穴塞ぎ部材35も同時に適切な位置に合うように構成されている。用紙押え34及び穴塞ぎ部材35の動作機構を含む支持部100の詳細構造は後述する。
【0031】
印字部30の描画媒体2の搬送方向入口側には、描画媒体2の搬送に応じて電気パルス信号を発生させるエンコーダ36と、描画媒体2上に予め描画されたマークを読み取るためのセンサ37が設けられ、描画媒体2の搬送量に応じた描画ヘッド41での描画や、予め描画された画像に位置を合わせた描画を可能としている。
【0032】
印字部30の上部にはヘッド部40が設置されている。ヘッド部40には、搬送される描画媒体2に対して描画を行う複数の描画ヘッド41と、描画ヘッド41で描画に使用するインクを供給するインク循環部が搭載されている。
印字部30の左右及び背面には、描画ヘッド41が搭載されたヘッド部40を印字装置1の前後方向(図1)へ退避可能に可動させるためのシャフト、スチールベルト、ベアリング装置、及びモータ等が配置されたヘッド移動部42が設けられ、プラテン31上での描画ヘッド41の高精度な位置制御を可能としている。
【0033】
印字部30の背面下部にはメンテナンス部45が設けられており、描画ヘッド41が描画動作していない待機状態で描画ヘッド41のインク吐出面の乾燥を防止するためにインク吐出面を密閉したり、描画ヘッド41のクリーニング時に排出されたインクを受けたりするキャップ部(不図示)を有している。
また、描画ヘッド41のクリーニング時にインクを排出後、インク吐出面に残ったインクを除去するためのワイパブレード(不図示)を備え、描画ヘッド41からのインクの安定した吐出を可能としている。
【0034】
ヘッド部40は、描画媒体2に対する描画ヘッド41の位置を可動とする可動機構を有している。例えば、ヘッド部40は、モータとボールネジ構造を使用してヘッド部全体の上下動作を行い、印字部30上での描画媒体2と描画ヘッド41のインク吐出面との距離を適正に維持するようになっている。
描画ヘッド41は、媒体入口から媒体出口へと搬送される描画媒体2に対して、所定位置を保持したまま描画を行うライン型の吐出部を備えることで高速描画を可能としたものである。
【0035】
筐体部10の下部には、描画ヘッド41の動作用電源やヘッド位置を可動とするモータ駆動用電源、制御基板動作用電源等が収納された電源収納部50や、印字部30での描画媒体2の浮き上がり防止のための媒体吸着に使用するバキューム用ブロワ60が設置されている。筐体部10の背面側には、描画ヘッド41に供給するインクを一時的に貯蔵するための複数のタンク70と、描画用インクをタンク70へ供給するためのポンプ80や洗浄液、廃液を流すためのポンプ80が設けられている。
筐体部10の側面には、描画ヘッド41を制御するためのプリント基板90や、ポンプ、モータ等を駆動するためのプリント基板90が設置され、描画ヘッド41の位置の制御や、外部インタフェースから受信した描画データの適正な描画を可能としている。
【0036】
続いて、描画媒体2の浮き上がりを防止する機能を有する印字部30のより詳細な構造について、図6図26を参照しながら説明する。図6図26において、図1図5と同一構成を採る部分については同一符号を付している。図6図11は印字部30の平面説明図を、図12図15は印字部30の断面説明図をそれぞれ示している。
【0037】
印字部30の上面の全体に設置されるプラテン31には、円形の多数の吸気穴32が穿孔されている。吸気穴32は、図6図9に示すように、描画ヘッド41の設置幅以外の部分に設けた吸気穴32aと、描画ヘッド41の設置幅(媒体搬送方向幅)に設けた吸気穴32bとから構成されている。吸気穴32bは、吸気穴32aに対して単位面積当たりの個数を少なくするとともに、孔も小径に形成されている。これは、描画ヘッド41に対応する描画媒体2の下面において、吸気の影響によるインク吐出の乱れを少なくし描画品質の維持を図るためである。
【0038】
具体的には、描画ヘッド41の搬送方向幅に対応する面積において、吸気穴32aが6列設定されているのに対して、吸気穴32bは2列設定されている。また。吸気穴32bの直径は、吸気穴32aの直径の1/4程度としている。なお、吸気穴32a及び吸気穴32bにおける描画媒体幅方向の設置間隔については、同一間隔となっている。
【0039】
