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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】支承および制振システム
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20250407BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
E04H9/02 301
F16F15/02 K
F16F15/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021100139
(22)【出願日】2021-06-16
(65)【公開番号】P2022191732
(43)【公開日】2022-12-28
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 明徳
(72)【発明者】
【氏名】北原 進之介
(72)【発明者】
【氏名】杉村 義文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幹夫
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-058790(JP,A)
【文献】特開2021-021310(JP,A)
【文献】特開2006-274622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 15/00 -15/36
E04B 1/00 - 1/36
E04B 1/38 - 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物および前記構造物に連結する部材の一方における第一支持部に設けられた長孔形成部と、
前記構造物および前記部材の他方における第二支持部に設けられた軸受と、
前記長孔形成部が形成する長孔に挿入され、前記長孔内を前記長孔の長手方向に移動可能な可動板と、
前記第一支持部に対して前記可動板とともに前記長孔の長手方向に移動可能に支持されるとともに、前記第二支持部に対して前記軸受を介して回動可能に支持されて、前記第一支持部および前記第二支持部を連結する軸と、
を備え、
前記長孔と前記可動板との接触部分に潤滑剤が塗布されることを特徴とする支承。
【請求項2】
構造物および前記構造物に連結する部材の一方における第一支持部に設けられた長孔形成部と、
前記構造物および前記部材の他方における第二支持部に設けられた軸受と、
前記長孔形成部が形成する長孔に挿入され、前記長孔内を前記長孔の長手方向に移動可能な可動板と、
前記第一支持部に対して前記可動板とともに前記長孔の長手方向に移動可能に支持されるとともに、前記第二支持部に対して前記軸受を介して回動可能に支持されて、前記第一支持部および前記第二支持部を連結する軸と、
前記第一支持部および前記第二支持部の少なくとも一方に設けられ、前記軸の軸方向で前記第一支持部および前記第二支持部の他方を滑り可能に押圧する拘束部材を備え、
前記拘束部材は、前記第一支持部および前記第二支持部の前記軸方向の相対位置を拘束することを特徴とする支承。
【請求項3】
前記第一支持部および前記第二支持部の少なくとも一方における前記拘束部材に押圧される被押圧部と、前記拘束部材の押圧部との少なくとも一方に、低摩擦部を備えることを特徴とする請求項に記載の支承。
【請求項4】
層を成す建造物の制振システムであって、
構造物および前記構造物に連結する部材の一方における第一支持部に設けられた長孔形成部と、
前記構造物および前記部材の他方における第二支持部に設けられた軸受と、
前記長孔形成部が形成する長孔に挿入され、前記長孔内を前記長孔の長手方向に移動可能な可動板と、
前記第一支持部に対して前記可動板とともに前記長孔の長手方向に移動可能に支持されるとともに、前記第二支持部に対して前記軸受を介して回動可能に支持されて、前記第一支持部および前記第二支持部を連結する軸と、
を備えを備える支承と、
前記建造物の層における層間に設けられ、前記第一支持部および前記第二支持部の一方が設けられた第一部材と、
前記第一部材に連結され、前記第一支持部および前記第二支持部の他方が設けられた第二部材と、
前記第二部材に設置されたブレース部材と、
前記第二部材に対向する梁と前記ブレース部材との間に設けられて水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え
前記第二部材は、水平方向に延びて前記構造物に連結する補強部材であり、
前記補強部材の長さ方向両端部は、前記長孔の長手方向が水平方向を指向した前記支承を介して前記構造物に連結され、
前記補強部材の長さ方向中間部は、前記長孔の長手方向が鉛直方向を指向した前記支承を介して前記構造物に連結されることを特徴とする制振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉛直支持力が大きく水平抵抗が小さい支承およびこれを備えた制振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物を支持する支承および制振システムとして、制振材に粘弾性体を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載された制振装置では、構造物の層の空間を形成して対向する一対の柱にそれぞれ制振構造を設置し、これら一対の制振構造の間に接合材が架け渡されている。
【0003】
この制振構造は、柱の側面に取り付けられた柱側取付部材と、接合材側取付部材との間に制振材が挟み込まれ、2つの取付部材と制振材とが接着されている。
制振材は、接合材側取付部材と柱側取付部材とが水平軸線回りに相対回転可能となるよう粘弾性体で形成され、地震発生時等には相対回転に伴うねじれ変形によって建物の振動エネルギーが吸収される。
しかし、制振材は、柱側取付部材と接合材側取付部材とに接着されているので、制振構造の水平抵抗は大きい。
【0004】
水平方向に相対移動可能で、水平抵抗が小さくされた支承として、構造物の対向する2本の柱の各支持部に補強部材の両端部を支持するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
柱の支持部には長孔等のルーズホールが設けられ、ルーズホールと補強部材とに締結ボルト等のピンが通されている。構造物が振動して柱が梁と共に水平方向に往復運動すると、補強部材も水平方向に往復移動し、柱の両端を貫通するピンが支持部の長孔に対して相対移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-64024号公報
