(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】アセトン検知器
(51)【国際特許分類】
G01N 27/16 20060101AFI20250407BHJP
【FI】
G01N27/16 A
(21)【出願番号】P 2021100939
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2024-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】豊田 和男
(72)【発明者】
【氏名】笹原 隆彦
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-069465(JP,A)
【文献】特開2011-145091(JP,A)
【文献】特開2017-142274(JP,A)
【文献】特開2012-242154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-G01N 27/24
B01J 21/00-B01J 38/74
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のヒーターと、アセトンとエタノールとを吸着させて前記第1のヒーターの熱で燃焼させる第1の触媒とを備える第1の触媒素子と、ヒーター及び該ヒーターにより加熱される担体を備える第1の補償素子とを備え、アセトンとエタノールとの燃焼により出力値が変化する第1のブリッジ回路と、
第2のヒーターと、エタノールを吸着させて前記第2のヒーターの熱で燃焼させる第2の触媒とを備える第2の触媒素子と、ヒーター及び該ヒーターにより加熱される触媒を備える第2の補償素子とを備え、エタノールの燃焼により出力値が変化する第2のブリッジ回路と、
前記第1のブリッジ回路と前記第2のブリッジ回路とをLOW/HIGHレベルを有する2パルスを周期的に印加することによりパルス駆動させると共に、前記第1のブリッジ回路の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である第1出力値と、前記第2のブリッジ回路の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である第2出力値とに基づいてアセトンの濃度を求める制御部と
を備えるアセトン検知器。
【請求項2】
前記制御部は、
エタノールの濃度に応じて設定された補正係数により、前記第2のブリッジ回路の前記第2出力値を補正した補正値と、前記第1のブリッジ回路の前記第1出力値との差分に基づいてアセトンの濃度を求める請求項1に記載のアセトン検知器。
【請求項3】
前記第1のブリッジ回路と前記第2のブリッジ回路とは、共通のパッケージに設けられている請求項1又は2に記載のアセトン検知器。
【請求項4】
前記第1の触媒は、パラジウムであり、
前記第1の触媒を担持する担体は、酸化アルミニウムである請求項1~3の何れか1項に記載のアセトン検知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトン検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
干渉ガスの影響下においても所望ガスを精度良く検知することを企図した生体ガス検知装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の生体ガス検知装置は、生体ガスに含まれる所望ガス及び干渉ガスに感度を示す半導体式ガスセンサと、生体ガスに含まれる干渉ガスに感度を示す電気化学式ガスセンサと、これらのガスセンサの出力値に基づいて、所望ガスの濃度を取得する所望ガス濃度取得手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の生体ガス検知装置では、半導体式ガスセンサと電気化学式ガスセンサというガスを検知する原理が異なる2種類のガスセンサを用いることから、それぞれのガスセンサのパッケージを別々に設ける必要があり、コスト増となる。また、半導体式ガスセンサは、温湿度補償素子を備えないことから、温度や湿度に対する特性のずれが大きく、大きな補正係数を入力しなければならず、誤差が大きくなる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、アセトンの検知精度を向上させると共にコストを低減することができるアセトン検知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアセトン検知器は、第1のヒーターと、アセトンとエタノールとを吸着させて前記第1のヒーターの熱で燃焼させる第1の触媒とを備える第1の触媒素子と、ヒーター及び該ヒーターにより加熱される担体を備える第1の補償素子とを備え、アセトンとエタノールとの燃焼により出力値が変化する第1のブリッジ回路と、第2のヒーターと、エタノールを吸着させて前記第2のヒーターの熱で燃焼させる第2の触媒とを備える第2の触媒素子と、ヒーター及び該ヒーターにより加熱される触媒を備える第2の補償素子とを備え、エタノールの燃焼により出力値が変化する第2のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路と前記第2のブリッジ回路とをLOW/HIGHレベルを有する2パルスを周期的に印加することによりパルス駆動させると共に、前記第1のブリッジ回路の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である第1出力値と、前記第2のブリッジ回路の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である第2出力値とに基づいてアセトンの濃度を求める制御部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1のブリッジ回路の第1の触媒に吸着していたアセトン及びエタノールに対して第1のブリッジ回路から出力値が得られ、第2のブリッジ回路の第2の触媒に吸着していたエタノールに対して第2のブリッジ回路から出力値が得られ、これらの出力値に基づいてアセトンの濃度が求められる。