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特許7661034潤滑油組成物用のトリブロックコポリマー濃縮物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】潤滑油組成物用のトリブロックコポリマー濃縮物
(51)【国際特許分類】
   C10M 143/14 20060101AFI20250407BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20250407BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20250407BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20250407BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20250407BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20250407BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20250407BHJP
   C10N 30/18 20060101ALN20250407BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20250407BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20250407BHJP
【FI】
C10M143/14
C10M101/02
C10M107/02
C10N30:06
C10N30:04
C10N30:10
C10N30:12
C10N30:18
C10N40:25
C10N40:04
【請求項の数】 36
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020201713
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2021088707
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】16/704,078
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】イ ザオ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ツゥイ
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート ブリッグス
(72)【発明者】
【氏名】ユアン ガルブレイス
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-059765(JP,A)
【文献】特開2017-106017(JP,A)
【文献】特開2015-129279(JP,A)
【文献】特開平01-149899(JP,A)
【文献】特開2013-129835(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1126217(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 143/14
C10M 101/02
C10M 107/02
C10N 30/06
C10N 30/04
C10N 30/10
C10N 30/12
C10N 30/18
C10N 40/25
C10N 40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%から質量%までの希釈油;及び
5質量%から質量%までの、式:
D’-PA-D’’
により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含む粘度調整剤(VM)濃縮物であって、
式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、前記線状トリブロックコポリマーは、前記濃縮物のおよそ100℃での潤滑動粘度(KV100)を調整するのに有効な量で存在し、
前記希釈油のKV100は、cStから0cStまでであり、前記濃縮物のKV100は、000cSt若しくはそれよりも低く、少なくとも87%の0℃ビーカー流出及び/又は少なくとも1.8のtanδを有し、前記ビーカー流出が、80℃(±1℃)における、24時間にわたる、水平台表面に対して96°の角度に配向された600mLビーカーからの組成物のバルク流動であり、tanδが、組成物の損失弾性率(G’’)の貯蔵弾性率(G’)に対する比(G’’/G’)である、濃縮物。
【請求項2】
前記D’及びD’’ジエンは各々個々に、ブタジエン、イソプレン、及びそれらの混合物を含むが、互いに同一ではなく、前記D’及びD’’ブロックは、重合後に実質的に水素化されている、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項3】
前記D’及びD’’ジエンは各々個々に、
(i)質量%以下のブタジエン、
(ii)少なくとも7質量%のイソプレン、
(iii)(i)及び(ii)の両方
を含む、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項4】
D’は、2,000ダルトンから50,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、PAは、5,000ダルトンから0,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’’は、,000から0,000ダルトンまでの数平均分子量を有する、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項5】
(i)D’は、3,000ダルトンから5,000ダルトンまでの数平均分子量を有するか、
(ii)PAは、0,000ダルトンから6,000ダルトンまでの数平均分子量を有するか、又は
(iii)(i)及び(ii)の両方である、
請求項4に記載の濃縮物。
【請求項6】
PA数平均分子量の、D’+D’’数平均分子量の合計に対する比は、.25から.50までである、請求項4に記載の濃縮物。
【請求項7】
D’の数平均分子量とD’’の数平均分子量との比は、.01:1から.25:1まで、又は.00:1から0.0:1までである、請求項4に記載の濃縮物。
【請求項8】
前記濃縮物は、6.0質量%から3質量%までの前記線状トリブロックコポリマーを含む、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項9】
前記希釈油は、グループIIベースストック、グループIIIベースストック、及び/又はグループIVベースストックを含む、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項10】
前記濃縮物のKV100は、00cStから600cStまでである、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項11】
前記濃縮物のKV100は、00cSt又はそれよりも低い、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項12】
無灰分散剤、界面活性剤、抗摩耗剤、抗酸化剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、消泡剤、シール膨潤制御剤、又はそれらの組合せの1つ若しくは複数を更に含む、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項13】
質量%から質量%までの希釈油;及び
質量%から質量%までの、式:
D’-PA-D’’
により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含むVM濃縮物であって、
式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、前記線状トリブロックコポリマーは、前記濃縮物のおよそ100℃での潤滑動粘度(KV100)を調整するのに有効な量で存在し、
前記希釈油のKV100は、cStから0cStまでであり、前記濃縮物のKV100は、000cSt若しくはそれよりも低い、濃縮物。
【請求項14】
前記D’及びD’’ジエンは各々個々に,ブタジエン、イソプレン、及びそれらの混合物を含むが、互いに同一ではなく、前記D’及びD’’ブロックは、重合後に実質的に水素化されている、請求項13に記載の濃縮物。
【請求項15】
前記D’及びD’’ジエンは各々個々に、
(i)質量%以下のブタジエン、
(ii)少なくとも7質量%のイソプレン、
(iii)(i)及び(ii)の両方
を含む、請求項14に記載の濃縮物。
【請求項16】
D’は、0,000ダルトンから0,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、PAは、0,000ダルトンから0,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’’は、,000から0,000ダルトンまでの数平均分子量を有する、請求項13に記載の濃縮物。
【請求項17】
(i)D’は、5,000ダルトンから0,000ダルトンまでの数平均分子量を有すること、
(ii)PAは、5,000ダルトンから5,000ダルトンまでの数平均分子量を有すること、及び
(iii)D’’は、,000から0,000ダルトンまでの数平均分子量を有すること
の1つ又は複数を満たす、請求項16に記載の濃縮物。
【請求項18】
PA数平均分子量の、D’+D’’数平均分子量の合計に対する比は、.25から.50までである、請求項16に記載の濃縮物。
【請求項19】
D’の数平均分子量とD’’の数平均分子量との比は、.4:1から.0:1まで、又は.00:1から0.0:1までである、請求項16に記載の濃縮物。
【請求項20】
前記希釈油は、グループIIベースストック、グループIIIベースストック、及び/又はグループIVベースストックを含む、請求項13に記載の濃縮物。
【請求項21】
前記濃縮物のKV100は、000cStから000cStまでである、請求項13に記載の濃縮物。
【請求項22】
少なくとも85%の0℃ビーカー流出及び/又は少なくとも1.5のtanδを有し、前記ビーカー流出が、80℃(±1℃)における、24時間にわたる、水平台表面に対して96°の角度に配向された600mLビーカーからの組成物のバルク流動であり、tanδが、組成物の損失弾性率(G’’)の貯蔵弾性率(G’)に対する比(G’’/G’)である、請求項13に記載の濃縮物。
【請求項23】
無灰分散剤、界面活性剤、抗摩耗剤、抗酸化剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、消泡剤、シール膨潤制御剤、又はそれらの組合せの1つ若しくは複数を更に含む、請求項13に記載の濃縮物。
【請求項24】
質量%から質量%までの希釈油;及び
5質量%から質量%までの、式:
D’-PA-D’’
により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含むVM濃縮物であって、
式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、前記線状トリブロックコポリマーは、最大で0.5の増粘効率範囲を示し、前記濃縮物のおよそ100℃での潤滑動粘度(KV100)を調整するのに有効な量で存在し、
