(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-03
(45)【発行日】2025-04-11
(54)【発明の名称】アデノシルコバラミンを使用した組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/714 20060101AFI20250404BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20250404BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20250404BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20250404BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20250404BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250404BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20250404BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250404BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250404BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250404BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250404BHJP
【FI】
A61K31/714
A61P3/04
A61P3/10
A61P9/04
A61P19/00
A61P21/00
A61P25/18
A61P25/28
A61P27/02
A61P35/00
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2022515762
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 EP2020076486
(87)【国際公開番号】W WO2021058514
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-06
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】デ マルキ, ウンベルト
(72)【発明者】
【氏名】ファイギ, ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】エルマン, オレリー
(72)【発明者】
【氏名】カラズ, ソニア
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0018009(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0306128(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0182548(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0274002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におい
て1つ以上の細胞においてミトコンドリアエネルギーを増加させる方法に使用するための組成物であって、
前記1つ以上の細胞が、骨格筋の一部であり、
アデノシルコバラミンを含む、組成物。
【請求項2】
前記アデノシルコバラミンが、1日当たり1~10μgから最大で100μg~2000μgまでの量で投与される、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
経口投与用である、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記個体のメチルマロン酸の血中濃度が高い、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記個体が、中高年者、高齢者、重篤患者、及びICU患者からなる群から選択される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景技術]
[0001]本開示は、概して、例えば、細胞内のATP産生を増加させる、酸化ストレスを低減する、及び/又は個体におけるミトコンドリア機能を増強することによって、細胞エネルギーを増加させる、及び/又はミトコンドリア関連疾患若しくは状態を治療若しくは予防する組成物及び方法に関する。
【0002】
[0002]アデノシン三リン酸(ATP)は、生細胞における多くのプロセス、例えば筋肉の収縮、神経インパルスの伝播、及び化学合成、を駆動するためのエネルギーを提供する、複雑な有機化合物である。ATPは全ての生命体で見られ、細胞内エネルギー伝達に関し「生体のエネルギー通貨」と呼ばれることが多い。代謝プロセスで消費される場合、ATPはアデノシン二リン酸(ADP)又はアデノシン一リン酸(AMP)のいずれかに変換される。ATPはDNA及びRNAの前駆体でもあり、補酵素としても使用される。ATPは、最も一般的にはGタンパク質共役型受容体シグナル伝達経路におけるアデニル酸シクラーゼの基質でもあり、細胞内に貯蔵されたカルシウムを放出させてカルシウムシグナルを開始させるセカンドメッセンジャーの環状AMPに変換される。この形態のシグナル伝達は様々な細胞プロセスの調節に関与しているが、なかでも脳機能において特に重要である。
【0003】
[0003]ミトコンドリアは、哺乳動物細胞における好気的エネルギー産生の主要な源であり、細胞のエネルギー産生に関与する重要な小器官である。ミトコンドリアの機能低下は、ほぼ全ての慢性疾患において一般的な訴えである、過度の疲労及び他の症状をもたらし得る。分子レベルでは、ミトコンドリア機能の低下により、酸化的リン酸化の効率の低下及びアデノシン-5’-三リン酸(ATP)の産生の低下が生じ得る。臨床試験により、L-カルニチン、アルファ-リポ酸、補酵素Q10、NADH、膜リン脂質、及び他のサプリメントなどの経口補給用サプリメントを使用することの有用性が示されている。これらのサプリメントの組み合わせにより、慢性疾患に関連する疲労及び他の症状を有意に低減することができ、難治性疲労を有する長期患者でもミトコンドリア機能を自然に回復させることができる。
【0004】
[0004] 疲労は、全身のエネルギーが低下しているとして知覚される多次元的な感覚であり、尽力がなければ簡単なタスクでさえ実行することができないと考えられる。軽度の疲労は、うつ病及び他の心理的状態を含む多数の条件によって引き起こされ得るが、中程度から重度の疲労は、細胞エネルギー系を伴う。細胞レベルでは、中程度から重度の疲労は、ミトコンドリア機能の低下及びATP産生の減少に関連する。睡眠では元に戻らない6カ月超持続する難治性疲労(慢性疲労)は、一般診療を受診する患者に最も多く見られる訴えである。慢性疲労は多くの臨床診断において重要な二次的状態でもあり、患者の一次診断に先行していることが多い。
【0005】
[0005]更に、老化及び慢性疾患の結果として、ミトコンドリア膜が酸化的損傷を受けることによりミトコンドリア機能が損なわれる。一例として、慢性疲労症候群を有する個体は、過剰な酸化ストレスを示す酸化血液マーカー及び酸化膜脂質など、DNA及び脂質に対する酸化的損傷の証拠を示す。
【0006】
[発明の概要]
[0006] 本発明者らは、本明細書で後に開示される実験データを考慮して、アデノシルコバラミン(アデノシルB12)が、他のB12異性体に反して呼吸のATPシンターゼ依存性成分(ATP-synthase-dependent component)を増加させ、エピバチジン(epibatine)により刺激されるATP産生を強めることによって、ミトコンドリアのエネルギー産生効率を増強すると考える。
【0007】
[0007]したがって、一般的な実施形態では、本開示は、ミトコンドリア機能及び他の細胞機能を回復させる、及び/又は1つ以上の細胞においてミトコンドリアエネルギーを増加させる方法を提供し、この方法は、特にATP産生及びミトコンドリア呼吸を増加させることによって、有効量のアデノシルコバラミンを、それを必要とする個体に投与することを含む。
【0008】