【文献】特開2021-21310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の構造では、ピンと長孔との接点における支圧応力度が大きくなり、大きな鉛直荷重が作用する支承に採用する際の課題が残る。
本発明は、第一の方向の支持力を大きく、且つ第一の方向と交差する第二の方向の抵抗をより小さくすることが可能な支承および制振システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による支承は、構造物および前記構造物に連結する部材の一方における第一支持部に設けられた長孔形成部と、前記構造物および前記部材の他方における第二支持部に設けられた軸受と、前記長孔形成部が形成する長孔に挿入され、前記長孔内を前記長孔の長手方向に移動可能な可動板と、前記第一支持部に対して前記可動板とともに前記長孔の長手方向に移動可能に支持されるとともに、前記第二支持部に対して前記軸受を介して回動可能に支持されて、前記第一支持部および前記第二支持部を連結する軸と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、地震や強風等によって構造物が振動した際、第一支持部及び第二支持部が相対変位しても、両支持部同士を連結する軸は、第一支持部に対して可動板とともに長孔内を移動するので、長孔の長手方向における第一支持部及び第二支持部の相対変位が許容される。このとき、第一支持部及び第二支持部の相対変位によってこれらの相対回動が生じる場合にも、軸が軸受を介してスムーズに回動するので、回動を含む相対変位が良好に許容される。また、可動板が長孔の内面に面又は複数の点により接触する構成とすることで、可動板から長孔の内面に作用する荷重を分散させて接触圧を抑え、第一支持部及び第二支持部の相対変位をより良好に許容することができる。一方、長孔の長手方向と交差する方向においては、可動板および軸受を介して十分な支持荷重を受けることができる。
【0009】
また、前記軸受は、前記軸を回動可能に支持するとともに、前記軸を揺動可能に支持することが好ましい。
この構成によれば、第一支持部及び第二支持部の相対変位によってこれらの相対揺動が生じる場合にも、軸が軸受を介して揺動可能であるので、揺動を含む相対変位が良好に許容される。長孔の長手方向への軸の移動と、軸受による軸の回動および揺動とが分離して行われるので、前者の移動と後者の回動および揺動とが互いに影響を受けにくい。よって第一支持部及び第二支持部の相対変位をより一層良好に許容することができる。
【0010】
また、前記長孔は、長手方向が水平方向を指向することが好ましい。
この構成によれば、地震や強風等によって構造物が水平方向に振動した際にも、第一支持部及び第二支持部の水平方向の相対変位を良好に許容することができる。なお、前記「水平方向を指向する」とは、水平方向に一致することに限らず、例えば水平方向に対して±30度程度の範囲を含む。
【0011】
また、前記長孔は、互いに平行をなして対向する第一内面および第二内面を有し、前記可動板は、前記第一内面および前記第二内面にそれぞれ内接又は近接した状態で、前記長孔内を移動することが好ましい。
この構成によれば、長孔の各内面と交差する方向への可動板の移動を規制するとともに、可動板のスムーズな移動を実現することができる。長孔を矩形等の単純形状とすることで、長孔形成部の加工を容易にすることができる。
【0012】
また、前記可動板は、面又は複数の点により前記第一内面および前記第二内面の少なくとも一方に接した状態で、前記長孔内を移動することが好ましい。
この構成によれば、可動板から長孔の内面に伝わる荷重を分散させて接触圧を抑え、第一支持部及び第二支持部の相対変位をより良好に許容することができる。
【0013】
また、前記長孔と前記可動板との接触部分に潤滑剤が塗布されることが好ましい。
この構成によれば、可動板が長孔内を移動する際の抵抗をより一層小さくし、第一支持部及び第二支持部の相対変位をより良好に許容することができる。
【0014】
また、前記第一支持部および前記第二支持部の少なくとも一方に設けられ、前記軸の軸方向で前記第一支持部および前記第二支持部の他方を滑り可能に押圧する拘束部材を備え、前記拘束部材は、前記第一支持部および前記第二支持部の前記軸方向の相対位置を拘束することが好ましい。
この構成によれば、長孔内の軸の移動への影響を抑えた上で、第一支持部および第二支持部の位置調整や施工誤差吸収を可能とすることができる。
【0015】
また、前記第一支持部および前記第二支持部の少なくとも一方における前記拘束部材に押圧される被押圧部と、前記拘束部材の押圧部との少なくとも一方に、低摩擦部を備えることが好ましい。
この構成によれば、拘束部材によって第一支持部および第二支持部の少なくとも一方に押圧力を付与しながら、第一支持部および第二支持部の相対変位への影響を抑えることができる。
【0016】
本発明による制振システムは、層を成す建造物の制振システムであって、前記建造物の層における層間に設けられ、前記第一支持部および前記第二支持部の一方が設けられた第一部材と、前記第一部材に連結され、前記第一支持部および前記第二支持部の他方が設けられた第二部材と、前記第二部材に設置されたブレース部材と、前記第二部材に対向する梁と前記ブレース部材との間に設けられて水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、上記何れかに記載の前記支承と、を備えることを特徴とする。
また、前記第二部材は、水平方向に延びて前記構造物に連結する部材であり、前記第二部材の長さ方向両端部は、前記長孔の長手方向が水平方向を指向した前記支承を介して前記構造物に連結され、前記第二部材の長さ方向中間部は、前記長孔の長手方向が鉛直方向を指向した前記支承を介して前記構造物に連結されることを特徴とする。
この構成によれば、構造物に水平方向の振動が発生したとしても、この振動を制振ダンパーで減衰させるとともに、制振ダンパーの反力を第一支持部および第二支持部の相対変位の範囲内で吸収可能となり、構造物の層間の第一部材に前記反力が伝達されにくくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第一の方向の支持力(例えば鉛直支持力)を大きく、且つ第一の方向と交差する第二の方向の抵抗(例えば水平抵抗)をより小さくすることが可能な支承および制振システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態による制振システムを構造物の層間の架構に取り付けた状態の要部説明図である。
図2】上記制振システムの支承を示す説明図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5図4のK部拡大図である。
