(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】外科用顕微鏡システム
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20250407BHJP
A61B 90/20 20160101ALI20250407BHJP
A61F 11/20 20220101ALI20250407BHJP
【FI】
G02B21/00
A61B90/20
A61F11/20
(21)【出願番号】P 2022545412
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 US2021014609
(87)【国際公開番号】W WO2021150887
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2024-01-22
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522296619
【氏名又は名称】スパイラル・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ユージーン・デ・ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】シグネ・エリクソン
(72)【発明者】
【氏名】ブラッド・レブリング
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第03539009(DE,A1)
【文献】特開平05-130974(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0031941(US,A1)
【文献】特開昭55-110528(JP,A)
【文献】国際公開第1994/010596(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
A61B 90/20
A61F 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用顕微鏡と、
鼓膜に対して外部に位置決め可能であり、前記外科用顕微鏡に
位置的に調整可能に取り付けられる立体鏡インバータレンズシステムと、
前記立体鏡インバータレンズシステムから離間され、前記鼓膜を通じた中耳部位への視覚化を容易にするために前記鼓膜の一部分の中に取り付け可能な遠位レンズであって、前記遠位レンズにより取り込まれる前記中耳部位の画像が、前記外科用顕微鏡における提示のために、前記鼓膜に対して外部の前記立体鏡インバータレンズシステムへと移送可能となるように、前記立体鏡インバータレンズシステムに対して位置決め可能である遠位レンズと
を備え、
前記遠位レンズは、外耳道の長さに沿って位置すると共に、前記遠位レンズと前記立体鏡インバータレンズシステムとの間の位置および位置合せを維持する管状部材を含
み、
前記立体鏡インバータレンズシステムは、複数のレンズまたはプリズムを有し、前記中耳部位の前記画像に対する視覚化の方向を関連付けることを容易にするように前記中耳部位の前記画像を変換する、外科用顕微鏡システム。
【請求項2】
前記遠位レンズは、
前記遠位レンズの近位端におけるプリズムと、
前記遠位レンズの遠位端における広視野レンズと
を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記立体鏡インバータレンズシステムの少なくとも一部が、耳鏡内に取り付けられ、
前記耳鏡は前記外耳道に挿入され、前記外科用顕微鏡と前記遠位レンズとの間に配置される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記遠位レンズは、前記プリズムと前記広視野レンズとの間に配置されたズームレンズまたは対物レンズをさらに備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記遠位レンズは、前記遠位レンズの本体から半径方向外側に延びる2つ以上の安定化アームを備える、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記遠位レンズは、前記遠位レンズの
近位部分および遠位部分よりも小さい外径を有する腰部を画定する、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記遠位レンズは、前記広視野レンズと対物レンズとの間に1~2mmの空気ギャップを含み、前記対物レンズは前記広視野レンズと前記プリズムとの間に位置決めされ、前記広視野レンズ、前記対物レンズ、および前記プリズムのすべてが機械的に一体に結合される、請求項3に記載のシステム。
【請求項8】
前記広視野レンズおよび前記対物レンズは、
1mmから3mmの外径をそれぞれ有する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記プリズムは、前記遠位レンズの中心の長手方向軸に対して、
30度から
60度までの角度とされる近位面を有する、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記耳鏡内に取り付けられた前記立体鏡インバータレンズシステムの前記一部は、前記耳鏡に対して位置的に調整可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項11】
空所が、前記耳鏡内に、かつ前記耳鏡内に取り付けられた前記立体鏡インバータレンズシステムの前記一部の側方に画定される、請求項3に記載のシステム。
【請求項12】
前記遠位レンズに結合された光パイプをさらに備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項13】
前記遠位レンズは、細長い管状部材と、前記管状部材を通る光路を画定するための、前記管状部材に結合された複数のレンズとを含み、前記管状部材は、複数のセクションを含み、前記複数のセクションは、前記セクションの間で角度付けを可能にする、請求項3に記載のシステム。
【請求項14】
前記遠位レンズは、前記遠位レンズの遠位端から前記遠位レンズの近位端へと画像を中継するように構成された光ファイバを囲む細長い管状部材を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項15】
前記遠位レンズは、
前記遠位レンズの近位端における第1のプリズムと、
前記遠位レンズの遠位端における第2のプリズムと、
前記第1のプリズムと前記第2のプリズムとの間に配置されたズームレンズまたは対物レンズと
を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記遠位レンズは、
前記遠位レンズの近位端における、かつハウジングに結合された集光レンズ、および、
前記遠位レンズの遠位端における、かつ前記ハウジングに結合された第2のレンズ
を備え、