[0008]一実施形態では、本開示は、1つ以上の細胞の代謝性疲労に関連づけられる生理学的状態が改善される、及び/又は個体の疲労を低減する方法を提供し、この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを、それを必要とする個体に投与することを含む。
【0009】
[0009]別の実施形態では、本開示は、慢性疾患の治療をする、発生率を低減する、及び/又は重症度を低減する方法を提供し、この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを、それを必要とする個体に投与することを含む。
【0010】
[0010]一実施形態では、1つ以上の細胞の少なくとも一部は、肝臓、腎臓、脳、心臓、腸、膵臓、免疫細胞、及び骨格筋からなる群から選択される少なくとも1つの身体部位の一部である。
【0011】
[0011]別の実施形態では、本開示は、ミトコンドリア関連疾患、若しくはミトコンドリア機能の変化に関連する状態、若しくはミトコンドリア密度の低下の治療をする、発生率を低減する、及び/又は重症度を低減する方法を提供し、この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを、それを必要とする個体に経口投与することを含む。
【0012】
[0012]ミトコンドリア関連疾患又は状態は、ストレス、生理学的老化、肥満、代謝速度の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、糖尿病合併症、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、ストレス誘発性又はストレス因関連認知機能不全、気分障害、不安障害、加齢性神経細胞死又は機能不全、慢性腎疾患、腎不全、慢性心不全、心臓リハビリテーション、整形リハビリテーション、創傷治癒、手術からの回復、外傷、感染症、がん、聴覚消失、黄斑変性、ミオパチー、及びジストロフィー、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0013】
[0013]更なる実施形態では、健康な中高年者において、代謝低下の開始を遅延させる、酸化ストレスを減少させる、免疫機能を維持する、かつ/又は認知機能を維持する方法が提供され、この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを、健康な中高年者に経口投与することを含む。
【0014】
[0014]これはまた、活性酸素種の代謝を増強し、肥満又は糖尿病のうちの少なくとも1つを有する個体におけるグルコース制御を改善する方法に関し、この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを個体に経口投与することを含む。
【0015】
[0015]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、細胞の健康的な老化を促進することである。
【0016】
[0016]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、加齢に伴う代謝の遅延に対抗するのを助けることである。
【0017】
[0017]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、脂肪酸代謝の増加を助けることである。
【0018】
[0018]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、体が脂肪を代謝し、除脂肪体重を増加させるのを助けることである。
【0019】
[0019]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、心臓の健康を維持するのを助けることである。
【0020】
[0020]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、血液中の健康なLDLコレステロール濃度及び脂肪酸濃度を保つのを助けることである。
【0021】
[0021]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、身体に対する酸化ストレスの減少を助けることである。
【0022】
[0022]更なる特徴及び利点が本明細書において記述されており、以下の図面、及び詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
[0023]
図1~4は、本明細書に開示する実験例のデータをグラフにしたものである。
【
図1】アデノシルB12は、刺激されたヒト骨格筋の筋管における呼吸のATPシンターゼ依存性成分を増加させる。筋管を、記載の濃度のアデノシルB12により又はこれを非添加(対照)で3時間処理した。次いで、酸素消費速度を測定し、筋管をエピバチジン(10μM)で刺激した。刺激後の呼吸のATPシンターゼ依存性成分に対するアデノシルB12の効果の統計的評価は、ミトコンドリアATPシンターゼをオリゴマイシン(2.5μg/ml)で阻害することによって計算した。グラフは、16の細胞アッセイの平均を示す。結果を、平均±SEMとして表す。
*は、P<0.05(一元配置分散分析試験)で対照細胞(白色)に対する統計的有意差を示す。
【
図2】メチルB12は、刺激されたヒト骨格筋の筋芽細胞における呼吸のATPシンターゼ依存性成分を増加させない。筋管を、記載の濃度のメチルB12により又はこれを非添加(対照)で3時間処理した。次いで、酸素消費速度を測定し、筋管をエピバチジン(10μM)で刺激した。刺激後の呼吸のATPシンターゼ依存性成分に対するメチルB12の効果の統計的評価は、ミトコンドリアATPシンターゼをオリゴマイシン(2.5mg/ml)で阻害することによって計算した。グラフは、16の細胞アッセイの平均を示す。結果を、平均±SEMとして表す。NS、有意ではない(一元配置分散分析試験)。
【
図3】アデノシルB12は、急性治療中にヒト骨格筋の筋管においてエピバチジン(epibatine)により刺激されるATP産生を強めるが、メチルB12は強めない。ヒト筋管を、記載の濃度のアデノシルB12又はメチルB12で3時間処理した。エピバチジンによって誘発されたATP産生に対するB12アイソフォームの効果の統計的評価。グラフは、3つの独立した実験の平均を示している。結果を、平均±SEMとして表す。
*は、P<0.05(一元配置分散分析試験)で対照細胞(白色)に対する統計的有意差を示す。
【
図4】アデノシルB12でのヒト骨格筋の筋管の慢性治療は、エピバチジン(epibatine)刺激ATP産生を強めるが、メチルB12での慢性治療では強められない。ヒト筋管を、記載の濃度のアデノシルB12又はメチルB12で3日間処理した。エピバチジンによって誘発されたATP産生に対するB12アイソフォームの効果の統計的評価。グラフは、3つの独立した実験の平均を示している。結果は、平均±SEMとして表した。
*は、P<0.05(一元配置分散分析試験)で対照細胞(白色)に対する統計的有意差を示す。
【
図5-1】アデノシルB12は、骨格筋における酸化的リン酸化遺伝子の遺伝子発現シグネチャを特異的に示す。 [FIG.5A] アデノシルB12で処理した老齢ラットを、メチルB12で処理した老齢ラットに対して比較した、骨格筋遺伝子のエンリッチメントプロット分析は、酸化的リン酸化遺伝子セットのエンリッチメントを示している。 [FIG.5B] アデノシルB12で処理した老齢ラットの骨格筋におけるタンパク質-タンパク質相互作用のネットワーク表示は、酸化的リン酸化遺伝子が差次的に調節されることを示す。メチルB12で処理した動物では、酸化的リン酸化遺伝子のネットワーク表示はできない。
【
図5-2】アデノシルB12は、骨格筋における酸化的リン酸化遺伝子の遺伝子発現シグネチャを特異的に示す。 [FIG.5A] アデノシルB12で処理した老齢ラットを、メチルB12で処理した老齢ラットに対して比較した、骨格筋遺伝子のエンリッチメントプロット分析は、酸化的リン酸化遺伝子セットのエンリッチメントを示している。 [FIG.5B] アデノシルB12で処理した老齢ラットの骨格筋におけるタンパク質-タンパク質相互作用のネットワーク表示は、酸化的リン酸化遺伝子が差次的に調節されることを示す。メチルB12で処理した動物では、酸化的リン酸化遺伝子のネットワーク表示はできない。
【
図6】高齢ラットにおける、ロッド上での活動時間に対するアデノシルB12の効果。結果は、平均±SEM、n=15として表した。
*は、P<0.05(スチューデントt検定)で対照細胞(白色)に対する統計的有意差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[0030]定義