前記希釈油のKV100は、cStから0cStまでであり、前記濃縮物のKV100は、000cSt若しくはそれよりも低く、前記増粘効率範囲が、Yubase 4、GTL 4、PAO 4及びStar 4のいずれか1つから選択される希釈油中の線状トリブロックコポリマーの最大増粘効率と、Yubase 4、GTL 4、PAO 4及びStar 4のいずれか1つから選択される希釈油中の前記線状トリブロックコポリマーの最小増粘効率の差である、濃縮物。
【請求項25】
前記線状トリブロックコポリマーの有効量は、前記濃縮物が6.0質量%から14質量%までの前記線状トリブロックコポリマーを含む量である、請求項24に記載の濃縮物。
【請求項26】
前記D’及びD’’ジエンは各々個々に,ブタジエン、イソプレン、及びそれらの混合物を含むが、互いに同一ではなく、前記D’及びD’’ブロックは、重合後に実質的に水素化されている、請求項24に記載の濃縮物。
【請求項27】
D’は、0,000ダルトンから5,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、PAは、0,000ダルトンから5,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’’は、,800から0,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’の数平均分子量とD’’の数平均分子量との比は、.0:1から0:1までである、請求項26に記載の濃縮物。
【請求項28】
前記線状トリブロックコポリマーは、グループIII希釈油中で少なくとも1.8の平均増粘効率を示す、請求項24に記載の濃縮物。
【請求項29】
前記希釈油は、グループIIベースストック、グループIIIベースストック、及び/又はグループIVベースストックを含む、請求項24に記載の濃縮物。
【請求項30】
前記希釈油は、グループIIベースストック及び/又はグループIIIベースストックを含む、請求項29に記載の濃縮物。
【請求項31】
前記濃縮物のKV100は、00cStから600cStまでである、請求項24に記載の濃縮物。
【請求項32】
少なくとも87%の0℃ビーカー流出及び/又は少なくとも1.8のtanδを有し、前記ビーカー流出が、80℃(±1℃)における、24時間にわたる、水平台表面に対して96°の角度に配向された600mLビーカーからの組成物のバルク流動であり、tanδが、組成物の損失弾性率(G’’)の貯蔵弾性率(G’)に対する比(G’’/G’)である、請求項24に記載の濃縮物。
【請求項33】
無灰分散剤、界面活性剤、抗摩耗剤、抗酸化剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、消泡剤、シール膨潤制御剤、又はそれらの組合せの1つ若しくは複数を更に含む、請求項24に記載の濃縮物。
【請求項34】
請求項1に記載のVM濃縮物のおよそ100℃での動粘度(KV100)を調整するための方法であって、前記濃縮物に、式:
D’-PA-D’’
により特徴付けられる有効量の前記線状トリブロックコポリマーを添加することを含み、
D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、
前記有効量の前記線状トリブロックコポリマーは、前記濃縮物の少なくとも6.0質量%を構成し、前記濃縮物のKV100は、000cSt若しくはそれよりも低い、方法。
【請求項35】
請求項13に記載の濃縮物のおよそ100℃での動粘度(KV100)を調整するための方法であって、前記濃縮物に、式:
D’-PA-D’’
により特徴付けられる有効量の前記線状トリブロックコポリマーを添加することを含み、
D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、
前記有効量の前記線状トリブロックコポリマーは、前記濃縮物の少なくとも9.5質量%を構成し、前記濃縮物のKV100は、000cSt若しくはそれよりも低い、方法。
【請求項36】
請求項24に記載のVM濃縮物のおよそ100℃での動粘度(KV100)を調整するための方法であって、前記濃縮物に、式:
D’-PA-D’’
により特徴付けられる有効量の前記線状トリブロックコポリマーを添加することを含み、
式中、
D’は、ジエンに由来するブロックを表し、
PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、
D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、
前記線状トリブロックコポリマーは、最大で0.5の増粘効率範囲を示し、
前記有効量の前記線状トリブロックコポリマーを含む前記濃縮物のKV100は、000cSt若しくはそれよりも低い、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、乗用車エンジン、高耐久性ディーゼルエンジン、及び船舶ディーゼルエンジン用の潤滑油組成物を含む潤滑油組成物のための、マニュアル/オートマティックトランスミッション流体等の機能性流体中の粘度調整剤/粘度指数向上剤として使用するのに好適なトリブロックコポリマーが開示される。トリブロックコポリマーは、濃縮物の形態で存在してもよく、任意選択で1つ又は複数の他の潤滑剤添加剤と共に存在してもよく、又は潤滑油組成物及び/若しくは機能性流体中の成分として存在してもよい。より詳しくは、ある線状トリブロックポリマーは、特定のアーキテクチャー及び望ましい増粘効率(又は一連のベースストック中での増粘効率の範囲)を示すことができ、そのようなポリマーが組み込まれている濃縮物は、合理的な動粘度を示すことができる。
【背景技術】
【0002】
クランクケースエンジンオイルに使用される潤滑油は、エンジンオイルの粘度性能を向上させるために、つまり、XXが20、30、若しくは40であるSAE 5W-XX及び10W-XXマルチグレードオイル、又はXXが08、12、16、若しくは20である0W-XXグレードオイル等のマルチグレードオイルを提供するために使用される成分を含む。一般的に粘度指数向上剤(VII)又は粘度調整剤(VM)と呼ばれるこうした粘度性能増強剤としては、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、スチレン/水素化合ジエンブロック及び星形コポリマー、並びに水素化イソプレン星形ポリマーが挙げられる。
【0003】
粘度指数向上剤として使用されるオレフィンコポリマー(又はOCP)は、従来、エチレン、プロピレン、及び任意選択でジエンのコポリマーを含み、高温のオイルにおいて良好な増粘効果(増粘効率、又はTE)を提供する。また、ある(コ)ポリマーは、優れた増粘効率を提供し、使用がより耐久性であり得る(例えば、より高い剪断安定性指数を示すことができる)。
星形ポリマーVII型は、市販されており、剪断安定性、溶解性、及び仕上げ易さ、増粘効率、及び低温特性の最適なバランスを提供する星形ポリマーを開発するために、多大な研究がなされている。一部の場合では、星形ポリマーは、ある特性に合わせるためにマルチブロックコポリマーアームを含んでいてもよい。
例えば、米国特許第9,133,413号明細書には、星形ポリマー、及び星形ポリマーがそれからVIIとして製作される線状トリブロックコポリマーアームが両方とも記載されている。そうしたトリブロックコポリマーアームは、5~35質量%/65~95質量%のブタジエン/イソプレン(好ましくは15~28質量%のブタジエン)を有するジエンブロックを含む。また、米国特許第4,788,361号明細書及び第5,458,792号明細書には、対称性トリブロックコポリマー及び非対称性トリブロックコポリマーが、それぞれ潜在的なVII/VMとして開示されている。
VIIは、一般的に、濃縮物として潤滑油配合業者に提供され、そこでVIIポリマーが油で希釈され、とりわけベースストック油へのVIIの溶解が可能になる。ある希釈油への溶解度には制限があるため、線状アルケニルアレーン/水素化ジエンブロックコポリマーVM濃縮物は、通常、星形コポリマー又はオレフィンコポリマー濃縮物と比較して、より低い活性ポリマー濃度を有し、より大きな取扱性問題を示す。線状アルケニルアレーン/水素化ジエンブロックコポリマーの機能化は、希釈剤溶解度問題を更に悪化させる。典型的な線状スチレン/水素化ジエンブロックコポリマーVM濃縮物は、3質量%と少量の活性成分しか含まない場合があり(AI/ポリマー、残部は希釈油である)、こうしたポリマーの濃度が高くなると共に、典型的には、潤滑剤が配合される温度における濃縮物の流動性の低減がもたらされる。典型的なマルチグレードクランクケース潤滑油調合物は、ポリマーの増粘効率(TE)に応じて、3質量%ものVMポリマーを必要とする場合がある。この量のポリマーを提供する添加剤濃縮物では、完成潤滑剤の総質量に基づき、20質量%もの希釈油を導入することができる。
【0004】
添加剤産業は価格の観点で非常に競争が激しく、希釈油は、添加剤製造業者の最も大きな原料コストの1つであり、VM濃縮物は、一般的に、好適な取扱特徴を提供することが可能な最も安価な油、通常は溶媒ニュートラル(SN、solvent neutral)100又はSN150グループI油を含んでいる。そのような従来のVM濃縮物を使用する場合、完成潤滑剤調合業者は、比較的高品質のベースストック油(グループII又はそれよりも高品質)を補正流体として添加して、調合された潤滑剤の粘度性能が仕様内に留まることを保証する必要がある。
【0005】
粘度指数向上ポリマーに関して、ポリマーの粘度指数を増加させることは、燃料経済性に影響を及ぼす傾向があり得る少数の要因の1つである。粘度指数、即ちVIは、40℃及び100℃で測定される、物質の動粘度に依存する経験的数値であり、ASTM D2270に準じて算出される。より高いVIは、粘度が温度と共に減少変化を示す場合があり、燃料経済性性能の向上と相関する場合がある。具体的には、より高いVI粘度指数向上剤は、40℃にてより低い動粘度を示すことができ、これは、40℃の低剪断粘度にて摩擦損失の低減をもたらす場合があり、それにより燃料経済性の向上に寄与する。最大の燃料経済性利益のため、粘度指数向上剤は、一連の低及び高剪断レジームにわたって及び稼働温度の全範囲にわたって、粘度低減に対する寄与を提供することができる。
潤滑油性能基準は、より厳しくなっており、便利に及び対費用効果よく全体的な潤滑剤性能を向上させることが可能な成分を特定するための継続的な必要性が存在している。従って、増加された活性成分(ポリマー)濃度を有するが、潤滑剤が典型的に配合される温度にて許容される流動特性を維持する線状アルケニルアレーン/水素化合ジエンブロックコポリマーVM濃縮物を提供することができることが有利であろう。また、そのようなコポリマーは、組成柔軟性、増粘効率、粘度指数、及び恐らく最も重要なのは、好ましくは異なるタイプ又はグループのベースストック/希釈剤にわたって比較的均一に、ゲル化せずに濃縮物中で増粘する能力等の有利な特性の特定の混合物を提供することが有利であろう。
【発明の概要】
【0006】
本開示の態様によると、潤滑油組成物用の粘度指数向上剤又は粘度調整剤として使用に好適なクラスのポリマーであって、ジエンに由来する2つの部分的に又は完全に水素化されたブロック(D’及びD’’)間に位置するモノアルケニルアレーンモノマー(PA)に由来するブロックを含む線状トリブロックコポリマーを含むポリマーが提供される。VM濃縮物は、約60部から約95部までの希釈油;及び約5部から約40部までの、式D’-PA-D’’により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含んでいてもよい。線状トリブロックコポリマーは、濃縮物の、およそ100℃での潤滑動粘度(KV100)を調整するのに有効な量で存在することができ、濃縮物は、少なくとも50質量%の希釈油及び少なくとも6.0質量%の線状トリブロックコポリマーを含むことができる。有利には、希釈油のKV100は、約2cStから約40cStまでであってもよく、濃縮物のKV100は、約2000cSt未満であってもよく、任意選択で、濃縮物は、少なくとも87%の約80℃ビーカー流出(beaker pour)、及び/又は少なくとも1.8のtanδを有してもよい。
