(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】ステンレス焼結メッシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20250407BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D6/00 102B
(21)【出願番号】P 2020187946
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】平塚 修一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 徳雄
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-034537(JP,A)
【文献】特開平09-071812(JP,A)
【文献】特開2017-064699(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108579209(CN,A)
【文献】特開2000-328142(JP,A)
【文献】特開平07-080662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
C21D 6/00
B21F 27/00 - 27/22
B01D 39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結メッシュの製造方法であって、
オーステナイト系ステンレス鋼からなり、互いに交差する方向に延びる複数のワイヤを含むメッシュを準備する工程と、
前記メッシュの雰囲気温度を制御する熱処理工程と、を備え、
前記熱処理工程は、処理温度まで前記雰囲気温度を上昇させる昇温工程と、前記雰囲気温度を前記処理温度で保持する保持工程と、前記雰囲気温度を下降させる降温工程と、を含み、
前記処理温度は、オーステナイト化温度以上であり、
前記降温工程は、アルゴンガスの雰囲気下において3℃/分以上の降温速度で前記雰囲気温度を下降させる急冷工程を含み、
前記降温工程において、前記アルゴンガスの圧力は大気圧よりも高い、焼結メッシュの製造方法。
【請求項2】
前記処理温度は、980℃以上1100℃以下である、請求項
1に記載の焼結メッシュの製造方法。
【請求項3】
前記焼結メッシュは、水素燃料のフィルター用である、請求項1乃至
2のいずれか一項に記載の焼結メッシュの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス焼結メッシュの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素燃料に含まれている異物を除去するためのフィルターが知られている。例えば特許文献1は、ステンレス鋼からなるメッシュをフィルターとして使用することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステンレス鋼からなるメッシュを水素燃料電池の酸性環境下においてフィルターとして使用すると、メッシュが腐食するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を効果的に解決し得るステンレス焼結メッシュの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、焼結メッシュの製造方法であって、
オーステナイト系ステンレス鋼からなり、互いに交差する方向に延びる複数のワイヤを含むメッシュを準備する工程と、
前記メッシュの雰囲気温度を制御する熱処理工程と、を備え、
前記熱処理工程は、処理温度まで前記雰囲気温度を上昇させる昇温工程と、前記雰囲気温度を前記処理温度で保持する保持工程と、前記雰囲気温度を下降させる降温工程と、を含み、
前記処理温度は、オーステナイト化温度以上であり、
前記降温工程は、アルゴンガスの雰囲気下において3℃/分以上の降温速度で前記雰囲気温度を下降させる急冷工程を含む、焼結メッシュの製造方法である。
【0007】
本発明による焼結メッシュの製造方法の前記保持工程において、雰囲気の圧力は大気圧よりも低くてもよい。
【0008】
本発明による焼結メッシュの製造方法の前記降温工程において、前記アルゴンガスの圧力は大気圧よりも高くてもよい。
【0009】
本発明による焼結メッシュの製造方法において、前記処理温度は、980℃以上1100℃以下であってもよい。
【0010】
本発明による焼結メッシュの製造方法において、前記焼結メッシュは、水素燃料のフィルター用であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、焼結メッシュが腐食することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】メッシュフィルターの一例を示す斜視図である。
【
図3】焼結メッシュ20の一例を示す平面図である。
【
図4】
