(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-03
(45)【発行日】2025-04-11
(54)【発明の名称】球状シリカエアロゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/16 20060101AFI20250404BHJP
【FI】
C01B33/16
(21)【出願番号】P 2021056598
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】三道 光喜
(72)【発明者】
【氏名】福寿 忠弘
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0369326(US,A1)
【文献】特開2018-177620(JP,A)
【文献】特開2019-019019(JP,A)
【文献】特開2020-033223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水性シリカゾルを調製する工程
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程
(3)前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程
(4)該分散液を、O相とW相の2層に分離する工程
(5)W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程
(6)O相を除去する工程
(7)W相に分散するゲル化体をシラザン類でシリル化処理する工程
(8)W相をpH
1.0~7.0に調整する工程
(9)疎水性有機溶媒でシリル化したゲル化体を抽出する工程
(10)シリル化したゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程を上記順に含んでなる、球状シリカエアロゲルの製造方法において、
前記シリル化処理する工程では、分散液のpHを8以上10以下に調整することを特徴とする球状シリカエアロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記シリル化処理する工程において、前記シラザン類はヘキサメチルジシラザンである請求項1記載の球状シリカエアロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状シリカエアロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、高い空隙率を有する材料であり、吸油性に優れる。ここで言うエアロゲルとは、多孔質な構造を有し分散媒体として気体を伴う固体材料を意味し、特に空隙率60%以上の固体材料を意味する。なお、空隙率とは、見掛けの体積中に含まれている気体の量を体積百分率で表した値である。エアロゲルは、上記空隙率が高いことに起因して、優れた吸油性を有している。
中でも、シリカエアロゲルの用途は様々であるが、化粧品材料として有用であり、ファンデーションを例に挙げると、皮膚に塗布した際の、その外観持続性を向上させるための添加剤として用いられている。詳述すれば、シリカエアロゲルの多孔質な構造は、皮脂を良く吸収するため、皮膚が皮脂で濡れて光の正反射率を高まりテカリが生じることが防止できる。しかも、シリカエアロゲルは、疎水化して製造されたものであると、ファンデーション等の化粧品材料の有機成分と親和性が良くなり均一に分散するため、上記テカリ防止の外観持続性効果を一層に高める。
また、これらシリカエアロゲルは、化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために、粒径は1~数10μmであり、且つ肌へのローリング性を向上させるために、その形状が球状であることが望ましい。
【0003】
こうした適度な粒径を有する球状シリカエアロゲルの製造方法として、例えば次の方法が提案されている。
特許文献1には、水性シリカゾルを調製する工程、該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成させる工程、シリカゾルをゲル化させて、W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、ゲル化体中の水分を、20℃における表面張力が30mN/m以下である溶媒に置換する工程、ゲル化体を疎水化剤(シリル化剤)により疎水化処理(シリル化処理)する工程、上記置換した溶媒を除去する工程を上記順に有する球状シリカエアロゲルを製造する方法が開示されている。なお、特許文献1では、ゲル化体のシリル化処理は有機溶媒中で行われており、シリル化剤によるゲル化体への表面処理が不十分であることが問題となっていた。
そこで、特許文献2には、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程で得られたゲル化体の分散液を、O相とW相の2層に分離させる工程、W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程、W相に分散するゲル化体をシリル化処理する工程、疎水性有機溶媒でゲル化体を抽出する工程、ゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程を順に有する球状シリカエアロゲルを製造する方法が開示されている。なお、特許文献2では、ゲル化体のシリル化処理は水溶媒中で行われており、シリル化剤によるゲル化体への表面処理を十分に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2012/057086号公報