[0031]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0025】
[0032]本明細書に記載する全ての百分率は、別途記載のない限り、組成物の総重量中の重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは参照数字の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0026】
[0033]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「1つの構成成分(a component)」又は「その構成成分(the component)」についての言及は、2つ以上の構成成分を含む。
【0027】
[0034]用語「含む/備える(comprise)」、「含む/備える(comprises)」、及び「含んでいる/備えている(comprising)」は、排他的なものではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈される。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成要素「を本質的に含む(consisting essentially of)」実施形態、及び「を含む(consisting of)」実施形態の開示を含む。「を本質的に含む」組成物は、参照された構成成分を少なくとも50重量%、好ましくは参照された構成成分を少なくとも75重量%、より好ましくは参照された構成成分を少なくとも85重量%、最も好ましくは参照された構成成分を少なくとも95重量%含有する。
【0028】
[0035]「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。例えば、「精神的パフォーマンス又は筋パフォーマンスのうちの少なくとも1つ」は、「精神的パフォーマンス又は筋パフォーマンス」又は「筋パフォーマンス」又は「精神的パフォーマンス及び筋パフォーマンスの両方」として解釈されるべきである。
【0029】
[0036]本明細書において使用する場合、用語「例(example)」及び「例えば~など(such as)」は、その後に用語の列挙が続くときは特に、単に例示的かつ説明的なものにすぎず、排他的又は網羅的なものとみなされるべきではない。本明細書で使用するとき、別の状態「に関連する/伴う(associated with)」又は「と関連付けられる(linked with)」状態は、これらの状態が同時に起こることを意味し、好ましくは、これらの状態が同じ基礎症状によって引き起こされることを意味し、最も好ましくは、特定されている状態のうちの一方が他方の特定されている状態によって引き起こされることを意味する。
【0030】
[0037]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種の栄養素を提供する、製品又は組成物を意味する。食品製品は、典型的には、タンパク質、脂質、炭水化物のうちの少なくとも1つを含み、任意に1種以上のビタミン及びミネラルを含む。本明細書に記載されている多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に開示されている要素、並びに本明細書に記載されている又は記載されていなくとも食生活において有用である任意の追加の又は任意選択の原材料、構成成分又は要素を含む(comprise)、それらを含む(consisting of)、又はそれらを本質的に含む(consist essentially of)ことができる。
【0031】
[0038]本明細書で使用するとき、用語「単離された」は、単離されていない場合に、例えば自然界においてその化合物が一緒に見られ得る、1種以上の別の化合物又は成分から分けられていることを意味する。好ましくは、例えば「単離された」は、特定されている化合物が、自然界で典型的に一緒に見られる細胞材料の少なくとも一部分から分離されていることを意味する。一実施形態では、単離された化合物は純粋なものであり、すなわち、他の化合物を含まない。
【0032】
[0039]本明細書で使用するとき、「有効量」とは、欠乏を予防する、個体の疾患若しくは医学的状態を治療する、又はより一般的には、症状を軽減させる、疾患の進行を管理する、又は個体に対して栄養学的、生理学的若しくは医学的利益をもたらす、量である。相対的な用語「改善された」、「増加した」、「強化された」などは、本明細書に開示される組成物の効果を指す。本明細書で使用するとき、「促進すること」とは、本明細書に開示される組成物の投与前の値と比較して増強又は誘導することを指す。
【0033】
[0040]本明細書で使用するとき、用語「単位剤形」は、ヒト及び動物対象に対する投与量の単位として好適な物理的に個別の単位を指し、各単位は、本明細書に開示される所定量の組成物を、所望の効果をもたらすのに十分な量で、好ましくは薬学的に許容可能な希釈剤、キャリア、又は媒体とともに含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及びホスト体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。いくつかの実施形態では、単位剤形は、1食分の食品製品中の規定量の活性化合物、サッシェ内の規定量の粉末、カプセル若しくは錠剤中の規定量の活性化合物、又は規定量の液体中の規定量の活性化合物であることができ、好ましくは治療有効量若しくは予防有効量、又は治療有効量若しくは予防有効量の規定部分、とすることができる。
【0034】
[0041]「対象」又は「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。用語「老齢」は、ヒトに関連して、少なくとも60歳、好ましくは63歳より上、より好ましくは65歳より上、最も好ましくは70歳より上の出生後年齢を意味する。ヒトに関連して「中高年者(older adult)」という用語は、45歳以上、好ましくは50歳より上、より好ましくは55歳より上の出生後年齢を意味し、高齢の個体を含む。
【0035】
[0042] 本明細書で使用するとき、「フレイル」は、加齢に伴い複数の生理学的システムにわたって予備能及び機能が低下することに起因して、脆弱性が高まっており、日常的又は急性のストレッサーに対処する能力が損なわれているとして臨床的に認識可能な状態として定義される。これらの基準のうちの1つ又は2つが存在するプレフレイル段階は、フレイルに進行するリスクが高いものとして特定される。
【0036】
[0043]「過体重」は、ヒトに関しては、体格指数(BMI)が25~30kg/m2であることとして定義される。「肥満」は、ヒトに関しては、BMIが少なくとも30kg/m2、例えば30~39.9kg/m2であることとして定義される。「減量/体重減少」は、総体重の減少である。減量は、例えば、健康、フィットネス、又は外観のうちの1つ以上を改善するための総体重の減少を指し得る。
【0037】
[0044]「糖尿病」には、この疾患のI型及びII型の両方が包含される。糖尿病の危険因子の非限定的な例としては、ウエストラインが男性で40インチ超又は女性で35インチ超であること、血圧が130/85mmHg以上であること、トリグリセリドが150mg/dL超であること、空腹時血糖が100mg/dL超であること、又は高密度リポタンパク質が男性で40mg/dL未満若しくは女性で50mg/dL未満であることが挙げられる。
【0038】
[0045]本明細書で使用するとき、「メタボリックシンドローム」という用語は、併せて発生する場合に心血管疾患及び糖尿病を発症するリスクを増加させる内科的異常の組み合わせを指す。メタボリックシンドロームは、米国において5人に1人が罹患しており、有病率は年齢とともに増加する。米国における有病率は人口の25%であるとする推定を示す研究もある。国際糖尿病連合(International Diabetes Foundation)の世界共通定義(consensus worldwide definition、2006)に従って、メタボリックシンドロームは、中心性肥満に、以下のうちのいずれか2つを併せ持っているものである:
[0046] トリグリセリドの上昇:150mg/dL(1.7mmol/L)超、又はこの脂質異常を対象とする治療;
[0047] HDLコレステロールの低下:男性で40mg/dL(1.03mmol/L)未満、女性で50mg/dL(1.29mmol/L)未満、又はこの脂質異常を対象とする治療;
[0048] 血圧の上昇:収縮期BPが130超若しくは拡張期BPが85mmHg超、又は以前に診断された高血圧の治療;及び