それに加えて又はその代わりに、本開示は、約60部から約90部までの希釈油;及び約10部から約40部までの、式D’-PA-D’’により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含むVM濃縮物を提供する。線状トリブロックコポリマーは、濃縮物のKV100を調整するのに有効な量で存在することができ、濃縮物は、少なくとも50質量%の希釈油及び少なくとも9.5質量%の線状トリブロックコポリマーを含むことができる。有利には、希釈油のKV100は、約2cStから約40cStまでであってもよく、濃縮物のKV100は、約3000cSt未満であってもよく、任意選択で、濃縮物は、少なくとも85%の約80℃ビーカー流出及び/又は少なくとも1.5のtanδを有してもよい。
更に、それに加えて又はその代わりに、本開示は、約60部から約95部までの希釈油;及び約5部から約40部までの、式D’-PA-D’’により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含むVM濃縮物を提供する。線状トリブロックコポリマーは、濃縮物のKV100を調整するのに有効な量で存在することができ、最大で0.5の増粘効率範囲を示してもよく、任意選択で、グループIII潤滑油での平均増粘効率は、少なくとも1.8である。有利には、希釈油のKV100は、約2cStから約40cStまでであってもよく、濃縮物のKV100は、約2000cSt未満であってもよく、任意選択で、濃縮物は、少なくとも87%の約80℃ビーカー流出及び/又は少なくとも1.8のtanδを有してもよい。
【0007】
本開示の別の態様では、前述の態様の1つ又は複数による濃縮物の、およそ100℃での動粘度(KV100)を調整するための方法であって、本開示による有効量の線状トリブロックコポリマーを濃縮物に添加することを含む方法が提供される。関連して又は別の態様として、本開示による線状トリブロックコポリマーは、例えば、線状トリブロックコポリマーを含む組成物により潤滑されるオートマティック又はマニュアルトランスミッションにおいて摩耗を制御又は低減するための使用を有してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の線状トリブロックコポリマーは、式:
D’-PA-D’’
により特徴付けられてもよく、
式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表わし、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表わし、D’’は、ジエンに由来するが、典型的にはD’と同一ではない(分子量が、化学的組成が、又はその両方が)ブロックを表す。
【0009】
本開示のVM濃縮物は、およそ100℃での潤滑動粘度(KV100)により特徴付けられてもよく、約60部から約95部までの(例えば、約60部から約90部までの)希釈油;及び約5部から約40部までの(例えば、約10部から約40部までの)本開示の線状トリブロックコポリマーを含んでいてもよい。希釈油は、有利には、濃縮物の大部分を構成していてもよい(つまり、濃縮物は、50質量%よりも多くの希釈油成分を含む)。更に、線状トリブロックコポリマーは、有利には、濃縮物のKV100を調整するのに有効な量で存在していてもよい。
例えば、有効量は、濃縮物が少なくとも5.5質量%の線状トリブロックコポリマーを含むことができる量であってもよい(例えば、少なくとも約5.8質量%、少なくとも約6.0質量%、少なくとも約6.3質量%、少なくとも約6.5質量%、少なくとも約6.8質量%、少なくとも7.0質量%、少なくとも7.3質量%、少なくとも7.5質量%、少なくとも約7.8質量%、少なくとも約8.0質量%、少なくとも約8.3質量%、少なくとも約8.5質量%、少なくとも8.8質量%、少なくとも約9.0質量%、少なくとも約9.3質量%、少なくとも約9.5質量%、少なくとも約9.8質量%、少なくとも約10質量%、少なくとも約11質量%、又は少なくとも約12質量%)。それに加えて又はその代わりに、有効量は、濃縮物が最大で約40質量%の線状トリブロックコポリマーを含むことができる量であってもよい(例えば、最大で約38質量%、最大で約35質量%、最大で約33質量%、最大で約30質量%、最大で約28質量%、最大で約25質量%、最大で約23質量%、最大で約20質量%、最大で約18質量%、最大で約17質量%、最大で約16質量%、最大で約15質量%、最大で約14質量%、最大で約13質量%、最大で約12質量%、最大で約11質量%、最大で約9.9質量%、最大で約9.7質量%、最大で約9.5質量%、最大で約9.3質量%、最大で約9.0質量%、最大で約8.8質量%、最大で約8.5質量%、最大で約8.3質量%、最大で約8.0質量%、最大で約7.8質量%、又は最大で約7.5質量%)。特に、濃縮物は、少なくとも6.0質量%、少なくとも9.5質量%、5.5質量%から14質量%まで、6.0質量%から14質量%まで、又は9.5質量%から14質量%までの線状トリブロックコポリマーを含んでいてもよい。
【0010】
希釈油成分及び線状トリブロックコポリマーを両方とも含む濃縮物のKV100は、有利には、約3000cSt又はそれよりも低くてもよい(例えば、約2500cSt若しくはそれよりも低く、約2000cSt若しくはそれよりも低く、約1900cSt若しくはそれよりも低く、約1800cSt若しくはそれよりも低く、約1700cSt若しくはそれよりも低く、約1600cSt若しくはそれよりも低く、約1550cSt若しくはそれよりも低く、約1500cSt若しくはそれよりも低く、約1450cSt若しくはそれよりも低く、約1400cSt若しくはそれよりも低く、約1350cSt若しくはそれよりも低く、約1300cSt若しくはそれよりも低く、約1250cSt若しくはそれよりも低く、約1200cSt若しくはそれよりも低く、約1150cSt若しくはそれよりも低く、約1100cSt若しくはそれよりも低く、約1050cSt若しくはそれよりも低く、約1000cSt若しくはそれよりも低く、約950cSt若しくはそれよりも低く、約900cSt若しくはそれよりも低く、約850cSt若しくはそれよりも低く、約800cSt若しくはそれよりも低く、約750cSt若しくはそれよりも低く、約700cSt若しくはそれよりも低く、又は約650cSt若しくはそれよりも低い)。任意選択で、希釈油成分及び線状トリブロックコポリマーを両方とも含む濃縮物のKV100は、少なくとも約100cStであってもよい(例えば、少なくとも約200cSt、少なくとも約300cSt、少なくとも約400cSt、少なくとも約500cSt、少なくとも約550cSt、少なくとも約600cSt、少なくとも約650cSt、少なくとも約700cSt、少なくとも約750cSt、少なくとも約800cSt、少なくとも約850cSt、少なくとも約900cSt、少なくとも約950cSt、少なくとも約1000cSt、少なくとも約1050cSt、少なくとも約1100cSt、少なくとも約1150cSt、少なくとも約1200cSt、又は少なくとも約1250cSt)。特に、濃縮物のKV100は、約3000cSt若しくはそれよりも低くてもよく、約2000cSt若しくはそれよりも低くてもよく、約1600cSt若しくはそれよりも低くてもよく、100cStから3000cStまでであってもよく、100cStから2000cStまでであってもよく、100cStから1600cStまでであってもよく、1000cStから2000cStまでであってもよく、又は500cStから2000cStまでであってもよい。
【0011】
ジエンに由来するD’及びD’’ブロックは、類似していてもよく又は異なっていてもよいが、各D’及びD’’は個々に、ブタジエン、イソプレン、及びそれらの混合物を含んでいてもよい。一部の実施形態では、D’及びD’’ジエンブロックは、ほとんど又は実質的にイソプレンモノマーに由来してもよい。例えば、D’及びD’’ジエンは、各々個々に少なくとも約85質量%のイソプレン(例えば、少なくとも約88質量%、少なくとも約90質量%、少なくとも約92質量%、少なくとも約94質量% 少なくとも約96質量%、少なくとも約97質量%、少なくとも約98質量%、少なくとも約99質量%、少なくとも約99.5質量%、又は少なくとも約99.9質量%)及び/又は約14質量%以下のブタジエン(例えば、約12質量%以下、約10質量%以下、約8質量%以下、約6質量%以下、約4質量%以下、約3質量%以下、約2質量%以下、約1質量%以下、約0.5質量%以下、又は約0.1質量%以下)を含んでいてもよい。そのような実施形態では、特に、D’及びD’’ジエンは各々個々に、少なくとも約97質量%のイソプレン及び/又は約3質量%以下のブタジエンを含んでいてもよい。ブロックD’及びD’’は、有利には、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%)の重合化ジエン不飽和を除去するように水素化されていてもよく、典型的には重合後に実質的に又は完全に水素化されていてもよい。
【0012】
他の実施形態では、ジエンブロックD’及びD’’の少なくとも1つ(又は一部の場合では、各々)は、混合ジエンモノマーに由来するコポリマーブロックであって、約65質量%から約95質量%までの組込みモノマー単位がイソプレンに由来し、約5質量%から約35質量%までの組込みモノマー単位がブタジエンに由来し、ブタジエンの少なくとも約80質量%(又は少なくとも90質量%)が、1,4-配置で組み込まれているコポリマーブロックであってもよい。あるそのような実施形態では、少なくとも約15質量%の組込みモノマー単位は、ブタジエンモノマー単位であってもよく、及び/又は約25質量%以下の組込みモノマー単位は、有利には、ブタジエンモノマー単位であってもよい。そのような実施形態では、ジエンブロックD’及びD’’の少なくとも1つ(又は一部の場合では、各々)は、ランダムコポリマーブロックであってもよい。
【0013】
本発明の線状トリブロックコポリマーの前駆体として使用されるイソプレンモノマーは、1,4-配置若しくは3,4-配置のいずれかの又はそれらの混合物のトリブロックコポリマーに組み込まれていてもよい。好ましくは、イソプレンの大部分(つまり、50質量%よりも多い)は、例えば、約60質量%よりも多く、約70質量%よりも多く、約80質量%よりも多く、約90質量%よりも多く、約95質量%よりも多く、約97質量%よりも多く、約98質量%よりも多く、又は約99質量%よりも多く、最大でおよそ100質量%が、各々個々のブロック/コポリマーに1,4-単位として組み込まれていてもよい。例えば、約55質量%から約100質量%まで(約60質量%から約100質量%まで、約65質量%から約100質量%まで、約70質量%から約100質量%まで、約75質量%から約100質量%まで、約80質量%から約100質量%まで、約85質量%から約100質量%まで、約90質量%から約100質量%まで、約95質量%から約100質量%まで、約97質量%から約100質量%まで、約98質量%から約100質量%まで、又は約99質量%から約100質量%まで等)のイソプレン単位が、各々個々のブロック/コポリマーに1,4-配置で組み込まれていてもよい。D’及び/又はD’’ジエンブロック中の過剰量のポリブタジエン、特に1,2-配置を有するポリブタジエンは、低温ポンパビリティー特性に対して有害効果を示す場合がある。
【0014】
多くの実施形態では、コポリマーのD’及びD’’ブロックは、分子量が互いに同一ではないが、組成は類似していてもよく又は同一であってもよい。
