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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】二重特異性結合構築物
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20250407BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20250407BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20250407BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250407BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250407BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250407BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250407BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250407BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250407BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250407BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20250407BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250407BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61P35/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021571687
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 US2020036464
(87)【国際公開番号】W WO2020247852
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】62/858,509
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/858,630
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガッティベンカタクリシュナ,パバン
(72)【発明者】
【氏名】アメール,ブレンダン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510319(JP,A)
【文献】特表2018-529317(JP,A)
【文献】特表2018-527909(JP,A)
【文献】特表2018-527908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00 - 16/46
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1及びVL2は免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、L1、L2及びL3はリンカーであり、L1は少なくとも25個のアミノ酸であり、L2は少なくとも25個のアミノ酸であり、L3は少なくとも25個のアミノ酸であり、並びに前記二重特異性結合構築物が免疫エフェクター細胞及び標的細胞と結合することができ、
前記免疫エフェクター細胞は、ヒトT細胞受容体(TCR)-CD3複合体の一部であるエフェクター細胞タンパク質を発現するT細胞であり、
前記標的細胞は癌細胞であり、標的がMsln又はDll3である、
二重特異性結合構築物。
【請求項2】
VL2の次に半減期延長部分を更に含む、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項3】
前記半減期延長部分が、追加のリンカー(L4)及びヒトIgG1、IgG2、又はIgG4抗体由来の単鎖免疫グロブリンFc領域(scFc)を含む、請求項2に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項4】
前記scFcポリペプチド鎖が、Fcγ受容体(FcγR)の結合性を阻害する1つ以上の改変、及び/又は半減期を延長する1つ以上の改変を含む、請求項3に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項5】
前記VH1、VH2、VL1、及びVL2の全てが異なる配列を有する、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項6】
前記VH2配列が配列番号50を含み、前記VL2配列が配列番号51を含み、前記VH1配列が配列番号44を含み、前記VL1配列が配列番号45を含むか、又は前記VH1配列が配列番号48を含み、前記VL1配列が配列番号49を含む、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項7】
L1、L2及びL3が異なる長さである、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項8】
L1、L2及びL3が同一の長さである、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項9】
L1及びL2が同一の長さである、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項10】
L1及びL3が同一の長さである、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項11】
L2及びL3が同一の長さである、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項12】
前記二重特異性結合構築物が、VH1-L1-VL1-L2-VH2-L3-VL2の式を有する二重特異性結合構築物と比較して向上した安定性を示す、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項13】
前記二重特異性抗体が、VH1-L1-VL1-L2-VH2-L3-VL2の式を有する二重特異性結合構築物と比較して向上したインビトロ発現を示す、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項14】
前記エフェクター細胞タンパク質がCD3ε鎖である、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項15】
請求項1~14に記載の二重特異性結合構築物をコードする核酸。
【請求項16】
請求項15に記載の核酸を含むベクター。
【請求項17】
請求項16に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項18】
(1)前記二重特異性結合構築物を発現するような条件下で、宿主細胞を培養することと、(2)細胞集団又は培養液上清から前記二重特異性結合構築物を回収することとを含み、前記宿主細胞は、請求項1~9のいずれか一項に記載の二重特異性結合構築物をコードする1つ以上の核酸を含む、請求項1に記載の二重特異性結合構築物の製造方法。
【請求項19】
治療上有効な量の請求項1~14のいずれか一項に記載の二重特異性結合構築物を含む、癌患者を治療するための薬学的組成物。
【請求項20】
請求項1~14のいずれか一項に記載の二重特異性結合構築物を含む、薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第62/858,509号明細書(2019年6月7日出願)及び米国仮特許出願第62/858,630号明細書(2019年6月7日出願)に対する優先権を主張するものである。上記で特定した出願のそれぞれは、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表の参照
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を包含し、その配列表は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2020年6月4日に作成された前記ASCIIのコピーは、名称がA-2355-WO-PCT_SL.txtであり、サイズが174,109バイトである。
【0003】
本発明は、タンパク質工学の分野に属する。
【背景技術】
【0004】
二重特異性結合構築物は、近年、将来性のある治療法であることが明らかとなってきている。例えば、二重特異性T細胞誘導(BiTE(登録商標))構成でのCD3及びCD19の両方を標的とする二重特異性構築物は、低用量でめざましい効果を示している。Bargou et al.(2008),Science 321:974-978。このBiTE(登録商標)構成は、2つのscFv’からなり、そのうちの一方がCD3を標的とし、その一方が腫瘍抗原であるCD19を標的とするものであり、それらは可動性リンカーで結合されている。この独自の設計により、二重特異性構築物が活性化T細胞を標的細胞に接近させ、結果として標的細胞を細胞溶解的に殺傷することができる。例えば、国際公開第99/54440A1号パンフレット(米国特許第7,112,324B1号明細書)、及び国際公開第2005/040220号パンフレット(米国特許出願公開第2013/0224205A1号明細書)を参照されたい。後に、CD3ε鎖のN末端で文脈に依存しないエピトープに結合する二重特異性構築物が開発されている(国際公開第2008/119567号パンフレット;米国特許出願公開第2016/0152707A1号明細書を参照されたい)。
【0005】
バイオ医薬品産業では、多くの患者に供給するという商業的な要求に応じるために、典型的に分子を大規模な方式で生産し、分子が大量生産及び大量精製に適さないという危険性を軽減するために、多数の属性について評価することができる。これらの複雑な組換えポリペプチドを効率的に発現させることは、現在進行中の課題であり得る。更に、一度発現したとしても、ポリペプチドは多くの場合医薬品組成物として所望されるほど安定的ではない。従って、治療的な有効性だけでなく、好ましい薬物動態学的特性を有し、効率的な生産性と向上した安定性とをもたらす構成を有する二重特異性治療のための技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第99/54440A1号パンフレット(米国特許第7,112,324B1号明細書)
【文献】国際公開第2005/040220号パンフレット(米国特許出願公開第2013/0224205A1号明細書)
【文献】国際公開第2008/119567号パンフレット;米国特許出願公開第2016/0152707A1号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bargou et al.(2008),Science 321:974-978
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
二重特異性抗体のいくつかの新規の構成が本明細書に記載される。一実施形態では、本発明は、式VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1及びVL2は免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、L1、L2及びL3はリンカーであり、L1は少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は少なくとも15個のアミノ酸であり、L3は少なくとも10個のアミノ酸であり、並びに二重特異性結合構築物が免疫エフェクター細胞及び標的細胞と結合することができる、二重特異性結合構築物を提供する。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、式VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1及びVL2は免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、L1、L2及びL3はリンカーであり、L1は少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は少なくとも10個のアミノ酸であり、L3は少なくとも10個のアミノ酸であり、並びにL1、L2及びL3の全体のアミノ酸が少なくとも35個のアミノ酸であり、並びに二重特異性結合構築物が免疫エフェクター細胞及び標的細胞と結合することができる、二重特異性結合構築物を提供する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、式VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-Fcを有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1及びVL2は免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、Fcは抗体Fc領域(例えば、scFc)を含み、L1、L2、L3及びL4はリンカーであり、L1は少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は少なくとも10個のアミノ酸であり、L3は少なくとも10個のアミノ酸であり、L1、L2及びL3の全体のアミノ酸が少なくとも35個のアミノ酸であり、並びに二重特異性結合構築物が免疫エフェクター細胞及び標的細胞と結合することができる、二重特異性結合構築物を提供する。
【0011】
更なる実施形態では、本発明は、本明細書に記載の二重特異性結合構築物をコードする核酸、及びこれらの核酸を含むベクターを提供する。更に、本発明は、本明細書に記載のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0012】
更に他の実施形態では、本発明は、(1)二重特異性結合構築物を発現する条件下で宿主細胞を培養することと、(2)細胞集団又は細胞培養液上清から結合構築物を回収することとを含み、宿主細胞は、本明細書に記載の任意の二重特異性結合構築物をコードする1つ以上の核酸を含む、本明細書に記載の二重特異性結合構築物の製造方法を提供する。
【0013】
他の実施形態では、本発明は、治療上有効な量の本明細書に記載の二重特異性結合構築物を患者に投与することを含む、癌患者を治療する方法を提供する。
【0014】
他の実施形態では、本発明は、治療上有効な量の本明細書に記載の二重特異性結合構築物を患者に投与することを含む、感染症疾患を有する患者を治療する方法を提供する。
【0015】
他の実施形態では、本発明は、治療上有効な量の本明細書に記載の二重特異性結合構築物を患者に投与することを含む、自己免疫状態、炎症状態、又は線維性状態の患者を治療する方法を提供する。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】HHLL構成の例示的な実施形態の代表的な図である。
図2】HLHLの標準型BiTE構成、及びリンカー長が異なるHHLL構成の様々な実施形態を含む、様々な分子構成の代表的な図である。
図3】代表的な実施形態のリンカー長を有するHHLL構成と比較した、HLHL BiTE構成及びリンカー長の代表的な図である。
図4A図4Aは、ニュートラルな配向のHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Bは、Y軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Cは、Y軸を中心に180°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Dは、Y軸を中心に180°回転させ、X軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。これらのモデルは、リンカー長が互いにどのように関係するのか、及び分子がその構造を適切に形成することができる方法を図示するものである。
図4B図4Aは、ニュートラルな配向のHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Bは、Y軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Cは、Y軸を中心に180°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Dは、Y軸を中心に180°回転させ、X軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。これらのモデルは、リンカー長が互いにどのように関係するのか、及び分子がその構造を適切に形成することができる方法を図示するものである。
図4C図4Aは、ニュートラルな配向のHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Bは、Y軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Cは、Y軸を中心に180°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Dは、Y軸を中心に180°回転させ、X軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。これらのモデルは、リンカー長が互いにどのように関係するのか、及び分子がその構造を適切に形成することができる方法を図示するものである。
図4D図4Aは、ニュートラルな配向のHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Bは、Y軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Cは、Y軸を中心に180°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。図4Dは、Y軸を中心に180°回転させ、X軸を中心に90°回転させたHHLL構成の代表的な分子モデルを示す。これらのモデルは、リンカー長が互いにどのように関係するのか、及び分子がその構造を適切に形成することができる方法を図示するものである。
図5A】異なる野生型(「WT」)(HLHL)構築物の精製クロマトグラム及びゲルの結果の代表例である。
図5B】異なる野生型(「WT」)(HLHL)構築物の精製クロマトグラム及びゲルの結果の代表例である。
図6A】異なるHHLL構築物の精製クロマトグラム及びゲルの結果の代表例である。
図6B】異なるHHLL構築物の精製クロマトグラム及びゲルの結果の代表例である。
図7】WTと比較した様々なHHLL構築物の発現の代表的結果である。
図8】WTと比較した様々なHHLL構築物の化学的安定性の代表的結果である。
図9A】WTと比較した様々なHHLL構築物の熱安定性の代表的結果である。
図9B】WTと比較した様々なHHLL構築物の熱安定性の代表的結果である。
図10】WTと比較した様々なHHLL構築物の40℃における促進安定性試験の代表的結果である。分子モデリングに基づき、「332」構築物を陰性対照となるように設計した。
図11-1】WTと比較した様々なHHLL構築物のクリッピング試験の代表的結果である。
図11-2】WTと比較した様々なHHLL構築物のクリッピング試験の代表的結果である。
図12】WTと比較した様々なHHLL構築物の結合試験の代表的結果である。
図13】WTと比較した様々なHHLL構築物の標的細胞の殺傷及び効力の代表的結果である。
図14】-20℃の安定性アッセイにおいて、0週、2週、4週、及び8週目で野生型(WT)と比較した様々なHHLL構築物の代表的結果である。
図15】凍結融解アッセイにおいて野生型(WT)と比較した様々なHHLL構築物の代表的結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
二重特異性結合構築物の新規の構成が本明細書に記載される。この構築物は、2つの免疫グロブリン可変重鎖(VH)領域、2つの免疫グロブリン可変軽鎖(VL)領域、及び任意選択によりFc領域(例えば、scFC)からなる単鎖ポリペプチドを含み、次の順序で配置される:VH-リンカー-VH-リンカー-VL-リンカー-VL(「HHLL」)、又はVH-リンカー-VH-リンカー-VL-リンカー-VL-リンカー-scFc。この二重特異性結合構築物のHHLL構成により、例えばHLHL構成と比較して、免疫エフェクター細胞及び標的細胞の所望の標的に結合するという意図した機能を維持したままで、向上した安定性と向上したインビトロでの発現との両方がもたらされる。従って、本HHLL構成によって、より効率的に生成することが可能であり、且つより良好な安定性を有する二重特異性分子が提供される。この特性は、薬学的組成物に求められているものである。
【0019】
前述の概要及び以下の詳細な説明はどちらも例示的且つ説明的なものにすぎず、請求項に記載される発明を限定するものではないことを理解されたい。本出願では、単数形の使用は、特に断りのない限り複数形を含む。本出願では、「又は」の使用は、特に断りのない限り「及び/又は」を意味する。更に、「含んでいる」という用語の使用は、「含む」及び「含まれる」などの他の形態と同様に限定的なものではない。また、「要素」又は「成分」などの用語は、特に断りのない限り、1つのユニットを含む要素及び成分、並びに2つ以上のサブユニットを含む要素及び成分の両方を包含する。また、「部分」という用語の使用は、部分の一部又は部分全体を含むことができる。
【0020】
本明細書では、別段の定義がない限り、本発明と関連して使用される科学用語及び専門用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。更に、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般に、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、並びに本明細書に記載されるタンパク質及び核酸の化学特性及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法及び技術は、当該技術分野でよく知られ、且つ一般に使用されているものである。本発明の方法及び技法は、様々な一般的な参考文献及びより具体的な参考文献に記載されるように、当該技術分野においてよく知られた従来法に従って一般に実施される。
