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  • -ほつれ防止織物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】ほつれ防止織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/587 20210101AFI20250403BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20250403BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20250403BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20250403BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20250403BHJP
【FI】
D03D15/587
D02G3/04
D02G3/36
D03D15/283
D03D15/47
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023573957
(86)(22)【出願日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2022047791
(87)【国際公開番号】W WO2023136107
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2021213460
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521568890
【氏名又は名称】古市株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149560
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】千田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】永松 秀敏
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075230(JP,A)
【文献】国際公開第2020/162624(WO,A1)
【文献】特開2013-227696(JP,A)
【文献】特開平10-237741(JP,A)
【文献】特開2007-154321(JP,A)
【文献】特開2014-205927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
どの箇所で切断されても切断縁部のほつれを防止できる織物であって、
織組織が平織であり、
前記織物の経糸及び緯糸が融着性伸縮繊維と非融着性繊維とを含む複合糸からなり、
前記融着性伸縮繊維の繊度(Fm)と前記非融着性繊維の繊度(Fn)との比率を示すCS値(Fm/Fn)が0.6以上1.692以下であり、
前記経糸と前記緯糸とが同一の構造を有し同一の融着性伸縮繊維及び非融着性繊維で形成された複合糸であり、
前記平織の経方向に沿っての単位長さ当たりの緯糸の数で示される経密度及び前記平織の緯方向に沿っての単位長さ当たりの経糸の数で示される緯密度が前記織物の全面において均一であることを特徴とするほつれ防止織物。
【請求項2】
前記複合糸が芯鞘型複合糸であって、該芯鞘型複合糸の芯糸が前記融着性伸縮繊維からなり、前記芯鞘型複合糸の鞘糸が前記非融着性繊維からなり、経方向の10mm当たりの緯糸の数である経密度が103以上で緯方向の10mm当たりの経糸の数である緯密度が94以上であることを特徴とする請求項1に記載されたほつれ防止織物。
【請求項3】
前記芯鞘型複合糸の前記芯糸の繊度が22dtex以上、78dtex以下で、前記鞘糸の繊度が13dtex以上、84dtex未満であり、前記芯鞘型複合糸における前記芯糸に対する前記鞘糸の撚り数が350T/M以上であることを特徴とする請求項に記載されたほつれ防止織物。
【請求項4】
前記芯鞘型複合糸の前記芯糸の繊度が22dtex以上78dtex以下で、前記鞘糸の繊度が13dtex以上、78dtex以下であり、前記芯鞘型複合糸における前記芯糸に対する前記鞘糸の撚り数が500T/M以上であることを特徴とする請求項に記載されたほつれ防止織物。
【請求項5】