図6】上記支承による一方向の回動を示す作用説明図である。
図7】上記支承による他方向の回動を示す作用説明図である。
図8】上記支承による水平方向一側の変位を示す作用説明図である。
図9】上記支承による水平方向他側の変位を示す作用説明図である。
図10】上記支承による回動及び水平方向の変位を示す作用説明図である。
図11図3に相当する断面図であり、上記支承の拘束部材による水平方向一側への位置調整の作用を示す。
図12図3に相当する断面図であり、上記支承の拘束部材による水平方向他側への位置調整の作用を示す。
図13図2に相当する説明図であり、上記支承に生じる付加曲げモーメントの作用を示す。
図14図5に相当する拡大図であり、上記支承の長孔の第一変形例を示す。
図15図5に相当する拡大図であり、上記支承の長孔の第二変形例を示す。
図16図3に相当する断面図であり、上記拘束部材の変形例を示す。
図17図1に相当する説明図であり、上記制振システムの変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<制振装置>
以下、本発明の実施形態の支承Sを備えた制振装置(制振システム)1について添付図面を参照して説明する。
図1に示す制振装置1は、例えば、鉄筋コンクリート造の構造物BLの下層部の層間の架構に取り付けられている。
なお、制振装置1の設置箇所は下層部に限らず上層部等、任意の層(階)に設置してもよい。制振装置1は、構造物BLの架構の相対変位可能な任意の二層間の開口部である空間2に配置されている。構造物BLは、例えば、1フロアの左右の柱(第一部材)P1,P2と、上下の梁Q1,Q2と、で仕切られた空間2を上下左右に多数有している。
【0020】
例えば、空間2内において、対向する柱P1,P2の各上端部の内面3には、柱側支持部(第二支持部)5が締結ボルト(不図示)等で固定されている。柱側支持部5は、例えば、上下に延びる平行な一対の板材で形成されている。
また、空間2の上側の梁Q1における下側の梁Q2に対向する面(下面)は、第一構面6とされ、下側の梁Q2の上側の面(上面)は、第二構面4とされている。
【0021】
上側の梁Q1の第一構面6側には、例えば、断面矩形の角筒状を成す鋼材からなる補強部材(第二部材)7が配置されている。第一構面6の長手方向中間部(中央部を含ぬ幅をもつ範囲、以下同様)には、断面視略U字状の上受け部8が固定されている。補強部材7は、その一部が第一構面6側に拡幅する拡幅部7aを備え、この拡幅部7aが上受け部8内に挿入されている。補強部材7は、拡幅部7aの位置で上受け部8に設けられた上部ピン10を中心に揺動可能に支持されている。
【0022】
補強部材7の両端部には、柱側支持部5の内側に配置された補強部材側支持部(第一支持部)11が固定されている。補強部材側支持部11は、例えば、上下方向に延びる板状に形成されている。
柱P1,P2のそれぞれの柱側支持部5には、補強部材側支持部11が支承Sを介して上下方向・左右方向に揺動可能および水平方向に移動可能に支持されている。
【0023】
上記したように、層を成す構造物BLの制振装置1は、構造物BLの層における層間に設けられた柱P1,P2と、柱P1,P2に連結された補強部材7と、補強部材7に設置されたV字ブレース(ブレース部材)30と、を備えている。また、制振装置1は、補強部材7に対向する梁Q2とV字ブレース30との間に設けられて水平方向の振動を減衰させる制振ダンパー35と、支承Sと、を備えている。
【0024】
図2および図3に示すように、柱側支持部5は、一対の軸支持部13で構成され、これら一対の軸支持部13の間に、補強部材側支持部11が配置されている。
一対の軸支持部13と補強部材側支持部11とは、連結軸(軸)14が貫通している。
軸支持部13は、上下に延びる柱側支持板16と、柱側支持板16に形成された長孔16a内に移動可能に配置された可動板17と、可動板17が柱側支持板16の長孔16aから抜けないようにする一対の可動板抜け防止部材18と、を備えている。
【0025】
柱側支持板16は、その略中央部に長孔形成部16bを備え、この長孔形成部16bに長孔16aが形成されている。長孔16aの周縁部は、長孔形成部16bを含んでいる。可動板17には、連結軸14が貫通する軸貫通孔17aが形成されている。軸貫通孔17aと連結軸14とのはめあいは、すきまばめ、しまりばめの何れであっても良い。また、連結軸14の両端部には、例えば一対の可動板17よりも外側において連結軸14の柱側支持部5からの抜け止めをなす止め輪、止めピンなどを設けても良い。
一対の可動板抜け防止部材18は、可動板17を両側から覆うように柱側支持板16の両側に配置されている。一対の可動板抜け防止部材18は、連結軸14が挿通される軸挿通孔18aを備えている。一対の可動板抜け防止部材18は、図示せぬ締結部材等で柱側支持板16に固定されている。
【0026】
補強部材側支持部11は、補強部材側支持板(被押圧部)21と、補強部材側支持板21の略中央部に設けられて軸受嵌合孔21aに嵌合した球面滑り軸受(軸受)22と、を備えている。
球面滑り軸受22は、補強部材側支持板21の軸受嵌合孔21aに嵌合された外輪23と、外輪23の内側に滑り自在に嵌合された内輪24と、を備えている。
【0027】
外輪23は、軸受嵌合孔21aに嵌合する外周面23aと、凹状の球面とされた内周面23bと、を備えている。内輪24は、凸状の球面とされた外周面24aと、連結軸14に嵌合する内周面24bと、を備えている。
外輪23の内周面23b(凹状の球面)と内輪24の外周面24a(凸状の球面)とは、互いに滑り自在に嵌合している。従って、連結軸14と補強部材側支持板21とは、相対的に上下方向及び水平方向に揺動可能、且つ連結軸14の軸芯回りに相対回動可能である。
内輪24の内周面24bと連結軸14とのはめあいは、すきまばめ、しまりばめの何れでも良いが、好ましくは、しまりばめが良い。
【0028】
柱側支持部5の一対の軸支持部13には、それぞれ補強部材側支持部11を拘束する複数の拘束部材26が設けられている。
拘束部材26は、柱側支持板16のねじ孔16gにねじ結合するボルト状の位置調整部材27と、位置調整部材27の先端部に設けられた拘束部(押圧部)28と、位置調整部材27を柱側支持板16に固定するロックナット29と、を備えている。
【0029】
拘束部28は、位置調整部材27の先端部に支持された拘束部基部28aと、拘束部基部28aに取り付けられ、補強部材側支持部11の補強部材側支持板21を滑り可能に押圧して拘束する滑り板28bと、を備えている。滑り板28bの材質としては、例えば、フッ素樹脂等の低摩擦材が好適である。また、滑り板28bに押圧される補強部材側支持板21の表面に低摩擦材を備えてもよい。すなわち、滑り板28bおよび補強部材側支持板21の表面の少なくとの一方に低摩擦材を備える構成であればよい。低摩擦材はコーティングであってもよい。
