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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】液体噴出器
(51)【国際特許分類】
   B65D 47/34 20060101AFI20250407BHJP
【FI】
B65D47/34 110
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021109718
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006880
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】先曽 洋一
(72)【発明者】
【氏名】紀陸 芳夫
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-230316(JP,A)
【文献】特開2008-230617(JP,A)
【文献】特開平11-138062(JP,A)
【文献】特開2016-217218(JP,A)
【文献】特開2009-078255(JP,A)
【文献】特開2021-007904(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0167450(US,A1)
【文献】特開2011-110530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0237272(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 47/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容液が収容された容器本体の口部に取り付け可能なポンプと、前記ポンプを作動させる作動部材と、を有しており、
前記ポンプは、容器の口部の内側に配置可能なシリンダと、前記シリンダに形成された下側開口を開閉可能な棒状弁体と、前記棒状弁体が摺動可能に貫通しているガイド部材と、前記ガイド部材が貫通しているピストンと、前記作動部材の押し下げによって前記ピストンを押し下げ可能なステムと、を有しており、
前記シリンダ、前記棒状弁体、前記ガイド部材および前記ステムは、ポリブチレンテレフタレートを含む材料(ただし、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとポリブチレンテレフタレートのブロック共重合体を除く。)によって形成されており、
前記ピストンは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとポリブチレンテレフタレートのブロック共重合体によって形成されている、液体噴出器。
【請求項2】
前記ガイド部材と前記ピストンとによって、径方向外側に環状のシール部を形成する、請求項1に記載された液体噴出器。
【請求項3】
前記内容液は鉱物性油を含んでいる請求項1または2に記載された液体噴出器。
【請求項4】
前記鉱物性油はイソドデカン及び/又はイソヘキサデカンである、請求項3に記載された液体噴出器。
【請求項5】
前記内容液はアルコールを含んでおり、当該アルコールの濃度は、5%~40%の範囲である、請求項1~4のいずれか1項に記載された液体噴出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液体噴出器には、ポンプを円滑に作動させるために、ピストンの形状を工夫したものがある(例えば、特許文献1参照。)。また、他の従来の液体噴出器には、ピストンの膨潤に起因した当該ピストンの動作不良を解消するため、ピストンおよびシリンダの少なくとも一方をポリエステル結合とポリエーテル結合とを有する樹脂で形成したものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-230316号公報