前記複合糸の経糸及び緯糸がいずれもエア混繊糸(エア交絡糸)であり、前記エア混繊糸(エア交絡糸)を構成する前記融着性伸縮繊維の繊度が110dtex以上であり、前記非融着性繊維の繊度が167dtex以上であることを特徴とする請求項に記載されたほつれ防止織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裁断と縫製の工程を経て仕立てられる衣服の生地等に用いられる織物に関し、特に裁断工程で切断されて形成される縁部(裁断端縁)にほつれが生じるのを防止することができるほつれ防止織物に関する。
【背景技術】
【0002】
衣服の製造においては、一般に、生地の裁断と縫製が行われる。生地の裁断で形成される縁部は、ほつれ(解れ)が生じないようにする必要があり、従来の織編物からなる生地においては、縁部に縫製等を施すことによってほつれ防止処理が行われていた。しかし、このような防止処理は衣服の製造効率を著しく下げるため、裁断したままの切りっぱなしの状態でも縁部にほつれが生じにくい生地材料が要求されてきた。
【0003】
衣服の生地に用いられる織編物のうち、編物については、編み方を工夫する等の技術を用いて、切りっぱなしの状態でも縁部にほつれが生じにくい編地の生地が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、編地を構成する繊維に非弾性繊維と弾性繊維とを用いて、これら2種類の繊維の繊度や編地編成時の給糸速度等を最適化することによって、裁断箇所を処理せずに切りっぱなしで使用される繊維製品にこの編地を用いた場合に、着用と洗濯とを繰り返しても縁部のほつれが発生し難くなるとしている。
【0004】
このような編地に対して、織物においても、裁断箇所を処理せずに衣服の生地に用いることができるように、裁断端縁のほつれを防止するための様々な技術が開発されている。例えば、特許文献2には、地緯糸と地経糸とからなる基布に、該基布の長手方向に沿って延び、切断された後には切断片の耳部となる切断領域を少なくとも1列形成した耳部ほつれ防止織物が開示されている。また、特許文献3には、ポリウレタン繊維とそれ以外の合成繊維から構成される織物であって、ほつれ防止処理が施されている繊維製品が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、ポリウレタン繊維等の熱融着弾性繊維を使用して熱処理することにより、目ずれ、ほつれ、ラン、カール等が生じ難く、切りっぱなしでも製品として使用可能なほつれ止め機能を有する細幅テープが開示されている。さらに、特許文献5には、実質的にポリウレタン繊維からなり、所定の範囲内の伸長倍率で伸長された芯糸と、該芯糸に引き揃えられた添え糸と、これらの周囲に所定の範囲内の撚り数で巻き回された鞘糸とで複合糸を構成することによって、製織性及び編成性が向上した熱融着性複合糸が開示されており、さらにこの熱融着性複合糸を製織して複合糸を熱融着させることによって、寸法安定性や耐ほつれ性に優れた織物が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-210572号公報
【文献】特開2010-189810号公報
【文献】特開2021-038497号公報
【文献】特開2008-190104号公報
【文献】特開2014-205927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された耳部ほつれ防止織物は、基布の一部に設けられた切断領域で切断した場合は縁部のほつれを防止できるが、それ以外の箇所で裁断した場合には、ほつれ防止の効果が得られない。しかも、この切断領域は、基布の厚さ方向に所定の融点を有する絡み糸、地経糸、地緯糸がこの順に交差するように経糸方向に挿入された絡み織組織から形成されており、構成が複雑で製造コストがかかる。また、このような絡み織組織は硬くて風合いが悪いことから、衣服の生地そのものとしての使用には適していない。
【0008】
また、特許文献3に記載された繊維製品は、ポリウレタン繊維とそれ以外の合成繊維を用いた織物に対して、接着縫製、超音波溶断、切断縁部のパイピング処理、目止めテープを用いた包埋処理、等のほつれ防止処理を施してなるものである。すなわち、従来からある織物に公知のほつれ処理を行ったものに過ぎず、織物自体は何らのほつれ防止特性も有していない。また、特許文献4に記載された細幅テープは、衣服等を構成する部材としては、弾性を維持できるとともにほつれ止め機能を有する部材となり得るが、衣服全体を構成する生地として用いることは困難である。
【0009】
