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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-03
(45)【発行日】2025-04-11
(54)【発明の名称】多結晶レジスタントスターチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/219 20160101AFI20250404BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20250404BHJP
   C12P 19/16 20060101ALI20250404BHJP
   C08B 30/00 20060101ALI20250404BHJP
【FI】
A23L29/219
A23L33/21
C12P19/16
C08B30/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023551738
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(86)【国際出願番号】 CN2022140262
(87)【国際公開番号】W WO2024092983
(87)【国際公開日】2024-05-10
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】202211369208.1
(32)【優先日】2022-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲せん▼錦玲
(72)【発明者】
【氏名】田耀旗
(72)【発明者】
【氏名】麻栄栄
(72)【発明者】
【氏名】陳浩
(72)【発明者】
【氏名】田師雨
(72)【発明者】
【氏名】王凡
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112877385(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110229241(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114947131(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106723058(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12P
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶レジスタントスターチの製造方法であって、
pH 4~5のプラズマ活性水およびハイアミロースコーンスターチを用いて澱粉乳を製造し、次に、プルラナーゼを用いてデンプンをデクラスタリングし、超音波処理によりデンプンと脂肪酸との錯化を強化し、5~10℃/minの平均冷却速度で冷却して結晶化し、さらに、B+VI型結晶をA+B+VII型に転換するように結晶化特性を制御する強靱化処理により転換して多結晶レジスタントスターチを得ることを含む、多結晶レジスタントスターチの製造方法。
【請求項2】
ハイアミロースコーンスターチをpH 4~5のプラズマ活性水に加えて、澱粉乳を調製するステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた澱粉乳を糊化し、プルラナーゼを加えてデクラスタリングし、酵素分解処理を行うステップ(2)と、
ステップ(2)で酵素分解処理された澱粉乳に脂肪酸を添加し、超音波処理を行い、脂肪酸錯化生成物を得るステップ(3)と、
ステップ(3)で得られた脂肪酸錯化生成物を冷却して結晶化し、強靱化、脱水、洗浄、乾燥をして、多結晶レジスタントスターチを得るステップ(4)と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(1)において、前記澱粉乳におけるハイアミロースコーンスターチの固形分は15質量%~18質量%である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(2)において、前記デクラスタリング酵素分解は、温度が55~65℃であり、時間が12~24hであり、前記プルラナーゼの添加量は40~50 