(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】急性心不全における体液貯留改善薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7042 20060101AFI20250403BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20250403BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20250403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250403BHJP
A61K 31/381 20060101ALN20250403BHJP
A61K 31/382 20060101ALN20250403BHJP
A61K 31/7034 20060101ALN20250403BHJP
A61K 31/7048 20060101ALN20250403BHJP
A61K 31/7056 20060101ALN20250403BHJP
A61K 31/7028 20060101ALN20250403BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20250403BHJP
【FI】
A61K31/7042
A61P9/04
A61P7/10
A61P43/00 111
A61K31/381
A61K31/382
A61K31/7034
A61K31/7048
A61K31/7056
A61K31/7028
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2021545615
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034463
(87)【国際公開番号】W WO2021049612
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2019166794
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】絹川 弘一郎
(72)【発明者】
【氏名】城宝 秀司
(72)【発明者】
【氏名】中垣内 昌樹
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186353(JP,A)
【文献】Journal of the American College of Cardiology,2019年03月,Vol. 73, No. 9,Suppl. 1, p. 663
【文献】Journal of cardiology cases,2018年,Vol. 18, No. 6,pp. 192-196
【文献】日本心臓病学会学術集会抄録集:日本心臓病学会講演要旨集,2016年,Vol.64th,Page.ROMBUNNO.P-306
【文献】日本心臓病学会学術集会抄録集:日本心臓病学会講演要旨集,2016年,Vol.64th,Page.ROMBUNNO.P-481
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 31/33-33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カナグリフロジン及び/又はこの薬学的に許容される塩を含有する、急性心不全の体液貯留改善薬。
【請求項2】
心胸郭比、肺うっ血、及び胸水からなる群より選択される少なくとも1つ以上の改善のための、請求項1記載の体液貯留改善薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SGLT2阻害薬の新規な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
カナグリフロジンに代表されるSGLT2阻害薬は、糖尿病治療薬として利用されている。また、SGLT2阻害薬には、心不全発症後1か月以降の慢性期の心不全において、体液貯留を改善させる効果のあることが知られており(非特許文献1)、慢性期の心不全において再入院を減少させる効果があることが知られている。
【0003】
急性心不全発症後において、肺うっ血による呼吸困難や胸水などの体液貯留は、患者のQOLを低下させる最大の要因として考えられている。呼吸困難や体液貯留を改善する薬剤としては、一般的には、利尿薬が選択されるが十分な効果が得られない場合も多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yoshihiro Seo, et al., Effects and Safety of Sodium Glucose Cotransporter 2 Inhibitors in Diabetes Patients With Drug-Refractory Advanced Heart Failure., Circ J 2018; 82: 1959 - 1962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
慢性期の心不全と急性期の心不全では治療目的が異なる。すなわち、急性期では、症状の改善に対する治療が優先されるのに対し、慢性期には、これに加えて再入院や総死亡の抑制など臨床エンドポイントの改善を目的とした治療が継続される。したがって、慢性心不全の治療に有効とされている薬剤が、急性心不全の治療に目に見える効果を示すとは限らない。患者のQOLを向上させ、呼吸・循環動態を改善するために、心不全の発作直後から急性期における体液貯留を改善する治療薬が求められている。
本発明は急性心不全における体液貯留を改善する治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねたところ、糖尿病治療薬として知られているナトリウム依存性グルコース共輸送体2(sodium-glucose co-transporter 2、以下、「SGLT2」という。)阻害薬が、急性心不全における体液貯留を改善する効果を奏しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] SGLT2阻害薬を含有する、急性心不全の体液貯留改善薬。
