(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】溶接方法、及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/35 20250101AFI20250403BHJP
【FI】
H02K15/35
(21)【出願番号】P 2021063764
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範行
(72)【発明者】
【氏名】中島 照章
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-215280(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042248(WO,A1)
【文献】特開2012-115075(JP,A)
【文献】特開2000-164043(JP,A)
【文献】特開2010-200462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の導電性部材をアーク溶接により溶接する溶接方法であって、
前記一対の導電性部材のうち一方の導電性部材に、先細り形状の山形突起を線状の本体と一体に形成し、
前記山形突起の鉛直方向上方に溶接ヘッドのトーチ電極を配置し、
前記本体を前記一対の導電性部材のうち他方の導電性部材の端部に接触させると共に前記山形突起の先端部が前記他方の導電性部材の端面よりも前記トーチ電極に接近した状態で前記山形突起と前記トーチ電極との間でアークを発生させ、
前記アークによって前記山形突起が溶解すると共に、前記山形突起を起点として前記本体の一部も溶解し、前記一対の導電性部材が溶接される、
溶接方法。
【請求項2】
前記山形突起は、前記本体の端部から当該端部の延伸方向に沿って突出している、
請求項1に記載の
溶接方法。
【請求項3】
前記本体は、前記延伸方向に対して垂直な断面における前記端部の断面形状が長方形状であり、
前記山形突起は、前記断面における長辺方向の幅が先端部ほど狭くなっている、
請求項2に記載の
溶接方法。
【請求項4】
前記本体は、前記延伸方向に対して垂直な断面における前記端部の断面形状が長方形状であり、
前記山形突起は、前記断面における短辺方向の幅が先端部ほど狭くなっている、
請求項2又は3に記載の
溶接方法。
【請求項5】
前記山形突起は、その先端部が前記端部の中心軸線よりも前記短辺方向の一方側に偏位している、
請求項4に記載の
溶接方法。
【請求項6】
前記山形突起は、前記本体の延伸方向に対して交差する方向に突出している、
請求項1に記載の
溶接方法。
【請求項7】
前記山形突起は、前記本体の端部に一体に設けられており、
前記本体の前記端部は、その延伸方向に対して垂直な断面における断面形状が長方形状であり、
前記山形突起が前記断面における長辺方向の端部から突出している、
請求項6に記載の
溶接方法。
【請求項8】
ロータ及びステータと、前記ステータに巻き回された巻線と、前記巻線の端部に溶接された導電線とを備えた回転電機の製造方法であって、
前記導電線に先細り形状の山形突起を線状の本体と一体に形成し、
前記導電線の前記山形突起の鉛直方向上方に溶接ヘッドのトーチ電極を配置し、
前記導電線の前記本体を前記巻線の端部に接触させ
ると共に前記山形突起の先端部が前記巻線の端面よりも前記トーチ電極に接近した状態で前記山形突起と
前記トーチ電極との間でアークを発生させ、
前記アークによって前記山形突起が溶解すると共に、前記山形突起を起点として前記本体の一部も溶解し、前記巻線と前記導電線と
が溶接
される、
回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法、及び回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電気自動車や所謂ハイブリッド車両に搭載され、走行用の駆動源及び発電機として用いられる回転電機のステータの巻線と端子台とを接続する接続部品として、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の接続部品は、一方の端部が巻線に接続されると共に他方の端部が端子台に接続される複数の線状導体を有し、これら複数の線状導体が樹脂モールド部によって互いに連結されている。線状導体の一方の端部とステータの巻線とは、溶接によって接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
線状導体の一方の端部とステータの巻線との溶接方法としては、気中放電によって金属導体同士を接続するアーク溶接を用いることが考えられる。しかし、回転電機の大容量化によって巻線が太くなり、これに伴って線状導体も太くなると、放電により発生した熱が巻線や線状導体の熱伝導によって拡散して放電箇所に留まらず、金属導体の溶解が始まるまでに長時間を要してしまう。また、放電時間が長くなると、巻線や線状導体の金属導体を被覆するエナメル等の絶縁層が熱により溶けてしまうおそれもある。
【0006】
