(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】平角線の絶縁被膜剥離方法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/12 20060101AFI20250407BHJP
B26D 3/00 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
H02G1/12 060
B26D3/00 603Z
(21)【出願番号】P 2022148548
(22)【出願日】2022-09-16
【審査請求日】2024-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松葉 勇介
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-040441(JP,A)
【文献】特開2022-052404(JP,A)
【文献】特開2001-086617(JP,A)
【文献】特開2015-061419(JP,A)
【文献】特開2022-014943(JP,A)
【文献】特開2019-170120(JP,A)
【文献】国際公開第2022/070518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
B26D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線の対向する2辺の絶縁被膜を、当該平角線の長さ方向に沿う所定範囲に亘って剥離する第1の剥離工程と、
前記2辺の両端点が、前記平角線の長さ方向に沿ってそれぞれ形成する稜線の位置を、前記所定範囲に亘って外側に移動させる角部移動工程と、
前記所定範囲に亘って、外側に移動させた前記稜線を含む角部に面取部を形成する面取工程と、
前記平角線の前記2辺と直交する2辺の絶縁被膜を、前記所定範囲に亘って剥離する第2の剥離工程と、を順に行う
平角線の絶縁被膜剥離方法。
【請求項2】
前記角部移動工程は、
前記所定範囲に亘って、前記平角線の対向する2辺の前記稜線の近傍に、それぞれ、前記平角線の長さ方向に沿って、先端ほど断面積が小さい突当部を備える第1の型を押し当てる、
請求項1に記載の平角線の絶縁被膜剥離方法。
【請求項3】
前記角部移動工程は、
前記所定範囲に亘って、前記平角線の対向する2辺の各々の略中央に、それぞれ、前記平角線の長さ方向に沿って、先端ほど断面積が小さい突当部を備える第2の型を押し当てる、
請求項1に記載の平角線の絶縁被膜剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角線の絶縁被膜剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばモータのステータコイル等に使用される平角線の絶縁被膜を剥離する前に、平角線の対向する2辺の両端を塑性変形させることによって面取りを行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された平角線の製造方法では、塑性変形させた際に、平角線の左右側面の絶縁被膜が内側に入り込んでしまう可能性があった。そのため、後工程において平角線の左右側面の絶縁被膜を剥離する際に、内側に入り込んだ絶縁被膜が残存してしまうおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、絶縁被膜を残存させることなく剥離することが可能な平角線の絶縁被膜剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明の平角線の絶縁被膜剥離方法は、平角線の対向する2辺の絶縁被膜を、平角線の長さ方向に沿う所定範囲に亘って剥離する第1の剥離工程と、2辺の両端点が、平角線の長さ方向に沿ってそれぞれ形成する稜線の位置を、所定範囲に亘って外側に移動させる角部移動工程と、所定範囲に亘って、外側に移動させた稜線を含む角部に面取部を形成する面取工程と、平角線の2辺と直交する2辺の絶縁被膜を、所定範囲に亘って剥離する第2の剥離工程と、を順に行うことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、絶縁被膜を残存させることなく剥離することができる。
