(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 5/06 20060101AFI20250407BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20250407BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20250407BHJP
C08L 11/00 20060101ALI20250407BHJP
C08L 19/00 20060101ALI20250407BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
F16G5/06 C
C08K7/02
C08L1/00
C08L11/00
C08L19/00
F16G5/06 A
F16G5/20 B
(21)【出願番号】P 2020179939
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-08-21
【審判番号】
【審判請求日】2024-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀之
(72)【発明者】
【氏名】土井 育人
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】内田 博之
【審判官】中屋 裕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/045255(WO,A1)
【文献】特開2016-211589号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
V側面の動力伝達部がゴム組成物で形成された伝動ベルトであって、
前記ゴム組成物は、ベルト幅方向において、100℃の温度下で、0.25MPaと0.5MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
Lが214MPa以下であり、且つ100℃の温度下で、1.0MPaと2.0MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
Hが231MPa以上である伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
Hの前記圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
Lに対する比が1.1以上1.28以下である伝動ベルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物がゴム成分を含有する伝動ベルト。
【請求項4】
請求項3に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム成分がクロロプレンゴムを含む伝動ベルト。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物がセルロース系微細繊維を含有する伝動ベルト。
【請求項6】
請求項5に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記セルロース系微細繊維の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上10質量部以下である伝動ベルト。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物が短繊維を含有する伝動ベルト。
【請求項8】
請求項7に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記短繊維の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して20質量部以上40質量部以下である伝動ベルト。
【請求項9】
請求項7又は8に記載された伝動ベルトにおいて、
前記短繊維がパラ系アラミド短繊維を含む伝動ベルト。
【請求項10】
請求項9に記載された伝動ベルトにおいて、
前記短繊維が前記パラ系アラミド短繊維であるコポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド短繊維を含む伝動ベルト。
【請求項11】
請求項3乃至10のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物がセルロース系微細繊維及び短繊維を含有し、
前記ゴム組成物における前記短繊維の含有量が前記セルロース系微細繊維の含有量よりも多い伝動ベルト。
【請求項12】
請求項11に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記短繊維の含有量の前記セルロース系微細繊維の含有量に対する質量比が7以上17以下である伝動ベルト。
【請求項13】
請求項3乃至12のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物がカーボンブラックを含有する伝動ベルト。
【請求項14】
請求項13に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上70質量部以下である伝動ベルト。
【請求項15】
請求項3乃至14のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物がセルロース系微細繊維及びカーボンブラックを含有し、
前記ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量が前記セルロース系微細繊維の含有量よりも多い伝動ベルト。
【請求項16】
請求項15に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量の前記セルロース系微細繊維の含有量に対する質量比が10以上30以下である伝動ベルト。
【請求項17】
請求項3乃至16のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物がカーボンブラック及び短繊維を含有し、
前記ゴム組成物における前記短繊維の含有量が前記カーボンブラックの含有量よりも少ない伝動ベルト。
【請求項18】
請求項17に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記短繊維の含有量の前記カーボンブラックの含有量に対する質量比が0.35以上
