IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インフィニウム テクノロジー,エルエルシーの特許一覧

特許7660138空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法
<>
  • 特許-空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法 図1
  • 特許-空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法 図2
  • 特許-空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法 図3
  • 特許-空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法 図4
  • 特許-空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法 図5
  • 特許-空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】空気から二酸化炭素を回収して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと直接変換するための方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 2/00 20060101AFI20250403BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20250403BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20250403BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20250403BHJP
   B01J 21/10 20060101ALI20250403BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20250403BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20250403BHJP
【FI】
C10G2/00
C01B32/50 ZAB
C01B3/00 Z
C01B32/40
B01J21/10 M
B01D53/14 100
B01D53/14 210
C25B1/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022562783
(86)(22)【出願日】2021-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 US2021010020
(87)【国際公開番号】W WO2021225642
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】63/101,558
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522402405
【氏名又は名称】インフィニウム テクノロジー,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】INFINIUM TECHNOLOGY,LLC
【住所又は居所原語表記】2020 L Street,Suite 120,Sacramento,CA 95811-4260(US)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シュツレ,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】シュツレ,デニス
(72)【発明者】
【氏名】ライト,ハロルド
(72)【発明者】
【氏名】ハンベリー,オリオン
(72)【発明者】
【氏名】コールドウェル,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス,ラメール
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0201717(US,A1)
【文献】特開2010-235736(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0137457(US,A1)
【文献】特開平03-193112(JP,A)
【文献】特表2019-537544(JP,A)
【文献】国際公開第2019/110268(WO,A1)
【文献】特表2008-533287(JP,A)
【文献】特表2022-549356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0288195(US,A1)
【文献】特開昭63-278520(JP,A)
【文献】特表2010-531221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 2/00
C01B 3/00、32/40、32/50
B01J 19/00、20/00、21/10
B01D 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気、電気及び水を含む供給物の流れを、炭化水素を含む生成物の流れへと変換するための統合された方法であって、
a.水を含む電解槽の供給物の流れを、水素及び酸素を含む電解槽の生成物の流れへと変換する電気分解のステップであって、用いる電気の少なくとも一部は再生可能資源からのものである前記電気分解のステップと、
b.空気を吸着剤と接触させて、前記空気の流れから二酸化炭素を除く直接空気回収のステップと、
c.逆水性ガスシフト反応器において、前記電解槽の生成物の流れからの前記水素の少なくとも一部が、前記直接空気回収のステップからの二酸化炭素を含む流れと反応し、一酸化炭素を含む逆水性ガスシフトの生成物の流れを生成する逆水性ガスシフトのステップと、
d.前記電解槽の生成物の流れからの前記水素の少なくとも一部を、前記逆水性ガスシフトの生成物の流れの少なくとも一部を含む流れと反応させて、炭化水素合成の生成物の流れを生成する炭化水素合成のステップと、
e.電気分解により生成された少なくとも一部の前記酸素を、前記炭化水素合成のステップからの未反応の反応物を含む1の流れ又は複数の流れと反応させる自己熱改質のステップと、を含み、
前記逆水性ガスシフト反応器の供給物は、水素の二酸化炭素に対するモル比(H(mol)/CO(mol))が2.0から5.0である組成を有し、且つ、1,400°F(760℃)よりも高温へと加熱された流れである、方法。
【請求項2】
前記直接空気回収は固体に担持されたアミン吸着剤を用いる、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記電解槽で生成された水素を含む流れを用いて、固体に担持された前記アミン吸着剤を再生させる、請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記直接空気回収において、水性のKOHを用いて空気から二酸化炭素を除去する、請求項1に記載された方法。