【0008】
また、本発明に係る平角線の絶縁被膜剥離方法において、角部移動工程は、所定範囲に亘って、平角線の対向する2辺の稜線の近傍に、それぞれ、平角線の長さ方向に沿って、先端ほど断面積が小さい突当部を備える第1の型を押し当てる。
【0009】
この構成によれば、角部移動工程に係る加工を曲刃によって実現できるため、定期的な刃の交換を不要とすることができる。
【0010】
また、本発明に係る平角線の絶縁被膜剥離方法において、角部移動工程は、所定範囲に亘って、平角線の対向する2辺の略中央に、平角線の長さ方向に沿って、先端ほど断面積が小さい突当部を備える第2の型を押し当てる。
【0011】
この構成によれば、角部移動工程に係る加工を曲刃によって実現できるため、定期的な刃の交換を不要とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、絶縁被膜を残存させることなく剥離することが可能な平角線の絶縁被膜剥離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、絶縁被膜剥離を施された平角線の一例を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、平角線の絶縁被膜剥離の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、平角線の長辺の絶縁被膜を剥離する方法を説明する図である。
【
図4A】
図4Aは、平角線の角部の移動加工を行う方法を説明する図である。
【
図4B】
図4Bは、平角線の角部の移動加工に用いる曲刃の別の形態を示す図である。
【
図5】
図5は、平角線の角部の面取加工を行う方法を説明する図である。
【
図6】
図6は、平角線の短辺の絶縁被膜を剥離する方法を説明する図である。
【
図7】
図7は、平角線の窪み加工を行う方法を説明する図である。
【
図8】
図8は、平角線の切断・面取加工を行う方法を説明する図である。
【
図9】
図9は、平角線の角部の移動加工を行う別の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
(絶縁被膜が剥離された平角線の概略構造)
図1を用いて、本発明によって絶縁被膜が剥離された平角線の概略構造を説明する。
図1は、絶縁被膜剥離を施された平角線の一例を示す外観斜視図である。
【0016】
平角線10は、矩形断面を有する導体12の表面に絶縁被膜13が形成された構造を有する。このような平角線10の先端部の絶縁被膜13を剥離して導体12を露出させ、異なる導体12同士を溶接することによって、モータのステータコイルが形成される。
【0017】
図1は、本開示の絶縁被膜剥離方法を用いて、平角線10の先端部の絶縁被膜13を剥離した状態の一例を示す。
【0018】
平角線10は、Y軸に沿って延びる長辺14aと、Z軸に沿って延びる短辺14bとが形成する矩形断面を有する。平角線10の内部は、銅等の導通性を有する導体12で形成されており、その外側が、エナメル等の非導電性の絶縁被膜13で被覆されている。そして、平角線10の先端部は、絶縁被膜13が剥離されて、導体12が露出した状態になっている。なお、本実施形態では長辺14aは短辺14bよりも長いものとして説明するが、長辺14aと短辺14bとが同じ長さであってもよい。また、長辺14aと短辺14bとが逆になってもよい。即ち、以下の説明で、長辺14a、短辺14bと記載されている箇所は、長辺14aを短辺14bと読み替えて、短辺14bを長辺14aと読み替えてもよい。
【0019】
絶縁被膜13が剥離された平角線10の先端部には、上下面15aと左右面15bと先端面15cとが形成される。上下面15aは、導体12の長さ方向に沿って形成される、XY平面に沿う面である。左右面15bは、導体12の長さ方向に沿って形成される、XZ平面に沿う面である。先端面15cは、導体12の先端に形成される、YZ平面に沿う面である。
【0020】
