(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20250407BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20250407BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20250407BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/064 Z
B23K26/082
B23K26/00 Q
G02B26/10 104Z
(21)【出願番号】P 2021111363
(22)【出願日】2021-07-05
【審査請求日】2024-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】武田 昂
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大岳
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-085976(JP,A)
【文献】特開2001-340980(JP,A)
【文献】特開平09-216087(JP,A)
【文献】特開平11-170074(JP,A)
【文献】特開2007-284288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/064
B23K 26/082
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ光源と、
加工対象物を支持する支持部と、
前記加工対象物の加工面に前記レーザ光を集光するfθレンズと、
誘電体ミラーを動作させて前記fθレンズに対する前記レーザ光の入射角を調整することにより、前記加工面において前記レーザ光を走査する光走査部と、
前記レーザ光の光路上において前記レーザ光源と前記光走査部との間に配置される偏光ビームスプリッタと、
前記光路上において前記偏光ビームスプリッタと前記光走査部との間に配置される1/4波長板と、
前記レーザ光が照射された前記加工対象物の前記加工面からの前記レーザ光の戻り光であって、前記fθレンズ、前記光走査部、前記1/4波長板、及び前記偏光ビームスプリッタをこの順に経由する前記戻り光を検出する光検出部と、
前記光検出部によって検出された前記戻り光に基づいて、前記加工対象物の加工状態をモニタする制御部と、を備え
、
前記光検出部は、前記戻り光の二次元像を検出し、
前記制御部は、前記光検出部により検出された前記二次元像に基づいて、前記fθレンズと前記加工面との距離を調整する、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記二次元像と前記加工面に形成される加工痕の形状との関係と、前記加工痕の目標形状と、に基づいて、前記目標形状に対応する前記二次元像が前記光検出部により検出されるように、前記fθレンズと前記加工面との距離を調整する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
レーザ光を出力するレーザ光源と、
加工対象物を支持する支持部と、
前記加工対象物の加工面に前記レーザ光を集光するfθレンズと、
誘電体ミラーを動作させて前記fθレンズに対する前記レーザ光の入射角を調整することにより、前記加工面において前記レーザ光を走査する光走査部と、
前記レーザ光の光路上において前記レーザ光源と前記光走査部との間に配置される偏光ビームスプリッタと、
前記光路上において前記偏光ビームスプリッタと前記光走査部との間に配置される1/4波長板と、
前記レーザ光が照射された前記加工対象物の前記加工面からの前記レーザ光の戻り光であって、前記fθレンズ、前記光走査部、前記1/4波長板、及び前記偏光ビームスプリッタをこの順に経由する前記戻り光を検出する光検出部と、
前記光検出部によって検出された前記戻り光に基づいて、前記加工対象物の加工状態をモニタする制御部と、を備え、
前記光検出部は、前記戻り光の信号強度を検出し、
前記制御部は、
前記レーザ光源から出力される前記レーザ光の照射エネルギと前記信号強度と前記加工面に形成される加工痕の直径との関係と、前記加工痕の直径の目標値と、に基づいて、前記光検出部により検出された前記信号強度
が適正値であるか否かを判定し、前記信号強度が適正値でないと判定されたことに応じて、前記加工対象物の加工状態の異常を検知する
、レーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記レーザ光の走査位置に基づいて前記信号強度を補正し、補正後の前記信号強度に基づいて前記加工対象物の加工状態の異常を検知する、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、走査位置に対する前記レーザ光の照射が実行される毎に、前記走査位置において検出された前記信号強度に基づいて、前記走査位置のレーザ加工が正常に行われたか否かを判定し、前記走査位置のレーザ加工が正常に行われていないと判定されたことに応じて、前記加工対象物の加工状態の異常を検知する、
請求項3又は4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
レーザ光を出力するレーザ光源と、
加工対象物を支持する支持部と、
前記加工対象物の加工面に前記レーザ光を集光するfθレンズと、
誘電体ミラーを動作させて前記fθレンズに対する前記レーザ光の入射角を調整することにより、前記加工面において前記レーザ光を走査する光走査部と、
前記レーザ光の光路上において前記レーザ光源と前記光走査部との間に配置される偏光ビームスプリッタと、
前記光路上において前記偏光ビームスプリッタと前記光走査部との間に配置される1/4波長板と、
前記レーザ光が照射された前記加工対象物の前記加工面からの前記レーザ光の戻り光であって、前記fθレンズ、前記光走査部、前記1/4波長板、及び前記偏光ビームスプリッタをこの順に経由する前記戻り光を検出する光検出部と、
前記光検出部によって検出された前記戻り光に基づいて、前記加工対象物の加工状態をモニタする制御部と、を備え、
前記光検出部は、前記戻り光の信号強度を検出し、
前記制御部は、予め定められた走査範囲全体の各走査位置で検出された前記信号強度を積算し、積算結果に基づいて前記加工対象物の加工状態の異常を検知する
、レーザ加工装置。
【請求項7】
支持部に支持された加工対象物の加工面にfθレンズによってレーザ光を集光させることにより、前記加工対象物の加工を行うレーザ加工方法であって、
レーザ光源から出力される前記レーザ光を、偏光ビームスプリッタ及び1/4波長板をこの順に経由させて光走査部に導き、前記光走査部において、誘電体ミラーを動作させて前記fθレンズに対する前記レーザ光の入射角を変化させることにより、前記加工面において前記レーザ光を走査するステップと、
前記レーザ光が照射された前記加工対象物の前記加工面からの前記レーザ光の戻り光であって、前記fθレンズ、前記光走査部、前記1/4波長板、及び前記偏光ビームスプリッタをこの順に経由する前記戻り光を光検出部によって検出するステップと、
前記光検出部によって検出された前記戻り光に基づいて、前記加工対象物の加工状態をモニタするステップと、を含
み、
前記検出するステップにおいて、前記戻り光の二次元像を検出し、
前記モニタするステップにおいて、検出された前記二次元像に基づいて、前記fθレンズと前記加工面との距離を調整する、レーザ加工方法。
【請求項8】
前記モニタするステップにおいて、前記二次元像と前記加工面に形成される加工痕の形状との関係と、前記加工痕の目標形状と、に基づいて、前記目標形状に対応する前記二次元像が前記光検出部により検出されるように、前記fθレンズと前記加工面との距離を調整する、
請求項7に記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
支持部に支持された加工対象物の加工面にfθレンズによってレーザ光を集光させることにより、前記加工対象物の加工を行うレーザ加工方法であって、
レーザ光源から出力される前記レーザ光を、偏光ビームスプリッタ及び1/4波長板をこの順に経由させて光走査部に導き、前記光走査部において、誘電体ミラーを動作させて前記fθレンズに対する前記レーザ光の入射角を変化させることにより、前記加工面において前記レーザ光を走査するステップと、
前記レーザ光が照射された前記加工対象物の前記加工面からの前記レーザ光の戻り光であって、前記fθレンズ、前記光走査部、前記1/4波長板、及び前記偏光ビームスプリッタをこの順に経由する前記戻り光を光検出部によって検出するステップと、
前記光検出部によって検出された前記戻り光に基づいて、前記加工対象物の加工状態をモニタするステップと、を含み、
前記検出するステップにおいて、前記戻り光の信号強度を検出し、
前記モニタするステップ
は、