0.75以下である伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
V側面がゴム組成物で形成された伝動ベルトは公知である。例えば、特許文献1には、V側面が、ゴム成分にセルロースナノファイバ及びカーボンブラックが分散したゴム組成物で形成された伝動ベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、伝動能力が高く且つ変速応答性が優れる伝動ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、V側面の動力伝達部がゴム組成物で形成された伝動ベルトであって、前記ゴム組成物は、ベルト幅方向において、100℃の温度下で、0.25MPaと0.5MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Lが214MPa以下であり、且つ100℃の温度下で、1.0MPaと2.0MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Hが231MPa以上である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、V側面の動力伝達部を形成するゴム組成物の圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Lが214MPa以下であり、且つ圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Hが231MPa以上であることにより、高い伝動能力とともに、優れた変速応答性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】実施形態に係るダブルコグドVベルトの一片の斜視図である。
【
図1B】実施形態に係るダブルコグドVベルトのベルト幅方向に沿った断面図である。
【
図1C】実施形態に係るダブルコグドVベルトのベルト長さ方向に沿った断面図である。
【
図2】圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
L,E’
Hを測定するための試験片の斜視図である。
【
図3】伝動能力測定用のベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す正面図である。
【
図4】耐久性評価用のベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0009】
図1A乃至Cは、実施形態に係るダブルコグドVベルトB(伝動ベルト)を示す。実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、例えば2輪車の変速装置における変速ベルトとして用いられる動力伝達部材である。実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、例えば、ベルト長さが700mm以上1400mm以下、ベルト最大幅が16mm以上40mm以下、及びベルト最大厚さが8.0mm以上18.0mm以下である。
【0010】
実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、エンドレスのゴム製のベルト本体11を備える。ベルト本体11は、ベルト幅方向に沿った断面形状が、ベルト内周側の等脚台形とベルト外周側の横長矩形とが積層されるように組み合わされた形状に形成されている。ベルト本体11の両側のV側面11aのなす角度は、例えば24°以上36°以下である。ベルト本体11は、ベルト内周側の圧縮ゴム層111と、ベルト厚さ方向の中間部の接着ゴム層112と、ベルト外周側の伸張ゴム層113との3層で構成されている。ベルト本体11の両側のV側面11aは、圧縮ゴム層111及び接着ゴム層112の両側面並びに伸張ゴム層113の両側面のベルト内周側の一部分で構成されている。V側面11aのうちの圧縮ゴム層111の側面が占める割合が最も大きく、これが動力伝達部を構成している。
【0011】
実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、圧縮ゴム層111のベルト内周側の表面を被覆するように設けられた被覆布12を備える。圧縮ゴム層111の内周には、ベルト長さ方向に沿った断面形状がサインカーブ状に形成された下コグ形成部111aが一定ピッチで配設されている。そして、この下コグ形成部111aが被覆布12で被覆されて下コグ13が構成されている。実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、接着ゴム層112のベルト厚さ方向の中間部に埋設された心線14を備える。心線14は、周方向に沿ってベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成して延びるように設けられている。伸張ゴム層113の外周には、ベルト長さ方向に沿った断面形状が矩形状に形成された上コグ15が一定ピッチで配設されている。
【0012】
圧縮ゴム層111は、ゴム組成物Aで形成されている。圧縮ゴム層111を形成するゴム組成物Aは、ゴム成分に各種のゴム配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋したものである。ゴム組成物Aは、列理方向がベルト幅方向及び反列理方向がベルト長さ方向にそれぞれ対応するように設けられている。
【0013】
ゴム組成物Aのゴム成分としては、例えば、クロロプレンゴム(CR);エチレン・プロピレンコポリマー(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン・オクテンコポリマー、エチレン・ブテンコポリマーなどのエチレン-α-オレフィンエラストマー;クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM);水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)等が挙げられる。ゴム成分は、これらのうちの1種のゴム又は2種以上のブレンドゴムであることが好ましく、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、クロロプレンゴム(CR)を含むことがより好ましく、硫黄変性クロロプレンゴム(硫黄変性CR)を含むことが更に好ましい。