【0021】
ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列は、標準的な1文字又は3文字の略語を使用して示される。特に断りのない限り、ポリペプチド配列は、その左側にアミノ末端を、その右側にカルボキシ末端を有し、及び一本鎖核酸配列及び二本鎖核酸配列の上鎖は、その左側に5’末端を、その右側に3’末端を有する。ポリペプチドの特定の部位は、アミノ酸1~50などのアミノ酸残基番号によって、又はアスパラギンからプロリンなどの部位における実際の残基によって指定することができる。特定のポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は、参照配列とどのように異なるかを明らかにすることによって説明することもできる。
【0022】
定義
分子(この場合、分子とは、例えばポリペプチド、ポリヌクレオチド、二重特異性結合構築物、又は抗体である)に関する「単離された」という用語は、その起源又は派生源によって、(1)その天然状態ではそれに付随する天然に会合する成分と会合しない、(2)同じ種由来の他の分子を実質的に含まない、(3)異なる種からの細胞によって発現する、又は(4)天然に存在しない分子である。従って、化学的に合成されるか、又はそれが天然に生じる細胞とは異なる細胞系において発現する分子は、その天然に会合する成分から「単離されて」いることになる。分子はまた、当該技術分野でよく知られた精製技術を使用して単離することによって、天然に会合した成分を実質的に含まないようにしてもよい。分子の純度又は均質性は、当該技術分野でよく知られた多くの手段によって評価してもよい。例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用し、当該技術分野でよく知られた技術を用いてゲルを染色し、ポリペプチドを可視化することによって、ポリペプチド試料の純度を評価してもよい。特定の目的のために、HPLC又は当該技術分野でよく知られた他の精製手段を使用することにより、より高い分解能が提供され得る。
【0023】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、及び「核酸」という用語は、全体にわたって互換的に用いられ、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチド類似体を用いて生成されたDNA又はRNAの類似体(例えば、ペプチド核酸及び天然に存在しないヌクレオチド類似体)、及びこれらのハイブリッドを含む。核酸は一本鎖であってもよく、又は二本鎖であってもよい。一実施形態では、本発明の核酸分子は、本発明の結合構築物若しくはフラグメント、誘導体、ムテイン、又はこれらの変異体をコードする連続的なオープンリーディングフレームを含む。
【0024】
「ベクター」とは核酸のことであり、これに連結された別の核酸を細胞に導入するのに用いることができる。ベクターの一種である「プラスミド」とは、直線状又は環状の二本鎖DNA分子を指し、これに追加の核酸セグメントを連結することができる。別の種類のベクターにはウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)があり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムに導入することができる。特定のベクターでは、導入された宿主細胞中で自己複製が可能である(例えば、細菌複製起点を含む細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)では、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。「発現ベクター」とは、選択したポリヌクレオチドの発現を誘導することができるベクターの種類のことである。
【0025】
調節配列がヌクレオチド配列の発現に影響を与える(例えば、発現のレベル、タイミング、又は位置)場合、ヌクレオチド配列は調節配列に「作動可能に連結」されている。「調節配列」とは、作動可能に連結された核酸の発現に影響を与える(例えば、発現のレベル、タイミング、又は位置)核酸のことである。調節配列は、例えば、調節を受ける核酸に対して直接的に、又は1つ以上の他の分子(例えば、調節配列及び/若しくは核酸に結合するポリペプチド)の作用を通じて効果を及ぼすことができる。調節配列の例としては、プロモーター、エンハンサー、及び他の発現調節エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)が挙げられる。
【0026】
「宿主細胞」とは、核酸、例えば本発明の核酸を発現させるために用いることができる細胞のことである。宿主細胞は、原核生物、例えば大腸菌(E.coli)であってもよく、又は真核生物、例えば単細胞真核生物(例えば、酵母菌若しくは他の真菌)、植物細胞(例えば、タバコ若しくはトマトの植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター細胞、ラット細胞、マウス細胞、若しくは昆虫細胞)、又はハイブリドーマであってもよい。典型的には、宿主細胞とは、ポリペプチドをコードする核酸によって形質転換又は形質移入することができ、続いてこの宿主細胞に核酸を発現させることが可能な培養細胞のことである。「組換え宿主細胞」という語句は、発現する核酸によって形質転換又は形質移入された宿主細胞を表すのに用いることができる。宿主細胞はまた、核酸を含むが、核酸と作動可能に連結されているような調節配列が宿主細胞に導入されなければ、所望のレベルで核酸を発現しない細胞であってもよい。宿主細胞という用語は、特定の対象の細胞だけでなく、このような細胞の後代又は潜在的な後代細胞も指すということが理解されよう。例えば、変異又は環境の影響によって後の世代に特定の修飾が生じる可能性があるため、このような後代は事実上親細胞と同一ではない可能性があるが、それでもなお本明細書で使用するような用語の範囲内に含まれる。
【0027】
「単鎖可変フラグメント」(「scFv」)とは、VL領域とVH領域とがリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して連結され、連続的なタンパク鎖を形成する融合タンパク質のことであり、リンカーは、タンパク鎖がそれ自体で再び折り畳まれ、一価抗原結合部位を形成することを可能にするのに十分な長さを持つ(例えば、Bird et al.,Science 242:423-26(1988)及びHuston et al.,1988.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-83(1988)を参照されたい)。他の追加の部分(例えば、Fc領域)と関連する場合、scFvは、例えば、VH-リンカー-VL、又はVL-リンカー-VHに配置される。
【0028】
「CDR」という用語は、抗体可変配列内の相補性決定領域(「最小認識単位」又は「超可変領域」とも呼ばれる)を指し、本発明の二重特異性結合構築物は、重鎖及び/又は軽鎖CDRを含む。このCDRにより、結合構築物が特定の目的の抗原に特異的に結合することが可能となる。3つの重鎖可変領域CDR(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)と、3つの軽鎖可変領域CDR(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)とが存在する。2つの鎖のそれぞれのCDRは、典型的にはフレームワーク領域によって整列され、標的タンパク質上の特定のエピトープ又はドメインと特異的に結合する構造を形成する。N末端からC末端までの天然に存在する軽鎖及び重鎖可変領域のいずれもが、典型的には次のこれらの要素の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4に従う。こうしたドメインのそれぞれの位置を占めるアミノ酸に対して番号を割り当てるための番号付けシステムが考案されている。この番号付けシステムは、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(1987 and 1991,NIH,Bethesda,MD)又はChothia & Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:878-883に定義されている。所与の抗体の相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)は、このシステムを使用して同定することができる。免疫グロブリン鎖のアミノ酸に関する他の番号付けシステムとしては、IMGT(登録商標)(international ImMunoGeneTics information system;Lefranc et al.,Dev.Comp.Immunol.29:185-203;2005)及びAHo(Honegger and Pluckthun,J.Mol.Biol.309(3):657-670;2001)が挙げられる。1つ以上のCDRを共有結合的又は非共有結合的に分子に組み込んで、これを結合構築物としてもよい。
【0029】
本発明による結合構築物の「結合ドメイン」は、例えば、上記で言及した群のCDRを含んでもよい。好ましくは、それらのCDRは、本発明の二重特異性結合構築物によって構成される抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)のフレームワーク内に含まれる。或いは、本明細書で使用される用語では、「L」及び「H」可変領域(例えば、「HHLL」)である。
【0030】
「ヒト抗体」という用語には、例えば、Kabat et al.(1991)(前掲)によって記載されているものを含む、当該技術分野で公知のヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する、可変領域及び定常領域又はドメインなどの抗体領域を有する抗体が含まれる。本明細書で言及されるヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的変異導入により導入される変異、又はインビボでの体細胞変異により導入される変異)を、例えばCDR、特にCDR3に含んでもよい。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基に置き換えられた少なくとも1、2、3、4、5つ又はそれ以上の位置を有し得る。本明細書で使用する場合、ヒト抗体の定義は、Xenomouse(登録商標)が挙げられるがこれに限定されない、例えばファージディスプレイ技術又はトランスジェニックマウス技術などの当該技術分野において公知の技術又はシステムを使用することによって誘導することができるような、非人為的且つ/又は遺伝子組換えされた抗体のヒト配列のみを含む完全ヒト抗体をも想定するものである。本発明の文脈では、ヒト抗体由来の可変領域を、想定される二重特異性結合構築物構成に使用することができる。
【0031】
ヒト化抗体は、1つ以上のアミノ酸置換、欠失、及び/又は付加による非ヒト種由来の抗体の配列とは異なる配列を有する。そのため、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与した場合に、非ヒト種抗体と比較して免疫応答を誘導する可能性が低くなるか、及び/又はそれほど重篤でない免疫応答を誘導する。一実施形態では、非ヒト種抗体のフレームワーク並びに重鎖及び/又は軽鎖の定常ドメイン内の特定のアミノ酸を変異させて、ヒト化抗体を生成する。別の実施形態では、ヒト抗体由来の定常ドメインを非ヒト種の可変ドメインに融合させる。別の実施形態では、ヒト対象に投与したときに非ヒト抗体の免疫原性を減少させる可能性が高くなるように非ヒト抗体の1つ以上のCDR配列内の1つ以上のアミノ酸残基を変更するが、この変更されたアミノ酸残基はいずれも、その抗原に対する抗体又は結合構築物の抗体特異的な結合性に対して重要なものではないか、又はアミノ酸配列に対して行われた変化が保存的変化であり、これによって抗原に対するヒト化抗体の結合性が、抗原に対する非ヒト抗体の結合性よりも大幅に劣化することがないようにする。ヒト化抗体を作製する方法の例は、米国特許第6,054,297号明細書、同第5,886,152号明細書、及び同第5,877,293号明細書に見出すことができる。本発明の文脈では、ヒト化抗体由来の可変領域を、想定される二重特異性結合構築物構成に使用することができる。
【0032】
「キメラ抗体」という用語は、1つの抗体に由来する1つ以上の領域と、1つ以上の他の抗体に由来する1つ以上の領域とを含む抗体を指す。一実施形態では、CDRの1つ以上がヒト抗体由来のものである。別の実施形態では、CDRの全てがヒト抗体由来のものである。別の実施形態では、2つ以上のヒト抗体に由来するCDRを混合して、キメラ抗体に組み合わせる。例えば、キメラ抗体は、第1のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR1と、第2のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR2及びCDR3と、第3の抗体由来の重鎖に由来するCDRとを含んでもよい。更に、フレームワーク領域は、同一の抗体、ヒト抗体などの1つ以上の異なる抗体、又はヒト化抗体のうちの1つに由来するものであってよい。キメラ抗体の一例では、重鎖及び/又は軽鎖の一部は、特定の種からの抗体、又は特定の抗体クラス若しくは抗体サブクラスに属する抗体と同一か、相同的か、又はこれらに由来するものである一方、鎖の残部は、別の種からの抗体、又は別の抗体クラス若しくは抗体サブクラスに属する抗体と同一か、相同的か、又はこれらに由来するものである。また、所望の生物学的活性を示すそのような抗体のフラグメントも含まれる。本発明の文脈では、キメラ抗体由来の可変領域を、想定される二重特異性結合構築物構成に使用することができる。
【0033】
本発明は、HHLL構成からなる二重特異性結合構築物を提供するものである。最も一般的には、本明細書で記載されるような二重特異性結合構築物は、共に連結されると2つの異なる抗原に結合することが可能な異なるアミノ酸配列を有するいくつかのポリペプチド鎖を含む。任意選択により、HHLL分子は半減期延長部分を更に含む。いくつかの実施形態では、半減期延長部分はFcポリペプチド鎖である。いくつかの実施形態では、半減期延長部分は単鎖Fcである。更に他の実施形態では、半減期延長部分はヘテロFcである。更に他の実施形態では、半減期延長部分はヒトアルブミンである。
【0034】
リンカー
免疫グロブリン可変領域間にはペプチドリンカーが存在しており、このペプチドリンカーは、同一のリンカーであっても、又は異なった長さの異なるリンカーであってもよい。二重特異性結合構築物の構造においてリンカーは重要な役割を果たす可能性があり、本明細書に記載される本発明は、適切なリンカー配列だけでなく、更に本発明の二重特異性結合構築物におけるそれぞれの位置に適切なリンカー長を提供するものである。リンカーが短すぎる場合、単鎖ポリペプチド上の適切な可変領域が相互作用して抗原結合部位を形成するのに十分な柔軟性を得ることができない。リンカーが適切な長さである場合、可変領域が同一のポリペプチド鎖上の別の可変領域と相互作用して抗原結合部位を形成することが可能となる。特定の実施形態では、HHLL構成は、ドメイン内(H1、L1内)及びドメイン間(H1とL1との間)の両方でジスルフィド結合を含む。特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物の適切な発現及び立体構造を達成するために、様々な免疫グロブリン領域間に特定のリンカーを使用する(例えば、本明細書の図1を参照されたい)。例示的なリンカーを本明細書の表1に示す。特定の実施形態では、リンカー長を増大させると、タンパク質のクリッピングの増加という望ましくない特性をもたらす可能性がある。従って、適切なポリペプチド構造及び活性を可能としながら、クリッピングの増加をもたらすことのないように、リンカー長の間で適切なバランスをとることが望ましい。
【0035】
「リンカー」とは、本明細書で意味するところでは、2つのポリペプチドを連結するペプチドのことである。特定の実施形態では、リンカーは、二重特異性結合構築物の文脈において、2つの免疫グロブリン可変領域を連結することができる。リンカーは、長さが2~30個のアミノ酸であってよい。いくつかの実施形態では、リンカーは、2~25個、2~20個、又は3~18個のアミノ酸長であってよい。いくつかの実施形態では、リンカーは、14、13、12、11、10、9、8、7、6又は5個以下のアミノ酸長のペプチドであってよい。他の実施形態では、リンカーは、5~25個、5~15個、4~11個、10~20個、又は20~30個のアミノ酸長であってよい。他の実施形態では、リンカーは、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸長であってよい。例示的なリンカーとしては、例えば、アミノ酸配列GGGGS(配列番号1)、GGGGSGGGGS(配列番号2)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号3)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号4)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号5)、GGGGQ(配列番号6)、GGGGQGGGGQ(配列番号7)、GGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号8)、GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号9)、GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号10)、GGGGSAAA(配列番号11)、TVAAP(配列番号12)、ASTKGP(配列番号13)、及びAAA(配列番号14)が挙げられ、特に、上述したアミノ酸配列又はアミノ酸配列のサブユニットの繰り返しを含む(例えばGGGGS(配列番号1)又はGGGGQ(配列番号6)の繰り返し)。
【0036】
本発明のHHLL分子の文脈における特定の実施形態では、リンカー1のリンカー配列は少なくとも10個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は10~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー1は30個超のアミノ酸である。
【0037】
本発明のHHLL分子の文脈における特定の実施形態では、リンカー2のリンカー配列は少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は15~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー2は30個超のアミノ酸である。
【0038】
本発明のHHLL分子の文脈における特定の実施形態では、リンカー3のリンカー配列は少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は15~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー3は30個超のアミノ酸である。
【0039】
本発明のHHLL分子の文脈における特定の実施形態では、リンカー4のリンカー配列は少なくとも5個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は少なくとも10個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は5~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は5、6、7、8、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー4は30個超のアミノ酸である。
【0040】
図4A~4Dは、HHLL構築物の様々な配向の分子モデルを示しており、HHLL構築物が適切な立体構造を取り、H-L結合ドメインの両方が機能することができるようにするためには、どのような特定の長さのリンカーが必要となるのかを示している。A、B、及びCは、一方のドメインの末端残基と、もう一方のドメインの開始残基のCα原子との間の距離を表している。熟練の施術者であれば、この情報を用いて、HHLL構築物が所望の通りに発現及び機能するように、想定されるHHLL構築物をモデル化し、特定のH-L結合ドメインに必要とされるリンカー長を調整することが可能であろう。
【0041】
本発明のHHLL分子の文脈における特定の実施形態では、リンカー配列及び位置が下記の表1に記載されており、リンカーの位置は図1に記載されるものに対応し、Fc領域が更にHHLL分子に結合している場合は、任意選択によりリンカー4を使用する。
【0042】
【表1】
【0043】
3-3-2リンカーは、陰性対照として機能するように、意図的に最適でない長さで設計されているということに留意されたい。
【0044】
結合領域のアミノ酸配列
本明細書に記載される例示的な実施形態では、二重特異性結合構築物は、様々な所望の標的に対する所望の結合性を維持するが、このことは、適切な立体構造によってこうした結合が可能になるという仮定からもたらされるものである。免疫グロブリン可変領域はVH及びVLドメインを含んでおり、これらが会合して所望の標的に結合する可変ドメインを形成する。
【0045】
可変ドメインは、所望の特性を有する任意の免疫グロブリンから得ることができ、これを達成するための方法が更に本明細書に記載される。一実施形態では、VH1とVL1とが会合してCD3εに結合し、VH2とVL2とが会合して異なる標的に結合する。別の実施形態では、VH2とVL2とがCD3εに結合し、VH1とVL1とが異なる標的に結合する。
【0046】
別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、本明細書に記載の軽鎖可変ドメインの配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む。