さらに、特許文献5に記載された熱融着性複合糸では、ポリウレタン繊維の芯糸を所定範囲の伸長倍率で伸長し、製織時の複合糸の伸縮を抑えることによって、取扱い性及び製織性を向上させている。しかしながら、特許文献5に示される熱融着性複合糸は製織性及び寸法安定性の改良を主目的としており、製織される織物については詳細に検討していない。すなわち、ほつれ防止効果を得るために適した織物の組織や、芯糸と鞘糸の繊度及びそれらの比率等については十分な知見が得られていない。この結果、織物の全面にわたって裁断端縁のほつれ防止効果を確実に得ることができないという問題点があった。
【0010】
このような事情から、これらの従来技術における種々の問題を解消して、織物生地全体が裁断端縁のほつれを防止する機能を有し、裁断箇所を処理せずに衣服の生地に用いることができるとともに、製造が容易で低コスト化が可能な織物の実現が強く要望されていた。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、織物の組成とそれを形成する糸に特定の条件を満たす糸を用いることによって、織物全体が均一で簡単な構成からなり、裁断箇所を処理せず切りっぱなしで衣服の生地等に用いることができる、ほつれ防止織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本出願の発明に係るほつれ防止織物は、
切断縁部のほつれを防止できる織物であって、
織組織が平織であり、
前記織物の経糸及び緯糸が融着性伸縮繊維と非融着性繊維とを含む複合糸からなり、
前記融着性伸縮繊維の繊度(Fm)と前記非融着性繊維の繊度(Fn)との比率を示すCS値(Fm/Fn)が0.6以上であることを特徴とする。
【0013】
経密度が103以上で緯密度が94以上であることが好ましい。
【0014】
前記経糸と前記緯糸とが同一の構造を有し同一の融着性伸縮繊維及び非融着性繊維で形成された複合糸であることが好ましい。
【0015】
前記複合糸の経糸及び緯糸がいずれもエア混繊糸からなることが好ましい。
【0016】
前記複合糸が芯鞘型複合糸であって、該芯鞘型複合糸の芯糸が前記融着性伸縮繊維からなり、該芯鞘型複合糸の鞘糸が前記非融着性繊維からなることが好ましい。
【0017】
前記芯鞘型複合糸における前記芯糸に対する前記鞘糸の撚り数が350T/M以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るほつれ防止織物は、織組織が平織であり、織組織を形成する経糸及び緯糸として、融着性伸縮繊維と非融着性繊維とを含み特定の条件を満たす複合糸を用いている。これによって、織物全体が均一で簡単な構成からなるとともに、裁断箇所を処理せず切りっぱなしで衣服の生地等に用いることができるほつれ防止織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施の形態に係るほつれ防止織物の一部を拡大して示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るほつれ防止織物を実施するための形態(本明細書においては、単に「本実施の形態」と略称する)について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
本実施の形態に係るほつれ防止織物は、裁断により形成される切断縁部(裁断端縁)におけるほつれが防止される織物である。すなわち、裁断後の切断縁部に縫製等の処理をしない切りっぱなしの状態でも、生地等に用いて洗濯を何回繰り返しても、切断縁部にほつれが生じないという特性を有する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係るほつれ防止織物の一部を拡大して示す平面模式図である。図1に示されるように、本実施の形態に係るほつれ防止織物10は、経糸11と緯糸12とが平織で製織された、最も基本的で均一な組織を有する平織物である。従来技術においては、単に平織物に融着性繊維を含む糸を用いても、切断縁部のほつれが生じない織物は得られなかった。そこで、より複雑な織組織であるツイル織、サテン織、二重織、パイル織等を用いてほつれ防止特性を付与する試みがされてきた。
【0023】
これに対して、本発明者らが鋭意研究を積み重ねた結果、経糸11及び緯糸12の素材と構成を限定することによって、切断縁部にほつれが生じない平織物が得られることを知見し、本発明を完成させたものである。すなわち、本実施の形態に係るほつれ防止織物10は、経糸11及び緯糸12が融着性繊維と非融着性繊維とを含む複合糸からなるとともに、融着性繊維の繊度Fmと非融着性繊維の繊度Fnとの比率(Fm/Fn)を「CS値」とした場合、CS値が0.6以上であることを特徴としている。