これにより、低濃度のアセトンを検知することができる。また、吸着燃焼式という同じ原理の第1のブリッジ回路及び第2のブリッジ回路で構成されているので、アセトン及びエタノール用のガスセンサとエタノール用のガスセンサとを共通のパッケージに実装することが可能になる。さらに、LOW/HIGHレベルを有する2パルスを周期的に印加することにより第1ブリッジ回路及び第2ブリッジ回路をパルス駆動させると共に、第1のブリッジ回路の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である第1出力値と、第2のブリッジ回路の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である第2出力値とに基づいてアセトンの濃度を求める。即ち、触媒に吸着したガス分子を燃焼させた状態と触媒にガスが吸着しない状態との差分を第1出力値及び第2出力値とする。従って、アセトンの検知精度を向上させると共にコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るアセトン検知器の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すアセトン検知器を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2に示すアセトン検知器の概略構成と、TVOCセンサ及びエタノールセンサの出力とアセトン検知器の出力との関係とを示す図である。
【
図4】
図4は、TVOCセンサ及びエタノールセンサの出力特性を示す図である。
【
図5】
図5は、TVOCセンサの検知素子において生じるガスの吸着燃焼反応を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、TVOCセンサ及びエタノールセンサの吸着燃焼特性を説明するための図である。
【
図7】
図7は、吸着燃焼特性を示すガスセンサの出力とガス濃度との関係、及び接触燃焼特性を示すガスセンサの出力とガス濃度との関係を示すリニアグラフである。
【
図8】
図8は、エタノール濃度(ppb)とTVOCセンサ及びエタノールセンサの出力(mV)と比率との関係を示す表である。
【
図9】
図9は、エタノール濃度(ppb)とTVOCセンサ及びエタノールセンサの出力(mV)との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、アセトン検知器の評価試験におけるパルス駆動パターンを示すタイミングチャートである。
【
図12】
図12は、試験結果を示すグラフであり、TVOCセンサ及びエタノールセンサの出力(mV)と経過時間(min)との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、試験結果を示す両対数グラフであり、TVOCセンサ及びエタノールセンサの出力(mV)とアセトンガスのアセトン濃度(ppm)との関係を示す両対数グラフである。
【
図14】
図14は、パルス電圧をLOW電圧とHIGH電圧とに切り替える場合と、パルス電圧をONとOFFとに切り替える場合とにおけるアセトンの濃度(ppm)とアセトン検知器の出力(mV)との関係を示す両対数グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るアセトン検知器1の概略構成を示す図である。この図に示すアセトン検知器1は、呼気中のアセトンを検知する吸着燃焼式のガスセンサである。ここで、呼気中には、検知対象のアセトンに加えて干渉ガスとしてのエタノールが含まれている。そこで、本実施形態のアセトン検知器1は、呼気中のエタノールの影響を除去する算出方法により呼気中のアセトンの濃度を求める。
【0011】
アセトン検知器1は、TVOCセンサ10と、エタノールセンサ20と、MCU(Micro Control Unit)30とを備える。TVOCセンサ10は、触媒でのVOC(Volatile Organic Compounds、揮発性有機化合物)の燃焼により出力値Vm1が変化する燃焼式のガスセンサを構成する。TVOCセンサ10は、検知素子11と、補償素子12とを備えるブリッジ回路である。検知対象のアセトンと干渉ガスとしてのエタノールとが、検知素子11に対して吸着燃焼特性を示す。他方で、アセトン及びエタノールは、補償素子12に対しては吸着燃焼特性も接触燃焼特性も示さない。なお、吸着燃焼特性と接触燃焼特性とについては後述する。
【0012】
TVOCセンサ10は、一対の並列回路10A,10Bを備える。この一対の並列回路10A,10Bは、ヒーター駆動回路31に接続された導線から分岐する。分岐した一対の並列回路10A,10Bは、グランド端子Vgに接続された導線に再結合する。一方の並列回路10Aにおいて、検知素子11と、補償素子12とが直列で接続されている。他方の並列回路10Bでは、一対の固定抵抗R1,R2と、この一対の固定抵抗R1,R2の間に設けられた可変抵抗VRとが、直列で接続されている。本実施形態では、補償素子12が電源端子Vd側に配され、検知素子11がグランド端子Vg側に配されている。