【0047】
別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、中程度にストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列から選択される軽鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、ストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列からなる群から選択される軽鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0048】
別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインの配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、中程度にストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、ストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0049】
置換
本発明の二重特異性結合構築物は、結合構築物が同等な又はより良好な所望の結合特異性(例えば、CD3への結合性)を保持するのであれば、少なくとも1つのアミノ酸置換を有してもよいということが理解されよう。従って、結合構築物の構造に対する修飾が本発明の範囲内に包含される。一実施形態では、結合構築物は、本明細書に記載されるようなCDR配列から5、4、3、2、1又は0個の単一アミノ酸の付加、置換及び/又は欠失によってそれぞれ独立して異なる配列を含む。本明細書で使用する場合、本明細書に記載のCDR配列から、全体で例えば4個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失によって異なるCDR配列とは、本明細書に記載の配列と比較して4、3、2、1又は0個の単一アミノ酸の付加、置換及び/又は欠失を有する配列であることを意味する。これらは、結合構築物の所望の結合能力を損なうことのない、保存的又は非保存的であり得るアミノ酸置換を含み得る。保存的アミノ酸置換は非天然起源のアミノ酸残基を包含してもよく、これらは典型的に生体系における合成によってではなく、化学的なペプチド合成によって組み込まれる。こうしたものには、ペプチド模倣体及びアミノ酸部分が逆転又は反転した他の形態が含まれる。保存的アミノ酸置換には、その位置におけるアミノ酸残基の極性又は電荷にほとんど或いはまったく影響しないような、天然アミノ酸残基と標準残基との置換も含まれ得る。
【0050】
非保存的置換には、1つのクラスのアミノ酸又はアミノ酸模倣物のメンバーと、物理的性質(例えば、サイズ、極性、疎水性、電荷)が異なる、別のクラスに由来するメンバーとの交換も含まれ得る。特定の実施形態では、そのような置換残基を、非ヒト抗体と相同なヒト抗体の領域、又は分子の非相同領域に導入してもよく、これを使用して本発明の結合構築物を生成することができる。
【0051】
更に、当業者であれば、それぞれの所望のアミノ酸残基に単一のアミノ酸置換を含む試験変異体を生成することができる。続いて、この変異体を当業者に公知の活性アッセイを使用してスクリーニングすることができる。そのような変異体を使用して、好適な変異体に関する情報を収集することができる。例えば、破壊されたり、所望しない還元を受けたり、又は不適切な活性が生じた特定のアミノ酸残基に対する変更を発見した場合、このような変更を有する変異体を避けてもよい。換言すれば、当業者であれば、そのような日常的な実験から収集された情報に基づいて、単独又は他の変異と組み合わせて、更なる置換を避ける必要のあるアミノ酸を容易に判断することができる。
【0052】
当業者であれば、よく知られる手法を使用して、本明細書に記載されるような結合構築物の好適な変異体を決定することができるであろう。特定の実施形態では、当業者であれば、活性に重要ではないと考えられる領域を標的とすることによって、活性を損なうことなく、変更してもよい分子の好適な領域を特定することができる。特定の実施形態では、上記に記載したように、類似のポリペプチドの中に保存されている分子の残基及び部分を特定することもできる。特定の実施形態では、生物活性又は構造に重要となる可能性がある領域であっても、生物活性を損なわず、又はポリペプチド構造に有害な影響を及ぼすことなく保存的アミノ酸置換を行ってもよい。
【0053】
更に、当業者であれば、活性又は構造に重要となる、類似のポリペプチド内の残基を特定する構造機能試験を検討することができる。そのような比較を考慮することで、類似のタンパク質の活性又は構造に重要なアミノ酸残基に対応するタンパク質のアミノ酸残基の重要性を予測することができる。当業者であれば、そのように重要であると予測されるアミノ酸残基に対して化学的に類似したアミノ酸置換を選択することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、当業者であれば、所望の通りに向上した特性をもたらす、変更してもよい残基を特定することができる。例えば、アミノ酸置換(保存的又は非保存的)によって、所望の標的に対して増強された結合親和性をもたらすことができる。
【0055】
当業者であれば、類似のポリペプチドの構造に関する三次元構造及びアミノ酸配列を分析することもできる。当業者であれば、そのような情報を考慮することで、その三次元構造に関する抗体のアミノ酸残基のアライメントを予測することができる。特定の実施形態では、当業者であれば、タンパク質の表面に存在することが予測されるアミノ酸残基は、他の分子との重要な相互作用に関与する可能性があるため、そのような残基に根本的な変化が生じないような選択をすることができる。二次構造の予測には、多くの科学刊行物が寄稿されている。Moult J.,Curr.Op.in Biotech.,7(4):422-427(1996),Chou et al.,Biochemistry,13(2):222-245(1974);Chou et al.,Biochemistry,113(2):211-222(1974);Chou et al.,Adv.Enzymol.Relat.Areas Mol.Biol.,47:45-148(1978);Chou et al.,Ann.Rev.Biochem.,47:251-276及びChou et al.,Biophys.J.,26:367-384(1979)を参照されたい。更に、現在では二次構造の予測支援にコンピュータープログラムを利用することができる。二次構造の予測方法の1つには、ホモロジーモデリングに基づくものがある。例えば、30%を超える配列相同性又は40%を超える類似性を有する2つのポリペプチド又はタンパク質は、多くの場合類似した構造トポロジーを有する。タンパク質構造データベース(PDB)の発達によって、ポリペプチド構造又はタンパク質構造内の折り畳みの潜在的な数を含む、二次構造の予測精度が向上してきている。Holm et al.,Nucl.Acid.Res.,27(1):244-247(1999)を参照されたい。二次構造を予測する更なる方法としては、「スレッディング」(Jones,D.,Curr.Opin.Struct.Biol.,7(3):377-87(1997);Sippl et al.,Structure,4(1):15-19(1996))、「プロファイル分析」(Bowie et al.,Science,253:164-170(1991);Gribskov et al.,Meth.Enzym.,183:146-159(1990);Gribskov et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.,84(13):4355-4358(1987))、及び「進化的リンケージ(evolutionary linkage)」(前掲のHolm(1999)、及び前掲のBrenner(1997)を参照されたい)が挙げられる。
【0056】
特定の実施形態では、結合構築物の変異体としては、親ポリペプチドのアミノ酸配列と比較してグリコシル化部位の数及び/又はタイプが変化した、グリコシル化変異体が挙げられる。特定の実施形態では、変異体は、天然タンパク質よりも数が多い又は少ないN結合グリコシル化部位を含む。或いは、この配列を削除する置換によって既存のN結合炭水化物鎖が除去される。また、1つ以上のN結合グリコシル化部位(典型的には、天然に存在するもの)が削除されて1つ以上の新しいN結合部位が生成される、N結合炭水化物鎖の再配置がもたらされる。更なる変異体としては、親アミノ酸配列と比較して、別のアミノ酸(例えば、セリン)によって1つ以上のシステイン残基が欠失又は置換されているシステイン変異体が挙げられる。システイン変異体は、不溶性封入体の単離後などの、抗体又は二重特異性構築物が生物学的に活性な立体構造に再び折り畳まれる必要がある場合に有用であり得る。システイン変異体は、一般に、天然タンパク質よりも少ないシステイン残基を有し、典型的には、不対システインから生じる相互作用を最小限に抑えるために偶数個のシステイン残基を有する。
【0057】
所望のアミノ酸置換(保存的か又は非保存的かにかかわらず)は、そのような置換を所望する時点で当業者が決定することができる。特定の実施形態では、アミノ酸置換を用いて、目的の標的に対する結合構築物の重要な残基を特定することができるか、又は本明細書に記載の目的の標的に対する結合構築物の親和性を増大若しくは減少させることができる。
【0058】
特定の実施形態によれば、所望されるアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を減少させるもの、(2)酸化に対する感受性を減少させるもの、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を変化させるもの、(4)結合親和性を変化させるもの、及び/又は(4)そのようなポリペプチドに対して他の生理化学的特性又は機能的特性を付与又は改変させるものである。特定の実施形態によれば、単一又は複数のアミノ酸置換(特定の実施形態では、保存的アミノ酸置換)は、天然に存在する配列内で(特定の実施形態では、分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチドの部分で)行われてもよい。特定の実施形態では、保存的アミノ酸置換は、典型的に、親配列の構造的特徴を実質的に変化させることができない(例えば、置換アミノ酸によって、親配列中に存在するヘリックスが破壊されたり、又は親配列を特徴付ける他のタイプの二次構造が破壊されたりする傾向があってはならない)。当業者に知られているポリペプチドの二次構造及び三次構造の例は、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));及びThornton et al.Nature 354:105(1991)に記載があり、それぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
半減期延長及びFc領域
特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物のインビボにおける半減期を延長することが望ましい。これは、半減期延長部分を二重特異性結合構築物の一部として含むことによって達成することができる。半減期延長部分の非限定的な例としては、Fcポリペプチド、アルブミン、アルブミンフラグメント、アルブミン若しくは新生児型Fc受容体(FcRn)に結合する部分、アルブミン若しくはそのフラグメントに結合するように改変されたフィブロネクチンの誘導体、ペプチド、単一ドメインタンパク質フラグメント、又は血清半減期を増大させることができる他のポリペプチドが挙げられる。代替的実施形態では、半減期延長部分は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリペプチドではない分子であってよい。
【0060】
本明細書で使用する場合、「Fcポリペプチド」という用語には、抗体のFc領域由来のポリペプチドの天然型及びムテイン型が含まれる。二量体化を促進するヒンジ領域を含有するこのようなポリペプチドの切断型も含まれる。本明細書に記載される他の特性に加えて、Fc部分を含むポリペプチドは、例えば、プロテインA又はプロテインGカラムによるアフィニティークロマトグラフィーによって生成できるという利点をもたらす。
【0061】
特定の実施形態では、半減期延長部分は抗体のFc領域である。Fc領域は、HHLL二重特異性結合構築物のN末端の端部に位置していてもよく、又はHHLL二重特異性結合構築物のC末端の端部に位置していてもよい。HHLL二重特異性結合構築物とFc領域との間にリンカーが存在してもよいが、そうである必要はない。上記で説明したように、Fcポリペプチド鎖はヒンジ領域の全て又は一部を含んでもよく、その後にCH2及びCH3領域を含んでもよい。Fcポリペプチド鎖は、哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒトコブラクダ、若しくは新世界若しくは旧世界ザル)、鳥類、又はサメ起源のものであってよい。加えて、上記で説明したように、Fcポリペプチド鎖は限られた数の変異を含んでもよい。例えば、Fcポリペプチド鎖は、1つ以上のヘテロ二量体化変異、FcγRに対する結合性を阻害若しくは増強する1つ以上の変異、又はFcRnに対する結合性を増大させる1つ以上の変異を含み得る。
【0062】
特定の実施形態では、半減期を延長するのに利用されるFcは、単鎖Fc(「scFc」)である。
【0063】
いくつかの実施形態では、Fcポリペプチドのアミノ酸配列は、哺乳類、例えばヒトのアミノ酸配列であってよい。Fcポリペプチドのアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、若しくはIgG4などのIgG、IgA、IgD、IgE、又はIgMであってよい。ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のFcポリペプチド鎖のアミノ酸配列のアライメントを下記の表2に示す。
【0064】
使用可能なヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のFcポリペプチド鎖の配列を、配列番号36~39に示す。配列のうち100個のアミノ酸につき10個以下の単一アミノ酸の欠失、挿入、又は置換を含む他の類似変異体として、1つ以上のヘテロ二量体化変異、半減期を延長する1つ以上のFc変異、ADCCを増強する1つ以上の変異、及び/又はFcγ受容体(FcγR)の結合性を阻害する1つ以上の変異を含有するこれらの配列の変異体もまた想定される。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示す番号付けは、IgG1抗体の定常領域の連続する番号付けに基づいたEU番号付けシステムに従った。Edelman et al.(1969),Proc.Natl.Acad.Sci.63:78-85。従って、この番号付けは、IgG3のヒンジの余分な長さに十分対応していない。それにもかかわらず、本明細書ではこの番号付けをFc領域内の位置を表すのに使用する。これは、Fc領域内の位置を指すために依然としてこの番号付けが当該技術分野で一般的に使用されているためである。IgG1、IgG2、及びIgG4のFcポリペプチドのヒンジ領域は、位置216のあたりから位置230のあたりに伸びている。IgG2及びIgG4のヒンジ領域がIgG1ヒンジよりもそれぞれアミノ酸3個分短いことは、アライメントから明らかである。IgG3のヒンジはかなり長く、上流に更なる47個のアミノ酸が伸びている。CH2領域は位置231~340のあたりから伸びており、CH3領域は位置341~447のあたりから伸びている。
【0067】
Fcポリペプチドの天然に存在するアミノ酸は、わずかに異なっている可能性がある。そのような変形形態には、天然に存在するFcポリペプチド鎖の配列のうち100個のアミノ酸につき10個以下の単一アミノ酸の挿入、欠失、又は置換が含まれる。置換が存在する場合、これらは上記で定義したように保存的アミノ酸置換であってよい。第1及び第2のポリペプチド鎖上のFcポリペプチドは、アミノ酸配列内で異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、それらには、「ヘテロ二量体化変異」、例えば、上記で定義したようにヘテロ二量体形成を促進する電荷対合置換が含まれ得る。更に、PABPのFcポリペプチド部分にFcγR結合を阻止又は増強させる変異を含むこともできる。そのような変異については、上記及びXu et al.(2000),Cell Immunol.200(1):16-26に記載されており、その関連部分は参照により本明細書に組み込まれる。また、Fcポリペプチド部分は、上記に記載したように、「半減期を延長するFc変異」を含むことができ、例えば、米国特許7,037,784号明細書、同第7,670,600号明細書、及び同第7,371,827号明細書、米国特許出願公開第2010/0234575号明細書、及び国際出願PCT/US第2012/070146号明細書に記載されるようなものを含み、その全ての関連部分が参照により本明細書に組み込まれる。更に、Fcポリペプチドは、上記で定義したように、「ADCCを増強する変異」を含み得る。
【0068】
PCT出願公開の国際公開第93/10151号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている、別の好適なFcポリペプチドは、ヒトIgG1抗体のFc領域のN末端のヒンジ領域から天然のC末端に延びる単鎖ポリペプチドである。別の有用なFcポリペプチドは、米国特許5,457,035号明細書及びBaum et al.,1994,EMBO J.13:3992-4001に記載されているFcムテインである。このムテインのアミノ酸配列は、アミノ酸19がLeuからAlaに変更され、アミノ酸20がLeuからGluに変更され、アミノ酸22がGlyからAlaに変更されているという点を除き、国際公開第93/10151号パンフレットに提示された天然Fc配列のアミノ酸配列と同一のものである。このムテインは、Fc受容体に対する親和性の低下を示す。
【0069】
1つ以上の変異をFcに導入することによって、抗体のエフェクター機能を増大又は低下させることができる。本発明の実施形態には、エフェクター機能を増大させるように改変されたFcを有するIL-2ムテインFc融合タンパク質(米国特許第7,317,091号明細書及びStrohl,Curr.Opin.Biotech.,20:685-691,2009;双方共にその全体が本明細書に参照により組み込まれる)が含まれる。特定の治療指標では、エフェクター機能を増大させることが望ましい場合がある。別の治療指標では、エフェクター機能を低下させることが望ましい場合がある。
【0070】
増大したエフェクター機能を有する例示的なIgG1のFc分子としては、以下の置換基を有するようなものが挙げられる。
S239D/I332E
S239D/A330S/I332E
S239D/A330L/I332E
S298A/D333A/K334A
P247I/A339D
P247I/A339Q
D280H/K290S
D280H/K290S/S298D
D280H/K290S/S298V
F243L/R292P/Y300L
F243L/R292P/Y300L/P396L
F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L
G236A/S239D/I332E
K326A/E333A
K326W/E333S
K290E/S298G/T299A
K290N/S298G/T299A
K290E/S298G/T299A/K326E
K290N/S298G/T299A/K326E
【0071】
IgGのFc含有タンパク質のエフェクター機能を増大させる別の方法には、Fcのフコシル化を減少させることによるものがある。Fcに結合した二分岐の複合型オリゴ糖からコアフコースを除去することによって、抗原結合性又はCDCエフェクター機能を変化させることなくADCCエフェクター機能が著しく増大する。Fc含有分子、例えば抗体のフコシル化を減少又は消失させるためのいくつかの方法が知られている。これらの方法には、FUT8ノックアウト細胞株、変異型CHO株Lec13、ラットハイブリドーマ細胞株YB2/0、FUT8遺伝子に特異的な低分子干渉RNAを含む細胞株、及びα-1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII及びゴルジα-マンノシダーゼIIを共発現する細胞株を含む特定の哺乳類細胞株における組換え発現が挙げられる。或いは、Fc含有分子を、植物細胞、酵母、又は原核細胞、例えば、大腸菌(E.coli)などの、非哺乳類細胞に発現させてもよい。
【0072】
本発明の特定の実施形態では、二重特異性結合構築物は、エフェクター機能を低下させるように改変されたFcを含む。低下したエフェクター機能を有する例示的なFc分子としては、以下の置換基を有するようなものが挙げられる。
N297A又はN297Q(IgG1)
L234A/L235A(IgG1)
V234A/G237A(IgG2)
L235A/G237A/E318A(IgG4)
H268Q/V309L/A330S/A331S(IgG2)
C220S/C226S/C229S/P238S(IgG1)
C226S/C229S/E233P/L234V/L235A(IgG1)
L234F/L235E/P331S(IgG1)
S267E/L328F(IgG1)
【0073】
ヒトIgG1はN297(番号付けシステム)にグリコシル化部位を有し、グリコシル化はIgG1抗体のエフェクター機能に寄与することが知られている。例示的なIgG1配列を配列番号36に示す。アグリコシル化抗体を作製するために、N297を変異させてもよい。例えば、変異によってN297をグルタミン(N297Q)などの生理化学的性質がアスパラギンに類似したアミノ酸、又は極性基を持たないアスパラギンを模倣したアラニン(N297A)で置換することができる。
【0074】
特定の実施形態では、ヒトIgG1のアミノ酸N297をグリシン、即ちN297Gに変異させると、その残基における他のアミノ酸置換と比較してはるかに優れた精製効率及び生物物理学的特性がもたらされる。例えば、米国特許第9,546,203号明細書及び同第10,093,711号明細書を参照されたい。特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物は、N297G置換を有するヒトIgG1のFcを含む。
