(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】マイクロノズル装置
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20250407BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20250407BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20250407BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20250407BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
C23C18/31 E
C23C18/44
B05C5/00 101
B05C11/10
B41M5/00 120
B41M5/00 132
(21)【出願番号】P 2021137979
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】内山 一美
(72)【発明者】
【氏名】毛 思鋒
(72)【発明者】
【氏名】河西 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】林 海鋒
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊吾
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-510881(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102922890(CN,A)
【文献】特開2007-229705(JP,A)
【文献】再公表特許第2012/147512(JP,A1)
【文献】特開2002-340914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
B05C 5/00
B05C 11/10
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属からなるナノワイヤを形成するマイクロノズル装置であって、
一端が吐出開口とされた3本以上の吐出用毛細管と、一端が吸引開口とされた1本以上の吸引用毛細管と、前記吐出用毛細管から流体を吐出させる吐出ポンプと、前記吸引用毛細管から流体を吸引させる吸引ポンプと、を有し、
前記吐出用毛細管のうち、少なくとも1つは金属化合物を含む金属溶液を吐出させるとともに、他の吐出用毛細管のうち、少なくとも1つは、前記金属化合物と反応して金属を析出させる反応液を吐出させ、更に、他の吐出用毛細管のうち、少なくとも1つは、前記吸引用毛細管に吸引された前記金属溶液の残液および前記反応液の残液による固形分の生成を阻害するか、または固形分を溶解する閉塞抑制液を吐出させることを特徴とするマイクロノズル装置。
【請求項2】
基板上に前記ナノワイヤを形成する位置に、予め前処理液を吐出させる吐出用毛細管を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のマイクロノズル装置。
【請求項3】
前記吐出用毛細管のうち、金属溶液、前記反応液をそれぞれ吐出させる吐出用毛細管の吐出開口は、前記閉塞抑制液を吐出させる吐出用毛細管の吐出開口よりも、前記基板に近接するように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロノズル装置。
【請求項4】
前記吐出開口および前記吸引開口のそれぞれの開口径は1mm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロノズル装置。
【請求項5】
前記吐出用毛細管および前記吸引用毛細管は、ケイ素を含む材料によって構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロノズル装置。
【請求項6】
前記吐出用毛細管は、前記吐出開口よりも上流側で、前記吐出開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成され、前記吸引用毛細管は、前記吸引開口よりも上流側で、前記吸引開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のマイクロノズル装置。