特定の実施形態では、D’ブロックは、約62,000ダルトンから約150,000ダルトンまで(例えば、約63,000ダルトンから約120,000ダルトンまで又は約63,000ダルトンから約95,000ダルトンまで)の数平均分子量を示してもよく、D’’ブロックは、約5,000から約80,000ダルトンまで(例えば、約20,000ダルトン~約75,000ダルトン)の数平均分子量を示してもよい。
別の特定の実施形態では、D’ブロックは、約20,000ダルトンから約60,000ダルトンまで(例えば、約25,000ダルトンから約50,000ダルトンまで)の数平均分子量を示してもよく、D’’ブロックは、約5,000から約40,000ダルトンまで(例えば、約7,000ダルトン~約20,000のダルトン)の数平均分子量を示してもよい。
上述の特定の実施形態のいずれか又は両方では、PAブロックは、約8,000ダルトンから約70,000ダルトンまでの、例えば、約8,000ダルトンから約60,000ダルトンまで、約8,000ダルトンから約50,000ダルトンまで、約8,000ダルトンから約40,000ダルトンまで、約8,000ダルトンから約36,000ダルトンまで、約8,000ダルトンから約35,000ダルトンまで、約8,000ダルトンから約30,000ダルトンまで、約8,000ダルトンから約25,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約70,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約60,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約50,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約40,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約36,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約35,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約30,000ダルトンまで、約10,000ダルトンから約25,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約70,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約60,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約50,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約40,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約36,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約35,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約30,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約25,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約70,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約60,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約50,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約40,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約36,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約35,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約30,000ダルトンまで、約20,000ダルトンから約25,000ダルトンまで、約25,000ダルトンから約70,000ダルトンまで、約25,000ダルトンから約60,000ダルトンまで、約25,000ダルトンから約50,000ダルトンまで、約25,000ダルトンから約40,000ダルトンまで、約25,000ダルトンから約36,000ダルトンまで、約25,000ダルトンから約35,000ダルトンまで、又は約25,000ダルトンから約30,000ダルトンまでの数平均分子量を示してもよい。特に、PAブロックは、約10,000ダルトンから約40,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約35,000ダルトンまで、約15,000ダルトンから約50,000ダルトンまで、又は約20,000ダルトンから約36,000ダルトンまでの数平均分子量を示してもよい。
【0015】
それに加えて又はその代わりに、本開示による線状トリブロックコポリマーでは、PAブロック数平均分子量の、D’+D’’ブロック数平均分子量の合計に対する比は、約0.25から約0.50まで、例えば、約0.25から約0.45まで、約0.25から約0.40まで、約0.25から約0.35まで、約0.25から約0.30まで、約0.30から約0.50まで、約0.30から約0.45まで、約0.30から約0.40まで、約0.30から約0.35まで、約0.35から約0.50まで、約0.35から約0.45まで、約0.35から約0.40まで、約0.40から約0.50まで、約0.40から約0.45まで、又は約0.45から約0.50までであってもよい。
【0016】
更に、それに加えて又はその代わりに、本開示による線状トリブロックコポリマーでは、ジエンブロックの数平均分子量間には関係性が存在してもよい。例えば、実施形態では、D’ブロック数平均分子量とD’’ブロック数平均分子量との比は、1.00:1よりも高く、最大で約1.25:1であってもよい。しかしながら、別の実施形態では、D’ブロック数平均分子量とD’’ブロック数平均分子量との比は、約1.4:1から約3.0:1までであってもよい。更に別の実施形態では、D’ブロック数平均分子量とD’’ブロック数平均分子量との比は、約6.0:1から約30:1までであってもよい。
用語「数平均分子量」は、本明細書で使用される場合、比較的単分散性のポリスチレン標準物質を使用して、およそ40℃でのテトラヒドロフラン(THF)溶離液でのゲル浸透クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィーとしても知られている「GPC」、又は「SEC」)により測定される数平均分子量を指すと理解されるべきである。ジエンブロックD’及びD’’の分子量(例えば、数平均分子量)は、本明細書では、重合後に実施することができる任意の水素化前に測定したものとして報告される。
【0017】
好適なモノアルケニルアレーンモノマーとしては、スチレン、モノビニルナフチレン等のモノビニル芳香族化合物、並びにo-、m-、及びp-メチルスチレン、アルファ-メチルスチレン、エチルスチレン(特に、p-エチルスチレン)、プロピルスチレン(特に、p-イソプロピルスチレン)及び三級ブチルスチレン(特に、パラ-t-ブチルスチレン)等の、それらのアルキル化誘導体が挙げられる。特に、モノアルケニルアレーンは、スチレンを含んでいてもよく、又はスチレンであってもよい。
【0018】
本開示の線状トリブロックコポリマーは、約25,000ダルトンから約1,000,000ダルトンまで、例えば、約40,000ダルトンから約500,000ダルトンまで、又は約50,000ダルトンから約200,000ダルトンまでの全数平均分子量(D’、PA、及びD’’ブロックの数平均分子量の付加組合せ)を有していてもよい。
例えば、本開示の線状トリブロックコポリマーは、米国特許第RE27,145号明細書及び第4,116,917号明細書に記載のように、アニオン開始剤の存在下の溶液中でのアニオン重合によりリビングポリマーとして形成することができる。例示的な開始剤は、(モノ)リチウム炭化水素を含んでいてもよく又は(モノ)リチウム炭化水素であってもよい。好適なリチウム炭化水素としては、アリルリチウム、メタリルリチウム等の不飽和化合物;フェニルリチウム、トリルリチウム、キシリルリチウム、及びナフチルリチウム等の芳香族化合物、並びに特に、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、アミルリチウム、ヘキシルリチウム、2-エチルヘキシルリチウム、及びn-エチルヘキシルリチウム等のアルキルリチウムを挙げることができる。特に、開始剤は、二級ブチルリチウムを含んでいてもよく又は二級ブチルリチウムであってもよい。開始剤は、任意選択で追加のモノマーと共に、2段階又はそれよりも多くの段階で重合混合物に添加してもよい。
本開示の線状トリブロックコポリマーは、モノマーの段階的重合により、例えば、2つのジエンブロックの1つを重合させ、続いて他のモノマー(具体的には、モノアルケニルアレーンモノマーを含むか又はモノアルケニルアレーンモノマーである)を添加し、続いて2つのジエンブロックの2つ目の重合を行って、式:ポリジエンブロック-ポリ(アルケニルアレーン)ブロック-ポリジエンブロックを有するリビングポリマーを形成することにより調製することができ、好ましくは調製してもよい。
【0019】
D’及びD’’のいずれか又は両方は、ポリイソプレン/ポリブタジエンコポリマー等のランダムジエンコポリマーであることが望ましく、リビングポリジエンコポリマーブロックは、適切な重合制御の非存在下では、米国特許第7,163,913号明細書に記載のように、ランダムコポリマーにはならず、その代わりにポリブタジエンブロック、ブタジエン及びイソプレン付加産物を両方とも含むテーパーセグメント、並びにポリイソプレンブロックを含むことになるだろう。ランダムコポリマーを調製するために、反応性がより高いブタジエンモノマーを、反応性がより低いイソプレンを含む重合反応混合物に,重合混合物中のモノマーのモル比が必要なレベルに維持されるように徐々に添加してもよい。重合混合物に共重合させようとするモノマーの混合物を徐々に添加することにより、必要なランダム化を達成することも可能である。また、リビングランダムコポリマーは、いわゆるランダム化剤の存在下で重合を実行することにより調製することができる。ランダム化剤は、重合プロセスを実質的に不活化せず、モノマーがポリマー鎖に組み込まれる様式をランダム化させる傾向がある極性化合物を含んでいてもよく又は極性化合物であってもよい。好適なランダム化剤としては、以下のものを挙げることができるが、必ずしもそれらに限定されない:トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、キノリン、N-エチル-ピペリジン、N-メチルモルホリン等の三級アミン;ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジ-n-プロピルスルフィド、ジ-n-ブチルスルフィド、メチルエチルスルフィド等のチオエーテル;並びに特に、ジメチルエーテル、メチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-オクチルエーテル、ジ-ベンジルエーテル、ジ-フェニルエーテル、アニソール、1,2-ジメチルオキシエタン、o-ジメチルオキシベンゼン、及びテトラヒドロフラン等の環状エーテル等のエーテル。
【0020】
制御されたモノマー付加及び/又はランダム化剤の使用でさえ、ポリマー鎖の開始部分及び末端部分は、それぞれ反応性がより高いモノマー及び反応性がより低いモノマーに由来する「ランダム」量よりも多くのポリマーを有してもよい。従って、本発明の目的では、用語「ランダムコポリマー」は、それらの圧倒的多数(例えば、90%よりも多い又は95%よりも多い等、80%よりも多い)が、コモノマー物質のランダム付加に起因するポリマー鎖又はポリマーブロックを意味する。