【請求項5】
前記電解槽が場所1にあり、前記直接空気回収が場所2にあり、電解槽からの水素をLOHCの方法により場所1から場所2へと運ぶ、請求項1に記載された方法。
【請求項6】
逆水性ガスシフト反応器の原料を電気輻射炉で少なくとも1,500°F(816℃)へと加熱して前記反応器の供給物とし、前記反応器の容器は断熱性の反応器であり、前記反応器の出口温度が前記反応器の入口温度よりも少なくとも100°F(56℃)低い、請求項1に記載された方法。
【請求項7】
前記逆水性ガスシフト反応器への供給物は、水素の二酸化炭素に対するモル比(H(mol)/CO(mol))が2.5~4.0であるような組成を有する、請求項1に記載された方法。
【請求項8】
前記自己熱改質のステップは供給物として水蒸気を含み、前記水蒸気の炭素に対する比率が0.40~1.00である、請求項1に記載された方法。
【請求項9】
前記自己熱改質のステップの触媒が固溶体触媒を含む、請求項に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の二酸化炭素を直接回収し、水の電気分解により生成される水素を使用して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと変換することにより、再生可能電気、空気及び水を、低炭素又はゼロ炭素で燃料及び化学物質へと変換するための方法、触媒、材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、工業的及び生物学的な多くのプロセスにより生成される。二酸化炭素は、通常、大気中へと排出され、産業革命の開始以来、地球上の大気中の二酸化炭素濃度は上昇し続けている。二酸化炭素は、地球規模の気候変動の原因となる著しい温室効果ガスとして認識されている。特に、二酸化炭素の発生源での削減は難しく、一般的に成功していない。大気中の二酸化炭素は増え続けている。二酸化炭素に対処するさらに好ましいプロセスは、二酸化炭素を、大気中の空気から効率的に回収して有用な生成物へと変換し、例えば燃料(ディーゼル燃料、灯油、ジェット燃料、ガソリン若しくはガソリン混合燃料、又は他の燃料)及び化学物質(メタノール、アンモニア、溶剤、ワックス、オレフィン、又は他の化学物質)等のように例えば石油及び天然ガス等の化石資源から生成される燃料及び化学物質と置き換えることができ、その結果として、大気中への二酸化炭素の正味の総排出量を低くすることである。これが、低炭素、超低炭素又はゼロ炭素の燃料及び化学物質が意味するものである。
【0003】
二酸化炭素は、幾つかの供給源から得ることができる。天然ガス又は石炭から肥料用のアンモニアを生成する産業に関する製造工場では、大量の二酸化炭素を生成する。トウモロコシ又は小麦をエタノールへと変換するエタノール工場では、大量の二酸化炭素を生成する。天然ガス又は石炭から発電する発電所では、大量の二酸化炭素を生成する。天然ガス鉱床はまた大量の二酸化炭素を含み得るため、幾つかの場所において、天然ガス処理工場ではかなり大量の二酸化炭素を処理する必要がある。COを回収して利用するには、排気ガスの流れ(a flue gas stream)又は二酸化炭素が主成分ではない別の流れから、二酸化炭素の分離を要することが多い。排気ガスの蒸気(the flue gas steam)から二酸化炭素を除去するために、アルキルアミンが用いられる。このプロセスで使用されるアルキルアミンには、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジイソプロピルアミン、アミノエトキシエタノール、又はそれらの組み合わせが含まれる。金属有機構造体(Metal Organic Framework:MOF)材料はまた、化学吸着又は物理吸着を用いて二酸化炭素を低濃度の流れから分離し、この流れから二酸化炭素を回収する手段として用いられてきた。高濃度の二酸化炭素を得る他のプロセスには、燃焼プロセスの間に生成した二酸化炭素を、循環している金属酸化物材料(circulating metal oxide material)に回収させる、化学ループ燃焼が含まれる。
【0004】
二酸化炭素はまた大気から回収することができ、二酸化炭素の直接空気回収(directair capture:DAC)と呼ばれる。空気中の二酸化炭素濃度は約415ppmとかなり低いので、空気から二酸化炭素を回収することの課題は、排気ガス又は他の供給源からの回収とは異なっている。このような低濃度では、液体のアルキルアミンはアミン損失が大きくなりすぎる場合が多いため、うまく機能しない。MOF化合物は、二酸化炭素の物理的吸収に基づき、通常、二酸化炭素の取り込み量が少なすぎる。出版物、Sanz-Perez, et al, "Direct Capture of CO2 fromAmbient Air", Chem. Rev. 2016, 116, 11840-11876では、COの直接空気回収について歴史的な発展が詳述されている。二酸化炭素を低濃度の空気流から回収するために、数多くの材料が試みられてきた。
【0005】
過去10年間で最も有望なものとして、2つの主要なタイプの材料及びプロセスが発展してきた。第1の有望な材料及びプロセスのセットは、アミンを繋ぎとめた固体吸着剤の使用である。これは、(先に述べた液体アミンと同様に)アミンのCO回収能力を利用したものであるが、これらのタイプの材料は化学的に固体に繋ぎとめられる。先に述べた金属酸化物に基づく化学吸着剤とは異なり、担持されたアミン吸着剤は、ほぼ大気下の条件で作動し、理想的には穏やかな温度変化で再生させることが可能である。Choi et al, "Application of Amine-Tethered Solid Sorbents forDirect CO2 Capture from Ambient Air", Environmental Science& Technology, 2011, 45, 2420-2427では、これらの材料について詳しく説明されている。しかし、これらの化学吸着剤には、二酸化炭素を放出するための温度変化と、二酸化炭素を洗い流すための不活性ガスとが必要である。実験室では、窒素又はアルゴン又は他の不活性ガスが用いられている。しかし、商業的には、二酸化炭素からの不活性ガスの分離が、二酸化炭素の最初の回収とほとんど同じくらい重要な問題となる。この不活性ガスの問題を克服するために、ある種のこれら担持された吸着剤では、水蒸気を用いて二酸化炭素を放出させ、吸着剤を再生可能なことが示されている。Wen Li, et.Al "Steam Stripping for Regeneration of SupportedAmine-Based CO2 Adsorbents", ChemSusChem 2010, 3, 899-903を参照されたい。US9,555,365で説明されているように、Global Thermostatにより開発された技術は、DACのためのこの一般的なアプローチの部類に入る。
【0006】