そこで、本発明は、アーク溶接を行う際に金属導体の溶解を速やかに発生させることが可能な溶接方法、及び回転電機の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、一対の導電性部材をアーク溶接により溶接する溶接方法であって、前記一対の導電性部材のうち一方の導電性部材に、先細り形状の山形突起を線状の本体と一体に形成し、前記山形突起の鉛直方向上方に溶接ヘッドのトーチ電極を配置し、前記本体を前記一対の導電性部材のうち他方の導電性部材の端部に接触させると共に前記山形突起の先端部が前記他方の導電性部材の端面よりも前記トーチ電極に接近した状態で前記山形突起と前記トーチ電極との間でアークを発生させ、前記アークによって前記山形突起が溶解すると共に、前記山形突起を起点として前記本体の一部も溶解し、前記一対の導電性部材が溶接される、溶接方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、ロータ及びステータと、前記ステータに巻き回された巻線と、前記巻線の端部に溶接された導電線とを備えた回転電機の製造方法であって、前記導電線に先細り形状の山形突起を線状の本体と一体に形成し、前記導電線の前記山形突起の鉛直方向上方に溶接ヘッドのトーチ電極を配置し、前記導電線の前記本体を前記巻線の端部に接触させると共に前記山形突起の先端部が前記巻線の端面よりも前記トーチ電極に接近した状態で前記山形突起と前記トーチ電極との間でアークを発生させ、前記アークによって前記山形突起が溶解すると共に、前記山形突起を起点として前記本体の一部も溶解し、前記巻線と前記導電線とが溶接される、回転電機の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る導電線、溶接方法、及び回転電機の製造方法によれば、アーク溶接を行う際に金属導体の溶解を速やかに発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る回転電機を端子台と共に示す斜視図である。
【
図2】(a)及び(b)は、回転電機及び端子台を回転軸方向及び側方から見た構成図である。
【
図3】巻線によって形成される三相モータにおける電気回路の構成例を示す回路図である。
【
図4】(a)は、接続部品を示す斜視図である。(b)は、第1乃至第3のモールド樹脂部の図示を省略して第1乃至第6の導電線を示す斜視図である。
【
図5】(a)及び(b)は、溶接前後のU相の巻線の一方の端部と第1の導電線の一端部とを示す斜視図である。
【
図6】(a)~(c)は、第1の導電線の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。(d)は、(b)のA-A線断面図である。
【
図7】第1の導電線をU相の巻線の一方の端部に溶接する溶接工程を示す説明図である。
【
図8】第2の実施の形態に係る山形突起を有する第1の導電線とU相の巻線の一方の端部とを示す斜視図である。
【
図9】(a)~(c)は、第2の形態における第1の導電線の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。
【
図10】第3の実施の形態に係る山形突起を有する第1の導電線とU相の巻線の一方の端部とを示す斜視図である。
【
図11】(a)~(c)は、第3の形態における第1の導電線の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。
【
図12】第4の実施の形態に係る山形突起を有する第1の導電線とU相の巻線の一方の端部とを示す斜視図である。
【
図13】(a)~(c)は、第4の形態における第1の導電線の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。
【
図14】(a)及び(b)は、溶接前後のU相の巻線の一方の端部と第1の導電線の一端部とを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る回転電機1を端子台100と共に示す斜視図である。
図2(a)及び(b)は、回転電機1及び端子台100を回転軸方向及び側方から見た構成図である。
図2(b)では、回転電機1の一部を破断してその内部構造を図示している。
【0013】
回転電機1は、走行用の駆動源及び発電機として車両に搭載され、図略のインバータに端子台100を介して接続される。回転電機1は、三相モータ10と、接続部品2とを有し、三相モータ10の後述する巻線121~123と端子台100の第1乃至第3の座金101~103とが接続部品2によって電気的に接続される。
【0014】
三相モータ10は、有底円筒状のモータケース11と、モータケース11に収容されたステータ12と、ステータ12の内側に配置されたロータ13と、ロータ13の中心部を貫通してロータ13と一体に回転可能に支持されたシャフト14と、モータケース11の開口部を覆うモールド樹脂からなる蓋部材15とを有している。
【0015】
ステータ12は、ロータ13を囲む環状のステータコア120に、U相,V相,及びW相の巻線121~123が巻き回されている。より具体的には、ステータコア120に設けられた複数のティースのそれぞれに、U相,V相,及びW相の巻線121~123の何れかが巻き回されている。ステータコア120は、鋼材等の磁性材料からなる。巻線121~123は、銅からなる導体の外周面にエナメルからなる絶縁被覆層が形成された平角絶縁電線である。巻線121~123は、その一部が蓋部材15からモータケース11の外部に露出して、蓋部材15にモールドされている。