【0014】
ゴム組成物Aは、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、ゴム配合剤として、ゴム成分に分散したセルロース系微細繊維を含有することが好ましい。セルロース系微細繊維は、植物繊維を細かくほぐすことで得られる植物細胞壁の骨格成分で構成されたセルロース微細繊維を由来とする繊維材料である。セルロース系微細繊維の原料植物としては、例えば、木、竹、稲(稲わら)、じゃがいも、サトウキビ(バガス)、水草、海藻等が挙げられる。これらのうち木が好ましい。
【0015】
セルロース系微細繊維としては、セルロース微細繊維自体及びそれを疎水化処理した疎水化セルロース微細繊維が挙げられる。セルロース系微細繊維は、これらのうちの一方又は両方を含むことが好ましい。
【0016】
セルロース系微細繊維としては、機械的解繊手段によって製造された高アスペクト比のもの及び化学的解繊手段によって製造された針状結晶のものが挙げられる。セルロース系微細繊維は、これらのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、機械的解繊手段によって製造されたセルロース系微細繊維を含むことがより好ましい。
【0017】
セルロース系微細繊維の平均繊維径は、例えば10nm以上1000nm以下である。セルロース系微細繊維の平均繊維長は、例えば0.1μm以上1000μm以下である。ゴム組成物Aにおけるセルロース系微細繊維の含有量は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは1.5質量部以上5質量部以下、更に好ましくは2質量部以上3質量部以下である。
【0018】
ゴム組成物Aは、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、ゴム配合剤として、ゴム成分に分散したカーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック;SAF、ISAF、N-339、HAF、N-351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N-234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック;アセチレンブラック等が挙げられる。カーボンブラックは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、算術平均粒子径が50μm以下のカーボンブラックを含むことがより好ましく、FEFを含むことが更に好ましい。
【0019】
ゴム組成物Aにおけるカーボンブラックの含有量は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上70質量部以下、より好ましくは36質量部以上59質量部以下、更に好ましくは41質量部以上49質量部以下である。
【0020】
ゴム組成物Aがセルロース系微細繊維及びカーボンブラックを含有する場合、ゴム組成物Aにおけるカーボンブラックの含有量は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、セルロース系微細繊維の含有量よりも多いことが好ましい。ゴム組成物Aにおけるカーボンブラックの含有量のセルロース系微細繊維の含有量に対する比(カーボンブラックの含有量/セルロース系微細繊維の含有量)は、同様の観点から、好ましくは10以上30以下、より好ましくは15以上23以下、更に好ましくは17以上19以下である。
【0021】
ゴム組成物Aは、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、ゴム配合剤として、列理方向、したがって、ベルト幅方向に配向するようにゴム成分に分散した短繊維を含有することが好ましい。短繊維には、ベルト本体11の圧縮ゴム層111に対する接着性を付与するためのRFL処理等の接着処理が施されていることが好ましい。
【0022】
短繊維としては、例えば、パラ系アラミド短繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド短繊維)、メタ系アラミド短繊維、ナイロン66短繊維、ポリエステル短繊維、ポリビニルアルコール短繊維、ヘテロ環含有芳香族短繊維、超高分子量ポリオレフィン短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール短繊維、ポリアリレート短繊維、綿、ガラス短繊維、炭素短繊維等が挙げられる。短繊維は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、パラ系アラミド短繊維を含むことが好ましく、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド短繊維を含むことがより好ましい。
【0023】
短繊維の繊維長は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、好ましくは1mm以上5mm以下、より好ましくは2mm以上4mm以下である。短繊維の繊維径は、同様の観点から、好ましくは5μm以上30μm以下、より好ましくは10μm以上15μm以下である。
【0024】
ゴム組成物Aにおける短繊維の含有量は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上40質量部以下、より好ましくは23質量部以上37質量部以下、更に好ましくは25質量部以上34質量部以下である。
【0025】
ゴム組成物Aがセルロース系微細繊維及び短繊維を含有する場合、ゴム組成物Aにおける短繊維の含有量は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、セルロース系微細繊維の含有量よりも多いことが好ましい。ゴム組成物Aにおける短繊維の含有量のセルロース系微細繊維の含有量に対する比(短繊維の含有量/セルロース系微細繊維の含有量)は、同様の観点から、好ましくは7以上17以下、より好ましくは9以上15以下、更に好ましくは11以上13以下である。
【0026】