【文献】特開平11-138062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明は、ピストンの形状が制限されてしまうため、使用範囲が限定されてしまう。また、上記特許文献2に記載された発明は、ピストンの形状に制限を受けないものの、ポンプのうちの一部の部材に対する対策であるため、ポンプ全体としての、膨潤に対する耐性(耐膨潤性)およびポンプの作動性という点では依然として改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、ポンプの構成部品の形状を変更することなく、ポンプ全体の耐膨潤性が向上するとともに当該ポンプの作動性が向上する液体噴出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液体噴出器は、内容液が収容された容器本体の口部に取り付け可能なポンプと、前記ポンプを作動させる作動部材と、を有しており、前記ポンプは、容器の口部の内側に配置可能なシリンダと、前記シリンダに形成された下側開口を開閉可能な棒状弁体と、前記棒状弁体が摺動可能に貫通しているガイド部材と、前記ガイド部材が貫通しているピストンと、前記作動部材の押し下げによって前記ピストンを押し下げ可能なステムと、を有しており、前記シリンダ、前記棒状弁体、前記ガイド部材および前記ステムは、ポリブチレンテレフタレートを含む材料によって形成されており、前記ピストンは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとポリブチレンテレフタレートのブロック共重合体によって形成されている。
【0007】
本発明に係る液体噴出器は、前記ガイド部材と前記ピストンとによって、径方向外側に環状のシール部を形成するものであることが好ましい。
【0008】
本発明に係る液体噴出器において、前記内容液は鉱物系油を含んでいることが好ましい。
【0009】
本発明に係る液体噴出器において、前記鉱物系油はイソドデカン及び/又はイソヘキサデカンであることが好ましい。
【0010】
前記内容液はアルコールを含んでおり、当該アルコールの濃度は、5%~40%の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポンプの構成部品の形状を変更することなく、ポンプ全体の耐膨潤性が向上するとともに当該ポンプの作動性が向上する液体噴出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る、液体噴出器を、容器本体とともに軸線を含む断面で示す断面図であり、図面左側には、作動部材を押圧する前の初期状態を示し、図面右側には、作動部材を押圧した噴出状態を示す。
図2図1の拡大図である。
図3】本発明の比較例に係る、液体噴出器の初期状態を、容器本体とともに軸線を含む断面で示す断面図である。
図4】本発明の他の比較例に係る、径方向内側に環状のシール部を形成した液体噴出器の要部を、軸線を含む断面で拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る、液体噴出器について説明をする。
【0014】
以下の説明において、軸線Oは、液体噴出器1の中心線である。本実施形態では、液体噴出器1の中心線は、容器本体の中心線および液体噴出容器の中心線と同軸である。
【0015】
また、以下の説明において、「上下方向」とは、軸線Оに沿って延びている方向をいう。例えば、「上」とは、液体噴出器1の作動部材の側(液体噴出容器の口部の側)を意味することを含む。また、例えば、「下」とは、液体噴出器1のシリンダの側(液体噴出容器の容器本体の底部の側)を意味することを含む。
【0016】
さらに、以下の説明において、軸線Oに延在する方向を軸線方向ともいい、軸線Oの周りに延在する方向を周方向ともいう。また、以下の説明において、軸線Oに対して直交する方向を径方向ともいう。
【0017】
図1には、液体噴出器1と、容器本体20とを有する液体噴出容器が開示されている。図1を参照すれば、液体噴出器1は、内容液(液体:粘度は問わない)が収容された容器本体20の口部21に取り付け可能なポンプ2と、ポンプ2を作動させる噴出ヘッド(作動部材)3と、を有している。ポンプ2は、容器本体20の口部21の内側に配置可能なシリンダ5と、シリンダ5の内部に配置されているとともに当該シリンダ5に形成された下側開口A1を開閉可能なポペットバルブ(棒状弁体)6と、シリンダ5の内部に配置されているとともにポペットバルブ6が摺動可能に貫通しているガイド部材8と、シリンダ5の内部に摺動可能に配置されているとともにガイド部材8が貫通しているピストン9と、噴出ヘッド3の押し下げによってピストン9を押し下げ可能なステム10と、を有している。シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8およびステム10は、ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」ともいう。)を含む材料によって形成されており、ピストン9は、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとPBTのブロック共重合体(以下、「PTMGブロック共重合PBT」ともいう。)を含む材料によって形成されている。