【0030】
図3および図4に示すように、柱側支持板16の長孔16aは、矩形とされた内周面16cを備え、長孔16aの長手方向は水平方向に指向している。内周面16cは、上部内面16d、下部内面16eおよび一対の側部内面16fを備え、上部内面16dと下部内面16eとは互いに平行で、共に水平方向に延びている。
【0031】
可動板17は、側面視略正方形に形成され、上面17d、下面17eおよび一対の側面17fを備えるとともに、上面17dおよび下面17eの両端からそれぞれ側面17fに向けて湾曲して延びる複数の円弧面17gを備えている。
上面17dは、長孔16aの上部内面16dに当接又は近接している。下面17eは、長孔16aの下部内面16eに当接している。
長孔16aの上部内面16dと可動板17の上面17dとの間、および長孔16aの下部内面16eと可動板17の下面17eとの間には、グリース等の潤滑剤が塗布されている。
【0032】
支承Sは、補強部材側支持部11の球面滑り軸受22と、柱側支持部5の長孔形成部16bと、長孔16a内に移動可能に配置された可動板17と、球面滑り軸受22に挿入されるとともに可動板17に支持された連結軸14と、を備えている。支承Sは、柱側支持部(第一支持部)5および補強部材側支持部(第二支持部)11を含むと捉えてもよい。
可動板17は、長孔16a内において、長孔16aの上部内面16dおよび下部内面16eに沿って長孔16aの長手方向に移動可能とされている。
【0033】
図5に示すように、可動板17は、上面17dを長孔16aの上部内面16dに面接触可能であり、下面17eを長孔16aの下部内面16eに面接触可能である。可動板17は、上面17dおよび下面17eの少なくとも一方を長孔16aの内面に面接触させた状態で、長孔16a内を長手方向に移動可能である。
補強部材側支持部11(図4参照)から連結軸14を介して可動板17に伝えられた荷重は、矢印A,Bで示すように、可動板17の上面17dから長孔16aの上部内面16dへ分散されて伝えられる。また、前記荷重は、可動板17の下面17eから長孔16aの下部内面16eへ分散されて伝えられる。上記した可動板17は、可動板17に伝えられた荷重を分散させる支圧分散板として機能する。
【0034】
このように、可動板17の上面17dおよび下面17eと、長孔16aの上部内面16dおよび下部内面16eとがそれぞれ面接触することで、長孔16aの上部内面16dおよび下部内面16eに荷重が分散されて伝わるため、各接触面の面圧が低く抑えられる。これにより、支承Sでの鉛直支持力をより大きくするとともに、連結軸14の水平移動の抵抗を小さくすることができる。また、可動板17と長孔16aとの各接触面に塗布された潤滑剤の膜厚が確保され、長孔16aに対して可動板17が水平方向に円滑に移動可能となり、水平方向の抵抗をより小さくすることができる。
【0035】
図1において、補強部材7の下面には、空間2内の梁Q2の第二構面4側に延びるフレームとしてのV字ブレース30が連結されている。V字ブレース30は、補強部材7からそれぞれ斜め下方に延びる第一縦枠31および第二縦枠32を備え、第一縦枠31および第二縦枠32によって略V字状に形成されている。第一縦枠31は、例えば、第二縦枠32より長い辺に形成されている。
【0036】
更に、V字ブレース30の下端部の頂部30aは、梁Q2の第二構面4の近傍に位置し、頂部30aの近傍には、梁Q2の第二構面4に固定された下受け部34が設けられている。下受け部34は、断面視略U字状に形成され、梁Q2の第二構面4における長手方向中間部に締結ボルト等で固定されている。下受け部34とV字ブレース30の頂部30aとには、制振ダンパー35が連結されている。制振ダンパー35は、第二構面4の長手方向中間部の上方に配置されている。
【0037】
制振ダンパー35は、例えば、オイルダンパー、摩擦ダンパーまたは粘弾性体(高減衰ゴム)等の任意のダンパーを採用可能である。制振ダンパー35は、例えば、オイルや粘性体等を内蔵したシリンダ35aの一端部が下受け部34に設けられた下部ピン36に固定され、シリンダ35a内に進退して振動を減衰させるピストンロッド35bの一端部がV字ブレース30の頂部30aに固定されている。
制振ダンパー35は、V字ブレース30の頂部30aと下受け部34の下部ピン36との間に水平方向に指向されて配置され、制振ダンパー35によって、柱P1,P2および梁Q1,Q2に生じる水平方向の振動を減衰させることができる。
【0038】
V字ブレース30の頂部30aは、下部ピン36を中心にして揺動可能とされている。柱P1,P2が水平方向に揺動した際に、下部ピン36に対してV字ブレース30が揺動可能とされている。なお、上受け部8および上部ピン10と、下受け部34および下部ピン36との取り付け位置は、梁Q1,Q2の長手方向に直交する方向の反力が生じないように、例えば、梁Q1,Q2の長手方向中央部に設置することが好ましい。本実施形態では、下受け部34の両側部間に装着された締結ボルト等の下部ピン36は、上受け部8の上部ピン10に対してわずかに水平方向に位置がずれている。
【0039】
本実施形態による制振装置1では、構造物BLの層間の空間2を構成する柱P1,P2、梁Q1,Q2に対して、柱P1,P2間の上部に補強部材7を取り付けている。補強部材7は、V字ブレース30の底辺として第一縦枠31および第二縦枠32を連結して三角形枠状を構成している。更に、補強部材7の拡幅部7aを上受け部8の上部ピン10で支持し、V字ブレース30の頂部30aと下受け部34の下部ピン36との間を、制振ダンパー35を介して連結している。
【0040】
このように、上部ピン10、下部ピン36で、補強部材7およびV字ブレース30を制振ダンパー35を介して支持するため、第一構面6および第二構面4に伝達される応力を、第一構面6および第二構面4に沿った応力(梁Q1,Q2の長手方向の軸力)のみにすることができる。そのため、上下階での梁Q1,Q2の補強工事が不要で構造物BLの補強工事を空間2内のみで施工することができる。
【0041】
また、柱P1,P2の柱側支持部5に対して、補強部材7の両端の補強部材側支持部11を連結軸14および可動板17を介して連結して支持しているため、補強部材7の鉛直方向の支持力を大きくすることができる。更に、柱P1,P2の水平方向の振動は、連結軸14および可動板17で受けるため、水平方向の抵抗は小さくなり、且つ構造的に、部品数が少なく、小型でコンパクトな支承Sを得ることができる。
【0042】
なお、上記した支承Sは、柱P1,P2の柱側支持部5が一対の軸支持部13(長孔16aおよび可動板17含む)で構成され、これら一対の軸支持部13の間に補強部材7の単一の補強部材側支持部11(軸受22含む)が配置されているが、これとは逆に、補強部材側支持部11が一対の軸支持部(長孔16aおよび可動板17含む)で構成され、これら一対の軸支持部の間に単一の柱側支持部5(軸受22含む)が配置される構成でもよい。
