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特許7661215高周波加熱コイルおよびコイルばね成形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】高周波加熱コイルおよびコイルばね成形装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/36 20060101AFI20250407BHJP
   C21D 9/60 20060101ALI20250407BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20250407BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
H05B6/36 C
H05B6/36 F
C21D9/60 102
C21D1/42 K
C21D1/42 D
C21D1/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021213752
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023097560
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓太
(72)【発明者】
【氏名】白石 透
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226903(JP,A)
【文献】特開2009-218176(JP,A)
【文献】特開昭51-044332(JP,A)
【文献】特開2014-055343(JP,A)
【文献】中国実用新案第205662543(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/36
C21D 9/60
C21D 1/42
C21D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル入口から挿入された鋼線材を内側に通過させて高周波加熱する高周波加熱コイルであって、
イル入口側に配置される、密巻の内側コイル部と、
前記内側コイル部の外側に配置され、コイル入口側の端部が、前記内側コイル部のコイル入口側の端部と、径方向に延びる連結片によって接続されている密巻または粗巻の外側コイル部と、
前記内側コイル部のコイル出口側端部に隣接して接続され、前記内側コイル部の外径よりも大きな外径を有する密巻の一重コイル部と、
前記一重コイル部のコイル出口側端部に隣接して接続され、前記一重コイル部の外径よりも大きな外径を有し、コイル出口まで延在している粗巻の粗巻コイル部とを備えることを特徴とする高周波加熱コイル。
【請求項2】
前記外側コイル部は、一重のコイルであり、
前記外側コイルのコイル出口側の端部には、前記一重コイル部及び前記粗巻コイル部とは非接触であって、前記コイル出口まで延在する部分を有する第1の端子固定され、
記粗巻コイル部のコイル出口側の端部には、前記粗巻コイル部の端面と直交する方向に延在する第2の端子固定されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱コイル。
【請求項3】
前記第1の端子は、
前記外側コイル部のコイル出口側の端部から、前記第2の端子と略平行で前記外側コイル部の端面と直交する方向へ延在する第1横方向端子部と
前記第1横方向端子部の、前記外側コイル部のコイル出口側の端部とは反対側の端部から前記コイル出口まで、前記外側コイル部の軸方向に延在する軸方向端子部と
前記軸方向端子部のコイル出口側の端部から前記第2の端子側へ向けて延在する縦方向端子部と
前記縦方向端子部の第2の端子側の端部から、前記第2の端子と同方向かつ平行に延在する第2横方向端子部とからなることを特徴とする請求項2に記載の高周波加熱コイル。
【請求項4】
コイル入口から挿入された鋼線材を内側に通過させて高周波加熱する高周波加熱コイルであって、
イル入口側に配置される、密巻の内側コイル部と
前記内側コイル部の外側に配置され、コイル入口側の端部が、前記内側コイル部のコイル入口側の端部と、径方向に延びる連結片によって接続されている密巻または粗巻の外側コイル部と、
前記内側コイル部のコイル出口側端部に隣接して接続され、前記内側コイル部の外径よりも大きな外径を有し、コイル出口まで延在している密巻の一重コイル部とを備えることを特徴とする高周波加熱コイル。
【請求項5】
前記内側コイル部と前記外側コイル部とが重複する部分は、前記高周波加熱コイルの全長の1/3以下の長さを有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の高周波加熱コイル。
【請求項6】
