(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】解析システム、解析方法、および解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20250407BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20250407BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20250407BHJP
G01M 13/028 20190101ALI20250407BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20250407BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20250407BHJP
【FI】
G01H17/00 A
G06F30/15
G06F30/20
G01M13/028
G06F111:10
G06F119:14
(21)【出願番号】P 2023118299
(22)【出願日】2023-07-20
【審査請求日】2024-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504276303
【氏名又は名称】株式会社エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100144440
【氏名又は名称】保坂 一之
(72)【発明者】
【氏名】小川 祐則
(72)【発明者】
【氏名】宮内 新
(72)【発明者】
【氏名】菅野 将俊
(72)【発明者】
【氏名】古本 昌司
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特許第5352026(JP,B1)
【文献】特開2000-305922(JP,A)
【文献】特開2003-130762(JP,A)
【文献】特開2008-128742(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005033(WO,A1)
【文献】Kun LI et al.,“Vibration Characteristic Analysis of a Coupling System for Compound Biaxial and Inter-Shaft Bearings”,Shock and Vibration,2022年05月28日,Vol. 2022,p.1-16,DOI: 10.1155/2022/2718269
【文献】株式会社エステック,”エンジン実稼働振動計算プログラム ESTECH.PS-X のご紹介”,<オンライン>,[2025年3月11日検索],2020年11月,インターネット<URL:https://www.estech.co.jp/paper/webseminar/img/WebSeminar01-3.pdf>
【文献】森田 哲司 他1名,”運転時におけるクランク軸系の三次元振動解析(回転座標系を用いた周波数領域における強制振動解析)”,日本機械学会論文集(C編),60巻574号,1994年,1909-1916頁(論文No.93-1442)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H1/00-17/00
G01M13/00-13/045,17/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサが、
静止系および1以上の回転系を有する構造部と、前記静止系において前記1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得し、
前記静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、前記回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得し、
前記静止系と前記回転系とにおいて前記外力によって生ずる連成振動を、前記静止系において選択された第1角振動数での振動と、前記回転系において前記第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割し、
前記静止系特性マトリクスおよび前記回転系特性マトリクスに基づいて、前記複数のセルのそれぞれについて、前記構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、前記軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出し、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記外力と前記解析対象物における変位との関係式を生成し、
前記外力および前記関係式に基づいて、前記解析対象物の所定の位置における前記変位を算出する、
解析システム。
【請求項2】
前記少なくとも一つのプロセッサが、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記複数のセル全体における前記構造部の動剛性を示す第3定数マトリクスと、前記複数のセル全体における前記軸受部の動剛性を示す第4定数マトリクスとを算出し、
前記複数のセルのそれぞれから、前記静止系において選択された前記第1角振動数での振動と、前記回転系における前記複数の第2角振動数のうち、前記第1角振動数と等しい第2角振動数での振動との組合せを示すポッドを抽出し、
前記第3定数マトリクスおよび前記第4定数マトリクスに基づいて、複数の前記ポッド全体における前記構造部の動剛性を示す第5定数マトリクスと、前記複数のポッド全体における前記軸受部の動剛性を示す第6定数マトリクスとを算出し、
前記第5定数マトリクスおよび前記第6定数マトリクスに基づいて、前記関係式を生成する、
請求項1に記載の解析システム。
【請求項3】
前記少なくとも一つのプロセッサが、
前記第5定数マトリクスおよび前記外力に基づいて、前記外力を作用させた場合の第1変位を算出し、
前記第5定数マトリクスおよび前記第6定数マトリクスに基づいて、前記外力が作用した変位によって生じる、前記軸受部の剛性および減衰に応じた反力である軸受力を算出し、
前記第5定数マトリクスおよび前記軸受力に基づいて、前記軸受力を作用させた場合の第2変位を算出し、
前記第1変位と前記第2変位とを合成することで、前記関係式を生成する、
請求項2に記載の解析システム。
【請求項4】
前記少なくとも一つのプロセッサが、
前記連成振動を前記複数のセルに分割する際に、前記連成振動を何個のセルにまで分割するのかを決定するための基準を示す値であるセルの世代数を取得し、
前記世代数に基づいて、前記連成振動を前記複数のセルに分割する、
請求項1~3の何れか一項に記載の解析システム。
【請求項5】
少なくとも一つのプロセッサを備える解析システムにより実行される解析方法であって、
静止系および1以上の回転系を有する構造部と、前記静止系において前記1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得するステップと、
前記静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、前記回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得するステップと、
前記静止系と前記回転系とにおいて前記外力によって生ずる連成振動を、前記静止系において選択された第1角振動数での振動と、前記回転系において前記第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割するステップと、
前記静止系特性マトリクスおよび前記回転系特性マトリクスに基づいて、前記複数のセルのそれぞれについて、前記構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、前記軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出するステップと、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記外力と前記解析対象物における変位との関係式を生成するステップと、
前記外力および前記関係式に基づいて、前記解析対象物の所定の位置における前記変位を算出するステップと、
を含む解析方法。
【請求項6】
静止系および1以上の回転系を有する構造部と、前記静止系において前記1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得するステップと、
前記静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、前記回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得するステップと、
前記静止系と前記回転系とにおいて前記外力によって生ずる連成振動を、前記静止系において選択された第1角振動数での振動と、前記回転系において前記第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割するステップと、
前記静止系特性マトリクスおよび前記回転系特性マトリクスに基づいて、前記複数のセルのそれぞれについて、前記構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、前記軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出するステップと、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記外力と前記解析対象物における変位との関係式を生成するステップと、
前記外力および前記関係式に基づいて、前記解析対象物の所定の位置における前記変位を算出するステップと、
をコンピュータに実行させる解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、解析システム、解析方法、および解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、静止系および回転系の双方を有する機関(例えばエンジン)の振動を解析するための手法が知られている。例えば非特許文献1には、燃焼エンジン、トランスミッション、および完全なICEベースまたは電気駆動ユニットの動力学、振動、および音響を計算するツールが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】AVL LIST GmbH、「AVL EXCITETM」、[online]、インターネット<URL:https://www.avl.com/en/simulation-solutions/software-offering/simulation-tools-z/avl-excite>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した静止系および回転系の双方を有する機関では、静止系と回転系とが相互に作用しながら振動するため、その振動(連成振動)は非常に複雑なものとなる。上記のソフトウェア等で実現される従来の手法は時間領域解析であるが、この手法は、結果を得るまでに時間を要し、また計算が収束しないおそれがある。そこで、機関の連成振動を高速にかつ安定して解析する手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る解析システムは、少なくとも一つのプロセッサを備える。少なくとも一つのプロセッサは、静止系および1以上の回転系を有する構造部と、静止系において1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得し、静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得し、静止系と回転系とにおいて外力によって生ずる連成振動を、静止系において選択された第1角振動数での振動と、回転系において第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割し、静止系特性マトリクスおよび回転系特性マトリクスに基づいて、複数のセルのそれぞれについて、構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出し、第1定数マトリクスおよび第2定数マトリクスに基づいて、外力と解析対象物における変位との関係式を生成し、外力および関係式に基づいて、解析対象物の所定の位置における変位を算出する。
【0006】