【0075】
N297G変異を有するヒトIgG1のFcを含む本発明の二重特異性結合構築物はまた、更なる挿入、欠失、及び置換を含んでもよい。特定の実施形態では、ヒトIgG1のFcはN297G置換を含み、配列番号36に記載されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一である。特に好ましい実施形態では、C末端のリシン残基が置換又は欠失している。
【0076】
場合によっては、アグリコシル化されたIgG1のFc含有分子は、グリコシル化されたIgG1のFc含有分子よりも安定性が劣っている可能性がある。従って、Fc領域を改変して、アグリコシル化分子の安定性を更に増大させてもよい。いくつかの実施形態では、二量体の状態のジスルフィド結合を形成するために、1つ以上のアミノ酸をシステインに置換する。特定の実施形態では、配列番号36に記載されるアミノ酸配列の残基V259、A287、R292、V302、L306、V323、又はI332をシステインで置換してもよい。他の実施形態では、残基の特定の対合が互いにジスルフィド結合を優先的に形成するように置換され、それによってジスルフィド結合のスクランブルを制限又は防止する。特定の実施形態では、対合として、A287C及びL306C、V259C及びL306C、R292C及びV302C、並びにV323C及びI332Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
上記のリンカーの項にて本明細書に記載したように、特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物は、特にFcをVL2に連結する、FcとHHLL二重特異性結合構築物との間のリンカーを含む。特定の実施形態では、FcとHHLLポリペプチドとの間のペプチドの1つ以上のコピーは、GGGGS(配列番号1)、GGNGT(配列番号15)、又はYGNGT(配列番号16)を含む。いくつかの実施形態では、Fc領域とHHLLポリペプチドとの間のポリペプチド領域が、GGGGS(配列番号1)、GGNGT(配列番号15)、又はYGNGT(配列番号16)の単一コピーを含む。特定の実施形態では、リンカーGGNGT(配列番号15)又はYGNGT(配列番号16)は、適切な細胞に発現するとグリコシル化され、そのようなグリコシル化によって、溶液内のタンパク質、及び/又はインビボで投与されたときのタンパク質の安定化を促進させることができる。従って、特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物は、Fc領域とHHLLポリペプチドとの間にグリコシル化されたリンカーを含む。
【0078】
二重特異性結合構築物をコードする核酸
別の実施形態では、本発明は、本発明の二重特異性結合構築物をコードする単離核酸分子を提供する。加えて、核酸を含むベクター、核酸を含む細胞、及び本発明の結合構築物を作製する方法が提供される。核酸は、例えば、二重特異性結合構築物の全部若しくは一部、又はそのフラグメント、誘導体、ムテイン、若しくは変異体をコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドの発現を阻害するポリペプチド、アンチセンス核酸をコードするポリヌクレオチドを同定、分析、変異又は増幅するためのハイブリダイゼーションプローブ、PCRプライマー又はシークエンシングプライマーとして使用するのに十分なポリヌクレオチド、及び上記の相補的配列を含む。核酸は、所望の使用又は機能に適した任意の長さであってよく、1つ以上の更なる配列、例えば調節配列、及び/又はより大きな核酸、例えばベクターの一部を含み得る。核酸は、一本鎖又は二本鎖であってもよく、RNA及び/又はDNAヌクレオチド、並びにその人工的な変異体(例えば、ペプチド核酸)を含み得る。
【0079】
ポリペプチド(例えば、重鎖又は軽鎖、可変ドメインのみ、又は完全長)をコードする核酸は、抗原で免疫化されたマウスのB細胞から単離してもよい。核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの従来の手順によって単離してもよい。
【0080】
重鎖及び軽鎖可変領域をコードする核酸配列が本明細書に含まれる。当業者であれば、遺伝暗号の縮重によって、本明細書で開示されるポリペプチド配列のそれぞれが多数の他の核酸配列によってコードされていることが理解されよう。本発明は、本発明のそれぞれの結合構築物をコードする、それぞれの縮重ヌクレオチド配列を提供するものである。
【0081】
本発明は更に、特定のハイブリダイゼーション条件下で他の核酸にハイブリダイズする核酸を提供する。核酸をハイブリダイズする方法は、当該技術分野においてよく知られている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.1989;6.3.1-6.3.6を参照されたい。本明細書に定義されるように、例えば、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件では、5×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、0.5%のSDS、1.0mMのEDTA(pH8.0)を含む予洗溶液、約50%のホルムアミド、6×SSCのハイブリダイゼーション緩衝液、及び55℃のハイブリダイゼーション温度(又は、約50%のホルムアミドを含むような、42℃のハイブリダイゼーション温度での他の類似のハイブリダイゼーション溶液)、並びに0.5×SSC、0.1%のSDS中で60℃での洗浄条件が用いられる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件では、45℃の6×SSC中でハイブリダイズし、その後68℃の0.1×SSC、0.2%SDS中で1回以上洗浄する。更に、当業者であれば、ハイブリダイゼーション条件及び/又は洗浄条件を操作して、互いに少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸が典型的に互いにハイブリダイズしたままで維持されるように、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを増加又は減少させることができる。ハイブリダイゼーション条件の選択に影響を及ぼす基本的なパラメータ及び好適な条件を考案するための手引きは、例えば、Sambrook,Fritsch,and Maniatis(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,chapters 9 and 11;及びCurrent Protocols in Molecular Biology,1995,Ausubel et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,sections 2.10 and 6.3-6.4)に記載されており、当業者であれば、例えばDNAの長さ及び/又は塩基組成に基づいて容易に決定することができる。核酸への変異導入によって変更を導入することができ、それによって核酸がコードするポリペプチド(例えば、結合構築物)のアミノ酸配列に変更が生じる。変異は、当該技術分野において公知の任意の手法を使用して導入することができる。一実施形態では、例えば、部位特異的変異導入プロトコールを使用して1つ以上の特定のアミノ酸残基が変更される。別の実施形態では、例えば、ランダム変異導入プロトコールを使用して1つ以上のランダムに選択される残基が変更される。実施方法はどうあれ、変異ポリペプチドを発現させ、その所望の特性をスクリーニングすることができる。
【0082】
核酸がコードするポリペプチドの生物活性を大きく変えることなく、変異を核酸に導入することができる。例えば、非必須アミノ酸残基位置でのアミノ酸置換を生じさせるヌクレオチド置換を実施することができる。一実施形態では、本発明の結合構築物の本明細書で提供されるヌクレオチド配列、又はその所望のフラグメント、変異体、若しくは誘導体を、本発明の結合構築物の軽鎖又は本発明の結合構築物の重鎖に関して本明細書に示されるアミノ酸残基の1つ以上の欠失又は置換を含むアミノ酸配列をコードし、2つ以上の配列が異なる残基となるように変異させる。別の実施形態では、この変異導入によって、本発明の結合構築物の軽鎖又は本発明の結合構築物の重鎖に関して本明細書に示される1つ以上のアミノ酸残基に隣接するアミノ酸が2つ以上の配列の異なる残基となるように挿入される。或いは、核酸がコードするポリペプチドの生物活性を選択的に変更する核酸に1つ以上の変異を導入することができる。
【0083】
別の実施形態では、本発明は、本発明のポリペプチド又はその一部をコードする核酸を含むベクターを提供する。ベクターの例としては、プラスミド、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳類ベクター及び発現ベクター、例えば組換え発現ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞に核酸を発現させるのに適した形態の本発明の核酸を含み得る。組換え発現ベクターは、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択される1つ以上の調節配列を含み、こうした調節配列は、発現する核酸配列に作動可能に連結されている。調節配列としては、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の恒常的発現を誘導するもの(例えば、SV40初期遺伝子エンハンサー、ラウス肉腫ウイルスプロモーター及びサイトメガロウイルスプロモーター)、特定の宿主細胞のみにおいてヌクレオチド配列の発現を誘導するもの(例えば、組織特異的調節配列;その全体が参照によって本明細書に組み込まれるVoss et al.,1986,Trends Biochem.Sci.11:287,Maniatis et al.,1987,Science 236:1237を参照されたい。)、並びに特定の処理又は条件に応じてヌクレオチド配列の誘導性発現を誘導するもの(例えば、哺乳類細胞におけるメタロチオネインプロモーター、並びに原核生物系と真核生物系の両方におけるtet応答性及び/又はストレプトマイシン応答性プロモーター(同文献を参照されたい)が挙げられる。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの要因に依存する可能性があることを当業者であれば理解されよう。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入し、それによって、本明細書に記載されるような核酸によってコードされる融合タンパク質又はペプチドを含む、タンパク質又はペプチドを産生することができる。
【0085】
別の実施形態では、本発明は、本発明の組換え発現ベクターが導入された宿主細胞を提供する。宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞であってよい。原核生物の宿主細胞としては、グラム陰性又はグラム陽性の微生物、例えば、大腸菌(E.coli)又は桿菌(bacilli)が挙げられる。高等な真核細胞としては、昆虫細胞、酵母細胞、及び哺乳類起源の株化細胞が挙げられる。好適な哺乳類宿主細胞株の例としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞若しくはVeggie CHOなどのそれらの派生株、及び無血清培地で増殖する関連細胞株(Rasmussen et al.,1998,Cytotechnology 28:31を参照されたい)、又はDHFRを欠損したCHO系統のDXB-11(Urlaub et al.,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-20を参照されたい)が挙げられる。更なるCHO細胞株としては、CHO-K1(ATCC#CCL-61)、EM9(ATCC#CRL-1861)、及びUV20(ATCC#CRL-1862)が挙げられる。更なる宿主細胞としては、サル腎培養細胞のCOS-7株(ATCC CRL 1651)(Gluzman et al.,1981,Cell 23:175を参照されたい)、L細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL 163)、AM-1/D細胞(米国特許第6,210,924号明細書に記載されている)、ヒーラー細胞、BHK(ATCC CRL 10)細胞株、アフリカミドリザル腎細胞株CV1に由来するCV1/EBNA細胞株(ATCC CCL 70)(McMahan et al.,1991,EMBO J.10:2821を参照されたい)、293、293 EBNA若しくはMSR 293などのヒト胚腎臓細胞、ヒト上皮A431細胞、ヒトColo205細胞、他の形質転換された霊長類細胞株、正常二倍体細胞、初代組織のインビトロ培養に由来する細胞株、初代移植片、HL-60細胞、U937細胞、HaK細胞又はジャーカット細胞が挙げられる。細菌、真菌、酵母菌、及び哺乳類細胞宿主と共に使用するのに適切なクローニングベクター及び発現ベクターは、Pouwels et al.(Cloning Vectors:A Laboratory Manual,Elsevier,New York,1985)に記載されている。
【0086】
ベクターDNAは、従来の形質転換技術又は形質移入技術によって原核細胞又は真核細胞に導入することができる。哺乳類細胞の安定した形質移入の場合、使用する発現ベクター及び形質移入技術に応じて、ごくわずかな細胞のみで外来DNAをそのゲノムに組み込みことができることが知られている。こうした組み込み体を識別して選択するために、一般的に、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性のための)をコードする遺伝子が目的遺伝子と共に宿主細胞に導入される。更なる選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を与えるものが挙げられる。導入された核酸で安定的に形質移入された細胞は、他の方法の中でも特に、薬物選択によって識別することができる(例えば、選択マーカー遺伝子が組み込まれた細胞は生存することになるが、他の細胞は死滅する)。
【0087】
形質転換細胞は、ポリペプチドの発現を促進する条件下で培養することができ、そのポリペプチドを従来のタンパク質精製手順によって回収することができる。本明細書で使用することが想定されるポリペプチドは、内在性物質の混入を実質的に含まない、実質的に均質な組換え哺乳類ポリペプチドを含む。
【0088】
本発明の二重特異性結合構築物をコードする核酸を含む細胞には、ハイブリドーマも含まれる。ハイブリドーマの生成及び培養が本明細書で述べられる。
【0089】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載されるような核酸分子を含むベクターが提供される。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書で記載されるような核酸分子を含む宿主細胞を含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載されるような二重特異性結合構築物をコードする核酸分子が提供される。
【0091】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物が提供される。
【0092】
生成方法
本発明の結合構築物は、タンパク質(例えば、抗体)を合成するための当該技術分野において公知の任意の方法、特に化学合成技術、又は好ましくは組換え発現技術によって生成することができる。
【0093】
結合構築物の組換え発現には、二重特異性結合構築物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを構築することが必要となる。二重特異性結合構築物をコードするポリヌクレオチドが得られたら、二重特異性結合構築物を生成するためのベクターを組換えDNA技術によって生成することができる。発現ベクターは、二重特異性結合構築物のコード配列、並びに適切な転写及び翻訳制御シグナルを含むように構築される。これらの方法としては、例えば、インビトロ組換えDNA技術、合成技術、及びインビボ遺伝子組換えが挙げられる。
【0094】
従来技術によって発現ベクターを宿主細胞に導入し、続いてこの形質移入細胞を従来技術によって培養して、本発明の二重特異性結合構築物を生成する。
【0095】
様々な宿主発現ベクター系を利用して、本発明の二重特異性結合構築物を発現させてもよい。そのような宿主発現系は、目的のコード配列を生成し、続いて精製することができる媒体を意味するだけでなく、適切なヌクレオチドのコード配列で形質転換又は形質移入した場合にその場で本発明の分子を発現することができる細胞をも意味する。大腸菌(E.coli)などの細菌細胞、及び真核細胞は、組換え結合分子の発現、特に、組換え結合分子全体を発現させるために一般的に使用されている。例えば、ヒトサイトメガロウイルス由来の主要中間初期遺伝子のプロモーターエレメントなどのベクターと組み合わせたチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などの哺乳類細胞は、抗体にとって効果的な発現系である(Foecking et al.,Gene 45:101(1986);Cockett et al.,Bio/Technology 8:2(1990))。
【0096】
加えて、宿主細胞株は、所望される特定の方法で挿入配列の発現を調節したり、又は遺伝子産物を改変及びプロセシングしたりするものを選択してもよい。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)及びプロセシング(例えば、切断)は、タンパク質が機能するために重要なものである。異なる宿主細胞では、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセシング及び修飾に関して特徴的で特異な機構を有する。発現した外来タンパク質の正確な修飾及びプロセシングを確実なものとするために、適切な細胞株又は宿主系を選択することができる。この目的を達成するために、遺伝子産物の一次転写物の適切なプロセシング、グリコシル化、及びリン酸化のための細胞機構を有する真核宿主細胞を使用することができる。そのような哺乳類宿主細胞としては、CHO、COS、293、3T3、又は骨髄腫細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
組換えタンパク質を長期間にわたって高収率で産生するためには、安定発現が好ましい。例えば、結合分子を安定的に発現させる細胞株を改変してもよい。ウイルス性複製起点を含有する発現ベクターを使用する代わりに、適切な発現調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)で調節されたDNA及び選択マーカーによって宿主細胞を形質転換することができる。外来DNAを導入した後に、改変細胞を濃縮培地で1~2日間増殖させ、続いて選択培地に切り替えてもよい。組換えプラスミド内の選択マーカーによって選択に対する耐性が与えられ、細胞がそれらの染色体にプラスミドを安定的に組み込み、増殖して集積を形成することが可能となり、これらがクローニングされて細胞株に拡大することができる。本方法を使用して、結合分子を発現する細胞株を有利に改変することができる。そのような改変細胞株は、特に、結合分子と直接又は間接的に相互作用する化合物をスクリーニングし、評価する際に有用となり得る。
【0098】
単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.,Cell 11:223(1977))、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska & Szybalski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:202(1992))、及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.,Cell 22:817(1980))が挙げられるが、これらに限定されない多数の選択系を使用してもよく、遺伝子はそれぞれtk、hgprt又はaprt-細胞において使用することができる。また、以下の遺伝子:メトトレキサートに対する耐性を与えるdhfr(Wigler et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:357(1980);O’Hare et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1527(1981));ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt(Mulligan & Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072(1981));アミノグリコシドG-418に対する耐性を与えるneo(Wu and Wu,Biotherapy 3:87-95(1991));及び、ハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygro(Santerre et al.,Gene 30:147(1984))を選択する基準として、代謝拮抗薬耐性を用いてもよい。組換えDNA技術の当該技術分野において一般に公知の方法を通常通りに適用して、所望の組換えクローンを選択してもよく、そのような方法は、例えば、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);Kriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990);及びin Chapters 12 and 13,Dracopoli et al.(eds),Current Protocols in Human Genetics,John Wiley & Sons,NY(1994);Colberre-Garapin et al.,J.Mol.Biol.150:1(1981)に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0099】
