IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -陰イオン交換樹脂および電解質膜 図1
  • -陰イオン交換樹脂および電解質膜 図2
  • -陰イオン交換樹脂および電解質膜 図3
  • -陰イオン交換樹脂および電解質膜 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】陰イオン交換樹脂および電解質膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/02 20060101AFI20250407BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20250407BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20250407BHJP
   H01M 8/1023 20160101ALI20250407BHJP
   H01M 8/1025 20160101ALI20250407BHJP
   H01M 8/103 20160101ALI20250407BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20250407BHJP
   H01M 8/1034 20160101ALI20250407BHJP
   H01M 8/1037 20160101ALI20250407BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20250407BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250407BHJP
【FI】
C08G61/02
C08J5/22 CEZ
C08J5/22 104
C25B13/08 302
H01M8/1023
H01M8/1025
H01M8/103
H01M8/1032
H01M8/1034
H01M8/1037
H01M8/1039
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023517021
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2021017255
(87)【国際公開番号】W WO2022230196
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】312003595
【氏名又は名称】タカハタプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】横田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優子
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 勝也
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061583(JP,A)
【文献】特開2016-196664(JP,A)
【文献】特開2019-023258(JP,A)
【文献】特開2009-238468(JP,A)
【文献】特開2020-117568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G61/00-61/12
C08J 5/22
H01M 8/00- 8/2495
C25B13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるビスフェノール残基を含む2価の疎水性基(a)と、
下記式(2)で表されるビスフェノール残基を含む2価の疎水性基(b)と、
単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、前記連結基または前記芳香環のうち少なくとも1つが、炭素数2以上の2価の飽和炭化水素基を介して陰イオン交換基と結合した2価の親水性基と
からなり、
前記2価の親水性基が、下記式(3)で表されるフルオレン残基であり、
前記疎水性基(a)単体からなる、または、前記疎水性基(a)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(a)と、
前記疎水性基(b)単体からなる、または、前記疎水性基(b)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(b)と、
前記親水性基単体からなる、または、前記親水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットと
を有し、
前記疎水ユニット(a)と前記疎水ユニット(b)と前記親水ユニットとが、エーテル結合、チオエーテル結合、または炭素-炭素結合を介して結合していることを特徴とする、陰イオン交換樹脂。
【化1】
(式中、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、a、b、c、およびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、lは、1以上の整数を示す。)
【化2】
(式中、Alk’は、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、a’、b’、c’、およびd’は、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、l’は、1以上の整数を示す。)
【化3】
(式中、Aは、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基含有基を示すか、または陰イオン交換基を含有する環状構造を示す。)
【請求項2】
前記疎水性基(a)が、下記式(1’)で表されるビスフェノール残基を含むことを特徴とする、請求項1記載の陰イオン交換樹脂。
【化4】
(式中、lは、1以上の整数を示す。)
【請求項3】
前記疎水性基(b)が、下記式(2’)で表されるビスフェノール残基を含むことを特徴とする、請求項1記載の陰イオン交換樹脂。
【化5】
(式中、l’は、1以上の整数を示す。)
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする、電解質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂および電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式で表される2価の疎水性基と、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、前記連結基または前記芳香環のうち少なくとも1つが、陰イオン交換基含有基と結合した2価の親水性基とからなり、前記疎水性基単体からなる、または、前記疎水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニットと、前記親水性基単体からなる、または、前記親水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットとを有し、前記疎水ユニットと前記親水ユニットとが、エーテル結合、チオエーテル結合、または炭素-炭素結合を介して結合している、ことを特徴とする陰イオン交換樹脂が記載されている。
【0003】
【化1】
(式中、Xは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子、擬ハロゲン化物、または水素原子を示し、Yは、互いに同一または相異なって、酸素含有基、硫黄含有基、または直接結合を示し、Zは、互いに同一または相異なって、炭素原子またはケイ素原子を示し、Rは、互いに同一または相異なって、芳香族基または直接結合を示し、h、h’、h’’、i、i’、およびi’’は、互いに同一または相異なって、0以上の整数を示し、h’’’およびi’’’は、1以上の整数を示す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-117568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された陰イオン交換樹脂は、高い化学的特性(耐久性、特に耐アルカリ性)を保持したまま、電気的特性(陰イオン導電性)を向上させることに成功しているが、さらなる化学的特性及び電気的特性の向上が望まれており、また機械的特性(薄膜の柔軟性)が十分ではないという課題が存在した。