図3の焼結メッシュ20をA-A方向から見た場合を示す断面図である。
【
図9】熱処理工程におけるロールの配置の一例を示す図である。
【
図11】エッチング試験を説明するための図である。
【
図12】実施例1のサンプルの観察結果を示す図である。
【
図13】実施例2のサンプルの観察結果を示す図である。
【
図14】実施例3のサンプルの観察結果を示す図である。
【
図15】実施例4のサンプルの観察結果を示す図である。
【
図16】実施例5のサンプルの観察結果を示す図である。
【
図17】比較例1のサンプルの観察結果を示す図である。
【
図18】比較例2のサンプルの観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0014】
(フィルター装置)
図1は、フィルター装置1の一例を示す斜視図である。フィルター装置1は、例えば、水素燃料のフィルターとして用いられる。フィルター装置1は、例えば、水素燃料電池車のFC(Fuel Cell)スタックにおいて使用される。
【0015】
フィルター装置1は、メッシュフィルター10と、メッシュフィルター10を保持するケース2と、を備える。ケース2は、例えば樹脂から構成されている。
【0016】
図2は、メッシュフィルター10の一例を示す斜視図である。メッシュフィルター10は、円筒形の側面と、底面とを含んでいてもよい。メッシュフィルター10の側面は、焼結メッシュ20によって構成されている。
【0017】
水素燃料は、例えば、圧縮された水素ガスである。水素燃料は、焼結メッシュ20を通ってメッシュフィルター10の内部に流入する。水素燃料が焼結メッシュ20を通るとき、水素燃料中の異物が捕捉される。水素燃料は、メッシュフィルター10の底面から流出する。
【0018】
(焼結メッシュ)
図3は、焼結メッシュ20の一例を示す平面図である。焼結メッシュ20は、第1方向D1に延びる複数の第1ワイヤ21と、第1方向D1に交差する第2方向D2に延びる複数の第2ワイヤ22と、を備える。第1方向D1は、第2方向D2に直交していてもよい。
【0019】
図4は、
図3の焼結メッシュ20をA-A方向から見た場合を示す断面図である。
図4に示すように、第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22は、円形の断面を有していてもよい。
【0020】
第1ワイヤ21と第2ワイヤ22は、
図4に示す上下方向において、焼結によって結合されている。焼結は、第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22を備えるメッシュに対して熱処理を施すことによって生じる。焼結による結合は、符号23で示すように、第1ワイヤ21が第2ワイヤ22の上に位置する状態で生じていてもよく、符号24で示すように、第2ワイヤ22が第1ワイヤ21の上に位置する状態で生じていてもよい。
【0021】
図3に示すように、第1ワイヤ21と第2ワイヤ22は、第1結合23及び第2結合24が第1方向D1及び第2方向D2に交互に並ぶように結合されていてもよい。なお、第1ワイヤ21と第2ワイヤ22の位置関係は、
図3及び
図4の例には限られない。
【0022】
焼結メッシュ20は、2本の第1ワイヤ21及び2本の第2ワイヤ22によって囲まれた隙間25を含む。焼結メッシュ20を水素燃料のフィルターに使用する場合、隙間25よりも大きい寸法を有する異物が焼結メッシュ20によって捕捉される。
【0023】
符号S1及びS2はそれぞれ、第1ワイヤ21の幅及び第2ワイヤ22の幅を表す。符号S3は、隣り合う2本の第1ワイヤ21の間の間隔を表す。符号S4は、隣り合う2本の第2ワイヤ22の間の間隔を表す。幅S1、S2及び間隔S3、S4は、捕捉されるべき異物の寸法に応じて定められる。好ましくは、焼結メッシュ20は、200μm以上の寸法を有する異物を捕捉できる。
【0024】
幅S1、S2は、例えば30μm以上であり、50μm以上であってもよく、100μm以上であってもよい。幅S1、S2は、例えば500μm以下であり、300μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。
【0025】
間隔S3、S4は、例えば50μm以上であり、100μm以上であってもよく、150μm以上であってもよい。幅S1、S2は、例えば500μm以下であり、300μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。
【0026】
焼結メッシュ20は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成されている。オーステナイト系ステンレス鋼は、0.08重量%以下の炭素(C)と、1.00重量%以下のケイ素(Si)と、2.00重量%以下のマンガン(Mn)と、0.045重量%以下のリン(P)と、0.030重量%以下の硫黄(S)と、8.00重量%以上15.00重量%以下のニッケル(Ni)と、16.00重量%以上20.00重量%以下のクロム(Cr)と、3.00重量%以下のモリブデン(Mo)と、残部の鉄(Fe)及び不可避の不純物と、を含む。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS304、SUS316、SUS316Lなどを用いることができる。SUS304、SUS316、SUS316Lの組成の例を表1に示す。表1の数値の単位は重量%である。