結合分子の発現レベルは、ベクターを増幅することによって増加させることができる(確認のために、Bebbington and Hentschel,“The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells”(DNA Cloning,Vol.3.Academic Press,New York,1987)を参照されたい)。結合を発現するベクター系におけるマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞の培養物中に存在する阻害因子のレベルが増加することにより、マーカー遺伝子のコピー数が増加する。増幅領域は遺伝子と会合するため、タンパク質産物も増加する(Crouse et al.,Mol.Cell.Biol.3:257(1983))。
【0100】
宿主細胞は、本発明の複数の発現ベクターで同時形質移入してもよい。ベクターは、発現したポリペプチドの同様な発現を可能にする同一の選択マーカーを含んでもよい。或いは、例えば本発明のポリペプチドをコードし、発現させることができる単一のベクターを使用してもよい。コード配列は、cDNA又はゲノムDNAを含んでもよい。
【0101】
本発明の結合分子が、動物によって、化学的に合成することによって生成されるか、又は組換えによって発現したら、免疫グロブリン分子を精製するための当該技術分野において公知の任意の方法、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、特にプロテインA後の特異抗原へのアフィニティークロマトグラフィー、及びサイズ排除クロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差、又はタンパク質を精製するための任意の他の標準的な技術によって精製してもよい。加えて、本発明の結合構築物又はこれらのフラグメントは、本明細書に記載されるか又は別様に当該技術分野において公知の異種のポリペプチド配列に融合させて、精製を促進することができる。精製技術は、Fc領域(例えば、scFC)が本発明の二重特異性結合構築物に結合しているか否かに応じて異なり得る。
【0102】
いくつかの実施形態では、本発明には、組換え技術によってポリペプチドに融合する、又は化学的にポリペプチドにコンジュゲートする(共有結合及び非共有結合の両方によるコンジュゲートを含む)結合構築物が包含される。精製を容易にするために、融合又はコンジュゲートした本発明の結合構築物を使用してもよい。例えば、Harbor et al.,前掲、及びPCT出願公開の国際公開第93/21232号パンフレット;欧州特許第439,095号明細書;Naramura et al.,Immunol.Lett.39:91-99(1994);米国特許第5,474,981号明細書;Gillies et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.89:1428-1432(1992);Fell et al.,J.Immunol.146:2446-2452(1991)を参照されたい。
【0103】
更に、本発明の結合構築物又はこれらのフラグメントは、精製を促進するためにペプチドなどのマーカー配列に融合させることができる。好ましい実施形態では、マーカーのアミノ酸配列は、特に、pQEベクター(QIAGEN,Inc.、9259 Eton Avenue、Chatsworth、Calif.、91311)に設けられるタグなどのヘキサヒスチジンペプチド(配列番号58)であり、その多くは市販されている。Gentz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821-824(1989)に記載されているように、例えば、ヘキサヒスチジン(配列番号58)は、簡単な融合タンパク質の精製を提供する。精製に有用な他のペプチドタグとしては、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する「HA」タグ(Wilson et al.,Cell 37:767(1984))、及び「flag」タグが挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
二重特異性結合構築物の生成
本発明の二重特異性結合構築物は、一般的には、所望の抗体からVH領域及びVL領域を選択し、それらを本明細書で記載されるようなポリペプチドリンカーを使用して連結し、任意選択によりFc領域が結合されたHHLL二重特異性結合構築物を形成することによって構築される。より具体的には、VH、VL及びリンカー、並びに任意選択によりFcをコードする核酸を組み合わせて、本発明の二重特異性結合構築物をコードするHHLL核酸構築物を生成する。
【0105】
抗体の生成
特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物を生成する前に、所望の標的に対する結合特異性を有する単一特異性抗体を最初に生成する。
【0106】
本発明の二重特異性結合構築物を生成するのに有用な抗体は、当該技術分野においてよく知られる手法によって調製してもよい。例えば、動物(例えば、マウス若しくはラット又はウサギ)を免疫化することによって、続いて免疫スケジュールの完了後に、この動物から採取した脾臓細胞を不死化することによって調製してもよい。脾臓細胞は、当該技術分野において公知の任意の技術を使用して不死化することができ、例えば、脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを生成することよって不死化することができる。例えば、Antibodies;Harlow and Lane,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1st Edition(例えば、1988からの)又は2nd Edition(例えば、2014からの)を参照されたい。
【0107】
一実施形態では、ヒト化モノクローナル抗体は、マウス抗体の可変ドメイン(又はその抗原結合部位の全て又は一部)と、ヒト抗体由来の定常ドメインとを含む。或いは、ヒト化抗体フラグメントは、マウスモノクローナル抗体の抗原結合部位と、ヒト抗体由来の可変ドメインフラグメント(抗原結合部位を欠損させた)とを含んでもよい。改変モノクローナル抗体を生成するための手順は、Riechmann et al.,1988,Nature 332:323,Liu et al.,1987,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 84:3439,Larrick et al.,1989,Bio/Technology 7:934,及びWinter et al.,1993,TIPS 14:139に記載されるものが挙げられる。一実施形態では、キメラ抗体はCDR移植抗体である。抗体をヒト化する技術は、例えば、米国特許第5,869,619号明細書;同第5,225,539号明細書;同第5,821,337号明細書;同第5,859,205号明細書;同第6,881,557号明細書、Padlan et al.,1995,FASEB J.9:133-39,Tamura et al.,2000,J.Immunol.164:1432-41,Zhang,W.,et al.,Molecular Immunology.42(12):1445-1451,2005;Hwang W.et al.,Methods.36(1):35-42,2005;Dall’Acqua WF,et al.,Methods 36(1):43-60,2005;及びClark,M.,Immunology Today.21(8):397-402,2000に記載されている。
【0108】
本発明の結合分子はまた、完全ヒトモノクローナル抗体の領域を含んでもよい。完全ヒトモノクローナル抗体は、当業者が精通しているであろう多くの技術によって生成してもよい。そのような方法としては、ヒト末梢血細胞(例えば、Bリンパ球を含む)のエプスタイン・バーウイルス(EBV)形質転換、ヒトB細胞のインビトロ免疫化、挿入されたヒト免疫グロブリン遺伝子を有する免疫化したトランスジェニックマウス由来の脾臓細胞の融合、ヒト免疫グロブリンV領域のファージライブラリーからの単離、又は当技術分野において公知の、及び本明細書に開示されるものに基づくような他の手順が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
非ヒト動物でヒトモノクローナル抗体を生成するための手順が開発されてきた。例えば、様々な手段によって1つ以上の内在性免疫グロブリン遺伝子が不活性化されたマウスが作製されている。不活性化したマウス遺伝子を置き換えるために、マウスにヒト免疫グロブリン遺伝子が導入されている。この手法では、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子座のエレメントが胚性幹細胞由来のマウスの系統に導入されるが、これには内在性重鎖及び軽鎖遺伝子座を標的化して破壊することが含まれる(Bruggemann et al.,Curr.Opin.Biotechnol.8:455-58(1997)も参照されたい)。例えば、ヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、ミニ遺伝子の構築物、又はマウスリンパ組織のB細胞に特有のDNA再編成及び高頻度突然変異を受けた、酵母人工染色体上の導入遺伝子座であってもよい。
【0110】
動物内で生成された抗体は、その動物に導入されたヒト遺伝子材料によってコードされるヒト免疫グロブリンポリペプチド鎖を組み込んでいる。一実施形態では、トランスジェニックマウスなどの非ヒト動物を好適な免疫原で免疫化する。
【0111】
ヒト抗体又は部分的なヒト抗体を生成するために、トランスジェニック動物を生成及び使用する手法の例が、米国特許第5,814,318号明細書、同第5,569,825号明細書、及び同第5,545,806号明細書、Davis et al.,Production of human antibodies from transgenic mice in Lo,ed.Antibody Engineering:Methods and Protocols,Humana Press,NJ:191-200(2003),Kellermann et al.,2002,Curr Opin Biotechnol.13:593-97,Russel et al.,2000,Infect Immun.68:1820-26,Gallo et al.,2000,Eur J Immun.30:534-40,Davis et al.,1999,Cancer Metastasis Rev.18:421-25,Green,1999,J Immunol Methods.231:11-23,Jakobovits,1998,Advanced Drug Delivery Reviews 31:33-42,Green et al.,1998,J Exp Med.188:483-95,Jakobovits A,1998,Exp.Opin.Invest.Drugs.7:607-14,Tsuda et al.,1997,Genomics.42:413-21,Mendez et al.,1997,Nat Genet.15:146-56,Jakobovits,1994,Curr Biol.4:761-63,Arbones et al.,1994,Immunity.1:247-60,Green et al.,1994,Nat Genet.7:13-21,Jakobovits et al.,1993,Nature.362:255-58,Jakobovits et al.,1993,Proc Natl Acad Sci U S A.90:2551-55.Chen,J.,M.Trounstine,F.W.Alt,F.Young,C.Kurahara,J.Loring,D.Huszar.“Immunoglobulin gene rearrangement in B-cell deficient mice generated by targeted deletion of the JH locus.”International Immunology 5(1993):647-656,Choi et al.,1993,Nature Genetics 4:117-23,Fishwild et al.,1996,Nature Biotechnology 14:845-51,Harding et al.,1995,Annals of the New York Academy of Sciences,Lonberg et al.,1994,Nature 368:856-59,Lonberg,1994,Transgenic Approaches to Human Monoclonal Antibodies in Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101,Lonberg et al.,1995,Internal Review of Immunology 13:65-93,Neuberger,1996,Nature Biotechnology 14:826,Taylor et al.,1992,Nucleic Acids Research 20:6287-95,Taylor et al.,1994,International Immunology 6:579-91,Tomizuka et al.,1997,Nature Genetics 16:133-43,Tomizuka et al.,2000,Proceedings of the National Academy of Sciences USA 97:722-27,Tuaillon et al.,1993,Proceedings of the National Academy of Sciences USA 90:3720-24,及びTuaillon et al.,1994,Journal of Immunology 152:2912-20.;Lonberg et al.,Nature 368:856,1994;Taylor et al.,Int.Immun.6:579,1994;米国特許第5,877,397号明細書;Bruggemann et al.,1997 Curr.Opin.Biotechnol.8:455-58;Jakobovits et al.,1995 Ann.N.Y.Acad.Sci.764:525-35に記載されている。加えて、XenoMouse(登録商標)(Abgenix、現在はAmgen,Inc.)を含むプロトコールは、例えば、米国特許出願第05/0118643号明細書、及び国際公開第05/694879号パンフレット、国際公開第98/24838号パンフレット、国際公開第00/76310号パンフレット、及び米国特許第7,064,244号明細書に記載されている。
【0112】
例えば、ハイブリドーマを生成するために、免疫化したトランスジェニックマウス由来のリンパ系細胞を骨髄腫細胞と融合させる。ハイブリドーマを生成する融合手順において使用するための骨髄腫細胞は、好ましくは非抗体産生細胞であり、高い融合効率を有し、且つ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する、特定の選択培地での増殖を不可能にする酵素欠損を有する。そのような融合に使用するのに好適な細胞株の例としては、Sp-20、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7及びS194/5XXO Bulが挙げられ、ラット融合において使用される細胞株の例としては、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F及び4B210が挙げられる。細胞融合に有用な他の細胞株は、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2及びUC729-6である。
【0113】
リンパ系(例えば、脾臓)細胞及び骨髄腫細胞をポリエチレングリコール又は非イオン性界面活性剤などの膜融合促進剤と数分間混合し、続いてハイブリドーマ細胞の増殖を支持するが、ただし骨髄腫細胞を融合しない選択培地に低密度で蒔いてもよい。選択培地の1つに、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)がある。十分な時間、通常は約1~2週間後に細胞のコロニーが観察される。単一のコロニーを単離し、当該技術分野において公知であり、本明細書に記載の様々なイムノアッセイのうちの任意の1つを使用して、細胞によって産生された抗体を、所望の標的に対する結合活性について試験してもよい。ハイブリドーマをクローニングし(例えば、限界希釈クローニング又は軟寒天プラーク単離によって)、所望の標的に特異的な分子を産生する陽性クローンを選択して培養する。ハイブリドーマ培養液に由来する結合分子を、ハイブリドーマ培養液の上清から単離してもよい。従って、本発明は、細胞の染色体において本発明の結合構築物をコードするポリヌクレオチドを含むハイブリドーマを提供するものである。これらのハイブリドーマは、本明細書に記載され、当該技術分野において公知の方法に従って培養することができる。
【0114】
本発明の二重特異性結合分子を生成するのに有用なヒト抗体を生成するための別の方法には、ヒト末梢血細胞をEBV形質転換によって不死化することが含まれる。例えば、米国特許第4,464,456号明細書を参照されたい。所望の標的に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する、そのように不死化したB細胞株(又はリンパ芽球様細胞株)は、本明細書で提供されるような免疫検出法、例えば、ELISAによって同定することができ、続いて標準的なクローニング技術によって単離することができる。抗体を産生するリンパ芽球様細胞株の安定性は、当該技術分野において公知の方法に従って(例えば、Glasky et al.,Hybridoma 8:377-89(1989)を参照されたい)、形質転換細胞をマウス骨髄腫と融合させてマウス-ヒトハイブリッド細胞株を生成することによって向上させることができる。ヒトモノクローナル抗体を生成するための更なる別の方法には、ヒト脾臓のB細胞を抗原でプライミングし、その後プライミングしたB細胞をヘテロハイブリッドの融合パートナーと融合させることを含むインビトロ免疫化がある。例えば、Boerner et al.,1991 J.Immunol.147:86-95を参照されたい。
【0115】
特定の実施形態では、所望の抗体を産生するB細胞を選択し、当該技術分野において公知の分子生物学的手法(国際公開第92/02551号パンフレット;米国特許第5,627,052号明細書;Babcook et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7843-48(1996))及び本明細書に記載の手法に従って、このB細胞から軽鎖及び重鎖可変領域をクローニングする。所望の抗体を産生する細胞を選択することによって、免疫化した動物由来のB細胞を脾臓、リンパ節、又は末梢血試料から単離してもよい。B細胞はまた、ヒトの、例えば末梢血試料から単離してもよい。所望の特異性を有する抗体を産生する単一のB細胞を検出するための方法は当該技術分野においてよく知られており、例えば、プラーク形成、蛍光活性化細胞選別、インビトロ刺激後の特異的抗体の検出などによるものがある。特異的抗体を産生するB細胞を選択するための方法としては、例えば、抗原を含む軟寒天中でB細胞の単一の細胞懸濁液を調製することが含まれる。B細胞によって産生される特異的抗体が抗原に結合すると複合体の形成が生じるが、この複合体は免疫沈降物として目に見える場合がある。所望の抗体を産生するB細胞を選択した後に、DNA又はmRNAを単離及び増幅することによって特異的抗体遺伝子をクローニングしてもよく、これを使用して当該技術分野において公知であり、本明細書に記載の方法に従って本発明の二重特異性結合構築物を生成してもよい。
【0116】
本発明の二重特異性結合構築物を生成するのに有用な抗体を得るための更なる方法には、ファージディスプレイによるものがある。例えば、Winter et al.,1994 Annu.Rev.Immunol.12:433-55;Burton et al.,1994 Adv.Immunol.57:191-280を参照されたい。ヒト又はマウス免疫グロブリン可変領域遺伝子のコンビナトリアルライブラリーをファージベクター内で生成してもよく、これによってTGF-β結合タンパク質又はその変異体若しくはフラグメントに特異的に結合するIgフラグメント(Fab、Fv、sFv、又はそれらの多量体)をスクリーニングして選択することができる。例えば、米国特許第5,223,409号明細書;Huse et al.,1989 Science 246:1275-81;Sastry et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5728-32(1989);Alting-Mees et al.,Strategies in Molecular Biology 3:1-9(1990);Kang et al.,1991 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4363-66;Hoogenboom et al.,1992 J.Molec.Biol.227:381-388;Schlebusch et al.,1997 Hybridoma 16:47-52及びその中で引用された文献を参照されたい。例えば、Ig可変領域フラグメントをコードする複数のポリヌクレオチド配列を含むファージを、ファージコートタンパク質をコードする配列とインフレームでM13又はその変異体などの糸状バクテリオファージのゲノムに挿入してもよい。融合タンパク質は、コートタンパク質と軽鎖可変領域ドメイン及び/又は重鎖可変領域ドメインとの融合体であってよい。特定の実施形態によれば、免疫グロブリンFabフラグメントをファージ粒子上にディスプレイすることもできる(例えば、米国特許第5,698,426号明細書を参照されたい)。
【0117】
