(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-03
(45)【発行日】2025-04-11
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
B60K 17/06 20060101AFI20250404BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20250404BHJP
【FI】
B60K17/06 G
B60K17/06 C
B60K17/06 E
F16H57/04 J
(21)【出願番号】P 2021210105
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土田 友也
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】田中 智之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 高広
(72)【発明者】
【氏名】相川 弘幸
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-270819(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/057975(JP,A1)
【文献】特開2007-333097(JP,A)
【文献】実開昭50-140132(JP,U)
【文献】特開2021-54392(JP,A)
【文献】特開平8-132898(JP,A)
【文献】特開2014-40891(JP,A)
【文献】特開2016-78823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/06
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、
前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、
前記ミッションケースの車体前後方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、
前記ミッションケースの車体前後方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、
前記仕切り部は、前記側壁部の内部に一体成形され、
前記第1空間部は、前記側壁部と前記仕切り部とによって形成され
、
前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、
前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、
前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、
前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、
前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている作業車。
【請求項2】
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、
前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、
前記ミッションケースの車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、
前記ミッションケースの車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、
前記仕切り部は、前記側壁部の内部に一体成形され、
前記第1空間部は、前記側壁部と前記仕切り部とによって形成され
、
前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、
前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、
前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、
前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、
前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている作業車。
【請求項3】
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、
前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、
前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、
前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、
前記仕切り部は、前記側壁部の内部に一体成形され、
前記第1空間部は、前記側壁部と前記仕切り部とによって形成され
、
前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、
前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、
前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、
前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、
前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている作業車。
【請求項4】
前記ギヤミッションに、前記動力源からの動力を変速して出力する遊星ギヤ装置、および、前記遊星ギヤ装置よりも前記油取出口が位置する側において前記遊星ギヤ装置に対して前記側壁部が位置する側に変位させて設けられ、前記遊星ギヤ装置の出力が入力されるクラッチが備えられ、
前記第1空間部は、前記クラッチよりも前記遊星ギヤ装置が位置する側において前記遊星ギヤ装置の横側方に位置する箇所に設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項5】
