(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】熱伝導性フィラーの製造方法及び熱伝導性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20250403BHJP
B09B 3/35 20220101ALI20250403BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20250403BHJP
B09B 3/45 20220101ALI20250403BHJP
C09C 1/40 20060101ALI20250403BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20250403BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20250403BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250403BHJP
B09B 101/15 20220101ALN20250403BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B3/35
C08J11/12
B09B3/45
C09C1/40
C09C3/10
C08K3/01
C08L101/00
B09B3/40
B09B101:15
(21)【出願番号】P 2024571088
(86)(22)【出願日】2024-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2024036697
【審査請求日】2024-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2024072993
(32)【優先日】2024-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕次
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-271416(JP,A)
【文献】特開昭52-14643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/40
B09B 3/35
C08J 11/12
B09B 3/45
C09C 1/40
C09C 3/10
C08K 3/01
C08L 101/00
B09B 101/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンポリマーを含む熱硬化性樹脂
と、熱伝導性フィラーを含む熱伝導性組成物原料から熱伝導性フィラーを製造する方法であって、
前記熱伝導性組成物原料を酸素濃度10vol.%以下の低酸素雰囲気下で加熱して熱分解する熱分解工程と、
前記熱分解後の残渣物を粉砕する粉砕工程を含み、
前記粉砕工程は、中心粒径0.1~300μmになるように粉砕
し、
走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法分析によるSi原子数濃度が1at%以下の熱伝導性フィラーを製造することを特徴とする熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項2】
前記熱分解工程においては、400℃~1600℃の温度に加熱する請求項1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項3】
前記低酸素雰囲気下は、不活性ガス気流下、不活性ガス51~100vol.%と空気0~49vol.%の混合ガス気流下、減圧条件下及び過熱水蒸気下からなる群から選ばれる少なくとも一つの雰囲気である請求項
1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項4】
前記粉砕工程は、ボールミル、 ピンミル、 カッターミル、 ジェットミル、 ビーズミル、 ハンマーミル及び自動乳鉢からなる群から選ばれる少なくとも一つの工程である請求項
1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項5】
前記粉砕工程後に、さらに分級工程を含む請求項
1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項6】
前記分級工程はメッシュによる篩掛けである請求項5に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーはアルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項
1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項8】
前記熱伝導性組成物原料は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、熱伝導性フィラーが100~4000質量部配合されている請求項
1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項9】
前記熱伝導性組成物原料は、工程屑、廃棄屑、製品回収品、使用期間経過後の在庫品、又は試作品である請求項