ASPU/g乾燥デンプンである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(3)において、前記酵素分解処理された澱粉乳への脂肪酸の添加は、70~90℃で脂肪酸を加えることであり、前記脂肪酸の添加量は、デンプンの乾量基準質量の6%~10%である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸のうちのいずれか1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(3)において、前記超音波の周波数は25~35 kHzであり、超音波の出力は300~400Wであり、超音波処理の時間は30~60minである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(4)では、前記冷却結晶化において、生成物を5~10℃/minの平均冷却速度で3~5℃に迅速に冷却し、3~5℃の温度で30~60min結晶化する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(4)では、前記強靱化において、45~55℃で96~120h強靱化する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
機能性食品の製造における、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法における多結晶レジスタントスターチの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶レジスタントスターチの製造方法に関し、デンプン変性の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般的なレジスタントスターチ(resistant starch)は、主にRS1(物理包埋デンプン)、RS2(天然レジスタントスターチ顆粒)、RS3(老化デンプン)、RS4(化学変性デンプン)、RS5(デンプン-脂質複合体)の5種類に分類される。RS1、RS2は天然に存在し、結晶タイプはデンプン由来と密接に関連しており、トウモロコシなどのイネ類デンプンはA型結晶であり、生バナナ、ジャガイモなどはB型結晶である。RS1とRS2は通常、熱安定性が悪く、この2種類のRSは熱加工過程でほとんど失われる。RS3はデンプンの再結晶過程で生成し、再生温度、水分含有量などの再結晶条件を調整することでA型結晶またはB型結晶を生成することができ、製品の耐熱性の差が大きく(70℃~150℃)、保水性が低い。RS4は化学官能基の導入によるデンプン分子構造の変化により得られるが、その生産には時間がかかり、製品の品質が変化する可能性があり、反応速度が低く、環境を汚染すると同時に、食品工業では製品の安全性要求を特別に考慮する必要があり、使用する試薬に大きな制限がある。RS5はV型結晶であり、耐熱性によってVI型結晶とVII型結晶の2種類に分類される。VI型結晶は、構造の秩序性が比較的低く、解離温度が約95℃~105℃である。VII型結晶は、秩序性が比較的高く、解離温度が約115℃~130℃である。VI型結晶は、一般的に比較的低い温度で製造され、VII型結晶は、高温で長時間の条件下で形成されることが必要である。
【0003】
その中で、一定の酵素分解抵抗力を持つ天然デンプン粒子はRS2と呼ばれ、例えば生バナナデンプン、馬鈴薯デンプンなどがあるが、通常は、それらの熱安定性が悪く、熱加工過程で大部分が失われる。ハイアミロースコーンスターチはB型結晶構造を呈し、アミロース含有量が高く、分子構造が線状に配列されており、一定の高温に耐えられ、蒸煮後に高秩序性耐熱B型結晶が部分的に保持され、熱加工後にも、レジスタントスターチの含有量が40%に達し、現在、大規模化して供給可能なRS2型レジスタントスターチは、これしかない。しかし、アミロース含有量は食品の食感や消化特性などを決定する主要な要素である。一般的には、アミロース含有量が低~中程度のデンプンの食感が良いが、ハイアミロースコーンスターチは、アミロース含有量が高いため、質が硬く、食感が悪い。
【0004】
脂肪酸を被覆することによって食品の食感、消化特性などの問題が解決されることについて報告された文献がある。
【0005】
例えば、CN109549173Aには、プルラナーゼによる脱分岐後、長鎖飽和脂肪酸と複合した新型レジスタントスターチが開示されており、5番目の新型レジスタントスターチ(RS5)が得られ、RS5の含有量は57.5%を上回っているが、この方法には、以下の欠点が存在する。(1)デンプンのゲル化及び二次ゲル化はいずれも120℃以上の高温で長時間行うため、ハイアミロースコーンスターチが完全に糊化し、耐熱性のB型結晶が完全に破壊され、最終的にはV型結晶のRS5のみが得られ、90℃前後で解離し、耐熱安定性が高くない。(2)デンプンのゲル化及び二次ゲル化は120℃以上で長時間行う必要があり、常温常圧では要求条件を満たすことができないため、特殊な高温高圧設備を使用しなければならず、その結果として、エネルギー消費量が多く、コストが高い。