【表1】
【0027】
ステンレス鋼は、腐食しにくい材料として知られている。しかしながら、発明者は、焼結メッシュ20の熱処理の条件が不適切である場合、水素燃料のフィルターとして使用される焼結メッシュ20に腐食が生じることを見出した。具体的には、焼結メッシュ20の熱処理を窒素雰囲気下で行った場合に、焼結メッシュ20に腐食が生じやすいことを見出した。
【0028】
焼結メッシュ20が腐食する理由の1つとして、下記のことが考えられる。
熱処理においては、オーステナイト化温度以上の処理温度で焼結メッシュ20が一定の時間にわたって保持される。常温から処理温度まで雰囲気温度を上昇させるとき、又は、処理温度から常温まで雰囲気温度を低下させるとき、焼結メッシュ20は、窒化物又は炭化物が析出しやすい温度の雰囲気に晒される。このため、雰囲気が窒素ガスを含んでいる場合、焼結メッシュ20の内部に窒素原子が侵入することによって、結晶粒界などにクロム窒化物が生成されることがある。クロム窒化物が生じると、その周囲のオーステナイト組織におけるクロム濃度が低下する。クロム濃度が低下すると、腐食に対する耐性が低下する。この結果、水素燃料電池の酸性環境下においてフィルターとして使用される焼結メッシュ20に腐食が生じることがある。以下の説明において、低下したクロム濃度を有するオーステナイト組織のことをクロム欠乏層とも称する。
なお、上述の理由は一例に過ぎない。その他の理由によって焼結メッシュ20が腐食する場合であっても、本発明の意義は失われない。
【0029】
焼結メッシュ20が水素燃料のフィルターとして使用される場合、微細な異物を捕捉することが焼結メッシュ20に求められる。このため、焼結メッシュ20を構成する第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2が小さくなる。幅S1、S2が小さいほど、ワイヤ21、22の体積に対するワイヤ21、22の表面積の比率が高くなる。このため、熱処理においてクロム欠乏層が生じやすくなる。
【0030】
このような課題を解決するため、本発明においては、アルゴンガスの雰囲気下において熱処理を実施することを提案する。以下、焼結メッシュ20の製造方法について説明する。
【0031】
(焼結メッシュの製造方法)
まず、第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22を含むメッシュを準備する。第1ワイヤ21と第2ワイヤ22は、焼結などによって既に結合されていてもよく、結合されていなくてもよい。
【0032】
続いて、メッシュの雰囲気温度を制御する熱処理工程を実施する。例えば、メッシュを炉の中に配置した状態で、炉の雰囲気温度を制御する。熱処理工程の時のメッシュの形態は任意である。例えば、メッシュのシートをロール状に巻き取り、ロールに対して熱処理を施してもよい。
【0033】
図5は、熱処理工程の一例を示す図である。
図5の横軸は時間を表し、左側の縦軸は雰囲気の温度を表し、右側の縦軸は雰囲気の圧力を表す。雰囲気がアルゴンガスによって置換されている場合、雰囲気の圧力は、アルゴンガスの圧力である。熱処理工程は、昇温工程S10、保持工程S20及び降温工程S30を含む。以下、各工程について説明する。
【0034】
昇温工程S10は、常温から処理温度T2まで雰囲気温度を上昇させる。処理温度T2は、オーステナイト化温度以上である。処理温度T2においては、オーステナイト系ステンレス鋼のオーステナイト組織が安定に存在できる。処理温度T2は、例えば980℃以上であり、1020℃以上であってもよい。処理温度T2は、例えば1100℃以下であり、1060℃以下であってもよい。
【0035】
一定の温度域においては、例えば500℃以上800℃以下の温度範囲においては、オーステナイト系ステンレス鋼にクロムの窒化物又は炭化物が析出しやすくなる。窒化物又は炭化物が析出しやすい温度範囲のことを、析出温度範囲とも称する。析出温度範囲の下限のことを、析出温度T1とも称する。析出温度T1は、例えば500℃である。
【0036】
昇温工程S10は、5℃/分以上の昇温速度H1で雰囲気温度を上昇させる急熱工程S15を含んでいてもよい。これにより、析出温度範囲を速やかに通過することができる。このため、昇温工程S10の間にメッシュにクロムの窒化物又は炭化物が生成されることを抑制できる。昇温速度H1は、処理温度T2と析出温度T1の差を、雰囲気温度が析出温度T1から処理温度T2まで上昇するのに要する時間で割ることによって算出される。昇温速度H1は、10℃/分以上であってもよく、20℃/分以上であってもよい。
【0037】