1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項10】
前記熱伝導性フィラーの製造方法で得られたリサイクルフィラーを、さらにRaSi(OR')
4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換又は置換有機基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で表面処理する請求項
1に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラーの製造方法で得られたリサイクルフィラーを、熱硬化性樹脂と混合し、熱伝導性樹脂組成物とすることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂である請求項
11に記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記熱伝導性組成物は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、熱伝導性フィラーを100~4000質量部配合する請求項
11に記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性組成物などに有用な熱伝導性フィラーの製造方法及び熱伝導性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンを使用した熱伝導性シリコーン材料が電子部品用の放熱材として使用されている。従来、製造時発生する端材および使用後の材料は、品質の確保の観点等から再利用されることなく産業廃棄物として埋め立て処分されている。特に熱硬化性のポリマーを使用した場合、ポリマーと熱伝導性フィラーを分離して再利用する必要があるが、放熱材に関して有効な分離プロセスは未だ実用化されていない。ポリマーを高温のアルカリ水溶液中でモノマーに熱分解、回収した後に再重合するプロセスが提案されているが、沈殿物として残る無機系の補強材等の残渣は廃棄されている。放熱材を同プロセスで処理した場合、残渣となる熱伝導性フィラーは洗浄することで再利用可能であるが、コスト面、環境負荷の観点から現実的でない。近年、要求の高まる持続可能な開発目標(SDGs)への対応として、放熱材に適したリサイクル技術が望まれている。
特許文献1にはシリコーンゴムを熱分解し、揮発性シロキサンとケイ酸に分離して回収することが提案されている。特許文献2にはシリコーンゴムをアルコールで接触熱分解し、ポリマーをリサイクルすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-271416号公報
【文献】特開2002-187976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のリサイクル方法は、熱伝導性フィラーの再利用については有効な提案はなく、ほとんどは埋め立て処分されて廃棄されていた。このため、廃棄コストが高いというのが現状である。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、従来廃棄されていた熱伝導性組成物の屑から熱伝導性フィラーを回収し再利用することができる熱伝導性フィラーの製造方法及び熱伝導性組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、シリコーンポリマーを含む熱硬化性樹脂と、熱伝導性フィラーを含む熱伝導性組成物原料から熱伝導性フィラーを製造する方法であって、
前記熱伝導性組成物原料を酸素濃度10vol.%以下の低酸素雰囲気下で加熱して熱分解する熱分解工程と、
前記熱分解後の残渣物を粉砕する粉砕工程を含み、
前記粉砕工程は、中心粒径0.1~300μmになるように粉砕し、
走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法分析によるSi原子数濃度が1at%以下の熱伝導性フィラーを製造する熱伝導性フィラーの製造方法に関する。
【0007】
本発明の別の実施形態は、前記の熱伝導性フィラーの製造方法で得られた熱伝導性フィラーを、熱硬化性樹脂と混合し、熱伝導性樹脂組成物とする熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、熱伝導性組成物原料を酸素濃度10vol.%以下の低酸素雰囲気下で加熱して熱分解する熱分解工程と、熱分解後の残渣物を粉砕する粉砕工程を含み、粉砕工程は中心粒径0.1~300μmになるように粉砕することにより、従来は廃棄されていた熱伝導性組成物の廃棄材を原料として熱伝導性フィラーを製造することで、廃棄材の再利用が可能である熱伝導性フィラーの製造方法及び熱伝導性組成物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートの使用方法を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す模式的説明図である。
【
図3】
図3は実施例1の熱分解後、粉砕前のフィラーのSEM写真である(倍率500倍)。
【
図4】
