(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】偏心測定方法および偏心測定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20250403BHJP
【FI】
G01M11/00 L
(21)【出願番号】P 2023515923
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021016020
(87)【国際公開番号】W WO2022224344
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽輔
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-127828(JP,A)
【文献】特開2002-048673(JP,A)
【文献】特許第2621119(JP,B2)
【文献】特開2005-114404(JP,A)
【文献】特開2006-112896(JP,A)
【文献】特開2010-096516(JP,A)
【文献】特開2005-003667(JP,A)
【文献】特開2009-281980(JP,A)
【文献】特開2020-060480(JP,A)
【文献】特開2008-298739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00-11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検面を有する被検光学ユニットを保持し、測定用の光像を前記被検光学ユニットに向かって投影し、投影された前記光像を前記被検光学ユニットに対して相対的に直線移動し、投影された前記光像の前記被検光学ユニットに対する空気中における相対的な移動軌跡で規定される基準軸に直交する観察面の画像を取得する測定用イメージャを有する偏心測定装置を準備する第1ステップと、
前記測定用イメージャが取得する画像において、前記観察面および前記基準軸の交点と対応する基準点の位置を特定する第2ステップと、
前記被検光学ユニットを前記基準軸上に配置する第3ステップと、
前記光像を前記基準軸上の投影位置に投影し、前記基準軸に沿う前記投影位置との距離が設定値Lになるように設定された観察位置に、前記被検面で反射された前記光像の反射像を形成する第4ステップと、
前記観察位置に前記観察面を配置し、前記観察面の画像を前記測定用イメージャを用いて撮像し、測定用画像を取得する第5ステップと、
前記測定用画像において、前記観察位置における前記反射像の画像を特定する第6ステップと、
特定された前記反射像の前記画像の前記基準点からの位置ずれ量を測定する第7ステップと、
前記位置ずれ量に基づいて、前記基準軸に対する前記被検面の見かけの球心の偏心量を算出する第8ステップと、
を備える、
偏心測定方法。
【請求項2】
前記被検光学ユニットは、前記被検面を複数有しており、
前記第3ステップが実行された後、前記被検面のそれぞれに対して前記距離の前記設定値Lを一定として、前記第4ステップ、前記第5ステップ、前記第6ステップ、前記第7ステップ、および前記第8ステップを実行し、
算出された前記見かけの球心の前記偏心量の値に基づいて、前記基準軸に対する前記被検面のそれぞれの偏心量を算出する第9ステップをさらに備える、
請求項1に記載の偏心測定方法。
【請求項3】
前記被検光学ユニットは、前記被検面を構成する複数の光学面を有する被検光学系と、前記被検光学系の像面に撮像面が配置された被検イメージャと、を有しており、
前記第3ステップでは、前記被検光学系の前側から前記光像を投影できるように前記被検光学ユニットが前記基準軸上に配置され、
前記光像を前記基準軸上における前記撮像面と光学的に共役な位置に位置決めした場合の、前記撮像面上に生じる像の前記撮像面上における前記基準軸からのズレ量(Z
X,Z
Y)を、前記被検面の前記偏心量に基づいて算出する第10ステップと、
前記光像を、前記基準軸上において前記撮像面と光学的に共役な位置に投影し、前記被検イメージャで前記光像の画像を取得し、前記被検イメージャで取得された前記画像の、前記撮像面における被検イメージャ座標系で表した位置座標(I
X,I
Y)を測定する第11ステップと、
前記ズレ量(Z
X,Z
Y)と前記位置座標(I
X,I
Y)とから、前記基準軸と前記撮像面との交点の前記被検イメージャ座標系における位置座標(I
Xo,I
Yo)を算出することによって、前記基準軸に対する前記撮像面の偏心量を算出する第12ステップと、
をさらに備える、
請求項2に記載の偏心測定方法。
【請求項4】
前記被検光学ユニットは、前記被検面を構成する複数の光学面を有する被検光学系と、開口部を有する枠部材と、を有しており、
前記第9ステップでは、前記複数の光学面のうち、少なくとも前記開口部の前側の端縁よりも前方の各光学面を前記被検面として前記偏心量がそれぞれ算出され、
前記測定用イメージャの撮像面を、前記被検光学系のうち前記端縁よりも前側の入射側光学系を介在して前記開口部の前記端縁と光学的に共役な位置に配置し、前記測定用イメージャによって前記入射側光学系を通した前記端縁の画像を取得する第10ステップと、
前記端縁の前記画像に基づいて、前記基準点に対する前記端縁の見かけの位置を算出する第11ステップと、
前記第9ステップで算出された前記偏心量と、前記第11ステップで測定された前記見かけの位置と、に基づいて、前記基準軸に対する前記端縁の偏心量を算出する第12ステップと、
をさらに備える、
請求項2に記載の偏心測定方法。
【請求項5】
前記第2ステップは、
曲率半径が知られた球面を有する光学素子を前記基準軸上に配置することと、
前記光像を前記基準軸上で移動して、前記球面による正の反射倍率β
Pで第1観察面に結像した正反射像の画像を前記測定用イメージャによって取得し、前記測定用イメージャで取得した前記正反射像の前記画像の位置を、前記測定用イメージャの撮像面における観察座標系で表した位置座標(X
P,Y
P)として測定することと、
前記光像を前記基準軸上で移動して、前記球面による負の反射倍率β
Nで第2観察面に結像した負反射像の画像を前記測定用イメージャによって取得し、前記測定用イメージャで取得した前記負反射像の前記画像の位置を、前記観察座標系で表した位置座標(X
N,Y
N)として測定することと、
下記式(c)、(d)から求まる位置座標(X
0,Y
0)を、前記基準点の位置座標として特定することと、
を備える、
請求項1に記載の偏心測定方法。
【数1】
【請求項6】
前記球面の曲率半径は、前記距離の前記設定値Lの50%から200%までの範囲である、
請求項5に記載の偏心測定方法。
【請求項7】
前記第2ステップは、
曲率半径が知られた球面または平面からなる反射面を有する光学素子を前記基準軸上に配置することと、
前記光像を前記基準軸上の投影位置に投影し、前記基準軸に沿う前記投影位置との距離が0になるように設定された観察位置に、前記被検面で反射された前記光像の反射像を形成することと、
前記光像を前記基準軸上で移動して、前記光像の投影位置と前記基準軸に沿う方向の位置が同じである観察位置において前記反射面による正の反射倍率β
Pで結像した正反射像の画像を前記測定用イメージャによって取得し、前記測定用イメージャで取得した前記正反射像の前記画像の位置を、前記測定用イメージャの撮像面における観察座標系で表した位置座標(X
P,Y
P)として測定することと、
前記位置座標(X
P,Y
P)を、前記基準点の位置座標として特定することと、
を備え、
前記第4ステップでは、前記距離の前記設定値Lを0とする、
請求項1に記載の偏心測定方法。
【請求項8】
前記第6ステップは、
前記測定用イメージャが取得した前記観察面の画像に基づいて、前記光像の反射によって形成された観察像が表す前記光像に対する前記観察像の横倍率を測定することと、
前記被検面の見かけの面の反射倍率の設計値に最も近い前記横倍率が測定された前記観察像を前記反射像として特定することと、
を備える、
請求項1に記載の偏心測定方法。
【請求項9】
前記第5ステップは、
前記光像を前記基準軸上に配置した状態で前記測定用画像を取得することと、
前記光像を前記基準軸に直交する方向にずらして、反射像特定用画像を取得することと、
を備え、
前記第6ステップは、
前記測定用画像と前記反射像特定用画像とを比較して、前記光像のずらし量に対応する前記観察像の前記観察面における変位を
それぞれ測定することと、
前記ずらし量および前記変位から、前記観察像が表す前記横倍率を測定することと、
を備える、
請求項8に記載の偏心測定方法。
【請求項10】
前記光像は、前記見かけの面の反射倍率に応じて伸縮する倍率測定部を有しており、
前記第6ステップは、
前記測定用画像において前記観察像における前記倍率測定部の寸法を測定することによって前記横倍率を測定すること
を備える、
請求項8に記載の偏心測定方法。
【請求項11】
前記第1ステップの後であって前記被検面の見かけの球心の前記偏心量を算出するよりも前に、
曲率半径が知られた球面からなる参照面を含む光学素子を用いて、設定済みの前記距離を測定して測定値Lmを得る第9ステップと、
前記測定値Lmを前記設定値Lに代えて用いることにより、前記被検面の反射倍率を算出する第10ステップと、
をさらに備える、
請求項1に記載の偏心測定方法。
【請求項12】
前記第9ステップは、
前記光学素子を前記基準軸上に配置することと、
前記光像を前記基準軸上の投影位置に投影し、前記基準軸に沿う前記投影位置との距離が設定値Lになるように設定された観察位置に、前記参照面で反射され、正の反射倍率で前記観察位置に結像した正反射像の前記観察面の画像を前記測定用イメージャを用いて撮像することと、
前記光像を前記基準軸上の投影位置に投影し、前記基準軸に沿う前記投影位置との距離が設定値Lになるように設定された観察位置に、前記参照面で反射され、負の反射倍率で前記観察位置に結像した負反射像の前記観察面の画像を前記測定用イメージャを用いて撮像することと、
前記正反射像の前記画像および前記負反射像の前記画像に基づいて、前記負の反射倍率に対する前記正の反射倍率の比Cを算出することと、
下記式(a)に基づいて、前記距
離の前記測定値Lmを求めることと、
を備える、
請求項11に記載の偏心測定方法。
【数2】
ここで、Rは前記参照面の曲率半径である。
【請求項13】
前記第3ステップの後、最初に前記第4ステップが実行されるまでに、前記被検面のそれぞれにおける前記位置ずれ量の測定に用いる前記投影位置を、前記基準軸に沿う方向における分布範囲が最小になるように選定する第10ステップをさらに備える、
請求項2に記載の偏心測定方法。
【請求項14】
前記偏心測定装置は、前記被検光学系よりも前方に、前記基準軸に直交する平面において、前記基準軸との位置関係が予め知られた参照マークを備えており、
前記第3ステップよりも後に、前記被検イメージャで前記参照マークを撮像し、撮像された前記参照マークの画像から、前記基準軸に直交する平面において前記基準軸と直交する基準線に対する前記被検イメージャ座標系の回転量を算出する第13ステップと、
前記回転量に基づいて前記第9ステップで算出された、観察座標系における前記偏心量を前記被検イメージャ座標系を基準とする偏心量に補正する第14ステップと、
をさらに備え、
前記第10ステップにおける前記被検面の前記偏心量として、前記第14ステップで補正された前記偏心量を用いる、
請求項3に記載の偏心測定方法。
【請求項15】
測定用の光像を形成する光源部と、
被検面を有する被検光学ユニットを保持する保持台と、
前記光像を前記被検光学ユニットに向けて投影する投影光学系と、
前記光源部および前記投影光学系と、前記保持台と、の少なくとも一方を移動可能に保持し、前記投影光学系から投影される前記光像を空気中において前記保持台に対して相対的に直線移動させる移動機構と、
前記移動機構によって形成される前記保持台に対する前記光像の相対的な移動軌跡を基準軸とするとき、前記基準軸上の前記光像の投影位置との距離が設定値Lになるように設定された観察位置において前記基準軸に直交する観察面の画像を取得する測定用イメージャと、
前記測定用イメージャが取得した前記観察位置における画像に基づいて、前記観察面および前記基準軸の交点と対応する基準点からの位置ずれ量を測定し、前記位置ずれ量に基づいて、前記基準軸に対する前記被検面の見かけの球心の偏心量を算出する偏心量算出部と、
を備える、偏心測定装置。
【請求項16】
前記被検光学ユニットが、前記基準軸に沿って前記投影光学系に近い前方から前記投影光学系から遠い後方に向かって、前記被検面を構成する複数の光学面を有する被検光学系と、前記被検光学系の像面に配置された被検イメージャと、をこの順に有している場合に、前記被検イメージャから画像を取得する被検イメージャ画像取得部と、
前記移動機構を用いて、前記光像を前記被検イメージャの撮像面と光学的に共役な位置に相対移動したときに、前記被検イメージャ画像取得部が取得した画像に基づいて、前記光像の前記撮像面上の位置を算出し、前記位置の算出値に基づいて、前記被検光学系と前記被検イメージャとの相対偏心を算出する被検イメージャ偏心算出部と、
をさらに備える、
請求項15に記載の偏心測定装置。
【請求項17】
前記測定用イメージャが取得した前記観察位置における画像に基づいて、前記光像の反射によって形成された観察像が表す前記光像に対する前記観察像の横倍率を測定する反射倍率測定部を、さらに備える、
請求項15に記載の偏心測定装置。
【請求項18】
前記光源部から前記投影位置までの間であって、前記測定用イメージャと前記投影位置とを光学的に共役にする観察光学系の光路と異なる光路において平行光束を形成する平行光路が形成されており、
前記反射倍率測定部は、
前記平行光路に挿入するウェッジプリズムと、
前記平行光路に前記ウェッジプリズムを挿入することにより、前記投影位置における前記光像を移動させた状態で、前記測定用イメージャによって前記観察位置における画像を取得させ、前記観察位置における前記画像に基づいて、前記観察像が表す前記横倍率を測定する反射倍率測定制御部と、
を有する、
請求項17に記載の偏心測定装置。
【請求項19】
前記被検光学系の視野範囲に、前記基準軸に直交する平面において、前記基準軸との位置関係が予め知られた参照マークをさらに備える、
請求項16に記載の偏心測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心測定方法および偏心測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のレンズを含む光学ユニットの製造工程において必要な光学性能が得られない場合、レンズ面の偏心が原因になっている可能性がある。このため、光学ユニットの組立状態における各レンズ面の偏心を精度よく測定できる偏心測定方法および偏心測定装置が求められている。
例えば、特許文献1には、光学ユニットの組立状態で各レンズ面の偏心測定が可能な偏心測定装置が記載されている。特許文献1に記載の偏心測定装置では、オートコリメーション法を用いられている。オートコリメーション法では、被検光学系に「指標(像)」と呼ばれる光像を被検面の見かけの球心に投影し、その反射像のフレ量を測定することによって被検面ごとの偏心を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、内視鏡の対物光学系は、前側の先端に強い負のパワーを有するレンズが配置され、各面の見かけの球心の位置が近接する。しかも、内視鏡は大型で固定がしにくい構造であり、一般に実施される、被検物を高精度に回転させての偏心測定が難しい。
このような光学系を、特許文献1に開示されたオートコリメーション法(等倍方式)を用いて測定をしようとした場合、後側の被検面の測定時に被検面以外の光学面で形成された反射像が多数観察される。この結果、被検面からの反射像を特定できなくなるので測定が困難である。
これに対して、偏心測定の基準軸に沿う方向における指標像の投影位置と反射像の形成位置との距離であるI-O距離が0でない設定による偏心測定(不等倍方式)をすることも考えられる。
しかし、被検物を回転させずに不等倍方式で偏心測定する方法は知られていない。例えば、特許文献1に開示された、イメージローテータを用いて被検物を回転させずに測定する方法は、オートコリメーション法に適用される方法であり、不等倍方式には適用できない。
また、イメージローテータを用いる方法は、各被検面の反射像観察の都度、偏心の基準軸を特定する手法なので、測定に時間がかかってしまう。
近年、組上がりレンズのレンズのみの偏心だけでなく、レンズ枠の偏心、レンズに組み上げられたイメージャの偏心なども測定するニーズが高まっている。しかしレンズの偏心とともに、レンズ枠の偏心、レンズに組み上げられたイメージャの偏心などを測定できる偏心測定方法は知られていない。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく迅速に測定することができる偏心測定方法および偏心測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、第1の態様に係る偏心測定方法は、被検面を有する被検光学ユニットを保持し、測定用の光像を前記被検光学ユニットに向かって投影し、投影された前記光像を前記被検光学ユニットに対して相対的に直線移動し、投影された前記光像の前記被検光学ユニットに対する空気中における相対的な移動軌跡で規定される基準軸に直交する観察面の画像を取得する測定用イメージャを有する偏心測定装置を準備する第1ステップと、前記測定用イメージャが取得する画像において、前記観察面および前記基準軸の交点と対応する基準点の位置を特定する第2ステップと、前記被検光学ユニットを前記基準軸上に配置する第3ステップと、前記光像を前記基準軸上の投影位置に投影し、前記基準軸に沿う前記投影位置との距離が設定値Lになるように設定された観察位置に、前記被検面で反射された前記光像の反射像を形成する第4ステップと、前記観察位置に前記観察面を配置し、前記観察面の画像を前記測定用イメージャを用いて撮像し、測定用画像を取得する第5ステップと、前記測定用画像において、前記観察位置における前記反射像の画像を特定する第6ステップと、特定された前記反射像の前記画像の前記基準点からの位置ずれ量を測定する第7ステップと、前記位置ずれ量に基づいて、前記基準軸に対する前記被検面の見かけの球心の偏心量を算出する第8ステップと、を備える。
ここで、「直交する」は、種々の誤差などの要因によって直角からずれて交わることも含まれる。本明細書において「直交する」と認められる角度は、89度以上91度以下である。ただし、測定精度を向上するためには、「直交する」と見なす角度は、90度に近いほどより好ましい。例えば、「直交する」と見なす角度は、90度±30分であることがより好ましい。
【0007】
第2の態様に係る偏心測定装置は、測定用の光像を形成する光源部と、被検面を有する被検光学ユニットを保持する保持台と、前記光像を前記被検光学ユニットに向けて投影する投影光学系と、前記光源部および投影光学系と、前記保持台と、の少なくとも一方を移動可能に保持し、前記投影光学系から投影される前記光像を空気中において前記保持台に対して相対的に直線移動させる移動機構と、前記移動機構によって形成される前記保持台に対する前記光像の相対的な移動軌跡を基準軸とするとき、前記基準軸上の前記光像の投影位置との距離が設定値Lになるように設定された観察位置において前記基準軸に直交する観察面の画像を取得する測定用イメージャと、前記測定用イメージャが取得した前記観察位置における画像に基づいて、前記観察面および前記基準軸の交点と対応する基準点からの位置ずれ量を測定し、前記位置ずれ量に基づいて、前記基準軸に対する前記被検面の見かけの球心の偏心量を算出する偏心量算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記第1および第2の態様によれば、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく迅速に測定することができる偏心測定方法および偏心測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定装置の例を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定装置における制御系のブロック図である。
【
図4】従来のオートコリメーション法による偏心測定の原理を説明する模式図である。
【
図5】従来のオートコリメーション法において観察される反射像の例を示す模式図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の偏心測定の原理を説明する模式図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の偏心測定の原理を説明する模式図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法において、見かけの曲率半径が無限大の場合の偏心測定の原理を説明する模式図である。
【
図9】従来のオートコリメーション法による見かけの曲率半径が無限大の場合の偏心測定方法を説明する模式図である。
【
図10】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法に用いる指標の例を示す模式図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の反射像の判別法の第1例を示す模式図である。
【
図12】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の反射像の判別法の第2例を示す模式図である。
【
図13】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の例を示すフローチャートである。
【
図14】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における基準点測定方法の例を示すフローチャートである。
【
図15】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法におけるI-O距離Lの測定方法を示す模式図である。
【
図16】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法におけるI-O距離Lの測定方法を示す模式図である。
【
図17】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における基準点測定の原理を説明する模式図である。
【
図18】反射倍率に応じた基準点測定の不確かさの変化を示すグラフである。
【
図19】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法において求められた基準点の例を示す模式図である。
【
図20】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における参照光学素子の移動後の表示画面の例を示す模式図である。