本開示の一側面に係る解析方法は、少なくとも一つのプロセッサを備える解析装置により実行される。この解析方法は、静止系および1以上の回転系を有する構造部と、静止系において1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得するステップと、静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得するステップと、静止系と回転系とにおいて外力によって生ずる連成振動を、静止系において選択された第1角振動数での振動と、回転系において第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割するステップと、静止系特性マトリクスおよび回転系特性マトリクスに基づいて、複数のセルのそれぞれについて、構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出するステップと、第1定数マトリクスおよび第2定数マトリクスに基づいて、外力と解析対象物における変位との関係式を生成するステップと、外力および関係式に基づいて、解析対象物の所定の位置における前記変位を算出するステップと、を含む。
【0007】
本開示の一側面に係る解析プログラムは、静止系および1以上の回転系を有する構造部と、静止系において1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得するステップと、静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得するステップと、静止系と回転系とにおいて外力によって生ずる連成振動を、静止系において選択された第1角振動数での振動と、回転系において第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割するステップと、静止系特性マトリクスおよび回転系特性マトリクスに基づいて、複数のセルのそれぞれについて、構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出するステップと、第1定数マトリクスおよび第2定数マトリクスに基づいて、外力と解析対象物における変位との関係式を生成するステップと、外力および関係式に基づいて、解析対象物の所定の位置における変位を算出するステップと、をコンピュータに実行させる。
【0008】
このような側面においては、静止系と回転系との連成振動がセル毎の振動に分解され、構造部および軸受部の双方の動剛性がセル毎に示される。このように、静止系と回転系との連成振動を、個々のセルにおける振動の集合として捉えることで、解析対象物における変位(振動)の計算を簡単化することができる。この結果、機関の連成振動を高速にかつ安定して解析することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一側面によれば、機関の連成振動を高速にかつ安定して解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】解析システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図4】解析システムを構成するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】解析システムによる処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】関係式の生成の一例を示すフローチャートである。
【
図11】モードシェイプマトリクスの一例を示す図である。
【
図12】モードシェイプマトリクスの別の例を示す図である。
【
図13】関係式の生成の別の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本開示での実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
[システムの概要]
一例に係る解析システム10は、解析対象物の振動を解析するシステムである。一例では、解析システム10は、静止系および1以上の回転系を有する構造部と、静止系において1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物の振動を解析する。本開示において、解析対象物とは、振動が解析システム10によって解析される物体をいう。解析対象物は、例えばレシプロエンジン(reciprocating engine)でもよい。
【0013】
図1を参照して、本実施形態に係る解析対象物1の構成について説明する。
図1は、解析対象物1の一例を模式的に示す図である。解析対象物1は、構造部110と、6つの軸受部120と、と、4つのギヤ130と、2つのギヤ噛み合い点140とを備える。構造部110は、筐体111と、3つの回転軸112a,112b,112cとを有する。解析対象物1においては、筐体111が静止系であり、3つの回転軸112a,112b,112cが回転系である。軸受部120は、3つの回転軸112a,112b,112cを支持する。本実施形態では、回転軸112a,112b,112cのそれぞれが2つの軸受部120によって支持される。4つのギヤ130は、回転軸112a,112b,112cのうち対応する回転軸に固定されており、回転軸112a,112b,112cと共に回転する。本実施形態では、回転軸112a,112cの一端に1つのギヤ130がそれぞれ固定されており、回転軸112bの両端に1つのギヤ130がそれぞれ固定されている。2つのギヤ噛み合い点140は、ギヤ130同士が噛み合う位置である。
【0014】
一例では、解析システム10は、解析対象物1に対して或る角振動数の外力が作用した場合の該解析対象物1の所定の位置における変位(振動)を解析する。外力とは、解析対象物1の外から、解析対象物1に作用する力をいう。解析対象物1が例えばレシプロエンジンである場合、外力の例としては、ピストンのスラスト力およびクランクピンの荷重などが挙げられる。本開示においては、変位は、変位、および速度の少なくとも一つを包含する概念である。以降では、一般的な変位と区別するために、変位および速度を包含する場合の変位を「複素形式の変位」と称することがある。したがって、本開示においては、解析システム10は、解析対象物1に対して或る角振動数の外力が作用した場合の該解析対象物1の所定の位置における複素形式の変位を解析し得る。
【0015】
一例では、解析システム10は、解析対象物1のうちギヤ130間に伝達誤差が生じ得る位置に外力が作用した場合の該解析対象物1の所定の位置における振動を解析する。伝達誤差とは、ギヤ噛み合い点140において噛み合うギヤ130間の回転量の差をいう。理想的にはギヤ噛み合い点140において噛み合うギヤ130間の回転量は等しくなるが、例えばギヤ130の製造誤差によって伝達誤差が生じることがある。本開示では、このような伝達誤差が生じ得る位置に外力が作用した場合の解析対象物1の所定の位置における振動を解析することを、ギヤノイズの振動解析ともいう。以上のことから、解析システム10は、ギヤノイズの振動解析に対して用いられ得るといえる。
【0016】
上述した解析対象物1のように、静止系および1以上の回転系を有する機関に対して外力が作用した場合には、静止系および1以上の回転系が相互に作用しながら振動する。このような振動を「連成振動」という。
【0017】
例えば、解析対象物1に対して或る角振動数の外力が作用した場合を考える。この場合、その外力の角振動数での振動と、該外力の角振動数から、回転系の自転角速度の整数倍だけずれた角振動数での振動とが、静止系および複数の回転系の双方において逐次的に励起されていく。さらに、回転系において励起された振動によって、該回転系の自転角速度の整数倍だけずれた角振動数での振動が、該回転系において軸受部を介して更に励起される。このように、連成振動では、作用した外力によって、角振動数の異なる振動が次々に励起され、それらの振動が静止系と回転系との間を伝搬しつつ相互に作用する。
【0018】
図2を参照しつつ、連成振動における振動の励起について更に詳細に説明する。
図2は、連成振動の一例を模式的に示す図である。
図2に示される例は、1つの回転系の自転角速度がΩ
0である解析対象物において、静止系に角振動数ω
0の外力を作用させた場合における連成振動を模式的に示している。
【0019】
上述したように、解析対象物に対して或る角振動数の外力を作用させた場合、該外力の角振動数での振動と、該外力の角振動数から、回転系の自転角速度の整数倍だけずれた角振動数での振動とが、静止系および複数の回転系の双方において逐次的に励起されていく。
【0020】
図2に示される例では、静止系に作用した角振動数ω
0での振動は、軸受部を介して回転系へと伝搬し、回転系において、角振動数ω
0での振動、角振動数ω
0+Ω
0での振動、および角振動数ω
0-Ω
0での振動を励起する。
【0021】
次に、回転系において励起された角振動数ω0+Ω0での振動は、軸受部を介して静止系へと伝搬し、静止系において、角振動数ω0+Ω0での振動、角振動数ω0+2Ω0での振動、および角振動数ω0での振動を、更に励起する。さらに、回転系において励起された角振動数ω0+Ω0での振動は、該回転系において、角振動数ω0+3Ω0での振動および角振動数ω0-Ω0での振動を、更に励起する。
【0022】
同様に、回転系において励起された角振動数ω0-Ω0での振動は、軸受部を介して静止系へと伝搬し、静止系において、角振動数ω0-Ω0での振動、角振動数ω0での振動、および角振動数ω0-2Ω0での振動を、更に励起する。さらに、回転系において励起された角振動数ω0-Ω0での振動は、該回転系において、角振動数ω0+Ω0での振動および角振動数ω0-3Ω0での振動を、更に励起する。
【0023】
静止系において励起された各振動は、軸受部を介して再度回転系へと伝搬し、励起された振動の角振動数から回転系の自転角速度Ωだけずれた振動を、該回転系において更に励起する。
【0024】
このように、静止系と回転系との間においては、作用した外力の角速度ω0から回転系の自転角速度Ω0だけずれた振動が励起される。回転系内においては、該回転系において励起された振動の角振動数から2Ω0ずれた振動が励起される。
【0025】
図2に示される例では、静止系と回転系との間においては、角振動数が回転系の自転角速度Ω
0だけずれながら、上述した振動の伝搬と励起とのサイクルが行われる。また、回転系と回転系との間においては、角振動数が回転系の自転角速度Ω
0の2倍である2Ω
0だけずれながら、該サイクルが行われる。したがって、
図2に示される例において、生ずる各振動の角振動数は、ω
0±x
0Ω
0と表される。ここで、x
0は整数である。
【0026】
以上、
図2に示される例では、説明の便宜上、構造部が静止系および1つの回転系を有する構成を例にして説明した。しかしながら、構造部が静止系および2つ以上の回転系を有する構成であっても、該構成での連成振動の詳細は、
図2に示される例と同様に理解されることに留意されたい。例えば、構造部が静止系および3つの回転系を有する構成であって、各回転系の自転角速度がそれぞれΩ
01,Ω
02,Ω
03である場合において、生じる各振動の角振動数は、ω
0±x
0Ω
01±y
0Ω
02±z
0Ω
03と表される。ここで、x
0、y
0、およびz
0は、それぞれ整数である。以降の説明では、連成振動によって生じる各振動の角振動数を示すω
0±x
0Ω
01±y
0Ω
02±z
0Ω
03において、各回転系の自転角速度の係数を次数という。
【0027】
連成振動では、静止系と回転系とが相互に作用しながら、角振動数の異なる振動が次々に励起される。時間領域解析を用いて連成振動の解析を行う場合、結果を得るまでに時間を要し、また計算が収束しないおそれがある。一方で、解析システム10では、解析対象物に作用した外力によって生じる連成振動を、静止系で選択された第1角振動数での振動と、回転系において該第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示すセルに分割する。このように、静止系と回転系との連成振動を個々のセルにおける振動の集合と捉えることで、解析対象物における振動の計算を簡単化することができる。この結果、解析システム10は、解析対象物の連成振動を高速にかつ安定して解析することができる。
【0028】
[システムの構成]
図3を参照して、解析システム10の機能構成の一例を説明する。
図3は、解析システム10の機能構成の一例を示す図である。一例では、解析システム10は、機能モジュールとして、取得部11、分割部12、定数マトリクス算出部13、生成部14、変位算出部15、および出力部16を備える。
【0029】