【0013】
TVOCセンサ10は、検知素子11と補償素子12との間に接続された端子13と、可変抵抗VRに接続された端子14とを備え、端子13と端子14との電位差である出力値Vm1をMCU30に出力する。このTVOCセンサ10では、検知素子11が、アセトン及びエタノールに対して感度を示すのに対して、補償素子12は、アセトン、エタノール、及びその他のガスに対して感度を示さない。
【0014】
検知素子11としては、ビーズ状の担体にコイルが埋め込まれ触媒が担体に担持されたビーズタイプのもの、基板上にヒーターがパターニングされ触媒が担持されたマイクロセンサタイプのもの等を例示できる。補償素子12としては、触媒を担持しないビーズ状の担体にコイルが埋め込まれたビーズタイプのもの、基板上にヒーターがパターニングされ触媒を担持しないマイクロセンサタイプのもの等を例示できる。以下、ビーズタイプの検知素子11及び補償素子12を例に挙げて説明するが、これに限られるわけではない。
【0015】
検知素子11は、ヒーター111と、燃焼触媒層112とを備える。ヒーター111は、電圧を印加されて発熱する。ヒーター111の材料としては、白金(Pt)を例示できる。燃焼触媒層112は、ヒーター111が埋め込まれた担体と担体に担持された触媒とを備え、ヒーター111により加熱される。この燃焼触媒層112では、検知対象のアセトン及び干渉ガスとしてのエタノールが物理吸着して燃焼する吸着燃焼特性を示す。燃焼触媒層112の材料としては、パラジウム/酸化アルミニウム(Pd/Al2O3)、パラジウム/酸化スズ(Pd/SnO2)、パラジウム/酸化セリウム(Pd/CeO2)、パラジウム/酸化ジルコニウム(Pd/ZrO2)等を例示できる。燃焼触媒層112の担体の材料として、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等を例示できる。また、燃焼触媒層112の触媒の材料として、パラジウムを例示できる。さらに、燃焼触媒層112の材料の一例であるパラジウム/酸化アルミニウムとしては、酸化アルミニウムに対してパラジウムが15wt%の割合で担持されているものを例示できる。なお、燃焼触媒層112の触媒の材料として白金を用いてもよいが、一酸化炭素が吸着しないパラジウムが燃焼触媒層112の触媒の材料としては好ましい。
【0016】
燃焼触媒層112に対して物理吸着するのは極性分子ガスである。この極性分子ガスとしては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、スチレン等のVOC類等を例示できる。なお、燃焼触媒層112の触媒の材料をパラジウムとすることにより、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、イソブタン(C4H10)等の無極性分子ガスあるいは低有極性分子ガスが、燃焼触媒層112に対して物理吸着することを防止できる。
【0017】
補償素子12は、ヒーター121と、担体122とを備える。ヒーター121は、電圧を印加されて発熱する。ヒーター121の材料としては、白金を例示できる。担体122は、ヒーター121が埋め込まれており、ヒーター121により加熱される。担体122の材料としては、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等を例示できる。
【0018】
エタノールセンサ20は、触媒でのエタノールの燃焼により出力値Vm2が変化する燃焼式のガスセンサを構成する。エタノールセンサ20は、検知素子21と、補償素子22とを備えるブリッジ回路である。エタノールは、検知素子21と補償素子22とに対して異なる吸着燃焼特性を示す。
【0019】
エタノールセンサ20は、一対の並列回路20A,20Bを備える。この一対の並列回路20A,20Bは、ヒーター駆動回路31に接続された導線から分岐する。分岐した一対の並列回路20A,20Bは、グランド端子Vgに接続された導線に再結合する。一方の並列回路20Aにおいて、検知素子21と、補償素子22とが直列で接続されている。他方の並列回路20Bでは、一対の固定抵抗R1,R2と、この一対の固定抵抗R1,R2の間に設けられた可変抵抗VRとが直列で接続されている。本実施形態では、補償素子22がヒーター駆動回路31側に配され、検知素子21がグランド端子Vg側に配されている。
【0020】
エタノールセンサ20は、検知素子21と補償素子22との間に接続された端子23と、可変抵抗VRに接続された端子24とを備え、端子23と端子24との電位差である出力値Vm2をMCU30に出力する。このエタノールセンサ20では、検知素子21と補償素子22とが、エタノールに対して異なる応答特性(吸着燃焼特性)を示すのに対して、エタノール以外のガスに対しては同程度の応答特性を示す。
【0021】
検知素子21及び補償素子22としては、ビーズ状の担体にコイルが埋め込まれ触媒が担体に担持されたビーズタイプのもの、基板上にヒーターがパターニングされ触媒が担持されたマイクロセンサタイプのもの等を例示できる。以下、ビーズセンサタイプの検知素子21及び補償素子22を例に挙げて説明するが、これに限られるわけではない。
【0022】