【請求項7】
前記ナノワイヤは銀からなり、前記金属溶液は銀化合物を含み、前記反応液は前記銀化合物を還元して銀を析出させる還元剤を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロノズル装置。
【請求項8】
前記前処理液は塩化錫を含むことを特徴とする請求項2に記載のマイクロノズル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に金属からなるナノワイヤを形成するためのマイクロノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノワイヤとは、直径が数百ナノメートルより小さいナノスケールの金属ワイヤである。ナノワイヤは、そのサイズと形状から、より大きなサイズのワイヤでは見られない特徴的な性質を有している。例えば、銀によって形成された銀ナノワイヤを配線として用いた透明導電膜は、高い導電性かつ高い光透過性を有することに加え、透明導電膜の配線として広く用いられているITOに比べて、折り曲げに強いという特性も有している。このため、ナノワイヤは、フレキシブルタッチパネルや、太陽電池の電極としての応用が期待されている。
【0003】
一方、こうしたナノワイヤは線径が極めて細いため、単独での取り扱いが困難であり、基板上に直接、ナノワイヤを形成することが考えられている。例えば、非特許文献1には、2本の吐出ノズルと、1本の吸引ノズルを有するノズル化学ペンを用いてナノワイヤを形成することが記載されている。
【0004】
これによれば、1本の吐出ノズルから銀化合物(Ag(NH3)2OH)の溶液を吐出させ、他の1本の吐出ノズルから銀化合物を還元して銀を析出させる還元剤の溶液を吐出させるとともに、これらの残液を吸引ノズルで吸引することによって、基板上に直接、銀ナノワイヤを形成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Lin HF, et al. Anal. Chem. 2019, 91, 7346-7352(2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示されたようなノズル化学ペンでは、金属化合物の溶液と還元剤とを反応させてナノワイヤを形成した後の残液を吸引ノズルで吸引する際に、残液に含まれる金属化合物の溶液と還元剤とが反応し、吸引ノズル内で金属が析出することで、吸引ノズルが閉塞されやすい。このため、頻繁に吸引ノズルのメンテナンスを行う必要があり、ナノワイヤによる配線を連続して長く形成することが困難であるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、吸引ノズルの閉塞を防止して、長時間、連続してナノワイヤを形成することが可能なマイクロノズル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のマイクロノズル装置は、基板上に金属からなるナノワイヤを形成するマイクロノズル装置であって、一端が吐出開口とされた3本以上の吐出用毛細管と、一端が吸引開口とされた1本以上の吸引用毛細管と、前記吐出用毛細管から流体を吐出させる吐出ポンプと、前記吸引用毛細管から流体を吸引させる吸引ポンプと、を有し、前記吐出用毛細管のうち、少なくとも1つは金属化合物を含む金属溶液を吐出させるとともに、他の吐出用毛細管のうち、少なくとも1つは、前記金属化合物と反応して金属を析出させる反応液を吐出させ、更に、他の吐出用毛細管のうち、少なくとも1つは、前記吸引用毛細管に吸引された前記金属溶液の残液および前記反応液の残液による固形分の生成を阻害するか、または固形分を溶解する閉塞抑制液を吐出させることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、金属ナノワイヤを形成する金属溶液と反応液の残液を吸引する吸引開口から、閉塞抑制液も同時に吸引させることにより、金属溶液と反応液の残液の反応によって生成された金属の固形分が閉塞抑制液によって速やかに溶解されるので、残液の反応によって生成した金属(固形分)によって吸引用毛細管が閉塞されるといったことを防止することが可能になる。従って、長時間に渡って、吸引用毛細管をメンテナンスすることなく、連続して基板上にナノワイヤを形成することが可能になる。
【0010】