【0016】
ロータ13は、シャフト14を挿通させる貫通孔が形成された円筒状のロータコア131と、ロータコア131の外周部に配置された磁石132とを有している。磁石132には、S極及びN極が交互に位置するように複数の磁極が設けられている。シャフト14は、図略の軸受によってモータケース11に回転可能に支持されており、回転軸線Oを中心として回転する。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0017】
図3は、巻線121~123によって形成される三相モータ10における電気回路の構成例を示す回路図である。U相の巻線121、V相の巻線122、及びW相の巻線123は、それぞれ複数箇所(
図3に示す例では6箇所)でステータコア120に巻き回されてコイルを形成し、かつそれぞれの中央部において中性点12nに接続されている。U相の巻線121の一方の端部121a及び他方の端部121bには、U相電流が供給される。V相の巻線122の一方の端部122a及び他方の端部122bには、V相電流が供給される。W相の巻線123の一方の端部123a及び他方の端部123bには、W相電流が供給される。各相の巻線121~123の一方の端部121a,122a,123a及び他方の端部121b,122b,123bは、蓋部材15から軸方向に突出している。
【0018】
図4(a)は、接続部品2を示す斜視図である。接続部品2は、端子台100に接続される第1乃至第3の接続端子21~23と、第1乃至第6の導電線31~36と、樹脂のモールド成型体からなる第1乃至第3のモールド樹脂部41~44とを備えている。
図4(b)は、第1乃至第3のモールド樹脂部41~44の図示を省略して第1乃至第6の導電線31~36を示す斜視図である。
【0019】
第1の導電線31は、一端部がU相の巻線121の一方の端部121aに接続され、他端部が第1の接続端子21に接続される。第2の導電線32は、一端部がU相の巻線121の他方の端部121bに接続され、他端部が第1の接続端子21に接続される。第3の導電線33は、一端部がV相の巻線122の一方の端部122aに接続され、他端部が第2の接続端子22に接続される。第4の導電線34は、一端部がV相の巻線122の他方の端部122bに接続され、他端部が第2の接続端子22に接続される。第5の導電線35は、一端部がW相の巻線123の一方の端部123aに接続され、他端部が第3の接続端子23に接続される。第6の導電線36は、一端部がW相の巻線123の他方の端部123bに接続され、他端部が第3の接続端子23に接続される。
【0020】
第1及び第2の導電線31,32の一端部とU相の巻線121の一方及び他方の端部121a,121bとの接続、第3及び第4の導電線33,34の一端部とV相の巻線122の一方及び他方の端部122a,122bとの接続、ならびに第5及び第6の導電線35,36の一端部とW相の巻線123の一方及び他方の端部123a,123bとの接続は、気中放電によるアーク溶接により行われる。この溶接方法の詳細については後述する。
【0021】
第1及び第2の導電線31,32の他端部と第1の接続端子21との接続、第3及び第4の導電線33,34の他端部と第2の接続端子22との接続、ならびに第5及び第6の導電線35,36の他端部と第3の接続端子23との接続は、加締めによって行われる。第1の接続端子21は、端子台100の第1の座金101に、第2の接続端子22は、端子台100の第2の座金102に、第3の接続端子23は、端子台100の第3の座金103に、それぞれボルト110によって接続される。第1乃至第3の座金101~103は、図略の配線によってインバータに接続される。
【0022】
図5(a)及び(b)は、溶接前後のU相の巻線121の一方の端部121aと第1の導電線31の一端部とを示す斜視図である。
図6(a)~(c)は、第1の導電線31の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。
図6(d)は、
図6(b)のA-A線断面図である。なお、詳細な図示は省略するが、第2乃至第6の導電線32~36の一端部も第1の導電線31の一端部と同様に構成され、巻線121~123の一方の端部122a,123a及び他方の端部121b,122b,123bにそれぞれ溶接される。
【0023】
U相の巻線121は、銅等の良導電性金属からなる導体部121Mがエナメル等の絶縁体からなる絶縁層121Iによって被覆されており、一方の端部121aでは絶縁層121Iが除去されて導体部121Mが露出している。第1の導電線31は、線状の本体30及び後述するアーク溶接の電極との間でアークを発生させる先細り形状の山形突起301を一体に有する導体部3Mが、その両端部を除いて絶縁層3Iに被覆されている。導体部3Mは、銅等の良導電性金属からなり、絶縁層3Iはエナメル等の絶縁体からなる。
【0024】
図5(a)に示す溶接前の状態において、U相の巻線121に接続される本体30の端部30aは、U相の巻線121の一方の端部121aと平行な軸方向に延伸しており、その延伸方向に対して垂直な断面における断面形状が