【0006】
そこで、本発明は、化学的特性、電気的特性、および機械的特性に優れる電解質膜を製造できる陰イオン交換樹脂、およびその陰イオン交換樹脂から形成される電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の陰イオン交換樹脂は、
下記式(1)で表されるビスフェノール残基を含む2価の疎水性基(a)と、
下記式(2)で表されるビスフェノール残基を含む2価の疎水性基(b)と、
単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、前記連結基または前記芳香環のうち少なくとも1つが、炭素数2以上の2価の飽和炭化水素基を介して陰イオン交換基と結合した2価の親水性基と
前記2価の親水性基が、下記式(3)で表されるフルオレン残基であり、
からなり、
前記疎水性基(a)単体からなる、または、前記疎水性基(a)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(a)と、
前記疎水性基(b)単体からなる、または、前記疎水性基(b)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(b)と、
前記親水性基単体からなる、または、前記親水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットと
を有し、
前記疎水ユニット(a)と前記疎水ユニット(b)と前記親水ユニットとが、エーテル結合、チオエーテル結合、または炭素-炭素結合を介して結合していることを特徴とする。
【0008】
【化2】
(式中、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、a、b、c、およびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、lは、1以上の整数を示す。)
【0009】
【化3】
(式中、Alk’は、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、a’、b’、c’、およびd’は、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、l’は、1以上の整数を示す。)
【化6】
(式中、Aは、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基含有基を示すか、または陰イオン交換基を含有する環状構造を示す。)
【0010】
本発明の陰イオン交換樹脂では、前記疎水性基(a)が、下記式(1’)で表されるビスフェノール残基を含むことが好適である。
【0011】
【化4】
(式中、lは、1以上の整数を示す。)
【0012】
本発明の陰イオン交換樹脂では、前記疎水性基(b)が、下記式(2’)で表されるビスフェノール残基を含むことが好適である。
【0013】
【化5】
(式中、l’は、1以上の整数を示す。)
【0017】
前記課題を解決するために、本発明の電解質膜は、上記の陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化学的特性、電気的特性、および機械的特性に優れる電解質膜を製造できる陰イオン交換樹脂、およびその陰イオン交換樹脂から形成される電解質膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例および比較例で得られたサンプルの引張試験の結果を示すグラフである。
図2】実施例および比較例で得られたサンプルの水酸化物イオン導電率測定の結果を示すグラフである。
図3】実施例および比較例で得られたサンプルの含水率測定の結果を示すグラフである。
図4】実施例および比較例で得られたサンプルの耐久試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の陰イオン交換樹脂は、2価の疎水性基(a)と、2価の疎水性基(b)と、2価の親水性基とからなる。
【0021】
本発明の陰イオン交換樹脂において、2価の疎水性基(a)は、下記式(1)で表されるビスフェノール残基を含む。
【0022】
【化7】
(式中、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、a、b、c、およびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、lは、1以上の整数を示す。)
【0023】
上記式(1)において、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素数1~20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数1~20のシクロアルキル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基が挙げられる。
【0024】
上記式(1)において、aおよびbは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、好ましくは、0~2の整数を示し、さらに好ましくは、aおよびbが、ともに0を示す。
【0025】
上記式(1)において、cおよびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、好ましくは、0~2の整数を示し、さらに好ましくは、cおよびdが、ともに0を示す。
【0026】
上記式(1)において、lは1以上の整数を示し、好ましくは1~20の整数を示し、より好ましくは2~6の整数を示す。
【0027】
このような疎水性基(a)として、好ましくは、下記式(1’)で表されるビスフェノール残基が挙げられる。
【0028】
【化8】
(式中、lは、前記式(1)のlと同意義を示す。)
【0029】
本発明の陰イオン交換樹脂において、2価の疎水性基(b)は、下記式(2)で表されるビスフェノール残基を含む。
【0030】
【化9】
(式中、Alk’は、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、a’、b’、c’、およびd’は、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、l’は、1以上の整数を示す。)
【0031】
上記式(2)において、Alk’は、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示す。アルキル基としては、上記式(1)で示したアルキル基が挙げられ、アリール基としては、上記式(1)で示したアリール基が挙げられる。
【0032】
上記式(2)において、a’およびb’は、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、好ましくは、0~2の整数を示し、さらに好ましくは、a’およびb’が、ともに0を示す。
【0033】
上記式(2)において、c’およびd’は、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、好ましくは、0~2の整数を示し、さらに好ましくは、c’およびd’が、ともに0を示す。
【0034】
上記式(2)において、l’は1以上の整数を示し、好ましくは1~20の整数を示し、より好ましくは2~6の整数を示す。
【0035】
このような疎水性基(b)として、好ましくは、下記式(2’)で表されるビスフェノール残基が挙げられる。
【0036】
【化10】
(式中、l’は、前記式(2)のl’と同意義を示す。)
【0037】
このように、特定の2価のフッ素含有基を、疎水ユニットを構成する疎水性基の主鎖中に導入することで、以下の効果が得られる。
・分子間相互作用の低い主鎖により溶解性・柔軟性が向上する