昇温工程S10は、第1圧力P1を有するアルゴンガスの雰囲気下において実施される。第1圧力P1は、例えば10Pa以上であってもよく、50Pa以上であってもよい。第1圧力P1は、例えば1kPa以下であってもよく、300Pa以下であってもよい。
【0038】
保持工程S20は、雰囲気温度を処理温度T2で一定の時間にわたって保持する。処理温度T2においては、クロム、ニッケル、炭素、窒素などの元素がオーステナイト組織中に固溶する。このため、メッシュにクロムの窒化物又は炭化物が生成されていた場合であっても、保持工程S20によって、窒化物又は炭化物の構成元素をオーステナイト組織中に固溶させることができる。これにより、メッシュにクロム欠乏層が存在することを抑制できる。
【0039】
雰囲気温度を処理温度T2に保持する時間は、例えば30分以上であり、45分以上であってもよい。保持時間を30分以上にすることによって、クロム、ニッケル、炭素、窒素などの元素をオーステナイト組織中に固溶させることができる。保持時間は、例えば90分以下であり、60分以下であってもよい。保持時間を90分以下にすることによって、ロール状に巻き取られているメッシュのシート同士が焼結されることを抑制できる。
【0040】
保持工程S20は、第2圧力P2を有するアルゴンガスの雰囲気下において実施される。第2圧力P2は、例えば10Pa以上であってもよく、50Pa以上であってもよい。第2圧力P2は、大気圧よりも低くてもよい。第2圧力P2は、例えば1kPa以下であってもよく、300Pa以下であってもよい。
【0041】
降温工程S30は、雰囲気温度を処理温度T2から常温まで下降させる。降温工程S30は、3℃/分以上の降温速度C1で雰囲気温度を下降させる急冷工程S35を含んでいてもよい。これにより、析出温度範囲を速やかに通過することができる。このため、降温工程S30の間にメッシュにクロムの窒化物又は炭化物が生成されることを抑制できる。降温速度C1は、処理温度T2と析出温度T1の差を、雰囲気温度が処理温度T2から析出温度T1まで降下するのに要する時間で割ることによって算出される。降温速度C1は、5℃/分以上であってもよく、10℃/分以上であってもよく、20℃/分以上であってもよく、50℃/分以上であってもよく、100℃/分以上であってもよい。
【0042】
保持工程S20は、第3圧力P3を有するアルゴンガスの雰囲気下において実施されてもよい。第3圧力P3は、大気圧よりも高くてもよい。第3圧力P3は、例えば110kPa以上であってもよく、150kPa以上であってもよい。第2圧力P2は、例えば600kPa以下であってもよく、200kPa以下であってもよい。
【0043】
図6は、熱処理工程のその他の例を示す図である。
図6に示すように、昇温工程S10は、第1昇温工程S11、待機工程S12及び第2昇温工程S13を含んでいてもよい。第1昇温工程S11は、常温から待機温度T4まで雰囲気温度を上昇させる。待機工程S12は、雰囲気温度を待機温度T4で一定の時間にわたって保持する。第2昇温工程S13は、待機温度T4から処理温度T2まで雰囲気温度を上昇させる。
【0044】
複数のロールに対して同時に熱処理を施す場合、ロールの位置に応じてロールの温度に差が生じることがある。この場合、ロールの位置に応じて、処理温度T2に到達するタイミングがずれることがある。昇温工程S10が待機工程S12を含むことにより、処理温度T2に到達するタイミングがロールの位置に応じてずれることを抑制できる。待機温度T4は、例えば500℃以上900℃以下である。
【0045】
本実施の形態によれば、アルゴンガスの雰囲気下において降温工程を実施することにより、焼結メッシュ20にクロムの窒化物又は炭化物が生成されることを抑制できる。これにより、焼結メッシュ20にクロム欠乏層が生じることを抑制できる。このため、水素燃料電池の酸性環境下においてフィルターとして使用される焼結メッシュ20に腐食が生じることを抑制できる。
【0046】
なお、焼結メッシュ20の用途が水素燃料電池のフィルターに限られることはない。腐食が生じやすいその他の環境下において本実施形態の焼結メッシュ20が用いられてもよい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
まず、第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22を含むメッシュのシートを準備した。メッシュシートの幅は50mmであり、長さは10mであった。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2は50μmであった。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の断面が円形の場合、幅S1、S2はいわゆる線径である。続いて、
図7に示すように、メッシュシート26をロール状に巻き取った。メッシュシート26の材料としては、0.01重量%の炭素を含むSUS316Lを用いた。
【0049】
続いて、