前記レーザ光源から出力される前記レーザ光の照射エネルギと前記信号強度と前記加工面に形成される加工痕の直径との関係と、前記加工痕の直径の目標値と、に基づいて、前記モニタするステップにおい
て検出された前記信号強度
が適正値であるか否かを判定する処理と、
前記信号強度が適正値でないと判定されたことに応じて、前記加工対象物の加工状態の異常を検知する
処理と、を含む、レーザ加工方法。
【請求項10】
前記モニタするステップは、
前記レーザ光の走査位置に基づいて前記信号強度を補正する処理と、
補正後の前記信号強度に基づいて、前記加工対象物の加工状態の異常を検知する処理と、を含む、
請求項
9に記載のレーザ加工方法。
【請求項11】
前記モニタするステップは、
走査位置に対する前記レーザ光の照射が実行される毎に、前記走査位置において検出された前記信号強度に基づいて、前記走査位置のレーザ加工が正常に行われたか否かを判定する処理と、
前記走査位置のレーザ加工が正常に行われていないと判定されたことに応じて、前記加工対象物の加工状態の異常を検知する処理と、を含む、
請求項
9又は
10に記載のレーザ加工方法。
【請求項12】
支持部に支持された加工対象物の加工面にfθレンズによってレーザ光を集光させることにより、前記加工対象物の加工を行うレーザ加工方法であって、
レーザ光源から出力される前記レーザ光を、偏光ビームスプリッタ及び1/4波長板をこの順に経由させて光走査部に導き、前記光走査部において、誘電体ミラーを動作させて前記fθレンズに対する前記レーザ光の入射角を変化させることにより、前記加工面において前記レーザ光を走査するステップと、
前記レーザ光が照射された前記加工対象物の前記加工面からの前記レーザ光の戻り光であって、前記fθレンズ、前記光走査部、前記1/4波長板、及び前記偏光ビームスプリッタをこの順に経由する前記戻り光を光検出部によって検出するステップと、
前記光検出部によって検出された前記戻り光に基づいて、前記加工対象物の加工状態をモニタするステップと、を含み、
前記検出するステップにおいて、前記戻り光の信号強度を検出し、
前記モニタするステップは、
予め定められた走査範囲全体の各走査位置で検出された前記信号強度を積算する処理と、
積算結果に基づいて前記加工対象物の加工状態の異常を検知する処理と、を含む
、レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガルバノスキャナを用いて加工対象物の表面に対するレーザ光の走査を行うレーザ加工装置において、加工対象物からの反射光を光検出部で好適に検出するために、fθレンズと加工対象物との間に1/4波長板を配置する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された構成では、1/4波長板がレーザ光走査部よりも後段(すなわち、レーザ光走査部よりも加工対象物側)に位置するため、加工対象物の加工面(すなわち、走査対象となる領域)の全体をカバーする大きさの1/4波長板を用いる必要がある。このため、加工面のサイズに応じて1/4波長板のサイズも大きくする必要がある。その結果、装置全体のサイズが大型化してしまうおそれがある。また、レーザ加工時において、加工対象物から生じた飛沫等によって1/4波長板が汚染されるおそれもある。
【0005】
上記に鑑みて、本開示の一側面は、装置の小型化を図ると共に1/4波長板の汚染を抑制することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置は、レーザ光を出力するレーザ光源と、加工対象物を支持する支持部ステージと、加工対象物の加工面にレーザ光を集光するfθレンズと、誘電体ミラーを動作させてfθレンズに対するレーザ光の入射角を調整することにより、加工面においてレーザ光を走査する光走査部と、レーザ光の光路上においてレーザ光源と光走査部との間に配置される偏光ビームスプリッタと、光路上において偏光ビームスプリッタと光走査部との間に配置される1/4波長板と、レーザ光が照射された加工対象物の加工面からのレーザ光の戻り光であって、fθレンズ、光走査部、1/4波長板、及び偏光ビームスプリッタをこの順に経由する戻り光を検出する光検出部と、を備える。
【0007】
上記レーザ加工装置では、偏光ビームスプリッタ及び1/4波長板を用いることにより、偏光ビームスプリッタ及び1/4波長板を用いない場合と比較して、加工対象物の加工面からの戻り光の検出効率を向上させることができる。さらに、1/4波長板を偏光ビームスプリッタと光走査部との間に配置することにより、1/4波長板をfθレンズと加工対象物との間に配置する場合と比較して、1/4波長板のサイズを小型化することができる。その結果、レーザ加工装置全体の小型化を図ることができる。また、1/4波長板を加工対象物に対向する位置に配置しないことにより、レーザ加工時に加工対象物から生じた飛沫等によって1/4波長板が汚染されることを抑制することもできる。
【0008】
上記レーザ加工装置は、光検出部によって検出された戻り光に基づいて、加工対象物の加工状態をモニタする制御部を更に備えてもよい。上記構成によれば、レーザ加工時に検出される戻り光に基づいて、加工対象物の加工状態を容易にモニタすることができる。
【0009】
光検出部は、戻り光の信号強度を検出してもよく、制御部は、光検出部により検出された信号強度に基づいて、加工対象物の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、戻り光の信号強度に基づいて、加工状態の異常を適切に検知し、適切に対処することが可能となる。
【0010】
制御部は、レーザ光の走査位置に基づいて信号強度を補正してもよく、補正後の信号強度に基づいて加工対象物の加工状態の異常を検知してもよい。レーザ光源から出力されるレーザ光は、偏光ビームスプリッタを経由することで直線偏光となり、更に1/4波長板を透過することにより円偏光に変換される。ここで、誘電体ミラーを含む光走査部を用いた場合、レーザ光が誘電体ミラーで反射する際に、レーザ光の直交する偏光間の位相差が変化する。これに起因して、走査範囲の中心付近の戻り光は円偏光の状態が維持されるのに対して、走査範囲の中心から外れた周縁部の戻り光は楕円偏光となる。その結果、走査範囲の中心部の戻り光について検出される信号強度と走査範囲の周縁部の戻り光について検出される信号強度との間に差が生じる。具体的には、レーザ光の照射位置(走査位置)が走査範囲の中心から離れるほど、検出される戻り光の信号強度が小さくなる傾向がある。上記構成によれば、このような傾向に基づいて信号強度を補正することで、走査範囲の各位置で検出される戻り光の信号強度の大きさを揃えることができる。これにより、各走査位置について、一律の基準によってレーザ加工が正常に行われているか否かを判定することが可能となる。
【0011】
制御部は、走査位置に対するレーザ光の照射が実行される毎に、走査位置において検出された信号強度に基づいて、走査位置のレーザ加工が正常に行われたか否かを判定してもよく、走査位置のレーザ加工が正常に行われていないと判定されたことに応じて、加工対象物の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、加工状態の異常を適切且つ即時に検知することができる。
【0012】
制御部は、レーザ光源から出力されるレーザ光の照射エネルギと信号強度と加工面に形成される加工痕の直径との関係と、加工痕の直径の目標値と、に基づいて、信号強度が適正値であるか否かを判定してもよく、信号強度が適正値でないと判定されたことに応じて、加工対象物の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、レーザ光の照射エネルギと戻り光の信号強度と加工痕の直径との関係に基づいて、加工状態の異常を適切に検知することができる。
【0013】
制御部は、予め定められた走査範囲全体の各走査位置で検出された信号強度を積算してもよく、積算結果に基づいて加工対象物の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、走査範囲全体で検出された信号強度の積算結果を用いることで、走査位置の違いによる信号強度の差を吸収し、走査範囲単位で異常検知を行うことができる。また、各走査位置で検出された戻り光の信号強度の補正が不要となるため、その分の計算量を低減することができる。
【0014】
光検出部は、戻り光の二次元像を検出してもよく、制御部は、光検出部により検出された二次元像に基づいて、fθレンズと加工面との距離を調整してもよい。上記構成によれば、加工対象物からの戻り光の二次元像(すなわち、ビームプロファイル)に基づいて、加工位置(照射位置)におけるビームプロファイルが適切な形状となるように、fθレンズと加工面との距離を調整することができる。これにより、加工品質を向上させることができる。
【0015】
制御部は、二次元像と加工面に形成される加工痕の形状との関係と、加工痕の目標形状と、に基づいて、目標形状に対応する二次元像が光検出部により検出されるように、fθレンズと加工面との距離を調整してもよい。上記構成によれば、予め把握された二次元像と加工痕の形状との関係に基づいて、fθレンズと加工面との距離を適切に調整することができる。