また、本発明では、基板上に前記ナノワイヤを形成する位置に、予め前処理液を吐出させる吐出用毛細管を更に備えてもよい。
【0011】
また、本発明では、前記吐出用毛細管のうち、金属溶液、前記反応液をそれぞれ吐出させる吐出用毛細管の吐出開口は、前記閉塞抑制液を吐出させる吐出用毛細管の吐出開口よりも、前記基板に近接するように形成されていてもよい。
【0012】
また、本発明では、前記吐出開口および前記吸引開口のそれぞれの開口径は1mm以下であってもよい。
【0013】
また、本発明では、前記吐出用毛細管および前記吸引用毛細管は、ケイ素を含む材料によって構成されていてもよい。
【0014】
また、本発明では、前記吐出用毛細管は、前記吐出開口よりも上流側で、前記吐出開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成され、前記吸引用毛細管は、前記吸引開口よりも上流側で、前記吸引開口の開口径よりも内径が大きくなるように形成されていてもよい。
【0015】
また、本発明では、前記ナノワイヤは銀からなり、前記金属溶液は銀化合物を含み、前記反応液は前記銀化合物を還元して銀を析出させる還元剤を含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明では、前記前処理液は塩化錫を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、吸引ノズルの閉塞を防止して、長時間、連続してナノワイヤを形成することが可能なマイクロノズル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態のマイクロノズル装置を示す要部拡大斜視図である。
【
図2】マイクロノズル装置の吐出開口および吸引開口の配列の一例を示す概略構成図である。
【
図3】マイクロノズル装置の吐出開口および吸引開口の配列の他の一例を示す概略構成図である。
【
図4】マイクロノズル装置の吐出開口および吸引開口の配列の他の一例を示す概略構成図である。
【
図5】マイクロノズル装置の吐出開口および吸引開口の配列の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のマイクロノズル装置について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明の一実施形態のマイクロノズル装置を示す要部拡大斜視図である。また、
図2は、マイクロノズル装置の吐出開口および吸引開口の配列を示す概略構成図である。
本実施形態のマイクロノズル装置10は、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13と、これら第1~第3の吐出用毛細管11,12,13にそれぞれ流体を供給して吐出させる吐出ポンプ21,22,23と、吸引用毛細管15と、この吸引用毛細管15から流体を吸引させる吸引ポンプ25と、を有している。
【0021】
第1~第3の吐出用毛細管11,12,13は、例えば、ガラス製の中空毛細管からなり、一方の端部(開口端)が、それぞれ吐出開口11a,12a,13aとされている。また、吸引用毛細管15は、例えば、ガラス製の中空毛細管からなり、一方の端部(開口端)が吸引開口15aとされている。
これら第1~第3の吐出用毛細管11,12,13および吸引用毛細管15は、一方の端部寄りで一体になるように束ねられている。
【0022】
なお、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13および吸引用毛細管15は、ガラス以外にも、ケイ素を含むガラス質の材料、例えば、フューズドシリカなどを用いて形成することもできる。
【0023】
マイクロノズル装置10の使用状態、即ち、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13のそれぞれの吐出開口11a,12a,13aと、吸引用毛細管15の吸引開口15aとを、ナノワイヤを形成する基板Fに正対させた状態において、吐出開口11a,12aは、吐出開口13aよりも基板Fに近接するように形成されている。例えば、マイクロノズル装置10の使用状態では、吐出開口11a,12aは基板Fに接し、吐出開口13aは基板Fに対して所定の隙間を保つ。なお、吸引開口15aも基板Fに対して所定の隙間を保つように形成されていればよい。
【0024】
また、本実施形態では、