また、支承Sの他の形態として、柱(第一部材)P1,P2の柱側支持部(第一支持部)5が一対の支持部(軸受22含む)で構成され、これら一対の支持部の間に補強部材(第二部材)7の単一の補強部材側支持部(第二支持部)11(長孔16aおよび可動板17含む)が配置される構成でもよい。
さらに、補強部材側支持部11が一対の支持部(軸受22含む)で構成され、これら一対の支持部の間に単一の柱側支持部5(長孔16aおよび可動板17含む)が配置される構成でもよい。
【0043】
次に、地震や強風等で生じる振動に対して構造物BLの振動を減衰する方法について説明する。
図1において、地震発生時や強風発生時等に基礎等の支持構造物が水平方向に振動すると、支持構造物に支持された構造物BLが応答して水平方向に振動する。
構造物BLが地震等で振動して変形すると、架構の各空間2の上層と下層とに水平方向の層間変位が生じる。即ち、構造物BLの振動により、空間2を構成する柱P1,P2と梁Q1,Q2とがそれぞれ水平方向に往復運動する。
このとき、補強部材7は、上側の梁Q1の第一構面6の上受け部8の上部ピン10を中心に揺動する。
【0044】
構造物BLが水平方向に振動すると、補強部材7の一端部(図1において右側の補強部材側支持部11)は、図6中矢印Cのように、連結軸14を中心にして一方向(時計回り)に相対的に回動するとともに、図7中矢印Dのように、連結軸14を中心にして他方向(反時計回り)にも相対的に回動する。このとき、補強部材7の他端部(図1において左側の補強部材側支持部11)も同様に、連結軸14を中心にして一方向(時計回り)に相対的に回動するとともに、連結軸14を中心にして他方向(反時計回り)にも相対的に回動する。
このように、補強部材7の両側に配置された連結軸14によって、柱P1,P2に対する補強部材7の両端部の回動がスムーズに行われ、補強部材7の揺動時の摩擦抵抗は極めて小さくなる。
【0045】
また、構造物BLが地震等で振動して変形し、補強部材7の一端部(図1において右側の補強部材側支持部11)が、図8中矢印Eのように水平方向右側へ変位すると、右側の補強部材側支持部11は柱P2に接近する。また、右側の補強部材側支持部11に連結軸14を介して連結された可動板17は、柱P2の柱側支持部5の長孔16a内を水平方向右側へ移動する。さらに、補強部材7の他端部(図1において左側の補強部材側支持部11)も同様に、水平方向右側へ変位し、左側の補強部材側支持部11は柱P1から離間する。また、左側の補強部材側支持部11に連結軸14を介して連結された可動板17は、柱P1の柱側支持部5の長孔16a内を水平方向右側へ移動する。
【0046】
また、構造物BLの振動により、補強部材7の一端部(図1において右側の補強部材側支持部11)が、図9中矢印Fのように水平方向左側へ変位すると、右側の補強部材側支持部11は柱P2から離間する。また、右側の補強部材側支持部11に連結軸14を介して連結された可動板17は、柱P2の柱側支持部5の長孔16a内を水平方向左側へ移動する。さらに、補強部材7の他端部(図1において左側の補強部材側支持部11)も同様に、水平方向左側へ変位し、左側の補強部材側支持部11は柱P1に接近する。また、左側の補強部材側支持部11に連結軸14を介して連結された可動板17は、柱P1の柱側支持部5の長孔16a内を水平方向左側へ移動する。
このように、柱P1,P2の柱側支持部5の可動板17によって、柱P1,P2に対する補強部材7の両端部の水平方向の変位がスムーズに行われ、補強部材7の水平移動時の摩擦抵抗は極めて小さくなる。
【0047】
支承Sでは、上記した回動と水平方向の変位とを同時に許容可能である。
図10に示すように、補強部材7の一端部(図1において右側の補強部材側支持部11)は、図中矢印Gのように、連結軸14を中心にして他方向(反時計回り)に相対的に回動するとともに、矢印Hのように水平方向左側へ変位する。その結果、右側の補強部材側支持部11は柱P2から離間する。また、右側の補強部材側支持部11に連結軸14を介して連結された可動板17は、柱側支持部5の長孔16a内を水平方向左側へ移動する。
【0048】
さらに、補強部材7の他端部(図1において、左側の補強部材側支持部11)も同様に、連結軸14を中心にして他方向(反時計回り)に相対的に回動するとともに、水平方向左側へ変位する。その結果、左側の補強部材側支持部11は柱P1に接近する。また、左側の補強部材側支持部11に連結軸14を介して連結された可動板17は、柱側支持部5の長孔16a内を水平方向左側へ移動する。
【0049】
このように、補強部材7の両側に配置された連結軸14によって、柱P1,P2に対する補強部材7の両端部の回動と、水平方向への変位とが同時にスムーズに行われ、補強部材7の揺動時の摩擦抵抗は極めて小さくなる。
なお、図10では、補強部材7の一端部の一方向の回動及び変位を例に説明したが、補強部材7の一端部の前記一方向とは逆の方向の回動及び変位でも同様の作用効果が得られる。
【0050】
以上の図6図10では、更に、補強部材側支持部11の補強部材側支持板21の両面上を、複数の拘束部材26の滑り板28b(図3参照)が小さい摩擦力で相対的に摺動しつつ、補強部材側支持板21を連結軸14の軸方向(補強部材側支持板21の厚さ方向)に押圧する。水平方向に揺動しつつ変位する補強部材7により、制振ダンパー35がストロークする。具体的に、図6および図9に示す状態では、制振ダンパー35のピストンロッド35bがシリンダ35a内に押し込まれる、また、図7および図8に示す状態では、ピストンロッド35bがシリンダ35a内から引き出される。このとき、制振ダンパー35の反力(減衰力)が働き、構造物BLの振動が抑制される。
【0051】
次に、補強部材側支持部11の補強部材側支持板21に垂直な方向における構造物BLや補強部材7の寸法誤差や施工誤差に対する位置調整の方法について、図3図11及び図12を参照して説明する。
図3において、補強部材側支持部11の補強部材側支持板21は、複数の拘束部材26の位置調整部材27によって両面側から位置調整可能に押圧されている。このため、柱側支持部5および補強部材側支持部11の寸法誤差や施工誤差等があっても、位置調整部材27による柱側支持部5のねじ孔16gに対するねじ込み量を調整することで吸収することができる。
【0052】
例えば、図11図12に示すように、柱P1,P2に対して補強部材7の補強部材側支持板21が規定の設置位置(二点鎖線の位置)から水平方向の相対誤差を有するときは、各拘束部材26の位置調整部材27により拘束部28の位置を図11中矢印H1または図12中矢印H2で示す方向へ調整し、実際の補強部材側支持板21の設置位置において補強部材側支持板21の表裏面を押圧する。位置調整部材27による調整後に、ロックナット29を閉め込み、位置調整部材27を固定する。