[0049] 空腹時血漿グルコースの上昇:(FPG)が100mg/dL(5.6mmol/L)超、又は以前に2型糖尿病であると診断されている。
【0039】
[0050]本明細書で使用するとき、「神経変性疾患」又は「神経変性障害」は、中枢神経系において機能性ニューロンが徐々に減少する任意の状態を指す。一実施形態では、神経変性疾患は、加齢に伴う細胞死に関連する。神経変性疾患の非限定的な例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS及びルーゲーリック病としても知られる)、AIDS認知症、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパース病、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病、ウシ海綿状脳症(BSE)、カナバン病、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、レヴィ小体型認知症、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉変性症、ケネディー病、クラッベ病、ライム病、マシャド・ジョセフ病、多発性硬化症、多系統萎縮症、神経有棘赤血球症、ニーマン・ピック病、ピック病、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、レフサム病、サンドホフ病、びまん性髄鞘破壊性硬化症、脊髄小脳失調症、亜急性連合性脊髄変性症、脊髄癆(せきずいろう)、テイ・サックス病、中毒性脳症、伝染性海綿状脳症、及びハリネズミふらつき症候群が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用するとき、「認知機能」とは、象徴的な活動、例えば、知覚、記憶、注意、音声理解、音声生成、読解、イメージの作成、学習、及び推論、好ましくは少なくとも記憶を伴う、任意の精神的プロセスを指す。
【0041】
[0051]認知機能を測定するための方法は周知であり、例えば、認知機能の任意の特徴に関する個別テスト又はバッテリーテストを含むことができる。そのような試験の1つには、Margallo-LanaらによるPrudhoe認知機能検査(Prudhoe Cognitive Function Test)がある(2003)J.Intellect.Disability Res.47:488-492。別の試験としてはミニメンタルステート検査(Mini Mental State Exam)(MMSE)があり、この検査は、時間及び場所に対する見当識、記銘、注意及び計算、再生、言語使用及び理解、復唱、並びに複雑な命令を評価するように設計されている。本明細書で使用するとき、「認知障害」は、認知機能を低下させる任意の状態を指す。認知障害の非限定的な例としては、せん妄、認知症、学習障害、注意欠陥障害(ADD)、及び注意欠陥多動障害(ADHD)が挙げられる。「ストレス誘発性又はストレス因関連認知機能不全」は、ストレスに誘発される又はストレスに関連する認知機能の乱れを指す。
【0042】
[0052]本明細書で使用するとき、「気分障害」(情動障害としても知られる)は、American Psychiatric Associationにより公開されているDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersに記載されているような情動状態の乱れを指す。気分障害の非限定的な例としては、大うつ病、産後うつ病、気分変調、及び双極性障害が挙げられる。「ストレス誘発性又はストレス因関連気分障害」とは、ストレスに誘発される又はストレスに関連する情動状態の乱れを指す。このような気分障害は、反応性気分障害(reactive mood disorders)と呼ばれることもあり、他の気分障害、例えば、精神疾患ではなく医学的状態又は健康状態に起因する「器質性」気分障害とは区別される。
【0043】
[0053]本明細書で使用するとき、「不安障害」とは、恐怖及び不安の機能不全を指し、例えば、ストレスのかかる状況又はストレスのかかる状況への予測とは比例していない恐怖及び不安を指す。不安障害の非限定的な例としては、全般性不安障害、パニック障害、広場恐怖症を伴うパニック障害、広場恐怖症、社交不安障害、強迫性障害、及び心的外傷後ストレス障害が挙げられる。「ストレス誘発性不安障害又はストレス因関連不安障害」とは、ストレスに誘発される又はストレスに関連する恐怖及び不安の機能不全を指す。このような不安障害は、反応性不安障害(reactive anxiety disorders)と呼ばれることもあり、他の不安障害、例えば、精神疾患ではなく医学的状態又は健康状態に起因する「器質性」不安障害とは区別される。
【0044】
[0054]本明細書で使用するとき、「代謝性疲労(metabolic fatigue)」は、1つ以上の細胞(例えば、肝臓、腎臓、脳、心臓、腸、膵臓、免疫細胞、又は骨格筋細胞のうちの1つ以上)におけるミトコンドリア機能の低下を意味する。
【0045】
[0055]実施形態
ビタミンB12(コバラミンとしても既知)は人体で合成することができず、したがって食品から又は腸内微生物叢による合成から得る必要のあるコバルト含有水溶性ビタミン群である。ビタミンB12群は、コバルトイオンの上部軸配位子(upper axial ligand)に応じて、いくつかの化学的形態のビタミンB12を指し得る。これらは、シアノコバラミン(R=-CN)、ヒドロキソコバラミン(R=-OH)、メチルコバラミン(R=-CH3)、及びアデノシルコバラミン(R=-5’-デオキシアデノシル)である。
【0046】
[0056]ヒト体内におけるビタミンB12のプールは、いくつかの形態、すなわち、不活性であり、活性を得るには変換を要するシアノコバラミン、並びにビタミンB12の代謝活性型であるメチルコバラミン及びアデノシルコバラミンから構成される。
【0047】
[0057]2種類の酵素、メチオニン合成酵素及びメチルマロニルCoAムターゼがビタミンB12を補因子として利用することが知られている。メチオニン合成酵素は、ホモシステインをメチオニンに変換するのにメチルコバラミンを利用する細胞内酵素である。かかる酵素は、この変換により、メチル化ドナーとしてS-アデノシルメチオニン(SAM)を提供し、ホモシステインの毒性の蓄積を予防する重要な役割を果たす。重度のビタミンB12欠乏により観察される低SAMレベル及び高ホモシステインレベルでは、末梢神経及び脊髄のミエリン形成が損なわれる。メチオニン合成酵素は、5-メチル-テトラヒドロ葉酸の、生物活性のあるテトラヒドロ葉酸への活性化も触媒し、この触媒効果は1-炭素代謝及びDNA合成に必要とされ、ひいては赤血球の増加に効果がある。メチルマロニルCoAムターゼは、メチル-マロニルCoAをスクシニルCoAに変換するにあたりアデノシルコバラミンを利用するミトコンドリア酵素であり、スクシニルCoAは続いてTCA回路に取り込まれる。これは分岐鎖アミノ酸及び奇数鎖長脂肪酸の分解によって示され、胚期中の神経発達の制御に必須であるものの、成人期では必須なものではない。
【0048】
[0058]本発明のアデノシルコバラミンは、半合成誘導体の形態であり得る。
【0049】
[0059]別の実施形態では、アデノシルコバラミンは、アデノシルコバラミンに変換され得るヒドロキソコバラミン及び/又はシアノコバラミンであり得る。
【0050】
[0060]ビタミンB12欠乏症
[0061]一実施形態では、対象はビタミンB12欠乏症であり得る。
【0051】
[0062]米国成人の栄養所要量(RDA)は、食物からの平均吸収が約50%であることに基づき、Institute of Medicineにより1日当たり2.4μgに設定された(National Academy of Sciences,Institute of Medicine(2000);Dietary Reference Intakes for Thiamin,Riboflavin,Niacin,Vitamin B6,Folate,Vitamin B12,Pantothenic Acid,Biotin and Choline,Chapter 9,pp306-56)。1日所要量は体格に応じて変わることが示されている。
【0052】