【
図21】本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における反射像のフレ量の測定例を示す模式図である。
【
図23】本発明の第2の実施形態に係る偏心測定方法における反射像の種類の選定方法の例を示すフローチャートである。
【
図24】本発明の第3の実施形態に係る偏心測定装置における制御系のブロック図である。
【
図25】本発明の第3の実施形態に係る偏心測定装置における測定系の座標系と、被検イメージャ座標系と、の関係を示す模式図である。
【
図26】本発明の第3の実施形態に係る偏心測定方法における被検光学ユニットから取得した画像の例を示す模式図である。
【
図27】本発明の第3の実施形態に係る偏心測定方法の例を示すフローチャートである。
【
図28】被検面の球心の偏心量と、被検面のチルト偏心と、の各x軸成分の関係を示す模式図である。
【
図29】被検面の球心の偏心量と、被検面のチルト偏心と、の各y軸成分の関係を示す模式図である。
【
図30】本発明の第3の実施形態に係る偏心測定方法における測定原理を示す模式的な断面図である。
【
図31】本発明の第3の実施形態に係る偏心測定装置における被検イメージャ上の像と測定系の座標系および被検イメージャ座標系の関係を示す模式図である。
【
図32】表示部に表示された向きにおける被検イメージャ座標系と測定系のxy座標系との関係を示す模式図である。
【
図33】被検イメージャ座標系から見た被検面の球心の偏心量と、光像I
Lの結像位置との関係を示す模式図である。
【
図34】本発明の第4の実施形態に係る偏心測定装置における枠部材の例を示す断面図である。
【
図35】測定用イメージャで撮像された枠部材の画像を示す模式図である。
【
図36】本発明の第4の実施形態に係る偏心測定方法の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る偏心測定装置を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定装置の例を示す模式的な断面図である。
【0012】
図1に示す本実施形態の偏心測定装置50は、複数のレンズを含む種々の光学系における各光学面の偏心測定に用いることができる。ここで、光学面とは、光学素子において、例えば、屈折、反射などの光学作用を有する表面を意味する。
光学面の形状は、特に限定されない。例えば、光学面の形状は、球面、非球面、平面などであってもよい。
測定対象の光学系は、例えば、レンズ、平行板などの、複数の光学素子が、光学系の設計値に基づく面間隔に基づいて、適宜の保持部材に配置され、保持部材に固定されている。
偏心測定装置50は、測定対象の光学系(被検光学系)が保持部材に組み立てられた状態の光学ユニット(被検光学ユニット)において、各光学面の偏心を測定することができる。被検光学ユニットの偏心測定においては、光学面以外の測定対象の偏心が測定されてもよい。
被検光学ユニットの種類は、特に限定されない。
例えば、被検光学ユニットは、レンズを含む複数の光学素子が鏡筒に組み立てられたレンズユニットであってもよい。例えば、レンズユニットは、内視鏡用のレンズユニット、カメラ用のレンズユニット、顕微鏡用のレンズユニットなどであってもよい。
例えば、被検光学ユニットは、対物光学系が設けられた内視鏡の挿入部の先端部であってもよい。この場合、先端部の基端側には、湾曲部および可撓管部がこの順に連結されていてもよい。
以下では、被検光学ユニットが、内視鏡の挿入部の先端部40である例で説明する。内視鏡の種類は、医療用内視鏡でもよいし、工業用内視鏡でもよい。
先端部40の外形は円柱形である。先端部40の内部には、被検光学系41と、内視鏡イメージャ42と、が固定されている。
被検光学系41の先端の光学面は、先端部40の先端に形成された開口部に露出している。被検光学系41の構成は、特に限定されない。例えば、被検光学系41は対物光学系であってもよい。以下、特に断らない限り、被検光学系41が対物光学系の例で説明する。
被検光学系41は、先端部40の内部に配置されたレンズ枠40aに保持されている。
内視鏡イメージャ42は、被検光学系41の像面における光像を光電変換する。例えば、内視鏡イメージャ42としては、CCD、CMOSセンサなどが用いられてもよい。
【0013】
偏心測定装置50は、基台1、移動ステージ2(移動機構)、本体部3、保持台4,および測定制御部5(偏心量算出部)を有する。
【0014】
基台1は、偏心測定装置50の全体を支持する。基台1の配置姿勢は特に限定されないが、以下では、基台1が水平面上に配置された例で説明する。
移動ステージ2は、後述する測定光学系20を収容する本体部3を基台1上で少なくとも一方向において移動する。
図1に示す例では、移動ステージ2は、本体部3を少なくとも水平面における1軸方向(図示左右方向)において移動する。
例えば、移動ステージ2は、ガイド2aと、光学系搬送部2b、および光学系搬送部駆動部2cを有する。
【0015】
ガイド2aは基台1上に固定されている。ガイド2aは、光学系搬送部2bを水平面における1軸方向に移動可能に案内する。
光学系搬送部2bは、ガイド2aに案内されて1軸方向に移動可能に設けられている。光学系搬送部2bは、本体部3と固定されており、本体部3とともに移動できる。光学系搬送部2bは、本体部3とともに移動できれば、本体部3との固定位置は特に限定されない。
図1に示す例では、光学系搬送部2bは本体部3の底部と固定されている。
光学系搬送部駆動部2cは、光学系搬送部2bを移動させる駆動力を供給する。例えば、光学系搬送部駆動部2cは、モータと、モータの駆動力を光学系搬送部2bに伝達する伝達機構とを含んでもよい。
光学系搬送部駆動部2cは、後述する測定制御部5と通信可能に接続されている。光学系搬送部駆動部2cは、測定制御部5からの制御信号に応じて光学系搬送部2bを駆動する。
【0016】
以下では、1軸方向が、水平面上で互いに直交するx軸およびz軸のうち、z軸に沿う方向であるとして説明する。x軸およびz軸に直交する鉛直方向はy軸に沿う方向である。z軸における正方向(以下、z軸正方向)は、z軸に沿って本体部3から後述する保持台4に向かう方向であり、
図1における左から右に向かう方向である。x軸における正方向(以下、x軸正方向)は、z軸正方向に見た時に、x軸に沿って右から左に向かう方向であり、
図1における紙面の前側から奥側に向かう方向である。y軸における正方向(以下、y軸正方向)は、鉛直上向き方向であり、
図1における下から上に向かう方向である。
各軸における正方向と反対方向は、負方向であり、それぞれ、z軸負方向、x軸負方向、およびy軸負方向と称する。
x軸、y軸、およびz軸に基づく直交座標系であるxyz座標系は、偏心測定装置50に固定されている。xyz座標系は、偏心測定装置50における測定系の座標系である。xy平面のみ着目する場合には、xy座標系と称する。
xyz座標系の原点は任意である。偏心測定における各種の計算は、必要に応じて、xyz座標系を平行移動した局所座標系の座標値によって実行することができる。
【0017】
本体部3は、移動ステージ2によって少なくともz軸正方向およびz軸負方向に移動可能に支持された筐体である。
本体部3におけるz軸正方向の端部に設けられた前壁3aには、測定用の光が透過する開口部3bが形成されている。
【0018】
本体部3の内部には、測定光学系20、ウェッジプリズム18(反射倍率測定部)、観察用イメージャ44、測定用イメージャ17、調整レンズ駆動部21、およびウェッジプリズム駆動部22(反射倍率測定部)が配置されている。
測定光学系20は、光源10(光源部)、ビームスプリッタ11、コリメートレンズ12(光源部)、調整レンズ13(光源部)、ビームスプリッタ14、結像レンズ16(観察光学系)、および対物レンズ15(投影光学系、観察光学系)を有する。
光源10、ビームスプリッタ11、コリメートレンズ12、調整レンズ13、および対物レンズ15は、測定光学系20の光軸OM上にこの順に配置されている。測定光学系20の光軸OMは、z軸に平行になるように調整されている。
本実施形態では、偏心測定の基準となる基準軸Omを、測定光学系20で形成する光像の空気中における移動軌跡によって規定する。基準軸Omは、光像の移動範囲を含む仮想的な直線である。
測定光学系20に製造誤差および組立誤差がなく、かつ移動ステージ2による移動方向に曲がりがない場合、光軸OMは本実施形態の偏心測定における基準軸Omと同軸である。簡単のため、測定光学系20に関連する原理的な説明では、特に断らない限り、光軸OMと基準軸Omとが同軸であるとして説明する。ただし、偏心測定の基準軸Omは、光軸OMと同軸でなくてもよい。偏心測定装置50における基準軸Omを測定する方法は後述する。
コリメートレンズ12、調整レンズ13、対物レンズ15、および結像レンズ16は、それぞれ、単レンズで構成されてもよいし、複数のレンズで構成されてもよい。
【0019】
光源10は、被検光学系41に投影する光像を形成するための光を発生する。光源の種類は特に限定されない。例えば、光源10として、半導体レーザーが用いられてもよい。光源10の波長は、後述する測定用イメージャ17および観察用イメージャ44によって撮像可能な波長であれば特に限定されない。
図1に示す例では、光源10は光軸O
Mに沿って発散光束F1を放射する。
【0020】
ビームスプリッタ11は、発散光束F1の光路上に配置されている。ビームスプリッタ11は、後述する投影面P’から光源10に向かって戻る光束F7を光軸OMと交差する方向に反射する。
ビームスプリッタ11で反射された光束F7の光路には、観察用イメージャ44が配置されている。
【0021】
観察用イメージャ44は、光束F7による像を光電変換し、後述する測定制御部5に送出する。観察用イメージャ44の撮像面は、後述する焦平面F’と光学的に共役な位置に配置されている。観察用イメージャ44によれば、焦平面F’における画像を撮像可能である。
【0022】
コリメートレンズ12は、光源10の発光部に前側焦点が一致する位置に配置された集光レンズである。コリメートレンズ12は、発散光束F1を集光し、光軸OMに沿って進む平行光束F2を形成する。
【0023】
調整レンズ13は、光軸OM上において、コリメートレンズ12からの光軸OM上の距離が変更可能に配置されている集光レンズである。調整レンズ13は、平行光束F2を集光して光束F3を形成する。光束F3は、調整レンズ13の後側焦点の焦平面Pに結像する。このため、焦平面Pには、コリメートレンズ12および調整レンズ13で形成される光学系の倍率に応じて、光源10の発光部の実像である光像IP(測定用の光像)が形成される。光束F3は、焦平面Pを通過すると発散光束として進む。
調整レンズ13が光軸OMに沿って平行移動すると、焦平面Pも同様に平行移動する。
【0024】
光源10、コリメートレンズ12、および調整レンズ13は、測定用の光像IPを形成する光源部の例である。
【0025】
ビームスプリッタ14は、z軸正方向に進む光束F3を透過し、z軸負方向に進む光束の光軸をz軸と交差する方向に反射するビームスプリッタ面14aを有する。
図1に示す例では、ビームスプリッタ面14aは、光軸O
Mに沿ってz軸負方向に進む軸上光束を光軸O
Mに交差する方向に、光軸O
Bとして反射する。
光軸O
B上には、ビームスプリッタ14に対向する結像レンズ16と、結像レンズ16を挟んでビームスプリッタ14と対向する測定用イメージャ17とが配置されている。
【0026】
対物レンズ15の前側焦点が位置する焦平面Fは、調整レンズ13の焦平面Pよりも、後側に配置されている。
対物レンズ15は、光束F3を集光し、測定光束F4を形成する。
測定光束F4は、開口部3bを通して本体部3の外部の被検光学系41に向かって出射し、焦平面Pと光学的に共役な投影面P’(投影位置)に結像する。
このようにして、光像IPは、対物レンズ15によって投影面P’に光像IP’として投影される。
【0027】
対物レンズ15は、光像IPを被検光学系41に向けて投影する投影光学系の例である。
【0028】
測定光束F4は、被検光学系41の前側から被検光学系41に入射し、被検光学系41の各光学面によって屈折または反射される。
例えば、測定光束F4は、被検光学系41内の一つ以上の光学面で屈折された後、光学面の一つである被検面Siにおいて前側に反射される。これにより、反射光束F5が形成される。この場合、反射光束F5は、測定光束F4が透過した被検面Siよりも前側の各光学面で順次屈折されて結像し、像面Iに反射像IRを形成する。
被検光学系41において被検面Siよりも前側の媒質および各光学面で形成される光学系を、被検面Siに関する入射側光学系と称すると、入射側光学系および被検面Siは、見かけの曲率半径を有する一球面からなる見かけ面に置き換えることができる。
被検面Siの「見かけの球心」とは、被検光学系41において被検面Siに関する入射側光学系が介在することにより、被検面Siの球心と光学的に共役となる点である。見かけの球心は、被検面Siの見かけの曲率中心と呼ばれることもある。
被検光学系41の前側から被検面Siの「見かけの球心」に入射した光は、入射側光学系の各光学面によって屈折されて、被検面Siの球心に到達する。
見かけの球心の位置は、被検面Siと、被検面Siに関する入射側光学系と、における、各光学面の曲率半径と、各媒質の屈折率と、各光学面の間隔と、から計算することができる。
被検面Siの「見かけの面頂」とは、被検光学系41における入射側光学系が介在することにより、被検面Siの面頂と光学的に共役となる点である。被検面Siの面頂とは、光軸OMに沿う方向における被検面Siの頂点である。
被検面Siの「見かけの曲率半径」とは、被検面Siの「見かけの面頂」を基準とした被検面Siの「見かけの球心」までの距離を意味する。被検面Siの「見かけの面頂」に対して被検面Siの「見かけの球心」が光軸OMの正の側にあるとき、「見かけの曲率半径」は正となる。
以下では、被検面Siに代えて、見かけの曲率半径を有する見かけ面を考えていることを明記する必要がある場合には、「見かけの被検面si」と表記する場合がある。
被検面Siが被検光学系41において最も前側の光学面である場合には、被検面Siの見かけ面を考える必要はないが、説明の簡素化のため、被検面Siの見かけ面は被検面Si自体であると定義する。この場合、見かけの曲率半径、見かけの球心、および見かけの面頂は、それぞれ、被検面Siの曲率半径、被検面Siの球心、および被検面Siの面頂に一致する。
【0029】
本実施形態において、対物レンズ15は、反射像I
Rを観察する目的にも、用いられる。対物レンズ15は、例えば、対物レンズ15の後側焦点の焦平面F’から対物レンズ15に向かって進む反射光束F5を、対物レンズ15の開口数の範囲で集光する。これにより、ビームスプリッタ14に向かって進む光束F6が形成される。ただし、
図1では、見易さのため、反射像I
Rを形成する反射光束F5の反射方向が誇張されている。実際には、反射光束F5は、焦平面F’を通過すると、反射像I
Rの位置から拡散し、対物レンズ15の開口数(NA)の範囲に入射することにより集光されて光束F6が形成される。
光束F6は光軸O
Mに沿ってビームスプリッタ14に向かって進み、ビームスプリッタ14のビームスプリッタ面14aで反射される。光束F6は、結像レンズ16によって集光される。
例えば、対物レンズ15の焦平面F’が、反射像I
Rが形成される像面Iと一致している場合には、対物レンズ15および結像レンズ16を介して像面Iと光学的に共役な面である結像レンズ16の像面I
Bに、反射像I
Rの実像が形成される。
【0030】
対物レンズ15および結像レンズ16は、対物レンズ15の焦平面F’と測定用イメージャ17の撮像面とを互いに光学的に共役にする。対物レンズ15および結像レンズ16は、測定用イメージャ17で観察する観察光学系の例である。焦平面F’は、観察光学系における物体面であり、測定用イメージャ17によって画像を取得する観察面の意味を持っている。以下では、焦平面F’が観察光学系の観察面であることを強調する場合には、観察面F’と称する場合がある。
対物レンズ15および結像レンズ16は、観察面F’が被検面Siで反射された反射像IRの像面Iに合わされたとき、反射像IRを測定用イメージャ17で観察できる。このとき、観察光学系は、測定用イメージャ17の撮像面および投影位置も互いに光学的に共役にしている。
観察面F’における反射像IRに対する、観察光学系を介して像面IBに形成される反射像IRの像の倍率は、観察光学系に応じて決まる。
【0031】
コリメートレンズ12と調整レンズ13との間の平行光束F2の光路は、光源部から投影位置までの間であって、測定用イメージャと投影位置とを光学的に共役にする観察光学系の光路と異なる光路において平行光束を形成する平行光路の例である。
【0032】
測定光学系20において調整レンズ13の光軸OMに沿う方向の位置が固定された状態で、移動ステージ2を用いて本体部3を光軸OMに沿う方向に移動させると、光像IP’と観察面F’とは、光軸OMに沿う方向の距離を変えることなく一体的に移動する。入射側光学系および被検面Siの介在によって、反射像IRと光像IP’とは、互いに光学的に共役の関係にあるので、光軸OMに沿う方向における像面Iの位置は、光軸OMに沿う方向における投影面P’の位置の関数である。
このため、移動ステージ2は、測定光学系20に含まれる光源部および投影光学系を、互いの相対位置を変えることなく移動可能に保持し、投影光学系から投影される光像を空気中において保持台に対して相対的に直線移動させる移動機構の例になっている。
これにより、被検光学系41に対する光像IP’の光軸OMに沿う方向の位置に応じて、被検面Siで反射されて作られる反射像IRが形成される像面Iの光軸OMに沿う方向の位置が変化する。
光像IP’が特定の位置のときに、反射像IRが観察面F’上に現れる。このため、投影面P’の光軸OMに沿う方向の位置を移動ステージ2によって適宜に設定することによって、像面Iと焦平面F’とを一致させることができる。
【0033】
本実施形態では、調整レンズ13を光軸OMに沿う方向に移動して、調整レンズ13の焦平面Pの位置を変更することによって、投影面P’と観察面F’との距離を変更することができる。
例えば、対物レンズ15の焦平面Fから調整レンズ13の焦平面Pまでの空気長に換算した距離をp、対物レンズ15の焦平面F’から投影面P’までの距離をp’とすれば、pとp’とは、ニュートンの結像公式によって、対物レンズ15の焦点距離fTと関係づけられる。すなわち、pp’=-fT
2である。ここで、p’=Lとすれば、Lは、下記式(1)で算出される。
【0034】
【0035】
結像レンズ16の像面IBには、像面IBにおける光像を光電変換する測定用イメージャ17が配置されている。
測定用イメージャ17としては、光束F6の波長に感度を有し、反射像IRを必要な分解能で解像できる光電変換素子であれば、特に限定されない。例えば、測定用イメージャ17としては、CCD、CMOSセンサなどが用いられてもよい。
測定用イメージャ17によって光電変換された画像の画像信号は、後述する測定制御部5に送出される。
結像レンズ16および測定用イメージャ17として、例えば、デジタルカメラが用いられてもよい。
【0036】
本実施形態では、後述するように、投影位置である投影面P’を被検面Siの見かけの球心および面頂の設計値の両方から光軸OMに沿ってずれた位置に設定する。投影面P’と像面Iとは光軸OMに沿う方向にずれることから、光軸OMに沿う方向における観察面F’を基準とした投影面P’までの距離の設定値をL(ただし、L≠0)とすることで像面Iを観察できるようにする。以下では、光軸OMに沿う方向における観察面F’を基準とした投影面P’までの距離をI-O距離と称する。設定値がLに設定されたI-O距離を、I-O距離Lと称する場合がある。
本明細書では、I-O距離の設定値Lの符号は、偏心測定装置50から被検光学系41に向かう方向を正としている。
これに対して、例えば、従来のオートコリメーション法では、投影面P’を被検面Siの見かけの球心を通る位置に設定している。この場合、I-O距離は、0である。
【0037】
ウェッジプリズム18は、第1面18aと、第1面18aに対してウエッジ角αだけ傾斜した第2面18bと、を有する。第1面18aと第2面18bとの面間距離は、第2面18bの傾斜方向に沿って漸次変化する。
ウェッジプリズム18は、コリメートレンズ12と調整レンズ13との間の平行光束F2の光路に向かって進退可能に配置されている。ウェッジプリズム18が平行光束F2の光路に進入すると、平行光束F2は、第1面18aに入射して第2面18bから出射する。このとき、ウェッジプリズム18の屈折作用により、平行光束F2の光路は、光軸OMに対して、第1面18aと第2面18bとの面間距離が増大する側に傾斜する。
これにより、投影面P’における光像IP’が、光軸OMと直交する方向にずらされる。
ウェッジプリズム18が光像IP’をずらす方向は、特に限定されない。例えば、ウェッジプリズム18は、光像IP’を、x軸方向、y軸方向、または、x軸方向およびy軸方向と異なる方向にずらしてもよい。ウェッジプリズム18が光像IP’をずらす方向は、一定であってもよいし、変更可能であってもよい。
ウェッジプリズム18の光線偏向角(ray deviation)は、例えば、1mrad程度が好適である。
【0038】
調整レンズ駆動部21は、調整レンズ13を光軸OMに沿う方向に移動する。調整レンズ駆動部21は、例えば、モータと、モータの駆動力を調整レンズ13または調整レンズ13の保持部材に伝達する伝達機構と、を含んでもよい。
調整レンズ駆動部21は、後述する測定制御部5と通信可能に接続され、測定制御部5からの制御信号に基づいて、調整レンズ13を移動させる。
【0039】
ウェッジプリズム駆動部22は、ウェッジプリズム18を光軸OMに直交する方向に移動し、ウェッジプリズム18が平行光束F2の光路から退避する退避位置と、ウェッジプリズム18が平行光束F2の光路に進入する進入位置と、を切り替える。進入位置のウェッジプリズム18が光像IP’をずらす方向は特に限定されない。
ウェッジプリズム駆動部22の構成は、ウェッジプリズム18の位置を退避位置と進入位置とに切り替えることができれば特に限定されない。例えば、ウェッジプリズム駆動部22は、ウェッジプリズム18またはウェッジプリズム18の保持部材を移動するソレノイドであってもよい。例えば、ウェッジプリズム駆動部22は、モータと、モータの駆動力をウェッジプリズム18またはウェッジプリズム18の保持部材に伝達する伝達機構と、を含んでもよい。
ウェッジプリズム駆動部22は、後述する測定制御部5と通信可能に接続され、測定制御部5からの制御信号に基づいて、ウェッジプリズム18を移動させる。
【0040】
保持台4は、先端部40などの被検光学ユニットを保持する。保持台4は、台本体4bと、調整ステージを介して台本体4bの上端部に設けられたホルダ4aと備える。
ホルダ4aは、調整ステージによって少なくともz軸に交差する方向に移動可能に設けられている。調整ステージは、z軸に対するあおり調整が可能であってもよい。
ホルダ4aは、被検光学ユニットを着脱可能に保持する。例えば、被検光学ユニットが、被検光学系41を含む先端部40の場合、ホルダ4aは、被検光学系41の設計上の光軸O