前記ハウジングは、前記集光レンズと前記第2のレンズとの間に内側空間を画定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記ハウジングは、半径方向に延びるフランジまたはアームを含む、請求項16に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月24日に出願された米国仮出願第62/965,481号、2020年5月13日に出願された米国仮出願第63/024,183号(参照により本明細書に完全に組み込まれる)、2020年6月17日に出願された米国仮出願第63/040,495号(参照により本明細書にその全体が組み込まれる)、2020年7月14日に出願された米国仮出願第63/051,568号(参照により本明細書に完全に組み込まれる)、2020年9月11日に出願された米国仮出願第63/077,448号(参照により本明細書に完全に組み込まれる)、2020年9月14日に出願された米国仮出願第63/078,141号(参照により本明細書に完全に組み込まれる)、2020年9月18に出願された米国仮出願第63/080,510号(参照により本明細書に完全に組み込まれる)、2020年9月21日に出願された米国仮出願第63/081,015号(参照により本明細書に完全に組み込まれる)、および2020年9月24日に出願された米国仮出願第63/082,996号(参照により本明細書に完全に組み込まれる)の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本文書は、難聴および他の耳の障害を含むが、これらに限定されない病気を診断および/または治療するために、外耳、中耳、および内耳における視覚化および手技を容易にするためのデバイス、システム、および方法に関する。いくつかの例では、システムおよび方法は、中耳腔などの、ただし、これに限定されない空洞部の中を間接的に見ることを容易にする器具および技法を含む。
【背景技術】
【0003】
人間の耳は、いくつかの例を挙げると、難聴、耳鳴り、めまいを含む平衡異常、メニエール病、前庭神経炎、前庭神経鞘腫、迷路炎、耳硬化症、耳小骨連鎖離断、コレステリン腫、外耳感染、中耳感染、神経鞘腫、および鼓膜穿孔を含むが、これに限定されない、様々な障害を受ける。
【0004】
一例では、伝音難聴(CHL)は、例えば、奇形、中耳における液の蓄積、鼓膜の分裂、腫瘍の存在、および/または耳小管への損傷に起因して、蝸牛殻における有毛細胞へと音が達するための正常な機械的な通路の障害を含む。感音難聴(SNHL)は、蝸牛殻における有毛細胞がない、またはその損傷、あるいは聴覚神経に対する損傷に起因する。SNHLは、通常、大きな雑音に曝されること、頭部外傷、老化、感染、メニエール病、腫瘍、耳毒性、アッシャー病などの遺伝性疾患、および同様のものに関連付けられる。
【0005】
ここ数年にわたり、内視鏡の使用が増加し、中耳および隣接する空間の中への広角の視認を可能にすることから、それは大きな魅力のあるものであるが、内視鏡は、操作するために外科医の手の一方を必要とし、また通常、両眼視機能を除去して、深さを評価するのを困難にし、そのため手技をより困難にし、中耳における繊細な構造を考慮するのを損なう可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本文書は、難聴および他の耳の障害を含むが、これらに限定されない病気を診断および/または治療するために、外耳、中耳、および/または内耳における視覚化および手技を容易にするなどの、ただし、これらに限定されない使用に対するデバイス、システム、および方法を述べる。例えば、本文書は、中耳腔などの、ただし、これに限定されない空洞部の中を間接的に見ることを容易にする器具および技法を含むデバイス、システム、および方法を述べる。
【0007】
特定の実装形態では、外科用顕微鏡は、インバータレンズ(1つまたは複数のレンズを含むことができる)、および遠位レンズ(1つまたは複数のレンズを含むことができる)と併せて使用される。いくつかの実施形態では、インバータレンズは、耳の外側など、体外に位置する。特定の実施形態では、インバータレンズは、外耳道の中など、体内に位置する。いくつかの実施形態では、インバータレンズの一部は、体外にあり、またインバータレンズの別の部分は、体内に位置する。
【0008】
いくつかの場合、遠位レンズは、鼓膜(「TM」)などの、ただし、これに限定されない薄膜または隔壁を横断する。特定の場合、遠位レンズは、TMなどの、ただし、これに限定されない、薄膜または隔壁における開口部を通して、視覚化を可能にするような方法で位置する。いくつかの実施形態では、遠位レンズは、2つ以上のレンズを組み合わせた組立体とすることができる。例えば、いくつかの場合、以下でさらに述べるように、広角レンズ、ズームレンズ、様々な形状のレンズ、および/またはプリズムを、遠位レンズにおいて使用することができる。加えて、いくつかの実施形態では、画像を送るために、光ファイバを使用することができる。
【0009】
外耳を介して中耳および/または内耳を視覚化する例示的なコンテキストにおいて、視覚化および手技を容易にするためのデバイス、システム、および方法が本明細書で述べられるが、本明細書で述べられる本発明の概念は、このような用途に限定されないことを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書で述べられる視覚化および手技を容易にするためのデバイス、システム、および方法は、外耳道鼓膜弁、耳内、耳介後部、耳後、および他のものを介する経乳様突起アクセス、経外耳道アクセスなどの、ただし、これらに限定されない、他の中耳および/または内耳手法に対して使用することができる。さらに本明細書で述べられる視覚化および手技を容易にするためのデバイス、システム、および方法は、中耳および/または内耳の視覚化に加えて、体内における他の空洞部または空間での使用、ならびに他の手法における使用によく適している。例えば、本デバイス、システム、および方法は、耳管、乳突洞、および他のものに関する視覚化および手技によく適している。
【0010】
本明細書で述べられるデバイス、システム、および方法は、さらなる治療技法と併せて使用することができる。例えば、本明細書で述べられるデバイス、システム、および方法は、特に、治療作用物質の送達(それはゲル、液体、または固体の形態であり得る)、抗生物質送達、遺伝子送達、デバイスもしくはインプラント送達、診断手技、および外科的手技などの、ただし、これらに限定されない治療技法と併せて使用することができる。
【0011】
いくつかの態様では、本開示は、外科用顕微鏡、立体鏡インバータレンズシステム、および遠位レンズを含む外科用顕微鏡システムを対象とする。
【0012】