前記ミッションケースの車体前後方向での一端側に、前記ギヤミッションの出力を前記走行装置に伝達する差動機構が収容されている請求項1から4のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項6】
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、
前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、
前記ミッションケースの車体前後方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、
前記ミッションケースの車体前後方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、
前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、
前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、
前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、
前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、
前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている作業車。
【請求項7】
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、
前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、
前記ミッションケースの車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、
前記ミッションケースの車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、
前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、
前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、
前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、
前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、
前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている作業車。
【請求項8】
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、
前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、
前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、
前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、
前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、
前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、
前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、
前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、
前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車には、動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、ギヤミッションを収容するミッションケースと、が備えられたものがある。この種の作業車としては、たとえば、特許文献1に示されるトラクタがある。このトラクタには、ミッションケース、ミッションケースに収容されたギヤミッション(変速伝動装置)が備えられているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した作業車において、ミッションケースの底部に開口する油取出口を設け、ミッションケースに貯留される潤滑油の取出しを可能にするに当り、車体が傾斜してミッションケースが傾斜し、ミッションケースの内部に貯留されている潤滑油が、油取出口が位置する側とは反対側に向かって流動し、油取出口が位置する部位に残る潤滑油が少なくなって油取出口の一部でも油面から上に出てしまうと、油取出口に接続されているポンプなどに空気が吸引されてしまう。
【0005】
本発明は、簡単に行える対策でありながら、かつ、ミッションケースの剛性を保ちながら車体が傾斜しても油取出口から空気を吸引され難くしつつ潤滑油を取り出すことができる作業車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車は、
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、前記ミッションケースの車体前後方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、前記ミッションケースの車体前後方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、前記仕切り部は、前記側壁部の内部に一体成形され、前記第1空間部は、前記側壁部と前記仕切り部とによって形成され、前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている。
【0007】
