(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-03
(45)【発行日】2025-04-11
(54)【発明の名称】電磁鋼板積層用接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20250404BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250404BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20250404BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20250404BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J11/08
H01F1/00
(21)【出願番号】P 2023529667
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019251
(87)【国際公開番号】W WO2022270154
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2021102360
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591037960
【氏名又は名称】シーカ・ジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 和憲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 つばさ
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 高志
(72)【発明者】
【氏名】大石 浩
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-096429(JP,A)
【文献】特開昭48-100602(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094789(WO,A1)
【文献】特開2016-039042(JP,A)
【文献】特表2009-517498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
H01F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)を含むエポキシ樹脂(AA)、
示差走査熱量測定による、未硬化状態でのガラス転移温度が120℃を超えるフェノキシ樹脂(B)、及び、
アミン系潜在性硬化剤(C)を含有し、
前記エポキシ樹脂(A)は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含み、
前記軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂の含有量が、前記エポキシ樹脂(AA)全量中の50質量%以上であり、
前記フェノキシ樹脂(B)の含有量が、前記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、20~80質量部であり、
得られる接着剤硬化物の、示差走査熱量測定によるガラス転移温度が160℃を超える、電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項2】
前記フェノキシ樹脂(B)が、リン含有フェノキシ樹脂(B1)、フルオレン含有フェノキシ樹脂(B2)、及び、ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項3】
前記軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂が、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(A1)及び/又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A2)を含む、請求項1又は2に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A)が、更に、N,N-ジグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂を含み、前記N,N-ジグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、前記エポキシ樹脂(AA)全量中の50質量%以下である、請求項1又は2に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項5】
前記N,N-ジグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂が、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂(A3)、及び/又は、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂(A4)を含む、請求項
4に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【化1】
(1)
【化2】
(2)
【請求項6】
前記アミン系潜在性硬化剤(C)の含有量が、前記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対し、5~70質量部である、請求項1又は2に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項7】
更に、強靭化剤(D)を含有する、請求項1又は2に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項8】
前記強靭化剤(D)が、平均粒径が0.005~0.6μmであり、コアシェル型の強靭化剤(D1)を含む、請求項
7に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項9】
前記強靭化剤(D)の含有量が、前記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対し、1~30質量部である、請求項
7に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項10】
2官能のエポキシ樹脂の含有量が、前記エポキシ樹脂(AA)中の0~40質量%である、請求項1又は2に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【請求項11】
前記接着剤硬化物は、JIS K7161に準じて、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上である、請求項1又は2に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板積層用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機、発電機、変圧器等の固定子又は回転子において、例えば、積層鉄心が使用されている。積層鉄心は一般的に複数の電磁鋼板が接着剤組成物で接着し積層されている。
【0003】
積層鉄心について、例えば特許文献1は、積層電磁鋼板が有する接着層が、ガラス転移温度又は軟化温度が50℃~150℃である有機系樹脂(例えばエポキシ樹脂)からなること等を開示する。
【0004】
特許文献2は、環状積層コア材、及び、環状積層コア材の製造方法に関し、積層コア材に対して絶縁シートとして使用される、アラミド紙の積層シートを製造する際、接着剤として、エポキシ基含有フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂からなる樹脂組成物を用いることを開示する。
【0005】
特許文献3は、積層された複数枚の鉄心薄板を接着剤によって接着してなる接着型の積層鉄心の製造方法等に関し、接着剤の耐熱性を示す1つの指標として、窒素雰囲気下で300℃、1時間保持した後の引っ張り強度は30MPa以上が好ましいことを開示する。
【0006】
特許文献4は、モータの回転子、モータの固定子、トランス等に使用される積層鉄心及びその製造方法に関し、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO2、TiO2、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(H3PO4)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、無機ナノ粒子は、水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂である、無方向性電磁鋼板組成物等を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-146492号公報