このような外科用顕微鏡システムは、任意選択で、1つまたは複数の以下の特徴を含むことができる。遠位レンズは、中耳部位の視覚化を容易にするために鼓膜に配置するような寸法にすることができる。遠位レンズは、遠位レンズの近位端においてプリズムを含むことができる。遠位レンズは、遠位レンズの遠位端において広視野レンズを含むことができる。遠位レンズは、プリズムと広視野レンズとの間に配置されたズームレンズまたは対物レンズを含むことができる。遠位レンズは、遠位レンズの直ぐ隣接した近位部分および遠位部分よりも小さい外径を有する腰部を画定することができる。いくつかの実施形態では、遠位レンズは、遠位レンズの近位端に第1のプリズムと、遠位レンズの遠位端に第2のプリズムとを含む。このような遠位レンズはまた、第1のプリズムと第2のプリズムとの間に配置されたズームレンズまたは対物レンズを含むことができる。いくつかの実施形態では、遠位レンズは、遠位レンズの本体から半径方向外側に延びる2つ以上の安定化アームを備える。特定の実施形態では、遠位レンズは、遠位レンズの近位端にハウジングに結合された集光レンズと、遠位レンズの遠位端にハウジングに結合された第2のレンズとを含む。ハウジングは、集光レンズと第2のレンズの間の内部空間を画定することができる。内部空間は、気体で満たすことができる。内部空間は、液体で満たすことができる。ハウジングは、半径方向に延びるフランジまたはアームを含むことができる。いくつかの実施形態では、システムはまた、遠位レンズに取り付けられたポートデバイスを含む。いくつかの実施形態では、立体鏡インバータレンズシステムの少なくとも一部が、検鏡(耳鏡)内に取り付けられる。特定の実施形態では、検鏡内に取り付けられた立体鏡インバータレンズシステムの一部は、検鏡に対して位置的に調整可能である。空所が、検鏡内に、かつ検鏡内に取り付けられた立体鏡インバータレンズシステムの一部の側方に画定され得る。いくつかの実施形態では、システムはまた、遠位レンズに結合された光パイプを含む。遠位レンズは、細長い管状部材と、管状部材に結合された複数のレンズとを含み、管状部材を通る光路を画定することができる。このような管状部材は、複数のセクションを含むことができ、複数のセクションは、セクションの間で角度付けを可能にする。いくつかの実施形態では、遠位レンズは、遠位レンズの遠位端から遠位レンズの近位レンズへと画像を中継するように構成された光ファイバを包む細長い管状部材を含む。
【0013】
さらなる態様では、本開示は、患者の中耳腔の中を間接的に見るための方法を対象とする。方法は、(i)外科用顕微鏡、(ii)立体鏡インバータレンズシステム、および(iii)遠位レンズを備える外科用顕微鏡システムを提供することを含む。方法はまた、患者の鼓膜と接触させて遠位レンズを配置するステップと、遠位レンズにより取り込まれ、かつ立体鏡インバータレンズシステムにより外科用顕微鏡に中継された中耳腔の画像を見るステップとを含む。
【0014】
患者の中耳腔の中を間接的に見るためのこのような方法は、任意選択で以下の特徴の1つまたは複数のものを含むことができる。立体鏡インバータレンズシステムは、患者の耳に対して外部にあることができる。立体鏡インバータレンズシステムは、患者の外耳道内にあることができる。方法は、本明細書で述べられる実施形態および/または特徴のいずれかとの任意の組合せを用いた外科用顕微鏡システムの使用を含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で述べられる実施形態のいくつか、またはすべては、以下の利点の1つまたは複数のものを提供することができる。第1に、中耳腔、内耳、およびその近くの部位の現在の視覚化は、一般に、外耳道を介する、耳を侵襲的に持ち上げることにより生成される耳介後の経外耳道アクセスを通る外耳道を介する、または骨ドリルおよび他の器具を用いて生成された高侵襲性の経外耳道アクセスを介するなど、直接的に行われるアクセス経路の制約に起因して課題がある。このような状況において、多くの手技に対してなお周囲をナビゲートする必要のある影部および見えないコーナを生成する複雑かつ繊細な構造の周囲を見ることは課題が多い。さらに、アクセス経路は、外耳道の先天的な寸法および湾曲により、または経外耳道アクセス中など、骨および組織の除去を最小にしたいことにより、直径は小さい。本明細書で述べられる外科用顕微鏡システムを使用することは、外科医による両眼視を可能にし、主として手を使用しない操作を可能にする利点を有する。
【0016】
第2に、本明細書で述べられるように、中耳および/または内耳を視覚化するための外科用顕微鏡システムを使用することは、外科用顕微鏡が通常使用されるように、外耳道を容易に見下ろすことができ、かつ(例えば、視野内視野を達成するなど)中耳内で広視野へと容易に切替えできるように、外科医が快適に外科用顕微鏡を利用できるようにするさらなる利点を提供する。さらに本明細書で述べられる外科用顕微鏡システムは、大きな焦点深度とその周辺において高い解像度を提供する。
【0017】
第3に、本明細書で述べられるデバイス、システム、および方法は、器具を動作させる場所へと通すことができ、空気で満たされた空間に加えて、液で満たされた空間において機能できるようにするので有利である。
【0018】
第4に、本明細書で述べられるデバイス、システム、および方法は、最小の侵襲性で処置を容易に行えるようにする。このような最小の侵襲性技法は、回復時間、患者の不快さ、病気の再発、外科的な複雑さ、および治療コストを低減する傾向があり得る。さらに本明細書で述べる方法は、全身麻酔を必要とするのではなく、局所麻酔を用いて実施することができる。したがって、治療コスト、患者のリスク、および回復時間がさらに低減されるので有利である。
【0019】
第5に、本明細書で述べられるシステムはまた、診断目的に使用することができる。このように使用することは、手技を計画することに役立ち、治療を行う場所を変えることができ、また患者の結果を向上させる可能性がある。
【0020】
本発明の1つまたは複数の実施形態の細部は、添付図面、および以下の記述に記載される。本発明の他の特徴、目的、および利点は、本記述および図面から、また特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】いくつかの実施形態による例示的な外科用顕微鏡システムを用いて、中耳部位を視覚化するための医学的手技の概略図である。
【
図2】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る例示的な遠位レンズ組立体を示す図である。
【
図3】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体を示す図である。
【
図4】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体を示す図である。
【
図5】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体を示す図である。遠位レンズ組立体は、TMを横断するものとして示されている。
【
図6】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体を示す図である。
【
図7】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体を示す図である。
【
図8】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体を示す図である。遠位レンズ組立体は、TMにおける開口部に隣接するものとして示されている。
【
図9】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体の長手方向横断面図である。