Mがz軸に沿うようにして、先端部40を保持可能である。ホルダ4aは、先端部40の先端が本体部3に対向する向きに先端部40を保持できる。
保持台4は、偏心測定時に本体部3に対する位置が固定されていれば、基台1上に配置されてもよいし、基台1から離れた位置に配置されてもよい。
図1に示す例では、保持台4は、基台1上に配置されている。
【0041】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定装置における制御系のブロック図である。
図2に示すように、測定制御部5は、全体制御部101、演算処理部102、画像処理部103、記憶部104、搬送部コントローラ105、投影位置コントローラ106、シフト量コントローラ107、および表示制御部108を有する。
全体制御部101は、操作部24と通信可能に接続されている。全体制御部101は、操作部24からの操作入力に応じて、偏心測定装置50の動作全体を制御する。
操作部24は、例えば、キーボード、タッチパネル、操作スイッチなど、操作者が操作入力可能な適宜の入力装置を含む。
【0042】
全体制御部101は、光源10と電気的に接続されている。全体制御部101は、操作部24からの操作入力に基づいて、光源10のオンオフ制御と、光量制御と、を行う。
全体制御部101は、測定用イメージャ17と観察用イメージャ44と通信可能に接続されている。全体制御部101は、測定用イメージャ17と観察用イメージャ44とが送出する画像信号を取得する。
全体制御部101は、演算処理部102、画像処理部103、記憶部104、搬送部コントローラ105、投影位置コントローラ106、シフト量コントローラ107、および表示制御部108とそれぞれ通信可能に接続されている。
【0043】
演算処理部102は、全体制御部101からの制御信号に基づいて演算処理を行う。演算処理部102が行う演算処理は、偏心測定装置50における測定に必要な演算であれば特に限定されない。例えば、演算処理部102が行う演算処理の例としては、予め記憶部104に記憶された被検光学系41の設計値に基づく各種の計算、後述するフレ量の測定値に基づく偏心量の計算などが挙げられる。
【0044】
画像処理部103は、測定用イメージャ17から取得した画像信号に基づく画像の画像処理を行う。画像処理部103が行う画像処理の例としては、測定用イメージャ17が撮像した画像に基づいて反射像IRの中心位置を求める画像処理、反射像IRが後述する倍率測定部を有する場合に画像から倍率測定部の寸法を求める画像処理などが挙げられる。
【0045】
記憶部104は、例えば、操作部24および測定用イメージャ17を通して入力されたデータ、演算処理部102および画像処理部103で算出および生成されたデータ、などを記憶する。記憶部104は、例えば、メモリ、ハードディスク、リムーバブル記憶媒体などの適宜の記憶媒体を1以上備える。
【0046】
搬送部コントローラ105は、全体制御部101からの制御信号に基づいて、移動ステージ2による本体部3の移動量および移動方向を制御する。
搬送部コントローラ105は、光学系搬送部駆動部2cと通信可能に接続されている。光学系搬送部駆動部2cに制御信号を送出することによって、光学系搬送部2bを駆動し、本体部3をz軸方向に移動させる。
【0047】
投影位置コントローラ106は、調整レンズ駆動部21と通信可能に接続されている。投影位置コントローラ106は、全体制御部101からの制御信号に基づいて、調整レンズ駆動部21による調整レンズ13の移動量および移動方向を制御する。調整レンズ13が光軸OMに沿って移動することによって、光像IP’が投影される位置が光軸OMに沿って移動する。
全体制御部101から投影位置コントローラ106に送出される制御信号は主として後述するI-O距離を設定値に合わせる目的で送出される。しかし、全体制御部101からの制御信号は、I-O距離の設定用途に限られることはない。全体制御部101は、測定の必要に応じて光像IP’を適宜の位置に移動させる制御信号を投影位置コントローラ106に送出できる。
【0048】
シフト量コントローラ107は、ウェッジプリズム駆動部22と通信可能に接続されている。シフト量コントローラ107は、全体制御部101からの制御信号に基づいて、ウェッジプリズム駆動部22を駆動し、ウェッジプリズム18の位置を退避位置と進入位置とに選択的に切り替える。
【0049】
表示制御部108は、例えば、ディスプレイなどからなる表示部23と通信可能に接続されている。表示制御部108は、全体制御部101からの制御信号に基づいて、表示部23の表示を制御する。
表示部23には、例えば、全体制御部101が測定用イメージャ17、内視鏡イメージャ42から取得した画像、画像処理部103によって生成された画像、全体制御部101が観察用イメージャ44から取得した画像などの偏心測定に関する種々の画像が表示される。さらに、表示部23には、被検光学系41の光学的な設計情報、演算処理部102によって算出された数値情報など、偏心測定に関する種々の情報が表示される。
【0050】
測定制御部5における各部の制御の詳細については、偏心測定装置50の動作説明の中で説明する。
【0051】
測定制御部5の装置構成は、CPU、メモリ、入出力インターフェース、外部記憶装置などからなるコンピュータを含む。測定制御部5に含まれるコンピュータには、測定制御部5の制御動作を実現する適宜の制御プログラムがロードされて実行されるようになっている。測定制御部5には、コンピュータの他に、適宜のハードウエアが含まれてもよい。
【0052】
次に、偏心測定装置50を用いて行うことができる本実施形態に係る偏心測定方法を偏心測定装置50の動作とともに説明する。
まず、以下の説明で参照する被検光学系41の具体例である被検光学系41Aを説明する。
図3は、被検光学系の一例を示す断面図である。
【0053】
図3に示すように、被検光学系41Aは、物体側から像側に向かって、第1レンズL1、第2レンズL2、赤外吸収フィルタFa、明るさ絞りS
A、第3レンズL3、第4レンズL4、第5レンズL5、およびカバーガラスCG
Aが、この順に配置されている。
I
41Aは、被検光学系41Aの像面である。I
41Aには、内視鏡イメージャ42の撮像面が配置される。
【0054】
第1レンズL1は、物体側に平面を向けた平凹の負レンズである。
第2レンズL2は、像側に凸面を向けた正のメニスカスレンズである。
赤外吸収フィルタFaは、物体側にYAGレーザー用の赤外カットのコーティング、像側に半導体レーザー(LD)用の赤外カットのコーティングが施された平行平板である。
明るさ絞りSAは、赤外吸収フィルタFaの像側の平面に形成されている。
第3レンズL3は、物体側に平面を向けた平凸の正レンズである。
第4レンズL4は、両凸の正レンズである。
第5レンズL5は、像側に凸面を向けた負のメニスカスレンズである。
ここで、第4レンズL4と第5レンズL5とは、第4レンズL4の像側のレンズ面と、第5レンズL5の物体側のレンズ面と、が互いに接合された接合レンズである。
カバーガラスCGAは、内視鏡イメージャ42の撮像面を物体側から覆う平行平板である。
【0055】
下記[表A]に、被検光学系41Aの設計値の数値データを示す。[表A]において、r欄は各レンズ面の曲率半径(mm)、d欄は各レンズ面間の面間隔(mm)、ne欄は各レンズのe線の屈折率、V欄は見かけの面頂の位置(mm)、R欄は見かけの曲率半径(mm)、SC欄は見かけの球心の位置(mm)、FnoはFナンバー、絞りは明るさ絞りである。
見かけの面
頂の位置
V
s
は、第1面の設計上の面頂位置からの光軸O
Mに沿う距離で表されている。見かけの面頂の位置V
sを表す座標系では、第1面から撮像面に向かう方向を正としている。
図3には、面番号s(ただし、s=1,…,14)の曲率半径、面間隔が、それぞれr
s、d
sとして記載されている。被検光学系41Aにおいて、偏心測定装置50による偏心測定の対象となる光学面の面番号は、1~6、8~14である。すなわち、被検光学系41Aにおける被検面Siは、最大で、面番号1~6、8~14の13面である。
【0056】
[表A]
面番号 r d ne V R SC
1 ∞ 0.2115 1.88815 0.000 ∞ ∞
2 0.6603 0.4242 1.00000 0.112 0.350 0.462
3 -3.0889 0.4871 1.97189 0.382 0.761 1.143
4 -1.9529 0.3281 1.00000 0.460 -2.405 -1.945
5 ∞ 0.4230 1.49557 0.530 0.523 1.054
6 ∞ 0.0000 1.00000 0.579 0.475 1.054
7(絞り)∞ 0.1872
8 ∞ 0.6251 1.69979 0.606 0.447 1.054
9 -1.1895 0.2131 1.00000 0.652 -0.097 0.555
10 1.4519 0.8357 1.65425 0.678 0.359 1.037
11 -1.0589 0.3277 1.97189 0.784 -0.123 0.662
12 -4.3264 0.1405 1.00000 0.854 -0.305 0.549
13 ∞ 0.8559 1.51825 0.942 -0.443 0.500
14 ∞ 0.0000 1.00000 315.550 -315.050 0.500
撮像面 ∞
Fno 2.95
半画角 66.2°
像高 0.475mm
【0057】
本例の被検光学系41Aのように、内視鏡の対物光学系では、第1レンズL1が強い凹パワーを有するため、第1レンズL1よりも像側の光学面の見かけの球心が近接しやすいという特徴を持っている。
下記[表1]に、被検光学系41Aの各光学面(面番号1~6、8~14。以下同様。)の見かけの球心の位置(mm)([表1]には「SC(mm)」と記載)を正方向の最大値から負方向に向かって順に並べ替えて示す。
【0058】
【0059】
[表1]における「近接間隔」欄には、光軸OMに沿う方向の位置が互いに隣り合う見かけの球心のうち、より近い方の見かけの球心同士の間の光軸OMに沿う方向の距離を表示している。例えば、第3面の見かけの球心は、第1面と第5面との見かけの球心と隣り合っているが、第3面の見かけの球心は、第1面の見かけの球心よりも第5面の見かけの球心の方が近い。このため、「近接間隔」欄には、第5面の見かけの球心と第3面の見かけの球心との距離である0.089mmが記載されている。
[表1]から分かるように、第5面、第6面、および第8面の各見かけの球心は、互いに一致している。第10面の見かけの球心と、第5面、第6面、および第8面の見かけの球心と、は、0.017mmの間隔で隣り合っている。第11面と第9面とは、各見かけの球心が0.107mmの間隔で隣り合っている。第9面と第12面とは、各見かけの球心が0.006mmの間隔で隣り合っている。第12面の見かけの球心と、第13面~第14面の見かけ球心とは、0.049mmの間隔で隣り合っている。第13面および第14面とは見かけ球心が互いに一致している。第2面の見かけの球心と、第13面および第14面の見かけの球心と、は0.038mmの間隔で隣り合っている。第4面の見かけの球心と、第2面の見かけの球心と、は2.407mmの間隔で隣り合っている。
【0060】
図4は、従来のオートコリメーション法による偏心測定の原理を説明する模式図である。
図5は、従来のオートコリメーション法において観察される反射像の例を示す模式図である。
従来のオートコリメーション法では、投影面P’を被検面Siの見かけの球心SCiを通る位置に設定している。ただし、
図4では、見易さのため、入射側光学系および被検面Siに代えて、見かけの被検面siが仮想線で示されている。
投影面P’と像面Iとは一致しているので、I-O距離を0に設定することによって反射像I
Riを観察できる。この場合、被検面Si以外の光学面の見かけの球心が、光軸O
Mに沿う方向において被検面Siの見かけの球心SCiの位置に近くにあると、被検面Si以外の光学面で反射した反射像またはそのボケ画像が観察面F’で観察される。対物レンズ15の焦平面F’は、観察光学系を介して測定用イメージャ17の像面I
Bと光学的に共役な面なので、被検面Siで反射された反射像以外の画像も測定用イメージャ17で撮像される。このため、どの画像が被検面Siで反射した反射像に対応するか特定できないので偏心測定が困難になる。
【0061】
図4に示す例では、投影面P’と像面Iとが一致しているので、光像IP’と、見かけの被検面siで反射して形成された反射像I
Riとは、見かけの球心S
Ciを通り光軸O
Mに直交する同一平面上に形成される。I-O距離を0に設定すると光像IP’と観察面F’とは一致した状態となる。移動ステージ2を用いて本体部3を光軸O
Mに沿う方向に移動させると、光像IP’と観察面F’とは一体的に光軸O
Mに沿う方向に移動し、光像IP’が特定の位置のとき、反射像I
Riを観察できる。
光像IP’に対する反射像I
Riの横倍率を反射倍率と称すると、I-O距離が0の場合の反射倍率は±1になる。ここで、-1の反射倍率は、投影面P’を見かけの球心SCiに合わせた場合(
図4参照)に、+1の反射倍率は、投影面P’を見かけの面頂Viに合わせた場合に対応する。
光軸O
Mに対して被検面Siの球心及び入射光学系の偏心がある場合に、被検面Siの球心と共役となる点である見かけの球心SCiも光軸O
Mに対して偏心する。見かけの球心SCiが光軸O
Mから光軸O
Mに直交する方向にδだけ偏心していると、反射像I
Riは、光軸O
Mから2δだけ偏心した位置における像面I上に形成される。この場合、測定用イメージャ17の撮像面上における光軸O
Mの位置と反射像I
Riの位置とが特定できれば、その距離を2で割ることにより、見かけの球心SCiの偏心量δが求められる。
しかし、被検光学系41内に、光軸O
Mに沿う方向において見かけの球心SCiの位置が近い複数の光学面が存在すると、例えば、
図5に示すように、表示部23の表示画面23aにおいては、異なる光学面で反射された反射像I
Ra、I
Rb、I
Rcがそれぞれの見かけの球心S
Ciの偏心量に応じた位置で観察される。
しかしながら、オートコリメーション法では、光学面の反射倍率が-1または1なので、反射倍率の違いを手掛かりとして表示画面23aの画像から、被検面Siで反射した反射像を特定することは困難である。
【0062】
図6、7は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の偏心測定の原理を説明する模式図である。
図6、7および後述の
図8、9では、
図4と同様、入射側光学系および被検面Siに代えて、被検面Siに対応する見かけの被検面siが仮想線で示されている。
【0063】
本実施形態の偏心測定方法では、調整レンズ13の位置決めによってI-O距離をL(L≠0)として偏心測定装置50の状態を設定し、移動ステージ2を用いて本体部3を移動させ、光軸O
Mに沿う方向における投影面P’の位置を移動させる。これにより、光像IP’と観察面F’とは一体的に光軸O
Mに沿う方向に移動する。
図6は、I-O距離Lを正の値に設定して反射像を観察した状態を示している。すなわち、観察面F’に対して光像IP’が図示右側にあるとき、Lは正である。
図6には、投影面P’を見かけの球心SCiと見かけの面頂Viとの間に配置した場合の例が示されている。
投影面P’(図示略)の位置は、観察面F’に反射像I
Rが形成される位置に位置決めされている。
見かけの被検面siの反射倍率βは、見かけの被検面siに関する結像の式を用いた計算から、下記式(2)で表される。
【0064】
【0065】
ここで、Rは被検面Siの見かけの曲率半径である。
式(2)に示すように、Lが0でない場合の反射倍率βは、Lの大きさおよび正負によらず、正値または負値を取る。例えば、R>0の場合、
式(2)の複号
が+
であればβが正値
であり、
複号
が-
であればβが負値である。R<0の場合、
式(2)の複号
が-
であればβが正値
であり、
複号
が+
であればβが負値である。
図6に示す例(R<0)では、βは負値である。
本明細書では、反射倍率βが正値である反射像I
Riを「正反射像」と称する。同様に、反射倍率βが負値である反射像I
Riを「負反射像」と称する。
光像IP’が光軸O
Mに直交する方向に移動すると、正反射像は、βの大きさに応じて光像IP’と同方向に移動する。
光像IP’が光軸O
Mに直交する方向に移動すると、負反射像は、βの大きさに応じて光像IP’と反対方向に移動する。
【0066】
見かけの球心SCiが、光軸OMに直交する方向において光軸OMからδだけ偏心していると、反射像IRiは、観察面F’において光軸OMから(1-β)δだけ偏心した位置に形成される。この場合、測定用イメージャ17の撮像面上における光軸OMの位置と、反射像IRiの位置と、に基づいて算出した、光軸OMに直交する方向におけるフレ量(=(1-β)δ)と、被検光学系41の設計値から算出した見かけの被検面siの反射倍率βと、を用いて、見かけの球心SCiの偏心量δを算出できる。
【0067】
投影面P’を見かけの面頂Viの近傍に配置した場合の例を
図7に示す。
図7は、I-O距離Lを正の値に設定して反射像を観察した状態を示している。すなわち、観察面F’に対して光像IP’が図示右側にあるとき、Lは正である。
投影面P’(図示略)の位置は、観察面F’に反射像I
Rが形成される位置に位置決めされている。
見かけの被検面siの反射倍率βは上記式(2)で表される。
図7に示す例(R<0)では、βは正値である。このため、
図7の反射像I
Riは正反射像である。
【0068】
見かけの球心SCiが、光軸O
Mに直交する方向において光軸O
Mからδだけ偏心していると、反射像I
Riは、観察面F’において光軸O
Mからフレ量(1-β)δだけずれた位置に形成される。
このため、
図6に示す例と同様にして、被検面Siの見かけの球心SCiの偏心量δを算出できる。
【0069】
次に、被検面Siの見かけの曲率半径が無限大の場合の偏心測定方法について説明する。
図8は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法において、見かけの曲率半径が無限大の場合の偏心測定の原理を説明する模式図である。
図9は、従来のオートコリメーション法による見かけの曲率半径が無限大の場合の偏心測定方法を説明する模式図である。
【0070】
被検光学系41においては、被検面Siの見かけの曲率半径R
iが無限大になる場合がある。例えば、被検光学系41において最も前側の第1面が平面であると見かけの曲率半径R
1が無限大になる。例えば、被検光学系41において、第1面と、第1面の後側に隣り合う第2面と、が平面であると、見かけの曲率半径R
1、R
2が無限大になる。特に、内視鏡の対物レンズでは、第1面が平面であることが多い。
図8に示すように、本実施形態の偏心測定方法によれば、光像IP’を被検面Siの見かけの面頂よりも後側にL/2だけ離れた位置に投影することによって、反射像I
Riとして反射倍率βが1の正反射像を形成できる。このため、上述の正反射像を用いた場合と同様にして偏心測定が行える。
なお、見かけの曲率半径が無限大の面は見かけの球心が光軸O
Mに沿って無限遠の位置にあり、被検面Siや入射側光学系に偏心があると、見かけの球心の偏心量をシフト量として定義できない。このような場合は例外的に光軸O
Mに対する反射像のフレ量を見かけの球心の偏心量δとして扱うものとする。反射倍率βが1のため、後述の式(12)、(13)をそのまま適用すると分母が0となり見かけの球心をシフト量が発散してしまうが、見かけの球心が光軸O
Mに沿って無限遠の位置にある被検面Siについては、後述の式(12)、(13)の分母は1として見かけの球心のシフト量を定義する。後述の式(14)、(15)の一次結合の係数a
ij(i=1,…,N、j=1,…,N)についても、その定義に合わせて計算を行う。
本実施形態の偏心測定方法は、被検面Siの見かけの曲率半径が無限大であっても、無限大でなくても、同様に測定できる点で好ましい。
【0071】
これに対して、
図9に示すように、従来のオートコリメーション法では、見かけの曲率半径Rが無限大の見かけの被検面siの反射像を観察するために、平行光束Fpを投影し、反射光束Frを、観察光学系で像にすることが必要である。すなわち、見かけの曲率半径Rが無限大か無限大でないかによって、投影光学系および観察光学系を変更する必要がある。
このため、測定装置が複雑になり、投影光学系および観察光学系を変更することに伴って測定誤差が増大する可能性がある。
【0072】
このようにして、すべての被検面Siの見かけの球心SCiの偏心量δが算出されると、後述するように、各被検面Siの見かけの球心SCiの偏心量δと被検面Siの実際の球心の偏心量とを対応づけるマトリクスと、算出された各偏心量δと、を用いて、各被検面Siの球心の偏心量が算出される。
【0073】
上述したように、本実施形態の偏心測定方法では、投影面P’の光軸OMに沿う方向における位置を、被検面Siの見かけの球心SCiおよび見かけの面頂Viの両方からずらして、反射像IRiを形成する。
この場合、I-O距離Lを0でない値に設定し、観察面F’の位置に反射像IRiが結像するように、投影面P’の位置を適切に決めれば、反射倍率が±1でない反射像IRiが形成され、観察光学系によって反射像IRiを観察できる。
この場合、投影面P’の位置に応じて見かけの被検面siの反射倍率βが±1以外の値を取るとともに、反射像IRiが正反射像または負反射像になる。
上記[表A]において、見かけの球心の位置が近い面番号の設計値に着目すると、見かけの球心の位置が近くても、見かけの曲率半径は、互いに異なっていることが分かる。
このため、複数の反射像IRiが観察されても、それぞれを形成している見かけの被検面siの反射倍率が異なるので、被検面Siで反射された反射像IRiを特定できる可能性がある。
【0074】
従来のオートコリメーション法のように、I-O距離を0として得られた反射像を用いる偏心測定方法は反射倍率の大きさが1なので、以下では等倍法と称する場合がある。これに対して本実施形態の偏心測定方法のように、0でないI-O距離を設定して反射像を用いる偏心測定方法を不等倍法と称する場合がある。
【0075】
次に、本実施形態の偏心測定方法における反射像の判別法の例を説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法に用いる指標の例を示す模式図である。
図11は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の反射像の判別法の第1例を示す模式図である。
【0076】
第1例の判別法では、光像IP’として、点像ではなく倍率測定が可能なパターンを有する指標を投影する。
図10に示す光像IP’は、第1横線部b
Px1、第1縦線部b
Py1、第2横線部b
Px2、第2縦線部b
Py2、および第3縦線部b
Py3を有する。
第1横線部b
Px1と第1縦線部b
Py1とは、光軸O
Mで互いを二等分する等長の線分である。第1横線部b
Px1は、x軸方向に延びている。第1縦線部b