取得部11は、解析対象物に作用する外力と、連成振動の解析に用いられるパラメータである解析パラメータとを取得する機能モジュールである。さらに、取得部11は、静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得する機能モジュールでもある。分割部12は、取得された外力によって解析対象物に生じる連成振動を複数のセルに分割する機能モジュールである。定数マトリクス算出部13は、取得された静止系特性マトリクスおよび回転系マトリクスに基づいて、分割された複数のセルのそれぞれについて、構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスとを算出する機能モジュールである。生成部14は、算出された第1定数マトリクスおよび第2定数マトリクスに基づいて、外力と解析対象物における変位との関係式を生成する機能モジュールである。変位算出部15は、取得された外力および生成された関係式に基づいて、解析対象物の所定の位置における変位を算出する機能モジュールである。出力部16は、処理結果を出力する機能モジュールである。
【0030】
図4は、解析システム10を構成するコンピュータ100の一般的なハードウェア構成の一例を示す図である。例えば、コンピュータ100は、オペレーティングシステム、アプリケーション・プログラム等を実行するプロセッサ(例えばCPU)101と、ROMおよびRAMで構成される主記憶部102と、ハードディスク、フラッシュメモリ等の記憶装置で構成される補助記憶部103と、ネットワークカードまたは無線通信モジュールで構成される通信制御部104と、キーボード、マウス等の入力装置105と、モニタ等の出力装置106とを備える。
【0031】
解析システム10の各機能モジュールは、プロセッサ101または主記憶部102の上に予め定められたプログラムを読み込ませてプロセッサ101にそのプログラムを実行させることで実現される。プロセッサ101はそのプログラムに従って、通信制御部104、入力装置105、または出力装置106を動作させ、主記憶部102または補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。処理に必要なデータまたはデータベースは主記憶部102または補助記憶部103内に格納される。
【0032】
解析システム10は少なくとも一つのコンピュータによって構成される。複数のコンピュータが用いられる場合には、これらのコンピュータがインターネット、イントラネット等の通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つの解析システム10が構築される。
【0033】
コンピュータまたはコンピュータシステムを解析システム10として機能させるための解析プログラムは、該コンピュータまたはコンピュータシステムを取得部11、分割部12、定数マトリクス算出部13、生成部14、変位算出部15、および出力部16として機能させるためのプログラムコードを含む。この解析プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等の有形の記録媒体に非一時的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、解析プログラムは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。提供された解析プログラムは例えば補助記憶部103に記憶される。プロセッサ101が補助記憶部103からその解析プログラムを読み出して実行することで、上記の各機能モジュールが実現する。
【0034】
[システムの動作]
図5を参照しながら、解析システム10による処理の一例を説明するとともに本実施形態に係る解析方法について説明する。
図5は、解析システムによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0035】
ステップS1では、取得部11が解析対象物1に作用する外力と、解析対象物1における、変位を算出する位置とを取得する。一例では、取得部11は、解析対象物1に作用する外力として、物理量で示される角振動数ωの外力fEX
Pを取得する。一例では、取得部11はユーザによって入力されたそれらの外力および位置を受け付ける。
【0036】
ステップS2では、取得部11が解析パラメータを取得する。上述したように、解析パラメータは、連成振動の解析に用いられるパラメータであり、例えば回転系の自転角速度、軸受部の剛性を示す剛性パラメータ、軸受部の減衰を示す減衰パラメータ、およびセルの世代数を少なくとも含む。セルの世代数とは、連成振動を何個のセルにまで分割するのかを決定するための基準を示す値をいい、解析システム10による解析が収束することを考慮して設定される。連成振動を複数のセルのそれぞれに分割する処理と、セルの世代数との関係については、後述する。
【0037】
一例では、取得部11は、解析パラメータとして、回転系(回転軸112a,112b,112c)の自転角速度Ω1,Ω2,Ω3、軸受部120の剛性を示す剛性パラメータc1、軸受部120の減衰を示す減衰パラメータk1、ギヤ噛み合い点140の剛性を示す剛性パラメータc2、ギヤ噛み合い点140の減衰を示す減衰パラメータk2およびセルの世代数Gを取得する。ここで、世代数Gは0以上の整数である。一例では、世代数Gは、3以下である。
【0038】
それぞれの解析パラメータは、例えば所与の記憶部に記憶されてもよい。個々の解析パラメータは、解析システム10内のメモリまたはデータベースに記憶されてもよいし、解析システム10の外部に存在するメモリまたはデータベースに記憶されてもよい。この場合、取得部11はその記憶部から個々の解析パラメータを取得してもよい。あるいは、取得部11は、ユーザによって入力された解析パラメータを受け付けてもよい。
【0039】
ステップS3では、取得部11が静止系特性マトリクス、回転系特性マトリクス、および変換マトリクスを取得する。
【0040】
一例では、取得部11は、静止系特性マトリクスとして、静止系(筐体111)の、質量マトリクスMS、減衰マトリクスCS、剛性マトリクスKS、およびモードシェイプマトリクスΦSJ,ΦSEXを取得する。ここで、静止系特性マトリクスとして取得された各マトリクスのサイズは同じであり、該サイズが静止系特性マトリクスの自由度として設定される。
【0041】
質量マトリクスMSは固有モードごとの筐体111の質量を成分とするマトリクスである。減衰マトリクスCSは固有モードごとの筐体111の減衰を成分とするマトリクスである。剛性マトリクスKSは固有モードごとの筐体111の剛性を成分とするマトリクスである。
【0042】
モードシェイプマトリクスΦSJ,ΦSEXは、筐体111についての各固有モードに対応する振動数での振動によって解析対象物1の所定の位置に生ずる複素形式の変位を成分とするマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦSJは、筐体111における、軸受部120の自由度のマトリクスであり、モードシェイプマトリクスΦSEXは、筐体111における、ギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスである。
【0043】
上述したように、解析システム10は、ギヤノイズの振動解析に対して用いられ得る。この場合には、静止系(筐体111)には外力が作用しない。したがって、解析システム10がギヤノイズの振動解析に対して用いられる場合には、モードシェイプマトリクスΦSEXは空行列となることに留意されたい。
【0044】
一例では、取得部11は、回転系特性マトリクスとして、回転系(回転軸112a,112b,112c)の、質量マトリクスmr1,mr2,mr3、減衰マトリクスcr1,cr2,cr3、剛性マトリクスkr1,kr2,kr3、およびモードシェイプマトリクスΦr1J,Φr2J,Φr3J,Φr1EX,Φr2EX,Φr3EX,ΦR1,ΦR2,ΦR3を取得する。ここで、回転系特性マトリクスとして取得された各マトリクスのサイズは同じであり、該サイズが回転系特性マトリクスの自由度として設定される。
【0045】
質量マトリクスmr1は固有モードごとの回転軸112aの質量を成分とするマトリクスである。減衰マトリクスcr1は固有モードごとの回転軸112aの減衰を成分とするマトリクスである。剛性マトリクスkr1は固有モードごとの回転軸112aの剛性を成分とするマトリクスである。
【0046】
モードシェイプマトリクスΦr1J,Φr1EX,ΦR1は、回転軸112aについての各固有モードに対応する振動数での振動によって解析対象物1の所定の位置に生ずる複素形式の変位を成分とするマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦr1Jは、回転軸112aにおける、軸受部120の自由度のマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦr1EXは、回転軸112aにおける、ギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦR1は、回転軸112aにおける、ギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスである。
【0047】
例えば、解析システム10がギヤノイズの振動解析に対して用いられる場合であって、回転軸112a及び回転軸112bに固定されたギヤ130間に伝達誤差が生じる位置に外力が作用した場合には、モードシェイプマトリクスΦr1EXとモードシェイプマトリクスΦR1とは等しくなる。一方で、解析システム10がギヤノイズの振動解析に対して用いられる場合であって、回転軸112b及び回転軸112cに固定されたギヤ130間に伝達誤差が生じる位置に外力が作用した場合には、モードシェイプマトリクスΦr1EXは空行列となる。
【0048】
あるいは、解析システム10がギヤノイズの振動解析以外の振動解析に対して用いられる場合であって、回転軸112a及び回転軸112bに固定されたギヤ130のギヤ噛み合い点140以外の位置に外力が作用した場合には、モードシェイプマトリクスΦr1EXは当該位置におけるギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスとなる。一方で、解析システム10がギヤノイズの振動解析以外の振動解析に対して用いられる場合であって、外力が回転軸112aに作用しない場合には、モードシェイプマトリクスΦr1EXは空行列となる。
【0049】
質量マトリクスmr2は固有モードごとの回転軸112bの質量を成分とするマトリクスである。減衰マトリクスcr2は固有モードごとの回転軸112bの減衰を成分とするマトリクスである。剛性マトリクスkr2は固有モードごとの回転軸112bの剛性を成分とするマトリクスである。
【0050】
モードシェイプマトリクスΦr2J,Φr2EX,ΦR2は、回転軸112bについての各固有モードに対応する振動数での振動によって解析対象物1の所定の位置に生ずる複素形式の変位を成分とするマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦr2Jは、回転軸112bにおける、軸受部120の自由度のマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦr2EXは、回転軸112bにおける、ギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦR2は、回転軸112bにおける、ギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスである。
【0051】
例えば、解析システム10がギヤノイズの振動解析に対して用いられる場合には、モードシェイプマトリクスΦr2EXとモードシェイプマトリクスΦR2とは等しくなる。
【0052】
あるいは、解析システム10がギヤノイズの振動解析以外の振動解析に対して用いられる場合であって、回転軸112bに固定された2つのギヤ130のいずれかのギヤ噛み合い点140以外の位置に外力が作用した場合には、モードシェイプマトリクスΦr2EXは当該位置におけるギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスとなる。一方で、解析システム10がギヤノイズの振動解析以外の振動解析に対して用いられる場合であって、外力が回転軸112bに作用しない場合には、モードシェイプマトリクスΦr2EXは空行列となる。
【0053】
質量マトリクスmr3は固有モードごとの回転軸112cの質量を成分とするマトリクスである。減衰マトリクスcr3は固有モードごとの回転軸112cの減衰を成分とするマトリクスである。剛性マトリクスkr3は固有モードごとの回転軸112cの剛性を成分とするマトリクスである。
【0054】
モードシェイプマトリクスΦr3J,Φr3EX,ΦR3は、回転軸112cについての各固有モードに対応する振動数での振動によって解析対象物1の所定の位置に生ずる複素形式の変位を成分とするマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦr3Jは、回転軸112cにおける、軸受部120の自由度のマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦr3EXは、回転軸112cにおける、ギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスである。モードシェイプマトリクスΦR3は、回転軸112cにおける、ギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスである。