図6(d)に示すように長方形状である。本体30の端部30aは、絶縁層3Iから露出しており、U相の巻線121の導体部121Mに接触している。
【0025】
山形突起301は、本体30の端部30aから、その延伸方向に沿って突出している。本実施の形態では、山形突起301が台形状であり、本体30の端部30aの断面における長辺方向の幅W
1(
図6(b)参照)が、先端部301aほど狭くなっている。山形突起301の基端部301bにおける同方向の幅は、本体30の端部30aの長辺方向の幅よりも狭く、山形突起301は端部30aの軸方向端面30a
1から垂直に突出している。また、山形突起301の先端部301aは、U相の巻線121における一方の端部121aの端面121a
1よりも軸方向に突出している。この端面121a
1は、軸方向に対して垂直な平面である。
【0026】
なお、本実施の形態では、本体30の端部30aの短辺方向における山形突起301の幅W
2(
図6(c)参照)が、基端部301bから先端部301aまでの全体にわたって一定である。
【0027】
図7は、第1の導電線31をU相の巻線121の一方の端部121aに溶接する溶接工程を示す説明図である。この溶接工程は、アーク溶接により行われ、より具体的にはタングステンからなる電極と不活性ガスを用いたTIG(Tungsten Inert Gas)溶接により行われる。
図7では、溶接ヘッド5の一部を図示している。
【0028】
TIG溶接は、第1の導電線31の山形突起301の鉛直方向上方に溶接ヘッド5を配置して行う。溶接ヘッド5は、図略のアクチュエータによって上下方向に移動可能であり、不活性ガスGを溶接箇所に供給するトーチノズル51と、トーチノズル51の開口510から下方に突出するトーチ電極52とを有している。
【0029】
本実施の形態では、トーチ電極52を山形突起301の先端部301aに接触させて通電を開始した後、溶接ヘッド5を上方に移動させ、トーチ電極52と山形突起301との間でアーク放電を発生させるタッチスタート方式が採用される。第1の導電線31は、電気的に接地されて陰極となり、トーチ電極52は陽極となる。
図7では、トーチ電極52と山形突起301との間に発生するアークAを破線で囲って示している。山形突起301は、アークAの熱により溶解して流下する。
【0030】
このアーク放電により、山形突起301が導体部3Mの溶解の起点となり、
図5(b)に示すように第1の導電線31の本体30の端部30aとU相の巻線121の一方の端部121aとが溶接される。この溶接箇所は、冷却後に絶縁塗装される。なお、第2乃至第6の導電線32~36については、第1の導電線31と同時にTIG溶接を行ってもよく、一つの溶接ヘッド5によって順次TIG溶接を行ってもよい。
【0031】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、山形突起301に集中してアークAが発生するので、山形突起301が速やかに溶解する。そして、山形突起301を起点として本体30の端部30aの一部も溶解し、U相の巻線121の一方の端部121aとの溶接が速やかになされる。これにより、絶縁層3I,121Iが熱伝導により溶けてしまうことも抑止される。
【0032】
また、本実施の形態では、山形突起301の先端部301aがU相の巻線121の端面121a1よりもトーチ電極52に接近した状態でアークAを発生させるので、アークAが山形突起301の先端部301aに集中し、山形突起301がより速やかに溶解する。
【0033】
なお、本実施の形態では、第1の導電線31に山形突起301を設けた場合について説明したが、U相の巻線121にも同様の山形突起を設けてもよい。この場合、U相の巻線121における一方の端部121aの端面121a1から山形突起が軸方向に突出する。また、U相の巻線121に山形突起を設ける場合には、第1の導電線31の山形突起301を省略してもよい。すなわち、本実施の形態に係る溶接方法では、溶接される一対の導電性部材のうち、少なくとも一方の導電性部材に山形突起が設けられていればよい。上記の例では、第1の導電線31の導体部3M及びU相の巻線121の導体部121Mが、この一対の導電性部材に相当する。
【0034】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図8及び
図9を参照して説明する。
図8は、第2の実施の形態に係る山形突起302を有する第1の導電線31とU相の巻線121の一方の端部121aとを示す斜視図である。
図9(a)~(c)は、本実施の形態における第1の導電線31の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。
【0035】
本実施の形態は、山形突起302の形状が第1の実施の形態の山形突起301の形状と異なる他は第1の実施の形態と同様であるので、この違いの部分について重点的に説明し、他の部分については第1の実施の形態で用いた符号と同一の符号を付して重複した説明を省略する。後述する第3乃至第5の実施の形態についても同様である。
【0036】