Py1は、y軸方向に延びている。第1横線部b
Px1と第1縦線部b
Py1との交点b
POは、光軸O
Mの位置を表す。
第2横線部b
Px2は、第1横線部b
Px1からy軸負方向にw
Pyだけ離れて第1横線部b
Px1に平行に延びる線分である。第2横線部b
Px2は、第1縦線部b
Py1から、x軸正方向および負方向にそれぞれw
Pxの長さを有する。
第2縦線部b
Py2は、第2横線部b
Px2のx軸正方向の端部からy軸正方向に延びて、第1横線部b
Px1と交差する線分である。第2縦線部b
Py2と第1縦線部
bPy1との距離はw
Pxである。
第3縦線部b
Py3は、第2横線部b
Px2のx軸負方向の端部からy軸正方向に延びて、第1横線部b
Px1と交差する線分である。第3縦線部b
Py3と第1縦線部
bPy1との距離はw
Pxである。
【0077】
このような光像IP’を用いた不等倍法では、焦平面F’に像面Iが一致するように移動ステージ2を用いて本体部3を光軸O
Mに沿う方向に移動させて、光軸O
Mに沿う方向に投影面P’の位置を移動させると、例えば、
図11に示すように、表示画面23aに、反射像の画像I
Rk、I
Rm、I
Rnなどが表示される。表示画面23aにおける上下左右は、z軸正方向から見た観察面F’の上下左右に一致している(以下、他の図面における表示画面23aも同様)。
表示画面23aに表示される各画像は、光像IP’のパターンと相似形なので、測定光束が反射されて形成された画像であり、観察対象の被検面Siの反射像を観察するために投影面P’の位置を決めたとき、他の光学面の反射像も観察面F’付近に形成されたために、観察面F’に映り込んでいる。それぞれの反射像は光軸O
Mに沿う方向の位置がわずかに異なることから、表示画面23aにはボケ像として各画像が映り込む場合もある。
例えば、画像I
Rm、I
Rnが表す反射像は光像IP’のパターンと逆の倒立像なので、画像I
Rm、I
Rnが表す反射像は負反射像である。画像I
Rkが表す反射像は光像IP’の正立像なので、画像I
Rkが表す反射像は正反射像である。
例えば、画像I
Rmは、光像IP’の第1横線部b
Px1、第1縦線部b
Py1、第2横線部b
Px2、第2縦線部b
Py2、および第3縦線部b
Py3に、それぞれ対応して、第1横線部b
Rx1、第1縦線部b
Ry1、第2横線部b
Rx2、第2縦線部b
Ry2、および第3縦線部b
Ry3を有する。
画像I
Rmの各部の長さは観察面F’における実寸法に換算すると、反射倍率に応じて光像IP’における対応部分の寸法から変化している。
例えば、画像I
Rmに対応する反射像の反射倍率がβ
mの場合、第1縦線部b
Ry1と第2縦線部b
Ry2との距離w
Rxはw
Pxの|β
m|倍である。同様に、第1横線部b
Rx1と第2横線部b
Rx2との距離w
Ryはw
Pyの|β
m|倍である。
【0078】
例えば、画像IRmからwRx、wRyのいずれかを測定して、観察面F’上の実寸法に換算することによって、光像IP’に対する横倍率を倒立像ということから符号を考慮して、-wRx/wPx(=-wRy/wPy)として求める。この横倍率は、画像IRmに対応する反射像が被検面Siで形成された反射像IRiの場合には、反射像IRiの反射倍率βになる。
偏心測定装置50では、測定用イメージャ17から送出される画像を画像処理部103で画像処理して、wRx、wRyのいずれかを測定し、演算処理部102によって横倍率を算出する。
画像IRk、IRnに対応する各反射像の光像IP’に対する横倍率も同様にして算出される。
全体制御部101は、I-O距離がLの場合の被検光学系41の各被検面Siに対応する見かけの被検面siの反射倍率を算出して、記憶部104に記憶しておく。
全体制御部101は、測定対象の被検面Siに対応する見かけの被検面siの反射倍率に最も近い横倍率が得られた画像が、被検面Siで反射された反射像IRiであると特定する。
【0079】
第1例の判別法によれば、測定用画像である測定用イメージャが取得した観察面の画像に基づいて、光像の反射によって形成された観察像が表す光像に対する観察像の横倍率を測定することと、被検面の見かけの面の反射倍率の設計値に最も近い横倍率が測定された観察像を反射像として特定することと、を備える。
画像IRk、IRm、IRnに対応する反射像は、光像IP’の反射によって形成された観察像の例である。
特に第1例の判別法によれば、光像は、見かけの面の反射倍率に応じて伸縮する倍率測定部を有しており、横倍率を測定する際には、測定用画像において観察像における倍率測定部の寸法を測定することを含んでいる。
光像IP’における第1横線部bPx1、第1縦線部bPy1、第2横線部bPx2、第2縦線部bPy2、および第3縦線部bPy3は、倍率測定部の例である。
【0080】
第1例の判別法は、偏心測定装置50の測定制御部5によって自動的に行えるが、例えば、表示画面23a上で、測定者によって横倍率が画像計測できるようにしておき、測定者によって判定できるようにしてもよい。
【0081】
次に、第2例の判別法を説明する。
図12は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の反射像の判別法の第2例を示す模式図である。
第2例の判別法では、光像IP’は、特に限定されない。第1例と同様の指標でもよいし、点像でもよい。
図12には、光像IP’が点像の場合に対応する画像が模式的に描かれている。
第2例の判別法では、表示画面23aに複数の反射像が観察される場合、光像IP’を光軸O
Mに直交する方向に移動して、反射像特定用画像を取得する。この後、移動前に取得した測定用画像と、移動後の反射像特定用画像とを比較することによって、反射像I
Riを特定する。
偏心測定装置50では、ウェッジプリズム18を挿入位置に移動することによって、光像IP’を移動させる。例えば、
図12には、光像IP’をx軸負方向(
図12において左から右に向かう方向)に移動した例が示されている。
図12において、表示画面23aに表示された二点鎖線で示す画像I
Rd、I
Re、I
Rfは、測定用画像である。
ウェッジプリズム18を挿入位置に移動すると、画像I
Rd、I
Re、I
Rfは、例えば、実線に示す位置に移動する。この画像を測定用イメージャ17によって取得して、反射像特定用画像とする。ただし、
図12における白抜き矢印は、説明用に付加されており、実際の画像には現れない。
【0082】
測定用画像と反射像特定用画像とを比較すると、画像IRd、IReは、光像IP’の移動方向と同方向に移動している。このため、画像IRd、IReは、正反射像の画像であることが分かる。さらに、画像IRd、IReの移動量は、それぞれに対応する反射像を形成する見かけの被検面siの横倍率に応じて互いに異なる。
画像IRfは、光像IP’の移動方向と反対方向に移動している。このため、画像IRfは、負反射像の画像であることが分かる。
測定対象の被検面Siに対応する見かけの被検面siの横倍率は、第1例の判別法と同様、予め被検光学系41の設計データから算出しておくことができる。このため、画像の移動方向および移動量から、例えば、画像IReが被検面Siで反射された反射像IRiであると特定できる。この特定は、測定者が目視で行ってもよいし、偏心測定装置50の測定制御部5が自動的に行ってもよい。
【0083】
ここで、偏心測定装置50によるウェッジプリズム18による光像IP’のずらし量と反射像IRiの変位の関係について説明する。
光軸OMと直交する平面における反射像IRiの変位Dは、下記式(3)で表される。
【0084】
【0085】
ここで、f
pは調整レンズ13の焦点距離、f
kは結像レンズ16の焦点距離、θはウェッジプリズム18の光線偏向角、pは調整レンズ13の焦平面Pと対物レンズ15の焦平面Fとの距離(
図1参照)、βは反射像I
Riを形成する見かけの被検面siの反射倍率である。
式(3)をβについて解き、上記式(1)を用いてpを消去すると、下記式(4)が得られる。
【0086】
【0087】
このため、各反射像の変位Dを測定して、式(4)からそれぞれに対応する反射倍率βを求め、予め算出した見かけの被検面siにおける反射倍率βの設計値に最も近い反射像を反射像IRiとして特定することができる。この特定は、偏心測定装置50の測定制御部5によって自動的に行うことが可能である。
【0088】
第2例の判別法によれば、第1例と同様、測定用画像である測定用イメージャが取得した観察面の画像に基づいて、光像の反射によって形成された観察像が表す光像に対する観察像の横倍率を測定することと、被検面の見かけの面の反射倍率の設計値に最も近い横倍率が測定された観察像を反射像として特定することと、を備える。
画像IRd、IRe、IRfは、光像IP’の反射によって形成された観察像の例である。
特に第2例の判別法によれば、光像を基準軸上に配置した状態で測定用画像を取得することと、光像を基準軸に直交する方向にずらして、反射像特定用画像を取得することと、測定用画像と反射像特定用画像とを比較して、光像のずらし量に対応する観察像の観察面における変位をぞれぞれ測定することと、ずらし量および変位から、横倍率を測定することと、を備える。
【0089】
本実施形態の偏心測定装置50は、測定制御部5の制御によって、上述の第1例の判別法を実行することができるので、測定制御部5は、測定用イメージャが取得した観察位置における画像に基づいて、光像の反射によって形成された観察像が表す光像に対する観察像の横倍率を測定する反射倍率測定部の例になっている。
本実施形態の偏心測定装置50は、ウェッジプリズム18、ウェッジプリズム駆動部22、および測定制御部5は、を有し、測定制御部5の制御によって、上述の第2例の判別法を実行することができる。
このため、ウェッジプリズム18、ウェッジプリズム駆動部22、および測定制御部5は、反射倍率測定部の例になっている。特に、ウェッジプリズム駆動部22および測定制御部5は、平行光路にウェッジプリズムを挿入することにより、投影位置における光像を移動させた状態で、測定用イメージャによって観察位置における画像を取得させ、観察位置における画像に基づいて、観察像が表す前記横倍率を測定する反射倍率測定制御部の例になっている。
【0090】
本実施形態では、反射像の判別法として、第1例のように指標を投影して反射像の向きや大きさを確認する方式と、第2例のようにウェッジプリズムを出し入れする方式と、を用いることができる。いずれの判別法も、偏心測定装置50の測定光学系20における各光学素子の位置および姿勢を変化させないで測定できる。例えば、ウェッジプリズム18は、反射像を判別する際に反射倍率を測定するときのみ平行光路中に挿入される。ウェッジプリズム18は、偏心測定を行う場合には、ウェッジプリズム18は、測定光学系20の光路の外部に位置するので、偏心測定中には測定光学系20の光路に何ら影響を与えない。さらに、ウェッジプリズム18が移動する際に、測定光学系20における各光学素子の位置および姿勢にも影響を与えない。第1例の場合も同様である。
このため、本実施形態では、測定光学系20における各光学素子の位置および姿勢を変化させることなく、反射倍率を測定することができる。
これに対して、例えば、反射倍率を測定する方式として、例えば測定光学20のうちに調整レンズ13を光軸OMに直交する方向にシフトさせて光像IP’を横ずらしすることも考えられる。しかしこの場合、偏心測定時に、調整レンズ13を元の位置に完全に戻すことは困難なので、観察面F’における基準点の位置が変化する。これにより、偏心測定の誤差が発生する。
【0091】
本実施形態の偏心測定方法では、I-O距離として、0でない設定値Lを用いるので、被検面Siの反射倍率が±1以外の種々の値を持つ。これにより、反射像がどの光学面から反射されたかを容易に判別することができる。
設定値Lの大きさは、被検光学系41における被検面Siの見かけの曲率半径に対して、大きくなりすぎず、小さくなりすぎないように設定される。
図3に示す被検光学系41Aでは、[表A]に示すように、多くの光学面の見かけの曲率半径Rの大きさ(絶対値)は、0.5mmよりも小さい。
下記[表2]に、設定値Lを0.447mmにしたときの、各被検面Siに対する光像IP’の投影位置(mm)([表2]には、「投影位置(mm)」と記載)と、反射倍率βと、の設計値をそれぞれ示す。ここで、位置の座標系は、[表1]における見かけの球心の位置の座標系と同様である。各投影位置は、I-O距離を設定値Lに固定して、移動ステージ2によって本体部3を移動させたときの投影位置である。このため、測定光学系20における調整レンズ13の位置は固定されている。
被検面Siの見かけの曲率半径に対して、大きくなりすぎず、小さくなりすぎない値の目安としては、例えば、被検光学系41Aの光学面のうち、見かけの曲率半径が無限大の場合を除いた各光学面の見かけの曲率半径の中央値が挙げられる。
0.447mmは、被検光学系41Aにおける見かけの曲率半径の中央値に略一致している。
【0092】
【0093】
[表2]における各投影位置を、正方向の最大値から負方向に向かう順に並べ替えて下記[表3]に示す。[表3]における「反射像の種類」において、「正」は正反射像、「負」は負反射像を表す。「近接間隔」欄には、光軸OMに沿う方向の位置が互いに隣り合う反射像のうち、より近い方の反射像同士の間の光軸OMに沿う方向の距離を表示している。
【0094】
【0095】
[表3]から、近接している反射像であっても、反射倍率の違いを利用して判別できることが分かる。
例えば、第1面で形成された正反射像と、第2面で形成された正反射像と、の近接距離は0.003mmと極めて近いが、反射倍率βは、それぞれ1.000、2.901のように、全く異なる。
例えば、[表1]に示すように、第9面と第12面との見かけの球心の近接距離は0.006mmと極めて近いので、従来のオートコリメーション法では、それぞれの反射像が区別できない。しかし、[表3]に示すように、Lを0.447mmにした測定では、第9面で形成された正反射像に最も近い第11面で形成された正反射像は、0.123mmだけ離れている。例えば、観察光学系の被写界深度が0.03mm程度であれば、表示画面23aに第12面で形成された正反射像を含む、第9面で形成された正反射像以外の反射像が映り込むことはない。この場合、表示画面23aには単独の反射像の画像が観察される。
【0096】
I-O距離Lの設定範囲は、ある程度の自由度がある。しかし、I-O距離Lの大きさによって、観察面F’上に反射像IRiが現れるための光像IP’の光軸OMに沿う方向の位置と、反射倍率βと、が変化する。I-O距離Lの値の誤差の大きさによっては、被検面Siの見かけの球心の偏心量の測定誤差が大きくなったり、反射像を特定する作業に支障を来したりする可能性がある。
例えば、測定光学系20には製造誤差があり、調整レンズ駆動部21にも移動誤差がある。このため、調整レンズ13の移動によって調整された偏心測定装置50のI-O距離は、式(1)から算出した設定値Lからずれている可能性がある。
本実施形態では、参照光学素子を用い、被検面における正反射像の変位DPと、負反射像の変位DNと、を実測することによって、以下のようにしてI-O距離Lを測定できる。これにより、調整レンズ13の移動によって設定したI-O距離Lの値を測定することができる。
参照光学素子としては、無限大でない既知の曲率半径を有する被検面を含む適宜の光学素子を用いることができる。参照光学素子の曲率半径は、設定値Lの50%以上200%以下であることがより好ましい。
【0097】
正反射像の変位DPと、負反射像の変位DNと、は、いずれも式(3)で表される。正反射像および負反射像の測定において、fk、fp、θ、およびpは同一である。このため、正反射像を形成する被検面の反射倍率βをβP、負反射像を形成する被検面の反射倍率βをβNとすれば、下記式(5)が成り立つ。
【0098】
【0099】
ここで、式(5)の右辺をCと置く。式(2)から、{L±√(L2+R2)}/Rの一方がβP、他方がβNなので、式(5)に代入して、式(5)からβP、βNを消去し、Lについて解くと、Rの正負によらず、下記式(a)が得られる。
式(a)におけるRは、測定に用いた参照光学素子における被検面の曲率半径である。
【0100】
【0101】
被検面の曲率半径が既知の参照光学素子を用いて変位D
P、D
Nを実測して、式(a)、(b)に代入すれば、偏心測定装置50において、実際に設定されたI-O距離の値が求められる。以下、変数Cの測定値に基づいて式(a)から求められたLの測定値を、I-O距離の設定値Lと区別するために、測定値Lmと表記する場合がある。
変数Cは、式(5)が示すように、参照面の負の反射倍率に対する正の反射倍率の比である。変数Cの測定に、変位D
P、D
Nを用いるのは一例である。変数Cは、参照面の正および負の反射倍率に比例する適宜の量を用いて測定することができる。
例えば、光像IP’として、
図10に示すような倍率測定部を有する指標を用いる場合には、D
Pに代えて、倍率測定部から算出される正反射像における反射倍率w
Rx/w
Px(=w
Ry/w
Py)を用い、D
Nに代えて、倍率測定部から算出される負反射像における反射倍率-w
Rx/w
Px(=-w
Ry/w
Py)を用いてもよい。
【0102】
I-O距離の測定は、必要に応じて行うことができる。I-O距離は、例えば、I-O距離の設定値Lを変更したときに測定されてもよい。I-O距離は、例えば、測定光学系20に含まれる光学素子、例えば、調整レンズ13、対物レンズ15、および結像レンズ16などを位置調整したり交換したりしたときに測定されてもよい。I-O距離は、例えば、被検光学系41Aの偏心測定を開始する前に測定されてもよい。
本実施形態では、参照光学素子は、後述する基準点の測定にも使用されるので、詳細のI-O距離の測定方法は後述する基準点の測定方法とともに説明する。
【0103】
正反射像の変位DPと負反射像の変位DNとの実測値に基づいて、式(a)から求められた測定値Lmには、測定光学系20の光学素子の製造誤差と調整レンズ13の移動誤差とが反映されている。このため、測定光学系20の光学素子の設計値に基づいて式(1)から計算されるI-O距離の設定値Lの値よりも実際の値に近い。
本測定による測定値Lmの値を偏心測定に用いることにより、偏心測定の測定作業性と測定精度とを向上できる。
すなわち、設定されたI-O距離の値が正確に分かっていると、光軸OMに沿う方向における反射像をより容易に見出すことができる。
設定されたI-O距離の測定値Lmが得られると、式(2)のLに測定値Lmを代入することにより、見かけの被検面siの反射倍率βをより正確に計算できる。このため、被検面Siの見かけの球心の偏心量δの測定精度が向上する。
【0104】
次に、本実施形態の偏心測定方法の詳細について説明する。
図13は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法の例を示すフローチャートである。
【0105】
本実施形態の偏心測定方法は、
図13に示すフローに基づいて、ステップS1~S9を実行する。
ステップS1では、被検光学系41Aの設計データに基づいて、偏心測定の測定条件を設定する。
設計データとしては、例えば、[表A]に記載された、偏心測定を行う被検面Siの枚数、各被検面Siの曲率半径r、面間隔d、屈折率neなどの設計値が挙げられる。設計データは、測定制御部5の記憶部104に記憶される。
設計データには、設計値を用いて算出可能な種々のデータが含まれてもよい。この場合、測定制御部5の全体制御部101は、記憶された設計値を演算処理部102に送出して、偏心測定に必要な数値を、演算処理部102に算出させる。算出された数値は、記憶部104に記憶される。
設計値を用いた算出値として、例えば、[表A]における見かけの面頂Vの位置、見かけの曲率半径R、見かけの球心SCの位置が挙げられる。
ただし、設計データは、他のコンピュータなどで予め計算した算出値を記憶部104に記憶させてもよい。この場合、測定制御部5による演算処理は省略できる。
【0106】
設定すべき測定条件としては、例えば、I-O距離の設定値L、対物レンズ15の選定、参照光学素子の選定、偏心測定に用いる被検面Siごとの反射像の種類の選定などが挙げられる。ただし、反射像の種類は、測定対象の被検面Siの測定を行うまでに選定されていればよく、本ステップで選定されなくてもよい。
【0107】
設定値Lの値としては、測定者が選定してもよいし、各被検面Siの見かけの曲率半径Riに基づいて、測定制御部5が選定してもよい。例えば、設定値Lの値は0.447mmに選定される。
設定値Lの値が選定された後、測定制御部5は、偏心測定に用いる数値のうち、設定値Lと設計データとを用いて計算できる数値を、演算処理部102に計算させてもよい。例えば、[表2]に示すような、光像IP’の投影位置と、反射倍率βと、を、被検面Siごとに演算処理部102に計算させ、計算結果を記憶部104に記憶させてもよい。
【0108】
I-O距離の設定値Lが選定された後、測定者は、対物レンズ15を選定する。
偏心測定装置50では、調整レンズ13の移動範囲に機械的な制約があるので、調整レンズ13の移動範囲内で、I-O距離を設定値Lに設定できるような焦点距離のレンズを対物レンズ15として選定する。その際、ワーキングティスタンス、観察倍率、開口数なども偏心測定に支障がないようなレンズを選定する。
例えば、Lの値が0.447mmの場合、対物レンズ15として、焦点距離、NA、ワーキングティスタンスがそれぞれ、3.6mm、0.3、18mmのレンズが選定されてもよい。この場合、調整レンズ13が作る光像IPが、p=-3.62/(0.447)=-29(mm)の位置になるように、調整レンズ13の位置決めをする必要がある。
【0109】
参照光学素子は、本実施形態では、特に、I-O距離の測定(以下、I-O距離測定と称する)と、測定用イメージャ17上の基準点(X0,Y0)の測定(以下、基準点測定と称する)と、に用いられる。
【0110】
参照光学素子は、曲率半径が知られた球面からなる参照面を有する適宜の種類の光学素子である。参照面は、I-O距離の設定値Lが正の場合、凸面、負の場合には凹面である。参照面は、曲率半径の公差が1μm以下で、かつ、高精度に研磨されていることが好ましい。
参照光学素子は参照面が一つあればよいので、参照光学素子は、例えば、単レンズでよい。参照面が凸面の場合、両凸レンズ、メニスカスレンズ、平凸レンズ、半球レンズ、ボールレンズなどが用いられてもよい。参照面が凹面の場合には両凹レンズ、メニスカスレンズ、平凹レンズなどが用いられてもよい。
参照面は、反射面として用いられるので、面精度が良好で反射像が観察できる程度の反射率があれば材質は特に限定されない。例えば、参照光学素子の材質は、金属、セラミックなどの光を透過しない材質でもよい。
【0111】
参照光学素子の参照面の曲率半径は、I-O距離の設定値Lに近いことがより好ましい。後述するように、被検面の曲率半径がI-O距離Lに近い程、基準点の測定精度が向上する。
ただし、種々の被検光学系41Aに適したI-O距離の設定値Lと同じ曲率半径を有する参照光学素子を準備すると、多大な手間とコストとがかかる。このため、参照面の曲率半径が数種類の参照光学素子を準備しておき、設定値Lと近いものを選択してもよい。
【0112】