第2の材料及びプロセスは、水性(aqueous)の金属水酸化物を用いて空気中のCOと反応させて金属炭酸塩を生成し、これをか焼して回収したCOを放出し、金属水酸化物を再び作るものである。このサイクルは、連続した一連の化学反応器内で行うことができる。この技術は、Carbon Engineeringにより高められている。彼らのプロセスは、Keithet al, "A Process for the Capture of CO2 from theAtmosphere", Joule 2, 1573-1594, August 15, 2018で詳細に説明されている。彼らのプロセスから結果として得られる二酸化炭素は、900℃から冷却され、100気圧よりも高圧に圧縮されて、地質的に隔離される又はCOパイプラインへと送られる。再生可能な水素(H)源は、水から電気分解で生成することができる。
【0007】
【化1】
【0008】
この反応は、電気を用いて、水を、水素と酸素とに分解するものである。電解槽は、電解質で隔てられたアノードとカソードとで構成されている。方法が少し異なると電解槽の機能が様々に異なり、これは主に、要する電解質材料の種類の違いによるものである。
【0009】
しかし、それぞれの電気分解技術は、水が常圧及び常温でシステムへ供給され、全てのエネルギー入力が電気の形で提供される場合、39.4kWh/kgH(水素のHHV)の電気エネルギー入力の理論的最小値を有する。適切な熱エネルギーがシステムへ供給されれば、必要な電気エネルギー入力は、39.4kWh/kgHよりも少なくなる可能性がある。例えばPEM水蒸気電気分解や特に固体酸化物電気分解等の高温電解では、電解槽が低コスト熱源又は廃熱源と同位置にあれば、全てのエネルギーを電気で供給する場合よりも作動コストを低くすることができる。(Study on development of water electrolysis in the EU Final Report,E4tech Sari with Element Energy Ltd for the Fuel Cells and Hydrogen JointUndertaking, February 2014)。電気分解に必要な高いエネルギーを考慮すると、本発明により想定するゼロ炭素の燃料及び化学工場の配置は、安価な再生可能電力がある場所又はその近辺に配置する必要がある。
【0010】
電気分解の他に、現在の重要な研究では、光エネルギー及び光触媒を用いて、水を、水素と酸素とへ分解する方法が検討されている。(Acar et al, Int. J. Energy Res. 2016; 40: 1449-1473)。
【0011】
液体有機水素キャリア(Liquid Organic Hydrogen Carrier:LOHC)について最近の開発により、電気分解の場所又は水分解の場所で水素をトルエンと反応させてメチルシクロヘキサンを生成し、それを液体として別の場所へ運んで水素を脱水素させ、液体トルエンを元の場所へ戻してサイクルを継続できる可能性があることが示されている。Niermann et al, “Liquid Organic HydrogenCarries (LOHC’s) - Techno-Economic Analysis of LOHC’s in a Defined Process Scheme”, EnergyEnviron. Sci. 2019, 12, 290を参照。この開発は、電気分解の場所を、再生可能な水素の最終的なユーザーから分離することが可能であることを意味する。
【0012】
二酸化炭素の利用について検討されてきた反応の1つは、逆水性ガスシフト(ReverseWater Gas Shift:RWGS)反応である。
【0013】
【化2】
【0014】
この反応は、二酸化炭素及び水素を、一酸化炭素及び水へと変換する反応である。この反応は、室温で吸熱性であり、進行に熱を必要とし、二酸化炭素を大幅に変換するために昇温及び良好な触媒を要する。
【0015】
RWGS反応のために、幾つかの触媒が開示されている。以前に研究された主要な触媒は、金属酸化物の担体上に分散されたCu又はPt又はRhであった。(Daza & Kuhn, RSC Adv. 2016, 6, 49675-49691)。
【0016】
RWGS反応からのCO(一酸化炭素)と、水の電気分解からの水素とがあれば、一酸化炭素から炭化水素への水素化触媒を介して、有用な生成物を得られる可能性がある。HとCOとが混じり合ったものは、合成ガス(synthesis gas)又はシンガス(syngas)と呼ばれる。シンガスは、液体燃料、アルコール、酢酸、ジメチルエーテル及びその他の多くの化学生成物を含めて、化学生成物を生成するための供給原料として使用可能である。水からのHと、COからのCOとを生成することができれば、その結果、シンガスの生成において並びにシンガスから燃料及び化学物質への変換において発生するCO又は温室効果ガスの排出がなければ、本当に正味でゼロ炭素の燃料及び化学物質を有することが可能である。
【0017】
COを触媒的に水素化して、含酸素炭化水素に加えて、メタンから重質炭化水素(C100以上)までの軽ガス、液体及びワックスを生成することは、一般にフィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)(又はF-T)合成と呼ばれる。従来の低温(<250℃)F-Tのプロセスでは、触媒変換のプロセスから、主に高重量(又は高い重量%)のF-Tワックス(C25以上)を生成する。これらのF-Tワックスに、次に水素化分解及び/又は更なる処理をして、ディーゼル、ナフサ及びその他の留分を生成する。この水素化分解のプロセスの間に軽質炭化水素もまた生成され、実用可能な生成品を生成するためには、更なるアップグレーディングを必要とする場合がある。F-Tに一般的に使用される触媒は、コバルト(Co)系触媒又は鉄(Fe)系触媒のいずれかであり、供給された一酸化炭素を二酸化炭素へと変換することをもたらす水性ガスシフト(water gas shift:WGS)反応にもまた活性がある触媒である。最先端のフィッシャー・トロプシュについて更に詳細(S.S. Ail, S. Dasappa / Renewable and Sustainable Energy Reviews 58(2016) 267-286)を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
この主題に関して先行する大量の研究と、これらの技術開発に成功することの世界的な重要性にもかかわらず、大気中の二酸化炭素を回収して有用な燃料及び化学物質へと変換する優れた方法、システム及び触媒は、今日まで開発されていない。より優れた方法、システム及び触媒が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、大気から二酸化炭素を直接回収し、水の電気分解により生成された水素を使用して二酸化炭素を燃料及び化学物質へと変換することにより、再生可能電気、空気及び水を、低炭素又はゼロ炭素で燃料及び化学物質へと変換するための方法、触媒、材料に関するものである。この方法では、再生可能電気をエネルギー源として使用する効率的な電気分解ユニット内で、水を水素へと変換し、必要に応じて、LOHCシステムを介して水素を直接空気回収(DAC)地点へ運ぶ。水素は、DACシステムの効率を向上させる有益な方法で使用される。二酸化炭素及び水素を、RWGS反応器内で一酸化炭素及び水へと反応させ、ここで再生可能電気により反応熱を供給する。RWGS反応器内で用いる触媒は、新しい固溶体触媒である。生成した一酸化炭素と追加の水素とを、燃料及び化学物質を直接に生成する新たな触媒を用いる液体燃料生産反応器内において、燃料及び化学物質へと反応させる。生成される正味の生成物は、炭素原子4個から24個の長さの炭化水素である。シンガスから、メタノール、ワックス、アンモニア、溶剤、他の燃料及び化学物質を含む他の生成物を生成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、再生可能電気、水及び空気から、燃料及び化学物質を生成する、離れた2つの場所で起こり得る全体的なプロセスを示す。