【0018】
本実施形態において、容器本体20は、いわゆるボトル容器である。容器本体20は、口部21に連なる肩部22を有しており、当該肩部22に連なる胴部(図示省略)の下端は、底部(図示省略)によって閉じられている。容器本体20の内側には、内容液を収容可能な収納空間Sが形成されている。収納空間Sには、液体の内容液を収容することができる。口部21の内側には、収納空間Sに通じる開口A20が形成されている。容器本体20は、例えば、合成樹脂を用いたブロー成形によって形成することができる。ただし、容器本体20の製造方法は、ブロー成形に限定されるものではなく、様々な方法によって製造することができる。
【0019】
本実施形態において、ポンプ2は、吸入パイプ4、シリンダ5、ポペットバルブ6、コイルスプリング7、ガイド部材8、ピストン9、ステム10および装着キャップ11を有している。
【0020】
本実施形態において、シリンダ5は、容器本体20の口部21に形成された開口A20に挿入させることができる。本実施形態において、シリンダ5は、上下方向に延びている。シリンダ5の下端部には、下端開口A1(以下、「シリンダ下端開口A1」ともいう。)が形成されている。本実施形態では、シリンダ5は、PBTによって形成されている。シリンダ下端開口A1には、吸入パイプ4が接続されている。本実施形態において、シリンダ5は、吸入パイプ4を通して容器本体20の収納空間Sに通じる。
【0021】
ポペットバルブ6は、シリンダ下側開口A1を開放可能に閉じている。ポペットバルブ6は、吸入パイプ4からシリンダ5への内容液の流入を許容する一方、シリンダ5からの吸入パイプ4への内容液の逆流を阻止する。図2を参照すれば、本実施形態では、ポペットバルブ6は、シリンダ下側開口A1を開閉するバルブ本体(以下、「ポペットバルブ本体」ともいう。)6aと、ポペットバルブ本体6aに連なるバルブシャフト(以下、「ポペットバルブシャフト」ともいう。)6bと、を有している。ポペットバルブ本体6aには、径方向外側に周方向に間隔を置いて配置された、複数のばね支持凸部6cが設けられている。本実施形態では、ポペットバルブ6は、PBTによって形成されている。
【0022】
コイルスプリング7は、シリンダ5の内部に配置されている。コイルスプリング7は、シリンダ5に対してガイド部材8を弾性的に支持している。本実施形態では、コイルスプリング7は、ポペットバルブ6のばね支持凸部6cと、後述するガイド部材8のフランジ8bとの間に介在している。これによって、ポペットバルブ6は、吸入パイプ4からの内容液をシリンダ5の内部に流入させるとき、コイルスプリング7の弾性力に抗してシリンダ下側開口A1を開く方向に動作し、シリンダ5の内部に流入した内容液が吸入パイプ4に逆流しようとするとき、コイルスプリング7の弾性力によってシリンダ下側開口A1を閉じる方向に動作する。コイルスプリング7は、例えば、ステンレス鋼などの金属によって形成することができる。
【0023】
ガイド部材8は、筒状部材である。本実施形態では、ガイド部材8の内部には、内部通路R3が形成されている。内部通路R3には、ポペットバルブシャフト6bが配置されている。本実施形態では、ガイド部材8は、摺動突起8aと、フランジ(以下、「ガイドフランジ」ともいう。)8bと、ガイドシャフト8cと、を有している。摺動突起8aは、ガイド部材8の下端部の内周面に形成されている。摺動突起8aは、ポペットバルブシャフト6bの外周面に対して上下方向に摺動させることができる。本実施形態では、複数の摺動突起8aが周方向に間隔を置いて配置されている。ガイドフランジ8bは、ガイド部材8の下端部の径方向外側に形成されている。本実施形態では、ガイドフランジ8bは、ガイド部材8をシリンダ5に対して上下方向に案内している。また、ガイドフランジ8bには、流通口A2が形成されている。流通口A2は、シリンダ下側開口A1をガイドフランジ8bよりも上側に配置されたピストン9の側に通じさせる。本実施形態では、複数の流通口A2が周方向に間隔を置いて配置されている。本実施形態では、ガイド部材8は、PBTによって形成されている。