[0063]ヒトにおけるビタミンB12欠乏症の見込みは、ビタミンB12の血清中濃度に従って次のように定義することができる。148ピコモル/L未満(200ピコグラム/mL未満)は欠乏症のおそれあり、148~258ピコモル/L(201~350ピコグラム/mL)は欠乏症の可能性あり、258ピコモル/Lより上(350ピコグラム/mLより上)は欠乏症の見込みなしであることを示す(BMJ,Best Practice,http://bestpractice.bmj.com/best-practice/monograph/822/basics.html)。しかしながら、ビタミンB12レベル並びに活性及び不活性なビタミンB12についての関連合併症を判定する判断基準がないことから、血清ビタミンB12のアッセイは、ビタミンB12欠乏症を診断するために、更なる生化学的アッセイ又は主症状に基づいた臨床的評価と組み合わせることが多い。
【0053】
[0064]ビタミンB12欠乏症の更なる指標を与えるために実施することができる追加のアッセイは、対象から分離した試料中のホロトランスコバラミン、メチルマロン酸及び/又はホモシステインのレベルを、測定することを含む。
【0054】
[0065]ホロトランスコバラミンは、ビタミンB12がその生物活性血清輸送体トランスコバラミンIIに結合したものを指す。ホロトランスコバラミンレベルは、市販のアッセイ(例えば、ELISAアッセイ)を用いて測定することができる。ホロトランスコバラミンレベルが低いことは、潜在性ビタミンB12欠乏症に関連する。
【0055】
[0066]メチルマロン酸(MMA)は、ビタミンB12依存酵素メチルマロニルCoAムターゼの活性低下により蓄積する。したがって、MMAレベルが高いことは、ビタミンB12欠乏症に関連する。
【0056】
[0067]一実施形態では、個体は、メチルマロン酸の血中濃度が高い。
【0057】
[0068]ホモシステインは、ビタミンB12依存酵素メチオニン合成酵素の活性低下により蓄積する。ホモシステインレベルが低い/高いこと(Low High levels of homocysteine)は、ビタミンB12欠乏症に関連する。しかしながら、ホモシステインレベルのアッセイは、葉酸欠乏症により混乱が生じる可能性がある。
【0058】
[0069]アデノシルコバラミンは、例えば、錠剤、液体(例えば、経口摂取用、又は点鼻薬若しくは注射における使用)又は経皮パッチの形態で提供され得る。例えば、アデノシルコバラミンは、それ自体で、又はその他のサプリメントと組み合わせるかのいずれかで、栄養補助食品として利用可能であり得る。
【0059】
[0070]経口補給は、典型的には、形式に応じて1~10μgから最大100μg~2000μgのアデノシルコバラミンを毎日投与することを伴う。経口栄養補助食品の形態で投与される場合、1日量は、1~10μg、好ましくは1~2μgのアデノシルコバラミンを提供する。サプリメントの形態で投与される場合、1日量は、100μg~2000μg、好ましくは250μg~1mgのアデノシルコバラミンを提供する。
【0060】
[0071]本発明は、アデノシルコバラミン産生細菌を含むプロバイオティクスサプリメントを対象に投与することを含み得る。
【0061】
[0072]プロバイオティクスサプリメントは、宿主対象の腸内細菌バランスを改善してビタミンB12摂取を高めることによって、宿主対象に有益な影響を与える任意のプロバイオティクス微生物(複数可)を含むことができる。プロバイオティクス微生物は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属及びサッカロマイセス(Saccharomyces)属又はこれらの混合物を含む群から選択され得る。
【0062】
[0073]アデノシルビタミンB12の経口補給は、食料又は飲料製品の形態であり得る。食料又は飲料製品は、ビタミンB12産生細菌又はその場でビタミンB12を産生する腸内の既存の微生物を強化することができる他のプロバイオティクスを含むプロバイオティクスサプリメントを含み得る。
【0063】
[0074]典型的には、医師が個々の対象に最も適切であろう実際の用量を決定し、この用量は特定の患者の年齢、体重及び反応に応じて異なる。用量は、活性アデノシルビタミンB12の所要量をもたらすのに十分なものである。
【0064】
方法
[0075]理論に束縛されるものではないが、様々な種類のストレスがミトコンドリアのストレス損傷をもたらすことで、ミトコンドリアが細胞機能全般に不可欠な数多くの役割を果たす能力が低下すると考えられる。本明細書に開示される方法は、ミトコンドリアへのストレス損傷を伴う状態を治療するのに有用であり得る。この損傷は、ミトコンドリア疾患を含むがこれらに限定されない多くの経路のいずれかで顕在化され得る。
【0065】
[0076] ミトコンドリア疾患は、ミトコンドリアDNA又は核DNAにおける遺伝的変異又は自然突然変異のいずれかにより、ミトコンドリア内に通常存在するタンパク質又はRNA分子の機能が変化することで生じる。しかしながら、ミトコンドリアの機能の問題は、まだ完全には解明されていない発達及び発育中に生じる因子により、特定の組織にのみ影響を及ぼし得る。ミトコンドリアタンパク質の組織特異的アイソフォームを考慮したとしても、臨床で見られるミトコンドリア疾患症候群に罹患する臓器系のパターンが多様であること(variable patterns)を説明することは難しい。
【0066】
[0077]ミトコンドリア疾患は、赤血球を除く身体の全ての細胞に存在する特殊な区画であるミトコンドリアの損傷に起因する。ミトコンドリアは、身体が生命の維持及び発育の支援に必要とするエネルギーの90%超の生成に関与する。ミトコンドリアが機能しなくなると、細胞において生成されるエネルギーが減少する。細胞は損傷を受け、更には細胞死に至る。このプロセスが全身で繰り返されると、システム全体が破綻し始め、この破綻によりその人の生命が重度に脅かされることになる。ミトコンドリア疾患は主に子供が罹患するが、成人の発症も認められるようになってきている。
【0067】
[0078]ミトコンドリアの疾患は、脳、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓、並びに内分泌系及び呼吸器系の細胞に対し最も損傷を引き起こすようである。
【0068】
[0079]ミトコンドリア病における多くの症状は、非特異的なものである。症状はまた、周期的な悪化を伴う一時的な経過を示す場合もある。ミトコンドリア医学のレビュー論文では、ミトコンドリア病の様々な顕在化の中でも、一過性の片頭痛状態、並びに筋肉痛、胃腸症状、耳鳴り、うつ病、慢性疲労、及び糖尿病が言及されている。ミトコンドリア病を有する患者では、臨床症状は、典型的には、病気、空腹、過剰な運動、及び極端な環境温度などの生理学的ストレッサーに関連してエネルギー需要が高いときに生じる。更に、恐らく、患者が十分なATP産生を行うことができないほど多量の脳のエネルギー要求量に起因して、心理的ストレッサーが症状を引き起こすことも多い。
【0069】
[0080]どの細胞が影響を受けるかに応じて、症状は、運動制御の喪失、筋力低下及び筋肉の痛み、胃腸障害及び嚥下困難、不十分な成長、心疾患、肝疾患、糖尿病、呼吸器合併症、発作、視覚的/聴覚的問題、乳酸アシドーシス、発達遅延、並びに感染症を起こしやすいことを含み得る。
【0070】
[0081]ミトコンドリア疾患としては、限定するものではないが、アルパーズ病、バース症候群、β酸化異常、カルニチン欠乏症、カルニチン-アシル-カルニチン欠損症、慢性進行性外眼筋麻痺症候群、コエンザイムQ10欠損症、複合体I欠損症、複合体II欠損症、複合体III欠損症、複合体IV欠損症、複合体V欠損症、CPT I欠損症、CPT II欠損症、クレアチン欠乏症候群、チトクロムc酸化酵素欠損症、グルタル酸尿症2型、カーンズ・セイヤー症候群、乳酸アシドーシス、LCHAD(長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症)、レーベル遺伝性視神経症、リー病(Leigh disease)、致死性乳児心筋症(lethal infantile cardiomyopathy)、ルフト病、MAD(中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症)、ミトコンドリア細胞症、ミトコンドリアDNA枯渇、ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、及び脳卒中様症状、ミトコンドリア脳症、ミトコンドリアミオパチー、ミトコンドリア劣性運動失調症候群(mitochondrial recessive ataxia syndrome)、筋ジストロフィー、ミオクローヌスてんかん及び赤色ぼろ線維疾患(ragged-red fiber disease)、筋神経性胃腸管型脳症(myoneurogenic gastrointestinal encephalopathy)、ニューロパチー、運動失調、網膜色素変性症、及び下垂症、ピアソン症候群、POLG変異、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、ピルビン酸脱水素酵素欠損症、SCHAD(短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症)、並びに極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症が挙げられる。