【0055】
例えば、解析システム10がギヤノイズの振動解析に対して用いられる場合であって、回転軸112b及び回転軸112cに固定されたギヤ130間に伝達誤差が生じる位置に外力が作用した場合には、モードシェイプマトリクスΦr3EXとモードシェイプマトリクスΦR3とは等しくなる。一方で、解析システム10がギヤノイズの振動解析に対して用いられる場合であって、回転軸112a及び回転軸112bに固定されたギヤ130間に伝達誤差が生じる位置に外力が作用した場合には、モードシェイプマトリクスΦr3EXは空行列となる。
【0056】
あるいは、解析システム10がギヤノイズの振動解析以外の振動解析に対して用いられる場合であって、回転軸112b及び回転軸112cに固定されたギヤ130のギヤ噛み合い点140以外の位置に外力が作用した場合には、モードシェイプマトリクスΦr3EXは当該位置におけるギヤ噛み合い点140の自由度のマトリクスとなる。一方で、解析システム10がギヤノイズの振動解析以外の振動解析に対して用いられる場合であって、外力が回転軸112cに作用しない場合には、モードシェイプマトリクスΦr3EXは空行列となる。
【0057】
このように、固有モードごとに質量、減衰、剛性、および変位を分割する手法を、モーダル解析ともいう。モーダル解析において、上記各パラメータは、一般的な物理量が取り扱われる系とは異なる系において取り扱われる。本開示では、両系を区別するために、一般的な物理量が取り扱われる系を「物理領域」ともいい、モーダル解析における系を「モード領域」ともいう。したがって、質量マトリクスMS,mr1,mr2,mr3、減衰マトリクスCS,cr1,cr2,cr3、剛性マトリクスKs,kr1,kr2,kr3、およびモードシェイプマトリクスΦS,Φr1,Φr2,Φr3は、モード領域におけるマトリクスであるともいえる。また、ステップS1にて取得した外力fEX
Pは、物理量で示されるので、物理領域における外力であるといえる。
【0058】
一例では、取得部11は、変換マトリクスとして、変換マトリクスΦWPを取得する。変換マトリクスΦWPは、後述するモード領域における変位WPを物理領域における変位WP
Fに変換するためのマトリクスである。変換マトリクスΦWPは、解析対象物1の位置ごとに異なるマトリクスが設定される。したがって、取得部11は、ステップS1にて取得した解析対象物1における所定の位置における変換マトリクスΦWPを取得する。
【0059】
それぞれの特性マトリクスおよび変換マトリクスは、例えば所与の記憶部に記憶されてもよい。個々の特性マトリクスおよび変換マトリクスは、解析システム10内のメモリまたはデータベースに記憶されてもよいし、解析システム10の外部に存在するメモリまたはデータベースに記憶されてもよい。この場合、取得部11は、その記憶部から個々の特性マトリクスおよび変換マトリクスを取得してもよい。あるいは、取得部11は、ユーザによって入力された特性マトリクスおよび変換マトリクスを受け付けてもよい。
【0060】
ステップS4では、分割部12が連成振動を複数のセルに分割する。一例では、分割部12は、静止系(筐体111)と回転系(回転軸112a,112b,112c)とにおいて外力fEX
Pによって生ずる連成振動を、筐体111において選択された第1角振動数での振動と、回転軸112a,112b,112cにおいて第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルCに分割する。
【0061】
図6を参照しつつ、セルCについて更に詳細に説明する。
図6は、セルの一例を模式的に示す図である。
【0062】
図6に示される例では、第1角振動数として、外力f
EX
Pの角振動数ωが選択された場合を考える。この場合、第1角振動数として選択された角振動数ωでの振動は、軸受部120を介して回転軸112a,112b,112cへと伝搬する。回転軸112aにおいて、角振動数ωでの振動は、角振動数ωでの振動、角振動数ω+Ω
1での振動、および角振動数ω-Ω
1での振動を励起する。回転軸112bにおいて、角振動数ωでの振動は、角振動数ωでの振動、角振動数ω+Ω
2での振動、および角振動数ω-Ω
2での振動を励起する。回転軸112cにおいて、角振動数ωでの振動は、角振動数ωでの振動、角振動数ω+Ω
3での振動、および角振動数ω-Ω
3での振動を励起する。これら10個の振動が1つのセルCを構成する。
【0063】
以上のことから、第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数は、該第1角振動数の振動によって直接励起された振動の角振動数であるともいえる。すなわち、セルCは、第1角振動数での振動と、該振動によって直接励起された振動との組合せを示すともいえる。ここで、「直接励起された振動」とは、第1角振動数以外の角振動数での振動を介することなく励起された振動をいう。分割部12は、選択する第1角振動数の値を変えながら、選択された各第1角振動数についてセルCを生成し、連成振動を複数のセルCに分割する。
【0064】
上述したように、連成振動においては、解析対象物に作用した外力によって、該外力の角振動数での振動と、該外力の角振動数から、回転系の自転角速度の整数倍だけずれた角振動数での振動とが、静止系および回転系の双方において励起される。したがって、構造部110が3つの回転軸112a,112b,112cを有する解析対象物1において、励起される各振動の角振動数は、ω±x0Ω1±y0Ω2±z0Ω3と表される。
【0065】
一例では、分割部12は、角振動数ω±x0Ω1±y0Ω2±z0Ω3から、静止系における第1角振動数を選択する。この場合、分割部12は、ステップS2にて取得したセルの世代数Gと、解析対象物1に作用させた外力によって励起される各振動の角振動数ω±x0Ω1±y0Ω2±z0Ω3とに基づいて、静止系における第1角振動数を選択し、連成振動を複数のセルCに分割する。
【0066】
一例では、生成部14は、以下の式(1)を満たす次数x
0,y
0,z
0の組合せによって示される角振動数の中から、静止系における第1角振動数を選択し、連成振動を複数のセルCに分割する。
【数1】
【0067】
すなわち、生成部14は、次数x0,y0,z0の和が世代数G以下となる角振動数から第1角振動数を選択し、連成振動を複数のセルCに分割する。例えば、世代数Gが「1」である場合には、選択される第1角振動数は、「ω-Ω1」、「ω-Ω2」、「ω-Ω3」、「ω」、「ω+Ω1」、「ω+Ω2」、および「ω+Ω3」の7つである。
【0068】
ステップS5では、定数マトリクス算出部13が第1定数マトリクスと第2定数マトリクスとを算出する。第1定数マトリクスとは複数のセルCのそれぞれについての構造部の動剛性を示すマトリクスをいい、第2定数マトリクスとは複数のセルCのそれぞれについての軸受部の動剛性を示すマトリクスをいう。
【0069】
一例では、定数マトリクス算出部13は、静止系マトリクスおよび回転系特性マトリクスに基づいて、複数のセルCのそれぞれについて、構造部110の動剛性を示す第1定数マトリクスDt(gi0)と、軸受部120の動剛性を示す第2定数マトリクスEJPとを算出する。
【0070】
第1定数マトリクスDt(gi0)の算出方法の一例について説明する。ここで、gi0は複数のセルCの順番を示す値であり、例えばDt(1)は1番目のセルを示し、Dt(5)は5番目のセルを示す。
【0071】
一例では、複数のセルCの順番は、各セルCにおける第1角振動数の大きさによって決定される。この場合、例えば第1角振動数が小さい順に、複数のセルCの順番が決定される。第1角振動数の大きさを評価する際には、第1角振動数自身の大きさを直接評価してもよいし、第1角振動数自身の大きさを示す指標を算出した上で、該指標に基づいて評価してもよい。一例では、上記指標は、ω±x0Ω1±y0Ω2±z0Ω3と表される第1角振動数の次数x0,y0,z0を回転軸112a,112b、112cの自転角速度Ω1,Ω2,Ω3で重み付けすることで、算出される。このような指標を導入することで、第1角振動数の大きさの評価を簡潔に行うことができる。
【0072】
定数マトリクス算出部13は、第1定数マトリクスDt(gi0)を算出するにあたって、まず、質量マトリクスMC´と、統合マトリクスEstrと、剰余マトリクスMo_d´とを算出する。
【0073】
質量マトリクスM
C´は、静止系(筐体111)および回転系(回転軸112a,112b,112c)の双方の質量マトリクスを統合したマトリクスをいう。質量マトリクスM
C´を構成する各成分は、静止系の質量マトリクスと、回転系の質量マトリクスとを少なくとも含む。一例では、質量マトリクスM
C´は、筐体111の質量マトリクスM
sと、回転軸112a,112b,112cの質量マトリクスm
r1,m
r2,m
r3とが対角成分として配置されたマトリクスである。この場合、質量マトリクスM
C´は、以下の式(1)で表される。質量マトリクスM
C´においては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数2】
【0074】
統合マトリクスEstrは、静止系(筐体111)の減衰マトリクスCSおよび剛性マトリクスKSと、回転系(回転軸112a,112b,112c)の減衰マトリクスCr1,Cr2,Cr3および剛性マトリクスKr1,Kr2,Kr3とを統合したマトリクスをいう。統合マトリクスEstrを構成する各成分は、静止系統合マトリクスEsと、回転系統合マトリクスEr1,Er2,Er3とを少なくとも含む。
【0075】
静止系統合マトリクスE
sは、筐体111の減衰マトリクスC
sおよび剛性マトリクスK
sを統合したマトリクスをいい、例えば以下の式(3)で表される。
【数3】
【0076】
回転系統合マトリクスE
r1は、回転軸112aの減衰マトリクスc
r1および剛性マトリクスk
r1を統合したマトリクスをいい、例えば以下の式(4)で表される。
【数4】
【0077】
回転系統合マトリクスE
r2は、回転軸112bの減衰マトリクスc
r2および剛性マトリクスk
r2を統合したマトリクスをいい、例えば以下の式(5)で表される。
【数5】
【0078】
回転系統合マトリクスE
r3は、回転軸112cの減衰マトリクスc
r3および剛性マトリクスk
r3を統合したマトリクスをいい、例えば以下の式(6)で表される。
【数6】
【0079】
一例では、統合マトリクスE
strは、静止系統合マトリクスE
sおよび回転系統合マトリクスE
r1,E
r2,E
r3が対角成分として配置されたマトリクスである。この場合、統合マトリクスE
strは以下の式(7)で表される。統合マトリクスE
strにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数7】
【0080】
剰余マトリクスMo_d´は、第1定数マトリクスDt(gi0)を簡潔に整理するために導入されたマトリクスである。剰余マトリクスMo_d´を導入することによって、第1定数マトリクスDt(gi0)を簡潔に整理することができる理由については、後述する。剰余マトリクスMo_d´を構成する各成分は、回転系の自転角速度および該自転角速度に対応する回転系の質量マトリクスの積を少なくとも含む。
【0081】
一例では、剰余マトリクスM
o_d´は、回転軸112aの自転角速度Ω
1および回転軸112aの質量マトリクスm
r1の積と、回転軸112bの自転角速度Ω
2および回転軸112bの質量マトリクスm
r2の積と、回転軸112cの自転角速度Ω
3および回転軸112cの質量マトリクスm
r3の積とが対角成分の両端に配置されたマトリクスである。この場合、剰余マトリクスM
o_d´は、以下の式(8)で表される。剰余マトリクスM
o_d´において、対角成分の両端以外の成分はゼロである。
【数8】
【0082】
次に、定数マトリクス算出部13は、固有値λ
i0および質量マトリクスM
C´の積と、統合マトリクスE
strと、虚数単位jおよび剰余マトリクスM
o_d´の積と、の和で示される以下の方程式(9)を解くことで、第1定数マトリクスD
t(g
i0)を算出する。
【数9】
【0083】
ここで、第1定数マトリクスDt(gi0)を算出するにあたって、剰余マトリクスMo_d´を導入しない場合には、式(9)における右辺第1項および右辺第3項を統合したマトリクスを導入する必要がある。上記マトリクスは、複数のセルCのそれぞれにおける運動方程式における慣性項に対応するマトリクスである。しかしながら、上記マトリクスでは、角振動数ごとに質量マトリクスMsと、質量マトリクスmr1,mr2,mr3とを対角成分に配置する必要がある。このため、上記マトリクスでは、1つのマトリクス内に互いに異なる角振動数に対応する成分が存在することとなり、式の取り扱いが煩雑となるおそれがある。