【0021】
図2図2は、アミンベースの固体の化学吸着剤を用いる、COの直接空気回収(DAC)について、2つのサイクルを示す。
【0022】
図3図3は、金属水酸化物/金属炭酸塩を用いる、COの直接空気回収(DAC)を示す。
【0023】
図4図4は、場所1で生成された水素ガスを場所2へ運ぶ、LOHCのプロセスを示す。
【0024】
図5及び図6は、二酸化炭素、水及び再生可能電気を、再生可能な燃料及び化学物質へと変換するための、統合された高効率なプロセスを示す。
【0025】
図5図5は、逆水性ガスシフトシステムと、支持ユニットの作動とを示す。
【0026】
図6図6は、H及びCOを燃料及び化学物質へと変換するための、全体的なプロセスフロー図の一部を示す。具体的には、図6は、COとHとを反応させ、燃料又は化学物質として使用し得る、より長鎖の炭化水素を生成する液体燃料生産システムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、幾つかのサブシステムを含む。図1は、空気、水及び再生可能電気から燃料及び化学物質を生産する全体的なプロセスを示す。全体的なプロセスは、(1)再生可能な又は低炭素の電気と、水とから、電気分解により再生可能な水素を生成することから始まり、(2)再生可能な水素を、必要に応じて貯蔵し、液体有機水素キャリア(LOHC)システムを介して第2の場所へ運ぶことができ、(3)大気から二酸化炭素を回収する直接空気回収(DAC)、電気分解ステップからの水素を、DACプロセスの効率改善に使用し、(4)RWGSシステムにおいてCOからCOを生成し、(5)液体燃料生産(Liquid Fuel Production:LFP)反応器システムにおいてシンガスを炭化水素へと変換し、(6)自己熱改質器(autothermal reformer:ATR)部分において、液体燃料生産(LFP)反応器内で生成された軽質炭化水素(C~C)を、水素及び一酸化炭素(シンガス)へと変換してLFP反応器へ戻して再生利用する。
【0028】
本発明の他の1つの態様は、直接空気回収のプロセスにおいて、テールガスを用いて、か焼炉(calciner)を燃やすことである。か焼炉は、理想的には、電解槽からの酸素を用いて酸素を燃焼させ、か焼炉からのCOを濃縮し、RWGSのプロセスへ戻して再生利用できるようにすることになる。
【0029】
図1より、電気分解システムは、再生可能な水素を生成する。水を、電気分解システムへ供給する。電気分解システムに電力を供給するために、再生可能電気を使用する。水の電気分解で、水素を生成することができる。
【0030】
【化3】
【0031】
電解槽は、電解質により隔てられたアノードとカソードとで構成される。方法が少し異なると、電解槽の機能が様々に異なる。様々な電解槽の設計では、アルカリ電解、膜電解及び高温電解を含めて、様々な電気分解技術を用いることができる。アルカリ電解は、1MWを超える大規模な作動が商業的に可能であるため、好ましい。活性化化合物を用いて又は用いないで、KOH及びNaOHの液体を含む様々な電解質を用いることができる。電解質の安定性を向上させるために、活性化化合物を電解液に添加することができる。水素発生反応のためのイオン性活性化剤の多くは、エチレンジアミンベースの金属塩化物錯体と、NaMo又はNaWOと、で構成されている。ラネー-ニッケル-アルミニウムのような金属と酸化物との多くの様々な組み合わせを含む電極上に、様々な電解触媒を用いることができ、合金にコバルト又はモリブデンを加えることにより強化することができる。
【0032】
例えばPtMo、HfFe及びTiPt等の幾つかの遷移金属の組み合わせが、カソード材料として使用されており、最先端の電極よりも著しく高い電極触媒活性を示している。
【0033】
一部の電解槽は、例えば30~50バール等の高圧で作動し、水素と酸素とを生成するように設計されている。加圧された電解槽は、シンガスの圧縮についてエネルギー大量消費のステップを排除できるため、好ましい。カソードにある水は、外部回路からの電子と結合し、水素ガスと、負に帯電した酸素イオンとを形成する。酸素イオンは、固体セラミック膜を通り抜けてアノードで反応し、酸素ガスとなり、外部回路用の電子を発生させる。このようにして、電解槽内で、水素ガスと酸素ガスとの両方が生成される。一実施形態において、複数の電解槽が並列で作動する。100%のエネルギー効率で作動する電解槽はなく、エネルギー使用量は、設備の経済的な作動に極めて重要である。電解槽におけるエネルギー使用量は、200メガワット時(MWh)/生成Hメートルトン(MT)未満であるのが望ましく、好ましくは120MWh/生成HMT未満であり、さらに好ましくは60MWh/生成HMT未満である。アルカリ電解槽の実施形態の場合、電力使用量は39.4MWh/生成HMTよりも大きくなる。しかし、高温電解槽の実施形態では、電解槽を常温以上に加熱するために廃熱を用いる場合、電力使用量を39.4MWh/生成HMT未満にできる可能性がある。
【0034】
本発明において、幾つかの様々な直接空気回収(DAC)技術を用いることができる。DAC技術について第1の実施形態は、固体アミンベースの吸着剤に基づくものである。図2は、本発明の一実施形態を示す。第一級、第二級又は第三級のアミンをベースとする担持されたアミン吸着剤が、DAC反応器内に装着される。アミン吸着剤は、DAC反応器を通り抜ける空気中の二酸化炭素を、化学的に吸着することができる。この結果、二酸化炭素を激減させた空気の流れが、DAC反応器を出て行く。これは、ほぼ、常温及び常圧で起こる。反応器を経て空気を吸い込む送風機を使用することができる。DAC反応器内への固体アミン吸着剤の装着や、アミン吸着剤のサイズ管理により、DAC反応器を経た圧力降下を最適化する。
【0035】
使用できる、固体に担持されたアミン吸着剤には、少なくとも3つのクラスがある。クラス1の吸着剤は、小分子又は小ポリマーを含むアミンで物理的にロードされた、ポリマー又は酸化物の支持体(典型的にはシリカ)で構成されている。クラス2の吸着剤は、例えば有機シランを使用する等して固体支持体の表面に共有結合したアミン種をベースにしている。例えば、クラス1の吸着剤は、MCM-41シリカに含浸されたテトラエチレンパンタミン又はジエタノールアミンであってもよい。典型的なクラス2の吸着剤は、トリアミンをグラフト化し、細孔を拡大したMCM-41であり、低分圧の二酸化炭素で良好な吸着性を示す。クラス3の吸着剤は、多孔性担体から外れて、アジリジンのin situ開環重合により合成される、ハイパーブランチアミノシリカ(hyperbranched aminosilica:HAS)材料として説明されるアミン系の固体吸着剤である。これらの吸着剤は、通常、2~10mmol/gのアミンのロード量、4~7nmの細孔径、40~600m/gのBET表面積、及び、0.1~0.8cc/gの細孔容積を有する。これらの材料は、大気下の条件で湿った空気又は乾燥した空気とうまく機能し、約400ppmの二酸化炭素濃度で0.5~4.0mmol/gの二酸化炭素吸着を示す。理想的には、DAC反応器を通り過ぎる空気中の二酸化炭素の約20~50%が除去されるように、DAC反応器を作動させる。50%よりも多く二酸化炭素を除去することは、二酸化炭素を回収する吸着剤の能力を著しく低下させるため、一般に好ましくない。COの取り込みサイクルが完了した後、DAC反応器を、COを放出する吸着剤の再生サイクルに切り替える。このサイクルでは、電解槽内で生成された水素を、間接的な熱交換により約90~120℃に加熱する。この水素がDAC反応器を通り抜けると、吸着していた二酸化炭素が放出され、二酸化炭素ガスと混ぜ合わされる。通常、用いられる水素ガスの量は、結果としてDAC反応器を出て行くガス中において、水素の二酸化炭素に対するモル比が2.0及び3.0mol/molになる。この流れが、図5においてRWGSの供給物の流れとなる。この統合は、水蒸気が不要であり、分離が不要であるため、特にDACシステムの効率を向上させる。