重鎖及び軽鎖免疫グロブリンcDNA発現ライブラリーは、λファージ、例えばλImmunoZap(商標)(H)及びλImmunoZap(商標)(L)ベクター(Stratagene,La Jolla,California)でも調製することができる。要約すると、mRNAをB細胞集団から単離し、これを使用して、λImmunoZap(H)及びλImmunoZap(L)ベクター内に重鎖及び軽鎖免疫グロブリンcDNA発現ライブラリーを生成する。これらのベクターを個別にスクリーニングするか、又は共発現させて、Fabフラグメント又は抗体を形成してもよい(Huse et al.、前掲を参照されたい;また、Sastry et al.、前掲も参照されたい)。その後、陽性プラークを非溶解性のプラスミドに転換させてもよく、これによって大腸菌(E.coli)由来のモノクローナル抗体フラグメントを高レベルで発現させることができる。
【0118】
一実施形態では、ハイブリドーマにおいて、ヌクレオチドプライマーを使用して目的のモノクローナル抗体を発現する遺伝子の可変領域を増幅する。これらのプライマーは、当業者によって合成されてもよく、又は市販の供給源から購入してもよい。(例えば、特に、VHa、VHb、VHc、VHd、CH1、VL及びCL領域のプライマーを含むマウス及びヒト可変領域のプライマーを販売するStratagene(La Jolla、California)を参照されたい。)。これらのプライマーを使用して重鎖又は軽鎖可変領域を増幅してもよく、続いてこれをImmunoZAP(商標)H又はImmunoZAP(商標)L(Stratagene)などのベクターにそれぞれ挿入してもよい。続いて、これらのベクターを発現用の大腸菌(E.coli)、酵母菌、又は哺乳類ベースの系に導入してもよい。これらの方法を使用して、VHドメインとVLドメインとの融合体を含む、大量の単鎖タンパク質を産生することができる(Bird et al.,Science 242:423-426,1988を参照されたい)。
【0119】
特定の実施形態では、本発明の結合構築物は、「重鎖のみ」の抗体、即ち「HCAb」を産生するトランスジェニック動物(例えば、マウス)から得てもよい。HCAbは、天然に存在するラクダ及びラマの単鎖VHH抗体に類似するものである。例えば、米国特許第8,507,748号明細書及び同第8,502,014号明細書、並びに米国特許出願公開第2009/0285805A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0169548A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0307787A1号明細書、米国特許出願公開第2011/0314563A1号明細書、米国特許出願公開第2012/0151610A1号明細書、国際公開第2008/122886A2号パンフレット、及び国際公開第2009/013620A2号パンフレットを参照されたい。
【0120】
上述した免疫化技術及び他の技術のいずれかを使用して本発明による抗体を産生する細胞が得られたら、本明細書に記載されるような標準的な手順に従い、そこからDNA又はmRNAを単離及び増幅することによって特異的抗体遺伝子をクローニングしてもよく、続いてこれを使用して本発明の二重特異性構築物を生成してもよい。そこから産生された抗体を配列決定してもよく、CDRを同定し、CDRをコードするDNAを前述の通りに操作して、本発明による他の二重特異性構築物を生成してもよい。
【0121】
抗体結合部位の中央にある相補性決定領域(CDR)の分子進化は、親和性が増大した抗体、例えば、Schier et al.,1996,J.Mol.Biol.263:551に記載されるような抗体を単離するためにも使用されている。従って、そのような手法は本発明の結合構築物を調製するのに有用である。
【0122】
ヒト抗体、部分的なヒト抗体、又はヒト化抗体は多くの用途、特に本発明の用途に好適であるが、特定の用途には他の種類の結合構築物が好適となる。これらの非ヒト抗体は、例えば、任意の抗体産生動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ロバ、又はヒト以外の霊長類(例えば、カニクイザル又はアカゲザル)又は類人猿(例えば、チンパンジー)などのサル由来のものであってよい。例えば、その種の動物を所望の免疫原によって免疫化することによって、又はその種の抗体を生成するための人工的な系(例えば、特定の種の抗体を生成するための細菌又はファージディスプレイに基づく系)を使用することによって、又は、例えば、抗体の定常領域を他の種に由来する定常領域で置き換えるか、若しくは他の種由来の抗体の配列に更に酷似するように抗体の1つ以上のアミノ酸残基を置換することにより、1つの種に由来する抗体を別の種に由来する抗体に転換することによって、特定の種由来の抗体を生成することができる。一実施形態では、抗体は、2つ以上の異なる種由来の抗体に由来するアミノ酸配列を含むキメラ抗体である。続いて、所望の結合領域配列を使用して、本発明の二重特異性結合構築物を生成することができる。
【0123】
上述したCDRのうちの1つ以上を含有する、本発明による結合構築物の親和性を向上させることが望まれる場合、CDRの維持(Yang et al.,J.Mol.Biol.,254,392-403,1995)、鎖シャフリング法(Marks et al.,Bio/Technology,10,779-783,1992)、大腸菌(E.coli)の変異株の使用(Low et al.,J.Mol.Biol.,250,350-368,1996)、DNAシャフリング法(Patten et al.,Curr.Opin.Biotechnol.,8,724-733、1997)、ファージディスプレイ法(Thompson et al.,J.Mol.Biol.,256,7-88,1996)、及び更なるPCR技術(Crameri,et al.,Nature,391,288-291,1998)を含む、多数の親和性成熟プロトコールによって達成することができる。これらの親和性成熟方法の全ては、Vaughan et al.(Nature Biotechnology,16,535-539,1998)に述べられている。
【0124】
特定の実施形態では、本発明のHHLL二重特異性結合構築物を生成するために、まず、アミノ酸架橋(短いペプチドリンカー)を介して重鎖及び軽鎖可変ドメイン(Fv領域)フラグメントを連結することによって形成され得る、より典型的な単鎖抗体を生成して、単鎖ポリペプチドを生じさせることが望ましい場合がある。そのような単鎖Fv(scFv)は、2つの可変ドメインポリペプチド(VL及びVH)をコードするDNA間のペプチドリンカーをコードするDNAを融合することによって調製される。得られたポリペプチドは、それら自体で再度折り畳まれ、2つの可変ドメインの間の可動性リンカーの長さに応じて、抗原結合性の単量体を形成することができるか、又は多量体(例えば、二量体、三量体、又は四量体)を形成することができる(Kortt et al.,1997,Prot.Eng.10:423;Kortt et al.,2001,Biomol.Eng.18:95-108)。単鎖抗体を生成するために開発された手法としては、米国特許第4,946,778号明細書;Bird,1988,Science 242:423;Huston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879;Ward et al.,1989,Nature 334:544,de Graaf et al.,2002,Methods Mol Biol.178:379-87に記載されるものが挙げられる。これらの単鎖抗体は、本発明の二重特異性結合構築物とは区別され、また異なるものである。
【0125】
抗体由来の抗原結合性フラグメントは、従来の方法に従って、例えば抗体をタンパク質分解性の加水分解によって、例えば全抗体をペプシン又はパパイン消化することによって得ることもできる。例として、抗体をペプシンによって酵素的開裂させることによって抗体フラグメントを生成し、F(ab’)2と称される5Sフラグメントを提供することができる。チオール還元剤を使用してこのフラグメントを更に開裂し、3.5S Fab’一価フラグメントを生成することができる。任意選択により、ジスルフィド結合の開裂によって生じるスルフヒドリル基のブロック基を使用して、開裂反応を行うことができる。別の方法として、パパインを使用した酵素的開裂により、2つの一価Fabフラグメント及びFcフラグメントが直接生成される。これらの方法は、例えば、Goldenberg,米国特許第4,331,647号明細書,Nisonoff et al.,Arch.Biochem.Biophys.89:230,1960;Porter,Biochem.J.73:119,1959;Edelman et al.,in Methods in Enzymology 1:422(Academic Press 1967);及びby Andrews,S.M.and Titus,J.A.in Current Protocols in Immunology(Coligan J.E.,et al.,eds),John Wiley & Sons,New York(2003),page 2.8.1-2.8.10 and 2.10A.1-2.10A.5に記載されている。一価重鎖-軽鎖フラグメント(Fd)を形成するために重鎖を分離したり、フラグメントを更に開裂させたり、又は他の酵素的手法、化学的手法、若しくは遺伝子手法などの、抗体を開裂させるための他の方法もまた、インタクト抗体に認識される抗原にフラグメントが結合する限りにおいて使用してもよい。
【0126】
特定の実施形態では、二重特異性結合構築物は、抗体の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む。CDRは、目的のCDRをコードするポリヌクレオチドを構築することによって得ることができる。そのようなポリヌクレオチドは、例えば、抗体産生細胞のmRNAを鋳型として使用して可変領域を合成するために、ポリメラーゼ連鎖反応を使用することによって調製される(例えば、Larrick et al.,Methods:A Companion to Methods in Enzymology 2:106,1991;Courtenay-Luck,“Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,”in Monoclonal Antibodies:Production,Engineering and Clinical Application,Ritter et al.(eds.),page 166(Cambridge University Press 1995);及びWard et al.,“Genetic Manipulation and Expression of Antibodies,”in Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birch et al.,(eds.),page 137(Wiley-Liss,Inc.1995)を参照されたい)。抗体フラグメントは更に、本明細書に記載の抗体の少なくとも1つの可変領域ドメインを含んでもよい。従って、例えば、V領域ドメインは単量体及びVH又はVLドメインであってよく、これらは、本明細書で記載されるように少なくとも10-7M以下に相当する親和性で所望の標的(例えば、ヒトCD3)に独立して結合することができる。
【0127】
可変領域は、任意の天然に存在する可変ドメインであってもよく、又はその改変されたバージョンであってもよい。改変されたバージョンとは、組換えDNA改変技術を使用して生成されている可変領域を意味する。そのような改変されたバージョンとしては、例えば、特異的抗体のアミノ酸配列内における挿入、欠失、若しくは変更、又は特定の抗体のアミノ酸配列への挿入、欠失、若しくは変更による、特異的抗体の可変領域から生成されるようなものが挙げられる。当業者であれば、改変に好適なアミノ酸残基を特定するために、任意の公知の方法を使用することができる。更なる例としては、少なくとも1つのCDR、並びに任意選択により第1の抗体由来の1つ以上のフレームワークのアミノ酸、及び第2の抗体由来の可変領域ドメインの残部を含む、改変された可変領域が挙げられる。抗体可変ドメインの改変されたバージョンは、当業者が精通しているであろう多くの手法によって生成してもよい。
【0128】
可変領域は、C末端アミノ酸において少なくとも1つの他の抗体ドメイン又はこれらのフラグメントに共有結合されていてもよい。従って、例えば、可変領域に存在するVHが免疫グロブリンのCH1ドメインに連結されていてもよい。同様に、VLドメインがCKドメインに連結されていてもよい。このように、例えば、抗体は、抗原結合ドメインがVHドメイン及びVLドメインのC末端でそれぞれCH1及びCKドメインに共有結合した、会合したVHドメイン及びVLドメインを含有するFabフラグメントであってよい。CH1ドメインを更なるアミノ酸で伸長し、例えば、Fab’フラグメントに見られるようなヒンジ領域又はヒンジ領域ドメインの一部を提供してもよく、又は抗体のCH2及びCH3ドメインなどの更なるドメインを提供してもよい。
【0129】
結合特異性
抗体又は二重特異性結合構築物は、10-7M以下の値の平衡解離定数(KD、又は下記に定義するようにKDに相当するもの)によって求められるような高い結合親和性を有する抗原に結合する場合に、抗原に「特異的に結合する」。
【0130】
親和性は、当該技術分野において公知の様々な手法、例えば、これらに限定されないが、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA);KinExA,Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008;又はラジオイムノアッセイ(RIA))、又は表面プラズモン共鳴アッセイ、又は他の動態学をベースとしたアッセイの機構(例えば、BIACORE(登録商標)分析若しくはOctet(登録商標)分析(forteBIO))、並びに間接的な結合アッセイ、競合的結合アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、ゲル電気泳動、及びクロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー)などの他の方法を用いて測定することができる。これら及び他の方法では、検査する構成成分の1つ以上に標識を使用してもよく、及び/又は発色性標識、蛍光標識、発光標識、又は同位体標識が挙げられるが、これらに限定されない様々な検出法を使用してもよい。結合親和性及び動態についての詳細な説明は、抗体と免疫原の相互作用に焦点を当てたPaul,W.E.,ed.,Fundamental Immunology,4th Ed.,Lippincott-Raven,Philadelphia(1999)に見出すことができる。競合的結合アッセイの一例には、非標識抗原の量を増加させた状態で標識抗原を目的の抗体とインキュベートし、標識抗原と結合した抗体を検出することを含むラジオイムノアッセイがある。特定の抗原に対する目的の抗体の親和性及び結合解離率は、スキャッチャードプロット分析によるデータから求めることができる。第2の抗体との競合はラジオイムノアッセイを用いて求めることもできる。この場合、非標識の第2の抗体の量を増加させた状態で、抗原を標識化合物にコンジュゲートした目的の抗体とインキュベートする。このタイプのアッセイは、本発明の二重特異性結合構築物と共に使用するように容易に適合させることができる。
【0131】
本発明の更なる実施形態は、10-7M未満、又は10-8M未満、又は10-9M未満、又は10-10M未満、又は10-11M未満、又は10-12M未満、又は10-13M未満、又は5×10-13M未満(値が低いほどより高い結合親和性を示す)の平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)で所望の標的と結合する、二重特異性結合構築物を提供するものである。なお、本発明の更なる実施形態は、約10-7M未満、又は約10-8M未満、又は約10-9M未満、又は約10-10M未満、又は約10-11M未満、又は約10-12M未満、又は約10-13M未満、又は約5×10-13M未満の平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)で所望の標的と結合する二重特異性結合構築物である。
【0132】
更に別の実施形態では、所望の標的に結合する二重特異性結合構築物は、約10-7M~約10-8M、約10-8M~約10-9M、約10-9M~約10-10M、約10-10M~約10-11M、約10-11M~約10-12M、約10-12M~約10-13Mの平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)を有する。更に別の実施形態では、本発明の二重特異性構築物は、10-7M~10-8M、10-8M~10-9M、10-9M~10-10M、10-10M~10-11M、10-11M~10-12M、10-12M~10-13Mの平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)を有する。
【0133】
分子安定性
特にバイオ医薬品の治療用分子の文脈において、分子安定性の様々な態様が望まれる場合がある。例えば、様々な温度における安定性(「熱安定性」)が望まれる場合がある。いくつかの実施形態では、この熱安定性には、生理的温度範囲、例えば約37℃、又は32℃~42℃における安定性が包含され得る。他の実施形態では、この熱安定性には、より高い温度範囲、例えば、42℃~60℃における安定性が包含され得る。他の実施形態では、この熱安定性には、より低い温度範囲、例えば、20℃~32℃における安定性が包含され得る。更に他の実施形態では、この熱安定性には、冷凍状態、例えば、0℃以下の間における安定性が包含され得る。
【0134】
タンパク質分子の熱安定性を測定するためのアッセイは、当技術分野において公知である。例えば、熱勾配の間に内在性タンパク質蛍光及び静的光散乱(SLS)データを同時に取得することが可能な、完全に自動化されたUNcleプラットフォーム(Unchained Labs)が使用されており、更に実施例に記載されている。更に、示差走査蛍光定量法(DSF)及び静的光散乱(SLS)などの実施例において本明細書に記載の熱安定性及び凝集アッセイを使用して、熱融解(Tm)及び熱凝集(Tagg)の両方をそれぞれ測定することもできる。
【0135】
或いは、実施例において本明細書で記載されるように、この分子に促進応力試験を実行することができる。要約すると、この試験は、特定の温度(例えば、40℃)でタンパク質分子をインキュベートし、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって様々な時点で凝集を測定することを伴うものであり、この場合、凝集レベルが低いほど、より良好なタンパク質の安定性を示している。
【0136】
或いは、以下のように分子が凝集する温度の観点から、熱安定性パラメータを決定することができる:濃度250μg/mlの分子溶液を単回使用のキュベットに移し、動的光散乱(DLS)装置内に置く。測定した半径を常時取得しながら、0.5℃/分の加熱速度で40℃から70℃に試料を加熱する。半径の増大はタンパク質の融解及び凝集を示し、これを用いて分子の凝集温度を算出する。
【0137】
或いは、示差走査熱量測定(DSC)によって融解温度曲線を測定し、結合構築物の固有の生物物理学的なタンパク質の安定性を測定することができる。これらの実験は、MicroCal LLC(Northampton、MA、U.S.A)VP-DSC装置を使用して実行する。結合構築物を含有する試料のエネルギー取り込みを20℃から90℃まで記録して、製剤緩衝液のみを含有する試料と比較する。結合構築物を、例えば、SECランニング緩衝液中250μg/mlの最終濃度に調整する。それぞれの融解曲線を記録するために試料の全体温度を段階的に上昇させる。それぞれの温度Tにおける試料及び製剤緩衝液標準物質のエネルギー取り込みを記録する。試料から標準物質を差し引いたエネルギー取り込みCp(kcal/mole/℃)の差をそれぞれの温度に対してプロットする。融解温度は、エネルギー取り込みが最初に最大となる温度として定義される。
【0138】
更なる実施形態では、本発明による二重特異性結合構築物は、おおよその生理的pH、即ち約pH7.4で安定する。他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、低いpH、例えば、pH6.0までで安定する。他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、高いpH、例えば、最大pH9.0で安定する。一実施形態では、二重特異性結合構築物は、6.0~9.0のpHで安定する。別の実施形態では、二重特異性結合構築物は、6.0~8.0のpHで安定する。別の実施形態では、二重特異性結合構築物は、7.0~9.0のpHで安定する。
【0139】
特定の実施形態では、二重特異性結合構築物が非生理的pH(例えば、pH6.0)に対して耐性が高いほど、充填されたタンパク質の総量に対してイオン交換カラムから溶出される分子の回収率が高くなる。一実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧30%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧40%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧50%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧60%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧70%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧80%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧90%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧95%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧99%である。
【0140】
特定の実施形態では、分子の化学的安定性を測定することが望まれる場合がある。二重特異性結合構築物の化学的安定性の測定は、更に実施例において本明細書に記載されるような内在性タンパク質蛍光をモニタリングすることによる等温化学変性(「ICD」)によって実行することができる。ICDによってC1/2及びΔGが得られ、これらはタンパク質の安定性に対する優れた測定基準であり得る。C1/2はタンパク質の50%を変性させるのに必要となる化学的変性剤の量であり、これを用いてΔG(即ちアンフォールディングエネルギー)を導出する。