【
図10】
図1の外科用顕微鏡システムのいくつかの実施形態の一部として含まれ得る別の例示的な遠位レンズ組立体の外耳の視点からの平面図である。遠位レンズ組立体は、TM上の位置で示され、かつ様々なタイプの器具が中耳の中へと通過できる接続されたTMポートデバイスを含む。
【
図11】いくつかの実施形態による別の例示的な外科用顕微鏡システムを用いて、中耳部位を視覚化するための医学的な手技の概略図である。
【
図12】いくつかの実施形態による別の例示的な外科用顕微鏡システムを用いて、中耳部位を視覚化するための医学的な手技の概略図である。
【
図13】
図12の外科用顕微鏡システムの使用と併せて、外科用器具の使用を示す図である。
【
図14】TMに対する、例示的な遠位レンズ組立体、光源、および外科用器具の使用を示す図である。
【
図15】いくつかの実施形態による別の例示的な外科用顕微鏡システムを用いて、中耳部位を視覚化するための医学的手技の概略図である。
【
図16】
図15の遠位レンズ組立体の長手方向横断面図である。
【
図17】外耳内で遠位レンズ組立体を支持するための周辺構造を備えた、
図15の遠位レンズ組立体の近位端図である。
【
図18】いくつかの実施形態による別の例示的な外科用顕微鏡システムを用いて、中耳部位を視覚化するための医学的手技の概略図である。
【
図19】いくつかの実施形態による別の例示的な外科用顕微鏡システムを用いて、中耳部位を視覚化するための医学的手技の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
様々な図面における同様の参照符号は、同様の要素を示す。
【0023】
図1の概略図をここで参照すると、患者10を治療するためのデバイス、システム、および方法の特定の実施形態は、例示的な外科用顕微鏡システム100を含むことができる。外科用顕微鏡システム100は、中耳40などの、ただし、これに限定されない、窪んだ空間における構造を見るのを容易にするために使用することができる。
【0024】
図示された実施形態では、外科用顕微鏡システム100は、外科用顕微鏡110(および/またはカメラ)、立体鏡インバータレンズシステム120、および遠位レンズ130を含む。中耳部位40における画像は、遠位レンズ130により取り込まれ、それは、この実施形態において、TM30における開口部内に位置する。遠位レンズ130から、画像が外耳道20を介して立体鏡インバータレンズシステム120へと移送される。外科用顕微鏡110は、立体鏡インバータレンズシステム120から画像を受け取り、それらを、外科医12が見るように提示する。外科用顕微鏡110は、両眼視または立体視を可能にし、主として外科医12による手を使わない操作を可能にする。
【0025】
立体鏡インバータレンズシステム120は、この実施形態では、外耳道20の外部にある。いくつかの実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム120は、立体鏡対角(diagonal)インバータ、またはステレオリインバータ(reinverter)とすることもできるプリズムインバータである。これは、外科医または臨床医が、見ている対象物に対する視覚化の方向を関連付けることを容易にするように画像を変換する(例えば、器具を右に移動させると、システムを通して右に動いたように見える)。特定の実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム120は、ビームスプリッタ、ステレオインバータ、および対物レンズなどの複数の部分を含むことができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、外科用顕微鏡システム100は、取付け部112を含み、それにより、立体鏡インバータレンズシステム120は、外科用顕微鏡110(またはカメラ)の枠組みに調整可能に取り付けられる。したがって、立体鏡インバータレンズシステム120は、外科用顕微鏡110の対象物と位置合せすることができる。加えて、いくつかの実施形態では、取付け部112は、長手方向調整ができるように調整され得る。
【0027】
外科用顕微鏡システム100を用いて視覚化するための光は、さらに以下で述べられるように光パイプもしくは他のソースを介して外部から提供され得る、またはシステムを通して同軸に投射され得る。この外科用顕微鏡システム100は、外科医が、治療または診断処置中に両手を使用して、両眼視もしくは立体視を有することができ、かつ外科用顕微鏡では典型的な、外耳道20を容易に見下ろすことを可能にする利点を有する。さらに、外科用顕微鏡システム100は、外科医が、大きな焦点深度と、その周辺で高い解像度とをなお有しながら、中耳40内で広視野に(例えば、視野内視野を達成するために)容易に切り替えられるようにする。さらに、外科用顕微鏡システム100は、さらに以下で述べるように、いくつかある利点の中で特に、外科医が器具を治療用に、または診断手技のために通すことを可能にして、外科医には快適である外科用顕微鏡をさらに利用し、かつ液で満たされた、または空気で満たされた空間内で機能することができる。この外科用顕微鏡システム100は、最小の侵襲性手法を用いて、患者10を治療するための治療方法およびデバイスを容易に行えるようにする。
【0028】
本明細書で提供されるこれらの例示的な実施形態の多くは、外科用顕微鏡と組み合わせて、またはそれと共に使用されて述べられるが、本概念はまた、デジタルビューイングモダリティ、または外視鏡を用いてもよく動作することが考えられる。デジタルビューイングは、高精細度、3D、湾曲したもの(curved)などとすることのできる外部モニタ上の画像ヘッドアップ(image heads up)を表示するのによく適している。ヘッドアップビューイングはまた、外耳道のピクチャインピクチャを同時に表示するのによく適しており、例として、前に述べた組立体の1つの遠位先端から、広視野のビューを示すようにする。これは、(例として)中耳腔の中への広視野のビューを同時に可能にしながら、外耳道の下方への組立体のナビゲーションを、ならびに外耳道の下方への器具の通過を向上させるので、驚くほどに有利になるはずである。
【0029】
本明細書で開示される概念が、ヘッドアップディスプレイを可能にするデジタルビューイングシステムで使用されるとき、そのレンズシステムの実施形態は、支援する人員および新しい外科医の訓練との相互作用を容易にすることができる。ヘッドアップディスプレイ、仮想現実(「VR」)、3D、および同様のシステムは、人間工学を劇的に向上することができる。
【0030】
本明細書で述べられるシステムおよび概念はまた、ナビゲーショントラッキング、および他のロボット支援の外科的モダリティと組み合わせてもよく動作する。
【0031】