【0024】
ピストン9もまた、筒状部材である。本実施形態では、ピストン9は、外筒9aと、内筒9bと、を有している。また、本実施形態では、ピストン9は、連結部9cを有している。連結部9cは、外筒9aと内筒9bとを、上下方向視で環状に連結している。本実施形態では、ピストン9は、PTMGブロック共重合PBTによって形成されている。
【0025】
本実施形態では、ピストン9の外筒9a(以下、「ピストン外筒9a」ともいう。)は、シリンダ5に対する摺動部である。ピストン外筒9aは、ピストン9をシリンダ5に対して上下方向に案内している。ピストン外筒9aの外周面は、シリンダ5の内周面に対して周方向に環状に接触している。これによって、シリンダ5とピストン9との間には、環状のシール部が形成されている。また、本実施形態では、ピストン9の内筒9b(以下、「ピストン内筒9b」ともいう。)の内部には、ガイド部材8のガイドシャフト8cが貫通している。本実施形態では、ガイドシャフト8cは、ピストン内筒9bの内周面よりも径方向内側に間隔を置いて配置されている。これによって、本実施形態では、ガイドシャフト8cとピストン内筒9bとの間には、上下方向視で、環状に形成された内部通路R2が形成されている。また、本実施形態では、ガイド部材8のガイドシャフト8cには、連通穴A8が形成されている。連通穴A8は、ガイドシャフト8cを貫通している。連通穴A8は、ガイド部材8とピストン9との間に形成された内部通路R2と、ガイド部材8に形成された内部通路R3とを連通させている。
【0026】
さらに、本実施形態では、ガイド部材8とピストン9とは、流通口A2と内部通路R2との間を開閉する開閉弁を形成している。前記開閉弁は、流通口A2から内部通路R2への内容液の流入を許容する一方、内部通路R2から流通口A2への内容液の逆流を阻止する。本実施形態では、ピストン9は、前記開閉弁の弁体に相当し、ガイド部材8は、前記開閉弁の弁座に相当する。具体的には、ピストン内筒9bが弁本体に相当し、ガイドフランジ8bの上面に形成された着座部8dが弁座に相当する。詳細には、着座部8dは、ガイドフランジ8bの上面から上側に突出している筒状の着座部である。ピストン内筒9bの下端部9b1は、着座部8dに対して接触および離間させることができる。本実施形態では、図2の図面左側に示すように、ピストン内筒9bの下端部9b1の外周面は、着座部8dの内周面に対して周方向に環状に接触させることができる。これによって、ピストン9とガイド部材8の間には、環状のシール部を形成することができる。本実施形態では、ピストン9とガイド部材8によって、径方向外側に環状のシール部を形成されている。本実施形態では、ピストン9がガイド部材8に対して下側に移動するとき、図2の図面左側に示すように、ピストン内筒9bの下端部9b1の外周面がガイドフランジ8bの着座部8dの内周面に接触する。これによって、流通口A2と内部通路R2との間の、内容液の流通を遮断することができる。また、本実施形態では、ピストン9がガイド部材8に対して上側に移動するとき、図2の図面右側に示すように、ピストン内筒9bの下端部9b1の外周面がガイドフランジ8bの着座部8dの内周面から離間する。これによって、通口A2と内部通路R2との間の、内容液の流通を可能とすることができる。
【0027】
ステム10もまた、筒状部材である。本実施形態では、ステム10は、ステム本体10aと、ステム本体10aに連なる拡大部10bと、を有している。ステム10の拡大部10b(以下、「ステム拡大部10b」ともいう。)は、ステム10の下端部を形成し、ステム本体10aは、ステム10の上端部を形成している。本実施形態では、ステム本体10aの内部には、内部通路R4が形成されている。ステム本体10aの下端部には、ガイド部材8の上端部(ガイドシャフト8cの上端部)が固定されている。これによって、ガイド部材8に形成された内部通路R3と、ステム10に形成された内部通路R4とを、連通させることができる。本実施形態では、ステム本体10aの内周面には、上下方向に延びるリブ10cが形成されている。本実施形態では、複数のリブ10cは、周方向に間隔を置いて配置されている。