【0024】
CS値(Fm/Fn)を0.6以上とすることで、経糸11及び緯糸12を構成する複合糸に含有される融着性繊維の割合が一定以上に保持される。このため、ほつれ防止織物10にヒートセット等の加熱処理がされると、融着性繊維による十分な融着が起こり、複合糸同士が確実に融着する。そして、ほつれ防止織物10の全面にわたって均一に、経糸11と緯糸12が互いの交点で密着する。この結果、ほつれ防止織物10がどの部分で裁断されても、その縁部では経糸11と緯糸12が密着しているため、裁断の後に洗濯等の工程が実施されてもほつれが生じないという特性が得られる。このように、ほつれ防止織物10では、図1に示される平織物の単純な構成が活かされて、複雑な織組織では困難であった全面に均一なほつれ防止特性を、容易に得ることができる。
【0025】
融着性繊維と非融着性繊維とを含む複合糸は、これら2種類の繊維が並列状態で合繊された糸、一方の繊維の周囲が他方の繊維で覆われた芯鞘型の糸、一方の繊維に他方の繊維が吹き付けられてなるエア交絡糸、2種類の繊維が撚り合わされた合撚糸等、どのような構造の複合糸であってもよい。さらに、芯鞘型の複合糸としては、芯糸に鞘糸を巻き付けてなるカバーリング糸、2種類の繊維の材料ポリマーが同心円状に押し出されて紡糸されてなる複合繊維、等を用いることができる。本実施の形態に係る複合糸は、芯鞘型の糸、又はエア交絡糸であることが好ましい。
【0026】
本実施の形態に係る複合糸に含まれる融着性繊維及び非融着性繊維には種々の繊維を用いることが可能である。融着性繊維には、熱融着性を有するポリエステル系樹脂からなる繊維、特に低融点ポリエステル繊維、低融点ナイロン繊維、伸縮性繊維であるポリウレタン繊維、等を用いることができる。本実施の形態に係る融着性繊維としては、ポリウレタン繊維を用いることが好ましい。ポリウレタン繊維は公知の方法で製造することができ、市販品としては、日清紡テキスタイル(株)製のモビロン(登録商標)や、旭化成(株)製のロイカ(登録商標)等がある。
【0027】
一方、非融着性繊維は融着性繊維と異なり、合成繊維に限られない。非融着性繊維としては、まず化学繊維である再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機繊維等を用いることができる。再生繊維にはレーヨン、キュプラ、リヨセル、ポリノジック等があり、半再生繊維にはアセテート、プロミックス等がある。合成繊維には、ナイロン等のポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維を始めとする多種類の繊維がある。無機繊維としては、ガラス繊維、フッ素繊維、炭素繊維、ステンレス繊維等の金属繊維がある。
【0028】
また、化学繊維以外にも、植物繊維、動物繊維、鉱物繊維等の天然繊維をも用いることができる。植物繊維としては木綿、麻、亜麻、ケナフ等があり、動物繊維としては羊毛、カシミヤ、羽毛、絹等がある。これらの繊維のうち、本実施の形態に係る複合糸を構成する非融着性繊維としては、耐久性、汎用性、コストの観点から、合成繊維が好ましい。
【0029】
非融着性繊維に用いられる合成繊維は、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタラート等の芳香族ポリエステル樹脂やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂等からなるポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン6,6、バイオナイロン等のポリアミド系繊維、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維等が挙げられる。
【0030】
これらの合成繊維のうち、汎用性及び耐久性等の点から、ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系繊維、ナイロン6等のポリアミド系繊維、及びポリプロピレン系繊維が好ましい。特に、強度、耐久性、加工性、コストの観点から、ポリアミド系繊維及びポリエステル系繊維が好ましい。合成繊維の横断面形状は特に限定されず、丸形断面を有する通常の合成繊維であってもよく、丸形断面以外の異形断面を有する合成繊維であってもよい。異形断面繊維の横断面形状としては、方形、多角形、三角形、中空形、偏平形、多葉形、ドッグボーン型、T字形、V字形等がある。
【0031】