図2に示すように、吐出開口11aと吐出開口12aとが隣接して配され、吐出開口13aが吸引開口15aを挟んで吐出開口11a,12aの反対側に配されている。即ち、本実施形態のマイクロノズル装置10では、吸引開口15aを中心にして、吐出開口11a,12aおよび吐出開口13aがこの吸引開口15aを取り囲むように形成されている。
【0025】
第1~第3の吐出用毛細管11,12,13の吐出開口11a,12a,13aは、開口径が1mm以下、例えば、0.5mm~0.01mm程度であればよい。また、吸引用毛細管15の吸引開口15aも、開口径が1mm以下、例えば、0.5mm~0.01mm程度であればよい。なお、吐出開口11a,12a,13aと吸引開口15aとは、互いに開口径が異なっていてもよい。
【0026】
本実施形態では、吐出開口11a,12a,13a、および吸引開口15aの開口径は、それぞれ0.32mmとした。なお、第1~第3の吐出用毛細管11,12,13および吸引用毛細管15の外径は0.42mm程度である。
【0027】
吐出ポンプ21,22,23および吸引ポンプ25は、流体の種類に応じて選択されればよく、例えば、シリンジを用いることができる。なお、吐出ポンプ21,22,23および吸引ポンプ25としては、シリンジ以外にも、例えばチューブポンプなどを用いることもできる。
【0028】
本実施形態のマイクロノズル装置10は、基板Fの表面に配線となる金属のナノワイヤを形成するために、吐出ポンプ21を介して第1の吐出用毛細管11の吐出開口11aから金属溶液を吐出させ、また、吐出ポンプ22を介して第2の吐出用毛細管12の吐出開口12aから反応液を吐出させ、更に、吐出ポンプ23を介して第3の吐出用毛細管13の吐出開口13aから閉塞抑制液を吐出させる。そして、吸引ポンプ25を介して吸引用毛細管15の吸引開口15aから、吐出させた金属溶液や反応液の残液、および閉塞抑制液を吸引させる。
【0029】
より詳しくは、吐出開口11aからは、ナノワイヤを構成する金属を含む金属化合物を溶解した金属溶液を吐出させる。また、吐出開口12aからは、上述した金属化合物と反応して、基板Fの表面に金属を析出させる反応液を吐出させる。これにより、基板F上では、金属化合物と反応液とが反応(例えば還元反応)して、ナノワイヤを構成する金属が生成される。
【0030】
更に、吐出開口13aからは、吐出開口11aから吐出された金属溶液の残液と、吐出開口11aから吐出された反応液の残液とが反応して生成する固形分、例えば金属を溶解する閉塞抑制液を吐出させる。なお、吐出開口13aからは、吐出開口11aから吐出された金属溶液の残液と、吐出開口11aから吐出された反応液の残液との反応を抑制し、固形分、例えば金属の生成を阻害する閉塞抑制液を吐出させることもできる。
【0031】
こうした構成により、吸引開口15aから、吐出させた金属溶液の残液と反応液の残液とを吸引する際に、同時に閉塞抑制液も吸引されることになり、金属溶液の残液と反応液の残液との反応によって生じた金属が溶解されるか、あるいは、金属溶液の残液と反応液の残液との反応そのものが抑制される。
【0032】
これにより、吐出開口13aを有する吸引用毛細管15の内部で金属が生成され、吸引用毛細管15を閉塞されるといったことを防止できる。従って、長時間に渡って、吸引用毛細管15をメンテナンスすることなく、連続して基板F上にナノワイヤを形成することが可能になる。
【0033】
各吐出開口から吐出される液の具体例としては、例えば、銀ナノワイヤを形成する場合には、金属化合物を含む金属溶液として、アンモニア性硝酸銀水溶液(Ag(NH3)2OH)を用い、反応液として、銀化合物の還元剤であるブドウ糖およびホルムアルデヒドの混合水溶液を用い、閉塞抑制液として、銀を溶解する希硝酸を用いている。なお、金属溶液の残液と、反応液の残液との反応を抑制する閉塞抑制液としては、例えば、塩酸を用いることができる。これにより、pHを低下させて反応を抑制する。
【0034】
以上の様な構成のマイクロノズル装置10の作用を説明する。
図2に示すように、例えば、マイクロノズル装置10を用いて、基板F上に銀からなるナノワイヤの配線を形成する際には、基板F上でナノワイヤを形成する位置にマイクロノズル装置10の端部を合わせる。そして、吐出開口11aからアンモニア性硝酸銀水溶液(金属溶液)を、吐出開口12aからブドウ糖およびホルムアルデヒドの混合水溶液(反応液)を、また、吐出開口13aから希硝酸(閉塞抑制液)を、それぞれ吐出させる。また、吸引開口15aから、吐出させた金属溶液の残液と反応液の残液と閉塞抑制液とを吸引させる。