【文献】特開2020-171171号公報
【文献】特開2004-42345号公報
【文献】特表2016-540901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
積層鉄心が使用条件下で高い性能を発揮するためには、特許文献3に示されているように、積層電磁鋼板用の接着剤組成物から得られる硬化物(接着剤硬化物)が、優れた強靭性を有することが要求される。殊に、近年、接着剤硬化物の強靭性については、高温(例えば120℃以上)を含めた広い温度範囲において高い降伏応力を有することが求められている。具体的には、例えば、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であるが必要とされる。
しかしながら、従来の接着剤組成物から上記のような優れた強靭性を有する接着剤硬化物を得ることは極めて困難であった。
【0009】
次に、積層鉄心の製造において、接着剤組成物を適用した電磁鋼板を使用する際、上記接着剤にタックがないことが要求される。
一般的に接着剤組成物が適用された電磁鋼板は、まず、電磁鋼板の表面に接着剤組成物が塗布、乾燥され、その後、上記電磁鋼板同士が重なる状態(例えば上記電磁鋼板がロール状に巻かれた状態)で輸送又は保管される。上記状態で接着剤にタックがあると輸送又は保管中に接着剤が別の電磁鋼板に粘着し、電磁鋼板を使用するために例えばロール状の電磁鋼板を広げた際、接着剤が本来接着しているはずの電磁鋼板からはがれてしまう場合がある。また、打ち抜き工程で、電磁鋼板上の接着剤組成物が、打ち抜き装置等に粘着する場合がある。
このため、電磁鋼板が単に積層する状態のとき(最終的に接着されて積層電磁鋼板になる前)において、電磁鋼板に適用された接着剤組成物は、タックフリー性が優れる必要がある。
【0010】
更に、接着剤組成物が適用された電磁鋼板を長期保管しても、上記接着剤組成物の接着性能が低下しないこと(長期保管後の接着性能が優れる)が、電磁鋼板積層用接着剤組成物には要求される。
【0011】
上記の状況において、本発明者らは、特許文献1、2を参考にして、ビスフェノールA型のようなエポキシ樹脂と、一般的なフェノキシ樹脂とを含む組成物から得られる硬化物を評価したところ、上記のような硬化物はガラス転移温度(耐熱性)が上がらず、適用後の接着剤組成物のタックフリー性、接着剤硬化物の高温下での強靭性、長期保管後の接着性能の維持が不十分であることが分かった。
また、上記のフェノキシ樹脂およびエポキシ樹脂を変更し、得られる接着剤硬化物のTg(耐熱性)を単に上げただけでは、上記のような硬化物の降伏応力(強靭性)は上がらず、適用後の接着剤組成物のタックフリー性も改善しないことが分かった(比較例1)。
次に、上記のエポキシ樹脂を軟化温度が50℃~150℃であるエポキシ樹脂及び/又は3官能以上のエポキシ樹脂に変更したところ、得られる接着剤硬化物のTg(耐熱性)は上がり、室温下での降伏応力は高くなるが、それだけでは、接着剤硬化物の高温条件下での強靭性、長期保管後の接着性能の維持が不十分であることが分かった(比較例3、5)。
【0012】
したがって、本願は、積層電磁鋼板を作製する前までは優れたタックフリー性を有し、長期間保管後であっても接着性能が優れ、得られた接着剤硬化物は広い温度範囲において強靭性が優れる、電磁鋼板積層用接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、接着剤組成物が、3官能以上のエポキシ樹脂(A)と、未硬化状態でのガラス転移温度が120℃を超えるフェノキシ樹脂(B)と、アミン系潜在性硬化剤(C)とを含有し、上記エポキシ樹脂(A)は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含み、上記フェノキシ樹脂(B)の含有量が特定量であり、得られる接着剤硬化物のガラス転移温度が160℃を超えることによって、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
【0014】
[1]
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)を含むエポキシ樹脂(AA)、
示差走査熱量測定による、未硬化状態でのガラス転移温度が120℃を超えるフェノキシ樹脂(B)、及び、
アミン系潜在性硬化剤(C)を含有し、
上記エポキシ樹脂(A)は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含み、
上記フェノキシ樹脂(B)の含有量が、上記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、20~80質量部であり、
得られる接着剤硬化物の、示差走査熱量測定によるガラス転移温度が160℃を超える、電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[2]
上記フェノキシ樹脂(B)が、リン含有フェノキシ樹脂(B1)、フルオレン含有フェノキシ樹脂(B2)、及び、ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[3]
上記軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂が、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(A1)及び/又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A2)を含む、[1]又は[2]に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[4]
上記軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂の含有量が、上記エポキシ樹脂(AA)全量中の50質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[5]
上記エポキシ樹脂(A)が、更に、N,N-ジグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂を含み、上記N,N-ジグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、上記エポキシ樹脂(AA)全量中の50質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[6]
上記N,N-ジグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂が、後述する式(1)で表されるエポキシ樹脂(A3)、及び/又は、後述する式(2)で表されるエポキシ樹脂(A4)を含む、[5]に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[7]
上記アミン系潜在性硬化剤(C)の含有量が、上記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対し、5~70質量部である、[1]~[6]のいずれかに記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[8]
更に、強靭化剤(D)を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[9]
上記強靭化剤(D)が、平均粒径が0.005~0.6μmであり、コアシェル型の強靭化剤(D1)を含む、[8]に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[10]
上記強靭化剤(D)の含有量が、上記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対し、1~30質量部である、[8]又は[9]に記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[11]
2官能のエポキシ樹脂の含有量が、上記エポキシ樹脂(AA)中の0~40質量%である、[1]~[10]のいずれかに記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
[12]
上記接着剤硬化物は、JIS K7161に準じて、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上である、[1]~[11]のいずれかに記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物。