いくつかの実施形態では、本明細書で述べられるシステムで使用される光源は、典型的な視覚的スペクトル源から、赤外線または他の特有のスペクトルへと置き換えることができる。赤外線などの特有のスペクトルは、組織または血管識別のために、それ自体有用であり得る。赤外線は、血管および血管系を識別するために有用である。赤外線の長い波長(>700nm)は、可視光よりも容易に組織を貫通することができ、また鼓膜を通して、中耳の優れた照明を可能にすることができるが、短波長の反射および散乱には問題が多い可能性がある。血管および特定の組織を識別するために、蛍光性の着色剤、およびICGなどの他の染料もしくは着色剤は、特定波長の光源および/または特定のフィルタと組み合わせて有用である。例としては、血管識別に適したICG(インドシアニングリーン:810nm付近に励起ピークを有する近赤外線)、および腫瘍識別のための5-アミノレブリン酸(5-ALA)またはフルオレセインがある。中耳においては、例として、これらの非標準光源が、骨の多い構造の上部で成長する真珠腫、または他の軟組織病変を識別するために使用されると特に有利なはずである。
【0032】
図2~
図10は、遠位レンズ130の様々な非限定的な例を示す。図のいくつかで示されるように、遠位レンズ130は、TM30を介して中耳の視覚化を可能にする。遠位レンズ130のいずれも、TM30を横断するように構成され(例えば、
図5で示されるように)、かつ/またはTM30における開口部に隣接して配置されるように構成され得る(例えば、
図8で示されるように)。
【0033】
遠位レンズ130は、簡単な、または複合レンズ組立体とすることができ、また広視野もしくは広角レンズ、ズームレンズ、プリズムもしくは反射鏡素子、集光レンズを単独で、または任意の組合せで有することができる。いくつかの実施形態では、遠位レンズ130は、レンズにすぐ隣接して、またはレンズから離れてプリズム素子を有するレンズである。遠位レンズ130を備える1つまたは複数のレンズは、任意の組合せで、両凸、両凹、平凸、平凹、凹凸レンズ、色収差補正、マルチレンズ、集光レンズなどとすることができる。遠位レンズ130を備えるレンズは、フリントガラス、硬化ガラス、ポリカーボネート、アクリル、または他の材料、およびそれらの組合せなどの、ただし、これらに限定されない材料から構成することができる。いくつかの実施形態では、遠位レンズ130を備えるレンズまたは組立体は、射出成形されたポリマー光学素子とすることができる。レンズの殺菌および維持に関連する困難さを除くために、ならびにORターンアラウンド時間を低減するために、使い捨ての構成要素から作られた遠位レンズ130を有することは有益であろう。いくつかの実施形態では、レンズは、曇る可能性を低減するためのコーティングを含む。
【0034】
遠位レンズ130は、個々の患者の外耳道の長さに適合するように、様々な寸法および焦点距離で作ることができる。例えば、限定することなく、19~23mm、23~27mm、および27~31mmの3つの寸法を外耳道の長さに対して利用できるようにして、最適な器具の操作性および外科医の快適さのために一貫した顕微鏡の位置決めを維持できるようにする。
【0035】
図2は、例示的な遠位レンズ組立体130aを示す。図示された実施形態では、遠位レンズ組立体130aは、その最も遠位端において広視野レンズ132aを有し、次いで1~2mmの空気ギャップがあってズームレンズまたは対物レンズ134aがあり、次いで、近位に出ていく画像角を変えるためのプリズム素子136aがあり、すべて機械的に結合される。レンズ132aおよび134aの外径は、限定することなく、約1mmから3mm、1mmから5mm、1mmから7mm、3mmから8mm、2mmから4mm、または3mmから6mmの範囲とすることができる。これらの外径寸法は、本明細書で述べられる遠位レンズ組立体のいずれにも適用することができる。プリズム136aは、外耳道の主な長手方向軸に対する鼓膜の典型的な角度に一致するように、約42度の角度(遠位レンズ組立体130aの中心の長手方向軸に対して)を有することができる。いくつかの実施形態では、プリズム136aの角度は、限定することなく、約40度から50度、30度から60度、または20度から70度の範囲にある。これらの角度パラメータは、本明細書で述べられるプリズムのいずれにも適用することができる。主対物レンズ134aは、遠位組立体130aの一部とすることができ、また例えば、両凸レンズ(例えば、60~120D)とすることができる。これらの例示的なレンズに対して、いくつかの場合、それらは、関心対象から約10mm未満にあることが好ましい。
【0036】
図3は、別の例示的な遠位レンズ組立体130bを示す。図示された実施形態では、遠位レンズ組立体130bは、その最も遠位端に、広視野レンズ132bを有し、次いで、近位に出て行く画像角を変えるためのプリズム素子136bを有する。いくつかの実施形態では、遠位レンズ組立体130bの寸法および他のパラメータは、遠位レンズ組立体130aと同じにすることができる。
【0037】
図4は、別の例示的な遠位レンズ組立体130cを示す。図示された実施形態では、遠位レンズ組立体130cは、その最も遠位端において、広視野レンズ132cを有し、次いで、1~2mmの空気ギャップがあり、次いで近位に出て行く画像角を変えるためのプリズム素子136cを有する。いくつかの実施形態では、遠位レンズ組立体130cの寸法および他のパラメータは、遠位レンズ組立体130aと同じにすることができる。
【0038】
図5は、鼓膜30を貫通して位置する別の例示的な遠位レンズ組立体130dを示す。この例で示されるように、本明細書で述べられるいずれの遠位レンズ130も、外科的手技、または診断手技の持続期間の間、TM30内に遠位レンズ130の位置を維持するのを容易にするような形状要素/機能を有することができる。このような要素は、TM30における開口部内に遠位レンズ130の摩擦嵌めを可能にし、それにより長手方向の安定性を提供できるようにする腰部138d(または腰のくびれた外側輪郭形状)を有することを含むことができる。
【0039】
本明細書で述べられる遠位レンズ130のいずれも、任意選択で、TM30に対して遠位レンズ130を容易に安定させるための他の要素を含むことができる。例えば、遠位レンズ130は、
図5で示されるようなアーム部材139daおよび139dbなどのアーム部材を含むことができる。代替的に、または加えて、本明細書で述べられる遠位レンズ130は、限定することなく、リング、他の要素との相互接続、および/または他のタイプの安定化デバイスを任意選択で含むことができる。さらに、図示されたTM30に対する安定化に加えて、本明細書で述べられる遠位レンズ130の安定化部材は、外耳道壁、鼓膜輪、他の器具もしくはアクセス部位、および/または他の隣接構造に対して安定化できることも考えられる。これらのアーム部材139daおよび139dbは、順応性がある、またはそのほかの形で調整可能であり、本明細書で述べられるいずれの遠位レンズ130からの近位に「出て行く」画像の方向および/または焦点も微調整できるようにすることもまた考えられる。
【0040】
図6は、遠位のプリズム部材132e、ズームもしくは対物レンズ134e、および近位のプリズム部材136eを備える別の例示的な遠位レンズ組立体130eを示す。プリズム部材132eおよび136eは、前に述べたように、鼓膜の平面に対して遠位の、軸外の対象物の視覚化を可能にし、かつ遠位レンズ組立体130eから軸外で近位画像を見られるようにする。
【0041】