【0035】
吐出開口11a,12a,13aの吐出量は、例えば、10μL/h程度であればよい。また、吸引開口15aの吸引量は、例えば、350μL/h程度であればよい。
【0036】
そして、各液の吐出および吸引と同時に、マイクロノズル装置10の先端部分を、ナノワイヤを形成する方向Dに移動させる。なお、この時、相対的に基板Fを移動させることもできる。移動量としては、例えば、0.1μm/s程度であればよい。
【0037】
吐出開口11aから吐出された金属溶液と、吐出開口12aから吐出された反応液は、吸引開口15aに向かって吸引される過程で、これら金属溶液と反応液とが混合し、金属溶液が還元されて銀が生じる(銀鏡反応)。そして、マイクロノズル装置10の先端部分が方向Dに移動されることによって、生成した銀が細長く延ばされ、直径がナノサイズ(例えば、100nm以下)の銀線である銀ナノワイヤWが、基板F上に形成される。
【0038】
そして、吐出された金属溶液および反応液の反応後残液と未反応残液、および吐出開口13aから吐出された閉塞抑制液は、これら吐出開口の中央に配された吸引開口15aから吸引される。
【0039】
この吸引過程で、金属溶液および反応液の未反応残液が吸引用毛細管15の内部で混合、反応して銀が生成されるが、閉塞抑制液である希硝酸を同時に吸引させることにより、生成した銀が速やかに溶解される。これにより、生成した銀(固形分)によって、吸引用毛細管15が閉塞されることを防止する。また、基板F上で定着せずに吸引された銀も閉塞抑制液によって溶解され、吸引用毛細管15が閉塞されることを防止する。
【0040】
以上のように、本実施形態のマイクロノズル装置10によれば、金属ナノワイヤを形成する金属溶液と反応液の残液を吸引する吸引開口15aから、吐出開口13aから吐出された閉塞抑制液も同時に吸引させることにより、金属溶液と反応液の残液の反応によって生成された金属が閉塞抑制液によって速やかに溶解されるので、残液の反応によって生成した金属によって吸引用毛細管15が閉塞されるといったことを防止することが可能になる。従って、長時間に渡って、吸引用毛細管15をメンテナンスすることなく、連続して基板F上にナノワイヤを形成することが可能になる。
【0041】
なお、上述した本実施形態では、吐出開口11a,12a,13aのそれぞれの吐出量を同一にしているが、吐出させる金属溶液、反応液、閉塞抑制液の組成や濃度に合わせて、それぞれの吐出開口11a,12a,13aの吐出量を互いに異ならせることもできる。また、形成するナノワイヤの線径に応じて、これら吐出量や、マイクロノズル装置10の先端部分の移動量を任意に調整することができる。
【0042】
(他の実施形態)
上述した第1実施形態では、3本の吐出用毛細管と、1本の吸引用毛細管といった、最低限の本数の毛細管から構成されたマイクロノズル装置を示したが、用途に応じて、更に毛細管の本数を増加させることもできる。
例えば、
図3に示す他の実施形態のマイクロノズル装置30では、4本の吐出用毛細管31,32,33,34と、1本の吸引用毛細管35とを備えている。このうち、第1の吐出用毛細管31の吐出開口31aから金属溶液を吐出させ、第2の吐出用毛細管32の吐出開口32aから反応液を吐出させ、第3の吐出用毛細管33の吐出開口33aから閉塞抑制液を吐出させる。更に、第4の吐出用毛細管34の吐出開口34aから前処理液(触媒)を吐出させる。また、吸引用毛細管35の吸引開口35aから、吐出させた金属溶液や反応液の残液、前処理液の残液、および閉塞抑制液を吸引させる。
【0043】
この実施形態では、第4の吐出用毛細管34の吐出開口34aから前処理液を吐出させることによって、ナノワイヤの形成位置に予め形成する触媒の吸着を行う工程を省略し、ナノワイヤの形成時に、同時に基板上に触媒を形成することができる。これにより、ナノワイヤをより少ない工程で容易に形成することができる。なお、例えば銀ナノワイヤの形成では、前処理液(触媒)としては、塩化錫(SnCl2)の水溶液を用いることができる。
【0044】
また、
