(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】耐熱性シリコーンオイル組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20250407BHJP
C08L 83/10 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
C08L83/04
C08L83/10
(21)【出願番号】P 2022081239
(22)【出願日】2022-05-18
【審査請求日】2024-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将史
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/215134(WO,A1)
【文献】特表2009-528396(JP,A)
【文献】国際公開第2020/138189(WO,A1)
【文献】LU, Zhou, et al.,Synthesis of oligo(dimethylsiloxane)-oligothiophene alternate polymers from α,ω-dibromooligo(dimethylsiloxane),Journal of Organometallic Chemistry,731, 2013,p73-77
【文献】LU, Zhou, et al.,Palladium-catalyzed formation and reactions of iodo- and bromosiloxane intermediates,Journal of Organometallic Chemistry,697, 2012,p51-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)JIS Z8803:2011に記載の方法でキャノン-フェンスケ粘度計により測定した25℃における動粘度が、50~5,000mm
2/sであるオルガノポリシロキサン:100質量部、及び、
(B)下記式(1)で表される構造を含む、(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマー:10~100質量部
【化1】
[式中、R
1は互いに独立に、水素原子、又は炭素数1~10の炭化水素基であり、R
2は互いに独立に、炭素数1~10の炭化水素基であり、aは1~3、bは2~200、cは1~40の数である。]
を含む耐熱性シリコーンオイル組成物。
【請求項2】
(A)成分がジメチルポリシロキサンである請求項1に記載の耐熱性シリコーンオイル組成物。
【請求項3】
(B)成分が下記式(2)
【化2】
[式中、R
1は互いに独立に、水素原子、又は炭素数1~10の炭化水素基であり、R
2は互いに独立に、炭素数1~10の炭化水素基であり、aは各々独立に1~3、bは2~200、cは1~40の数である。]
で表される(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマーである請求項1又は2に記載の耐熱性シリコーンオイル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性シリコーンオイル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンオイルは潤滑油や作動油といった用途に用いられてきた。特に、耐熱性の必要な用途では、フェニル基や2-フェニルプロピル基などを有するフェニルシリコーンオイルを用いることが多い。しかし、これらのフェニルシリコーンオイルでも耐熱性は十分ではなく、熱分解時に芳香族炭化水素を発生することから、性能面でも安全面でも問題がある。
【0003】
また、シリコーンオイルに種々の耐熱性向上剤を配合する方法も検討されてきた。金属石鹸や芳香族アミンといった炭化水素系の潤滑油に用いられている耐熱性向上剤もシリコーンオイルに用いられている。しかし、これらの耐熱性向上剤は、シリコーンオイルへの相溶性が不十分なうえに、耐熱性の向上効果も満足するものではなかった。
【0004】
特許文献1ではフラーレンをシリコーンオイルに配合することで、耐熱性を向上する試みが開示されている。しかし、フラーレンは固体であり、シリコーンオイルとの相溶性の点で十分とはいえず、長期保管時の分離、沈降などの問題がある。
【0005】
以上のことから、長期保管時においても分離、沈降などを起こすことがなく、耐熱性に優れたシリコーンオイル組成物の開発が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、長期保管時においても分離、沈降などを起こすことがなく、耐熱性に優れたシリコーンオイル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シリコーンオイルと、耐熱性を有する(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマーとを含むシリコーンオイル組成物が、長期保管時においても分離、沈降などを起こすことがなく、耐熱性に優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、下記の耐熱性シリコーンオイル組成物を提供する。
【0010】
[1]
(A)JIS Z8803:2011に記載の方法でキャノン-フェンスケ粘度計により測定した25℃における動粘度が、50~5,000mm
2/sであるオルガノポリシロキサン:100質量部、及び、