【0021】
リビングポリマーを形成することができる溶媒としては、炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2-エチルヘキサン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等、若しくはそれらの組合せ等の脂肪族炭化水素、及び/又は例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン等、若しくはそれらの組合せ等の芳香族炭化水素等、比較的不活性な液体溶媒を挙げることができる。シクロヘキサンは、特に例示的である。それに加えて又はその代わりに、炭化水素、例えば潤滑油の混合物を使用してもよい。
リビング重合が実施される温度は、約-50℃から約150℃まで等の、約20℃から約80℃まで等の、幅広い範囲内で様々であってもよい。反応は、好適には、窒素下等の比較的不活性な雰囲気下で実施してもよく、任意選択で、圧力下、例えば、約0.5barから約10barまでの圧力下で実施してもよい。
また、リビングポリマーを調製するために使用される開始剤の濃度は、幅広い範囲内で様々であってもよく、有利には、リビングポリマーの所望の分子量により導かれてもよい。
【0022】
その後、得られた線状ブロックコポリマーを、任意の好適な手段を使用して水素化することができる。水素化触媒、例えば、銅又はモリブデン化合物を使用してもよい。それに加えて又はその代わりに、貴金属又は貴金属含有化合物を含む触媒を使用することができる。例示的な水素化触媒は、元素の周期表のVIII族の非貴金属又は非貴金属含有化合物、例えば、鉄、コバルト、及び/若しくは特にニッケルを含む。水素化触媒の具体的だが非排他的な例としては、ラネーニッケル及びニッケル担持珪藻土を挙げることができる。特に好適な水素化触媒は、金属ヒドロカルビル化合物を、VIII族金属である鉄、コバルト、及び/又はニッケルのいずれかの有機化合物と反応させることにより得られるものであってもよく、後者の化合物は、例えば英国特許第1,030,306号明細書に記載のように、酸素原子を介して金属原子に付着されている少なくとも1つの有機化合物を含む。ある状況では、アルミニウムトリアルキル(例えば、アルミニウムトリエチル(Al(Et3))又はアルミニウムトリイソブチル)を、有機酸のニッケル塩(例えば、ニッケルジイソプロピルサリチレート、ナフテン酸ニッケル、ニッケル2-エチルヘキサノアート、ニッケルジ-tert-ブチルベンゾアート、分子中に4から20個までの炭素原子を有するオレフィンを、酸触媒の存在下で一酸化炭素及び水と反応させることにより得られる飽和モノカルボン酸のニッケル塩等)、又はニッケルエノラート若しくはフェノラート(例えば、ニッケルアセ(トニル)チルアセトネート(nickel acet(on)ylacetonate)、ブチルアセトフェノンのニッケル塩等)と反応させることにより得られる水素化触媒に優先性を与えることができる。好適な水素化触媒は、当業者に周知であるはずであり、上述のリストは、網羅的であることは必ずしも意図されていない。
【0023】
本開示のブロックコポリマーの水素化は、例えば、水素化反応中に比較的又は実質的に不活性である溶媒等の溶液中で、適切に実施することができる。飽和炭化水素及び/又は飽和炭化水素の混合物は、好適な溶媒であり得る。有利には、水素化溶媒は、重合が実施される溶媒と同じであってもよく、又は重合が実施される溶媒と混和性であってもよい(例えば、重合溶媒中にあるものと同じ1つ又は複数の成分を含む)。典型的には、水素化プロセスが実施される場合、元のオレフィン不飽和の少なくとも50モル%、例えば、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、少なくとも99.5モル%、少なくとも99.9モル%、又は実質的に全てが、そのプロセスで水素化されてもよい。
【0024】
それに加えて又はその代わりに、本開示の線状ブロックコポリマーは、オレフィン飽和が上記のように水素化されるが、芳香族不飽和がより少ない程度に水素化されるように、選択的に水素化することができる。ある実施形態では、芳香族不飽和の15%未満(例えば、10%未満又は5%未満)を、プロセス中に水素化してもよい。選択的水素化技法も当業者に周知であり、例えば、米国特許第3,595,942号明細書、第RE27,145号明細書、及び第5,166,277号明細書に記載されている。
その後、ポリマーを、溶媒を蒸発させることによる等の任意の便利な手段により、例えば、固形物として又は濃縮された液体形態で、それが水素化された溶媒から回収することができる。その代わりに、油(例えば、潤滑油)等の抽出剤を溶液に添加し、そのようにして形成された混合物から溶媒を除去して、濃縮物を提供してもよい。好適な濃縮物は、約3質量%から約25質量%まで(例えば、特に、約5質量%から約23質量%、約6質量%から約20質量%まで、約6.5質量%から約20質量%まで、又は約6.5質量%から約15質量%まで)の線状トリブロックコポリマーを含んでいてもよい。
【0025】
本開示の線状トリブロックコポリマーは、有利には、乗用車エンジン及び高耐久性ディーゼルエンジン用の、例えば、クランクケース用の潤滑油組成物の調合に、並びにマニュアル及び/又はオートマティックトランスミッション流体の調合に使用することができる。潤滑油組成物は、有利には、線状トリブロックコポリマーの濃縮物及び潤滑粘度の希釈油成分、及び任意選択で、必要とされる特性を潤滑油組成物/トランスミッション流体組成物に提供するのに必要な他の添加剤を含んでいてもよく、VM濃縮物の量及び/又は線状トリブロックコポリマーの濃縮された量は、望ましくは潤滑油組成物の粘度指数を調整するのに有効である。例えば、関連応用のために濃縮形態から希釈された後、潤滑油組成物及びトランスミッション流体組成物は、完全に調合された潤滑油組成物/トランスミッション流体組成物中の活性成分(AI)の質量パーセントとして表記して、約0.1質量%から約2.5質量%まで、例えば、約0.3質量%から約1.5質量%まで、又は約0.4質量%から約1.3質量%までの量の本開示の線状ブロックコポリマーを含んでいてもよい。本開示の線状トリブロックコポリマーは、唯一のVI向上剤(又はVM)を含んでいてもよく、又は他のVI向上剤と組み合わせて、例えば、ポリイソブチレン、エチレン及びプロピレンのコポリマー(OCP)、ポリメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸及びビニル化合物のコポリマーを含むVI向上剤、スチレン及びアクリル酸エステルのインターポリマー、並びにスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエンの水素化コポリマー、及び他の水素化イソプレン/ブタジエンコポリマー、並びにブタジエン及びイソプレンの部分的水素化ホモポリマーと組み合わせて使用してもよい。
本開示による線状トリブロックコポリマーは、有利には、比較的低い増粘効率(TE)範囲を示すこと等により、一連の異なるタイプ又はグループの希釈油ベースストックにわたって比較的同様の増粘効率を示すことができる。下記に規定されているように、TE範囲測定は、典型的には、少なくとも3つの(好ましくは、少なくとも4つの)タイプの基準油中で線状トリブロックコポリマーの、又は少なくとも3つのグループの基準油(例えば、少なくともグループII油、グループIII油、及びグループIV油)中で少なくとも1つの基準油の増粘効率を測定することを含む。特に、4つの異なるタイプの基準油を、3つのグループ:「標準」グループIII油(例えば、天然ベースストック);「非標準」グループIII油(例えば、合成GTLベースストック);グループII油;及びグループIV油にわたって使用することができる。特に、線状トリブロックコポリマーのTE範囲は、有利には、最大で0.5又は最大で0.4であってもよいが、任意選択で好ましくは、本開示による線状ブロックコポリマーは、少なくとも1.7又は少なくとも1.8の平均グループIII増粘効率(つまり、該当する場合、「標準」及び「非標準」グループIIIベースストックでの増粘効率の単純な数平均)を更に示す。それに加えて又はその代わりに、特に、グループIIベースストック中の線状トリブロックコポリマーの1質量%溶液の粘度指数(ベースストック100グラム当たりの線状ブロックコポリマーのグラム数)は、165若しくはそれよりも低く、150若しくはそれよりも低く、又は140若しくはそれよりも低くてもよい(例えば、少なくとも90)。
【0026】
任意選択だが好ましくは、本開示による線状トリブロックコポリマーは、特に濃縮物の形態では、有利には流動性を示すことができる。ビーカー流出試験は、所定の(proscribed)期間にビーカーから流れ出るVM濃縮物の相対量(質量)を示す。Tanδ試験は、流動性の試料の場合、流動性又はその欠如を示すことができる、組成物/濃縮物の相対的粘弾性応答を示す。従って、適切に低いKV100を有することに加えて、線状トリブロックコポリマー濃縮物は、少なくとも80%(例えば、少なくとも83%、少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、又は少なくとも95%;任意選択で、最大99%又は最大98%)の約80℃ビーカー流出、並びに少なくとも1.0(例えば、少なくとも1.3、少なくとも1.5、少なくとも1.7、少なくとも1.8、少なくとも1.9、少なくとも2.0、少なくとも2.2、少なくとも2.4、少なくとも2.6、少なくとも2.8、少なくとも3.0、少なくとも3.5、少なくとも4.0、少なくとも4.5、又は少なくとも5.0;任意選択で、最大で50、最大で30、又は最大で20)のtanδ(G’’/G’)を示してもよい。
【0027】
本開示の潤滑油組成物の状況に有用な潤滑粘度の希釈油成分は、天然潤滑油、合成潤滑油、及びそれらの混合物から選択することができる。希釈油成分は、ガソリンエンジンオイル、鉱物潤滑油、及び高耐久性ディーゼル油等、軽質留分鉱油から重質潤滑油までの粘度の範囲であってもよい。一般に、希釈油成分の(動)粘度は、つまり、本開示による潤滑油組成物を形成するために線状ブロックコポリマーをそれに付加する前に、約100℃で測定して、約2cStから約40cStまで、特に約4cStから約20cStまでの範囲であってもよい。
天然油成分としては、動物油、植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油等)、液体石油系油、並びに水素化精製されたか、溶媒処理されたか、又は酸処理された、パラフィン型、ナフテン型、及びパラフィン-ナフテン混合型、及びそれらの組合せの鉱油を挙げることができる。それに加えて又はその代わりに、石炭又は頁岩に由来する潤滑粘度の油は、本開示による有用な油成分としての役目を果たす。
合成油成分としては、炭化水素油、並びに重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン))等のハロ置換炭化水素油;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似体、相同体、コポリマー、及び組合せを挙げることができる。
【0028】
アルキレンオキシドポリマー及びインターポリマー並びに末端水酸基がエステル化、エーテル化等により修飾されているそれらの誘導体は、公知の合成潤滑油の別のクラスを構成する。これらは、エチレン及び/若しくはプロピレンオキシド、ポリオキシアルキレンポリマーのアルキル及び/若しくはアリールエーテル(例えば、約1000の(数平均)分子量を有するメチル-ポリイソプロピレングリコールエーテル又は約1000~約1500の(数平均)分子量を有するポリ-エチレングリコールのジフェニルエーテル)、並びに/又はそれらのモノ-及びポリ-カルボキシル酸エステル、例えば、酢酸エステル、混合C3~C8脂肪酸エステル、及びテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルの重合により調製されるポリオキシアルキレンポリマーにより例示される。