【0006】
さらに、RS5(デンプン-脂質複合物)に基づいて、再生、アルカリ処理、高速均質化、高静水圧などの方法によってB+V型結晶性レジスタントスターチを得ることも報告されているが、言及されたアルカリ処理は、水酸化ナトリウムと塩酸を使用する必要があり、高速均質化、高静水圧の方法には特定の設備が必要で、コストが高いなどの問題がある。また、CN115353570Aには、二元複合型レジスタントスターチ(RS4+RS5)の製造方法が開示されており、ここではエステル化変性によってRS4型レジスタントスターチを製造し、さらにモノグリセリドを配合して製造されており、当該レジスタントスターチはV型結晶形を呈し、レジスタントスターチの含有量が約60%であり、さらに抗消化性を向上させる必要があり、化学変性試薬を使用することにより食品工業の安全性要求の制限や環境汚染などの問題が存在することが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術的課題の少なくとも1つを解決するために、本発明は、ハイアミロースコーンスターチの耐熱性B型結晶を保持し、非耐熱性アモルファス領域をデクラスタリングした後に脂肪酸と効率的に複合化し、冷却して結晶化し、B+VI型結晶を形成し、B+VI型結晶をA+B+VII型に転換するように結晶化特性を制御する、多結晶レジスタントスターチの製造方法を提供し、得られた製品は、レジスタントスターチの含有量が高く(67%~69%と高い)、結晶化度が高く(40%以上)、耐熱性が良好であり(レジスタントスターチを10min(分)沸騰水浴した後にレジスタントスターチの含有量が5%未満しか低下しない)、食感がより良好である(脂肪酸含有量が4.8g/100g以上)。また、本発明の方法は、操作が簡単であり、常温常圧で実現でき、低コストである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1目的は、pH 4~5のプラズマ活性水を用いて澱粉乳を製造し、次に、プルラナーゼを用いてデンプンの非耐熱性のアモルファス領域をデクラスタリングし、超音波処理によりデンプンと脂肪酸との錯化を強化し、冷却して結晶化し、さらに、強靱化処理により転換して多結晶レジスタントスターチを得る(A、B、VIIの3種類の結晶形を有し、A+B+VII型結晶レジスタントスターチと命名)、多結晶レジスタントスターチの製造方法を提供することである。
【0009】
一実施形態では、前記方法は、具体的には、
プラズマ活化澱粉乳の調製:ハイアミロースコーンスターチをpH 4~5のプラズマ活性水に加えて、澱粉乳を調製するステップ(1)と、
デンプンのアモルファス領域デクラスタリング:ステップ(1)で得られた澱粉乳を糊化し、プルラナーゼを加えてデクラスタリングし、酵素分解処理を行うステップ(2)と、
超音波支援脂肪酸錯化:ステップ(2)で酵素分解された澱粉乳に脂肪酸を添加し、超音波処理を行い、脂肪酸錯化生成物を得るステップ(3)と、
冷却結晶化:ステップ(3)で得られた脂肪酸錯化生成物を冷却して結晶化し、強靱化、脱水、洗浄、乾燥をして、多結晶(A+B+VII型)結晶レジスタントスターチを得るステップ(4)と、を含む。
一実施形態では、ステップ(1)では、前記澱粉乳は、15質量%~18質量%(w/w、澱粉乳の全質量に占めるデンプン乾量基準)である。
【0010】
一実施形態では、ステップ(2)では、前記糊化は、温度が90~100℃であり、時間が25~35minである。
【0011】
一実施形態では、ステップ(2)では、前記デクラスタリング酵素分解は、温度が55~65℃であり、時間が12~24h(時間)であり、前記プルラナーゼの添加量は40~50 ASPU/g乾燥デンプンである。デクラスタリング酵素分解とは、ハイアミロースコーンスターチ中の耐熱性B-結晶を保持しつつ、非耐熱性アモルファス領域をプルラナーゼでアミロースの短鎖に転換することである。
【0012】
一実施形態では、ステップ(3)では、前記脂肪酸が、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸のうちのいずれか1種である。
【0013】