・撥水性を与え、親水部(イオン交換基周辺)との相分離が発達しイオン導電パスを形成できる
・撥水性により、親水性の水酸化物イオンや酸化剤が主鎖に近づきにくくなる(耐アルカリ性・化学的安定性向上)
・主鎖の剛性を制御できる(電解質膜の柔軟性向上)
・ガラス転移温度が低く、触媒層と接着できる(接触抵抗低下)
・ガス拡散性を制御できる(バインダーとして使用した際の酸素の拡散性増大)
【0038】
本発明の陰イオン交換樹脂において、2価の親水性基は、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数(2つ以上、好ましくは、2つ)の芳香環からなり、前記連結基または前記芳香環のうち少なくとも1つが、陰イオン交換基含有基と結合している。
【0039】
芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、インデン環、アズレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環などの、炭素数6~14の単環または多環式化合物、および、アゾール、オキソール、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ピリジンなどの、複素環式化合物が挙げられる。
【0040】
芳香環として、好ましくは、炭素数6~14の単環芳香族炭化水素が挙げられ、より好ましくは、ベンゼン環が挙げられる。
【0041】
また、芳香環は、必要により、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、擬ハロゲン化物などの置換基に置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。擬ハロゲン化物としては、トリフルオロメチル基、-CN、-NC、-OCN、-NCO、-ONC、-SCN、-NCS、-SeCN、-NCSe、-TeCN、-NCTe、-Nが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素数1~20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数1~20のシクロアルキル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基が挙げられる。
【0042】
なお、芳香環がハロゲン原子、アルキル基、アリール基、擬ハロゲン化物などの置換基に置換される場合において、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、擬ハロゲン化物などの置換基の置換数および置換位置は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0043】
ハロゲン原子に置換された芳香環として、より具体的には、例えば、1~4つのハロゲン原子で置換されたベンゼン環(例えば、1~4つのフッ素で置換されたベンゼン環、1~4つの塩素で置換されたベンゼン環、1~4つの臭素で置換されたベンゼン環、1~4つのヨウ素で置換されたベンゼン環など、1~4のハロゲン原子は、全て同一であっても、相異なっていてもよい)などが挙げられる。
【0044】
2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン(-CH-)、エチレン、プロピレン、i-プロピレン(-C(CH-)、ブチレン、i-ブチレン、sec-ブチレン、ペンチレン(ペンテン)、i-ペンチレン、sec-ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、3-メチルペンテン、ヘプチレン、オクチレン、2-エチルヘキシレン、ノニレン、デシレン、i-デシレン、ドデシレン、テトラデシレン、ヘキサデシレン、オクタデシレンなどの、炭素数1~20の2価の飽和炭化水素基が挙げられる。
【0045】
2価の炭化水素基として、好ましくは、炭素数1~3の2価の飽和炭化水素基、具体的には、メチレン(-CH-)、エチレン、プロピレン、i-プロピレン(-C(CH-)が挙げられ、より好ましくは、メチレン(-CH-)、イソプロピレン(-C(CH-)が挙げられ、とりわけ好ましくは、i-プロピレン(-C(CH-)が挙げられる。
【0046】
2価の炭化水素基は、前記した芳香環における、1価の残基で置換されていても良い。
【0047】
本発明の陰イオン交換樹脂において、好ましくは、2価の親水性基は、単数の多環式化合物からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数(2つ以上、好ましくは、2つ)の多環式化合物からなり、前記連結基または前記多環式化合物のうち少なくとも1つが、炭素数2以上の2価の飽和炭化水素基を介して陰イオン交換基と結合している。
【0048】
多環式化合物としては、例えば、ナフタレン環、インデン環、アズレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環、カルバゾール環、インドール環が挙げられ、好ましくは、フルオレン環が挙げられる。
【0049】
2価の炭化水素基としては、上記した2価の炭化水素基が挙げられる。
【0050】
陰イオン交換基含有基は、陰イオン交換基のみでもよく、2価の飽和炭化水素基を介して結合される陰イオン交換基でもよい。
【0051】
陰イオン交換基含有基は、2価の親水性残基の連結基または芳香環の少なくとも1つに結合されていればよく、複数の連結基または芳香環に結合されていてもよく、全ての連結基または芳香環に結合されていてもよい。また、陰イオン交換基は、1つの連結基または芳香環に複数個結合されていてもよい。
【0052】
陰イオン交換基は、親水性基において側鎖に導入され、具体的には、特に制限されず、四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ホスフィン、ホスファゼン、三級スルホニウム基、四級ボロニウム基、四級ホスホニウム基、グアニジウム基など、公知の陰イオン交換基をいずれも採用することができる。陰イオン伝導性の観点から、好ましくは、四級アンモニウム基が挙げられる。
【0053】
陰イオン交換基として、好ましくは、-N(CHが挙げられるが、その他にも、以下の構造を有するものが挙げられる。なお、以下の構造式において、*は置換基を含む芳香環に結合する部分を示す。
【0054】
【化11】
(図中、Alk、Alk’、Alk’’は、上記したアルキル基を示し、iPrはi-プロピル基を示す。)
【0055】
2価の親水性残基の連結基または芳香環と、陰イオン交換基とを結合させる2価の飽和炭化水素基の炭素数は、好ましくは、2以上である。2価の飽和炭化水素基の炭素数は、より好ましくは、2~20の整数であり、さらに好ましくは、3~10の整数であり、特に好ましくは、4~8の整数である。
【0056】
2価の飽和炭化水素基としては、好ましくは、メチレン(-(CH)-)、エチレン(-(CH-)、トリメチレン(-(CH-)、テトラメチレン(-(CH-)、ペンタメチレン(-(CH-)、ヘキサメチレン(-(CH-)、ヘプタメチレン(-(CH-)、オクタメチレン(-(CH-)等の直鎖状飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0057】
好ましくは、そのような構造を有する2価の親水性基として、下記式で表される構造を有するものが挙げられる。
【0058】
【化12】
【化13】
【化14】
(式中、Ionは、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基含有基を示し、aは、0以上であって陰イオン交換基含有基が結合可能な数の整数(好ましくは、0または1)を示し、nは0以上の整数を示す。)
【0059】
また、好ましくは、そのような構造を有する2価の親水性基として、下記式(3)で表されるフルオレン残基が挙げられる。
【0060】
【化15】
(式中、Aは、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基含有基を示すか、または陰イオン交換基を含有する環状構造を示す。)
【0061】