【0016】
本開示の他の側面に係るレーザ加工方法は、支持部に支持された加工対象物の加工面にfθレンズによってレーザ光を集光させることにより、加工対象物の加工を行うレーザ加工方法であって、レーザ光源から出力されるレーザ光を、偏光ビームスプリッタ及び1/4波長板をこの順に経由させて光走査部に導き、光走査部において、誘電体ミラーを動作させてfθレンズに対するレーザ光の入射角を変化させることにより、加工面においてレーザ光を走査するステップと、レーザ光が照射された加工対象物の加工面からのレーザ光の戻り光であって、fθレンズ、光走査部、1/4波長板、及び偏光ビームスプリッタをこの順に経由する戻り光を光検出部によって検出するステップと、を含む。上記レーザ加工方法によれば、上述したレーザ加工装置と同様の効果が奏される。
【0017】
上記レーザ加工方法は、前記光検出部によって検出された前記戻り光に基づいて、前記加工対象物の加工状態をモニタするステップを更に含んでもよい。上記構成によれば、レーザ加工時に検出される戻り光に基づいて、加工対象物の加工状態を容易にモニタすることができる。
【0018】
検出するステップにおいて、戻り光の信号強度を検出してもよく、モニタするステップにおいて、検出された信号強度に基づいて、加工対象物の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、戻り光の信号強度に基づいて、加工状態の異常を適切に検知し、適切に対処することが可能となる。
【0019】
モニタするステップは、レーザ光の走査位置に基づいて信号強度を補正する処理と、補正後の信号強度に基づいて、加工対象物の加工状態の異常を検知する処理と、を含んでもよい。上記構成によれば、走査範囲の各位置で検出される戻り光の信号強度の大きさを揃えて、各走査位置について、一律の基準によってレーザ加工が正常に行われているか否かを判定することが可能となる。
【0020】
モニタするステップは、走査位置に対するレーザ光の照射が実行される毎に、走査位置において検出された信号強度に基づいて、走査位置のレーザ加工が正常に行われたか否かを判定する処理と、走査位置のレーザ加工が正常に行われていないと判定されたことに応じて、加工対象物の加工状態の異常を検知する処理と、を含んでもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、加工状態の異常を適切且つ即時に検知することができる。
【0021】
モニタするステップは、レーザ光源から出力されるレーザ光の照射エネルギと信号強度と加工面に形成される加工痕の直径との関係と、加工痕の直径の目標値と、に基づいて、信号強度が適正値であるか否かを判定する処理と、信号強度が適正値でないと判定されたことに応じて、加工対象物の加工状態の異常を検知する処理と、を含んでもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、レーザ光の照射エネルギと戻り光の信号強度と加工痕の直径との関係に基づいて、加工状態の異常を適切に検知することができる。
【0022】
モニタするステップは、予め定められた走査範囲全体の各走査位置で検出された信号強度を積算する処理と、積算結果に基づいて加工対象物の加工状態の異常を検知する処理と、を含んでもよい。上記構成によれば、走査範囲全体で検出された信号強度の積算結果を用いることで、走査位置の違いによる信号強度の差を吸収し、走査範囲単位で異常検知を行うことができる。また、各走査位置で検出された戻り光の信号強度の補正が不要となるため、その分の計算量を低減することができる。
【0023】
検出するステップにおいて、戻り光の二次元像を検出してもよく、モニタするステップにおいて、検出された二次元像に基づいて、fθレンズと加工面との距離を調整してもよい。上記構成によれば、加工対象物からの戻り光の二次元像(すなわち、ビームプロファイル)に基づいて、加工位置(照射位置)におけるビームプロファイルが適切な形状となるように、fθレンズと加工面との距離を調整することができる。これにより、加工品質を向上させることができる。
【0024】
モニタするステップにおいて、二次元像と加工面に形成される加工痕の形状との関係と、加工痕の目標形状と、に基づいて、目標形状に対応する二次元像が光検出部により検出されるように、fθレンズと加工面との距離を調整してもよい。上記構成によれば、予め把握された二次元像と加工痕の形状との関係に基づいて、fθレンズと加工面との距離を適切に調整することができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示の一側面によれば、装置の小型化を図ると共に1/4波長板の汚染を抑制することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、第1実施形態のレーザ加工装置の構成図である。
【
図2】
図2は、加工対象物、光検出部により検出された戻り光の信号強度、及び加工面に形成された加工痕の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、戻り光の信号強度の補正処理の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、レーザ光の照射エネルギと戻り光の信号強度と加工痕の直径との関係の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態のレーザ加工装置の第1の動作例を示す図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態のレーザ加工装置の第2の動作例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のレーザ加工装置の構成図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態のレーザ加工装置により検出された戻り光の二次元像と加工痕との関係の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態のレーザ加工装置の動作の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態のレーザ加工装置により測定された照射エネルギと加工痕直径との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0028】
[第1実施形態]
図1に示される第1実施形態のレーザ加工装置1Aは、レーザ光L1を加工対象物100の加工面100aに照射することにより、当該加工対象物100を加工する装置である。レーザ加工装置1Aは、レーザ光源2と、ステージ3(支持部)と、fθレンズ4と、ガルバノスキャナ5(光走査部)と、偏光ビームスプリッタ6と、1/4波長板7と、光検出部8Aと、制御部9と、を備える。
【0029】
レーザ光源2は、加工対象物100に照射すべきレーザ光L1を出力する装置である。レーザ光源2から出力されるレーザ光L1は、連続光であってもよいし、パルス光であってもよい。本実施形態では、レーザ光L1は、パルス光である。また、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1の波長は、加工対象物100の材料(例えば、金属、樹脂等)に応じて適切に選択される。レーザ光L1の波長は、例えば1030nmである。
【0030】
ステージ3は、加工対象物100を支持する装置である。例えば、加工対象物100は、ステージ3の載置面(上面)に載置される。ステージ3は、例えば、ステージ3の載置面に平行で互いに直交するX軸方向及びY軸方向、並びにステージ3の載置面に直交するZ軸方向に移動可能なXYZステージである。
【0031】
fθレンズ4は、ステージ3上に載置された加工対象物100の加工面100aにレーザ光L1を集光させるレンズである。fθレンズ4は、複数枚のレンズによって構成されている。加工対象物100に対する対物レンズとしてfθレンズ4を用いることにより、加工面100aに対する等速度スキャンを実行することができる。
【0032】
ガルバノスキャナ5は、ガルバノミラー5a(誘電体ミラー)によって構成される。ガルバノスキャナ5は、ガルバノミラー5aを動作させてfθレンズ4に対するレーザ光L1の入射角を調整することにより、加工面100aにおいてレーザ光L1を走査する。ガルバノスキャナ5は、加工面100a上を一次元的に走査するように構成されてもよいし、加工面100a上を二次元的に走査するように構成されてもよい。後者の場合、ガルバノスキャナ5は、例えば、加工面100a上においてX軸方向にレーザ光L1を走査するための第1のガルバノミラーと、加工面100a上においてY軸方向にレーザ光L1を走査するための第2のガルバノミラーと、を含んで構成される。
【0033】
