IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社吉野工業所の特許一覧

<>
  • 特許-吐出器 図1
  • 特許-吐出器 図2
  • 特許-吐出器 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】吐出器
(51)【国際特許分類】
   B05B 11/00 20230101AFI20250407BHJP
   B65D 47/34 20060101ALI20250407BHJP
   F04B 9/14 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
B05B11/00 101K
B65D47/34 110
F04B9/14 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021194833
(22)【出願日】2021-11-30
(65)【公開番号】P2023081118
(43)【公開日】2023-06-09
【審査請求日】2024-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】前田 信也
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/093027(WO,A1)
【文献】特開2017-178442(JP,A)
【文献】特開平10-258868(JP,A)
【文献】特開2021-134767(JP,A)
【文献】特開平10-047400(JP,A)
【文献】特開平11-309391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 11/00
B65D 47/34
F04B 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方付勢状態で押し込み可能に起立したステムに押下ヘッドが装着された吐出器であって、
前記押下ヘッドは、
前方に向けて開口し前記ステム内に連通するノズル孔が形成されたヘッド本体と、
前記ノズル孔を閉塞する弁部材と、
前記弁部材を前後方向に移動させる移動機構部と、
を有し、
前記ヘッド本体は、前記ステムに対して下方に相対移動可能であり、
前記ヘッド本体の内部には、前記弁部材が配置され、
前記弁部材は、
前記ノズル孔を閉塞する弁本体部と、
前記弁本体部から後方に延びる第1延伸部と、
を有し、
前記移動機構部は、
前記ヘッド本体に配設され、左右方向に延びる回転軸回りに回転可能であり、かつ、回転することで前記第1延伸部を前後方向に移動させる回転部と、
上下方向に延び、前記回転部の回転に伴って前記回転部との上下方向の相対位置が変化する第2延伸部と、
を有し、
前記回転部は、前記ステムに対する前記ヘッド本体の下方への移動時に、前記第2延伸部に対して相対的に下方に移動し、かつ、前記第1延伸部を後方へと移動させる向きに回転し、
前記吐出器には、前記ヘッド本体を前記ステムに対して上方に付勢する樹脂バネ部が設けられている、吐出器。
【請求項2】
前記回転部は、ピニオンギヤであり、
前記第1延伸部および前記第2延伸部は、前記ピニオンギヤと噛み合うラックギヤである、請求項1に記載の吐出器。
【請求項3】
前記押下ヘッドは、前記ヘッド本体と前記ステムとを連結する装着筒部材を有し、
前記装着筒部材は、
天壁部と、
前記天壁部から下方に向けて延設されて前記ステムの上端部内に嵌合された装着筒と、
を有し、
前記樹脂バネ部は、前記天壁部と前記ヘッド本体との間に位置する、請求項1または2に記載の吐出器。
【請求項4】
前記第1延伸部は、前記回転部の上方に位置し、
前記第2延伸部は、前記回転部の前方に位置し、
前記ヘッド本体は、
前方に開口する収容穴部を有するヘッド部と、
前記ノズル孔を有し、前記収容穴部内に前方から挿入されたノズル筒と、
を有し、
前記ノズル筒は、前後方向に延びる対向部を有し、
前記対向部は、前記第1延伸部の上方に対向して配置されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の吐出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出器に関する。
【背景技術】
【0002】
容器本体の口部に取り付けられる吐出器として、上方付勢状態で押し込み可能に起立したステムに押下ヘッドが装着された構成が知られている。押下ヘッドは、前方に開口するノズル孔が形成されたヘッド本体と、ヘッド本体とステムとを連結する装着筒部材と、を有する。例えば、特許文献1には、そのような吐出器として、ノズル孔を閉塞する弁部材を備える吐出器が記載されている。弁部材は、装着筒部材に対して押下ヘッドが押下された際に、後方へと移動してノズル孔を開放するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/093027号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような吐出器においては、例えば環境対応などのために、吐出器に使用される金属材料を削減したい要求がある。しかしながら、上記のような吐出器では、後方へと移動した弁部材を元の位置に戻して再びノズル孔を閉塞させるために、弁部材を前方に向けて付勢する金属製のコイルスプリングを設ける必要があった。そのため、吐出器に使用される金属材料を十分に削減できない問題があった。
【0005】