また、環境負荷を減らす観点からは、PETボトルやフィルムの端材等を再利用して作ったリサイクル繊維や、バイオナイロンやバイオポリエステルを始めとする植物由来の原料からなる繊維や、染色による廃水を出さないために糸の段階で顔料等を練り込んで色を付けた原着繊維等を使用することも好ましい。なお、合成繊維以外にも、植物繊維である木綿、無機繊維であるガラス繊維も、非融着性繊維として好適に使用できる。
【0032】
本実施の形態に係る複合糸に含まれる融着性繊維及び非融着性繊維は、長繊維すなわちフィラメント糸であることが好ましい。フィラメント糸はモノフィラメント糸でもマルチフィラメント糸でもよいが、織物の柔軟性等の観点からは、マルチフィラメント糸であることが好ましい。融着性繊維及び非融着性繊維の繊度(マルチフィラメント糸の場合はマルチフィラメント糸の太さ)は、融着性繊維については22dtex以上、非融着性繊維については13dtex以上であることが好ましい。
【0033】
本実施の形態に係る複合糸がエア交絡糸である場合は、融着性繊維の繊度は78dtexを超えて110dtex以上であってもよく、非融着性繊維の繊度は78dtexを超えて167dtex以上であってもよい。このように融着性繊維及び非融着性繊維の繊度を大きくしてもほつれ防止特性を維持できることから、繊度の大きい融着性繊維や非融着性繊維を用いる場合には、複合糸の経糸及び緯糸は、いずれもエア交絡糸からなることが好ましい。
【0034】
また、本実施の形態に係る複合糸が芯鞘型複合糸であって、芯鞘型複合糸の芯糸が融着性伸縮繊維からなり、芯鞘型複合糸の鞘糸が非融着性繊維からなる構成とすることも好ましい。複合糸が融着性繊維を芯糸、非融着性繊維を鞘糸とする芯鞘型である場合は、融着性繊維の繊度は22dtex以上で78dtex以下であることがより好ましく、非融着性繊維の繊度は、13dtex以上で84dtex未満であることがより好ましい。
【0035】
ここで、芯糸及び鞘糸の繊度が小さい場合、芯糸の繊度が鞘糸の繊度に比べて余り大きいと、芯糸の有する伸縮性が複合糸全体にも影響することが考えられる。つまり、芯糸及び鞘糸の繊度が小さければ複合糸全体も細くなるため、平織物の形状を保持するためには伸縮性が大きくなり過ぎる可能性がある。このような場合には、平織物の強度を確保するという観点から、伸縮性繊維である芯糸の繊度Fmを、鞘糸の繊度Fnに対して余り大きくしないことが好ましい。すなわち、後述するように、場合によってはCS値(Fm/Fn)の下限を0.6とするだけでなく、CS値の上限をも設定することが好ましい。
【0036】
芯鞘型複合糸において芯糸に鞘糸をカバーリングして組み合わせる際の芯糸のドラフト率(鞘糸を巻きつける際の芯糸の伸び率)は、ほつれ防止織物の用途に応じて任意のドラフト率を適宜採用すればよく、一般的にはドラフト率は2.0から4.0の間である。芯糸に鞘糸を巻きつける際の撚り数についても、用途に応じて任意の撚回数を使用すればよいが、本実施の形態に係る複合糸においては、撚り数が350T/M以上であることが好ましい。
【0037】
本実施の形態に係るほつれ防止織物は平織物であり、単層構造であることから、強度を確保するために、織密度は、経密度(経方向に沿っての単位長さ当たりの緯糸の数)及び緯密度(緯方向に沿っての単位長さ当たりの経糸の数)が一定の値以上であることが要求される。本実施の形態に係るほつれ防止織物は、経方向の10mm当たりの緯糸の数である経密度が103以上で、緯方向の10mm当たりの緯糸の数である緯密度が94以上であることが好ましい。
【0038】
さらに、本実施の形態に係るほつれ防止織物においては、経糸と緯糸とが、同一の構造を有し同一の融着性伸縮繊維及び非融着性繊維で形成された複合糸であることが好ましい。これによって、平織物の単純な構成が活かされて、ほつれ防止織物の経方向と緯方向の構造が同一となり、経糸と緯糸の全ての交点で同じ密着性が得られる。この結果、ほつれ防止織物が全面にわたって、より均一な強度を有することになり、どの箇所で裁断されても縁部の密着性が高く、ほつれを生じない織物となる。
【実施例
【0039】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
本実施の形態に係るほつれ防止織物を実施例1から8まで8種類作製して、下記に示す方法にしたがって洗濯試験を行い、ほつれ防止特性を評価した。また、これらの実施例と比較するために、比較例として2種類の織物を作製し、同じ方法で特性を評価した。実施例及び比較例の構成を示す各数値は、以下のようにして算出した。
【0041】
[1]融着性伸縮繊維と非融着性繊維の繊度の比率:CS値(Fm/Fn)