【0071】
[0082]したがって、本開示の一態様は、ストレス(例えば、幼少期ストレス及び/又はその影響)、肥満、代謝速度の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、ストレス誘発性又はストレス因関連認知機能不全、気分障害(例えば、ストレス誘発性又はストレス因関連気分障害)、不安障害(例えば、ストレス誘発性又はストレス因関連不安障害)、及び加齢性神経細胞死又は機能不全(例えば、特定の神経変性疾患に起因しない加齢性神経細胞死又は機能不全)、外傷、感染症(例えば、ICU)、又はがんからなる群から選択される少なくとも状態の治療又は予防に有効な量で、アデノシルコバラミンを含む単位剤形の組成物である。
【0072】
[0083]本開示の別の態様は、ストレス(例えば、幼少期ストレス及び/又はその影響)、肥満、代謝速度の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、ストレス誘発性又はストレス因関連認知機能不全、気分障害(例えば、ストレス誘発性又はストレス因関連気分障害)、不安障害(例えば、ストレス誘発性又はストレス因関連不安障害)、及び加齢性神経細胞死又は機能不全(例えば、特定の神経変性疾患に起因しない加齢性神経細胞死又は機能不全)、外傷、感染症(例えば、ICU)、又はがんからなる群から選択される少なくとも状態を、少なくとも1つの状態を有する個体において治療する方法である。この方法は、治療有効量のアデノシルコバラミンを含む組成物を個体に投与することを含む。
【0073】
[0084]本開示の更なる態様は、ストレス、肥満、代謝速度の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、ストレス誘発性又はストレス因関連認知機能不全、気分障害(例えば、ストレス誘発性又はストレス因関連気分障害)、不安障害(例えば、ストレス誘発性又はストレス因関連不安障害)、及び加齢性神経細胞死又は機能不全(例えば、特定の神経変性疾患に起因しない加齢性神経細胞死又は機能不全)、外傷、感染症(例えば、ICUにおいて)、又はがんからなる群から選択される少なくとも1つの状態を予防する方法である。この方法は、予防有効量のアデノシルコバラミンを含む組成物を少なくとも1つの状態のリスクがある個体に投与することを含む。
【0074】
[0085]これらの方法の一実施形態では、治療又は予防される高脂血症は、高トリグリセリド血症を含む。これらの方法の一実施形態では、治療又は予防される高脂血症は、遊離脂肪酸の増加を含む。これらの方法の一実施形態では、治療又は予防される加齢性神経細胞死又は機能不全は、高齢者などの中高年者への組成物の投与による。
【0075】
[0086]治療又は予防されるストレスは、幼少期ストレス、すなわち、生後5歳までの期間の間に経験されるストレスであり得る。幼少期ストレスは、うつ病、不安、及び異常なリスクテイキング行動の発症率又はそれに対する感受性の増加などの心理的パラメータを含む、認知能力に重大な悪影響を与えることが報告されている。幼少期ストレスを経験した個体において、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、及び大うつ病の発症率が高いことが報告されている。
【0076】
[0087]本開示の別の態様は、健康な中高年者において代謝低下の開始を遅延させる、酸化ストレスを減少させる、免疫機能を維持する、及び/又は認知機能を維持する方法である。この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを健康な中高年者に投与することを含む。
【0077】
[0088]本開示の別の態様は、中高年者又は高齢者などの個体におけるミトコンドリア機能を改善する方法である。この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを個体に投与することを含む。
【0078】
[0089]本開示の更に別の態様は、活性酸素種の代謝を増強し、肥満又は糖尿病のうちの少なくとも1つを有する個体におけるグルコース制御を改善する方法である。この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを個体に投与することを含む。
【0079】
[0090]本開示の別の態様は、中高年者又は高齢者などの個体において、ミトコンドリア機能を改善する(好ましくは、代謝又は筋力のうちの少なくとも1つに利益をもたらす)方法である。この方法は、有効量のアデノシルコバラミンを個体に投与することを含む。
【0080】
[0091]本開示の更に別の態様は、体重管理に有効な量でアデノシルコバラミンを含む組成物である。成人(例えば、出生後少なくとも18年)についての「体重管理」は、その個体が、組成物を1週間摂取した後、好ましくは組成物を1カ月間摂取した後、より好ましくは組成物を1年間摂取した後に、組成物の摂取を開始したときの体格指数(BMI)と比較してほぼ同じBMIを有することを意味する。若年個体についての「体重管理」は、BMIが、組成物を1週間摂取した後、好ましくは組成物を1カ月間摂取した後、より好ましくは組成物を1年間摂取した後に、相当する年齢の個体に対するパーセンタイルが、組成物の摂取を開始したときのBMIパーセンタイルと比較してほぼ同じであることを意味する。いくつかの実施形態では、体重管理を受けている個体は、肥満を予防している過体重個体である。
【0081】
[0092]関連する実施形態では、個体における体重管理の方法は、有効量のアデノシルコバラミンを含む組成物を個体に投与することを含む。
【0082】
[0093]組成物は、身体持久力(例えば、運動、肉体労働、スポーツ活動などの身体的タスクを実行する能力)を改善する、肉体疲労を抑制若しくは遅延させる、血中酸素濃度を高める、健康な個体におけるエネルギーを増強する、作業能力及び持久力を増強する、筋肉疲労を低減する、運動からの回復を改善する、ストレスを低減する、心筋細胞の機能を増強する、性的能力を改善する、筋肉ATPレベルを増加させる、及び/又は血液中の乳酸を低減させることができる。「持久力」とは、一定の作業負荷で、一般的にはV02maxの80%未満の強度で運動したときの、疲労するまでの時間を指す。いくつかの実施形態では、組成物は、ミトコンドリア活性を増加させ、ミトコンドリアのバイオジェネシスを増加させ、及び/又はミトコンドリアの質量(mitochondrial mass)を増加させる量で投与される。
【0083】
[0094]本開示の更なる態様は、ミトコンドリア機能又は代謝速度のうちの少なくとも1つを増加又は維持するのに有効な量でアデノシルコバラミンを含む組成物である。関連する実施形態では、個体におけるミトコンドリア機能又は代謝速度のうちの少なくとも1つを増加又は維持する方法は、有効量のアデノシルコバラミンを含む組成物を個体に投与することを含む。
【0084】
[0095]本開示の更に別の態様は、ミトコンドリア関連疾患、ミトコンドリア機能の変化に関連する状態又はミトコンドリア密度の低下のうちの少なくとも1つを治療、予防、又は管理するのに有効な量で、アデノシルコバラミンを含む、単位剤形の組成物である。関連する実施形態では、ミトコンドリア関連疾患、ミトコンドリア機能の変化に関連する状態又はミトコンドリア密度の低下のうちの少なくとも1つを有する個体を治療する方法は、有効量のアデノシルコバラミンを含む組成物を個体に投与することを含む。別の関連する実施形態では、ミトコンドリア関連疾患、ミトコンドリア機能の変化に関連する状態又はミトコンドリア密度の低下のうちの少なくとも1つを、そのリスクがある個体において予防する方法は、有効量のアデノシルコバラミンを含む組成物を個体に投与することを含む。
【0085】
[0096]本開示の別の態様は、認知機能を改善又は維持するのに有効な量でアデノシルコバラミンを含む単位剤形の組成物である。関連する実施形態では、個体における認知機能を改善又は維持する方法は、アデノシルコバラミンを含む組成物を個体に投与することを含む。
【0086】
[0097]一実施形態では、個体は認知障害を有さない。例えば、組成物は、正常な認知機能を有する対象において認知機能を増強することができる。
【0087】