とりわけ好ましくは、そのような構造を有する2価の親水性基として、下記式(3a)、下記式(3b)、下記式(3c)、または下記式(3d)で表されるものが挙げられる。
【0062】
【化16】
【0063】
本発明の陰イオン交換樹脂では、上記した疎水性基(a)単体からなる、または、上記した疎水性基(a)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(a)と、上記した疎水性基(b)単体からなる、または、上記した疎水性基(b)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(b)と、上記した親水性基単体からなる、または、上記した親水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、または炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットとを有している。疎水ユニット(a)は、疎水性基(a)単体からなる、または疎水性(a)基が炭素-炭素結合を介して繰り返されていることが好ましい。疎水ユニット(b)は、疎水性基(b)単体からなる、または疎水性(b)基が炭素-炭素結合を介して繰り返されていることが好ましい。親水ユニットは、親水性基単体からなる、または親水性基が炭素-炭素結合を介して繰り返されて形成されていることが好ましい。
【0064】
なお、ユニットとは一般に用いられるブロック共重合体のブロックに相当する。
【0065】
疎水ユニット(a)として、好ましくは、上記式(1)で表される2価の疎水性基(a)が、炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。上記式(1)で表される2価の疎水性基(a)の複数種が、ランダム状、交互などの規則状、またはブロック状で互いに結合して形成されるユニットでもよい。
【0066】
このような疎水ユニット(a)は、例えば、下記式(4)で示される。
【0067】
【化17】
(式中、Alk、a、b、c、d、およびlは、上記式(1)のAlk、a、b、c、d、およびlと同意義を示し、qは、1~200を示す。)
【0068】
上記式(4)において、qは、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0069】
このような疎水ユニット(a)として、さらに好ましくは、上記式(1’)で表される2価の疎水性基が、炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。
【0070】
このような疎水ユニット(a)は、とりわけ好ましくは、下記式(4’)で示される。
【0071】
【化18】
(式中、lは、上記式(1’)のlと同意義を示し、qは、1~200を示す。)
【0072】
上記式(4’)において、qは、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0073】
疎水ユニット(b)として、好ましくは、上記式(2)で表される2価の疎水性基(b)が、炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。上記式(2)で表される2価の疎水性基(b)の複数種が、ランダム状、交互などの規則状、またはブロック状で互いに結合して形成されるユニットでもよい。
【0074】
このような疎水ユニット(b)は、例えば、下記式(5)で示される。
【0075】
【化19】
(式中、Alk’、a’、b’、c’、d’、およびl’は、上記式(2)のAlk’、a’、b’、c’、d’、およびl’と同意義を示し、q’は、1~200を示す。)
【0076】
上記式(5)において、q’は、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0077】
このような疎水ユニット(b)として、さらに好ましくは、上記式(2’)で表される2価の疎水性基が、炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。
【0078】
このような疎水ユニット(b)は、とりわけ好ましくは、下記式(5’)で示される。
【0079】
【化20】
(式中、l’は、上記式(2’)のl’と同意義を示し、q’は、1~200を示す。)
【0080】
上記式(5’)において、qは、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0081】
親水ユニットとして、好ましくは、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、前記連結基または前記芳香環のうち少なくとも1つが、陰イオン交換基含有基と結合した2価の親水性基が、炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。親水ユニットとして、より好ましくは、単数の多環式化合物からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の多環式化合物からなり、前記連結基または前記多環式化合物のうち少なくとも1つが、炭素数2以上の2価の飽和炭化水素基を介して陰イオン交換基と結合した2価の親水性基が、炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。2価の親水性基の複数種が、ランダム状、交互などの規則状、またはブロック状で互いに結合して形成されるユニットでもよい。
【0082】
親水ユニットとして、とりわけ好ましくは、上記式(3)で表されるフルオレン残基が、炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。
【0083】
このような疎水ユニットは、例えば、下記式(6)で示される。
【0084】
【化21】
(式中、Aは、上記式(3)のAと同意義を示し、mは、1~200を示す。)
【0085】
上記式(6)において、mは、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0086】
このような親水ユニットとして、とりわけ好ましくは、下記式(6a)で示されるように、上記式(3a)で示される親水性基が炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニット、下記式(6b)で示されるように、上記式(3b)で示される親水性基が炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニット、下記式(6c)で示されるように、上記式(3c)で示される親水性基が炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニット、および下記式(6d)で示されるように、上記式(3d)で示される親水性基が炭素-炭素結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。
【0087】
【化22】
(式中、mは、1~200を示す。)
【0088】
上記式(6a)、上記式(6b)、上記式(6c)、および上記式(6d)において、mは、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0089】
本発明の陰イオン交換樹脂では、上記した疎水ユニット(a)と、上記した疎水ユニット(b)と、上記した親水ユニットとが、エーテル結合、チオエーテル結合、または炭素-炭素結合を介して結合している。特に、上記した疎水ユニット(a)と、上記した疎水ユニット(b)と、上記した親水ユニットとが、炭素-炭素結合を介して結合していることが好ましい。
【0090】
このような陰イオン交換樹脂として、好ましくは、下記式(7)で示されるように、上記式(4)で示される疎水ユニット(a)と、上記式(5)で示される疎水ユニット(b)と、上記式(6)で示される親水ユニットとが炭素-炭素結合を介して結合された陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0091】
【化23】