本構成によると、密閉状態の第1空間部には潤滑油が入らないので、車体の前後傾斜によってミッションケースが車体前後方向で傾斜し、油取出口が位置する側から反対側に向かって潤滑油が流動しても、第1空間部がないものに比べ、油取出口が位置する側とは反対側に溜まる潤滑油が少なくなって油取出口が位置する部位に残る潤滑油が多くなる。つまり、車体が前後方向において傾斜しても、油取出口が油面から上に出難くなり、油取出口から空気を吸引され難くしながらミッションケースから潤滑油を取り出すことができる。
【0008】
ミッションケースの内部空間のうちの第1空間部を第2空間部と仕切って密閉状態にするので、仕切り部を備えるだけの簡単な対策で済ませることができ、かつ、ミッションケースの油取出口が位置する側とは反対側においてミッションケースの内部空間が狭くなるようにミッションケースの外径を小さくせずに済み、ミッションケースの剛性を保つことができる。
【0009】
別の本発明による作業車は、
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、前記ミッションケースの車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、前記ミッションケースの車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、前記仕切り部は、前記側壁部の内部に一体成形され、前記第1空間部は、前記側壁部と前記仕切り部とによって形成され、前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている。
【0010】
本構成によると、密閉状態の第1空間部には潤滑油が入らないので、車体の左右傾斜によってミッションケースが左右方向で傾斜し、油取出口が位置する側から反対側に向かって潤滑油が流動しても、第1空間部がないものに比べ、油取出口が位置する側とは反対側に溜まる潤滑油が少なくなって油取出口が位置する部位に残る潤滑油が多くなる。つまり、車体が左右方向において傾斜しても、油取出口が油面から上に出難くなり、油取出口から空気を吸引され難くしながらミッションケースから潤滑油を取り出すことができる。
【0011】
ミッションケースの内部空間のうちの第1空間部を第2空間部と仕切って密閉状態にするので、仕切り部を備えるだけの簡単な対策で済ませることができ、かつ、ミッションケースの油取出口が位置する側とは反対側においてミッションケースの内部空間が狭くなるようにミッションケースの外径を小さくせずに済み、ミッションケースの剛性を保つことができる。
【0012】
別の本発明による作業車は、
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、前記仕切り部は、前記側壁部の内部に一体成形され、前記第1空間部は、前記側壁部と前記仕切り部とによって形成され、前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている。
【0013】
本構成によると、密閉状態の第1空間部には潤滑油が入らないので、車体の前後傾斜によってミッションケースが車体前後方向で傾斜し、また、車体の左右傾斜によってミッションケースが車体左右方向で傾斜し、油取出口が位置する側から反対側に向かって潤滑油が流動しても、第1空間部がないものに比べ、油取出口が位置する側とは反対側に溜まる潤滑油が少なくなって油取出口が位置する部位に残る潤滑油が多くなる。つまり、車体が前後方向あるいは左右方向において傾斜しても、油取出口が油面から上に出難くなり、油取出口から空気を吸引され難くしながらミッションケースから潤滑油を取り出すことができる。
【0014】
ミッションケースの内部空間のうちの第1空間部を第2空間部と仕切って密閉状態にするので、仕切り部を備えるだけの簡単な対策で済ませることができ、かつ、ミッションケースの油取出口が位置する側とは反対側においてミッションケースの内部空間が狭くなるようにミッションケースの外径を小さくせずに済み、ミッションケースの剛性を保つことができる。
【0015】
本発明においては、
前記ギヤミッションに、前記動力源からの動力を変速して出力する遊星ギヤ装置、および、前記遊星ギヤ装置よりも前記油取出口が位置する側において前記遊星ギヤ装置に対して前記側壁部が位置する側に変位させて設けられ、前記遊星ギヤ装置の出力が入力されるクラッチが備えられ、前記第1空間部は、前記クラッチよりも前記遊星ギヤ装置が位置する側において前記遊星ギヤ装置の横側方に位置する箇所に設けられていると好適である。
【0016】
本構成によると、ミッションケースの側壁部がクラッチの横外側方を前後方向に通る状態でミッションケースが形成されて遊星ギヤ装置の横側方にできるデッドスペース第1空間部に活用するので、第1空間部を設け易い。
【0017】
本発明においては、
前記ミッションケースの車体前後方向での一端側に、前記ギヤミッションの出力を前記走行装置に伝達する差動機構が収容されていると好適である。
【0018】
本構成によると、車体が前後方向において傾斜して油取出口が位置する側とは反対側に向かって潤滑油が流動しても、密閉状態の第1空間部がないものに比べ、ミッションケースの前後方向での一端側に残る潤滑油の量が多いので、差動機構が潤滑油に深く入り込むままになり、差動機構を潤滑および冷却できる。
【0019】
別の本発明による作業車は、
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、前記ミッションケースの車体前後方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、前記ミッションケースの車体前後方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている。
【0020】
本構成によると、下部分の油取出口が連通室および連通孔を介してミッションケースの内部空間に連通し、上部分の油取出口が連通室および連通孔を介してミッションケースの内部空間に連通するので、上部分の油取出口を下部分の油取出口よりも高い位置に設けながら、下部分の油取出口がミッションケースの内部空間で油を取り出す箇所の高さ位置と、上部分の油取出口がミッションケースの内部空間で油を取り出す箇所の高さ位置とを同じにできる。
別の本発明による作業車は、
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、前記ミッションケースの車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、前記ミッションケースの車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている。