[0098]本明細書に開示される組成物はまた、ミトコンドリア活性の欠陥若しくは低下が疾患若しくは状態の病態生理に関与している、又はミトコンドリア機能の増加が所望の有益な効果をもたらす、様々な追加の疾患及び状態のいずれかの治療にも使用することができる。そのような状態の非限定的な例としては、精子の運動能低下に関連する男性不妊症、黄斑変性、並びに他の加齢性及び遺伝性眼障害及び聴覚消失(例えば、加齢性聴覚消失)が挙げられる。
【0088】
[0099]本明細書に開示される組成物及び方法の各々では、アデノシルコバラミンは、好ましくは、食品添加剤、食品原材料、機能性食品、ダイエタリーサプリメント、医療用食品、ニュートラシューティカルズ、又は栄養補助食品を含む食品製品である組成物で投与することができる。
【0089】
食事介入及び食事製品
[0100]用語「食事介入」は、対象に与えられ、対象の食生活に変化をもたらす、外部因子を指す。一実施形態では、食事介入は、高カロリー食である。別の実施形態では、食事介入は、高タンパク質食及び/又は高炭水化物食である。別の実施形態では、食事介入は、ビタミン及びミネラルを補給した食事である。
【0090】
[0101]好ましい実施形態では、食事介入は、アデノシルコバラミンを補給した食事である。
【0091】
[0102]別の好ましい実施形態では、食事介入は、ビタミンB12、特にアデノシルコバラミンに変換され得るヒドロキソコバラミン及び/又はシアノコバラミンを補給した食事である。
【0092】
[0103]規定食は、対象の初期体重に合わせて調整したものであってよい。
【0093】
[0104]食事介入には、少なくとも1つの規定食製品の投与が含まれていてもよい。規定食製品は、例えば対象の食欲を増強し得る食事代替製品又は栄養補給製品であってよい。規定食製品は、食品製品、飲料、ペットフード製品、栄養補助食品、ニュートラシューティカルズ、食品添加物、又は栄養配合物を含み得る。経口栄養補助食品の例としては、ネスレ製品のBoost及びMeriteneが挙げられる。
【0094】
[0105]一実施形態では、組成物は、中鎖トリグリセリド、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、及びラウリン酸のうちの1つ以上を更に含む。一実施形態では、組成物は、リン脂質、例えばホスファチジルコリンを更に含む。
【0095】
[0106]一実施形態では、組成物は、タンパク質源、好ましくは精製タンパク質(すなわち、そのタンパク質が生成された天然食品成分から単離されたもの)を更に含む。組成物のタンパク質含量は、好ましくは組成物の20~99重量%、例えば、組成物の20~90重量%、例えば、組成物の30~80重量%、例えば、組成物の40~80重量%、例えば50~80重量%、例えば、組成物の40~70重量%である。
【0096】
[0107]組成物に使用するのに好適なタンパク質又はその原料の非限定的な例としては、加水分解された、部分的に加水分解された、又は加水分解されていない、タンパク質又はタンパク質源が挙げられる。これらは、乳(例えば、カゼイン、ホエイ)、動物(例えば、肉、魚)、穀物(例えば、米、トウモロコシ)、又は野菜(例えば、大豆、エンドウ豆)などの任意の既知の又は他の好適な原料に由来してもよい。原料又は複数種のタンパク質の組み合わせを使用してもよい。タンパク質又はその原料の非限定的な例としては、インタクトなエンドウ豆タンパク質、インタクトなエンドウ豆タンパク質単離物、インタクトなエンドウ豆タンパク質濃縮物、乳タンパク質単離物、乳タンパク質濃縮物、カゼインタンパク質単離物、カゼインタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質単離物、カゼインナトリウム又はカゼインカルシウム、全牛乳、部分的又は完全に脱脂された乳、ヨーグルト、大豆タンパク質単離物、及び大豆タンパク質濃縮物、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。原料又は複数種のタンパク質の組み合わせを使用してもよい。好ましいタンパク質としては、エンドウ豆タンパク質、ホエイタンパク質、大豆タンパク質、及びカゼインが挙げられる。カゼインタンパク質は、例えば、カゼインナトリウム及びカゼインカルシウムを含み得る。
【0097】
[0108]タンパク質源は、各アミノ酸、アミノ酸を含むポリペプチド、又はこれらの混合物によって提供され得る。筋成長、筋肉維持、及び/又は筋肉増強処置の多くでは、有益な特定のアミノ酸は、例えば、L-アルギニン、L-グルタミン、リジン、及び分枝鎖アミノ酸(すなわち、ロイシン、イソロイシン、及びバリン;特にロイシン及びイソロイシン)である。これらの特定のアミノ酸は、タンパク質源として提供されてもよく、又はタンパク質の主要な原料に追加されてもよい。したがって、組成物中のタンパク質源は、1種以上の分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、及びバリン)、L-アルギニン及びL-グルタミンの一方又は両方、並びにリジンを含んでもよい。好ましい実施形態では、組成物は、1種以上各のアミノ酸、例えば、ロイシン、イソロイシン、及びL-アルギニンのうちの1種以上(又は全て)と一緒に、ホエイタンパク質及び/又はカゼインタンパク質を含む。
【0098】
[0109]組成物は、1週間に少なくとも1日、好ましくは1週間に少なくとも2日、より好ましくは1週間に少なくとも3日若しくは4日(例えば、1日おき)、最も好ましくは1週間に少なくとも5日、1週間に6日、又は1週間に7日、投与してよい。投与期間は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1カ月間、より好ましくは少なくとも2カ月間、最も好ましくは少なくとも3カ月間、例えば、少なくとも4カ月間であり得る。一実施形態では、投与は少なくとも毎日であり、例えば、対象に1日に1回以上投与され得る。いくつかの実施形態では、投与は、個体の残りの寿命にわたって継続される。別の実施形態では、投与は、医学的状態について検出可能な症状がなくなるまで行われる。特定の実施形態では、投与は、少なくとも1つの症状について検出可能な改善が見られるまで行われ、更なる場合においては、寛解を維持するために継続される。
【0099】
[0110]本明細書に開示される組成物は、経口、経腸、又は非経口的に対象に投与され得る。非経口投与の非限定的な例としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、関節内、滑液嚢内、眼内、髄腔内、局所、及び吸入によるものが挙げられる。したがって、組成物の形態の非限定的な例としては、自然食品、加工食品、天然果汁、濃縮物及び抽出物、注射液、マイクロカプセル、ナノカプセル、リポソーム、硬膏、吸入形態、点鼻スプレー、点鼻液、点眼液、舌下錠、及び持続放出性製剤が挙げられる。
【0100】
[0111]本明細書に開示される組成物には、治療目的での投与のための様々な製剤のいずれかを使用することができる。より詳細には、医薬組成物は、適切な薬学的に許容可能な担体又は希釈剤を含むことができ、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、及びエアゾール剤などの固体、半固体、液体又は気体形態の製剤として処方され得る。したがって、組成物の投与は、経口、頬側、直腸内、非経口、腹腔内、皮内、経皮、及び気管内投与を含む様々な方法で達成することができる。活性薬剤は、投与後に全身性のものであってもよく、又は局所投与の使用、壁内投与の使用、若しくは埋め込み部位において有効用量を保持するように作用する埋入物(インプラント)の使用によって局在化させてもよい。
【0101】
[0112]医薬剤形では、化合物は、薬学的に許容可能な塩として投与されてもよい。これらはまた、別の薬学的に活性な化合物と適切に関連させて使用してもよい。以下の方法及び添加物は、単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0102】
[0113]経口製剤では、化合物は、単独で使用することができ、又は、錠剤、散剤、顆粒剤若しくはカプセル剤を製造するための適切な添加剤と組み合わせて、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、若しくはバレイショデンプンなどの従来の添加剤と、結晶セルロース、セルロース機能性誘導体、アラビアゴム、トウモロコシデンプン又はゼラチンなどの結合剤と、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤と、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤と、及び所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤及び香味物質と組み合わせて、使用することができる。