【0141】
タンパク鎖のクリッピングは、生物学的製剤に関して注意深く観察され又は報告される、別の決定的な製品品質特性である。典型的には、長いリンカー、及び/又はそれほど構造化されていないリンカーは、インキュベーション時間及び温度に応じてクリッピングの増大が生じることが予想される。標的ドメイン又はT細胞結合ドメインを接続するリンカーへのクリッピングは、薬剤の効力及び有効性に最終的に有害な影響を与えるため、クリッピングは二重特異性結合構築物にとって重大な問題である。scFcを含む更なる部位へのクリッピングは、薬力学的/動態学的特性に影響を与える可能性がある。クリッピングの増大は医薬品において回避されなければならない特性である。従って、特定の実施形態では、タンパク質のクリッピングを実施例において本明細書で記載されるようにアッセイすることができる。
【0142】
免疫エフェクター細胞及びエフェクター細胞タンパク質
二重特異性結合構築物は、免疫エフェクター細胞(本明細書では「エフェクター細胞タンパク質」と称する)の表面に発現する分子、及び標的細胞の表面に発現する別の分子(本明細書では「標的細胞タンパク質」と称する)に結合することができる。免疫エフェクター細胞は、T細胞、NK細胞、マクロファージ、又は好中球であってよい。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞タンパク質は、T細胞受容体(TCR)-CD3複合体に含まれるタンパク質である。TCR-CD3複合体は、TCRα及びTCRβ、又はTCRγ及びTCRδ、加えてCD3ゼータ(CD3ζ)鎖、CD3イプシロン(CD3ε)鎖、CD3ガンマ(CD3γ)鎖、及びCD3デルタ(CD3δ)鎖の中から様々なCD3鎖からなるヘテロ二量体を含むヘテロ多量体である。
【0143】
CD3受容体複合体はタンパク質複合体であり、4つの鎖から構成されている。哺乳動物では、この複合体は、CD3γ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖、及び2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)及びいわゆるζ(ゼータ)鎖と会合してT細胞受容体-CD3複合体を形成し、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。CD3γ(ガンマ)、CD3δ(デルタ)及びCD3ε(イプシロン)鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する、非常に近縁の免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面タンパク質である。CD3分子の細胞内尾部は、TCRのシグナル伝達能に必須の免疫受容活性化チロシンモチーフ、即ち略してITAMとして知られる単一の保存モチーフを含有する。CD3イプシロン分子は、ヒトの第11染色体に存在するCD3E遺伝子によってコードされるポリペプチドである。最も好ましいCD3イプシロンのエピトープは、ヒトCD3イプシロン細胞外ドメインのアミノ酸残基1~27の範囲に含まれる。本発明による二重特異性結合構築物は、典型的且つ有利には、特定の免疫療法において望ましくない非特異的T細胞活性化をそれほど示さないということが想定される。このことは、言い換えれば副作用のリスクを低減するということになる。
【0144】
いくつかの実施形態では、エフェクター細胞タンパク質は、多量体タンパク質の一部であってよいヒトCD3イプシロン(CD3ε)鎖(その成熟したアミノ酸配列が配列番号40に開示される)であってよい。或いは、エフェクター細胞タンパク質は、ヒト及び/又はカニクイザルのTCRα、TCRβ、TCRβ、TCRγ、CD3ベータ(CD3β)鎖、CD3ガンマ(CD3γ)鎖、CD3デルタ(CD3δ)鎖、又はCD3ゼータ(CD3ζ)鎖であってよい。
【0145】
更に、いくつかの実施形態では、二重特異性結合構築物は、マウス、ラット、ウサギ、新世界ザル、及び/又は旧世界ザル種などの、非ヒト種由来のCD3ε鎖に結合することもできる。そのような種としては、以下の哺乳類種が挙げられるが、これらに限定されない:ハツカネズミ(Mus musculus);クマネズミ(Rattus rattus);ドブネズミ(Rattus norvegicus);カニクイザル(Macaca fascicularis);マントヒヒ(Papio hamadryas);ギニアヒヒ(Papio papio);アヌビスヒヒ(Papio anubis);キイロヒヒ(Papio cynocephalus);チャクマヒヒ(Papio ursinus);マーモセット(Callithrix jacchus);ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus);及びリスザル(Saimiri sciureus)。カニクイザルのCD3ε鎖の成熟したアミノ酸配列は配列番号41に示される。ヒト、並びにマウス及びサルなどの前臨床試験に一般に使用される種において同等の活性を有する治療用分子は、薬剤開発を簡素化し、促進し、最終的に改善された成果をもたらすことができる。薬剤を市場に出すための長期で費用のかかるプロセスにおいては、このような利点は重要となり得る。
【0146】
特定の実施形態では、二重特異性結合構築物は、ヒトCD3ε鎖又は異なる種由来のCD3ε鎖であってよく、特に上記に列記した哺乳類種のうちの1つであってよいCD3ε鎖(配列番号43)の最初の27個のアミノ酸内のエピトープに結合することができる。エピトープは、アミノ酸配列Gln-Asp-Gly-Asn-Glu(配列番号59)を含有してもよい。このようなエピトープに結合する分子の利点は、その関連部分が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0183615A1号明細書に詳細に説明されている。抗体又は二重特異性結合構築物が結合するエピトープは、例えば、その関連部分が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0183615A1号明細書に記載されているアラニンスキャニングによって決定することができる。他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、CD3εの細胞外ドメイン(配列番号42)内のエピトープに結合することができる。
【0147】
T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、二重特異性結合構築物が結合することのできるエフェクター細胞タンパク質としては、CD3ε鎖、CD3γ、CD3δ鎖、CD3ζ鎖、TCRα、TCRβ、TCRγ、及びTCRδが挙げられるがこれらに限定されない。NK細胞又は細胞障害性T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、例えば、NKG2D、CD352、NKp46、又はCD16aがエフェクター細胞タンパク質であってよい。CD8+T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、例えば、4-1BB又はNKG2Dがエフェクター細胞タンパク質であってよい。或いは、他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、T細胞、NK細胞、マクロファージ、又は好中球に発現する他のエフェクター細胞タンパク質に結合することができる。
【0148】
標的細胞及び標的細胞に発現する標的細胞タンパク質
上記で説明したように、二重特異性結合構築物は、エフェクター細胞タンパク質及び標的細胞タンパク質に結合することができる。標的細胞タンパク質は、例えば、癌細胞、病原体に感染した細胞、又は疾患、例えば炎症状態、自己免疫状態、及び/若しくは線維性状態を媒介する細胞の表面に発現することができる。いくつかの実施形態では、標的細胞タンパク質は標的細胞に高度に発現することができるが、高レベルの発現が必ずしも必要とされるわけではない。
【0149】
標的細胞が癌細胞である場合、本明細書で記載されるような二重特異性結合構築物は、上記で説明したように癌細胞抗原に結合することができる。癌細胞抗原は、ヒトタンパク質又は別の種由来のタンパク質であってよい。例えば、二重特異性結合構築物は、数ある中でも特にマウス、ラット、ウサギ、新世界ザル、及び/又は旧世界ザル種由来の標的細胞タンパク質に結合してもよい。そのような種としては、以下の種が挙げられるが、これらに限定されない:ハツカネズミ(Mus musculus);クマネズミ(Rattus rattus);ドブネズミ(Rattus norvegicus);カニクイザル(Macaca fascicularis);マントヒヒ(Papio hamadryas);ギニアヒヒ(Papio papio);アヌビスヒヒ(Papio anubis);キイロヒヒ(Papio cynocephalus);チャクマヒヒ(Papio ursinus);マーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)、及びリスザル(Saimiri sciureus)。
【0150】
いくつかの例では、標的細胞タンパク質は感染細胞に選択的に発現するタンパク質であってよい。例えば、HBV又はHCV感染症の場合、標的細胞タンパク質は、感染細胞の表面に発現するHBV又はHCVのエンベロープタンパク質であってよい。他の実施形態では、標的細胞タンパク質は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染細胞上のHIVによってコードされるgp120であってよい。
【0151】
他の態様では、標的細胞は、自己免疫疾患又は炎症性疾患を媒介する細胞であってよい。例えば、喘息におけるヒト好酸球が標的細胞であってよく、その場合には、例えばEGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体(EMR1)が標的細胞タンパク質であってよい。或いは、全身性エリテマトーデス患者における過剰なヒトB細胞が標的細胞であってよく、その場合には、例えばCD19又はCD20が標的細胞タンパク質であってよい。他の自己免疫状態では、過剰なヒトTh2 T細胞が標的細胞であってよく、その場合には、例えばCCR4が標的細胞タンパク質であってよい。同様に、標的細胞は、アテローム性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、硬変症、強皮症、腎移植線維症、腎臓同種移植腎症、若しくは特発性肺線維症及び/又は特発性肺高血圧症を含む肺線維症などの疾患を媒介する線維性細胞であってよい。そのような線維性状態の場合、例えば、線維芽細胞活性化タンパク質α(FAPα)が標的細胞タンパク質であってよい。
【0152】
治療方法及び治療用組成物
二重特異性結合構築物を使用して、例えば、様々な形態の癌、感染症、自己免疫状態若しくは炎症状態、及び/又は線維性状態を含む多種多様な状態を治療することができる。
【0153】
従って、一実施形態では、疾患を予防、治療、又は緩和するのに使用される二重特異性結合構築物が、本明細書で提供される。
【0154】
別の実施形態では、疾患を予防、治療又は緩和するための医薬の製造における本発明の結合構築物の(又は本発明のプロセスに従って生成される結合構築物の)使用を提供する。
【0155】
二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物が、本明細書で提供される。これらの薬学的組成物は、治療上有効な量の二重特異性結合構築物と、生理学的に許容可能なキャリア、賦形剤、又は希釈剤などの1つ以上の追加の成分とを含む。いくつかの実施形態では、これらの追加の成分としては、多くの可能性の中でも特に、緩衝液、炭水化物、ポリオール、アミノ酸、キレート剤、安定剤、及び/又は防腐剤を挙げることができる。
【0156】
いくつかの実施形態では、時に、癌細胞が新しい領域に侵襲する、即ち転移することを可能にする隣接組織の破壊と新生血管の成長とを伴う、調節されない及び/又は不適切な細胞の増殖に関与する癌を含む細胞増殖性疾患を治療するために、二重特異性結合構築物を使用することができる。二重特異性結合構築物によって治療することができる状態には、結腸直腸ポリープ、脳虚血、総嚢胞性疾患、多発性嚢胞腎疾患、良性前立腺肥大症、及び子宮内膜症を含む不適切な細胞増殖に関与する非悪性状態が含まれる。二重特異性結合構築物を使用して、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍悪性病変を治療することができる。より具体的には、二重特異性結合構築物を使用して治療することができる細胞増殖性疾患は、例えば、中皮腫、扁平上皮癌、骨髄腫、骨肉腫、神経膠芽腫、膠腫、癌腫、腺癌、黒色腫、肉腫、急性及び慢性白血病、リンパ腫、及び髄膜腫、ホジキン病、セザリー症候群、多発性骨髄腫、及び肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、喉頭癌、乳癌、頭頸部癌、膀胱癌、卵巣癌、皮膚癌、前立腺癌、子宮頸部癌、膣癌、胃癌、腎細胞癌、腎臓癌、膵臓癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、及び食道癌、肝胆道癌、骨癌、皮膚癌、及び血液癌、並びに鼻腔及び副鼻腔、鼻咽腔、口腔、中咽頭、喉頭、下喉頭、唾液腺、縦隔、胃、小腸、結腸、直腸及び肛門部、尿管、尿道、陰茎、精巣、外陰、内分泌系、中枢神経系、及び形質細胞の癌を含む癌である。
【0157】
癌療法のための手引き書を提供するテキストには、Cancer,Principles and Practice of Oncology,4th Edition,DeVita et al.,Eds.J.B.Lippincott Co.,Philadelphia,PA(1993)がある。癌の特定の種類及び患者の全身状態などの他の要因に従って、関連する分野で認識されているような適切な治療手段を選択する。癌患者を治療する際に、他の抗悪性腫瘍剤を使用する治療レジメンに二重特異性結合構築物を追加することができる。
【0158】
いくつかの実施形態では、例えば、化学療法剤、非化学療法の抗悪性腫瘍剤、及び/又は放射線などの癌の治療に広く使用されている様々な薬剤及び治療と同時に、その前又はその後に、二重特異性結合構築物を投与することができる。例えば、本明細書に記載の任意の治療の前、その間、及び/又はその後に、化学療法及び/又は放射線を行うことができる。化学療法剤の例は上記に記載されており、シスプラチン、タキソール、エトポシド、ミトキサントロン(Novantrone(登録商標))、アクチノマイシンD、シクロヘキシミド、カンプトテシン(又はこれらの水溶性誘導体)、メトトレキサート、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ダカルバジン(DTIC)、抗悪性腫瘍性抗生物質、例えばアドリアマイシン(ドキソルビシン)及びダウノマイシン、並びに前述の全ての化学療法剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0159】
感染症疾患、数ある中でも特に、例えば慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染症、C型肝炎ウイルス(HCV)感染症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症、又はサイトメガロウイルス(CMV)感染症を治療するために、二重特異性結合構築物を使用することもできる。
【0160】
二重特異性結合構築物は、特定の細胞型を減少させるのに有用である場合、他の種類の状態における更なる使用を見出すことができる。例えば、喘息におけるヒト好酸球、全身性エリテマトーデスにおける過剰なヒトB細胞、自己免疫状態における過剰なヒトTh2 T細胞、又は感染症疾患における病原体感染細胞を減少させることが有益となり得る。線維性状態では、線維性組織を形成する細胞を減少させるのに有益となり得る。
【0161】
治療上有効な投与量の二重特異性結合構築物を投与することができる。治療上の用量を構成する二重特異性結合構築物の量は、治療される指標、患者の体重、算出した患者の皮膚表面領域によって異なっていてもよい。望ましい効果を得るために、二重特異性結合構築物の投与量を調節することができる。多くの場合、反復投与が必要とされ得る。
【0162】
二重特異性結合構築物、又はそのような分子を含有する薬学的組成物を、実現可能な任意の方法によって投与することができる。ある特別な処方又はそのような特別な状況でない場合、経口投与では胃の酸性環境内でタンパク質の加水分解が生じてしまうため、タンパク質治療薬は通常、非経口経路、例えば注射によって投与される。可能な投与経路としては、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、動脈内注射、病巣内注射、又は腹膜ボーラス注射がある。二重特異性結合構築物は、注入、例えば静脈内注入又は皮下注入によって投与することもできる。特に皮膚に関わる疾患に対しては、局所投与も可能である。或いは、粘膜と接触させることによって、例えば、鼻腔内投与、舌下投与、膣内投与、又は直腸投与又は吸入薬としての投与によって、二重特異性結合構築物を投与することができる。或いは、二重特異性結合構築物を含む特定の適切な薬学的組成物を経口投与することができる。
【0163】
「治療」という用語には、少なくとも1つの症状又は他の障害の具現化の緩和、又は疾患重症度を低減させることなどが包含される。本発明による二重特異性結合構築物は、実行可能な治療薬を構成するために、完全治癒又はあらゆる疾患の症状又は発現の根絶をもたらす必要はない。関連分野で認識されているように、治療薬として使用される薬物は、所与の病状の重症度を減少させることができるが、有用な治療薬とみなされるために、疾患のあらゆる発現を消失させる必要はない。単に、疾患の影響を減少させることで(例えば、その症状の数又は重症度を減少させることによって、又は別の治療の有効性を増大させることによって、又は別の有益な効果を生じさせることによって)、又は疾患が対象において発症するか又は悪化する可能性を減少させることで十分である。本発明の一実施形態は、特定の障害の重症度を反映する指標がベースラインを超える持続的改善を誘導するのに十分な量及び時間で、患者に本発明の二重特異性結合構築物を投与することを含む方法に関する。
【0164】
「防止」という用語には、少なくとも1つの症状又は他の障害の具現化などを防止することが包含される。本発明による二重特異性結合構築物を組み込んだ予防的に施される治療は、実行可能な予防剤を構成するために、状態の発症を予防するのに完全に有効である必要はない。単に、疾患が対象において発症するか又は悪化する可能性を減少させることで十分である。
【0165】
関連分野において理解されているように、二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物は、指標及び組成物に適切な方法で対象に投与される。非経口投与、局所投与、又は吸入による投与が含まれるが、これらに限定されない任意の好適な手法によって、薬学的組成物を投与してもよい。注射の場合、例えば、関節内、静脈内、筋肉内、病巣内、腹腔内若しくは皮下経路を介して、ボーラス注射によって、又は持続注入によって薬学的組成物を投与することができる。吸入による送達には、例えば、経鼻又は経口吸入、ネブライザーの使用、結合構築物をエアロゾル形態で吸入することなどが挙げられる。他の代替手段としては、丸薬、シロップ剤、又はドロップを含む経口剤が挙げられる。
【0166】
生理学的に許容可能なキャリア、賦形剤、又は希釈剤などの1つ以上の追加の成分を含む組成物の形態で、二重特異性結合構築物を投与することができる。任意選択により、組成物は1つ以上の生理学的活性剤を更に含む。様々な特定の実施形態では、組成物は、1つ以上の二重特異性結合構築物に加えて、1、2、3、4、5、又は6つの生理学的活性剤を含む。
【0167】
本明細書で述べられる状態のいずれかを治療するのに使用される、1つ以上の二重特異性結合構築物及びラベル又は他の説明書を含む、医師が使用するためのキットが提供される。一実施形態では、キットは、本明細書に開示されるような組成物の形態であってよく、1つ以上のバイアル内に入っていてもよい、1つ以上の二重特異性結合構築物の無菌製剤を含む。
【0168】
投与量及び投与頻度は、投与経路、使用される特定の二重特異性結合構築物、治療される疾患の性質及び重症度、状態が急性なのか又は慢性なのか、及び対象の身長及び全身状態などの要因によって異なっていてもよい。
【0169】
上記で一般的な用語で本発明を説明してきたため、限定するものではなく実例として以下の実施例を提供する。
【実施例
【0170】
実施例1
二重特異性HHLL結合構築物の生成及び発現
提示されたHHLL構成によって向上した安定性が生じるどうかを評価するために、Flt3、Msln、及びDll3をそれぞれ標的化するBiTEのパネルを設計し、これを発現させて精製した。これらには、標準型、即ち野生型(WT)のHLE-BiTE(HLE=半減期が延長された)が含まれており、提示されたHHLL BiTE構造の3つの異なるリンカー長の構成は、タイト、ミディアム、ルーズである。
【0171】
HLE-BiTEを含む様々な鎖を接続するために、GlyGlyGlyGlySer(G4S)(配列番号1)のリピートのリンカーを使用した。WTのHLE-BiTEでは、標的ドメインの重鎖及び軽鎖(H1及びL1)を3つのG4Sリピート(配列番号3)で接続した。抗CD3ドメインもまた重鎖及び軽鎖のペア(H2及びL2)を含み、3つのG4Sリピート(配列番号3)で接続した。抗標的ドメインと抗CD3 scFvドメインを接続するためには、単一のG4Sリンカー(配列番号1)が必要であった。代替的に、これを以下の命名法で記述することができる:H1-(G4S)-L1-(G4S)-H2-(G4S)-L2。
【0172】
提示される「タイト」なHHLL構成では、2つのG4Sリピート(配列番号2)がH1をH2に接続し、続いて3つのG4Sリピート(配列番号3)がこのセグメントをL1鎖に接続している。H1H2L1をL2に接続し、分子モデリングによって求められるような適切な折り畳みを可能とするには、別の3つのG4Sリピート(配列番号3)が必要であった。この「タイト」な構成は、以下のように記述することもできる:H1-(G4S)2-H2-(G4S)3-L1(G4S)3-L2、又は省略して233。