偏光ビームスプリッタ6は、レーザ光L1の光路上においてレーザ光源2とガルバノスキャナ5との間に配置される。具体的には、偏光ビームスプリッタ6は、レーザ光源2と1/4波長板7との間に配置される。偏光ビームスプリッタ6は、偏光ビームスプリッタ6に対するレーザ光L1の入射角が45度となるように、レーザ光L1の光路に対して45度傾斜して配置されている。偏光ビームスプリッタ6は、レーザ光L1のうち第1偏光成分(例えばp偏光成分)を透過させ、レーザ光L1のうち第1偏光成分に直交する第2偏光成分(例えばs偏光成分)を反射する性質を有する。このため、偏光ビームスプリッタ6を通過したレーザ光L1は、第1偏光成分のみを含む直線偏光L11となる。
【0034】
1/4波長板7は、レーザ光L1の光路上において偏光ビームスプリッタ6とガルバノスキャナ5との間に配置される。1/4波長板7は、直線偏光と円偏光とを相互に変換する。すなわち、1/4波長板7を透過した直線偏光は円偏光に変換され、1/4波長板7を透過した円偏光は直線偏光に変換される。このため、偏光ビームスプリッタ6を通過したレーザ光L1(直線偏光L11)は、1/4波長板7を透過すると、円偏光L12となる。
【0035】
光検出部8Aは、レーザ光L1が照射された加工対象物100の加工面100aからのレーザ光L1の戻り光L2を検出する。本実施形態では、光検出部8Aは、戻り光L2の信号強度を検出する。光検出部8Aは、例えば、フォトダイオードである。戻り光L2は、加工面100aで反射された後、fθレンズ4、ガルバノスキャナ5、1/4波長板7、及び偏光ビームスプリッタ6をこの順に経由して、光検出部8Aに到達する。
【0036】
以上の構成を備えるレーザ加工装置1Aにおいては、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1は、偏光ビームスプリッタ6、1/4波長板7、ガルバノスキャナ5、及びfθレンズ4をこの順に経由し、ステージ3上に載置された加工対象物100の加工面100aに照射される。レーザ光L1は、偏光ビームスプリッタ6を通過することにより、第1偏光成分のみを含む直線偏光L11となる。その後、レーザ光L1(直線偏光L11)は、1/4波長板7を通過することにより、第1偏光成分に応じた円偏光L12となる。レーザ光L1は、円偏光L12の状態で、ガルバノスキャナ5及びfθレンズ4を経由して、ステージ3上の加工対象物100の加工面100aに照射される。
【0037】
加工面100aにおいてレーザ光L1の一部が反射することにより、戻り光L2が発生する。加工面100aで反射した直後の戻り光L2は、加工面100aに入射したレーザ光L1(円偏光L12)とは回転方向が逆の円偏光L21となる。この戻り光L2(円偏光L21)は、fθレンズ4及びガルバノスキャナ5を経由して、1/4波長板7を通過する。このとき、戻り光L2(円偏光L21)は1/4波長板7によって直線偏光L22に変換される。ここで、1/4波長板7に入射する戻り光L2(円偏光L21)の回転方向は、1/4波長板7を通過した後のレーザ光L1(円偏光L12)とは回転方向が逆である。このため、1/4波長板7を通過した戻り光L2(直線偏光L22)は、1/4波長板7を通過する前のレーザ光L1(直線偏光L11)とは偏光方向が90度異なる第2偏光成分のみを含む直線偏光となる。このため、当該戻り光L2(直線偏光L22)は、偏光ビームスプリッタ6を透過せず、偏光ビームスプリッタ6において反射される。光検出部8Aは、このように反射した戻り光L2(直線偏光L22)の光路上に配置される。このように、偏光ビームスプリッタ6及び1/4波長板7を用いることにより、加工対象物100に対するレーザ光L1によるレーザ加工を行いながら、その戻り光L2を光検出部8Aにおいて検出することができる。
【0038】
制御部9は、光検出部8Aによって検出された戻り光L2に基づいて、加工対象物100の加工状態をモニタする。加工状態は、例えば、レーザ光L1の照射位置(走査位置)において形成される加工痕の状態(例えば、形状、直径、深さ等)等である。また、本実施形態では、制御部9は、光検出部8Aにより検出された戻り光L2の信号強度に基づいて、加工対象物100の加工状態の異常を検知する。
【0039】
制御部9は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置等を有するコンピュータ装置によって構成され得る。制御部9は、レーザ加工装置1Aの各部(本実施形態では、レーザ光源2、ステージ3、ガルバノスキャナ5、及び光検出部8A)と通信可能に接続されており、各部の動作を制御する。
【0040】
図2は、加工対象物100、光検出部8Aにより検出された戻り光L2の信号強度、及び加工面100aに形成された加工痕の一例を示す図である。
図2の上部に示されるように、本実施形態では一例として、加工対象物100は、シリコン基板(シリコンウェハ)101と、シリコン基板101上に成膜された金属層102と、を有する。金属層102は、一例として、厚さ100nmの金(Au)によって形成されている。この例では、加工面100aは、金属層102のシリコン基板101側とは反対側の表面である。
【0041】
図2の左下部は、加工対象物100の加工面100a上のある走査位置に対して1ショット分のパルス状のレーザ光L1を照射した場合に、光検出部8Aにおいて検出された戻り光L2(検出光)の信号波形の一例と示している。
図2に示されるように、レーザ光L1がパルス光である場合には、得られる戻り光L2の信号波形もパルス状となる。光検出部8Aは、例えば、このようなパルス状の戻り光L2の検出ピーク値(mV)を、戻り光L2の信号強度として取得する。
【0042】
図2の右下部は、加工対象物100の加工面100a上のある走査位置に対して1ショット分のパルス状のレーザ光L1を照射した後に加工面100aの当該走査位置に形成された加工痕の観察画像の一例を示している。このような観察画像は、顕微鏡等を用いて観察することにより得られる。
【0043】
上述したように、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1は、偏光ビームスプリッタ6を経由することで直線偏光L11となり、更に1/4波長板7を透過することにより円偏光L12に変換される。ここで、本実施形態のようにガルバノミラー5a(誘電体ミラー)を含むガルバノスキャナ5を光走査部として用いた場合、レーザ光L1がガルバノミラー5aで反射する際に、レーザ光L1の直交する偏光間の位相差が変化する。これに起因して、加工面100aの走査範囲(すなわち、ガルバノスキャナ5によって走査可能な範囲)の中心付近の戻り光L2は円偏光(真円)に近い状態が維持されるのに対して、走査範囲の中心から外れた周縁部の戻り光L2は楕円偏光となる。より具体的には、加工面100a上においてガルバノスキャナ5により走査可能な範囲(例えば、一次元走査の場合には線分領域、二次元走査の場合には矩形領域)の中心部にレーザ光L1を照射したときに得られる戻り光L2が円偏光となるようにガルバノスキャナ5が調整された場合、戻り光L2の偏光状態は、レーザ光L1の走査位置が当該中心部から離れるほど扁平率の高い楕円形状となる。その結果、走査範囲の中心部からの戻り光L2の信号強度と走査範囲の周縁部からの戻り光L2の信号強度との間に差が生じる。具体的には、レーザ光L1の走査位置が走査範囲の中心部から離れるほど、光検出部8Aにおいて検出される戻り光L2の信号強度が小さくなる傾向がある。なお、このような走査範囲と信号強度との関係(光学特性)は、使用されるガルバノスキャナ5によって一意に定まる。すなわち、走査範囲と信号強度との関係は、経時的に変化したり、加工対象物100の違いによって変化したりすることがない。
【0044】
そこで、制御部9は、レーザ光L1の走査位置に基づいて、光検出部8Aにより得られた戻り光L2の信号強度を補正してもよい。
図3を参照して、制御部9による補正処理の一例について説明する。ここでは、レーザ光L1を一次元的に走査する場合(すなわち、走査範囲が一次元の線分領域となる場合)を例に挙げて説明する。
【0045】
図3の左部は、光検出部8Aにより取得された各走査位置の戻り光L2の信号強度(mV)を示す信号強度データの一例を示している。
図3の左部に示されるように、光検出部8Aにより検出される戻り光L2の信号強度(検出ピーク値)は、走査範囲の中心部において最大となり、走査範囲の中心部から離れるほど小さくなる。すなわち、
図3の左部に示されるように、横軸を走査位置とし、縦軸を信号強度とした場合、走査位置毎の戻り光L2の信号強度を表すグラフの輪郭は、山型形状となる。制御部9は、このような信号強度データに対してカーブフィッティングを行うことにより、フィッティング関数を導出する。
【0046】
図3の中央部は、
図3の左部の信号強度データから得られたフィッティング関数の一例を示している。続いて、制御部9は、フィッティング関数に基づいて、各走査位置の戻り光L2の信号強度を走査範囲の中心部の戻り光L2の信号強度と同等の値にするための補正係数(オフセット量)を算出する。例えば、走査範囲の中心部の戻り光L2の信号強度をImaxと表し、中心部以外の任意の走査位置pの戻り光L2の信号強度をIpと表し、当該走査位置pの補正係数をrと表した場合、制御部9は、「Imax≒Ip+r」となるような補正係数rを各走査位置pについて算出する。