別の本発明による作業車は、
動力源からの動力を変速して走行装置に向けて出力するギヤミッションと、前記ギヤミッションを収容するミッションケースと、前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での一端側における底部に開口され、前記ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口と、が備えられ、前記ミッションケースの車体前後方向かつ車体左右方向での他端側において、前記ミッションケースの内部空間を前記ミッションケースの側壁部に沿う第1空間部と前記第1空間部以外の第2空間部とに仕切り、かつ、前記第1空間部を密閉状態にする仕切り部が備えられており、前記底部における上部分および下部分に前記油取出口が備えられ、前記底部に、前記ミッションケースの前記側壁部の外面側に設けられ、前記側壁部との間に連通室を形成する連通室形成部材が備えられ、前記上部分の油取出口は、前記連通室形成部材の上部に開口され、前記下部分の油取出口は、前記連通室形成部材の下部に開口され、前記側壁部のうち前記下部分の油取出口に対向する部位に、前記連通室を前記ミッションケースの内部空間に連通させる連通孔が開口されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】無段変速装置の変速状態と、速度レンジと、段階分け伝動部の出力軸の回転速度との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一例である実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、トラクタ(「作業車」の一例)の走行車体に関し、
図1,4,5などに示される矢印Fの方向を「車体前方」、矢印Bの方向を「車体後方」、矢印Uの方向を「車体上方」、矢印Dの方向を「車体下方」、矢印Lの方向を「車体左方」、矢印Rの方向を「車体右方」とする。
【0023】
〔トラクタの全体の構成〕
図1に示されるように、トラクタの走行車体は、エンジン1、エンジン1の後部に備えられたフライホィールハウジング2に前部が連結されたミッションケース3、エンジン1の下部に連結された前部フレーム4などによって構成された車体フレーム5、車体フレーム5の前部に操向かつ駆動可能に備えられた走行装置としての左右一対の前車輪6、車体フレーム5の後部に駆動可能に備えられた走行装置としての左右一対の後車輪7を有している。走行車体の前部に、エンジン1を有する原動部8が形成されている。走行車体の後部に、運転部9が形成されている。運転部9には、運転座席10、前車輪6を操向操作するステアリングホィール11、搭乗空間を覆うキャビン12が備えられている。車体フレーム5の後部に、ロータリ耕耘装置(図示せず)などの各種の作業装置を昇降操作可能に連結するリンク機構13、連結された作業装置にエンジン1からの動力を伝達する動力取出軸14が備えられている。
【0024】
〔動力伝達装置〕
図2は、エンジン1の動力を前車輪6、後車輪7および動力取出軸14に伝達する動力伝達装置15を示す線図である。
図1,2に示されるように、動力伝達装置15は、エンジン1の後部に備えられたフライホィールハウジング2に前部が連結されたミッションケース3を備えている。ミッションケース3は、
図1に示されるように、ミッションケース3の前後方向と走行車体の前後方向とが一致する状態で走行車体に備えられる。ミッションケース3は、フライホィールハウジング2に前部が連結する前ケース部3aと、前ケース部3aの後部に前部が連結する中ケース部3bと、中ケース部3bの後部に前部が連結する後ケース部3cとに分割可能に構成されている。
【0025】
図2に示されるように、ミッションケース3には、エンジン1からの動力が入力され、入力された動力を変速して前車輪6及び後車輪7に向けて出力するギヤミッション15M、後輪差動機構22、および、エンジン1からの動力を動力取出軸14に伝達する作業動力伝達装置70が収容されている。
【0026】
ギヤミッション15Mは、
図2に示されるように、動力源としてのエンジン1の出力軸1aの動力が主クラッチ16を介して伝達され、伝達された動力をミッションケース3に入力する入力軸17、入力軸17に連結された主変速部18、主変速部18の出力が入力される段階分け伝動部19、段階分け伝動部19の出力が入力される前後進切換装置20、前後進切換装置20の出力を後輪差動機構22に伝達する第1ギヤ連動機構21、および、前後進切換装置20の出力が第1ギヤ連動機構21を介して伝達される前輪伝動装置26を備えている。
【0027】
主変速部18は、
図2に示されるように、遊星ギヤ装置18Aおよび無段変速装置18Bを備えている。
【0028】
遊星ギヤ装置18Aは、ミッションケース3の前後方向に並ぶ二つの遊星ギヤ装置部50,60を備えている。以下において、二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの前の遊星ギヤ装置部50を第1遊星ギヤ装置部50と称し、二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの後の遊星ギヤ装置部60を第2遊星ギヤ装置部60と称して説明する。
【0029】
第1遊星ギヤ装置部50に、第1遊星ギヤ装置部50の遊星ギヤ52に噛み合う伝動ギヤ(図示せず)が備えられ、第1遊星ギヤ装置部50と第2遊星ギヤ装置部60とにわたり、伝動ギヤと第2遊星ギヤ装置部の遊星ギヤ62とを連動連結する連結部材(図示せず)が設けられている。第1遊星ギヤ装置部50のキャリヤ54と、第2遊星ギヤ装置部60のキャリヤ64とは、一体回転可能に連結されている。遊星ギヤ装置18Aは、複合遊星ギヤ装置によって構成されている。
【0030】
無段変速装置18Bは、静油圧式の無段変速装置によって構成され、可変容量型の油圧ポンプP、および油圧モータMを備えている。
【0031】