導体12の上下面15aと左右面15bとの交線である稜線(角部)の位置には、面取部16aが形成される。また、導体12の左右面15bと先端面15cとの交線の位置には、面取部16bが形成される。更に、導体12の上下面15aと先端面15cとの交線の位置には、面取部16cが形成される。これらの面取部16a,16b,16cを形成することによって、後工程で導体12を溶接して形成したコイルに、絶縁のための絶縁粉体塗装を行う際に、吹き付けられた粉体が導体12の面取部に確実に付着するため、強固な絶縁被膜を形成することができる。
【0021】
(絶縁被膜の剥離処理の流れ)
図2を用いて、平角線10の絶縁被膜13を剥離する処理の流れを説明する。
図2は、平角線の絶縁被膜剥離の手順の一例を示すフローチャートである。
【0022】
まず、平角線10の長辺14aに沿って、所定範囲Rに亘って絶縁被膜13を剥離する(ステップS1)。ステップS1で行う加工方法について、詳しくは後述する(
図3参照)。なお、ステップS1の工程が、本開示における第1の剥離工程の一例である。
【0023】
次に、絶縁被膜13を剥離した長辺14aの両端の稜線(角部)の位置を、所定範囲Rに亘って外側に僅かに移動させる移動加工を行う(ステップS2)。ステップS2で行う加工方法について、詳しくは後述する(
図4a参照)。なお、ステップS2の工程が、本開示における角部移動工程の一例である。
【0024】
次に、ステップS2で外側に移動させた稜線を含む角部に面取部16aを形成する面取加工を行う(ステップS3)。ステップS3で行う加工方法について、詳しくは後述する(
図5参照)。なお、ステップS3の工程が、本開示における面取工程の一例である。
【0025】
次に、平角線10の短辺14bに沿って絶縁被膜13を剥離する(ステップS4)。ステップS4で行う加工方法について、詳しくは後述する(
図6参照)。なお、ステップS4の工程が、本開示における第2の剥離工程の一例である。
【0026】
次に、導体12の両側面に窪み20a,20b(
図7参照)と面取部16bとを形成する窪み加工を行う(ステップS5)。ステップS5で行う加工方法について、詳しくは後述する(
図7参照)。
【0027】
最後に、窪み20aと窪み20bとを通る位置で導体12を切断して、切断した位置に面取部16cを形成する面取加工を行う(ステップS6)。ステップS6で行う加工方法について、詳しくは後述する(
図8参照)。
【0028】
(長辺に沿う絶縁被膜の剥離)
図3を用いて、
図2のステップS1で行う、平角線10の長辺14aに沿う絶縁被膜13を剥離する第1の剥離工程について詳しく説明する。
図3は、平角線の長辺の絶縁被膜を剥離する方法を説明する図である。なお、平角線10はX軸に沿って配置されており、長辺14a(
図1参照)がY軸に平行、短辺14b(
図1参照)がZ軸に平行に配置されているものとする。
【0029】
加工前の平角線10は、
図3(a)に示すように、X軸に沿って長く延びた状態になっている。ここでは、平角線10の所定範囲Rに亘って、長辺14aに沿って絶縁被膜13を剥離する。
【0030】
平角線10は、A-A断面図に示すように、導体12の周囲が絶縁被膜13に被覆されている。
【0031】
絶縁被膜13の剥離は、
図3(b)に示すように、所定範囲Rに亘る切刃30a,30bを、平角線10の表面の絶縁被膜13に当てて、長辺14aに沿う方向、即ちY軸に沿って移動させることによって行う。具体的には、B-B断面図に示すように、平角線10のY軸方向負側にパット33を押し当てて、Y軸方向正側に下型34を押し当てた状態で、平角線10のZ軸負側の面に沿って切刃30aをY軸負側から正側に向かって移動させる。また、平角線10のZ軸正側の面に沿って切刃30bをY軸負側から正側に向かって移動させる。これによって、切刃30a,30bは、それぞれ、所定範囲Rに亘って、平角線10のXY平面に沿う絶縁被膜13を切削する。
【0032】
これによって、
図3(c)に示すように、所定範囲Rの領域に導体12が露出する。
【0033】
(角部の移動加工)
図4A,
図4Bを用いて、
図2のステップS2で行う、平角線10の角部を移動する角部移動工程について詳しく説明する。
図4Aは、平角線の角部の移動加工を行う方法を説明する図である。