本発明の一つの態様は、上記事情に鑑みて、使用される金属材料を削減できる構造を有する吐出器を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吐出器の一つの態様は、上方付勢状態で押し込み可能に起立したステムに押下ヘッドが装着された吐出器であって、前記押下ヘッドは、前方に向けて開口し前記ステム内に連通するノズル孔が形成されたヘッド本体と、前記ノズル孔を閉塞する弁部材と、前記弁部材を前後方向に移動させる移動機構部と、を有し、前記ヘッド本体は、前記ステム材に対して下方に相対移動可能であり、前記ヘッド本体の内部には、前記弁部材が配置され、前記弁部材は、前記ノズル孔を閉塞する弁本体部と、前記弁本体部から後方に延びる第1延伸部と、を有し、前記移動機構部は、前記ヘッド本体に配設され、左右方向に延びる回転軸回りに回転可能であり、かつ、回転することで前記第1延伸部を前後方向に移動させる回転部と、上下方向に延び、前記回転部の回転に伴って前記回転部との上下方向の相対位置が変化する第2延伸部と、を有し、前記回転部は、前記ステムに対する前記ヘッド本体の下方への移動時に、前記第2延伸部に対して相対的に下方に移動し、かつ、前記第1延伸部を後方へと移動させる向きに回転し、前記吐出器には、前記ヘッド本体を前記ステムに対して上方に付勢する樹脂バネ部が設けられている。
【0007】
本発明の吐出器の一つの態様によれば、弁部材は、ノズル孔を閉塞する弁本体部と、弁本体部から後方に延びる第1延伸部と、を有する。移動機構部は、ヘッド本体に配設され、左右方向に延びる回転軸回りに回転可能であり、かつ、回転することで第1延伸部を前後方向に移動させる回転部と、上下方向に延び、回転部の回転に伴って回転部との上下方向の相対位置が変化する第2延伸部と、を有する。回転部は、ステムに対するヘッド本体の下方への移動時に、第2延伸部に対して相対的に下方に移動し、かつ、第1延伸部を後方へと移動させる向きに回転する。そのため、第1延伸部と第2延伸部と回転部とによって構成される機構によって、ステムに対するヘッド本体の上下方向の動きを、前後方向の動きに変換して弁部材へと伝えることができる。これにより、押下ヘッドを押し下げることによって、容易かつ好適に弁部材を後方に移動させて、ノズル孔を開放することができる。
【0008】
また、上述したように、第1延伸部と第2延伸部と回転部とによって構成される機構によってヘッド本体をステムに対して下方に相対移動させることで弁部材を後方へと移動させることができるため、ヘッド本体をステムに対して上方に相対移動させれば、弁部材を前方へと移動させることができる。そのため、ヘッド本体をステムに対して上方に付勢する樹脂バネ部を設けることで、押下ヘッドの押し下げが解除された際に、樹脂バネ部の復元力を利用して、弁部材を再びノズル孔を閉塞する位置に戻すことができる。つまり、弁部材を元の位置に戻すために、弁部材を前方に押すような付勢部材を設ける必要がない。これにより、例えば弁部材を元の位置に戻すための付勢部材を弁部材が設けられた空間(弁室)内に設けて弁部材を前方付勢するような場合に比べて、当該付勢部材を選択する自由度を向上させることができる。
【0009】
具体的に、従来では、例えば、付勢部材を弁室内に設けて弁部材を前方付勢するような場合には、弁室内の空間の制約および耐久性などの問題から当該付勢部材として金属製のコイルスプリングを採用する必要があった。しかしながら、本発明の吐出器の一つの態様によれば、比較的空間を大きく確保しやすいヘッド本体の下方に当該付勢部材を配置することができるため、採用できる付勢部材の選択の幅を大きくできる。そのため、当該付勢部材を樹脂製の樹脂バネ部とすることができる。これにより、金属製のコイルスプリングを樹脂製の樹脂バネ部に好適に置き換えることができる。したがって、本発明の吐出器の一つの態様によれば、吐出器に使用される金属材料を削減できる。また、弁室内に金属製の付勢部材を設ける必要がないため、弁室内において当該付勢部材に内容物が接触することを防ぐためにシールする必要がない。そのため、吐出器においてシールする箇所を少なくすることができる。
【0010】
前記回転部は、ピニオンギヤであり、前記第1延伸部および前記第2延伸部は、前記ピニオンギヤと噛み合うラックギヤである構成としてもよい。
この構成によれば、第1延伸部と第2延伸部と回転部とによってラック・アンド・ピニオン機構を構成することができる。これにより、当該ラック・アンド・ピニオン機構によって、弁部材を安定して移動させることができる。したがって、押下ヘッドを押し下げることによって、安定して弁部材を後方に移動させることができ、ノズル孔を好適に開放することができる。
【0011】
前記押下ヘッドは、前記ヘッド本体と前記ステムとを連結する装着筒部材を有し、前記装着筒部材は、天壁部と、前記天壁部から下方に向けて延設されて前記ステムの上端部内に嵌合された装着筒と、を有し、前記樹脂バネ部は、前記天壁部と前記ヘッド本体との間に位置する構成としてもよい。
この構成によれば、樹脂バネ部によって、好適かつ容易に、ヘッド本体をステムに対して上方に付勢できる。
【0012】
前記第1延伸部は、前記回転部の上方に位置し、前記第2延伸部は、前記回転部の前方に位置し、前記ヘッド本体は、前方に開口する収容穴部を有するヘッド部と、前記ノズル孔を有し、前記収容穴部内に前方から挿入されたノズル筒と、を有し、前記ノズル筒は、前後方向に延びる対向部を有し、前記対向部は、前記第1延伸部の上方に対向して配置されている構成としてもよい。
この構成によれば、回転部を弁本体部に干渉しにくい位置に配置しつつ、回転部の下方への移動によって、第1延伸部を後方へと移動させることができる。