ゴム組成物Aがカーボンブラック及び短繊維を含有する場合、ゴム組成物Aにおける短繊維の含有量は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、カーボンブラックの含有量よりも少ないことが好ましい。ゴム組成物Aにおける短繊維の含有量のカーボンブラックの含有量に対する比(短繊維の含有量/カーボンブラックの含有量)は、同様の観点から、好ましくは0.35以上1.0以下、より好ましくは0.45以上0.79以下、更に好ましくは0.55以上0.75以下である。ゴム組成物Aにおけるカーボンブラック及び短繊維の含有量の和は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上90質量部以下、より好ましくは60質量部以上79質量部以下、更に好ましくは65質量部以上74質量部以下である。
【0027】
ゴム組成物Aは、その他のゴム配合剤として、架橋剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、共架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等を含有していてもよい。
【0028】
ゴム組成物Aの25℃の温度下での列理方向の引張強さは、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、好ましくは40MPa以上、より好ましくは46MPa以上、更に好ましくは48MPa以上である。ゴム組成物Aの25℃の温度下での反列理方向の切断時伸びは、同様の観点から、好ましくは50%以上、より好ましくは64%以上、更に好ましくは66%以上である。これらの引張強さ及び切断時伸びは、JISK6251:2010に基づいて測定される。
【0029】
ゴム組成物Aは、列理方向、つまり、ベルト幅方向において、100℃の温度下で、0.25MPaと0.5MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Lは、220MPa以下であり、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、好ましくは165MPa以上213MPa以下、より好ましくは192MPa以上210MPa以下、更に好ましくは196MPa以上207MPa以下である。
【0030】
ゴム組成物Aは、列理方向、つまり、ベルト幅方向において、100℃の温度下で、1.0MPaと2.0MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Hは、220MPa以上であり、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、好ましくは230MPa以上260MPa以下、より好ましくは232MPa以上260MPa以下、更に好ましくは244MPa以上256MPa以下である。
【0031】
圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Hの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Lに対する比(E’H/E’L)は、高い伝動能力及び優れた変速応答性を得る観点から、好ましくは1.1以上1.28以下、より好ましくは1.13以上1.27以下、更に好ましくは1.22以上1.25以下である。
【0032】
ここで、これらの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
L,E’
Hの測定は、実施形態に係るダブルコグドVベルトBから、
図2に示すように、ベルト幅方向の厚さが10mmとなるように切り出したベルト片を試験片20とし、その試験片20を粘弾性測定装置にセットし、その圧縮ゴム層111に相当する部分をベルト幅方向に圧縮することにより行う。
【0033】
接着ゴム層112及び伸張ゴム層113も、圧縮ゴム層111と同様に、ゴム成分に各種のゴム配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋したゴム組成物で形成されている。接着ゴム層112及び/又は伸張ゴム層113を形成するゴム組成物は、圧縮ゴム層111を形成するゴム組成物Aと同一であってもよい。
【0034】
被覆布12は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の糸で形成された織布、編物、不織布等で構成されている。被覆布12には、圧縮ゴム層111に対する接着性を付与するためのRFL処理等の接着処理が施されていることが好ましい。
【0035】
心線14は、ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚糸で構成されている。心線14には、接着ゴム層112に対する接着性を付与するためのRFL処理等の接着処理が施されていることが好ましい。
【0036】
以上の構成の実施形態に係るダブルコグドVベルトBによれば、V側面11aの動力伝達部を構成する圧縮ゴム層111を形成するゴム組成物Aの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Lが220MPa以下であり、且つ圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Hが220MPa以上であることにより、高い伝動能力とともに、優れた変速応答性を得ることができる。これは、動力伝達部の高応力領域における高弾性率化が図られて伝動能力が高められているものの、低応力領域では比較的低弾性率であり、それによって変速応答性の毀損が損なわれるのが抑制されるものと推測される。このような作用効果は、例えばベルトBのプーリへの最小巻き付け径が70mm以上である大型2輪車の変速装置の場合のように、ベルトBに高トルク及び高負荷がかかる用途において特に有効である。
【0037】
実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、従来から一般的に行われている公知の方法で製造することができる。
【0038】
なお、上記実施形態では、ダブルコグドVベルトBとしたが、特にこれに限定されるものではなく、ベルト内周側のみに下コグが設けられたシングルコグドVベルトであってもよく、また、コグが設けられていないローエッジVベルトであってもよい。さらには、V側面の動力伝達部がゴム組成物で形成されたVリブドベルトであってもよい。
【0039】