【文献】特開2018-177620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の方法では、疎水化処理(シリル化処理)をする際に大量の酸を加えているので、分散液が強酸性となっており、通常使用されるステンレス製の反応槽の内側にグラスライニングなどを施さねばならず、設備コストが非常に高くなるという問題があった。また、反応時間が長いため、設備的に大きなものを使用する必要があるので、経済的ではないという問題もあった。
ここで、シリル化処理を中性条件下で行うと反応が進行し難いという問題があった。また、酸を添加せずにシリル化処理を行った場合、強塩基性(pH10~13)となるため、シリカ粒子が溶けてしまい、得られるシリカエアロゲルの物性が悪化するという問題があった。
そこで、本発明は通常の反応装置で処理が行え、効率よくシリル化処理ができる球状シリカエアロゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、シリル化処理工程において、分散液のpHを8以上10以下に調整することで、通常の反応装置で反応が行え、効率よくシリル化処理ができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
(1)水性シリカゾルを調製する工程
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程
(3)前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程
(4)該分散液を、O相とW相の2層に分離する工程
(5)W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程
(6)O相を除去する工程
(7)W相に分散するゲル化体をシラザン類でシリル化処理する工程
(8)W相をpH1.0~7.0に調整する工程
(9)疎水性有機溶媒でシリル化したゲル化体を抽出する工程
(10)シリル化したゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程を上記順に含んでなる、球状シリカエアロゲルの製造方法において、前記シリル化処理する工程では、分散液のpHを8以上10以下に調整することを特徴とする球状シリカエアロゲルの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明である球状シリカエアロゲルの製造方法は、シリル化処理工程において、従来は酸性条件下で行っていた反応を、pH8以上10以下の塩基性条件下で行うことにより、酸に弱い材質の反応装置でも使用することが可能となると共に、反応性が高いシリル化剤を使用でき、反応効率を向上させることができた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の球状シリカエアロゲルの製造方法は以下の工程を含む。即ち、
(1)水性シリカゾルを調製する工程
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程
(3)前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程
(4)該分散液を、O相とW相の2層に分離する工程
(5)W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程
(6)O相を除去する工程
(7)W相に分散するゲル化体をシラザン類でシリル化処理する工程(分散液のpHを8以上10以下に調整する)
(8)W相をpH1.0~7.0に調整する工程
(9)疎水性有機溶媒でシリル化したゲル化体を抽出する工程
(10)シリル化したゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程を順に行うことである。
上記の製造方法を、順序立てて以下に詳述する。
【0009】
(1)水性シリカゾルを調製する工程
本発明の製造方法では、まず水性シリカゾルを調製する。ここでいうシリカとは二酸化ケイ素のことであって、二酸化ケイ素で構成されている物質の総称を指し、SiO2と表す。
水性シリカゾルの調製方法は公知の方法を適宜採用すればよいが、一例として、ケイ酸アルカリ金属塩を用いる方法をあげると以下の通りである。
ケイ酸アルカリ金属塩を用いる場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸で中和することによってシリカゾルを調製することが好ましく、具体的には、酸の水溶液に対して、該水溶液を撹拌しながらケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を添加する方法や、酸の水溶液とケイ酸アルカリ金属塩の水溶液とを配管内で衝突混合させる方法が挙げられる(例えば特公平4-54619号公報参照)。より具体的には、水性シリカゾルを調製する際に用いる酸の量は、ケイ酸アルカリ金属塩のアルカリ金属分に対する水素イオンのモル比として、1.05~1.2とすることが望ましい。酸の量をこの範囲にした場合には調製したシリカゾルのpHは1~5程度となる。より好ましくは、調製したシリカゾルのpHが2.5~3.5となるよう、酸の量を調整する。
【0010】
上記の方法により作成したシリカゾルの濃度としては、ゲル化が比較的短時間で完了し、またシリカ粒子の骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制でき、大きな細孔容量を得られやすい点で、シリカ分の濃度(SiO2換算濃度)として50g/L以上とすることが好ましい。その一方で、シリカ粒子の密度を相対的に小さくして、良好な細孔容積を得、また吸油量を多くできやすい点で、160g/L以下とすることが好ましく、100g/L以下とすることがより好ましい。更に好ましくは90~100g/Lである。