第2の実施の形態では、山形突起302が三角形状であり、本体30の端部30aの断面における長辺方向の幅W1が、山形突起302の基端部302bから先端部302aに向かって徐々に狭くなっている。山形突起302の基端部302bにおける幅W1は、本体30の端部30aにおける長辺方向の全幅と同等である。本体30の端部30aの短辺方向における山形突起302の幅W2は、基端部302bから先端部302aまでの全体にわたって一定である。山形突起302の先端部302aは、U相の巻線121における一方の端部121aの端面121a1よりも軸方向に突出している。第1の導電線31とU相の巻線121とは、第1の実施の形態と同様に、TIG溶接によって接続される。
【0037】
この第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0038】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、
図10及び
図11を参照して説明する。
図10は、第3の実施の形態に係る山形突起303を有する第1の導電線31とU相の巻線121の一方の端部121aとを示す斜視図である。
図11(a)~(c)は、本実施の形態における第1の導電線31の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。また、
図10及び
図11(c)では、本体30の端部30aの中心軸線Cを一点鎖線で示している。
【0039】
第3の実施の形態における山形突起303の形状は、本体30の端部30aにおける短辺方向の幅W2が、基端部303bから先端部303aに向かって徐々に狭くなる三角形状である。山形突起303の先端部303aは、中心軸線CよりもU相の巻線121側にあたる短辺方向の一方側に偏位している。本体30の端部30aの長手方向における山形突起303の幅W1は一定である。山形突起303の先端部303aは、U相の巻線121の端面121a1よりも軸方向に突出している。第1の導電線31とU相の巻線121とは、第1の実施の形態と同様に、TIG溶接によって接続される。
【0040】
この第3の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、山形突起303の先端部303aが中心軸線CよりもU相の巻線121側に偏位しているため、溶解した山形突起303がU相の巻線121の端面121a1側に流れやすくなっている。
【0041】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について、
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は、第4の実施の形態に係る山形突起304を有する第1の導電線31とU相の巻線121の一方の端部121aとを示す斜視図である。
図13(a)~(c)は、本実施の形態における第1の導電線31の一端部の軸方向端面図、正面図、及び側面図である。
図12及び
図13(c)では、本体30の端部30aの中心軸線Cを一点鎖線で示している。
【0042】
第4の実施の形態における山形突起304の形状は、本体30の端部30aにおける短辺方向の幅W2及び長辺方向の幅W1が基端部304bから先端部304aに向かって徐々に狭くなる角錐形状である。山形突起304の先端部304aは、中心軸線CよりもU相の巻線121側にあたる短辺方向の一方側に偏位している。山形突起304の先端部304aは、U相の巻線121における一方の端部121aの端面121a1よりも軸方向に突出している。第1の導電線31とU相の巻線121とは、第1の実施の形態と同様に、TIG溶接によって接続される。
【0043】
この第4の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られると共に、山形突起304の先端部304aが中心軸線CよりもU相の巻線121側に偏位しているため、溶解した山形突起304がU相の巻線121の端面121a1側に流れやすくなっている。またさらに、山形突起304の先端部304aが針状に尖っているため、TIG溶接のアークがより先端部304aに集中しやすくなっている。
【0044】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について、
図14を参照して説明する。
図14(a)及び(b)は、溶接前後のU相の巻線121の一方の端部121aと本実施の形態に係る第1の導電線31の一端部とを示す斜視図である。
【0045】
本実施の形態では、山形突起301が本体30の延伸方向に対して交差する方向に突出している。本体30は、U相の巻線121に接続される端部30aがステータ12の周方向に沿うように屈曲されており、山形突起301がこの端部30aと一体に設けられている。山形突起301は、ステータ12の軸方向に沿って、端部30aの延伸方向(ステータ12の周方向)に対して交差する方向に突出している。
【0046】
端部30aは、その延伸方向に対して垂直な断面における断面形状が長方形状であり、山形突起301は、この断面における長辺方向の端部から突出している。山形突起301の先端部301aは、U相の巻線121における一方の端部121aの端面121a1よりも軸方向に突出している。
【0047】