検知素子21は、ヒーター211と、燃焼触媒層212とを備える。ヒーター211は、電圧を印加されて発熱する。ヒーター211の材料としては、白金を例示できる。燃焼触媒層212は、ヒーター211が埋め込まれた担体と担体に担持された触媒とを備え、ヒーター211により加熱される。この燃焼触媒層212は、エタノールが物理吸着して燃焼する特性を示す。燃焼触媒層212の材料としては、酸化ランタン(La2O3)を含む白金/酸化アルミニウム(Pt/Al2O3)、酸化銅(CuO)を含む白金/酸化アルミニウム等を例示できる。燃焼触媒層212の触媒の材料としては、酸化ランタンを含む白金、酸化銅を含む白金を例示できる。また、燃焼触媒層212の担体の材料としては、酸化アルミニウムを例示できる。さらに、燃焼触媒層212の一例である酸化ランタンを含む白金/酸化アルミニウムとしては、白金が酸化アルミニウムに対して15wt%の割合で担持され酸化ランタンが白金/酸化アルミニウム触媒中の酸化アルミニウムに対して30wt%の割合で添加されたものを例示できる。燃焼触媒層212の一例である酸化銅を含む白金/酸化アルミニウムとしては、白金が酸化アルミニウムに対して15wt%の割合で担持され酸化銅が白金/酸化アルミニウム触媒中の酸化アルミニウムに対して30wt%の割合で添加されたものを例示できる。
【0023】
補償素子22は、ヒーター221と、燃焼触媒層222とを備える。ヒーター221は、電圧を印加されて発熱する。ヒーター221の材料としては、白金を例示できる。燃焼触媒層222は、ヒーター221が埋め込まれた担体と担体に担持された触媒とを備え、ヒーター221により加熱される。この燃焼触媒層222は、エタノールが物理吸着して燃焼する特性を示す。燃焼触媒層222の材料としては、酸化クロム(Cr2O3)を含む白金/酸化アルミニウム、α-酸化鉄(α-Fe2O3)を含む白金/酸化アルミニウム、酸化タングステン(WO3)を含む白金/酸化アルミニウム等を例示できる。燃焼触媒層222の触媒の材料としては、酸化クロムを含む白金、α-酸化鉄を含む白金、酸化タングステンを含む白金を例示できる。燃焼触媒層222の担体の材料としては、酸化アルミニウムを例示できる。さらに、燃焼触媒層222の一例である酸化クロムを含む白金/酸化アルミニウムとしては、白金が酸化アルミニウムに対して15wt%の割合で担持され酸化クロムが白金/酸化アルミニウム触媒中の酸化アルミニウムに対して30wt%の割合で添加されたものを例示できる。燃焼触媒層222の一例である酸化タングステンを含む白金/酸化アルミニウムとしては、白金が酸化アルミニウムに対して15wt%の割合で担持され酸化タングステンが白金/酸化アルミニウム触媒中の酸化アルミニウムに対して30wt%の割合で添加されたものを例示できる。
【0024】
燃焼触媒層212,222に対しては、エタノール等の極性分子ガスのみならず一酸化炭素等の無極性分子ガスあるいは低有極性分子ガスも物理吸着する。しかしながら、エタノールは、燃焼触媒層212と燃焼触媒層222とにおいて異なる応答特性を示すのに対して、その他のガスは、燃焼触媒層212と燃焼触媒層222とにおいて同様の応答特性を示すので、エタノールとその他のガスとでは、エタノールセンサ20からの出力値Vm2に差異が生じる。この出力値Vm2の差異により、エタノールとその他のガスとを識別することができる。
【0025】
MCU30は、ヒーター駆動回路31と、出力検知器32と、メモリ33と、演算回路34とを備える。ヒーター駆動回路31は、TVOCセンサ10の電源端子Vdとエタノールセンサ20の電源端子Vdとに接続されている。このヒーター駆動回路31は、パルス状の駆動電圧を生成してTVOCセンサ10とエタノールセンサ20とに印加する。
【0026】
出力検知器32は、TVOCセンサ10の端子13,14とエタノールセンサ20の端子23,24とに接続されている。この出力検知器32は、上記の出力値Vm1,Vm2を増幅して演算回路34に出力する。
【0027】
メモリ33は、MCU30に処理を実行させるためのプログラムを記憶している。演算回路34は、メモリ33に記憶されているプログラムに従い、出力検知器32から出力された出力値Vm1,Vm2に基づいてアセトンの濃度を演算する。
【0028】
図2は、
図1に示すアセトン検知器1を示す分解斜視図である。この図に示すように、アセトン検知器1は、基板2と、基板2上に実装されたTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20と、基板2を被覆するキャップ3と、基板2から延出するリード4とを備える。即ち、アセトン検知器1では、ガスを検知する原理が同じ(共に吸着燃焼式)であるTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20が、共通のパッケージ5に実装されている。
【0029】
図3は、
図1及び
図2に示すアセトン検知器1の概略構成と、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力とアセトン検知器1の出力との関係とを示す図である。この図に示すように、TVOCセンサ10の出力端子(
図1の端子13,14に相当)から出力値V
m1が出力され、エタノールセンサ20の出力端子(
図2の端子23,24に相当)から出力値V
m2が出力される。
【0030】
図4は、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力特性を示す図である。
図4の下段には、エタノール及びアセトンを含まないエアー、濃度が3ppmのエタノールガス、濃度が3ppmのアセトンガスに対するTVOCセンサ10の出力(mV)を示している。また、
図4の上段には、エタノール及びアセトンを含まないエアー、濃度が3ppmのエタノールガス、濃度が3ppmのアセトンガスに対するエタノールセンサ20の出力(mV)を示している。