【0036】
DAC技術について第2の実施形態は、様々なプロセス化学に基づくものである。図3は、その実施形態を示す。このプロセスは、金属水酸化物から金属炭酸塩への変換を介して、空気から二酸化炭素を回収することを含む。送風機を用いて、空気が空気接触器(Air Contactor)を通り抜ける。空気接触器は、二酸化炭素を運んでいる空気と、水性のKOHとを接触させる。KOHは二酸化炭素と反応し、水性のKCOを生成させる。この水性のKCOを、ペレット反応器(pellet reactor)内で、固体のCa(OH)と反応させる。KCOはKOHへと戻る変換をされ、Ca(OH)は固体のCaCOへと変換される。炭酸カルシウムを、か焼炉システムへ供給し、炭酸カルシウムをCaOへと変換する。か焼炉システムは、循環流動床(circulating fluid bed)として新しく、50psig以上で作動する。これは、酸素が吹き込まれる循環流動床システム(oxygen blown circulating fluid bed system)である。酸素を流動化ガスとして表面速度0.25~2.5m/sの間で用いる。ランスを介して、天然ガス又は他の可燃性含有ガスを固体床に供給し、そこで酸素とガスとを反応させて900℃へ昇温させる。これにより、CaCOがCaO+COへ、90%以上の変換効率で反応が起こる。固体のCaOを、サイクロンシステム内でガス状のCOと分離させる。固体のCaOをスラカー反応器(Slaker reactor)へ供給し、そこでCa(OH)へと変換し、ペレット反応器内で使用する。高温のCO含有ガスを、直ちに、電解槽内で生成された水素と混ぜ合わせる。通常、二酸化炭素と混ぜ合わされる水素ガスの量は、結果としてDAC反応器システムを出て行くガス中において、水素の二酸化炭素に対するモル比が2.0及び3.0mol/molになる。この流れが、図5においてRWGSの供給物の流れとなる。この統合により、二酸化炭素の冷却又は圧縮が不要になるため、DACシステムの効率が特に向上する。混合されたガスは既に300℃以上であるため、RWGSの供給物に関して、この実施形態における加熱の必要性もまた著しく低減される。
【0037】
図4は、本発明の一実施形態におけるLOHCシステムを示す。電解槽とDACシステムとが同じ物理的な場所にあることは、可能である。しかし、DACユニットは生成された燃料及び化学物質の消費源にあることが可能であると思われ、一方、電解槽は、水素を生成する再生可能電気を発生させるために使用可能である豊富な太陽光、風若しくは他の再生可能資源又は低炭素の資源がある地域にあってもよい。この場合において、電解槽で生成された水素を、第二の場所へ運ぶ必要がある。図4は、LOHCシステムを使用し、これをどのようにして実現するかを示す。幾つかの様々なLOHC材料の可能性があるが、最も有望なものは、トルエンと水素とを反応させることにより生成可能なメチルシクロヘキサン(methylcyclohexane:MHC)であると思われる。これは、図4の水素化反応器内で行われる。MHCは液体であり、電解槽のある場所とは別の場所2へ容易に運ぶことができる。MHCを次に場所2で脱水素化し、水素ガスとトルエンとを生成することができる。トルエンを次に場所1へ返送して、サイクルが完了する。脱水素化は、触媒反応システムで行う。数多くの触媒を用いることができるが、アルミナ上でS-Ptを含むことができる。脱水素反応の温度は340~360℃の間であり、1~30バールの間の圧力を伴う。MCH変換は95%よりも高く、水素の収率は95%よりも高い。脱水素反応器の高温は、金属水酸化物のDACプロセスで有益に利用することができる。脱水素反応器で生成された水素を、か焼炉により生成されたCOと混ぜ合わせて、結果として400~500℃を超える温度のガス流をもたらし、図5に示すRWGS反応システムへ即時の(幾つかの追加の予熱を伴う)供給物として使用可能である。
【0038】
図5は、COからCOを生成するRWGSシステムを示す。ゼロ炭素又は超低炭素の燃料及び化学物質は、燃料及び化学物質を生成するプロセスで化石燃料が燃やされないことを要する。このことは、統合された方法への供給物を加熱することが、間接的な手段(クロス交換器(cross exchanger))による必要があることを、又は、例えば風力、太陽光、地熱若しくは原子力等のゼロ炭素資源若しくは再生可能資源から電気が来る電気加熱を介する必要があることを、意味している。
【0039】
図5において、水素と二酸化炭素とは流れ1及び2にあり、混合ガス(流れ3)を形成している。H/COの比率は、2.0~5.0mol/molの間であり、さらに好ましくは3.0~4.0mol/molの間である。混合されたRWGSの原料は、間接的な熱交換により、ユニット4内において900°F(482℃)よりも高温へと加熱され得る。この初期温度の上昇を、炭素含有ガスの直接燃焼を使用せずに行って熱を提供することが重要であり、炭素含有ガスの直接燃焼を使用することはCOが生成されていることを意味し、COを有用な燃料及び化学物質へと変換する効果を否定するかもしれないためである。
【0040】
混じり合ったHとCOとを含むRWGSの供給ガスを、主反応容器の外側の予熱器内において少なくとも部分的に、1,400°F(760℃)よりも高温の入口温度(流れ5)又は好ましくは1,500°F(816℃)よりも高温の入口温度へと加熱して、加熱された供給ガスを生成させる。
【0041】