【0015】
[13]
電磁鋼板と接着剤層が交互に積層され、上記接着剤層が[1]~[12]のいずれかに記載の電磁鋼板積層用接着剤組成物で形成された鉄心。
[14]
上記接着剤層は、JIS K7161に準じて、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上である、[13]に記載の鉄心。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物は、電磁鋼板に適用されてから鉄心(積層鉄心)を製造する前までは優れたタックフリー性を有し、上記製造前までに長期間保管されても接着性能が優れ、得られた接着剤硬化物は広い温度範囲において強靭性が優れる。
本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物で形成された鉄心は、接着性能が優れ、広い温度範囲において強靭性が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様様の一例であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現としてこれを用いる。
本明細書に記載されている各成分の製造方法は断りがない限り特に制限されない。例えば従来公知の方法が挙げられる。
本明細書において、本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物について、上記タックフリー性、上記接着性能及び上記強靭性のうち少なくとも1つがより優れることを「本発明の効果がより優れる」という場合がある。本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物で形成された鉄心について、接着性能及び強靭性のうち少なくとも一方がより優れる場合も同様である。
【0018】
[電磁鋼板積層用接着剤組成物]
本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物(本発明の組成物)は、
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)を含むエポキシ樹脂(AA)、
示差走査熱量測定(DSC測定)による、未硬化状態のガラス転移温度(Tg)が120℃を超えるフェノキシ樹脂(B)、及び、
アミン系潜在性硬化剤(C)を含有し、
上記エポキシ樹脂(A)は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含み、
上記フェノキシ樹脂(B)の含有量が、上記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、20~80質量部であり、
得られる接着剤硬化物の、示差走査熱量測定によるTgが160℃を超える、電磁鋼板積層用接着剤組成物である。
【0019】
本発明の組成物は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂だけなく、凝集力が優れる、すなわちTgが120℃を超えるフェノキシ樹脂(B)を含有することによって、得られる接着剤硬化物が、25℃条件下での降伏応力だけでなく、高温を含む広い温度範囲において優れた降伏応力が発現できることを見出した。上記の事項が本発明の組成物の最大の特徴であると考えられる。
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0020】
<<エポキシ樹脂(AA)>>
本発明の組成物は、エポキシ樹脂(AA)を含む。エポキシ樹脂(AA)はエポキシ基を複数有する化合物である。
本発明の組成物は、エポキシ樹脂(AA)を含有することによって、電磁鋼板に対する高い接着信頼性を保持できる。
なお、本発明において、エポキシ樹脂(AA)は、後述するフェノキシ樹脂(B)を含まず、後述する強靭化剤(D)を含まない。
【0021】
・エポキシ樹脂(AA)のエポキシ当量
エポキシ樹脂(AA)のエポキシ当量は、本発明の効果がより優れるという観点から、1000g/eq以下であることが好ましく、100~500g/eqがより好ましい。
本発明において、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236規格に準拠して、自動電位差滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-1600ST)を用いて、溶媒としてクロロホルムを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液で滴定することによって測定を行うことができる。
【0022】
・エポキシ樹脂(AA)の分子量
エポキシ樹脂(AA)の分子量は、本発明の効果がより優れるという観点から、100以上5000未満であることが好ましい。
エポキシ樹脂(AA)の分子量は、エポキシ樹脂(AA)が有するエポキシ当量及びエポキシ基の数から算出することができる。
【0023】
<エポキシ樹脂(A)>
エポキシ樹脂(AA)は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)を含む。
エポキシ樹脂(A)が1分子中に有するエポキシ基の数は、20個以下とすることができ、本発明の効果がより優れるという観点から、3~12個が好ましい。
【0024】
・エポキシ樹脂(A)の含有量
エポキシ樹脂(A)の含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、エポキシ樹脂(AA)中の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。50質量%未満では、硬化物のTgを十分に上げることができず、耐熱性に課題が残る。
【0025】
<軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂>
本発明の組成物において、上記エポキシ樹脂(A)は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含む。
本発明の組成物は、上記軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含有することによって、上記タックフリー性、上記接着性能及び上記強靭性が優れる。
なお、上記軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A)に属するので、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する。上記軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を「固体エポキシ樹脂」と称する場合がある。
【0026】
・軟化温度
本発明において上記固体エポキシ樹脂の軟化温度は60℃以上であり、本発明の効果がより優れるという観点から、60~110℃であることが好ましい。110℃超では、接着剤の鋼板への塗布性が悪化し、接着力が低下する場合がある。また、上記固体エポキシ樹脂は、本発明の効果がより優れるという観点から、軟化温度が60~80℃のエポキシ樹脂及び/又は軟化温度が80℃超110℃以下のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
本発明において、エポキシ樹脂の軟化温度は、JIS K7206:2016に準じて求めることができる。
【0027】
上記固体エポキシ樹脂は、本発明の効果がより優れるという観点から、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(A1)及び/又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A2)を含むことが好ましく、エポキシ樹脂(A1)及びエポキシ樹脂(A2)を含むことがより好ましい。
【0028】
・フェノールノボラック型エポキシ樹脂(A1)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂は、一般的に、フェノールノボラック樹脂とエピクロルヒドリンの反応生成物を指す。フェノールノボラック型エポキシ樹脂(A1)としては、例えば、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化3】
式(6)中、nは1以上であり、18以下とできる。上記nは、本発明の効果がより優れるという観点から、1~10が好ましい。
【0030】
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A2)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂とは、一般的に、クレゾールノボラック樹脂とエピクロルヒドリンの反応生成物を指す。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A2)としては、例えば、下記式(7)で表される、クレゾールノボラック樹脂とエピクロルヒドリンの反応生成物が挙げられる。