水性シリカゾルの濃度を上記下限値以上とすることにより、得られるエアロゲルのBJH法による細孔容積を8mL/g以下とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを50nm以下とすることが容易になる。また、水性シリカゲルの濃度を上記上限値以下とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を2mL/g以上とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを10nm以上とすることが容易になる。
【0011】
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程
本発明の球状シリカエアロゲルを製造するには、上記のようにして調整した水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させて、W/Oエマルションを形成させる。このようなW/Oエマルションを形成することにより、シリカゾルは表面張力等により球状になるので、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているシリカゾルをゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。このように、W/Oエマルションを形成するエマルション形成工程を経ることにより、0.8以上の高い円形度を有するエアロゲルを製造することが可能になる。
【0012】
当該疎水性溶媒としては、水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる程度の疎水性を有した溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘプタンを特に好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。また水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる範囲であれば、低級アルコール類などの親水性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
使用する疎水性溶媒の量は、エマルションがW/O型となる程度の量であれば特に限定されることはない。ただし、一般的には、水性シリカゾル1体積部に対して疎水性溶媒が1~10体積部程度となる量を使用する。
【0013】
上記のW/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。これらの中でも、W/Oエマルションを形成しやすい点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明においては、シリカゾルが水性であるため、界面活性剤の親水性及び疎水性の程度を示す値であるHLB値が3以上6以下の界面活性剤を好適に用いることができる。なお本発明において「HLB値」とは、グリフィン法によるHLB値を意味する。
上述したように、本発明においては、W/Oエマルションの液滴の形状によってエアロゲル粒子の形状がほぼ定められる。好適に用いることのできる界面活性剤の具体的としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレート等が挙げられる。
界面活性剤の使用量は、W/Oエマルションを形成させる際の一般的な量と変わるところがない。具体的には、水性シリカゾル100mlに対して0.05g以上10g以下の範囲を好適に採用することができる。界面活性剤の使用量が多いと、W/Oエマルションの液滴がより微細になり易く、逆に界面活性剤の使用量が少ないと、W/Oエマルションの液滴がより大きくなり易い。したがって界面活性剤の使用量を増減することにより、エアロゲルの平均粒径を調整することが可能である。
【0014】
W/Oエマルションを形成する際に、水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させる方法としては、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。W/Oエマルション中のシリカゾル液滴の平均粒径とエアロゲルの平均粒径とは概ね対応関係にある。同時に、このようにエマルション中のシリカゾル液滴の粒径を十分小さくすることにより、シリカゾル液滴の形状が乱されにくくなるので、より高い円形度を有する球状のシリカエアロゲルを得ることが一層容易になる。
【0015】
(3)前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程
本発明の球状シリカエアロゲルを製造するには、このようなW/Oエマルション中のシリカゾルをゲル化させる。酸性領域にあるシリカゾルは加熱により容易にゲル化する。従って、該ゲル化は、上記W/Oエマルションを加熱すればよい。
ゲル化温度は、50℃~80℃にすることが好ましく、60℃~70℃にすることがより好ましい。ゲル化温度が上記範囲を超えて高いと比表面積が低くなり、低いとゲル化が十分に進行しない。
また、ゲル化時間は、30分~24時間とすることが好ましく、5~12時間とすることがより好ましい。
ゲル化することで、W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する。
【0016】
(4)該分散液を、O相とW相の2層に分離する工程
本発明の球状シリカエアロゲルを製造するには、このようにして得たゲル化体を分離し、回収する。始めに、O相とW相を分離する操作は、一般的には解乳とも呼ばれている操作である。解乳後、前記工程により得られたゲル化体は、W相側に分散して存在する。