主変速部18においては、入力軸17の動力が前回転軸31および第2ギヤ連動機構35を介して油圧ポンプPに入力される。無段変速装置18Bでは、油圧ポンプPの斜板角を変更する変速操作が行われることにより、入力された動力が正回転動力と逆回転動力とに変速され、かつ、正回転動力および逆回転動力が無段階に変速され、変速された動力が油圧モータMから出力される。無段変速装置18Bの出力が第3ギヤ連動機構36を介して第1遊星ギヤ装置部50の太陽ギヤ51に入力される。入力軸17の動力が第4ギヤ連動機構34を介して第1遊星ギヤ装置部50の内歯ギヤ53に入力される。遊星ギヤ装置18Aでは、エンジン1から無段変速装置18Bを介して伝達された動力と、エンジン1から無段変速装置18Bを介さないで伝達された動力とが第1遊星ギヤ装置部50と第2遊星ギヤ装置部60とによって合成され、第2遊星ギヤ装置部60に備えられた第1ないし第3出力軸37a,37b,37cから合成動力が出力される。
【0032】
〔段階分け伝動部〕
段階分け伝動部19は、
図2に示されるように、遊星ギヤ装置18Aからの合成動力が入力される四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4、四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4が設けられた出力軸38が備えられている。
【0033】
段階分け伝動部19においては、無段変速装置18Bおよび四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4が適切に操作されることにより、遊星ギヤ装置18Aからの合成動力が4段階の速度レンジに段階分けされて出力軸38から出力される。
【0034】
図3は、無段変速装置18Bの変速状態と、速度レンジと、段階分け伝動部19の出力軸38の回転速度Vとの関係を示す説明図である。
図3の縦軸は、出力軸38の回転速度Vを示す。
図3の横軸は、無段変速装置18Bの変速状態を示し、「N」は、中立状態を示し、「-MAX」は、逆回転方向における最高速の変速状態を示す。「+MAX」は、正回転方向における最高速の変速状態を示す。
【0035】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第1クラッチCL1が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第1出力軸37aの動力が1速ギヤ連動機構39aおよび第1クラッチCL1によって変速されて出力軸38から出力される。
図3に示されるように、出力軸38の回転速度が1速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「-MAX」から「+MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが零速度[0]から1速レンジの最高速[V1]まで無段階に増速する。
【0036】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第2クラッチCL2が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第3出力軸37cの動力が2速ギヤ連動機構39bおよび第2クラッチCL2によって変速されて出力軸38から出力される。
図3に示されるように、出力軸38の回転速度が1速レンジより高速の2速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「+MAX」から「-MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが2速レンジの最低速[V1]から2速レンジの最高速[V2]まで無段階に増速する。
【0037】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第3クラッチCL3が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第2出力軸37bの動力が3速ギヤ連動機構39cおよび第3クラッチCL3によって変速されて出力軸38から出力される。
図3に示されるように、出力軸38の回転速度が2速レンジより高速側の3速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが[-MAX」から「+MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが3速レンジの最低速[V2]から3速レンジの最高速[V3]まで無段階に増速する。
【0038】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第4クラッチCL4が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第3出力軸37cの動力が4速ギヤ連動機構39dおよび第4クラッチCL4によって変速されて出力軸38から出力される。
図3に示されるように、出力軸38の回転速度が3速レンジより高速側の4速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「+MAX」から「-MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが4速レンジの最低速[V3]から4速レンジの最高速[V4]まで無段階に増速する。
【0039】
〔前後進切換装置〕
前後進切換装置20は、
図2に示されるように、段階分け伝動部19の出力軸38に連結された入力軸40、入力軸40に設けられた前進クラッチCLFおよび後進クラッチCLR、前進クラッチCLFに前進ギヤ機構41fを介して連結され、後進クラッチCLRに後進ギヤ機構41rを介して連結された出力軸42を備えている。
図2に示されるように、後進ギヤ機構41rには、後進クラッチCLRの出力回転部材の歯部に噛み合う逆転ギヤ46が備えられている。逆転ギヤ46は、後輪差動機構22の入力軸22aに相対回転可能に支持されている。
【0040】
前後進切換装置20においては、前進クラッチCLFが入り状態にされると、段階分け伝動部19から入力軸40に伝達された動力が前進クラッチCLFおよび前進ギヤ機構41fによって前進動力に変換して出力軸42から出力される。後進クラッチCLRが入り状態にされると、段階分け伝動部19から入力軸40に伝達された動力が後進クラッチCLRおよび後進ギヤ機構41rによって後進動力に変換して出力軸42から出力される。出力軸42から出力される前進動力および後進動力が第1ギヤ連動機構21に伝達され、第1ギヤ連動機構21によって後輪差動機構22の入力軸22aに伝達される。