[2] SGLT2阻害薬が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボナート、レモグリフロジンエタボナート、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン及びこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記[1]記載の体液貯留改善薬。
[3] 急性心不全の体液貯留改善薬として使用される、SGLT2阻害薬。
[4] SGLT2阻害薬が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボナート、レモグリフロジンエタボナート、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン及びこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記[3]記載のSGLT2阻害薬。
[5] 有効量のSGLT2阻害薬をそれを必要とする患者に投与する工程を含む、急性心不全患者における体液貯留改善方法。
[6] SGLT2阻害薬が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボナート、レモグリフロジンエタボナート、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン及びこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記[5]記載の体液貯留改善方法。
[7] 急性心不全の体液貯留改善薬の製造における、SGLT2阻害薬の使用。
[8] SGLT2阻害薬が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボナート、レモグリフロジンエタボナート、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン及びこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記[7]記載の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、急性心不全における体液貯留を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、カナグリフロジン投与前(Baseline)、投与1日後及び7日後の尿量(mL/day)を示す。
【
図2】
図2は、胸部X線を用いて評価したカナグリフロジン投与開始前日と7日後の(a)心胸郭比、(b)肺うっ血の有無、(c)胸水の有無を示す図である。図中の白色バーは投与開始前日の結果を示し、黒色バーは7日後の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の急性心不全の体液貯留改善薬は、SGLT2阻害薬を含有する。また、SGLT2阻害薬は、利尿薬やその他薬剤を併用して使用することもできる。
以下、本発明について説明する。
【0011】
(SGLT2阻害薬)
本発明で用いられるSGLT2阻害薬としては、SGLT2による糖の再吸収を阻害する薬物が挙げられる。より具体的なSGLT2阻害薬としては、低分子化合物、SGLT2発現阻害薬、SGLT2特異的結合物質などが挙げられる。
【0012】
(低分子化合物)
SGLT2阻害薬である低分子化合物としては、例えば、カナグリフロジン[(1S)-1,5-Anhydro-1-C(-3{[5-(4-fluorophenyl)thiophen-2-yl]methyl}-4-methylphenyl)-D-glucitol]、エンパグリフロジン[(1S)-1,5-Anhydro-1-C-{4-chloro-3-[(4-{[(3S)-oxolan-3-yl]oxy}phenyl)methyl]phenyl}-D-glucitol]、イプラグリフロジン[(1S)-1,5-Anhydro-1-C-{3-[(1-benzothiophen-2-yl)methyl]-4-fluorophenyl}-D-glucitol]、ダパグリフロジン[(1S)-1,5-Anhydro-1-C-{4-chloro-3-[(4-ethoxyphenyl)methyl]phenyl}-D-glucitol]、ルセオグリフロジン[(2S,3R,4R,5S,6R)-2-{5-[(4-Ethoxyphenyl)methyl]-2-methoxy-4-methylphenyl}-6-(hydroxymethyl)thiane-3,4,5-triol]、トホグリフロジン[(1S,3’R,4’S,5’S,6’R)-6-[(4-Ethylphenyl)methyl]-6’-(hydroxymethyl)-3’,4’,5’,6’-tetrahydro-3H-spiro[2-benzofuran-1,2’-pyran]-3’,4’,5’-triol]、セルグリフロジンエタボナート[2-(4-Methoxybenzyl)phenyl 6-O-(ethoxycarbonyl)-β-D-glucopyranoside]、レモグリフロジンエタボナート[5-Methyl-1-(propan-2-yl)-4-[[4-[(propan-2-yl)oxy]phenyl]methyl]-1H-pyrazol-3-yl 6-O-(ethoxycarbonyl)-β-D-glucopyranoside]、エルツグリフロジン[(1S,2S,3S,4R,5S)-5-[4-Chloro-3-[(4-ethoxyphenyl)methyl]phenyl]-1-(hydroxymethyl)-6,8-dioxabicyclo[3.2.1]octane-2,3,4-triol]、ソタグリフロジン[Methyl (5S)-5-C-[4-chloro-3-[(4-ethoxyphenyl)methyl]phenyl]-1-thio-β-L-xylopyranoside]、及びこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。これらの化合物は、公知の製造方法又は当該方法に改変を施した任意の製造方法により、製造することができる。
【0013】