また、この構成によれば、対向部によって、第1延伸部が上方に移動することを抑制できる。これにより、第1延伸部が上方に移動して回転部から外れることを抑制できる。また、第1延伸部と収容穴部の内面のうち上側に位置する面との間に対向部が配置される空間が設けられていることで、弁部材を収容穴部内に挿入した際に、第1延伸部を、回転部と接触しない状態で、回転部の上方に差し込むことができる。この場合、第1延伸部を回転部の上方に差し込んだ後に、弁部材を下方に移動させることで、第1延伸部を回転部に接触させることができる。したがって、吐出器の組み立てを容易にできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの態様によれば、吐出器に使用される金属材料を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の吐出器を示す断面図である。
図2】一実施形態の吐出器を示す断面図であって、ノズル孔が開放された状態を示す図である。
図3】一実施形態の吐出器の一部を示す図であって、図1に示すIII-III断面における部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る吐出器について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
図1および図2に示すように、本実施形態の吐出器10は、内容物が収容される容器本体20の口部21に装着される吐出器である。吐出器10が口部21に装着されることで、容器本体20と吐出器10とを備える吐出容器100が構成される。容器本体20に収容される内容物は、特に限定されない。吐出器10は、装着キャップ30と、シリンダ41およびステム42を有するポンプ部40と、押下ヘッド10aと、を備える。
【0016】
装着キャップ30、シリンダ41、およびステム42は、それぞれ筒状に形成されるとともに、それぞれの中心軸線が共通軸上に位置した状態で配設されている。以下では、この共通軸を軸線Oと呼ぶ。軸線Oが延びる方向を上下方向と呼び、各図においてZ軸方向で示す。上下方向のうち容器本体20から吐出器10に向かう方向、すなわちZ軸の矢印が向く方向を上方と呼ぶ。上下方向のうち吐出器10から容器本体20に向かう方向、すなわちZ軸の矢印が向く方向と逆方向を下方と呼ぶ。また、軸線Oと直交する方向のうち、一方向を前後方向と呼び、各図においてX軸方向で示す。前後方向のうちX軸の矢印が向く方向を前方と呼び、前後方向のうちX軸の矢印が向く方向と逆方向を後方と呼ぶ。また、軸線Oと直交する方向のうち、前後方向に直交する方向を左右方向と呼び、各図においてY軸方向で示す。また、上下方向から見た平面視で軸線Oに交差する方向を径方向と呼ぶ。
【0017】
装着キャップ30は、軸線Oと同軸に配置された円環板状の環状壁部31と、環状壁部31から下方に延びる内筒部32と、内筒部32よりも径方向外側に位置し環状壁部31の径方向外縁部から下方に延びる外筒部33と、環状壁部31から上方に延びる上筒部34と、を有する。環状壁部31の径方向内縁部は、容器本体20の口部21の上方に位置する。内筒部32は、容器本体20の口部21に装着されている。本実施形態において内筒部32は、口部21に螺着されている。上筒部34は、軸線Oと同軸に配置され、上方に開口する円筒状である。
【0018】
ポンプ部40は、押下ヘッド10aに設けられた後述するノズル孔74に向けて容器本体20内の内容物を送る。
ポンプ部40のシリンダ41は、軸線Oを中心とし、上方に開口する円筒状である。シリンダ41は、容器本体20の口部21内に挿入されている。シリンダ41の上端部には、径方向外側に突出するフランジ部41aが設けられている。フランジ部41aは、環状壁部31と口部21の上端部とによって上下方向に挟まれている。フランジ部41aと口部21の上端部との上下方向の間には、シール部材41bが設けられている。図示は省略するが、シリンダ41の内部には、ステム42を上方に付勢するバネが配置されている。当該バネは、樹脂製であることが好ましい。なお、ステム42を上方に付勢するバネは、シリンダ41の外部に配置されていてもよい。
【0019】
ポンプ部40のステム42は、上方付勢状態で下方に押し込み可能に起立している。ステム42は、軸線Oと同軸に配置され、上方に開口する円筒状である。ステム42は、シリンダ41内に上方から挿入されている。ステム42の上側部分は、シリンダ41よりも上方に突出し、装着キャップ30の上筒部34内に位置する。図示は省略するが、ステム42は、シリンダ41の内周面に対して摺動するピストン部を有する。
ステム42が下方へと押し下げられた後に図示しないバネによって上方に押し上げられると、シリンダ41内が負圧になり、容器本体20内の内容物がシリンダ41内に吸い上げられる。この状態においてステム42が下方に押し下げられるとシリンダ41内の内容物がステム42内を通って後述するノズル孔74まで送られる。
【0020】
押下ヘッド10aは、ヘッド本体10bと、装着筒部材50と、弁部材80と、移動機構部90と、を有する。ヘッド本体10bは、ヘッド部60と、ノズル筒70と、を有する。
装着筒部材50は、ステム42の上端部に装着されている。装着筒部材50は、ヘッド本体10bとステム42とを連結する部材である。装着筒部材50は、天壁部51と、天壁部51から下方に向けて延設された囲繞筒52および装着筒53と、天壁部51から上方に向けて延設された摺動筒54と、樹脂バネ部55と、を有する。
【0021】