以下では、参照光学素子として、直径が0.900mmであって、高精度に研磨されたボールレンズを用いる例で説明する。このボールレンズの曲率半径は0.450mmなので、設定されたI-O距離Lに近い。
【0113】
参照光学素子は、複数のレンズを有し、参照面が第1面よりも後側にあってもよい。この場合、参照面として、見かけの曲率半径がI-O距離Lに近いレンズ面が用いられる。
例えば、被検光学系41において、I-O距離Lに近い見かけの曲率半径を有する被検面が高精度に形成されていることが分かっている場合には、参照光学素子として、被検光学系41自体が用いられてもよい。この場合、後述するステップS3を終えた後、参照光学素子を被検光学系41に交換することなく、ただちに被検光学系41の偏心測定が行えるので、効率的な測定が行える。
【0114】
本実施形態の偏心測定方法における反射像の選定方法を説明する。
本実施形態の偏心測定においては、被検面Siごとに、正反射像および負反射像の一方が観察できればよい。
反射像の種類が選定されると、被検面Siごとに反射像を形成するための光像IP’の投影位置と、反射像の反射倍率と、が決まる。
各被検面Siの測定時に形成する反射像の種類は、例えば、測定作業性の向上、測定誤差の低減などの観点から、適宜選定することができる。例えば、反射像の種類は、測定において好適な投影位置または反射倍率を設定するという観点から選定されてもよい。
反射像の種類の選定は、各被検面Siに関して反射像を形成するための投影位置を決定し、各投影位置に対応する本体部3の移動位置を決定するための準備作業である。
【0115】
偏心測定に必要な測定条件が設定されたら、
図13におけるステップS1が終了する。
図13に示すように、ステップS1が終了した後、ステップS2が実行される。
ステップS2では、偏心測定装置50をセッティングする。
セッティングには、例えば、被検光学系41Aの像の観察に適した対物レンズ15の交換または取り付けと、調整レンズ13の光軸O
Mに沿う方向の位置決めと、が含まれる。調整レンズ13の位置は、対物レンズ15の焦平面F’と投影面P’との光軸O
Mに沿う方向の距離p’が、ステップS1で求めたI-O距離Lの絶対値に一致するように設定される。
セッティングが終了した後、ステップS3が実行される。
【0116】
ステップS1、S2は、被検面を有する被検光学ユニットを保持し、測定用の光像を被検光学ユニットに向かって投影し、投影された光像を被検光学ユニットに対して相対的に直線移動し、投影された光像の被検光学ユニットに対する空気中における相対的な移動軌跡で規定される基準軸に直交する観察面の画像を取得する測定用イメージャを有する偏心測定装置を準備する第1ステップの例である。光像IPは測定用の光像、光像IP’は投影された光像の例である。測定用イメージャ17の像面IBと焦点面F’とは共役となっている。
【0117】
ステップS3では、偏心測定における基準点を測定する。本ステップでは、I-O距離の測定も行う例で説明する。
測定光学系20の設計上の光軸OMは、測定光学系20の各光学系の偏心の誤差のないときの測定光学系20の理想的な軸として説明してきた。しかしながら、測定光学系20の各光学系の偏心の誤差があると、光像IP’が偏心測定装置50の光軸OMと垂直な面内に横ずれする。また、像面IBにおける光像を光電変換する測定用イメージャ17上の中心位置は、焦点面F’(観察面F’)上における光軸OMの交点と共役となるのが設計上理想的であるが、測定光学系20の各光学系の偏心の誤差があると、像面I
B
における光像を光電変換する測定用イメージャ17上の中心位置は、焦点面F’(観察面F’)上において光軸OMの交点から横ずれした点と共役となる。
例えば、偏心測定装置50をセッティングする度に、対物レンズ15および調整レンズ13の偏心の誤差が変化する可能性がある。そのため偏心測定装置50をセッティングする度に、光像IP’、及び、像面I
B
における光像を光電変換する測定用イメージャ17中心の共役な点、は光軸OMと垂直な面内における位置が変化する可能性がある。
また、移動ステージ2のz軸に沿う移動方向は設計上は光軸OMと同じ向きであることが理想的であるが、測定光学系20と移動ステージ2の組み立て誤差や、移動ステージ2の製造誤差により完全に同じ向きになるとは限らず、わずかにずれる可能性がある。
すなわち偏心測定装置50における光軸OMと、光像IP’の移動軌跡で規定される基準軸Omと、は同軸でない可能性があり、かつ、基準軸Omの位置に対応する測定用イメージャ17上の位置は測定用イメージャ17上の中心位置でない可能性がある。
本実施形態では、反射像の基準軸Omからフレ量を測定用イメージャ17で取得した画像から算出する。このため、基準軸Omの位置に対応する測定用イメージャ17上の基準点の位置が正確に知られる必要がある。
さらに、上述したように、I-O距離Lの値が変化すると、反射像の位置と反射倍率とが変化する。設定されたI-O距離Lを実測し、フレ量の算出に反映することによって、フレ量の測定精度が向上できる。
本実施形態では、I-O距離Lの実測値は、基準点の位置の算出にも用いられる。
【0118】
図14は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における基準点測定方法の例を示すフローチャートである。
図15、16は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法におけるI-O距離Lの測定方法を示す模式図である。
ステップS3では、
図14に示すフローに沿ってステップS11~S19を実行する。ステップS12~S16は、I-O距離測定に関するステップである。ステップS17は、基準点測定に関するステップである。
【0119】
ステップS11では、
図1に二点鎖線で示すように、移動ステージ2の移動によって光像IP’が移動可能な範囲に、被検光学系41Aの代わりに参照光学素子43を配置する。参照光学素子43は、ホルダ4aによって保持台4に保持される。
図1に示す参照光学素子43は、保持台4のホルダ4aによって保持されているが、測定中に基台1に対する位置が固定されていれば、参照光学素子43は保持台4以外の部材で保持されてもよい。
【0120】
参照光学素子43としては、例えば、直径0.900mmのボールレンズを使用できる。設定されたI-O距離Lは、正値0.447mmなので、参照光学素子43の前側の凸球面である第1面を本測定における被検面43aとする。被検面43aの曲率半径は0.450mmである。
被検面43aの球心は、例えば、設計上の光軸OMの近く、好ましくは光軸OM上に配置する。z軸に沿う方向の参照光学素子43の保持位置は、被検面43aによる正反射像と負反射像とが観察される各投影位置が、被検光学系41Aの測定に用いられる投影位置と重なる範囲であることがより好ましい。
下記[表4]に、I-O距離Lが0.447mmの場合の、正反射像および負反射像を形成するための光像IP’の投影位置、各反射倍率β、および(1-β)の値を示す。ここで投影位置は、I-O距離を0.447mmに固定して、移動ステージ2を用いて本体部3を移動させたときの投影位置である。このため、測定光学系20における調整レンズ13の位置は固定されている。投影位置の座標系は、参照光学素子43の第1面の面頂を原点として、偏心測定装置50から参照光学素子43に向かう方向を正としている(以下も同様)。
【0121】
【0122】
[表4]に示すように、反射倍率は、正反射像では2.403mm、負反射像では-0.416mmである。被検面43aの偏心に対する反射像の光軸OMに直交する方向のフレの感度を表す(1-β)は、正反射像では-1.403、負反射像では1.416である。
このように、被検面43aの曲率半径をI-O距離Lに近い値に選ぶことによって、反射像のフレの感度の大きさ(|1-β|)が略等しくなっている。
【0123】
ステップS12では、被検面43aで形成された正反射像を観察する。
まず、光源10を点灯した状態で、移動ステージ2をz軸に沿う方向に駆動し、光像IP’を被検面43a上に移動する。光像IP’が被検面43a上に投影されたかどうかは目視で確認してもよいが、より簡便に確認するための機構を偏心測定装置50に準備しておくことがより好ましい。
本実施形態では、
図1に示すように、投影面P’と光学的に共役な位置の像を観察する観察用イメージャ44が配置されている。観察用イメージャ44によって、光像IP’および光像IP’の周囲の映像が幅広い視野で観察可能である。このため、観察用イメージャ44が撮像した映像によって、光像IP’が被検面43a上に投影されているかどうか確認できる。
【0124】
この後、正反射像を観察するために、移動ステージ2をz軸に沿って駆動し、本体部3を参照光学素子43の方へ0.131mm移動させる。
ステップS2で設定した偏心測定装置50上のI-O距離Lの値が、ステップS1で決めたI-O距離Lの設定値と一致していれば、観察面F’に正反射像が形成される。この場合、観察光学系を通して、観察面F’と共役な測定用イメージャ17の撮像面上に像が形成されるので、測定者は、表示部23の表示画面23a上で正反射像を観察できる。
しかし、偏心測定装置50上のI-O距離Lが設定値からずれていると、反射像は観察できない。この場合、測定光学系20が固定された本体部3をz軸に沿って適宜移動させることによって、被検面43aで形成された正反射像を見つける。
【0125】
図15に正反射像I
RP(実線参照)が観察された様子を示す。
表示画面23aの中心O
Bは、測定用イメージャ17に固定されたXY座標系で、例えば(Xc,Yc)のように表される。ここで、X軸、Y軸は、偏心測定装置50のx軸、y軸にそれぞれ平行である。
全体制御部101は、測定用イメージャ17から送出される画像を画像処理部103によって画像処理させることにより、正反射像I
RPの中心O
Pの位置座標(X
P,Y
P)を算出させる。
以上で、ステップS12が終了する。
【0126】
この後、ステップS13が実行される。
ステップS13では、光像IP’を光軸O
Mと直交する方向にずらして、正反射像I
RPの変位D
Pを測定する。
測定者は、操作部24を介して、ウェッジプリズム18を平行光束F2の光路中に挿入する操作入力を行う。測定制御部5の全体制御部101は、操作入力を検知すると、シフト量コントローラ107に制御信号を送出し、ウェッジプリズム駆動部22を駆動する。これにより、ウェッジプリズム18が平行光束F2の光路中に進出する。
これにより、例えば、光像IP’がx軸に沿う方向にずれる。この結果、正反射像I
RPは、
図15に破線で示す正反射像I
RP’の位置にずれる。全体制御部101は、正反射像I
RP’の中心O
P’の位置座標(X
P’,Y
P’)を算出させる。
全体制御部101は、O
P(X
P,Y
P)と、O
P’(X
P’,Y
P’)とを演算処理部102に送出し、演算処理部102に正反射像I
RP’の変位D
Pを算出させる。算出値は、記憶部104に記憶される。
以上で、ステップS13が終了する。
【0127】
この後、ステップS14が実行される。
ステップS14では、被検面43aで形成された負反射像を観察する。
ステップS12と同様にして、光像IP’が被検面43a上に投影される位置に本体部3を移動した後、負反射像を観察するために、本体部3を参照光学素子43の方へ0.766mm移動させる。
反射像が観察できない場合には、ステップS52と同様、移動先から本体部3をz軸に沿って適宜移動させることによって、被検面43aで形成された負反射像を見つける。
【0128】
図16に負反射像I
RN(実線参照)が観察された様子を示す。
全体制御部101は、ステップS12と同様にして、負反射像I
RNの中心O
Nの位置座標(X
N,Y
N)を算出させる。
以上で、ステップS14が終了する。
【0129】
この後、ステップS15が実行される。
ステップS15では、ステップS13と同様にして光像IP’を光軸OMと直交する方向にずらして、負反射像IRNの変位DNを測定する。
全体制御部101は、負反射像IRN’の中心ON’の位置座標(XN’,YN’)を算出させ、ステップS54で算出させたON(XN,YN)と、ON’(XN’,YN’)と、を演算処理部102に送出し、演算処理部102に負反射像IRN’の変位DNを算出させる。算出値は、記憶部104に記憶される。
以上で、ステップS15が終了する。
【0130】
この後、ステップS16が実行される。
ステップS16では、変位DP、DNと、参照光学素子43の被検面43aの曲率半径Rと、に基づいて、I-O距離Lを算出する。
全体制御部101は、変位DP、DNと、曲率半径Rと、の値を、演算処理部102に送出し、演算処理部102によってI-O距離Lを算出させる。
演算処理部102は、上述した式(a)、(b)に基づいて、I-O距離Lの値を算出する。これにより、I-O距離Lの測定値Lmが求められる。Lmの値は、全体制御部101に送出され、記憶部104に記憶される。
以下では、このようにして測定されたI-O距離Lの値が、0.510mmであったとして説明する。
以上で、ステップS16が終了し、I-O距離測定が終了する。
【0131】
以上のステップS11~S16では、正反射像を観察し、変位DPを測定した後、負反射像を観察し、変位DNを測定する例で説明したが、負反射像を観察し、変位DNを測定した後、正反射像を観察し、変位DPを測定してもよい。すなわち、ステップS14、S15の後、ステップS12、S13が実行されてもよい。
【0132】
この後、ステップS17が実行される。
ステップS17では、ステップS56で算出されたI-O距離Lの測定値に基づいて基準点を算出する。
本明細書における基準点は、反射像のフレ量の測定における原点とすべき点である。反射像のフレ量は、測定用イメージャ17上に画像から算出されるので、測定用イメージャ17の中心OBに基準点が一致していると好都合である。しかし、偏心測定装置50および測定光学系20には製造誤差および組立誤差が存在するので、中心OBは、偏心測定では許容できない程度に基準点からずれていることが多い。保持台4が被検物を測定の基準軸回りに精度よく回転できる回転保持機構を有する場合には、反射像の回転中心を基準点とすればよい。
しかし、例えば、内視鏡の先端部のような被検物では、先端部の後端に湾曲部および可撓管部が接続されて長尺であり、先端部を回転させるには、先端部とともに湾曲部および可撓管部も共に回転させなければならない。このため、内視鏡の先端部のような被検物の回転保持機構を設けることは難しい。
本実施形態では、光像IP’の移動軌跡を偏心測定の基準軸Omとしている。この場合、基準点は、測定用イメージャ17の撮像面と光学的に共役な観察光学系の物体面である観察面F’と、光像IP’の移動軌跡との交点である。
【0133】
ステップS17の具体例を説明する前に、本実施形態における基準点測定の原理を説明する。
図17は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における基準点測定の原理を説明する模式図である。
図18は、反射倍率に応じた基準点測定の不確かさの変化を示すグラフである。
【0134】
図17には、参照光学素子43の被検面43aを用いて正反射像および負反射像を測定する際の、被検面43aの球心C
refと、光像IP’と、正反射像I
RPおよび負反射像I
RNと、の位置関係を模式的に示している。ただし、簡単のために、被検面43aの球心C
refの偏心量δがx軸に沿う方向のみに生じているとした。
【0135】
z軸に沿う方向における点zpに光像IP’が投影される(
図17には、(IP’)
zpと表記)と、点zpよりもz軸負方向側にLだけ離れた像面I
Pに正反射像I
RPが形成される。同様に、点znに光像IP’が投影される(
図17には、(IP’)
znと表記)と、点znよりもz軸負方向側にLだけ離れた像面I
Nに負反射像I
RNが形成される。偏心測定装置50による光像IP’は、点zp、znを通る直線O
L上を移動している。正反射像I
RPの像面I
P上における直線O
Lからのフレ量は、(1-β
P)δである。負反射像I
RNの像面I
N上における直線O
Lからのフレ量は、(1-β
N)δである。ここでβ
P、β
Nは、それぞれ正反射像の反射倍率、負反射像の反射倍率である。
観察光学系における観察面F’を像面I
P、I
Nに一致するように移動させると、像面I
P、I
Nにおける各反射像は、それぞれ観察光学系の像面I
Bにおいて観察される。観察面F’は測定光学系20および光像IP’とともに移動しているので、観察面F’と直線O
Lとの交点である基準点X
0は、光像IP’のz軸に沿う方向の位置に依存せず観察面F’ 上において同じ位置となる。
このため、観察面F’を像面I
Pに一致させた際の正反射像I
RPの観察面F’上の位置X
Pと、観察面F’を像面I
Nに一致させた際の負反射像I
RNの観察面F’上の位置X
Nと、は、基準点X
0と下記式(6)、(7)の関係にある。
【0136】
【0137】
式(6)、(7)からδを消去して、X0について解くと、下記式(c)が得られる。
【0138】
【0139】
同様にして、y軸に沿う方向の基準点Y0としては、下記式(d)が得られる。
【0140】
【0141】
以上、(XP,YP)、(XN,YN)、(X0,Y0)は、観察面F’上における位置として説明したが、(XP,YP)、(XN,YN)、(X0,Y0)は、観察光学系の像面IB上の位置座標と一対一の関係にあるので、像面IB上の位置情報から測定できる。
【0142】
ここで、基準点(X0,Y0)の測定精度を向上するための条件について説明する。
式(c)、(d)は、像面IPにおける正反射像IRPと像面INにおける負反射像IRNとの位置情報の測定値(XP,YP)、(XN,YN)を含んでいるので、測定誤差に伴う不確かさuを含んでいる。
不確かさの伝搬側から、合成標準不確かさucは、下記式(8)で表される。
【0143】
【0144】
式(8)において、u2の係数である中かっこ内の式をfとおく。ここで、βP>0、βPβN=-1を用い、βP=βと置換すれば、fは、β>0の範囲で、次式(9)に示すようなβの関数で表される。式(8)の小かっこ内の分母の(βP-βN)2は、(βN-βP)2としてもfの値は変わらないので、式(9)は、β<0に関しても同様に成り立つ。
【0145】
【0146】
図18に示す曲線200は、fのグラフ(ただし、β≠0)である。
図21において、横軸はβ、縦軸はfである。
測定誤差に起因する合成標準不確かさu
cを最小にするには、曲線200の最小値を取るβを選択すればよい。fをβで微分して曲線200の最小値を求めると、fは、β=1±√2において、それぞれ最小値0.5を取ることが分かる。
β=-1±√2のとき、fは最大値1.5を取る。β=±1では、fは1である。βが±∞に近づくと、fは1に漸近する。
したがって、基準点測定をβ
P=1+√2、β
N=1-√2の条件で行うことによって、他の条件に比べるとu
cが1/√2倍から1/√3倍程度小さくなることが分かる。
fの最小値を与えるβを式(2)に代入すると、L=Rの関係が得られる。
すなわち、I-O距離Lの値を、参照光学素子43の曲率半径Rと一致させることによって、測定誤差に起因する基準点の不確かさを最小化できることが分かる。このとき、1-β
P=-√2、1-β
N=√2になるので、被検面43aの偏心量δに関する正反射像の感度の大きさと負反射像の感度の大きさとが互いに等しくなる。
よって、基準点を高精度に測定するために、参照光学素子43は、設定するI-O距離Lと同じ曲率半径のものを用いるのが好ましい。あるいは、参照光学素子43の曲率半径は、設定値Lの50%以上200%以下であることがより好ましい。
【0147】
ステップS17の具体例の説明に戻る。
図19は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法において求められた基準点の例を示す模式図である。
下記[表5]に、I-O距離Lの測定値Lmが0.510mmの場合の、光像IP’の投影位置、正反射像および負反射像の反射倍率β、および(1-β)の計算値を示す。
【0148】
【0149】
[表5]に示すように、投影位置は、正反射像では0.140mm、負反射像では、0.820mmである。反射像の倍率βは、正反射像では2.645、負反射像では-0.378である。(1-β)は、正反射像では-1.645、負反射像では1.378である。
まず、ステップS12と同様にして、正反射像を観察する。ただし、光像IP’を被検面43aに合わせた後の、移動ステージ2の駆動量は、[表5]に基づいて、0.140mmとする。
測定者は、必要に応じて、移動ステージ2の駆動量を調整し、正反射像を見つける。
図19には、表示画面23aに表示された正反射像I
RPを実線で示す。ステップS12と同様にして、正反射像I
RPの位置座標(X
P,Y
P)が算出される。
この後、ステップS14と同様にして、負反射像I
RNを観察する。ただし、光像IP’を被検面43aに合わせた後の、移動ステージ2の駆動量は、[表5]に基づいて、0.820mmとする。
測定者は、必要に応じて、移動ステージ2の駆動量を調整し、負反射像を見つける。
図19には、表示画面23aに表示された負反射像I
RNを破線で示す。ステップS14と同様にして、負反射像I
RNの位置座標(X
N,Y
N)が算出される。
【0150】
この後、I-O距離Lの測定値Lmに基づいて計算されたβP、βNと、位置座標(XP,YP)、(XN,YN)を、式(c)、式(d)に代入して基準点の座標(X0,Y0)を算出する。この計算は、全体制御部101の制御信号に基づいて、演算処理部102が行う。算出された(X0,Y0)は、記憶部104に記憶される。(X0,Y0)はI-O距離Lが設計値でなく実際に近い値を使うことでより正確なβP、βNを用いて算出される。参照光学素子43が直線OLに対して偏心していたとしても、(X0,Y0)が正確な値として算出される。
以上で、ステップS17が終了する。
なお、ステップS17では、正反射像を観察した後、負反射像を観察する例で説明したが、負反射像を観察した後、正反射像を観察してもよい。
【0151】
ステップS17の後、ステップS18が実行される。
ステップS18では、測定を終了するかどうか判定する。
ステップS17における基準点測定は、被検面43aが基準軸である直線O
Lから偏心した状態で行われている。被検面43aの曲率半径R、I-O距離の測定値Lmの測定に誤差があると反射倍率の誤差が変化するので、基準点の測定誤差の要因となる。
R、Lmの測定誤差の影響をより低減するには、被検面43aの偏心がない状態で基準点を測定することによって、より高精度なI-O距離測定および基準点測定が行える。
例えば、参照光学素子43の偏心量の大きさは、
図19に示すように、基準点からの反射像のフレ量に基づいて判断できる。
測定者は、反射像のフレ量の大きさなどに基づいて、測定を終了するかどうか判定する。なお、この判定は、測定制御部5がフレ量を算出して予め決められた許容値に基づいて自動的に行ってもよい。
測定を終了する場合には、全体制御部101は、最後に実行したステップS16で算出されたI-O距離Lの測定値Lmに基づいて、被検面Siごとに選定された反射像を形成するための本体部3の移動位置と、選定された反射像の反射倍率と、演算処理部102に算出させ、各算出結果を記憶部104に記憶させる。