一実施形態では、ステップ(3)では、前記酵素分解処理を受けた澱粉乳への脂肪酸の添加は、70~90℃で脂肪酸を加えることであり、前記脂肪酸の添加量は、デンプンの乾量基準質量の6%~10%である。前記脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸のうちのいずれか1種である。
【0014】
一実施形態では、ステップ(3)では、前記超音波の周波数は25~35kHzであり、超音波の出力は300~400Wであり、超音波処理の時間は30~60minである。
【0015】
一実施形態では、ステップ(4)では、前記冷却結晶化において、生成物を5~10℃/minの平均冷却速度で3~5℃に迅速に冷却し、この温度で30~60min結晶化する。
【0016】
一実施形態では、ステップ(4)では、前記強靱化において、45~55℃で96~120h強靱化する。
【0017】
一実施形態では、ステップ(4)では、前記乾燥において、50~60℃で6~10h熱風乾燥する。
【0018】
一実施形態では、ステップ(3)では、添加される脂肪酸が、水不溶性脂肪酸であり、澱粉乳の体積に対して0.05~0.1倍の使用量の無水エタノールで分散させる必要がある。
【0019】
一実施形態では、ステップ(4)では、前記脱水は、遠心の回転数が4000~5000rpmであり、遠心時間が8~15minである。
【0020】
本発明の第2目的は、上記の方法によって製造された多結晶レジスタントスターチを提供することである。
【0021】
本発明の第3目的は、機能性食品の製造における、上記の前記方法又は多結晶レジスタントスターチの使用を提供することである。
【0022】
前記使用においては、機能性食品には、腸内健康の改善、糖尿病の予防、腸管バリアの保護ができる機能性食品が含まれてもよい。
【0023】
本発明では、ハイアミロースコーンスターチとは、アミロース含有量が70%を超えるトウモロコシデンプンのことである。
【0024】
[発明の効果]
本発明による有利な効果は以下の通りである。
(1)耐熱性が安定したB型結晶を保持しつつ、耐熱性が不安定なB型結晶を超音波支援の下で脂肪酸と錯化して、アミロース-脂質複合体を形成し、3次元らせん構造を有し、熱安定性に優れ、アミラーゼと作用しにくく、レジスタントスターチの含有量の増加と耐熱安定性の向上を実現する耐熱性V型結晶に転換する。
(2)pH4~5のプラズマ活性化水を使用すると、その中の弱酸性成分はデンプンのアモルファス領域に作用することができ、ハイアミロースコーンスターチミルクの粘度を下げることができ、水熱糊化法による澱粉乳系の固形物の含有量が極めて低い(5%~7%)という問題を改善することができ、デンプンの利用率を高め、そして澱粉乳系の粘度が高いため、脂肪酸との錯化に不利であるという問題を改善することができる。プラズマ活性化水は弱酸性系であり、弱酸性系は、脂肪酸の不飽和度を問わず、アミロースがらせんを形成するのに有利であり、疎水性相互作用を強化し、それによってデンプン-脂肪酸複合体の形成を促進する。酸性度の高いプラズマ活性水の使用を避けることにより、強酸性成分がデンプンの結晶領域を攻撃することが効果的に防止され、耐熱性B型結晶が破壊されることを防止するとともに、プルラナーゼの不活性化を防止することができる。
(3)急速冷却結晶化法を採用することにより、大量の結晶核の形成を促し、適切な温度での保温により結晶成長を促進し、V型結晶デンプンのより高い結晶性とより大きな微結晶のサイズの形成を容易にし、結晶構造を完璧にしやすく、複合体の安定性を向上させることができる。
(4)強靭化処理により、デンプン粒子内部の堆積状態を変化させることができ、デンプン結晶を溶融して、分子再配列し、結晶化度を向上させることができ、ハイアミロースコーンスターチは、強靭化処理によって、A型結晶を得ることもできる。
【0025】
本発明は、少なくとも以下の利点がある。
本発明の方法は、操作が簡単であり、常温常圧で実現可能であり、低コストである。
上記方法を用いて製造された多結晶レジスタントスターチは、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量が67%以上(67%~69%と高い)に達し、XRDにより測定された結晶化度が、蒸煮の場合のハイアミロースコーンスターチに比べて著しく増加し、レジスタントスターチの含有量の増加、結晶化度の向上(結晶化度は40%以上)を可能にする。レジスタントスターチを沸騰水浴で10min処理し、Englyst法により測定したところ、レジスタントスターチの含有量が5%未満しか低下しなかったことは、本発明がレジスタントスターチの耐熱性を大幅に向上させたことを示している。また、レジスタントスターチに不飽和脂肪酸(脂肪酸含有量4.8g/100g以上)を導入することで、口当たりを高め、腸内バリアを保護し、腸内微生物を調節する役割を果たしている。