図4は比較例1の熱分解後、粉砕前のフィラーのSEM写真である(倍率500倍)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、熱硬化性樹脂と熱伝導性フィラーを含む熱伝導性組成物原料から熱伝導性フィラーを製造する。熱硬化性樹脂原料は一例としてシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を含む。この中でもシリコーン樹脂が好ましい。熱伝導性フィラーは一例として酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子であるのが好ましい。これらの無機粒子は熱伝導性が高く、TIM(Thermal Interface Material)として好適である。この中でもアルミナ及び/又は窒化アルミニウムが好ましい。
【0011】
本発明方法は、下記の工程を含む。
1 熱分解工程
(1)熱分解雰囲気
熱伝導性組成物原料を酸素濃度10vol.%以下の低酸素雰囲気下で加熱して熱分解する。海抜0mの通常の酸素が約21vol.%、窒素が約78vol.%であるが、本発明では希薄酸素ないしは無酸素状態で熱分解する。この理由は、酸素があると有機物は燃焼し、その残渣が残ってしまうからである。残渣が残るとリサイクル熱伝導性フィラーの再使用は困難である。酸素濃度は7vol.%以下が好ましく、より好ましくは酸素濃度5vol.%以下であり、さらに好ましくは3vol.%以下である。また、低酸素雰囲気下は、不活性ガス気流下、不活性ガス51~100vol.%と空気0~49vol.%の混合ガス気流下、減圧条件下又は過熱水蒸気下が好ましい。前記熱伝導性組成物原料を酸素濃度10vol.%以下の低酸素雰囲気下で加熱して熱分解すると、残存ポリマー成分を低くできる。残存ポリマー成分は処理前のポリマー質量の15wt.%以下が好ましく、より好ましくは10wt.%以下であり、さらに好ましくは8wt.%以下である。なお、残存ポリマー成分は、処理前のポリマー質量を100%としたときの相対量である。
(2)処理温度
熱分解工程においては、400℃~1600℃の温度に加熱することが好ましい。400℃未満では熱分解が効率的でない。1600℃を超えるとシリカとアルミナが反応してムライトが発生することから好ましくない。省エネの観点からすると450~1000℃が好ましく、より好ましくは500~800℃である。
(3)処理時間
加熱保持時間は加熱温度にもよるが10分~10時間が好ましく、より好ましくは20分~5時間、さらに好ましくは30分~3時間である。
前記熱分解工程においては、熱分解によって発生した揮発成分を分取してもよい。揮発成分も再利用可能なものがある場合がある。
2 粉砕工程
熱分解後の残渣物を粉砕する。粉砕工程は、中心粒径0.1~300μmになるように粉砕する。粉砕工程は、ボールミル、 ピンミル、 カッターミル、 ジェットミル、 ビーズミル、 ハンマーミル又は自動乳鉢により粉砕する。
【0012】
粉砕工程後に粒度を揃えるために分級をするのが好ましい。分級はメッシュによる篩掛け、風ひ分級、水ひ分級、渦式分級などが使用できる。この中でも正確に粒度を揃えられる金属メッシュによる篩掛けが好ましい。
【0013】
本発明の熱伝導性フィラーの製造方法で得られた熱伝導性フィラー(以下「リサイクルフィラー」ともいう。)のSEM-EDX分析(走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法分析)によるSi原子数濃度は1at%以下が好ましく、より好ましくは0.5at%以下であり、さらに好ましくは0.1at%以下である。これにより、目的とする熱伝導性フィラーの純度を高くできる。
【0014】
熱伝導性組成物原料は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、熱伝導性フィラーが100~4000質量部配合されていることが好ましく、より好ましくは200~3000質量部であり、さらに好ましくは400~2000質量部である。熱伝導性フィラーが前記の範囲であれば、効率よく回収でき、再利用するのに有効である。
【0015】
リサイクルフィラー表面に、RaSi(OR')4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換又は置換炭化水素基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)を付与してもよい。前記化学式のアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン,ブチルトリメトキシシラン,ペンチルトリメトキシシラン,ヘキシルトリメトキシシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。
とくに体積基準のメジアン径D=50が1μm以下の微粒熱伝導性粒子は事前にカップリング剤で表面前処理されていると、コンパウンドにする際に混合性が良くなり、作業性が向上するうえ、コンパウンド工程で白金触媒を吸着しにくくなり、付加反応硬化のシリコーンの硬化反応を阻害しない。
【0016】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の製造方法は、前記の熱伝導性フィラーの製造方法で得られた熱伝導性フィラーを、熱硬化性樹脂と混合し、熱伝導性樹脂組成物とする。熱硬化性樹脂はシリコーンポリマーが好ましい。シリコーンポリマーは耐熱性が高く、熱伝導性材料:TIM(Thermal Interface Material)として好適である。シリコーンポリマーは一例として付加硬化型シリコーンポリマー、過酸化物硬化型シリコーンポリマー、又は縮合型シリコーンポリマーが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、混合して使用することもできる。各シリコーンポリマーは市販品を使用できる。ゴム、ゲル、グリース、パテ、液状体などの形態にすることができる。