【0029】
別の好適なクラスの合成油成分は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のいずれかとのエステルを含む。そのようなエステルの具体的な例としては、アジピン酸ジブチル、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-ヘキシルフマレート、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸を反応させることにより形成される複合エステルが挙げられる。
合成油成分として有用であり得る追加の又は代替のエステルとしては、C5~C12モノカルボン酸及びポリオールから製作されるもの、並びにネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、及びトリペンタエリトリトール等のポリオールエステルを挙げることができる。
ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-、又はポリアリールオキシ-シリコーン油及びシリケート油等のケイ素に基づく油は、別の有用なクラスの合成油成分を含む。そのような油としては、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、ポリ(メチル-フェニル)シロキサン、及びそれらの組合せを挙げることができる。他の追加の又は代替の合成油成分としては、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、デシルホスホン酸のジエチルエステル)及びポリマー性テトラヒドロフランを含んでいてもよい。
【0030】
本開示によるVM濃縮物は、本開示による線状トリブロックコポリマー、希釈油、及び任意選択で流動点降下剤から本質的になっていてもよい(又はからなってもよい)。しかしながら、VM濃縮物は、こうした成分以外のものを含む場合、有利には、分散剤(例えば、無灰分散剤)、界面活性剤、抗摩耗剤、抗酸化剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、泡止剤、シール膨潤制御剤(seal-swelling control agent)、又はそれらの組合せ等の(必ずしもこれらに限定されないが)1つ又は複数の潤滑油組成物添加剤を含むことができる。その代わりに、そのような添加剤の組合せを含むVM濃縮物は、添加剤濃縮物(又はアッドパック(addpack))と呼ばれる場合がある。濃縮物は、任意の添加剤の添加前若しくは添加後に、又は任意の他の添加剤に関わらず、5質量%から25質量%まで(例えば、5質量%から18質量%まで、又は10質量%から15質量%まで)の線状トリブロックコポリマーを含む濃縮物、及び75質量%から95質量%まで(例えば、82質量%から95質量%まで、又は85質量%から90質量%まで)の希釈油を使用することができる。
それ自体又は本開示によるVM濃縮物として、本開示による線状トリブロックコポリマーを含む潤滑油組成物は、類似の添加剤又はアッドパックも含んでいてもよい。
流動点降下剤は、別様には潤滑油流動性向上剤(LOFI)としても知られており、流体が流動することになるか又は流出することができる最低温度を低下させる。そのような添加剤は周知である。流体の低温流動性を向上させることができるそうした添加剤の典型は、C8~C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー、ポリメタクリレート、及びそれらの組合せである。
無灰分散剤は、典型的には、摩耗又は燃焼中の潤滑油組成物の酸化に起因する油不溶物の懸濁を促進する。無灰分散剤は、特にガソリンエンジンでは、スラッジの析出及びワニスの形成の予防に特に有利である。
【0031】
金属含有又は灰形成界面活性剤は、堆積物を低減又は向上させる界面活性剤及び酸中和剤/防錆剤の両方として機能し、それにより摩耗及び腐食を低減し、エンジン寿命を延長させることができる。界面活性剤は、一般に、長い疎水性尾部を有する極性頭部を含み、極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は、実質的に化学論量の金属を含んでいてもよく、その場合、塩は、通常は正塩又は中性塩と記述され、典型的には、0から80までの全塩基価又はTBN(ASTM D2896により測定することができる)を有するだろう。大量の金属塩基は、過剰の金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることにより組み込むことができる。得られる過塩基性界面活性剤は、金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外側層として中和界面活性剤を含んでいてもよい。そのような過塩基性界面活性剤は、150又はそれよりも高い、及び典型的には250から450まで又はそれよりも高いTBNを有していてもよい。
【0032】
ジチオリン酸ジヒドロカルビル金属塩は、潤滑油組成物の抗摩耗剤及び抗酸化剤として頻繁に使用される。金属は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、若しくは銅であってもよい。亜鉛塩は、最も一般的には潤滑油に使用され、公知の技法に従って、例えば、まずジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成することにより、通常は1つ又は複数のアルコール又はフェノールをP25と反応させ、その後形成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより調製することができる。例えば、ジチオリン酸は、一級及び二級アルコールの混合物を反応させることにより製作することができる。その代わりに、一方のヒドロカルビル基の特徴が全体的に二級であり、他方のヒドロカルビル基の特徴が全体的に一級である多重ジチオリン酸を調製することができる。亜鉛塩を製作するため、任意の塩基性又は中性亜鉛化合物を使用することができるが、酸化物、水酸化物、及び炭酸塩が最も一般に使用される。市販の添加剤は、多くの場合、中和反応に過剰の塩基性亜鉛化合物を使用するため、過剰の亜鉛を含む。
酸化防止剤又は抗酸化剤は、潤滑油組成物が使用中に劣化する傾向を低減する。酸化による劣化は、潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニス様堆積物により、及び粘度増加により明白に示される場合がある。そのような酸化防止剤としては、必ずしもこれらに限定されないが、ヒンダードフェノール、C5~C12アルキル側鎖等を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性フェネート及び硫化フェネート、リン硫化炭化水素又は硫化炭化水素、リンエステル、金属チオカルバメート、米国特許第4,867,890号明細書に記載のような油溶性銅化合物、モリブデン含有化合物、及び芳香族アミン等、並びにそれらの組合せ及び/又は反応産物を挙げることができる。
【0033】
公知の摩擦調整剤としては、油溶性有機モリブデン化合物が挙げられる。また、そのような有機モリブデン摩擦調整剤は、潤滑油組成物に抗酸化性及び抗摩耗性を提供することができる。そのような油溶性有機モリブデン化合物の例としては、ジチオカーバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、及びスルフィド等、及びそれらの混合物に言及することができる。特に例示的なものは、モリブデンジチオカーバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、アルキルチオキサンテート、及びそれらの組合せである。
【0034】
それに加えて又はその代わりに、本開示による潤滑油組成物中に存在してもよい他の公知の摩擦調整物質としては、以下のものを挙げることができる:高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、グリセリルモノオレアート;長鎖ポリカルボン酸とジオールとのエステル、例えば、二量化不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;アルコキシル化アルキル置換モノアミン、ジアミン、及びアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化獣脂アミン、及びエトキシル化獣脂エーテルアミン;及びそれらの組合せ。
潤滑油組成物の発泡制御は、ポリシロキサンタイプの消泡剤、例えば、シリコーン油及び/又はポリジメチルシロキサンより提供することができる。
上記で言及されている添加剤の一部は、複数の効果を提供することができ、従って、例えば、単一の添加剤が、分散剤-酸化防止剤として作用する場合もある。この手法は周知であり、本明細書で更に説明する必要はない。
配合物/組成物の粘度の安定性を維持する添加剤を含むことも必要であり得る。従って、極性基含有添加剤は、配合前の段階で適切な低粘度を達成することができるが、一部の組成物は、長期間保管すると「経年変化」するか又は粘性が増加する場合があることが観察されている。この粘度増加/経年変化現象の制御に典型的に有効な添加剤としては、上記に開示されているような、無灰分散剤の調製に使用されるモノ-/ジ-カルボン酸及び/又は無水物との反応により官能化された長鎖炭化水素を挙げることができる。
【0035】
本開示による(クランクケース)潤滑油組成物に使用される場合の、そのような追加の添加剤の代表的な有効量は、下記に列挙されている。
【表1】
【0036】
それに加えて又はその代わりに、本開示は、以下の実施形態の1つ又は複数を含んでいてもよい。
実施形態1. 約60部から約95部までの希釈油;及び約5部から約40部までの、式D’-PA-D’’により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含む粘度調整剤(VM)濃縮物であって、式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロック(例えば、スチレン又はスチレンモノマー)を表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、線状トリブロックコポリマーは、濃縮物のおよそ100℃での潤滑動粘度(KV100)を調整するのに有効な量で存在し、濃縮物は少なくとも50質量%の希釈油を含み、線状トリブロックコポリマーの有効量は、濃縮物が少なくとも6.0質量%の線状トリブロックコポリマーを含む量であり、希釈油のKV100は、約2cStから約40cStまでであり、濃縮物のKV100は、約3000cSt若しくはそれよりも低いか又は約2000cSt若しくはそれよりも低く、少なくとも87%の約80℃ビーカー流出、及び/又は少なくとも1.8tanδを有する濃縮物。
【0037】
実施形態2. 6.0質量%から約13質量%までの線状トリブロックコポリマーを含む、実施形態1に記載の濃縮物。
実施形態3. 濃縮物のKV100は、約1000cSt又はそれよりも低い、実施形態1又は2に記載の濃縮物。
実施形態4. D’は、約62,000ダルトンから約150,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、PAは、約15,000ダルトンから約50,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’’は、約5,000から約80,000ダルトンまでの数平均分子量を有する、実施形態1~3のいずれか一項に記載の濃縮物。