【0031】
【化4】
式(7)中、nは1以上であり、18以下とできる。上記nは、本発明の効果がより優れるという観点から、1~10が好ましい。
【0032】
・固体エポキシ樹脂の含有量
上記固体エポキシ樹脂の含有量(固体エポキシ樹脂が上記エポキシ樹脂(A1)及び上記エポキシ樹脂(A2)を含む場合はこれらの合計含有量)は、本発明の効果がより優れる(特にタックフリー性がより優れ、電磁鋼板同士がより密着しにくくなる)という観点から、上記エポキシ樹脂(AA)全量中の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。50質量%未満では十分なタックフリー性が得られず、保管中に鋼板同士が密着する場合がある。
【0033】
・窒素原子を有するエポキシ樹脂
上記エポキシ樹脂(A)は、本発明の効果がより優れるという観点から、更に、窒素原子を有するエポキシ樹脂(窒素含有エポキシ樹脂とも称する。)を含むことが好ましく、N,N-ジグリシジルアミノ基(下記構造)を有するエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
なお、窒素含有エポキシ樹脂は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含まない。
【化5】
上記構造式において*は結合位置を表す。
上記N,N-ジグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(グリシジルアミノ基含有エポキシ樹脂とも称する。)は、N,N-ジグリシジルアミノ基を1分子中、1~2個有することが好ましい。
上記グリシジルアミノ基含有エポキシ樹脂は、N,N-ジグリシジルアミノ基以外のエポキシ基(例えばグリシジル基、グリシジルオキシ基のようなエポキシ基)を更に有してもよい。
上記グリシジルアミノ基含有エポキシ樹脂が、N,N-ジグリシジルアミノ基を1分子中に1個有する場合、N,N-ジグリシジルアミノ基以外のエポキシ基を更に有することができる。
窒素含有エポキシ樹脂において、N,N-ジグリシジルアミノ基のようなエポキシ基を有する基は、2価以上の連結基に結合することができる。上記連結基は特に制限されない。例えば炭化水素基が挙げられ、芳香族炭化水素基を有する炭化水素基が好ましい。
【0034】
・エポキシ樹脂(A3)、(A4)
上記グリシジルアミノ基含有エポキシ樹脂は、本発明の効果がより優れるという観点から、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂(A3)、及び/又は、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂(A4)を含むことが好ましく、少なくともエポキシ樹脂(A4)を含むことがより好ましい。上記グリシジルアミノ基含有エポキシ樹脂がエポキシ樹脂(A4)を含む場合、更に上記エポキシ樹脂(A3)を含んでもよい。
【化6】
(1)
【化7】
(2)
【0035】
上記窒素含有エポキシ樹脂は、室温(25℃)条件下で液状であることが好ましい。
なお、上記窒素含有エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A)に属するので、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する。
【0036】
・窒素原子を有するエポキシ樹脂の含有量
上記窒素含有エポキシ樹脂の含有量(窒素含有エポキシ樹脂が上記エポキシ樹脂(A3)及び上記エポキシ樹脂(A4)を含む場合はこれらの合計含有量)が、上記エポキシ樹脂(AA)全量中の50質量%以下であることが好ましく、10~40質量%がより好ましく、20~30質量%が更に好ましい。
【0037】
上記エポキシ樹脂(A4)の含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、上記エポキシ樹脂(AA)全量の10~40質量%であることが好ましい。10質量%未満では十分な耐熱性が得られず、40質量%超では十分なタックフリー性が得られない場合がある。
上記エポキシ樹脂(A3)の含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、上記エポキシ樹脂(AA)全量の0~20質量%であることが好ましい。
【0038】
・エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂
上記エポキシ樹脂(AA)は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂(その他のエポキシ化合物)を更に含んでもよい。
上記のその他のエポキシ化合物としては、例えば、1分子中に1個のエポキシ基を有する1官能のエポキシ化合物、2官能のエポキシ樹脂(1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂)が挙げられる。
上記2官能のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂のようなビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂などのビスフェニル基を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
本発明の組成物が更にその他のエポキシ化合物を含む場合、2官能のエポキシ樹脂を含むことが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0039】
・その他のエポキシ化合物の含有量
その他のエポキシ化合物の含有量は、本発明の効果がより優れる(特にタックフリー性)という観点から、エポキシ樹脂(AA)中の0~40質量%であることが好ましく、0~10質量%がより好ましい。
【0040】
<<フェノキシ樹脂(B)>>
本発明の組成物は、示差走査熱量測定(DSC測定)による、未硬化状態でのTgが120℃を超えるフェノキシ樹脂(B)を含有する。
本発明の組成物は、フェノキシ樹脂(B)を含有することによって、上記タックフリー性、上記接着性能及び上記強靭性が優れる。
なお、従来、低分子量エポキシ化合物を高分子量化させた樹脂がフェノキシ樹脂と称されており、上記フェノキシ樹脂(B)は上記エポキシ樹脂(AA)を含まない。また、上記フェノキシ樹脂(B)は後述する強靭化剤(D)を含まない。
【0041】
・フェノキシ樹脂(B)の具体例
フェノキシ樹脂(B)としては、例えば、リン含有フェノキシ樹脂(B1)、フルオレン含有フェノキシ樹脂(B2)、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ノボラック骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。
なかでも、フェノキシ樹脂(B)は、本発明の効果(特に強靭性)がより優れるという観点から、リン含有フェノキシ樹脂(B1)、フルオレン含有フェノキシ樹脂(B2)、及び、ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、上記に加えて、耐熱性及び電磁鋼板に対する接着性が優れるという観点から、ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂(B3)を含むことがより好ましい。
【0042】
<リン含有フェノキシ樹脂(B1)>
リン含有フェノキシ樹脂(B1)は、リンを有するフェノキシ樹脂である。
リン含有フェノキシ樹脂(B1)は、本発明の効果がより優れるという観点から、下記式(B1-1)で表される骨格を有することが好ましい。
【化8】
(B1-1)
式(B1-1)中、R
1はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、m、nはそれぞれ独立に1以上であり、m+nは後述するフェノキシ樹脂(B)の重量平均分子量に対応する値とすることができる。
【0043】
<フルオレン含有フェノキシ樹脂(B2)>
フルオレン含有フェノキシ樹脂(B2)は、フルオレンを有するフェノキシ樹脂である。
フルオレン含有フェノキシ樹脂(B2)は、本発明の効果がより優れるという観点から、下記式(B2-1)で表される骨格を有することが好ましい。
【化9】
(B2-1)
式(B2-1)中、R
1はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、p、qはそれぞれ独立に1以上であり、p+qは後述するフェノキシ樹脂(B)の重量平均分子量に対応する値とすることができる。