全長が350mm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の高周波加熱コイル。
【請求項7】
連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材と離切するための切断手段と、前記フィードローラと前記コイリング部との間に設けられた加熱手段とを備え、
前記加熱手段は、内側を鋼線材が通過する請求項1~6のいずれかに記載の高周波加熱コイルと、鋼線材が通過する箇所を炭化水素系ガス雰囲気にする炭化水素供給手段とを備えたコイルばね成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼線材を高周波によって加熱する高周波加熱コイルおよびばね成形装置に係り、特に、最高温度到達までの時間を短縮することにより、最高温度での保持時間を延長して浸炭性を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、コイルばねの製造工程では、鋼線材を高周波加熱コイルによりオーステナイト域まで加熱した状態で熱間コイリングし、焼入れ焼戻しを行っている。そのような工程において、鋼線材を加熱保持する際に鋼線材を炭化水素系ガスと接触させ、鋼線材に浸炭処理を行うことがある。
【0003】
たとえば、特許文献1に開示された高周波熱間コイリング技術では、鋼線材加熱時に炭化水素系ガスを供給することにより浸炭によって鋼線材表面に均一厚さのC濃化層を形成している。ここで、C濃化層の深さは加熱温度と時間に影響される。加熱時間が短いと浸炭が進まず、所望の浸炭層深さが得られない。一方、加熱温度は高いほど浸炭性は上がるが、結晶粒径の粗大化を招くため、加熱温度は1000℃以上1100℃以下、あるいは1000℃以上1050℃以下が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6251830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来においては、均一に所望の浸炭層深さを得るために、鋼線材の送り速度を遅くする必要があった。鋼線材送り速度が遅いほど鋼線材と炭化水素系ガスとの接触時間が長くなり、その分Cの拡散時間が長くなるため、浸炭性は向上するが、反面、生産性が損なわれる。
【0006】
したがって、鋼線材送り速度を落とすことなく所望の浸炭層深さが得られることが好ましいが、鋼線材送り速度を速くすると、十分な浸炭層深さを得ることができないか、あるいは、素線全周に亘って均一な浸炭層が得られないという問題があった。また、熱間コイリングでは加熱領域を拡張すると、鋼線材の座屈や形状ばらつきを招くため、コイル長さは350mm以下という制約がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、鋼線材の送り速度を低下させることなく、かつ、加熱コイルの単純な拡張や増設をせずに、浸炭性を向上させることができる高周波加熱コイルおよびばね成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、コイル入口から挿入された鋼線材を内側に通過させて高周波加熱する高周波加熱コイルであって、コイル入口側に配置される、密巻の内側コイル部と、前記内側コイル部の外側に配置され、コイル入口側の端部が、前記内側コイル部のコイル入口側の端部と、径方向に延びる連結片によって接続されている密巻または粗巻の外側コイル部と、前記内側コイル部のコイル出口側端部に隣接して接続され、前記内側コイル部の外径よりも大きな外径を有する密巻の一重コイル部と、前記一重コイル部のコイル出口側端部に隣接して接続され、前記一重コイル部の外径よりも大きな外径を有し、コイル出口まで延在している粗巻の粗巻コイル部とを備えることを特徴とする高周波加熱コイルである。
【0009】
本発明によれば、コイル入口側に、密巻の内側コイル部を配置し、内側コイル部の外側に密巻または粗巻の外側コイル部を配置しているから、内側コイル部と外側コイル部が重複する部分では鋼線材を短い送り距離でオーステナイト域まで急速に加熱することができる。そして、鋼線材の急速加熱された部分は、一重コイル部に達する。一重コイル部は内側コイル部の外径よりも大きな外径を有しているから、鋼線材が通る位置の磁束密度が低下し、鋼線材の発熱が抑えられる。これにより、一重コイル部に入った鋼線材の急速加熱された部分は、オーステナイト域の温度が維持される保温状態となる。
【0010】
さらに、保温状態とされた鋼線材の部分は、粗巻コイル部に達する。粗巻コイル部は、一重コイル部の外径よりも大きな外径を有するとともに粗巻であるから、鋼線材が通る位置の磁束密度がさらに低下し、鋼線材の発熱が一層抑えられる。これにより、粗巻コイル部に入った鋼線材の保温状態とされた部分は、オーステナイト域の温度が維持される。したがって、高周波加熱コイルのうちの長い部分において浸炭を行うことができる。