図5は、電気加熱して、間接的な熱交換により供給ガスの温度を1,400°F(760℃)よりも高温へ、好ましくは1,500°F(816℃)よりも高温へ、さらに好ましくは1,600°F(871℃)よりも高温へと上昇させるユニット4としての予熱器を示す。供給ガスの電気加熱を行う方法は、数多くある。一つの方法は、電気加熱される輻射炉(electrically heated radiant furnace)内において、電気加熱することによるものである。この実施形態において、少なくとも一部の供給ガスは、炉内において加熱コイルを通り抜ける。炉内において加熱コイルは、輻射の電気加熱エレメント(radiant electric heating elements)により囲まれている。輻射の電気加熱エレメントは、数多くの材料から作ることができる。加熱エレメントは、ニッケルクロム合金であってもよい。これらのエレメントは、帯状若しくはワイヤ状に巻かれたものでもよく、又は、ジグザグ形状に鋳造されたものでもよい。エレメントは、断熱された(insulated)鋼製のシェルにより支持され、一般的に断熱(insulation)のためにセラミック繊維が使用される。輻射のエレメントは、加熱のパターンを制御するために複数の区域に分割されていてもよい。供給ガスに熱を供給し、加熱された供給ガスを生成するために、複数のコイル及び複数の区画を必要としてもよい。輻射炉では、良好な形態係数(good view factors)及び良好な熱伝達を確保するために、加熱エレメント及び流体コイルについて適切な設計が必要である。本発明の別の実施形態において、ガスは加熱エレメント上を直接通り過ぎて、それにより、ガスは対流熱伝達により加熱される。輻射炉による電力使用量は、可能な限り少ないことが望ましい。輻射炉による電力使用量は、供給ガス中のCOについて、電力0.5MWh(メガワット時)/COメートルトン(MT)未満であり、さらに好ましくは0.40MWh/COMT未満であり、さらにいっそう好ましくは0.20MWh/COMT未満である。
【0042】
加熱されたRWGSの供給ガスを、次に、RWGS主反応容器(ユニット6)内へ供給する。RWGS主反応容器には、2つの可能な実施形態がある。第1の実施形態において、RWGS主反応容器は、断熱性又はほぼ断熱性であり、熱損失を最小化するように設計されているが、主反応容器に熱を加えず、主反応容器内の温度は反応器の入口から出口へ向かって低下する。第2の実施形態において、RWGS主反応容器は同様に設計されているが、容器内の等温又はほぼ等温の温度分布を維持するために、容器に追加の熱を加える。内部若しくは外部の加熱器により又は他の手段により、容器に熱を加えてもよい。
【0043】
RWGS主反応容器(ユニット6)は、直径よりも長い長さを有する反応器である。主反応容器の入口は、容器の全体的な直径よりも小さい。主反応容器は、鋼製の容器である。鋼製の容器は、熱損失を制限するために内部で断熱されている。環境への熱損失を制限するために、流し込まれる耐火物若しくはキャスタブル耐火物のライニング(poured or castable refractory lining)又は断熱レンガを含む、様々な断熱材が使用されてもよい(Harbison-Walker Handbook of Refractory Practices, 2005,https://mha-net.org/docs/Harbison%20Walker%202005%20Handbook.pdf を参照)。
【0044】
触媒床(bed of catalyst)が、主反応容器の内部にある。触媒は、反応器内にわたる圧力降下を最小化するために、顆粒、ペレット、球体、3裂片状(trilobes)、4裂片状(quadra-lobes)、モノリス又は他の任意に設計された形状の形態にすることができる。理想的には、触媒粒子の形状及び粒径は、反応器内にわたる圧力降下が1平方インチあたり50ポンド(pounds per square inch:psi)[345kPa]未満となるように、さらに好ましくは20psi[138kPaJ]未満となるように管理される。触媒形態のサイズは、1mm~10mmの間の特徴ある寸法を有し得る。触媒粒子は、40m/gよりも広い内部表面積を有し、さらに好ましくは80m/gよりも広い内部表面積を有し、好ましくは100m/gの表面積を有する、多孔質材である構造物質である。幾つかの触媒物質は、RWGS反応を触媒することができると見込まれる。以前に研究されたRWGS触媒は、金属酸化物の担体上に分散されたCu又はPt又はRhであった。(Daza & Kuhn, RSC Adv. 2016, 6, 49675-49691)。好ましい触媒は、金属酸化物の担体上に遷移金属を有する固溶体触媒であることを、我々は見出した。
【0045】
本方法において用いられるRWGS触媒は、汎用性が高くて高性能な固溶体ベースの触媒であり、RWGS反応を効率的に行うことができる。このロバストな固溶体触媒は、1,100℃までの高い熱安定性を有し、炭素を形成(コークス化)させず、回収したCOの流れ中に存在している可能性がある混入物質に対して良好な耐性を有する。
【0046】
この触媒は、少なくとも30重量%の遷移金属及びその他の金属の担持を必要とする他の触媒と比べて、低い金属濃度(0.5~20重量%)で高い活性を示す。しかも、触媒の性能を向上させるために高価な貴金属を使用する必要がない。RWGS触媒のための製造プロセスは、金属相を偏析させない独自の固溶体相、バイメタル結晶相を形成する触媒を生成する点でも重要である。この独自の化学構造により、従来の金属に担持された触媒と比べて、コークス化への耐性が改善される。例えば硫黄及びアンモニア等の毒物への耐性もまた改善される。さらに、この触媒は、一金属原子性の偏析された触媒相と比べて、狭い表面積で改善された触媒活性を示す。この触媒は、炭素析出の抑制に必要なアルカリ促進を必要としない。RWGS主反応容器内において、COからCOへの1パスあたりの変換は、通常、60~90%であり、さらに好ましくは70~90%である。断熱性の反応器の実施形態が用いられる場合、RWGS主反応容器内の温度は、入口から出口へ向かって低下する。RWGS主反応容器の出口温度は、主反応容器の入口温度よりも100°F(56℃)~200°F(111℃)低く、さらに好ましくは主反応器の入口温度よりも105°F(58℃)~160°F(89℃)の間で低い。1時間あたりのRWGS反応物(H+CO)の質量流量を、RWGS主反応器の床(bed)の触媒の質量で割った、RWGSについて時間あたりの重量空間速度(WeightHourly Space Velocity:WHSV)は、1,000hr-1~60,000hr-1の間であり、さらに好ましくは5,000hr-1~30,000hr-1の間である。
【0047】
RWGS主反応容器を出て行くガスは、RWGSの生成ガス(流れ7)である。RWGSの生成ガスは、一酸化炭素(CO)、水素(H)、未反応の二酸化炭素(CO)、水(HO)を含む。さらに、RWGSの生成ガスには、副反応により主反応容器内で生成された少量のメタン(CH)が含まれてもよい。
【0048】
本方法におけるこの時点において、RWGSの生成ガスを様々な方法で使用することができる。生成ガスを、冷却し、圧縮し、燃料及び化学物質を生成するために下流工程で使用することができる。RWGSの生成ガスをまた、冷却し、(ユニット8内において)圧縮し、予熱器へ送り返し、主反応容器へと戻して供給することができる。
【0049】
ユニット9及び10において示すように、RWGSの生成ガスをまた、第2の電気予熱器内で再加熱し、第2の反応容器へ送り、COからCOへの追加の変換を行い得る。ユニット11は、シンガスを液体燃料生産の合成ステップへ送る前における、必要に応じた圧縮を示す。
【0050】
図6は、液体燃料生産(LFP)反応器システムを示す。これは、炭化水素合成ステップとしても知られている。LFP反応器は、CO及びHを、液体燃料及び化学物質として使用可能な長鎖炭化水素へと変換する。シンガス(流れ12)を、再循環させたシンガスと混ぜ合わせて、LFP反応器への供給物の流れ13と、必要に応じて、後述するATR(ユニット19)からの生成物(流れ21)と、を生成する。混ぜ合わせてLFP反応器へ供給するガスを、流れ14として示す。LFP反応器への供給物には、H及びCOが含まれる。理想的には、この流れにおいて、HのCOに対する比率は、1.9~2.2mol/molの間である。