SGLT2阻害薬である低分子化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどの第2族金属との塩;亜鉛又はアルミニウムとの塩;アンモニア、コリン、ジエタノールアミン、リジン、エチレンジアミン、t-ブチルアミン、t-オクチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N-メチル-グルコサミン、トリエタノールアミン、デヒドロアビエチルアミンなどのアミンとの塩;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸との塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマール酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩;アスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
【0014】
更に、SGLT2阻害薬である低分子化合物の薬学的に許容される塩には、当該低分子化合物の分子内塩、水和物、及び、L-プロリン、(2S)-プロパン-1,2-ジオールなどの溶媒和物も包含される。
【0015】
(SGLT2発現阻害薬)
SGLT2発現阻害薬としては、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸、低分子化合物などが挙げられる。これらの発現阻害薬を投与することにより、SGLT2の発現を阻害することができる。
【0016】
siRNA(small interfering RNA)は、RNA干渉による遺伝子サイレンシングのために用いられる21~23塩基対の低分子2本鎖RNAである。細胞内に導入されたsiRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体はsiRNAと相補的な配列を持つmRNAに結合し切断する。これにより、配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。
【0017】
siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖オリゴヌクレオチドをDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、例えば、適当なアニーリング緩衝液中、90~95℃で約1分程度変性させた後、30~70℃で約1~8時間アニーリングさせることにより調製することができる。
【0018】
shRNA(short hairpin RNA)は、RNA干渉による遺伝子サイレンシングのために用いられるヘアピン型のRNA配列である。shRNAは、ベクターによって細胞に導入し、U6プロモーター又はH1プロモーターで発現させてもよいし、shRNA配列を有するオリゴヌクレオチドをDNA/RNA自動合成機で合成し、siRNAと同様の方法によりセルフアニーリングさせることによって調製してもよい。細胞内に導入されたshRNAのヘアピン構造は、siRNAへと切断され、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体はsiRNAと相補的な配列を持つmRNAに結合し切断する。これにより、配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。
【0019】
miRNA(microRNA、マイクロRNA)は、ゲノム上にコードされ、多段階的な生成過程を経て最終的に約20塩基の微小RNAとなる機能性核酸である。miRNAは、機能性のncRNA(non-coding RNA、非コードRNA:タンパク質に翻訳されないRNAの総称)に分類されており、他の遺伝子の発現を調節するという、生命現象において重要な役割を担っている。特定の塩基配列を有するmiRNAを生体に投与することにより、SGLT2の発現を阻害することができる。
【0020】
リボザイムは、触媒活性を有するRNAである。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、RNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となっている。リボザイムは、グループIイントロン型、RNasePに含まれるM1RNA等の400ヌクレオチド以上の大きさのものであってもよく、ハンマーヘッド型、ヘアピン型などと呼ばれる40ヌクレオチド程度のものであってもよい。
【0021】
アンチセンス核酸は、標的配列に相補的な核酸である。アンチセンス核酸は、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が形成された部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制等により、標的遺伝子の発現を抑制することができる。
【0022】
siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム及びアンチセンス核酸は、安定性や活性を向上させるために、種々の化学修飾を含んでいてもよい。例えば、ヌクレアーゼ等の加水分解酵素による分解を防ぐために、リン酸残基を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換してもよい。また、少なくとも一部をペプチド核酸(PNA)等の核酸類似体により構成してもよい。
【0023】
(SGLT2特異的結合物質)
SGLT2特異的結合物質としては、SGLT2に特異的に結合してSGLT2の機能を阻害するものが挙げられ、例えば、抗体、抗体断片、アプタマーなどが挙げられる。抗体は、例えば、マウス等の動物に、SGLT2タンパク質又はその断片を抗原として免疫することによって作製することができる。或いは、抗体は、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体断片としては、Fv、Fab、scFvなどが挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。また、抗体は、市販の抗体であってもよい。アプタマーは、標的物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマーなどが挙げられる。標的ペプチドに特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SFLEX)法などにより選別することができる。また、標的ペプチドに特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法などにより選別することができる。