上記実施形態では、ベルト内周側の表面を被覆する被覆布12を備えた構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、ベルト内周側の表面を被覆する被覆布12に加えて、又は、ベルト内周側の表面を被覆する被覆布12に代えて、ベルト外周側の表面を被覆する被覆布を備えた構成であってもよく、また、ベルト内周側及びベルト外周側の表面を被覆する被覆布を有さない構成であってもよい。
【実施例】
【0040】
(ダブルコグドVベルト)
以下の実施例1乃至6及び比較例1乃至4のダブルコグドVベルトを作製した。それぞれの圧縮ゴム層を形成するゴム組成物の構成は表1にも示す。
【0041】
<実施例1>
ゴム成分の硫黄変性CRに、セルロース系微細繊維(平均繊維径:1000nm以下)が、硫黄変性CR100質量部に対して2.5質量部配合された複合材料(東ソー社製)をインターナルミキサーに投入して混練し、そこに、硫黄変性CR100質量部に対して、40質量部のカーボンブラック(シーストSO(FEF) 東海カーボン社製 算術平均粒子径:43μm)、5質量部の酸化マグネシウム、2.3質量部の老化防止剤(ノクラックAD-F:2質量部、ノクラック8C-N:0.3質量部 大内新興化学工業社製)、5質量部の可塑剤(DOS 田岡化学工業社製)、1質量部の加工助剤(ステアリン酸)、5質量部の共架橋剤(バルノックPM(m-フェニレンジマレイミド) 大内新興化学工業社製)、及び10質量部の亜鉛末(UF末 ハクスイテック社製)を投入して混練した後、それらを分割して計量した。次いで、その混練物をインターナルミキサーに投入して混練し、そこに、硫黄変性CR100質量部に対して、5質量部の酸化亜鉛及び30質量部のRFL処理を施したパラ系アラミド短繊維(テクノーラ(コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド短繊維) 帝人社製、繊維長:3mm、繊維径:12μm)を投入して混練することにより未架橋ゴム組成物を調製した。
【0042】
そして、この未架橋ゴム組成物を、列理方向がベルト幅方向及び反列理方向がベルト長さ方向にそれぞれ対応するように配置して架橋させたゴム組成物により圧縮ゴム層を形成した上記実施形態と同様の構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを実施例1とした。
【0043】
なお、接着ゴム層及び伸張ゴム層は、ゴム成分が硫黄変性CRのゴム組成物で形成した。被覆布は、RFL処理及びゴム糊処理を施したポリエステル繊維の織布で構成した。心線は、RFL処理及びゴム糊処理を施したパラ系アラミド繊維の撚糸で構成した。ベルトサイズは、ベルト長さが1200mm、ベルト最大幅が33mm、及びベルト最大厚さが16.0mmとした。
【0044】
<実施例2>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物におけるカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して45質量部及び25質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを実施例2とした。
【0045】
<実施例3>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物におけるカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して35質量部及び35質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを実施例3とした。
【0046】
<実施例4>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物におけるカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して50質量部及び25質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを実施例4とした。
【0047】
<実施例5>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物におけるカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して60質量部及び25質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを実施例5とした。
【0048】
<実施例6>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物におけるカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して50質量部及び30質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを実施例6とした。
【0049】
<比較例1>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物にセルロース系微細繊維を含有させなかったことを除いて実施例4と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを比較例1とした。
【0050】
<比較例2>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物にセルロース系微細繊維を含有させず、且つカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して35質量部及び25質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを比較例2とした。
【0051】
<比較例3>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物にセルロース系微細繊維を含有させず、且つカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して45質量部及び35質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを比較例3とした。
【0052】
<比較例4>
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物におけるカーボンブラック及びパラ系アラミド短繊維の含有量を、それぞれ硫黄変性CR100質量部に対して45質量部及び30質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のダブルコグドVベルトを作製し、それを比較例4とした。