図7は、遠位のプリズム部材132f、ズームもしくは対物レンズ134f、および近位のプリズム部材136fを備えた別の例示的な遠位レンズ組立体130fを示す。加えて、遠位レンズ組立体130fは、中耳の内側の深さにおけるビューを提供するための延長部材133fを含む。したがって、遠位レンズ組立体130fは、鼓膜を介して直接見ることを阻止することになる中耳における典型的な構造を見ることのできる潜望鏡のような遠位レンズ組立体である。
【0042】
図8は、TM30における開口部31、または他の穴を介して存在する例示的な遠位レンズ組立体130eを示す。例として、開口部31は、遠位レンズ組立体130eを配置する前に作られたTM30に対する穴または切開部とすることができる。このような実装形態において、遠位レンズ組立体130eは、TM30を貫通することに関連する安定化を有していないので(例えば、
図5で示された実装形態とは対照的に)、表面またはTM30に対して遠位レンズ組立体130eの安定化を容易にするために、アーム部材139eaおよび139eb(図示されている)、リング、または他の安定化デバイスを有することは特に有利であると考えられる。
【0043】
図9は、別の例示的な遠位レンズ組立体130gを示す。この実施形態では、遠位レンズ組立体130gの近位部分は、強力な集光レンズ132gである(例えば、約60~130D)。いくつかの実施形態では、集光レンズ132gの直径は、約3mmである。この近位の集光レンズ132gは、強力な集光レンズ132gと最も遠位のレンズ136g(平面レンズ、凹レンズ、凸レンズなどとすることができる)との間で内側チャンバ133gを画定するハウジング134gのポートに機械的に接続される。いくつかの実施形態では、最も遠位のレンズ136gの直径は、約2mmである。
【0044】
いくつかの実施形態では、内側チャンバ133gは、空気/ガスで満たされる、または液体で満たされ、かつ封止され得る。いくつかの実施形態では、内側チャンバ133gそれ自体は、ガラス、ポリマーなどとすることができる。内側チャンバ133gの内容物および集光レンズ132gの組合せ、ならびに望ましい視認結果(例えば、広視野および/またはズームの程度など)は、どの最も遠位のレンズ136gが最も適切であるかを指示することができる。ハウジング134gは、遠位レンズ組立体130gを、TM内に一貫性を有して良好に位置するように保持するために、例示的な安定化部材としてフランジ135gまたは翼を有することができる。
【0045】
図10は、別の例示的な遠位レンズ組立体130hが中に配置された、(外耳の視点からの)TM30の上から下(または平面図)を示す。遠位レンズ組立体130hは、レンズ部分132hを含む(それは、本明細書で述べられる遠位レンズ組立体のうちの任意のタイプ、およびその変形形態とすることができる)。遠位レンズ組立体130hはまた、TM30を介し、中耳の中へと器具、照明、治療法、針などを通すための一体化されたポート134hを含む。レンズ部分132hおよびポート134hは、任意の適切な長さとすることのできる接続部材136hにより結合される。いくつかの実施形態では、2つ以上のポート134hが含まれ得る。いくつかの実施形態では、遠位レンズ組立体130hは、任意選択で、安定性を向上させるために、遠位レンズ組立体130hを、繊維質の鼓膜輪32に取り付けるための1つまたは複数の固定機構を含むことができる。
【0046】
安定化機構が、外耳道内でしっかりとフィットすることができる場合、本明細書で述べられる遠位レンズ130が、(例えば、「経鼓膜」ビューイングだけではなく)外耳道鼓膜弁がすでに作成されて、中耳腔の中への直接的な広視野の視覚化を提供する場合、外科的な手技において実装され得る。同様に、経乳様突起アクセスを確立することに関連する構造(乳様突起の骨、外耳道後壁など)に取り付けられた安定化機構を有することによって、経乳様突起手技において、本明細書で述べられる遠位レンズを使用することが考えられる。いくつかの実施形態では、外耳道、外耳、顕微鏡、検鏡、インバータ、リレーレンズの外へと近位方向に延びる、またはさらに手持ちされる安定化部材を有することが考えられる。
【0047】
図11は、外科用顕微鏡110(および/またはカメラ)、立体鏡インバータレンズシステム220、および遠位レンズ130を含む別の外科用顕微鏡システム200を示す。中耳部位40における画像は、この実施形態では、TM30における開口部に位置する遠位レンズ130により取り込まれる。遠位レンズ130から、画像は、外耳道20を介して、立体鏡インバータレンズシステム220に伝達される。外科用顕微鏡110は、立体鏡インバータレンズシステム220から画像を受け取り、外科医12が見るように、それらを提示する。外科用顕微鏡110は、両眼視または立体視を可能にし、また主として、外科医12による手を使用しない操作を可能にする。この概略的な例は、立体鏡インバータレンズシステム220(それは必要に応じて、プリズムおよび/または他のレンズを含むことができる)が、外耳20内の様々な場所に存在することができ、かつゼロ、1つ、または複数の立体鏡インバータレンズシステム220が存在し得ることを示す。画像品質は、通常、レンズまたはプリズムの数が増加すると減少するので、可能な限り少ないことが好ましい。さらに、各立体鏡インバータレンズシステム220は、画像を逆にすることができる(パワーに応じて)ので、立体鏡インバータレンズシステム220の設計は、補償するように調整されることになる。
【0048】
図12は、外科用顕微鏡110(および/またはカメラ)、立体鏡インバータレンズシステム320、および遠位レンズ130を含む別の外科用顕微鏡システム300を示す。図示された実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム320は、検鏡330、または外耳安定化器に取り付けられる。立体鏡インバータレンズシステム320は、検鏡330もしくは安定化器の中心に存在する、または中心から外れて、もしくは一方の側に取り付けられ得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、アーム部材、機構、またはアンカーは、立体鏡インバータレンズシステム320を検鏡300に機械的に結合することができ、またこのような機構は、立体鏡インバータレンズシステム320からの画像の位置を顕微鏡110および/または遠位レンズ組立体130と位置合せするために、(矢印で示されるように)適応性を有する、または調整可能であり得る。いくつかの実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム320は、遠位レンズ組立体130および顕微鏡110もしくはカメラと同時に整列させるのを容易にするために、複数のレンズもしくはプリズムを有することができ、したがって、要素は個々に調整可能にすることもできる。いくつかの実施形態では、組立体320は、リレーレンズおよび/またはプリズムとすることができる。立体鏡インバータリレーレンズ、またはプリズムレンズシステム320が検鏡330に取り付けられた場合、インバータレンズは、望ましい場合、顕微鏡110に隣接して取り付けられ得ることを理解されたい。
【0050】