【0041】
〔後輪差動機構〕
後輪差動機構22は、前後進切換装置20が出力する前進動力および後進動力が第1ギヤ連動機構21を介して入力軸22aに入力され、入力された動力を左右の後車輪7に向けて出力する。後輪差動機構22の出力は、減速装置24を介して後車輪7に伝達される。減速装置24は、遊星ギヤ装置によって構成されている。後輪差動機構22から後車輪7への伝動系に、操向ブレーキ23が設けられている。
【0042】
〔前輪伝動装置〕
前輪伝動装置26は、
図2に示されるように、前後進切換装置20からの前進動力および後進動力が第1ギヤ連動機構21を介して伝達される入力軸43、入力軸43に設けられた等速クラッチCLTおよび増速クラッチCLH、等速クラッチCLTに等速ギヤ機構44aを介して連結され、かつ、増速クラッチCLHに増速ギヤ機構44bを介して連結された出力軸45を備えている。入力軸43に駐車ブレーキ29が連結されている。
【0043】
前輪伝動装置26においては、等速クラッチCLTが入り状態にされると、前後進切換装置20から入力軸43に伝達される動力が等速クラッチCLTおよび等速ギヤ機構44aを介して出力軸45に伝達されて出力軸45から回転軸27を介して前輪差動機構28に伝達される。この場合、左右一対の前車輪6の平均周速度と左右一対の後車輪7の平均周速度とがほぼ等しい状態で左右一対の前車輪6および左右一対の後車輪7が駆動される状態、いわゆる前後輪等速度の四輪駆動状態が現出される。増速クラッチCLHが入り状態にされると、前後進切換装置20から入力軸43に伝達される動力が増速クラッチCLHおよび増速ギヤ機構44bを介して出力軸45に伝達されて出力軸45から前輪差動機構28に伝達される。この場合、左右一対の前車輪6の平均周速度が左右一対の後車輪7の平均周速度よりも速い状態で左右一対の前車輪6および左右一対の後車輪7が駆動される状態、いわゆる、前輪増速の四輪駆動状態が現出される。
【0044】
〔作業動力伝達装置〕
作業動力伝達装置70は、
図2に示されるように、入力軸17に前回転軸31および後回転軸32を介して連結され、エンジン1からの動力が入力される作業クラッチ71、および、作業クラッチ71の出力を変速して動力取出軸14に伝達する作業動力変速機構72を備えている。前回転軸31は、入力軸17よりも後側に入力軸17と同一の直線上に位置する状態で設けられている。後回転軸32は、前回転軸31よりも後側に前回転軸31と同一の直線上に位置する状態で設けられている。
【0045】
作業動力伝達装置70においては、作業クラッチ71により、エンジン1からの動力が動力取出軸14に伝達する状態と、エンジン1から動力取出軸14への動力伝達を絶つ切り状態とに切換えられる。すなわち、作業クラッチ71が入り状態に切り換えられると、後回転軸32と作業動力変速機構72とが作業クラッチ71によって連動連結され、入力軸17からの動力が動力取出軸14に伝達される。作業クラッチ71が切り状態に切り換えられると、後回転軸32と作業動力変速機構72との連動連結が作業クラッチ71によって絶たれ、入力軸17から動力取出軸14への動力伝達が絶たれる。
【0046】
〔油取出しの構成〕
図2に示されるように、前回転軸31と無段変速装置18Bの油圧ポンプPとを連動させる第2ギヤ連動機構35における伝動ギヤ35aに動力取出ギヤ75が係合され、動力取出ギヤ75に第1油圧ポンプ76、第2油圧ポンプ77および第3油圧ポンプ78が連結されている。
図4,5に示されるように、第1油圧ポンプ76、第2油圧ポンプ77および第3油圧ポンプ78は、ミッションケース3の横上部に支持されている。
【0047】
第1油圧ポンプ76は、動力取出ギヤ75が第2ギヤ連動機構35から取り出す動力によって駆動され、ミッションケース3の内部に貯留されている潤滑油を取り出し、取り出した潤滑油を第1油圧ポンプ76からの延びる第1給油管部材81を介して無段変速装置18Bに作動油として補給するように構成されている。第2油圧ポンプ77は、動力取出ギヤ75が第2ギヤ連動機構35から取り出す動力によって駆動され、ミッションケース3の内部に貯留されている潤滑油を取り出し、取り出した潤滑油を第2油圧ポンプ77からの延びる第2給油管部材82及び優先切り替えバルブ83を介して主変速部18および前後進切換装置20用の操作油として供給するように構成されている。優先切り替えバルブ83は、ミッションケース3の両側部に設けられている。第3油圧ポンプ78は、動力取出ギヤ75が第2ギヤ連動機構35から取り出す動力によって駆動され、ミッションケース3の内部に貯留されている潤滑油を取り出し、取り出した潤滑油を第3油圧ポンプ78から延びる第3給油管部材84を介して潤滑リリーフバルブ装置85に送られ、潤滑油としてミッションケース3内に送られる。
【0048】
第1油圧ポンプ76、第2油圧ポンプ77および第3油圧ポンプ78によるミッションケース3からの油取り出しを可能にする油取出口をミッションケース3の車体前後方向かつ車体左右方向での一端側における底部に開口するが、ミッションケース3の車体前後方向かつ車体左右方向での他端側(油取口が位置する側とは反対側)において、ミッションケース3の内部に潤滑油が滞留する部分の容積がミッションケース3の内部空間の容積よりも少なくなるように構成することで、走行車体の前後傾斜によってミッションケース3が、車体前後方向での他端側(油取出口が位置する側とは反対側)が下がる傾斜状態になってミッションケース3の内部に位置する潤滑油がミッションケース3の車体前後方向での一端側から車体前後方向での他端側に向かって流動しても、あるいは、走行車体の左右傾斜によってミッションケース3が、車体左右方向での他端側(油取出口が位置する側とは反対側)が下がる傾斜状態になってミッションケース3の内部に位置する潤滑油がミッションケース3の車体左右方向での一端側から車体左右方向での他端側に向かって流動しても、ミッションケース3のうち油取出口が位置する部位に残る潤滑油の量が多くなり、油取出口が油面から上に出なくて第1油圧ポンプ76、第2油圧ポンプ77および第3油圧ポンプ78が油取出口から空気を吸引しないようにできる。