【0053】
【0054】
(試験方法)
<ゴム部材引張特性>
実施例1乃至6及び比較例1乃至4のそれぞれのダブルコグドVベルトの圧縮ゴム層を形成するのに用いた未架橋ゴム組成物の未架橋ゴムシートをプレス成形して架橋ゴムシートを作製した。そして、そこから3号ダンベル試験片を打ち抜き、JISK6251:2010に基づいて、25℃の温度下での列理方向の引張強さ及び反列理方向の切断時伸びを測定した。
【0055】
<ゴム部材圧縮特性>
実施例1乃至6及び比較例1乃至4のそれぞれのダブルコグドVベルトについて、圧縮ゴム層を形成するのに用いた未架橋ゴム組成物の未架橋ゴムシートから、パラ系アラミド短繊維が配向した列理方向が幅方向となるように短冊状ゴムを切り出し、それを巻き上げたものをプレス成形してパラ系アラミド短繊維が厚さ方向に配向した直径29mm及び厚さ12.5mmの円盤状の圧縮試験用試験片を作製した。そして、その圧縮試験用試験片を粘弾性測定装置に、厚さ方向が圧縮方向となるようにセットし、100℃の温度下で、0.25MPaと0.5MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与え、そのときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Lを測定した。また、100℃の温度下で、1.0MPaと2.0MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’Hを測定した。
【0056】
<ベルト圧縮特性>
実施例1乃至6及び比較例1乃至4のそれぞれのダブルコグドVベルトについて、
図2に示すように、ベルト幅方向の厚さが10mmとなるように長さ50mmのベルト片を切り出した。そして、そのベルト片を試験片20として粘弾性測定装置に、ベルト幅方向が圧縮方向となるようにセットし、圧縮ゴム層に相当する部分に、100℃の温度下で、0.25MPaと0.5MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与え、そのときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
Lを測定した。また、100℃の温度下で、1.0MPaと2.0MPaとの間の圧縮応力の荷重振動を、10Hzの周波数で与えたときの圧縮の貯蔵たて弾性係数E’
Hを測定した。
【0057】
<伝動能力>
図3は、伝動能力測定用のベルト走行試験機30を示す。この伝動能力測定用のベルト走行試験機30は、プーリ径が111mmの駆動プーリ31と、その側方に設けられたプーリ径が111mmの従動プーリ32とを備える。
【0058】
実施例1乃至6及び比較例1乃至4のそれぞれのダブルコグドVベルトBについて、駆動プーリ31及び従動プーリ32間に巻き掛け、ベルト張力を発生させるように軸荷重DW(デッドウエイト)を与えた状態で、駆動プーリ31を1800rpmで回転させてベルト走行させるとともに、従動プーリ32の回転負荷を増加させていき、見掛けのスリップ率が2.5%となったときの伝達トルクを算出した。そして、このベルト走行試験を、従動プーリ32への軸荷重DWを1470Nから最大2744Nまで段階的に上昇させて行い、その中で得られた伝達トルクの最大値を求めた。伝動能力は、それぞれの伝達トルクの最大値を、比較例1の伝達トルクの最大値を100としたときの相対値とした。
【0059】
<変速応答性>
実施例1乃至6及び比較例1乃至4のそれぞれのダブルコグドVベルトについて、テスト用二輪車両の変速装置の駆動プーリ及び従動プーリに巻き掛けて実機搭載し、エンジンを稼働させることにより駆動プーリ及び従動プーリ間でベルト走行させた。フルスロットルでエンジンを回転させている状態で、回転数の増加とともに内部の遠心ローラにより駆動プーリの溝の間隔を狭めるように押圧力を作用させることで、駆動プーリへのベルト巻き掛け径を大きくするとともに、それに伴う従動プーリの溝の間隔を拡げるようなバネの押圧力に対抗する力の作用で、従動プーリへのベルト巻き掛け径を小さくして変速を行うことにより増速した。そして、変速応答性について、駆動プーリの回転数が4000rpmのときの従動プーリの回転数が2000rpmを超える場合を評価A(優)及び2000rpm以下の場合を評価B(劣)とした。
【0060】
<耐久性>
図4は、耐久性評価用のベルト走行試験機40を示す。この耐久性評価用のベルト走行試験機40は、プーリ径が200mmの駆動プーリ41と、その側方に設けられたプーリ径が140mmの従動プーリ42とを備える。
【0061】
実施例1乃至6及び比較例1乃至4のそれぞれのダブルコグドVベルトBを駆動プーリ41及び従動プーリ42間に巻き掛け、従動プーリ42に、ベルト張力を発生させるように1800Nの軸荷重DW(デッドウエイト)を負荷するとともに、30N・mの回転負荷した状態で、駆動プーリ41を4800rpmで回転させてベルト走行させた。そして、ダブルコグドVベルトBが破損するまでの走行時間を計測した。耐久性は、比較例1のその走行時間を100としたときの相対値とした。
【0062】
(試験結果)
試験結果を表2に示す。表2によれば、E’Lが220MPa以下で且つE’Hが220MPa以上である実施例1乃至6では、変速応答性が優れるとともに、標準とする比較例1と比べて、伝動能力が高いことが分かる。一方、E’Lが220MPa以下であるものの、E’Hも220MPa以下である比較例2では、変速応答性は優れるものの、伝動能力が標準とする比較例1と同等レベルしかないことが分かる。逆に、E’Hが220MPa以上であるものの、E’Lも220MPa以上である比較例3及び4では、伝動能力は高いものの、変速応答性が劣ることが分かる。
【0063】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、伝動ベルトの技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0065】
B ダブルコグドVドベルト(伝動ベルト)
11 ベルト本体
11a V側面
111 圧縮ゴム層
111a 下コグ形成部
112 接着ゴム層
113 伸張ゴム層
12 被覆布
13 下コグ
14 心線
15 上コグ
20 試験片
30,40 ベルト走行試験機
31,41 駆動プーリ
32,42 従動プーリ