この多結晶レジスタントスターチは、レオロジー特性及び安定性が良好で、口当たりが改善され、食品の膨張度が低減するなどの独特な食品加工特性を有するだけでなく、腸内健康の改善、糖尿病の予防、腸内バリアの保護等の優れた生理機能をも有し、産業上の利用価値が高く、市場開発の将来性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施例1の多結晶レジスタントスターチのXRDパターンである。
図2】本発明の比較例5のレジスタントスターチのXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施例を参照して、本発明の技術的解決手段について説明するが、以下の実施例は、本発明を説明するためにのみ使用されるものであって、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
具体的な条件が実施例に記載されていない場合、通常の条件又は製造者が提案する条件に従って実施する。使用した試薬又は器具は製造元が明記されていない場合、いずれも市場で購入することができる通常製品である。
【0028】
1、レジスタントスターチの含有量の測定
Englyst法を参考にレジスタントスターチの含有量を測定した。製造されたデンプン-脂肪酸錯体と脱イオン水とを均一に混合し、ボルテックス振とうを行った。試験管を37℃振動水浴鍋に置き、各試験管に10個のガラスビーズ、4mL酢酸ナトリウム緩衝液(0.5mol/L、pH 5.2)を加え、30min保温した。調製したばかりの混合酵素溶液を加え、37℃の水浴で振とうさせた。0、10、20、30、45、60、90、120、180min毎に0.1mLの加水分解液を採取し、0.9mLの90%エタノール溶液に加えて酵素を不活性化させ、ブドウ糖測定キットを用いてインキュベート液中のブドウ糖含有量を測定した。
レジスタントスターチの含有量の計算には、G120(120分間保温後に放出されたブドウ糖)とWs(サンプルの重量)の値から、以下の式により計算した。
【0029】
2、プラズマ活性水の製造
直径3cm、高さ15cmの円筒管に蒸留水を入れ、プラズマジェットプローブを水面から25cm離し、大気圧プラズマジェット励起装置を用いて40~60s励起し、pH4~5のプラズマ活性水を得た。
【0030】
3、ハイアミロースコーンスターチ
ハイアミロースコーンスターチは、▲せん▼(くさかんむりの下に「全」)銀祥玉(北京)生物科技有限公司から購入した祥玉1945である。
【0031】
4、プルラナーゼ
プルラナーゼはSIGMA-ALDRICH社より購入したものである。
【0032】
5、結晶化度の測定
X線回折計を用いてサンプルの結晶構造を測定し、Cu-Kα光源(40kV、30mA)を選択し、2°/minの走査速度で4°から30°(2θ)まで走査した。MDI Jade 6.0ソフトウェアを用いて、以下の方法で相対結晶化度RCを計算した。
ここで、A及びAは、それぞれX線回折図における結晶領域及びアモルファス領域の面積を表す。
【0033】
実施例1
多結晶レジスタントスターチの製造方法であって、具体的には、下記のステップを含む。
100メッシュの篩に掛けたハイアミロースコーンスターチ10gを秤量して、pH値が5のプラズマ活性水を用いて、固形分が15%の澱粉乳となるように調製し、その後、澱粉乳を95℃で30min糊化し、60℃に冷却して、45 ASPU/g乾燥デンプンのプルラナーゼを加えて18hデクラスタリングし、沸騰水で酵素を不活性化した後、80℃に降温し、次に、デンプン乾量基準に対して6%のオレイン酸を加え、超音波の周波数30kHz、出力350W、80℃で超音波処理を45min行い、次に、超音波処理後の生成物を8℃/minの平均冷却速度で4℃に迅速に冷却し、この温度で45min結晶化し、その後、50℃に加熱して108h強靱化した。続いて、4500rpmで12min遠心分離し、50%エタノールで3回洗浄した。最後に、サンプルを55℃で8h熱風乾燥し、粉砕して、100メッシュの篩にかけて、多結晶レジスタントスターチを得た。
Englyst法により測定したところ、レジスタントスターチの含有量は69.6%に達した。製品についてXRD試験を行ったところ(図1)、衍射角2θが7.4°、13°、19.7°近くの回折ピークからV型結晶の形成が示唆され、5.4°、16.8°、23°近くの回折ピークからA型結晶とB型結晶の存在が示唆され、このレジスタントスターチは、A+B+VII結晶形が形成されており、結晶化度が41.7%であった。該デンプンを沸騰水浴に入れてから10分間後、Englyst法により測定したところ、レジスタントスターチの含有量は3.8%しか低下しておらず。製品について脂肪酸含有量を測定した結果、4.91g/100gであった。