天壁部51は、軸線Oと同軸に配置された円環板状である。天壁部51は、ステム42の上端部よりも径方向外側に突出している。天壁部51の径方向内縁部は、ステム42の上端部に上方から接触している。天壁部51の径方向外縁部は、装着キャップ30の上筒部34よりも径方向内側に位置する。天壁部51には、天壁部51を上下方向に貫通する孔部51aが形成されている。本実施形態において孔部51aは、軸線O回りの周方向に間隔を空けて2つ設けられている。2つの孔部51aは、軸線Oを径方向に挟んで配置されている。図示は省略するが、各孔部51aは、軸線O回りの周方向に延びる円弧状の孔である。
【0022】
囲繞筒52は、天壁部51の径方向外縁部から下方に突出している。囲繞筒52は、軸線Oと同軸に配置され、下方に開口する円筒状である。囲繞筒52は、装着キャップ30の上筒部34の径方向内側に位置する。囲繞筒52は、ステム42の上端部を径方向外側から囲繞している。囲繞筒52の外周面には、係合突起52aが形成されている。
装着筒53は、天壁部51の径方向内縁部から下方に突出している。装着筒53は、軸線Oと同軸に配置され、上下方向の両方向に開口する円筒状である。装着筒53は、ステム42の上端部内に嵌合されている。装着筒53の内部は、ステム42の内部と連通している。装着筒53の下端部は、囲繞筒52の下端部よりも下方に位置する。
【0023】
摺動筒54は、天壁部51のうち孔部51aよりも径方向内側に位置する部分から上方に突出している。本実施形態において摺動筒54は、天壁部51の径方向内縁部から上方に突出している。摺動筒54は、軸線Oと同軸に配置され、上方に開口する円筒状である。本実施形態において摺動筒54の外径は、装着筒53の外径よりも大きい。摺動筒54の内周面は、装着筒53の内周面よりも径方向外側に位置する。摺動筒54の上端部は、後述する垂下筒63の内周面に対して摺動する摺動部54aである。摺動部54aは、上方に向かうに従って径方向外側に延在している。
【0024】
本実施形態において樹脂バネ部55は、天壁部51とヘッド本体10bとの上下方向の間に設けられている。樹脂バネ部55は、ヘッド本体10bをステム42に対して上方に付勢する樹脂製のバネ部である。本実施形態において樹脂バネ部55は、天壁部51に配設されている。樹脂バネ部55は、天壁部51から上方に突出している。樹脂バネ部55は、天壁部51と一体成形されている。本実施形態において樹脂バネ部55は、上下方向に弾性変形可能な板バネである。
【0025】
樹脂バネ部55は、軸線O回りの周方向に間隔を空けて複数設けられている。本実施形態において樹脂バネ部55は、軸線Oを径方向に挟んで2つ設けられている。2つの樹脂バネ部55は、2つの孔部51aの上方にそれぞれ配置されている。各樹脂バネ部55の下端部は、軸線O回りの周方向における各孔部51aの一端部に繋がっている。図示は省略するが、各樹脂バネ部55は、上下方向から見て、軸線O回りの周方向における各孔部51aの一端部から他端部に向かって円弧状に延びている。つまり、本実施形態において樹脂バネ部55は、天壁部51から上方に向かって軸線O回りに螺旋状に延びる板バネである。樹脂バネ部55の上端部は、摺動筒54の上端部よりも上方に位置する。樹脂バネ部55は、ステム42を上方に付勢する図示しないバネよりも小さい力で弾性変形可能となっている。樹脂バネ部55のバネ定数は、ステム42を上方に付勢する図示しないバネのバネ定数よりも小さい。
【0026】
ヘッド本体10bは、装着筒部材50に対して下方に相対移動可能である。
ヘッド本体10bのヘッド部60は、軸線Oと同軸に配置され、下方に開口する有頂の円筒状である。ヘッド部60は、装着筒部材50を上方から覆っている。ヘッド部60は、装着筒部材50の上方に位置する本体部61と、本体部61から下方に延設された周壁部62および垂下筒63と、を有する。
本体部61の下面には、樹脂バネ部55の上端部が接触している。本体部61は、樹脂バネ部55によって上方に付勢されている。本体部61は、前方に開口する収容穴部61aを有する。収容穴部61aは、後端部に底部61dを有する穴である。収容穴部61aは、前後方向に延びる中心線Lと同軸に配置された円形状の穴である。中心線Lは、軸線Oと直交している。図3に示すように、収容穴部61aは、軸線Oを跨いで前後方向に延びている。
【0027】
収容穴部61aの内面における左右方向の両側部分には、支持壁部61bがそれぞれ形成されている。一対の支持壁部61bは、軸線Oを左右方向に挟んで配置されている。一対の支持壁部61bは、収容穴部61aの内面から互いに左右方向に近づく向きに突出している。一対の支持壁部61bは、前後方向に延びている。一対の支持壁部61bの前端部は、軸線Oよりも前方に位置する。一対の支持壁部61bの後端部は、軸線Oよりも後方に位置し、収容穴部61aの底部61dに繋がっている。
一対の支持壁部61bのそれぞれは、他方の支持壁部61bと対向する側の面に溝61cを有する。溝61cは、前後方向に延びて、前方に開口している。溝61cの前端部は、軸線Oよりも前方に位置する。溝61cの後端部は、軸線Oよりも後方に位置し、収容穴部61aの底部61dよりも前方に位置する。
【0028】
図1に示すように、周壁部62は、本体部61の径方向外縁部から下方に延びている。周壁部62は、軸線Oと同軸に配置され、下方に開口する円筒状である。周壁部62は、装着筒部材50の径方向外側に位置し、装着筒部材50を囲んでいる。周壁部62の下端部は、装着キャップ30の上筒部34と装着筒部材50の囲繞筒52との径方向の間に位置する。周壁部62の下端部は、囲繞筒52に外嵌されている。周壁部62の内周面には、囲繞筒52の外周面に形成された係合突起52aに下方から係合する係合突起62aが形成されている。これにより、周壁部62が囲繞筒52から上方に外れることが抑制されている。周壁部62の下端部における外周面は、上筒部34の内周面と隙間を介して径方向に対向して配置されている。周壁部62の下端部における上下方向位置は、吐出器10が操作されていない状態において、囲繞筒52の下端部における上下方向位置と同じである。なお、吐出器10が操作されていない状態とは、押下ヘッド10aが押し下げられていない状態であり、図1に示す状態である。周壁部62は、囲繞筒52に対して相対的に下方に向けて摺動可能となっている。