【0051】
LFP反応器(ユニット15)は、複数のチューブを有する固定床反応器システム(multi-tubularfixed bed reactor system)である。LFP反応器の各チューブは、直径を13mm~26mmの間とすることができる。反応器のチューブの長さは、一般に6mよりも長く、さらに好ましくは10mよりも長い。LFP反応器は、一般に、LFP反応器への供給物がLFP反応器の上部に入るように、垂直方向に配向される。しかし、状況によっては反応器を水平に配向させることができ、高さに制限がある状況においては反応器を傾斜させて設置することも有利である場合がある。
【0052】
LFP反応器のチューブの長さの大部分は、LFP触媒で満たされている。LFP反応器への供給物をLFP反応器のチューブ内に分配するのを補助するために、LFP触媒はまた、例えばシリカ又はアルミナ等の希釈剤と混ぜ合わされていてもよい。LFP反応器内で起こる化学反応により、炭素数4から24の長さの炭化水素(C~C24炭化水素)生成物と、水と、を含むLFPの生成ガスが生成される。LFP反応器が大量のCOを発生させないことが重要である。LFP反応器への供給物中のCOの2%未満が、LFP反応器内でCOへと変換されることが望ましい。LFP反応器への供給物中の限られた量の一酸化炭素のみがまた、炭素数が24よりも大きい炭化水素へと変換されることが重要である。LFPの生成物について炭化水素画分の10重量%未満が、24よりも大きい炭素数を有することが好ましい。さらに好ましくは、LFPの生成物について炭化水素画分の4重量%未満が、24よりも大きい炭素数を有することが望ましい。
【0053】
上述したようにフィッシャー・トロプシュ(F-T)プロセスは、一般に、ワックス範囲(C24+)中の大部分を有する、炭素原子数1から100の鎖長の炭化水素生成物を作る。しかし、この発明の実施形態で用いるLFP触媒は、従来のF-Tプロセスで使用する他の触媒と同じ収率で重質炭化水素を生成するものではない。
【0054】
本発明の幾つかの実施形態におけるLFP触媒では、水性ガスシフト反応を介したCOからCOへの変換について、変換の活性がわずかである。本発明の幾つかの実施形態において、COからCOへの水性ガスシフト変換は、供給物中のCOの5%未満である。幾つかの実施形態におけるLFP触媒は、活性金属としてニッケルを含む。幾つかの実施形態におけるLFP触媒は、活性金属としてコバルトを含む。幾つかの実施形態におけるLFP触媒は、活性金属としてコバルト及びニッケルを含む。LFP触媒は、十分なサイズ、形状、細孔径、表面積、破砕強度、有効ペレット半径(effective pellet radius)を有する、アルミナ、シリカ、チタニア、活性炭、カーボンナノチューブ、ゼオライト若しくは他の担体材料又はそれらの混合物の群から選ばれる、金属酸化物の担体に担持されている。
【0055】
触媒は、3つ、4つ又は5つのいずれかの裂片(lobes)を有し、2つ以上の裂片が他の2つの短い裂片よりも長く、長い方の裂片が共に対称形である、様々な形状の裂片付き担体を有することができる。担体の中間点(mid-point)から又は各裂片の中間点からの距離は、有効ペレット半径(effectivepellet radius)と呼ばれ、C~C24炭化水素への所望の選択性を達成するために重要なパラメータである。LFP触媒の促進剤(promoter)は、セリウム、ルテニウム、ランタン、白金、レニウム、金、ニッケル又はロジウムのうちの1種を含んでもよい。LFP触媒の促進剤は、触媒全体の1重量%未満であり、好ましくは0.5重量%未満、さらにいっそう好ましくは0.1重量%未満である。
【0056】
LFP触媒の担体は、8ナノメートル(nm)よりも大きい細孔径、60マイクロメートル(μm)未満の平均有効ペレット半径、3ポンド/mmよりも大きい破砕強度、及び、125m/gよりも広いBET表面積を有する。金属を含浸させた後の触媒は、約4%の金属分散を有する。C~C24炭化水素の収率を最大化するために、何種類かの担体が見出されている。これらには、アルミナ、アルミナ/シリカの組み合わせ、活性炭、カーボンナノチューブ、及び/又は、ゼオライトベースの担体が含まれる。
【0057】
LFP固定床反応器を、C~C24炭化水素の収率を最大化するように作動させる。
【0058】
別の方法として、LFP固定床反応器では、ほとんどワックスを生成する従来のF-T触媒を用いる。一実施形態におけるLFP反応器は、150~450psiの間の圧力で作動させる。反応器は、350°F(177℃)から460°F(238℃)までの温度範囲にわたって、さらに典型的には約410°F(210℃)で作動させる。F-T反応は、発熱性である。反応器のチューブの束が熱交換器の中へ入れられており、そこでLFP反応器のチューブ外側に沸騰している蒸気があることにより、LFP反応器のチューブ内側で反応器の温度が維持される。蒸気の温度はLFP反応温度よりも低温であるため、熱は、LFP反応器のチューブから、より低温の蒸気へと流れる。蒸気の圧力を維持することにより、蒸気の温度が維持される。蒸気は、一般に飽和蒸気である。
【0059】
LFP反応器内におけるCOの変換は、1パスあたり30から80モル%の間のCO変換に維持される。COを、追加の変換のために再循環させることができ、又は、下流の追加のLFP反応器へ送ることができる。COへの炭素選択性は、変換されたCOの4%未満、さらに好ましくは1%未満に最小化される。C~C24炭化水素への炭素選択性は、60から90%の間である。LFP反応器の生成ガスは、所望のC~C24炭化水素、並びに、未反応の一酸化炭素、水素、水、少量のC~C炭化水素及び少量のC24+炭化水素を含む。所望の生成物は、蒸留又はその他の許容される手段により、流れから分離される。炭素選択性(Carbon Selectivity)は、以下のように定義される。
【0060】
【数1】
【0061】
ここで、nCO Convertedは、LFP反応器内で変換されたCOのモル流量であり、nは、LFP反応器内で生成された炭素数iの炭化水素のモル流量である。二酸化炭素への炭素選択性は、以下のように定義される。
【0062】
【数2】
【0063】
ここで、nCO2は、LFP反応器内で生成されたCOのモル流量である。これは、二酸化炭素を原料として出発するゼロ炭素の燃料及び化学物質の生産プロセスにとって、非常に望ましい。
【0064】
生成物は、反応器の底部から発生する。重質炭化水素(C24+)が生成される可能性があるため、これらの生成物を反応器の出口で除去することができる。触媒を用いてLFP反応器を適切な条件で作動させる場合、重質炭化水素はほとんどないこととなる。LFPの主要な生成物は、流れ16であり、ユニット17内で冷却し凝縮させる。未反応の一酸化炭素、水素、及び、C~C炭化水素又はテールガス(ユニット18)を、自己熱改質器(Auto-thermal Reformer:ATR)への供給物の一部とする。図6は、本方法について、自己熱改質器(ATR)(ユニット19)部分もまた示す。自己熱改質器(ATR)において、ATRへの炭化水素供給物には、一酸化炭素、水素及びC~C炭化水素が含まれる。メタン(C)を主成分とする天然ガスを、一酸化炭素及び水素へと自己熱改質すること(Auto-thermal reforming)は、長年にわたり商業的に試みられてきた。K.Aasberg-Petersen et al. / Journal of Natural Gas Science and Engineering 3(2011) 423-459を参照されたい。