【0028】
また、ステム拡大部10bは、ピストン9を上下方向に摺動可能に保持している。本実施形態では、ステム拡大部10bの内周面は、ステム本体10aの内周面(内部通路R4)よりも径方向外側に位置している。これによって、ガイド部材8のガイドシャフト8cと、ステム拡大部10bとの間には、ピストン内筒9bを配置することができる。本実施形態では、ピストン内筒9bは、ステム拡大部10bに対する摺動部である。ピストン内筒9bは、ピストン9をステム10に対して上下方向に案内している。ピストン内筒9bの上端部9a2の外周面は、ステム拡大部10bの内周面に対して周方向に環状に接触している。これによって、ピストン9とステム10の間には、環状のシール部が形成されている。
【0029】
図1を参照すれば、装着キャップ11は、シリンダ5の上端部に固定されている。装着キャップ11は、シリンダ5の上側開口を覆っている。装着キャップ11は、ポンプ2のポンプカバーとして機能する。装着キャップ11は、容器本体20の口部21に装着される装着部11aを有している。本実施形態において、装着キャップ11は、装着部11aを容器本体20の口部21にねじ付けることによって装着されている。本実施形態では、装着キャップ11は、環状のシール部材12を介して容器本体20の口部21の上端に接触している。また、装着キャップ11は、ガイド筒11bを有している。ガイド筒11bは、上下方向に延びているとともに装着部11aに連なっている。ガイド筒11bの内部には、上下方向に延びている貫通穴A11が形成されている。ステム10のステム本体10aは、貫通穴A11を貫通している。これによって、ステム10の上端部は、貫通穴A11を通して装着キャップ11よりも上側に突出している。
【0030】
噴出ヘッド3には、内容液を噴出させる噴出口A3が形成されている。噴出ヘッド3は、下向きに押圧可能な天壁3aと、天壁3aから垂下しており噴出口A3に通じる内部通路R6が形成されているととともにステム10に接続可能な接続筒3bと、天壁3aから垂下しており接続筒3bを取り囲むとともにガイド筒11bを取り囲むカバー筒3cとを有している。
【0031】
本実施形態において、天壁3aは、板状の天壁である。本実施形態において、天壁3aは、上下方向視で、円形をしている。ただし、天壁3aの上下方向視における形状は、使用者が噴出ヘッド3を押し下げることができる形状であれば、特に円形に限定されるものではない。また、接続筒3bは、天壁3aから下向きに延びている。接続筒3bの内部には、内部通路R5が形成されている。内部通路R5は、内部通路R6に通じている。さらに、接続筒3bの下端部には、ステム10の上端部(ステム本体10aの上端部)が固定されている。これによって、噴出ヘッド3の噴出口A3は、内部通路R5および内部通路R6を介してステム10に形成された内部通路R4に通じている。本実施形態において、内部通路R6は、ノズル3dの内部に形成されている。ノズル3dは、カバー筒3cよりも軸直方向外側に突出している。ただし、本発明によれば、ノズル3dは、省略することができる。この場合、噴出口A3は、カバー筒3cに形成される。
【0032】
液体噴出器1は、ポンプ2を駆動させることによって、容器本体20の内容液を外界に噴出させることができる。ポンプ2は、例えば、以下のように噴出ヘッド3を操作することによって駆動させることができる。
【0033】
ポンプ2は、噴出ヘッド3の押下げおよび当該噴出ヘッド3の押下げの解除を繰り返すことによって動作させる。ポンプ2が初期状態にあるとき、図1の図面左側に示すように、ポペットバルブ6は、シリンダ下端開口A1を開いている。また、ポンプ2が初期状態にあるとき、ピストン内筒9bの下端部9b1は、図1の図面左側に示すように、ガイド部材8の着座部8dに接触している。
【0034】
本実施形態では、噴出ヘッド3の押下げおよび当該噴出ヘッド3の押下げの解除を繰り返すと、容器本体20の内容液は、シリンダ下端開口A1からシリンダ5に導入される。シリンダ5に導入された内容液は、ガイド部材8の流通口A2を通って、図1の図面右側に示すように、ピストン9を上側に押し上げて、ガイド部材8とピストン9との間の内部通路R2を流入する。内部通路R2に流入した内容液は、ガイド部材8に形成された連通穴A8を通して、ガイド部材8に形成された内部通路R3に導入される。内部通路R3に導入された内容液は、ステム10に形成された内部通路R4を介して、噴出ヘッド3の内部通路R5に導入される。内部通路R5に導入された内容液は、噴出ヘッド3の内部通路R6を通して噴出口A3から外界に噴出させることができる。