(式中、Alk、a、b、c、d、およびlは、上記式(4)のAlk、a、b、c、d、およびlと同意義を示し、Alk’、a’、b’、c’、d’、およびl’は、上記式(5)のAlk’、a’、b’、c’、d’、およびl’と同意義を示し、Aは、上記式(6)のAと同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0092】
このような陰イオン交換樹脂として、さらに好ましくは、下記式(7’)で示されるように、上記式(4’)で示される疎水ユニット(a)と、上記式(5’)で示される疎水ユニット(b)と、上記式(6)で示される親水ユニットとが炭素-炭素結合を介して結合された陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0093】
【化24】
(式中、lは、上記式(4’)のlと同意義を示し、l’は、上記式(5’)のl’と同意義を示し、Aは、上記式(6)のAと同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0094】
このような陰イオン交換樹脂として、とりわけ好ましくは、下記式(7a)で示されるように、上記式(4’)で示される疎水ユニット(a)と、上記式(5’)で示される疎水ユニット(b)と、上記式(6a)で示される親水ユニットとが炭素-炭素結合を介して結合された陰イオン交換樹脂、下記式(7b)で示されるように、上記式(4’)で示される疎水ユニット(a)と、上記式(5’)で示される疎水ユニット(b)と、上記式(6b)で示される親水ユニットとが炭素-炭素結合を介して結合された陰イオン交換樹脂、下記式(7c)で示されるように、上記式(4’)で示される疎水ユニット(a)と、上記式(5’)で示される疎水ユニット(b)と、上記式(6c)で示される親水ユニットとが炭素-炭素結合を介して結合された陰イオン交換樹脂陰イオン交換樹脂、下記式(7d)で示されるように、上記式(4’)で示される疎水ユニット(a)と、上記式(5’)で示される疎水ユニット(b)と、上記式(6d)で示される親水ユニットとが炭素-炭素結合を介して結合された陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0095】
【化25】
(式中、lは、上記式(4’)のlと同意義を示し、l’は、上記式(5’)のl’と同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0096】
【化26】
(式中、lは、上記式(4’)のlと同意義を示し、l’は、上記式(5’)のl’と同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0097】
【化27】
(式中、lは、上記式(4’)のlと同意義を示し、l’は、上記式(5’)のl’と同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0098】
【化28】
(式中、lは、上記式(4’)のlと同意義を示し、l’は、上記式(5’)のl’と同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0099】
疎水性基(a)の繰り返し単位数qと、疎水性基(b)の繰り返し単位数q’との比に関しては、所望の特性が得られるように適宜調整することができる。疎水性基(a)比率(q/(q+q’))は、例えば、0.05~0.95であり、好ましくは、0.10~0.75であり、さらに好ましくは、0.15~0.55である。
【0100】
このような陰イオン交換樹脂の数平均分子量は、上記したように、例えば、10~1000kDa、好ましくは、30~500kDaである。
【0101】
陰イオン交換樹脂を製造する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。好ましくは、重縮合反応による方法が、採用される。
【0102】
この方法により陰イオン交換樹脂を製造する場合には、例えば、疎水性基(a)形成用モノマーを準備し、疎水性基(b)形成用モノマーを準備し、陰イオン交換基前駆官能基を有する親水性基形成用モノマーを準備し、疎水性基(a)形成用モノマーと疎水性基(b)形成用モノマーと陰イオン交換基前駆官能基を有する親水性基形成用モノマーとを重合反応させることによりポリマーを合成し、ポリマー中の陰イオン交換基前駆官能基をイオン化させることにより、陰イオン交換樹脂を製造することができる。あるいは、疎水性基(a)形成用モノマーを準備し、疎水性基(b)形成用モノマーを準備し、親水性基形成用モノマーを準備し、疎水性基(a)形成用モノマーと疎水性基(b)形成用モノマー親水性基形成用モノマーとを重合反応させることによりポリマーを合成し、ポリマー中に陰イオン交換基を有する置換基を導入することにより、陰イオン交換樹脂を製造することができる。
【0103】
重縮合反応については、従来公知の一般的な方法を採用することができる。好ましくは、炭素-炭素結合を形成する、カップリングが採用される。
【0104】
疎水性基(a)形成用モノマーとして、好ましくは、上記式(1)に対応する、下記式(11)で示される化合物が挙げられる。
【0105】
【化29】
(式中、Alk、a、b、c、d、およびlは、上記式(1)のAlk、a、b、c、d、およびlと同意義を示し、Tは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子、擬ハロゲン化物、ボロン酸基、ボロン酸誘導体、または水素原子を示す。)
【0106】
疎水性基(a)形成用モノマーとして、とりわけ好ましくは、上記式(1’)に対応する、下記式(11’)で示される化合物が挙げられる。
【0107】
【化30】
(式中、lは、前記式(1’)のlと同意義を示し、Tは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子、擬ハロゲン化物、ボロン酸基、ボロン酸誘導体、または水素原子を示す。)
【0108】
疎水性基(b)形成用モノマーとして、好ましくは、上記式(2)に対応する、下記式(12)で示される化合物が挙げられる。
【0109】
【化31】
(式中、Alk’、a’、b’、c’、d’、およびl’は、上記式(2)のAlk’、a’、b’、c’、d’、およびl’と同意義を示し、Tは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子、擬ハロゲン化物、ボロン酸基、ボロン酸誘導体、または水素原子を示す。)
【0110】
疎水性基(b)形成用モノマーとして、とりわけ好ましくは、上記式(2’)に対応する、下記式(12’)で示される化合物が挙げられる。
【0111】
【化32】
(式中、lは、前記式(2’)のlと同意義を示し、Tは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子、擬ハロゲン化物、ボロン酸基、ボロン酸誘導体、または水素原子を示す。)
【0112】
陰イオン交換基前駆官能基を有する親水性基形成用モノマーとして、好ましくは、上記式(3)に対応する、下記式(13)で示される化合物が挙げられる。
【0113】
【化33】
(式中、Preは、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基含有基前駆官能基を示すか、または陰イオン交換基前駆官能基を含有する環状構造を示し、Tは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子、擬ハロゲン化物、ボロン酸基、ボロン酸誘導体、または水素原子を示す。)
【0114】
疎水性基(a)形成用モノマー、疎水性基(b)形成用モノマー、および陰イオン交換基前駆官能基を有する親水性基形成用モノマーをカップリングにより重合させる際において、各モノマーの配合量は、それぞれ、得られる陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーにおいて所望の疎水ユニット(a)と疎水ユニット(b)と親水ユニットの配合比になるように調整される。
【0115】