【0029】
垂下筒63は、本体部61のうち周壁部62よりも径方向内側に位置する部分から下方に延びている。垂下筒63は、軸線Oと同軸に配置され、上下方向の両方向に開口する円筒状である。垂下筒63の下端部は、周壁部62の下端部よりも上方に位置する。垂下筒63の上端部は、収容穴部61aの内部に開口している。垂下筒63は、摺動筒54に外嵌されている。垂下筒63は、樹脂バネ部55よりも径方向内側に位置する。周壁部62と垂下筒63との径方向の間には、樹脂バネ部55の上側部分が配置されている。
【0030】
ヘッド本体10bのノズル筒70は、収容穴部61a内に前方から挿入されている。ノズル筒70は、中心線Lと同軸に配置され、前後方向の両方向に開口する円筒状である。ノズル筒70の前側部分は、収容穴部61aよりも前方に突出している。ノズル筒70は、前後方向に延びる円筒状のノズル筒本体71と、ノズル筒本体71の外周面から中心線Lと直交する方向に突出するフランジ部72と、ノズル筒本体71から後方に延びる対向部73と、を有する。
【0031】
ノズル筒本体71は、軸線Oよりも前方に位置する。ノズル筒本体71は、前後方向の両方向に開口している。ノズル筒本体71の前側の開口は、ノズル孔74である。ノズル孔74は、前方に向けて開口している。ノズル孔74は、ステム42内に連通している。図3に示すように、ノズル筒本体71の後側部分は、収容穴部61a内に嵌合されている。ノズル筒本体71の後端部は、一対の支持壁部61bの前端部と隙間を介して対向して配置されている。ノズル筒本体71の前側部分は、収容穴部61aよりも前方に突出している。ノズル筒本体71の前側部分における外径および内径は、前方に向かうに従って小さくなっている。ノズル筒本体71の内周面には、前後方向に延びるリブ71aが形成されている。リブ71aは、中心線L回りの周方向に間隔を空けて複数設けられている。
フランジ部72は、収容穴部61aの外部に位置する。フランジ部72は、ヘッド部60の前面のうち収容穴部61aの周縁部に前方から接触している。
【0032】
図1に示すように、対向部73は、前後方向に延びている。本実施形態において対向部73は、ノズル筒本体71の後端部における上端部から後方に延びている。対向部73は、板面が上下方向を向く板状である。対向部73の後端部は、軸線Oよりも後方に位置する。対向部73の後端部は、収容穴部61aの底部61dと僅かな隙間を介して対向して配置されている。対向部73の上面は、収容穴部61aの内面のうち上側に位置する部分と接触している。なお、以下の説明においては、収容穴部61aの内面のうち上側に位置する部分を、上内壁面61eと呼ぶ。図示は省略するが、対向部73は、左右方向に間隔を空けて一対設けられている。
【0033】
ヘッド本体10bの内部には、ステム42内に連通し、かつノズル孔74を介して外部に連通可能な弁室10cが画成されている。本実施形態において弁室10cの内部は、収容穴部61aの内部の一部とノズル筒本体71の内部とによって構成されている。より詳細には、弁室10cの内部は、収容穴部61aの内部における後側部分とノズル筒本体71の内部とが前後方向に繋がって構成されている。弁室10cの内部は、垂下筒63の内部と連通している。これにより、弁室10cの内部、垂下筒63の内部、摺動筒54の内部、および装着筒53の内部を介して、ノズル孔74とステム42の内部とが連通する。
【0034】
弁部材80は、ノズル孔74を閉塞する部材である。弁部材80は、ヘッド本体10bの内部に配置されている。より詳細には、弁部材80は、弁室10c内に配置されている。弁部材80は、ノズル孔74を閉塞する弁本体部81と、弁本体部81から後方に延びる第1延伸部84と、を有する。
弁本体部81は、中心線Lと同軸に配置され、前後方向に延びる円柱状である。弁本体部81は、後端部を除いて、ノズル筒70内に収容されている。弁本体部81は、ノズル筒70の内周面に設けられた複数のリブ71aによって前後方向に移動可能に支持されている。弁本体部81の前端部81aにおける外径は、前方に向かうに従って小さくなっている。弁本体部81の前端部81aは、ノズル孔74に後方から嵌合され、ノズル孔74を閉塞する。
【0035】
本実施形態において第1延伸部84は、ピニオンギヤである後述する回転部91と噛み合うラックギヤである。第1延伸部84は、弁本体部81の後端部から上方に突出する突出部82と、突出部82から後方に延びる第1ラックギヤ部83と、を有する。
図3に示すように、突出部82は、左右方向に延びている。突出部82は、弁本体部81よりも左右方向の両側に突出している。
本実施形態において第1ラックギヤ部83は、突出部82を介して弁本体部81に繋がっている。第1ラックギヤ部83は、前後方向に延びる四角柱状である。本実施形態において第1ラックギヤ部83は、左右方向に間隔を空けて一対設けられている。一対の第1ラックギヤ部83は、突出部82の左右方向の両端部からそれぞれ後方に延びている。図1に示すように、第1ラックギヤ部83のうち軸線Oよりも後方に位置する部分の下面には、前後方向に並んで配置された複数の歯部83aが設けられている。