【0047】
図3の右部は、このようにして得られた各走査位置の補正係数の一例を示している。制御部9は、光検出部8Aにより検出された戻り光L2の信号強度に走査位置に応じた補正係数を加算することにより、各走査位置について、走査範囲の中心部において得られる信号強度と同等の信号強度を得ることができる。その結果、走査位置によらずに、一律の基準で戻り光L2の信号強度に基づく処理(例えば、加工状態の異常の検知、レーザ光L1の照射エネルギの調整等)を行うことが可能となる。なお、レーザ光L1を二次元走査する場合についても、制御部9は、レーザ光L1を一次元走査する場合と同様の考え方に基づいて、走査位置毎の補正係数を算出することができる。また、補正係数は、上記例に限られない。例えば、「Imax≒Ip×r」となるような補正係数rが用いられてもよい。
【0048】
図4は、レーザ光L1の照射エネルギ、戻り光L2の信号強度、及び加工痕の直径の関係の一例を示す図である。
図4において、横軸は、レーザ光L1の照射エネルギ(μJ)の最大値(レーザ光源2の最大出力)を100%とした場合の照射エネルギ(%)を表している。縦軸は、戻り光L2の信号強度(mV)とレーザ光L1の照射エネルギ(μJ)との比(すなわち、「光検出部8Aにより検出された戻り光L2の検出ピーク値(mV)÷レーザ光L1の照射エネルギ(μJ)」)と、加工面100aにおいて形成された加工痕(
図2の右下部参照)の直径(μm)と、を表している。
図4に示されるグラフG1は、レーザ光L1の照射エネルギと戻り光Lの信号強度との関係を示している。グラフG2は、レーザ光L1の照射エネルギと加工面100aにおいて形成される加工痕の直径との関係を示している。
【0049】
グラフG1は、例えば以下のようにして得られる。上述したように、レーザ加工装置1Aによれば、加工対象物100に対するレーザ加工(レーザ光L1の照射)を行いながら、その戻り光L2の信号強度を光検出部8Aにおいて検出することができる。制御部9は、レーザ光L1の照射エネルギと光検出部8Aにおいて検出された戻り光L2の信号強度とに基づく演算処理を行うことにより、グラフG1を得ることができる。ここで、上述したように、制御部9は、レーザ光L1の走査位置に基づいて戻り光L2の信号強度を補正することができる。より具体的には、制御部9は、光検出部8Aにより検出された戻り光L2の信号強度に、走査位置に応じた補正係数を加算することにより、任意の走査位置において、走査範囲の中央部において得られる信号強度を基準とした信号強度を得ることができる。このため、例えば、同一の加工対象物100の加工面100a上において、走査位置毎にレーザ光L1の照射エネルギを変えながら戻り光L2の信号強度を検出し、検出された信号強度を走査位置に応じて補正し、補正後の信号強度を用いることにより、グラフG1を容易に生成することができる。
【0050】
グラフG2は、例えば以下のようにして得られる。すなわち、加工対象物100に対するレーザ加工後に各走査位置に形成された加工痕の観察画像を取得し、取得された観察画像を解析することにより、加工痕の直径を取得する。そして、取得された直径を各走査位置に照射されたレーザ光L1の照射エネルギに関連付けることにより、グラフG2を得ることができる。
【0051】
図4に示されるように、この例では、グラフG1,G2、及びグラフG2を作成する際に取得された観察画像から、レーザ光L1の照射エネルギに応じた加工状態について、3つの分類(領域R1,R2,R3)が把握された。
【0052】
レーザ光L1の照射エネルギが最大出力の5%~15%の領域R1は、加工対象物100に照射されるレーザ光L1の照射エネルギのごく一部が加工面100aの加工を行うための加工エネルギに変換される領域である。領域R1では、比較的高い反射率(すなわち、レーザ光L1の照射エネルギに対する戻り光L2の信号強度の比)で戻り光L2が検出される。また、領域R1では、シリコン基板101上の金属層102の一部が加工され、レーザ光L1の照射エネルギに対する加工痕の直径の変化率が比較的大きくなる。
【0053】
レーザ光L1の照射エネルギが最大出力の15%~90%の領域R2は、加工対象物100に照射されるレーザ光L1の照射エネルギの一部(領域R1よりも高い割合)が加工エネルギに変換される領域である。領域R2では、戻り光L2の反射率が領域R1よりも低下している。また、領域R2では、シリコン基板101上の金属層102の一部が除去され、レーザ光L1の照射エネルギに応じて除去される領域の大きさ(加工痕の直径)が変化する。領域R2では、照射エネルギが大きくなるにつれて、照射エネルギに対する反射率はほぼ線形で減少し、加工痕の直径はほぼ線形で増加する。
【0054】
レーザ光L1の照射エネルギが最大出力の90%~100%の領域R3は、加工痕の直径がレーザ加工装置1Aの光学系により決定される最大径程度となり、反射率及び加工痕の直径のいずれも飽和状態となる領域である。
【0055】
図4に示される例では、レーザ光L1の照射エネルギに対する戻り光L2の比(戻り光L2の反射率)と加工痕の直径との間に、相関関係があることが確認された。制御部9は、このような相関関係を利用することにより、加工対象物100に対するレーザ加工(レーザ光L1の照射)を実行しつつ、光検出部8Aにより検出される戻り光L2の信号強度(本実施形態では、走査位置に応じた補正係数を加算することで得られた補正値。以下同じ。)に基づいて、加工面100aに形成される加工痕の直径が予め定められた目標値(或いは目標範囲)と一致するか否かを判定することができる。
【0056】
例えば、
図4の例において、加工痕の直径の目標値が75μmに設定されたと仮定する。この場合、制御部9は、
図4のグラフG2から、加工痕の直径を75μmにするためのレーザ光L1の照射エネルギを特定することができる。
図4の例では、「50%」が上記照射エネルギとして特定される。これにより、制御部9は、レーザ光L1の照射エネルギが50%となるように、レーザ光源2の出力を制御することができる。
【0057】
さらに、制御部9は、
図4のグラフG1から、レーザ光L1の照射エネルギを50%に設定した場合におけるレーザ光L1の照射エネルギに対する戻り光L2の信号強度の比(すなわち、レーザ加工が正常に行われた場合に得られる正常値)を特定することができる。
図4の例では、「2.8」が上記比として特定される。従って、制御部9は、加工面100aに対するレーザ光L1の照射によって得られる戻り光L2の信号強度をモニタし、レーザ光L1の照射エネルギに対する戻り光L2の信号強度の比が「2.8」に一致するか(或いは、「2.8」との差が所定の閾値以下であるか)否かに基づいて、レーザ加工中の戻り光L2の信号強度が適正値であるか否かを判定することができる。すなわち、制御部9は、レーザ光L1の照射エネルギに対する戻り光L2の信号強度の比が予め定められた正常値(この例では、「2.8」から所定の閾値以内の値)であるか否かに基づいて、加工対象物100に対するレーザ加工が正常に行われているか否かを判定することができる。すなわち、制御部9は、戻り光L2の信号強度が適正値でない場合(すなわち、上記比が予め定められた正常値でない場合)に、加工対象物100の加工状態(例えば、加工痕の直径の大きさ等)の異常を検知することができる。
【0058】
(第1の動作例)
図5を参照して、レーザ加工装置1Aの第1の動作例について説明する。ステップS101において、加工対象物100がステージ3上に載置される。ステップS102において、制御部9によってステージ3が駆動されることにより、加工対象物100の位置調整(アライメント)が行われる。ステップS103において、レーザ加工(走査)が開始される。より具体的には、レーザ光源2から出力されたレーザ光L1を、偏光ビームスプリッタ6及び1/4波長板7をこの順に経由させてガルバノスキャナ5に導き、ガルバノスキャナ5において、ガルバノミラー5aを動作させてfθレンズ4に対するレーザ光L1の入射角を変化させることにより、加工面100aにおいてレーザ光L1を走査する。
【0059】
ステップS104において、光検出部8Aは、レーザ光L1の戻り光L2を検出する。より具体的には、光検出部8Aは、レーザ光L1が照射された加工対象物100の加工面100aからのレーザ光L1の戻り光L2であって、fθレンズ4、ガルバノスキャナ5、1/4波長板7、及び偏光ビームスプリッタ6をこの順に経由する戻り光L2を検出する。本実施形態では、光検出部8Aは、走査位置毎に、戻り光L2の信号強度(検出ピーク値)を検出する。
【0060】
ステップS105において、制御部9は、レーザ光L1の走査位置に基づいて、光検出部8Aにより検出された信号強度を補正する。一例として、制御部9は、上述した方法によって算出された走査位置毎の補正係数を、光検出部8Aにより検出された信号強度に加算することにより、補正後の信号強度を得る。