以上で、
図13におけるステップS3が終了する。
測定を終了しないと判定した場合に、ステップS19が実行される。
【0152】
ステップS19では、正反射像I
RPまたは負反射像I
RNの中心がステップS17で測定された基準点(X
0,Y
0)に移動するように、参照光学素子43のz軸に直交する方向の位置を調整する。
図20は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における参照光学素子の移動後の表示画面の例を示す模式図である。
本ステップにおける位置調整は、ステップS17の測定時に存在した、直線O
Lに関する偏心量δが0になるように調整し、被検面43aの球心C
refを直線O
L上に位置させることに相当する。
正反射像I
RPおよび負反射像I
RNのいずれを観察して位置調整するかは、特に限定されない。例えば、ステップS17の終了時に、観察されている反射像が用いられてもよい。この場合、移動ステージ2を再駆動しなくてよいので、迅速な測定が行える。
図20に参照光学素子43の位置調整後に、それぞれの反射像の位置で観察される反射像を重ねて示す。一方の反射像を基準点(X
0,Y
0)に合わせると、他方の反射像も基準点(X
0,Y
0)に位置する。
以上で、ステップS19が終了する。
【0153】
ステップS19の後、ステップS12~S17が実行される。これにより、被検面43aの偏心が抑制された状態で、ステップS16で測定されたI-O距離Lにわずかな誤差が残存していたとしても、高精度に基準点を測定することができる。
なお、ステップS19の後、ステップS12~S17において、I-O距離Lも再測定することで、対物レンズ15のディストーション等の収差を持っていたとして高精度にI-O距離Lを測定することができる。ただし、対物レンズ15のディストーション等の収差が無視できる場合は、必ずしもI-O距離Lの再測定は行わなくても良い。
【0154】
ステップS3が終了すると、以後、測定光学系20のセッティングを変更しない限り、ステップS17で最後に算出した基準点(X0,Y0)を、反射像のフレ量測定の原点として用いることができる。これは、偏心測定の基準軸Omが、参照光学素子43を用いた実測に基づいて、光像IP’の軌跡である直線OLによって規定されたことに相当する。
このため、本実施形態では、被検物を回転して反射像のフレ中心を求めて偏心測定の原点を決める必要がない。この結果、被検物が回転保持できない形態であっても、高精度かつ迅速に偏心測定が行える。
【0155】
ステップS3は、測定用イメージャが取得する画像において、観察面および基準軸の交点と対応する基準点の位置を特定する第2ステップの例である。
【0156】
図13に示すように、ステップS3の後、ステップS4が実行される。
ステップS4では、被検光学系を含む被検光学ユニットを保持台に保持する。
例えば、
図1に示すように、参照光学素子43に代えて、被検光学系41Aを含む先端部40を保持台4のホルダ4aに保持させる。このとき、先端部40は、被検光学系41Aの設計上の光軸が、ステップS3によって求められた基準軸O
mと同軸になるように配置されることがより好ましい。ただし、被検光学系41Aの設計上の光軸と基準軸O
mとは、同軸でなくてもよい。この場合、基準軸O
mからの各被検面Siの偏心量が全体としてずれるだけなので、被検光学系41Aにおける各被検面Siの相対的な偏心量は正確に測定できる。
【0157】
ステップS4は、被検光学ユニットを基準軸上に配置する第3ステップの例である。
上記の説明では、参照光学素子43に代えて、被検光学系41Aを含む先端部40を保持台4のホルダ4aに保持させることによって、被検光学ユニットを基準軸上に配置している。しかし、偏心測定装置50は、参照光学素子43と被検光学系41Aを含む先端部40との載せ替えを省略できるように構成されてもよい。
例えば、保持台4は、参照光学素子43と被検光学系41Aとを、例えば、x軸方向において離れて同時に保持できるようにする。さらに、移動ステージ2は、本体部3をx軸方向にも平行移動できるようにしておく。この場合、本体部3を参照光学素子43に対向する位置に移動した状態で、上述のステップS3を実行する。この後、ステップS4では、被検光学系41Aに向かって光像IP’を投影できる位置に、移動ステージ2を用いて本体部3をx軸方向に平行移動させる。
このようにすれば、ステップS4において、参照光学素子43と先端部40との載せ替えなくてよいので、迅速に、次のステップS5を実行できる。
【0158】
先端部40の保持が終了した後、ステップS5が実行される。
ステップS5では、測定対象の被検面Siを測定順に特定するためのカウンタjを1に設定する。
カウンタjと、各被検面Siの面番号と、は、本ステップが実行されるまでに、全体制御部101によって関係づけられる。全体制御部101は、各被検面Siの測定順に1からNまで番号を付ける。ここで、Nは測定対象の被検面Siの枚数である。この関係づけは、ステップS1において、反射像の種類の選定が終了した後に行われてもよい。
被検面Siの測定順序は、特に限定されない。例えば、被検面Siの測定順序は、被検面Siの面番号の順でもよいし、対物レンズ15との近さの順でもよい。例えば、被検面Siの測定順序は、被検面Siの測定を行うための投影位置が、対物レンズ15に近い方から遠い方に向かって並ぶような順でもよい。
【0159】
ステップS5の後、ステップS6が行われる。
図21は、本発明の第1の実施形態に係る偏心測定方法における反射像のフレ量の測定例を示す模式図である。
【0160】
ステップS6では、カウンタjに対応する被検面Siの反射像のフレ量(dxj、dyj)を測定する。
全体制御部101は、カウンタjに対応する被検面Siにおいて選定済みの反射像が観察できる光像IP’の位置を、記憶部104から読み出して、搬送部コントローラ105に送出する。搬送部コントローラ105は、移動ステージ2を駆動して、本体部3を移動させる。
【0161】
この後、測定者は、表示画面23aを見て、カウンタjに対応する被検面Siの反射像が観察されたかどうか判定する。
反射像が観察されないか、ぼけている場合には、操作部24を操作して、移動ステージ2の位置を微調整し、適正な反射像を観察する。
複数の反射像が観察されている場合には、測定者または測定制御部5によって、適宜の判別法による反射像の判別が実施される。例えば、上述した反射像の判別法のいずれかが実施されてもよい。これにより、適正な反射像を特定される。
反射像が複数存在する場合には、例えば、測定者が、操作部24におけるGUI(Graphical User Interface)などを通して、予めフレ量を算出する反射像を選択できるようにしてもよい。または、複数の反射像のフレ量を測定制御部5がそれぞれ算出した後、測定者の操作入力によって、適正な反射像のフレ量を選択できるようにしてもよい。
図21に、jに対応する反射像I
Rjが表示された表示画面23aを示す。
【0162】
この後、測定者は、操作部24を通して、反射像IRjの位置座標(Xj,Yj)および基準点からのフレ量(d’xj、d’yj)を算出させる操作入力を行う。
全体制御部101は、画像処理部103に反射像IRjの中心ORの位置座標を算出させる。中心ORの位置座標と基準点(X0,Y0)とから演算処理部102は、測定用イメージャ17の撮像面である像面IB上における反射像の基準点からのフレ量の実寸値(d’xj,d’yj)を算出する。ただし、添字x、yは、像面IBと光学的に共役な観察面F’でのxy座標系におけるx軸方向およびy軸方向に相当する量であることを示す。添字jは、カウンタjの値を表す(以下も同様)。
さらに、演算処理部102は、下記式(10)~(13)に基づいて、反射像IRjの観察面F’における基準軸Omからのフレ量(dxj,dyj)と、被検面Siの見かけの球心の偏心量(δxj,δyj)と、を算出する。
【0163】
【0164】
ここで、fTは対物レンズ15の焦点距離、fkは結像レンズ16の焦点距離、βjは、jに対応する見かけの被検面siで反射した反射像IRjの光像IP’に対する反射倍率である。反射倍率βjは、ステップS3の終了時に、I-O距離Lの測定値Lmを式(2)のLに代入した値が用いられる。
算出されたフレ量dxj、dyjおよび被検面Siの見かけの球心の偏心量δxj、δyjは、記憶部104に記憶される。
以上で、ステップS6が終了する。
【0165】
ステップS6は、光像を基準軸上の投影位置に投影し、基準軸に沿う投影位置との距離が設定値Lになるように設定された観察位置に、被検面で反射された光像の反射像を形成する第4ステップと、観察位置における観察面の画像を測定用イメージャを用いて撮像し、測定用画像を取得する第5ステップと、測定用画像において、観察位置における前記反射像の画像を特定する第6ステップと、特定された反射像の画像の基準点からの位置ずれ量を測定する第7ステップと、位置ずれ量に基づいて、基準軸に対する被検面の見かけの球心の偏心量を算出する第8ステップと、が含まれたステップの例である。
【0166】
ステップS6の後、ステップS7が実行される。
ステップS7では、カウンタjが更新される。
【0167】
ステップS7の後、ステップS8が実行される。
ステップS8では、カウンタjの値が、被検面Siの個数Nより大きいかどうか判定する。測定制御部5によって実行する場合には、全体制御部101が記憶部104に記憶されたNの値と、jの値と、を比較する。
jがNより大きい場合には、ステップS9が実行される。
jがNより大きくない場合には、ステップS6が実行される。
【0168】
ステップS9では、本ステップまでに測定した各被検面Siの見かけの球心の偏心量δj(j=1,…,N)を用いて、各被検面Siの偏心量εi(i=1,…,N)を算出する。
ただし、以下では、変数の下付き添字jは、各被検面Siを、被検光学系41Aの前側、すなわち、対物レンズ15に近い方から順に並べた場合の、前側からの順序を表す。
前側からn番目の被検面Sinの見かけの球心の偏心量δxnは、1番目からn番目までの各被検面Sij(j=1,…,n)の各偏心量εxjの一次結合で表される。同様に、被検面Sinの見かけの球心の偏心量δynは、各被検面Sij(j=1,…,n)の各偏心量εynの一次結合で表される。ただし、各見かけの球心の偏心量(δxj、δyj)は、基準軸Omに対するシフト量を表し、偏心量εxj、ε
yjは、基準軸Omに対する被検面Siのチルト偏心量を表す。被検面Sijのチルト偏心量は、被検面Sijの球心のシフト量を被検面Sijの曲率半径Rjで割ることによって求められる。
このため、各被検面Sijの各見かけの球心の偏心量δxj、δyjは、一次結合の係数からなるマトリクスを用いて、下記式(14)、(15)で表される。一次結合の係数aij(i=1,…,N、j=1,…,N)は、被検光学系41Aの設計データに基づいて予め求めておき、記憶部104に記憶されている。
このマトリクスを、偏心マトリクスと称すると、被検光学系41Aは、軸対称光学系なので、式(14)の偏心マトリクスと式(15)の偏心マトリクスとは、互い等しい。
【0169】
【0170】
全体制御部101は、演算処理部102に、式(14)、(15)から、各偏心量εxj、ε
yjを算出する演算を実行させる。これにより、各被検面Siの偏心量εxj、ε
yjがそれぞれ求められる。
求められた各偏心量εxj、ε
yjは、記憶部104に記憶され、必要に応じて、表示部23に表示される。
【0171】
式(12)、(13)から分かるように、見かけの球心の偏心量(δxj、δyj)には、見かけの被検面siにおける反射倍率βjが含まれている。このため、反射倍率βjの誤差が、各偏心量εxj、ε
yjの誤差に影響する。
本実施形態では、反射倍率βjとして、I-O距離Lの測定値Lmに基づいて算出された値を用いるので、偏心測定装置50におけるI-O距離Lの設定誤差を補正した測定が行える。このため、I-O距離Lの設定値を用いた計算に比べて高精度に被検面Siの偏心量を測定することができる。
【0172】
ステップS9は、ステップS6がN個の被検面Siに関して実行された後、算出された見かけの球心の偏心量の値に基づいて、基準軸に対する被検面のそれぞれの偏心量を算出する第9ステップの例である。
【0173】
本実施形態における全体制御部101は、測定用イメージャが取得した観察位置における画像に基づいて、観察面および基準軸の交点と対応する基準点からの位置ずれ量を測定し、位置ずれ量に基づいて、基準軸に対する被検面の見かけの球心の偏心量を算出する偏心量算出部の例である。
【0174】
以上説明したように、本実施形態の偏心測定装置50によれば、本実施形態の偏心測定方法を実行することができる。
【0175】
本実施形態では、光像IP’を被検光学系41Aに対して直線移動し、空気中における光像IP’の移動軌跡で規定される基準軸Omに直交する観察面F’の画像を測定用イメージャ17で取得する。ステップS3において、測定用イメージャ17における基準点の座標が測定されるので、測定用イメージャ17で取得した画像上で、反射像IRの基準点からのフレ量が測定できる。このため、被検光学系41Aを回転させなくても、正確に偏心測定が行える。
特に、本実施形態によれば、被検光学系41Aを回転させない方法であっても、イメージローテータを用いる方法に比べて迅速かつ容易に偏心測定が行える。
さらに、本実施形態では、I-O距離の設定値が0でない不等倍法によって、光像IP’から光軸OMに沿う方向にI-O距離だけ離れた位置に生じる反射像IRを観察する。このため、画像上に複数の反射像が現れても、反射倍率の相違に基づいて測定対象の反射像を容易に判別できる。
なお、上記における不等倍法の説明においては、光像IP’から光軸OMに沿う方向にI-O距離だけ離れた位置に生じる反射像IRを観察すると便宜上記載したが、光像IP’と観察面F’は基準軸Omに沿って一体的に移動し、しかも、光軸OMと基準軸Omのなす角度は、例えば1度以下になるように設計されるため、実質的には光像IP’から基準軸Om方向にI-O距離だけ離れた位置に生じる反射像IRを観察していることと相違ない。
【0176】
本実施形態では、目標のI-O距離Lを偏心測定装置50に設定した後、既知の曲率半径を有する参照光学素子43を用いて、I-O距離Lを測定し、I-O距離Lの測定値Lmに基づいて偏心測定の基準点を求めることができる。このため、偏心量をより高精度に求めることができる。
本実施形態では、I-O距離Lの測定値Lmが、倍率誤差βiの算出にも用いられる点でも、偏心量をより高精度に求めることができる。
【0177】
以上説明したように、本実施形態の偏心測定方法および偏心測定装置によれば、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく測定することができる。
特に、本実施形態では、L≠0としているので、被検光学ユニットの各光学面の見かけの球心の位置が近接する場合でも、高精度かつ迅速に偏心測定することができる。
【0178】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る偏心測定装置および偏心測定方法を説明する。
図1に示すように、第2の実施形態に係る偏心測定装置50Aは、第1の実施形態に係る偏心測定装置50の測定制御部5に代えて、測定制御部5Aを有する。
図2に示すように、測定制御部5Aは、第1の実施形態における測定制御部5の全体制御部101に代えて全体制御部101Aを有する。
以下、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0179】
偏心測定装置50Aの被検光学ユニットは、第1の実施形態と同様の光学ユニットが使用可能である。ただし、以下では、本実施形態の特徴的な作用が分かりやすいように、被検光学系41Aに代えて、被検光学系41Bを有する例で説明する。
まず、被検光学系41Bの構成を説明する。
図22は、被検光学系の一例を示す断面図である。
図22の(a)は遠点観察状態のレンズ断面図、(b)は近点観察状態のレンズ断面図である。
【0180】
図22の(b)に示すように、被検光学系41Bは、本実施例は、物体側から順に、負の屈折力の前群G
o
と、正の屈折力の中間群G
f
と、正の屈折力の後群G
t
と、を有する。
前群G
o
は、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL11と、両凹負レンズL12と、両凸正レンズL13と、から構成される。負レンズL12と正レンズL13は互いに接合されている。
【0181】
中間群G
f
は、フィルタFB1と、明るさ絞りSBと、物体側に平面を向けた平凸正レンズL14と、から構成される。
【0182】
後群G
t
は、物体側に平面を向けた平凹負レンズL15と、両凸正レンズL16と、両凸正レンズL17と、像側に凸面を向けた負メニスカスレンズL18と、両凸正レンズL19と、両凹負レンズL20と、カバーガラスFB2と、カバーガラスCGBと、から構成される。平凹負レンズL15と両凸正レンズL16とは互いに接合されている。両凸正レンズL17と負メニスカスレンズL18とは互いに接合されている。両凸正レンズL19と両凹負レンズL20とは互いに接合されている。
【0183】
I41Bは、被検光学系41Bの像面である。I41Bには、内視鏡イメージャ42の撮像面が配置される。
【0184】
下記[表B]に、被検光学系41Bの設計値の数値データを示す。[表B]において、r欄、d欄、ne欄は、[表A]と同様に定義される。νd欄は各レンズのアッベ数である。
図22の(a)には、面番号s(ただし、s=1,…,22)の曲率半径、面間隔が、それぞれr
s、d
sとして記載されている。第1面および第2面は、非球面であるが、非球面データは省略している。
【0185】
[表B]
面番号 r d ne νd
1 2.9142 0.4000 1.81078 40.86
2 1.0606 0.8400 1.00000 -
3 -18.3770 0.5000 2.01169 28.27
4 2.6340 1.2000 1.85504 23.76
5 -8.5320 可変 1.00000 -
6 ∞ 0.3000 1.523 65.13
7 ∞ 0.0300 1.00000 -
8(絞り)∞ 0.1100 1.00000 -
9 ∞ 0.3500 1.65425 58.55
10 -35.6450 可変 1.00000 -
11 ∞ 0.4000 2.01169 28.27
12 9.9720 0.7800 1.80642 34.97
13 -3.3750 0.0800 1.00000 -
14 24.6880 0.9000 1.73234 54.68
15 -2.7820 0.5300 1.93429 18.90
16 -5.6250 1.2453 1.00000 -
17 3.3750 1.3000 1.73234 54.68
18 -3.3750 0.3500 2.01169 28.27
19 8.0420 0.8560 1.00000 -
20 ∞ 0.5000 1.51825 64.14
21 ∞ 0.4000 1.50700 63.26
22 ∞ 0.0000 1.00000 -
撮像面 ∞
各種データ
面間隔 遠点物体 近点物体
(物体距離60mm) (物体距離31mm)
d5 0.2100 0.6800
d10 0.7200 0.2500
【0186】
以下では、被検光学系41Bにおいて、偏心測定装置50Aによる偏心測定の対象となる被検面Siを、第8面と第22面を除く面番号1~7、9~21の20面であるとして説明する。各被検面Siには、面番号の順に1から20までの被検面番号を付す。
下記[表6]に、被検面番号をj(j=1,…,20)として、各被検面Siにおける見かけの面頂の位置Vj(mm)、見かけの曲率半径Rj(mm)、見かけの球心の位置SCj(mm)の計算値を示す。見かけの面頂の位置Vjの定義および座標系は、上記[表A]と同様である。
ただし、第5面および第10面は、近点物体である物体距離31mmに対応して、それぞれ0.6800mm、0.2500mmとした。
【0187】
【0188】
本実施形態の偏心測定方法は、不等倍法における反射像の種類の選定方法に関する。本実施形態では、測定に用いる反射像を形成するための投影位置の基準軸Omに沿う方向における分布範囲が最小になるように選定する。
このような選定が行われる場合の作用について、等倍法を用いる比較例と対比して説明する。
下記[表7]は、被検光学系41Bを等倍法によって偏心測定する場合の被検面番号と投影位置との対応関係を示す。ただし、被検面番号は、対応する投影位置が対物レンズ15に対して遠い方から近い方に向かうように並べ替えられている。
等倍法では投影位置は、反射像が観察される観察位置でもある。
【0189】
【0190】
[表7]に示すように、等倍法では、被検面Siによる反射像をすべて測定する場合に、光像の投影位置を、被検面番号13(第14面)に対応する-1.690mmの位置から、被検面番号16(第17面)に対応する40.511mmの位置まで、42.201mm移動させる必要がある。
【0191】
移動ステージ2の光学系搬送部2bはガイド2aの真直度・ピッチング・ヨーイング等の精度の範囲でしか移動できないので、光像IP’の空気中における移動軌跡は完全な真直にはならない。
移動ステージ2によって、本体部3を42.201mm移動させる間に、光像IP’の空気中における移動軌跡の真直度が低くなると、偏心測定の基準点の位置座標の誤差になるので、被検面Siの偏心量の誤差要因となる。
【0192】
これに対して、I-O距離Lを1mmとして、不等倍法によって偏心測定を行う場合、反射像の種類に応じた投影位置をすべて列挙すると、下記[表8]に示す値になる。ここで、[表7]と同様、被検面番号に対応する投影位置が対物レンズ15に対して遠い方から近い方に向かうように並べ替えられている。[表8]では、並び順を降順に40から1として表示している。
【0193】
【0194】
[表8]に示すように、被検光学系41Bの場合、I-O距離Lを1mmに設定した場合の投影位置は、負反射像を形成する被検面番号13(第14面)に対応する-1.262mmの位置から、負反射像を形成する被検面番号16(第17面)に対応する41.018mmの位置まで、42.280mmの範囲に分布している。
不等倍法では、被検面Siごとに、正反射像および負反射像のいずれかを測定すればよいので、被検面Siごとに反射像の種類を選定することで、測定に必要な投影位置の分布範囲をより狭くすることができる。
下記[表9]に反射像の種類の選定例を示す。
【0195】
【0196】
[表9]の選定例によれば、投影位置は、正反射像を形成する被検面番号1(第1面)に対応する0.417mmの位置から、正反射像を形成する被検面番号16(第17面)に対応する2.634mmの位置まで、2.218mmの範囲に分布している。このため、投影位置の分布範囲は、等倍法における投影位置の分布範囲に約5%程度と格段に短距離になっている。
移動ステージ2のガイド2aの案内機構の真直度は、ガイド2aに沿う距離が長くなるほど低精度になる。このため、光学系搬送部2bの移動距離が短いほど、光像IP’の空気中における移動軌跡の真直度が向上する。