一対の第1ラックギヤ部83の上方には、ノズル筒70における一対の対向部73のそれぞれが対向して配置されている。第1ラックギヤ部83の上面は、対向部73の下面に接触している。吐出器10が操作されていない状態において、第1ラックギヤ部83の後端部は、収容穴部61aの底部61dから前方に離れて位置する。
【0036】
移動機構部90は、弁部材80を前後方向に移動させる。移動機構部90は、ヘッド本体10bに配設された回転部91と、装着筒部材50に配設された第2延伸部92と、を有する。
回転部91は、回転することで第1延伸部84を前後方向に移動させることができる部分である。本実施形態において回転部91は、ピニオンギヤである。回転部91は、収容穴部61aの内部のうち軸線Oよりも後方に位置する部分に収容されている。本実施形態において回転部91は、一対の第1ラックギヤ部83の下方に位置する。言い換えれば、一対の第1ラックギヤ部83は、回転部91の上方に位置する。回転部91は、左右方向に延びる回転軸R回りに回転可能である。回転軸Rは、軸線Oよりも後方に位置する。回転軸Rは、中心線Lと直交している。
【0037】
図3に示すように、回転部91は、ピニオンギヤ部91aと、一対の軸部91bと、を有する。ピニオンギヤ部91aは、回転軸Rと同軸に配置された円柱状である。ピニオンギヤ部91aの外周面には、回転軸R回りの周方向に並んで配置された複数の歯部91cが設けられている。複数の歯部91cは、ピニオンギヤ部91aの全周に亘って設けられている。図1に示すように、複数の歯部91cのうち上方に位置する歯部91cは、第1ラックギヤ部83の歯部83aと噛み合っている。これにより、回転部91は、一対の第1ラックギヤ部83と噛み合っている。
図3に示すように、一対の軸部91bは、ピニオンギヤ部91aから左右方向の両側にそれぞれ突出している。一対の軸部91bは、回転軸Rと同軸に配置された円柱状である。一対の軸部91bは、一対の溝61c内の後端部にそれぞれ嵌め込まれて、回転軸R回りに回転可能に保持されている。
【0038】
図1に示すように、第2延伸部92は、装着筒部材50の上方に取り付けられている。第2延伸部92は、装着筒部材50の摺動筒54の内部から収容穴部61aの内部まで上下方向に延びている。本実施形態において第2延伸部92は、回転部91の前方に位置する。第2延伸部92は、回転部91の回転に伴って回転部91との上下方向の相対位置が変化する。本実施形態において第2延伸部92は、ピニオンギヤである回転部91と噛み合うラックギヤである。第2延伸部92は、根元部92aと、第2ラックギヤ部92b第2ラックギヤ部92bと、を有する。
【0039】
根元部92aは、軸線Oと同軸に配置され、下方に開口する有頂の円筒状である。根元部92aは、摺動筒54内に嵌合されている。図示は省略するが、根元部92aの外周面には、摺動筒54の内周面に設けられた回り止め突起が嵌合される溝が形成されている。これにより、第2延伸部92が装着筒部材50に対して軸線O回りに相対回転することが抑制されている。根元部92aの頂壁部には、根元部92aの頂壁部を上下方向に貫通する貫通孔92dが形成されている。
【0040】
第2ラックギヤ部92bは、根元部92aの後側部分から上方に延びている。第2ラックギヤ部92bは、軸線Oよりも後方に位置する。第2ラックギヤ部92bは、上下方向に延びる四角柱状である。第2ラックギヤ部92bは、摺動筒54の内部から垂下筒63内を通って収容穴部61a内に突出している。第2ラックギヤ部92bの上側部分は、回転部91の前方に位置し、かつ、弁本体部81の後方に位置する。第2ラックギヤ部92bの上端部は、吐出器10が操作されていない状態において、収容穴部61aの上内壁面61eから下方に離れて位置する。
【0041】
第2ラックギヤ部92bの後面には、上下方向に並ぶ複数の歯部92cが設けられている。複数の歯部92cのうち回転部91の前方に位置する歯部92cは、回転部91の複数の歯部91cのうち前方に位置する歯部91cと噛み合っている。これにより、第2ラックギヤ部92bは、回転部91と噛み合っている。図3に示すように、第2ラックギヤ部92bは、上下方向に見て、一対の第1ラックギヤ部83同士の間に位置する。
【0042】
図2に示すように、押下ヘッド10aに上方から下方向きに力が加えられると、ヘッド本体10bが下方に押し下げられる。これにより、ヘッド本体10bが装着筒部材50に対して下方に相対移動する。このとき、樹脂バネ部55は、図1に示す状態よりも下方に弾性変形した状態となる。ヘッド本体10bが下方に移動するとともに、ヘッド本体10b内の弁室10cに配置された弁部材80およびヘッド本体10bに配設された回転部91も下方へと移動する。回転部91は、第2延伸部92と噛み合っているため、回転軸R回りに回転しながら第2延伸部92に対して下方に移動する。このとき回転部91は、図1および図2において吐出器10を見る方向から見て回転軸Rを中心として時計回りに回転する。回転部91がこの向きに回転すると、回転部91に噛み合う第1延伸部84が後方に移動する。つまり、本実施形態において回転部91は、装着筒部材50に対するヘッド本体10bの下方への移動時に、第2延伸部92に対して相対的に下方に移動し、かつ、第1延伸部84を後方に移動させる向きに回転する。
【0043】
第1延伸部84が後方に移動することで、弁部材80の全体が後方に移動し、弁本体部81における前端部81aがノズル孔74から後方に離れる。したがって、ノズル孔74が開放される。第1延伸部84は、第1延伸部84の後端部が収容穴部61aの底部61dに突き当たるか、第2延伸部92の上端部が収容穴部61aの上内壁面61eに突き当たるまで後方に移動する。図2に示す例では、第1延伸部84の後端部が収容穴部61aの底部61dに接触し、かつ、第2延伸部92の上端部が収容穴部61aの上内壁面61eに接触した状態を示している。このとき、第2ラックギヤ部92bは、一対の第1ラックギヤ部83同士の左右方向の間に通されている。また、第2ラックギヤ部92bの上端部は、一対の対向部73同士の左右方向の間に位置する。