【0061】
ステップS106において、制御部9は、補正後の信号強度に基づいて加工対象物100の加工状態の異常を検知する。例えば、制御部9は、
図4のグラフG1,G2(すなわち、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1の照射エネルギと戻り光L2の信号強度と加工面100aに形成される加工痕の直径との関係を示す情報)と、加工痕の直径の目標値(例えば、75μm)と、に基づいて、レーザ加工中に取得された戻り光L2の信号強度が適正値(
図4の例では、レーザ光L1の照射エネルギに対する戻り光L2の信号強度の比が「2.8」から所定の閾値以内となるような値)であるか否かを判定する。
【0062】
戻り光L2の信号強度が適正値でないと判定された場合(ステップS106:NO)、制御部9は、加工対象物100の加工状態の異常を検知する(ステップS107)。そして、制御部9は、予め定められた異常時処理を実行する。例えば、制御部9は、異常が検知された走査位置に対する追加工(レーザ光L1の再度の照射)を行うように、レーザ光源2及びガルバノスキャナ5の動作を制御してもよい。また、制御部9は、レーザ光源2の動作を制御することにより、レーザ光L1の照射エネルギ(出力パワー)を調整してもよい。また、制御部9は、異常が検知された時点で、レーザ光源2及びガルバノスキャナ5の動作を停止し、レーザ加工を中断してもよい。また、制御部9は、制御部9が備えるディスプレイ等の表示部にエラー発生を示す表示情報を出力してもよいし、制御部9が備えるスピーカ等からエラー発生を示すアラート音声等を出力してもよい。
【0063】
ステップS103~S106の処理は、走査位置毎に実行される。すなわち、予め定められた走査範囲内の全ての走査位置の走査が完了するまで、各走査位置に対して、ステップS103~S106の処理が実行される(ステップS108:NO)。各走査位置において戻り光L2の信号強度が適正値であると判定され(ステップS106:YES)、且つ、全ての走査位置の走査が完了すると(ステップS108:YES)、レーザ加工装置1Aによる加工対象物100に対するレーザ加工が正常に完了する。
【0064】
以上説明した第1の動作例においては、制御部9は、走査位置に対するレーザ光L1の照射が実行される毎に、当該走査位置において検出された信号強度(本実施形態では、戻り光L2の補正後の信号強度)に基づいて、当該走査位置のレーザ加工が正常に行われたか否か(すなわち、上記信号強度が適正値であるか否か)を判定する。そして、制御部9は、当該走査位置のレーザ加工が正常に行われていないと判定されたこと(ステップS106:NO)に応じて、加工対象物100の加工状態の異常を検知する。
【0065】
(第2の動作例)
第2の動作例では、制御部9は、予め定められた走査範囲全体のレーザ加工(走査)が完了した後に、上記走査範囲全体の各走査位置について光検出部8Aで検出された戻り光L2の信号強度を積算し、積算結果に基づいて加工対象物100の加工状態の異常を検知する。これは、以下の考え方に基づいている。すなわち、走査範囲の中心部と周縁部とで得られる戻り光L2の信号強度に差が生じることは、上述した通りである。このような走査位置による信号強度の大きさの違いは、走査位置毎に加工状態をモニタする際に問題となる。このため、走査位置毎に加工状態をモニタする第1の動作例においては、制御部9は、走査位置毎に得られる戻り光L2の信号強度にばらつきが生じないように、走査位置に応じた補正係数を用いて信号強度の補正処理を行った。これに対して、走査範囲単位(例えば、加工対象物100毎)でレーザ加工が正常に行われた否かをモニタすれば十分である場合には、このような補正処理を省略することができる。例えば、まず、ある加工対象物100の走査範囲全体に対してレーザ加工を行い、走査範囲全体の各走査位置で検出された戻り光L2の信号強度の積算値を取得する。そして、当該加工対象物100のレーザ加工が正常に行われたことを目視等の所定の検査によって事後的に確認する。これにより、走査範囲全体(この例では、1つの加工対象物100)に対してレーザ加工が正常に行われた場合に得られる積算値(すなわち、積算値の正常値)を把握することができる。従って、制御部9は、複数の同種の加工対象物100に対して同様のレーザ加工を行う場合等において、1つの加工対象物100の走査範囲全体のレーザ加工が完了する毎に、当該走査範囲全体の各走査位置で検出された戻り光L2の信号強度の積算値を算出し、算出された積算値が予め把握された正常値から所定の閾値以内であるか否かを判定することにより、加工対象物100のレーザ加工が正常に行われたか否かを判定することができる。
【0066】
図6を参照して、レーザ加工装置1Aの第2の動作例について説明する。ステップS201~S204の処理は、ステップS101~S104と同様である。第2の動作例では、ステップS203及びS204の処理が、予め定められた走査範囲内の走査が完了するまで実行される(ステップS205:NO)。走査範囲内の走査(すなわち、走査範囲内の全ての走査位置に対するレーザ光L1の照射)が完了すると(ステップS205:YES)、制御部9は、走査範囲全体の各走査位置で検出された戻り光L2の信号強度の積算値を取得する(ステップS206)。
【0067】
ステップS207において、制御部9は、ステップS206で得られた積算値が適正値であるか否かを判定する。例えば、制御部9は、積算値が予め把握された正常値から所定の閾値以内であるか否かを判定する。積算値と正常値との差が閾値を超えている場合(ステップS207:NO)、制御部9は、加工対象物100の加工状態の異常を検知する(ステップS208)。そして、制御部9は、予め定められた異常時処理を実行する。例えば、制御部9は、制御部9が備えるディスプレイ等の表示部にエラー発生を示す表示情報を出力してもよいし、制御部9が備えるスピーカ等からエラー発生を示すアラート音声等を出力してもよい。一方、積算値が適正値である(すなわち、積算値と正常値との差が閾値以内である)と判定された場合(ステップS208:NO)、異常時処理は実行されず、レーザ加工装置1Aによる加工対象物100に対するレーザ加工が正常に完了する。
【0068】
以上説明したレーザ加工装置1Aでは、偏光ビームスプリッタ6及び1/4波長板7を用いることにより、偏光ビームスプリッタ6及び1/4波長板7を用いない場合と比較して、加工対象物100の加工面100aからの戻り光L2の検出効率を向上させることができる。より具体的には、戻り光L2(直線偏光L22)の全てを偏光ビームスプリッタ6で反射させて、光検出部8Aへと導くことができる。さらに、1/4波長板7を偏光ビームスプリッタ6とガルバノスキャナ5との間に配置することにより、1/4波長板7をfθレンズ4と加工対象物100(ステージ3)との間に配置する場合と比較して、1/4波長板7のサイズを小型化することができる。言い換えれば、1/4波長板7のサイズを加工対象物100(加工面100a)の全体をカバーするように加工対象物100のサイズに応じて大きくする必要がない。その結果、レーザ加工装置1A全体の小型化を図ることができる。また、1/4波長板7を加工対象物100に対向する位置に配置しないことにより、レーザ加工時に加工対象物100から生じた飛沫等によって1/4波長板7が汚染されることを抑制することもできる。
【0069】
上記実施形態のように、制御部9は、光検出部8Aによって検出された戻り光L2(本実施形態では、戻り光L2の信号強度)に基づいて、加工対象物100の加工状態をモニタしてもよい。上記構成によれば、レーザ加工時に検出される戻り光L2に基づいて、加工対象物100の加工状態を容易にモニタすることができる。より具体的には、加工対象物100に対するレーザ光L1の照射を行うと同時に、加工状態をモニタするための戻り光L2を光検出部8Aで検出することができるため、加工プロセス中の加工状態のモニタを容易に行うことができる。
【0070】
上記実施形態のように、光検出部8Aは、戻り光L2の信号強度を検出してもよく、制御部9は、光検出部8Aにより検出された信号強度に基づいて、加工対象物100の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、戻り光L2の信号強度に基づいて、加工状態の異常を適切に検知し、適切に対処することが可能となる。
【0071】
上記実施形態(第1の動作例)のように、制御部9は、レーザ光L1の走査位置に基づいて戻り光L2の信号強度を補正してもよく、補正後の信号強度に基づいて加工対象物100の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、レーザ光L1の照射位置(走査位置)が走査範囲の中心から離れるほど検出される戻り光L2の信号強度が小さくなる傾向に基づいて信号強度を補正することで、走査範囲の各位置で検出される戻り光L2の信号強度の大きさを揃えることができる。これにより、各走査位置について、一律の基準によってレーザ加工が正常に行われているか否か(すなわち、信号強度(補正値)が適正値であるか否か)を判定することが可能となる。