印字部30には、プラテン31上を搬送する描画媒体2の外側の吸気穴32を塞ぐための一対のフィルム状の用紙押え34がそれぞれ支持部100を介して装着されている。用紙押え34は、長方形状のフィルム部341と、フィルム部341の描画媒体2が搬送される側以外の部分を縁取る金属部342とから構成され、搬送方向における金属部342の両端部分においてローレットビス343により支持部100に固定されている。用紙押え34をローレットビス343によって支持部100に固定することで、容易に着脱が可能となる。
【0040】
また、用紙押え34のフィルム部341には、用紙押え34の内側端の搬送方向に間隔を空けて複数の段片部344が装着されている。段片部344は、描画媒体端部がカールすることによりプラテン31から浮き上がらないように、描画媒体端部を押え付けることにより吸着を促す役割を有している。そして、各段片部344は、描画ヘッド41と重ならない位置に配置されている。これは以下の理由による。
【0041】
すなわち、用紙押え34はプラテン31の吸気穴32を塞ぐ役割と描画媒体2の端部を押えつけることにより吸着を促す役割を併せ持つ(図24)。用紙押え34により押えられる描画媒体2はタック紙と呼ばれる媒体であり、表面基材、粘着材、剥離紙の3層で構成されている。この描画媒体2が搬送されている際に描画媒体2の端部と用紙押え34が擦れると粘着材が用紙押え34に付着、蓄積していき、印字や搬送に悪影響を与えることになる。そのため、用紙押え34は描画媒体2がプラテン31に吸着された後は描画媒体2の端部と接触しないように、描画媒体2よりも高い段に段片部344を設けている(図25)。
描画ヘッド41は印字中には用紙押え34の上方に位置するが、用紙押え34が描画ヘッド41と接触すると描画ヘッド41に汚れが付着する可能性がある。描画ヘッド41に汚れが付着すると印字に悪影響があるため、用紙押え34と描画ヘッド41とは接触しない構造が必要となる。
【0042】
しかしながら、描画媒体2と描画ヘッド41の隙間は1mm以下にする必要があるため、用紙押え34の段片部344が描画ヘッド下部に配置された場合、描画ヘッド41と段片部344の部分が接触するおそれがある。したがって、用紙押え34の段片部344は描画ヘッド下部に配置しないように構成されている。(図6図11)。
【0043】
なお、段片部344が配置されない部分の吸気穴32は塞がれないため、気流の乱れが生じ描画媒体端部近傍の描画画像の乱れを引き起こす(図28)。
また、段片部344は、描画ヘッド41と重ならない位置に配置されるので、搬送方向の長さも設置位置により異なるものとなる。
【0044】
プラテン31の下方には、描画媒体2の幅方向に移動可能とし、吸気穴32の一部をプラテン31下方から塞ぐ一対の穴塞ぎ部材35が装着されている。各穴塞ぎ部材35は、図10及び図11に示すように、描画媒体2の搬送方向に長尺状に形成されるとともに、描画媒体2の幅方向に対応する長さを吸気穴32の直径より大きい幅とすることで、搬送方向にライン状に並んだ複数の吸気穴32を同時に塞ぐように構成されている。
【0045】
また、穴塞ぎ部材35における段片部344の設置部下部に対応する位置に溝部351が設けられている。穴塞ぎ部材35における段片部344の位置は、図10における上位置(段片部344の設置は2か所)と下位置(段片部344の設置は3か所)とで異なるので、図16(A)(B)に示すように、穴塞ぎ部材35の形状が異なるものとなる。
段片部344が設置された下部に位置する穴塞ぎ部材35に溝351が設けられているのは、この領域における存在する吸気穴32を塞がないことで、画像媒体2のプラテン31への吸着を補助するためである。
【0046】
支持部100は、図6図15に示すようにプラテン31に対して両側に位置し、図17図23に示すように、印字部30の側面に沿って長尺となる平板体101と、平板体101が装着される断面L字形状の第1連結片104を備えて構成されている。平板体101には、各第1可動軸120の端部がボルト102により固定されることで、支持部100の幅方向の移動で第1可動軸120が連動する第1連結部(幅方向移動可能軸連結部)125を構成している。
第1連結片104には間隔を開けて一対の固定片105(図18図20)が装着され、この固定片105に設けた孔105aに段付きボルト103を貫通させて平板体101の両端面に固定することで、段付きボルト103の段部103aが描画媒体2の搬送方向に沿った軸となり、その延長線に沿って平板体101及び第1可動軸120に対して第1連結片104が傾斜可能に連結されている。