【0044】
<ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂(B3)>
ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂(B3)は、ビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂である。
ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂(B3)は、本発明の効果がより優れるという観点から、下記式(B3-1)で表される骨格を有することが好ましい。
【化10】
(B3-1)
式(B3-1)中、R
1はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、r、sはそれぞれ独立に1以上であり、r+sは後述するフェノキシ樹脂(B)の重量平均分子量に対応する値とすることができる。
【0045】
なお、式(B1-1)、式(B2-1)、式(B3-1)において、各構造式の末端は特に制限されない。上記末端には、例えば、エポキシ基、水素原子が結合することができる。上記末端にエポキシ基が結合する場合、上記末端とエポキシ基とは連結基を介して結合することができる。上記連結基は特に制限されない。
【0046】
<フェノキシ樹脂(B)のガラス転移温度>
本発明の組成物において、未硬化状態でのフェノキシ樹脂(B)の示差走査熱量測定(DSC測定)によるガラス転移温度(Tg)は、120℃を超える。
「未硬化状態でのフェノキシ樹脂(B)」は、本発明の組成物に配合する前の状態のフェノキシ樹脂(B)を指す。
本発明の組成物に含有されるフェノキシ樹脂(B)の上記Tgが上記範囲であることによって、本発明の組成物から得られる接着剤硬化物は、上記強靭性、上記接着性能が優れる。
【0047】
フェノキシ樹脂(B)のガラス転移温度に関し、SHIMADZU社製の示差走査熱量計DSC-50を用いて、昇温速度15℃/minで370℃まで昇温し、50℃~370℃の温度領域のDSC曲線を測定した。上記DSC曲線の最初の変曲点の温度を、フェノキシ樹脂(B)のガラス転移温度とした。
【0048】
フェノキシ樹脂(B)がエポキシ基を有する場合、上記フェノキシ樹脂(B)のエポキシ当量は、本発明の効果がより優れるという観点から、5000g/eq以上であることが好ましい。エポキシ樹脂(A)/フェノキシ樹脂(B)分子間で化学結合し、硬化樹脂内で相分離しても界面強度を確保して靭性を保持しやすい。
フェノキシ樹脂(B)は、エポキシ基を有さなくてもよい。
【0049】
・フェノキシ樹脂(B)の重量平均分子量
フェノキシ樹脂(B)の重量平均分子量は、本発明の効果がより優れるという観点から、30,000~500,000が好ましく、35,000~100,000がより好ましい。30,000未満では十分な靭性が得られず、100,000超では接着剤液の粘度が増加して鋼板への均一塗布が困難になる場合がある。
本発明において、フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定された標準ポリスチレン換算値とすることができる。
フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カタログ値であってもよい。
【0050】
<フェノキシ樹脂(B)の含有量>
本発明の組成物において、フェノキシ樹脂(B)の含有量は、上記エポキシ樹脂(AA)全量100質量部に対して、20~80質量部である。上記フェノキシ樹脂(B)の含有量が20質量部より少ない場合、得られる接着剤硬化物の強靭性が不十分となる場合がある。また、上記フェノキシ樹脂(B)の含有量が80質量部を超える場合、得られる接着剤硬化物のTgが160℃を超えることができなくなる。
【0051】
<アミン系潜在性硬化剤(C)>
本発明の組成物は、アミン系潜在性硬化剤(C)を含有する。
エポキシ樹脂の硬化には幾つか方法は知られているが、酸無水物及びフェノール系の硬化剤は接着強度が向上するものの硬化速度が遅く、本発明には適さない。また、通常のポリアミンの硬化剤は硬化が速すぎるため、本発明には適さない。
本発明の組成物は、アミン系潜在性硬化剤(C)を含有することによって、本発明の効果(特に長期間保管後の接着性能)が優れる。
本発明において、潜在性硬化剤とは、加熱等により反応を開始させることができる硬化剤であることを意味する。潜在性硬化剤は、室温(25℃など)で反応する通常の硬化剤とは異なり、室温では反応しない、若しくは反応したとしても反応が非常に僅かである。
アミン系潜在性硬化剤(C)は、窒素原子を有し、エポキシ樹脂(AA)及び/又はフェノキシ樹脂(B)に対する硬化剤として機能することができる。なお、本発明において、フェノキシ樹脂(B)はエポキシ基を有さない、又はエポキシ基を有したとしてもフェノキシ樹脂(B)のMwはエポキシ樹脂(AA)よりも大きいので、アミン系潜在性硬化剤(C)の大半はエポキシ樹脂(AA)と反応すると考えられる。
【0052】
・アミン系潜在性硬化剤(C)の具体例
アミン系潜在性硬化剤(C)としては、例えば、ジシアンジアミド、変性ポリアミン、ヒドラジド類、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、DCMU:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素のようなウレア類、2-エチル-4-メチルイミダゾールのようなイミダゾール系化合物、及び、メラミンなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
アミン系潜在性硬化剤(C)は、本発明の効果がより優れるという観点から、ジシアンジアミド、ウレア類、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、及び、イミダゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、
ジシアンジアミドと、ウレア類及び/又はイミダゾール系化合物とを含む組合せ、あるいは、4,4′-ジアミノジフェニルスルホンを含む(4,4′-ジアミノジフェニルスルホンは単独で使用してもよい)ことがより好ましく、
ジシアンジアミドと3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素との組み合わせ、又は、4,4′-ジアミノジフェニルスルホンが更に好ましい。
【0053】
・アミン系潜在性硬化剤(C)の含有量
アミン系潜在性硬化剤(C)の含有量(アミン系潜在性硬化剤(C)が複数の種類のアミン系潜在性硬化剤(C)を含む場合は、上記複数種のアミン系潜在性硬化剤(C)の合計含有量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、5~70質量部であることが好ましい。
アミン系潜在性硬化剤(C)がジシアンジアミドとウレア類を含む場合、アミン系潜在性硬化剤(C)の合計含有量は、エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、5~20質量部が好ましい。
アミン系潜在性硬化剤(C)が4,4′-ジアミノジフェニルスルホンを含む場合、アミン系潜在性硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、25~50質量部が好ましい。
【0054】
・強靭化剤(D)
本発明の組成物は、得られる接着剤硬化物の強靭性がより優れるという観点から、更に、強靭化剤(D)を含有することが好ましい。
強靭化剤(D)は、得られる接着剤硬化物に、更に強靭性を付与し得る化合物を指す。
強靭化剤(D)は、柔軟性を有するポリマーで構成されることが好ましい。
強靭化剤(D)としては、例えば、コアシェル型、ゴム変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
なお、強靭化剤(D)は、上記エポキシ樹脂(AA)にも、フェノキシ樹脂(B)にも、アミン系潜在性硬化剤(C)にも含まれない。
強靭化剤(D)は、上記アミン系潜在性硬化剤(C)、エポキシ樹脂(AA)又はフェノキシ樹脂(B)と反応してもよいし、しなくてもよい。
【0055】
強靭化剤(D)は、本発明の効果(特に強靭性)がより優れるという観点から、コアシェル型、ゴム変性エポキシ樹脂、及び、ウレタン変性エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、コアシェル型の強靭化剤を含むことがより好ましく、平均粒径が0.05~0.2μmであり、コアシェル型の強靭化剤(D1)を含むことが更に好ましい。
【0056】
・コアシェル型の強靭化剤
コアシェル型の強靭化剤は粒子状であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