図13をさらに参照すると、いくつかの実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム320を検鏡330に機械的に結合するこのようなアーム部材、機構、またはアンカーは、1つまたは複数の器具、送達カニューレ、光パイプ、シャンデリア照明などが、外耳20へと、またいくつかの場合はTM30を介して、またいくつかの場合は中耳40の中へと同時にアクセスできるようにするための十分な側方空間またはポートを提供することができる(例示的な器具400により
図13で概略的に示される)。
【0051】
さらに、いくつかの実施形態では、照明源または要素を、検鏡330に取り付けることができる。別の実施形態では、光パイプが、検鏡330を通過し、TM30に隣接する、または中耳腔40の中へと通る。シャンデリア照明をTM30に取り付けることができる。いくつかの実施形態では、TM30は、透明性を高めるために、グリセロールなどの溶液を用いて処理することができ、またTM30を通して外部照明を可能にする。特定の実施形態では、遠位レンズ組立体130それ自体は、内視鏡上で見られるものに類似した、それに取り付けられた光源を有することができる(例えば、
図14を参照のこと)。
【0052】
いくつかの実施形態では、光源は、外耳道壁からの光の散乱を最小化するために最も遠位の収集レンズ130に対して遠位にあることになり、立体鏡インバータレンズシステム320に対する他の光源と同様である。これは、TM30に対して遠位のシャンデリア光源により、または中耳40における内部照明された器具により、理想的に達成されるはずである。代替的に、立体鏡インバータレンズシステム320は、最も近位の立体鏡インバータレンズシステム320に対して遠位に配置された光源を用いて、管状部材内でシールドされ得る。
【0053】
適切な中耳照明、および向上させたTM30の透明性(グリセロールまたは食塩水で前処理される、または屈折率が一致する材料の前処理で達成されるものなど)を用いると、遠位レンズ組立体130は、TM30にさらなる切開または開口部を必要とせずに、TM30に対して近位に位置することができることをさらに理解されたい。これは、器具の通過中にTM30の動きが、遠位レンズ組立体130へと伝達されないように、遠位レンズ組立体130が、外耳道後壁または外部の検鏡に固定されており、向上した画像安定性のさらなる利点を有することになる。微細な(例えば、25ゲージ)またはより小さな光ファイバ光源を用いると、このようなシステムは、(現在達成できない)中耳40の最小の侵襲性の両眼視オフィスベースの視覚化を可能にし、かつオフィスベースの手技のホストを可能にする。
【0054】
図14は、いくつかの実施形態による外科用顕微鏡システムの別の実装形態の遠位端部分を示す。すなわち、例示的な遠位レンズ組立体130が、TM30を横断する位置において示されている。図示された実施形態では、遠位レンズ組立体130は、中耳40、およびその部位の解剖学的構造を照明できる取り付けられた光パイプ132を含む。さらなる理解のために示されているのは、TM30におけるポートまたは開口部を通過することのできる例示的な注入器器具410である。このような注入器器具410は、正円窓小窩、卵円窓、乳様突起洞の壁もしくは入口、軟組織病変などの、ただし、これらに限定されない、様々な解剖学的構造に様々な治療用作用物質を送達するために使用され得る。さらに例示的な光パイプ420がまた示されている。このような光パイプ420は、TM30におけるポートまたは開口部を通過することができ、また中耳40およびその部位の解剖学的構造を照明するために使用され得る。
【0055】
図15~
図17は、外科用顕微鏡110(および/またはカメラ)、立体鏡インバータレンズシステム120、および遠位レンズ組立体530を含む別の外科用顕微鏡システム500を示す。図示された実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム120は、耳10の外側に存在する。遠位レンズ組立体530は、遠位レンズ組立体530と立体鏡インバータレンズシステム120の間の位置および位置合せを維持する管状部材を含む。
【0056】
図16は、遠位レンズ組立体530の遠位端における対象物の広視野ビューを示す例示的な光路または光線追跡と、外科用顕微鏡110を通して見ることのできる遠位レンズ組立体530の近位端における画像の出力とを示している。この手法は、レンズ間の光路位置合せを維持すること、および器具が視覚化に干渉しないように保つことの利点を有することになる。それはまた、干渉性の、または迷光を低減し、かつ画像品質を向上させるために、遮光板、ロッドレンズ、または他のものなど、他の機構を有することもできる。遠位レンズ組立体530の閉じたシステムまたは封止された組立体は、中間にあるレンズ表面の曇り/付着を最小にするさらなる利点を有する。それはまた、遠位レンズ組立体530が浸漬された水中で、手技が部分的に実施できるようにし、外耳道における様々な液レベルは、画像または光の伝達を妨げない。このような遠位レンズ組立体530はまた、取り付けられた、または一体化された光源を有することができ、したがって、光は、関心対象のものへと投射される、または光は、システムを通って同軸に投射され得る。
【0057】
遠位レンズ組立体530のこの管状の実施形態はまた、アンカー、アーム部材532、および/または外耳20における位置にそれを安定化させ、かつ位置合せを助ける他の機構を有することもできる。例えば、
図15は、外耳道20の長さに沿った位置に、遠位レンズ組立体530の管状の外側部材または光の管を保持するアーム部材532の例示的な構成を示す。
【0058】
図17は、遠位レンズ組立体530の例示的なアーム部材実施形態の端部から見た図であり、3つのアーム部材532が、他の器具が通り過ぎる/通過できるように、遠位レンズ組立体530から半径方向に延びる。外耳道20に対する器具それ自体の安定性も向上させながら、光チューブを乱すことなく器具を通過させるのを助けるポートまたは他の安定化機構が存在することが考えられる。いくつかの実施形態では、アーム部材532は、外耳道20の壁に対する外傷または圧力を最小にするような例示的な方法として、可撓性のあるリング534にしっかりと取り付けることができる。いくつかの実施形態では、アーム部材532は、適応性がある、またはそのほかの形で調整可能であると考えられる(ねじ付き部を回転させることにより、光チューブと可撓性のあるリング534との間の距離を短縮する、または長くするように、可撓性のあるリング534のねじ付き部内で回転させることのできるねじ付きセクションを有しており、光チューブに回転可能に取り付けられるなど)。遠位レンズ組立体530の近位端は、リレーレンズ、プリズム、インバータ、および/または同様のもので終了することができる。
【0059】
図18は、外科用顕微鏡110(および/またはカメラ)、立体鏡インバータレンズシステム120、および遠位レンズ組立体630を含む別の外科用顕微鏡システム600を示す。図示された実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム120は、耳10の外部に存在している。遠位レンズ組立体630は、遠位レンズ組立体630と立体鏡インバータレンズシステム120の間の位置および位置合せを維持する管状部材を含む。