【0024】
(急性心不全)
急性心不全については、日本循環器学会作成の「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改定版)」に具体的な定義があるが、本発明において、急性心不全の患者としては、心不全の初回発作と慢性心不全の急性増悪によって生じる発作のいずれも含む。また、本発明における対象患者は、急性心不全において、静脈内注射による治療から、経口薬による治療に切替えられた患者のうち、呼吸循環動態が安定して、経口摂取可能となった患者が対象である。
また、本発明において、SGLT2阻害薬を投薬される患者は、糖尿病を合併していてもよいが、それに限定されるものではない。
【0025】
(体液貯留改善)
本発明において、体液貯留の程度は、胸部X線を用いた心胸郭比、肺うっ血及び胸水の程度や浮腫の程度で判定することができる。特に、呼吸不全の評価のため体液貯留の程度は、肺うっ血の程度で判定することが有用である。
また、肺うっ血の改善と並行して、患者自身の呼吸困難の改善度を、例えば、セブンポイントライカートスケール(seven point Likert scale)を用いて判定することも有用である。セブンポイントライカートスケールは、患者が呼吸困難について担当医師より質問されたときにどう感じたかをスコア(著明に悪化、中等度悪化、軽度悪化、変化なし、軽度改善、中等度改善、著明改善)により表現するものである。
【0026】
(医薬組成物)
本発明は、SGLT2阻害薬及び薬学的に許容される担体を含有する、急性心不全における体液貯留改善用医薬組成物を提供する。本実施態様の医薬組成物を投与することによって、急性心不全における体液貯留を改善することができる。
【0027】
本実施態様の医薬組成物は、経口的に使用される剤型又は非経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよい。経口的に使用される剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などが挙げられる。非経口的に使用される剤型としては、例えば、注射剤、軟膏剤、貼付剤などが挙げられる。
【0028】
薬学的に許容される担体としては、医薬組成物の製造に通常用いられるものであれば、特に制限なく用いることができる。具体的な例としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤などが挙げられる。
【0029】
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤などが挙げられる。
【0030】
医薬組成物は、SGLT2阻害薬、薬学的に許容される担体及び所望により添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0031】
SGLT2阻害薬を投与する対象としては、限定されるものではないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、及びそれらの細胞などが挙げられる。なかでも、哺乳動物又は哺乳動物細胞が好ましく、ヒト又はヒト細胞が特に好ましい。
【0032】
SGLT2阻害薬の投与量は、投与する具体的な対象、対象の症状、体重、年齢、性別などによって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、成人であれば、例えば、投与単位形態あたり約0.1mg/kg~約100mg/kg体重のSGLT2阻害薬を投与すればよい。また、注射剤の場合には、成人であれば、例えば、投与単位形態あたり約0.01mg~約50mgのSGLT2阻害薬を投与すればよい。
【0033】
また、SGLT2阻害薬の1日投与量は体液貯留改善に有効な量であればよく、投与する具体的な対象、対象の症状、体重、年齢、性別などによって異なり、一概には決定できないが、例えば、成人であれば、1日あたり約0.1mg/kg~約100mg/kg体重のSGLT2阻害薬を1日1回又は2回~3回程度に分けて投与すればよい。
【0034】
本発明に係るSGLT2阻害薬は、SGLT2阻害薬以外の体液貯留改善薬及び他の疾患の治療薬からなる群より選択される少なくとも1つと組合せて、使用してもよい。SGLT2阻害薬と他の薬剤とは、同一の製剤にしてもよいし、別々の製剤にしてもよい。また、各製剤は、同一の投与経路で投与してもよいし、別々の投与経路で投与してもよい。投与経路としては、例えば、経口又は注射が挙げられる。更に、各製剤は、同時に投与してもよいし、逐次的に投与してもよいし、一定の時間ないし期間を空けて別々に投与してもよい。一実施態様において、SGLT2阻害薬と他の薬剤とは、これらを包含するキットとしてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらにより何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
非代償性心不全患者に対するカナグリフロジンの効果検討
34例の心不全非代償期で入院した2型糖尿病患者に対し初期治療を行い、病態が安定した後に、100mg/日カナグリフロジンを投与し、7日間治療を行った。なお、カナグリフロジン投与期間中、フロセミドの用量は適宜調節した。
7日間のカナグリフロジン投与による治療の結果、体重は有意に減少した(投与開始前の平均体重は58.7±14.4kgであったが、7日後には57.2±14.4kg、P<0.001)。尿量は、
図1に示す通り、1日後に増加したが7日後には元に戻った。また呼吸困難感は大部分の患者で改善した。
カナグリフロジン投与開始前日と7日後に、胸部X線を用いて、心胸郭比、肺うっ血及び胸水の程度を評価した結果、
図2に示す通り、(a)心胸郭比、(b)肺うっ血、(c)胸水、いずれの項目でも有意な改善が認められた。尚、
図2中の白色バーは投与開始前日の結果を示し、黒色バーは7日後の結果を示している。
【0037】
以上より、本発明によれば、SGLT2阻害薬の投与により、心不全の急性期における体液貯留を改善することができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、急性心不全の体液貯留改善に有効かつ安全に使用可能な新規な医薬を提供するものである。