山形突起301は、アーク放電による導体部3Mの溶解の起点となり、
図14(b)に示すように、第1の導電線31の本体30の端部30aとU相の巻線121の一方の端部121aとが溶接される。
【0048】
この第5の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。なお、
図14(a)では、山形突起301を第1の実施の形態に係る山形突起301と同様の形状に形成した場合について示しているが、第2乃至第4の実施の形態に係る山形突起302~304と同様の形状に形成してもよい。
【0049】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0050】
[1]アーク溶接の電極(52)との間でアーク(A)を発生させる先細り形状の山形突起(301~304)を線状の本体(30)と一体に有する、導電線(31~36)。
【0051】
[2]前記山形突起(301~304)は、前記本体(30)の端部(30a)から当該端部(30a)の延伸方向に沿って突出している、上記[1]に記載の導電線(31~36)。
【0052】
[3]前記本体(30)は、前記延伸方向に対して垂直な断面における前記端部(30a)の断面形状が長方形状であり、前記山形突起(301,302)は、前記断面における長辺方向の幅(W1)が先端部(301a,302a)ほど狭くなっている、上記[2]に記載の導電線(31~36)。
【0053】
[4]前記本体(30)は、前記延伸方向に対して垂直な断面における前記端部(30a)の断面形状が長方形状であり、前記山形突起(303,304)は、前記断面における短辺方向の幅(W2)が先端部(302a,304a)ほど狭くなっている、上記[2]又は[3]に記載の導電線(31~36)。
【0054】
[5]前記山形突起(303,304)は、その先端部(302a,304a)が前記端部の中心軸線(C)よりも前記短辺方向の一方側に偏位している、上記[4]に記載の導電線(31~36)。
【0055】
[6]前記山形突起(301)は、前記本体(30)の延伸方向に対して交差する方向に突出している、上記[1]に記載の導電線(31~36)。
【0056】
[7]前記山形突起(301)は、前記本体(30)の端部(30a)に一体に設けられており、前記端部(30a)は、その延伸方向に対して垂直な断面における断面形状が長方形状であり、前記山形突起(301)が前記断面における長辺方向の端部から突出している、上記[6]に記載の導電線(31~36)。
【0057】
[8]一対の導電性部材(3M,121M)をアーク溶接により溶接する溶接方法であって、前記一対の導電性部材(3M,121M)のうち少なくとも一方の導電性部材(3M)は、先細り形状の山形突起(301~304)を有しており、前記山形突起(301~304)と電極(トーチ電極52)との間でアーク(A)を発生させ、同山形突起(301~304)を溶解させて一対の導電性部材(3M,121M)を溶接する、溶接方法。
【0058】
[9]前記山形突起(301~304)は、前記一対の導電性部材(3M,121M)のうち一方の導電性部材(3M)に設けられており、前記溶接の際、前記山形突起(301~304)の先端部(301a,302a,303a,304a)が他方の導電性部材(121M)の端部(121a)よりも前記電極(52)に接近した状態で前記アーク(A)を発生させる、上記[8]に記載の溶接方法。
【0059】
[10]ロータ(13)及びステータ(12)と、前記ステータ(12)に巻き回された巻線(121~123)と、前記巻線(121~123)の端部(121a,121b,122a,122b,123a,123b)に溶接された導電線(31~36)とを備えた回転電機(1)の製造方法であって、前記導電線(31~36)に先細り形状の山形突起(301~304)を線状の本体(30)と一体に形成し、前記本体(30)を前記巻線(121~123)の端部(121a,121b,122a,122b,123a,123b)に接触させた状態で前記山形突起(301~304)と電極(52)との間でアーク(A)を発生させ、同山形突起(301~304)を溶解させて前記巻線(121~123)と前記導電線(31~36)とを溶接する、回転電機(1)の製造方法。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0061】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、第1乃至第6の導電線31~36が三相モータ10に組み合わされる場合について説明したが、これに限らず、様々な用途に用いられる導電線に本発明を適用することが可能である。また、本発明に係る溶接方法は、導電線と巻線との溶接に限らず、一対の導電性部材をアーク溶接する様々な対象に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…回転電機
12…ステータ
121M…導体部(導電性部材)
122~123…巻線
13…ロータ
30…本体
31~36…第1乃至第6の導電線
301~304…山形突起
301a,302a,303a,304a…先端部
3M…導体部(導電性部材)
52…トーチ電極(電極)
A…アーク