図4に示すように、TVOCセンサ10とエタノールセンサ20とはエタノールに対して感度を示す。他方で、TVOCセンサ10は、アセトンに対して感度を示すのに対して、エタノールセンサ20は、アセトンに対しては感度を示さない。
【0031】
ここで、呼気中のアセトン濃度を、アセトン検知器1を用いて測定する場合、TVOCセンサ10は、呼気中のアセトンのみならずエタノールに対しても感度を示し、呼気中のアセトン及びエタノールの燃焼触媒層112での燃焼に応じた出力値Vm1を出力する。そのため、アセトン検知器1でアセトン濃度を検知するためには、TVOCセンサ10の出力値Vm1からエタノールの影響による分を除去する必要がある。そこで、本実施形態のアセトン検知器1では、同期したパルス電圧をエタノールセンサ20とTVOCセンサ10とに印加し、エタノールセンサ20の出力値Vm2に基づいて、TVOCセンサ10の出力値Vm1におけるエタノールの影響による分を推定し、エタノールの影響による分を除去したアセトン出力(Vm1-Vm2)を求める。
【0032】
図5は、TVOCセンサ10の検知素子11において生じるガスGの吸着燃焼反応を模式的に示す図である。この図では、ガスGとしてのアルコール類やVOC類等の極性分子ガスが燃焼触媒層112に物理吸着して燃焼する反応を示している。
【0033】
図5に示すように、アルコール類やVOC類等の極性分子ガスであるガスGは、ヒーター111がOFF(又はLOW電圧)の期間に燃焼触媒層112に物理吸着し、ヒーター111がON(又はHIGH電圧)の期間に燃焼触媒層112上で燃焼する。そして、ガスGは、ヒーター111がONの期間の燃焼により水(H
2O)と二酸化炭素(CO
2)とに分解される。
【0034】
ここで、ガスGが、ヒーター111がOFF(又はLOW電圧)の期間に燃焼触媒層112に対して物理吸着していることにより、ヒーター111がON(又はHIGH電圧)になりガスGの燃焼温度以上に昇温してから瞬時に燃焼する。このように、燃焼触媒層112に対して吸着していたガスGの燃焼が、吸着燃焼である。この吸着燃焼は、非吸着性のガスが触媒に対して衝突して燃焼する接触燃焼に比して、ヒーター111がON(又はHIGH電圧)になってから燃焼に至るまでの応答が比較的速い。
【0035】
なお、図示は省略するが、エタノールセンサ20が備える検知素子21、補償素子22においても、TVOCセンサ10の検知素子11と同様に、エタノールガスの吸着燃焼が生じる。エタノールセンサ20におけるエタノールガスの吸着燃焼は、接触燃焼に比して、ヒーター211,221がON(又はHIGH電圧)になってから燃焼するまでの反応が速い。
【0036】
図6は、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の吸着燃焼特性を説明するための図である。この図に示すように、本実施形態のアセトン検知器1では、ヒーター駆動回路31(
図1参照)が、数秒から数十秒に1回の周期でTVOCセンサ10のヒーター111,121及びエタノールセンサ20のヒーター211,221に同期したパルス電圧を印加する。ここで、ヒーター駆動回路31は、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20をLOW/HIGHレベルを有する2パルスを周期的に印加することによりパルス駆動させる。演算回路34は、TVOCセンサ10の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である出力値と、エタノールセンサ20の1パルス目の出力値と2パルス目の出力値との差分である出力値とに基づいてアセトンの濃度を求める(
図11参照)。
【0037】
ここで、ヒーター111,121,211,221に印加するパルス電圧がOFF又はLOW電圧である数秒から数十秒の期間が、アセトン及びエタノールがTVOCセンサ10の燃焼触媒層112に吸着し、エタノールが、エタノールセンサ20の燃焼触媒層212,222に吸着する吸着期間である。なお、吸着期間にLOW電圧をヒーター111,121,211,221に印加する場合には、燃焼触媒層112,212,222の温度が触媒に吸着した水分を除去できる温度(例えば、100~200℃)となるように、LOW電圧を設定することが好ましい。
【0038】
そして、ヒーター111,121,211,221に印加するパルス電圧がON又はHIGH電圧である50~100msの期間が、TVOCセンサ10の燃焼触媒層112に吸着していたアセトン及びエタノールが燃焼し、エタノールセンサ20の燃焼触媒層212,222に吸着していたエタノールが燃焼する燃焼期間である。この燃焼期間では、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力(吸着燃焼出力)がピーク出力として出現する。即ち、パルス電圧がON又はHIGH電圧の50~100msの期間に、TVOCセンサ10は、アセトン及びエタノールに対して高い感度を示し、エタノールセンサ20は、エタノールに対して高い感度を示す。それに対して、非吸着性のガスが触媒に対して衝突して生じる接触燃焼では、燃焼期間では、出力がピーク出力としては出現せず、定常出力として出現するのみである。
【0039】
図7は、吸着燃焼特性を示すガスセンサの出力(図中の吸着燃焼出力)とガス濃度との関係、及び接触燃焼特性を示すガスセンサの出力(図中の接触燃焼出力)とガス濃度との関係を示すリニアグラフである。この片対数グラフでは、X軸のガス濃度を対数で示している。この片対数グラフに示すように、接触燃焼出力とガス濃度の対数との比率は一定になる。それに対して、吸着燃焼出力とガス濃度の対数との比率は、一定にならず、また、接触燃焼出力とガス濃度の対数との比率に比して大きくなる。即ち、この片対数グラフから、吸着燃焼特性を示すガスセンサは、接触燃焼特性を示すガスセンサに比して、低濃度のガスに対して高感度を示すことが確認できる。