【0060】
図示された実施形態では、遠位レンズ組立体630は、光チューブまたは外側の管状部材を含み、それは、複数のセクションおよびリレーレンズもしくはプリズムを有しており、セクション間の角度付けを可能にする。このような構成において、遠位レンズ組立体630は、1つまたは複数の中間的なリレーレンズを含むことができ、またセクション間の角度付けを補償するためのプリズムまたは他の反射部材を含むことができる。再度、1つまたは複数のアーム部材632が、外耳道20の壁に対して遠位のレンズ組立体630の管状部材を安定化する、または固定するために使用され得る。光路における角度付けに適応できるこのような実施形態、または他の実施形態は、経外耳道アクセスなどの状況で遭遇することの多い角度付けのため、有利であり得る。
【0061】
図19は、外科用顕微鏡110(および/またはカメラ)、立体鏡インバータレンズシステム120、および遠位レンズ組立体730を含む別の外科用顕微鏡システム700を示す。図示された実施形態では、立体鏡インバータレンズシステム120は、耳10の外部に存在している。
【0062】
遠位レンズ組立体730は、画像を遠位レンズ組立体730の遠位端から近位レンズ732に「中継する」ために光ファイバを利用する管状部材を含み、画像は、次いで、立体鏡インバータレンズシステム120を介して外科用顕微鏡110によって見ることができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、遠位レンズ組立体730は、典型的な内視鏡と同様の一体化された光源を含む。特定の実施形態では、遠位レンズ組立体730は、前に述べたアーム部材または機構を用いて、外耳20内の定位置に安定化され得る。このように角度が付けられた組立体は、従来のものに近い真っ直ぐなシャフトの、またはわずかに湾曲した器具に対して、空間および自由度を増加する可能性があり、遠位レンズ組立体730の側方に隣接して、TM30に向けて通ることができる。
【0064】
本明細書で開示される器具は、主として、外耳における耳科学の、または中耳もしくは内耳への経外耳、経鼓膜手法を用いる耳科学の手技のコンテキストで述べられているが、器具はこのような用途に限定されるものではなく、体内の他の空洞部または空間に対して、また他の手法に対して使用され得ることを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書で述べられる器具は、経乳様突起アクセス、外耳道鼓膜弁を介する経外耳道、耳内法、耳介後部法、耳後法、および他のものを含むが、これらに限定されない、中耳、内耳、耳管、乳様突起洞に対する他の手法および技法に使用され得る。このようなシステムおよび方法は、いくつかある中で特に、薬物送達、ゲル送達、抗生物質送達、遺伝子送達、移植片配置、デバイスまたはインプラント送達、組織の除去、診断手技、サンプリング手技、外科的手技に使用することができる。
【0065】
本明細書で述べられる実施形態のうちの実施形態または特徴のいずれも、任意の組合せで、また任意の置き換えで組み合わせることができ、すべては本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【0066】
本明細書で述べられるデバイス、システム、および方法は、いくつかの例を挙げると、難聴、耳鳴り、めまいを含む平衡異常、メニエール病、前庭神経炎、前庭神経鞘腫、迷路炎、耳硬化症、耳小骨連鎖離断、真珠腫性中耳炎、中耳炎、中耳感染、および鼓膜穿孔を含むが、これらに限定されない、中耳および/または内耳の何らかの障害を治療する過程で使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書で述べられるデバイス、システム、および方法は、中耳腔の卵円窓もしくは他の部分など、正円窓小窩および/または他のターゲット部位に対して治療用作用物質を正確に送達する過程で、また中耳の他の機能または部位へのアクセスを提供するために使用することができる。例えば、本明細書で述べられるシステムおよび方法は、耳小骨連鎖の最小の侵襲性外科的再構成のために、真珠腫性中耳炎の除去のために、診断評価のために、また他の手技のために使用することができる。本明細書で述べられるシステムおよび方法を使用するための任意の、またすべてのこのような技法は、本開示の範囲内に含まれる。
【0067】
本明細書で述べられるデバイスおよびシステムは、アルミニウム、ステンレス鋼などの、ただし、これらに限定されない金属から、または、ABS、PEEK、PET、HDPEなどの、ただし、これらに限定されないポリマー、射出成形される成分、および以下同様のものから構成され得る。可撓性のあるリングなどの構成要素は、弾性材料、ゲルなどから構成され得る。
【0068】
本明細書で述べられるデバイス、システム、材料、化合物、組成、製品、および方法は、開示される主題の特定の態様に関する上記の詳細な記述を参照することによって理解することができる。しかし、上記で述べた諸態様は、特定のデバイス、システム、方法、または特定の作用物質に限定されるものではなく、したがって、変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、個々の態様を記述するためだけのものであり、限定するようには意図されていないことも理解されたい。
【0069】
いくつかの実施形態が述べられてきた。そうではあるが、本明細書の特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行えることが理解されよう。したがって、他の実施形態も添付の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10 患者、耳
12 外科医
20 外耳道
30 TM、鼓膜
31 開口部
32 鼓膜輪
40 中耳、中耳腔
100 外科用顕微鏡システム
110 外科用顕微鏡
112 取付け部
120 立体鏡インバータレンズシステム
130 遠位レンズ
130a~130h 遠位レンズ組立体
132 光パイプ
132a、132b、132c 広視野レンズ
132e、132f 遠位のプリズム部材
132g 集光レンズ
132h レンズ部分
133f 延長部材
133g 内側チャンバ
134a、134e、134f ズームレンズまたは対物レンズ
134g ハウジング
134h ポート
135g フランジまたは翼
136a、136b、136c、136e、136f プリズム素子、プリズム部材
136g 最も遠位のレンズ
136h 接続部材
138d 腰部
139da、139db、139ea、139eb アーム部材
200 外科用顕微鏡システム
220 立体鏡インバータレンズシステム
300 外科用顕微鏡システム
320 立体鏡インバータレンズシステム
330 検鏡
400 器具
410 注入器器具
420 光パイプ
500 外科用顕微鏡システム
530 遠位レンズ組立体
532 アーム部材
534 可撓性のあるリング
600 外科用顕微鏡システム
630 遠位レンズ組立体
632 アーム部材
700 外科用顕微鏡システム
730 遠位レンズ組立体
732 近位レンズ