本実施形態においては、投影位置の分布範囲を最小化するので、偏心測定の精度を向上できる。
【0197】
例えば、ガイド2aを局所的な範囲で使用する場合は、ガイド2aの誤差によって、単位長さあたりのチルトの姿勢が単調変化するとみなせる。この場合、移動ステージ2の駆動による光像IP’の空気中における移動軌跡は2次曲線の変化となる。移動距離をZとすると移動軌跡の真直度はαZ2/8程度と見積ることができる。ただし、αは、単位長さあたりのチルト姿勢の変化量である。
偏心測定に必要な精度を仮に20nmとして、その半分の10nmを移動軌跡の真直度として許容できるようにすると、αZ2/8≦10nmを満たす必要がある。
例えば、ガイド2aが1mmあたり1秒のチルトの姿勢が単調変化するとみなせる場合、α=1(秒/mm)=4.85×10-6(rad/mm)なので、Z≦4.1(mm)以下であれば、十分な偏心測定精度が得られる。
この点でも、光像IP’の移動量を規定する投影位置の分布範囲が2.218mmであると、高精度に偏心測定できることが分かる。
【0198】
次に、本実施形態の偏心測定方法の例について詳細に説明する。
図13に示すように、本実施形態の偏心測定方法は、ステップS1に代えてステップS21を有する。以下、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
ステップS21は、反射像の種類の選定方法以外は、ステップS1と同様である。ただし、第1の実施形態と同様、反射像の種類は、測定対象の被検面Siの測定を行うまでに選定されていればよく、本ステップで選定されなくてもよい。
【0199】
図23は、本発明の第2の実施形態に係る偏心測定方法における反射像の種類の選定方法の例を示すフローチャートである。
ステップS21における反射像の選定方法は、
図23に示すフローに基づいて、ステップS31~S43を実行する。
【0200】
ステップS31では、被検光学系41Bの各被検面Siにおいて負反射像および正反射像を得るための各投影位置を算出し、各投影位置を被検面番号に紐付ける。
例えば、偏心測定装置50Aにおいては、測定制御部5Aの全体制御部101Aが、測定対象の被検面Siの面番号に、[表6]に示すような被検面番号を紐付ける。さらに、全体制御部101Aは、演算処理部102に、各被検面Siの反射によって、正反射像および負反射像を形成するための投影位置を算出させる。被検光学系41Bの場合、見かけの曲率半径が無限大になる被検面Siは存在しないので、各被検面Siにつき正反射像および負反射像が得られる。
見かけの曲率半径が無限大になる場合には、負反射像を形成する投影位置は存在しないので、負反射像が選定されないように、投影位置としてダミーの最大値を与える。これにより、測定対象の被検面Siの個数がM([表6]の例では、M=20)の場合、2M個の投影位置が求められる。
算出結果は、被検面番号および反射像の種類に紐付けされて記憶部104に記憶される。
以上でステップS31が終了する。
【0201】
ステップS31が終了した後、ステップS32が実行される。ステップS32では、投影位置を投影光学系に近い順に並べ替え、それぞれの被検面番号に並び順番号1から2Mを付与する。
例えば、全体制御部101は、記憶部104に記憶された投影位置の大小関係に基づいて並べ替え、投影位置の昇順に並べた被検面番号に、並び順番号1から2Mを付与し、記憶部104に記憶させる。これにより、記憶部104に[表8]に示すようなテーブルが生成される。ここで、Mは、測定対象の被検面Siの数である。
以上で、ステップS32が終了する。
【0202】
ステップS32が終了した後、ステップS33が実行される。ステップS33では、分布範囲D(a,b)を最大値に初期化する。ここで、a、bは、それぞれ分布範囲の下限値および上限値を与える並び順番号を示すカウンタである。すなわち、a、bは、a<bであって、1≦a≦M+1、M≦b≦2Mを満足する整数である。
【0203】
ステップS33が終了した後、ステップS34が実行される。ステップS34では、全体制御部101Aはカウンタaを1に初期化する。
ステップS34が終了した後、ステップS35が実行される。ステップS35では、全体制御部101Aはカウンタmを1に初期化する。
ステップS35が終了した後、ステップS36が実行される。ステップS36では、全体制御部101Aはカウンタbに、a+(M-1)+m-1を代入する。
【0204】
ステップS36が終了した後、ステップS37が実行される。ステップS37では、全体制御部101Aは、記憶部104のテーブルを参照して、並び順番号がaからbまでに、被検面番号1からMがすべて含まれるかどうか判定する。
被検面番号1からMがすべて含まれる場合には、ステップS38が実行される。
被検面番号1からMがすべて含まれるわけではない場合には、ステップS39が実行される。
【0205】
ステップS38では、全体制御部101Aは、分布範囲D(a,b)に並び順番号bに対応する投影位置から、並び順番号aに対応する投影位置を引いた長さを分布範囲D(a,b)に代入する。分布範囲D(a,b)の値は、記憶部104において(a,b)に対応する記憶場所に記憶される。
ステップS38が終了した後、ステップS39が実行される。
【0206】
ステップS39では、全体制御部101Aは、カウンタmを更新する。
【0207】
ステップS39が終了した後、ステップS40が実行される。ステップS40では、全体制御部101Aは、bが2M未満であるかどうか判定する。
bが2M未満の場合、ステップS36が実行される。
bが2M未満でない場合、カウンタmのループを抜けて、ステップS41が実行される。
【0208】
ステップS41では、全体制御部101Aは、カウンタaを更新する。
【0209】
ステップS41が終了した後、ステップS42が実行される。ステップS42では、全体制御部101Aは、aがM+2未満であるかどうか判定する。
aがM+2未満の場合、ステップS35が実行される。
aがM+2未満でない場合、カウンタaのループを抜けて、ステップS43が実行される。
【0210】
ステップS43では、全体制御部101Aは、D(a,b)が最小値の場合のaからbに含まれる被検面番号1からMまでの投影位置を選定する。
例えば、[表9]に記載されたように、並び順番号2から16までの投影位置および反射像の種類が選定される。同一の被検面番号において異なる反射像の種類は、投影位置が異なるので、同一の被検面番号における反射像の選定は、投影位置の選定と同義である。
ここで、aからbに同一の被検面番号が含まれる場合、投影位置の分布範囲を最小化するという観点では、正反射像および負反射像のいずれが選定されてもよい。例えば、[表8]の例では、並び順番号2から24までの間にある、被検面番号2、4、12が正反射像および負反射像のいずれが選定されてもよい被検面Siの例である。
全体制御部101Aは、予め決められた規則に基づいて、被検面番号に対応する反射像の種類を一つ選定する。
例えば、[表9]に記載の反射像の種類を選定するには、投影位置が小さい方の反射像を選定するという規則にすればよい。この場合、投影位置が最小値に近い被検面Siが増えるので、全体として、移動ステージ2の移動誤差の影響を受けにくい被検面Siの数が増える。
【0211】
ステップS43が終了すると、反射像の選定が終了する。
【0212】
以上説明したように、本実施形態の偏心測定装置およびこれを用いた偏心測定方法は、反射像の種類の選定方法以外は、第1の実施形態と同様なので、第1の実施形態と同様、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく測定することができる。
特に本実施形態によれば、反射像の種類の選定によって、投影位置の分布範囲を最小化するので、偏心測定の精度をさらに向上できる。
【0213】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る偏心測定装置および偏心測定方法を説明する。
図1に示す本実施形態に係る偏心測定装置50Bは、第1の実施形態に係る偏心測定装置50の測定制御部5、前壁3aに代えて、それぞれ、測定制御部5B、前壁3aBを備える。
以下、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0214】
偏心測定装置50Bは、偏心測定装置50と同様、内視鏡イメージャ42(被検イメージャ)を有する。ただし、偏心測定装置50Bは、内視鏡イメージャ42から取得した画像を用いて、内視鏡イメージャ42の撮像面42aの偏心量を算出できるようにした点が、偏心測定装置50と異なる。
本実施形態における内視鏡イメージャ42は、偏心測定の対象である。本実施形態における内視鏡イメージャ42は、被検光学ユニットである先端部40において被検光学系41の像面に撮像面42aが配置された被検イメージャの例になっている。
【0215】
図24は、本発明の第3の実施形態に係る偏心測定装置における制御系のブロック図である。
図24に示すように、測定制御部5Bは、測定制御部5の全体制御部101、演算処理部102に代えて、それぞれ全体制御部101B(被検イメージャ画像取得部)、演算処理部102B(被検イメージャ偏心算出部)を備える。
全体制御部101Bは、内視鏡イメージャ42と通信可能に接続されている。全体制御部101Bは、内視鏡イメージャ42で撮像された画像を取得し、画像処理部103、表示制御部108、および演算処理部102Bに送出できる。
【0216】
演算処理部102Bは、内視鏡イメージャ42から送出された画像に基づいて、基準軸Om回りの内視鏡イメージャ42の回転量を算出できる。
さらに、演算処理部102Bは、第1の実施形態と同様にして測定した被検光学系の各被検面Siの偏心量の情報に基づいて、基準軸Omに対する内視鏡イメージャ42の撮像面のシフト量を算出できる。
演算処理部102Bにおける演算の例については後述する偏心測定方法において説明する。
【0217】
図1に示す前壁3aBは、先端部40に含まれる被検光学系を通して内視鏡イメージャ42で観察可能な範囲に、参照マークが設けられている点が前壁3aと異なる。
図25は、本発明の第3の実施形態に係る偏心測定装置における測定系の座標系と、被検イメージャ座標系と、の関係を示す模式図である。
図25には、前壁3aBに形成された参照マーク47が模式的に描かれている。
図25に示す例では、参照マーク47は、前壁3aBにおける開口部3bを囲む4箇所に、それぞれ設けられている。参照マーク47と、偏心測定装置50Bにおけるz軸との位置関係は、予め、測定制御部5Bに記憶されている。内視鏡イメージャ42の回転量を算出する参照マーク47の用途では、基準軸O
mの真直度誤差、z軸と基準軸O
mとの平行度誤差は、いずれも微小量と見なせるので、測定精度にほとんど影響しない。このため、回転量測定においては、基準軸O
mは、測定系のxyz座標系におけるxy平面に直交し、z軸に平行な軸線と見なすことができる。
図25では、分かりやすいように、測定系の座標系のx軸およびy軸を、基準軸O
mに交差する位置に平行移動して示す。z軸正方向は基準軸O
mに沿って図示左から右に向かう方向、z軸負方向は同じく図示右から左に向かう方向である。
参照マーク47の位置は、基準軸O
mと直交する平面において、基準軸O
mとの位置関係が知られているとして説明する。
【0218】
参照マーク47の構成は、内視鏡イメージャ42の画像を用いて、基準軸O
m回りの前壁3aBの回転量が検出できれば特に限定されない。例えば、前壁3aB上に描かれた画像でもよいし、前壁3aB上の構造体であってもよい。構造体の場合、例えば、参照マーク47は、前壁3aBに彫り込まれた溝であってもよいし、前壁3aBから突出する突起でもよい。例えば、参照マーク47は、前壁3aBに取り付けられた、ボルト、ナット、銘板などで構成されてもよい。
図25に示す例では、参照マーク47は、前壁3aBに描かれた十字線である。十字の横線はx軸方向、十字の縦線はy軸方向に延びている。
参照マーク47のうち、z軸負方向から見て図示左上に位置する参照マーク47aと、図示右上に見える参照マーク47bとは、それぞれのx軸に延びる線分がx軸に平行な同一線上に位置している。これにより、参照マーク47aにおける十字の交点O
47aと、参照マーク47bにおける十字の交点O
47bと、を結ぶ線分X
ab
は、x軸に平行である。
【0219】
内視鏡イメージャ42の偏心を測定する場合、被検光学系41の内視鏡イメージャ42の水平方向と、偏心測定装置50Bにおける水平方向と、を合わせて測定する必要がある。しかし、先端部40は回転しやすい構造なので、先端部40を保持台4で保持した状態において、内視鏡イメージャ42の水平方向が偏心測定装置50Bの水平方向に対してずれやすくなっている。このため、内視鏡イメージャ42の偏心量を適切に測定できない可能性がある。
そこで、本実施形態では、偏心測定装置50Bの測定系の座標系の水平方向を示すx軸方向と、内視鏡イメージャ42における被検イメージャ座標系の水平軸と、の回転誤差を測定し、被検イメージャ座標系の回転補正を行った後、内視鏡イメージャ42の偏心量を測定する。
【0220】
ここで、内視鏡イメージャ42における被検イメージャ座標系について説明する。
図25に示すように、被検イメージャ座標系は、I
x軸と、I
y軸とを有する2次元座標系である。I
x軸は撮像面42aの図示下辺に平行、I
y軸はy軸を上にしてz軸正方向から見たときの撮像面42aの図示左辺に平行である。
以下、本実施形態における被検イメージャ座標系をI
xI
y座標系と称する場合がある。
図25では測定系の座標系に対して内視鏡イメージャ42が回転していることが分かりやすいように、撮像面42a上に平行移動したx軸およびy軸を二点鎖線で示している。
図25では、測定系の座標系のx軸が内視鏡イメージャ42の水平方向に対して、φ回転している状態が描かれている。ここで、xy平面における回転方向の正方向は、z軸正方向に右ねじが進む方向である。
被検光学系41を通した倒立像の上下左右を正しく撮像する向きに配置された内視鏡イメージャ42では、I
x軸の正方向は、x軸正方向である。I
y軸の正方向はy軸負方向である。
I
xI
y座標系における座標値は、内視鏡イメージャ42の画素ピッチP単位で表される。ここで、内視鏡イメージャ42の画素とは、内視鏡イメージャ42から出力される座標値の単位を意味し、内視鏡イメージャ42における物理的な画素と異なっていてもよい。
I
xI
y座標系における原点は、特に限定されないが、例えば、y軸を上にしてz軸正方向から見て左下の隅の画素の座標(I
xB,I
yB)で表される。
【0221】
図26は、本発明の第3の実施形態に係る偏心測定方法における被検光学ユニットから取得した画像の例を示す模式図である。
図26に、x軸に対して-φ回転した内視鏡イメージャ42によって撮像し、表示部23の表示画面23aに表示された前壁3aBおよび参照マーク47の画像の例を示す。
図26に二点鎖線で示すx軸およびy軸は、前壁3aB上に固定された測定系の座標系のx軸、y軸が平行移動されている。
表示画面23aにおいては、内視鏡イメージャ42のI
x軸に対して、x軸が+φ回転している画像が得られる。
【0222】
次に、本実施形態の偏心測定方法を説明する。
図27は、本発明の第3の実施形態に係る偏心測定方法の例を示すフローチャートである。
本実施形態の偏心測定方法は、
図27に示すフローに基づいて、ステップS51~S54を実行する。
ステップS51では、被検光学系41における各被検面Siの偏心量ε
xj、ε
yj(ただし、j=1,…,N、Nは被検面Siの面数)を算出する。以下、添字jを付した量は、特に断らない限り、j=1,…,NのN個の数値を表す。
本ステップは、第1の実施形態の偏心測定方法と同様のステップである。具体的には、
図13に示すステップS1~S9を同様にして実行する。ただし、ステップS1は、第2の実施形態におけるステップS21と同様に実行されてもよい。
本実施形態のステップS1において記憶する設計データには、内視鏡イメージャ42における座標系の情報と、偏心測定すべき内視鏡イメージャ42の代表点の情報と、が含まれる。
算出された偏心量ε
xj、ε
yjは、記憶部104に記憶される。
【0223】
ここで、測定系の座標系における偏心量ε
xj、ε
yjの符号について説明する。
図28は、被検面の球心の偏心量と、被検面のチルト偏心と、の各x軸成分の関係を示す模式図である。
図29は、被検面の球心の偏心量と、被検面のチルト偏心と、の各y軸成分の関係を示す模式図である。
図28に示すように、前側からj番目の被検面Si
jの偏心量ε
xjは、zx平面において基準軸O
mの正方向(z軸正方向)からx軸正方向に向かって回転する方向が正である。
図29に示すように、前側からj番目の被検面Si
jの偏心量ε
yjは、yz平面において基準軸O
mの正方向(z軸正方向)からy軸正方向に向かって回転する方向が正である。
偏心量ε
xj、ε
yjと、被検面Si
jの球心SC
jの偏心量δ
xj、δ
yjと、の関係は、被検面Si
jの曲率半径r
jを用いて、下記式(16)、(17)で表される。
【0224】
【0225】
ステップS51が終了すると、ステップS52が実行される。
ステップS52では、被検イメージャである内視鏡イメージャ42で参照マーク47を撮像し、内視鏡イメージャ42が撮像した画像から被検イメージャ座標系の水平方向の座標軸(Ix軸)に対する測定系の座標系のx軸の回転量φを算出する。測定系の座標系のx軸に対する被検イメージャ座標系の水平方向の座標軸(Ix軸)の回転量は-φである。
回転量-φは、基準軸に直交する平面において基準軸と直交する基準線に対する被検イメージャ座標系の回転量の例である。
【0226】
回転量の測定は、被検光学系41を通して内視鏡イメージャ42が撮像した画像における参照マーク47の位置情報に基づいて行われる。
全体制御部101Bは、偏心測定が終了した状態で、内視鏡イメージャ42で撮像した参照マーク47の画像を取得する。このとき、光像IP’の画像は不要であるが、光像IP’がいずれかの被検面Siに対して投影されている場合には、表示画面23aに光像IP’のボケ画像I
L’が表示される。
例えば、全体制御部101Bが内視鏡イメージャ42から
図26に示すような画像を取得したとする。
全体制御部101Bは、取得した画像を画像処理部103に送出する。画像処理部103は、特徴抽出などの適宜の画像処理を実行することによって、I
xI
y座標系における交点O
47aの座標(L
x,L
y)と、交点O
47bの座標(R
x,R
y)と、を算出し、全体制御部101Bに送出する。
全体制御部101Bは、各座標値を演算処理部102Bに送出する。演算処理部102Bは、下記式(18)に基づいて、被検イメージャの水平方向に対する測定系の座標系のx軸の方向の回転量φを算出する。算出された回転量φは記憶部104に記憶される。
【0227】
【0228】
以上で、ステップS52が終了する。
以上では、回転量の測定方法において、参照マーク47a、47bの画像を用いる例で説明したが、この例には限定されない。例えば、回転量は、基準軸Omとの位置関係が分かっている他の参照マーク47の画像を用いて算出してもよい。
【0229】
ステップS52の後、ステップS53が実行される。
ステップS53では、偏心量εxj、εyjから被検イメージャの水平方向と測定系の座標系のx軸の方向が一致するように補正された偏心量ε'xj、ε'yjを算出する。
全体制御部101Bは、演算処理部102Bによって、ステップS52で算出された回転量φを用いた下記式(19)に基づく演算を実行させる。
【0230】
【0231】
以上で、ステップS53が終了する。ステップS53の後、ステップS54が実行される。
ステップS54では、偏心量ε'
xj、ε'
yjを用いて、被検イメージャの偏心量を算出する。
まず、内視鏡イメージャ42の偏心を測定する原理について説明する。
図30は、本発明の第3の実施形態に係る偏心測定方法における測定原理を示す模式的な断面図である。
図31は、本発明の第3の実施形態に係る偏心測定装置における被検イメージャ上の像と測定系の座標系および被検イメージャ座標系の関係を示す模式図である。
図32は、表示部に表示された向きにおける被検イメージャ座標系と測定系のxy座標系との関係を示す模式図である。
【0232】
図30では、被検光学系41の一例として、被検光学系41Cが配置されている。
被検光学系41Cは、物体側から像側に向かって、レンズL21~L27の7枚のレンズと、カバーガラスCGと、が配置されている。ただし、レンズL26、L27は、接合レンズである。
被検光学系41Cは、
図30に示すように偏心している。各光学面の基準軸O
mからの偏心量(チルト偏心)はステップS51で算出済みである。
撮像面42aは、カバーガラスCGと平行になるように、カバーガラスCGに取り付けられているので、撮像面42aのチルト偏心は、カバーガラスCGのチルト偏心に一致している。一方、内視鏡イメージャ42は組立誤差によって、カバーガラスCGの表面に沿う方向の位置がばらつく可能性がある。
撮像面42aのシフト偏心は、偏心測定の基準となる基準軸O
mからの、撮像面42a上の代表点のずれ量で定義される。代表点は、撮像面42a上の任意の点を選択できる。以下の説明では、代表点が、撮像面42aに固定された被検イメージャ座標系の原点の例で説明する。
しかしながら、被検光学系41Cは少なくとも一部の光学面が偏心しているので、被検光学系41Cと内視鏡イメージャ42とを組み立てた光学ユニットの状態では、基準軸O
mと撮像面42aとの交点を測定することは難しい。
【0233】
本ステップでは、
図30に示すように、撮像面42aと光学的な共役な位置に、偏心測定装置50Bから光像IP’を投影する。光像IP’は、基準軸O
m上に位置するが、撮像面42a上に結像される光像I
Lは、被検光学系41Cの偏心量に応じて、基準軸O
mと直交する方向にずれた位置に結像される。点O
Cは、参考に示した撮像面42aの中心である。
例えば、
図31に示すように、一般的には、光像I
Lは、基準軸O
mと撮像面42aとの交点である点Gから、撮像面42a上で、I
x軸方向およびI
y軸方向に離れている。
以下では、I
xI
y座標系における光像I
L、点G、および代表点O
Bの位置座標をそれぞれ、(I
X,I
Y)、(I
Xo,I
Yo)、および(I
xB、I
yB)と表記する。
光像I
Lの位置座標は、測定系のxy座標系で表す場合、(Z
X,Z
Y)と表記する。点Gから見た代表点O
Bの偏心量は、xy座標系で(X
G,Y
G)と表記する。
図32には、内視鏡イメージャ42から送出される画像信号に基づいて表示画面23aに表示される画像における、光像I
L、I
xI
y座標系、およびxy座標系との関係が示されている。ここで、Z
X,Z
Y、X
G、およびY
Gは、xy座標系の量であり、実寸法である。
【0234】
(ZX、ZY)は、光像IP’を基準軸Om上における撮像面42aと光学的に共役な位置に位置決めした場合の、撮像面42a上に生じる像である光像ILの撮像面42a上における基準軸Omからのズレ量の例である。
【0235】