【0103】
[0114]化合物は、水性又は非水性溶剤中に、例えば、植物油若しくは他の類似の油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸のエステル又はプロピレングリコールなどに、また所望であれば、可溶化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、及び保存剤などの従来の添加剤と一緒に、溶解、懸濁又は乳化することによって、注射用の製剤として処方することができる。
【0104】
[0115]化合物は、吸入により投与されるエアゾール製剤において利用することができる。例えば、化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、及び窒素などの加圧された許容可能な噴射剤中に配合することができる。
【0105】
[0116]更に、化合物は、乳化基剤又は水溶性基剤などの様々な基剤と混合することによって坐剤として製造することができる。化合物は、坐剤によって直腸内に投与することができる。坐剤は、ココアバター、カーボワックス、及びポリエチレングリコールなどの、体温では融解するが室温では凝固するビヒクルを含むことができる。
【0106】
[0117]シロップ剤、エリキシル剤、及び懸濁剤などの経口又は直腸内投与用の単位剤形が提供されてもよく、各投与量単位、例えば、小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤又は坐剤は、規定量の組成物を含有する。同様に、注射又は静脈内投与用の単位剤形は、滅菌水、生理食塩水又は別の薬学的に許容可能な担体による溶液としての組成物中に化合物を含んでもよく、各投与量単位、例えばmL又はLは、化合物のうちの1つ以上を含有する組成物を規定量含有する。
【0107】
[0118][実施例]
[0119]以下の非限定的な実施例は、アデノシルコバラミンを投与することで、細胞エネルギー産生を増加させ、それによって様々な組織の機能を向上させるという構想を展開及び支持する科学的データを提示する。
【0108】
[0120]実施例1
[0121]材料及び方法
[0122]ヒトの筋管におけるアデノシルB12及びメチルB12の効果を試験するために、初代成体筋細胞(HSMM)から分化させたヒトの筋管における酸素消費速度及びATP産生を測定した。HSMMは、Lonza(https://bioscience.lonza.com)から購入した。HSMMは、健常ドナーの上腕又は脚の筋組織から単離されたものであり、2回目の継代後に使用した。HSMMを、ウェル当たり12000個の細胞密度で96ウェルプレート中のSKM-M培地(ZenBio)に播種した。2%ウマ血清を含有するDMEM/F-12(Gibco)で細胞を4日間生育させて、HSMMから筋管を分化させた。生育2日目から、培地はB12を非含有のものとした。
【0109】
[0123]XF96機器(Seahorse Biosciences,North Billerica,MA,USA)を使用して酸素消費を測定した。分化後、呼吸速度を37℃で7分ごとに測定した。筋管を10μMエピバチジンで刺激した。次いで、呼吸のATPシンターゼ依存性成分を測定するためオリゴマイシン(2.5μg/ml)を添加した。ATPシンターゼに依存する呼吸は、オリゴマイシンの添加前後の呼吸速度の差として計算した。
【0110】
[0124]ルシフェラーゼを発現するアデノウイルス(Sirion biotechから)に感染した筋管を使用して、ATP測定を実施した。Cytation 3細胞イメージングリーダ(Biotek)で発光を測定した。感染の48時間後、145mMのNaCl、5mMのKCl、1mMのMgCl2、1mMのCaCl2、10mMのグルコース及び10mMのHepes、pH 7.4を含有する標準培地において、ルミノメータでATPの相対変化を測定した。ルシフェリン(5μM)を添加して、ATPに依存した反応を促進し、基礎発光を100%として正規化した。エピバチジンを添加することにより、筋管におけるATP産生を刺激した。
【0111】
[0125]治療のために、測定の3時間前(急性治療)又は3日前(慢性治療)に、細胞培養液又は筋管培養液に化合物を直接添加した。定量にはExcel(Microsoft)及びGraphPad Prism7.02(GraphPad)ソフトウェアに基づくカスタムモジュール分析を使用した。
【0112】
[0126]結果
[0127]
図1に示すように、アデノシルB12は、刺激されたヒト骨格筋の筋管における呼吸のATPシンターゼ依存性成分を増加させるが、メチルB12(
図2)は、刺激されたヒト骨格筋の筋管における呼吸のATPシンターゼ依存性成分を増加させない。
【0113】
[0128]同様に、
図3に示すように、アデノシルB12は、急性治療中にヒト骨格筋の筋管においてエピバチジン(epibatine)により刺激されるATP産生を増強するが、メチルB12は産生を増強しない。
【0114】
[0129]また、アデノシルB12でのヒト骨格筋の筋管の慢性治療は、エピバチジン(epibatine)により刺激されるATP産生を増強するが、メチルB12での慢性治療では増強されない(
図4)。
【0115】
[0130]実施例2
[0131]材料及び方法
[0132]3カ月齢又は19カ月齢の雄性Wistarラットに、1mg/kgの用量のアデノシルコバラミン(アデノシルB12)又はメチルコバラミン(メチル-B12)を週3回皮下注射して5カ月間処理した。対照動物には同量の生理食塩水を注射した。5カ月間の処理後、成体ラットを8カ月齢のラットとして定義し、老齢(高齢)動物を24カ月齢げっ歯類として定義した。
【0116】
[0133]Agencourt RNAdvance組織キットを使用して、全RNAを前脛骨筋から抽出した。遺伝子セットのエンリッチメント解析及びネットワーク解析のために、RNA量はRibogreenで測定し、RNA品質は標準感度RNA分析キットを使用してフラグメントアナライザーで確認した。全ての標的cRNAは、IVT+キットを使用して合成し、Eberwine T7手順に基づいてアフィメトリクス(Affymetrix)プロトコルに従って断片化した。簡潔には、100ngの全RNAを使用して二本鎖cDNAを作製し、続いてインビトロ転写し、cRNAをビオチン標識した。骨格筋の遺伝子セットのエンリッチメント解析(GSEA)は、差次的に発現された有意な経路を示す(FIG.5A)。ネットワーク分析(FIG.5B)では、相互作用スコアが>0.9のノードは異なるグレーレベルで表され、生物学的機能をもとに集約される。
【0117】
[0134]筋パフォーマンス(
図6)を測定するために、ロータロッド装置を用いて協調運動を測定した。ラットを回転ロッド上に置き、ラットが回転に対処できなくなり、ロッドの下に置かれた保護パッドに落とされるまで、回転速度を4rpmから40rpmへと600秒にわたって徐々に増加させた。ロータロッド上での活動時間を秒単位で測定する。各試験間に少なくとも10分間の安静期間を設けて、各動物を3回記録した。
【0118】
[0135]結果
[0136]
図5-1及び5-2に示すように、アデノシルB12は、骨格筋における酸化的リン酸化遺伝子群の遺伝子発現シグネチャを特異的に示す。インビボでアデノシルB12で処理した老齢ラットを、メチルB12で処理した老齢ラットに対して比較した、酸化的リン酸化遺伝子セットのエンリッチメントプロット解析(パネル5A)は、アデノシルB12で処理した骨格筋ではミトコンドリアエネルギーの産生が強い転写シグネチャであることを示す。更に、調節された遺伝子についてのネットワーク解析(パネル5B)では、アデノシルB12で特異的に処理したラットでのみ、ミトコンドリア呼吸器鎖複合体、酸化的リン酸化、及びミトコンドリア機能に関連づけられるいくつかのクラスタが区別された。
【0119】
[0137]また、老齢ラットをアデノシルB12でインビボで特異的に処理すると、ロッド上での活動時間が有意に増加することから、骨格筋パフォーマンスは改善する。
【0120】
[0138]本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び変形が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び変形は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び変形は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。