【0011】
なお、「密巻」とは、絶縁被膜を含まない高周波加熱コイル素線同士の隙間が2mm以下の場合を言い、「粗巻」とは、絶縁被膜を含まない高周波加熱コイル素線同士の隙間が2mmよりも大きい場合を言う。
【0012】
ここで、上記構成において、一重コイル部をコイル出口側まで延在させることもできる。このような構成においても、上記した一重コイルによる作用がコイル出口まで維持されるから、高周波加熱コイルのうちの長い部分において浸炭を行うことができる。
【0013】
本発明においては、外側コイル部は一重コイルであり、外側コイルのコイル出口側の端部に第1の端子を固定し、粗巻コイル部のコイル出口側の端部に第2の端子を固定することができる。
【0014】
この場合において、第2の端子は、粗巻コイル部の端面と直交する方向に延在し、第1の端子は、第2の端子と略平行で外側コイル部の端面と直交する方向へ延在する第1横方向端子部と、第1横方向端子部の端部から外側コイル部の軸方向に延在する軸方向端子部と、軸方向端子部の端部から第2の端子側へ向けて延在する縦方向端子部と、縦方向端子部の端部から第2の端子と同方向かつ平行に延在する第2横方向端子部とから構成すると好適である。このように構成することで、第2の端子と第2横方向端子とが互いに平行で接近して配置され、これらの端子と電源装置との接続が容易となる。
【0015】
また、内側コイル部と外側コイル部とが重複する部分は、高周波加熱コイルの全長の1/3以下の長さを有することが好ましい。つまり、高周波加熱コイルの全長の2/3以上の長さの部分で浸炭処理を行うことができるので、高周波加熱コイルを延長することなく浸炭性を向上することができる。その結果、高周波加熱コイルの全長を350mm以下にすることができる。
【0016】
次に、本発明は、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材と離切するための切断手段と、前記フィードローラと前記コイリング部との間に設けられた加熱手段とを備え、前記加熱手段は、内側を鋼線材が通過する上記構成の高周波加熱コイルと、鋼線材が通過する箇所を炭化水素系ガス雰囲気にする炭化水素供給手段とを備えたコイルばね成形装置である。
【0017】
このようなコイルばね成形装置によれば、加熱手段において鋼線材が急速にオーステナイト域まで昇温され、その後充分な保温期間のうちに炭化水素系ガスによる浸炭を受けるので、鋼線材の送り速度を低下させることなく、かつ、加熱コイルの単純な拡張や増設をせずに、浸炭性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋼線材の送り速度を低下させることなく、かつ、加熱コイルの単純な拡張や増設をせずに、浸炭性を向上させることができる高周波加熱コイルとばね成形装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態のばね成形装置を示す側面図である。
図2】(A)は本発明の実施形態の高周波加熱コイルを示す側面図、(B)はその側断面図である。
図3】(A)は本発明の参考例の高周波加熱コイルを示す側面図、(B)はその側断面図である。
図4】鋼線材のコイル入口からの距離と鋼線材の温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.ばね成形装置の構成
図1に示すように、ばね成形装置1は、連続的に鋼線材Mを供給するためのフィードローラ10と、鋼線材Mをコイル状に成形するコイリング部20とを備えている。コイリング部20は、フィードローラ10により供給された鋼線材Mを適切な位置へ誘導するためのワイヤガイド21と、ワイヤガイド21を経由して供給された鋼線材Mをコイル形状に加工するためのコイリングピン(もしくはコイリングローラ)22aからなるコイリングツール22と、ピッチを付けるためのピッチツール(図示略)とを備えている。
【0021】
また、ばね成形装置1は、所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材Mと切り離すための切断刃30aおよび内型30bを備えた切断手段30と、フィードローラ10の出口からコイリングツール22の間において鋼線材Mを加熱する高周波加熱コイル40とを備えている。
【0022】
高周波加熱コイル40とフィードローラ10の中間付近には、鋼線材Mが通過する箇所を炭化水素系ガス雰囲気にする炭化水素系ガス供給部(炭化水素系ガス供給手段)50が配置されている。高周波加熱コイル40の内側には、例えばセラミックスからなる囲い部材51が配置され、囲い部材51内に炭化水素系ガス供給部50から炭化水素系ガスが供給されて鋼線材Mが通過するようになっている。
【0023】
2.高周波加熱コイルの構成