【0049】
本実施形態では、
図5に示されるように、ミッションケース3の後端側において、ミッションケース3の右横側部に油取出部90が形成されている。油取出部90は、ミッションケース3のうちミッションケース3から延びる後車軸ケース7a(
図4参照)よりも前側の部位に形成されている。
図5,6に示されるように、油取出部90においてミッションケース3の底部3eに、ミッションケース3の内部から潤滑油を取り出す第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93が開口されている。第1油取出口91と第1油圧ポンプ76とが第1吸入管部材86を介して接続されている。第2油取出口92と第2油圧ポンプ77とが第2吸入管部材87を介して接続されている。第3油取出口93と第3油圧ポンプ78とが第3吸入管部材88を介して接続されている。第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93は、油取出部90においてミッションケース3の底部3eに開口されている。
【0050】
本実施形態では、
図6,7に示されるように、第1油取出口91および第3油取出口93は、底部3eにおける下部分に備えられ、第2油取出口92は、底部3eにおける上部分に備えられている。
【0051】
底部3eには、ミッションケース3の右側壁部3dの外面側に取付けられた連通室形成部材94が備えられている。連通室形成部材94は、右側壁部3dに備えられた凹入空間を閉じる状態で右側壁部3dに取付けられ、連通室形成部材94と右側壁部3dとの間に位置する連通室95が連通室形成部材94と右側壁部3dとよって形成されている。第1油取出口91および第3油取出口93は、車体前後方向に並ぶ状態で連通室形成部材94の下部に開口されている。第2油取出口92は、連通室形成部材94の上部に開口されている。第2油取出口92は、第1油取出口91および第3油取出口93よりも高い位置に位置している。第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93は、連通室95に連通している。右側壁部3dのうち第1油取出口91に対向する部位に、連通室95をミッションケース3の内部空間3fに連通させる第1連通孔96が開口されている。右側壁部3dのうち第3油取出口93に対向する部位に、連通室95をミッションケース3の内部空間3fに連通させる第2連通孔97が開口されている。第1連通孔96に第1ストレーナ98が備えられ、第2連通孔97に第2ストレーナ99が備えられている。
【0052】
第1油取出口91は、連通室95、第1連通孔96、第1ストレーナ98、第2連通孔97および第2ストレーナ99を介してミッションケース3の内部空間3fに連通する。第2油取出口92は、連通室95、第1連通孔96、第1ストレーナ98、第2連通孔97および第2ストレーナ99を介してミッションケース3の内部空間3fに連通する。第3油取出口93は、連通室95、第2連通孔97、第2ストレーナ99、第1連通孔96および第1ストレーナ98を介してミッションケース3の内部空間3fに連通する。
【0053】
第1吸入管部材86と第1油取出口91との接続は、第1吸入管部材86の端部を第1油取出口91に差し入れることによって行われている。第1吸入管部材86による潤滑油の取出しは、主に、第1油取出口91、連通室95、第1連通孔96および第1ストレーナ98を介して行われる。第1吸入管部材86による潤滑油の取出しは、第1油取出口91、連通室95、第2連通孔97および第2ストレーナ99を介して行うことも可能である。
【0054】
第3吸入管部材88と第3油取出口93との接続は、第3吸入管部材88の端部を第3油取出口93に差し入れることによって行われている。第3吸入管部材88による潤滑油の取出しは、主に、第3油取出口93、連通室95、第2連通孔97および第2ストレーナ99を介して行われる。第3吸入管部材88による潤滑油の取出しは、第3油取出口93、連通室95、第1連通孔96および第1ストレーナ98を介して行うことも可能である。
【0055】
第2吸入管部材87と第2油取出口92との接続は、第2吸入管部材87の端部を第2油取出口92に差し入れることによって行われている。第2吸入管部材87による潤滑油の取出しは、第2油取出口92、連通室95、第1連通孔96、第1ストレーナ98、第2連通孔97および第2ストレーナ99を介して行われる。第2油取出口92は、第1油取出口91および第3油取出口93よりも高い位置に位置するが、第2油取出口92がミッションケース3の内部で潤滑油を取り出す箇所の高さ位置と、第1油取出口91および第3油取出口93がミッションケース3の内部で潤滑油を取り出す箇所の高さ位置とが同じになる。
【0056】
本実施形態では、ミッションケース3の前端側(車体前後方向において第1ないし第3油取出口91,92,93が位置する側とは反対側)、かつ、ミッションケース3の左端側(車体左右方向において第1ないし第3油取出口91,92,93が位置する側とは反対側)において、ミッションケース3の内部に潤滑油が滞留する部分の容積がミッションケース3の内部空間の容積よりも少なくなるように構成されている。
【0057】
具体的には、
図4,8に示されるように、ミッションケース3の前端側の部位、すなわち、油取出部90よりも車体前方側に位置する部位において、ミッションケース3の内部に仕切り部100が備えられ、ミッションケース3の内部空間3fがミッションケース3の左側壁部3gに沿う第1空間部A1と、第1空間部A1以外の第2空間部A2と、に仕切り部100によって仕切られている。第1空間部A1は、ミッションケース3の内部に貯留された潤滑油が入り込まないように仕切り部100と左側壁部3gとによって密閉状態にされている。ミッションケース3の前端側の部位、すなわち、油取出部90よりも車体前方側に位置する部位においてミッションケース3の内部に潤滑油が滞留可能な容積は、ミッションケース3の前端側の部位における内部空間3fの容積よりも第1空間部A1の容積の分、少なくなる。
【0058】
図8に示されるように、左側壁部3gおよび仕切り部100には、仕切り部100のミッションケース3との一体鋳造を可能にする開口101、および、第1空間部S1が密閉状態になるように開口101を閉塞する閉塞部材102が備えられている。