【0040】
ところで、吸着燃焼特性を示すガスセンサでは、パルス電圧がON又はHIGH電圧の期間に、吸着していたガスの燃焼が終わるとピーク出力が徐々に低下し、この期間の終盤では、接触燃焼(飛び回っていたガス分子が触媒に衝突して生じる燃焼)による定常出力が残る。ここで、ピーク出力は、定常出力に比して、5~10倍と大きく、特にガス濃度が低濃度のときに大きくなる。そのため、吸着燃焼特性を示すガスセンサでは、接触燃焼特性を示すガスセンサに比して、ピーク出力がノイズと区別し易くなることにより、S/N比を高く保つことができ、検知精度を高くすることができる。
【0041】
このように、本実施形態のアセトン検知器1は、呼気中に含まれるアセトン及びエタノールに対してTVOCセンサ10が高い感度を示し、呼気中に含まれるエタノールに対してエタノールセンサ20が高い感度を示す。そして、
図1に示すMCU30の演算回路34が、TVOCセンサ10の出力値V
m1とエタノールセンサ20の出力値V
m2とに応じて、メモリ33に記憶された演算式を用いてアセトンの濃度を演算する。
【0042】
図8は、エタノール濃度(ppb)とTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力(mV)と下記の比率αとの関係を示す表である。また、
図9は、エタノール濃度(ppb)とTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力(mV)との関係を示すグラフである。これらの表及びグラフに示すTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力は、アセトンを含まずエタノールのみを含むエタノールガスに対して出現するものである。
【0043】
これらの表及びグラフに示すように、TVOCセンサ10のエタノールガスに対する出力は、エタノールセンサ20のエタノールガスに対する出力よりも高電圧となる。そして、TVOCセンサ10のエタノールガスに対する出力とエタノールセンサ20のエタノールガスに対する出力との比率は、
図8の表に示すようになる。具体的には、濃度が1~100ppbのエタノールガスに対しては、比率αが3.95となり、濃度が101~200ppbのエタノールガスに対しては、比率αが6.08となり、濃度が201~400ppbのエタノールガスに対しては、比率αが7.79となり、濃度が401~1000ppbのエタノールガスに対しては、比率αが4.83となり、濃度が1001~3000ppbのエタノールガスに対しては、比率αが2.44となる。
【0044】
本実施形態のアセトン検知器1では、
図1に示すMCU30のメモリ33(
図1参照)に、エタノールセンサ20の出力(以下、エタノールセンサ出力という)とエタノールの濃度との関係を示すテーブルと、エタノールの濃度と、上記の比率αとの関係を示すテーブルが記憶されている。また、メモリ33には、エタノールの濃度に応じて規定されたTVOCセンサ10のアセトンの出力(以下、アセトン出力という)の演算式(下記(1)式)が記憶されている。
【0045】
Z=Y-αX …(1)
但し、Zはアセトン出力であり、Yはアセトンセンサの出力(以下、アセトンセンサ出力という)であり、Xはエタノールセンサ出力である。また、αは上記の比率であり、エタノールの濃度が1~100ppbの場合は3.95、エタノールの濃度が101~200ppbの場合は6.08、エタノールの濃度が201~400ppbの場合は7.79、エタノールの濃度が401~1000ppbの場合は4.83、エタノールの濃度が1001~3000ppbの場合は2.44である。
【0046】
以下、本実施形態のアセトン検知器1の評価試験について説明する。
【0047】
図10は、評価装置100の概略を示す図である。この図に示す評価装置100は、アセトン検知器1の評価試験で使用された装置(ガスクロマトグラフ)である。この評価装置100は、ボンベ101,102と、減圧調整器103,104と、恒温槽100Aと、マスフローコントローラ(MFC)105と、流量計106と、混合器107と、測定チャンバ108と、流量計付きの加湿器109と、排気ポンプ110とを備える。
【0048】
ボンベ101には、濃度が5ppmのアセトンガスが充填され、ボンベ102には、エアー(Air)が充填されている。減圧調整器103は、ボンベ101に対応して設けられ、減圧調整器104は、ボンベ102に対応して設けられている。マスフローコントローラ105、流量計106、混合器107、測定チャンバ108、加湿器109、及び排気ポンプ110は、恒温槽100Aに収容されている。恒温槽100Aは、24℃、30%RHに設定されている。加湿器109は、Dry流量計109DとWet流量計109Wとを備える。
【0049】
濃度が5ppmのアセトンガスは、減圧調整器103により圧力を調整されマスフローコントローラ105により流量を制御されて混合器107に供給される。他方で、エアーは、減圧調整器104により圧力を調整され加湿器109で加湿されて混合器107に供給される。混合器107では、濃度が5ppmのアセトンガスとエアーとが混合される。評価装置100では、混合器107に供給されるアセトンガスとエアーとの流量を調整することにより、測定チャンバ108に供給されるアセトンガスのアセトン濃度が0.01~5ppmの範囲で調整可能である。
【0050】