当該解乳方法としては、公知の方法を採用することが可能であるが、具体的には、水溶性有機溶媒の添加、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、濾過、容積比の変化(水又は疎水性溶媒の添加)等から選ばれる一つ、あるいは複数を組み合わせて実施することができる。好適には、一定量の水溶性有機溶媒を、必要に応じて水と共にエマルション中に加えてO相とW相に分離することができる。解乳工程を経ると、一般に、上層がO相(有機層)、下層がW相(水層)となる。
【0017】
上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールは、後述のシリル化処理の際にも、処理の効率を高める上で効果があるため、好適に用いることができる。
上記の水溶性有機溶媒の添加量は、エマルション形成時に用いた界面活性剤の種類および量によって調整することが好ましい。例えば、W/O型エマルジョンの界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用いた場合には、O相の量に対して質量で0.1~0.4倍程度の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて撹拌後、静置することにより、好適にO相とW相に分離することができる。また、上記水溶性有機溶媒と供に、水も、O相の量に対して質量で0.6~0.9倍程度の添加量で加えるのが好ましい。また、該分離操作を行う際の温度は特に限定されないが、通常は、20~70℃程度で行うことができる。
【0018】
(5)W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程
本発明の製造方法においては、上記のようにしてW相中にゲル化体が分散されたものを得た後、ゲル化体の熟成を行う。該熟成は、O相と層分離されたW相(ゲル化体が分散)に塩基性物質を加えてW相のpHを弱酸性ないし塩基性に調整し、ゲルの熟成を行うことで実施する。
前記W相に対する塩基性物質を加えることで、酸性域下にあるW相のpHは上昇して、弱酸性ないし塩基性が呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは4.5~10とすることが好ましく、5.0~8.0とすることがより好ましく、6.0~7.5とすることが特に好ましい。上記塩基性物質としては、アンモニア、苛性ソーダ、アルカリ金属ケイ酸塩等を用いることができる。中でも苛性ソーダを用いることがpH調整を容易に行うことができるため好ましい。
【0019】
また、上記ゲルの熟成は、熟成温度を室温~80℃程度で保持することによって行うことができる。熟成時間は、W相のpHと熟成温度によって適宜設定すればよいが、0.5~12時間程度である。
上記のようにして、親水性のゲル化体がW相に分散している液を得ることができるが、該ゲル化体を単純にろ別等により回収し、乾燥を行ったのでは、収縮により細孔がつぶれてしまい、エアロゲルとすることができない。該収縮を抑制する方法としては超臨界乾燥と、以下に述べるようなゲル化体を疎水化し、その後乾燥する方法が知られている。
【0020】
(6)O相を除去する工程
なおゲル化体をシリル化処理するに際しては、その処理効率を向上させるため、該W相をO相から分離する。分離方法は特に限定されないが、2相に分かれているO相とW相とを、例えばデカンテーション等でO相を除去し、W相を回収することができる。なおこの分離は、前記熟成前に行っても良い。
ここで、完全にO相を分離除去する必要はないが、当該W相に含まれるゲル化体をシリル化処理する工程において、効率的にシリル化処理を行うためにはO相の割合はなるべく少ない方が良く、W相の量に対して20wt%以下となるようにすることが好ましく、さらに好ましくは10wt%以下である。
【0021】
(7)W相に分散するゲル化体をシラザン類でシリル化処理する工程
W相に分散するゲル化体の疎水化は、シリル化剤を用いてゲル化体をシリル化処理する。シリル化処理によって得られる球状シリカエアロゲルは疎水性を呈するものになり、該ゲル化体を乾燥する際に収縮が抑制されて、エアロゲルとしての多孔質な構造を保持した粉体を得ることを可能にさせる。
また、シリル化処理を行う際に、酸を添加して溶液のpHを8以上10以下とすることにより、良好な物性を有するシリカエアロゲルを製造できる。用いる酸としては、塩酸、硫酸、酢酸等が挙げられる。このうち、塩酸を好適に用いることができる。なお、シリル化剤と酸を添加する順番は、どちらが先でも物性に影響は及ぼさない。
【0022】
ここで、本発明において使用可能なシリル化剤としてはシラノール基:
M-OH (2)
[式中、Mはゲル化体を形成しているSi原子を表す。式(2)においてはMの残りの原子価は省略されている。以下の式において、すべて同じ。]
と反応し、これを
(M-O-)(4-n)SiRn (3)
[式(3)中、nは1~3の整数であり、Rは炭化水素基であり、nが2以上である場合には、複数のRは同一でも相互に異なっていてもよい。]へと変換することが可能なシリル化剤を一例として挙げることができる。このようなシリル化剤を用いてシリル化処理を行うことにより、エアロゲル粉体表面のヒドロキシ基が疎水性のシリル基でエンドキャッピングされて不活性化されるので、表面ヒドロキシ基相互間での脱水縮合反応を抑制できる。よって、臨界点未満の条件で乾燥を行っても乾燥収縮を抑制できるので、2mL/g以上のBJH細孔容積を有するシリカエアロゲルを得ることが可能になる。
【0023】
上記のシリル化剤としては、以下の一般式(4)、(5)で示される化合物が知られている。
RnSiX(4-n) (4)