【0017】
熱伝導性組成物は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、熱伝導性フィラーを100~4000質量部配合することが好ましく、より好ましくは200~3000質量部であり、さらに好ましくは400~2000質量部である。これにより、高い熱伝導率の熱伝導性組成物が得られる。
【0018】
熱伝導性組成物は一例として下記の工程で製造する。
(1)熱伝導性組成物
熱硬化性樹脂、熱伝導性フィラー、必要により白金などの硬化触媒、その他顔料、RaSi(OR')4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換又は置換炭化水素基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物などをプラネタリーミキサーなどの混合装置を用いて混合撹拌し、コンパウンド(組成物)とする。グリースなどの液状組成物はこの状態で製品とする。
(2)シート成形加工
シートに成形する場合は、前記コンパウンドを一例として-0.1Pa程度の減圧状態で1~10分間脱泡する。次に、離型処理をしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで前記コンパウンドを挟み込み、等速ロールにて所定の厚みに圧延成形し、100℃、10分加熱程度で硬化し、熱伝導性シートを成形する。
【0019】
本発明で得られるリサイクルフィラーは、再度熱伝導性組成物及び/又は熱伝導性シートに再利用し、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させる放熱材:TIM(Thermal Interface Material)用の熱伝導性フィラーとして好適である。前記放熱材として熱伝導シートを例に挙げて説明する。
図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートを放熱構造体10に組み込んだ模式的断面図である。熱伝導性シート11bは、半導体素子等の電子部品13の発する熱を放熱するものであり、ヒートスプレッダ12の電子部品13と対峙する主面12aに固定され、電子部品13とヒートスプレッダ12との間に挟持される。また、熱伝導シート11aは、ヒートスプレッダ12とヒートシンク15との間に挟持される。そして、熱伝導シート11a,11bは、ヒートスプレッダ12とともに、電子部品13の熱を放熱する放熱部材を構成する。ヒートスプレッダ12は、例えば方形板状に形成され、電子部品13と対峙する主面12aと、主面12aの外周に沿って立設された側壁12bとを有する。ヒートスプレッダ12は、側壁12bに囲まれた主面12aに熱伝導シート11bが設けられ、また主面12aと反対側の他面12cに熱伝導シート11aを介してヒートシンク15が設けられる。電子部品13は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板14へ実装されている。
【0020】
本発明で使用する熱硬化性樹脂と熱伝導性フィラーを含む熱伝導性組成物原料は、工程屑、廃棄屑、製品回収品、使用期間経過後の在庫品、試作品などその種類は問わない。前記原料の性状も、ゴム、ゲル、グリース、パテ、液状体などその種類は問わない。
【実施例】
【0021】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。
【0022】
各種パラメーターについては下記記載の方法で測定した。
<熱伝導率>
熱伝導性シリコーンゴムシートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO 22007-2:2008準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は
図2Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、
図2Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
<SEM-EDX分析>
SEM-EDX分析(走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法分析)は、日立ハイテック社製、卓上電子顕微鏡、TM4000 Plus IIを使用して測定した。分析結果として得られる原子数濃度は、試料中の元素の相対的な原子数の比率を表す。分析範囲は材料に依存するが、一般的に倍率500倍では分析深さ1~2μm、分析範囲数μm~数十μmである。
【0023】
(実施例1)
(1)熱伝導性シリコーンゴムシートの製造工程
市販のポリオルガノシロキサンである2液室温硬化シリコーンポリマー(シリコーン成分):100g
熱伝導性フィラーとして体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)=0.3μmのアルミナと、D50=2μmのアルミナと、D50=35μmのアルミナと、D50=75μmの3.nuフィラーを混合したもので平均粒子径D50=5.2μmのアルミナ:アルミナ合計量1400g