図2を参照して本発明の実施形態の高周波加熱コイル40について説明する。なお、図2において左側がコイル入口であり右側がコイル出口である。高周波加熱コイル40は、コイル素線径が一様でピッチや外径の異なる様々なコイル部からなっている。
【0024】
コイル入口側に、密巻の内側コイル部41が配置され、内側コイル部41は、コイル出口へ向かって3巻半延在している。内側コイル部41のコイル入口側の端面には、径方向外側に突出する連結片42の一端部が固定され、連結片42の他端部には、粗巻の外側コイル部43の端面が固定されている。
【0025】
外側コイル部43の内径は内側コイル部41の外径よりも大きく、したがって、内側コイル部41と外側コイル部43との間には隙間が形成されている。外側コイル部43は、コイル出口へ向かって2巻延在している。この外側コイル部43と内側コイル部41により、二重コイル部48が構成されている。
【0026】
外側コイル部43のコイル出口側の端面には、第1の端子44が固定されている。第1の端子44は、紙面と直交する奥側へ延在する第1横方向端子部44aと、第1横方向端子部44aの端部から軸方向に延在する軸方向端子部44bと、軸方向端子部44bの端部から下方へ向けて延在する縦方向端子部44cと、縦方向端子部44cの端部から紙面と直交する奥側へ延在する第2横方向端子部44dとからなっている。
【0027】
内側コイル部41のコイル出口側の端部から密巻の一重コイル部45がコイル出口側へ向けて3巻延在している。一重コイル部45の外径は、内側コイル部41の外径よりも大きく、外側コイル部43の外径よりも小さい。
【0028】
一重コイル部45のコイル出口側の端部から、粗巻コイル部46がコイル出口側へ向けて1巻延在している。粗巻コイル部46の外径は、外側コイル部43の外径とほぼ同じであるが、ピッチは外側コイル部43のピッチのほぼ2.5倍である。粗巻コイル部46の端部には、紙面と直交する奥側へ延在する第2の端子47が固定されている。第1、第2の端子44,47には、電源装置と接続される。
【0029】
3.ばね成形装置の動作
鋼線材Mはフィードローラ10により囲い部材51内に送り込まれ、囲い部材51内を通過する。その際に、鋼線材Mは高周波加熱コイル40により加熱される。高周波加熱コイル40では、第1、第2の端子44,47に高周波の交流電流が供給されると、その内側を通る交番磁束が発生し、導電体の被加熱物にうず電流によるジュール熱が発生する。
【0030】
上記構成の高周波加熱コイル40では、コイル入口側に内側コイル部41と外側コイル部43とからなる二重コイル部48を設けているから、内側に密度の高い交番磁束が通る。これにより、高周波加熱コイル40を通る鋼線材Mは急速に加熱され、例えば2.5秒以内にオーステナイト域の温度に達する。
【0031】
鋼線材Mのオーステナイト域の温度まで昇温させられた部分は、次いで、一重コイル部45に入る。一重コイル部45では、内側コイル部41の外径よりも大きな外径を有しているから、鋼線材Mが通る位置の磁束密度が低下しており、鋼線材Mの発熱が抑えられる。これにより、一重コイル部45に入った鋼線材Mは、オーステナイト域の温度を維持する保温状態となる。
【0032】
次いで、鋼線材Mのオーステナイト域の温度を保持した部分は、粗巻コイル部46に入る。粗巻コイル部46は、一重コイル部45よりも大きな外径とピッチを有しているから、鋼線材Mが通る位置の磁束密度がさらに低下し、鋼線材Mの発熱が抑えられてオーステナイト域の温度が維持される。
【0033】
鋼線材Mのオーステナイト域の温度を維持した部分は、炭化水素系ガス供給部50から囲い部材51内に供給された炭化水素系ガスと接触して浸炭される。そして、当該部分は、ワイヤガイド21を経由してコイリング部20に供給される。コイリング部20では、ワイヤガイド21を抜けた鋼線材Mをコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げ、さらに下流のコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げる。そして、ピッチツールに鋼線材Mを当接させて、所望のコイル形状となるようにピッチを付与する。所望の巻数となったところで、切断手段30の切断刃30aによって内型30bの直線部分との間でせん断によって切断して、後方より供給される鋼線材Mとばね形状の鋼線材Mとを切り離す。
【0034】
上記構成の高周波加熱コイル40にあっては、二重コイル部48による昇温領域が短く、一重コイル部45と粗巻コイル部46とからなる保温領域が長いから、鋼線材Mは、保温領域において炭化水素系ガスと長時間接触し、充分な浸炭を受けることができる。したがって、鋼線材Mの送り速度を低下させることなく、かつ、高周波加熱コイル40の単純な拡張や増設をせずに、浸炭性を向上させることができる。
【0035】
特に上記実施形態では、粗巻コイル部46の端部に、第2の端子47が固定され、この第2の端子47に近接して同方向へ延在する第2横方向端子部44dが配置されているから、電源装置と容易に接続することができる。