この調整により、補強部材側支持板21の固定位置に傾きや撓み等が生じることが抑えられる。
【0053】
図13に示すように、構造物BLの自重や地震等の外乱による荷重をNとすると、柱側支持部5から連結軸14に作用する荷重がN1、補強部材側支持部11から連結軸14に作用する逆方向の荷重がN2となり、N1=N2=Nである。
更に、柱側支持部5の荷重作用点(連結軸14)から柱P1,P2(柱P1は図1参照)までの距離をL1、補強部材側支持部11の荷重作用点(連結軸14)から補強部材7までの距離をL2とする。柱P1,P2における連結軸14の周辺に生じる付加曲げモーメントM1と、補強部材7における連結軸14の周辺に生じる付加曲げモーメントM2とは、次のようになる。
M1=N1×L1
M2=N2×L2
すなわち、所定の荷重N1,N2に対して距離L1,L2を短く設定することで、付加曲げモーメントM1,M2を小さくすることができる。
【0054】
<長孔の変形例>
図14に示すように、柱側支持部(第一支持部)5Aの柱側支持板16Aは、その略中央部に長孔形成部16bを備え、この長孔形成部16bに長孔46aが形成されている。なお、柱側支持部5Aは、前述の柱側支持部5(図3参照)に対して、柱側支持板16Aの長孔46aの形状のみ異なる。
支承SAは、補強部材側支持部11(図3参照)の球面滑り軸受22(図3参照)と、柱側支持部5Aの長孔形成部16bと、長孔46a内に移動可能に配置された可動板17と、連結軸14と、を備えている。
【0055】
長孔46aは、正面視略矩形とされた内周面46cを備え、長孔46aの長手方向は、水平方向に指向している。内周面46cは、上部内面46d、下部内面46eおよび一対の側部内面46fを備えるとともに、上部内面46dおよび下部内面46eの両端からそれぞれ側部内面46fに向けて湾曲して延びる複数の円弧状内面46gを備えている。上部内面46dと下部内面46eとは互いに平行で、共に水平方向に延びている。
上記したように、長孔46aの四隅にそれぞれ円弧状内面46gを設けることで、内周面46cにおける応力集中を抑制することができる。
【0056】
可動板17において、上面17dは、長孔46aの上部内面46dに当接又は近接し、下面17eは、長孔46aの下部内面46eに当接している。
可動板17は、長孔46a内を、長孔46aの上部内面46dおよび下部内面46eに沿って、長孔46aの長手方向すなわち水平方向に移動可能である。
【0057】
図15に示すように、柱側支持部(第一支持部)5Bの柱側支持板16Bは、その略中央部に長孔形成部16bを備え、この長孔形成部16bに長孔56aが形成されている。なお、柱側支持部5Bは、前述の柱側支持部5(図3参照)に対して、柱側支持板16Bの長孔56aの形状のみ異なる。
支承SAは、補強部材側支持部11(図3参照)の球面滑り軸受22(図3参照)と、柱側支持部5Bの長孔形成部16bと、長孔56a内に移動可能に配置された可動板17と、連結軸14と、を備えている。
【0058】
長孔56aは、正面視長円形とされた内周面56cを備え、長孔56aの長手方向は、水平方向に指向している。内周面56cは、上部内面56d、下部内面56eおよび一対の円弧状側部内面56fを備えている。上部内面56dと下部内面56eとは互いに平行で、共に水平方向に延びている。
上記したように、長孔56aの内周面56cを長円形状に形成することで、内周面56cにおける応力集中を抑制することができるとともに、長孔56aを切削工具等で容易に形成することができる。
【0059】
可動板17において、上面17dは、長孔56aの上部内面56dに当接又は近接し、下面17eは、長孔56aの下部内面56eに当接している。
可動板17の上面17dおよび長孔56aの上部内面56dは、例えば互いに平滑な平面状に形成されているが、これに限らない。例えば、上面17dおよび上部内面56dの少なくとも一方に、潤滑剤保持用の溝や窪み等の凹部を設けてもよい。これにより、長期に亘って潤滑剤を保持することができ、可動板17の良好な潤滑性を保つことができる。
また、可動板17の上面17dも同様に、滑剤保持用の溝や窪み等の凹部を設けたり、あるいは複数の点接触を実現する複数の凸部を設けてもよい。
【0060】
可動板17は、長孔56a内を、長孔56aの上部内面56dおよび下部内面56eに沿って、長孔56aの長手方向すなわち水平方向に移動可能とされている。
可動板17の下面17eおよび長孔56aの下部内面56eは、例えば互いに平滑な平面状に形成されているが、これに限らない。例えば、下面17eおよび下部内面56eの少なくとも一方に、潤滑剤保持用の溝や窪み等の凹部を設けてもよい。これにより、長期に亘って潤滑剤を保持することができ、可動板17の良好な潤滑性を保つことができる。
また、可動板17の下面17eも同様に、滑剤保持用の溝や窪み等の凹部を設けたり、あるいは複数の点接触を実現する複数の凸部を設けてもよい。
【0061】
<拘束部材の変形例>
図16に示すように、補強部材側支持部(第二支持部)11Cは、補強部材側支持板21Cと、補強部材側支持板21Cの略中央部に設けられて軸受嵌合孔21aに嵌合する球面滑り軸受22と、柱側支持部(第一支持部)5Cの一対の軸支持部13Cを拘束する拘束部材61と、を備えている。なお、補強部材側支持部11Cは、前記補強部材側支持部11に対して拘束部材61が追加された点で特に異なる。また、補強部材側支持板21Cには、例えば拘束部材61の貫通ボルト62が貫通して固定される一対のボルト固定孔21eが追加されている。
拘束部材61は、詳しくは、軸支持部13Cに備える柱側支持板(被押圧部)16Cを押圧して拘束する。なお、軸支持部13Cは、前記軸支持部13に対して一対のねじ孔16gを無くしている。
【0062】
拘束部材61は、補強部材側支持板21Cを貫通するとともにこの補強部材側支持板21Cに固定された貫通ボルト62と、貫通ボルト62の両端部側にねじ結合された一対の位置調整部材63と、各位置調整部材63に設けられた拘束部(押圧部)64と、位置調整部材63を貫通ボルト62に固定するロックナット65と、を備えている。
【0063】
貫通ボルト62は、補強部材側支持板21Cの両側に突出する一対のねじ部62aを備えている。位置調整部材63は、ナット状に形成され、貫通ボルト62の一対のねじ部62aにそれぞれねじ結合されている。拘束部64は、位置調整部材63の外周部に支持された拘束部基部64aと、拘束部基部64aに取り付けられて柱側支持部5Cの柱側支持板16Cを滑り可能に押圧する滑り板64bと、を備えている。
【0064】