実施例1から8までに係るほつれ防止織物、及び比較例1と2の織物の製織に使用した複合糸における、融着性伸縮繊維の繊度Fmの値と非融着性繊維の繊度Fnの値を用いて、次の式によってCS値を算出した。
CS値 = Fm ÷ Fn
【0042】
[2]経密度
製織した織物について、織物の経方向に沿って10mm当たりの緯糸の数をカウントした。織物の異なる複数箇所で緯糸の数をカウントし、その平均値を経密度とした。
【0043】
[3]緯密度
製織した織物について、織物の緯方向に沿って10mm当たりの経糸の数をカウントした。織物の異なる複数箇所で経糸の数をカウントし、その平均値を緯密度とした。
【0044】
[4]撚り数(T/M)
実施例のうち複合糸として芯鞘型複合糸を使用した実施例1から7までに係るほつれ防止織物、及び比較例1と2の織物について、芯糸に鞘糸をカバーリングする際に芯糸1m当たりの鞘糸の巻き付け数を、撚り数として表示した。
【0045】
[5]洗濯試験(切断縁部の洗濯に対するほつれ防止特性の測定)
本実施の形態における洗濯試験は、JIS L 1930に規定される「繊維製品の家庭洗濯試験方法」に規定されるC型基準洗濯機の4N法に準拠して実施した。なお、JIS L 1930は、ISO 6330(2012)に対応している。
【0046】
まず、試験を実施する前に、JIS L 1930にしたがって洗濯を行い、洗濯機を洗浄した。洗濯機はJIS L 1930に規定されるC型基準洗濯機を使用した。洗濯機の洗浄は、供試体、洗剤を入れずに、すすぎと脱水工程をそれぞれ1回以上行った。洗濯条件は、供試体を評価する場合の洗濯条件と同一に設定した。その後、供試体と洗剤を入れて、JIS L 1930 C4N法に準拠して洗濯を行った。
【0047】
[6]ほつれ防止特性の評価
洗濯終了後に各供試体を取り出して、供試体の縁部を目視で観察した。そして、供試体の縁部に生じたほつれの程度に応じて、ほつれのない「1」からほつれが大きい「10」までの10段階で評価し、「7」以下を合格として評価した。すなわち、ほつれ防止特性の評価基準は以下のとおりである。
[〇](合格)極めて優れたほつれ防止特性を有している
[×](不合格)従来の織物と同様にほつれが生じている
【0048】
[実施例1]
実施例1に係るほつれ防止織物を製織するために、芯糸に融着性伸縮繊維としてポリウレタン糸(日清紡テキスタイル(株)製のモビロン(登録商標))を用い、鞘糸に非融着性繊維としてナイロン糸を用いて、カバーリング加工によって芯鞘型複合糸を作製した。芯糸の繊度(Fm)は22デシテックス、鞘糸の繊度(Fn)は13dtexであり、CS値(Fm/Fn)は1.692となる。また、撚り数は1200T/Mとした。
【0049】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、平織物を製織した。得られた平織物の経密度は204で、緯密度は178であった。この平織物を、セット温度180℃、60秒間の条件で熱セットし、染色温度120℃で染色加工して、実施例1に係るほつれ防止織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は42%であった。実施例1に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0050】
[実施例2]
実施例2に係るほつれ防止織物は、実施例1と同じ芯鞘型複合糸を用いて製織した。実施例1と異なるのは、得られた平織物の織密度であり、経密度が220で、緯密度が219であった。この平織物を、実施例1と同じ条件で熱セットし、染色加工して、実施例2に係るほつれ防止織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は42%であった。実施例2に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0051】
[実施例3]
実施例3に係るほつれ防止織物は、実施例1と同じ素材からなる芯鞘型複合糸、すなわち芯糸にポリウレタン糸を用い、鞘糸にナイロン糸を用いたカバーリング糸で製織した。ただし、芯糸の繊度は22デシテックスで同じであるが、鞘糸の繊度は33dtexとしており、CS値は0.667となる。また、撚り数についても実施例1と異なり、800T/Mとした。
【0052】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、平織物を製織した。得られた平織物の経密度は186で、緯密度は126であった。この平織物を、実施例1と同じ条件で熱セットし、染色加工して、実施例3に係るほつれ防止織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は23%であった。実施例3に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0053】