【0038】
実施形態5. (i)D’は、約63,000ダルトンから約95,000ダルトンまでの数平均分子量を有するか、(ii)PAは、約20,000ダルトンから約36,000ダルトンまでの数平均分子量を有するか、又は(iii)(i)及び(ii)の両方である、実施形態1~4のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態6. 約60部から約90部までの希釈油;及び約10部から約40部までの、式D’-PA-D’’により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含むVM濃縮物であって、式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、線状トリブロックコポリマーは、濃縮物のおよそ100℃での潤滑動粘度(KV100)を調整するのに有効な量で存在し、濃縮物は、少なくとも50質量%の希釈油を含み、線状トリブロックコポリマーの有効量は、濃縮物が少なくとも9.5質量%(例えば、9.5質量%から14質量%まで)の線状トリブロックコポリマーを含む量であり、希釈油のKV100は、約2cStから約40cStまでであり、濃縮物のKV100は、約3000cSt若しくはそれよりも低いか又は約2000cSt若しくはそれよりも低く、任意選択で、少なくとも85%の約80℃ビーカー流出及び/又は少なくとも1.5のtanδを有する濃縮物。
【0039】
実施形態7. 濃縮物のKV100は、約1000cStから約2000cStまでである、実施形態6に記載の濃縮物。
実施形態8. D’は、約20,000ダルトンから約60,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、PAは、約10,000ダルトンから約40,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’’は、約5,000から約40,000ダルトンまでの数平均分子量を有する、実施形態6又は実施形態7に記載の濃縮物。
実施形態9. (i)D’は、約25,000ダルトンから約50,000ダルトンまでの数平均分子量を有すること、(ii)PAは、約15,000ダルトンから約35,000ダルトンまでの数平均分子量を有すること、(iii)D’’は、約7,000から約20,000ダルトンまでの数平均分子量を有することの1つ又は複数を満たす、実施形態6~8のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態10. D’の数平均分子量とD’’の数平均分子量との比は、約1.4:1から約3.0:1まで、又は約6.00:1から約20.0:1までである、実施形態6~9のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態11. 約60部から約95部までの希釈油;及び約5部から約40部までの、式D’-PA-D’’により特徴付けられる線状トリブロックコポリマーを含むVM濃縮物であって、式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、線状トリブロックコポリマーは、最大で0.5の増粘効率範囲を示し、濃縮物のおよそ100℃での潤滑動粘度(KV100)を調整するのに有効な量で存在し、濃縮物は、少なくとも50質量%の希釈油を含み、希釈油のKV100は、約2cStから約40cStまでであり、濃縮物のKV100は、約3000cSt若しくはそれよりも低いか又は約2000cSt若しくはそれよりも低い濃縮物。
【0040】
実施形態12. 線状トリブロックコポリマーの有効量は、濃縮物は、6.0質量%から14質量%までの線状トリブロックコポリマーを含む量である、実施形態11に記載の濃縮物。
実施形態13. D’は、約30,000ダルトンから約95,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、PAは、約20,000ダルトンから約35,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’’は、約1,800から約60,000ダルトンまでの数平均分子量を有し、D’の数平均分子量とD’’の数平均分子量との比は、約1.0:1から約30:1までである、実施形態11又は実施形態12に記載の濃縮物。
実施形態14. 潤滑油組成物のKV100は、約100cStから約1600cStまでである、実施形態1~13のいずれか一項に記載の濃縮物。
【0041】
実施形態15. D’及びD’’ジエンは、各々個々にブタジエン、イソプレン、及びそれらの混合物を含むが、互いに同一ではなく、D’及びD’’ブロックは、重合後に実質的に水素化されている、実施形態1~14のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態16. D’及びD’’ジエンは、各々個々に、(i)約3質量%以下のブタジエン;(ii)少なくとも約97質量%のイソプレン;(iii)(i)及び(ii)の両方を含む、実施形態1~15のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態17. PA数平均分子量の、D’+D’’数平均分子量の合計に対する比は、約0.25から約0.50までである、実施形態1~16のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態18. D’の数平均分子量とD’’の数平均分子量との比は、1.00:1よりも高く最大で約1.25:1の、又は約1.4:1から約3.0:1まで、又は約6.00:1から約20.0:1までである、実施形態1~17のいずれか一項に記載の濃縮物。
【0042】
実施形態19. 希釈油は、グループII、グループIII、及び/又はグループIVベースストック、例えば、グループII及び/又はグループIIIベースストックを含む、実施形態1~18のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態20. 無灰分散剤、界面活性剤、抗摩耗剤、抗酸化剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、消泡剤、シール膨潤制御剤、又はそれらの組合せの1つ若しくは複数を更に含む、実施形態1~19のいずれか一項に記載の濃縮物。
実施形態21. 実施形態1~5及び14~20のいずれか一項に記載のVM濃縮物のおよそ100℃での動粘度(KV100)を調整するための方法であって、濃縮物に、式D’-PA-D’’により特徴付けられる有効量の線状トリブロックコポリマーを添加することを含み、式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、有効量の線状トリブロックコポリマーは、濃縮物の少なくとも6.0質量%を構成し、濃縮物のKV100は、約3000cSt若しくはそれよりも低いか又は約2000cSt若しくはそれよりも低い、方法。
実施形態22. 実施形態6~10及び14~20のいずれか一項に記載の濃縮物のおよそ100℃での動粘度(KV100)を調整するための方法であって、濃縮物に、式D’-PA-D’’により特徴付けられる有効量の線状トリブロックコポリマーを添加することを含み、式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、有効量の線状トリブロックコポリマーは、濃縮物の少なくとも9.5質量%を構成し、濃縮物のKV100は、約3000cSt若しくはそれよりも低いか又は約2000cSt若しくはそれよりも低い、方法。
【0043】
実施形態23. 実施形態11~20のいずれか一項に記載のVM濃縮物のおよそ100℃での動粘度(KV100)を調整するための方法であって、濃縮物に、式D’-PA-D’’により特徴付けられる有効量の線状トリブロックコポリマーを添加することを含み、式中、D’は、ジエンに由来するブロックを表し、PAは、モノアルケニルアレーンに由来するブロックを表し、D’’は、ジエンに由来するブロックを表し、線状トリブロックコポリマーは、最大で0.5の増粘効率範囲を示し、有効量の線状トリブロックコポリマーを含む濃縮物のKV100は、約3000cSt若しくはそれよりも低いか又は約2000cSt若しくはそれよりも低い、方法。
実施形態24. VM濃縮物を含む潤滑油組成物により潤滑されるオートマティック又はマニュアルトランスミッションの摩耗を制御又は低減させるための、実施形態1~20のいずれか一項に記載の調整されたKV100を有するVM濃縮物の使用。
【実施例
【0044】
本発明は、以下の(非限定的な)例を参照することにより更に理解することができる。以下の実施例では、ある成分又は組成物それ自体の特性は、下記で規定されているような当技術分野のある用語を使用して説明される。実施例では、別様の記載がない限り、部は全て質量部である。
【0045】
「剪断安定性指数(SSI)」は、クランクケース潤滑剤中のポリマー成分が、剪断条件中に増粘能力を維持する能力の尺度であり、典型的には、使用条件下での分解に対するポリマーの耐性を示す。SSIが高いほど、ポリマーは安定性が低く、つまりポリマーはより分解し易くなる。SSIは、ポリマーに由来する粘度損失のパーセンテージとして規定され、以下のように算出される。
【数1】
式中、kvfreshは、分解前のポリマー含有溶液の動粘度であり、kvafterは、分解後のポリマー含有溶液の動粘度である。SSIは、ASTM D6278-98(カート-オルバン(KO)又はDINベンチテストとして知られている)を使用して、従来通りに決定される。試験下のポリマーを、好適な基油(例えば、溶媒抽出150ニュートラル(solvent extracted 150 neutral))に溶解して約100℃にて約2~3cStの相対粘度にしてもよく、得られた流体を、ASTM D6278-98プロトコールに指定されている試験装置にポンプ給送してもよい。
【0046】
「増粘効率(TE)」は、1単位質量当たりのポリマーの油増粘能力を表し、以下のように規定される.
【数2】
【0047】
式中、cは、ポリマー濃度であり(ポリマーのグラム数/100グラムの溶液)、kvoil+polymerは、基準油中のポリマーの動粘度であり、kvoilは、基準油の動粘度である。ほとんどの場合、TEは、下記の実施例と同様に、基準油中およそ1質量%濃度で測定される。
「増粘効率範囲」(TE範囲)は、つまり、少なくとも3つの(好ましくは、少なくとも4つの)タイプの基準油を含むか、又は少なくとも3つのグループの基準油(例えば、少なくともグループII油、グループIII油、及びグループIV油)の少なくとも1つの基準油を含む、一連の異なるタイプ又はグループの基準油にわたってポリマーの増粘効率(TE)が相対的に均一であることを表す。特に、4つの異なるタイプの基準油を、3つのグループ:「標準」グループIII油(例えば、天然ベースストック);「非標準」グループIII油(例えば、合成GTLベースストック);グループII油;及びグループIV油にわたって使用することができる。本開示では、TE範囲は、各々異なる基準油中でおよそ同じ濃度にて、例えば、約1質量%のポリマー濃度にて評価される。TE範囲は、アレイ中の任意の2つの異なる基準油中のポリマー間の最大二増粘効率差(ΔTE)の絶対値により表わされる。
【0048】
「コールドクランキングシミュレーター(CCS、Cold Cranking Simulator)」は、クランクケース潤滑剤の寒冷時クランキング特徴の尺度であり、ASTM D5293-92に記載の技法を使用して従来通りに決定される。