滑り板64bの材質としては、例えば、フッ素樹脂等の低摩擦材が好適である。また、滑り板64bに押圧される柱側支持板16Cの表面に低摩擦材を備えてもよい。すなわち、滑り板64bおよび柱側支持板16Cの表面の少なくとの一方に低摩擦材を備える構成であればよい。低摩擦材はコーティングであってもよい。
【0065】
以上説明したように、上記実施形態における支承Sは、構造物BLおよび補強部材7の一方(例えば構造物BL)における第一支持部(例えば柱側支持部5)に設けられた長孔形成部16bと、構造物BLおよび補強部材7の他方(例えば補強部材7)における第二支持部(例えば補強部材側支持部11)に設けられた球面滑り軸受22と、長孔形成部16bが形成する長孔16aに挿入され、長孔16a内を長孔16aの長手方向に移動可能な可動板17と、柱側支持部5に対して可動板17とともに長孔16aの長手方向に移動可能に支持されるとともに、補強部材側支持部11に対して球面滑り軸受22を介して回動可能に支持されて、柱側支持部5および補強部材側支持部11を連結する連結軸14と、を備えている。
【0066】
この構成によれば、地震や強風等によって構造物BLが振動した際、補強部材側支持部11及び柱側支持部5が相対変位しても、両支持部同士を連結する連結軸14は、柱側支持部5に対して可動板17とともに長孔16a内を移動するので、長孔16aの長手方向における補強部材側支持部11及び柱側支持部5の相対変位が許容される。このとき、補強部材側支持部11及び柱側支持部5の相対変位によってこれらの相対回動が生じる場合にも、連結軸14が球面滑り軸受22を介してスムーズに回動するので、回動を含む相対変位が良好に許容される。また、可動板17が長孔16aの内面に面又は複数の点により接触する構成とすることで、可動板17から長孔16aの内面に作用する荷重を分散させて接触圧を抑え、補強部材側支持部11及び柱側支持部5の相対変位をより良好に許容することができる。一方、長孔16aの長手方向と交差する方向においては、可動板17および球面滑り軸受22を介して十分な支持荷重を受けることができる。
【0067】
また、上記支承Sにおいて、球面滑り軸受22は、連結軸14を回動可能に支持するとともに、連結軸14を揺動可能に支持するので、柱側支持部5および補強部材側支持部11の相対変位によってこれらの相対揺動が生じる場合にも、連結軸14が球面滑り軸受22を介して揺動可能であるので、揺動を含む相対変位が良好に許容される。長孔16aの長手方向への連結軸14の移動と、球面滑り軸受22による連結軸14の回動および揺動とが分離して行われるので、前者の移動と後者の回動および揺動とが互いに影響を受けにくい。よって柱側支持部5および補強部材側支持部11の相対変位をより一層良好に許容することができる。
【0068】
また、上記支承Sにおいて、長孔16aは、長手方向が水平方向を指向するので、地震や強風等によって構造物BLが水平方向に振動した際にも、柱側支持部5および補強部材側支持部11の水平方向の相対変位を良好に許容することができる。
【0069】
また、上記支承Sにおいて、長孔16aは、互いに平行をなして対向する上部内面16dおよび下部内面16eを有し、可動板17は、上部内面16dおよび下部内面16eにそれぞれ内接又は近接した状態で、長孔16a内を移動するので、長孔16aの各内面と交差する方向への可動板17の移動を規制するとともに、可動板17のスムーズな移動を実現することができる。長孔16aを矩形等の単純形状とすることで、長孔形成部16bの加工を容易にすることができる。
【0070】
また、上記支承Sにおいて、可動板17は、面又は複数の点により上部内面16dおよび下部内面16eの少なくとも一方に接した状態で、長孔16a内を移動するので、可動板17から長孔16aの内面に伝わる荷重を分散させて接触圧を抑え、柱側支持部5および補強部材側支持部11の相対変位をより良好に許容することができる。
【0071】
また、上記支承Sにおいて、長孔16aと可動板17との接触部分に潤滑剤が塗布されるので、可動板17が長孔16a内を移動する際の抵抗をより一層小さくし、柱側支持部5および補強部材側支持部11の相対変位をより良好に許容することができる。
【0072】
また、上記支承Sにおいて、補強部材側支持部11および柱側支持部5の少なくとも一方に設けられ、連結軸14の軸方向で補強部材側支持部11および柱側支持部5の他方を滑り可能に押圧する拘束部材26を備え、拘束部材26は、補強部材側支持部11および柱側支持部5の軸方向の相対位置を拘束するので、拘束部材26を設けることで、長孔16a内の連結軸14の移動への影響を抑えた上で、補強部材側支持部11および柱側支持部5の位置調整や施工誤差吸収を可能とすることができる。
【0073】
また、上記支承Sにおいて、補強部材側支持部11および柱側支持部5の少なくとも一方における拘束部材26に押圧される補強部材側支持板21と、拘束部材26の拘束部28との少なくとも一方に、低摩擦部を備えるので、拘束部材26によって補強部材側支持部11および柱側支持部5の少なくとも一方に押圧力を付与しながら、補強部材側支持部11および柱側支持部5の相対変位への影響を抑えることができる。
【0074】
上記実施形態における制振システム1は、層を成す構造物BLの制振システムであって、構造物BLの層における層間に設けられ、前記第一支持部および前記第二支持部の一方である柱側支持部5が設けられた柱P1,P2と、柱P1,P2に連結され、前記第一支持部および前記第二支持部の他方である補強部材側支持部11が設けられた補強部材7と、補強部材7に設置されたV字ブレース30と、補強部材7に対向する梁Q2とV字ブレース30との間に設けられて水平方向の振動を減衰させる制振ダンパー35と、上記何れかに記載の支承Sと、を備えている。
【0075】
この構成によれば、構造物BLに水平方向の振動が発生したとしても、この振動を制振ダンパー35で減衰させるとともに、制振ダンパー35の反力を補強部材側支持部11及び柱側支持部5の相対変位の範囲内で吸収可能となり、構造物BLの層間の柱P1,P2に反力が伝達されにくくすることができる。
【0076】
ここで、上記実施形態の制振システム1の変形例について図17を参照して説明する。上記実施形態と同一構成には同一符号を付して詳細説明は省略する。
変形例の制振システム101は、前記制振システム1と同様、構造物BLの二層間の空間2に配置されている。
上側の梁(第一部材)Q1の第一構面6側には、補強部材(第二部材)7が配置されている。第一構面6の長手方向中間部には、梁側支持部(第一支持部)105が固定されている。梁側支持部105は、例えば、互いに平行な一対の板材で形成されている。
【0077】
補強部材7には、梁側支持部105の内側に配置された補強部材上側支持部(第二支持部)111が固定されている。補強部材上側支持部111は、例えば、梁側支持部105の各板材と平行な板状に形成されている。