【0084】
一方で、剰余マトリクスMo_d´を導入することによって、式(9)では、固有値λi0に対応する質量マトリクスMs,mr1,mr2,mr3のみを抽出し、一つにまとめることができる。そして、固有値λi0以外の角振動数に対応する質量マトリクスMs,mr1,mr2,mr3が剰余マトリクスMo_d´としてまとめられる。これによって、固有値λi0に対応する部分と、それ以外の部分とを切り分けることができ、第1定数マトリクスDt(gi0)を簡潔に整理できる。
【0085】
第2定数マトリクスEJPの算出方法の一例について説明する。定数マトリクス算出部13は、解析パラメータのうち、自転角速度Ω1,Ω2,Ω3、剛性パラメータc1,c2および減衰パラメータk1,k2に基づいて、複数のセルCのそれぞれについて、第2定数マトリクスEJPを算出する。
【0086】
一例では、定数マトリクス算出部13は、以下のようにして第2定数マトリクスEJPを算出する。まず、定数マトリクス算出部13は、解析パラメータのうち、自転角速度Ω1,Ω2,Ω3、剛性パラメータc1,c2および減衰パラメータk1,k2に基づいて、個々のセルCを構成する第1角振動数及び複数の第2角振動数での振動のそれぞれについて、動剛性マトリクスを算出する。次に、算出された各動剛性マトリクスを、対応する角振動数の位置に配置されたマトリクスを第2定数マトリクスEJPとして算出する。この場合、第2定数マトリクスEJP内での配置と角振動数との関係は、例えば以下のように定義される。
【0087】
まず、定数マトリクス算出部13は、セルCを構成する振動の数を、第2定数マトリクスE
JPのサイズとして設定する。例えば
図6に示される例ではセルCを構成する振動の数は「10」である。したがって、上記場合には、定数マトリクス算出部13は、第2定数マトリクスE
JPを10ブロック×10ブロックのマトリクスとして設定する。ここで、ブロックは、1以上の行および1以上の列のマトリクスで構成される。すなわち、第2定数マトリクスE
JPは、複数のブロックが統合されたマトリクスであるともいえる。一例では、このようなブロックをブロックマトリクスともいい、或るマトリクスを複数のブロックに分割することをブロック分割ともいう。
【0088】
次に、定数マトリクス算出部13は、設定された第2定数マトリクスE
JPのブロック行およびブロック列が、セルCを構成する各振動の角振動数と見立てて、マトリクス内の対応する位置に、算出した個々の動剛性マトリクスを配置する。
図6に示されるセルCの場合、定数マトリクス算出部13は、1ブロック行目~10ブロック行目及び1ブロック列目~10ブロック列目が、該セルCを構成する各振動の角振動数を小さい順に並べたものであると見立てる。すなわち、
図6に示されるセルCでは、1ブロック行目及び1ブロック列目がセルCにおいて最も小さい角振動数に対応し、10ブロック行目及び10ブロック列目がセルCにおいて最も大きい角振動数に対応する。
【0089】
定数マトリクス算出部13は、このような対応関係に基づいて、セルCを構成する各振動についての動剛性マトリクスを対応するブロックに配置することで、第2定数マトリクスEJPを算出する。したがって、上記対応するブロックに配置された各動剛性マトリクスは、第2定数マトリクスEJPにおけるブロックマトリクスであるともいえる。
【0090】
上述したように、質量マトリクスMS,mr1,mr2,mr3、減衰マトリクスCS,cr1,cr2,cr3、および剛性マトリクスKs,kr1,kr2,kr3は、モード領域におけるマトリクスである。したがって、それらのマトリクスに基づいて算出された第1定数マトリクスDt(gi0)および第2定数マトリクスEJPも、モード領域におけるマトリクスである。すなわち、定数マトリクス算出部13は、モード領域における構造部110の動剛性を示す第1定数マトリクスDt(gi0)と、モード領域における軸受部120の動剛性を示す第2定数マトリクスEJPとを算出するともいえる。
【0091】
ステップS6では、生成部14が、外力f
EX
Pと解析対象物1における変位W
Pとの関係式を生成する。
図7を参照しながら、この処理の一例を説明する。
図7は、関係式の生成の一例を示すフローチャートである。
【0092】
図7に示されるステップS6では、生成部14は以下に示す技術的思想に基づいて、外力f
EX
Pと解析対象物1における変位W
Pとの関係式を生成する。解析対象物1に外力f
EX
Pが作用した場合、該外力f
EX
Pによって変位が生じる。加えて、その変位によって、軸受部120の剛性および減衰に応じた反力である軸受力f
J
Pが発生し、該軸受力f
J
Pが作用することによってその変位が変化する。そこで、
図7に示される処理では、生成部14は、後述するモード領域における外力f
exを作用させた場合の第1変位u
J0
Pと、軸受力f
JPを作用させた場合の第2変位W
PJとの双方を算出し、両変位を合成することによって、外力f
EX
Pと解析対象物1における変位W
Pとの関係式を生成する。ここで、上述したように、解析システム10によって算出される変位は、複素形式の変位である。そのため、その過程で算出される第1変位u
J0
P及ぶ第2変位W
PJについても、複素形式の変位であることに留意されたい。以下では、両変位を算出するために必要な各マトリクスの算出方法および上記関係式の生成方法を、更に詳細に説明する。
【0093】
ステップS601では、生成部14が、第3定数マトリクスと第4定数マトリクスとを算出する。第3定数マトリクスとは、複数のセルC全体における構造部の動剛性を示すマトリクスをいい、第4定数マトリクスとは、複数のセル全体における軸受部の動剛性を示すマトリクスをいう。
【0094】
一例では、生成部14は、第1定数マトリクスDt(gi0)および第2定数マトリクスEJPに基づいて、複数のセルC全体における構造部110の第3定数マトリクスDtsと、複数のセルC全体における軸受部120の第4定数マトリクスEJPSを算出する。
【0095】
第3定数マトリクスD
tsの算出方法の一例について説明する。生成部14は、複数のセルCのそれぞれについての第1定数マトリクスD
t(g
i0)を成分とするマトリクスを、第3定数マトリクスD
tsとして算出する。一例では、生成部14は、第1定数マトリクスD
t(g
i0)が対角成分として配置されたマトリクスを、第3定数マトリクスD
tsとして算出する。この場合、第3定数マトリクスD
tsは、以下の式(10)で表される。ここで、第3定数マトリクスD
tsにおいて、対角成分以外の成分はゼロであり、NはセルCの個数を示す。すなわち、第3定数マトリクスD
tsは、個々のセルCの第1定数マトリクスD
t(g
i0)がセルCの個数分だけ、対角成分に配置されたマトリクスであるともいえる。
【数10】
【0096】
第4定数マトリクスE
JPSの算出方法の一例について説明する。生成部14は、複数のセルCのそれぞれについての第2定数マトリクスE
JPを成分とするマトリクスを、第4定数マトリクスE
JPSとして算出する。一例では、生成部14は、複数のセルCの個数分だけ第2定数マトリクスE
JPが対角成分として配置されたマトリクスを、第4定数マトリクスE
JPSとして算出する。この場合、第4定数マトリクスE
JPSは、以下の式(11)で表される。ここで、第4定数マトリクスE
JPSにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数11】
【0097】
ステップS602では、生成部14が、個々のセルCからポッドPを抽出する。一例では、生成部14は個々のセルCから、静止系(筐体111)における選択された第1角振動数での振動と、回転系(回転軸112a,112b,112c)における複数の第2角振動数のうち第1角振動数と等しい第2角振動数での振動との組合せを示すポッドPを抽出する。
【0098】
図8を参照しつつ、ポッドPについて更に詳細に説明する。
図8は、ポッドの一例を模式的に示す図である。
図8は、第1角振動数として角振動数ωが選択されたセルC(
図6参照)から抽出されるポッドPを模式的に示す図である。
【0099】
上述したように、セルCからポッドPを抽出する際には、第1角振動数での振動と、複数の第2角振動数のうち第1角振動数と等しい第2角振動数での振動との組合せが抽出される。すなわち、解析対象物1に作用した外力によって励起される各振動から、筐体111および回転軸112a,112b,112cの双方における第1角振動数での振動が抽出される。ポッドPは、単一の角振動数(第1角振動数)での振動から構成され、連成振動における振動の最小単位ということもできる。
【0100】
ステップS603では、生成部14が第5定数マトリクスと第6定数マトリクスとを算出する。第5定数マトリクスとは複数のポッドP全体における構造部の動剛性を示すマトリクスをいい、第6定数マトリクスとは複数のポッドP全体における軸受部の動剛性を示すマトリクスをいう。
【0101】
一例では、生成部14は、第3定数マトリクスDtsおよび第4定数マトリクスEJPSに基づいて、複数のポッドP全体における構造部110の動剛性を示す第5定数マトリクスdpsと、複数のポッドP全体における軸受部120の動剛性を示す第6定数マトリクスEJJSとを算出する。
【0102】
第5定数マトリクスdpsの算出方法の一例について説明する。まず、生成部14は変換マトリクスQORを算出する。変換マトリクスQORは、第3定数マトリクスDtsを第5定数マトリクスdpsに変換するためのマトリクスをいう。したがって、変換マトリクスQORは、複数のセルC全体における構造部110の動剛性を、複数のポッドP全体における構造部110の動剛性に変換するマトリクスであるといえる。
【0103】
生成部14は、ステップS3にて取得された静止系特性マトリクスのサイズおよび回転系特性マトリクスのサイズに基づいて変換マトリクスQORを算出する。一例では、生成部14は、以下の技術的思想に基づいて、第5定数マトリクスdpsを算出する。上述したように、第5定数マトリクスdpsは、複数のポッドP全体における構造部110の動剛性を示すマトリクスである。ここで、変換前のマトリクスである第3定数マトリクスDtsは、個々のセルC間の繋がりが考慮されていない。しかしながら、実際の連成振動においては、分割された複数のセルCのそれぞれは、独立した振動として存在するのではなく、複数のセルCが相互に影響を及ぼし合いながら存在する。同様に、複数のセルCから抽出された各ポッドPも、実際の連成振動においては相互に影響を及ぼし合いながら存在する。したがって、連成振動を解析する際には、そのような各ポッドP間の繋がりを考慮した上で、計算を行う必要がある。そこで、第5定数マトリクスdpsを算出するにあたっては、実際の連成振動の挙動を忠実に反映させるために、剛性が無限大であるバネによって、複数のセルCのそれぞれが接続されているという仮定の下で、計算を行う。
【0104】
したがって、生成部14は、上述した技術的思想を反映させたマトリクスとして変換マトリクスQORを算出する。この場合、生成部14は、例えば単位行列Iおよびゼロを成分として用い、静止系特性マトリクスのサイズおよび回転系特性マトリクスのサイズに基づいて単位行列Iの配置を決定することで、変換マトリクスQORを算出する。
【0105】
一例では、生成部14は、静止系特性マトリクスのサイズとして静止系(筐体111)の自由度数を採用し、回転系特性マトリクスのサイズとして回転系(回転軸112a,112b,112c)の自由度数を採用する。すなわち、生成部14は、筐体111の自由度および回転軸112a,112b,112cの自由度に基づいて、変換マトリクスQ
ORにおける単位行列Iの配置を決定する。
図9は変換マトリクスQ
ORを示す図である。変換マトリクスQ
ORにおいては、単位行列Iが配置された成分以外の成分はゼロである。
【0106】
次に、生成部14は、以下の式(12)に示されるように、第3定数マトリクスD
tsに対して、左から変換マトリクスQ
ORの転置マトリクスであるQ
OR
Tを掛け、右から変換マトリクスQ
ORを掛けることによって、第5定数マトリクスd
psを算出する。式(12)に示すように、第5定数マトリクスd
psでは対角成分以外の成分はゼロである。
【数12】
【0107】
式(12)に示される第5定数マトリクスd
psの各成分を構成する定数マトリクスd
p(g
i0)は、以下の式(13)に示されるように、固有値λ
i0および質量マトリクスM
Sの積と静止系統合マトリクスE
Sとの和、および、回転軸112a,112b,112cのそれぞれについての、固有値λ
i0および質量マトリクス(m
r1,m
r2,またはm
r3)の積と回転系統合マトリクス(E
r1,E
r2,またはE
r3)との和が対角成分として配置されたマトリクスである。定数マトリクスd
p(g
i0)においては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数13】
【0108】