図8に示すように、保持具40の中にメッシュシート26のロール30を配置した。保持具40は、下から順に積層された第1保持具41、第2保持具42、第3保持具43及び第4保持具44を含む。25個のロール30を各保持具41~44に配置した。
【0050】
図9は、各保持具41~44におけるロール30の配置を示す図である。
図9に示すように、5列×5行のロール30を各保持具41~44に配置した。後の評価においては、
図9において符号31が付されているロールを、評価用ロールとして用いた。また、符号32が付されているロールを、炉の雰囲気温度を測定するモニタ用ロールとして用いた。評価用ロール31及びモニタ用ロール32は、第2保持具42及び第3保持具43の中央部に配置されている。
【0051】
続いて、アルゴンガスに置換された雰囲気の炉の中に保持具40を配置した状態で、炉の雰囲気温度を制御した。これによって、ロール30に対して熱処理を施した。熱処理の温度プロファイルとしては、
図6の温度プロファイルを用いた。熱処理の条件は下記のとおりである。
・昇温工程S10の昇温速度H1:20℃/分
・待機工程S12の待機温度T4:860℃(30分保持)
・保持工程S20の処理温度T2:1100℃(60分保持)
・保持工程S20の時のアルゴンガス圧力:100Pa
・降温工程S30の降温速度C1:100℃/分
・降温工程S30の時のアルゴンガス圧力:200kPa
【0052】
熱処理によって得られた焼結メッシュ20に対して、浸漬評価及びエッチング評価を実施した。
【0053】
浸漬評価においては、
図10に示すように、容器50に収容されている溶液51を準備した。溶液51は、硫酸を含む酸性の溶液である。溶液51のpHは4.1であった。続いて、溶液51の温度を80℃に制御した状態で、16時間にわたって、焼結メッシュ20から切り出したサンプル35を溶液51に浸漬させた。その後、サンプル35に変色が生じているか否かを目視で確認した。変色は確認されなかった。
【0054】
エッチング評価においては、JIS G0571:2003の「ステンレス鋼のしゅう酸エッチング試験方法」に準拠して、サンプル35を評価した。まず、
図11に示すように、サンプル35の表面を研磨することによって、第1ワイヤ21の表面及び第2ワイヤ22の表面にテスト面36を形成した。続いて、サンプル35を10%のしゅう酸溶液に浸漬させた。続いて、テスト面36を陽極として用いてサンプル35を電解エッチングした。続いて、走査電子顕微鏡を用いてサンプル35の表面を観察した。
【0055】
観察の結果を
図12に示す。符号61が付された第1の画像は、
図11に示す状態に相当する。符号62が付された第2の画像は、第1の画像61の一部を拡大したものである。第2の画像62に示されているように、鋭敏化は生じていなかった。
【0056】
(実施例2)
実施例1の場合と同様に、0.01重量%の炭素を含むSUS316Lを用いて、メッシュシート26のロール30を作製した。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2は50μmであった。続いて、実施例1の場合と同様に、保持具40を用いてロール30に対して熱処理を施した。熱処理の温度プロファイルとしては、
図6の温度プロファイルを用いた。熱処理の条件は下記のとおりである。
・昇温工程S10の昇温速度H1:20℃/分
・待機工程S12の待機温度T4:860℃(30分保持)
・保持工程S20の処理温度T2:1100℃(60分保持)
・保持工程S20の時のアルゴンガス圧力:100Pa
・降温工程S30の降温速度C1:65℃/分
・降温工程S30の時のアルゴンガス圧力:110kPa
【0057】
実施例1の場合と同様に、熱処理によって得られた焼結メッシュ20に対して、浸漬評価及びエッチング評価を実施した。浸漬評価においては、変色は確認されなかった。エッチング評価において取得した画像を
図13に示す。第2の画像62に示されているように、鋭敏化は生じていなかった。
【0058】
(実施例3)
実施例1の場合と同様に、0.01重量%の炭素を含むSUS316Lを用いて、メッシュシート26のロール30を作製した。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2は50μmであった。続いて、実施例1の場合と同様に、保持具40を用いてロール30に対して熱処理を施した。熱処理の温度プロファイルとしては、
図6の温度プロファイルを用いた。熱処理の条件は下記のとおりである。
・昇温工程S10の昇温速度H1:20℃/分
・待機工程S12の待機温度T4:860℃(30分保持)
・保持工程S20の処理温度T2:1100℃(60分保持)
・保持工程S20の時のアルゴンガス圧力:100Pa
・降温工程S30の降温速度C1:3.3℃/分
・降温工程S30の時のアルゴンガス圧力:110kPa
【0059】
実施例1の場合と同様に、熱処理によって得られた焼結メッシュ20に対して、浸漬評価及びエッチング評価を実施した。浸漬評価においては、変色は確認されなかった。エッチング評価において取得した画像を
図14に示す。第2の画像62に示されているように、鋭敏化は生じていなかった。