補強部材上側支持部111ひいては補強部材7は、梁側支持部105ひいては上側の梁Q1に、支承S’を介して支持されている。支承S’は、図2に示す支承Sを、連結軸14中心に90度回転させた態様をなしている。支承S’は、梁側支持部105に対して補強部材上側支持部111を、上下方向・左右方向に揺動可能に支持し、かつ鉛直方向に移動可能に支持している。
【0078】
図2図3を援用し、梁側支持部105は、柱側支持部5と同様、一対の軸支持部13で構成され、これら一対の軸支持部13の間に補強部材上側支持部111が配置されている。一対の軸支持部13と補強部材上側支持部111とは、連結軸14と同様の連結軸114が貫通し、この連結軸114を介して一対の軸支持部13と補強部材上側支持部111とが互いに連結されている。梁側支持部105の軸支持部13は、柱側支持板16と同様の支持板に、長手方向が鉛直方向を指向する長孔16aを形成し、この長孔16a内に可動板17を移動可能に配置している。梁側支持部105の長孔16aは、互いに平行をなして鉛直方向に延びる側部内面を備え、これら一対の側部内面に沿って、可動板17が鉛直方向に移動可能である。なお、前記「鉛直方向を指向する」とは、鉛直方向に一致することに限らず、例えば鉛直方向に対して±30度程度の範囲を含む。
【0079】
補強部材上側支持部111は、補強部材側支持板21と同様の支持板に、球面滑り軸受(軸受)22を嵌合させている。球面滑り軸受22の内輪には、連結軸114が嵌合されている。連結軸114と補強部材上側支持部111の支持板とは、相対的に上下方向及び水平方向に揺動可能、且つ連結軸114の軸芯回りに相対回動可能である。
梁側支持部105の一対の軸支持部13には、それぞれ補強部材上側支持部111の支持板を拘束する複数の拘束部材26が設けられている。
【0080】
本実施形態による制振装置101では、構造物BLが地震等で振動して変形すると、空間2を構成する柱P1,P2と梁Q1,Q2とがそれぞれ水平方向に往復運動する。
このとき、補強部材7は、上側の梁Q1の第一構面6の支承S’の連結軸114を中心に揺動する。補強部材7の両端部においては、支承Sの連結軸114を中心に回動するとともに、連結軸114を介して連結された可動板17が長孔16a内を水平方向に移動する。これにより、補強部材7の両端部の支承Sにおいて、補強部材7の鉛直方向の支持力を確保しつつ、上記した回動と水平方向の変位とを同時に許容可能である。
【0081】
さらに、変形例では、補強部材7の長手方向中間部を上方から支持する支承S’において、長手方向を鉛直方向に向けた長孔16a内を可動板17が鉛直方向に移動する。これにより、構造物BLが水平方向に振動して補強部材7と梁Q1との間の間隔が変化する場合にも、梁Q1に対する補強部材7の鉛直方向の移動を許容可能である。また、構造物BLの水平方向の振動に限らず、梁Q1に作用する積載荷重の変化等に起因して補強部材7と梁Q1との間の間隔が変化する場合にも、補強部材7に対する梁Q1の鉛直方向の移動を許容可能である。これにより、補強部材7の上部の支承S’において、補強部材7の水平方向の支持力を確保しつつ、上記した揺動と鉛直方向の変位とを同時に許容可能である。
【0082】
上記変形例では、補強部材7の長手方向中間部を上方から支承S’で支持し、補強部材7の下方にV字ブレース30を設置し、補強部材7に対向する下側の梁Q2とV字ブレース30との間に制振ダンパー35を設ける構成としたが、この構成に限らず、図17を上下反転した構成でもよい。すなわち、補強部材7の長手方向中間部を下方から支承S’で支持し、補強部材7の上方にV字ブレース30を設置し、補強部材7に対向する上側の梁Q1とV字ブレース30との間に制振ダンパー35を設ける構成でもよい。
【0083】
上記した支承S’においても、梁(第一部材)Q1の梁側支持部(第一支持部)105が一対の軸支持部13(長孔16aおよび可動板17含む)で構成され、これら一対の軸支持部13の間に補強部材(第二部材)7の単一の補強部材上側支持部(第二支持部)111(軸受22含む)が配置されているが、これとは逆に、補強部材上側支持部111が一対の軸支持部(長孔16aおよび可動板17含む)で構成され、これら一対の軸支持部の間に単一の梁側支持部105(軸受22含む)が配置される構成でもよい。
また、支承S’の他の形態として、梁(第一部材)Q1の梁側支持部(第一支持部)105が一対の支持部(軸受22含む)で構成され、これら一対の支持部の間に補強部材(第二部材)7の単一の補強部材上側支持部(第二支持部)111(長孔16aおよび可動板17含む)が配置される構成でもよい。
さらに、補強部材上側支持部111が一対の支持部(軸受22含む)で構成され、これら一対の支持部の間に単一の梁側支持部105(長孔16aおよび可動板17含む)が配置される構成でもよい。
【0084】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、軸受については、球面滑り軸受に限らず、軸の軸芯回りに回動可能および上下左右揺動可能な他の形式の軸受でも良い。
本発明は上述した実施形態による支承Sおよび制振装置1に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能であり、これらはいずれも本発明に含まれる。
【0085】
補強部材7と制振ダンパー35との間に接続するV字ブレース30に代えて略四角形枠状のブレース等を接続してもよい。
また、制振装置1および支承Sは構造物BLの任意の場所に設置することができ、かつ設置数も適宜選択できる。また、上述した実施形態では構造物BLに装着した支承Sおよび制振装置1について説明したが、本発明は構造物BLに限定されるものではなく、構造物BL以外に各種の施設や設備等を含む構造物にも適用できる。
【符号の説明】
【0086】
1,101 制振装置(制振システム)
5,5A,5B,5C 柱側支持部(第二又は第一支持部)
7 補強部材(第二部材)
11,11C 補強部材側支持部(第一又は第二支持部)
14,114 連結軸(軸)
16C 柱側支持板(被押圧部)
16a,46a,56a 長孔
16b 長孔形成部
16d,46d,56d 上部内面
16e,46e,56e 下部内面
17 可動板
17d 上面
17e 下面
21 補強部材側支持板(被押圧部)
22 球面滑り軸受(軸受)
26,61 拘束部材
28,64 拘束部(押圧部)
30 V字ブレース(ブレース部材)
35 制振ダンパー
105 梁側支持部(第二又は第一支持部)
111 補強部材上側支持部(第一又は第二支持部)
BL 構造物
P1,P2 柱(第一部材)
Q1,Q2 梁(第一部材)
S,SA,S’ 支承
図1
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