(B)下記式(1)で表される構造を含む、(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマー:10~100質量部
【化1】
[式中、R
1は互いに独立に、水素原子、又は炭素数1~10の炭化水素基であり、R
2は互いに独立に、炭素数1~10の炭化水素基であり、aは1~3、bは2~200、cは1~40の数である。]
を含む耐熱性シリコーンオイル組成物。
[2]
(A)成分がジメチルポリシロキサンである[1]に記載の耐熱性シリコーンオイル組成物。
[3]
(B)成分が下記式(2)
【化2】
[式中、R
1は互いに独立に、水素原子、又は炭素数1~10の炭化水素基であり、R
2は互いに独立に、炭素数1~10の炭化水素基であり、aは各々独立に1~3、bは2~200、cは1~40の数である。]
で表される(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマーである[1]又は[1]に記載の耐熱性シリコーンオイル組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期保管時においても分離、沈降などを起こすことがなく、300℃以上の高温下でも耐熱性に優れたシリコーンオイル組成物を提供することができる。本発明のシリコーンオイル組成物は、熱媒体、離型剤、樹脂改質剤などの用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
[(A)オルガノポリシロキサン]
本発明の(A)成分であるオルガノポリシロキサンは、JIS Z8803:2011に記載の方法でキャノン-フェンスケ粘度計により測定した25℃における動粘度が、50~5,000mm2/sであることを特徴とし、好ましくは、100~1,000mm2/sであり、より好ましくは、100~500mm2/sである。動粘度が50mm2/s未満であると、(A)成分そのものが高温下で揮発しやすくなったり、シリコーンオイルとしての所望の特性が得られなかったりする場合がある。また、動粘度が5,000mm2/sを超えると、後述する(B)成分との相溶性が悪くなったり、取り扱い性が悪くなったりする場合がある。
【0014】
オルガノポリシロキサンの分子構造としては、直鎖状でも分子鎖の一部が分岐したものでもよいが、下記式(3)で示される直鎖状オルガノポリシロキサンが好ましい。
【化3】
(式中、Rは独立して、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、nは30~700の数である。)
【0015】
ここで、Rは独立して、炭素数1~10、好ましくは1~6のアルキル基、炭素数6~10、好ましくは6~8のアリール基、及び炭素数7~10、好ましくは7~8のアラルキル基から選ばれる基である。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。アリール基の例としては、フェニル基、及びトリル基等が挙げられる。アラルキル基の例としては、ベンジル基、2-フェニルプロピル基等が挙げられる。中でも、アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。Rは同じでも異なっていてもよいが、全R中の90%以上がメチル基であることが好ましく、全てのRがメチル基であることがより好ましい。
【0016】
また、本発明の(A)成分は高温下での揮発成分の低減を目的として、環状シロキサンをはじめとする低分子シロキサンの含有量を低減したものを用いてもよい。具体的には、ケイ素原子数3~20個のシクロポリシロキサン(D3-D20)の総量が、3,000ppm以下であることが好ましく、100~2,000ppmであることがより好ましい。この範囲内であれば、周辺環境の汚染や、電気接点障害などのトラブルの発生を抑えることができる。
【0017】
[(B)(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマー]
本発明の(B)成分である(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマーは、下記式(1)で表される構造を含むものであり、好ましくは、下記式(2)で表される(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマーである。この(B)成分は本発明の耐熱性シリコーンオイル組成物に耐熱性を付与する成分である。
【化4】
【0018】
式(1)及び(2)中、R1は互いに独立に、水素原子、又は炭素数1~10の炭化水素基である。炭素数1~10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、及びトリル基等のアリール基;ビニル基、及びアリル基等のアルケニル基等が挙げられる。中でも、水素原子、アルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0019】
式(1)及び(2)中、R2は互いに独立に、炭素数1~10の炭化水素基である。炭素数1~10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、及びトリル基等のアリール基;ビニル基、及びアリル基等のアルケニル基等が挙げられる。中でも、アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0020】