【0034】
実施例2
多結晶レジスタントスターチの製造方法であって、具体的には、下記のステップを含む。
100メッシュの篩に掛けたハイアミロースコーンスターチ10gを秤量して、pH値が4.5のプラズマ活性水を用いて、固形分が16%の澱粉乳となるように調製し、その後、澱粉乳を90℃で35min糊化し、55℃に冷却して、40 ASPU/g乾燥デンプンのプルラナーゼを加えて24hデクラスタリングし、沸騰水で酵素を不活性化した後、70℃に降温し、次に、デンプン乾量基準に対して8%のオレイン酸を加え、超音波の周波数25kHz、出力400W、70℃で超音波処理を60min行い、生成物を5℃/minの平均冷却速度で3℃に迅速に冷却し、この温度で60min結晶化し、その後、45℃に加熱して120h強靱化した。室温に冷却して、続いて、4000rpmで15min遠心分離し、40%エタノールで3回洗浄した。最後に、サンプルを50℃で10h熱風乾燥し、粉砕して、100メッシュの篩にかけて、多結晶レジスタントスターチを得た。
このレジスタントスターチは、A+B+VII結晶形で、結晶化度が40.9%であり、Englyst法により測定したところ、レジスタントスターチの含有量が68.3%に達した。このデンプンを沸騰水浴に入れて10分間後、Englyst法により測定したところ、レジスタントスターチの含有量は4.2%しか低下していなかった。製品について脂肪酸含有量を測定した結果、4.83g/100gであった。
【0035】
実施例3
多結晶レジスタントスターチの製造方法であって、具体的には、下記のステップを含む。
称取100メッシュの篩に掛けたハイアミロースコーンスターチ10gを秤量して、pH値が4のプラズマ活性水を用いて、固形分が18%の澱粉乳となるように調製し、その後、澱粉乳を100℃で25min糊化し、65℃に冷却して、50 ASPU/g乾燥デンプンのプルラナーゼを加えて12hデクラスタリングし、沸騰水で酵素を不活性化した後、90℃に降温し、デンプン乾量基準に対して10%のオレイン酸を加え、超音波の周波数35kHz、出力300W、90℃で超音波処理を30min行い、生成物を10℃/minの平均冷却速度で5℃に迅速に冷却し、この温度で30min結晶化し、その後、55℃に加熱して96h強靱化した。室温に冷却して、続いて、5000rpmで8min遠心分離し、60%エタノールで3回洗浄した。最後に、サンプルを60℃で6h熱風乾燥し、粉砕して、100メッシュの篩にかけて、多結晶レジスタントスターチを得た。
このレジスタントスターチは、A+B+VII結晶で、結晶化度が40.6%であり、Englyst法により測定したところ、レジスタントスターチの含有量が67.5%に達した。このデンプンを沸騰水浴に入れてから10分間後、Englyst法により測定したところ、レジスタントスターチの含有量は4.5%しか低下していなかった。製品について脂肪酸含有量を測定した結果、4.81g/100gであった。
【0036】
比較例1
プラズマ活性水、プルラナーゼ、超音波処理、及び冷却結晶化による強靱化がレジスタントスターチの製造に与える影響を調べ、そのうちの1つ又は複数の条件を変えて、残りのプロセスステップやパラメータを実施例1と同様にして、その結果を表1に示す。
【表1】
【0037】
比較例2
実施例1との違いは、pH5のプラズマ活性水をpH5の酢酸ナトリウム溶液に変更することだけであり、他のステップ及びパラメータは、実施例1と同様であった。
このレジスタントスターチは、A+B+VII結晶型の結晶化度が31.2%であり、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量が53.7%であった。このデンプンを沸騰水浴に入れて10分間後、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量は9.8%低下した。製品について脂肪酸含有量を測定した結果、3.86g/100gであった。
実施例1で調製されたレジスタントスターチと比較して、レジスタントスターチの含有量、結晶化度、脂肪酸含有量のいずれも低下している。Naがデンプンセグメント間の水素結合の形成に影響し、デンプン鎖の秩序化の程度を低下させるからだと考えられる。
【0038】
比較例3
実施例1との違いは、pH5のプラズマ活性化水を固形分15%の澱粉乳に配合することを、pH3のプラズマ活性化水を固形分15%の澱粉乳に配合することに変更するだけであり、残りのステップ及びパラメータは、実施例1と同様であった。