測定チャンバ108は、2.5Lの容積を有しており、この測定チャンバ108の中にアセトン検知器1(
図1等参照)が設置されている。このアセトン検知器1が、測定チャンバ108に供給されたガス中のアセトンに対して感度を示す。測定チャンバ108に供給されたガスは、排気ポンプ110により測定チャンバ108から排気される。この評価装置100の総流量は500cc/minである。
【0051】
この評価試験では、まず、ボンベ102から測定チャンバ108にエアーを供給し、その後、10分間隔で、アセトンの濃度を0.1ppm、0.2ppm、0.4ppm、1.0ppm、3.0ppmと変化させたアセトンガスを測定チャンバ108に供給し、アセトン検知器1の出力をモニターした。アセトン検知器1のパルス駆動パターンは、
図11に示すとおりである。
【0052】
図11は、アセトン検知器1の評価試験におけるパルス駆動パターンを示すタイミングチャートである。この評価試験では、アセトンの濃度を調整したアセトンガスを10分間隔で測定チャンバ108(
図10参照)に供給する毎にアセトン検知器1を起動させた。アセトン検知器1を起動させた後は、(1)所定時間L1(例えば1~30s)のLOW電圧の印加、(2)所定時間S1のHIGH電圧の印加、(3)所定時間L2のLOW電圧の印加、(4)所定時間S2のHIGH電圧の印加を、(1)~(4)の順序で実施し、この(1)~(4)のパルス駆動パターンを繰り返した。
【0053】
所定時間L1は、例えば1~30sと所定時間L2,S1,S2に比して長時間に設定すればよく、この評価試験では10sである。この所定時間L1の期間は、ガス中のアセトンが触媒に吸着する吸着期間となる。所定時間S1,S2は、50~100msと所定時間L1に比して短時間に設定すればよく、この評価試験では50msである。所定時間S1の期間は、触媒に吸着していたアセトンが燃焼する燃焼期間となる。そして、所定時間L2は、例えば30~200msと所定時間L1に比して短時間に設定すればよく、この評価試験では30msである。この所定時間L2の期間は、ガス中のアセトンを触媒に吸着させない非吸着期間となる。
【0054】
LOW電圧は、触媒に吸着した水分を除去できる温度(例えば100~200℃)まで触媒を昇温でき、電力が16~17mWとなる電圧に設定した。また、HIGH電圧は、触媒に吸着したアセトンが燃焼する温度(例えば460℃)まで触媒を昇温でき、電力が53mWとなる電圧に設定した。
【0055】
この評価試験では、10s毎に2パルスのHIGH電圧を印加した。その際、所定時間L1の吸着期間で触媒に吸着したアセトンを、続く所定時間S1の燃焼期間で燃焼させ、HIGH電圧になってから10ms後のTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力値Vs1を取得した。また、所定時間L2の非吸着期間を挟んで続く所定時間S2の期間でHIGH電圧になってから10ms後のTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力値Vs2を取得した。この出力値Vs2は、アセトンが触媒に吸着しない(濃度が0)と言える状態での出力に相当する。そして、出力値Vs1と出力値Vs2との差分(Vs1-Vs2)を演算してTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力値Vm1,Vm2とした。即ち、触媒に吸着したガス分子を燃焼させた状態と触媒にガスが吸着しない状態との差分を出力値Vm1,Vm2とした。
【0056】
図12は、試験結果を示すグラフであり、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力(mV)と経過時間(min)との関係を示すグラフである。
図13は、試験結果を示す両対数グラフであり、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力(mV)とアセトンガスのアセトン濃度(ppm)との関係を示す両対数グラフである。これらのグラフに示すように、低濃度(0.1ppm)のアセトンガスに対してTVOCセンサ10の出力が得られることが確認された。
【0057】
図14は、パルス電圧をLOW電圧とHIGH電圧とに切り替える場合と、パルス電圧をONとOFFとに切り替える場合とにおけるアセトンの濃度(ppm)とアセトン検知器1の出力(mV)との関係を示す両対数グラフである。この両対数グラフに示すLOW-HIGHの結果は、アセトン及びエタノールを燃焼触媒層112,212,222に吸着させる吸着期間に、ヒーター111,121,211,221にLOW電圧を印加し、燃焼触媒層112,212,222を100~200℃まで昇温させることで得られた。
【0058】
この両対数グラフに示すように、パルス電圧をONとOFFとに切り替える場合の検出限界は、500mV(出力)、20ppm(アセトン濃度)であるのに対して、パルス電圧をLOW電圧とHIGH電圧とに切り替える場合の検出限界は、50mV(出力)、0.05ppm(アセトン濃度)と、相対的に低電圧、低濃度となることが確認された。以上により、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20に印加するパルス電圧をLOW電圧とHIGH電圧とに切り替えることにより、有意な効果が得られることが確認された。
【0059】