【0044】
ノズル孔74が開放された状態で、押下ヘッド10aがさらに押し下げられると、ヘッド本体10bと装着筒部材50とが共に下方へと移動し、ステム42を下方に押し下げる。これにより、予め容器本体20内からシリンダ41内に吸い上げられていた内容物が、ステム42の内部を通って上昇し、装着筒53の内部、摺動筒54の内部、貫通孔92d、および垂下筒63の内部を介して、弁室10cの内部に流入する。弁室10cの内部に流入した内容物は、ノズル孔74から前方に吐出される。なお、樹脂バネ部55は、ステム42を上方に付勢する図示しないバネよりも小さい力で弾性変形可能となっているため、樹脂バネ部55が変形する前にステム42が押し下げられることを抑制できる。これにより、ノズル孔74が開放される前にステム42が下方に押し下げられてシリンダ41内が加圧されることを抑制できる。
【0045】
押下ヘッド10aの押し下げが解除されると、シリンダ41内の図示しないバネによってステム42が上方へと押し上げられて押下ヘッド10a全体が上方へと押し上げられるとともに、樹脂バネ部55が復元変形することで、装着筒部材50に対してヘッド本体10bが上方に押し上げられる。ヘッド本体10bが装着筒部材50に対して上方に相対移動すると、回転部91が回転軸R回りに回転しつつ第2延伸部92に対して上方に移動する。このとき、回転部91は、図1および図2において吐出器10を見る方向から見て回転軸Rを中心として反時計回りに回転する。回転部91がこの向きに回転すると、回転部91に噛み合う第1延伸部84が前方に移動する。これにより、弁部材80が前方に移動して、弁本体部81の前端部81aによってノズル孔74が再び閉塞される。
【0046】
本実施形態によれば、弁部材80は、ノズル孔74を閉塞する弁本体部81と、弁本体部81から後方に延びる第1延伸部84と、を有する。移動機構部90は、ヘッド本体10bに配設され、左右方向に延びる回転軸R回りに回転可能であり、かつ、回転することで第1延伸部84を前後方向に移動させる回転部91と、上下方向に延び、回転部91の回転に伴って回転部91との上下方向の相対位置が変化する第2延伸部92と、を有する。回転部91は、ステム42に対するヘッド本体10bの下方への移動時に、第2延伸部92に対して相対的に下方に移動し、かつ、第1延伸部84を後方へと移動させる向きに回転する。そのため、第1延伸部84と第2延伸部92と回転部91とによって構成される機構によって、ステム42に対するヘッド本体10bの上下方向の動きを、前後方向の動きに変換して弁部材80へと伝えることができる。これにより、押下ヘッド10aを押し下げることによって、容易かつ好適に弁部材80を後方に移動させて、ノズル孔74を開放することができる。
【0047】
また、上述したように、第1延伸部84と第2延伸部92と回転部91とによって構成される機構によってヘッド本体10bをステム42に対して下方に相対移動させることで弁部材80を後方へと移動させることができるため、ヘッド本体10bをステム42に対して上方に相対移動させれば、弁部材80を前方へと移動させることができる。そのため、ヘッド本体10bをステム42に対して上方に付勢する樹脂バネ部55を設けることで、押下ヘッド10aの押し下げが解除された際に、樹脂バネ部55の復元力を利用して、弁部材80を再びノズル孔74を閉塞する位置に戻すことができる。つまり、弁部材80を元の位置に戻すために、弁部材80を前方に押すような付勢部材を設ける必要がない。これにより、例えば弁部材80を元の位置に戻すための付勢部材を弁室10c内に設けて弁部材80を前方付勢するような場合に比べて、当該付勢部材を選択する自由度を向上させることができる。
【0048】
具体的に、従来では、例えば、付勢部材を弁室10c内に設けて弁部材80を前方付勢するような場合には、弁室10c内の空間の制約および耐久性などの問題から当該付勢部材として金属製のコイルスプリングを採用する必要があった。しかしながら、本実施形態によれば、比較的空間を大きく確保しやすいヘッド本体10bの下方に当該付勢部材を配置することができるため、採用できる付勢部材の選択の幅を大きくできる。そのため、本実施形態のように、当該付勢部材を樹脂製の樹脂バネ部55とすることができる。これにより、金属製のコイルスプリングを樹脂製の樹脂バネ部55に好適に置き換えることができる。したがって、本実施形態によれば、吐出器10に使用される金属材料を削減できる。また、弁室10c内に金属製の付勢部材を設ける必要がないため、弁室10c内において当該付勢部材に内容物が接触することを防ぐためにシールする必要がない。そのため、吐出器10においてシールする箇所を少なくすることができる。本実施形態では、ステム42を上方に付勢するバネを樹脂製とすることで、吐出器10全体を樹脂のみで構成でき、吐出器10を備える吐出容器100全体を樹脂のみで構成することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、回転部91は、ピニオンギヤであり、第1延伸部84および第2延伸部92は、ピニオンギヤである回転部91と噛み合うラックギヤである。そのため、第1延伸部84と第2延伸部92と回転部91とによってラック・アンド・ピニオン機構を構成することができる。これにより、当該ラック・アンド・ピニオン機構によって、弁部材80を安定して移動させることができる。したがって、押下ヘッド10aを押し下げることによって、安定して弁部材80を後方に移動させることができ、ノズル孔74を好適に開放することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、押下ヘッド10aは、ヘッド本体10bとステム42とを連結する装着筒部材50を有する。装着筒部材50は、天壁部51と、天壁部51から下方に向けて延設されてステム42の上端部内に嵌合された装着筒53と、を有する。樹脂バネ部55は、天壁部51とヘッド本体10bとの間に位置する。そのため、樹脂バネ部55によって、好適かつ容易に、ヘッド本体10bをステム42に対して上方に付勢できる。