【0072】
上記実施形態(第1の動作例)のように、制御部9は、走査位置に対するレーザ光L1の照射が実行される毎に、走査位置において検出された信号強度に基づいて、走査位置のレーザ加工が正常に行われたか否かを判定してもよく、走査位置のレーザ加工が正常に行われていないと判定されたことに応じて、加工対象物100の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、加工状態の異常を適切且つ即時に検知することができる。
【0073】
上記実施形態(第1の動作例)のように、制御部9は、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1の照射エネルギと戻り光L2の信号強度と加工面100aに形成される加工痕の直径との関係と、加工痕の直径の目標値と、に基づいて、戻り光L2の信号強度(本実施形態では、補正後の値)が適正値であるか否かを判定してもよく、信号強度が適正値でないと判定されたことに応じて、加工対象物100の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、レーザ光L1の照射エネルギと戻り光L2の信号強度と加工痕の直径との関係に基づいて、加工状態の異常を適切に検知することができる。
【0074】
上記実施形態(第2の動作例)のように、制御部9は、予め定められた走査範囲全体の各走査位置で検出された戻り光L2の信号強度を積算してもよく、積算結果に基づいて加工対象物100の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、走査範囲全体で検出された戻り光L2の信号強度の積算結果を用いることで、走査位置の違いによる信号強度の差を吸収し、走査範囲単位で異常検知を行うことができる。また、各走査位置で検出された戻り光L2の信号強度の補正が不要となるため、その分の計算量(すなわち、制御部9の処理負荷)を低減することができる。
【0075】
レーザ加工装置1Aにより実行されるレーザ加工方法は、ステージ3に載置(支持)された加工対象物100の加工面100aにfθレンズ4によってレーザ光L1を集光させることにより、加工対象物100の加工を行う方法である。このレーザ加工方法は、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1を、偏光ビームスプリッタ6及び1/4波長板7をこの順に経由させてガルバノスキャナ5に導き、ガルバノスキャナ5において、ガルバノミラー5aを動作させてfθレンズ4に対するレーザ光L1の入射角を変化させることにより、加工面100aにおいてレーザ光L1を走査するステップ(例えば、
図5のステップS103、
図6のステップS203等)と、レーザ光L1が照射された加工対象物100の加工面100aからのレーザ光L1の戻り光L2であって、fθレンズ4、ガルバノスキャナ5、1/4波長板7、偏光ビームスプリッタ6をこの順に経由する戻り光L2を光検出部8Aによって検出するステップ(例えば、
図5のステップS104、
図6のステップS204等)と、を含む。上記レーザ加工方法によれば、上述したレーザ加工装置1Aと同様の効果が奏される。
【0076】
上記レーザ加工方法は、光検出部8Aによって検出された戻り光L2に基づいて、加工対象物100の加工状態をモニタするステップ(例えば、
図5のステップS105~S107、
図6のステップS206~S208等)を更に含んでもよい。上記構成によれば、レーザ加工時に検出される戻り光L2に基づいて、加工対象物100の加工状態を容易にモニタすることができる。
【0077】
上記レーザ加工方法では、検出するステップにおいて、戻り光L2の信号強度を検出してもよく、モニタするステップにおいて、検出された信号強度に基づいて、加工対象物100の加工状態の異常を検知してもよい。上記構成によれば、戻り光L2の信号強度に基づいて、加工状態の異常を適切に検知し、適切に対処することが可能となる。
【0078】
上記レーザ加工方法では、モニタするステップは、レーザ光L1の走査位置に基づいて信号強度を補正する処理(例えば、
図5のステップS105)と、補正後の信号強度に基づいて、加工対象物100の加工状態の異常を検知する処理(例えば、
図5のステップS106,S107)と、を含んでもよい。上記構成によれば、走査範囲の各位置で検出される戻り光L2の信号強度の大きさを揃えて、各走査位置について、一律の基準によってレーザ加工が正常に行われているか否かを判定することが可能となる。
【0079】
上記レーザ加工方法では、モニタするステップは、走査位置に対するレーザ光L1の照射が実行される毎に、走査位置において検出された信号強度に基づいて、走査位置のレーザ加工が正常に行われたか否かを判定する処理(例えば、
図5のステップS106)と、走査位置のレーザ加工が正常に行われていないと判定されたことに応じて、加工対象物100の加工状態の異常を検知する処理(例えば、
図5のステップS107)と、を含んでもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、加工状態の異常を適切且つ即時に検知することができる。
【0080】
上記レーザ加工方法では、モニタするステップは、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1の照射エネルギと戻り光L2の信号強度と加工面100aに形成される加工痕の直径との関係と、加工痕の直径の目標値と、に基づいて、信号強度が適正値であるか否かを判定する処理(例えば、
図5のステップS106)と、信号強度が適正値でないと判定されたことに応じて、加工対象物100の加工状態の異常を検知する処理(例えば、
図5のステップS106,S107)と、を含んでもよい。上記構成によれば、加工プロセス中において、レーザ光L1の照射エネルギと戻り光L2の信号強度と加工痕の直径との関係に基づいて、加工状態の異常を適切に検知することができる。
【0081】
上記レーザ加工方法では、モニタするステップは、予め定められた走査範囲全体の各走査位置で検出された戻り光L2の信号強度を積算する処理(例えば、
図6のステップS206)と、積算結果に基づいて加工対象物100の加工状態の異常を検知する処理(例えば、
図6のステップS207,S208)と、を含んでもよい。上記構成によれば、走査範囲全体で検出された信号強度の積算結果を用いることで、走査位置の違いによる信号強度の差を吸収し、走査範囲単位で異常検知を行うことができる。また、各走査位置で検出された戻り光L2の信号強度の補正が不要となるため、その分の計算量を低減することができる。
【0082】
[第2実施形態]
図7に示される第2実施形態のレーザ加工装置1Bは、ビーム整形部10を更に備える点で、レーザ加工装置1Aと相違している。また、レーザ加工装置1Bは、光検出部8Aの代わりに光検出部8Bを備える点でも、レーザ加工装置1Aと相違している。
【0083】
ビーム整形部10は、レーザ光L1のビーム整形を行うビーム整形素子である。ビーム整形部10は、例えば、ビームホモジナイザーである。このようなビーム整形部10によるビーム整形を行う場合、加工レンズ(fθレンズ4)と加工対象物100の加工面100aとの距離(すなわち、fθレンズ4とステージ3との距離)に応じて、加工面100aにおけるビームプロファイル(ビーム形状)が変化する。そこで、第2実施形態では、レーザ加工中にビームプロファイルの観察を行うために、光検出部8Bは、戻り光L2の二次元像を検出可能に構成されている。例えば、光検出部8Bは、カメラによって構成されている。
【0084】
図8の(A)及び(B)の各々は、加工面100aに対してレーザ光L1が照射された際に光検出部8Bによって検出(撮像)された戻り光L2の二次元像(上側)及び加工面100aに実際に形成された加工痕の観察画像(下側)の例を示している。
図8の(A)は、fθレンズ4と加工面100aとの距離が適切であり、予め定められた目標形状に近い適切な形状の加工痕が得られたときの二次元像(上側)及び観察画像(下側)を示している。
図8の(B)は、fθレンズ4と加工面100aとの距離が適切でなく、目標形状と異なる不適切な形状の加工痕が得られたときの二次元像(上側)及び観察画像(下側)を示している。
【0085】
図8に示される結果から、加工面100aに対してレーザ光L1が照射された際に光検出部8Bにより撮像される戻り光L2の二次元像と加工面100aに形成される加工痕の形状との間には相関があることが確認された。すなわち、戻り光L2の二次元像から、加工面100aに形成される加工痕の大体の形状を推定することが可能であることが確認された。従って、
図8の(A)に示されるように目標形状に近い適切な形状の加工痕に対応する二次元像が得られるようにfθレンズ4と加工面100aとの距離を調整することにより、レーザ加工を適切に行うことが可能となる。そこで、制御部9は、例えば、光検出部8Bにより撮像される二次元像と加工面100aに形成される加工痕の形状との関係と、加工痕の目標形状と、に基づいて、当該目標形状に対応する二次元像が光検出部8Bにより検出されるように、fθレンズ4と加工面100aとの距離を調整する。ここで、二次元像と加工痕の形状との関係は、