【0035】
上記のとおり、液体噴出器1のポンプ2において、シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8、ピストン9およびステム10は、直接的に、内容液に触れるとともに、ポンプ2の動作に大きく寄与する。これらの部材が内容液を吸収して膨潤した場合、例えば、当該部材の摺動性およびシール性を低下させることがある。したがって、これらの部材が内容液を吸収して膨潤すると、ポンプ2の作動性に大きな影響を与える。ポンプ2の作動性としては、例えば、噴出口A3からの吐出量、噴出ヘッド3を押し下げた後の当該噴出ヘッド3の復元性などが挙げられる。特に、これらの部材が樹脂によって形成されている場合、内容液が鉱物系油(ミネラルオイル)を含んでいると、ポンプ2の作動性が低下してしまうことがある。
【0036】
一方、PBT(ポリブチレンテレフタレート)は、耐油性に優れている。そこで、シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8、ピストン9およびステム10のそれぞれを、PBTによって形成すれば、内容液に対する耐油性が向上する。
【0037】
ところが、上記の全ての部材にPBTを使用した場合、耐油性は向上するものの、結果的に、ポンプ2の作動性に影響を与えることがあった。そこで、本願発明者は、鋭意試験研究の結果、この原因は、上記の全ての部材にPBTを使用した場合、摺動部分に大きな抵抗が生じてしまうことを認識するに至った。そしてさらに、本願発明者は、この抵抗の軽減には、摺動部分の材質を同じにしないことが有効であることを見出した。またピストン9としては、シール性も必要となることから柔軟性を兼ね備えている材質である必要があり、例えば、曲げ弾性率が1000MPa以下の柔軟性を有するものが適している。通常のポンプでは、ピストン9の材料として低密度ポリエチレン(LDPE、曲げ弾性率100~700MPa)が使用されている。そこで、曲げ弾性率が上記の条件を満たすものとして、LDPEを使用したところ、イソドデカン濃度が10%以上の内容液には使用できないことが明らかとなった。
【0038】
そこで、液体噴出器1では、シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8およびステム10をPBTによって形成するとともに、ピストン9を、PTMGブロック共重合PBTによって形成した。これによって、液体噴出器1では、シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8、ピストン9およびステム10の全ての耐油性(耐膨潤性)を向上させることができた。したがって、液体噴出器1によれば、これらの部材が膨潤することによって生じ得る、ポンプ2の作動性の低下を抑制することができた。また、液体噴出器1では、ピストン9をPTMGブロック共重合PBTによって形成したことにより、当該ピストン9に柔軟性を持たせることができた。これによって、液体噴出器1では、ピストン9の摺動性とともにシリンダ5およびガイド部材8に対するシール性を向上させることができた。
【0039】
このように、液体噴出器1によれば、ポンプ全体の耐膨潤性が向上するとともに当該ポンプの作動性が向上する。また、液体噴出器1によれば、ポンプ2の構成部品(シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8、ピストン9およびステム10)の形状は何ら変更していない。したがって、液体噴出器1によれば、ポンプの構成部品の形状を変更することなく、ポンプ2全体の耐膨潤性が向上するとともに当該ポンプ2の作動性が向上する。
【0040】
シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8およびステム10に使用されるPBTとしては、例えば、「ポリプラスチックス社製 ジュラネックス2000」が挙げられる。また、ピストン9に使用されるPTMGブロック共重合PBTとしては、例えば、「三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン5505s」(曲げ弾性率900MPa)が挙げられる。