以上説明したように、本実施形態のアセトン検知器1は、吸着燃焼式のTVOCセンサ10と吸着燃焼式のエタノールセンサ20とをパルス駆動させることにより、パルス電圧がOFF又はLOW電圧の吸着期間にTVOCセンサ10の触媒に吸着していたアセトン及びエタノールに対してTVOCセンサ10から出力値Vm1が得られ、パルス電圧がOFF又はLOW電圧の吸着期間にエタノールセンサ20の触媒に吸着していたエタノールに対してエタノールセンサ20から出力値Vm2が得られる。そして、MCU30の演算回路34が、出力値Vm1,Vm2に基づいてアセトンの濃度を求める。ここで、一般的には、半導体式ガスセンサが接触燃焼式ガスセンサよりも低濃度のアセトンを検知するのに適していると考えられている。しかしながら、共に吸着燃焼式ガスセンサであるTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20で構成された本実施形態のアセトン検知器1は、半導体式ガスセンサと同様あるいはそれ以上に、低濃度のアセトンに対して高い感度を示すことが可能である。
【0060】
さらに、LOW/HIGHレベルを有する2パルスを周期的に印加することによりTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20をパルス駆動させると共に、TVOCセンサ10の1パルス目の出力値Vs1と2パルス目の出力値Vs2との差分(Vs1-Vs2)を出力値Vm1とし、エタノールセンサ20の1パルス目の出力値Vs1と2パルス目の出力値Vs2との差分(Vs1-Vs2)を出力値Vm2とした。即ち、触媒に吸着したガス分子を燃焼させた状態と触媒にガスが吸着しない状態との差分をTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の出力値Vm1,Vm2とした。これにより、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の検知精度を向上できる。
【0061】
また、本実施形態のアセトン検知器1は、吸着燃焼式という同じ原理のTVOCセンサ10及びエタノールセンサ20で構成されているので、TVOCセンサ10とエタノールセンサ20とを共通のパッケージ5に実装することが可能になる。従って、アセトンの検知精度を向上させると共にコストを低減することができる。
【0062】
また、半導体式ガスセンサは、温湿度補償素子を備えないため、温度や湿度に対する特性のずれが大きく、大きな補正係数を入力しなければならず、誤差が大きくなる。それに対して、本実施形態のアセトン検知器1では、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20が検知素子11,21と補償素子12,22とで構成されていること、これらの素子の温湿度特性が近似していることから、温度や湿度に対する依存性が相対的に小さくなり、誤差が小さくなる。
【0063】
また、本実施形態のアセトン検知器1では、エタノールの濃度に応じて設定された補正係数である比率αにより、エタノールセンサ20の出力値Vm2を補正した補正値(上記(1)式のαX)と、TVOCセンサ10の出力値Vm1(上記(1)式のY)との差分(上記(1)式のZ=Y-αX)に基づいてアセトンの濃度を求める。これにより、干渉ガスとしてのエタノールの影響を除去すると共に、エタノールセンサ20の個体差に基づく誤差を除去したうえで、アセトンを高精度に検知することができる。
【0064】
また、本実施形態のアセトン検知器1では、TVOCセンサ10とエタノールセンサ20とをOFF電圧よりも高電圧であるLOW電圧とこのLOW電圧よりも高電圧であるHIGH電圧とを切り替えるパルス駆動を行う。これによって、TVOCセンサ10及びエタノールセンサ20の触媒にアセトン及びエタノールが吸着する吸着期間に、両センサの触媒に吸着する水分を蒸発させることが可能となる。従って、触媒に吸着する水分の影響を除去した状態で、HIGH電圧を印加して両センサの出力を得ることができ、低濃度のアセトンに対する出力を得ることも可能になる(
図14参照)。
【0065】
また、本実施形態のアセトン検知器1では、TVOCセンサ10が備える触媒は、パラジウムである。これによって、一酸化炭素等の吸着性の低いガス分子のTVOCセンサ10の触媒への付着を抑制でき、一酸化炭素等の対象とはしていないガスに対するTVOCセンサの出力を抑制できる。
【0066】
ここで、メソポーラスシリカ(m-SiO2)を担体とすることも考えられるが、メソポーラスシリカは、親水性材料であるが故に水分子が吸着し易い。担体に水分子が吸着することによりセンサの出力が不安定になりS/N比が低下する。それに対して、本実施形態のアセトン検知器1では、TVOCセンサ10が備える燃焼触媒層112の担体が酸化アルミニウムであることにより、相対的に、担体への水分子の吸着を抑制でき、TVOCセンサ10の出力を安定させることができ、S/N比を高くすることができる。
【0067】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 アセトン検知器
5 パッケージ
10 TVOCセンサ(第1のブリッジ回路)
11 検知素子(第1の触媒素子)
111 ヒーター(第1ヒーター)
112 燃焼触媒層(第1の触媒)
12 補償素子(第1の補償素子)
121 ヒーター
122 担体
20 エタノールセンサ(第2のブリッジ回路)
21 検知素子(第2の触媒素子)
211 ヒーター(第2のヒーター)
212 燃焼触媒層(第2の触媒)
221 ヒーター(第2のヒーター)
222 燃焼触媒層(第2の触媒)
22 補償素子(第2の補償素子)
221 ヒーター
222 燃焼触媒層(触媒)
30 MCU(制御部)
Vm1 出力値
Vm2 出力値
Vs1 出力値
Vs2 出力値
X 出力値
Y 出力値
α 補正係数
αX 補正値