[実施例4]
実施例4に係るほつれ防止織物は、実施例3と同じ芯鞘型複合糸を用いて製織した。実施例3と異なるのは、得られた平織物の織密度であり、経密度が214で、緯密度が147であった。この平織物を、実施例1と同じ条件で熱セットし、染色加工して、実施例4に係るほつれ防止織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は23%であった。実施例4に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0054】
[実施例5]
実施例5に係るほつれ防止織物においては、芯鞘型複合糸を構成する鞘糸に、実施例1から4までとは異なる素材を用いた。すなわち、芯糸にポリウレタン糸を用い、鞘糸には分繊エステル糸を用いてカバーリング糸を作製し、この芯鞘型複合糸で平織物を製織した。また、芯糸の繊度を44デシテックスとし、鞘糸の繊度は33dtexとしており、CS値は1.333となる。また、撚り数についても実施例1から4までと異なり、700T/Mとした。
【0055】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、平織物を製織した。得られた平織物の経密度は103で、緯密度は94であった。この平織物を、実施例1から4までと同じ条件で熱セットし、染色加工して、実施例5に係るほつれ防止織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は23%であった。実施例5に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0056】
[実施例6]
実施例6に係るほつれ防止織物においても、芯鞘型複合糸を構成する鞘糸に、実施例1から4までとは異なる素材を用いた。すなわち、芯糸にポリウレタン糸を用い、鞘糸にはナイロンとポリエステルの割繊糸を用いてカバーリング糸を作製し、この芯鞘型複合糸で平織物を製織した。また、芯糸の繊度を44デシテックスとし、鞘糸の繊度は56dtexとしており、CS値は0.786となる。さらに、撚り数についても、実施例1から5までと異なり、500T/Mとした。
【0057】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、平織物を製織した。得られた平織物の経密度は185で、緯密度は151であった。この平織物を、セット温度のみを190℃に変えて、60秒間の条件で熱セットし、染色温度120℃で染色加工して、実施例6に係るほつれ防止織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は20%であった。実施例6に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0058】
[実施例7]
実施例7に係るほつれ防止織物は、実施例1から4までと同じ素材からなる芯鞘型複合糸、すなわち芯糸にポリウレタン糸を用い、鞘糸にナイロン糸を用いたカバーリング糸で製織した。ただし、芯糸の繊度を78デシテックスとし、鞘糸の繊度も78dtexとしており、CS値は1.0となる。また、撚り数は、500T/Mとした。得られた織物のPU混率は25%であった。
【0059】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、平織物を製織した。得られた平織物の経密度は121で、緯密度は103であった。この平織物を、実施例1から5までと同じ条件で熱セットし、染色加工して、実施例7に係るほつれ防止織物を得た。実施例7に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0060】
[実施例8]
実施例8に係るほつれ防止織物においては、実施例1から7までの芯鞘型複合糸と異なり、エア交絡による複合糸を用いた。すなわち、融着性伸縮繊維であるポリウレタン糸に、非融着性繊維であるポリエステル糸を高速気流で吹き付けてエア交絡糸を作製し、このエア交絡糸を用いてほつれ防止織物を製織した。ポリウレタン糸の繊度は110デシテックス、ポリエステル糸の繊度は167dtexで、CS値は0.733となる。得られた織物のPU混率は20%であった。