図4に示す他の実施形態のマイクロノズル装置40では、5本の吐出用毛細管41,42,43,44,45と、1本の吸引用毛細管46とを備えている。このうち、第1の吐出用毛細管41の吐出開口41aから金属溶液を吐出させ、第2の吐出用毛細管42の吐出開口42aから反応液を吐出させ、第3の吐出用毛細管43の吐出開口43aおよび第4の吐出用毛細管44の吐出開口44aから、それぞれ閉塞抑制液を吐出させる。更に、第5の吐出用毛細管45の吐出開口45aから前処理液(触媒)を吐出させる。また、吸引用毛細管46の吸引開口46aから、吐出させた金属溶液や反応液の残液、前処理液の残液、および閉塞抑制液を吸引させる。
【0045】
この実施形態では、第3の吐出用毛細管43と第4の吐出用毛細管44の2本の毛細管から閉塞抑制液を吐出させることによって、第1実施形態と比べて、金属溶液と反応液の残液の反応によって生成された金属を、より一層確実に閉塞抑制液によって溶解させ、吸引用毛細管46の閉塞を防止することができる。
【0046】
更に、
図5に示す他の実施形態のマイクロノズル装置50では、6本の吐出用毛細管51,52,53,54,55,56と、これらの中心に配された1本の吸引用毛細管57とを備えている。このうち、第1の吐出用毛細管51の吐出開口51aから金属溶液を吐出させ、第2の吐出用毛細管52の吐出開口52aから反応液を吐出させ、第3の吐出用毛細管53の吐出開口53aおよび第4の吐出用毛細管54の吐出開口54aから、それぞれ閉塞抑制液を吐出させる。更に、第5の吐出用毛細管55の吐出開口55aおよび第6の吐出用毛細管56の吐出開口56aから、それぞれ前処理液(触媒)を吐出させる。また、吸引用毛細管57の吸引開口57aから、吐出させた金属溶液や反応液の残液、前処理液の残液、および閉塞抑制液を吸引させる。
【0047】
この実施形態では、第5の吐出用毛細管55と第6の吐出用毛細管56の2本の毛細管から前処理液(触媒)を吐出させることによって、前処理液(触媒)の供給量を増加させることができる。また、この実施形態では、吸引開口57aの周囲に、吐出開口51a~16aが等間隔に配されるレイアウトとなるため、吐出されたそれぞれの液が中心に向かって均等に吸引されるので、ナノワイヤを歪みなく形成しやすくなる。
【0048】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0049】
本発明の効果を検証した。
図1、
図2に示した第1実施形態のマイクロノズル装置10(本発明例:CAMCPと称する)と、この第1実施形態のマイクロノズル装置10から、閉塞抑制液を吐出させる第3の吐出用毛細管13を除いたマイクロノズル装置(比較例:MCPと称する)を用いて、基板上に銀ナノワイヤを形成した。
・吐出開口1:アンモニア性硝酸銀水溶液 10μL/h
・吐出開口2:ブドウ糖およびホルムアルデヒドの混合水溶液 10μL/h
・吐出開口3(CAMCPのみ):希硝酸 10μL/h
・吸引開口:残液吸引 350μL/h
・基板上での移動速度:0.1μm/s
なお、吐出開口1、吐出開口2はそれぞれ基板に接し、吐出開口3と基板とのギャップは30μmに設定した。
【0050】
以上の条件で、CAMCPおよびMCPのそれぞれで、線径1.45μmに設定された銀ナノワイヤを基板上に連続して形成し、吸引開口の閉塞に起因する線径の変化を観察した。この線幅の変化を
図6に示す。また、MCPによる長時間のパターニングにおける銀ナノワイヤのSEM写真を
図7(a)に、また、CAMCPによる長時間のパターニングにおける銀ナノワイヤのSEM写真を
図7(b)に、それぞれ示す。
【0051】
図6に示す結果によれば、本発明のCAMCPでは、250min付近までは線径がほぼ一定であるのに対して、閉塞抑制液を用いないMCPでは、200min付近から線径が急激に広がっている。また、CAMCPでは、250minを超えても、線径の広がりは少ない。こうした比較は、
図7においても顕著に観察され、黒で示されるナノワイヤの線幅の経時変化が、CAMCPと比較してMCPでは急激に広がっていることが観察できる。こうした線幅の広がりは、吸引開口の閉塞による残液の吸引量の低下によるものと考えられる。
【0052】
こうした結果から、本実施形態のように、金属溶液、および反応液に加えて、更に閉塞抑制液を吐出させる構成にすることで、長時間に渡って、吸引開口を閉塞させることなく連続してナノワイヤを形成可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0053】
10…マイクロノズル装置
11…第1の吐出用毛細管
12…第2の吐出用毛細管
13…第3の吐出用毛細管
11a,12a,13a…吐出開口
15…吸引用毛細管
21,22,23…吐出ポンプ
25…吸引ポンプ