【0047】
そして、第1連結片104の略中央下側にはL字型の第2連結片106が固定されている。可動軸130の端部には、後述する開閉機構を構成する球面体108(図23)が固定されている。球面体108は、球体の軸(直径)に垂直な両側面を平にした形状で構成され、軸方向に貫通する貫通孔108aに挿入されるボルト111により可動軸130端に固定されている。
第2連結片106には孔106aが形成され、可動軸130と反対側において、ドーナツ状の球面軸受け107の中央に形成された球面部107aに、球面体108が嵌合する状態で配置されている。球面体108は、その一部が孔106a内に位置し、ボルト110で固定された球面軸受けカバー109により球面軸受け107を押え付けることで配置されている。
【0048】
また、第1連結片104の長手方向に沿ってフィルム状の用紙押え34の金属部342が装着されている。一方の第1連結片104の第2連結片106には、ハンドル連結部112を介してハンドル113が固定されている。
【0049】
以上の構成により、図21図23に示すように、球面体108と球面軸受け107の球面部107aとがスライド移動することで、第2可動軸130に対して第1連結片104及び第2連結片106が傾斜可能に連結され、第2可動軸130が直線移動する第2連結部(跳ね上げ動作可能軸連結部)140を構成する。すなわち、ハンドル113の下方向への押し下げによる支持部100の跳ね上げ動作により、第1連結片104及び第2連結片106が段部103aを軸として回動し、これに伴って傾斜する球面軸受け107が球面体108を内側方向(図21図23における左方向)へ押すことで可動軸130を移動(回動を直線移動に変換)させる。この時、第2連結片106及び球面軸受けカバー109は、図23に示すように、球面軸受け107に対して縦方向に若干移動するようになっている。
また、支持部100の操作側にハンドル113を配することで、後述する用紙押え34の開閉及び位置調整を外側支点で行うことが可能となる。
【0050】
プラテン31の両側に位置する支持部100同士は、連結機構により互いに連結されている。連結機構は、支持部100に連結された用紙押え34及び穴塞ぎ部材35に幅方向の移動動作を行わせるリンク機構と、用紙押え34に段部(103a)を軸とする回動による跳ね上げ動作を行わせる開閉機構を備えている。
【0051】
第1連結部125を含むリンク機構は、図17図20に示すように、各支持部100と穴塞ぎ部材35との間を連結する2本の第1可動軸120、穴塞ぎ部材35の搬送方向中央位置に連結されたラック121を備え、各ラック121は搬送方向においてずれた位置で各支持部100に連結され、ラック同士の対向面には幅方向に沿って縦溝122が形成され、幅方向中央位置においてラック同士の縦溝間に噛合するピニオン123が配置されている(図10及び図11)。
すなわち、ハンドル113を描画媒体2の幅方向に移動させ、一方の支持部100の第1可動軸120が幅方向に直線移動すると、第1可動軸120の移動がラック121及びピニオン123を介して他方の支持部100のラック121及び第1可動軸120を移動させ、他方の支持部100の位置が幅方向に連動して直線移動する。
支持部100の位置(直線移動)について、幅狭な描画媒体に合わせた例が図6図8図10図12であり、幅広な描画媒体に合わせた例が図7図9図11図13である。
【0052】
第2連結部140を含む開閉機構は、各支持部100と継手部129との間に連結された第2可動軸130、継手部129に連結されたラック131を備え、各ラック131は搬送方向においてずれた位置で各支持部100に連結され、ラック同士の対向面には幅方向に沿って縦溝132が形成され、幅方向中央位置においてラック同士の縦溝間に噛合するピニオンが配置されている。
第2可動軸130の他端は、支持部100が傾斜して動作可能な第2連結部140に固定されている。また、各第1可動軸120の他端は、上述したように、平板体101に形成した第1連結部125に固定され、この平板体101に対して第1連結片104が傾斜可能に連結されている。これらの構造により、跳ね上げ動作による回動運動が第2連結部140を介して第2可動軸130の直線運動に変換されることになる。
【0053】