このレジスタントスターチは、結晶形がA+B+VII型であり、結晶化度が37.7%であり、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量が59.6%であった。このデンプンを沸騰水浴に入れて10分間後、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量は7.6%低下した。製品について脂肪酸含有量を測定した結果、4.51g/100gであった。
実施例1で調製されたレジスタントスターチと比較して、レジスタントスターチの含有量、結晶性の低下が顕著であり、脂肪酸含有量の差が大きかった。これは、pHが低いとデンプンの結晶性領域が破壊され、結晶化度が低下するためである。また、低いpHはプルラナーゼ活性を制限する。
【0039】
比較例4
実施例1との違いは、pH5のプラズマ活性化水を固形分15%の澱粉乳に配合することを、pH6のプラズマ活性化水を固形分15%の澱粉乳に配合することに変更するだけであり、残りのステップ及びパラメータは、実施例1と同様であった。
レジスタントスターチは、結晶形がA+B+VII型であり、結晶化度が36.3%であり、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量が57.8%であった。このデンプンを沸騰水浴に入れて10分間後、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量は8.4%低下した。製品について脂肪酸含有量を測定した結果、4.48g/100gであった。
実施例1で調製されたレジスタントスターチと比較して、レジスタントスターチの含有量、結晶性の低下が顕著であり、脂肪酸含有量の差が大きかった。これは、比較的高いpH値のプラズマ活性化水がデンプンのアモルファス領域に与える作用が限られており、ハイアミロースコーンスターチミルクの粘度を効果的に下げることができず、脂肪酸の錯化に不利であるためである。
【0040】
比較例5
実施例1との違いは、「超音波処理後の生成物を8℃/minの平均冷却速度で4℃に迅速に冷却し、その温度で45min結晶化し、その後、50℃に加熱して108h強靭化する」を、「超音波処理後の生成物を室温で20℃に自然冷却し、その後45℃に加熱して72h強靭化する」に変更するだけである。他のステップ及びパラメータは、実施例1と同様であった。
Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量は56.2%であった。製品についてXRD試験(図2)を行ったところ、B+VI結晶形が形成されており、結晶化度は32.7%であった。このデンプンを沸騰水浴に入れて10分間後、Englyst法により測定されたレジスタントスターチの含有量は8.9%低下した。製品について脂肪酸含有量を測定した結果、4.31g/100gであった。
実施例1で調製されたレジスタントスターチと比較して、B+VI結晶形のみが形成されていた。レジスタントスターチの含有量、結晶化度、脂肪酸の含有量の差が大きかった。これは、自然冷却によって形成される結晶核が少ないので、V型結晶デンプンがより高い結晶化度とより大きな微結晶のサイズを形成するのに不利だからである。しかも強靭化時間が不足し、デンプンの螺旋秩序度及び結晶の完全度を有効に高めることができなかった。
【0041】
以上のように、本発明の原料は、特殊な利用価値を有するハイアミロースコーンスターチである。本発明により製造されたレジスタントスターチは、単純なRS2ハイアミロースコーンスターチよりも優れた食感を有し、レジスタントスターチの含有量が増加し、結晶化度が向上し、耐熱性に優れたレジスタントスターチが得られる。本発明は、脂肪酸とデンプンとを錯化し、不飽和脂肪酸に対する保護作用を有し、レジスタントスターチに不飽和脂肪酸の機能、効果を付与する。このレジスタントスターチは、レオロジー特性及び安定性が良好であり、口当たりが改善され、食品の膨張度が低減される等の独特な食品加工特性を有するだけでなく、糖尿病の予防、腸内健康の改善、腸内バリアの保護等の優れた生理機能をも有しており、産業上の利用価値が高く、市場開発の将来性が期待できる。
【0042】
以上、本発明を好適な実施例によって開示したが、これらの実施例は本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、あらゆる変更や修正を行うことができるので、本発明の権利範囲は、特許請求の範囲により定められる。
図1
図2