[式(4)中、nは1~3の整数を表し;Rは炭化水素基等の疎水基を表し;Xはヒドロキシ基を有する化合物との反応においてSi原子との結合が開裂して分子から脱離可能な基(脱離基)を表す。nが2以上のとき複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、nが2以下のとき複数のXは同一でも異なっていてもよい。]
【0024】
【化1】
[式(5)中、R
1はアルキレン基を表し;R
2及びR
3は各々独立に炭化水素基を表し;R
4及びR
5は各々独立に水素原子又は炭化水素基を表す。]
【0025】
上記式(4)において、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基であり、特に好ましくはメチル基である。
Xで示される脱離基としては、-NH-SiR3で示される基(式中、Rは式(4)におけるRと同義である)等を例示できる。
上記式(4)で示されるシリル化剤を具体的に例示すると、ヘキサメチルジシラザン、1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3、-テトラメチルジシラザン、1,3-ビス(クロロメチル)テトラメチルジシラザン、1,1,3,3-テトラメチルヂシラザン、1,3-ジフェニルテトラメチルジシラザン、1,3-ジビニルー1,1,3,3-テトラメチルジシラザン等が挙げられる。反応性が良好である点で、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
脱離基Xの数(4-n)に応じて、エアロゲル粉体骨格上のヒドロキシ基と結合する数は変化する。例えば、例えば、nが2であれば:
(M-O-)2SiR2 (7)
という結合が生じることになる。また、nが3であれば:
M-O-SiR3 (8)
という結合が生じることになる。このようにヒドロキシ基がシリル化されることにより、シリル化処理がなされる。
【0026】
上記式(5)において、R1はアルキレン基、-SiR2R3で示される基又は-(SiR2-NH-SiR2)m-で示される基(式中、Rは式(4)におけるRと同義である。mは1~5)である。
上記式(5)において、R2及びR3は各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。R4は水素原子又は炭化水素基を示し、炭化水素基である場合には、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。この式(5)で示される環状シラザン類でゲル化体を処理した場合には、ヒドロキシ基との反応によりSi-N結合が開裂するので、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には
(M-O-)2SiR2R3 (9)
という結合が生じることになる。このように上記式(5)の環状シラザン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、シリル化処理がなされる。
上記式(5)で示される環状シラザン類を具体的に例示すると、2,2,4,4,6,6-ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリビニルシクロトリシラザン等が挙げられる。
【0027】
上記のシリル化処理の際に使用するシリル化剤の量としては、処理剤の種類にもよるが、ヘキサメチルジシラザンをシリル化剤として用いる場合には、シリカ(使用したシリカゾル量から計算されるSiO2量)100質量部に対して10~150質量部が好適である。より好ましくは20~130質量部であり、更に好ましくは30~120質量部である。
上記のシリル化処理の条件は、W相に対して、シリル化剤を加え、一定時間反応させることにより行うことができる。例えば、シリル化剤としてヘキサメチルジシラザンを用い、処理温度を60℃とした場合には、2~3時間程度保持することで行うことができる。
当該シリル化処理工程においては、W相中へのシリル化剤の溶解度を高めて、反応の効率を高める目的で、水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。この水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを好適に用いることができる。上記水溶性有機溶媒は、ゲル化体を含むW相中の濃度で20~80wt%程度になるように加えることが好ましい。
【0028】
(8)W相をpH7以下に調整する工程
本発明の製造方法においては、シリル化処理した分散液(W相)に、酸性物質を加えてW相をpH7以下(中性~酸性)にする。前記W相に酸性物質を加えることで、塩基性域下にあるW相のpHは下降して、中性ないし酸性が呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは1.0~7.0とすることが好ましく、1.5~5.0とすることがより好ましく、1.5~3.0とすることが特に好ましい。上記酸性物質としては、塩酸、硫酸等を用いることができる。中でも塩酸を用いることがpH調製を容易に行うことができるため、好ましい。
またW相をpH7以下に調整する工程は、室温~80℃程度で保持することによって行うことができる。時間は、W相の温度によって適宜設定すればよいが、0.25~1時間程度である。
【0029】
(9)疎水性有機溶媒でシリル化したゲル化体を抽出する工程
W相をpH7以下に調整した後に、ゲル化体を疎水性有機溶媒中に抽出する。これにより、乾燥時の収縮を抑制しやすくなる。即ち、疎水化されたゲル化体は疎水性有機溶媒への親和性が高くなっているため、疎水性有機溶媒を加えて撹拌等を行うことにより、該疎水性有機溶媒側へ移動する。ゲル化体抽出に用いる疎水性有機溶媒の選定基準としては、後の乾燥の際、乾燥収縮を起こさないために表面張力が小さいことが挙げられる。具体的にはヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエン等を用いることができ、好適にはヘキサン、ヘプタン、デカン、トルエンを用いることが出来る。使用する疎水性有機溶媒の量は、W相の体積に対して0.5倍~10倍を目処に適宜設定すればよい。