コアシェル型の強靭化剤は、コア層及びシェル層を有する。
コアシェル型の強靭化剤としては、例えば、外層のシェル層がガラス状ポリマー、内層のコア層がゴム状ポリマーで構成される2層構造のゴム粒子、外層のシェル層がガラス状ポリマー、中間層がゴム状ポリマー、コア層がガラス状ポリマーで構成される3層構造のゴム粒子が挙げられる。ガラス状ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸メチルの重合物、及び/又は、スチレンの重合物などで構成される。ゴム状ポリマー層は、例えば、ブチルアクリレート重合物(ブチルゴム)、シリコーンゴム、又はポリブタジエンなどで構成される。
【0057】
・強靭化剤(D)の平均粒径
強靭化剤(D)の平均粒径は、得られる接着剤硬化物の強靭性がより優れるという観点とTgを低下させない観点から、0.005μm以上0.6μm以下が好ましく、0.05μm以上0.2μm以下がより好ましい。0.005μm未満では粒子がエポキシ樹脂への分散が悪くなり、0.6μm超では耐熱性を悪化させる場合がある。
【0058】
強靭化剤(D)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて体積基準の粒度分布を測定して求められる、累積50%における粒子径(50%体積累積径)を指す。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3000IIシリーズ」が挙げられる。
上記のコアシェル型の強靭化剤、強靭化剤(D)の平均粒径に関する事項は、コアシェル型の強靭化剤(D1)について同様である。
【0059】
・ゴム変性エポキシ樹脂
ゴム変性エポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有し、骨格がゴムであるエポキシ樹脂である。
上記骨格を形成するゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。
ゴム変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は、本発明の効果がより優れるという観点から、200g/eq以上500g/eq以下が好ましい。
【0060】
・ウレタン変性エポキシ樹脂
ウレタン変性エポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有し、骨格がポリウレタンであるエポキシ樹脂である。
上記骨格を形成するポリウレタンは、ウレタン結合及び/又はウレア結合を複数有するポリマーであれば特に制限されない。
ウレタン変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は、本発明の効果がより優れるという観点から、200g/eq以上500g/eq以下が好ましい。
【0061】
・強靭化剤(D)の含有量
本発明の組成物が更に強靭化剤(D)を含有する場合、強靭化剤(D)の含有量(強靭化剤(D)が2種以上である場合は、2種以上の強靭化剤(D)の合計含有量)は、エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、1~30質量部であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。1質量部未満、30質量部超では各々、強靭化効果が発現しにくく、耐熱性が悪化する。
【0062】
(添加剤)
本発明の組成物は、本発明の効果を奏する範囲で、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料、染料、可塑剤、シランカップリング剤、揺変性付与剤、接着付与剤、難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、分散剤、脱水剤、及び溶剤などが挙げられる。
【0063】
・溶剤
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;n-ヘキサンなどの脂肪族系溶剤;シクロヘキサンなどの脂環族系溶剤;トルエン、キシレン、セロソルブアセテートなどの芳香族系溶剤が挙げられる。
溶剤の量は、上記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、80~300質量部であることが好ましい。80質量部未満では増粘して均一塗布が困難であり、300質量部以上では接着剤層厚み精度よく鋼板表面に塗布することが困難である。
【0064】
本発明の組成物の製造方法は、特に制限はなく、例えば、上述したエポキシ樹脂(A)と、フェノキシ樹脂(B)と、アミン系潜在性硬化剤(C)と、必要に応じて用いることができる、その他のエポキシ化合物と、強靭化剤(D)と、各種添加剤とを、混合ミキサーなどの撹拌機を用いて混合することにより得ることができる。
【0065】
本発明の組成物は、電磁鋼板を積層するために用いられる接着剤組成物として使用することができる。
【0066】
本発明の組成物は、例えば、140~250℃の条件下で硬化することができる。硬化温度は、アミン系潜在性硬化剤(C)が活性化する温度以上であることが好ましい。上記硬化の際、加圧してもよい。
本発明の組成物は、硬化後、上述の「本発明の組成物から得られた接着剤硬化物」、又は、後述する本発明の組成物で形成された鉄心が有する接着剤層となる。
【0067】
<接着剤硬化物のガラス転移温度>
本発明において、本発明の組成物から得られた接着剤硬化物(又は接着剤層。以下同様)の、示差走査熱量測定によるガラス転移温度は、160℃を超える。
接着剤硬化物のガラス転移温度が160℃を超えることによって、本発明の組成物は高温下でも強靭性に優れる。
接着剤硬化物のガラス転移温度は、本発明の効果がより優れるという観点から、180℃以上が好ましく、200~280℃がより好ましい。
【0068】
・接着剤硬化物のガラス転移温度の測定方法
接着剤硬化物のガラス転移温度は、SHIMADZU社製の示差走査熱量計DSC-50を用いて、昇温速度15℃/minで370℃まで昇温し、50℃~370℃の温度領域のDSC曲線を測定した。
本発明においては、基本的に、上記DSC曲線の最初の変曲点の温度を、接着剤硬化物(接着剤層)のガラス転移温度とした。
また、接着剤硬化物が、例えば海島構造や共連続相構造のような相構造を有し、DSC曲線が上記の相構造を形成する複数の樹脂によるガラス転移温度を示す場合、上記接着剤硬化物に含有される含有量が多いほうの樹脂のガラス転移温度、又は、(ドメインではなく)マトリックス樹脂のガラス転移温度を、接着剤硬化物(接着剤層)のガラス転移温度とした。
なお、本発明では、エポキシ樹脂(AA)の含有量がフェノキシ樹脂(B)よりも多いため、得られる接着剤硬化物においては、エポキシ樹脂(AA)とアミン系潜在性硬化剤(C)との硬化物の含有量がフェノキシ樹脂(B)よりも多く支配的となりうる。
【0069】
<25℃での降伏応力≧60MPa>
本発明の組成物を硬化させて得られた接着剤硬化物は、本発明の効果(特に強靭性)がより優れ、鉄心を高速回転させても鉄心が破壊又は変形しにくいという観点から、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であることが好ましく、80~200MPaがより好ましい。
【0070】
<140℃での降伏応力≧20MPa>
本発明の組成物を硬化させて得られた接着剤硬化物は、本発明の効果(特に強靭性)がより優れ、鉄心を高温条件下で高速回転させても鉄心が破壊又は変形しにくいという観点から、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であることが好ましく、35MPa以上がより好ましい。
【0071】
従来、永久磁石を埋め込んだローターの連続回転時の温度は、エンジンオイルなどでの冷却がない場合、140℃程度まで上昇するといわれている(参考文献:平野覚、"電気自動車用モータ構造を模擬した回転二重円筒内の熱流動特性"、9ページ、2013年、筑波大学大学院学位論文12102甲第6725号)。従って、140℃の条件下で測定した接着剤硬化物の降伏応力が20MPa以上である場合、エンジンオイルなどによる冷却がない場合でも高温条件下において、接着剤硬化物の強度(強靭性)を十分維持でき、本発明の組成物は積層鉄心に適用された場合、上記積層鉄心の高速回転時における変形や破壊を抑止できると考えられる。
【0072】
上記接着剤硬化物は、JIS K7161に準じて、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であることが好ましく、25℃の条件下で測定した降伏応力が85MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が35MPa以上であることがより好ましい。
【0073】