【0041】
本実施形態では、図2に示すように、ガイド部材8とピストン9とによって、径方向外側に環状のシール部を形成する。図2等を参照すれば、ガイド部材8とピストン9との間には、内部通路R2が形成されている。この場合、ピストン9が膨潤すると、ガイド部材8とピストン9との間のシール性だけでなく、内部通路R2の流通に支障をきたすことが考えられる。したがって、本実施形態のように、ピストン9がガイド部材8に対して径方向外側に環状のシール部を形成する構成の場合、本発明を適用すれば、ポンプ2の作動性の向上に有効である。
【0042】
また、液体噴出器1は、化粧料などの内容液を噴出させることができる。例えば、化粧料には、鉱物系油を含むものがある。PBTは、上述のとおり、耐油性に優れている。例えば、液体噴出器1は、内容液として、鉱物系油の濃度が当該内容液に対して10%~80%の範囲であるものに適用することが有効である。この場合、ポンプ2の作動性の向上にさらに有効である。
【0043】
また、内容液に含まれる鉱物系油としては、例えば、イソドデカン及び/又はイソヘキサデカン、詳細には、イソドデカン、イソヘキサデカンもしくはイソドデカンおよびイソヘキサデカンの混合物、即ち、イソドデカン及びイソヘキサデカンのうちの少なくともいずれか1つ、または、その他の鉱物系油が挙げられる。PBTは、特に、イソドデカン、イソヘキサデカンに対して耐油性(耐膨潤性)に優れている。したがって、この場合、この場合、ポンプ2の耐膨潤性がより向上するとともに当該ポンプ2の作動性の低下は見られない。イソドデカンは、例えば、化粧料に含まれている。液体噴出器1に使用される内容液がイソドデカン、イソヘキサデカンを含む場合、液体噴出器1は、化粧料噴出器として使用することができる。
【0044】
ところで、PTMGブロック共重合PBTは、柔軟性を有するものの、アルコールに対する耐性が低い。そのため、内容液にアルコールが含まれる場合、液体噴出器1に使用される内容液は、アルコール濃度を適切に選択されることが好ましい。液体噴出器1では、内容液として、アルコールの濃度が前記内容液に対して5%~40%の範囲であるものを使用する。この場合、膨潤率を1%以下に抑えることができる。したがって、この場合、アルコールの影響を抑えつつ、ポンプ2の耐膨潤性が向上するとともに当該ポンプ2の作動性は低下しない。
【0045】
ところで、本発明によれば、ガイド部材8とピストン9とによって、当該ピストン9の径方向内側に環状のシール部を形成すると作動不良を起こし使用できない。図3には、本発明との比較例である液体噴出器を示す。この比較例では、図3の拡大図に示すように、ピストン内筒9bの下端部9b1の内周面は、着座部8dの外周面に対して周方向に環状に接触している。即ち、この比較例の場合、ピストン9の内周面でガイド部材8をシールしている。しかしながら、この比較例では、ピストン9が膨潤したとき、適切なシールを行えない場合がある。また、図4には、本発明との他の比較例である、液体噴出器の要部拡大図を示す。図4の比較例では、ピストン9の連結部9cの下端部9b1の内周面が、図3における、ピストン内筒9bの下端部9b1の内周面に相当している。また、図4の比較例では、ガイドシャフト8cよりも径方向外側のガイドフランジ8bの上面を平滑な形状とし、当該平滑な上面が、図3における着座部8dに相当している。即ち、この比較例の場合も、ピストンの内周面でガイド部材8をシールしている。しかしながら、この比較例も、ピストン9が膨潤したとき、適切なシールを行えない場合がある。即ち、ガイド部材8とピストン9とによって、当該ピストン9の径方向内側に環状のシール部を形成する場合はいずれも、ピストン9が膨潤したとき、適切なシールを行えない場合がある。これに対し、本実施形態に係る液体噴出器1は、ピストンの外周面でガイド部材8をシールしている。本実施形態に係る液体噴出器1のように、ガイド部材8とピストン9とによって、当該ピストン9の径方向外側に環状のシール部を形成した場合、ピストン9が仮に膨潤したときも、適切なシールを行うことができる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態に係る、液体泡噴出容器について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で、様々に変更することができる。例えば、ポンプ2は、シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8、ピストン9およびステム10を有するものであれば、これらの内部配置は様々に変更することができる。また、シリンダ5、ポペットバルブ6、ガイド部材8、ピストン9およびステム10などの、ポンプ2の構成部品の形状も、様々に変更することができる。さらに、内容液は、鉱物系油、特に、イソドデカン、イソヘキサデカンまたはアルコールを含むものが好ましいが、これらのいずれかを含むものに限定されるものではない。