上記の疎水性有機溶媒への抽出を行った後に、ゲル化体に含まれる塩分や、疎水性有機溶媒中に含まれる硫酸塩等を除去するために、当該有機溶媒を水或いはアルコールの水溶液で洗浄を行うことが好ましい。この洗浄操作は公知の方法で行うことができ、いわゆる液/液抽出の操作として周知の方法を採用できる。洗浄効率を上げる上では、数10wt%程度のイソプロピルアルコールの水溶液を用いることが好ましい。また、疎水性有機溶媒の沸点を超えない範囲で、高温にすることが洗浄効率を高める上では好ましい。通常は、45~70℃の範囲で行うことができる。
【0030】
(10)シリル化したゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程
上記のようにして不純物となる塩等を除去したゲル化体を液中から回収する。回収においては、疎水性有機溶媒に分散しているゲル化体を濾別すればよい。ついで、濾別して得られたゲル化体から疎水性有機溶媒を除去(すなわち乾燥)する。乾燥する際の温度は、溶媒の沸点以上で、シリル化剤等の表面処理剤の分解温度以下であることが好ましく、圧力は常圧ないし減圧下で行うことが好ましい。
このようにして、球状シリカエアロゲルを製造することができる。
【0031】
(球状シリカエアロゲル)
上記のようにして製造した粉体は、球状シリカエアロゲルにより構成されている。なお、シリカエアロゲル粉末であるとは、質量基準で50%以上がシリカから構成されていることをいう。好ましくは同60%以上、より好ましくは同75%以上である。シリカ以外の成分としては、疎水化処理剤に由来する成分が含まれる。
【0032】
(平均円形度)
また、上記製造方法によれば、シリカエアロゲルはシリカエアロゲル粒子の平均円形度が0.8以上の球状であることが通常である。該平均円形度は0.85以上であることが好ましい。
なお上記「平均円形度」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したSEM像を得、画像解析により個々の粒子について下記式(1)によって定義される値C(円形度)を求め、この円形度Cを2000個以上の粒子について相加平均値として出した値である。なお、この際、一個の凝集粒子を形成している粒子群は1粒子として計数する。
C=4πS/L2 (1)
[上記式において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
該平均円形度が1に近くなるほど、粒子は真球に近い形状となる。
【0033】
また、上記した本発明の製造方法により製造した球状シリカエアロゲル粉末は、エアロゲル本来の特性を発現させやすい点で以下のような特性を有しているのが通常である。
【0034】
(D50)
粒径については、コールターカウンター法により測定される体積累積50%径(D50)が、通常は1~30μmの範囲にあり、1~20μmの範囲、さらには1~10μmの範囲にすることが可能である。該粒径はW/Oエマルション形成時の粒径に依存する。
【0035】
(比表面積)
窒素吸着法によるBET法による比表面積は、通常は400~1000m2/gである。球状シリカエアロゲルの比表面積が大きいほど、独立粒子の多孔質構造(網目構造)を構成する一次粒子の粒径が小さいことを示し、化粧品の添加剤として用いた際に増粘効果が高まる。増粘効果が高いと皮膚または頭髪等に塗布した際、液垂れを防止することが可能である。したがって、上記比表面積は500m2/g以上であることが好ましく、550m2/g以上であることがより好ましい。
一方、球状シリカエアロゲル粉末の比表面積は、大きくなりすぎると細孔容積が小さくなり、吸油量が小さくなることから、850m2/g以下であることが好ましく、750m2/g以下であることがより好ましい。通常、比表面積が1000m2/gを超えて大きいエアロゲルを得ることは困難である。
なお、本発明において、当該BET法による比表面積は、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において、150℃の温度で2時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BET法により解析して求めた値であり、解析時の分圧(P/P0)の範囲は0.1~0.25である。
【0036】
(細孔容積)
BJH法による細孔容積は通常は2~8ml/gである。細孔容量が大きい程、優れた吸油性能が得られるため好ましい。下限値は、より好ましくは2.5ml/g以上、特に好ましくは4ml/g以上である。また上限は6ml/g以下であることがより好ましい。細孔容積が2ml/g以下である場合には、優れた吸油性能を得ることはできない。また、8ml/gを超えて大きなものを得ることは、通常、困難である。
本発明において、BJH法による、球状シリカエアロゲル粉末の細孔容積は、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法(Barrett, E. P.; Joyner, L. G.; Halenda, P. P., J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951)により、解析して得られたものである(以下において、「BJH細孔容積」ということがある)。本方法により測定される細孔は、半径1~100nmの細孔であり、この範囲の細孔の容積の積算値が本発明における細孔容積となる。
【0037】
(細孔半径のピーク)