図4Bは、平角線の角部の移動加工に用いる曲刃の別の形態を示す図である。
【0034】
本ステップでは、
図4A(a)に示すように、平角線10に、Z軸負側から型40aを押し当てることによって成型(例えばコイニングによる塑性変形)を行う。また、Z軸正側から型40bを押し当てることによって成型を行う。型40aの先端には、所定範囲Rに亘って、高さが等しい曲刃42aと曲刃43aとが形成されている。曲刃42a,43aは、先端(Z軸正側)ほど断面積が小さくなっており、曲刃42a,43aの先端は、平角線10の所定範囲Rに亘って、X軸に沿って導体12と線接触する。なお、曲刃42a,43aは、いずれも、刃先の内側がZ軸に沿っており、刃先の外側が約45°の角度を有している。曲刃42a,43aは、それぞれ、平角線10の短辺(Z軸に沿う辺)に形成された絶縁被膜13と導体12との境界位置の付近に押し当てられる。ここで、型40a,40bは、本開示における第1の型の一例である。また、曲刃42a,43aは、本開示における突当部の一例である。
【0035】
また、型40bの先端にも、所定範囲Rに亘って、高さが等しい曲刃42bと曲刃43bとが形成されている。曲刃42b,43bは、先端(Z軸負側)ほど断面積が小さくなっており、曲刃42b,43bの先端は、平角線10の所定範囲Rに亘って、X軸に沿って導体12と線接触する。なお、曲刃42b,43bは、いずれも、刃先の内側がZ軸に沿っており、刃先の外側が約45°の角度を有している。曲刃42b,43bは、それぞれ、平角線10の短辺(Z軸に沿う辺)に形成された絶縁被膜13と導体12との境界位置の付近に押し当てられる。ここで、曲刃42b,43bは、本開示における突当部の一例である。
【0036】
平角線10に、曲刃42a,43aと曲刃42b,43bとを押し当てることによって、平角線10は、刃先の外側に向かって塑性変形する。この塑性変形によって、X軸に沿って平角線10の角部を形成する稜線18の位置が、
図4A(a)に示す位置から、
図4A(b)に示す位置、即ちY軸方向外側に移動する。これにより、稜線18が、稜線18aの位置に移動する。なお、曲刃42a,43aと曲刃42b,43bとの押し当て量は僅かであるため、
図4A(b)に示すように、平角線10の塑性変形量も僅かである。
【0037】
なお、角部の移動加工に用いる曲刃の刃先の角度は45°に限定されるものではない。例えば、
図4Bに示す型44aのように、刃先の内側と外側がそれぞれ45°の角度を有して、刃先の角度が90°をなす曲刃46aと曲刃47aを用いて成型を行っても、
図4A(b)と同様に、平角線10の稜線18の位置を、稜線18aの位置に移動させることができる。
【0038】
(角部の面取加工)
図5を用いて、
図2のステップS3で行う、角部の面取工程について詳しく説明する。
図5は、平角線の角部の面取加工を行う方法を説明する図である。
【0039】
本ステップでは、前記した角部の移動加工によって移動した4か所の角部(稜線18aを含む領域)をZ軸に沿って塑性変形させることによって、面取加工を行う。
【0040】
面取加工は、平角線10に、Z軸負側から型50aを押し当てて、Z軸正側から型50bを押し当てて、成型(例えばコイニングによる塑性変形)を行うことによって行う。型50aの先端には、所定範囲Rに亘って、高さが等しい曲刃52aと曲刃53aとが形成されている。曲刃52a,53aは、Y軸方向に対して約25°の傾斜面を有する。なお、傾斜面の傾きは25°に限定されるものではなく、加工する平角線10に応じて適切な角度が選定される。
【0041】
型50aの曲刃52a,53aが備える傾斜面が、平角線10の角部に押し当たって押圧されることによって、
図5(b)に示すように、平角線10の角部に面取部16aが形成される。このとき、角部の移動加工によって外側に移動した稜線18aの位置も、Z軸に沿って塑性変形して、
図5(b)に示すように、Z軸正側に移動する。
【0042】
なお、型50bも、型50aと同様の構造の曲刃52bと曲刃53bとを備える。曲刃52bと曲刃53bとは、Z軸正側から平角線10に押し当てられて、面取部16aを形成する。
【0043】
(短辺に沿う絶縁被膜の剥離)
図6を用いて、