【0047】
以下、液体噴出器1のガイド部材8及びピストン9のそれぞれを、所定の液体に2日間放置したのち、液体噴出器1に組み付けて、ポンプ2の作動性を試験した結果を示す。この試験では、ピストン9には、PTMGブロック共重合PBTとして、「三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン5505s」(曲げ弾性率900MPa)を使用した。また、ガイド部材8には、PBTとして、「ポリプラスチックス社製 ジュラネックス2000」を使用した。また、以下の表中、○は、ポンプ2の作動性が良好であることを示し、×は、ポンプ2の作動性が良好ではないことを示す。ポンプ2の作動性の評価は、例えば、噴出口A3からの液体の吐出量、噴出ヘッド3を押し下げた後の当該噴出ヘッド3の復元性などで行った。したがって、ポンプ2の作動性が良好であるということは、ポンプ2の内部でのシール性も向上していることをも意味している。
【実施例1】
【0048】
この試験では、ピストン9のみを、所定の試料に2日間放置したのち、液体噴出器1に組み付けて、ポンプ2の作動性を試験した。所定の試料には、イソドデカン濃度が80%の液体を使用した。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、ピストン9に、PTMGブロック共重合PBTを使用した場合、試料のイソドデカン濃度が80%の範囲のときには、膨潤率は、1%以下に抑えられた。また、ポンプ2の作動性も良好であった。
【実施例2】
【0051】
この試験もまた、ピストン9のみを、所定の試料に2日間放置したのち、液体噴出器1に組み付けて、ポンプ2の作動性を試験した。所定の試料には、エタノールを水で希釈した試料を使用した。6つの試験の結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示すように、ピストン9に、PTMGブロック共重合PBTを使用した場合、試料のエタノール濃度が、5%~40%の範囲のときには、それぞれ、膨潤率は、1%以下に抑えられた。また、ポンプ2の作動性も良好であった。一方、エタノール濃度が、50%のときには、膨潤率は、1%を超え、ポンプ2の作動性も良好ではなかった。したがって、内容物にアルコールが含まれる場合には、当該アルコールの濃度は、5%~40%の範囲であることが好ましいと考えられる。なお、イソドデカンをエタノール希釈した場合、この試験のように、エタノールのみで試験したときと同等の結果となった。
【実施例3】
【0054】
この試験は、ガイド部材8のみを、所定の試料に2日間放置したのち、液体噴出器1に組み付けて、ポンプ2の作動性を試験した。試料には、イソドデカンをエタノールで希釈した試料を使用した。4つの試験の結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示すように、ガイド部材8に、PBTを使用した場合、試料のイソドデカン濃度が、10%~80%の範囲のときには、それぞれ、膨潤率は、1%以下に抑えられた。また、ポンプ2の作動性も良好であった。したがって、内容物にイソドデカンが含まれる場合には、どのような濃度においても作動性の低下は見られない。
【符号の説明】
【0057】
1:液体噴出容器, 2:ポンプ, 3:噴出ヘッド, 4:吸入パイプ, 5:シリンダ, 6:ポペットバルブ(棒状弁体), 7:コイルスプリング, 8:ガイド部材, 8a;摺動突起, 8b;フランジ, 8c;ガイドシャフト, 9:ピストン, 9a;外筒, 9b;内筒, 9b1;下端部, 9b2;上端部, 9c;連結部, 10:ステム, 11:装着キャップ, 12:シール部材, 20:容器本体, 21:口部
図1
図2
図3
図4