これらの方法では、疎水性基(a)形成用モノマーと疎水性基(b)形成用モノマーと陰イオン交換基前駆官能基を有する親水性基形成用モノマーとを、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒に溶解させ、ビス(シクロオクタ-1,5-ジエン)ニッケル(0)などを触媒として、重合する方法など、公知の方法を採用することができる。
【0116】
カップリング反応における反応温度は、例えば、-100~300℃、好ましくは、-50~200℃であり、反応時間は、例えば、1~48時間、好ましくは、2~5時間である。
【0117】
上記式(11)で示される化合物と上記式(12)で示される化合物と上記式(13)で示される化合物のカップリングにより、下記式(17)で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーが得られる。
【0118】
【化34】
(式中、Alk、a、b、c、d、およびlは、上記式(11)のAlk、a、b、c、d、およびlと同意義を示し、Alk’、a’、b’、c’、d’、およびl’は、上記式(12)のAlk’、a’、b’、c’、d’、およびl’と同意義を示し、Preは、上記式(13)のPreと同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0119】
とりわけ好ましくは、上記式(11’)で示される化合物と上記式(12’)で示される化合物と上記式(13)で示される化合物のカップリングにより、下記式(17’)で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーが得られる。
【0120】
【化35】
(式中、lは、上記式(11’)のlと同意義を示し、l’は、上記式(12’)のl’と同意義を示し、Preは、上記式(13)のAと同意義を示し、q、q’、およびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0121】
次いで、この方法では、陰イオン交換基前駆官能基をイオン化する。イオン化する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0122】
陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーを、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒に溶解させ、ヨウ化メチルなどをアルキル化剤として、イオン化する方法など、公知の方法を採用することができる。
【0123】
イオン化反応における反応温度は、例えば、0~100℃、好ましくは、20~80℃であり、反応時間は、例えば、24~72時間、好ましくは、48~72時間である。
【0124】
上記式(17)で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーをイオン化することで、上記式(7)で示される陰イオン交換樹脂が得られる。とりわけ好ましくは、上記式(17’)で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーをイオン化することで、上記式(7’)で示される陰イオン交換樹脂が得られる。
【0125】
陰イオン交換樹脂のイオン交換基容量は、例えば、0.1~4.0meq./g、好ましくは、0.6~3.0meq./gである。
【0126】
なお、イオン交換基容量は、下記式(24)により求めることができる。
[イオン交換基容量(meq./g)]=親水ユニット当たりの陰イオン交換基導入量×親水ユニットの繰り返し単位×1000/(疎水ユニットの分子量×疎水ユニットの繰り返し単位数+親水ユニットの分子量×親水ユニットの繰り返し単位数+イオン交換基の分子量×親水ユニットの繰り返し単位数) (24)
なお、イオン交換基導入量とは、単位親水性基あたりのイオン交換基の数と定義される。また、陰イオン交換基導入量は、親水性基において主鎖または側鎖に導入された上記陰イオン交換基のモル数(mol)である。
【0127】
そして、このような陰イオン交換樹脂は、上記式(1)で表されるビスフェノール残基を含む2価の疎水性基(a)と、上記式(2)で表されるビスフェノール残基を含む2価の疎水性基(b)と、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、前記連結基または前記芳香環のうち少なくとも1つが、炭素数2以上の2価の飽和炭化水素基を介して陰イオン交換基と結合した2価の親水性基とからなり、前記疎水性基(a)単体からなる、または、前記疎水性基(a)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(a)と、前記疎水性基(b)単体からなる、または、前記疎水性基(b)が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニット(b)と、前記親水性基単体からなる、または、前記親水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットとを有し、前記疎水ユニット(a)と前記疎水ユニット(b)と前記親水ユニットとが、エーテル結合、チオエーテル結合、または炭素-炭素結合を介して結合している。このような陰イオン交換樹脂は、化学的特性(耐久性、特に耐アルカリ性)、電気的特性(陰イオン導電性)、および機械的特性(薄膜の柔軟性)に優れる。
【0128】
特に、親水性基が炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットを有する場合、エーテル結合が含有されていないため、耐アルカリ性などの耐久性に優れる。より詳しくは、親水ユニットにエーテル結合が含有されていると、下記のように、水酸化物イオン(OH)による分解が起きる可能性があり、耐アルカリ性が十分でない場合があった。
【0129】
【化36】
【0130】
それに対し、親水性基が炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットを有する陰イオン交換樹脂の親水ユニットには、エーテル結合が含有されていないため、上記の機構による分解は起こらず、その結果として耐アルカリ性などの耐久性に優れたものとなる。
【0131】
本発明は、このような陰イオン交換樹脂を用いて得られる電解質層(電解質膜)を含んでいる。本発明の電解質膜は、燃料電池、水電解式水素発生装置、電気化学式水素ポンプ等の種々の電気化学用途に適用可能であるが、特に水電解式水素発生装置に用いることが好適である。燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、電解質膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構状態で使用される。このうち、電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称され、本発明の電解質膜は、こうしたMEAを構成する電解質膜として好適に用いられる。
【0132】
電解質膜としては、上記した陰イオン交換樹脂を用いることができる(すなわち、電解質膜は、上記した陰イオン交換樹脂を含んでいる。)。
【0133】
なお、電解質膜としては、例えば、多孔質基材などの公知の補強材により補強することができ、さらには、例えば、分子配向などを制御するための二軸延伸処理や、結晶化度や残存応力を制御するための熱処理などの各種処理することができる。また、電解質膜4には、その機械強度を上げるために、公知のフィラーを添加することができ、電解質膜4と、ガラス不織布などの補強剤とをプレスにより複合化させることもできる。
【0134】
また、電解質膜において、通常用いられる各種添加剤、例えば、相溶性を向上させるための相溶化剤、例えば、樹脂劣化を防止するための酸化防止剤、例えば、フィルムとしての成型加工における取扱性を向上するための帯電防止剤や滑剤などを、電解質膜4としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で、適宜含有させることができる。
【0135】
電解質膜の厚さは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0136】
電解質膜の厚みは、例えば、1.2~350μm、好ましくは、5~200μmである。