図8に示されるように、いくつかの加工痕の観察画像とそのときの二次元像とを関連付けた情報である。
【0086】
図9を参照して、レーザ加工装置1Bの動作例について説明する。ステップS301及びS302は、ステップS101及びS102と同様である。
【0087】
ステップS303において、レーザ加工装置1Bは、加工面100a上の所定の位置にレーザ光L1を照射する。
【0088】
ステップS304において、光検出部8Bは、レーザ光L1の戻り光L2の二次元像(
図8の(A)又は(B)の上側参照)を検出する。
【0089】
ステップS305において、制御部9は、光検出部8Bにより検出された二次元像に基づいて、fθレンズ4とステージ3との距離(すなわち、fθレンズ4と加工面100aとの距離)を調整する。例えば、制御部9は、光検出部8Bにより検出される二次元像と加工面100aに形成される加工痕の形状との関係と、加工痕の目標形状と、に基づいて、当該目標形状に対応する二次元像が光検出部8Bにより検出されるように、fθレンズ4とステージ3との距離を調整する。例えば、制御部9は、ステージ3を駆動し、ステージ3のZ軸方向における位置(高さ位置)を調整することにより、fθレンズ4とステージ3との距離を調整する。
【0090】
例えば、レーザ加工装置1Bは、最初にfθレンズ4とステージ3との距離を調整するために用意された調整用サンプル(加工対象物100)を用いて、
図9に示される処理を実行することにより、加工対象物100に適したfθレンズ4とステージ3との適正距離を把握することができる。その後、調整用サンプルと同種の加工対象物100に対するレーザ加工を行う際に、レーザ加工装置1B(制御部9)は、fθレンズ4とステージ3との距離を上記適正距離に設定してから、加工面100aに対するレーザ加工を開始することにより、加工面100aのレーザ加工精度を向上させることができる。
【0091】
また、レーザ加工装置1Bによれば、
図10に示されるようなレーザ光L1の照射エネルギ(%)と加工痕の直径(μm)との関係を容易に把握することもできる。例えば、ビーム整形部10により、レーザ光L1のビームプロファイルがガウス分布に従うようにビーム整形される場合について考える。このような場合、光検出部8Bにより円状の二次元像が得られる。また、光検出部8Bにより得られる二次元像と実際に加工面100aに形成される加工痕の形状との間には、上述したように相関がある。従って、予め、二次元像と加工痕の形状(直径)との相関関係を把握しておくことにより、二次元像から加工痕の直径を算出(推定)することが可能となる。例えば、制御部9は、レーザ光源2から出力されるレーザ光L1の照射エネルギと、当該レーザ光L1の戻り光L2の二次元像及び上記相関関係から算出される加工痕の直径と、を相互に関連付ける処理を、走査位置及びレーザ光L1の照射エネルギを変えながら実行することにより、
図10に示されるような情報を容易に取得することができる。
【0092】
レーザ加工装置1Bでは、光検出部8Bは、戻り光L2の二次元像を検出し、制御部9は、光検出部8Bにより検出された二次元像に基づいて、fθレンズ4とステージ3との距離(すなわち、fθレンズ4と加工面100aとの距離)を調整する。すなわち、レーザ加工装置1Bにより実行されるレーザ加工方法では、検出するステップ(例えば、
図9のステップS304)において、戻り光L2の二次元像を検出し、モニタするステップ(例えば、
図9のステップS305)において、検出された二次元像に基づいて、fθレンズ4とステージ3との距離を調整する。上記構成によれば、加工対象物100からの戻り光L2の二次元像(すなわち、ビームプロファイル)に基づいて、加工面100a上の加工位置(照射位置)におけるビームプロファイルが適切な形状となるように、fθレンズ4とステージ3との距離を調整することができる。これにより、加工品質を向上させることができる。
【0093】
上記実施形態において、制御部9は、二次元像と加工面100aに形成される加工痕の形状(例えば、直径等)との関係と、加工痕の目標形状と、に基づいて、目標形状に対応する二次元像が光検出部8Bにより検出されるように、fθレンズ4とステージ3との距離(すなわち、fθレンズ4と加工面100aとの距離)を調整してもよい。すなわち、レーザ加工装置1Bにより実行されるレーザ加工方法では、モニタするステップ(例えば、
図9のステップS305)において、二次元像と加工面100aに形成される加工痕の直径との関係と、加工痕の目標形状と、に基づいて、目標形状に対応する二次元像が光検出部8Bにより検出されるように、fθレンズ4とステージ3との距離を調整してもよい。上記構成によれば、予め把握された二次元像と加工痕の形状との関係に基づいて、fθレンズ4とステージ3との距離を適切に調整することができる。
【0094】
[変形例]
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限られない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0095】
例えば、上記実施形態では、レーザ光L1が偏光ビームスプリッタ6を透過し、戻り光L2が偏光ビームスプリッタ6で反射するように構成されたが、レーザ光L1が偏光ビームスプリッタ6で反射され、戻り光L2が偏光ビームスプリッタ6を透過するように構成されてもよい。より具体的には、上記実施形態では、レーザ光L1のうち偏光ビームスプリッタ6を透過した第1偏光成分(直線偏光L11)が加工対象物100へと導光されたが、偏光ビームスプリッタ6で反射されるレーザ光L1の第2偏光成分のみを有する直線偏光(
図1において図示上側へと進む成分)が、1/4波長板7、ガルバノスキャナ5、及びfθレンズ4を介して、加工対象物100へと導光されてもよい。この場合、上記レーザ光L1の第2偏光成分のみを有する直線偏光とは逆の経路を辿って偏光ビームスプリッタ6に戻ってくる戻り光L2は、第1偏光成分のみを有する直線偏光であるため、偏光ビームスプリッタ6を透過して光検出部8Aに到達するように構成される。
【0096】
また、上記第1実施形態の第1の動作例では、レーザ光L1の照射エネルギに対する戻り光L2の信号強度の比が正常値であるか否かに基づいて、レーザ加工が正常に行われたか否かが判定されたが、より単純に、戻り光L2の信号強度が予め定められた正常値であるか否かに基づいて、レーザ加工が正常に行われたか否かが判定されてもよい。
【0097】
また、上記第1実施形態の第1の動作例において、戻り光L2の信号強度の補正処理は省略されてもよい。例えば、走査位置毎に戻り光L2の信号強度の正常値が予め取得されている場合には、補正前の戻り光L2の信号強度と走査位置毎に用意された正常値とを比較することで、戻り光L2の信号強度が適正値であるか否か(すなわち、レーザ加工が正常に行われたか否か)を判定することができる。ただし、補正処理を行うことにより、このような比較の対象となる正常値を走査位置毎に用意する必要をなくすことができる。
【0098】
また、上記実施形態では、加工対象物100の外表面(一例として、金属層102のシリコン基板101側とは反対側の表面)が加工面100aとされたが、レーザ加工の対象となる加工面は、加工対象物の外表面に限られない。例えば、上記実施形態において、シリコン基板101と金属層102との界面(すなわち、加工対象物の内部に位置する面)が加工面とされてもよい。この場合、例えば、
図2において、シリコン基板101が上側(fθレンズ4側)となり金属層102が下側(ステージ3側)となるように、加工対象物100が配置されてもよい。そして、シリコン基板101内を透過する波長のレーザ光L1をシリコン基板101側から照射し、金属層102のシリコン基板101側の表面(すなわち、シリコン基板101と金属層102との界面)にレーザ光L1を集光させることにより、当該界面(加工面)に対するレーザ加工を行ってもよい。この場合、当該界面で発生した戻り光L2は、シリコン基板101内を透過してfθレンズ4へと向かう。
【0099】
また、加工対象物100を支持する支持部は、ステージ3に限られない。例えば、ステージ3の代わりに、加工対象物100の側面を保持(挟持)するように構成されたアーム部材等が、支持部として用いられてもよい。
【0100】
また、上述した一の実施形態又は変形例における一部の構成は、他の実施形態又は変形例における構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1A,1B…レーザ加工装置、2…レーザ光源、3…ステージ、4…fθレンズ、5…ガルバノスキャナ(光走査部)、5a…ガルバノミラー(誘電体ミラー)、6…偏光ビームスプリッタ、7…1/4波長板、8A,8B…光検出部、9…制御部、100…加工対象物、100a…加工面、L1…レーザ光、L2…戻り光。