【0173】
「ミディアム」な構成は、一連の4つのリピートのG4Sリンカー(配列番号4)によって様々な鎖(H1、H2、L1及びL2)の全てを接続しており、以下のように記述することができる:H1-(G4S)4-H2-(G4S)4-L1(G4S)4-L2、又は略して444。
【0174】
「ルーズ」な構成は、一連の5つのリピートのG4Sリンカー(配列番号5)を使用しており、以下のように記述することができる:H1-(G4S)5-H2-(G4S)-L1(G4S)5-L2、又は略して555。
【0175】
プラスミド:
N末端にシグナルペプチドを有する、目的のBiTE遺伝子を宿す発現プラスミドをpTT5ベクターにクローニングした。
【0176】
発現及び精製:
一過性に形質移入されたHEK293-6E細胞を使用して、全てのBiTEタンパク質を生成した。要約すると、PEI MAX形質移入試薬によって、N末端にシグナル分泌ペプチドを有するBiTE標的配列をコードするプラスミドDNAを、約99.9%の生存率及び1.5e6の細胞密度で細胞に導入した。タンパク質を過剰産生させるために、37℃、5%のCO、150RPMで6日間細胞を維持した。続いて細胞を遠心分離によって採取し(4000RPMで30分間)、続いて得られた細胞の培地上清を濾過し、精製用に保存した。
【0177】
単鎖Fc(「scFc」)で発現したBiTEを、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(GE Healthcare、HiTrap mAb Select SuRe)を使用して精製した。結合緩衝液(25mMのトリス、100mMのNaCl、pH7.4)中でプロテインA樹脂を平衡化し、100mMの酢酸ナトリウム(pH3.6)を使用してタンパク質を溶出した。溶出緩衝液からBiTEを速やかに取り出すために、10mMのリン酸カリウム、75mMのリシン、4%のトレハロース(pH8.0)中で脱塩する工程(GE Healthcare、HiPrep 26/10 Desalting)を実行し、その後サイズ排除クロマトグラフィー(GE Healthcare、HiLoad Superdex 200)によって分離した。同様の方法で、プロテインAの代わりにプロテインL樹脂(GE Healthcare、HiTrap Protein L)を使用して、scFcを含まないBiTEを精製した。純度はSDS-PAGEによって確認した。続いて、タンパク質を1mg/mlの濃度で10mMのグルタミン酸、9%のスクロース、0.01%のポリソルベート80(pH4.2)に配合した。使用前にタンパク質を-80℃で保存した。
【0178】
実施例2
分析用HPLCサイズ排除クロマトグラフィー
タンパク質凝集及び安定性を定量化するために、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と組み合わせていくつかの時間経過温度試験を完了した。分析を単純化するために、温度試験を問わず、同一のSEC方法を使用した。約2μgの試料を、100mMのリン酸ナトリウム、250mMのNaCl(pH6.8)中で平衡化したSECカラム(Waters ACQUITY UPLC Protein BEH SEC 200Å)に注入した。280nmの吸光度データを収集し、Chromeleonを使用してピークを積分した。データをプロットし、GraphPad Prismで分析した。
【0179】
実施例3
還元型キャピラリー電気泳動
温度安定性アッセイにおいて低分子量(LMW)の種の形成を検査するために、還元型キャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム(rCE-SDS)分析を実施した。分析する前に、試料をSDS及び熱、並びにβ-メルカプトエタノールの存在によってそれぞれ変性させて還元した。続いて、約10μgの試料をCEカセットに充填し、UV検出によってタンパク質及びフラグメントをモニタリングした。純度は、Chromeleonを使用してピーク面積の割合を定量化することによって求めた。
【0180】
実施例4
化学的安定性
等温化学変性
BiTEの化学的安定性の測定は、内在性タンパク質蛍光をモニタリングすることによる等温化学変性(「ICD」)によって実行する。ICDによってC1/2及びΔGが得られ、これらはタンパク質の安定性に対する優れた測定基準であり得る。C1/2はタンパク質の50%を変性させるのに必要となる化学的変性剤の量であり、これを用いてΔG(即ちアンフォールディングエネルギー)を導出する。化学的変性剤に応じたタンパク質のアンフォールディングをモニタリングするために、内在性タンパク質蛍光を測定した。3つの異なる標的、Flt3、Msln、及びDll3を使用して、HHLL構成の化学的安定性プロファイルを調査した。HUNK機器(Unchained Labs)を使用することにより、このプロセスを完全に自動化した。0~5.52Mの塩酸グアニジン(GuHCl)の範囲で32個の独立した変性データポイントを生成し、得られた350/330nmの蛍光強度比をプロットし、変性した割合を求めるためにフィッティングを行い、C1/2及びΔG値を導出した。確実性が最大となるように、42個のデータポイントを収集してFlt3データを画定した。プロットは、正規化データがフィッティングしていることを示している。2状態又は3状態モデルのいずれかとなるようにデータをフィッティングした。図8は、本実験の結果を示すものである。
【0181】
化学的安定性の向上の程度が、Flt3の場合に最も高かったことが観察された。ここでは、Flt3-444及び555、即ち「ミディアム」及び「ルーズ」な変異体は、C1/2において約0.8Mシフトし、ΔGが約1~6kcal/mol向上したことによって認められるように、Flt3-WTと比較して著しい向上を示した。一方、Msln及びDll3の両方の場合では、C1/2において劇的なシフトは観察されなかった。しかしながら、Msln-555、即ちルーズな構造では、より低いΔG値が観察されるため、Msln-WTよりもわずかに安定性が劣っていた。このデータから、HHLL構成の化学的安定性は、Flt3-444及びFlt-555変異体で観察されるように、標準型HLHL構成と同等に機能するか、又は理想的な例では、標的ドメインに依存的な様式でWTタンパク質を上回ることができることが結論づけられた。
【0182】
下記の表3は、これらの結果の一部についてまとめたものである。
【0183】
【表3】
【0184】
実施例5
熱安定性
示差走査蛍光光度計によるTm測定及び静的光散乱によるTagg測定
BiTEタンパク質の様々なTm及びTagg値を測定するために、熱勾配の際に内在性タンパク質蛍光及び静的光散乱(SLS)データを同時に取得することが可能な、完全に自動化されたUNcleプラットフォーム(Unchained Labs)を使用した。要約すると、データを取得する間、1mg/mlのタンパク質試料に20~90℃の熱勾配を受けさせた。UNcle解析ソフトウエアを使用して3つの複写物の平均からTm及びTagg値を導出した。
【0185】
熱安定性及び凝集アッセイを使用して更にHHLL構成を特性評価すると、安定性の測定基準が向上していることが更に明らかとなった。これらの様々な実験の結果を図9A図9B、及び図10に示す。示差走査蛍光定量法(DSF)及び静的光散乱(SLS)の両方を使用してBiTE分子のパネルをスクリーニングし、熱融解(Tm)及び熱凝集(Tagg)の両方をそれぞれ測定した。興味深いことに、この場合もやはり、Tmプロファイルに関しては向上の程度がFlt3の場合に最も高かったことが観察された。このデータでは、全てのHHLL Flt3変異体(Flt3-233、Flt3-444、及びFlt3-555)は、DSFデータ及び導関数曲線のシフトによって確認されるように、Tmが約3℃向上したことを示した。Flt3に関する熱勾配の静的光散乱データでは、このFlt3-444及びFlt3-555のような向上が見られないが、これらはFlt3-WTと比較して同等のTagg値を有している。注目すべきことに、Flt3-233のタイトな構成ではTaggが大幅に減少しており、このことは、Flt3-444、Flt3-555、及びFlt3-WTと比較して、この変異体が容易に凝集する可能性があるということを示し得る。
【0186】
MslnのHHLL変異体の場合では、DSF又は導関数曲線に対する任意の著しい変化、従ってTmの著しい変化は観察されなかった。しかしながら、興味深いことに、MslnのHHLL変異体のTaggの特性において著しい差異が見られなかった。ここで、Msln-233、Msln-444、及びMsln-555のTagg値では、約2~3℃の向上が観察された。このことは、実際に、MslnのHHLL変異体が、標準型Msln BiTEと比較して向上した凝集特性を有することを示唆している。Dll3のHHLL及び標準型BiTEにおいて類似した傾向が観察された。データは、実際にHHLL構成が標準型の構成よりも性能が優れている可能性があることを示唆している。
【0187】
促進応力試験
促進応力条件下で、HHLL構成の性能を評価した。BiTEのパネルを40℃でインキュベートし、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によってT0、2週(2W)及び4週(4W)の時点で凝集を測定した。高分子量(HMW)ピーク、主ピーク、及び低分子量(LMW)ピークを積分することによって凝集レベルを定量化した。興味深いことに、Flt3のHHLL変異体がタンパク質安定性(即ち、ICD及びTm)について最大の向上レベルを示した前回のデータとは異なり、それらの凝集特性において著しい向上は見られなかった。しかしながら、このことはFlt3についてSLSで得られたTaggデータと一致しており、Taggにおける差は見られなかった。SLSデータは、Tagg値の低下によって示唆されるように、Flt-233、即ち「タイト」な構成は、凝集する傾向が高い可能性があることを示唆しており、実験上のSEC測定でこのことが観察されたことにも留意すべきである。Msln及びDll3の両方のHHLL変異体では、向上したTagg特性を有しており、SECによってMsln/Dll3-444及びMsln-555変異体の凝集特性に向上が見られた。Msln-444及び555のBiTEは最大の向上を示した。444変異体は、4週における時間経過と共に、WTと比較して半分となる凝集レベルを示した。興味深いことに、Msln-555変異体は完全に可逆的な凝集を有するように見え、HMW種は4週にわたって検出不可能な量まで低下した。陰性対照として、理想的でないリンカー長を有するDll3-332のHHLL変異体が含まれている。このタンパク質は、分子モデリングで観察されるように、末尾の軽鎖が折り畳まれるのを阻害する可能性が高い、短い最終リンカーを含んでいた。このタンパク質は時間の経過と共にWT又はHHLL変異体よりも容易に凝集し、このことは本発明者らの分子モデリング手法の妥当性を認めるものであった。まとめると、これらのデータにより、最適化されたリンカー長を有するHHLL構成は、凝集に対する向上をもたらすことができるか、又は少なくともWTと同等であるということが示唆された。
【0188】
タンパク質のクリッピング
促進応力に誘発される凝集を調査することに加えて、タンパク質のクリッピングについて検査した。標的ドメイン又はT細胞結合ドメインのいずれかを接続するリンカーへのクリッピングは、薬剤の効力及び有効性に最終的に有害な影響を与えるため、クリッピングはBiTEにとって重大な問題である。scFcを含む更なる部位へのクリッピングは、薬力学的/動態学的特性に影響を与える可能性がある。このような理由から、還元型キャピラリー電気泳動(rCE)を使用して、T0、2W、及び4Wにおけるタンパク質のクリッピングについてBiTEのパネルを評価した。本実験の結果を図11に示す。明確にするために、Flt3-444変異体の例示的なrCEを40℃でT0及び4Wで追跡したものを、LMWピーク及び主ピーク領域の境界を画定した状態で示している。Flt3 BiTEは最も変化の高いクリッピングのレベルを示していたが、Flt-444変異体はWTのHLE-BiTEよりも優れた性能を示しており、クリッピング事象が10~15%少なかった。「タイト」なFlt3-233タンパク質はWTのように機能する一方で、最も長いリンカーを有する「ルーズ」なFlt3-555タンパク質は2Wで最大のクリッピングの程度を示し、更に4Wまでにはこれらのクリッピングされたセグメントが分解されているということにも留意すべきである。驚くべきことに、「ミディアム及びルーズ」なMsln及びDll3、即ち444タンパク質及び555タンパク質については、4Wで40℃の応力を受けた試料においてクリッピングが5~10%減少していることが確認された。リンカー長に応じたタンパク質のクリッピングへの影響があるように思われた。このデータは、一般的に、444のHHLL構成が、HLE-BiTEのパネル全体で忍容性が良好であるように思われることを示唆している。
【0189】
冷凍状態(-20℃)安定性
1mg/mlのタンパク質試料のそれぞれの100μLのアリコートを、-20℃で3部冷凍した。タンパク質試料を、t0、2週、4週、及び8週時点で(室温にて)解凍した。試料を解凍すると、直ちにサイズ排除クロマトグラフィーHPLCにかけて主ピークの割合を定量化した。WTの二重特異性構築物と同等な冷凍状態の安定性が、様々なリンカー長のHHLL構築物(例えば、444及び555構築物)で得られている。
【0190】
実施例6
凍結融解安定性アッセイ
1mg/mlのタンパク質試料のそれぞれの100μLを、1.5mLのエッペンドルフチューブ中で3部冷凍した。-80℃の冷凍庫からタンパク質を取り出して室温にすることでタンパク質を解凍し、続いてこのタンパク質を-80℃の冷凍庫に戻すことによって再度冷凍した。1回、5回、及び10回の凍結融解サイクルで試料を試験した。結果を図15に示す。WTの二重特異性構築物と同等な安定性が、様々なリンカー長のHHLL構築物(例えば、444及び555構築物)で得られている。1回の凍結融解ではHHLLのHMWが高いが、HMWは凍結融解サイクルにわたって一様に低下しており、このことは、HHLL構成が凍結融解と適合するものであることを示している。
【0191】
実施例7
細胞ベースの活性アッセイ
恒常的に発現するホタルルシフェラーゼを定量化することによって標的細胞の生存率を測定し、Steady-Glo Luciferase Assay System(Promega)によって実施した。要約すると、本アッセイでは、CD3を発現するヒト皮膚T細胞リンパ球細胞株であるHuT-78細胞を、メソセリンを発現するヒト卵巣癌細胞株であるOVCAR-8-Luc細胞とインキュベートし、細胞数と生存率とのマーカーとしてルシフェラーゼを恒常的に発現するように改変した。Msln BiTEタンパク質を0.01ng/mL~5ng/mLの範囲で3部希釈し、96ウェル、全面積、平底、組織培養処理済み、無菌、白色ポリスチレンプレート(Costar、#3917)に入れた。HutT-78 T細胞とOVCAR-8-Luc Msln発現細胞とをそれぞれ10:1の割合で含むプレートに細胞を加え、最低24時間インキュベートした後、Steady-Glo試薬を添加した。Promega社のプロトコールに従い、再構成したSteady-Glo試薬を添加し(1ウェルあたり25μL)、アッセイプレートを室温で30分間インキュベートした。超高感度の発光検出器を備えたEnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer)によって発光を定量化した。基準/対照としてMsln-WTを使用して、データを100%に正規化した。
【0192】
この細胞ベースの細胞毒性アッセイを使用して、T細胞媒介性の細胞殺傷におけるFlt3及びMsln HHLL BiTEパネルの活性を評価した。本アッセイでは、Flt3マーカー及びMslnマーカーの両方を発現するヒト由来のT細胞及びヒト卵巣癌細胞株、並びにFlt3又はMslnのBiTE WT及びHHLL分子のいずれかとインキュベートしたルシフェラーゼレポーターを使用した。単純化するために、効力データをそれぞれのWTのHLE-BiTEに正規化した。Flt3-HHLL BiTEは全てWTと同様の効力を保持していた。Msln-HHLL BiTEによる効力は、WTのMsln HLE-BiTEと比較して全体的に約75%低下することが観察された。本実験の結果を図13に示す。
【0193】
本明細書に引用されるあらゆる文献は、全ての目的のためにその全体が参考によって本明細書に組み込まれる。
【0194】
本発明は、個々の本発明の実施形態の単一の説明並びに機能的に同等な本発明の方法及び構成要素として意図される、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際に、本明細書に図示され記載されるものに加えて、本発明の様々な変更形態は、上述の説明及び添付図面から当業者に明らかになるであろう。そのような変更形態は、特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0195】
配列
例示的なリンカー配列
GGGGS(配列番号1)
GGGGSGGGGS(配列番号2)
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号3)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号4)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号5)
GGGGQ(配列番号6)
GGGGQGGGGQ(配列番号7)
GGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号8)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号9)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号10)
GGGGSAAA(配列番号11)
TVAAP(配列番号12)
ASTKGP(配列番号13)
AAA(配列番号14)
GGNGT(配列番号15)
YGNGT(配列番号16)
【0196】
以下の配列は、発現の際に除去されるN末端シグナルペプチドを含んでいることに留意されたい。シグナルペプチド配列は、以下の通りである:MDMRVPAQLLGLLLLWLRGARC(配列番号52)。
【0197】
標的1:dll3_332(配列番号17)
【化1】
【0198】
標的2:dll3_444(配列番号18)
【化2】
【0199】
標的3:dll3_555(配列番号19)
【化3】
【0200】
標的4:dll3_WT_intact_HLHL_scFCfromFlt3(配列番号20)
【化4】
【0201】
標的5:FLT3_ _AT_Kozak(WT)(配列番号21)
【化5】
【0202】
標的6:FLT3_233(配列番号22)
【化6】
【0203】
標的7:FLT3_444(配列番号23)
【化7】
【0204】
標的8:FLT3_555(配列番号24)
【化8】
【0205】
標的9:MSLN_444_noscFC(配列番号25)
【化9】
【0206】
標的10:MSLN_H1L1H2L2_no_scFC(WT)(配列番号26)
【化10】
【0207】
標的11:MSLN_ _H1L2L1H2_noSCFC(配列番号27)
【化11】
【0208】
標的12:MSLN_L1H2H1L2_noscFC(配列番号28)
【化12】
【0209】
標的13:MSLN L1L2H1H2_noscFC(配列番号29)
【化13】
【0210】
標的14:MSLN_L2H1H2L1_noscFC(配列番号30)
【化14】
【0211】
標的15:MSLN_233(配列番号31)
【化15】
【0212】
標的16:MSLN 355(配列番号32)
【化16】
【0213】
標的17:MSLN_444(配列番号33)
【化17】
【0214】
標的18:MSLN_555(配列番号34)
【化18】
【0215】
標的19:MSLN_with scFC(WT)(配列番号35)
【化19】
【0216】
Fc領域(36~39)
【0217】
【表4】
【0218】
配列番号40 成熟ヒトCD3εのアミノ酸配列
【化20】
【0219】
配列番号41 カニクイザルの成熟CD3εのアミノ酸配列
【化21】
【0220】
配列番号42 ヒトCD3εの細胞外ドメインのアミノ酸配列
【化22】
【0221】
配列番号43 ヒトCD3εのアミノ酸1~27
qdgneemgg itqtpykvsi sgttvilt
【0222】
DLL3 Heavy(配列番号44)
【化23】
【0223】
DLL3 Light(配列番号45)
EIVLTQSPGTLSLSPGERVTLSCRASQRVNNNYLAWYQQRPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYDRSPLTFGCGTKLEIK
【0224】
FLT3 Heavy(配列番号46)
【化24】
【0225】
FLT3 Light(配列番号47)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGIRNDLGWYQQKPGKAPKRLIYAASTLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPEDFATYYCLQHNSYPLTFGCGTKVEIK
【0226】
MSLN Heavy(配列番号48)
【化25】
【0227】
MSLN Light(配列番号49)
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGINTWLAWYQQKPGKAPKLLIYGASGLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQAKSFPRTFGQGTKVEIK
【0228】
CD3 Heavy(配列番号50)
【化26】
【0229】
CD3 Light(配列番号51)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWYSNRWVFGGGTKLTVL
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11-1】
図11-2】
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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