【0137】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜設計を変形することができる。
【実施例
【0138】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0139】
〔実施例1:陰イオン交換樹脂QBP17A(IEC=2.1meq./g)の合成〕
<モノマー1の合成>
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mLの丸底三口フラスコに、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン(5.54g、10.0mmol)、3-クロロヨードベンゼン(11.9g、50mmol)、ジメチルスルホキシド(60mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、銅粉末(9.53g、150mmol)を加え、120℃にて48時間反応を行った。反応溶液を0.1M硝酸水溶液中に滴下し反応を停止させた。混合物中からろ過によって回収した析出物をメタノールで洗浄し、ろ液を回収した。同様の操作を繰り返し行った後、合わせたろ液に純水を加えることにより析出した白色固体をろ別回収し、純水とメタノールの混合溶液(純水/メタノール=1/1)で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示されるモノマー1(白色固体)を収率84%で得た。
【0140】
【化37】
【0141】
<モノマー2の合成>
窒素インレットおよび冷却管を備えた300mLの丸底三口フラスコに、ビスフェノールAF(18.0g、53.8mmol)、ジクロロトリフェニルホスホラン(36.0g、107mmol)を加え、350℃にて4時間反応を行った。反応混合物に、ジクロロメタン、ヘキサンを加えた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)によって精製した後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示されるモノマー2(白色固体)を収率60%で得た。
【0142】
【化38】
【0143】
<モノマー3の合成>
500mLの丸底三口フラスコに、フルオレン(83.1g、0.50mol)、N-クロロスクシンイミド(167g、1.25mol)、アセトニトリル(166mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、12M塩酸(16.6mL)を加え、室温にて24時間反応を行った。反応溶液中からろ過によって回収した析出物をメタノール、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示されるモノマー3(白色固体)を収率65%で得た。
【0144】
【化39】
【0145】
<モノマー4の合成>
300mLの丸底三口フラスコに、モノマー3(8.23g、35.0mmol)、1,6-ジブロモヘキサン(53mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、テトラブチルアンモニウム(2.26g、7.00mmol)、水酸化カリウム(35.0g)、純水(35mL)の混合溶液を加え、80℃にて1時間反応を行った。反応溶液に純水を加え反応を停止させた。水層から目的物をジクロロメタンで抽出し、合わせた有機層を純水および食塩水で洗浄後、水、ジクロロメタンおよび1、6-ジブロモヘキサンを留去した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/ヘキサン=1/4)によって精製した後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示されるモノマー4(淡黄色固体)を収率75%で得た。
【0146】
【化40】
【0147】
<モノマー5の合成>
300mLの丸底三口フラスコに、モノマー4(13.2g、23.4mol)、テトラヒドロフラン(117mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、40wt%ジメチルアミン水溶液(58.6mL)を加え、室温にて24時間反応を行った。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止させた。テトラヒドロフランを除去した後、ヘキサンを加え、目的成分の抽出を行った。有機層を食塩水で洗浄後、水およびヘキサンを留去した。40℃一晩真空乾燥させることにより、下記式で示されるモノマー5(淡黄色固体)を収率75%で得た。
【0148】
【化41】
【0149】
(重合反応)
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mLの丸底三口フラスコに、モノマー1(208mg、377μmol)、モノマー2(701mg、1.88mmol)、モノマー5(785mg、1.59mmol)、2,2’-ビピリジン(3.07g、19.7mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド(13mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(3.00g、10.9mmol)を加え、80℃にて3時間反応させた。反応混合物をメタノールと12M塩酸の混合溶液(メタノール/12M塩酸=1/1)中に滴下し反応を停止させた。混合物中から濾過によって回収した析出物を12M塩酸、0.2M炭酸カリウム水溶液、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーBP17Aを収率86%で得た。
【0150】
【化42】
【0151】
(四級化反応・製膜・イオン交換)
50mLの丸底三口フラスコに、陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーBP17A(1.24g)、N,N-ジメチルアセトアミド(13mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、硫酸ジメチル(6.44mL、67.9mmol)を加え、室温にて48時間反応を行った。反応溶液を純水中に滴下した。混合物中から濾過によって回収した析出物を純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、陰イオン交換樹脂QBP17Aを得た。
【0152】
20mLの丸底三口フラスコに、陰イオン交換樹脂QBP17A、N,N-ジメチルアセトアミドを加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、濾過を行った。濾液をシリコーンゴムで縁取りされたガラス板上に流し込み、水平に調節したホットプレート(50℃)上で乾燥させることにより、淡茶色透明の膜を得た。さらに、1M水酸化カリウム水溶液(80℃)中に48時間浸漬させた後、脱気した純水で洗浄することにより、イオン交換基(四級アンモニウム基)の対イオンを水酸化物イオンへと変換した。これにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂QBP17A(IEC=2.1meq./g、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0153】
【化43】
【0154】
〔実施例2:陰イオン交換樹脂QBP17A-2.5(IEC=2.5meq./g)の合成〕
上記モノマー1、モノマー2、およびモノマー5を用いて、上記と同様の方法で、必要に応じて試薬の仕込み量を変更すること(q:q’:m=0.20:1.00:1.52)により、陰イオン交換樹脂QBP17A-2.5(IEC=2.5meq./g、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0155】
〔実施例3:陰イオン交換樹脂QBP50A(IEC=2.0meq./g)の合成〕