本発明において、本発明の組成物を硬化させて得られた接着剤硬化物の25℃での降伏応力(引張降伏応力)は、JIS K 7161:2014に準じて25℃の条件下で測定される。また、上記接着剤硬化物の140℃で測定する降伏応力は、JIS K 7161:2014に準じて140℃の条件下で測定される。
【0074】
[鉄心]
本発明の組成物で形成された鉄心は、電磁鋼板と接着剤層が交互に積層され、上記接着剤層が、本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物で形成されたものである。
【0075】
この本発明に好適な鉄心は、接着剤層が本発明の組成物で形成されることによって、接着性能が優れ、広い温度範囲において強靭性が優れる。このため、この鉄心は高温を含めた広い温度条件下で高速回転させても破壊又は変形しにくいと考えられる。
【0076】
この鉄心に使用される電磁鋼板積層用接着剤組成物は、本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物(本発明の組成物で形成された鉄心においては、単に「組成物」と称する。)であれば特に制限されない。
また、本発明の組成物で形成された鉄心に使用される電磁鋼板は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
【0077】
上記接着剤層は、JIS K7161に準じて、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であることが好ましい。
本発明の組成物で形成された鉄心における接着剤層の上記降伏応力は、上述した本発明の組成物を硬化させて得られる接着剤硬化物の降伏応力と同様である。
【0078】
(電磁鋼板への接着力)
本発明の接着剤の電磁鋼板との接着力は、25℃及び/又は140℃でのJIS K 6850に準じたせん断強度が7.0MPa以上であることが好ましい。
【0079】
(製造方法)
本発明の組成物で形成された鉄心の製造方法は特に本発明の組成物を使用するものであれば制限されない。上記製造方法としては、例えば、
上記組成物を電磁鋼板に塗布する塗布工程、
塗布工程で得られた電磁鋼板を打ち抜く、打ち抜き工程、
打ち抜き工程後の打ち抜かれた電磁鋼板を積層する積層工程、及び
積層工程で得られた積層体を加熱して、上記積層体を一体化する硬化工程を有する製造方法が挙げられる。
【0080】
・塗布工程
塗布工程は、本発明の組成物を電磁鋼板に塗布する工程である。
上記組成物を電磁鋼板に塗布する方法は特に制限されない。例えば、ロールコータ法、グラビアコータ法、エアドクタコータ法、プレードコータ法、ナイフコータ法、ロッドコータ法、キスコータ法、ビードコータ法、キャストコータ法、ロータリースクリーン法、スロットオリフィスコータ法、スプレーコーティング法、インクジェット法、スピンコーティング法、電着コーティング法が挙げられる。
【0081】
塗布工程において、上記組成物を電磁鋼板の少なくとも片面に塗布すればよい。
【0082】
・塗布後の組成物の厚さ
塗布工程後において、上記組成物の塗布、乾燥後の厚さは、電磁鋼板の凹凸、電磁鋼板圧着のしやすさなどを考慮し、1~20μmが好ましく、特に2~10μmが好ましい。
【0083】
・乾燥工程
本発明の組成物で形成された鉄心に使用される組成物が溶剤を含有する場合、塗布後、上記組成物から溶剤を除く、乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥工程後(乾燥工程がない場合は上記塗布工程後)、本発明の組成物を電磁鋼板に適用した複合材料を得ることができる。
乾燥工程における乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、誘導加熱、真空加熱などが挙げられる。
上記乾燥によって、電磁鋼板上の組成物が粘着しない状態(いわゆるタックフリー)になるまで、乾燥させることが好ましい。
【0084】
乾燥工程における温度は、特に限定されないが、エポキシ樹脂の反応が進み過ぎると、硬化時に接着が不十分になり、一方、全く反応が進まないとエポキシ樹脂の組成よってはタックが発生し、鋼板同士のブロッキングが起こる問題が発生する。また、塗布、乾燥工程の生産性を上げるためには、比較的高温で短時間乾燥することが好ましい。具体的には150℃以上で、数秒から数十秒乾燥させることが好ましい。
【0085】
上記のとおり得られた複合材料は、例えば、複合材料をロール状、コイル状に巻き取った状態、又は、複合材料を重ねた状態で保管してもよい。上記複合材料が有する接着剤層はタックフリー性に優れるので、重なった複合材料を広げて使用する際、複合材料から接着剤層がはがれることがない。
【0086】
・打ち抜き工程
打ち抜き工程は、上記複合材料を打ち抜く工程である。上記複合材料を打ち抜く方法としては、例えば、剪断加工が挙げられる。打ち抜かれた複合材料の形状は特に制限されない。
【0087】
・積層工程
積層工程は、上記打ち抜き工程での打ち抜かれた複合材料を積層する工程である。
積層に使用される上記複合材料の枚数は特に制限されない。
電磁鋼板と上記組成物が交互に積層されるように上記複合材料を積層すればよい。
【0088】
・硬化工程
硬化工程は、積層工程で得られた積層体を加熱して、上記積層体を一体化する工程である。
硬化工程における加熱温度は、130~300℃が好ましい。
硬化工程において加圧する場合、加圧は0.1~10MPaが好ましい。
硬化工程において、加熱、加圧する方法は特に制限されない。
硬化工程後、本発明の組成物で形成された鉄心を得ることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を説明する。本発明は実施例に限定されない。
【0090】
[電磁鋼板]
降伏強度が200~550MPaの板厚0.15mmの無方向性電磁鋼板を使用した。
【0091】
[電磁鋼板積層用接着剤組成物]
下記表1の各成分を同表に示す組成(質量部)で用いて、これらを25℃の条件下で混合することによって、各組成物を製造した。
なお、表1に示すフェノキシ樹脂(B)及びYP-50の量は、正味のフェノキシ樹脂の量である。強靭化剤(D)の量は正味の強靭化剤の量である。
【0092】
表1に示す各成分の詳細は以下のとおりである。
(3官能以上のエポキシ樹脂(A))
(固体エポキシ樹脂)
・フェノールノボラック型エポキシ樹脂:1分子中に7個のエポキシ基を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂。エポキシ当量190g/eq。商品名EPPN201、日本化薬社製。軟化温度65~78℃。室温(25℃)で固体。
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:1分子中に3~10個のエポキシ基を有するクレゾールノボラック型エポキシ樹脂。エポキシ当量209g/eq。商品名YDCN-704A、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製。軟化温度87~93℃。室温(25℃)で固体。
【0093】
(窒素含有エポキシ樹脂)
・窒素含有エポキシ樹脂(1):下記式(1)で表される3官能エポキシ樹脂。エポキシ当量97g/eq。商品名EP-3950E、ADEKA社製。室温(25℃)で液状。
【化11】
(1)
・窒素含有エポキシ樹脂(2):下記式(2)で表される4官能エポキシ樹脂。エポキシ当量110g/eq。商品名YH404、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製。室温(25℃)で液状。
【化12】
(2)
【0094】
(エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂。2官能。分子量380、エポキシ当量190±5g/eq、エピコート828、三菱ケミカル(株)製。室温(25℃)で液状。
【0095】
(Tgが120℃を超えるフェノキシ樹脂(B))
・YPS-007:ビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂。日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製。未硬化状態でのTgは120℃を超える。Mw40,000以上100,000以下。
【0096】
・ERF-001:リン含有フェノキシ樹脂。日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製。未硬化状態でのTgは120℃を超える。Mw40,000以上100,000以下。
【0097】
・F-Resin:以下のように調製したフルオレン含有フェノキシ樹脂。未硬化状態でのTgは120℃を超える。Mw40,000以上100,000以下。
・・F-Resinの調製