【0036】
4.変更例
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように種々の変更が可能である。
【0037】
(1)粗巻コイル部46を設けずに、一重コイル部45をコイル出口まで延在させることができる。
【0038】
(2)外側コイル部43を密巻にしてもよい。これにより、二重コイル部48による昇温領域をさらに短くして保温領域を延長することができる。
【0039】
(3)二重コイル部48を三重に重ねた多重コイル部としてもよい。これによっても、多重コイル部による昇温領域をさらに短くして保温領域を延長することができる。
(4)加熱コイルは連結片や端子部を設けず、一繋ぎのコイルとして成形してもよい。
【0040】
5.参考例
次に、本発明の高周波加熱コイル40を完成させる過程で試作した高周波加熱コイルについて説明する。
【0041】
図3は参考例の高周波加熱コイル60を示す側面図(A)および断面図(B)である。高周波加熱コイル60のコイル入口側には、密巻の一重コイル部61が配置されている。一重コイル部61は、コイル出口に向かって7巻半延在している。一重コイル部61のコイル出口側端部には、径方向外側に突出する連結片62が固定され、連結片62の端部には粗巻コイル部63の端部が固定されている。
【0042】
粗巻コイル部63は、そのピッチと外径が上記実施形態の粗巻コイル部46のものと同等とされ、コイル出口まで3巻延在している。粗巻コイル部63の端部には端子64が固定されている。一重コイル部61のコイル入口側の端部にも端子65が固定されている。そして、端子64,65の高周波の交流電流を供給することにより、内側に交番磁束が通る。
【0043】
上記構成の高周波加熱コイル60においても鋼線材Mを一重コイル部61で急速加熱し、粗巻コイル部63において保温することができそうにも思われる。しかしながら、本発明者の検討によれば、以下の性能試験に示すように、上記高周波加熱コイル60では浸炭が充分ではないことが判明している。
【0044】
6.性能試験
(1)鋼線材温度分布
密巻コイル部のみからなる従来の高周波加熱コイル(従来例)と、図3に示す高周波加熱コイル60(参考例)と、図2に示す高周波加熱コイル40(発明例)を、図1に示すばね成形装置1に取り付けて鋼線材を供給しながら加熱することを想定して、電磁界解析ソフトウェア(JMAG)を用いて鋼線材の温度分布を解析した。その結果を図4に示す。
【0045】
図4はコイル入口からの鋼線材の温度分布を示すものである。密巻コイル部のみからなる従来の高周波加熱コイルでは、コイル入口から100mmの位置で1000℃に達しているが、参考例では40mmの位置で1000℃に達し、発明例では20mmの位置で1000℃に達している。
【0046】
(2)浸炭試験
上記3種類の高周波加熱コイルを図1に示すばね成形装置1に取り付け、以下の条件でコイルばねの成形を行った。
コイル素線径:4.1mm、加熱温度:1050℃、送り速度:従来よりも速い、ばね指数:6
【0047】
成形したコイルばねの断面において浸炭の状態を調査したところ、発明例では、断面の周囲の100%の部分で浸炭が確認された。このときの浸炭深さは30~40μmで炭素濃度は0.7~1.0質量%であった。また、炭素濃度が0.8質量%以上の領域は、断面の周囲の97%であった。
【0048】
これに対して、従来例では断面の周囲の70~80%の部分で浸炭が確認され、参考例では断面の周囲の78%の部分で浸炭が確認された。したがって、従来例および参考例では、従来よりも速い送り速度では浸炭が充分ではなく、送り速度を従来のレベルまで下げる必要があった。このように、本発明では、鋼線材の送り速度が従来よりも速くても確実に浸炭がなされることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、生産速度を落とさず、かつ、加熱コイルの単純な拡張や増設をせずに、確実に浸炭することができるので、自動車、自動二輪車、列車などの輸送機器、建設機械、工作機械、農耕機械などあらゆる技術分野で用いられるコイルばねの産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…フィードローラ、20…コイリング部、21…ワイヤガイド、22…コイリングツール、22a…コイリングピン、30…切断手段、30a…切断刃、30b…内型、40,60…高周波加熱コイル、41…内側コイル部、42…連結片、43…外側コイル部、44…第1の端子、44a…第1横方向端子部、44b…軸方向端子部、44c…縦方向端子部、44d…第2横方向端子部、45…一重コイル部、46…粗巻コイル部、47…第2の端子、48…二重コイル部、50…炭化水素系ガス供給部(炭化水素系ガス供給手段)、51…囲い部材、W…鋼線材。
図1
図2
図3
図4