【0065】
COを多く含み、生成HのCOに対する比率が1.9から2.2mol/molの間であり、生成ガス中のCOが10mol%未満である生成物を生成することを要望される点において、この発明で用いられるATRは、必ずしも従来どおりではない。ATRへの酸化剤供給物には、水蒸気及びOが含まれ、Oは少なくとも部分的にHOの電気分解により生成される(流れ29)。ATRへの酸化剤供給物と、ATRへの炭化水素供給物とを、予熱し、次にATRバーナーで反応させ、そこで酸化剤及び炭化水素を950~1,050℃の範囲内の温度で部分的に酸化させる。ATR反応器を3つの区域に分けることができ、燃焼区域(又はバーナー)では、ATRへの炭化水素原料の少なくとも一部を、HO及びCOへと完全に燃焼させる。
【0066】
熱区域において、均質な気相反応により、さらなる変換を行う。これらの反応は、COの酸化のような燃焼反応や、高級炭化水素を含む熱分解反応よりも、遅い反応である。熱区域における主な反応全体は、均質な気相での炭化水素の水蒸気改質反応及びシフト反応である。触媒区域において、メタンの水蒸気改質及び水性ガスシフト反応を含む不均一な触媒反応により、炭化水素の最終的な変換を行う。その結果、ATRの生成ガスは、予測された熱力学的な平衡組成に近い組成となる。実際のATRの生成ガスの組成は、70℃未満の差で、熱力学的な平衡組成と同じになる。これが、いわゆる、平衡アプローチ温度(equilibrium approach temperature)である。
【0067】
ATR内で生成されるCOの量を最小にしておくために、ATRへの酸化剤供給物における水蒸気の量は、予測される平衡組成に近くて煤が少ないATRの生成ガスをもたらすにも関わらず、できる限り低く保つ必要がある。典型的には、ATRへの供給物の組み合わせ(酸化剤+炭化水素)中において、水蒸気合計量の炭素に対する比率(mol/mol)は、0.4から1.0の間であるのが望ましく、最適には約0.6である。
【0068】
ATRの生成物は、800℃よりも高温でATRの触媒区域を出て行く。ATRの生成物は、廃熱ボイラー(ユニット22)を通して低温に冷却され、そこで熱が伝達されて水蒸気を発生させる。この水蒸気は、LFP反応器により生成される低圧の水蒸気と同様に、発電に用いることができる。
【0069】
触媒区域での反応に適したATR触媒は、典型的にはニッケル系のものである。RWGS触媒は、ATR触媒として用いることができる。他の適したATR触媒は、α相アルミナ上のニッケル又はマグネシウムアルミナのスピネル(MgAl)であり、貴金属の促進剤(promoter)と共に用いられるもの又は貴金属の促進剤なしで用いられるものであり、この貴金属の促進剤は、金、白金、レニウム又はルテニウムを含むものである。スピネルは、アルミナベースの触媒よりも、高い融点、高い熱強度(higher thermal strength)及び安定性を有する。
【0070】
ATRの生成物を、RWGSの生成物と混ぜ合わせて、LFP反応器への供給物として使用可能である。このことは、元のCOについて、C~C24炭化水素生成物への高い利用率をもたらす。
【0071】
幾つかの実施形態において、LFPの生成ガスは、ATRへの直接の供給物として適しておらず、事前に改質され(pre-reformed)なければならない。これらの場合においてLFPの生成ガスは、未反応の一酸化炭素、水素及びC~C炭化水素を含んでおり、事前改質器(pre-reformer)への炭化水素供給ガスを含む。一般に、この流れ中の高級炭化水素及び炭素酸化物は、ATRへの炭化水素供給物として直接使用される代わりに、事前改質器を用いる必要がある。事前改質器は、一般に、断熱性の反応器である。断熱性の事前改質器は、この事前改質器への供給物において高級炭化水素を、メタン、水蒸気、炭素酸化物及び水素の混合物に変換し、その後のATRへの炭化水素供給物として適するようにする。事前改質器を用いる利点の1つは、ATRへの高級炭化水素供給物を予熱することができ、ATRで用いられる酸素を減らすことができることである。結果として、上述したような統合された方法は、二酸化炭素から、燃料又は化学物質として好適なC~C24炭化水素の生成物(流れ24)へと、高い変換をもたらす。
【0072】
本開示は、以下の事項を含む。
(1)
空気、電気及び水を含む供給物の流れを、炭化水素を含む生成物の流れへと変換するための統合された方法であって、
a.水を含む電解槽の供給物の流れを、水素及び酸素を含む電解槽の生成物の流れへと変換する電気分解のステップであって、用いる電気の少なくとも一部は再生可能資源からのものである前記電気分解のステップと、
b.空気を吸着剤と接触させて、前記空気の流れから二酸化炭素を除く直接空気回収のステップと、
c.前記電解槽の生成物の流れからの前記水素の少なくとも一部が、前記直接空気回収のステップからの二酸化炭素を含む流れと反応し、一酸化炭素を含む逆水性ガスシフトの生成物の流れを生成する逆水性ガスシフトのステップと、
d.前記電解槽の生成物の流れからの前記水素の少なくとも一部を、前記逆水性ガスシフトの生成物の流れの少なくとも一部を含む流れと反応させて、炭化水素合成の生成物の流れを生成する炭化水素合成のステップと、
e.電気分解により生成された少なくとも一部の前記酸素を、前記炭化水素合成のステップからの未反応の反応物を含む1の流れ又は複数の流れと反応させる自己熱改質のステップと、
を含む方法。
(2)
前記直接空気回収は固体に担持されたアミン吸着剤を用いる、上記(1)に記載された方法。
(3)
前記電解槽で生成された水素を含む流れを用いて、固体に担持された前記アミン吸着剤を再生させる、上記(2)に記載された方法。
(4)
前記直接空気回収において、水性のKOHを用いて空気から二酸化炭素を除去する、上記(1)に記載された方法。
(5)
前記電解槽が場所1にあり、前記直接空気回収が場所2にあり、電解槽からの水素をLOHCの方法により場所1から場所2へと運ぶ、上記(1)に記載された方法。
(6)
逆水性ガスシフトの反応器の原料を電気輻射炉で少なくとも1,500°F(816℃)へと加熱し、前記反応器の容器は断熱性の反応器であり、前記反応器の出口温度が前記反応器の入口温度よりも少なくとも100°F(56℃)低い、上記(1)に記載された方法。
(7)
前記逆水性ガスシフトの反応器への供給物は、水素の二酸化炭素に対するモル比(H (mol)/CO (mol))が2.5~4.0であるような組成を有する、上記(1)に記載された方法。
(8)
前記炭化水素合成の供給原料は、水素の一酸化炭素に対するモル比が1.90から2.20の間であり、C ~C 24 選択性が70%以上であり、C 24 よりも重い生成物へと変換される一酸化炭素の量が10%未満である、上記(1)に記載された方法。
(9)
前記自己熱改質のステップは供給物として水蒸気を含み、前記水蒸気の炭素に対する比率が0.40~1.00である、上記(1)に記載された方法。
(10)
前記自己熱改質(ATR)の触媒が固溶体触媒を含む、上記(9)に記載された方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6