【0060】
(実施例4)
実施例1の場合と同様に、0.01重量%の炭素を含むSUS316Lを用いて、メッシュシート26のロール30を作製した。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2は50μmであった。続いて、実施例1の場合と同様に、保持具40を用いてロール30に対して熱処理を施した。熱処理の温度プロファイルとしては、
図6の温度プロファイルを用いた。熱処理の条件は下記のとおりである。
・昇温工程S10の昇温速度H1:10℃/分
・待機工程S12の待機温度T4:600℃(30分保持)
・保持工程S20の処理温度T2:1020℃(30分保持)
・保持工程S20の時のアルゴンガス圧力:100Pa
・降温工程S30の降温速度C1:100℃/分
・降温工程S30の時のアルゴンガス圧力:200kPa
【0061】
実施例1の場合と同様に、熱処理によって得られた焼結メッシュ20に対して、浸漬評価及びエッチング評価を実施した。浸漬評価においては、変色は確認されなかった。エッチング評価において取得した画像を
図15に示す。第2の画像62に示されているように、鋭敏化は生じていなかった。
【0062】
(実施例5)
0.04重量%の炭素を含むSUS316を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様に、メッシュシート26のロール30を作製した。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2は50μmであった。続いて、実施例1の場合と同様に、保持具40を用いてロール30に対して熱処理を施した。熱処理の温度プロファイルとしては、
図6の温度プロファイルを用いた。熱処理の条件は下記のとおりである。
・昇温工程S10の昇温速度H1:20℃/分
・待機工程S12の待機温度T4:860℃(30分保持)
・保持工程S20の処理温度T2:1100℃(60分保持)
・保持工程S20の時のアルゴンガス圧力:100Pa
・降温工程S30の降温速度C1:100℃/分
・降温工程S30の時のアルゴンガス圧力:200kPa
【0063】
実施例1の場合と同様に、熱処理によって得られた焼結メッシュ20に対して、浸漬評価及びエッチング評価を実施した。浸漬評価においては、変色は確認されなかった。エッチング評価において取得した画像を
図16に示す。第2の画像62に示されているように、鋭敏化は生じていなかった。
【0064】
(比較例1)
実施例1の場合と同様に、0.01重量%の炭素を含むSUS316Lを用いて、メッシュシート26のロール30を作製した。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2は50μmであった。続いて、保持具40を用いてロール30に対して熱処理を施した。熱処理の温度プロファイルとしては、
図6の温度プロファイルを用いた。降温工程S30は、窒素ガスに置換された雰囲気で実施した。熱処理の条件は下記のとおりである。
・昇温工程S10の昇温速度H1:20℃/分
・待機工程S12の待機温度T4:860℃(30分保持)
・保持工程S20の処理温度T2:1100℃(60分保持)
・降温工程S30の降温速度C1:100℃/分
・降温工程S30の時の窒素ガス圧力:200kPa
【0065】
実施例1の場合と同様に、熱処理によって得られた焼結メッシュ20に対して、浸漬評価及びエッチング評価を実施した。浸漬評価においては、変色は確認されなかった。エッチング評価において取得した画像を
図17に示す。第2の画像62に示されているように、鋭敏化が生じていた。
【0066】
(比較例2)
実施例5の場合と同様に、0.04重量%の炭素を含むSUS316を用いて、メッシュシート26のロール30を作製した。第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の幅S1、S2は50μmであった。続いて、保持具40を用いてロール30に対して熱処理を施した。熱処理の温度プロファイルとしては、
図5の温度プロファイルを用いた。降温工程S30は、窒素ガスに置換された雰囲気で実施した。熱処理の条件は下記のとおりである。
・昇温工程S10の昇温速度H1:20℃/分
・保持工程S20の処理温度T2:1100℃(60分保持)
・降温工程S30の降温速度C1:200℃/分
・降温工程S30の時の窒素ガス圧力:200kPa
【0067】
実施例1の場合と同様に、熱処理によって得られた焼結メッシュ20に対して、浸漬評価及びエッチング評価を実施した。浸漬評価においては、変色は確認されなかった。エッチング評価において取得した画像を
図18に示す。第2の画像62に示されているように、鋭敏化が生じていた。
【符号の説明】
【0068】
1 フィルター装置
2 ケース
10 メッシュフィルター
20 焼結メッシュ
21 第1ワイヤ
22 第2ワイヤ
30 ロール
31 評価用ロール
32 モニタ用ロール
35 サンプル
36 テスト面