「スキャンニングブルックフィールド(Scanning Brookfield)」を使用して、低温でのエンジンオイルの見掛け粘度を測定することができる。およそ0.2s-1の剪断速度が、約100Paよりも低い剪断応力で生み出される。約-5℃~約-40℃の範囲にわたって、又は粘度が40,000mPa・s(cPs)を超える温度へと試料を約1℃/時間の速度で冷却する際に、連続的に見掛け粘度を測定する。試験手順は、ASTM D5133-01に規定されている。試験方法から得られる測定値は、mPa・s又は等価なcPsでの粘度、最高粘度増加率(ゲル化指数)、及びゲル化指数が生じる温度として報告される。
「ミニロータリー粘度計(MRV)-TP-1」を用いて、約-15℃~約-40℃の最終試験温度へと約45時間の期間にわたって制御された速度で冷却した後でエンジンオイルの降伏応力及び粘度を測定する。温度サイクルは、K.O.HendersonらによるSAE Paper No.850443に規定されており、まず、試験温度で降伏応力(YS)を測定し、その後、約0.4s-1~約15s-1の剪断速度にわたって約525Paの剪断応力にて見掛け粘度を測定する。見掛け粘度は、mPa・s又は等価なcPsで報告される。
【0049】
「流動点」は、温度を低下させた際に油組成物又は油成分が流動する能力の尺度である。性能は、℃で報告され、ASTM D97-02に記載の試験手順を使用して測定される。予備加熱した後、指定された速度で試料を冷却し、約3℃の間隔で流動特徴を調査する。検体の移動が観察される最も低い温度を流動点として報告する。MRV-TP-1、CCS、及び流動点の各々は、典型的には、油組成物の低温粘度特性を示す。
「ビーカー流出」試験では、所与の温度における、水平台表面に対して約96°の角に配向された約600mLビーカーからの組成物のバルク流動が測定される。ビーカー流出試験は、わずか約24時間にわたって(0週目)、又は最大で12週間若しくはそれよりも長期間等の長期間にわたって、所与の温度で保持された試料に対して実施することができる。ビーカー流出値は、パーセンテージとして表される、約2分間でビーカーから流れ出る試料の割合(=[試験前の試料+ビーカーの質量]-[試験直後の試料+ビーカーの質量])である。本明細書では、約80℃(±1℃)に保持された0週目試料のビーカー流動試験が報告されており、試験後に直立位置に置かれている(水平台表面に水平に置かれている)ビーカーの外部壁面に存在する試料の部分は全て、安全のため乾燥ティッシュで拭き取る。
【0050】
組成物の流動性の別の尺度はtanδを含み、Tanδは、組成物の損失弾性率(G’’)の貯蔵弾性率(G’)に対する比である。tanδは、理論的には引張係数(E’’/E’)の比を包含し、本明細書では、剪断弾性率(G’’/G’)の比として理解され、この比は、トリブロックコポリマー試料が存在する流動性粘性状態をより良好に示す。本明細書で表されるtanδ値は、ニューキャッスル、デラウエア州のTA Instrumentsから商業的に入手可能である、そのネイティブソフトウェアパッケージ(TRIOS(商標))を備えたARES(商標)G2レオメーターで、約0.5mm又は約1mmのいずれかのギャップを有する約25mm平行プレートを使用して測定した。試料を、約5.0℃/分の勾配率で約25℃から約200℃まで及びその逆に2回サイクルさせた。tanδデータは、約10rad/秒の角振動数及び約10%の最大振動歪みで1回目の勾配上昇の開始時に約25℃の温度で得られた測定値を反映していた(2回目の勾配上昇開始時の値を検査したところ、測定誤差内にあった)。
【0051】
エチレン-アルファ-オレフィンコポリマーの「結晶化度」は、当技術分野で公知であるX線技法を使用して、並びに示差走査熱量測定法(DSC)試験を使用することにより測定することができる。DSCを使用して、結晶化度を以下のように測定することができる。ポリマー試料を、測定前に少なくとも24時間にわたって室温(例えば、約20~25℃)で緩冷する。その後、試料を、まず室温から約-100℃へと冷却し、その後10℃/分で約150℃へと加熱する。結晶化度は、以下のように算出する。
結晶化度%=(ΣΔH)*xm エチレン*14÷4110*100%
式中、ΣΔH(J/g)は、そのガラス転移温度よりも高い温度でポリマーにより吸収される熱の合計であり、xm エチレンは、例えばプロトンNMRデータから算出される、ポリマー中のエチレンのモル分率であり、14(g/モル)は、メチレン単位のモル質量近似値であり、4110(J/モル)は、平衡時のポリエチレン単結晶の融解熱近似値である。
「コイル崩壊温度(CCT、coil collapse temperature)」は、相対粘度対温度をプロットすることにより測定することができ、「相対粘度」は、約100℃における溶媒中約1質量%ポリマーの動粘度の、溶媒の約100℃での動粘度(KV100)に対する比である。CCTは、相対粘度が最も高い温度である。
「粘度指数」では、温度の変化に対する潤滑油組成物(又はベースストック)の感受性を測定することができる。粘度指数は、下記式を使用して算出することができる。
【数3】
式中、Uは、組成物の約40℃での動粘度(約40℃(約104°F);KV40)であり、L及びHは、組成物の約100℃での動粘度(約100℃(約212°F);KV100)に基づく値である。L及びHは、それぞれVI約0及びVI約100の油のKV40値であり、VIを決定しようとする油と同じKV100を有する。L値及びH値は、例えば、ASTM D2270に見出すことができる。
【0052】
実施例1~6
実施例1~4には、本開示による、タイプD’-PA-D’’の線状トリブロックコポリマーが記載されている。こうした実施例では、より高い分子量のジエンブロックはD’であり、より低い分子量ジエンブロックはD’’である。こうした実施例のポリアレーンブロックは、ポリスチレンブロックである。実施例1A、2A、3、及び4は、約4cStのKV100を有する「標準」グループIII希釈油(Yubase4)に実質的に溶解又は懸濁すると、それぞれ約6質量%、約7.5質量%、約12質量%、及び約6質量%の「活性成分」(AI)濃度を有する、濃縮物形態の線状トリブロックコポリマーを含む。実施例1B及び2Bは、各々が約4cStのKV100を有する「非標準」グループIII希釈油(GTL4)(ガス液状化法を使用して合成的に製作された)に実質的に溶解又は懸濁されている、約6質量%のAI濃度を有する濃縮物形態の同じ線状トリブロックコポリマーを含む。各濃縮物試料のKV100、並びに線状トリブロックコポリマーのブロックコポリマーセグメントの分子量、ベースストック希釈剤、及び活性成分濃度が、下記の表1に叙述されている。また、比較例5及び6が下記の表1に示されており、表には、ジエンブロックD’が、それぞれ約65キロダルトン及び約55キロダルトンの分子量を有し、ポリアレーン(ポリスチレン)ブロックPAが、それぞれ約35キロダルトン及び約23キロダルトンの分子量を有するタイプD’-PAの線状ジブロックコポリマーが示されている。ベースストック希釈剤は、比較例5では「標準」グループIIIベースストック(Yubase4)であり、比較例6では「非標準」グループIIIベースストック(GTL4)である。下記の表1から分かるように、各ジブロックコポリマーは、約5質量%と低い活性成分濃度でさえ、測定可能なKV100を示す代わりに、その希釈油中でゲル化した。
【表2】
【0053】
実施例7~28
実施例7~26には、本開示によるタイプD’-PA-D’’の線状トリブロックコポリマーが記載されている。こうした実施例では、より高い分子量のジエンブロックはD’であり、より低い分子量ジエンブロックはD’’である。こうした実施例のポリアレーンブロックは、ポリスチレンブロックである。こうした実施例では、濃縮物形態の線状トリブロックコポリマーの「活性成分」(AI)濃度は、以下の希釈油の1つ又は複数に実質的に溶解又は懸濁した際に、約6質量%から約8質量%まで、約10質量%まで、約12質量%まで、約14質量%までと様々であってもよい:約4cStのKV100を有するグループIIベースストック(Star4);約4cStのKV100を有する「標準」グループIIIベースストック(Yubase4);約4cStのKV100を有する「非標準」グループIIIベースストック(ガス液状化法を使用して合成的に製作された)(GTL4);及び約4cStのKV100を有するグループIV(ポリアルファオレフィン)ベースストック(PAO4)。各濃縮物試料のKV100、並びに線状トリブロックコポリマーのブロックコポリマーセグメントの分子量、ベースストック希釈剤、及び活性成分濃度は、下記の表2に叙述されている。線状トリブロックコポリマーが、その希釈油に溶解又は懸濁される過程中にゲル化を示した場合、表2のKV100には、「ゲル」と示されている。また、下記の表2には、比較例27及び28が示されており、それらは、ジエンブロックD’が、それぞれ約57キロダルトン及び約72キロダルトンの分子量を有し、ポリアレーン(ポリスチレン)ブロックPAが、それぞれ約21キロダルトン及び約28キロダルトンの分子量を有するタイプD’-PAの濃縮物形態の線状ジブロックコポリマーが示されている。下記の表2から分かるように、各ジブロックコポリマーは、約6質量%と低い活性成分濃度でさえ、測定可能なKV100を示す代わりに、その希釈油中でゲル化した。
【0054】
一般に、全ての応用でという訳ではないが、比較的より高いAI濃度でKV100値がより低いことが望ましいと考えられる。それに加えて又はその代わりに、線状トリブロックコポリマー濃縮物試料(実施例)が、できるだけ高いAI濃度で、約3000cSt若しくはそれよりも低いか又は約2000cSt若しくはそれよりも低い(及びまた任意選択で少なくとも100cStの)KV100を示す能力が、望ましいと考えられる。更に、それに加えて又はその代わりに、少なくとも87%(又は少なくとも90%、及び任意選択で最大99%)のビーカー流出(0週目)値を示す線状トリブロックコポリマー濃縮物を、望ましいと考えることができる。また更に、それに加えて又はその代わりに、少なくとも1.8(及びまた任意選択で最大30)のtanδ値(約25℃で測定される)を示す線状トリブロックコポリマー濃縮物が、望ましいと考えることができる。


【表3】





【0055】
下記の表3は、実施例2~4及び7~26の線状トリブロックコポリマーの各々の、4つの列挙されている希釈油中の増粘効率(TE)、及び4つの列挙されている希釈油にわたる増粘効率範囲(TE範囲;4つの希釈油の最大増粘効率マイナス4つの希釈油の最小増粘効率)を示す。また、下記の表3には、「標準」グループIIIベースストック(Yubase4)及びグループIIベースストック(Star4)中での、各線状ブロックコポリマーの粘度指数(VI)が示されている。
【0056】
一般に、全ての出願でという訳ではないが、中程度の又はより高い個々の増粘効率、より低いTE範囲、及び高い又は非常に高い粘度指数が、望ましいと考えることができる。特に、最大で0.5又は最大で0.4のTE範囲、及び/又はグループIII希釈油にて少なくとも1.7若しくは少なくとも1.8の平均増粘効率を有する線状トリブロックコポリマーが、望ましいと考えることができる。
【表4】
【0057】
本明細書に記載されている全ての特許、論文、及び他の文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書及び添付の特許請求の範囲に提示されているような、複数の指定成分を含む、からなる、又はから本質的になる組成物の説明は、上記複数の指定成分を混合することにより製作される組成物も包含すると解釈されるべきである。本発明の原理、好ましい実施形態、及び作業モードは、上述の明細書に記載されている。出願人らが提出するものは、出願人らの発明であるが、開示されている特定の実施形態に限定されるとは解釈されない。それは、本開示の実施形態が、限定ではなく例示であるとみなされるためである。当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱せずに変更をなすことができる。