シクロヘキサノン、トルエン混合溶媒中、触媒量の2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、2E4MZ)の存在下で、ビスフェノールA型グリシジルエーテル1.02モルと、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(下記構造)1.0モルとを、150℃~170℃の温度で8時間反応させた後、フルオレン含有フェノキシ樹脂を固形分40質量%として含む溶液を得た。
【0098】
【0099】
得られたフルオレン含有フェノキシ樹脂を「F-Resin」と称する。F-Resinの構造は下記式(B2-2)で表される。
【化14】
(B2-2)
式(B2-2)中、R
1はそれぞれメチル基を表し、p、qはそれぞれ独立に1以上であり、p+qは上記重量平均分子量に対応する値である。
【0100】
・(比較)YP-50:Tg84℃のビスフェノールA型フェノキシ樹脂。商品名YP-50、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、Tg84℃、Mw60,000~70,000(カタログ値)。
【0101】
(強靭化剤(D))
・カネエースMX-154(コアシェル型の強靭化剤(D1)):コアシェル型ゴム粒子を33質量%の割合で含む混合物。コアシェル型ゴム粒子が強靭化剤として機能する。商品名カネエースMX-154、株式会社カネカ社製。なお、カネエースMX-154の欄に示す値は、カネエースMX-154中のコアシェル型ゴム粒子の正味の量である。平均粒径0.1μm。
・EPR-21(ゴム変性エポキシ):ゴム変性エポキシ樹脂。商品名EPR-21、ADEKA社製。エポキシ当量200g/eq。
【0102】
(アミン系潜在性硬化剤(C))
・ジシアンジアミド:ADEKA社製EH-3636AS
・DCMU:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、保土谷UPL株式会社製
・DDS:4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化工業株式会社製
【0103】
(溶剤)
・シクロヘキサノン
【0104】
(接着剤硬化物の評価)
・ガラス転移温度(Tg)の測定
上記のとおり製造された各組成物を離型フィルム上に200μmの厚さとなるようキャストし、150℃オーブン中で1時間硬化させ、得られた接着剤硬化物を用いて示差走査熱量測定(DMC測定。昇温速度10℃/分)を行い、上記接着剤硬化物のガラス転移温度を測定した。
結果を表1の「接着剤硬化物のガラス転移温度」欄に示す。
・評価基準
本発明において、接着剤硬化物のTgは160℃を超える。
【0105】
(接着剤硬化物の評価:強靭性)
上記のとおり製造された各組成物の引張試験片を下記の方法にて、JIS K 7161(2014)に準じて作成した。
【0106】
・引張試験片の作成
上記のとおり製造された各組成物を用いてJIS K 7161(2014)に準じて引張試験片を作製した。まず、上記のとおり製造された各組成物を離型フィルム上に100μmの厚さとなるようキャストした後、3日間真空脱泡を行った。次に、得られたフィルムを150℃オーブン中で1時間硬化させた。得られた接着剤硬化物を1号形ダンベル型に打ち抜き、引張試験片を作成した。
【0107】
・引張試験
上記のとおり作製した各引張試験片を用い、本発明の組成物から得られた接着剤硬化物(接着剤層)の降伏応力をJIS K 7161:2014に準じて、恒温付万能材料試験機5966型(インストロン(株)製)用いて、25℃又は140℃、50%RH±5%RHの条件下で測定した。引張り速度:5mm/分、標線間距離:20mm(接触式伸び計使用)、チャック間距離:40mmで各5本の引張試験片の降伏強度を測定し、その平均値を算出した。
25℃の条件下での降伏強度(平均値)を表1の「室温での強靭性(応力/MPa@25℃)」欄に示す。
140℃の条件下での降伏強度(平均値)を表1の「高温での強靭性(応力/MPa@140℃)」欄に示す。
【0108】
・強靭性の評価基準
25℃における降伏応力(室温での強靭性の評価)が60MPa以上であり、かつ、140℃における降伏応力(高温条件下での強靭性の評価)が20MPa以上であった場合、室温条件下だけでなく高温条件下でも強靭性が優れると評価した。
25℃における降伏応力が60MPa未満であった、又は、140℃における降伏応力が20MPa未満であった場合、強靭性が悪いと評価した。
【0109】
(組成物の乾燥後のタックフリー性)
・タックフリー性の評価方法
上記のとおり製造された各組成物を電磁鋼板の上に20μmの厚さでキャストし、130℃の条件下のオーブン中で30分間保持し、各組成物中の溶剤を乾燥させた。
結果を表1の「乾燥後のタックフリー性」欄に示す。
・タックフリー性の評価基準
乾燥後の組成物を指で触って、べたつきを感じなかった場合、タックフリー性が非常に優れたと評価して、これを「○」と表示した。
乾燥後の組成物を指で触ってべたつきを感じたが、指を乾燥後の組成物に押し付けて指を離したときに乾燥後の組成物が電磁鋼板から剥がれなかった場合、タックフリー性がやや優れたと評価して、これを「△」と表示した。
乾燥後の組成物を指で触ってべたつきを感じ、指を乾燥後の組成物に押し付けて指を離したときに乾燥後の組成物が電磁鋼板から剥がれた場合、タックフリー性が悪かったと評価して、これを「×」と表示した。
【0110】
(接着剤硬化物の評価:せん断強度)
・せん断強度(初期)
電磁鋼板を2枚準備し、1枚目の電磁鋼板に上記のとおり製造された各組成物を6μmの厚さでキャストし、130℃オーブン中で10分保持し、各組成物中の溶剤を乾燥させた。
上記電磁鋼板上の乾燥後の組成物にもう1枚の電磁鋼板を貼り合わせて積層体とし、上記積層体を160℃オーブン中で1時間硬化させて試験片を得た。
上記試験片を用いて、JIS K 6850に準じて、140℃の条件下で初期せん断強度を測定した。結果を表1の「せん断強度(初期)/MPa@140℃」欄に示す。
【0111】
・せん断強度(40℃6か月)
電磁鋼板を2枚準備し、1枚目の電磁鋼板に上記のとおり製造された各組成物を6μmの厚さでキャストし、130℃オーブン中で10分保持し、各組成物中の溶剤を乾燥させた後に、更に、乾燥後の組成物を有する電磁鋼板を40℃のオーブン中で6か月間保管した。
6か月保管後の電磁鋼板上の組成物にもう1枚の電磁鋼板を貼り合わせて積層体とし、上記積層体を150℃オーブン中で1時間硬化させて試験片を得た。
上記試験片を用いて、JIS K 6850に準じて、140℃の条件下でせん断強度を測定した。結果を表1の「せん断強度(40℃6か月)/MPa@140℃」欄に示す。
【0112】
・長期間保管後における接着強度の低下の評価基準
初期せん断強度及び6か月保管後のせん断強度がともに7.0MPa以上であった場合、長期間保管後における接着強度の低下を抑制できたと評価した。
初期せん断強度が7.0MPa以上であったが、6か月保管後のせん断強度が7.0MPa未満であった場合、長期間保管後における接着強度の低下を抑制できなかったと評価した。
初期せん断強度が7.0MPa未満であった場合、そもそも高温条件下での接着強度が低かったと評価した。
【0113】
【0114】
表1の結果に示すとおり、フェノキシ樹脂(B)の含有量が所定の範囲より少ない比較例1は、室温条件下での強靭性が悪く、タックフリー性が悪かった。
フェノキシ樹脂(B)の含有量が所定の範囲より多い比較例2は、得られる接着剤硬化物のガラス転移温度が低く、高温条件下での強靭性が悪く、長期間保管前後においてともに接着強度が低かった。
フェノキシ樹脂(B)を含有せず、代わりに未硬化状態でのガラス転移温度が120℃以下のフェノキシ樹脂を含有する比較例3、5は、得られる接着剤硬化物のガラス転移温度が低くはないが、高温条件下での強靭性が顕著に低下し、長期間保管前後においてともに高温条件下での接着強度が低かった。
所定のエポキシ樹脂(A)を含まず、代わりに2官能のエポキシ樹脂を含有する比較例4は、得られる接着剤硬化物のガラス転移温度が低く、室温条件下でも高温条件下でも強靭性が悪く、タックフリー性が悪く、長期間保管前後においてともに接着強度が低かった。
【0115】
一方、本発明の組成物は、積層電磁鋼板を作製する前までは優れたタックフリー性を有し、長期間保管後であっても接着性能が優れ、得られた接着剤硬化物は広い温度範囲において強靭性が優れた。
【0116】
以上の結果から、本発明の組成物で形成された鉄心は、本発明の組成物から形成される接着剤層を有し、上記接着剤層は接着性能、広い温度範囲において強靭性が優れるので、本発明の組成物で形成された鉄心を高温を含めた広い温度条件下で高速回転させても、破壊又は変形しにくいと考えられる。
【0117】
この出願は、2021年6月21日に出願された日本出願特願2021-102360を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。