式(1)及び(2)中、aは互いに独立に1~3、好ましくは1~2の数であり、より好ましくは1である。式(1)及び(2)中、bは2~200、好ましくは4~200、より好ましくは4~100の数である。式(1)及び(2)中、cは1~40、好ましくは1~30、より好ましくは1~20の数である。この範囲内であれば、(A)成分のオルガノポリシロキサンとの相溶性に優れ、本発明の組成物が耐熱性に優れたものとなる。
【0021】
本発明において、(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサン単位(式(1)及び(2))の結合様式は、直鎖状か、環状である。
【0022】
また、本発明の(B)成分は高温下での揮発成分の低減を目的として、環状シロキサンをはじめとする低分子シロキサンの含有量を低減したものを用いてもよい。具体的には、ケイ素原子数3~20個のシクロポリシロキサン(D3-D20)の総量が、3,000ppm以下であることが好ましく、100~2,000ppmであることがより好ましい。この範囲内であれば、周辺環境の汚染や、電気接点障害などのトラブルの発生を抑えることができる。
【0023】
(B)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、10~100質量部であり、15~50質量部であることが好ましい。10質量部未満では、本発明の組成物に耐熱性を十分に付与することができず、また、100質量部を超えると、(A)成分との相溶性が悪くなったり、(A)成分のシリコーンオイル固有の特性を損なったりするおそれがある。
なお、本発明の組成物中の(A)成分と(B)成分の含有量の合計は、90~100%が好ましく、95~100%がより好ましく、98~100%が更に好ましい。
【0024】
[その他の成分]
本発明の耐熱性シリコーンオイル組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記(A)成分及び(B)成分以外の成分を添加してもよい。上記(A)成分及び(B)成分以外の成分としては、例えば、金属石鹸や芳香族アミン等の耐熱性向上剤が挙げられる。
【0025】
[耐熱性シリコーンオイル組成物の製造方法]
本発明の耐熱性シリコーンオイル組成物の製造方法としては、液状物質の混合方法として公知の手段を利用することができる。特に、本発明の(B)成分は(A)成分のオルガノポリシロキサンとの相溶性に優れるため、室温(25℃)下で単純混合するだけでも均一な組成物が得られる。
(A)成分及び(B)成分以外の成分を本発明の組成物に添加する場合は、該成分を公知の手法でシリコーンオイル中に予め分散させたものを室温(25℃)下で単純混合することが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されない。
【0027】
オルガノポリシロキサンの動粘度は、JIS Z8803:2011に記載の方法でキャノン-フェンスケ粘度計により測定した25℃における値である。
【0028】
本発明のシリコーンオイル組成物について、『空気雰囲気下、300℃で6時間の条件での加熱後のシリコーンオイル組成物の重量減少率が10%以下で、外観が油状を保っていて分離、沈降などの現象が見られない』という基準を満たすものを耐熱性あり、当該基準を満たさないものを耐熱性なしとして評価した。
【0029】
実施例1
25℃での動粘度が100mm
2/sのジメチルポリシロキサン100質量部に対し、下記式(4)で表される(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマー18質量部を添加し、室温(25℃)で15分撹拌した。得られたシリコーン組成物を空気雰囲気下、300℃のオーブンに入れて6時間加熱した結果、重量減少率は8.2%であった。加熱試験後、上記組成物は油状を保っており、分離、沈降などは起きていなかった。実施例1のシリコーン組成物は耐熱性を有していた。
【化5】
【0030】
実施例2
25℃での動粘度が100mm2/sのジメチルポリシロキサン100質量部に対し、上記式(4)で表される(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマー33質量部を添加し、室温(25℃)で15分撹拌した。得られたシリコーン組成物を空気雰囲気下、300℃のオーブンに入れて6時間加熱した結果、重量減少率は6.8%であった。加熱試験後、上記組成物は油状を保っており、分離、沈降などは起きていなかった。実施例2のシリコーン組成物は耐熱性を有していた。
【0031】
実施例3
25℃での動粘度が2,000mm2/sのジメチルポリシロキサン100質量部に対し、上記式(4)で表される(ポリ)チオフェン-(ポリ)シロキサンブロックコポリマー18質量部を添加し、室温(25℃)で15分撹拌した。得られたシリコーン組成物を空気雰囲気下、300℃のオーブンに入れて6時間加熱した結果、重量減少率は4.0%であった。加熱試験後、上記組成物は油状を保っており、分離、沈降などは起きていなかった。実施例3のシリコーン組成物は耐熱性を有していた。
【0032】
比較例1
25℃での動粘度が100mm2/sのジメチルポリシロキサンを空気雰囲気下、300℃のオーブンに入れて6時間加熱した結果、重量減少率は29.5%であった。加熱試験後、上記組成物は流動性が消失しゲル状に変化していた。比較例1のジメチルポリシロキサンは耐熱性を有していなかった。
【0033】
比較例2
25℃での動粘度が2,000mm2/sのジメチルポリシロキサンを空気雰囲気下、300℃のオーブンに入れて6時間加熱した結果、重量減少率は17.5%であった。加熱試験後、上記組成物は流動性が消失しゲル状に変化していた。比較例2のジメチルポリシロキサンは耐熱性を有していなかった。