すなわち、ハンドル113を押し下げることで、一方の支持部100が傾斜して段付きボルト103の段部(軸)103aを中心に回動して跳ね上げ動作が行われると、回動が第2連結部140を介して第2可動軸130の幅方向の直線移動に変換され、第2可動軸130の移動がラック及びピニオンを介して他方の第2可動軸130を移動させ、他方の支持部100の位置が同じ原理で回動して跳ね上げ動作(開閉)する
支持部100について、幅狭な描画媒体に対して跳ね上げ動作を行った例が図14、幅広な描画媒体に対して跳ね上げ動作を行った例が図15である。
【0054】
上述した構造のインクジェットプリンタによれば、用紙押え34の用紙幅方向の位置は用紙幅に応じて移動させて使用するが、支持部100を介して用紙押え34の幅方向の移動と連動して移動する穴塞ぎ部材35により、図26に示すように、描画媒体2及用紙押え34で塞げないプラテン31上の吸気穴321をプラテン31の裏側から塞ぐ構造となる。
この構造により、穴塞ぎ部材35によりプラテン31上の描画媒体幅方向端部にある吸気穴32を確実に塞ぐことができ、描画媒体端部付近に吹き付けられた描画ヘッド41からのインクの微細な粒子が媒体に対して直進することを妨げる気流の乱れを抑制してインク着弾ズレによる画像乱れを防止することが可能となり、いずれの幅の描画媒体2であっても、その媒体端部における適切な描画を確保し高品質な描画を得ることができる。
【0055】
すなわち、支持部100に連結されたリンク機構(第1連結部125)により、描画媒体2の両外側にそれぞれ備えた用紙押え34の媒体幅に応じた調整に連動して穴塞ぎ部材35が移動するので、描画媒体2の幅にプラテン31上の描画媒体2の外側の吸気穴32を塞ぐ用紙押え34の位置を合わせる際に、穴塞ぎ部材35も同時に適切な位置に合わせることが可能となる。
これにより、内部に位置し目視による位置合せが難しい穴塞ぎ部部材35の位置を確認する必要が無く、描画媒体2の幅に用紙押え34の位置と穴塞ぎ部材35の位置を合わせる際の労力を低減することができる。
【0056】
また、支持部100にハンドル113を配設することで、リンク機構(第1連結部125)による位置調整及び開閉機構(第2連結部140)による開閉動作を一つの外側支点で行うことができるので、描画媒体2の幅にプラテン31上の描画媒体2の外側の吸気穴32を塞ぐ用紙押え34の位置を合わせる際に行う、用紙押え34の開閉動作と描画媒体2の幅方向の移動を、ハンドル113を持ち替えずに行うことが可能となり、描画媒体2を取り換える際の作業効率を向上させることができる。
【0057】
また、用紙押え34はローレットビス343によって支持部100に支持されており、容易に着脱が可能であるので、描画ヘッド41からのインクの微細な粒子等により汚れた場合でも、使用者により短時間で用紙押え34を印字装置1から外すことができる。
これにより、用紙押え34を清掃する場合にも抵抗感なく、作業が容易な場所で確実に清掃することが可能である。
【0058】
上述したインクジェットプリンタにおいて、描画ヘッド及び描画ヘッド駆動装置の構造、印字部における用紙押えの各部構造、インクの種類等は上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。
例えば、描画ヘッドを搭載するヘッド部を印字ユニットの前後方向に可動する動力伝達機構には、スチールベルトに代えてボールネジ構造を使用しても良い。また、描画に用いるインクは水性インクに限られず、描画ヘッドを含めたインク接液部材が適応すれば、UV硬化インクを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…印字装置
2…描画媒体
10…筐体部
20…印字ベース部
30…印字部
31…プラテン
32…吸気穴
34…用紙押え
35…穴塞ぎ部材
40…ヘッド部
41…描画ヘッド
100…支持部
103…段付きボルト
103a…段部(軸)
104…第1連結片
106…第2連結片
107…球面軸受け
107a…球面部
108…球面体
108a…貫通孔
109…球面軸受けカバー
111…ボルト
112…ハンドル連結部
113…ハンドル
120…第1可動軸
125…第1連結部(リンク機構)
130…第2可動軸
140…第2連結部(開閉機構)
343…ローレットビス
344…段片部
351…溝部
図1
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