図2のステップS4で行う、平角線10の短辺14bに沿う絶縁被膜13を剥離する第2の剥離工程について詳しく説明する。
図6は、平角線の短辺の絶縁被膜を剥離する方法を説明する図である。
【0044】
本ステップでは、前記した面取加工が終了した後で、平角線10の所定範囲Rに亘って、平角線10の短辺(Z軸に沿う辺)に沿って、絶縁被膜13を剥離する。
【0045】
絶縁被膜13の剥離は、
図6(a)に示すように、所定範囲Rに亘る切刃60aと切刃60bを、面取加工された平角線10の導体12と絶縁被膜13との境界付近に当てて、Z軸方向に移動させることによって行う。このとき、平角線10のZ軸方向負側にパット63を押し当てて、Z軸方向正側に下型64を押し当てた状態で、平角線10の左右両側面に沿って切刃60a,60bを、Z軸負側から正側に向かって移動させる。これによって、切刃60a,60bは、それぞれ、平角線10のXZ平面に沿う絶縁被膜13を切削する。このとき、導体12と絶縁被膜13との境界は、前記した角部の面取加工によって、Y軸方向外側に塑性変形しているため、切刃60aと切刃60bとで絶縁被膜13を剥離した際に、残存する絶縁被膜13は生じない。
【0046】
(窪み加工)
図7を用いて、
図2のステップS5で行う窪み加工について詳しく説明する。
図7は、平角線の窪み加工を行う方法を説明する図である。
【0047】
本ステップでは、絶縁被膜13が剥離された導体12のXZ平面に沿う左右側面の略中央部に、Z軸に沿う窪み20aと窪み20bを形成する。
【0048】
窪み20aと窪み20bは、平角線10に対して、Z軸負側から、
図7(a)に示す曲刃72aが形成された型70aと、曲刃72bが形成された型70bとを押し当てることによって形成する。
【0049】
曲刃72a,72bは、略U字形状を有して、平角線10の導体12に押し当たることによって、導体12の左右側面の一部を、
図7(b)に示すように略U字形状に押し潰す。これによって、窪み20aと窪み20bが形成される。なお、窪み20a,20bの根元には、それぞれ、導体12の左右側面の位置に面取部16bが形成される。
【0050】
(平角線の切断および面取加工)
図8を用いて、
図2のステップS6で行う平角線10の切断および面取加工について詳しく説明する。
図8は、平角線の切断・面取加工を行う方法を説明する図である。
【0051】
本ステップでは、導体12を、窪み加工で形成した窪み20a,20bの位置で切断する。
【0052】
導体12の切断は、
図8(a)に示すように、窪み20bの位置に押し当てた切刃80を、Y軸に沿って窪み20aの位置まで移動させることによって行う。
【0053】
切刃80は、Z軸負側に傾斜部80aと傾斜部80bとを備える。この傾斜部80a,80bによって、切断された導体12の切り口には、Y軸に沿って、
図8(b)に示す面取部16cが形成される。
【0054】
また、切刃80は、Z軸正側に傾斜部80cと傾斜部80dとを備える。この傾斜部80c,80dによって、切断された導体12の切り口には、Y軸に沿って面取部16cが形成される。
【0055】
以上説明した、ステップS1からステップS6までの加工を、平角線10の所定の間隔毎に行うことによって、両端部に導体12が露出した複数の平角線10が形成される。これらの複数の平角線10は、ステータコアの周りに隣接した状態で配置される。そして、隣接する平角線10の端部同士を溶接することによって、ステータコアに巻回されたステータコイルが形成される。
【0056】
(本実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る平角線の絶縁被膜剥離方法は、平角線10の対向する2辺(長辺14a)の絶縁被膜13を、当該平角線10の長さ方向に沿う所定範囲Rに亘って剥離する第1の剥離工程と、長辺14aの両端点が、平角線10の長さ方向に沿ってそれぞれ形成する稜線18の位置を、所定範囲Rに亘って外側に移動させる角部移動工程と、所定範囲Rに亘って、外側に移動させた稜線18を含む角部に面取部16aを形成する面取工程と、平角線10の長辺14aと直交する短辺14bの絶縁被膜13を、所定範囲Rに亘って剥離する第2の剥離工程と、を順に行う。したがって、平角線10の絶縁被膜13を残存させることなく剥離することができる。