本発明の球状シリカエアロゲル粉末のBJH法による細孔半径のピークは、通常は通常10~50nmの範囲にある。なお、該細孔半径のピークも、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法により解析して得られたものである。該細孔半径のピークは、細孔半径の対数による累積細孔容積(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径の値である。
【0038】
(吸油量)
シリカエアロゲルは、通常は高い吸油量を有することが特徴であり、本発明の球状シリカエアロゲルも、吸油量が400mL/100g以上であることが好ましく、550mL/100g以上であることがより好ましく、650mL/100g以上であることが特に好ましい。吸油量は大きいほど、化粧品用途に用いた際のテカリ防止効果が得られるため、好ましい。吸油量の上限は特に限定されるものではないが、最大で750mL/100g程度である。
なお、本発明において、当該吸油量の測定は、JIS K6217-4「オイル吸収量の求め方」記載の方法により行うものとする。
【0039】
(疎水性の確認)
疎水性であることにより、経時劣化の原因となる水分の吸着が少なく、疎水性の樹脂との馴染みが向上するため疎水性の樹脂に分散させる場合に極めて有用である。また、エアロゲルが疎水性であることは、このものを超臨界乾燥および溶媒置換を伴わずに製造できるという観点からも、意義を有する。球状シリカエアロゲルの疎水化は、具体的には、該球状シリカエアロゲルをシリル化剤により処理することにより、その表面に有機シリル基が導入すること等により達成できる。
ここで、シリカエアロゲルが疎水性であるか否かは、当該粉末を純水と一緒に容器に入れ攪拌等を行うことにより極めて容易に確認できる。疎水性であれば、その粉末は水に分散することなく、かつ、静置すれば水を下層、粉末を上層とする2層に分かれた状態を取り戻す。
【0040】
(M値)
また、疎水性、及びその程度についてはM値で評価することも可能である。なお、M値は、実施例に記載した測定方法にしたがって測定した値である。本発明の球状シリカエアロゲルからなる粉体のM値は30~55vol%であることが好ましく、35~55vol%であることがより好ましく、40~55vol%であることが特に好ましい。
【0041】
(炭素含有量)
また、本発明の球状シリカエアロゲルが疎水性であることを示す指標の一つとして、炭素含有量を挙げることができる。疎水性の球状シリカエアロゲル含まれる炭素含有量は、表面処理剤に由来するものであって、1000~1500℃程度の温度において、空気中、若しくは酸素中で酸化処理した際に発生する二酸化炭素の量を定量することにより、測定することができる。
本発明の球状シリカエアロゲルは、上記炭素含有量が5~12質量%であることが好ましく、6~10質量%であることがより好ましい。炭素含有量が多いほど、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルをファンデーション用の添加剤として用いた場合に、汗による化粧崩れを防止することができるため好ましいが、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体において、一般的な疎水化処理により12質量%を超えて大きなものを得ることは難しい。
【0042】
(用途)
本発明の製造方法で製造される球状シリカエアロゲルにおいて、化粧品用添加剤として適度な粒度分布及び比表面積にあり、具体的にはファンデーションの添加剤として利用した際に、外観保持性に優れ、滑らかな触感が得られる。加えて、シリカエアロゲルとして、吸油量が高く、皮膚及び頭皮表面の脂分を効率良く吸収し、また、疎水性を呈し汗をはじく効果もあることから、上記ファンデーション以外の、ペースト、クリームタイプのメイクアップ・スキンケア化粧料、さらにはデオドラント用品、整髪料などの化粧品としても好適に用いることができる。
無論、前記適度な粒子性状を備えていることから、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は以下の方法で実施した。
<評価方法>
実施例1~3及び比較例1~3で製造した疎水性の球状シリカエアロゲルに対して、以下の項目について試験を行った。
【0044】
(D50)
シリカエアロゲル粉末をエタノールに添加し、30分超音波分散を行った。得られたエタノール分散液をベックマン・コールター株式会社製精密粒度分布測定装置Multisizer3を用い、50μmのアパチャーチューブを使用して、D50を測定した。
【0045】
(比表面積、細孔容積及び吸油量)
BET比表面積、及びBJH細孔容積の測定は、上述の定義に従ってマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-maxにより行った。吸油量の測定は、JIS K6217-4「オイル吸収量の求め方」により行った。
【0046】
(M値)
疎水性シリカエアロゲルは水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁する。このことを利用し、以下の方法によって測定した修飾疎水度をM値として、シリカエアロゲル表面疎水基による疎水化処理の指標とした。
シリカエアロゲル0.2gを容量200mLのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これに、ビュレットを使用してメタノールを加え、シリカエアロゲルの全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴下した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)とした。
M値=メタノール滴下量(ml)/(メタノール滴下量(ml)+50ml)