【0051】
また、本実施形態によれば、樹脂バネ部55は、天壁部51に配設された板バネである。そのため、樹脂バネ部55を樹脂製のコイルスプリングにする場合に比べて、樹脂バネ部55がへたりにくい。したがって、樹脂バネ部55の耐久性を向上させることができる。また、天壁部51と樹脂バネ部55とを射出成形などによって一体成形しやすい。そのため、樹脂バネ部55が天壁部51と別部材である場合に比べて、吐出器10の部品点数を少なくできる。
【0052】
また、本実施形態によれば、第1延伸部84は、回転部91の上方に位置する。第2延伸部92は、回転部91の前方に位置する。そのため、回転部91を弁本体部81に干渉しにくい位置に配置しつつ、回転部91の下方への移動によって、第1延伸部84を後方へと移動させることができる。
また、本実施形態によれば、ヘッド本体10bは、前方に開口する収容穴部61aを有するヘッド部60と、ノズル孔74を有し、収容穴部61a内に前方から挿入されたノズル筒70と、を有する。ノズル筒70は、前後方向に延びる対向部73を有する。対向部73は、第1延伸部84の上方に対向して配置されている。そのため、対向部73によって、第1延伸部84が上方に移動することを抑制できる。これにより、第1延伸部84が上方に移動して回転部91から外れることを抑制できる。また、第1延伸部84と収容穴部61aの上内壁面61eとの間に対向部73が配置される空間が設けられていることで、弁部材80を収容穴部61a内に挿入した際に、第1延伸部84を、回転部91と接触しない状態、すなわち噛み合わない状態で、回転部91の上方に差し込むことができる。この場合、第1延伸部84を回転部91の上方に差し込んだ後に、弁部材80を下方に移動させることで、第1延伸部84を回転部91と接触させて噛み合わせることができる。したがって、吐出器10の組み立てを容易にできる。
【0053】
また、本実施形態によれば、第1延伸部84は、前後方向に延び回転部91と噛み合う第1ラックギヤ部83を有する。第1ラックギヤ部83は、左右方向に間隔を空けて一対設けられている。そのため、回転部91と第1延伸部84とを安定して噛み合わせることができ、回転部91の回転によって、第1延伸部84を好適に前後方向に移動させることができる。また、第2延伸部92は、上下方向に延び回転部91と噛み合う第2ラックギヤ部92bを有する。第2ラックギヤ部92bは、上下方向から見て、一対の第1ラックギヤ部83同士の間に位置する。そのため、ヘッド本体10bが第2延伸部92に対して下方に相対移動した際に、第2ラックギヤ部92bの上端部を一対の第1ラックギヤ部83同士の間に通すことができる。これにより、第2延伸部92と第1延伸部84とが干渉することを抑制できる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態に限られず、以下の構成を採用することもできる。
樹脂バネ部は、ヘッド本体を上方に付勢するならば、どのような構成であってもよい。樹脂バネ部は、板バネでなくてもよく、樹脂製のコイルスプリングであってもよい。樹脂バネ部は、装着筒部材の天壁部に配設されてもよい。樹脂バネ部は、装着筒部材の天壁部とヘッド本体とに対して別体の部材であってもよい。また、装着筒部材が設けられずに、樹脂バネ部が、吐出器を容器本体に装着するための装着キャップとヘッド本体との上下方向の間に配置されていてもよい。この場合、移動機構部の第2延伸部は、例えば、直接的にステムに取り付けられる。樹脂バネ部の数は、1つ以上であれば、特に限定されない。
第1延伸部と第2延伸部と回転部との配置関係は、ステムに対するヘッド本体の下方への移動時に、回転部が第2延伸部に対して相対的に下方に移動し、かつ、第1延伸部を後方へと移動させる向きに回転できるならば、どのような配置関係であってもよい。回転部、第1延伸部、および第2延伸部は、ギヤでなくてもよい。回転部は第1延伸部および第2延伸部と接触する摩擦車であってもよく、回転部と第1延伸部と第2延伸部とが摩擦力によって互いに動力を伝達可能な構成であってもよい。また、回転部、第1延伸部、および第2延伸部は、それぞれ羽根状部を有し、当該羽根状部を介して互いに動力を伝達可能な構成であってもよい。
本明細書において説明した各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、相互に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0055】
10…吐出器、10a…押下ヘッド、10b…ヘッド本体、42…ステム、50…装着筒部材、51…天壁部、53…装着筒、55…樹脂バネ部、60…ヘッド部、61a…収容穴部、70…ノズル筒、73…対向部、74…ノズル孔、80…弁部材、81…弁本体部、84…第1延伸部、90…移動機構部、91…回転部、92…第2延伸部、R…回転軸
図1
図2
図3