【0057】
また、本実施の形態に係る平角線の絶縁被膜剥離方法において、角部移動工程は、所定範囲Rに亘って、平角線10の対向する2辺(長辺14a)の稜線18の近傍に、それぞれ、平角線10の長さ方向に沿って、先端ほど断面積が小さい曲刃42a,43a(突当部)を備える型40a(第1の型)と、曲刃42b,43b(突当部)を備える型40b(第1の型)とを押し当てる。したがって、平角線10の角部を含む領域を塑性変形させることによって、外側に移動させることができる。これによって、後工程で短辺14bに沿う絶縁被膜13を剥離した際に、絶縁被膜13を残存させることなく剥離することができる。また、切刃ではなく曲刃42a,43a,42b,43bで加工を行うため、刃の寿命を延ばすことができる。
【0058】
(実施形態の変形例)
図9を用いて、平角線10の角部の移動加工を行う別の方法を説明する。
図9は、平角線の角部の移動加工を行う別の方法を説明する図である。
【0059】
図4Aでは、型40aの先端に形成された、X軸に沿う所定範囲Rに亘る曲刃42aと曲刃43aとを平角線10に押し当てて角部の移動加工を行う方法を説明したが、角部の移動加工を行う方法は、これに限定されない。
【0060】
例えば、
図9(a)に示すように、平角線10の長辺の略中央に、先端に、X軸に沿う所定範囲Rに亘る曲刃92aを有する型90aを押し当てることによって、平角線10の角部が形成する稜線18の位置を外側に移動させてもよい。
【0061】
曲刃92aは、先端(Z軸正側)ほど断面積が小さくなっており、曲刃92aの先端は、平角線10の所定範囲Rに亘って、X軸に沿って導体12と線接触する。なお、曲刃92aの先端は、刃先の両側とも、Z軸と30°の傾きをなす。即ち、刃先の角度は約60°である。
【0062】
このような曲刃92aを、平角線10の導体12に押し当てることによって、導体12は塑性変形する。この塑性変形は、曲刃92aを押し当てた箇所からY軸に沿って左右に伝わることにより、稜線18の位置が、
図9(b)に示す稜線18aの位置に移動する。即ち、
図4Aで説明した角部の移動加工と同じ加工を行うことができる。
【0063】
平角線10の裏面側も、同様に、型90bの先端に形成された曲刃92bを押し当てることによって、角部の移動加工を行うことができる。ここで、型90a,90bは、本開示における第2の型の一例である。また、曲刃92a,92bは、本開示における突当部の一例である。
【0064】
(本実施形態の変形例の作用効果)
以上説明したように、本実施の形態の変形例に係る平角線の絶縁被膜剥離方法において、角部移動工程は、所定範囲Rに亘って、平角線10の対向する2辺(長辺14a)の各々の略中央に、それぞれ、平角線10の長さ方向に沿って、先端ほど断面積が小さい曲刃92a,92b(突当部)を備える型90a,90b(第2の型)を押し当てる。したがって、平角線10の角部を含む領域を塑性変形させることによって、外側に移動させることができる。これによって、後工程で短辺14bに沿う絶縁被膜13を剥離した際に、絶縁被膜13を残存させることなく剥離することができる。また、切刃ではなく曲刃92a,92bで加工を行うため、刃の寿命を延ばすことができる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上述した実施の形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
10 平角線
12 導体
13 絶縁被膜
14a 長辺
14b 短辺
15a 上下面
15b 左右面
15c 先端面
16a,16b,16c 面取部
18,18a 稜線
20a,20b 窪み
30a,30b,60a,60b 切刃
33,63 パット
34,64 下型
40a,40b,44a 型(第1の型)
42a,42b,43a,43b,46a,47a 曲刃(突当部)
50a,50b 型
52a,53a,52b,53b 曲刃
70a,70b 型
72a,72b 曲刃
80 切刃
80a,80b,80c,80d 傾斜部
90a,90b 型(第2の型)
92a,92b 曲刃(突当部)
R 所定範囲