式(13)で示される定数マトリクスdp(gi0)のサイズと、式(2),(7),(8),(9)で示される第1定数マトリクスDt(gi0)のサイズとを比較すると、定数マトリクスdp(gi0)のサイズは第1定数マトリクスDt(gi0)のサイズより小さい。そのため、定数マトリクスdp(gi0)が対角成分に配置された第5定数マトリクスdpsのサイズは、第1定数マトリクスDt(gi0)が対角成分に配置された第3定数マトリクスDtsのサイズよりも小さい。したがって、第3定数マトリクスDtsを第5定数マトリクスdpsに変換することによって、マトリクスのサイズを縮小することができる。
【0109】
上述した技術的思想が反映された変換マトリクスQORによって変換された第5定数マトリクスdpsは、複数のポッドPが互いに影響を及ぼし合うことが考慮された上で算出される。したがって、式(12)によって算出された第5定数マトリクスdpsは、実際の連成振動の挙動を忠実に反映させた、複数のポッドP全体における構造部110の動剛性を示すといえる。
【0110】
第6定数マトリクスEJJSの算出方法の一例について説明する。まず、生成部14は、変換マトリクスQOPを算出する。変換マトリクスQOPは、第4定数マトリクスEJPSを第6定数マトリクスEJJSに変換するためのマトリクスをいう。したがって、変換マトリクスQOPは、複数のセルC全体における軸受部120の動剛性を、複数のポッドP全体における軸受部120の動剛性に変換するマトリクスであるともいえる。
【0111】
生成部14は、変換マトリクスQORの算出と同様に、ステップS3にて取得した静止系特性マトリクスのサイズおよび回転系特性マトリクスのサイズに基づいて変換マトリクスQOPを算出する。一例では、生成部14は、変換マトリクスQORを算出する際と同様の技術的思想を反映させたマトリクスとして、変換マトリクスQOPを算出する。この場合、生成部14は、例えば単位行列Iおよびゼロを成分として用い、静止系特性マトリクスのサイズおよび回転系特性マトリクスのサイズに基づいて単位行列Iの配置を決定することで、変換マトリクスQOPを算出する。
【0112】
一例では、生成部14は、静止系特性マトリクスのサイズとして静止系(筐体111)の自由度数を採用し、回転系特性マトリクスのサイズとして回転系(回転軸112a,112b,112c)の自由度数を採用する。すなわち、生成部14は、筐体111の自由度および回転軸112a,112b,112cの自由度に基づいて、変換マトリクスQ
OPにおける単位行列Iの配置を決定する。
図10は変換マトリクスQ
OPを示す図である。変換マトリクスQ
OPにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【0113】
次に、生成部14は、以下の式(14)に示されるように、第4定数マトリクスE
JPSに対して、左から変換マトリクスQ
OPの転置マトリクスであるQ
OP
Tを掛け、右から変換マトリクスQ
OPを掛けることによって、第6定数マトリクスE
JJSを算出する。
【数14】
【0114】
第3定数マトリクスDtsのサイズと第5定数マトリクスdpsのサイズとの関係と同様に、第4定数マトリクスEJPSのサイズは、第6定数マトリクスEJJSのサイズより小さい。したがって、第4定数マトリクスEJPSを第6定数マトリクスEJJSに変換することによって、マトリクスのサイズを縮小することができる。
【0115】
第5定数マトリクスdpsと同様に、上述した技術的思想が反映された変換マトリクスQOPによって変換された第6定数マトリクスEJJSでは、複数のポッドPが互いに影響を及ぼし合うことが考慮された上で算出される。したがって、式(14)によって算出された第6定数マトリクスEJJSは、実際の連成振動を忠実に反映させた軸受部120の動剛性を示すといえる。
【0116】
ステップS604では、生成部14が第5定数マトリクスdpsおよび外力fEX
Pに基づいて、第1変位uJ0
Pを算出する。一例では、生成部14は、軸受部120の減衰および剛性がゼロであるとの仮定の下で、外力fEX
Pが作用した場合の変位を第1変位uJ0
Pとして算出する。すなわち、生成部14は、軸受力を考慮しない場合における変位を第1変位uJ0
Pとして算出し得る。
【0117】
生成部14は、第1変位uJ0
Pを算出するにあたって、まず、モードシェイプマトリクスΦJ
P,ΦEXを算出する。モードシェイプマトリクスΦJ
Pは軸受部120についてのモードシェイプマトリクスをいう。モードシェイプマトリクスΦEXは荷重点についてのモードシェイプマトリクスをいう。
【0118】
モードシェイプマトリクスΦ
J
Pの算出方法の一例について説明する。生成部14は、まず、静止系(筐体111)のモードシェイプマトリクスΦ
SJに基づいてマトリクスΦ
SJ´を算出する。一例では、生成部14は、モードシェイプマトリクスΦ
SJおよびギヤ噛み合い点140の相対変位自由度に対応するサイズを有する単位行列I
ncsが対角成分として配置されたマトリクスを、マトリクスΦ
SJ´として算出する。この場合、マトリクスΦ
SJ´は、例えば以下の式(15)で表される。マトリクスΦ
SJ´においては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数15】
【0119】
次に、生成部14は、回転系(回転軸112a,112b,112c)のモードシェイプマトリクスΦ
r1J,Φ
r2J,Φ
r3Jに基づいて、マトリクスΦ
r1J´,Φ
r2J´,Φ
r3J´を算出する。一例では、生成部14は、対応するモードシェイプマトリクスΦ
r1J,Φ
r2J,Φ
r3Jと、モードシェイプマトリクスΦ
R1,Φ
R2,Φ
R3とを成分に含むマトリクスを、マトリクスΦ
r1J´,Φ
r2J´,Φ
r3J´として算出する。この場合、マトリクスΦ
r1J´,Φ
r2J´,Φ
r3J´は、例えば以下の式(16),(17),(18)で表される。
【数16】
【数17】
【数18】
【0120】
次に、生成部14は、算出されたマトリクスΦ
SJ´,Φ
r1J´,Φ
r2J´,Φ
r3J´が対角成分に配置されたマトリクスを、モードシェイプマトリクスΦ
J
Pとして算出する。
図11はそのモードシェイプマトリクスΦ
J
Pを示す図である。モードシェイプマトリクスΦ
J
Pにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【0121】
モードシェイプマトリクスΦ
EXの算出方法の一例について説明する。生成部14は、まず、静止系(筐体111)のモードシェイプマトリクスΦ
SEXに基づいてマトリクスΦ
SEX´を算出する。一例では、生成部14は、モードシェイプマトリクスΦ
SEXと、ギヤ噛み合い点140の相対変位自由度に対応するサイズを有する単位行列I
ncsとが対角成分として配置されたマトリクスを、マトリクスΦ
SEX´として算出する。この場合、マトリクスΦ
SEX´は、例えば以下の式(19)で表される。マトリクスΦ
SEX´においては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数19】
【0122】
次に、生成部14は、回転系(回転軸112a,112b、112c)の対応するモードシェイプマトリクスΦ
r1EX,Φ
r2EX,Φ
r3EXを成分とするマトリクスΦ
r1EX´,Φ
r2EX´,Φ
r3EX´を算出する。一例では、生成部14は、モードシェイプマトリクスΦ
r1EXが対角成分として配置されたマトリクスを、マトリクスΦ
r1EX´として算出する。生成部14は、モードシェイプマトリクスΦ
r2EXが対角角成分として配置されたマトリクスを、マトリクスΦ
r2EX´として算出する。生成部14は、モードシェイプマトリクスΦ
r3EXが対角成分として配置されたマトリクスを、マトリクスΦ
r3EX´として算出する。この場合、マトリクスΦ
r1EX´,Φ
r2EX´,Φ
r3EX´は、例えば以下の式(20),(21),(22)で表される。マトリクスΦ
r1EX´,Φ
r2EX´,Φ
r3EX´のそれぞれにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数20】
【数21】
【数22】
【0123】
次に、生成部14は、算出されたマトリクスΦ
SEX´,Φ
r1EX´,Φ
r2EX´,Φ
r3EX´が対角成分として配置されたマトリクスを、モードシェイプマトリクスΦ
EXとして算出する。
図12はそのモードシェイプマトリクスΦ
EXを示す図である。モードシェイプマトリクスΦ
EXにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【0124】
続いて、生成部14は伝達マトリクスH
PSを算出する。伝達マトリクスH
PSは、入力された力と変位との間の伝達マトリクスをいい、モード領域における伝達マトリクスである。一例では、生成部14は、以下の式(23)に示されるように、複数のポッドP全体における構造部110の動剛性を示す第5定数マトリクスd
psの逆行列を伝達マトリクスH
PSとして算出する。
【数23】
【0125】
続いて、生成部14は、モード領域における外力f
exを算出する。一例では、生成部14は、ステップS1にて取得された、物理領域における外力f
EX
Pを、モード領域に変換することで、外力f
exを算出する。例えば、生成部14は、以下の式(24)に示されるように、物理領域における外力f
EX
Pに対して、左から変換マトリクスQ
ORの転置マトリクスQ
OR
TおよびモードシェイプマトリクスΦ
EXの転置マトリクスΦ
EX
Tを掛けることによって、モード領域における外力f
exを算出する。
【数24】
【0126】
続いて、生成部14は伝達マトリクスHJJPSを算出する。伝達マトリクスHJJPSは、伝達マトリクスHPSと同様に、入力された力と変位との間の伝達マトリクスをいうが、該マトリクスは物理領域における伝達マトリクスである。
【0127】
一例では、生成部14は、モード領域における伝達マトリクスH
PSを物理領域に変換することで、伝達マトリクスH
JJPSを算出する。例えば、生成部14は、以下の式(25)に示されるように、モード領域における伝達マトリクスH
PSに対して、左からモードシェイプマトリクスΦ
JPを掛け、右からモードシェイプマトリクスΦ
JPの転置マトリクスΦ
JP
Tを掛けることによって、物理領域における伝達マトリクスH
JJPSを算出する。
【数25】
【0128】
続いて、生成部14は第1変位u
j0
Pを算出する。上述したように、伝達マトリクスH
PSは、モード領域における、入力された力と変位との間の伝達マトリクスである。したがって、モード領域における外力f
exを伝達マトリクスH
PSに入力することによって、該外力f
exによる変位、すなわち、外力f
exを作用させた場合の第1変位u
J0
Pを応答として得ることができる。したがって、生成部14は、以下の式(26)で示されるように、伝達マトリクスH
PSに外力f
exを入力することで、第1変位u
j0
Pを算出する。
【数26】
【0129】
ステップS605では、生成部14が第5定数マトリクスd
psおよび第6定数マトリクスE
JJSに基づいて、物理領域における軸受力f
JPを算出する。一例では、生成部14は、第1変位u
J0
Pと第6定数マトリクスE
JJSに基づいて、軸受力f
JPを算出する。この場合、生成部14は、例えば以下の式(27)に示されるように、軸受力f
JPを算出する。上述したように、第1変位u
J0
Pは、第5定数マトリクスd
PSの逆行列として算出された伝達マトリクスH
PSに外力f
exを入力されたことによって算出される。したがって、第1変位u
J0
Pと第6定数マトリクスE
JJSに基づく場合であっても、生成部14は、第5定数マトリクスd
PSおよび第6定数マトリクスE
JJSに基づいて、軸受力f
JPを算出するといえる。
【数27】
【0130】
式(27)において、第1変位uJ0
Pは外力fexを作用させた場合の変位であることから、第1変位uJ0
Pと第6定数マトリクスEJJSとの積は、外力fexによって生じる軸受力を示す。そして、伝達マトリクスHJJPSは外力fexによって生じた上記軸受力によって、更に生じた変位でもあるので、この伝達マトリクスHJJPSと第6定数マトリクスEJJSとの積は、上記軸受力の変化量を示す。したがって、式(27)に表されるように、上記軸受力とその変化量とを用いることで、外力fEX
P(外力fex)によって生じる変位と、該変位によって生じる軸受力が更に生じさせる変位との双方を考慮した軸受力fJPを算出できる。
【0131】
ステップS606では、生成部14が第5定数マトリクスd
psおよび軸受力f
JPに基づいて、第2変位W
PJを算出する。一例では、生成部14は、第5定数マトリクスd
psに基づいて算出された伝達マトリクスH
psおよび軸受力f
JPに基づいて、第2変位W
PJを算出する。上述したように、軸受力f
JPは物理領域における量である。したがって、この軸受力f
JPをモード領域に変換した上で、モード領域における軸受力をモード領域における伝達マトリクスH