上記モノマー1、モノマー2、およびモノマー5を用いて、上記と同様の方法で、必要に応じて試薬の仕込み量を変更すること(q:q’:m=1.00:1.00:1.61)により、陰イオン交換樹脂QBP50A(IEC=2.0meq./g、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0156】
〔実施例4:陰イオン交換樹脂QBP60A(IEC=2.0meq./g)の合成〕
上記モノマー1、モノマー2、およびモノマー5を用いて、上記と同様の方法で、必要に応じて試薬の仕込み量を変更すること(q:q’:m=0.75:0.50:1.04)により、陰イオン交換樹脂QBP60A(IEC=2.0meq./g、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0157】
〔実施例5:陰イオン交換樹脂QBP83A(IEC=2.1meq./g)の合成〕
上記モノマー1、モノマー2、およびモノマー5を用いて、上記と同様の方法で、必要に応じて試薬の仕込み量を変更すること(q:q’:m=1.00:0.20:1.09)により、陰イオン交換樹脂QBP83A(IEC=2.1meq./g、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0158】
〔比較例1:陰イオン交換樹脂BAF-QAF(IEC=2.0meq./g)の合成〕
上記モノマー1を用いずに、上記モノマー2およびモノマー5を用いて、上記と同様の方法で、必要に応じて試薬の仕込み量を変更すること(q’:m=1.00:0.58)により、下記式で示される陰イオン交換樹脂BAF-QAF(IEC=2.0meq./g、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0159】
【化44】
【0160】
〔比較例2:陰イオン交換樹脂QPAF-4(IEC=2.0meq./g)の合成〕
上記モノマー2を用いずに、上記モノマー1およびモノマー5を用いて、上記と同様の方法で、必要に応じて試薬の仕込み量を変更すること(q:m=1.00:0.87)により、下記式で示される陰イオン交換樹脂QPAF-4(IEC=2.0meq./g、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0161】
【化45】
【0162】
<イオン交換容量>
実施例および比較例で得られた陰イオン交換樹脂の膜に対して、イオン交換容量を測定した。具体的には、イオン交換容量:IEC(meq./g)は、次式より、膜中の対イオンの物質量:a(mmol)、乾燥膜質量:Wdry(水酸化物イオン型)(g)を用いて算出した。
IEC=a/Wdry(水酸化物イオン型)
aは、塩化物イオン型の膜を硝酸ナトリウム水溶液中で撹拌した際、イオン交換によって水溶液中に放出された塩化物イオンの物質量をモール法によって求めた。Wdry(水酸化物イオン型)は、塩化物イオン型の膜を12時間真空乾燥(60℃)した後、予め秤量しておいたサンプル管瓶に素早く移して蓋をした状態で秤量し、差分で求めたWdry(塩化物イオン型)、およびaを用いて算出した。
【0163】
<引張試験>
実施例および比較例で得られた陰イオン交換樹脂の膜に対して、引張試験を行った。具体的には、実施例および比較例で得られた陰イオン交換樹脂の膜(塩化物イオン型)を12mm×2mm(サンプル全体の面積:35mm×6mm)のダンベル型(DIN-53504-S3)に切り出したものを測定サンプルとし、Toshin Kogyo temperature control unit Bethel-3を搭載したShimazu universal testing instrument Autogragh AGS-J500Nを用い、恒温、恒湿に制御されたチャンバー内で引張試験を行った。測定は、サンプルを80℃、60%RHの条件下に3時間保持後、10mm/minの速度で引張り、得られた応力-歪み曲線から破断点伸び率を算出した。
【0164】
結果を図1に示す。同程度のIECを有する比較例1、実施例1、実施例3、実施例4、実施例5において、疎水性基(a)を含む実施例1、実施例3、実施例4、実施例5は、疎水性基(a)を含まない比較例1に比べて、大きな破断点伸び率を示す。
【0165】
<水酸化物イオン導電率>
実施例および比較例で得られた陰イオン交換樹脂の膜に対して、水酸化物イオン導電率を測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた陰イオン交換樹脂の膜を幅1cm、長さ3cmに切り出したものを測定サンプルとし、これを1M水酸化カリウム水溶液(80℃)に48時間浸漬させることにより水酸化物イオン型とした。水酸化物イオン導電率測定は、1M水酸化カリウム水溶液(80℃)から取り出したサンプルを脱気した純水で洗浄した後、交流四端子法(300mV、10-100000Hz)で、30℃の純水中において実施した。測定装置にはSolartolon1255B/1287を使用し、プローブにはφ1mmの金線を用いた。水酸化物イオン導電率σ(S/cm)は、次式より、プローブ間距離L(1cm)、インピーダンスZ(Ω)、膜断面積A(cm)から算出した。
σ=(L/Z)×1/A
【0166】
結果を図2に示す。同程度のIECを有する比較例1、実施例1、実施例3、実施例4、実施例5において、疎水性基(a)および疎水性基(b)を共に含む実施例1、実施例3、実施例4、実施例5は、疎水性基(a)を含まない比較例1と同等の高い水酸化物イオン導電率を示す。また、水酸化物イオン導電率は、疎水性基(a)比率(q/(q+q’))の増加に伴い減少する傾向がある。
【0167】
<含水率>
実施例および比較例で得られた陰イオン交換樹脂の膜に対して、含水率を測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた陰イオン交換樹脂の膜を幅1cm、長さ3cmに切り出したものを測定サンプルとし、これを1M水酸化カリウム水溶液(80℃)に48時間浸漬させることにより水酸化物イオン型とした。含水率(%)は、次式より、膜の含水膜質量:Wwet(g)、乾燥膜質量:Wdry(g)を用いて算出した。
含水率(%)=(Wwet-Wdry)/Wdry×100
wetは、1M水酸化カリウム水溶液(80℃)から取り出したサンプルを脱気した純水で洗浄した後、サンプルを純水中に室温で24時間以上浸漬した後、サンプル表面の水滴をティッシュで拭き取り、予め秤量しておいたサンプル管瓶に素早く移して蓋をした状態で秤量し、差分で求めた。Wdryは、含水したサンプルを12時間真空乾燥(60℃)した後、予め秤量しておいたサンプル管瓶に素早く移して蓋をした状態で秤量し、差分で求めた。
【0168】
結果を図3に示す。同程度のIECを有する比較例1、実施例1、実施例3、実施例4、実施例5、比較例2において、含水率は、疎水性基(a)比率(q/(q+q’))の増加に伴い増加する傾向がある。
【0169】
<耐久試験>
実施例および比較例で得た陰イオン交換樹脂の膜に対して、耐久試験を行った。具体的には、陰イオン交換樹脂の膜(水酸化物イオン型)を8M水酸化カリウム水溶液(80℃)に浸漬させた際の水酸化物イオン導電率の経時変化を測定した。なお、水酸化物イオン導電率の測定方法は、交流四端子法で40℃の純水中において実施したこと以外は、前述と同様である。
【0170】
結果を図4に示す。同程度のIECを有する比較例1、実施例1、実施例3、実施例4、実施例5、比較例2において、疎水性基(a)および疎水性基(b)を共に含む実施例1、実施例3、実施例4、実施例5は、疎水性基(b)のみを含む比較例1および疎水性基(a)のみを含む比較例2に比べて、高い熱アルカリ安定性を示す。
【0171】
同程度のIECを有する比較例1、実施例1、実施例3、実施例4、実施例5、比較例2において、疎水性基(a)比率(q/(q+q’))が0.17である実施例1は、高い水酸化物イオン導電率と大きな破断点伸び率を併せ持つ。さらに、実施例1の疎水性基(a)比率(q/(q+q’))を0.17に固定して、IECを向上させた実施例2は、実施例1と同等の高い水酸化物イオン導電率を保持したまま、実施例1よりも大きな破断点伸び率を示す。さらに、実施例2は、実施例1に比べて、高い熱アルカリ安定性を示した。

図1
図2
図3
図4