ZX、ZYは、下記式(20)、(21)で表される。
【0236】
【0237】
ここで、Nは、被検光学系41Cの全光学面を被検面Siとしたときの被検面Siの枚数である。係数Kjは、被検光学系41Cにおいてj番目の被検面Sijに、例えば、1min等の単位量のチルト偏心を与えた状態で、物体側から光軸OM上入射したときの像面上の位置を計算することによって求められる。
このように、光像ILの位置座標が、IxIy座標系で測定され、かつxy座標系で算出できることと、IxIy座標系およびxy座標系の間の回転量φが求められていることと、を利用すると、以下のようにして、内視鏡イメージャ42の偏心量が求められる。
【0238】
図33は、被検イメージャ座標系から見た被検面の球心の偏心量と、光像I
Lの結像位置との関係を示す模式図である。
基準軸O
mに対する内視鏡イメージャ42の偏心のx軸成分およびy軸成分を表すX
G,Y
Gは、それぞれ下記式(22)、(23)で表される。
【0239】
【0240】
ここで、Pは、内視鏡イメージャ42の画素ピッチPである。
IXo、IYoは、xy座標系を-φ回転したx’y’座標系におけるILの位置座標を(ZX’,ZY’)として、下記式(24)、(25)から算出される。
【0241】
【0242】
図33に示すように、被検面Si
jの球心C
jの位置座標は、xy座標系では、(r
jε
xj,r
jε
yj)であり、x’y’座標系では、(r
jε
xj’,r
jε
yj’)である。このため、Z
X’,Z
Y’は、式(20)、(21)と同様のK
jを用いて、下記式(26)、(27)のように計算できる。ここで、ε
xj’、ε
yj’は、式(19)によって計算できる。
【0243】
【0244】
本ステップでは以上の計算が以下のようにして行われる。
全体制御部101Bは光像ILの画像を取得し、画像処理部103にIxIy座標系における光像ILの位置座標(IX,IY)を算出させる。位置座標(IX,IY)は記憶部104に記憶される。
全体制御部101Bは、演算処理部102Bに制御信号を送出して、以下の計算を実行させる。
演算処理部102Bは、式(19)に基づいて、εxj、εyjを回転補正して、εxj’、εyj’を算出する。演算処理部102Bは、回転量が補正された偏心量εxj’,εyj’を式(25)、(26)に代入して、ZX’,ZY’を算出する。この後、演算処理部102は、IX、IY、ZX’,ZY’を式(24)、(25)に代入して、IXo、IYoを算出し、IXo、IYoを式(22)、(23)に代入して、XG、YGを算出する。
このようにして、内視鏡イメージャ42の偏心量XG、YGが求められ、ステップS54が終了する。
以上、代表点がOBの場合の例で説明したが、(IxB、IyB)を代表点の座標に変更すれば、任意の代表点に対する内視鏡イメージャ42の偏心量が求められる。例えば、代表点が中心OCの場合には、(IxB、IyB)に代えて、IxIy座標系における中心OCの位置座標を用いればよい。
【0245】
ステップS54は、光像を基準軸上における撮像面と光学的に共役な位置に位置決めした場合の、撮像面上に生じる像の撮像面上における基準軸からのズレ量(ZX,ZY)を、被検面の偏心量に基づいて算出するステップと、光像を、基準軸上において撮像面と光学的に共役な位置に投影し、被検イメージャで光像の画像を取得し、被検イメージャで取得された画像の、撮像面における被検イメージャ座標系で表した位置座標(IX,IY)を測定するステップと、ズレ量(ZX,ZY)と位置座標(IX,IY)とから、基準軸と撮像面との交点の被検イメージャ座標系における位置座標(IXo,IYo)を算出することによって、基準軸に対する撮像面の偏心量を算出するステップと、を含むステップの例になっている。
【0246】
図33におけるx’y’座標系は、回転量の大きさに基づいて、先端部40を基準軸O
m回りに回転させた状態のxy座標系に相当する。そのように、先端部40を実際に回転させて、回転位置を修正してから、被検面Siの偏心測定を行い、その後、光像I
Lの画像を取得し、内視鏡イメージャ42の偏心量を求めてもよい。
しかし、先端部40の回転位置を修正する作業時間が必要になり、かつ先端部40が回転調整しにくいので修正誤差が残る可能性もある。
これに対して、本実施形態では、実際に先端部40を回転することなく、代わりに、計算によって回転補正を行うので、より迅速かつ正確な内視鏡イメージャ42の偏心量の測定が行える。
【0247】
本実施形態において、測定制御部5Bの全体制御部101Bは、被検イメージャから画像を取得する被検イメージャ画像取得部の例である。
測定制御部5Bの演算処理部102Bは、移動機構を用いて、光像を被検イメージャの撮像面と光学的に共役な位置に相対移動したときに、被検イメージャ画像取得部が取得した画像に基づいて、光像の撮像面上の位置を算出し、位置の算出値に基づいて、被検光学系と被検イメージャとの相対偏心を算出する被検イメージャ偏心算出部の例である。
【0248】
以上説明したように、本実施形態の偏心測定装置およびこれを用いた偏心測定方法は、被検イメージャの偏心測定を行う以外は、第1の実施形態と同様なので、第1の実施形態と同様、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく測定することができる。
特に本実施形態によれば、被検光学ユニットに組み込まれた状態の内視鏡イメージャ42の偏心量を正確に測定することができる。
参照マーク47を用いた内視鏡イメージャ42の回転量の測定は、先端部40の水平方向とxy座標系の水平方向とを合わせる調整を行うために用いられてもよい。
【0249】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る偏心測定装置および偏心測定方法を説明する。
図1に示す本実施形態に係る偏心測定装置50Cは、第1の実施形態に係る偏心測定装置50の測定制御部5に代えて、測定制御部5Cを備える。
偏心測定装置50Cは、被検光学系41の各光学面の偏心測定の他に、レンズ枠40aの内部に配置された枠部材の偏心量も測定できるようにした以外は、偏心測定装置50と同様である。
以下、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0250】
図2に示すように、測定制御部5Cは、測定制御部5の全体制御部101、演算処理部102、に代えて、それぞれ全体制御部101C、演算処理部102Cを備える。
全体制御部101C、演算処理部102Cは、後述する枠部材の偏心測定に関する制御および演算を行えるように構成されている以外は、全体制御部101、演算処理部102と同様である。
全体制御部101C,演算処理部102Cにおける詳細の制御および演算は、後述する偏心測定方法において説明する。
【0251】
本実施形態における枠部材を説明する。
図34は、本発明の第4の実施形態に係る偏心測定装置における枠部材の例を示す断面図である。
図35は、測定用イメージャで撮像された枠部材の画像を示す模式図である。
図34、35では、見易さのため、レンズL25の外径と、開口部45aの内径と、の寸法差を誇張している。
【0252】
枠部材は、被検光学系41の前側から観察可能な位置であれば、レンズ枠40aにおける配置位置および配置個数は限定されない。
図34には、レンズ枠40aの内側から突出した枠部材45が示されている。
枠部材45は、基準軸O
mに沿う方向から見て円環形の突出部である。
図34にに示す例では、被検光学系41として、第3の実施形態と同様の被検光学系41Cが用いられている。枠部材45は、被検光学系41Cにおける前側から5番目に配置されたレンズL25の外周の位置を規制するために設けられている。
枠部材45は、レンズL25のレンズ厚よりも厚い板部を有する。枠部材45の板部には、レンズL25の外径よりも大きな内径を有する開口部45aが厚さ方向に貫通している。枠部材45の前側において開口部45aの周囲には、レンズ枠40aの中心軸に直交する平面からなる縁部45bが形成されている。
【0253】
縁部45bは、被検光学系41Cにおける前側から4番目に配置されたレンズL24よりも後側に配置されている。
開口部45aは、レンズL25の光軸OL25を、レンズ枠40aの中心軸線と略同軸になるように位置決めする。開口部45aは、レンズL25をレンズ枠40aに接着固定する場合の接着面として利用されてもよい。
開口部45aは、レンズL25の位置決めに利用されるので、開口部45aの中心O45の基準軸Omに対する偏心量を測定することによって、被検光学ユニットの光学性能と組立誤差との関係を評価できる。
例えば、開口部45aの偏心と、被検光学系41CにおけるレンズL25のシフト偏心と、を比べると、レンズL25の偏心が、レンズL25自体の製造誤差、レンズ枠40aの製造誤差、および組立誤差のうちどの寄与が大きいか、正確に評価できる。
【0254】
次に、枠部材45の偏心測定方法の原理を説明する。
縁部45bの偏心は、縁部45bにおける開口部45aを形成する縁E
45のどの部位に着目して測定されてもよいが、以下では、縁E
45の中心の偏心量を測定する例で説明する。
本実施形態に係る枠部材の偏心測定においては、調整レンズ13の位置を固定し移動ステージ2を用いて本体部3を移動させて、観察光学系における観察面F’を、縁部45bと共役な位置に移動する。これにより、測定用イメージャ17によって縁部45bを観察することができる。
観察面F’が、縁部45bと光学的に共役な位置に移動すると、
図35に示すように、表示画面23aに、縁部45bの画像が表示される。参考のため、レンズL25の位置を二点鎖線で示しているが、レンズL25の画像はボケていてもよい。
この画像は、被検光学系41Cにおける縁部45bよりも前側の光学系(以下、縁部45bに関する入射側光学系と称する)を通して見た画像である。縁部45bに関する入射側光学系は、レンズL21、L22、L23、L24からなる。
縁部45bの画像は、縁部45bに関する入射側光学系の偏心量と縁部45b自体の偏心量に応じて、基準点(X
0,Y
0)から偏心した位置に表示される。
【0255】
表示画面23aにおける基準点(X0,Y0)から測った開口部45aの中心O45までの距離のx軸成分およびy軸成分をそれぞれ、Wx’,Wy’とする。中心O45の位置座標は、縁部45bの縁E45の中心として求められる。
Wx’,Wy’は、下記式(28)、(29)で表される。
【0256】
【0257】
ここで、mは、縁部45bに関する入射側光学系を通して観察される観察面における縁部45bの像の倍率である。mとしては、入射側光学系の設計データから算出した横倍率が用いられる。W
x、W
yは、縁部45bの基準軸O
mに対する偏心量である。kは、被検光学系41Cにおいて、縁部45bよりも前側の光学面の枚数である。
図34の例では、k=8である。N
j(j=1,…,k)は、入射側光学系による結像位置のずれを求める係数である。N
jは、第3の実施形態における係数K
jを求める計算と同様にして求めることができる。ただし、計算には、被検光学系41Cに代えて、入射側光学系の設計データを用いる。
式(28)、(29)を、W
x、W
yに関して解くと、下記式(30)、(31)が得られる。
【0258】
【0259】
次に、本実施形態の偏心測定方法を説明する。
本実施形態の偏心測定方法は、開口部45aの前側の端縁を形成する縁部45bの基準軸O
mに対する偏心量を測定する以外は、第1の実施形態と同様である。
ただし、縁部45bの偏心を測定するには、縁部45bに関する入射側光学系の各光学面をすべて被検面Siとしてそれぞれの偏心量を測定する必要がある。被検光学系41Cにおいて入射側光学系を除く光学面の偏心は、縁部45bの偏心測定には必要ないので、偏心測定の測定対象から外してもよいし、第1の実施形態と同様に測定対象とされてもよい。
縁部45bの偏心測定は、
図13におけるステップS4の後から、ステップS9の後までの間の適宜のタイミングで、連続的または分散的に実行することできる。
以下では、縁部45bの偏心測定に関するステップを中心として、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0260】
図36は、本発明の第4の実施形態に係る偏心測定方法の例を示すフローチャートである。
本実施形態の偏心測定方法は、
図36に示すフローに基づいて、ステップS61~S63を実行する。
ステップS61では、枠部材45の開口部45aの前側の端縁を形成する縁部45bよりも前方の入射側光学系の各光学面を被検面として偏心量ε
xj、ε
yjを算出する。
本ステップは、
図13に示す第1の実施形態と同様のフローを実行してもよいし、
図13に示すフローにおいて、枠部材45の偏心測定するだけであれば、Nをkに代えてステップS1~S9を実行してもよい。
ただし、本実施形態では、ステップS1において記憶する設計データには、偏心の測定対象のレンズ枠40aの位置および形状のデータと、被検光学系41Cの設計データから算出したm、N
jのデータと、が含まれる。
【0261】
ステップS61の後、ステップS62が実行される。
ステップS62では、入射側光学系を介在して縁部45bと光学的に共役な位置にて縁部45bの画像を取得し、縁部45bの見かけの位置を算出する。
全体制御部101Cは、縁部45bと光学的に共役な位置に観察光学系の焦平面F’が位置するように光学系搬送部駆動部2cを駆動させる制御信号を搬送部コントローラ105に送出する。光学系搬送部駆動部2cは、全体制御部101Cの制御信号に基づいて搬送部コントローラ105から送出される制御信号に応じて、光学系搬送部2bを移動させる。
このとき、全体制御部101Cは、光像IP’によって縁部45bが照明されて観察しやすくなる位置に光像IP’を移動させる制御を行ってもよい。この場合、全体制御部101Cは、投影位置コントローラ106を経由して調整レンズ駆動部21に制御信号を送出して、調整レンズ13を移動する。光像IP’の適正な移動位置は、入射側光学系の設計データに基づいて、予め算出して、記憶部104に記憶しておくことができる。
この場合、光像IP’は照明用途に用いられるだけので、調整レンズ13の移動誤差と、移動誤差に伴う光像IP’の移動位置の誤差と、は、枠部材45の偏心の測定精度に影響しない。
例えば、縁部45bを観察するに際に縁部45b上の光量が不足する場合には、光源10の光量を上げてもよい。
例えば、光像IP’を形成する光束に加えて、またはこの光束の代わりに縁部45bの観察用の照明光源が用意されていてもよい。
【0262】
焦平面F’が縁部45bと光学的に共役な位置に移動すると、例えば、
図35に示すように、表示画面23aに縁部45bの画像が表示される。
全体制御部101Cは、測定用イメージャ17から画像を取得し、画像処理部103に送出し、縁部45bの画像から縁E
45を抽出し縁E
45の中心O
45の位置座標(X
o45,Y
o45)を画像処理部103に算出させる。位置座標(X
o45,Y
o45)は記憶部104に記憶される。
位置座標(X
o45,Y
o45)は、入射側光学系を通して見た縁部45bの見かけの位置を表す。
以上で、ステップS62が終了する。
【0263】
ステップS62は、複数の光学面のうち、少なくとも開口部の前側の端縁よりも前方の各光学面を被検面として偏心量がそれぞれ算出され、測定用イメージャの撮像面を、被検光学系のうち端縁よりも前側の入射側光学系を介在して開口部の端縁と光学的に共役な位置に配置し、測定用イメージャによって入射側光学系を通した前記端縁の画像を取得するステップと、端縁の画像に基づいて、基準点に対する端縁の見かけの位置を算出するステップと、を含むステップの例になっている。
【0264】
ステップS62の後、ステップS63が実行される。
ステップS63では、算出された偏心量εxj、εyj(j=1,…,k)と、見かけの位置(Xo45,Yo45)とに基づいて基準軸Omに対する縁部45bの偏心量を算出する。
全体制御部101Cが、縁部45bの偏心量を算出する制御信号を演算処理部102Cに送出すると、演算処理部102Cは以下の演算を行う。
演算処理部102Cは、基準点(X0,Y0)に対する見かけの位置のずれ量を(Wx’、Wy’)=(Xo45-X0,Yo45-Y0)のように算出する。
この後、演算処理部102Cは、記憶部104に記憶された数値に基づいて、式(30)、(31)の演算を実行することによって、縁部45bの偏心量(Wx、Wy)を算出する。算出された偏心量(Wx、Wy)は、記憶部104に記憶され、必要に応じて表示画面23aに表示される。
以上でステップS63が終了する。
【0265】
ステップS63は、ステップS62で算出された偏心量および見かけの位置に基づいて、基準軸に対する端縁の偏心量を算出するステップの例になっている。
【0266】
以上では、ステップS61の後に実行されるとして説明したが、
図13に示すフローのステップS4よりも後であれば、ステップS61の前に実行されてもよい。
ステップS63は、ステップS61、S62の後であって、
図13に示すフローのステップS4よりも後であれば、いつ実行されてもよい。
【0267】
以上説明したように、本実施形態の偏心測定装置およびこれを用いた偏心測定方法は、枠部材の偏心測定を行う以外は、第1の実施形態と同様なので、第1の実施形態と同様、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく測定することができる。
特に本実施形態によれば、被検光学系を保持する枠部材の基準軸に対する偏心を、枠部材が被検光学ユニットに組み込まれた状態で正確に測定することができる。
【0268】
以上では、枠部材の開口部の内側に被検光学系のレンズが存在する例で説明したが、開口部を有しており、開口部の端縁に関する入射側光学系および観察光学系を通して、測定用イメージャによって画像を取得できる位置に設けられた枠部材であれば、枠部材の種類は限定されない。例えば、枠部材は、被検光学系における絞りであってもよい。
【0269】
なお、上記各実施形態では、偏心測定の基準軸Omが水平方向に延びている例で説明した。しかし、基準軸Omの延在方向は水平方向には限定されない。例えば、基準軸Omは、水平面と交差する方向に延びていてもよい。
【0270】
上記各実施形態では、移動機構が移動ステージ2からなり、基準軸Omに沿って、光像IP’が、保持台4に保持された被検光学ユニットに向かって移動する例で説明した。しかし、移動機構は、光像IP’を被検光学ユニットに対して基準軸Omに沿って相対移動できればよい。例えば、偏心測定装置50において、本体部3が基台1に固定され、移動ステージ2に代えて、ホルダ4a、保持台4などを被検光学ユニットとともに移動する直動ステージを移動機構として備えてもよい。この場合、光像IP’が静止し、被検光学ユニットが移動するので、光像IP’の空気中における移動軌跡は、被検光学ユニットを基準とした相対的な移動軌跡で規定される。
さらに、偏心測定に支障ない移動精度が得られれば、測定光学系および被検光学ユニットの両方が、それぞれを移動する移動機構によって、移動可能に支持されてもよい。
【0271】
上記各実施形態では、基準点の測定時に、光像IP’を投影位置に移動するごとに、被検面43aの面頂に位置合わせしてから、移動させる例で説明した。しかし、基準点の測定時に最初に被検面43aの面頂に位置合わせしておけば、2度目の反射像の測定時には、被検面43aの面頂に位置合わせしなくてもよい。
【0272】
上記各実施形態では、基準点の測定時に、光像IP’を被検面43aの面頂に位置合わせする際に、観察用イメージャ44を用いて光像IP’およびその周囲の画像を観察する例で説明した。しかし、観察用イメージャ44で観察しなくても、光像IP’を被検面43aの面頂に位置合わせできる場合には、観察用イメージャ44およびビームスプリッタ11は省略されてもよい。
【0273】
上記各実施形態では、I-O距離の設定値Lが0でない場合の例で説明した。しかし、L=0としても、反射像の特定が可能な場合には、設定値Lを0として同様な偏心測定が行われてもよい。この場合、測定用の光像の投影し、投影された光像の空気中における移動軌跡を基準軸として偏心測定を行うことによって、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく迅速に測定することができる。
【0274】
以上、本発明の好ましい各実施形態を説明したが、本発明はこのような各実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の請求の範囲によってのみ限定される。
例えば、第1および第2の実施形態において、第3の実施形態と同様の内視鏡イメージャ42の偏心測定が行われてもよい。
例えば、第1および第2の実施形態において、第4の実施形態と同様の枠部材の偏心測定が行われてもよい。この場合、枠部材として、被検光学系41Aにおける明るさ絞りSA、被検光学系41Bにおける明るさ絞りSBが含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0275】
上述の各実施形態によれば、被検光学ユニットの各光学面の見かけの球心の位置が近接する場合でも、被検光学ユニットを回転することなく、被検面の偏心量を精度よく迅速に測定することができる偏心測定方法および偏心測定装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0276】
2 移動ステージ(移動機構)
3 本体部
3a、3aB 前壁
4 保持台
5、5A、5B、5C 測定制御部(偏心量算出部、反射倍率測定部、反射
倍率測定制御部))
10 光源(光源部)
12 コリメートレンズ(光源部)
13 調整レンズ(光源部)
15 対物レンズ(投影光学系、観察光学系)
16 結像レンズ(観察光学系)
17 測定用イメージャ
18 ウェッジプリズム
20 測定光学系
21 調整レンズ駆動部
22 ウェッジプリズム駆動部(反射倍率測定部)
23a 表示画面
24 操作部
40 先端部(被検光学ユニット)
40a レンズ枠
41、41B 被検光学系
42 内視鏡イメージャ(被検イメージャ)
43 参照光学素子
43a 被検面
45 枠部材
45a 開口部
45b 縁部(開口部の前側の端縁)
47、47a、47b 参照マーク
50、50A、50B、50C 偏心測定装置
101、101A、101C 全体制御部
101B 全体制御部(被検イメージャ画像取得部)
102B 演算処理部(被検イメージャ偏心算出部)
bPx1 第1横線部(倍率測定部)
bPy1 第1縦線部(倍率測定部)
bPx2 第2横線部(倍率測定部)
bPy2 第2縦線部(倍率測定部)
bPy3 第3縦線部(倍率測定部)
Cref 球心
DP、D
N
変位
E45 縁
F、P 焦平面
F’ 焦平面(観察面)
F2 平行光束
I、IB、IN、IP 像面(観察位置)
IP 光像(測定用の光像)
IL、IP’ 光像
IR、IRN、IRP、IRa、IRb、IRc、IRi 反射像
IRN 負反射像
IRP、IRP’ 正反射像
L I-O距離
Lm 測定値
Om 基準軸
OM、OB 光軸
P’ 投影面(投影位置)
SC、SCi 見かけの球心
si 見かけの被検面
Si、Sij 被検面