【0047】
(平均円形度)
シリカエアロゲル粉末について日立ハイテクノロジーズ製SEM(S-5500)を用いて、加速電圧3.0kV、二次電子検出、倍率1000倍で観察した。得られたSEM画像を画像解析することにより、下記式によりシリカエアロゲル粒子の円形度を算出した。なお、平均円形度は、2000個以上のシリカエアロゲル粒子について円形度を算出し、平均したものである。
C=4πS/L2
[上記式において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
【0048】
(炭素含有量)
エレメンター・ジャパン株式会社製の元素分析装置(vario MICRO cube)を用い、炭素含有量を測定した。
【0049】
<実施例1>
(1)硫酸100gを撹拌羽で撹拌しながら、珪酸ナトリウム100gを徐々に添加し、水性シリカゾルを調整した。このとき、pHは2.9であった。
(2)上記調整した水性シリカゾル139gに、129gのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを1.5g添加した。この溶液をホモジナイザーを用いて、8600回転/分の条件で2.5分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。
(3)得られたW/Oエマルションを撹拌羽で撹拌しながら、70℃、1時間かけてゲル化した。
(4)続けて、イソプロピルアルコール77gとイオン交換水52gを加えて、攪拌羽で攪拌しながらO相とW相を分離した。
(5)続けて、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を4.83g添加した。このとき、W相のpHは6.7であった。60℃、1時間かけて、ゲル化体の熟成を行った。
(6)デカンテーションにより、O相を除去することで、W相を回収した。
(7)得られたW相に35%塩酸を1.5g、ヘキサメチルジシラザンを7.7g添加し、撹拌しながら60℃のウォーターバスで2時間保持することにより、シリル化処理を行った。このときのpHは9.3であった。
(8)シリル化処理後、攪拌羽で攪拌しながら35%塩酸を6.6g添加し、中和処理を行った。このときのpHは2.1であった。
(9)続いて、ヘプタン90gを加え、ゲル化体を抽出し、イソプロピルアルコール77gとイオン交換水52gを加えて、2回洗浄を行った。
(10)得られたシリル化後のゲル化体を吸引濾過機により濾別した。ゲル化体の乾燥を真空圧力下、150℃で12時間以上加熱することで、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得た。
表1に、表面処理時のpH、得られた粉体のD50、比表面積、細孔容積、細孔半径のピーク、吸油量、M値、炭素含有量、平均円形度、表面処理温度、表面処理時間を示す(以下の実施例についても同様)。
【0050】
<実施例2>
エマルション形成工程において、4600回転/分で撹拌したこと、及びシリル化処理において、pHを8.7に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
<実施例3>
シリル化処理において、pHを8.2に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0051】
<比較例1>
シリル化処理する際に35%塩酸を10g、シリル化処理剤としてヘキサメチルジシロキサンを12g添加し、撹拌しながら70℃のウォーターバスで12時間保持した。
シリル化処理後、撹拌しながら24%水酸化ナトリウム水溶液を14.2g添加し、中和処理を行った以外は実施例1と同様の操作を行った。
<比較例2>
シリル化処理する際に35%塩酸を添加しなかった。また、中和処理を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。
<比較例3>
シリル化処理する際に35%塩酸を添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。
<比較例4>
シリル化処理において、pHを7.1に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
<比較例5>
シリル化処理において、pHを0.4に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0052】
【0053】
実施例1~3では、表面処理時のpHを8以上10以下の塩基性条件下で行うことで、良好な物性のシリカエアロゲル粉末を得ることができた。また、反応性が高いシリル化剤を使用したことで、表面処理時間を従来12時間以上要していたところを2時間にまで短縮でき、反応効率を向上させることできた。
比較例1では、従来のシリカエアロゲル粉末を作る製法のため、物性は良好ではあるが、表面処理時間を12時間要した。また、表面処理時のpHは強酸性のため、設備的に検討する必要がある。
比較例2では、表面処理時のpHを10以上で行い、且つ表面処理後に中和処理を行わなかったため、物性が悪化した。これはpHが高すぎたため、シリカエアロゲルが一部溶解したことに起因する。
比較例3では、表面処理時のpHを10以上で行ったため、物性の悪化が見られた。これはpHが高すぎたことにより、シリカエアロゲルが一部溶けたことに起因する。
比較例4では、表面処理時のpHを8以下で行ったため、物性が悪化した。これは、塩酸を必要以上に入れたため、ヘキサメチルジシラザンが消費されたことで、表面処理が不十分になったことに起因する。
比較例5では、表面処理時のpHを強酸性で行ったため、物性が悪化した。これは、比較例4と同様の原因が考えられる。さらに、強酸性であることから、設備的にも検討する必要がある。