以上の材料を混合してコンパウンドとし、厚み2.0mmのシート状に圧延成形し、100℃、10分加熱硬化し、熱伝導性シリコーンゴムシートを成形した。
(2)熱分解工程
前記熱伝導性シリコーンゴムシートを電気炉に入れ、窒素ガス気流下で室温25℃から昇温速度100℃/hrで600℃まで上げ、600℃で1時間保持した。
(3)粉砕、分級工程
熱分解後の残渣物を乳鉢で粉砕した。粉砕物は、メッシュサイズ#150の金属メッシュで篩掛けした。
このようにして得られたフィラーはD50(メジアン径)が3.7μmであった。SEM-EDX分析(走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法分析)によるSi原子数濃度は0.1以下であり、目的とするアルミナの純度が高かった。得られたアルミナの収率は99wt.%であった。
図3は実施例1の熱分解後、粉砕前のフィラーのSEM写真である。SEM-EDX分析は図中の大粒子表面の小粒径の微粉が付着していない箇所をポイント分析した結果である。
【0024】
(比較例1)
熱分解工程において、窒素ガス気流下に換えて大気中で加熱した以外は実施例1と同様に実施した。その結果、得られたフィラーはD50(メジアン径)が4.0μmで実施例1の平均粒子径と近似していたが、SEM-EDX分析によるSi原子数濃度は1.1wt.%であり、実施例1に比較して高かった。Si原子数濃度が高いことは、目的とするアルミナの純度が低いことを意味する。得られたアルミナの収率は99wt.%であった。
図4は比較例1の熱分解後、粉砕前のフィラーのSEM写真である。
以上の結果を表1に示す
【0025】
【表1】
備考*: SEM-EDX分析の検出下限値は0.1~1at%であり、0.1at%以下でも数値は出てくるが、信頼性は極めて低いため0.1at%以下と表記した。
【0026】
表1から明らかなとおり、実施例1は、窒素気流中で加熱しているため、得られたアルミナ表面のSi原子数濃度が少なく、純度が高く再利用可能であった。
これに対し、比較例1は、大気中で加熱しているため、アルミナ表面のSi原子数濃度が多く、再利用は困難であった。
【0027】
(実施例2)
市販のポリオルガノシロキサンである2液室温硬化シリコーンポリマー(シリコーン成分):100g
実施例1で得られたリサイクルフィラー:1400g
以上の材料を混合してコンパウンドとし、厚み2.0mmのシート状に圧延成形し、100℃、10分加熱硬化し、熱伝導性シリコーンゴムシートを成形した。
【0028】
(比較例2)
比較例1で得られたリサイクルフィラー1400gを使用した以外は実施例3と同様に実施した。
以上の結果を表2に示す
【0029】
【0030】
(実施例3)
熱分解工程において、窒素ガス流量200ml/minとし、室温25℃から昇温速度10℃/hrで600℃まで上げ、600℃で1時間保持した以外は実施例1と同様に実施した。得られた燃焼残渣物中の残存ポリマー量を熱重量示差熱分析装置(TG-DTA,日立ハイテクサイエンス製、TG/DTA7300)により分析した。
【0031】
(実施例4)
熱分解工程において、窒素ガス流量180ml/min+空気流量20ml/minとした以外は実施例3と同様に実施した。
【0032】
(比較例3)
熱分解工程において、空気流量200ml/minとした以外は実施例3と同様に実施した。
以上の結果を表3に示す
【0033】
【表3】
備考*:残存ポリマー成分は、処理前のポリマー質量を100%としたときの相対量である。
【0034】
表から次のことが分かる。
(1)実施例3は、窒素気流下で加熱しているため、残存ポリマー成分が少なかった。
(2)実施例4は、窒素と空気の混合ガス下で加熱しているため、残存ポリマー成分が少なかった。
(3)比較例5は、空気下で加熱しているため、残存ポリマー成分が多く、リサイクルフィラーの再使用はできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明で得られるリサイクルフィラーは、熱伝導性組成物及び/又は熱伝導性シートに再利用し、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させる放熱材:TIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【符号の説明】
【0036】
1 熱伝導率測定装置
2 ポリイミドフィルム製センサ
3a,3b 熱伝導性シート試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
10 放熱構造体
11a,11b 熱伝導性シート
12 ヒートスプレッダ
13 電子部品
14 配線基板
15 ヒートシンク
【要約】
熱硬化性樹脂と熱伝導性フィラーを含む熱伝導性組成物原料から熱伝導性フィラーを製造する方法であり、熱伝導性組成物原料を酸素濃度10vol.%以下の低酸素雰囲気下で加熱して熱分解する熱分解工程と、熱分解後の残渣物を粉砕する粉砕工程を含み、粉砕工程は中心粒径0.1~300μmになるように粉砕して熱伝導性フィラーを製造する。得られた熱伝導性フィラーは熱硬化性樹脂と混合し、熱伝導性樹脂組成物とする。これにより、従来廃棄されていた熱伝導性組成物の屑から熱伝導性フィラーを回収し再利用する。