PSに入力することによって、軸受力f
JPによる変位、すなわち、軸受力f
JPを作用させた場合の第2変位W
PJが応答として得られる。以上のことから、生成部14は、以下の式(28)で示されるように、物理領域における軸受力f
JPに対して左からモードシェイプマトリクスΦ
JPの転置マトリクスを掛けることで得られるマトリクスを、伝達マトリクスH
PSに入力することで、第2変位W
PJを算出する。
【数28】
【0132】
ステップS607では、生成部14が、外力f
EX
Pと解析対象物1における変位W
Pとの関係式を生成する。一例では、生成部14は、ステップS603にて算出された第1変位u
J0
Pと、ステップS605にて算出された第2変位W
PJを合成することによって、上記関係式を生成する。一例では、生成部14は、第1変位u
J0
Pと第2変位W
PJとの和を取ることによって、以下の式(29)で示される関係式を生成する。
【数29】
【0133】
図5に戻る。ステップS7では、変位算出部15が、関係式(29)に基づいて、解析対象物1の所定の位置における変位W
P
Fを算出する。一例では、まず、変位算出部15は、関係式(29)に基づいて、モード領域における変位である変位W
Pを算出する。次に、変位算出部15は、モード領域における変位W
Pを物理領域に変換することで変位W
P
Fを算出する。すなわち、変位W
P
Fは、物理領域における変位であるともいえる。例えば、変位算出部15は、以下の式(30)に示されるように、モード領域における変位W
Pに対して、ステップS3にて取得された変換マトリクスΦ
WPを乗ずることによって、物理領域における変位W
P
Fを算出する。
【数30】
【0134】
ステップS8では、出力部16が処理結果を出力する。一例では、出力部16は、ステップS7にて算出された変位WP
Fを処理結果として出力する。あるいは、出力部16は、変位WP
Fに加えて、第1変位uJ0
P、第2変位WPJ、変位WPおよび軸受力fJPのうち少なくとも一つを処理結果として出力する。出力部16は、メモリ、データベース等の所定の記憶装置に変位WP
Fを格納してもよい。あるいは、出力部16は、変位WP
Fを表示装置上に表示してもよい。あるいは、出力部16は、他のコンピュータシステムに向けて変位WP
Fを送信してもよい。
【0135】
次に、
図13を参照しつつ、関係式を生成する処理の変形例について説明する。
図13は、関係式の生成の別の例を示すフローチャートである。
図13に示されるステップS6では、生成部14は、複数のセルCのそれぞれについて運動方程式を生成し、生成された各運動方程式から複数のセルCのそれぞれについて伝達マトリクスH
Cを算出する。生成部14は、算出された複数のセルCのそれぞれについての伝達マトリクスH
Cを複数のセルC全体における伝達マトリクスH
Caに変換し、該伝達マトリクスH
Caに基づいて、外力f
ex
Pと解析対象物1における変位Wとの関係式を生成する。以下では、上記関係式の生成方法を、更に詳細に説明する。
【0136】
ステップS611では、生成部14が、複数のセルCのそれぞれについて運動方程式を生成する。一例では、生成部14は、マトリクスBと、統合マトリクスEstrと、第2定数マトリクスEJPと、変位マトリクスWc(gi0)と、外力Fとを用いて、複数のセルCのそれぞれについて運動方程式を生成する。ここで、外力Fは、計算の便宜上設定された任意の外力であり、解析対象物1に作用させた外力fEX
Pとは異なることに留意されたい。
【0137】
マトリクスBは、個々のセルCの運動方程式において慣性項を示し、例えば、以下の式(31)で表される。統合マトリクスE
strは、個々のセルCの運動方程式において構造反力項を示す。第2定数マトリクスE
JPは、個々のセルCの運動方程式において軸受力項を示す。変位マトリクスW
c(g
i0)は、個々のセルCにおける変位(応答)であり、1つのセルに含まれる角振動数での振動における変位を成分とする。ここで、g
i0は、上述したように、複数のセルCのうち何番目のセルであるかを示す値である。
【数31】
【0138】
上述した各マトリクスを用いて、個々のセルCにおける運動方程式を生成する場合、該運動方程式は、例えば以下の式(32)で表される。
【数32】
【0139】
ステップS612では、生成部14が、複数のセルCのそれぞれについて伝達マトリクスを生成する。生成部14は、例えば以下のように、式(32)で表される運動方程式を変形することで、複数のセルCのそれぞれについて伝達マトリクスを生成する。
【0140】
まず、生成部14は、以下の式(33)で表される式変形のためのマトリクスB´を導入し、該マトリクスB´と、式(2)で表される質量マトリクスM
C´とを用いて式(32)を以下の式(34)に変形する。
【数33】
【数34】
【0141】
次に、生成部14は、式(34)において、(E
J-B´-E
str)の項をマトリクスE
C´とすることで、式(34)を以下の式(35)に変形する。
【数35】
【0142】
次に、生成部14は、式(35)において、両辺に左から(λ
i0M
C´-E
C´)の逆行列を掛けることによって、式(35)の右辺を整理し、該式(35)を以下の式(36)に変形する。
【数36】
【0143】
式(36)から、外力Fと(λ
i0M
C´-E
C´)の逆行列との積が、個々のセルCにおける変位マトリクスW
C(g
i0)を示すことがわかる。したがって、式(36)における(λ
i0M
C´-E
C´)の逆行列は、個々のセルCにおける伝達マトリクスを示すといえる。以降では、以下の式(37)に表されるように、(λ
i0M
C´-E
C´)の逆行列を、個々のセルCにおける伝達マトリクスH
C(g
i0)として、説明する。
【数37】
【0144】
ステップS613では、生成部14は、外力fEX
Pと解析対象物1における変位Wとの関係式を生成する。一例では、まず、生成部14は、複数のセルCのそれぞれについての伝達マトリクスHC(gi0)を統合した統合マトリクスHを生成し、該統合マトリクスHを複数のセルC全体における伝達マトリクスHCaに変換する。次に、生成部14は、変換した複数のセルC全体における伝達マトリクスHCaを用いて、外力fEX
Pと解析対象物1における変位Wとの関係式を生成する。以下では、上記処理について、更に詳細に説明する。
【0145】
生成部14は、複数のセルCのそれぞれについての伝達マトリクスH
C(g
i0)を成分とするマトリクスを、統合マトリクスHとして生成する。一例では、生成部14は、伝達マトリクスH
C(g
i0)が対角成分として配置されたマトリクスを、統合マトリクスHとして、算出する。この場合、統合マトリクスHは、以下の式(38)で表される。ここで、統合マトリクスHにおいては、対角成分以外のセルはゼロであり、NはセルCの個数を示す。すなわち、統合マトリクスHは、個々のセルCの伝達マトリクスH
CがセルCの個数分だけ、対角成分に配置されたマトリクスであるともいえる。
【数38】
【0146】
次に、生成部14は、統合マトリクスHを複数のセルC全体における伝達マトリクスHCaに変換する。一例では、生成部14は、まず、統合マトリクスHを伝達マトリクスHCaに変換するにあたって、変換マトリクスQ0baseを生成する。変換マトリクスQ0baseは、統合マトリクスHを伝達マトリクスHCaに変換するためのマトリクスをいう。すなわち、変換マトリクスQ0baseは、個々のセルCの伝達マトリクスHCがセルCの個数分だけ対角成分に配置された統合マトリクスHを、複数のセルC全体における伝達マトリクスHCaに変換するマトリクスであるともいえる。
【0147】
生成部14は、単位行列Iおよびゼロを成分として用い、静止系特性マトリクスのサイズと、回転系特性マトリクスのサイズと、複数のセルCの順番とに基づいて単位行列Iの配置を決定することで、変換マトリクスQ0baseを生成する。
【0148】
一例では、静止系特性マトリクスのサイズとして静止系(筐体111)の自由度数を採用し、回転系特性マトリクスのサイズとして、回転系(回転軸112a,112b、112c)の自由度数を採用する。すなわち、生成部14は、筐体111の自由度数、回転軸112a,112b,112cの自由度数、および複数のセルCの順番に基づいて、変換マトリクスQ0baseにおける単位行列Iの配置を決定する。
【0149】
次に、生成部14は、統合マトリクスHと変換マトリクスQ
0baseとの行列演算によって、統合マトリクスHを伝達マトリクスH
Caに変換する。一例では、以下の式(39)に表されるように、統合マトリクスHを伝達関数H
Caに変換する。
【数39】
【0150】
次に、生成部14は、物理領域における外力fEX
Pをモード領域における外力fEXに変換する。一例では、生成部14は、外力fEX
Pを外力fEXに変換するにあたって、まず、変換マトリクスΦEX_Cを算出する。変換マトリクスΦEX_Cは、外力fEX
Pを外力fEXに変換するためのマトリクスをいう。
【0151】
変換マトリクスΦ
EX_Cの算出方法の一例について説明する。生成部14は、まず、マトリクスΦ
SEX´,Φ
r1EX´,Φ
r2EX´,Φ
r3EX´を成分とするマトリクスを、マトリクスΦ
ex_cを算出する。一例では、生成部14は、マトリクスΦ
SEX´,Φ
r1EX´,Φ
r2EX´,Φ
r3EX´が対角成分に配置されたマトリクスを、マトリクスΦ
ex_cとして算出する。この場合、マトリクスΦ
ex_cは、以下の式(40)で表される。ここで、マトリクスΦ
ex_cにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数40】
【0152】
次に、生成部14は、マトリクスΦ
ex_cを成分とするマトリクスを、変換マトリクスΦ
EX_Cとして算出する。一例では、生成部14は、複数のセルCの個数分だけマトリクスΦ
ex_cが対角成分に配置されたマトリクスを、変換マトリクスΦ
EX_Cとして算出する。この場合、変換マトリクスΦ
EX_Cは、以下の式(41)で表される。ここで、変換マトリクスΦ
EX_Cにおいては、対角成分以外の成分はゼロである。
【数41】
【0153】
次に、生成部14は、以下の式(42)に示すように、物理領域における外力f
EX
Pに対して、左から変換マトリクスΦ
EX_Cの転置マトリクスΦ
EX_C
Tを掛けることによって、モード領域におけるf
EXを算出する。
【数42】
【0154】
続いて、生成部14は、外力f
EX
Pと解析対象物1における変位Wとの関係式を生成する。一例では、式(39)で表される複数のセルC全体における伝達マトリクスH
Caと外力f
EXとの積を取るによって、以下の式(43)で示される関係式を生成する。
【数43】
【0155】
ここで、式(31)で表されるマトリクスBと式(7)で表される統合マトリクスE
strとの和は、式(2),(7),(8),(9)で表される第1定数マトリクスD
t(g
i0)を示す。したがって、式(32)で表される複数のセルCのそれぞれについての運動方程式は、第1定数マトリクスD
t(g
i0)と第2定数マトリクスE
JPとに基づくといえる。すなわち、式(32)で表される運動方程式を用いて、外力f
EX
Pと解析対象物1における変位Wとの関係式を生成する、
図13で示されるステップS6においても、第1定数マトリクスDt(g
i0)および第2定数マトリクスE
JPに基づいて、外力f
EX
Pと解析対象物1における変位Wとの関係式を生成するといえる。
【0156】
図5に戻る。上述した
図13に示されるステップS6を実行した場合、ステップS7では、変位算出部15が、式(43)に基づいて、解析対象物1の所定の位置における変位W
Fを算出する。一例では、まず、変位算出部15は、式(43)に基づいて、モード領域における変位である変位Wを算出する。次に、変位算出部15は、モード領域における変位Wを物理領域における変位に変換することで変位W
Fを算出する。すなわち、変位W
Fは、物理領域における変位であるといえる。例えば、変位算出部15は、以下の式(44)に示されるように、モード領域における変位Wに対して、変換マトリクスΦ
Wを掛けることによって、物理領域における変位W
Fを算出する。
【数44】
【0157】
上述した
図13に示されるステップS6を実行した場合、ステップS8では、ステップS7にて算出された変位W
Fを処理結果として算出する。あるいは、出力部16は、変位W
Fに加えて、変位Wおよび複数のセルCのそれぞれについての運動方程式のうち少なくとも一つを処理結果として出力する。出力部16は、メモリ、データベース等の所定の記憶装置に算出した変位W
Fを格納してもよい。あるいは、出力部16は、変位W
Fを表示装置上に表示してもよい。あるいは、出力部16は、他のコンピュータシステムに向けて変位W
Fを送信してもよい。
【0158】
[変形例]
以上、本開示での様々な例を詳細に説明した。しかし、本開示は上記の例に限定されるものではない。本開示に関しては、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0159】