【0059】
ミッションケース3の内部空間3fに貯留してギヤミッション15Mおよび後輪差動機構22等の潤滑を図る潤滑油の貯留は、潤滑油の油面Sの高さ位置が後輪差動機構22のリングギヤ22bの回転軸芯とリングギヤ22bの下端との間の高さ位置と同じになる状態で行うのが好適である。第1空間部A1の上端Tは、油面Sよりも上側に位置している。
【0060】
ミッションケース3が、車体前後方向での前端側が下がる傾斜状態になり、ミッションケース3の内部に位置する潤滑油がミッションケース3の後端側(第1ないし第3油取出口91,92,93が位置する側)からミッションケース3の前端側(第1ないし第3油取出口91,92,93が位置する側とは反対側)に向かって流動しても、第1空間部A1が存在しないものに比べ、ミッションケース3の前端側に溜まる潤滑油の量が少なくてミッションケース3の後端側に残る潤滑油の量が多くなり、第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93が潤滑油に入り込んだままになる。
【0061】
ミッションケース3が、車体左右方向での左端側が下がる傾斜状態になり、ミッションケース3の内部に位置する潤滑油がミッションケース3の右端側(第1ないし第3油取出口91,92,93が位置する側)からミッションケース3の左端側(第1ないし第3油取出口91,92,93が位置する側とは反対側)に向かって流動しても、第1空間部A1が存在しないものに比べ、ミッションケース3の左端側に溜まる潤滑油の量が少なくてミッションケース3の右端側に残る潤滑油の量が多くなり、第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93が潤滑油に入り込んだままになる。
【0062】
本実施形態では、
図4,8に示されるように、段階分け伝動部19に備えられ、遊星ギヤ装置18Aの出力が入力される第1ないし第4段階分けクラッチCL1,CL2,CL3,CL4は、遊星ギヤ装置18Aよりも第1ないし第3油取出口91,92,93が位置する側において遊星ギヤ装置18Aに対して左側壁部3gが位置する側に変位させて設けられている。第1空間部A1は、第1ないし第4段階分けクラッチCL1,CL2,CL3,CL4よりも遊星ギヤ装置18Aが位置する側において遊星ギヤ装置18Aの横側方に設けられている。遊星ギヤ装置18Aと左側壁部3gとの間にできるデッドスペースを第1空間部A1の設置スペースに活用して第1空間部A1が設けられている。
【0063】
〔別実施形態〕
(1)上記した実施形態では、油取出口(第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93)を車体前後方向において後端側、かつ車体左右方向において右端側に位置する状態で設け、第1空間部A1を車体前後方向において前端側、かつ車体左右方向において左端側に位置する状態で設けた例を示したが、これに限らない。油取出口(第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93)を車体前後方向において前端側、かつ車体左右方向において左端側に位置する状態で設け、第1空間部A1を車体前後方向において後端側、かつ車体左右方向において右端側に位置する状態で設けるものでもよい。また、油取出口(第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93)を車体前後方向および車体左右方向のうちの車体前後方向のみにおいて一端側(前端側あるいは後端側)に位置する状態で設け、第1空間部A1を車体前後方向および車体左右方向のうちの車体前後方向のみにおいて他端側(後端側あるいは前端側)に位置する状態で設けるものでもよい。また、油取出口(第1油取出口91、第2油取出口92および第3油取出口93)を車体前後方向および車体左右方向のうちの車体左右方向のみにおいて一端側(左端側あるいは右端側)に位置する状態で設け、第1空間部A1を車体前後方向および車体左右方向のうちの車体左右方向のみにおいて他端側(右端側あるいは左端側)に位置する状態で設けるものでもよい。
【0064】
(2)上記した実施形態では、第1空間部A1を遊星ギヤ装置18Aの横側方に設けた例を示したが、これに限らず、どのような箇所に設けたものでもよい。
【0065】
(3)上記した実施形態では、3つの油取出口91,92,93を設けた例を示したが、2つ以下、4つ以上の油取出口を設けるものでもよい。
【0066】
(4)上記した実施形態では、連通室95を設けた例を示したが、連通室95を設けず、油取出口を側壁部に直接に開口するものでもよい。
【0067】
(5)上記した実施形態では、走行装置としての前車輪6、後車輪7を備えた例を示したが、前車輪および後車輪に替えてクローラ式の走行装置、あるいは、車輪とミニクローラとを組み合わせた走行装置を備えたものでもよい。
【0068】
(6)上記した実施形態では、エンジン1を備えた例を示したが、電動モータのみ、あるいは、エンジンおよび電動モータを動力源として備えるものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、ギヤミッションを収容するミッションケースの車体前後方向での一端側における底部に開口され、ミッションケースの内部から潤滑油を取り出す油取出口が備えられた作業車に適用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジン(動力源)
3 ミッションケース
3d 右側壁部(側壁部)
3e 底部
3f 内部空間
3g 左側壁部(側壁部)
6 前車輪(走行装置)
7 後車輪(走行装置)
15M ギヤミッション
18A 遊星ギヤ装置
22 後輪差動機構(差動機構)
91 第1油取出口(下部分の油取出口)
92 第2油取出口(上部分の油取出口)
93 第3油取出口(下部分の油取出口)
94 連通室形成部材
95 連通室
96 第1連通孔(連通孔)
97 第2連通孔(連通孔)
100 仕切り部
A1 第1空間部
A2 第2空間部
CL1 段階分けクラッチ(クラッチ)
CL2 段階分けクラッチ(クラッチ)
CL3 段階分けクラッチ(クラッチ)
CL4 段階分けクラッチ(クラッチ)