【0061】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、平織物を製織した。得られた平織物の経密度は142で、緯密度は102であった。この平織物を、実施例1から5まで及び実施例7と同じ条件で熱セットし、染色加工して、実施例8に係るほつれ防止織物を得た。実施例8に係るほつれ防止織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0062】
これらの実施例に係るほつれ防止織物と比較するために、比較例1及び2の平織物を作製した。
【0063】
(比較例1)
比較例1の織物を、実施例1と同じ素材からなる芯鞘型複合糸、すなわち芯糸にポリウレタン糸を用い、鞘糸にナイロン糸を用いたカバーリング糸で製織した。ただし、芯糸の繊度は22デシテックスで同じであるが、鞘糸の繊度は56dtexとした。したがって、CS値は0.393となる。また、撚り数は700T/Mとした。
【0064】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、ツイル織物を製織した。得られたツイル織物の経密度は177で、緯密度は104であった。このツイル織物を、実施例1から5及び実施例7、8と同じ条件で熱セットし、染色加工して、比較例1の織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は20%であった。比較例1の織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0065】
(比較例2)
比較例2の織物を、比較例1と同じ素材からなる芯鞘型複合糸、すなわち芯糸にポリウレタン糸を用い、鞘糸にナイロン糸を用いたカバーリング糸で製織した。ただし、芯糸の繊度は44デシテックスとし、鞘糸の繊度は78dtexとした。したがって、CS値は0.564となる。また、撚り数は700T/Mとした。
【0066】
経糸及び緯糸ともにこの芯鞘型複合糸を用いて、ツイル織物を製織した。得られたツイル織物の経密度は138で、緯密度は86であった。このツイル織物を、実施例1から5及び実施例7、8と同じ条件で熱セットし、染色加工して、比較例2の織物を得た。なお、得られた織物のPU混率は13%であった。比較例2の織物の各物性値とほつれ防止特性の評価結果を、表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示されるように、ほつれ防止特性を発揮させるためには、織物の織組織を平織として、平織物を構成する複合糸の融着性伸縮繊維の繊度Fmと非融着性繊維の繊度Fnとの比率を示すCS値(Fm/Fn)を0.6以上とすることが必要である。また、表1に示される実施例では、このような複合糸である経糸と緯糸が同一の構造を有し同一の融着性伸縮繊維及び非融着性繊維で形成されているため、ほつれ防止特性がより均一かつ確実に得られている。
【0069】
さらに、表1に示されるように、複合糸が芯鞘型である実施例1から7までについては、芯糸の繊度が22dtex以上、78dtex以下であることが好ましく、鞘糸の繊度が13dtex以上、78dtex以下(84dtex未満)であることが好ましい。ここで、実施例1から7のように、芯糸の繊度Fm及び鞘糸の繊度Fnが小さい場合は、前述したように、平織物の強度を確保するという観点から、伸縮性を有する繊維である芯糸の繊度Fmを、鞘糸の繊度Fnに対して余り大きくしないことが好ましい。
【0070】
すなわち、芯糸及び鞘糸の繊度が小さい場合には、CS値(Fm/Fn)について下限を0.6とするとともに、上限もある程度の値に設定することが好ましい。具体的には、実施例1から7までに示されるような繊度については、CS値が3.0未満であることが好ましい。さらに、CS値が2.0未満であることがより好ましく、CS値が1.8未満であることが一層好ましい。
【0071】
一方、複合糸がエア交絡糸である実施例8については、芯糸の繊度が110dtexで鞘糸の繊度が167dtexであっても、優れたほつれ防止特性が得られている。CS値は、実施例8についても0.6以上である。なお、実施例8においても、CS値は3.0未満であり、かつ2.0未満であり、かつ1.8未満である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るほつれ防止織物は、裁断と縫製により仕立てられる衣服の生地を始めとして、特に切断で縁部が形成される織物が用いられる各種の分野における各種の用途に、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
10 ほつれ防止織物
11 経糸
12 緯糸

図1