生成部14は、連成振動を複数のセルCに分割するにあたって、世代数Gに代わって、次数x,y,zを採用してもよい。すなわち、生成部14は、次数x,y,zと、解析対象物1に作用させた外力によって励起される各振動の角振動数ω±x0Ω1±y0Ω2±z0Ω3とに基づいて、静止系における第1角振動数を選択し、連成振動を複数のセルCに分割してもよい。ここで、次数x,y,zも、世代数Gと同様に、連成振動を何個のセルにまで分割するのかを決定するための基準を示す値をいい、回転系ごとに設定される。
【0160】
例えば、次数xは回転軸112aに設定された次数であり、次数yは回転軸112bに設定された次数であり、次数zは回転軸112cに設定された次数である。次数x,y,zのそれぞれは、0以上の整数である。次数x,y,zは互いに異なっていてもよいし、これらの次数のうち少なくとも2つが同じであってもよい。この場合、ステップS2において、取得部11は、次数x,y,zを取得してもよい。
【0161】
連成振動を複数のセルCに分割するにあたって、次数x,y,zが採用された場合、例えば以下のようにして、静止系における第1角振動が選択されてもよい。まず、分割部12は、第1角振動数を選択する際の選択範囲の、最小値をω-xΩ1-yΩ2-zΩ3と設定し、最大値をω+xΩ1+yΩ2+zΩ3と設定する。次に、分割部12は、該選択範囲内における角振動数を、静止系における第1角振動数として選択し、連成振動を複数のセルCに分割する。例えば、次数x,y,zのそれぞれが「1」である場合には、選択される第1角振動数は、「ω-Ω1-Ω2-Ω3」、「ω-Ω1-Ω2」、「ω-Ω1-Ω2+Ω3」、「ω-Ω1-Ω3」、「ω-Ω1」、「ω-Ω1+Ω3」、「ω-Ω1+Ω2-Ω3」、「ω-Ω1+Ω2」、「ω-Ω1+Ω2+Ω3」、「ω-Ω2-Ω3」、「ω-Ω2」、「ω-Ω2+Ω3」、「ω-Ω3」、「ω」、「ω+Ω3」、「ω+Ω2-Ω3」、「ω+Ω2」、「ω+Ω2+Ω3」、「ω+Ω1-Ω2-Ω3」、「ω+Ω1-Ω2」、「ω+Ω1-Ω2+Ω3」、「ω+Ω1-Ω3」、「ω+Ω1」、「ω+Ω1+Ω3」、「ω+Ω1+Ω2-Ω3」、「ω+Ω1+Ω2」、「ω+Ω1+Ω2+Ω3」である。
【0162】
少なくとも一つのプロセッサにより実行される解析方法は上記の例に限定されない。例えば、上述したステップまたは処理の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また。上述したステップのうち任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正または削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0163】
本開示において、「少なくとも一つのプロセッサが、第1の処理を実行し、第2の処理を実行し、…第nの処理を実行する。」との表現、またはこれに対応する表現は、第1の処理から第nの処理までのn個の処理を実行するプロセッサが途中で変わる場合を含む概念を示す。すなわち、この表現は、n個の処理のすべてが同じプロセッサで実行される場合と、n個の処理においてプロセッサが任意の方針で変わる場合との双方を含む概念を示す。
【0164】
[付記]
上記の様々な例から把握されるとおり、本開示は以下に示す態様を含む。
<項目1>
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサが、
静止系および1以上の回転系を有する構造部と、前記静止系において前記1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得し、
前記静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、前記回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得し、
前記静止系と前記回転系とにおいて前記外力によって生ずる連成振動を、前記静止系において選択された第1角振動数での振動と、前記回転系において前記第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割し、
前記静止系特性マトリクスおよび前記回転系特性マトリクスに基づいて、前記複数のセルのそれぞれについて、前記構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、前記軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出し、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記外力と前記解析対象物における変位との関係式を生成し、
前記外力および前記関係式に基づいて、前記解析対象物の所定の位置における前記変位を算出する、
解析システム。
<項目2>
前記少なくとも一つのプロセッサが、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記複数のセル全体における前記構造部の動剛性を示す第3定数マトリクスと、前記複数のセル全体における前記軸受部の動剛性を示す第4定数マトリクスとを算出し、
前記複数のセルのそれぞれから、前記静止系において選択された前記第1角振動数での振動と、前記回転系における前記複数の第2角振動数のうち、前記第1角振動数と等しい第2角振動数での振動との組合せを示すポッドを抽出し、
前記第3定数マトリクスおよび前記第4定数マトリクスに基づいて、複数の前記ポッド全体における前記構造部の動剛性を示す第5定数マトリクスと、前記複数のポッド全体における前記軸受部の動剛性を示す第6定数マトリクスとを算出し、
前記第5定数マトリクスおよび前記第6定数マトリクスに基づいて、前記関係式を生成する、
項目1に記載の解析システム。
<項目3>
前記少なくとも一つのプロセッサが、
前記第5定数マトリクスおよび前記外力に基づいて、前記外力を作用させた場合の第1変位を算出し、
前記第5定数マトリクスおよび前記第6定数マトリクスに基づいて、前記外力が作用した変位によって生じる、前記軸受部の剛性および減衰に応じた反力である軸受力を算出し、
前記第5定数マトリクスおよび前記軸受力に基づいて、前記軸受力を作用させた場合の第2変位を算出し、
前記第1変位と前記第2変位とを合成することで、前記関係式を生成する、
項目2に記載の解析システム。
<項目4>
前記少なくとも一つのプロセッサが、
前記連成振動を前記複数のセルに分割する際に、前記連成振動を何個のセルにまで分割するのかを決定するための基準を示す値であるセルの世代数を取得し、
前記世代数に基づいて、前記連成振動を前記複数のセルに分割する、
項目1~3のいずれか一項に記載の解析システム。
<項目5>
少なくとも一つのプロセッサを備える解析システムにより実行される解析方法であって、
静止系および1以上の回転系を有する構造部と、前記静止系において前記1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得するステップと、
前記静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、前記回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得するステップと、
前記静止系と前記回転系とにおいて前記外力によって生ずる連成振動を、前記静止系において選択された第1角振動数での振動と、前記回転系において前記第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割するステップと、
前記静止系特性マトリクスおよび前記回転系特性マトリクスに基づいて、前記複数のセルのそれぞれについて、前記構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、前記軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出するステップと、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記外力と前記解析対象物における変位との関係式を生成するステップと、
前記外力および前記関係式に基づいて、前記解析対象物の所定の位置における前記変位を算出するステップと、
を含む解析方法。
<項目6>
静止系および1以上の回転系を有する構造部と、前記静止系において前記1以上の回転系を支持する1以上の軸受部と、を備える解析対象物に作用する外力を取得するステップと、
前記静止系の振動特性を示す静止系特性マトリクスと、前記回転系の振動特性を示す回転系特性マトリクスとを取得するステップと、
前記静止系と前記回転系とにおいて前記外力によって生ずる連成振動を、前記静止系において選択された第1角振動数での振動と、前記回転系において前記第1角振動数に関連付けられた複数の第2角振動数のそれぞれでの振動との組合せを示す複数のセルに分割するステップと、
前記静止系特性マトリクスおよび前記回転系特性マトリクスに基づいて、前記複数のセルのそれぞれについて、前記構造部の動剛性を示す第1定数マトリクスと、前記軸受部の動剛性を示す第2定数マトリクスと、を算出するステップと、
前記第1定数マトリクスおよび前記第2定数マトリクスに基づいて、前記外力と前記解析対象物における変位との関係式を生成するステップと、
前記外力および前記関係式に基づいて、前記解析対象物の所定の位置における前記変位を算出するステップと、
をコンピュータに実行させる解析プログラム。
【0165】
項目1,5,6によれば、静止系と回転系との連成振動がセル毎の振動に分解され、構造部および軸受部の双方の動剛性がセル毎に示される。このように、静止系と回転系との連成振動を、個々のセルにおける振動の集合として捉えることで、解析対象物における変位(振動)の計算を簡単化することができる。この結果、機関の連成振動を高速にかつ安定して解析することができる。
【0166】
上述したように、解析システム10は、ギヤノイズの振動解析に対して用いられ得る。従来のギヤノイズの振動解析では、各回転系(回転軸112a~112c)の回転が無視された状態をモデル化することによって、該振動解析が行われていた。したがって、従来のギヤノイズの振動解析では、実際の状況が忠実に反映されているとはいえなかった。さらに、従来のギヤノイズの振動解析では、各回転系の回転が無視されるので、入力として与えられた外力の角振動数以外の角振動数での振動を解析することができなかった。一方で、解析システム10においては、回転軸112a~112cの自転角速度を計算に用いることで、回転軸112a~112cの回転を考慮すると共に第1角振動数及び複数の第2角振動数として選択された各角振動数における振動を解析することができる。これによって、解析システム10では、実際の状況に即した解析を行うことができる。以上のことから、項目1,5,6によれば、ギヤノイズの振動解析を行う場合であっても、従来の手法と比較して、実際の状況に即した解析を行うことができ、ギヤノイズをより一層精度良く解析することができる。
【0167】
第3定数マトリクスのサイズおよび第4定数マトリクスのサイズと第5定数マトリクスのサイズおよび第6定数マトリクスのサイズとを比較した場合、第5定数マトリクスのサイズおよび第6定数マトリクスのサイズは、第3定数マトリクスのサイズおよび第4定数マトリクスのサイズより小さい。項目2においては、より一層サイズの小さい、第5定数マトリクスおよび第6定数マトリクスに基づいて、外力と解析対象物における関係式が生成される。したがって、項目2によれば、該関係式をより一層高速に生成することができる。すなわち、項目2によれば、機関の連成振動をより一層高速に解析することができる。
【0168】
連成振動においては、作用した外力によって変位が生じ、その変位によって生じた軸受力が更に作用することによって、変位が変化する。項目3においては、該変化を考慮して、外力を作用させた場合の変位と軸受力を作用させた場合の変位とを合成することによって、外力と解析対象物における関係式が生成される。したがって、項目3によれば、機関の連成振動を精度良く解析することができる。
【0169】
連成振動における、振動の伝搬と励起とのサイクルは、無数に繰り返される。一方で、作用した外力の角振動数から離れた角振動数での振動であるほど、該振動の振幅は小さくなる。したがって、作用した外力の角振動数から十分離れた角振動数での振動の振幅は、連成振動の解析において無視できる程度に小さく、そのような振動を無視することで、解析をより一層高速に行うことができる。項目4においては、連成振動を何個のセルにまで分割するのかを決定するための基準を示す値であるセルの世代数を設定することで、振幅が無視できる程度に小さい振動を考慮することなく、解析を行うことができる。したがって、項目4によれば、機関の連成振動をより一層高速に解析できる。
【符号の説明】
【0170】
1…解析対象物、10…解析システム、101…プロセッサ、110…構造部、120…軸受部、C…セル、P…ポッド。